発明の詳細な説明
関連出願
本出願は、2004年3月17日出願の米国特許仮出願第60/554,021号及び2003年5月14日出願の米国特許仮出願第60/470,340号の利益を主張するものである。前記出願の教示全体が参照して本明細書中に組み込まれる。
発明の背景
ポリペプチドは、医学的治療及び診断薬としての使用及び工業適用を含む、様々な適用においてますます重要な物質となってきた。ポリペプチドのさらなる適用を妨げる1つの因子は、それらの物理的及び化学的性質である。例えば、ポリペプチドは一般に活性であるためには適切な折りたたみを保持しなければならない。しかし、ポリペプチドは、保存条件下で又はそれらが有用でありうる条件下で(例えば熱、有機溶媒に暴露されたとき)ほどける(アンフォールドする)又は変性する傾向がある。加えて、多くのポリペプチドは、生物学的生産システムを使用して比較的低い収率でしか生産されない。従って、それらは生産に甚だしく高い費用がかかりうる。
ポリペプチドのさらなる適用を制限する鍵となる因子は、ほどけた又は変性したポリペプチドが不可逆的に凝集する傾向である。凝集はポリペプチド濃度によって影響され、多くの場合、部分的に折りたたまれた又はほどけた中間体から起こると思われる。高い温度及び高いポリペプチド濃度などの、部分的に折りたたまれた中間体を促進する因子及び条件が不可逆的凝集を促進する(Fink,A. L., Folding & Design 3:R1-R23(1998))。例えば、凍結乾燥製剤などの濃縮形態で精製ポリペプチドを保存することは、しばしば、少なくともポリペプチドの一部の不可逆的凝集を生じさせる。また、大腸菌(E.Coli)などの生物系における発現によるポリペプチドの生産は、しばしば、凝集したポリペプチドを含む封入体の形成をもたらす。封入体から活性ポリペプチドを回収することは非常に困難であり、生物学的生産システムにリフォールディング工程などの付加的な工程を追加する必要がありうる。
改善された特性を有するポリペプチドを作製するために試みられてきた1つのアプローチは、改善された安定性又は溶解度を有するポリペプチド変異体の選択である。(例えばJung, S.ら、J. Mol. Biol.294 : 163-180(1999) ; Davies, J 及びRiechmannn, L. , Prot. Eng.9:531-537 (1996) ; Waldo, G. S.,Curr. Opin. Chem. Biol. 7 : 33-38 (2003)参照)。しかし、凝集は部分的に折りたたまれた又は部分的に変性した状態から起こるが、安定性(例えば熱安定性、熱力学的安定性)及び溶解度は正しく折りたたまれたポリペプチドの性質であるので、改善された安定性又は溶解度についての選択は凝集の問題を解決しない。加えて、ポリペプチドの安定性と凝集の間に認識された相関関係は存在しない。(Fink,A. L., Folding & Design 3:R1-R23(1998)。)
生物学的生産システムを使用して高収率で生産することができる、改善された性質を有するポリペプチドの必要性が存在する。
発明の概要
本発明は、可逆的にアンフォールドするポリペプチド、可逆的にアンフォールドするポリペプチドを含むレパートリー、及び可逆的にアンフォールドするポリペプチド又は可逆的にアンフォールドするポリペプチドをコードする核酸を含むライブラリーに関する。本発明はさらに、可逆的にアンフォールドするポリペプチド又は可逆的にアンフォールドするポリペプチドをコードする核酸に富むライブラリーを作製するための方法、可逆的にアンフォールドするポリペプチドを選択する及び/又は単離するための工程、及び可逆的にアンフォールドするポリペプチドを生産するための方法に関する。
1つの局面では、本発明は、ポリペプチドのライブラリー又はレパートリー(例えばポリペプチドディスプレイシステム)から、可逆的にアンフォールドするポリペプチドを選択する、単離する及び/又は回収するための方法である。1つの実施形態では、前記方法は、ポリペプチドのコレクション(例えばライブラリー、レパートリー又はポリペプチドディスプレイシステム中のポリペプチド)をアンフォールドすること、アンフォールドしたポリペプチドの少なくとも一部をリフォールディングすること、及び再生したポリペプチドを選択する、単離する及び/又は回収することを含む。別の実施形態では、前記方法は、アンフォールドしたポリペプチドのコレクション(例えばライブラリー、レパートリー又はポリペプチドディスプレイシステム中のポリペプチド)を提供すること、アンフォールドしたポリペプチドの少なくとも一部をリフォールディングすること、及び再生したポリペプチドを選択する、単離する及び/又は回収することを含む。もう1つの実施形態では、前記方法は、レパートリーを含むポリペプチドディスプレイシステムを提供すること、前記レパートリーを、提示ポリペプチドの少なくとも一部がアンフォールドされる温度(Ts)に加熱すること、及び前記レパートリーをTsより低い温度(Tc)に冷却して、冷却したレパートリーを生成することを含む。冷却したレパートリーは、アンフォールドして再生したポリペプチドの少なくとも一部及び凝集したポリペプチドの一部を含む。前記方法は、リガンドに結合し、可逆的にアンフォールドする少なくとも1個のポリペプチドを一定温度(Tr)で回収することをさらに含む。好ましくは、リガンドは折りたたまれたポリペプチドに結合し、凝集ポリペプチドには結合せず、回収されたポリペプチドは融解温度(Tm)を有し、そしてTs>Tm>Tc及びTs>Tm>Trである。
他の局面では、本発明は、可逆的にアンフォールドするポリペプチドのレパートリー、可逆的にアンフォールドするポリペプチドをコードする核酸のライブラリー、及びそのようなライブラリー及びレパートリーを作製するための方法に関する。
1つの局面では、本発明は、可逆的にアンフォールドする単離ポリペプチドである。一部の実施形態では、可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、アミノ酸配列において親ポリペプチドと異なる(例えば1又はそれ以上のアミノ酸置換、付加及び/又は欠失によって)が、親ポリペプチドの機能を定性的に保持する、親ポリペプチドの変異体である。
本発明はまた、可逆的にアンフォールドする可変ドメインに富む、抗体可変ドメインライブラリーを作製するための方法に関する。1つの実施形態では、前記プロセスは、(1)提示可変領域の少なくとも一部がアンフォールドおよびリフォールドして再生された、複数の提示抗体可変領域を含むファージディスプレイシステムを提供すること、(2)前記ファージディスプレイシステムから、アンフォールドおよびリフォールドし、再生して、結合機能を回復した可変領域を提示するファージを選択すること、(3)回収されたファージ上に提示される可変領域のCDR1及び/又はCDR2をコードする核酸を得ること、及び(4)(3)で得た前記核酸が1又はそれ以上の他の核酸に作動可能に連結されている、抗体可変ドメインをコードする核酸のライブラリーを構築して、CDR1及び/又はCDR2が(3)で得た核酸によってコードされる抗体可変ドメインをコードする構築物のライブラリーを作製することを含む。特定実施形態では、(1)における提示可変領域の実質的にすべてが、約80℃に加熱することによってほどけ、冷却によって再生される。他の特定実施形態では、(4)で構築される核酸のライブラリーは、CDR3が無作為化されている又は可逆的にアンフォールドする能力のために選択された抗体可変領域に由来しない、抗体可変ドメインをコードする。
ここで述べる可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、大腸菌又は酵母培養物の上清中の可溶性タンパク質として高収率で生産することができる。
発明の詳細な説明
本発明は、可逆的にアンフォールドするポリペプチド及びそのようなポリペプチドを選択する及び/又は設計するための方法に関する。可逆的にアンフォールドするポリペプチドはいくつかの利点を提供する。特に、そのようなポリペプチドは凝集に抵抗性であるか又は凝集しない。この凝集への抵抗性の故に、可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、大腸菌などの適切な生物学的生産システムを使用した発現により、可溶性タンパク質として高収率で容易に生産することができる。加えて、可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、従来のポリペプチドよりも高い濃度で、及びより少ない凝集と活性喪失で、製剤する及び/又は保存することができる。
ここで述べるように、可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、ポリペプチドがアンフォールドされ(例えば加熱によって)、及びリフォールドする(例えば冷却によって)ポリペプチドディスプレイシステムから選択することができる。ここで述べる選択及び設計プロセスは、可逆的にアンフォールドし、凝集に抵抗性であるポリペプチドを生成する。これらの選択及び設計プロセスは、高温度で折りたたまれたままであるポリペプチドのような、高い安定性に基づいてポリペプチドを選択する方法とは異なる。(例えばJung, S.ら、J. Mol. Biol. 294 : 163-180 (1999)参照。)
ここで使用する、「ポリペプチドディスプレイシステム」は、物理的、化学的又は機能的特徴のような所望特徴に基づく選択のためにポリペプチドのコレクションがアクセス可能であるシステムを指す。ポリペプチドディスプレイシステムは、ポリペプチドの適切なレパートリーでありうる(例えば溶液中で、適切な支持体に固定して)。ポリペプチドディスプレイシステムはまた、細胞発現系(例えば、形質転換、感染、トランスフェクト又は形質導入細胞における、核酸のライブラリーの発現及び細胞表面でのコードされるポリペプチドの提示)又は無細胞発現系(例えば、乳剤分画化及びディスプレイ)を用いる生化学的システムでありうる。好ましいポリペプチドディスプレイシステムは、核酸のコード機能とその核酸によってコードされるポリペプチドの物理的、化学的及び/又は機能的特徴を結びつける。そのようなポリペプチドディスプレイシステムを用いるとき、所望の物理的、化学的及び/又は機能的特徴を有するポリペプチドを選択することができ、そして選択したポリペプチドをコードする核酸を容易に単離するか又は回収することができる。核酸のコード機能とポリペプチドの物理的、化学的及び/又は機能的特徴を結びつける多くのポリペプチドディスプレイシステムが当技術分野において公知であり、例えばバクテリオファージディスプレイ(ファージディスプレイ)、リボソームディスプレイ、乳剤分画化及びディスプレイ、酵母ディスプレイ、ピューロマイシンディスプレイ、細菌ディスプレイ、プラスミド上のポリペプチドディスプレイ及び共有結合ディスプレイ等がある。(例えば欧州特許第0436597号(Dyax)、米国特許第6,172,197号(McCaffertyら)、米国特許第6,489,103号(Griffithsら)参照。)ポリペプチドディスプレイシステムは、McCaffertyらによって述べられているように(例えば国際公開広報第WO 92/01047号;米国特許第6,172,197号)、多数の複製可能遺伝子ディスプレイパッケージを含みうる。複製可能遺伝子ディスプレイパッケージ(RGDP)は、複製する能力を備えた粒子を提供する遺伝情報を有する生物学的粒子である。RGDPは、その表面にポリペプチドの少なくとも一部を提示することができる。ポリペプチドは、RGDPにネイティブな及び/又はRGDP又はその祖先に人工的に導入された遺伝情報によってコードされ得る。RGDPは、ウイルス、例えばfd又はM13などのバクテリオファージでありうる。例えばRGDPは、その表面に抗体可変ドメイン(例えばVH、Vl)を提示するバクテリオファージでありうる。このタイプのRGDPは、ファージ抗体(pAb)と称することができる。
ここで使用する、「可逆的にアンフォールド可能な(アンフォールドし得る)」及び「可逆的にアンフォールドする」という用語は、本発明の方法においてアンフォールドされ(例えば熱によって)、且つ再生されうるポリペプチドを指す。可逆的にアンフォールド可能なポリペプチド(可逆的にアンフォールドするポリペプチド)は、アンフォールドしたとき機能を喪失するが、リフォールディングしたときに機能を回復する。そのようなポリペプチドは、アンフォールドしたときに凝集するか又は不適切にリフォールドする(ミスフォールドポリペプチド)、すなわち機能を回復しないポリペプチドとは区別される。好ましくは、可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、ポリペプチドディスプレイシステムにおいて提示されるとき、例えばバクテリオファージ上に提示されるとき、可逆的にアンフォールドすることができる。可逆的にアンフォールドする特に好ましいポリペプチドは、ポリペプチドディスプレイシステムにおいて及び可溶性ポリペプチド(例えば自律的可溶性ポリペプチド)として提示されるとき可逆的にアンフォールドすることができる。
ここで使用する、「ポリペプチドのレパートリー」は、アミノ酸配列の多様性によって特徴付けられるポリペプチドのコレクションを指す。レパートリーの個々の成員は、共通構造特徴(例えば共通コア構造)及び/又は共通機能特徴(例えば共通のリガンド(例えば一般リガンド又は標的リガンド)に結合する能力)などの共通特徴を有しうる。
ここで使用する、「ライブラリー」は、発現することができ、好ましくは複製可能である異種核酸のコレクションを指す。例えばライブラリーは、発現プラスミド、ファージミド等のような適切なベクターに組み込まれた異種核酸のコレクションを包含し得る。そのようなライブラリーの発現はポリペプチドのレパートリーを生成しうる。「ライブラリー」はまた、核酸のコード機能とその核酸によってコードされるポリペプチドの物理的、化学的及び/又は機能的特徴を結びつけるポリペプチドディスプレイシステムにおいて提示され、所望の物理的、化学的及び/又は機能的特徴を有する個々のポリペプチド(及びそれをコードする核酸)又はポリペプチドの個体群(及びそれをコードする核酸)を得るために選択するか又はスクリーニングすることができる、異種ポリペプチドのコレクションを指す。異種ポリペプチドのコレクションを提示するファージのコレクションは、そのようなライブラリーの一例である。異種ポリペプチドのコレクションであるライブラリーは、ポリペプチドのレパートリーを包含する。
ここで使用する、「機能性」は、リガンド結合活性(例えば一般リガンドに結合すること、標的リガンドに結合すること)又はネイティブ又は天然に産生されるタンパク質の生物活性などの、特定所望活性を有するように正しく折りたたまれたポリペプチドを表わす。例えば、「機能性ポリペプチド」という用語は、その抗原結合部位を通して標的抗原に結合する抗体又はその抗原結合フラグメント、及びその基質に結合する酵素を含む。
ここで使用する、「一般リガンド(generic ligand)」は、所与のレパートリーの機能性成員の実質的な部分(例えば実質的に全部)に結合するリガンドを指す。一般リガンド(例えば共通一般リガンド)は、それらの成員が共通標的リガンドに対して結合特異性を有していない場合でも、所与のレパートリーの多くの成員に結合することができる。一般に、ポリペプチド上に機能性一般リガンド結合部位が存在することは(一般リガンドに結合する能力によって示される)、そのポリペプチドが正しく折りたたまれており、機能性であることを示す。従って、正しく折りたたまれたポリペプチドは、一般リガンドに結合することによって、ポリペプチドのレパートリーから選択または回収され得る。一般リガンドの適切な例は、スーパー抗原、レパートリーの実質的な部分の機能性成員上で発現されるエピトープに結合する抗体等を含む。
ここで使用する、「標的リガンド」は、ポリペプチドによって特異的に又は選択的に結合されるリガンドを指す。例えば標的リガンドは、それについてのレパートリー内の特異的結合ポリペプチド(単数又は複数)が特定されるリガンドでありうる。例えばポリペプチドが抗体又はその抗原結合フラグメントであるとき、標的リガンドは何らかの所望抗原又はエピトープであり得、またポリペプチドが酵素であるとき、標的リガンドは何らかの所望基質でありうる。標的抗原への結合は、ポリペプチドが機能性であること及びポリペプチドの標的抗原結合部位の特異性に依存する。
ここで使用する、「抗体ポリペプチド」は、抗体、抗体の部分、又は抗体の部分(例えば抗原結合部分)を含む融合タンパク質であるポリペプチドである。それ故「抗体ポリペプチド」は、例えば抗体(例えばIgG)、抗体H鎖、抗体L鎖、H鎖及び/又はL鎖のホモ二量体及びヘテロ二量体、及びFvフラグメント(例えば一本鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合Fv)、Fabフラグメント、Fab'フラグメント、F(ab’)2フラグメント、単一可変ドメイン(VH、VL)、dAb等のような抗原結合フラグメント又は抗体の部分を含む。
ここで使用する、「抗体形式(antibody format)」は、その構造に抗原についての結合特性を付与するために抗体可変ドメインを組み込むことができる任意の適切なポリペプチド構造を指す。キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、一本鎖抗体、二重特異性抗体、抗体H鎖、抗体L鎖、抗体H鎖及び/又はL鎖のホモ二量体及びヘテロ二量体、前記のいずれかの抗原結合フラグメント(例えばFvフラグメント(例えば一本鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合Fv)、Fabフラグメント、Fab'フラグメント、F(ab’)2フラグメント)、単一可変ドメイン(例えばVH、VL)、dAb、及び前記のいずれかの修飾形態(例えばポリエチレングリコール又は他の適切なポリマーの共有結合によって修飾された)などの、様々な適切な抗体形式が当技術分野において公知である。
「スーパー抗原」は、免疫グロブリンスーパーファミリーの成員と、これらのタンパク質の慣例的なリガンド結合部位は異なる部位で相互作用する一般リガンドを指す、当技術分野の用語である。ブドウ球菌エンテロトキシンは、T細胞受容体と相互作用するスーパー抗原の例である。抗体に結合するスーパー抗原は、IgG定常領域に結合するプロテインG(BjorckとKronvall,J. Immunol., 133 : 969(1984)) ; IgG定常領域及びVHドメインに結合するプロテインA (ForsgrenとSjoquist, J. Immunol.,97 : 822 (1966) ) ;及びVLドメインに結合するプロテインL(Bjorck,J. Immunol., 140 : 1194 (1988))を含む。
ここで使用する、「アンフォールディング因子」は、ポリペプチドのアンフォールディングを引き起こすことができる作用物質(例えば化合物)又はエネルギーを指す。アンフォールディング因子が化合物であるとき、その化合物を、所望の度合のポリペプチドアンフォールディングを生じさせるのに十分な量でポリペプチドディスプレイシステムに添加することができる。適切な化合物の例は、カオトロピック試薬(例えば塩酸グアニジン、尿素)、酸(例えば塩酸、酢酸)、塩基(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)、及び有機溶媒(例えばアルコール(例えばメタノール、エタノール)、ケトン(例えばメチルエチルケトン)、アルデヒド(例えばホルムアルデヒド、ジメチルホルムアルデヒド)、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン等)を含む。アンフォールディング因子は、熱及び/又は圧力などのエネルギーでありうる。アンフォールディング因子が熱であるとき、ポリペプチドディスプレイシステムに、所望度のポリペプチドアンフォールディングを生じさせるのに十分な温度までシステムの温度を上げるために十分な熱を与えるために、ポリペプチド系を十分な量のエネルギー(例えば、熱エネルギー、電磁エネルギー)に暴露する。好ましいアンフォールディング因子(又はアンフォールディング因子の組合せ)は、可逆的にアンフォールドしないほどけたポリペプチドの凝集を実質的に阻害しない。
ここで使用する、「フォールディングゲートキーパー」は、その生物物理的特徴によって及びタンパク質のアミノ酸配列内のその位置によって、タンパク質のアンフォールディング時に不可逆的な凝集物の形成を防ぐアミノ酸残基を指す。フォールディングゲートキーパー残基は経路外の凝集をブロックし、それによって確実にタンパク質が可逆的アンフォールディングを受けることができるようにする。フォールディングゲートキーパーは一般に、それが存在する領域のアミノ酸配列のSEスコア(疎水性スコア)を低下させる。
ここで使用する、「分泌可能」又は「分泌される」は、ポリペプチドが大腸菌における発現によって生産されるとき、それが生産されて細胞周辺腔又は培地に輸送されることを意味する。
アンフォールディング及びリフォールディングの評価
ポリペプチドのアンフォールディング及びリフォールディングは、例えば、何らかの適切な方法を用いて直接又は間接的にポリペプチド構造を検出することによって評価できる。例えばポリペプチド構造は、円二色性(CD)(例えば遠UV CD、近UV CD)、蛍光(例えばトリプトファン側鎖の蛍光)、タンパク質分解に対する感受性、核磁気共鳴(NMR)によって、又は正しい折りたたみに依存するポリペプチド機能を検出すること又は測定することによって、検出することができる。一例では、結合機能(例えば一般及び/又は標的リガンドへの結合、基質への結合)の喪失が、ポリペプチドがほどけていることを指示する機能性アッセイを用いてポリペプチドアンフォールディングを評価する。
可溶性ポリペプチドのアンフォールディング及びリフォールディングの程度は、アンフォールディング又は変性曲線を用いて測定できる。アンフォールディング曲線は、アンフォールディング因子(例えば温度、カオトロピック試薬の濃度、有機溶媒の濃度)を縦座標として及び折りたたまれたポリペプチドの相対濃度を横座標としてプロットすることによって作成できる。折りたたまれたポリペプチドの相対濃度は、何らかの適切な方法(例えばCD、蛍光、結合アッセイ)を用いて直接又は間接的に測定することができる。例えば、ポリペプチド溶液を調製し、溶液の楕円度をCDによって測定することができる。得られた楕円度値は、100%の折りたたみポリペプチドの相対濃度を表わす。次に、アンフォールディング因子(例えば熱、カオトロピック試薬)を漸増的に添加することによって溶液中のポリペプチドをアンフォールディングし、適切な増分で(例えば1℃毎の温度上昇後に)楕円度を測定する。その後、アンフォールディング因子を段階的に低減して溶液中のポリペプチドをリフォールドし、適切な段階で楕円度を測定する。データをプロットして、アンフォールディング曲線及びリフォールディング曲線を作成することができる。図7に示すように、アンフォールディング及びリフォールディング曲線は、ポリペプチド分子が折りたたまれる部分、ポリペプチド分子が様々な程度にほどけるアンフォールディング/リフォールディング転移、及びポリペプチド分子がほどける部分を含む、特徴的な形状を有する。リフォールディング曲線のy軸切片は、回収された再生タンパク質の相対量である。少なくとも約50%、又は少なくとも約60%、又は少なくとも約70%、又は少なくとも約75%、又は少なくとも約80%、又は少なくとも約85%、又は少なくとも約90%、又は少なくとも約95%の回収は、ポリペプチドが可逆的にアンフォールドすることを指示する。
好ましい実施形態では、可溶性ポリペプチドは、加熱したとき可逆的にアンフォールドする。可溶性ポリペプチドのアンフォールディングの可逆性は、ポリペプチド溶液を調製し、そのポリペプチドについての熱アンフォールディング及びリフォールディング曲線をプロットすることによって決定される。ペプチド溶液は、ペプチドが溶解するのに適切なpH(例えば等電点(pI)より約3単位上又は下であるpH)を有する水性緩衝液などの、何らかの適切な溶媒において調製できる。ポリペプチド溶液は、アンフォールディング/フォールディングを検出できるように十分に濃縮されている。例えばポリペプチド溶液は、約0.1μM−約100μM、又は好ましくは約1μM−約10μMでありうる。
可溶性ポリペプチドの融解温度(Tm)が既知である場合は、溶液をTmより約10℃低い温度(Tm−10)に加熱し、楕円度又は蛍光(例えば200nm−250nmの遠紫外線スキャン、235nm又は225nmの固定波長CD;298nmでの励起による300-450nmのトリプトファン蛍光発光スペクトル)によってフォールディングを評価して、100%相対折りたたみポリペプチドを提供することができる。次に、溶液をあらかじめ定められた増分(例えば約0.1−約1℃の上昇)でTmより少なくとも10℃高い温度(Tm+10)に加熱し、各々の増分で楕円度又は蛍光を測定する。その後、あらかじめ定められた割合で少なくともTm−10に冷却することによってポリペプチドをリフォールドし、各々の割合で楕円度又は蛍光を測定する。ポリペプチドの融解温度が既知でない場合は、溶液を約25℃−約100℃に漸増的に加熱することによってアンフォールドし、その後少なくとも約25℃に段階的に冷却することによってリフォールドして、各々の加熱及び冷却段階で楕円度又は蛍光を測定する。得られたデータをプロットして、アンフォールディング曲線とリフォールディング曲線を作成することができ、その場合のリフォールディング曲線のy軸切片は、回収された再生タンパク質の相対量である。
一部のポリペプチドは、提示されるポリペプチドとして(例えばバクテリオファージの表面にファージコートタンパク質融合タンパク質として提示される)ではなく、可溶性ポリペプチドとして可逆的にアンフォールドする。しかし、提示ポリペプチドとして可逆的アンフォールディングを受けるポリペプチドは一般に、可溶性ポリペプチドとして作製されるときも可逆的アンフォールディングを受ける。それ故、提示ポリペプチドに関する可逆的アンフォールディングは極めて好都合であり、提示ポリペプチドのレパートリー又はライブラリーから、可溶性ポリペプチドとして可逆的にアンフォールドしうるポリペプチドを選択する能力を提供する。
ポリペプチドディスプレイシステム内に含まれるポリペプチド、例えばバクテリオファージ上に提示されたポリペプチドのアンフォールディング及びリフォールディングは、適切なフォールディングに依存するポリペプチドの機能を検出することによって評価され得る。例えば、共通リガンド(例えば、一般リガンド、標的リガンド、基質)に結合する等の、共通機能を有する提示ポリペプチドを含むポリペプチドディスプレイシステムを、アンフォールド続けてリフォールドし得、機能アッセイを用いてリフォールディングを評価し得る。例えば、結合活性を有するポリペプチドが可逆的にアンフォールドするかどうかを、バクテリオファージ上に前記ポリペプチドを提示し、および提示ポリペプチドの結合活性を測定又は判定することによって決定し得る。提示ポリペプチドは、ポリペプチドを提示するファージを約80℃に加熱することによってアンフォールドされ得、次にファージを約20℃又はほぼ室温に冷却することによってリフォールドされ得て、かつリフォールドしたポリペプチドの結合活性を測定又は判定し得る。少なくとも約50%、又は少なくとも約60%、又は少なくとも約70%、又は少なくとも約75%、又は少なくとも約80%、又は少なくとも約85%、又は少なくとも約90%、又は少なくとも約95%の結合活性の回復は、ポリペプチドが可逆的にアンフォールドするということを指示する。好ましい態様では、提示ポリペプチドは抗体の可変ドメインを含み、および一般リガンド(例えば、プロテインA、プロテインL)又は標的リガンドへの結合を判定する。
本明細書に開示したポリペプチドは、少なくとも約1 μMから約1 mM、少なくとも約1 μMから約500 μM、又は少なくとも約1 μMから約100 μMのポリペプチド濃度で、溶液中で及び/又は適切なポリペプチドディスプレイシステムにおいて提示されるとき、可逆的にアンフォールドする。例えば、ある単一のヒト抗体の可変ドメインは、約0.5 mMの局所濃度(ファージ先端上)の提示抗体の可変ドメインのポリペプチドを産生する多価ファージディスプレイシステムにおいて提示されるとき,可逆的にアンフォールドし得る。特定の態様では、ポリペプチドは、約10 μM、約20 μM、約30 μM、約40 μM、約50 μM、約60 μM、約70 μM、約80 μM、約90 μM、約100 μM、約200 μM、約300 μM、約400 μM又は約500 μMのポリペプチド濃度で溶液中に又はファージ先端上に提示されるとき、可逆的にアンフォールドする。
選択方法
1つの側面において、本発明は、ポリペプチドのライブラリー又はレパートリー(例えば、ポリペプチドディスプレイシステム)から、可逆的にアンフォールドするポリペプチドを選択、単離及び/又は回収する手順である。1つの態様では、前記方法は、ポリペプチドのコレクション(例えば、ライブラリー、レパートリー又はポリペプチドディスプレイシステム中のポリペプチド)をアンフォールドすること、少なくとも一部のアンフォールドしたポリペプチドをリフォールドすること、及びリフォールドしたポリペプチドを選択、単離及び/又は回収することを含む。他の態様では、前記方法は、アンフォールドしたポリペプチドのコレクション(例えば、ライブラリー、レパートリー又はポリペプチドディスプレイシステム中のポリペプチド)を提供すること、少なくとも一部のアンフォールドしたポリペプチドをリフォールドすること、及びリフォールドしたポリペプチドを選択、単離及び/又は回収することを含む。
ポリペプチドディスプレイシステム
好ましくは、可逆的にアンフォールドするポリペプチドを、適切なポリペプチドディスプレイシステム中のポリペプチドのレパートリーから選択、単離及び/又は回収する。例えば、可逆的にアンフォールドするポリペプチドを、溶液に存在し、またはプラスチックもしくはガラス(例えば、マイクロタイタープレート、マイクロアレイ等のポリペプチドアレイ)等の適切な表面に共有結合又は非共有結合する、ポリペプチドのレパートリーから選択、単離及び/又は回収し得る。例えば各々の異なるライブラリー要素(例えば、独立のペプチド配列)をアレイ内で別々のあらかじめ定められた位置に配置する方法で表面上のペプチドのアレイを使用し得る。かかるアレイ内の各ライブラリー要素の同一性は、アレイ内のその空間の位置によって判定され得る。標的リガンドと例えば反応ライブラリー要素の間での結合相互作用が起こるアレイ内の位置が決定し得、それにより空間の位置に基づいて反応要素の配列を同定する。(例えば、米国特許第5,143,854号、国際公開広報第WO 90/15070号及び国際公開広報第WO 92/10092号参照。)
好ましくは、前記方法は、核酸のコード機能と核酸によってコードされるポリペプチドの物理、化学および/又は機能特性を結びつけるポリペプチドディスプレイシステムを用いる。好ましくは、前記ポリペプチドディスプレイシステムは、バクテリオファージディスプレイライブラリー等のライブラリーを含む。バクテリオファージディスプレイは、特に好ましいポリペプチドディスプレイシステムである。
多くの適切なバクテリオファージディスプレイシステム(例えば、一価ディスプレイ及び多価ディスプレイシステム)が記述されている。(例えば、Griffithsら、米国特許第6,555,313 B 1号(参照によって本明細書に援用される); Johnsonら、米国特許第5,733,743号(参照によって本明細書に援用される);McCaffertyら、米国特許5,969,108号(参照によって本明細書に援用される);Mulligan-Kehoe,米国特許第5,702,892号(参照によって本明細書に援用される); Winter, G.ら、Annu. Rev. Immunol.12: 433-455 (1994);Soumillion, P. ら、Appl. Biochem. Biotechnol.47(2-3):175-189 (1994);Castagnoli, L. ら、Comb. Chem. High Throughput Screen, 4(2):121-133(2001)参照。)バクテリオファージディスプレイシステムにおいて提示されるポリペプチドは、例えば線状ファージ(例えば、fd、M13、F1)、溶菌ファージ(例えば、T4、T7、λ)、又はRNAファージ(例えば、MS2)等の、任意の適切なバクテリオファージ上に提示され得る。
一般に、ポリペプチドのレパートリーを提示するファージのライブラリーは、適切なファージ被覆タンパク質との融合タンパク質として、産生又は提供される。かかるライブラリーは、提示ポリペプチドをコードするファージベクター又はファージミドベクターのライブラリーを適切な宿主細菌に導入し、生じた細菌を培養してファージを産生する(例えば、所望する場合に適切なヘルパーファージを使用し又はプラスミドを補足して)等の、任意の適切な方法を用いて産生され得る。ファージのライブラリーは、沈殿及び遠心分離等の、任意の適切な方法を用いてかかる培養から回収され得る。
ポリペプチドディスプレイシステムは、任意の所望の量の多様性を含むポリペプチドのレパートリーを含み得る。例えば、レパートリーは、ある生物、生物の群、所望の組織又は所望の細胞型によって発現される天然由来のポリペプチドに対応するアミノ酸配列を有するポリペプチドを含み得、またはランダムなもしくはランダム化されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを含み得る。所望する場合、ポリペプチドは共通の中核又は骨格を共有し得る。例えば、レパートリー又はライブラリー中の全ポリペプチドは、プロテインA、プロテインL、プロテインG、フィブロネクチンドメイン、アンチカリン、CTLA4、所望の酵素(例えば、ポリメラーゼ、セルラーゼ)、または抗体もしくはは抗体フラグメント(例えば、VH、VL)等の、免疫グロブリンスーパーファミリーからのポリペプチドから選択される骨格に基づき得る。かかるレパートリー又はライブラリー中のポリペプチドは、ランダムな又はランダム化されたアミノ酸配列の規定領域及び共通のアミノ酸配列の領域を含み得る。ある態様では、レパートリー中のすべての又は実質的にすべてのポリペプチドは、所望の酵素(例えば、ポリメラーゼ)又は抗体の所望の抗原結合フラグメント(例えば、ヒトVH又はヒトVL)等の、所望の型である。好ましい態様では、ポリペプチドディスプレイシステムは、各ポリペプチドが抗体の可変ドメインを含むポリペプチドのレパートリーを含む。例えば、レパートリー中の各ポリペプチドは、VH、VL又はFv(例えば、一本鎖Fv)を含み得る。
アミノ酸配列の多様性は、任意の適切な方法を用いて所望のポリペプチド又は骨格の任意の所望の領域に導入され得る。例えば、アミノ酸配列の多様性は、任意の適切な突然変異誘発方法(例えば、低忠実度PCR、オリゴヌクレオチド仲介の又は部位指定の突然変異誘発、NNKコドンを用いた多様化)又は任意の他の適切な方法を用いて、多様化したポリペプチドをコードする核酸のライブラリーを調製することにより、抗体の可変ドメイン又は疎水性ドメインの相補性決定領域等の、標的領域に導入され得る。所望する場合、多様化されるべきポリペプチドの領域をランダム化し得る。
レパートリーを構成するポリペプチドのサイズは主として選択の問題であり、均一なポリペプチドサイズは必要とされない。一般に、レパートリー内のポリペプチドは、少なくとも約9個のアミノ酸残基を含み、二次構造を有する。好ましくは、レパートリー内のポリペプチドは少なくとも三次構造を有する(少なくとも1つの領域を形成する)。
ポリペプチドのレパートリーは、可逆的にアンフォールドし、本明細書記載の適切なアンフォールディングの作用因を用いてアンフォールドされ得るポリペプチドを含む。ポリペプチドのレパートリーは、可逆的にアンフォールドし、および例えば、大腸菌で発現させるときに分泌可能なポリペプチドで濃縮され得る。一般に、かかる濃縮されたレパートリーに含まれる少なくとも約10%のポリペプチドは可逆的にアンフォールドする。より好ましくは、濃縮されたレパートリー内の少なくとも約20%、又は少なくとも約30%、又は少なくとも約40%、又は少なくとも約50%、又は少なくとも約60%、又は少なくとも約70%、又は少なくとも約80%、又は少なくとも約90%のポリペプチドが、可逆的にアンフォールドする。好ましいレパートリーは、加熱したとき可逆的にアンフォールドするポリペプチドを含む。
ある態様では、レパートリー内の実質的にすべてのポリペプチドが共通の選択可能な特性(例えば、物理特性、化学特性、機能特性)を共有する。好ましくは、共通の選択可能な特性は適切なフォールディングに依存し、ならびに適切にフォールドされたポリペプチドをアンフォールドおよびミスフォールドされたポリペプチドと区別する。例えば、共通の選択可能な特性は、適切にフォールドされたポリペプチドをミスフォールド及びアンフォールドされたポリペプチドと区別および選択されることを可能にする、結合親和性等の特性であり得る。ある態様では、共通の選択可能な特性は、適切にフォールドされたポリペプチドを選択するために使用され得るが、アンフォールド及びミスフォールドされたポリペプチドには存在しない。例えば、実質的にレパートリー内の全ポリペプチドが、共通の結合機能(例えば、共通の一般リガンドに結合する、共通の標的リガンドに結合する、共通の抗体に結合する(又は共通の抗体によって結合される))、共通の触媒活性又はタンパク質分解(例えば、特定のプロテアーゼによって仲介されるタンパク質分解)に対する抵抗性等の、適切にフォールドされたポリペプチドをアンフォールド及びミスフォールドされたポリペプチドと区別する共通の機能特性を有するポリペプチドのレパートリーは、前記方法において使用され得る。他の態様では、レパートリー内において可逆的にアンフォールドする実質的に全てのポリペプチドが、適切にフォールドされたポリペプチドをアンフォールド及びミスフォールドされたポリペプチドと区別する共通の選択可能な特性を有するポリペプチドのレパートリーを、前記方法において使用し得る。
特定の態様では、ポリペプチドディスプレイシステムは、免疫グロブリンの可変ドメイン(例えば、VH、VL)を含むポリペプチドのライブラリーを含む。前記可変ドメインは、生殖細胞系の配列(例えば、DP47ダミー(配列番号3)、DPK9ダミー(配列番号6))に基づき得、および所望する場合は、相補性決定領域等の、1つ以上の多様化領域を有し得る。VHの他の適切な生殖細胞系の配列は、例えば、VH遺伝子セグメントDP4、DP7、DP8、DP9、DP10、DP31、DP33、DP45、DP46、DP49、DP50、DP51、DP53、DP54、DP65、DP66、DP67、DP68及びDP69、ならびにJHセグメントJH1、JH2、JH3、JH4、JH4b、JH5及びJH6によってコードされる配列を含む。VLの他の適切な生殖細胞系の配列は、例えば、Vκ遺伝子セグメントDPK1、DPK2、DPK3、DPK4、DPK5、DPK6、DPK7、DPK8、DPK9、DPK10、DPK12、DPK13、DPK15、DPK16、DPK18、DPK19、DPK20、DPK21、DPK22、DPK23、DPK24、DPK25、DPK26及びDPK 28、ならびにJκセグメントJκ1、Jκ2、Jκ3、Jκ4及びJκ5によってコードされる配列を含む。
1つ以上の可変ドメインの構造領域(FR)は、(a)ヒト構造領域のアミノ酸配列、(b)ヒト構造領域のアミノ酸配列の少なくとも8個の連続アミノ酸、又は(c)ヒト生殖細胞系の抗体遺伝子セグメントによってコードされるアミノ酸配列、を含み得て、前記構造領域はKabatによって定義される通りである。ある態様では、1つ以上の構造領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系の抗体遺伝子セグメントによってコードされる対応の構造領域のアミノ酸配列と同じであるか、または1つ以上の前記構造領域のアミノ酸配列は、合計して、ヒト生殖細胞系の抗体遺伝子セグメントによってコードされる前記対応の構造領域のアミノ酸配列に比べて5個までのアミノ酸の相違を含む。
他の態様では、FR1、FR2、FR3及びFR4のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系の抗体遺伝子セグメントによってコードされる対応の構造領域のアミノ酸配列と同じであり、またはFR1、FR2、FR3及びFR4のアミノ酸配列は、合計して、前記ヒト生殖細胞系の抗体遺伝子セグメントによってコードされる対応の構造領域のアミノ酸配列に比べて10個までのアミノ酸の相違を含む。他の態様では、前記FR1、FR2及びFR3のアミノ酸配列は、前記ヒト生殖細胞系の抗体遺伝子セグメントによってコードされる対応の構造領域のアミノ酸配列と同じである。
可変ドメインを含むポリペプチドは、好ましくは標的リガンドの結合部位及び/又は一般リガンドの結合部位を含む。ある態様では、一般リガンドの結合部位は、プロテインA、プロテインL又はプロテインG等の、スーパー抗原の結合部位である。
前記可変ドメインは、任意の所望の可変ドメイン、例えばヒトVH(例えば、VH1a、VH1b、VH2、VH3、VH4、VH5、VH6)、ヒトVλ(例えば、VλI、VλII、VλIII、VλIV、VλVもしくはVλVI)またはヒトVκ(例えば、Vκ1、Vκ2、Vκ3、Vκ4、Vκ5、Vκ6、Vκ7、Vκ8、Vκ9もしくはVκ10)に基づき得る。好ましくは、可変ドメインは、VHH等の、ラクダ免疫グロブリンドメインではなく、または生殖細胞系の配列によってコードされるラクダ免疫グロブリンの可変ドメインに特有であるが、例えば、ヒト免疫グロブリン可変ドメインには特有でない1つ以上のアミノ酸(例えば、構造アミノ酸)を含む。(例えば、Daviesら、Protein Engineering 9:531-537(1996); Tanhaら、J. Biol. Chem. 276 : 24774-24780(2001); Riechmannら、J. Immunol. Methods 23:25-38(1999)参照。)1つの態様では、可逆的にアンフォールドするVHは、ネズミ(例えば、マウス)生殖細胞系の構造領域に特有である1つ以上のアミノ酸を含まない。好ましくは、可変ドメインは、加熱したとき可逆的にアンフォールドする。
可変ドメインを含む単離ポリペプチドは、抗体の形式であり得る。このように、ある態様では、可逆的にアンフォールドする可変ドメインを含む単離ポリペプチドは、可変ドメインのホモ二量体、可変ドメインを含むヘテロ二量体、Fv、scFv、ジスルフィド結合したFv、Fab、単一の可変ドメイン又は免疫グロブリンのFc部分に融合した可変ドメインであり得る。
1つの態様では、ポリペプチドディスプレイシステムは、耐熱性DNAポリメラーゼ(例えば、Taqポリメラーゼ)の変異体等の、核酸ポリメラーゼであるポリペプチドを含む。
アンフォールディング及びリフォールディング
ポリペプチド(例えば、提示ポリペプチド)は、任意の所望のアンフォールディングの作用因を用いてアンフォールドされ得る。適切なアンフォールディングの作用因は、例えば、熱及び/又は圧、低pH又は高pH、カオトロピック試薬(例えば、塩酸グアニジン、尿素等)及び有機溶媒(例えば、アルコール(例えば、メタノール、エタノール)、ケトン(例えば、メチルエチルケトン)、アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド、ジメチルホルムアルデヒド)、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン等)を含む。ある態様では、提示ポリペプチドは、アンフォールディングの作用因がカオトロピック試薬ではないことを条件として、アンフォールディングの作用因を用いてアンフォールドされる。一般にアンフォールディングは、ポリペプチドのコレクションを、コレクション内の少なくとも約10%のポリペプチドをアンフォールドさせるのに十分な量のアンフォールディングの作用因(例えば、熱)に共することによって実施される。特定の態様では、ポリペプチドのコレクションを、コレクション内の少なくとも約20%、又は少なくとも約30%、又は少なくとも約40%、又は少なくとも約50%、又は少なくとも約60%、又は少なくとも約70%、又は少なくとも約80%、又は少なくとも約90%、又は少なくとも約95%、又は少なくとも約98%、又は少なくとも約99%、又は実質的に全部のポリペプチドをアンフォールドさせるのに十分な量のアンフォールディングの作用因(例えば、熱)に共することによってアンフォールディングを実施する。
実際には、レパートリー中のポリペプチドは一定範囲の融解温度(Tm)を有し得る。Tm(例えば、本明細書記載の方法における使用のための)は、レパートリーから約10個から約100個のランダムなポリペプチドの試料を入手し、試料におけるポリペプチドの平均Tmを測定することによってレパートリーに関して入手され得る。
好ましくは、提示ポリペプチドは、ポリペプチドディスプレイシステムを、少なくとも約10%の提示ポリペプチドをアンフォールドさせるのに十分な温度等の、適切なアンフォールディング温度(Ts)に加熱することによってアンフォールドされる。所望の割合の提示ポリペプチドをアンフォールドさせるのに十分な温度は、任意の適切な方法を用いて、例えばアンフォールディング及び/又はリフォールディング曲線(本明細書記載のように)への参照によって、容易に判定され得る。実質的にすべての提示ポリペプチドをアンフォールドすることが望ましいときは、ポリペプチドシステムのアンフォールディング及びリフォールディング曲線のアンフォールド部分内に属する最も低い温度が一般に十分であり得る。選択温度は提示ポリペプチドの耐熱性に依存し得る。例えば、提示ポリペプチドが好熱菌又は高度好熱菌(例えば、Thermus aquaticus)由来であるか又はそれら由来のポリペプチドの変異体である場合は、100℃以上のアンフォールディング温度が使用され得る。熱を使用してポリペプチドをアンフォールドするとき、ポリペプチドは一般に、少なくとも選択されるべきポリペプチドのほぼ融解温度(Tm)であるか又は選択されるべきポリペプチドのTmより高い、温度(Ts)に加熱することによってアンフォールドされる。
ある態様では、提示ポリペプチドは、ポリペプチドディスプレイシステムの温度を約25℃から約100℃の間のアンフォールディング温度に上昇させることによってアンフォールドされる。ポリペプチドディスプレイシステムがファージディスプレイであるときは、提示ポリペプチドは、ファージディスプレイシステムの温度を約80℃に上げることによってアンフォールドされることが好ましい。提示又は可溶性ポリペプチドを高温で(例えば、約100℃で)アンフォールドすることも好ましく、好都合であり得る。例えば、ポリペプチドディスプレイもしくはシステムまたは可溶性ポリペプチドを約100℃に加熱することによって熱滅菌性(heat sterilizable)ポリペプチドを選択、単離及び/又は滅菌し得る。
ひとたび所望のアンフォールディング温度が達成されれば、所望する場合は、ポリペプチドディスプレイシステムを一定期間(例えば、約10時間まで)その温度に維持し得る。例えばポリペプチドディスプレイシステムを、約100ミリ秒から約10時間までの期間、アンフォールディング温度に維持し得る。特定の態様では、ポリペプチドディスプレイシステムを約1秒から約20分間、アンフォールディング温度に維持する。
ポリペプチドディスプレイシステムの温度は、任意の適切な速度で、例えば約1℃/ミリ秒から約1℃/時間の速度で、上昇させ得る。特定の態様では、温度は、好ましくは約1℃/秒の速度で上昇させる。
ポリペプチドディスプレイシステム中のアンフォールドしたポリペプチド又は一部のアンフォールドしたポリペプチドを、システム中のアンフォールディングの作用因の量又は濃度を低下させることによってリフォールドし得る。システム中のアンフォールディングの作用因の量又は濃度は、任意の適切な方法を用いて、例えば、希釈、透析、緩衝液交換、滴定又は他の適切な方法によって低下させ得る。熱は、例えば室温で又は冷蔵下で(例えば、冷蔵冷却台又は冷却浴において)冷却することによって低下させ得る。圧は、例えば、通気口を作ること(venting)によって低下させ得る。
選択の前に一部のアンフォールドした提示ポリペプチドのみをリフォールドすることが望ましい場合がある。例えば、アンフォールドした提示ポリペプチドの最も安定な部分(例えば、約0.00001%から約1%)だけがリフォールドするように、アンフォールディングの作用因を最小限に低下させるとき、可逆的にアンフォールドする非常に安定なポリペプチドを選択、単離及び/又は回収し得る。したがって、リフォールディングは、ポリペプチドディスプレイシステム中のアンフォールディングの作用因の量又は濃度を、所望の度合のリフォールディングを生じさせる量又は濃度に低下させることによって実施され得る。ポリペプチドディスプレイシステム中に残存し得るが、所望の割合のアンフォールドされた提示ポリペプチドをリフォールドさせる、アンフォールディングの作用因の量又は濃度は、任意の適切な方法を用いて、例えばアンフォールディング及びリフォールディング曲線(本明細書記載のように)への参照によって、容易に決定され得る。実質的にすべてのアンフォールドされた提示ポリペプチドをリフォールドすることが望ましいときは、アンフォールディングの作用因の量又は濃度を、アンフォールディング前のポリペプチドディスプレイシステム中の濃度又は量に低下し得るか(例えば、システムを室温に冷却する)、又はアンフォールディングの作用因を実質的に除去し得る。
一般に、リフォールディングは、少なくとも約0.00001%のアンフォールドされたポリペプチドがリフォールドするようにアンフォールディングの作用因(例えば、熱)の量又は濃度を低下させることによって実施される。特定の態様では、ポリペプチドディスプレイシステム内のリフォールディングされ得るアンフォールドされたポリペプチドの少なくとも約0.0001%、又は少なくとも約0.001%、又は少なくとも約0.01%、又は少なくとも約0.1%、又は少なくとも約1%、又は少なくとも約10%、又は少なくとも約20%、又は少なくとも約30%、又は少なくとも約40%、又は少なくとも約50%、又は少なくとも約60%、又は少なくとも約70%、又は少なくとも約80%、又は少なくとも約90%、又は少なくとも約95%、又は少なくとも約98%、又は少なくとも約99%、又は実質的に全部がリフォールドするように、アンフォールディングの作用因(例えば、熱)の量又は濃度を低下させることによってリフォールディングを実施する。
本明細書記載のように、熱は好ましいアンフォールディングの作用因である。提示ポリペプチドが熱のアンフォールドである態様では、アンフォールドされた提示ポリペプチドを、ポリペプチドディスプレイシステムの温度を約99℃以下であるがポリペプチドディスプレイシステムの凍結温度より上であるリフォールディング温度(Tc)に低下させることによってリフォールドする。アンフォールディングに関して、選択されたリフォールディング温度は提示ポリペプチドの耐熱性に依存し得る。例えば、提示ポリペプチドが好熱菌又は高度好熱菌(例えば、Thermus aquaticus)由来であるか又はそれら由来のポリペプチドの変異体である場合は、100℃以上のリフォールディング温度を使用し得る。好ましくは、アンフォールディング温度およびリフォールディング温度は少なくとも約10℃から少なくとも約120℃の間で異なる。
1つの態様では、ポリペプチドディスプレイシステムはファージディスプレイシステムであり、提示ポリペプチドは、システムを約80℃に加熱することによってアンフォールドされ、およびアンフォールドされた提示ポリペプチドは、ファージディスプレイシステムの温度を約1℃から約70℃の間の温度に低下させることによってリフォールドされ得る。さらに特定の態様では、アンフォールドされた提示ポリペプチドを、ファージディスプレイシステムの温度を約1℃から約60℃、又は約1℃から約50℃、又は約1℃から約40℃、又は約1℃から約30℃、又は約1℃から約20℃、又は約1℃から約10℃の間の温度に低下させることによってリフォールドする。
ひとたび所望のリフォールディング温度が達成されれば、所望する場合は、ポリペプチドディスプレイシステムを任意の所望の期間(例えば、約10時間まで)その温度に維持し得る。例えば、ポリペプチドディスプレイシステムを、約100ミリ秒から約10時間までの期間、リフォールディング温度に維持し得る。特定の態様では、ポリペプチドディスプレイシステムを約1分から約20分間、リフォールディング温度に維持する。
ポリペプチドディスプレイシステムの温度は、任意の適切な速度で、例えば約1℃/ミリ秒から約1℃/時間の速度で、低下させ得る。特定の態様では、温度は、好ましくは約1℃/100ミリ秒又は約1℃/秒の速度で低下させる。
ポリペプチドディスプレイシステムは、提示ポリペプチドのアンフォールディング及びリフォールディングの期間中、大気圧(〜1気圧)に維持され得る。しかし、所望する場合は、ポリペプチドディスプレイシステムをより低圧又はより高圧に維持し得る。かかる状況では、所望の度合いのアンフォールディングを得るためにいずれにせよアンフォールディングの作用因が必要であり得る。例えば、システムの圧の低下又は上昇はシステムの温度を変化させ得るので、所望のアンフォールディング温度を達成するためにはポリペプチドディスプレイシステム(1気圧のシステムに関して)にいずれにせよ熱を適用する必要があり得る。
アンフォールディング及びリフォールディングは、適切なpH又は緩衝液条件下で実施され得る。一般に、アンフォールディング及びリフォールディングは、約1から約13、又は約2から約12のpHで実施される。アンフォールディング及びリフォールディングの好ましいpH条件は、約5から約9、又は約6から約8、又は約7のpHである。酸性又はアルカリ性条件下でのポリペプチドのフォールディング及びアンフォールディングは、経口的に投与し得及び/又は胃の中で治療作用を有するポリペプチド薬剤等の、極端な酸性又はアルカリ性条件下で機能するポリペプチドの選択を可能にし得る。
選択/単離/回収
可逆的にアンフォールドするポリペプチド(例えば、可逆的にアンフォールドするポリペプチドの集団)は、任意の適切な方法を用いてレパートリー又はライブラリー(例えば、ポリペプチドディスプレイシステムにおいて)から選択、単離及び/又は回収され得る。ポリペプチドは、そのポリペプチドを選択及び/又は単離することによって回収され得る。回収は適切な回収温度(Tr)で実施され得る。一般に、適切な回収温度は、ポリペプチドの融解温度(Tm)より低いが、ポリペプチドディスプレイシステムの凍結温度より高い任意の温度である。ある態様では、回収温度(Tr)はリフォールディング温度(Tc)と実質的に同じである(例えば、Tr=Tc)。
ある態様では、可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、適切にフォールドされたポリペプチドをアンフォールド及びミスフォールドされたポリペプチドと区別する選択可能な特性(例えば、物理特性、化学特性、機能特性)に基づいて選択又は単離される。かかる選択可能な特性の例は、蛍光、蛍光消光に対する感受性及び化学修飾(例えばヨード酢酸、ヨードアセトアミド又は他の適切なポリペプチド修飾剤による)に対する感受性を含む。好ましくは、可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、適切にフォールドされたポリペプチドをアンフォールド及びミスフォールドされたポリペプチドと区別する適切な選択可能の機能特性に基づいて選択、単離及び/又は回収される。可逆的にアンフォールドするポリペプチドを選択又は単離するための適切な機能特性は、ポリペプチドの適切なフォールディングに依存する任意の機能を含む。従って、可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、適切にフォールドされたときはその機能を有し得るが、アンフォールディング時にはその機能は失われるか又は低減し得、およびそのポリペプチドがアンフォールド又はミスフォールドされたときにはその機能は存在し得ないか又は低減し得る。適切な選択可能の機能特性は、例えば、一般リガンド(例えば、スーパー抗原)への結合、標的リガンド(例えば、抗原、エピトープ、基質)への結合、抗体への結合(例えば、適切にフォールドされたポリペプチドで発現されるエピトープを介して)、触媒活性及びタンパク質分解に対する抵抗性を含む。(例えば、Tomlinsonら、国際公開広報第WO 99/20749号;国際公開広報第WO 01/57065号;国際公開広報第WO 99/58655号参照。)
好ましい実施形態では、可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、可逆的にアンフォールドする実質的にすべてのポリペプチドが共通の選択可能特徴を共有する、ポリペプチドのライブラリー又はレパートリーから選択及び/又は単離される。例えば可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、可逆的にアンフォールドする実質的にすべてのポリペプチドが、共通一般リガンドに結合する、共通標的リガンドに結合する、共通抗体に結合する(又は共通抗体によって結合される)、共通触媒活性を有するか又は各々がタンパク質分解(例えば特定プロテアーゼによって仲介されるタンパク質分解)に対して抵抗性である、ポリペプチドのライブラリー又はレパートリーから選択することができる。共通一般リガンドへの結合に基づく選択は、もとのライブラリー又はレパートリーの成分である、可逆的にアンフォールドする全部又は実質的に全部のポリペプチドを含むポリペプチドの個体群を生成しうる。
可逆的にアンフォールドするポリペプチドを選択する、単離する及び/又は回収するために、いかなる適切な方法も使用できる。例えばプロテインA、プロテインL又は抗体などの標的リガンド又は一般リガンドに結合するポリペプチドを、パニングによって又は適切な親和性マトリックスを使用して選択する、単離する及び/又は回収することができる。パニングは、リガンド(例えば一般リガンド、標的リガンド)の溶液を適切な容器(例えばチューブ、ペトリ皿)に添加して、リガンドを容器の壁に沈着又は被覆させることによって達成できる。過剰のリガンドは洗い流すことができ、ポリペプチド(例えばファージディスプレイライブラリー)を容器に添加して、容器をポリペプチドが固定リガンドに結合するのに適した条件下に維持することができる。非結合ポリペプチドは洗い流すことができ、結合ポリペプチドを、例えば削り取り又はpHを下げることなどの何らかの適切な方法を用いて回収することができる。
適切なリガンド親和性マトリックスは、一般に、リガンドが共有結合的又は非共有結合的に付着する固体支持体又はビーズ(例えばアガロース)を含む。親和性マトリックスは、ポリペプチドがマトリックス上のリガンドに結合するのに適した条件下でのバッチ工程、カラム工程又は他の何らかの適切な工程を用いてポリペプチド(例えばファージディスプレイライブラリー)と組み合わせることができる。親和性マトリックスと結合しないポリペプチドは洗い流すことができ、結合ポリペプチドは、より低いpH緩衝液、弱い変性剤(例えば尿素)又はリガンドへの結合に関して競合するペプチドによる溶出などの、何らかの適切な方法を用いて溶出し、回収することができる。
一部の実施形態では、一般又は標的リガンドは、抗体又はその抗原結合フラグメントである。ライブラリー又はレパートリーのポリペプチドにおいて実質的に保存されるポリペプチドの構造的特徴に結合する抗体又は抗原結合フラグメントは、一般リガンドとして特に有用である。可逆的にアンフォールドするポリペプチドを単離する及び/又は選択するためのリガンドとしての使用に適する抗体及び抗原結合フラグメントは、モノクローナル又はポリクローナルでありえ、何らかの適切な方法を用いて作製することができる。
可逆的にアンフォールドするポリペプチドはまた、例えば金属イオンに結合することによっても選択できる。例えば固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC ; HubertとPorath,J.Chromotogaphy, 98: 247(1980))は、数多くのタンパク質の露出面での、ヒスチジン及びシステインアミノ酸残基並びに金属に結合しうるその他のものの金属結合特性を利用する。前記クロマトグラフィーは、金属イオンが錯形成する二座金属キレート化剤(例えばイミノ二酢酸、IDA、ジカルボン酸基)を含む、樹脂、典型的にはアガロースを使用する。かかる樹脂は容易に調製することができ、CHELATING SEPHAROSE 6B (Pharmacia Fine Chemicals;Piscataway, NJ)などのいくつかの該樹脂は市販されている。有用な金属イオンとして、二価カチオンNi2+、Cu2+、Zn2+及びCo2+が挙げられるが、これらに限定されない。ポリペプチドのレパートリー又はライブラリーは、基本的に0.1−1.0M濃度の塩(典型的にはNaCl又はKCl)及び弱いリガンド(例えばトリス、アンモニア)から成る結合緩衝液中で作製することができ、リガンドは、本発明に従って選択されるポリペプチドよりも低い程度で、樹脂の金属イオンに親和性を有する。弱いリガンドの有用な濃度は、結合緩衝液中で0.01−0.1Mの範囲である。
ポリペプチドのレパートリー又はライブラリーを、金属結合ドメインを有するポリペプチドが結合する条件下で樹脂と接触させることができる。非結合ポリペプチドは洗い流すことができ、選択したポリペプチドは、弱いリガンドが結合緩衝液中よりも高い濃度で、特に、弱いリガンドが、金属イオンに対するそのより低い結合親和性にもかかわらず、選択ポリペプチドを置換するのに十分な濃度で存在する緩衝液で溶出される。溶出緩衝液中の弱いリガンドの有用な濃度は、結合緩衝液中よりも10倍−50倍高く、典型的には0.1−0.3Mである。好ましくは、溶出緩衝液中の塩の濃度は、結合緩衝液中の濃度に等しい。本発明の方法によれば、樹脂の金属イオンは、典型的には一般リガンドとして働く;しかしながら、それらはまた標的リガンドとしても使用できると考えられる。
IMACは、標準クロマトグラフィー装置(それを通して緩衝液が重力によって引かれる、真空によって引っ張られる又は圧によって流される、カラム)を用いて、又は金属担持樹脂が、スラリー形態で、ポリペプチドのレパートリー又はライブラリーと混合されるバッチ工程によって、実施することができる。
IMACによる血清T4タンパク質の部分精製が記述されている(Staplesら、米国特許第5,169,936号);しかし、表面に露出した金属結合ドメインを含むタンパク質の広いスペクトルはまた、他の可溶性T4タンパク質、ヒト血清タンパク質(例えばIgG、ハプトグロビン、ヘモペキシン、Gc-グロブリン、Clq、C3、C4)、ヒトデスモプラスミン、ウマのグラムレクチン、亜鉛阻害性Tyr(P)ホスファターゼ、フェノラーゼ、カルボキシペプチダーゼイソ酵素、Cu、Znスーパーオキシドジスムターゼ(ヒト及び他のすべての真核生物のものを含む)、ヌクレオシドジホスファターゼ、白血球インターフェロン、ラクトフェリン、ヒト血漿α2−SH糖タンパク質、β2−マクログロブリン、α1−抗トリプシン、プラスミノーゲン活性化因子、胃腸ポリペプチド、ペプシン、ヒト及びウシ血清アルブミン、顆粒球からの顆粒タンパク質、リゾチーム、非ヒストンタンパク質、ヒトフィブリノーゲン、ヒト血清トランスフェリン、ヒトリンホトキシン、カルモジュリン、プロテインA、アビジン、ミオグロビン、ソマトメジン、ヒト成長ホルモン、トランスフォーミング増殖因子、血漿板由来増殖因子、α−ヒト心房性ナトリウム利尿ポリペプチド、カルジオジラチンその他を包含する。加えて、膜結合タンパク質の細胞外ドメイン配列はIMACを用いて精製しうる。可逆的にアンフォールドし、上記タンパク質又はそれらの金属結合変異体のいずれかからの骨格を含むポリペプチドは、本明細書中で述べる方法を用いて選択する、単離するか又は回収することができる。
可逆的にアンフォールドするポリペプチドはまた、アンフォールディング及びリフォールディング後のファージの感染性に基づいて又はポリペプチドを提示するファージの凝集に基づいて、適切なファージディスプレイシステム(又は他の適切なポリペプチドディスプレイシステム)から選択することができる。提示されるポリペプチドの高い局所濃度は、多価ファージタンパク質(例えば線状バクテリオファージのpIIIタンパク質)にポリペプチドを提示することによって生成されうる。提示ポリペプチドは、ファージ先端に隣接して位置し、それらが可逆的にアンフォールドしない場合は、互いに相互作用して、凝集物を形成しうる。かかる凝集物は、特定ファージ上に提示されるポリペプチドの間で形成されるファージ内凝集物及び/又は、ファージディスプレイシステムが十分な濃度で複数のファージ粒子を含むとき、2以上のファージ上に提示されるポリペプチドの間で形成されるファージ間凝集物でありうる。したがって、可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、遠心分離(例えば超遠心分離)などの任意の適切な方法を用いて、若しくは提示ポリペプチドの機能又はファージの感染性に基づいて選択することにより、凝集しない提示ポリペプチドを回収することによって多価ファージディスプレイシステムから選択することができる。
例えば、適切な温度(例えば約80℃)に加熱したとき提示ポリペプチドはアンフォールドする。しかし、線状ファージを80℃に加熱するとファージの感染性はごくわずかだけ低下する(Holligerら、J.Mol. Biol. 288 : 649-657(1999))。提示ポリペプチドの高い局所濃度は、アンフォールドされたポリペプチドの凝集を導くことがあり、それによって、可逆的にアンフォールドしないポリペプチドを提示するファージの感染性を実質的に低下させうる。例えば、可逆的にアンフォールドしないポリペプチドを提示するファージの感染性は70倍又はそれ以上低下しうる。しかし、可逆的にアンフォールドするポリペプチドを提示するファージの感染性は、例えば80℃に加熱することによってより低い程度で低下するか又は実質的に変化しない(80℃に加熱した後の、ポリペプチドを提示しないファージの感染性に比べて)。従って、一部の実施形態では、可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、適切なポリペプチドディスプレイシステム(例えば線状バクテリオファージディスプレイシステム)においてポリペプチドをアンフォールド及びリフォールドし、実質的に低下していない又は実質的に変化していない感染性を有するファージを選択することによって選択できる。選択した可逆的にアンフォールドするポリペプチドを、所望抗原への結合、触媒活性等のような何らかの所望特性に関してさらに選択することができる。感染性に基づく選択はまた、可逆的にアンフォールドするポリペプチドまたは可逆的にアンフォールドするポリペプチドをコードする核酸に富むライブラリー又はレパートリーを作製するためにも使用できる。
可逆的にアンフォールドするポリペプチドはまた、可逆的にアンフォールドしないポリペプチドを提示するファージの凝集に基づいて、適切なファージディスプレイシステム(又は他の適切なポリペプチドディスプレイシステム)から選択することができる。例えば適切なポリペプチドディスプレイシステムをアンフォールドし(例えば約80℃に加熱することによって)、可逆的にアンフォールドしないポリペプチドの少なくとも一部が凝集する条件下で冷却することによってリフォールドすることができる。電子顕微鏡検査又は感染性アッセイなどの何らかの適切な方法を使用して、凝集の存在又は程度を判定することができる。遠心分離(例えば超遠心分離)などの何らかの適切な方法を用いて又は適切な宿主細菌に感染させることによって(ポリペプチドがファージ上に提示されるとき)、凝集しないポリペプチド(例えばファージ上に提示される)を回収することにより、可逆的にアンフォールドするポリペプチドを選択することができる。
ポリペプチドが固体支持体に固定されるシステムを含む、他のポリペプチドディスプレイシステムを作製することができ、その場合、可逆的にアンフォールドしない提示ポリペプチドは凝集物を形成しうる。一般に、そのようなシステムにおいて提示されるポリペプチドは互いに極めて近接して位置する。例えば提示ポリペプチドは、ポリペプチドの線状アミノ酸配列の長さの約2倍以下しか離れることはできない。提示ポリペプチドは、ポリペプチド内のアミノ酸残基の数にペプチド結合の長さ(3.8Å)を乗じて2倍することによって決定される距離以上は離れない。例えばポリペプチドは、約200Å−約300Å以上は離れ得ない。ある実施例では、ポリペプチドは100アミノ酸を含み、760Å以下だけ離れている。提示ポリペプチドは、2個の隣接する同一球状ポリペプチドの中心の間の距離以上に近接して位置することはない。例えばそれらのC末端によって基質に連結される2つの免疫グロブリン可変ドメインは、25Å以上近接すべきではない。
かかるポリペプチドディスプレイシステムは、何らかの適切な方法を用いて作製することができる。例えばポリペプチドは、連鎖させることができ(例えば国際公開公報第02/30945号参照)又はポリペプチドを担持する融合タンパク質として生産することができる(例えば二量体化又はオリゴマー化することによって、ウイルスコート又はカプシドに構築することによって)。かかるポリペプチドディスプレイシステムはまた、何らかの適切な方法を用いてポリペプチドを適切な固体支持体(例えばビーズ、プラスチック、ガラス)に固定することによっても作製できる。可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、何らかの適切な方法を用いて凝集しない提示ポリペプチドを回収することによって、かかるポリペプチドディスプレイシステムから選択することができる。例えばポリペプチドが可動性固体支持体(例えばビーズ)上に提示されるとき、ビーズ間凝集物が形成され、遠心分離又は他の適切な方法によって除去されうる。
一般に、ポリペプチドディスプレイシステムは、複数のポリペプチド種及び各々の種の1コピー以上(ポリペプチド分子)を含む。好ましくは、各々のポリペプチド種は、可逆的にアンフォールドしない種を凝集させるのに十分な濃度で存在する。例えば、ファージディスプレイのような、1コピー以上の提示ポリペプチド種が互いに隣接して位置するか又は共局在するポリペプチドディスプレイシステムにおいては、ポリペプチドの各々の種は、可逆的にアンフォールドしない種を凝集させるために十分に高い濃度(例えばファージ先端などの局所濃度)で存在する。
1つの実施形態では、ポリペプチドのレパートリーから、リガンドに結合し、可逆的にアンフォールドするポリペプチドを選択するためのプロセスは、ポリペプチドのレパートリーを含むポリペプチドディスプレイシステムを提供すること;前記レパートリーを、提示ポリペプチドの少なくとも一部がアンフォールドされる温度(Ts)に加熱すること;前記レパートリーを、それによって前記ポリペプチドの少なくとも一部がリフォールドし、前記ポリペプチドの少なくとも一部が凝集する温度(Tc)、但しTs>Tc、に冷却すること;及び可逆的にアンフォールドし、リガンドに結合する少なくとも1つのポリペプチドを一定温度(Tr)で回収することを含む。好ましくは、リガンドは折りたたまれたポリペプチドによって結合され(折りたたまれたポリペプチドに結合し)、凝集ポリペプチドによって結合されない(凝集ポリペプチドに結合しない)。可逆的にアンフォールドする回収したポリペプチドは融解温度(Tm)を有し、好ましくは、Ts>Tm>Tc及びTs>Tm>Trであるように、レパートリーをTsに加熱し、Tcに冷却して、可逆的にアンフォールドするポリペプチドをTrで単離した。好ましくは、回収したポリペプチドはミスフォールドされていない。ミスフォールドされたポリペプチドは、本明細書中で述べるように、正しく折りたたまれたポリペプチドをアンフォールド及びミスフォールドされたポリペプチドと区別する一定の選択可能特徴(例えば物理的特徴、化学的特徴、機能的特徴)に基づいて特定することができる。
さらなる実施形態では、前記プロセスは、回収したポリペプチドがリガンド(例えば標的リガンド、一般リガンド)に結合することを確認することをさらに含む。前記プロセスは、回収したポリペプチドのTmが、レパートリーを加熱した温度Tsよりも低いことを確認することをさらに含みうる。回収したポリペプチドのTmは、何らかの適切な方法を用いて、例えば円二色性、温度上昇に伴うポリペプチドの蛍光の変化、示差走査熱量測定法(DSC)によって、測定することができる。好ましくは、回収したポリペプチドは、最も近い整数に丸めたとき、約37℃又はそれ以上、より好ましくは約37℃以上のTmを有する。他の実施形態では、回収したポリペプチドのTmは約60℃未満である。他の実施形態では、回収したポリペプチドのTmは約37℃以上及び約60℃未満である。
1つの実施形態では、ポリペプチドを、Tcと実質的に同じ温度(Tr)(例えばTc=Tr)で回収する。他の実施形態では、Tsは少なくとも約60℃である。一部の実施形態では、回収したポリペプチドのTmは約60℃未満であり、レパートリーを約60℃以上の温度(Ts)に加熱した。
一部の実施形態では、ポリペプチドディスプレイシステムは、複数の複製可能な遺伝的ディスプレイパッケージを含む。好ましくは、ポリペプチドディスプレイシステムは、多価ファージディスプレイシステムなどのファージディスプレイシステムである。一部の実施形態では、ポリペプチドディスプレイシステムである前選択(pre-selection)レパートリー及び/又は前選択ライブラリーは、少なくとも約103成員(種)、少なくとも約104成員、少なくとも約105成員、少なくとも約106成員、少なくとも約107成員を含む。1つの実施形態では、ファージディスプレイシステムを提供し、Tcで凝集するポリペプチドの少なくとも一部がファージ間凝集物を形成する。別の実施形態では、ファージディスプレイシステムを提供し、Tcで凝集するポリペプチドの少なくとも一部がファージ間凝集物及びファージ内凝集物を形成する。
(ポリペプチドを設計するための方法)
別の局面では、本発明は、可逆的にアンフォールドする変異体ポリペプチドを設計する及び/又は作製するための方法に関する。前記方法は、親ポリペプチドのアミノ酸配列を提供すること、疎水性である前記アミノ酸配列の1以上の領域を特定すること、その疎水性領域の1以上を選択すること、及び選択領域内の1以上のアミノ酸を、選択領域の疎水性が低下した変異アミノ酸配列を生じるように置換することを含む。変異アミノ酸配列を含む又はそれから成るポリペプチドを生成することができ、所望する場合は、何らかの適切な方法を用いて可逆的にアンフォールドするその能力を評価するか又は確認することができる。好ましくは、前記変異体は、本明細書中で述べるように、加熱して冷却したとき可逆的にアンフォールドする。
可逆的にアンフォールドする変異体ポリペプチドは、何らかの所望親ペプチドを用いて作製することができる。例えば可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、酵素、プロテインA、プロテインL、フィブロネクチン、アンチカリン、CTLA4のドメイン、若しくは抗体又は抗体フラグメントなどの免疫グロブリンスーパーファミリーのポリペプチドから選択される骨格に基づく親ポリペプチドを用いて作製できる。
親ポリペプチドが抗体可変ドメイン(例えばヒトVH、ヒトVL)であるとき、それぞれ生殖細胞系V、D又はJセグメントによってコードされるV及び/又はD(ポリペプチドはVHドメインを含む)及び/又はJセグメント配列、あるいは天然に起こる又は人工的突然変異(例えば体細胞突然変異又は他のプロセス)から生じる配列を含みうる。例えば親ポリペプチドは、生殖細胞系遺伝子セグメントによってコードされる、又はV(D)J組換えの間のヌクレオチド(例えばNヌクレオチド、Pヌクレオチド)の挿入及び/又は欠失から及び/又は親和性成熟の間に起こる突然変異から生じる、アミノ酸配列を有する親免疫グロブリン可変ドメインでありうる。
同様に、親ポリペプチドは、生殖細胞系によってコードされる又は天然に起こる若しくは人工的突然変異(例えば体細胞突然変異)から生じるアミノ酸配列を有する親酵素でありうる。
親ポリペプチドの疎水性領域は、何らかの適切なスケール又はアルゴリズムを用いて特定することができる。好ましくは、疎水性領域は、SweetとEisenbergの方法を用いて特定される。(Sweet, R.M.とEisenberg, D., J. Mol.Biol. 171 : 479-488 (1983)。)SweetとEisenbergの方法は、9−18アミノ酸のウインドウ(例えば9、10、11、12、13、14、15、16、17又は18アミノ酸のウインドウ)を用いてアミノ酸配列(例えば特定された疎水性領域)についての疎水性スコア(S/Eスコア)を得ることができる。15アミノ酸ウインドウが一般に好ましい。一部の実施形態では、SweetとEisenbergの方法を用いて親アミノ酸配列を分析し、選択した疎水性領域についての疎水性プロットを作成する(縦座標は適切なウインドウを用いたS/Eスコアであり、横座標は選択領域のアミノ酸位置である)。親配列の1以上のアミノ酸残基が異なるアミノ酸残基を持つよう、選択疎水性領域についての変異アミノ酸配列を設計し、SweetとEisenbergの方法を用いて分析する。変異アミノ酸配列についての疎水性プロットを作成する。変異アミノ酸配列内の選択疎水性領域の疎水性プロットの曲線下面積が、親アミノ酸配列内の対応領域の曲線下面積に比べて低いことは、選択領域の疎水性の低下を指示する。変異VH又は変異VLのアミノ酸配列は、本明細書中で述べるVH又はVLについての1以上のアミノ酸置換を含みうる。変異VH又は変異VLのアミノ酸配列は、本明細書中で述べる1以上のフレームワーク領域を含みうる。
好ましい実施形態では、可逆的にアンフォールドする変異抗体可変ドメインを含むポリペプチドを設計及び/又は作製する。1つの実施形態では、変異抗体可変ドメインは、22位から36位までのアミノ酸配列(Kabatアミノ酸番号付けシステム)の疎水性が親VHの対応アミノ酸配列に比べて低い、変異VHドメインである。別の実施形態では、変異抗体可変ドメインは変異VHであり、H1ループの疎水性が親VHのH1ループに比べて低い(H1ループはAbMアミノ酸番号付けシステムによって定義される通りである)。好ましくは、疎水性は、VHに関して15アミノ酸ウインドウでSweetとEisenbergの方法を用いて決定される。一部の実施形態では、変異VHの22位から36位までのアミノ酸配列のS/Eスコアは、0.15若しくはそれ以下、又は小数第一位に丸めたS/Eスコアに関して0.1若しくはそれ以下、又は0.09若しくはそれ以下、又は0.08若しくはそれ以下、又は0.07若しくはそれ以下、又は0.06若しくはそれ以下、又は0.05若しくはそれ以下、又は0.04若しくはそれ以下、又は0若しくはそれ以下である。好ましくは、変異VHのH1ループのS/Eスコアは0又はそれ以下である。
別の実施形態では、変異抗体可変ドメインは変異VLであり、FR2−CDR2領域及び/又はFR3の疎水性は、親VLのFR2−CDR2領域及び/又はFR3に比べて低い(FR2−CDR2領域及びFR3領域はKabatアミノ酸番号付けシステムによって定義される通りである)。別の実施形態では、変異抗体可変ドメインは変異VLであり、44位から53位まで及び/又は73位から76位までのアミノ酸配列の疎水性が親VLの対応アミノ酸配列に比べて低い(Kabatアミノ酸番号付けシステム)。好ましくは、疎水性は、VLに関して11アミノ酸ウインドウでSweetとEisenbergの方法を用いて決定される。一部の実施形態では、44位から53位までのアミノ酸配列のS/Eスコアは、0.23未満のS/Eスコアを有する。例えば変異VLの44位から53位についてのS/Eスコアは、0.2未満、0.17未満、0.15未満、0.13未満、0.10未満又は−0.1未満でありうる。一部の実施形態では、変異VLのFR3についてのS/Eスコアは0.35未満である。例えば変異VLのFR3についてのS/Eスコアは、0.3未満、0.25未満、0.2未満、0.17未満、0.15未満、0.13未満、0.10未満又は−0.1未満でありうる。
変異アミノ酸配列を含み、可逆的にアンフォールドする変異体ポリペプチドは、何らかの適切な方法を用いて作製できる。例えば親ポリペプチドのアミノ酸配列を、可逆的にアンフォールドする変異体ポリペプチドを生じるように特定位置で変化させることができる(抗体可変ドメインポリペプチドに関して本明細書中で述べたように)。
ライブラリー/レパートリー
他の局面では、本発明は、可逆的にアンフォールドするポリペプチドのレパートリー、可逆的にアンフォールドするポリペプチドをコードするライブラリー、並びにかかるライブラリー及びレパートリーを作製するための方法に関する。
ポリペプチドのライブラリー及びレパートリーは、本明細書中で述べる適切なアンフォールディング因子を使用して可逆的にアンフォールドするポリペプチド(及び/又は可逆的にアンフォールドするポリペプチドをコードする核酸)を含む。一般に、レパートリー若しくはライブラリーに含まれる又はライブラリーによってコードされるポリペプチドの少なくとも約1%は可逆的にアンフォールドする。より好ましくは、レパートリー若しくはライブラリー内の又はライブラリーによってコードされるポリペプチドの少なくとも約10%、又は少なくとも約20%、又は少なくとも約30%、又は少なくとも約40%、又は少なくとも約50%、又は少なくとも約60%、又は少なくとも約70%、又は少なくとも約80%、又は少なくとも約90%が可逆的にアンフォールドする。かかるライブラリーを、本明細書中では、可逆的にアンフォールドするポリペプチドに富む又は可逆的にアンフォールドするポリペプチドをコードする核酸に富む、と称する。好ましいレパートリー及びライブラリーは、加熱したとき可逆的にアンフォールドするポリペプチドを含む。好ましくは、本発明のライブラリーは、例えば大腸菌において複製可能な、ポリペプチドをコードする核酸を含む組換えベクター(例えばプラスミド、ファージ、ファージミド)などの、適切な宿主において複製可能な異種核酸を含む。
可逆的にアンフォールドするポリペプチドをコードする及び/又は含むライブラリーは、何らかの適切な方法を用いて作製又は入手できる。本発明のライブラリーは、対象ポリペプチド(例えばライブラリーから選択したポリペプチド)に基づくポリペプチドをコードするように設計でき、又は本明細書中で述べる方法を用いて別のライブラリーから選択できる。例えば可逆的にアンフォールドするポリペプチドに富むライブラリーは、適切なポリペプチドディスプレイシステムを使用して作製することができる。
一つの実施例では、抗体可変ドメイン(例えばVH、Vκ、Vλ)を含む提示ポリペプチドのレパートリーを含むファージディスプレイライブラリーを本明細書中で述べるようにアンフォールド及びリフォールドして、リフォールドしたポリペプチドのコレクションを回収し、それによって可逆的にアンフォールドするポリペプチドに富むファージディスプレイライブラリーを生成する。別の実施例では、抗体可変ドメイン(例えばVH、Vκ、Vλ)を含む提示ポリペプチドのレパートリーを含むファージディスプレイライブラリーを、最初に、所望標的抗原に結合特異性を有するレパートリーの成員を特定するためにスクリーニングする。所望結合特異性を有するポリペプチドのコレクションを回収し、そのコレクションをアンフォールド及びリフォールドして、可逆的にアンフォールドし、且つ所望結合特異性を有するポリペプチドのコレクションを回収して、可逆的にアンフォールドするポリペプチドに富むライブラリーを生成する。
別の実施例では、免疫グロブリン可変ドメインなどの対象ポリペプチドを選択し(例えばライブラリーから)、ポリペプチドのアミノ酸配列を分析して疎水性の領域を特定する。疎水性は、何らかの適切な方法、スケール又はアルゴリズムを用いて決定することができる。好ましくは、SweetとEisenbergの方法を用いて疎水性を決定する。(Sweet, R.M.とEisenberg, D., J. Mol.Biol. 171 : 479-488 (1983)。)ポリペプチド内の疎水性の領域を選択し、ポリペプチドの疎水性領域をコードする領域を標的とする配列多様性を含む核酸のコレクションを作製する。核酸のコレクションを標的領域においてランダム化するか、又はポリペプチドの選択領域の低い疎水性を生じさせる(アミノ酸置換を通して)配列多様性を導入することができる。次に核酸のコレクションを適切なベクター(例えばファージ、ファージミド)に挿入して、ライブラリーを生成することができる。そのライブラリーを適切なポリペプチドディスプレイシステムにおいて発現させることができ、ディスプレイシステム内のポリペプチドをアンフォールドし、リフォールドして、可逆的にアンフォールドするポリペプチドのコレクションを本明細書中で述べるように選択又は回収して、可逆的にアンフォールドするポリペプチドに富むライブラリーを生成することができる。
ライブラリーが対象ポリペプチドに基づくとき、配列多様化の標的となる疎水性領域は、アンフォールドしたポリペプチドの凝集に結びつく疎水性領域であることが好ましい。かかる凝集を生じやすい疎水性領域は何らかの適切な方法を用いて特定することができる。例えば疎水性領域内のアミノ酸を、より疎水性の低い残基で置換することができる(例えばTyrをAsp又はGluで置換する)。生じたポリペプチドをアンフォールドし、何らかの適切な方法を用いて凝集を評価することができる。アミノ酸置換を含むポリペプチドの凝集低下は、アミノ酸置換を含む疎水性領域が凝集を生じやすい疎水性領域であることを示す。
特定のポリペプチドのレパートリー又はライブラリーは、Kabatのアミノ酸番号付けスキームによって定義される、22位から36位まで又は26位から35位までのアミノ酸配列の疎水性を低下させる少なくとも1個のアミノ酸置換を含むVHドメイン(例えば生殖細胞系VH遺伝子セグメントを含む親VHドメインに基づく)を含む。別の特定のポリペプチドのレパートリー又はライブラリーは、22位から36位までのアミノ酸配列(Kabatのアミノ酸番号付けスキーム)の疎水性が0又はそれ以下のSweet/Eisenberg疎水性スコアを有するVHドメインを含む。好ましくは、レパートリー又はライブラリーに含まれるポリペプチドの少なくとも約1%は、22位から36位までのアミノ酸配列に関して0又はそれ以下のSweet/Eisenberg疎水性スコアを有する。より好ましくは、ポリペプチドの少なくとも約10%、又は少なくとも約20%、又は少なくとも約30%、又は少なくとも約40%、又は少なくとも約50%、又は少なくとも約60%、又は少なくとも約70%、又は少なくとも約80%、又は少なくとも約90%が、22位から36位までのアミノ酸配列に関して0又はそれ以下のSweet/Eisenberg疎水性スコアを有する。
別の特定のポリペプチドのレパートリー又はライブラリーは、Kabatのアミノ酸番号付けスキームによって定義される、44位から53位までのアミノ酸配列の疎水性を低下させる少なくとも1個のアミノ酸置換を含むVLドメイン(例えば生殖細胞系VL遺伝子セグメントを含む親VLドメインに基づく)を含む。別のポリペプチドのレパートリー又はライブラリーは、Kabatのアミノ酸番号付けスキームによって定義される、フレームワーク3(FR3)の疎水性を低下させる少なくとも1個のアミノ酸置換を含むVLドメイン(例えば生殖細胞系VL遺伝子セグメントを含む親VLドメインに基づく)を含む。本明細書中で述べるような特定残基又は領域にアミノ酸配列多様性を有する抗体可変領域を含むポリペプチドを含む他のレパートリー及びライブラリーが作製できる。
ライブラリー及びレパートリーは、本明細書中で述べるように選択又は設計される可逆的にアンフォールドするポリペプチドなどの、可逆的にアンフォールドする(例えば加熱したとき)ポリペプチドに基づきうる。一般に、アンフォールディング時にポリペプチドの不可逆的凝集を防ぐ1以上のアミノ酸残基は、可逆的にアンフォールドするアミノ酸配列又はポリペプチドにおいて特定される。かかるアミノ酸残基を本明細書中ではフォールディングゲートキーパーと称する。(実施例第16−19章参照)。フォールディングゲートキーパーは、例えば可逆的にアンフォールドし、及び共通アミノ酸配列(ポリペプチドの骨格アミノ酸配列)に基づくが、ある程度の配列多様性を含む、2以上のポリペプチドのアミノ酸配列を整列することによって特定できる。かかる整列を使用して、可逆的にアンフォールドするポリペプチドに共通する、骨格配列内のアミノ酸置換を特定することができる。骨格配列に基づくが、1以上の特定されたアミノ酸置換を含むポリペプチドを作製し、可逆的アンフォールディングに関して評価して、特定したアミノ酸残基がフォールディングゲートキーパーであることを確認することができる。フォールディングゲートキーパー残基はまた、ここで述べるヒトVHなどの所望ポリペプチドに設計することもできる。(実施例第16−19章参照)。
ライブラリーは、可逆的にアンフォールドするポリペプチドをコードする核酸のコレクション及び/又は各々のポリペプチドが共通のフォールディングゲートキーパー残基(1以上の共通フォールディングゲートキーパー残基)を含む、可逆的にアンフォールドするポリペプチドのコレクションを含みうる。例えば、本明細書中で述べるように、各々が、フォールディングゲートキーパー残基を含むヒト抗体可変ドメインをコードする異種核酸のコレクションを含むライブラリーを作製することができる。所望する場合、ライブラリーの成員は特定領域における(例えばCDRにおける)配列多様性を有しうる。一部の実施形態では、ライブラリーは、フォールディングゲートキーパー残基を含む抗体可変ドメイン(例えばVH(ヒトVH)、VL(ヒトVL))をコードする異種核酸のコレクションを含む。1つの実施形態では、ライブラリーは、CDR1、CDR1及びCDR2、又はCDR2内にフォールディングゲートキーパー残基を含む、VH(ヒトVH)をコードする異種核酸のコレクションを含む。好ましくは、かかるライブラリー中の核酸は、多様なCDR3(例えばランダム化されたCDR3)を含むVHをコードする。
ゲートキーパー残基は、本明細書中で述べる方法又は他の適切な方法を用いてCDR1及び/又はCDR2に設計することができ、それらのゲートキーパー残基を含むVHをコードする核酸を作製することができる。可逆的にアンフォールドするVHは、本明細書中で述べる方法又は他の適切な方法を用いて単離又は選択することができ、そして可逆的にアンフォールドするVHから(同じか又は異なるVH)CDR1及び/又はCDR2をコードする核酸を入手して、適切なフレームワーク領域及びCDR3をコードする1以上の核酸に連結することができる。
1つの実施形態では、核酸のライブラリーは、可逆的にアンフォールドするポリペプチドをコードし、そのライブラリーの各々の成員は、少なくとも1個のアミノ酸残基がフォールディングゲートキーパー残基で置換され、及び少なくとも1の他のアミノ酸残基が置換、付加又は欠失されている親ポリペプチドのアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする。親ポリペプチドは、本明細書中で述べるフレームワーク領域を含む抗体可変ドメインでありうる。特定実施形態では、親ポリペプチドはヒトVHであり、フォールディングゲートキーパーはCDR1に導入される。別の特定実施形態では、親ポリペプチドはヒトVLであり、フォールディングゲートキーパーはFR2−CDR2領域に導入される。
別の実施形態では、核酸のライブラリーは、可逆的にアンフォールドする抗体可変ドメインをコードし、ライブラリーの各々の成員は、可変ドメインのCDR1及び場合によりCDR2、又は可逆的にアンフォールドする抗体可変ドメインをコードする第一核酸を含み、前記第一核酸は、CDR1及び場合によりCDR2が前記第一核酸によってコードされる抗体可変ドメインをコードする構築物を生成するように1以上の他の核酸に作動可能に連結されている。所望する場合、ライブラリーの成員は、CDR3が多様化されている(例えば標的位置において)又はランダム化されている(例えばCDR3配列全体にわたって及び/又は種々の長さのCDR3を有する)抗体可変ドメインをコードする。
所望するタイプのポリペプチドのレパートリーをコードするライブラリーは、何らかの適切な方法を用いて容易に作製することができる。例えば所望タイプのポリペプチド(例えばポリメラーゼ、免疫グロブリン可変ドメイン)をコードする核酸配列を入手し、例えばエラープローンポリメラーゼ連鎖反応(PCR)システムを用いて核酸を増幅することによって、化学的突然変異誘発によって(Dengら、J. Biol. Chem., 269: 9533 (1994))又は細菌ミューテーター株を使用して(Lowら、 J.Mol. Biol., 260 : 359 (1996))、各々が1以上の突然変異を含む核酸のコレクションを作製することができる。
他の実施形態では、多様化のために核酸の特定領域を標的することができる。選択位置を突然変異を起こさせるための方法も当技術分野において周知であり、例えばPCRの使用を伴う又は伴わない、ミスマッチオリゴヌクレオチド又は縮重オリゴヌクレオチドの使用を含む。例えば合成抗体ライブラリーは、突然変異を抗原結合ループに標的することによって創造された。ランダム又はセミランダムな抗体H3及びL3領域を生殖細胞系免疫グロブリンV遺伝子セグメントに付加して、非突然変異フレームワーク領域を有する大きなライブラリーが生成された(HoogenboomとWinter (1992)前出; Nissimら(1994)前出; Griffithsら(1994)前出; DeKruifら(1995)前出)。かかる多様化は、他の抗原結合ループの一部又は全部を含むように拡大された(Crameriら(1996) Nature Med., 2: 100; Riechmannら(1995) Bio/Technology, 13: 475; Morphosys, 国際公開公報第97/08320号、前出)。他の実施形態では、例えば1回目のPCRの産物を「メガプライマー」として使用する2段階PCR方法によって、核酸の特定領域を多様化のために標的することができる。(例えばLandt,0.ら、Gene 96 : 125-128 (1990)参照。)標的多様化はまた、例えばSOE PCRによっても達成することができる(例えばHorton, R. M.ら、Gene 77 : 61-68 (1989)参照。)
ここで述べるように、選択位置の配列多様性は、可能なアミノ酸の数(例えば20個全部又はそのサブセット)をその位置に組み込むことができるように、ポリペプチドの配列を規定するコード配列を変化させることによって達成できる。IUPAC命名法を使用すると、最も用途の広い(versatile)コドンは、すべてのアミノ酸並びにTAG終結コドンをコードするNNKである。NNKコドンは、好ましくは必要な多様性を導入するために使用される。付加的な終結コドンTGA及びTAAの生成を導くNNNコドンを含む、同じ目的を達成する他のコドンも有用である。そのような標的アプローチは、標的領域内の完全な配列スペースを探索することを可能にしうる。
可逆的にアンフォールドするポリペプチドの好ましいライブラリーは、免疫グロブリンスーパーファミリーの成員であるポリペプチド(例えば抗体又はその部分)を含む。例えばライブラリーは、可逆的にアンフォールドし、且つ既知の主鎖高次構造を有する抗体ポリペプチドを含みうる。(例えばTomlinsonら、国際公開公報第99/20749号参照。)
ライブラリーは適切なプラスミド又はベクターにおいて作製することができる。本明細書中で使用する、ベクターは、その発現及び/又は複製のために異種DNAを細胞に導入するために使用される別個のエレメントを指す。プラスミド(例えば細菌プラスミド)、ウイルス又はバクテリオファージベクター、人工染色体及びエピソームベクターを含む、いかなる適切なベクターも使用できる。かかるベクターは簡単なクローニング及び突然変異誘発のために使用でき、又は発現ベクターは、ライブラリーの発現を駆動するために使用できる。ベクター及びプラスミドは通常、1以上のクローニング部位(例えばポリリンカー)、複製起点及び少なくとも1個の選択マーカー遺伝子を含む。発現ベクターは、エンハンサーエレメント、プロモーター、転写終結シグナル、シグナル配列等のような、ポリペプチドの転写及び翻訳を推進するためのエレメントをさらに含みうる。これらのエレメントは、ポリペプチドをコードするクローン化されたインサートに作動可能に連結されるように配置されているので、かかる発現ベクターが発現のための適切な条件下に維持されるとき(例えば適切な宿主細胞において)、ポリペプチドが発現され、産生される。
クローニング及び発現ベクターは一般に、ベクターが1以上の選択宿主細胞において複製することを可能にする核酸配列を含む。典型的にはクローニングベクターでは、この配列は、ベクターが宿主染色体DNAとは独立して複製することを可能にし、複製起点又は自律複製配列を含むものである。かかる配列は様々な細菌、酵母及びウイルスにおいて周知である。プラスミドpBR322からの複製起点は大部分のグラム陰性細菌に適し、2ミクロンのプラスミド起点は酵母に適し、様々なウイルス起点(例えばSV40、アデノウイルス)は、哺乳動物細胞においてベクターをクローニングするために有用である。一般に、複製起点は、これらがCOS細胞などの高レベルのDNAを複製することができる哺乳動物細胞において使用されるのでない限り、哺乳動物発現ベクターのためには必要でない。
クローニング又は発現ベクターは、選択マーカーとも称される選択遺伝子を含みうる。かかるマーカー遺伝子は、選択培地で増殖される形質転換宿主細胞の生存又は増殖のために必要なタンパク質をコードする。選択遺伝子を含むベクターで形質転換されていない宿主細胞は、それ故、この培地で生存できない。典型的な選択遺伝子は、抗生物質及び他の毒素、例えばアンピシリン、ネオマイシン、メトトレキサート又はテトラサイクリンに対する耐性を与える、栄養要求性欠損を補う、又は増殖培地中では得られない必須栄養素を供給するタンパク質をコードする。
適切な発現ベクターは、多くの構成要素、例えば複製起点、選択マーカー遺伝子、転写調節エレメント(例えばプロモーター、エンハンサー、ターミネーター)及び/又は1以上の翻訳シグナルなどの1以上の発現調節エレメント、シグナル配列又はリーダー配列等を含みうる。発現調節エレメント及びシグナル又はリーダー配列は、存在する場合、ベクター又は他のソースによって提供されうる。例えば、抗体鎖をコードするクローン化された核酸の転写及び/又は翻訳調節配列を使用して発現を指令することができる。
所望宿主細胞における発現のためにプロモーターを提供することができる。プロモーターは構成的又は誘導的でありうる。例えば、プロモーターは、核酸の転写を指令するように、抗体、抗体鎖又はその部分をコードする核酸に作動可能に連結されうる。原核生物(例えばβ−ラクタマーゼ及びラクトースプロモーター系、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系、大腸菌についてのlac、tac、T3、T7プロモーター)及び真核生物(例えばシミアンウイルス40初期又は後期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスロングターミナルリピートプロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、アデノウイルス後期プロモーター、EG−1aプロモーター)宿主に関して種々の適切なプロモーターが入手可能である。
加えて、発現ベクターは、典型的には、ベクターを担持する宿主細胞の選択のための選択マーカー及び、複製可能な発現ベクターの場合は、複製起点を含む。抗生作用又は薬剤耐性を付与する生成物をコードする遺伝子は共通選択マーカーであり、原核細胞(例えばβ−ラクタマーゼ遺伝子(アンピシリン耐性)、テトラサイクリン耐性のためのTet遺伝子)及び真核細胞(例えばネオマイシン(G418又はゲネチシン)、gpt(ミコフェノール酸)、アンピシリン又はヒグロマイシン耐性遺伝子)において使用しうる。ジヒドロ葉酸レダクターゼマーカー遺伝子は、様々な宿主においてメトトレキサートに関する選択を可能にする。宿主の栄養要求性マーカーの遺伝子産物をコードする遺伝子(例えばLEU2、URA3、HIS3)は、しばしば酵母における選択マーカーとして使用される。ウイルス(例えばバキュロウイルス)又はファージベクター、及びレトロウイルスベクターなどの宿主細胞のゲノムに組み込むことができるベクターの使用も考慮される。
原核細胞(例えば大腸菌などの細菌細胞)又は哺乳動物細胞における発現のための適切な発現ベクターは、例えばpETベクター(例えばpET−12a、pET−36、pET−37、pET−39、pET−40、Novagenその他)、ファージベクター(例えばpCANTAB 5 E、Pharmacia)、pRIT2T(プロテインA融合ベクター、Pharamacia)、pCDM8、pCDNA1.1/amp、pcDNA3.1、pRc/RSV、pEF−1(Invitrogen, Carlsbad, CA)、pCMV−SCRIPT、pFB、pSG5、pXT1(Staratagene, La Jolla, CA)、pCDEF3(Goldman, L.A.ら、Biotechniques, 21 : 1013-1015 (1996))、pSVSPORT(GibcoBRL, Rockville,MD)、pEF-Bos(Mizushima, S.ら、Nucleic Acids Res., 18 : 5322 (1990))等を含む。原核細胞(大腸菌)、昆虫細胞(ショウジョウバエのシュナイダー S2細胞、Sf9)及び酵母(P.methanolica、P.pastoris、S.cerevisiae)及び哺乳動物細胞(例えばCOS細胞)などの様々な発現宿主における使用に適した発現ベクターが入手可能である。
好ましいベクターは、ポリペプチドライブラリー成員に対応するヌクレオチド配列の発現を可能にする発現ベクターである。それ故、一般及び/又は標的リガンドに関する選択は、ポリペプチドライブラリー成員を発現する単一クローンの別々の増殖及び発現によって実施することができる。前述したように、好ましい選択ディスプレイシステムはバクテリオファージディスプレイである。そこで、ファージ又はファージミドベクターが使用できる。好ましいベクターは、大腸菌の複製起点(二本鎖複製のため)及び同時にファージの複製起点(一本鎖DNAの生成のため)も有するファージミドベクターである。かかるベクターの操作及び発現は当技術分野において周知である(HoogenboomとWinter (1992) 前出;Nissimら(1994)前出)。簡単に述べると、ベクターは、ファージミドに選択性を与えるβ−ラクタマーゼ遺伝子及び適切なリーダー配列(例えばpelBリーダー配列)、マルチクローニングサイト、1又はそれ以上のペプチドタグ、1以上のTAG終結コドン及びファージタンパク質pIIIを含みうる発現カセットの上流にlacプロモーターを含みうる。そこで、大腸菌の様々なサプレッサー及び非サプレッサー株を使用し、及びグルコース、イソプロピルチオ−β−D−ガラクトシド(IPTG)又はVCS M13などのヘルパーファージを添加すると、ベクターは、発現を伴わずにプラスミドとして複製することができ、大量のポリペプチドライブラリー成員だけを又は、その一部がそれらの表面に少なくとも1コピーのポリペプチド−pIII融合を含む、生成物ファージを産生する。
本発明のライブラリー及びレパートリーは、抗体形式を含みうる。例えばライブラリー及びレパートリー中に含まれるポリペプチドは、全抗体又は、Fab、F(ab’)2、Fv又はscFvフラグメントなどのそのフラグメント、別個のVH又はVLドメインであり得、それらはいずれも修飾されているか又は修飾されていない。scFvフラグメント並びに他の抗体ポリペプチドは、何らかの適切な方法を用いて容易に生産することができる。多くの適切な抗体作製方法が当技術分野において周知である。例えばscFvは、2つの可変ドメインをコードする核酸を、(Gly−Gly−Gly−Gly−Ser)3などの適切なリンカーペプチド又は他の適切なリンカーペプチドをコードする適切なオリゴヌクレオチドと連結することによって形成できる。リンカーは、第一V領域のC末端と第二V領域のN末端を架橋する。Fv、Fab及びF(ab’)2フラグメントなどの他の抗体形式の構築のための同様の手法。Fab及びF(ab’)2フラグメントを形成するためには、VH及びVLポリペプチドを、再編成された遺伝子、生殖細胞系C遺伝子から単離しうる又は抗体配列データから合成しうる、定常領域セグメントと結合することができる。本発明に従ったライブラリー又はレパートリーは、VH又はVLライブラリー又はレパートリーでありうる。
特定実施形態では、ライブラリー及びレパートリーは、可逆的にアンフォールドする免疫グロブリン可変ドメイン(例えばVH、VL)を含む。可変ドメインは、生殖細胞系配列(例えばDP47ダミー(配列番号3)、DPK9ダミー(配列番号6))に基づくことができ、所望する場合は、相補性決定領域などの1又はそれ以上の多様化領域を有しうる。
可変ドメインの1又はそれ以上のフレームワーク領域(FR)は、(a)ヒトフレームワーク領域のアミノ酸配列、(b)ヒトフレームワーク領域のアミノ酸配列の少なくとも8個の隣接アミノ酸、又は(c)ヒト生殖細胞系抗体遺伝子セグメントによってコードされるアミノ酸配列を含むことができ、前記フレームワーク領域はKabatによって定義される通りである。一部の実施形態では、1又はそれ以上のフレームワーク領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系抗体遺伝子セグメントによってコードされる対応フレームワーク領域のアミノ酸配列と同じであるか、若しくは1又はそれ以上の前記フレームワーク領域のアミノ酸配列は、集合的に、ヒト生殖細胞系抗体遺伝子セグメントによってコードされる前記対応フレームワーク領域のアミノ酸配列に比べて5個までのアミノ酸相違を含む。
他の実施形態では、FR1、FR2、FR3及びFR4のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系抗体遺伝子セグメントによってコードされる対応フレームワーク領域のアミノ酸配列と同じであるか、若しくはFR1、FR2、FR3及びFR4のアミノ酸配列は、集合的に、前記ヒト生殖細胞系抗体遺伝子セグメントによってコードされる対応フレームワーク領域のアミノ酸配列に比べて10個までのアミノ酸相違を含む。他の実施形態では、前記FR1、FR2及びFR3のアミノ酸配列は、前記ヒト生殖細胞系抗体遺伝子セグメントによってコードされる対応フレームワーク領域のアミノ酸配列と同じである。
可逆的にアンフォールドする可変ドメインを含むポリペプチドは、好ましくは標的リガンド結合部位及び/又は一般リガンド結合部位を含む。一部の実施形態では、一般リガンド結合部位は、プロテインA、プロテインL又はプロテインGなどのスーパー抗原についての結合部位である。
前記可変ドメインは、何らかの所望可変ドメイン、例えばヒトVH(例えばVH1a、VH1b、VH2、VH3、VH4、VH5、VH6)、ヒトVλ(例えばVλI、VλII、VλIII、VλIV、VλV又はVλVI)又はヒトVκ(例えばVκ1、Vκ2、Vκ3、Vκ4、Vκ5、Vκ6、Vκ7、Vκ8、Vκ9又はVκ10)に基づきうる。好ましくは、可変ドメインは、VHHなどのラクダ(Camelid)免疫グロブリンドメインではないか、若しくは生殖細胞系配列によってコードされるラクダ免疫グロブリン可変ドメインにユニークであるが、例えばヒト免疫グロブリン可変ドメインにはユニークでない1又はそれ以上のアミノ酸(例えばフレームワークアミノ酸)を含む。(例えばDaviesら、Protein Engineering 9 : 531-537 (1996); Tanhaら、J. Biol, Chem, 276 ; 24774- 24780 (2001); Riechmannら、J. Immunol. Methods 23:25-38 (1999)参照)。1つの実施形態では、可逆的にアンフォールドするVHは、ネズミ(例えばマウス)生殖細胞系フレームワーク領域にユニークである1又はそれ以上のアミノ酸を含まない。好ましくは、前記可変ドメインは加熱して冷却したとき可逆的にアンフォールドする。
可変ドメインを含む単離ポリペプチドは、抗体形式でありうる。そこで、一部の実施形態では、可逆的にアンフォールドする可変ドメインを含む単離ポリペプチドは、可変ドメインのホモ二量体、可変ドメインを含むヘテロ二量体、Fv、scFv、ジスルフィド結合Fv、Fab、単一可変ドメイン又は免疫グロブリンのFc部分に融合した可変ドメインでありうる。
ポリペプチド
1つの局面では、本発明は、可逆的にアンフォールドする単離ポリペプチドである。ここで述べるように、そのようなポリペプチドは大腸菌において発現させることができ、高収率で回収できる。ここで述べるように、好ましい実施形態では、可逆的にアンフォールドする(例えば加熱したとき)ポリペプチドは、大腸菌で発現されたとき分泌され、可溶性ポリペプチドとして容易に回収される。そのようなポリペプチドは、大腸菌で発現されるとき分泌可能とも称される。好ましい実施形態では、可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、大腸菌で発現されるとき少なくとも約0.5mg/Lの量で分泌される。他の好ましい実施形態では、可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、大腸菌で発現されるとき少なくとも約0.75mg/L、少なくとも約1mg/L、少なくとも約4mg/L、少なくとも約5mg/L、少なくとも約10mg/L、少なくとも約15mg/L、少なくとも約20mg/L、少なくとも約25mg/L、少なくとも約30mg/L、少なくとも約35mg/L、少なくとも約40mg/L、少なくとも約45mg/L、少なくとも約50mg/L、少なくとも約100mg/L、少なくとも約200mg/L、少なくとも約300mg/L、少なくとも約400mg/L、少なくとも約500mg/L、少なくとも約600mg/L、少なくとも約700mg/L、少なくとも約800mg/L、少なくとも約900mg/L、少なくとも約1g/Lの量で分泌される。他の好ましい実施形態では、可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、大腸菌で発現されるとき少なくとも約1mg/Lから少なくとも約1g/L、少なくとも約1mg/Lから少なくとも約750mg/L、少なくとも約100mg/Lから少なくとも約1g/L、少なくとも約200mg/Lから少なくとも約1g/L、少なくとも約300mg/Lから少なくとも約1g/L、少なくとも約400mg/Lから少なくとも約1g/L、少なくとも約600mg/Lから少なくとも約1g/L、少なくとも約700mg/Lから少なくとも約1g/L、少なくとも約800mg/Lから少なくとも約1g/L、少なくとも約900mg/Lから少なくとも約1g/Lの量で発現される。ここで述べるポリペプチドは大腸菌において発現されるとき分泌可能でありうるが、それらは、化学合成法又は大腸菌を使用しない生物学的生産方法などの何らかの適切な方法を用いて生産することができる。特に好ましい実施形態では、可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、ヒト抗体可変ドメイン(VH、VL)であるか又は可逆的にアンフォールドするヒト抗体可変ドメインを含む。
一部の実施形態では、可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、アミノ酸配列において親ペプチドとは異なるが(例えば1又はそれ以上のアミノ酸置換、付加及び/又は欠失によって)、定性的に親ポリペプチドの機能を保持する、親ポリペプチドの変異体である。好ましくは、可逆的にアンフォールドする変異体ポリペプチドの活性は、親ポリペプチドの活性の少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、又は基本的に親ポリペプチドの活性と同じである。例えば親ポリペプチドが酵素である場合、その変異体ポリペプチドは、親酵素とは異なる(例えば1〜約10個のアミノ酸置換、欠失及び/又は挿入によって)アミノ酸配列を有しうるが、親酵素の触媒活性を保持する。好ましくは、可逆的にアンフォールドする変異体酵素は、親酵素の触媒速度定数(catalytic rate constant)の少なくとも約25%の触媒速度定数によって特徴付けられる。
可逆的にアンフォールドする変異体ポリペプチドは、何らかの所望親ポリペプチドを用いて作製することができる。例えば可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、酵素、プロテインA、プロテインL、フィブロネクチン、アンチカリン、CTLA4のドメイン、若しくは抗体又は抗体フラグメントなどの免疫グロブリンスーパーファミリーのポリペプチドから選択される骨格に基づく親ポリペプチドを使用して作製できる。
親ポリペプチドは、それぞれ生殖細胞系V、D又はJセグメントによってコードされるV及び/又はD(ポリペプチドはVHドメインを含む)及び/又はJセグメント配列、若しくは天然に起こる又は人工的突然変異(例えば体細胞突然変異又は他のプロセス)から生じる配列を含みうる。例えば親ポリペプチドは、生殖細胞系遺伝子セグメントによってコードされる、又はV(D)J組換えの間のヌクレオチド(例えばNヌクレオチド、Pヌクレオチド)の挿入及び/又は欠失から及び/又は親和性成熟の間に起こる突然変異から生じる、アミノ酸配列を有する親免疫グロブリン可変ドメインでありうる。同様に、親ポリペプチドは、生殖細胞系によってコードされる又は天然に起こる若しくは人工的突然変異(例えば体細胞突然変異)から生じるアミノ酸配列を有する親酵素でありうる。
可逆的にアンフォールドする変異体ポリペプチドは、何らかの適切な方法を用いて作製することができる。例えば親ポリペプチドのアミノ酸配列を特定位置で変化させて(抗体可変ドメインポリペプチドに関してここで述べるように)、可逆的にアンフォールドする変異体ポリペプチドを生産することができる。可逆的にアンフォールドする変異体ポリペプチドはまた、例えば親ポリペプチドをコードする核酸を提供し、親ポリペプチドの変異体をコードする核酸のライブラリーを作製して(例えばエラープローンPCR又は他の適切な方法によって)、そのライブラリーを適切なポリペプチドディスプレイシステムにおいて発現することによっても生産できる。可逆的にアンフォールドし、親ポリペプチドの所望機能を保持する変異体ポリペプチドは、ここで述べる方法又は他の適切な方法を用いてそのようなポリペプチドディスプレイシステムから選択し、単離することができる。
可逆的にアンフォールドするVドメインを含むポリペプチド
好ましい実施形態では、単離ポリペプチドは、可逆的にアンフォールドする免疫グロブリン可変ドメイン(例えばVH、変異VH、VL及び/又は変異VL)を含む。一部の実施形態では、単離ポリペプチドは、可逆的にアンフォールドする変異VH及び/又は変異VLを含む。好ましくは、可逆的にアンフォールドする可変ドメイン(例えばVH、変異VH、VL、変異VL)は、標的リガンドに対する結合特異性を有し、適切な解離定数(Kd)と適切なオフ定数(Koff)で標的リガンドに結合する。適切なKdは、約50nMから約20pM又はそれ以下、例えば約50nM、約1nM、約900pM、約800pM、約700pM、約600pM、約500pM、約400pM、約300pM、約200pM、約100pM又は約20pM又はそれ以下でありうる。適切なKoffは、約1×10−1/秒から約1×10−7/秒又はそれ以下、例えば約1×10−1/秒、約1×10−2/秒、約1×10−3/秒、約1×10−4/秒、約1×10−5/秒、約1×10−6/秒又は約1×10−1/秒又はそれ以下でありうる。好ましくは、表面プラスモン共鳴を用いてKd及びKoffを決定する。
一部の実施形態では、単離ポリペプチドは、可逆的にアンフォールドするVH(例えば変異VH)を含む。一部の実施形態では、可逆的にアンフォールドする変異VHのアミノ酸配列は、22位から36位までの少なくとも1個のアミノ酸によって親VHのアミノ酸配列と異なるか、又はH1ループ内の少なくとも1個のアミノ酸によって親VHのアミノ酸配列と異なる。VHのアミノ酸位置及びCDR(H1、H2及びH3)及びフレームワーク領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)は、Kabat、Chothia又はAbMのシステムなどの、何らかの適切なシステムを用いて定義することができる。好ましくは、22位から36位までをKabatのアミノ酸番号付けシステムに従って定義し、H1ループをAbMソフトウエアパッケージ(抗体分析及び構造モデリングソフトウエア;Oxford Molecular)において使用されるアミノ酸番号付けシステムに従って定義する。VHのアミノ酸配列は、親VHに比べて22位から36位までに少なくとも1個のアミノ酸置換を含みうる。
一部の実施形態では、可逆的にアンフォールドするVHのアミノ酸配列は、22位から36位までに少なくとも1個のPro又はGly残基を含む。他の実施形態では、可逆的にアンフォールドする変異VHのアミノ酸配列は、H1ループ内に少なくとも1個のPro又はGly残基を含む。一部の実施形態では、可逆的にアンフォールドする変異VHのアミノ酸配列は、親VHのアミノ酸配列に比べて22位から36位までに少なくとも1個のPro又はGly置換を含む。他の実施形態では、可逆的にアンフォールドする変異VHのアミノ酸配列は、親VHのアミノ酸配列に比べてH1ループ内に少なくとも1個のPro又はGly置換を含む。特定実施形態では、可逆的にアンフォールドする変異VHは、29位の親アミノ酸残基がPro又はGlyで置換されているアミノ酸配列を含む。
他の実施形態では、可逆的にアンフォールドする変異VHは、変異VHの22位から36位までのアミノ酸配列の疎水性が親VHに比べて低下するように、親VHアミノ酸配列に比べて22位から36位までに少なくとも1個のアミノ酸置換を含む。疎水性は、何らかの適切なスケール又はアルゴリズムを用いて測定することができる。好ましくは、疎水性はSweetとEisenbergの方法を用いて決定され、変異VHの22位から36位までのアミノ酸配列のSweetとEisenbergの疎水性スコア(S/Eスコア)は、親VHに比べて低下している。S/E法は、9〜18アミノ酸のウインドウ(例えば9、10、11、12、13、14、15、16、17又は18アミノ酸のウインドウ)を使用することができる。好ましくは、VHに関しては15アミノ酸ウインドウを使用する。
一部の実施形態では、変異VHの22位から36位までのアミノ酸配列のS/Eスコアは、0.15以下、若しくは小数第一位に切り上げたS/Eスコアに関して0.1又はそれ以下、又は0.09以下、又は0.08以下、又は0.07以下、又は0.06それ以下、又は0.05以下、又は0.04以下である。好ましい実施形態では、変異VHの22位から36位までのアミノ酸配列のS/Eスコアは、0.03以下、0.02以下、又は0.01以下である。より好ましい実施形態では、変異VHの22位から36位までのアミノ酸配列のS/Eスコアは、0以下である。
親VHに比べて22位から36位までの低いS/Eスコアを有するVH変異体を作製することは、いくつかの利点を備えたポリペプチドを生じうる。例えば22位から36位までのより低いS/Eスコアは、凝集に対する抵抗性及び発現系(例えば細菌発現系)からの収率上昇と相関すると判定された。VHドメインが高タンパク質濃度で凝集に抵抗する能力は、低いS/Eスコアに結びつく。それ故、親VH ドメインのS/Eスコアより低い22位から36位までのS/Eスコアを有する変異VHドメインは凝集に対する抵抗性増強を発揮することができ、この領域のS/Eスコアを0又はそれ以下に低下させることは、高タンパク質濃度で(例えば約200μM)卓越した凝集抵抗性を有する変異VHドメインを生成しうる。
他の実施形態では、可逆的にアンフォールドするVHは、0.15以下、又は0.1以下、又は0.09以下、又は0.08以下、又は0.07以下、又は0.06以下、又は0.05以下、又は0.04以下のS/Eスコアを有する22位から36位までのアミノ酸配列を含む。好ましい実施形態では、可逆的にアンフォールドするVHは、0.03以下、0.02以下、又は0.01以下のS/Eスコアを有する22位から36位までのアミノ酸配列を含む。より好ましい実施形態では、可逆的にアンフォールドするVHは、0以下のS/Eスコアを有する22位から36位までのアミノ酸配列を含む。
もう1つの実施形態では、変異VHのアミノ酸配列は、H1ループ内の少なくとも1個のアミノ酸によって親VHのアミノ酸配列と異なる。好ましくは、変異VHは、H1ループの疎水性が親VHのH1ループに比べて低くなるように、H1ループ内に少なくとも1個のアミノ酸置換を含む。好ましくは、変異VHのH1ループのアミノ酸配列のS/Eスコアは、0以下である。
他の実施形態では、可逆的にアンフォールドするVHは、0又はそれ以下のS/Eスコアを有するH1ループを含む。
特定実施形態では、可逆的にアンフォールドするVHは、27、29、30、31、32、33及び35位(Kabatの番号付け)の親アミノ酸残基の1又はそれ以上が、表1に示す別のアミノ酸残基で置換されているアミノ酸配列を含む。
可逆的にアンフォールドするVH(例えば変異VH)のアミノ酸配列は、表1に示すアミノ酸置換のいずれか又はいかなる組合せも含むことができ、所望する場合、可逆的にアンフォールドする変異VHは、親の22位から親の26位まで、親の28位及び親の36位(Kabatの番号付け)における1又はそれ以上のアミノ酸残基の置換によって親VH とさらに異なりうる。
より特定の実施形態では、可逆的にアンフォールドする変異VHは、27位の親アミノ酸残基がAsp又はGluで置換されている;29位の親アミノ酸残基がAsp、Glu、Pro又はGlyで置換されている;及び/又は32位の親アミノ酸残基がAsp又はGluで置換されている(Kabatの番号付け)、アミノ酸配列を含む。1つのそのような実施形態では、可逆的にアンフォールドする変異VHは、27位の親アミノ酸残基がAspで置換されている;29位の親アミノ酸残基がAsp、Pro又はGlyで置換されている;及び/又は32位の親アミノ酸残基がGluで置換されている(Kabatの番号付け)、アミノ酸配列を含む。
特定実施形態では、可逆的にアンフォールドする変異VHは、27位の親アミノ酸残基がAspで置換されている;29位の親アミノ酸残基がValで置換されている;及び/又は32位の親アミノ酸残基がAsp又はGluで置換されている;及び35位の親残基がGlyで置換されている(Kabatの番号付け)、アミノ酸配列を含む。
好ましい実施形態では、可逆的にアンフォールドする変異VHは、27位の親アミノ酸残基がAspで置換されている及び/又は32位の親アミノ酸残基がAspで置換されている(Kabatの番号付け)アミノ酸配列を含む。所望する場合、可逆的にアンフォールドする変異VHは、ここで述べるように22〜26位、28〜31位及び33〜36位(Kabatの番号付け)の1以上において、例えばこれらの領域の1又はそれ以上のS/Eスコアを0以下にするために、親配列に比べてアミノ酸置換をさらに含みうる。
可逆的にアンフォールドするVH又は変異VHの1又はそれ以上のフレームワーク領域(FR)は、(a)ヒトフレームワーク領域のアミノ酸配列、(b)ヒトフレームワーク領域のアミノ酸配列の少なくとも8個の隣接アミノ酸、又は(c)ヒト生殖細胞系抗体遺伝子セグメントによってコードされるアミノ酸配列、を含むことができ、前記フレームワーク領域はKabatによって定義される通りである。一部の実施形態では、1又はそれ以上のフレームワーク領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系抗体遺伝子セグメントによってコードされる対応フレームワーク領域のアミノ酸配列と同じであるか、又は1以上の前記フレームワーク領域のアミノ酸配列は、集合的に、ヒト生殖細胞系抗体遺伝子セグメントによってコードされる前記対応フレームワーク領域のアミノ酸配列に比べて5個までのアミノ酸相違を含む。
他の実施形態では、FR1、FR2、FR3及びFR4のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系抗体遺伝子セグメントによってコードされる対応フレームワーク領域のアミノ酸配列と同じであるか、若しくはFR1、FR2、FR3及びFR4のアミノ酸配列は、集合的に、前記ヒト生殖細胞系抗体遺伝子セグメントによってコードされる対応フレームワーク領域のアミノ酸配列に比べて10個までのアミノ酸相違を含む。他の実施形態では、前記FR1、FR2及びFR3のアミノ酸配列は、前記ヒト生殖細胞系抗体遺伝子セグメントによってコードされる対応フレームワーク領域のアミノ酸配列と同じである。例えば変異VLは、ヒトDP47ダミー(配列番号3)の変異体でありうる。
可逆的にアンフォールドするVH(例えば変異VH)を含む単離ポリペプチドは、標的リガンド結合部位及び/又は一般リガンド結合部位を含む。一部の実施形態では、一般リガンド結合部位は、プロテインA、プロテインL又はプロテインGなどのスーパー抗原についての結合部位である。
可逆的にアンフォールドするVHは、何らかの所望親VH、例えばヒトVH(例えばVH1a、VH1b、VH2、VH3、VH4、VH5、VH6)に基づきうる。好ましくは、可逆的にアンフォールドするVHは、VHHなどのラクダ免疫グロブリンドメインではないか、若しくは生殖細胞系配列によってコードされるラクダ免疫グロブリン可変ドメインにユニークであるが、例えばヒト免疫グロブリン可変ドメインにはユニークでない1又はそれ以上のアミノ酸(例えばフレームワークアミノ酸)を含まない。(例えばDaviesら、Protein Engineering 9 : 531-537 (1996); Tanhaら、J. Biol, Chem, 276 ; 24774- 24780 (2001); Riechmannら、J. Immunol. Methods 23:25-38 (1999)参照)。1つの実施形態では、可逆的にアンフォールドするVHは、ネズミ(例えばマウス)生殖細胞系フレームワーク領域にユニークである1又はそれ以上のアミノ酸を含まない。好ましくは、前記VHは加熱して冷却したとき可逆的にアンフォールドする。
可逆的にアンフォールドするVH(例えば変異VH)を含む単離ポリペプチドは、抗体形式でありうる。そこで、一部の実施形態では、可逆的にアンフォールドするVHを含む単離ポリペプチドは、VHのホモ二量体、VHを含むヘテロ二量体、Fv、scFv、ジスルフィド結合Fv、Fab、VH又は免疫グロブリンのFc部分に融合したVHでありうる。
本発明はまた、可逆的にアンフォールドする免疫グロブリンL鎖可変ドメイン(VL)(例えば変異VL)を含む単離ポリペプチドに関する。1つの実施形態では、単離ポリペプチドは、可逆的にアンフォールドするVLを含み、及び0.23未満のSweet/Eisenberg疎水性スコア(S/Eスコア)を有する44位から53位までのアミノ酸配列を含む。他の実施形態では、44位から53位についてのS/Eスコアは、0.2未満、0.17未満、015未満、0.13未満、0.10未満又は−0.1未満でありうる。S/E法は、9〜18アミノ酸のウインドウ(例えば9、10、11、12、13、14、15、16、17又は18アミノ酸のウインドウ)を使用することができる。好ましくは、VLに関しては11アミノ酸ウインドウを使用する。VLのアミノ酸位置及びCDR(L1、L2及びL3)及びフレームワーク領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)は、Kabat、Chothia又はAbMのシステムなどの、何らかの適切なシステムを用いて定義することができる。好ましくは、アミノ酸位置及びCDR及びフレームワーク領域はKabatのアミノ酸番号付けシステムに従う。他の実施形態では、可逆的にアンフォールドするVLは、0.35未満のSweet/Eisenberg疎水性スコア(S/Eスコア)を有するFR3をさらに含み、FR3はKabatのアミノ酸番号付けシステムによって定義される通りである。他の実施形態では、FR3についてのS/Eスコアは、0.3未満、0.25未満、0.2未満、0.17未満、0.15未満、0.13未満、0.10未満又は−0.1未満又はそれ以下でありうる。
一部の実施形態では、単離ポリペプチドは可逆的にアンフォールドする変異VLを含む。一部の実施形態では、可逆的にアンフォールドする変異VLのアミノ酸配列は、変異VLが、44位から53位までの少なくとも1個のアミノ酸残基が前記変異VLの44位から53位までのアミノ酸配列のSweet/Eisenberg疎水性スコア(S/Eスコア)が0.23未満になるように置換されている親VLのアミノ酸配列を含むように、前記変異VLの44位から53位までの少なくとも1個のアミノ酸によって親VLのアミノ酸配列と異なっている。可逆的にアンフォールドする変異VLのアミノ酸配列は、親VLに比べて44位から53位までに少なくとも1個のアミノ酸置換を含みうる。他の実施形態では、可逆的にアンフォールドする変異VLのアミノ酸配列は、前記変異VLのFR3内の少なくとも1個のアミノ酸によって親VLのアミノ酸配列とさらに異なる。これらの実施形態では、可逆的にアンフォールドするVLは、少なくとも1個のアミノ酸残基が、前記変異VLのFR3のSweet/Eisenberg疎水性スコア(S/Eスコア)が0.35未満になるように置換されている、親VLFR3のアミノ酸配列を有するFR3を含む。
他の実施形態では、可逆的にアンフォールドする変異VLのアミノ酸配列は、変異VLが、FR3内の少なくとも1個のアミノ酸残基が前記変異VLのFReのアミノ酸配列のSweet/Eisenberg疎水性スコア(S/Eスコア)が0.35未満になるように置換されている親VLのアミノ酸配列を含むように、前記変異VLのFR3内の少なくとも1個のアミノ酸によって親VLのアミノ酸配列と異なっている。例えば可逆的にアンフォールドする変異VLのアミノ酸配列は、変異VLが、73位から76位までの少なくとも1個のアミノ酸残基が前記変異VLのFR3のアミノ酸配列のSweet/Eisenberg疎水性スコア(S/Eスコア)が0.35未満になるように置換されている親VLのアミノ酸配列を含むように、前記変異VLの73位から76位までの少なくとも1個のアミノ酸によって親VLのアミノ酸配列と異なりうる。
特定実施形態では、可逆的にアンフォールドするVLは、10、13、20、23、26、27、29、31、32、35、36、39、40、42、45、46、47、48、49、50、57、59、60、68、75、79、80、83、89、90及び92位(Kabatの番号付け)の1以上のアミノ酸残基が表2に示す別のアミノ酸残基で置換されているアミノ酸配列を含む。例えば可逆的にアンフォールドする単離VLが変異VLであるとき、その可逆的にアンフォールドする単離VLは、10、13、20、23、26、27、29、31、32、35、36、39、40、42、45、46、47、48、49、50、57、59、60、68、75、79、80、83、89、90及び92位(Kabatの番号付け)の1又はそれ以上の親アミノ酸残基が表2に示す別のアミノ酸残基で置換されているアミノ酸配列を含みうる。
可逆的にアンフォールドするVL又は変異VLのアミノ酸配列は、表2に示すアミノ酸置換のいずれか又はいかなる組合せも含むことができ、所望する場合は、親の26位のアミノ酸残基のAsnによる置換及び/又は親の89位のアミノ酸残基のArgによる置換(Kabatの番号付け)によって親VLとさらに異なりうる。
より特定の実施形態では、可逆的にアンフォールドする変異VLは、45位の親アミノ酸残基がGlu、Asp、Gln、Pro、Asn、His又はThrで置換されている;48位の親アミノ酸残基がAsn、Pro、Asp、Thr、Gly又はValで置換されている;49位の親アミノ酸残基がAsn、Asp、Ser、Cys、Glu、Gly、Lys又はArgで置換されている;50位の親アミノ酸残基がPro、Asp、Asn、Glu又はArgで置換されている;及び/又は75位の親アミノ酸残基がAsn又はMetで置換されている(Kabatの番号付け)、アミノ酸配列を含む。
他の特定実施形態では、可逆的にアンフォールドするVL又は変異VLは、表2に示すアミノ酸置換の1個を含むアミノ酸配列を含み、及び
31位にGly及び49位にAsn;
32位にSer及び75位にAsn;
40位にSer及び49位にAsp;
39位にArg及び49位にAsn;
45位にGlu及び75位にAsn;
46位にPro及び50位にAsp;
26位にAsn、42位にThr及び50位にAsp;
32位にPhe、45位にGlu及び57位にGlu;
49位にAsp、80位にAla及び89位にArg;
49位にAsn、68位にGlu及び79位にArg;
20位にSer、23位にTrp、46位にPhe及び49位にAsn;
29位にVal、42位にAsn、45位にGlu、83位にLeu及び92位にHis;
35位にThr及び90位にPro;
45位にAsp及び60位にPro;
49位にArg及び10位にPhe;
49位にSer及び20位にAla;
49位にSer及び27位にArg;
50位にPro及び48位にVal;及び
50位にArg、13位にGly及び42位にGlu
を含むアミノ酸配列を有し、上記アミノ酸位置はKabatの番号付けによる。
ある態様では、可逆的にアンフォールドする変異体VLのアミノ酸配列は、親VLのアミノ酸配列に比べて44位から53位まで及び/又はFR3(例えば、73位から76位までの)内に少なくとも1つのPro又はGlyの置換を含む。特定の態様では、変異体VLのアミノ酸配列は、45位、48位及び/又は50位にProを含む。
可逆的にアンフォールドするVL又は変異体VLの1つ以上の構造領域(FR)は、(a)ヒト構造領域のアミノ酸配列、(b)ヒト構造領域のアミノ酸配列の少なくとも8個の連続アミノ酸、又は(c)ヒト生殖細胞系の抗体遺伝子セグメントによってコードされるアミノ酸配列、を含み得、前記構造領域はKabatによって定義される通りである。ある態様では、1つ以上の構造領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系の抗体遺伝子セグメントによってコードされる対応の構造領域のアミノ酸配列と同じであるか、または1つ以上の前記構造領域のアミノ酸配列は、合計して、ヒト生殖細胞系の抗体遺伝子セグメントによってコードされる前記対応の構造領域のアミノ酸配列に比べて5個までのアミノ酸の相違を含む。
他の態様では、FR1、FR2、FR3及びFR4のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系の抗体遺伝子セグメントによってコードされる対応の構造領域のアミノ酸配列と同じであるか、またはFR1、FR2、FR3及びFR4のアミノ酸配列は、合計して、前記ヒト生殖細胞系の抗体遺伝子セグメントによってコードされる対応の構造領域のアミノ酸配列に比べて10個までのアミノ酸の相違を含む。他の態様では、前記FR1、FR2及びFR3のアミノ酸配列は、前記ヒト生殖細胞系の抗体遺伝子セグメントによってコードされる対応の構造領域のアミノ酸配列と同じである。例えば、変異体VLは、ヒトDPK9ダミー(配列番号:6)の変異体であり得る。
可逆的にアンフォールドするVL(例えば、変異体VL)を含む単離ポリペプチドは、標的リガンド結合部位及び/又は一般リガンド結合部位を含む。ある態様では、一般リガンド結合部位は、プロテインA、プロテインL又はプロテインG等の、スーパー抗原の結合部位である。
可逆的にアンフォールドするVLは、任意の所望の親VL、例えばヒトVλ(例えば、VλI、VλII、VλIII、VλIV、VλVもしくはVλVI)又はヒトVκ(例えば、Vκ1、Vκ2、Vκ3、Vκ4、Vκ5、Vκ6、Vκ7、Vκ8、Vκ9もしくはVκ10)に基づき得る。好ましくは、可逆的にアンフォールドするVLは、ラクダ免疫グロブリンドメインではなく、または生殖細胞系の配列によってコードされるラクダ免疫グロブリン可変ドメインに特有であるが、例えば、ヒト免疫グロブリンの可変ドメインには特有でない1つ以上のアミノ酸(例えば、構造アミノ酸)を含む。(例えば、Daviesら、Protein Engineering 9:531-537(1996); Tanhaら、J. Biol. Chem. 276:24774-24780(2001); Riechmannら、J. Immunol. Methods 23:25-38 (1999)参照。)1つの態様では、可逆的にアンフォールドするVHは、ネズミ(例えば、マウス)生殖細胞系の構造領域に特有である1つ以上のアミノ酸を含まない。好ましくは、VLは、加熱したとき可逆的にアンフォールドする。
可逆的にアンフォールドするVL(例えば変異体VL)を含む単離ポリペプチドは、抗体形式であり得る。このように、ある態様では、可逆的にアンフォールドするVLを含む単離ポリペプチドは、VLのホモ二量体、VLを含むヘテロ二量体、Fv、scFv、ジスルフィド結合したFv、Fab、VL又は免疫グロブリンのFc部分に融合したVLであり得る。
ジスルフィド結合したVドメインを含む単離ポリペプチド
本発明はまた、免疫グロブリンの可変ドメイン(例えば、VH、VL)を含む単離ポリペプチドに関し、前記可変ドメインは、CDR2内のシステインとCDR3内のシステインの間のジスルフィド結合を含み、CDR2およびCDR3はKabatのアミノ酸番号付与システムを用いて定義される。いくつかの態様では、ジスルフィド結合は、52a位と98位;51位と98位;又は51位と100b位のシステイン残基の間に存在し、前記位置はKabatアミノ酸番号付与システムを用いて定義される。他の態様では、ジスルフィド結合は、51位のシステインとCDR3内のシステイン;又はCDR2内のシステインと98位のシステインの間に存在し、CDR2、CDR3及び前記位置は、Kabatアミノ酸番号付与システムを用いて定義される。
ジスルフィド結合の可変ドメインを含む単離ポリペプチドは、抗体形式であり得る。このように、ある態様では、ジスルフィド結合した可変ドメインを含む単離ポリペプチドは、可変ドメインのホモ二量体、可変ドメインのヘテロ二量体、Fv、scFv、Fab、単一の可変ドメイン又は免疫グロブリンのFc部分に融合した単一の可変ドメインでありうる。
リフォールド可能なポリペプチドを産生するための核酸、宿主細胞及び方法
本発明はまた、本明細書記載のように可逆的にアンフォールドするポリペプチドをコードする単離及び/又は組換え核酸に関する。
本明細書で「単離」と称する核酸は、その由来の環境(例えば、細胞中又はライブラリー等の核酸の混合物中)で他の物質(例えば、ゲノムDNA、cDNA及び/又はRNA等の他の核酸)から切り離された核酸である。単離核酸は、ベクター(例えば、プラスミド)の一部として単離され得る。核酸は、天然由来であり得、化学合成によって産生され得、生物学的方法と化学的方法の組合せ(例えば、半合成)によって存在し得、及び任意の適切な方法を用いて単離され得る。
本明細書で「組換え」と称する核酸は、例えば制限酵素、相同組換え、ウイルス等を使用した、ベクター又は染色体へのクローニング等の人工組換えに基づく方法を含む、組換えDNA法によって産生される核酸、及びポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて調製される核酸である。「組換え」核酸はまた、細胞の天然の機構を通して又は組換えを可能にするように修飾された細胞(例えば、Cre又は他の適切なリコンビナーゼを発現するように修飾された細胞)を通しての内因性又は外因性核酸の組換えから生じるが、組換えを可能にし、確実にするように設計された核酸の細胞への導入後に選択されるものである。例えば機能的に再構成されたヒト抗体導入遺伝子は組換え核酸である。
本発明の核酸分子は、抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体及び前記の抗原結合フラグメント)、例えば、αEインテグリン又はインテグリンαE鎖(CD103)に結合する抗体の産生に使用され得る。例えば、本発明の抗体をコードする核酸(例えば、DNA)は、さらなる操作のため又は適切な宿主細胞におけるコードされるポリペプチドの生産のために適切な構築物(例えば、発現ベクター)に組み込まれ得る。
抗体又は抗原結合フラグメントの発現に適する発現構築物又は発現ベクターも提供される。例えば所望の抗体の全部又は一部をコードする核酸を、発現のために、プラスミド又はウイルス等の、核酸ベクターに挿入し得る。ベクターは、適切な生物系(例えば、レプリコン)において複製することができる。単一コピー又は多数のコピーで維持される、又は宿主細胞の染色体に組み込まれるベクターを含む、種々の適切なベクターが当業分野において公知である。適切な発現ベクターは、多くの成分、例えば複製起点、選択可能なマーカー遺伝子、転写調節エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター)等の1つ以上の発現調節エレメント及び/又は1つ以上の翻訳シグナル、シグナル配列又はリーダー配列等を含み得る。発現調節エレメント及びシグナル又はリーダー配列は、存在する場合、ベクター又は他のソースによって提供され得る。例えば、抗体鎖をコードするクローン化された核酸の転写及び/又は翻訳調節配列は、発現を指令するために使用され得る。
他の局面では、本発明は、組換え宿主細胞及び可逆的にアンフォールドする本発明のポリペプチドを製造する方法に関する。可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、例えば、可逆的にアンフォールドするポリペプチドをコードする1つ以上の組換え核酸の発現によって又は他の適切な方法を用いて、入手され得る。例えば、本明細書記載の発現構築物を適切な宿主細胞に導入し得、かつ生じた細胞を、構築物の発現に適した条件下に(例えば、培養中、動物中、植物中に)維持し得る。適切な宿主細胞は、大腸菌、枯草菌(B. subtilis)及び/又は他の適切な細菌等の細菌細胞を含む原核細胞;真菌又は酵母細胞(例えば、Pichia pastoris、Aspergillus sp.、Saccharomyces cerevisiae、Schizosaccharomyces pombe、Neurospora crassa)等の真核細胞、又は他の下等真核細胞、及び昆虫(例えばショウジョウバエ(Drosophila)Schnieder S2細胞、Sf9昆虫細胞(国際公開広報第WO 94/26087号(O'Connor))、哺乳動物(例えば、COS−1(ATCCアクセッション番号CRL−1650)及びCOS−7(ATCCアクセッション番号CRL−1651)等のCOS細胞、CHO(例えば、ATCCアクセッション番号CRL−9096)、293(ATCCアクセッション番号CRL−1573)、HeLa(ATCCアクセッション番号CCL−2)、CV1(ATCCアクセッション番号CCL−70)、WOP(Dailey, L.ら、J. Virol., 54:739-749(1985)、3T3、293T(Pear, W. S.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 90:8392-8396(1993))、NSO細胞、SP2/0、HuT 78細胞等)、又は植物(例えば、タバコ)からのような高等真核生物の細胞であり得る。(例えば、Ausubel,F.M.ら編、Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates and John Wiley & Sons Inc.(1993)参照。)
本発明はまた、可逆的にアンフォールドするポリペプチドをコードする核酸からなる(1つ以上の)組換え核酸又は発現構築物を含む組換え宿主細胞に関する。本発明はまた、本発明の組換え宿主細胞を、可逆的にアンフォールドするポリペプチドの発現の適切な条件下に維持することを含む、可逆的にアンフォールドするポリペプチドを製造する方法を包含する。前記方法は、所望する場合、可逆的にアンフォールドするポリペプチドを単離又は回収する工程をさらに含み得る。
例えば可逆的にアンフォールドするポリペプチドをコードする核酸分子(すなわち、1つ以上の核酸分子)、又はかかる核酸分子を含む発現構築物(すなわち、1つ以上の構築物)を、核酸分子が1つ以上の発現調節エレメントに使用できて、連結されるように(例えば、ベクターにおいて、細胞内でのプロセスによって作製される構築物において、宿主細胞ゲノムに組み込まれて)、選択された宿主細胞に任意の適切な方法(例えば、形質転換、トランスフェクション、電気穿孔、感染)を用いて、適切な宿主細胞に導入して組換え宿主細胞を作製し得る。生じた組換え宿主細胞は、発現に適した条件下に(例えば、誘導物質の存在下に、適切な動物中に、適切な塩、成長因子、抗生物質、補助栄養等を添加した適切な培地中に)維持され得、それによってコードされたポリペプチドが産生される。所望する場合は、コードされたタンパク質を単離又は回収し得る(例えば、動物、宿主細胞、培地、乳から)。この過程は、宿主細胞におけるトランスジェニック動物の発現を包含する(例えば、国際公開広報第WO 92/03918号、GenPharm International参照)。
本明細書記載の可逆的にアンフォールドするポリペプチドはまた、適切なインビトロ発現系において、化学合成によって、又は任意の他の適切な方法によっても産生され得る。
ある態様では、本発明は、生殖細胞系のVH又は生殖細胞系のVL遺伝子セグメントによってコードされる配列を含むか、又は配列番号7から60から成りもしくは含む配列からなる可変ドメインを有するポリペプチドを含まない。
標的リガンド、組成物及び方法
本明細書記載のように可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、標的リガンドに対して結合特異性を有し得る。例えば、可逆的にアンフォールドする抗体の可変領域を含み、特定の標的リガンドに対して結合特異性を有するポリペプチドは、本明細書記載の結合方法等の、任意の適切な方法を用いて選択、単離及び/又は回収され得る。可逆的にアンフォールドするポリペプチド(例えば、可逆的にアンフォールド可能なVH又はVκを含むポリペプチド)が結合特異性を有しうる例示的な標的リガンドは、ヒト又は動物のタンパク質、サイトカイン、サイトカイン受容体、酵素、酵素の補因子及びDNA結合タンパク質を含む。適切なサイトカイン及び成長因子、サイトカインと成長因子の受容体及び他の標的リガンドは、以下を含むが、これらに限定されない:アポE、アポ−SAA、BDNF、カルジオトロフィン−1、CEA、CD40、CD40リガンド、CD56、CD38、CD138、EGF、EGF受容体、ENA−78、エオタキシン、エオタキシン−2、エキソダス−2、FAPα、酸性FGF、塩基性FGF、線維芽細胞成長因子−10、FLT3リガンド、フラクタルキン(CX3C)、GDNF、G−CSF、GM−CSF、GF−β1、ヒト血清アルブミン、インスリン、IFN−γ、IGF−I、IGF−II、IL−1α、IL−1β、IL−1受容体、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8(72アミノ酸)、IL−8(77アミノ酸)、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−15、IL−16、IL−17、IL−18(IGIF)、インヒビンα、インヒビンβ、IP−10、ケラチノサイト成長因子−2(KGF−2)、KGF、レプチン、LIF、リンホタクチン、ミュラー阻害物質、単球コロニー阻害因子、単球誘因タンパク質、M−CSF、MDC(67アミノ酸)、MDC(69アミノ酸)、MCP−1(MCAF)、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MDC(67アミノ酸)、MDC(69アミノ酸)、MIG、MIP−1α、MIP−1β、MIP−3α、MIP−3β、MIP−4、骨髄前駆細胞抑制因子−1(MPIF−1)、NAP−2、ニューチュリン、神経成長因子、β−NGF、NT−3、NT−4、オンコスタチンM、PDGF−AA、PDGF−AB、PDGF−BB、PF−4、RANTES、SDF1α、SDF1β、SCF、SCGF、幹細胞因子(SCF)、TARC、TGF−α、TGF−β、TGF−β2、TGF−β3、腫瘍壊死因子(TNF)、TNF−α、TNF−β、TNF受容体I、TNF受容体II、TNIL−1、TPO、VEGF、VEGF A、VEGF B、VEGF C、VEGF D、VEGF受容体1、VEGF受容体2、VEGF受容体3、GCP−2、GRO/MGSA、GRO−β、GRO−γ、HCC1、1−309、HER1、HER2、HER3及びHER4。このリストが決して網羅的でないことは了解されよう。
いくつかの態様では、本発明は、可逆的にアンフォールドする抗体の可変ドメインを含み、標的リガンドに結合する単離ポリペプチドである。好ましくは、可逆的にアンフォールドする抗体の可変ドメインは、サイトカイン、成長因子、サイトカイン受容体又は成長因子受容体(例えば、ヒトサイトカイン、ヒト成長因子、ヒトサイトカイン受容体又はヒト成長因子受容体)である標的リガンドに結合する。より好ましくは、可逆的にアンフォールドする抗体の可変ドメインは、本明細書記載のHeLa細胞によるTNF誘導性IL−8分泌を測定するアッセイ等の、標準の細胞アッセイにおいて、約1 μM以下、または500 nM以下の50%中和用量(ND50)でサイトカイン、成長因子、サイトカイン受容体又は成長因子受容体の活性を中和する。特定の態様では、可逆的にアンフォールドする抗体の可変ドメインは、約400 nM以下、または約300 nM以下、または約200 nM以下、または約100 nM以下、または約1 nM以下、または約100 pM以下、または約10 pM以下のND50でサイトカイン、成長因子、サイトカイン受容体又は成長因子受容体の活性を中和する。
他の態様では、可逆的にアンフォールドする抗体の可変ドメインは、サイトカイン又は成長因子に結合して、本明細書記載のTNF受容体1(p55)アッセイ等の標準の受容体結合アッセイにおいて、約1 μM以下、または約500 nM以下の50%阻害濃度(IC50)でサイトカイン又は成長因子と同種のサイトカイン受容体又は成長因子受容体との相互作用を阻害する。特定の態様では、可逆的にアンフォールドする抗体の可変ドメインは、約400 nM以下、または約300 nM以下、または約200 nM以下、または約100 nM以下、または約1 nM以下、または約100 pM以下、または約10 pM以下のIC50でサイトカイン又は成長因子と同種のサイトカイン受容体又は成長因子受容体との相互作用を阻害する。他の態様では、可逆的にアンフォールドする抗体の可変ドメインは、サイトカイン受容体又は成長因子受容体に結合して、本明細書記載のTNF受容体1(p55)アッセイ等の標準の受容体結合アッセイにおいて、約1 μM以下、または約500 nM以下の50%阻害濃度(IC50)でサイトカイン受容体又は成長因子受容体と同種のサイトカイン又は成長因子との相互作用を阻害する。特定の態様では、可逆的にアンフォールドする抗体の可変ドメインは、約400 nM以下、または約300 nM以下、または約200 nM以下、または約100 nM以下、または約1 nM以下、または約100 pM以下、または約10 pM以下のIC50でサイトカイン受容体又は成長因子受容体と同種のサイトカイン又は成長因子との相互作用を阻害する。
医薬又は生理的組成物を含む、可逆的にアンフォールドするポリペプチドを含有する組成物が提供される。医薬又は生理的組成物は、1つ以上の可逆的にアンフォールドするポリペプチド及び製薬上又は生理的に許容される担体を含む。典型的には、これらの担体は、生理食塩水及び/又は緩衝媒質を含む、水溶液又はアルコール/水溶液、乳剤又は懸濁液を含む。非経口賦形剤は、塩化ナトリウム溶液、リンガーデキストロース液、デキストロースおよび塩化ナトリウムならびに乳酸化リンガー液を含む。ポリペプチド複合体を懸濁液中に保持する必要がある場合、適切な生理的に許容されるアジュバントは、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ゼラチン及びアルギネート等の増粘剤から選択され得る。静脈内賦形剤は、リンガーデキストロースに基づくもののような、液体及び栄養補充剤及び電解質補充剤を含む。抗菌剤、抗酸化剤、キレート化剤及び不活性ガスなどの防腐剤及び他の添加物も存在し得る(Mack(1982)Remington's Pharmaceutical Sciences,第16版)。
前記組成物は、可逆的にアンフォールドする所望の量のポリペプチドを含有し得る。例えば組成物は、重量比で約5%から約99%の可逆的にアンフォールドするポリペプチドを含有し得る。特定の態様では、組成物は、重量比で約10%から約99%、又は約20%から約99%、又は約30%から約99%、又は約40%から約99%、又は約50%から約99%、又は約60%から約99%、又は約70%から約99%、又は約80%から約99%、又は約90%から約99%、又は約95%から約99%の可逆的にアンフォールドするポリペプチドを含み得る。
一例では、前記組成物は、可逆的にアンフォールドするポリペプチド(例えば、可逆的にアンフォールドする免疫グロブリンの可変ドメインを含むポリペプチド)を含有する生物学的な粉末洗剤である。他の態様では、前記組成物はフリーズドライ(凍結乾燥)される。
本発明はまた、可逆的にアンフォールドするポリペプチド(例えば、加熱したとき(例えば、可逆的にアンフォールドする免疫グロブリンの可変ドメインを含むポリペプチド))を含む密封包装(例えば、密封無菌包装)を提供する。いくつかの態様では、密封包装は無菌器具をさらに含む。特定の態様では、無菌器具は、外科器具等の医療器具である。
本明細書記載の可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、典型的には、炎症状態、アレルギー性過敏症、癌、細菌又はウイルス感染、及び自己免疫疾患(I型糖尿病、多発性硬化症、リウマチ関節炎、全身性エリテマトーデス、クローン病及び重症筋無力症を含むが、これらに限定されない)を予防、抑制又は治療する用途を見出し得る。
本願において、語「予防」は、疾患の誘発前に保護組成物の投与を包含する。「抑制」は、疾患の臨床的な発現の前であるが、誘発事象後の組成物の投与を指す。「治療」は、疾患の症状が発現した後に保護組成物の投与を包含する。
疾患を予防又は治療する上で可逆的にアンフォールドするポリペプチドの有効性をスクリーニングするために使用され得る動物モデル系が利用できる。感受性のあるマウスにおいて全身性エリテマトーデス(SLE)を検査する方法は、当業分野において公知である(Knightら(1978) J. Exp. Med., 147: 1653 ;Reinerstenら(1978) New Eng. J. Med., 299 : 515)。重症筋無力症(MG)は、SJL/J雌性マウスにおいて別の種からの可溶性AchRタンパク質で疾患を誘導することによって検査される(Lindstromら(1988) Adv. Immunol., 42: 233)。関節炎は、II型コラーゲンの注入によって感受性のある系統のマウスにおいて誘導される(Stuartら(1984) Ann. Rev. Immunol., 42: 233)。ミコバクテリア熱ショックタンパク質の注入によって感受性ラットにおいてアジュバント関節炎が誘導されるモデルが記述されている(Van Edenら(1988) Nature, 331: 171)。甲状腺炎は、記述されているようにサイログロブリンの投与によってマウスにおいて誘導される(Maronら(1980) J. Exp. Med., 152: 1115)。インスリン依存性糖尿病(IDDM)は、自然に発生するか又は Kanasawaら(1984) Diabetologia, 27: 113によって記載されるようなある種の系統のマウスにおいて誘導され得る。マウス及びラットにおけるEAEは、ヒトにおけるMSのモデルとして役立つ。このモデルでは、ミエリン塩基性タンパク質の投与によって脱髄性疾患が誘導される(Paterson (1986) Textbook of Immunopathology, Mischerら編、Grune and Stratton, New York, pp. 179-213; McFarlinら(1973) Science, 179: 478:及びSatohら(1987) J. Immuno1., 138 : 179参照)。
本発明の選択ポリペプチドは、別々に投与される組成物として又は他の薬剤と共に使用され得る。これらは、シルコスポリン、メトトレキサート、アドリアマイシン又はシスプラチナム及び免疫毒素等の、様々な免疫治療薬を含み得る。医薬組成物は、本発明の選択抗体、受容体又はそれらの結合タンパク質と組み合わせた様々な細胞傷害性薬剤又は他の薬剤の「カクテル」、又はさらに、それらが投与前にプールされるか否かに関わらず、異なる標的リガンドを用いて選択されたポリペプチド等の、異なる特異性を有する本発明による選択ポリペプチドの組合せも包含し得る。
本発明の医薬組成物の投与経路は、当該分野で通常の技術としてに一般的に公知の経路のいずれでもよい。治療のために、免疫療法の限定を伴わずに、本発明の選択された抗体、受容体又はそれらの結合タンパク質を標準手法に従って任意の患者に投与され得る。投与は、非経口的、静脈内、筋肉内、腹腔内、経皮的、肺経路、又は適宜にカテーテルによる直接注入を含む、任意の適切な形式によってであり得る。投与の用量及び頻度は、患者の年齢、性別及び状態、他の薬剤の併用投与、禁忌及び臨床医が考慮すべき他のパラメータに依存し得る。可逆的にアンフォールドするポリペプチド(例えば、可逆的にアンフォールドする抗体の可変ドメイン)の治療有効量を投与する。治療有効量は、投与条件下で所望の治療効果を達成するのに十分な量である。
本発明はまた、可逆的にアンフォールドするポリペプチドを被験者(例えば、患者)に投与するのに使用されるキットも提供し、可逆的にアンフォールドするポリペプチド、薬剤輸送装置及び、場合により、使用のための指示書を含む。可逆的にアンフォールドするポリペプチドは、凍結乾燥製剤等の製剤として提供され得る。ある態様では、薬剤輸送装置は、注射器、吸入器、鼻内又は眼投与装置(例えば、ミスト噴霧器、点眼又は点鼻注入器)、無針注射装置から成る群より選択される。
本発明の選択ポリペプチドは、保存のために凍結乾燥され、および使用前に適切な担体で再構築され得る。任意の適切な凍結乾燥法(例えば、噴霧乾燥、固化乾燥)及び/又は再構築手法が使用され得る。凍結乾燥及び再構築は様々な度合の抗体活性の損失(例えば、従来の免疫グロブリンに関しては、IgM抗体はIgG抗体よりも大きな活性損失を有する傾向がある)をもたらし得及びそれを補うために使用レベルを上方調整しなければならないということが当業者に認められよう。特定の態様では、本発明は、本明細書記載のように可逆的にアンフォールドする凍結乾燥(フリーズドライ)ポリペプチドを含有する組成物を提供する。好ましくは、凍結乾燥(フリーズドライ)ポリペプチドは、再水和されたとき約20%のみ、又は約25%のみ、又は約30%のみ、又は約35%のみ、又は約40%のみ、又は約45%のみ、又は約50%のみの活性を損失する。活性は、凍結乾燥される前にポリペプチドの作用を生じるのに必要なポリペプチドの量である。例えば再水和酵素の量は所与の期間に基質の生成物への半分の最大変換を生じさせるために必要となり、又は結合ポリペプチドの量は標的タンパク質上の結合部位の半分の飽和を達成するために必要となる。ポリペプチドの活性は、凍結乾燥の前に任意の適切な方法を用いて測定され得、および再水和後に同じ方法を用いて活性を測定して、損失した活性の量を測定することができる。
本発明の選択ポリペプチド又はそのカクテルを含有する組成物は、予防的及び/又は治療的処置のために投与することができる。一部の治療適用では、選択細胞の個体群の少なくとも部分的な阻害、抑制、調節、死滅又は他の何らかの測定可能なパラメータを達成するために十分な量を、「治療有効用量」と定義する。この用量を達成するために必要な量は、疾患の重症度及び患者自身の免疫系の全般的状態に依存するが、一般に体重キログラム当り選択抗体、受容体(例えばT細胞受容体)又はそれらの結合タンパク質0.005−5.0mgの範囲であり、0.05−2.0mg/kg/投与の用量がより一般的に使用される。予防適用に関しても、本発明の選択ポリペプチド又はそのカクテルを含有する組成物は、同様か又はわずかに低い投薬量で投与しうる。
本発明に従った選択ポリペプチドを含有する組成物は、哺乳動物における選択標的細胞個体群の変性、不活性化、死滅又は除去を助けるために予防及び治療背景において使用しうる。加えて、ここで述べるポリペプチドの選択レパートリーは、細胞の異種コレクションから標的細胞個体群を死滅させる、枯渇させる又はさもなければ有効に除去するために体外で又はインビトロで選択的に使用しうる。哺乳動物からの血液を体外で選択抗体、細胞表面受容体又はそれらの結合タンパク質と結合させ、それによって望ましくない細胞を死滅させるか又はさもなければ血液から除去して、標準手法に従って哺乳動物にもどす。
実施例
セクション1:EP-VHライブラリーおよびEP-VLライブラリー
エラープローンPCRは、突然変異をDNAセグメントに導入するランダムな突然変異誘発戦略である。よって、それは、ランダムなアミノ酸置換を含む多様な蛋白質をコードする核酸を調製するための有用なツールである。エラープローンPCRは、一般に、緩衝液の条件を改変して(例えば、dNTP濃度を変化させて)、ヌクレオチド取込みの忠実度を低下させることによって、多数の方法で行うことができる。この研究においては、エラープローンPCRライブラリーは、GENEMORPH PCR突然変異誘発キット(Sratagane)を用いて構築した。該キットは、Taqポリメラーゼと比較してヌクレオチド取込みの高い固有のエラー率を有するMUTAZYME DNAポリメラーゼを配合する。このシステムを用いる突然変異の頻度は、反応における鋳型(VHおよびVKコーディング配列)の出発濃度を操作することによって変化させることができる。従って、出発濃度を変化させて、種々の突然変異頻度の率を与えた。最初に、各VHおよびVK鋳型について2つのライブラリーを構築し、ファージミドベクターpR2にクローン化した。VH鋳型はV3-23/DP47およびJH4bであり、VL鋳型は012/02/DPK9およびJK1であった。pR2ベクターはpHENlに由来する(Hoogenboom, HR et al., Nucleic Acids Res. 19:4133-4137 (1991))。pR2はlacプロモーター、続いてHis6およびVSVタグがあるlクローニング部位の上流のリーダー配列、アンバー停止コドンおよびpIIIファージコート蛋白質をコードする遺伝子を含む。これらは、低突然変異頻度(〜1bp変化/鋳型)を有する一方のもの、および中程度の突然変異頻度(〜2bp変化/鋳型)を持つ他方のものよりなるものであった。これらのライブラリーを組み合わせて、1ないし2×105の多様度を得た。
エラープローンPCRライブラリーのファージFd-Mycへのサブクローニング
戦略は、pR2ファージミドベクターからのエラープローンPCRライブラリーのPCR増幅、続いての増幅された産物のファージFd-Mycへのサブクローニングを含むものであった。E. coli宿主HB2151中のpR2ファージミドにおいて、エラープローンPCRライブラリーを平板培養して、大きなプレート(22×22cm)上で密集した増殖を得た。コロニーの見積もった合計数は107ないし108であり、これが、エラープローンライブラリーの多様度がよくカバーされていることを保証した。コロニーをプレートから掻き取り、引き続いて、ファージミドライブラリーのDNAを単離した。単離されたファージミドDNAライブラリーを、エラープローンライブラリーのPCR増幅用の鋳型として用いた。
制限部位ApaL 1およびNot1を含んだ合成オリゴヌクレオチドプライマーを用い、ライブラリーをPCR増幅した。かくして、ファージFd-Myc中の対応する部位への増幅産物のサブクローニングが容易となる。
VHF d-Myc PCRプライマー:
5’ GAG CGC CGT GCA CAG GTG CAG CTG TTG 3’(配列番号:61)
5’ GAG TCG ACT TGC GGC CGC GCT CGA GAC GGT GAC 3’ (配列番号:62)
VK Fd-Myc PCRプライマー:
5’ GAG CGC CGT GCA CAG ATC CAG ATG ACC CAG TCT CC 3’(配列番号:63)
5’ GAG TCG ACT TGC GGC CGC CCG TTT GAT TTC CAC CTT GG 3’ (配列番号:64)
制限部位ApaL 1(GTGCAC)およびNot 1(GCGGCCGC)には下線を施す。プライマーは5’末端でビオチニル化した。ApaL1部位をVHまたはVKをコードする核酸に取り込むと、双方のVHおよびVKの最初のアミノ酸をグルタミンとする。
増幅されたライブラリーのPCR産物をアガロースゲルから精製し、次いで、ApaL 1およびNot 1で制限酵素消化した。消化された産物をフェノール/クロロホルム抽出によって精製し、ストレプトアビジンDYNABEADS(超常磁性単分散ポリマービーズ;Dynal Biotech)で処理して、切断された5’末端および消化されていない産物を除去し、次いで、QIAQUICK PCR精製キット(Qiagen)に付した。産物を、ファージFd-Myc中のApaL 1/Not 1部位に連結し、E.coli TG1に形質転換し、106ないし107のライブラリーサイズを得た。
セクション2:ライブラリー3.25G:
Fd-mycベクターの構築
該ベクターをApaL1およびNot 1において切断し、mycタグをコードする5’-末端リン酸化オリゴLJ1012およびLJ1013(各々、配列番号65および配列番号66)よりなる合成二本鎖DNAカセット、およびトリプシン切断部位を連結することによって、Fd-tet-Dog1(McCafferty et al.(Nature)1989)からFd-mycベクターを組立てた。得られたベクターFd-mycは、ApaL1およびNot1部位がリーダー配列および遺伝子IIIの間のインサートのクローニングのために存在する点で、Fd-Tet-Dog1と非常に似ている。さらなる特徴は、Not1部位および遺伝子IIIの間のmyc-タグの存在であり、これは、コードされた遺伝子III融合蛋白質の免疫学的検出を可能とし、また、結合したファージ(例えば、抗-myc抗体を用いて選択)がトリプシンでの消化によって溶出されることを可能とする。というのは、myc-タグにはトリプシン切断部位があるからである。
LJ1012:P-TGCACAGGTCCACTGCAGGAGGCGGCCGCAGAACAAAAACTCATCTCAGAAGAGGATCTGAATTC(配列番号65)
LJ1013:P-GGCCGAATTCAGATCCTCTTCTGAGATGAGTTTTTGTTCTGCGGCCGCGAGGACGTCACCTGCTG(配列番号66)
3.25Gインサートの調製および連結
ライブラリーpR3-7781、pR3-7782、pR3-7783、pR3-7784、pR3-7785、pR3-7786、pR3-7787、pR3-7788、pR3-7789、pR3-77890またはpR3-7791の連結されたDNAを鋳型として用いる11のPCRを行った。これらのライブラリーはVH-DP47に基づき、多様化されたCDR1、CDR2、およびCDR3を含む(CDR3は長さが10ないし20アミノ酸で変化する)。PCRを、プライマーLJ1011およびLJ1027を用いて各サブライブラリーで行って、5’-末端のApaL1部位および3’-末端のNot1部位を加えた。得られた増幅フラグメントを精製し、順次ApaL1およびNot1で消化し、再度精製し、次いで、Fd-mycの対応する部位に連結した。
LJ1011:GAGTCGACTTGCGGCCGCGCTCGAGACGGTGACCAG(配列番号67)
LJ1027:GAGCGCCGTGCACAGGTGCAGCTGTTGGAGTCTGGG(配列番号68)
ライブラリー3.25Gのエレクトロポレーションおよび貯蔵
精製の後、11の連結をプールし、E.coli TG1細胞に電気-形質転換した。エレクトロポレーションの後、細胞を2XTYに再懸濁し、表現型発現のために、37℃にて1時間インキュベートした。次いで、一晩の増殖のために、15μg/mlのテトラサイクリンを補足したTYEプレート上で得られたライブラリーを平板培養し、15μg/mlテトラサイクリンを補足したTYEプレート上での滴定のために、アリコットを採取した。ライブラリーのサイズは1.6×109クローンであった。ライブラリーのアリコットは、細菌を40のOD600において再懸濁し、等用量のグリセロールで希釈し(最終OD600=20)、1mlの試料をアリコットし、これを凍結し、使用するまで-80℃で貯蔵することによって調製した。
ファージ生産および精製
ライブラリー3.25Gの1ml試料を解凍し、これを用いて、2.5Lシェーカーフラスコ中の15μg/mlのテトラサイクリンを補足した500mlの2XTYを接種した。ファージ生産のために、培養を30℃にて20時間インキュベートした。5,500gでの15分間の遠心によって細胞をペレット化して、細菌を除去した。ファージを沈殿させるために、90mlのPEG/NaCl(20%ポリエチレングリコール8000[Sigma;公式にはPEG 6000として販売],2.5M NaCl)を450mlの培養上澄に加え、混合した後、溶液を氷上で1時間インキュベートした。5,500gにおける4℃での30分間の遠心によって、ファージを得られた混合物から収集した。上澄を捨て、チューブを軽く再度遠心し、残りのPEG/NaClを注意深く除去した。ペレットを10mlのPBSに再懸濁させ、3,300gで15分間遠心して、残存する細菌を除去し、次いで、0.45μmのディスポーザブルフィルターを通して濾過した。ファージの力価は分光測定によって見積もった:PBS中の100倍希釈を調製し、260nmにおける吸光度を測定する。ファージ力価(ml当たりのTUで表す)は式:OD260×1013×2.214を用いて計算した。10ないし15%のグリセロール(最終濃度)を加えた後、ファージを-20℃にて貯蔵した。
セクション3:ファージ選択
イムノチューブのコーティング/ブロッキング
10μg/mlのプロテインAを含有する4mlのPBS、または10μg/mlのプロテインLを含有する4mlのPBSいずれかで、イムノチューブ(Nunc)を室温にて一晩(約18時間)コートした。朝、溶液を捨て、チューブを、2%v/vのTWEEN20(プロテインA-コートイムノチューブ用のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)または2%w/vのBSA(プロテインL - コートイムノチューブ用)を補足したPBSでブロックした。チューブを37℃にて1時間インキュベートし、ファージ選択で用いる前に、次いで、PBSで3回洗浄した。
Fb-ファージ提示ポリペプチドの加熱アンフォールディングおよびリフォールディング
ほぼ5×1010TUのドメイン抗体ファージライブラリーを200μlのPBSに希釈し、2つの薄壁PCRチューブにアリコットした。次いで、80℃にて10分間加熱するために(カバー蓋の温度:85℃)、チューブをPCR装置に入れた。加熱した後、溶液をPCR装置中で迅速に4℃まで冷却して、リフォールディングされたファージ溶液を得た。
リフォールディングされたFd−ファージ提示ポリペプチドの選択
リフォールディングされたファージ溶液をプールし、2%v/vのTWEEN20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート;プロテインAについての選択用)または2%w/vのBSA(プロテインLについての選択用)いずれかを補足した4mlのPBSに加えた。得られたファージ溶液を、プロテインAでコートしたイムノチューブまたはプロテインLでコートしたイムノチューブに加え、密閉した後、チューブを室温にて30分間端部-端部回転させ、次いで、室温にて1.5時間ベンチ上に保持した。0.1%TWEEN20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)を補足したPBSでチューブを10回、次いで、PBSで10回洗浄することによって、未結合ファージを除去した。結合したファージは、トリプシン(1mg/mg)を補足した1mlのPBSを加え、次いで、軽く回転させつつ10ないし15分間インキュベートすることによって溶出させた。次いで、溶出したファージを含有する溶液を、新鮮なミクロ遠心チューブに移し、氷上で貯蔵した。
選択されたfd-ファージのE.coli感染
37℃の2xTY中のE.coli TG1細胞の一晩培養から、100倍希釈物を25mlの新鮮な2XTY培地中で調製し、600nmにおける光学密度(OD600)が0.5ないし0.7(中期log期)となるまで、培養を震盪しつつ(250rpm)37℃でインキュベートした。次いで、10ミリリットルのこの培養を、500μlの溶出したファージ試料と共に(残りの500μlは4Cに維持した)、ファージ感染を起こさせるために震盪することなく、37℃にて30分間インキュベートした。ファージ感染の後、100μlのアリコットをファージの滴定のために採取し:2xTY中の10μlの1:102希釈および10μlの1:104希釈を、15μg/mlのテトラサイクリンを含有するTYEプレート上にスポットし、37℃にて一晩増殖させた。コロニーの数に希釈ファクター(すなわち、100または10,000)を掛け合わせ、次いで、1000を掛け合わせることによって(10ml感染培養からスポットした10μl)力価を決定して、500μlの溶出したファージにつき力価を得た。溶出したファージの合計数は、2を掛け合わせることによって決定した(1mlの合計溶出物)。残存する感染したE.coli TG1培養(9.9ml)をディスポーザブル14mlチューブに移し、3,300gで10分間遠心した。細胞ペレットを2mlの新鮮な2xTYに再懸濁させ、TYE、15μg/mlのテトラサイクリンを含有する大きな22cm2皿上で平板培養し、37℃にて一晩インキュベートした。
選択されたfd-ファージベクターの増幅
翌日、15%グリセロールを補足した10mlの2xTYを22cm2の皿に加え、ガラススプレッターを用いて細胞を緩め、得られた混合物を新鮮な50mlのディスポーザブルのチューブに移した。次いで、15マイクロリットルの細胞懸濁液を用いて、15μg/mlのテトラサイクリンを含有する100mlの2xTYを接種し、他方、1mlの細菌懸濁液を1mlの滅菌グリセロールで希釈し、-70℃で貯蔵した。100mlの培養を振盪しつつ37℃にて一晩増殖させた。
選択されたfd-ファージベクターの精製
翌日、100mlの一晩培養を3,300gにて15分間遠心して、細菌を除去した。上澄を0.45umのディスポーザブルフィルターを通して濾過した。ファージを沈殿させるため、20mlのPEG/NaCl(20%ポリエチレングリオコール8000;Sigma[正式にはPEG6000として販売]、2.5M Nacl)を80mlの上澄に加え、混合した後、溶液を氷上で一時間インキュベートした。3,300gにおける4℃での30分間の遠心によって、得られた混合物からファージを収集した。上澄を捨て、チューブを軽く再度遠心し、残りのPEG/NaClを注意深く除去した。ペレッドを1mlのPBSに再懸濁させ、次いで、新鮮なミクロ遠心チューブに移した。11,600gにて10分間ミクロ遠心チューブを遠心することによって、残存する細菌片を除去した。上澄を新鮮なミクロ遠心チューブに移し、次の選択ラウンドまで4℃にて貯蔵した。ファージ力価は分光測定によって見積もり:PBS中の100倍希釈物を調製し、260mnにおける吸光度を測定した。ファージ力価(ml当たりのTU)は、式:OD260×1013×2.214を用いて計算した。
結果
このプロトコルおよび3.25Gファージライブラリー(セクション2)を用い、プロテインA-コートしたイムノチューブに対する結合についての3ラウンドの選択を行った。ラウンド1の後、ファージ力価は107TU未満であり、他方、第三の選択ラウンドの後には、ファージ力価は109TUよりも大きくなるまで上昇した。ラウンド3の後に、ファージ増幅から得られた細菌懸濁液の試料を系列希釈し(10倍シリーズ)、15μg/mlテトラサイクリンを補足したTYEプレート上で平板培養した。37℃における一晩のインキュベーションの後、個々のコロニーをスクリーニングのためにピックアップした(セクション4参照)。
このプロトコルおよびEP-VHファージライブラリーを用い(セクション1)、(プロテインA結合についての)3選択ラウンドを行って、高い力価の調製物を得た。ラウンド3後に、ファージ増幅から得られた細菌懸濁液の試料を系列希釈し(10倍シリーズ)、15μg/mlテトラサイクリンを補足したTYEプレート上で平板培養した。37℃における一晩のインキュベーションの後に、個々のコロニーをスクリーニングのためにピックアップした(セクション4参照)。
このプロトコルおよびEP-VKファージライブラリー(セクション2)を用い、(プロテインL結合のための)3選択ラウンドを行って、高い力価の調製物を得た。ラウンド3の後に、ファージ増幅から得られた細菌懸濁液の試料を系列希釈し(10倍シリーズ)、15μg/mlテトラサイクリンを補足したTYEプレート上で平板培養した。37℃における一晩のインキュベーションの後に、個々のコロニーをスクリーニングのためにピックアップした(セクション4参照)。
セクション4:ファージスクリーニング1
ファージクローンの増殖および調製
96ウェル培養プレート(平底、蒸発蓋付き、Corning)を個々のファージ増殖で用いた:各ウェルは、15μg/mlのテトラサイクリンを含有する175μlの2xTYで満たし、ファージ選択プロトコルを用いて得られた選択された細菌クローンからの単一コロニーを接種した。プレートを振盪しつつ37℃にて一晩(約18時間)インキュベートした。翌日、2,000rpmにおける室温での20分間のプレート遠心によって、細胞をペレット化した。(ファージを含有する)100マイクロリットル(100μl)の各培養上澄を新鮮な96ウェル培養プレートに移した。
ELISAによる結合したファージの検出を容易とするために、ファージをビオチニル化試薬で化学的に誘導体化した。この手法は、結合したファージが、ストレプトアビジンおよびホーズラディッシュペルオキシダーゼのコンジュゲート(Str-HRP, Sigma)を用いて検出されるのを可能とした。この戦略を選択して、ウェル中の結合したファージおよび固定化されたプロテインAまたはプロテインLを検出するのに用いられる抗体の間の交差反応性の可能性を低下させた。かくして、培養上澄の各100μlの試料を、(回転プレート上で培地を攪拌しつつ)室温にて一時間、500μMの濃度のEZ−リンクスルホ−NHSビオチン(Perbio)を含有する100μlのPBSと反応させた。
ファージ熱変性(ファージに提示されたポリペプチドの加熱誘導アンフォールディング)
ファージのビオチニル化の後に、80μlの各200μlの試料をTHERMOWELL96ウェルプレート(Costar)に移した。この工程をもう一つの96ウェルTHERMOWELL96ウェルプレート(Costar)で反復した。第一のプレートを蓋で覆い、80℃にて10分間のインキュベーションのためにPCR装置に入れた(被覆蓋の温度:85℃)。加熱の後、プレートをPCR装置中で4℃まで迅速に冷却した。第二のプレートを氷上に維持した。次いで、双方のプレートを平行に処理した:(80μlの加熱したまたは加熱していないファージ上澄を含有する)各ウエルに、10%v/v TWEEN20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート:プロテインA-ベースのELISAのため)または10% w/v BSA(プロテインL-ベースのELISAのため)を補足した20μlのPBSを加え、混合した。次いで、試料をELISAによってアッセイした。
ELISAプレートのコーティングおよびブロッキング
MAXISORB96ウェルプレート(Nunc)を、個々のウェル当たり、10μg/mlのプロテインAを含有する100μlのPBS、または10μg/mlのプロテインLを含有する100μlのPBSいずれかで、室温にて一晩(約18時間)コートした。翌日、プレートを空にし、2%v/v TWEEN20(ポリオキシエチレンソリビタンモノラウレート;プロテインA-コートしたウェルのため)または2%w/v BSA(プロテインL-コートしたウエルのため)を補足した200μlのPBSでウエルをブロックした。プレートを37℃にて一時間インキュベートし、次いで、スクリーニングで用いる前に、PBSで3回洗浄した。
ファージELISA
加熱処理したまたは対照ファージ試料を、コートした/ブロックしたELISAプレートの空のウエルに移し、室温にて2時間インキュベートした。次いで、ウェルをPBSで6回洗浄することによって、未結合ファージを除去した。検出のために、(PBS中の1mg/mlストックからの)Str-HRPを、2%v/v TWEEN20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート;プロテインA-ベースのELISAのため)または2%w/v BSA(プロテインL-ベースのELISAのため)を補足したPBS中に1/2000希釈し、100μlのこの溶液を各ELISAウェルに加えた。室温での一時間のインキュベーションの後、ウェルをPBSで6回洗浄することによって、未結合Str-HRPを除去した。比色反応のため、TMB(テトラメチルベンジジン)の10mg/ml溶液を0.1M酢酸ナトリウムの緩衝液(pH6.0)中に100倍希釈した。次に、過酸化水素を加え(緩衝液/TMBのml当たり0.4μl)、100μlの得られた溶液を各ELISAウェルに加えた。色(青色)が生じた後、ウェル当たり50μlの1M硫酸を加えることによって、反応を停止させた(色は黄色に変化する)。450nmにおける各ウェルの光学密度を測定した。
結果
記載した方法を、五つの別々の研究においてファージをスクリーニングするために用いた:
リフォールディングで選択された3.25Gファージライブラリー(セクション2)からのクローン
リフォールディングにつき選択されたEP-VHファージライブラリー(セクション1)からのクローン
リフォールディングにつき選択されたEP-VKファージライブラリー(セクション1)からのクローン
VH-DP47dにおける10のミニ−ファージライブラリー(セクション10)からのクローン
VK-DPK9dにおける五つのミニ−ファージライブラリーからのクローン(セクション10)
各スクリーニングのために、陽性および陰性対照を用いて、%リフォールディング範囲を確立した:かくして、プロテインAについてのELISAでは、陰性対照はVH-DP47を提示するファージであり、陽性対照はHEL4を提示するファージであった。ここに示すように、(VH-DP47ダミーともいう)VH-DP47は、加熱し冷却した場合に可逆的にアンフォールディングされず;他方、HEL4(ランダム化CDR1、2および3を持つVH3スカフォールド(DP47染色系+JH4セグメント)に基づくライブラリーから選択された雌ニワトリ卵白リゾチウムに結合する単一VH)は、これらの条件下で可逆的にアンフォールディングする。かくして、プロテインLについてのELISAでは、陰性対照は、加熱し、冷却した場合に可逆的にアンフォールディングしないVK-DPK9を提示するファージであり、陽性対照は、(加熱した場合に可逆的にアンフォールディングするVKドメインにつきEP VKライブラリーをスクリーニングした後に得られた)VK-DPK9-A50Pを提示するファージであった。
ファージクローンの各シリーズでは、加熱されていない、および加熱処理したファージを、ELISAにおける結合につきテストした。このアプローチは、ファージに提示された抗体ポリペプチドのリフォールディング性の半定量的尺度を提供する。例えば、もし加熱されていないファージクローンがELISAによって例えば1.5のOD450を生じれば(ブランク上澄を用いるバックグラウンドの値を差し引くと1.45)、同一ファージクローンは、加熱処理後にELISAによって例えば0.6のOD450を生じ(ブランク上澄を用いるバックグランドの値を差し引いた場合0.55)、次いで、この特定のクローンの(加熱/冷却後に残るプロテインA-結合活性のパーセンテージに似せた)「パーセンテージリフォールディング」は(0.55/1.45)*100=29.0%である。
次いで、有意な%リフォールディングを生じたファージクローンを、VH遺伝子またはVK遺伝子インサートのDNA配列決定に付した(セクション6参照)加えて、選択されたクローンを第二のELISAに付して(セクション7参照)、リフォールディングを更に定量した。
セクション5:ファージスクリーニング2
ファージクローンの増殖および調製
50マイクロリットルのディスポーザブルチューブ(Corning)を個々のファージ増殖で用いた:各チューブに15μg/mlのテトラサイクリンを含有する11mlの2xTYで満たし、ファージ選択プロトコル(セクション3)を用いて、またはファージスクリーニング1(セクション4)の後に得られた選択された細菌クローンからの単一コロニーを接種した。チューブを振盪しつつ37℃にて一晩(〜18時間)インキュベートした。朝、3,300gにおける4℃での20分間の遠心によって細胞をペレット化して、細菌を除去した。上清を0.45umディスポーザブルフィルターを介して濾過した。ファージを沈殿させるために、2mlのPEG/NaCl(20%ポリエチレングリコール8000[Sigma;公式にはPEG6000として販売],2.5M NaCl)を80mlの上清に加え、混合した後、溶液を氷上で一時間インキュベートした。3,300gにおいて4℃にて30分間得られた混合物を遠心することによってファージを収集した。上清を捨て、チューブを軽く再度遠心し、残存するPEG/NaClを注意深く除去した。ペレットを0.2mのPBSに再懸濁し、次いで、新たなミクロ遠心チューブに移した。11,600gにおいて10分間ミクロ-遠心チューブを遠心することによって、残存する細菌デブリスを除去した。上清を新鮮なミクロ−遠心チューブに移し、氷上で貯蔵した。ファージ力価を分光測定によって見積もり:PBS中の100倍希釈物を調製し、260nmにおける吸光度を測定した。ファージ力価(ml当たりのTU)を式:OD260×1013×2.214で計算した。
ELISAによる結合したファージの検出を容易とするために、ファージをビオチニル化試薬で化学的に誘導体化した。この手法は、結合したファージが、ストレプトアミジンおよびホースラディッシュペルオキシダーゼのコンジュレート(Str-HRP,Sigma)を用いて検出されるのを可能とした。この戦略を選択して、ウェル中の結合したファージおよび固定化されたプロテインAまたはプロテインLを検出するのに用いられる抗体間の交差反応性の可能性を低下させた。かくして、100μlのPBS中の4×1010TUファージを、(回転プレート上で培地を攪拌しつつ)室温にて一時間、または4℃にて一晩50μM濃度のEZ-リンクスルホ-NHSビオチン(Perbio)を含有する100μlのPBSと反応させた。
ファージ熱変性(ファージ提示ポリペプチドの加熱誘導アンフォールディング)
ファージのビオチニル化後に、各クローンにつき、ファージの100μl試料を薄壁PCRチューブに移し(残存するビオチニル化ファージを氷上に維持した)。チューブを、80℃における10分間のインキュベーション用のPCR装置に入れた(被覆蓋の温度:85℃)。加熱の後、PCR装置中でチューブを4℃まで迅速に冷却した。次いで、双方のチューブ(加熱した試料および氷上に維持した試料)を平行して処理し:最初の八つの四倍希釈物は、適当な緩衝液(VH-DP47提示ファージのための2%v/v TWEEN20(ポリオキチエチレンソルビタンモノラウレート)を補足したPBS;またはVK-DPK9提示ファージのための2%w/v BSAを補足したPBS)中にて、同一クローンの加熱処理した、および加熱処理していない試料双方のために調整した。かくして、最高のファージ濃度を持つチューブにおいては、力価はml当たり1011TUであった。次いで、試料をELISAによるアッセイのために準備した。
ファージELISA
ELISAプレートをセクション4に記載したようにコートし、ブロックした。試料をコートした/ブロックしたELISAプレートの空のウェルに移し、室温にて2時間インキュベートした。次いで、ウェルをPBSで6回洗浄することによって、未結合ファージを除去した。検出のために、(PBS中の1mg/mlストックからの)Str-HRPを、2%v/v TWEEN20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート;プロテインAベースのELISAのため)または2%w/v BSA(プロテインLベースのELISAのため)を補足したPBS中で1/2000希釈し、100μlの得られた溶液を各ELISAウェルに加えた。室温における1時間のインキュベーションの後、ウェルをPBSで6回洗浄することによって、未結合コンジュゲートを除去した。発色反応のために、TMB(テトラメチルベンジジン)の10mg/ml溶液を0.1M酢酸ナトリウムの緩衝液(pH6.0)中で100倍希釈した。次に、過酸化水素を加え(緩衝液/TMBのml当たり0.4ul)、100ulのこの溶液を各ELISAウェルに加えた。色(青色)が発生した後、ウェル当たり50μlの1M硫酸を加えることによって反応を停止させた(色は黄色に変わる)。光学密度を450nmで記録した。
結果
この方法を5つの実験においてクローンをスクリーニングするのに用いた:
VH-DP47における個々のまたは多数のアミノ酸突然変異を持つクローン;
VK-DPK9における個々のまたは多数のアミノ酸突然変異を持つクローン;
TP47、BSA1、HEL4、pA-C(13,36,47,59,76,85)、VK-DPK9のようなクローン;および
有望な%リフォールディングを示した、VH-DP47における10のミニファージライブラリーからのクローンのサブセット。
BSA1は、ウシ血清アルブミンに結合し、加熱および冷却した場合に可逆的にアンフォールディングせず、かつ無作為化CDR1、2および3を持つVH3スカフォールド(DP47生殖系+JH4セグメント)に基づくライブラリーから選択された単一VHである。
各スクリーニングでは、陽性および陰性対照を用いて、%リフォールディングの範囲を確立した:かくして、プロテインAについてのELISAでは、陰性対照はVH-DP47を提示するファージであり、陽性対照はHEL4を提示するファージであった。かくして、プロテインLについてのELISAでは、陰性対照はVK-DPK9を提示するファージであり、陽性対照はVK-DPK9-A50Pを提示するファージであった。
スコアリングは以下の通り行った:各クローンでは、ファージを、8点希釈シリーズにおいて、加熱されていない試料として、および加熱処理した試料としてテストした。このアプローチは、なすべきファージに対して提示されたドメイン抗体のリフォールディング性についての定量的推定を可能とした。かくして、OD450を、半対数グラフにプロットし、(X-軸上、半対数スケールに従ってウェル当たり(TUで表した)ファージの濃度;Y-軸上、各ファージ濃度で観察されたOD450)、各データ点の間の単純な線形内挿によって一緒に連結した。
パーセントリフォールディングは、以下の実施例で説明するように計算した。各クローンにつき、特定のOD450(例えば、0.2)を生じたファージ濃度を計算した(未処理試料のファージ濃度についての1つの値、および加熱処理した試料についての1つの値)。未処理ファージではOD450は2×108であって、加熱処理したファージでは5×109であったと生じた濃度を仮定した。次いで、式:(2×108/5×109)*100=4%リフォールディングを用いてパーセントリフォールディングが計算されるであろう。このシステムを用い、我々は、ファージに対するVH-DP47についてのほぼ0.5%のパーセントリフォールディング、およびHEL4を提示するファージについての約18%リフォールディングを反復して観察した。
セクション6:DNA配列決定
可逆的熱アンフォールディングを呈する選択されたクローンからの可変ドメインをコードするDNAを以下のように配列決定した:
PCR反応混合物:
5μl 10×緩衝液
1μlプライマーLJ212(20pmol/ul)
1μlプライマーLJ006(20pmol/ul)
1μl 20mM dNTP
0.5μlTaq DNAポリメラーゼ
41.5μl H2O
50μlのPCR反応混合物を、96ウェルPCRミクロプレートの各ウェルにアリコットした。コロニー(Fd-Myc/TG1)を滅菌爪楊枝と穏やかに接触させ、PCR混合物に移した。爪楊枝を混合物中で約5回ねじった。混合物に鉱油を重ねた。PCRパラメーターは以下の通りであった:10分間の94℃、続いての:94℃30秒、50℃30秒、72℃45秒の30サイクル;および72℃5分における最終インキュベーション。QIAQUICK PCR産物精製キット(Qiagen)を用いて、増幅された試料を精製した。配列決定は、元のPCRプライマーのいずれかを用いて行った(LJ212および/またはLJ006)。
可逆的にアンフォールドする免疫グロブリン可変ドメインをコードするクローンの配列決定において検出された突然変異を表3および4に掲げる。
プライマー配列:
LJ006 5’ATGGTTGTTGTCATTGTCGGCGCA3’(配列番号:69)
LJ212 5’ATGAGGTTTTGCTAAACAACTTTC3’(配列番号:70)
セクション7:選択されたEP VHのリスト
表3 可逆的加熱アンフォールディングにつき選択されたEP-VHライブラリーからのクローンで見出された突然変異
mは中程度のELISAシグナルを示し、Hは高いELISAシグナルを示す。
表4 可逆的加熱アンフォールディングにつき選択されたEP-VHライブラリーからのクローンにおける突然変異の頻度
セクション8:選択されたEP VKのリスト
表5 可逆的加熱アンフォールディングにつき選択されたEP-VKライブラリーからのクローンで見出された突然変異
選択された全てのクローンは高いELISAシグナルを与えた。
表6 可逆的加熱アンフォールディングにつき選択されたEP-VKライブラリーからのクローンにおける突然変異の頻度
セクション9:選択された3.25G VHのリスト
加熱/冷却ファージ選択(セクション3参照)にてライブラリー3.25Gを選択した後、大規模なスクリーニング(セクション4参照)を行って、熱変性後にファージに提示した場合にリフォールディングされたVHクローンを同定した。
本明細書に記載されたELISAにおいて、加熱処理されたおよび対照ファージのプロテインAへの結合を評価することによってクローンを分析した(図3A〜3F)。60%リフォールディングを超えるクローンは、さらに、配列決定によって分析した。図4A〜4Cは、60%リフォールディングを超えるクローンの配列を示す。図4A〜4Cに存在する配列の最初の組は、ELISAにおいて高いOD450および高い%リフォールディングを与えるクローンからのものである。これらの配列はシステインを含まない。配列のこの群は、CDR1、CDR2およびCDR3の全ての位置におけるアミノ酸優先性の分析のためのデータセットを形成する。
図4A〜4Cにおける配列の次の組は、優れたELISAシグナルおよび良好なリフォールディングを持つクローンからのものである。これらのクローンはCDRの外部に突然変異を含む。
図4A〜4Cにおける配列の最終の群は、比較的低いELISAシグナルおよび/またはリフォールディングからのものである。
図4A〜4Cに掲げた配列から、6つのクローンを選択し、(提示されたポリペプチドとして)および可溶性タンパク質としてファージにつき詳細にさらに分析した。選択した6つのクローンをpA-C13、pA-C36、pA-C47、pA-C59、pA-C76およびpA-85という(クローンは、接尾辞のみを用いて図4A〜4Cで確認される、すなわち、「pA‐C13」は「C13」である)。
加えて、個々の突然変異体をDP47に設計し、(提示されたポリペプチドとして)、これらの突然変異体のいくつかでは可溶性タンパク質として、ファージに対するリフォールディングにつき分析した。特定の突然変異は以下の通りであった:F27D、F29V、F27D/F29V、Y32E、S35G、F27D/F29V/Y32D/S35G、S53P、G54D、S53P/G54D、W47R、F100nV、Y102S、F100nV/Y102S、W103R。
これらのクローンは、(3つのデータ点を取った以外はセクション5のプロトコルに従って)ファージについての、および溶液中でのリフォールディング性につき特徴付けた。溶液中のリフォールディングについては、熱変性に続いてCDを行った(セクション12)。これらの研究の結果を表7に掲げる。
表7
※Yは溶液中でのリフォールディング性を示し、Nは、可変ドメインが溶液中でリフォールディング性ではないことを示し、nd=測定せずであった。
セクション10:ミニライブラリープロトコル
温度選択ライブラリー(エラープローンおよびG3.25ライブラリー)からのクローンで見出されたアミノ酸置換の位置は、その特定の位置における全配列スペースが調べることができるように分析した。
エラープローンPCRは限定された配列スペースをサンプリングする。例えば、1bp変化/鋳型の頻度を有するエラープローンVKライブラリーから選択されたA50P置換は、合計してただ6つのさらなるアミノ酸をサンプリングするであろう。位置50におけるアラニンはコドンGCTによってコードされる。1塩基だけのこのコドンの変化は、引き続いてのコドン順列およびアミノ酸を与える:
アラニン=GCT、GCA、GCG、GCC
アスパルテート=GAT
グリシン=GGT
プロリン=CCT
セリン=TCT
スレオニン=ACT
バリン=GTT
コドンNNK(N=A、G、CまたはT;K=GまたはT;M=AまたはC)により特定の部位において無作為化されたオリゴヌクレオチドをPCR戦略で用いて、全配列スペースをサンプリングした(表8参照)。VKについては、2ステップPCR戦略を用いた(Landt,O.ら Gene 96:125-128(1990)参照)。(「メガ−プライマー」とも言う)第一のPCR産物は、すでに記載したFd-MycへサブクローニングするためのApaL 1またはNot 1制限部位を運ぶ順方向または逆方向Fd-Mycプライマーのうちの1つとともにNNK変化(表8および9参照)を運ぶオリゴヌクレオチドを用いて創製した。
VK Fd-Myc PCRプライマー:
5’GAG CGC CGT GCA CAG ATC CAG ATG ACC CAG TCT CC3’(配列番号:71)
5’GAG TCG ACT TGC GGC CGC CCG TTT GAT TTC CAC CTT GG3’(配列番号:72)
制限部位ApaL 1(GTGCAC)およびNot 1(GCGGCCGC)は下線を施す。プライマーは5’末端でビオチニル化した。ApaL 1部位を取り込むと、VHおよびVK双方の最初のアミノ酸がグルタミンとなる。
DPK9をDNA鋳型として用いた。第一のPCR産物またはメガプライマーは、引き続いて、第一の反応では用いられなかった第二のFd-Mycプライマーと共に第二のPCR反応で用いた。このPCRは、Fd-Mycにおける各部位へサブクローニングするのに適したApal1/Not1制限部位を含む産物を生じた。
VHについては、SOE PCRを使用した(Horton, R.M. ら Gene 77:61-68 (1989)参照)。SOE PCRによって置換を生じさせるのに用いるプライマーは表9に示す。突然変異誘発された産物の増幅およびFd-MycにおけるApaL 1およびNot 1部位への引き続いてのサブクローニングに必要なさらなるプライマーは以下の通りである:
5’GAG CGC CGT GCA CAG GTG CAG CTG TTG3’(配列番号:73)
5’GAG TCG ACT TGC GGC CGC GCT CGA GAC GGT GAC3’(配列番号:74)
表8 NNKコドンを含むVKオリゴヌクレオチド
a位置45、48、49および50についてのプライマーは逆/アンチセンスストランド、よって、NNKないしKNNの逆に対するものであり、ApaL 1部位を含むコード鎖に対して設計されたVK Fd-Mycプライマーとの第一のPCR反応で用いた。逆に、位置75はコード鎖に対して設計され、Not 1部位を含むアンチセンスFD-Mycプライマーで用いた。
表9 SOE PCRのためのVHオリゴヌクレオチド
一旦組立て、消化したならば、PCRフラグメントをFd-mycのApaL 1およびNot 1部位に連結した。連結されたDNAを用いて、エレクトロポレーションによってE.coli TG1細胞を形質転換した。37℃における1時間の表現型発現の後、細胞を、15ug/mlのテトラサイクリンを補足したTYEプレート上で平板培養した。
ミニライブラリーのスクリーニングについては、培養をセクション4に記載したように96ウェル細胞培養プレートで作成した。適当な制御のためには、3つのウェル(通常A1、D6およびH11)を陽性対照ファージ(例えば、Fd-myc-HEL4)で接種し、3つのウェルは陰性対照ファージ(例えば、Fd-myc-DP47d)で接種した。残りの90ウェルはミニライブラリーからの90の異なるクローンで接種した。このプレート調製手法を各ミニライブラリーで反復した。
各ミニライブラリーからの90クローンの使用は、コードされた多様性をカバーするのに十分である。事実、NNKコドンを用いて各位置を多様化したので、可能な32の異なるコドンがある。90のクローンのスクリーニングは、各可能なコドン(および、よって、アミノ酸)がスクリーニングされたミニライブラリー中で少なくとも1回存在する90%の確率を超えることを確実とする。これは、開発された(無作為化された)位置における全ての可能なアミノ酸置換をスクリーニングがカバーすることを確実とする。ファージのビオチニル化、およびELISAによる検出/選択の手法はセクション4に記載される。
いくつかのファージは、良好なリフォールディングを示したVHミニライブラリーから得た。次いで、これらのファージをファージスクリーニング2手法(セクション5)に付して、リフォールディングに関してより定量的なデータを得た。
セクション11:dAbのサブクローニング、発現および精製
サブクローニング
選択された置換は、E.coli BL21(DE3)(pLysS)における発現用の発現プラスミドにサブクローン化した。選択されたFd-MycファージクローンからのDNAは、Sal 1およびBamH 1制限部位を含むプライマーを用いるPCRによって増幅した。該プロトコルは、実質的に、PCRによるDNA配列決定、Fd-Myc/TG1コロニーからのVHまたはVK DNAの単離につき記載されたものである。用いたプライマーを表10に示す。順方向プライマーはさらなる2つのアミノ酸(SerおよびThr)をN-末端に導入した。これはSal 1制限部位の創製の結果である。逆方向プライマーは、コーディング領域の末端において2つの連続停止コドン(TAA)を有するように設計された。
表10 サブクローニングのためのオリゴヌクレオチド
発現および精製
発現プラスミドクローンを含む新たに形質転換されたE.coli株BL21(DE3)pLysSからのコロニーを37℃,250rpmにおいて2xTY(アンピシリン/クロラムフェニコール)中で一晩増殖させた。次いで、一晩培養の1/100アリコットを用いて、同一培地のより大きな容量を接種し、同一条件下でOD600=0.9まで増殖させた。次いで、1mM IPTG(イソプロピル β,D−チオガラクトシダーゼ)を培養に加え、培養を30℃,250rpmにおいて一晩増殖させた。次いで、培養を3300gで4℃にて20分間遠心した。次いで、上清を0.45μmフィルターを通して濾過した。
次いで、可溶性VHまたはVK dAbをプロテインAまたはプロテインLマトリックス(プロテインAアガロースまたはプロテインLアガロース)上に捕捉した。培養容量に応じて、上清は予め充填されたプロテインAまたはLマトリックスカラムに直接負荷し、あるいはマトリックスを上清に直接加えた(バッチ結合)。バッチ結合からの溶出は、収集されたマトリックスから直接達成することができるか、あるいはマトリックスを適当なカラムに充填することができる。プロテインAまたはプロテインLマトリックスからの溶出は、低いpHで行った。dAbは、さらに、Superdex75(Amersham Pharmacia Biotech)を用いるゲル濾過によって精製することができる。
セクション12:CD分析
精製されたdAbはPBS中で4℃にて一晩透析し、(必要であれば)(20℃にて)Millipore 5K分子量カットオフ遠心コンセントレーターチューブを用いる遠心によって濃縮した。PBS中の1〜5μMにおける1.5mlのdAbをCDキュベット(1cm経路長)に移し、Jasco J-720分光偏光計に導入した。室温(25℃)または高温(85℃)におけるスペクトルを、12nm/分のスキャンスピード、2nmのバンド幅および1秒の積分時間にて、200nm〜250nmで遠-UVで記録した(4回蓄積し、続いて平均を取った)。
加熱誘導アンフォールディング曲線は、2nmバンド幅を用いて固定された波長(通常235nm、時々225nm)で記録した。キュベット中の温度は1時間当たり50℃の速度で25℃から85℃まで上昇させた。データは、1/20秒-1の読み頻度、1秒の積分時間および2nmバンド幅で獲得した。アンフォールディングの後、試料を25℃まで迅速に冷却し(15℃/分)、スペクトルを記録し、新しい加熱誘導アンフォールディング曲線を記録した。
加熱誘導変性により可逆的にアンフォールドするdAb分子の能力は、第一および第二の加熱誘導アンフォールディング曲線を比較することによって見積もった。スーパーインポーザブル第一および第二加熱誘導アンフォールディング曲線は、dAbが、1ないし5μMにおいてPBS中で可逆的に熱アンフォールディングを受けたことを示す(例えば、pA-C36,pA-C47)。それは、遠-UVスペクトルでも当てはまり:25℃で記録したスーパーインポーザブル第一および第二スペクトルは、dAbが可逆的にアンフォールディングされることを示した(図8)。
もしdAbが熱アンフォールディングに際して凝集するならば、第一のアンフォールディング曲線は、融解に際しての急な転移および(凝集体の蓄積による)「ノイジー」転移後線によって特徴付けられる。さらに、第二のアンフォールディング曲線は第一のものとは径方向で異なり:融解転移は稀にしか検出できない。何故ならば、試料を冷却するに際して、アンフォールディングされた分子は適切にはリフォールディングされるものはないか、または非常に少ないからである。その結果、第一および第二遠紫外スペクトルはかなり異なり、後者は変性分子を用いて観察されたものにより似ている。凝集するdAbの典型的な例はDP47ダミー、またはDP47-W47R(図9)である。
いくつかのdAbは1〜5μMにおいて部分的リフォールディングを呈し(例えば、DP47-S35G):すなわち、冷却に対して、楕円性の一部(および、従って、元の二次構造の部分)が回復され、融解転移が試料の再加熱に際して観察される(図10)。リフォールディングのパーセンテージを計算するために、第一の熱的変性後に回復された楕円性の量を、第一の熱変性前の試料の楕円性の量で割り、100をかける。
このアッセイを用い、以下の単離されたヒトVH dAbは、不可逆的熱アンフォールディングを受けることが示された:DP47ダミー、BSA1、DP47-F29V、DP47-W47R、DP47-G54D、DP47-W103R。
十分に可逆的なアンフォールディングは、以下の単離されたヒトVH dAbで示された:HEL4、pA-C13、pA-C36、pA-C47、pA-C59、pA-C76、pA-C85、DP47-F27D、DP47-Y32D、DP47-F27D/F29V/Y32E/S35G。他方、DP47-S35Gは、程度は低いが、可逆的なアンフォールディングを示す。
セクション13:VKにおけるミニライブラリーの結果
ファージELISAおよびクローンのスコアリングは、セクション4のプロトコルに従って行った。可逆的熱アンフォールディングを示した選択されたクローンのDNA配列決定はセクション6のプロトコルに従って行った。
表11 可逆的熱アンフォールディングにつき選択されたVKミニライブラリーからのクローンで見出された突然変異
表12 熱処理後におけるプロテインL結合活性の70%を超える保持を与えた位置45における置換
aK45E、I48N、Y49D/N、A50PおよびI75Nにおける単一置換は、以前、エラープローンファージディスプレイライブラリーから選択された温度であった(セクション1)。エラープローンPCRは限定された配列スペースをサンプリングする。よって、これらの部位は、全体的配列スペースが調査されるようにNNKオリゴヌクレオチド突然変異誘発によってランダム化された。
b各ミニライブラリーからの94クローンからのファージを、10分間で80℃まで加熱した後におけるプロテインL結合活性の保持につきスクリーニングした。熱処理に先立ってファージをビオチニル化し、引き続いて、プロテインLをコートしたプレートに捕捉し、ストレプトアビジンHRPで検出した。各ライブラリーからの、70%を超える活性を持つほぼ10のクローンを配列決定に付した。配列の合計数は、時々、第二部位の置換ならびに貧弱な配列シグナルのため10未満である(例えば、活性の高い保持を与えることが見出された複数の置換は以下の通りであった:K45T/Q90P;K45D/S60P;Y49R/S10F;Y49S/T20A;Y49S/Q27R;A50P/I48V;A50R/A13G/K42E)。
0ないし10%の範囲の活性を持つA50Xミニライブラリーからの5つのクローンは以下の配列:2A、1T、1V、1Yを与えたことに注意されたし。
c位置I75における置換は部分的結果を示す。
セクション14:VHにおけるミニライブラリーの結果
ファージELISAおよびクローンのスコアリングはセクション4のプロトコルに従って行った。加熱し冷却した場合に可逆的にアンフォールドする選択されたクローンのDNA配列決定はセクション6のプロトコルに従って行った。
表13
選択されたアミノ酸欄において、()中の数は、ファージELISAスクリーニングによって陽性としてピックアップされたこの突然変異を運ぶクローンの数に対応する。最良%リフォールディング(すなわち、プロテインA ELISA)において、()中の数は、特定の突然変異を運ぶ全てのクローンで観察されたリフォールディングの平均%に対応する。
偽突然変異(Ser25からPro)は以下の突然変異を運ぶクローンで見出された:A84E、またはA33V、またはA33E、またはA33Q。S25P突然変異はリフォールディングに対して正の効果を有し、意図された位置の突然変異の効果を凌ぐような可能性がある。
次いで、セクション5に記載されたプロトコルに従って、多数の陽性クローンをさらにファージについてのリフォールディングにつき分析した。結果を表14に掲げる。
表14
Ref.はセクション5のプロトコルに従ってプロテインA結合によって決定したファージに対する%リフォールディングを意味する。SE-15は、Cys22(包含)からTrp36(包含)への配列のセグメントのS/E疎水性スコアを表す:そのセグメントにおける特定のクローンの各アミノ酸の疎水性スコアを加え、次いで、15で割る。Quadは四重突然変異体を意味する(すなわち、F27D/F29V/S35G/Y32E)。
セクション15:熱変性によるファージにつき選択された凝集抵抗性ドメイン抗体
タンパク質の凝集はバイオテクノロジーにおける問題である。ここに、我々は、熱変性による凝集抵抗性ポリペプチドを選択する方法を記載する。これは凝集する傾向がある抗体重鎖可変ドメイン(dAb)で説明される(Ward, E.S.,ら、Nature 341,544-546 (1989);Ewert,S.ら、Biochemistry 41,3628-3636 (2002))。該dAbは繊維状バクテリオファージの感染性先端に多価的に掲示され、一過的に加熱されて、アンフォールディングを誘導し、dAbの凝集を促進した。冷却の後、dAbをプロテインA(フォールディングされたdAbに結合する共通の一般的リガンド)への結合につき選択した。可逆的にアンフォールディングしたdAbを提示するファージは、プロテインAへの結合により、そうではない場合に対して富化される。ファージdAbのレパートリーから、6つのdAbを選択後に特徴付け;凝集に抵抗した全ては可溶性であり、細菌からよく発現され、高収率で精製された。これらの結果は、本明細書中に記載された方法を用いて、凝集抵抗性ポリペプチドを産生し、タンパク質のミスフォールディング病の原因となるものを含めたタンパク質凝集を促進または防止するアミノ酸残基、配列または特徴を同定することができる(Dobson,C.M.Trends Biochem Sci 24,329-332 (1999); Rochet,J.C.& Lansbury,P.T.,Jr.Curr Opin Struct Biol 10,60-68 (2000))。
ヒトVH dAbとは対照的に、ラクダおよびラマのそれらは、90℃もの高い温度での加熱に際してさえ凝集に対して抵抗することが示されている(Ewert, S.ら、Biochemistry 41,3628-3636 (2002)); Dumoulin, M.ら、Protein Sci 11,500-515(2002); van der Linden,R.H.ら、Biochim Biophys Acta 1431,37-46(1999))。この顕著な特性は可逆的アンフォールディングに帰せられておりβ-シートスカフォールドにおける一連の高度に保存された圧倒的に親水性の突然変異が、この挙動を説明すると提案されている(Ewert S,ら、Biochemistry 41,3628-3636 (2002); Dumoulin,M.ら、Protein Sci 11,500-515 (2002))。本明細書中に記載するように、HEL4というヒトVHdAbは、ラクダおよびラマのそれと同様な生物物理学的特性を有する(また、Jespers,L.,ら、J Mol Biol 337,893-903 (2004)参照)。例えば、HEL4 dAbは、56μMもの高い濃度にて62.1℃ (Tm)を超えて可逆的にアンフォールディングした。DP47d dAb(HEL4 dAbと同一の生殖系遺伝子によってコードされた典型的なヒトVHdAb)の5.0μM溶液を加熱するのとは対照的に、55℃を超えると、凝集体の不可逆的アンフォールディングおよび形成に導かれた(Jespers,L.,ら、J Mol Biol 337,893-903(2004))。ヒトHEL4 dAbはβ‐シートスカフォールドにおける突然変異を欠いており、相補性決定領域(CDR)を含むループ中の突然変異によってのみDP47d dAbとは異なる(表15)。我々はHEL4およびDP47d dAbを用いて、不可逆的に凝集するものから可逆的にアンフォールドするヒトVHdAbを選択する方法を開発した。
HEL4およびDP47d dAbは繊維状バクテリオファージの表面に多価状態で提示され、それにより抗体表現型および遺伝子型の間のリンク、および選択の強力な手段を提供する(McCafferty, J.,ら、Nature 348,552-554(1990))。変性を誘導するためには、融合ファージ(ml当たり5×1011形質導入単位(TU/ml))を10分間で80℃まで加熱し;ファージキャプシドはこの温度に耐えたが(Holliger, P.,ら、J Mol Biol 288,649-657(1999))、dAbは耐えず、これは60℃を超えるとアンフォールドする(Ewert. S., et al. Biochemistry 41,3628-3636(2002))。冷却の後、ファージ提示dAbを、プロテインA(これらのフォールディングされたdAbに共通した一般的リガンド)に対するファージELISAによってリフォールディングにつきアッセイした。結合はHEL4ファージについては3倍低下したがDP47dファージについては560倍低下した(図15A)。これは、HEL4 dAbがかなりの程度ファージ先端で可逆的にアンフォールディングし、DP47d dAbはそうしなかったことを示唆した。
加熱に際して凝集するDP47d dAb
陰性に染色されたファージの透過型電子顕微鏡によって、90%を超える加熱されたDP47dファージ(図16Aおよび図16B)がそれらの先端を介して一緒に連結していることが観察され、他方、未処理DP47dファージまたは加熱されたHEL4ファージでクラスタリングは見られなかった(図16C)。ファージのこれらのクラスターは、加熱変性後におけるDP47dの凝集の直接的証拠を提供する。クラスターの出現は、ファージの高濃度およびファージ先端におけるdAbの高い局所濃度の(先端当たりの提示されたdAbの数)双方を必要とする。ウェスタンブロット分析は、多価ファージについては、5つのpIIIコートタンパク質の〜80%が融合dAbを運び、一価ファージでは〜20%が運ぶことを示す(図16D)。かくして、1×109TU/mlの力価における多価DP47dファージまたは5×1011TU/mlの力価における一価DP47dファージの加熱に際してはファージクラスターは観察されず、双方の場合において、プロテインAへの結合は、各々、8倍および6倍低下したに過ぎなかった(図15B)。いずれかの特定の理論に拘束されるつもりはないが、ファージを80℃まで加熱するに際して、DP47d dAbの凝集は、ファージ先端におけるミクロ凝集体の形成(ファージ内ステップ)に次いで、ファージクラスタリングによってオリゴマー凝集体に成長する(ファージ間ステップ)ことによって核となり、よって、我々のファージ系における凝集は、他のタンパク質について記載されているように(Dobson,C.M.Trends Biochem Sci 24,329-332(1999))2-ステッププロセスに従うようである。
可逆的にアンフォールディングしないdAbを提示するファージを加熱すると感染性が低下する。
80℃において加熱すると、野生型線状ファージで以前に観察されたように(Holliger,P.,ら、J Mol Biol 288,649-657(1999))HEL4ファージの感染性をわずかに低下させる(3倍降下)が、DP47dファージの感染性をかなり低下させた(≧70倍降下)(図15C)。加熱されたDP47dファージの感染性は、dAbをpIIIプロテインに結合するdAb及び/又はペプチドリンカー間で恐らく切断するであろうトリプシンの添加によって部分的に回復できた。これらの観察は、DP47d dAbのファージ内およびファージ間凝集体がpIIIプロテインのN-末端ドメインが細菌毛および/またはTol A受容体に結合するのを妨げるモデル(Holliger,P.,ら、J Mol Biol 288,649-657(1999))と合致する。
HEL4およびDP47d dAbを提示するファージを、各々、1:106の比率で混合し、80℃で10分間インキュベート、冷却し、固定化されたプロテインAに対して選択する選択を行った。結合したファージをトリプシンで溶出し、細菌を再度感染させるのに用いた。かかる選択の2ラウンドの後、感染したコロニー(n=86)からの上清を、固定化された雌ニワトリ卵リゾチーム(HEL)に対してELISAによってテストしてHEL-特異的、HEL4ファージをDP47dファージから区別した。12のコロニーからのファージは、雌ニワトリ卵リゾチームに結合した(選択ラウンド当たりのHEL4ファージの360倍富化に相当して)。加熱工程なくしてプロテインAに対する選択を反復した場合、86のテストしたコロニーのうちHEL4ファージを分泌したものはなかった。かくして、プロテインAに対する加熱変性およびバイオパニングの2ラウンドによって、熱凝集に抵抗したファージbAbを抵抗しなかったものから選択した。
ヒトVH dAbのレパートリー(1.6×109クローン)は、DP47d dAbにおけるCDRを含むループの多様化によって調製し、多価的にファージに提示された。3ラウンドの加熱変性、続いてのプロテインAに対する選択の後、200のコロニーのうち179は、加熱後にプロテインA-結合活性の80%を超えて保持したdAbファージを分泌した。20のクローンを配列決定し、CDR配列における大きな可変性および長さを持つ多くのユニークなdAb配列として明らかにされた(表15)。多様性は、HEL4に関しては、CDRを含むループ中に完全に位置する突然変異が凝集に対する抵抗性を付与するのに十分であることを示す。これらのdAbの18は酸性の等電点(5.1±1.1,平均±SD)を有し、これは、正味のタンパク質電荷および凝集に対する抵抗性の間の直接的相関の初期の提案と合致する(Wilkinson,D.L.& Harrison,R.G. Nature 341,544-546(1991);Chiti,F.ら、 Proc Natl Acad Sci USA.99,16419-16426(2002))。
10ないし20アミノ酸を含むCDR3を持つ6つのdAbをさらなる特徴付けのために選択した(C13,C36,C47,C59,C76,およびC85)。これらのタンパク質は細菌からよく分泌され、C36,C47およびC59dAbは、DP47d dAbについての2.9mg/Lに過ぎないのと比較して細菌上清における20mg/Lを超える収率で回収された(表16)。固定化されたプロテインAでの精製の後に、dAbをSUPERDEX-75カラム(ゲル濾過カラム;Amersham Biosciences)でのサイズ排除クロマトグラフィーに付した。dAbは単分散対称ピークとして溶出し、回収はほとんど定量的であり、これは、他のヒトdAbとは対照的に(Ewert, S.,ら、Biochemistry 41,3628-3636(2002);Ewert,S.,ら、J Mol Biol 325,531-553(2003))、それらはカラムマトリックスに粘着しなかったことを示す。dAbは、モノマーdAb種についての13ないし14kDaの計算された分子量(Mr-calc)と同様な、17kDa(範囲10ないし22kDa)の平均見掛け分子質量(Mr-app)で溶出した(図17A)。Mr-appの変動が他のdAbで観察されており(Ewert,S,ら、Biodhemistry 41,3628-3636(2002);Ewert,S.,ら、J Mol Biol 325, 531-531(2003)、カラムマトリックスまたはモノマー/ダイマー平衡との弱い一時的な相互作用に由来し得る(Sepulveda,J.,ら、J Mol Biol 333,355-365(2003))。重要なことには、5μMにおいては、各選択されたdAbは、反復されたサイクルの熱変性に際して可逆的かつ協働的にアンフォールディングした(図17B)。かくして、選択されたdAbは凝集に抵抗したのみならず、ラクダおよびラマdAbで報告されているように(Ewert,S.,ら、Biochemistry 41,3628-3636(2002);Arbabi Ghahroudi,M.,ら、FEBS Lett 414,521-526(1997))、主としてモノマーであり、よく発現され、ゲル濾過によって良好な収率で精製された。
抗原に対する選択
前記した研究においては、該レパートリーの各メンバーに結合する一般的リガンドであるプロテインAが選択で用いられた。しかしながら、いずれの所望の抗原を用いても、所望の抗原特異性と可逆的アンフォールディングの特性とを組み合わせるdAbを選択することができる。これは、加熱変性工程の有りおよび無しにて、ヒト血清アルブミン(HSA)への結合についての合成ヒトVHレパートリーの選択、続いての、2ラウンドの選択の後におけるHSAの結合についての44クローンのスクリーニングによって示された。加熱工程がない場合に、HSAに結合した6つのユニークなdAbクローン(表15)が選択された。加熱工程を使用した場合、単一のdAbクローン(クローン番号10,表15)が回収された。クローン番号10のみが、他のクローンの3つとの配列の密接な同様性にも拘らず(番号2、番号5、番号6および番号10は92%同一性配列を共有する)、可逆的アンフォールディングの特性を呈した(他の10%未満の保持された結合シグナルと比較して、クローン番号10ファージを加熱した後にHSA結合シグナルの100%が保持された)。
考察
タンパク質凝集はフォールディング経路に競合するオフ‐経路プロセスであり、通常、アンフォールディングされた状態、または部分的にアンフォールディングされた状態の会合を含む。凝集に対する抵抗性は、天然状態を安定化させる(フォールディングの自由エネルギー、増加したΔGN-U)および/または(例えば、これらの状態の溶解性を増加させることによって)アンフォールディングされたかまたは部分的にアンフォールディングされた状態の傾向を低下させて凝集させる突然変異を導入することによって達成することができる。(i)ファージの感染性を提示されたタンパク質のタンパク質分解抵抗性とリンクさせることによって(Kristensen,P.& Winter,G.Fold Des 3,321-328(1998);Sieber,V.,ら、Nat Biotechnol 16,955-960(1998);Martin,A.,ら、J Mol Biol 309,717-726(2001))および/または(ii)提示されたタンパク質を上昇した温度または変性剤で攻撃することによって(Shusta,E.V.,ら、Nat Biotechnol 18,754-759(2000);Jung,S.,ら、J Mol Biol 294,163-180(1999))、改良された安定性を持つタンパク質変種につき選択するのに、いくつかの選択戦略が工夫されてきた。今日まで、最も安定なタンパク質変種を除いて全ての脱安定化し(およびその除外を促進する)ことに焦点が当てられてきた。例えば、ファージ抗体ライブラリーを60℃まで加熱することによって、Jungら(J Mol Biol 294,163-180(1999))は、改良されたΔGN-U(+3.7kcal/モル)を持ち、60℃でフォールディングされたままであった4D5Flu抗体フラグメントの変種を選択した。この温度を超えると、抗体フラグメントがアンフォールディングされる結果、抗体フラグメントを提示するファージを加熱した場合、凝集および感染性の喪失がもたらされた。
対照的に、本明細書中に記載した研究では、選択は、レパートリーにおける全てのdAbのアンフォールディングを同様に安定および不安定に誘導することを含んだ。この選択プロセスはアンフォールディングされたdAbの、80℃で加熱し冷却するに際して、ファージ先端の不可逆的凝集を回避する能力に対して行われる。選択されたdAbのフォールディング特性は天然状態の安定化に帰すことができない。なぜならば、選択されたdAbの熱力学的安定性の生物物理学的分析は、選択されたドメインが典型的な凝集傾向のヒトdAbよりも安定ではないことを示すからである。かくして、25℃におけるフォールディングの自由エネルギー(ΔGN-U)(14ないし23kJ/モル)(表16)は、DP47d dAb(35kJ/モル)および同一ヒトDP47/3-23生殖系セグメントに基づく他の凝集傾向dAb(39.7ないし52.7kJ/モル)のそれよりも低い(Tomlinson,I.M.,ら、J Mol Biol 227,776-798(1992);Ewert,S.,ら、Biochemistry 41,3628-3636(2002))。熱変性を用いる記載された選択プロセスは、アンフォールディングされたまたは部分的にアンフォールディングされた状態の好都合な特性を選択するようである。
これらの選択されたdAbの他の有益な特性は、凝集に対するそれらの抵抗性に直接従うようである。例えば、これらの凝集‐抵抗性dAbにつき得られた高レベルな発現は、大腸菌における組換え抗体フラグメントの産生用の主な収率‐限定因子としてのペリプラズム凝集体の同定と合致する(Woern,A.& Plueckthun,A.J Mol Biol 305,989-1010(2001))。加えて、ここで選択されたdAbはゲル濾過に際して均一に「非粘着性」であった。
本明細書中に記載した方法を用いて、(例えば、多価状態で)線状バクテリオファージの表面に機能的に提示することができ、かつポリペプチド(例えば、適切にフォールディングされたポリペプチドに結合する抗体、適切にフォールディングされたポリペプチドに結合するレセプター)の適切にフォールディングされた状態のみを認識するリガンドによって結合され得る他のポリペプチド(例えば、細菌ペリプラズムで発現されたポリペプチド)の改良さればバージョンを作成することができる。かかるポリペプチドを(例えば、ランダム突然変異を設計することによって)多様化させ、ファージに提示され、変性され、天然状態に許容される条件に復帰した(リフォールディング)後にバイオパニング(または他の適切な方法)によって選択することができる。また、本明細書中に記載された方法は、タンパク質ミスフォールディングの病気に関連したものを含めた、フォールディングに際してのタンパク質のオフ−経路凝集に関与するアミノ酸残基またはポリペプチドセグメントを同定するための分析ツールを提供する(Dobson,C.M.Trends Biochem Sci 24,329-332(1999); Rochet,J.C.& Lansbury,P.T.,Jr.Curr Opin Struct Biol 10,60-68(2000))。
表15 この研究で記載したdAbのCDRを含むループの配列
1Kabatらに従って規定されたCDR1、2および3、およびChothiaらに従う構造ループH1、2および3。与えられた配列はFR3のこれらの領域および残基94を共に含む。
2Kabat et al.に従う残基ナンバリング
3プロテインA(a)およびヒト血清アルブミン(b)に対して選択されたクローンの配列
4L:H3-CDR3のアミノ酸の長さ
4このクローンもまたフレームワーク2においてTrp47からCysへの突然変異を含む。
表16 選択されたdAbの生物物理学的および発現データ
1可逆的アンフォールディング(またはDP47 dAbについての凝集)に際しての中点転移の温度
2熱-変性曲線から得られた熱力学的安定性値
325℃における尿素‐誘導変性曲線から得られた熱力学的安定性値(未公表データ,L.J.,O.S.,G.W.およびL.C.James)
4Superdex G75から溶出されたピーク(複数ピーク)の面積を積分することによって得た
55.0 OD600nmに対して正規化された細菌培養の1L上清から得られた精製されたタンパク質の収率
6多量体種として移動した試料の7%に相当するピーク
7nd:測定せず
方法
ヒトVHdAbライブラリーのファージディスプレイ。dAbレパートリーは、以下のようなDP47d dAbの配列中の数個のコドンのオリゴヌクレオチド‐媒介多様化によって2-ステップで作成した(アミノ酸位置についてのKabatナンバリングおよびヌクレオチドについてのIUPAC-IUBコード):27,KWT;28,ANS;29,NTT;30,ANC;31,NMT;32,NAS;33,DHT;35,RSC;50,RSC;52;NNK;52a,RNS;53,VVW;54,CGT;94,RSW;101,NVS;102,THT;および95ないし100x(ここに、xはアルファベット順にaからkの範囲である)の全てのCDR3位置についてのNNKコドン。PCRによって、DNAインサートにApaLI(5’末端)およびNotI(3’-末端)部位と近接させ、消化し、NotI部位および遺伝子IIIの間にc-mycタグを含むfdCAT1(McCafferty,J.,ら、Nature 348,552-554(1990))から由来する多価ファージベクターであるfd-mycの対応する部位に連結した。連結産物をエレクトロポレーションによって大腸菌TG1細胞に形質転換し、15μg/mlのテトラサイクリンを補足した2xTYプレート(2xTY-Tet)上で平板培養し、1.6×109クローンのライブラリーを得た。一価提示では、(NcoI-NotI DNAフラグメントとしての)dAb遺伝子を、NotI部位および遺伝子IIIの間に((His)8およびVSVタグを含むpHENI(Hoogenboom,H.R.ら、Nucleic Acids Res 19,4133-4137(1991))に由来するファージミドベクターであるpR2の対応する部位に連結した。記載されているように(McCafferty,J.,ら、Nature 348,552-554(1990);Hoogenboom,H.R.ら、Nucleic Acids Res 19,4133-4137(1991))ファージを調製し、精製し、次いで貯蔵した。ファージタンパク質の分析では、1×1010形質導入単位(TU)をSDS PAGE (4ないし12% Bis-Trisゲル,Invitrogen)に付し、検出のためにPVDF Immobilon-P膜(Millipore)に移し;ブロックされた膜をネズミ抗-pIII抗体(MoBiTec)、次いで、抗−ネズミホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲート(Sigma-Aldrich)、および電気‐化学ルミネセンス試薬(Amersham Biosciences)と共にインキュベートした。
ファージELISAアッセイ。ELISAウェルを以下のリガンド:PBS中の10μg/mlのプロテインA、PBS中の10μg/mlのmAb 9E10、または0.1M NaHCO3緩衝液(pH9.6)中の3mg/mlのHELのうちの1つで4℃にて一晩被覆した。2% Tween-20を含有するPBS(PBST)でウェルをブロックした後、PBST中のファージの希釈系列を2時間インキュベートした。PBSで洗浄した後、結合したファージを以下のように検出した。HELへの結合についてのアッセイでは、基質として3,3’,5,5’-テトラメチルベンチジンを用い、抗−M13モノクローナル抗体(Amersham)とホースラディッシュペルオキシダーゼのコンジュゲートを用いてファージを直接検出した。プロテインAへの結合についてのアッセイでは、まず、ファージ(PBS中の4×1010TU/ml)を4℃にてビオチン‐NHS(Perbio)(50μM最終濃度)でビオチニル化し、PBST中のストレプトアビジン‐ホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲート(1μg/ml(Sigma-Aldrich)、および基質の連続的添加によって前記したように検出した。ヒト血清アルブミン(HAS)(Sigma,PBS中の10μg/mlでのコーティング)への結合については、2%スキムミルク粉末を補足したPBS(PBSM)中でELISAを行い、ウサギ抗-fdバクテリオファージモノクローナル抗体(Sigma,1/1000希釈)およびホースラディシュペルオキシダーゼとコンジュゲートしたヤギ抗−ウサギIgG血清(Sigma,1/1000希釈)、および前記した基質を用いて結合ファージを2工程で検出した。
電子顕微鏡。ファージ(PBS中の1×1012TU/ml)を80℃にて10分間加熱し、次いで、4℃にて10分間冷却するか、または対照として未処理のまま残した。PBS中に1×1010TU/mlへの希釈の後に、 ファージをグロー放電炭素被覆銅グリット(S160-3,Agar Scientific)上に吸着させ、PBSで洗浄し、次いで、2%酢酸ウラシル(w/v)で陰性に染色した。120kVで操作するFEI Tecnai 12透過型電子顕微鏡を用いて試料を調べ、較正した倍率にてファイルに記録した。
ファージ選択。イミュノチューブ(Nunc)をプロテインAで一晩被覆し、PBSTでブロックした。精製したファージ(PBS中1×1011TU/ml)を前記したように加熱し、3mlのPBSTで希釈し、イミュノチューブ中で2時間インキュベートした。PBSで10回洗浄した後、プロテインA-結合ファージを10分間の間にPBS中の1mlの100μg/mlトリプシンに溶出させ、次いで、これを用いて、10mlの対数期E.coli TG1細胞を30分の間に37℃で感染させた。(ファージ力価用の)系列希釈およびライブラリー平板培養を2xTY-Tet寒天プレート上で行った。次の選択ラウンドのために、細胞をプレートから掻き取り、これを用いて、ファージ増幅のために37℃にて200mlの2xTY-Tetを接種した(McCafferty,J.,et al.Nature 348,552-554(1990))。HASに対する選択では、同様な合成ヒトVHレパートリー(Domantis Ltd)を用い、抗原(PBS中10μg/ml)をイミュノチューブ中でコートし、ブロッキング剤はPBSMであり、ファージライブラリー(1mlのPBS中1×1012TU)を加熱処理するか、あるいは各ラウンドのバイオパミング前に未処理のままとした。
タンパク質の発現および精製。種々のdAbをコードする遺伝子をpET-12a(Novagen)にサブクローンし、続いて、PCRによってSalIおよびBamHI部位を付加した。E.coli BL21 (DE3)pLysS細胞(Novagen)の形質転換の後、dAb発現(1Lスケール)を30℃にて16時間の間に1mM IPTG(最終濃度)の存在下で誘導した。遠心の後、上清を濾過し(0.22μM)を各々5mLのSTREAMLILES-プロテインAビーズ(Amersham Biosciences)と共に4℃にて一晩インキュベートした。ビーズをカラムに充填し、PBSで洗浄し、結合したdAbを0.1Mグリシン−HCl(pH3.0)に溶出させた。pH7.4への中和の後、タンパク質試料をPBS中で透析し、4℃での貯蔵の前に濃縮した。タンパク質の純度は、12%Bis-Trisゲル(Invitrogen)上でのSDS-PAGE後の視覚的観察によって見積もった。正規化された培養からの発現収率を得るために、新たに形質転換した細菌からの5つの個々のコロニーを37℃にて一晩増殖させ、前記したように発現のために誘導した(50mlのスケール)。一晩の発現に続き、培養物を合わせ、600×OD600nmに対応する培養容量(120ないし135ml)を前記したようにdAb精製用に処理した。精製されたタンパク質の量を細菌培養1リットル当たりのタンパク質収率に外挿し、OD600nmにおける5.0の最終吸光度につき修正した。分析ゲル‐濾過では、dAbの500μlの7μM溶液をSUPERDEX-75A(Amersham Biosciences)に負荷した。マーカーで較正したスケールを用い、クロマトグラム上のピークの各々のMrを帰属させ、曲線下面積から収率を計算した。
円二色性測定。ODキュベット(1cm経路長)にPBS中のdAbの5μM溶液を充填し、J-720偏光計(Jasco)に移した。25℃および80℃におけるCDスペクトルを2nmのバンド幅および1秒の積分時間にて遠紫外線(200nmないし250nm)で記録した。25℃ないし85℃のアンフォールディング曲線を235nmでモニターし、各dAbにつき2回反復した。アンフォールディング曲線は、2-状態であると推定され、アミノ酸残基当たり12calのΔCp寄与(Myers,J.K.,et al.Protein Sci 4,2138-2148(1995))を用い、記載されているようにフィットさせた(Pace,C.N.& Scholtz,J.M. in Protein Structure, A Practical Approarch,第2版(T.E. Creighton編)299−321(Oxford University Press, New York;1997))。次いで、Tm(ケルビンで表した中点転移温度)、ΔHm(Tmにおけるアンフォールディングのためのエンタルピー変化)につき得られた値を用いて、記載されているように、25℃におけるタンパク質の熱力学的安定性(ΔGN-U)を計算した(Pace, C.N.&Scholtz,J.M. in Protein Structure, A Practical Approach, 第2版(T.E.Creighton編)299-321(Oxford University Press, New York;1997))。
セクション16 規定された特異性を持つ単一可変ドメインへの「フォールディングゲートキーパー」残基の導入
「フォールディングゲートキーパー」は、その生物物理学的特徴によって、およびタンパク質の一次配列におけるその位置によって、タンパク質のアンフォールディングに際して凝集体の不可逆的形成を妨げるアミノ酸である。フォールディングゲートキーパー残基はオフ経路凝集をブロックし、それにより、タンパク質が可逆的アンフォールディングを受け得ることを確実とする。(位置および生物物理学的特徴によって決定される)フォールディングゲートキーパーの有効性は、凝集体を形成すること無く、アンフォールディングされたタンパク質が溶液中で残り得る最大濃度に影響する。本明細書中で記載するように、フォールディングゲートキーパーは、抗原−特異性を欠く単一可変ドメイン(DP47dまたはVKダミー)に導入された。
TAR2-10-27は、ヒト腫瘍壊死因子受容体1(TNFRI、「TAR2」ともいう)に対する結合特異性を有するヒトVH3ドメインである。TAR2−10−27のアミノ酸配列は:
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFEWYWMGWVRQAPQKGLEWVSAISGSGGSTYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDAAVYYCAKVKLGGGPNFGYRGQGTLVTVSS(配列番号:191)
である。この合理的−設計アプローチの結果は、フォールディングゲートキーパーがファージに提示されたdAbライブラリーにab initio導入されるもう1つのアプローチを補う(セクション18参照)。
TAR2-10-27についてのフォールディングゲートキーパーの選択
ヒトDP-47-VH3ドメインにおいては、凝集は、H1−ループを含む疎水性セグメントによって媒介される。部位特異的突然変異誘発および生物物理学分析は、DP-47における残基22ないし36に対するSE−スコアをゼロ未満に低下させる単一点突然変異は、5uMまでの濃度においてこの可変ドメインにおける適切なフォールディングを付与できることを示した。単一点突然変異についての好ましい位置は残基Phe27およびTyr32であって、好ましい置換は親水性Asp、Glu、Gln、Asn残基、またはβ鎖破壊残基Proである。表17に示すように、TAR2-10-27のH1−ループ中の4つの単一突然変異体はSE-15スコアを有意に低下させ、従って、高いフォールディング率を付与することができる。突然変異の組合せは、さらに、SE-15スコアをゼロ未満まで低下させる。
F27D、F27Q、Y32DまたはY32Q点突然変異は、SOE−PCRを用いてDP-47- VH3ドメインに導入され、突然変異したVH3ドメインをコードする核酸をサブクローン化し、発現させ、コードされたタンパク質を精製した。
これらのタンパク質をコードするPCR−増幅遺伝子を、SalIおよびNotI制限部位を用い、OmpTリーダー配列を真核生物リーダー配列で置き換えたpET−12Aベクターの誘導体にサブクローン化した。連結されたDNAを用いて、E.coli BL21(DE3)pLysSを形質転換し、次いで、これを、TYE−寒天+5%グルコース+100μg/mlアンピシリンを補足した寒天プレート上で平板培養し、37℃にて一晩インキュベートした。
10mLの2xTY培養を、プレートからの単一細菌コロニーで接種し、37℃にて一晩増殖させた。該2xTY培養はアンピシリン(100μg/mL)およびグルコース(5%)を含むものであった。2.5L培養フラスコ中の500mL 2xTY培養を5mLの一晩培養で接種し、0.5ないし0.6のOD600nmまで振盪(250rpm)しつつ37℃で増殖させた。培地はまたアンピシリン(50μg/mL)およびグルコース(0.1%)を含む。OD600nmが0.5ないし0.6に到達すると、培養フラスコを振盪しつつさらに30℃にてインキュベートした。約20分後、タンパク質の生産が1mM IPTG(最終濃度)の添加によって誘導され、培養物を一晩増殖させた。
次いで、培養基を円筒系0.5または1Lビン(ガラスまたはプラスチック)に移した。0.5ないし1mLのプロテインA−ビーズの1:1スラリー(Amersham Biosciences)を加え、混合物を水平フラスコローラー上で4℃にて一晩ローリングした。次いで、ビンを直立して放置し、樹脂を沈降させた。樹脂(ビーズ)を1×PBS、500mM NaCl(2×)で反復して洗浄し、洗浄した樹脂をドリップカラムに負荷した。樹脂を5カラム容量の1×PBS、500mM NaClで再度洗浄した。樹脂が殆ど乾燥した後、0.1MグリシンpH3.0をカラムに適用し、1ml画分を収集した。収集チューブを200μL 1Mトリス(pH7.4)で溶出に先立って充填して、溶液を中和した。OD280nmを各画分につきチェックし、タンパク質溶出をモニターした。タンパク質を含む画分を合わし、適当な緩衝液(ほとんどの場合1×PBS)に対して透析した。(計算された消光係数を用いて)タンパク質濃度を再度決定し、SDS-PAGE分析によって純度を評価した。
培養上清1リットル当たりのタンパク質収率を表18に示す。すでに前記したように、フォールディングゲートキーパーをタンパク質配列に挿入すると、pET/BL21(DE3)pLysSシステムにおけるDE-47-VH3ドメインの組換え発現は増加した。
表18
加熱されたおよび冷却されたタンパク質の凝集を異なる濃度で評価した。タンパク質を異なる濃度(1ないし100μM)にて80℃にて10分間加熱した。次いで、タンパク質を室温にてまたは4℃にて10分間リフォールディングした。プロテインAビーズをリフォールディングされたタンパク質の溶液に加え、全てのリフォールディングされたタンパク質がビーズによって捕捉されるまで混合物をローリングした。ビーズを反復して洗浄し、当量のビーズを可視化のためにSDS-PAGEゲルに負荷した。デンシトメトリーを用いて、回収されたタンパク質の量/濃度を定量し、タンパク質の半分が高温に暴露された後に適切にリフォールディングされる濃度([タンパク質]50%)を計算した。
1ないし100μMの範囲の異なる濃度の各タンパク質の試料を調製した。0.5mL薄壁チューブを用い、試料をPCRブロック中で80℃にて10分間加熱した。ランピングは〜10℃/分であった。二連の試料を調製し、平行して処理したが、加熱工程は省いた。
加熱した後、試料を室温または4℃にて数分間維持した。試料を1.5mLのミクロチューブに移し、高スピードで4℃にて10分間遠心した。形成されたいずれのペレットも乱すことなく、上清を回収した。20μLのプロテインA−ビーズの1:1スラリーを各チューブに加え、チューブを1mLまでのPBSの頂部に加え、室温にて1ないし2時間オーバーヘッドローラーにてローリングした。プロテインAのビーズが沈降すると、ビーズを乱すこと無く上清を除去した。ビーズを1mLのPBSで3回洗浄し、DTTを含む40μLのSDS−負荷緩衝液に再懸濁させた。SDS−負荷緩衝液は、可能な誤差につき負荷容量を正規化するための標準として働く既知濃度のBSAを含んだ。試料を90℃にて10分間加熱し、14,000rpmで10分間遠心し、次いで、等量の各試料を負荷し、12%Bis/Tris SDS−NuPageゲル上で分離した。同等の負荷、バックグラウンドおよびバンドの強度を、デンシトメトリーを用いて定量した。デンシトメトリーデータを初期タンパク質の濃度に対してプロットして、シグモイド曲線を作成し、これを用いて、タンパク質の50%が加熱アンフォールディング後にリフォールディングされたタンパク質濃度(「タンパク質」50%)を決定した。「タンパク質」50%を表19に示す。
フォールディングゲートキーパー突然変異の導入は、より高いタンパク質濃度における凝集に抵抗する能力を付与することによってTAR2-10-27に対する有益な効果を有した:親TAR2-10-27に対して、TAR-210-27 F27DおよびTAR2-10-27 Y32Qについては2ないし4倍高い、およびTAR210-27 Y32Dについては7ないし25倍高い。
機能的アッセイ
VHドメインのTNFR1結合活性は、受容体結合アッセイおよび細胞ベースのアッセイで評価した。
受容体結合アッセイにおいては、抗−TNFR1 VHドメインを、TNFが組換えTNF受容体1(p55)に結合するのを阻害する能力につきテストした。簡単に述べると、MAXISORPプレートを30μg/mlの抗−ヒトFcマウスモノクローナル抗体(Zymed, San Francisco, USA)と共に一晩インキュベートした。ウェルを、0.05%TWEEN-20を含有するリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で洗浄し、次いで、100ng/mlのTNF受容体1 Fc融合タンパク質(R&D Systems, Minneapolis,USA)と共にインキュベートする前に、PBS中の1%BSAでブロックした。抗−TNFR1 VHドメインをTNFと混合し、これを、10ng/mlの最終濃度にて洗浄されたウェルに加えた。TNF結合を0.2μg/mlのビオチニル化抗−TNF抗体(HyCult Biotechnology,Uben,Netherlands)、続いて、ホースラディッシュペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(Amersham Biosciences,UK)の500希釈中の1で検出し、次いで、TMB基質(KPL,Gaithersburg,USA)と共にインキュベートした。HClの添加によって反応を停止させ、吸光度を450nmで読んだ。抗TNFRI VHドメイン結合活性は、受容体へのTNF結合の減少および、従って、TNF対照のみと比較した吸光度の減少に導いた(図18A)。
細胞ベースのアッセイにおいては、抗TNFR1 VHドメインを、HeLa細胞中のTNFによるIL-8分泌の誘導を中和する能力につきテストした(HUVEC中のIL-1によるIL-8の誘導を記載する、Akeson,L.et al. Journal of Biological Chemistry 271,30517-30523 (1996)のそれから適合させた方法)。簡単に述べれば、HeLa細胞をマイクロタイタープレート中で平板培養し、VHドメインタンパク質および300pg/mlのTNFと共に一晩インキュベートした。インキュベーションの後、上清を細胞から吸引して除き、上清中のIL-8の量をサンドイッチELISA(R&D Systems)を用いて測定した。抗TNFR1 VHドメイン活性は、TNF対照のみと比較した上清へのIL-8分泌の減少に導いた(図18B)。
双方のアッセイの結果は、TAR2-10-27 F27DおよびTAR2−10-27 Y32Dが生物学的活性を保持したことを示す。TAR2-10-27 Y32Dの活性は親dAb TAR2-10-27のそれとほぼ同等であり、他方、TAR2-10-27の活性はTAR2-10-27に対してわずかに低下した(図18Aおよび18B)。受容体−結合アッセイおよび細胞ベースのアッセイ双方につき、IC50値は、2つの因子のうちの平均精度でもってシグモイド曲線から計算することができる。
結論
このセクションは、得られた変種が凝集に対する増大した抵抗性を抗原−結合活性と組合わせるように、フォールディングゲートキーパー残基を予め規定された特異性のVHドメインに導入することができることを示す。これは、VHドメインによって結合された機能的エピトープを知ること無く達成された。1つの変種は、特に(TAR2-1027-Y32D)は、全生物学的活性を保持し、凝集に対する抵抗性の10倍増加を有した(「タンパク質」50%)。フォールディングゲートキーパーを導入するもう1つの利点は、タンパク質の増大した発現レベルである(例えば、pET/BL21(DE3)pLysSシステムにおける>10倍だけ)。TAR2-10-27-Y32DのSE−スコア(0.068)は依然として0を超え、かつHEL4につき得られた値(-0.187)を超える。かくして、所望であれば、さらなるフォールディングゲートキーパーを、その生物物理学的特性のさらなる改良のためにTAR2-10-27-Y32Dに導入することができよう。
セクション17 VHドメインの合成ライブラリーからのフォールディングゲートキーパーを含む抗原−特異的VHドメインの選択
ファージ提示技術を用い、(例えば、ペトリ皿に固定化された抗原を結合させ、接着性ファージを回収することによって「バイオパニング」)抗体可変ドメインを、抗原に対する結合に基づいて合成レパートリーから単離することができる。このアプローチを用いて、熱変性工程に続き(または陰性対照についての加熱変性工程無くして)合成ヒトVHレパートリーから、ヒト血清アルブミン(HSA)に結合するヒトVHを選択した。
合成VHドメインのファージライブラリーはライブラリー4Gであり、これは、DP47生殖系遺伝子およびJH4セグメントを含むヒトVH3に基づく。以下の特異的位置における多様性は、CDR1:30、31、33、35において;CDR2:50、52、52a、53、55、56において;およびCDR3:4ないし12多様化残基において(NNKコドン;Kabatに従うナンバリングを用いる)突然変異誘発によって導入した:例えば、4G H11においてH95、H96、H97、およびH98、および4G H19においてH95、H96、H97、H98、H99、H100、H100a、H100b、H100c、H100d、H100eおよびH100f。最後の3つのCDR3残基はFDYであり、従って、CDR3の長さは7ないし15残基で変化する。該ライブラリーは1×1010を超える個々のクローンを含む。
プロトコル
4Gライブラリーを等しい数の形質導入単位(1×1011)の2つのサブ−ライブラリーに分割した。1つはそれ自体がHSAに対するパニングに用いられ、他方は各パミング工程前に80℃にて10分間加熱−アンフォールディングした。加熱工程では、ファージ試料をPCRチューブ中に100μL画分として分注した。加熱後、画分を合わせた。双方の試料(加熱処理したおよび加熱していない対照)を14,000rpmにおいて4℃にて10分間遠心した。上清をイミュノ−チューブ上の選択にさらに取った。抗原(HSA,Sigma-Aldrich)をイミュノ−チューブ中でコートし(PBS中100ug/mL)、4℃で貯蔵した。チューブをPBS中の2%スキムミルク(2MPBS)でブロックした。
結果
第一ラウンドの選択(R1)の後、ほぼ3000のファージをチューブから溶出させた(加熱したファージライブラリーから、および加熱していないライブラリーからの双方)。第二ラウンドの選択(R2)の後、コロニーの密集したローンを加熱していないファージでの選択から得、他方、加熱したファージライブラリーについては富化は顕著でなかった(力価のほぼ2ないし5倍増加)。個々のコロニー(n=44)を、R2の後双方のライブラリー(加熱処理および対照)からランダムにピックアップし、(96ウェルマイクロタイター細胞培養プレートを用い)別々に一晩増殖させて、上清中にファージを分泌させた。
ファージELISAは、いくらか修飾を施して、セクション4のプロトコルに従って行った。マイクロタイターウェルをHSA(PBS中10μg/mL)で一晩コートし、2MPBSでブロックした。試料の各々をPBS中の0.1%TWEEN-20で3回洗浄した。検出試薬は1:1000希釈のウサギ−抗−バクテリオファージfd全長IgG(Sigma)、続いての、1:1000希釈のホースラディッシュペルオキシダーゼとコンジュゲートしたヤギ−抗−ウサギ(全長IgG)(Sigma)であった。全ての個々のクローンを加熱工程にて、または加熱工程無くして、HSAに対してテストした。それらを、BSA(10ug/mL)およびプラスチックに対してもテストした。2/37のみの陽性シグナルが非特異的であった。
予測したように、加熱していない対照選択から得られた全てのコロニーは、熱処理を維持しなかったファージVHドメインを分泌した。対照的に、加熱選択からの全てのコロニーは冷却に際してリフォールディングされるファージVHドメインを分泌した。ELISAにおける36の陽性クローンを配列決定し、6つのユニークな配列が加熱していないパニングからのクローンで得られ、1つのユニークな配列が加熱−アンフォールディングパニングから得られた(クローン番号10)(表15b)(番号1〜番号4、番号6、番号7および番号10)。
CDR1における位置30および31に2つの酸性残基を有するクローン10は最低のSE−スコア(0.06)を呈する(15アミノ酸ウィンドウ)。対照的に、加熱していないファージ選択(クローン番号1ないし7)からの全ての配列から得られた平均SEスコアは0.15を超えており(0.203±0.020であり;平均±標準偏差)、それにより、それらの凝集するより大きな特性を説明する。興味深いことには、クローン番号10はクローン番号2、番号5および番号6と92%同一性を有し、これは、これらの4つのVHドメインについてのHSAに対する共通の結合エピトープを示唆する。しかしながら、クローン番号10のみがリフォールディング特性を呈し、位置30および31においてフォールディングゲートキーパーを有する。
ファージ−提示VHドメインの挙動を、さらに、精製されたファージで分析した。ファージELISAは、以下の修飾を施してセクション5のプロトコルに従って行った。1×1010ファージを加熱処理し(100μLアリコット中で80℃にて10分間)または未処理のまま放置した。試料を14,000rpmにおいて4℃にて10分間遠心し、上清を(1/3の希釈系列にて)HSAでコートしたELISAウェルに加えた。ELISAを行った後、各加熱処理/加熱処理していないファージ対についてのOD450nm値(Y-軸)をファージ数(x-軸)に対してプロットし、%−リフォールディング性を計算した。結果を表20に示す。
結論
結果は、加熱アンフォールディング工程に続くHSAで選択したVHドメインクローン(クローン番号10)が、ファージに発現された場合に凝集に対して十分に抵抗性であり、他方、加熱アンフォールディング工程無くして選択されたVHドメインクローンのいずれも加熱後に10%よりも大きなリフォールディングを呈したことを示す。この研究は、加熱に際して可逆的にアンフォールドする抗原−特異的可変ドメインが凝集−傾向VHドメインのレパートリーから選択することができることを示す(一次ライブラリー4Gからの98%を超えるクローンが加熱に際して凝集することが示された)。
セクション18 フォールディングゲートキーパー残基を含む合成VHドメインのファージライブラリーの創製
セクション16は、良好なフォールディング特性を持つVHドメインが、CDR1ループが多様化され、よって、一次レパートリー中のVHドメインの小さなパーセンテージがCDR1ループ中にフォールディングゲートキーパーを有する凝集−傾向VHドメインのレパートリーから単離することができることを示した。このセクションは、VHドメインの大部分が可逆的にアンフォールドするファージレパートリーの調製を記載する。
方法および結果
多様性は、組立てPCRを用いて多様化CDR1、CDR2およびCDR3をコードするDNAフラグメントをランダムに組み合わせることによって導入した。得られたフラグメントをファージベクター(リーダー配列が真核生物リーダー配列で置き換えられたFd-myc;セクション2参照)にクローン化されて、一次ライブラリー(VH−6G)を得た。VHライブラリーは単一ヒトフレームワーク(V3-23/DP-47およびJH4b)に基づく。このフレームワークによってコードされたカノニカル構造(VH:1-3)はヒト抗体レパートリーで最も普通である。側鎖の多様性は、公知の構造における抗原と接触する抗原結合部位中の位置におけるNNK多様化コドンを用いて一体化され、成熟レパートリーにおいて高度に多様性である。多様性は以下の位置(Kabatナンバリング)に導入された:
VH CDR1:H30、H31、H32、H33、H35
VH CDR2:H50、H52、H52a、H53、H55およびH56
VH CDR3:4-12多様化残基:例えば、4G H11におけるH95、H96、H97、およびH98、および4G H19におけるH95、H96、H97、H98、H99、H100、H100a、H100b、H100c、H100d、H100eおよびH100f。最後の3つのCDR3残基はFDYであり、従って、CDR3の長さは7ないし15残基で変化する。
次いで、一次ライブラリーを用いて、ファージストックを生じさせた。ファージストックは2つに分裂し:1つは(正しくフォールディングされたVHドメインに結合する)固定化されたプロテインA上でのパニングのためにそれ自体用いた。結合したファージを溶出させ、それを用いて、E.coliを感染させ、ライブラリーDNAをプールされた感染細胞(DNAプール「E」)から調製した。
第二のストックをまず80℃にて10分間加熱し、引き続いて、プロテインAに対してパニングした。パニング後に増殖させたファージのライブラリーを、加熱変性後にリフォールディングされるVHドメインにつき富化させた。これらのファージから得られたDNAプールをDNAプール「H」という。
一次ライブラリーから、および選択されたライブラリーからの個々のコロニーをファージ生産のために別々に増殖させた。ファージを、加熱処理しない場合、または80℃における加熱処理の後に、プロテインAに結合するそれらの能力につきテストした(生産ならびに正しいフォールディングを評価した)。結果を表21に示す。
次に、プールされたCDR1およびCDR2領域を含むDNAフラグメントをDNAプールHから増幅した。DNAプールEから、プールされたCDR3のみを増幅した。最終的に、CDR3sのプールを6Gの一次ライブラリーでのナイーブ(naive)継代(nP)からPCR増幅した。ナイーブ継代プールを、一次ライブラリーからのファージを増殖させ、沈殿によってファージを精製し、精製されたファージで大腸菌を感染させ、細菌からDNAを回収することによって産生した。SOE-PCRを用い、CDR1およびCDR2sのプールをCDR3sのプールとランダムに再び組み合わせて、全長のVHドメイン遺伝子を再製作した。以下の組合せを調製した(表22)。
CDR1およびCDR2sは系統的にDNAプールHから採取された。何故ならば、CDR1セグメントは主な凝集の決定要素を含むからである。対照的に、CDR3sは、凝集にほとんど重要でない、「E」および「nP」プール由来であった。
SOE-PCRの後、フラグメントはファージベクター(リーダー配列が真核生物のリーダー配列で置き換えられたFd−myc;セクション2参照)にクローン化しされ、大きなレパートリー(>1010クローン)を得るためにエレクトロポレーションによって大腸菌を形質転換するのに使用された。6G-H+Eおよび6G-H+nP VHライブラリーからの各コロニー(n=44)をファージ産生のために別々に成長させた。ファージは、未処理の場合に、または80℃での加熱処理の後に、プロテインAへの結合能力を検査された(産生ならびに正しいフォールディングを評価するために)。結果を表23に示す。
加熱選択されたCDR1およびCDR2ループを含む機能VHドメインを示す約85%のファージが、加熱工程の後にプロテインAの結合活性を保持した。このように、ライブラリーVH-6GにおけるVHドメインのほとんどがフォールディングゲートキーパーを含む。対照として、最適化されていないライブラリー4G(VH-4G-H20)における12%のVHドメインクローンのみが加熱時に凝集を阻害し、プロテインAの結合活性を保持する。これらの結果は、ライブラリーの清浄段階(プロテインAに対する)で単一の加熱工程の付与が、フォールディングゲートキーパーを含み及び加熱時に可逆的にアンフォールドするVHドメインをコードするDNAセグメントを持つVHドメインライブラリーの濃縮(7倍まで)という結果になるということを示す。
ライブラリーVH-6G-H+EおよびVH-6G-H+nPからのランダムに採取された14のクローンをピックアップし、配列決定した。CDR1を含むループの配列、ならびにSE−スコア(15アミノ酸のウィンドウを用いて)を以下に列挙する。多様化されたアミノ酸に下線を施す。
総じて、14クローンのこの領域の平均(±SD)SE-スコアは0.007(±0.018)であり、これは、VHダミーの平均SE−スコア(DP47d)(0.190)およびその領域のコードされた多様性(NNKコドン)を計算した平均SEスコア(0.220)より充分に低い。各位置における多様性は比較的大きく:7、11、8、10および9の異なるアミノ酸が、30、31、32、33および35位のそれぞれでのデータセットで計算された。Asp、Glu、ProおよびGly等の強い親水性およびβ−シートのブレーカーが、アミノ酸の43%を占めた(コードされた遺伝子の多様性に基づく19%に対して)。
結論
ヒトVH3ドメインの合成ライブラリーは、PCR断片の組換えによって作製され、線状ファージの表面に提示された。大部分のVH3 dAbs(85%)を80℃に加熱の際に可逆的にアンフォールディングした。このライブラリーは、(1)(30、31、32、33および35位で)CDR1領域の多様化、(2)プロテインAに対する清浄前に一次ファージライブラリーの加熱処理、および(3)加熱選択されたCDR1-CDR2をコードする遺伝子およびナイーブ継代(または単純にプロテインA清浄)CDR3をコードする遺伝子のPCRの媒介組換えによって産生された。生じたライブラリーにおいて、CDR1配列は多様であったが、Asp、Glu、ProおよびGly等のフォールディングゲートキーパー残基に富んでいた。
セクション19.予め規定された特異性を持つdAbsへのフォールディングゲートキーパーを導入するさらなる研究
このセクションは、予め規定された特異性を持つdAbへのフォールディングゲートキーパーの実施を記載する。TAR1-5-19はTNF-αに特異的なVK1ドメインである。その配列は:
である。この合理的な設計研究の結果は他のアプローチを補充し、「フォールディングゲートキーパー」がファージに提示されたdAbライブラリーに初めから導入される。
TAR1-5-19に対するフォールディングゲートキーパーの選択:
本明細書中に記載し、示したように、フォールディングゲートキーパーは、DP47dのH1ループを含む領域、またはVKダミー(DPK9)のFR2-CDR2を含む領域に導入され得る。TAR1-5-19については、我々は、49位、FR2とCDR2の間の境界で溶媒に暴露された残基を選択した。dAbについての構造および突然変異誘発データの非存在下で、パラトープ内(またはその近く)の突然変異は結合活性に影響しそうであり得る。
表28に示したように、PEP1-5-19における2つの単一の突然変異体は(15アミノ酸のウィンドウについてのSweet-Eisenberg (SE)スケールを用いる−Sweet R.M.& Eisenberg D., J. Mol. Biol.171:479-488 (1983))SE-15スコアを低下させ、従って、突然変異体ポリペプチドは高いフォールディング収率を有するであろうことを示す。また、その15アミノ酸領域内では、PEP1-5-19のSE-スコアはすでにかなり低いことにも注意すべきである。
ファージ提示TAR1-5-19およびその突然変異体の凝集アッセイ:
セクション5、ファージスクリーニング2に記載の方法を用い、TAR1-5-19を提示するモノクローナルファージおよび変異体を10分間80℃で加熱するか、または加熱せずに放置し、次いで、ELISAのTNF-α被覆ウェル中でインキュベートした。リフォールディング%のデータはセクション5、ファージスクリーニング2に記載されているように計算され、結果を表30に示す。
フォールディングゲートキーパーはTAR1-5-19リフォールディングに有益な効果を有し、フォールディングゲートキーパーを含む変異体は、ファージに提示された時でも、80℃に加熱したときに凝集を阻害した。しかしながら、親TAR1-5-19はその低いSE-スコア(0.011)のため良好なリフォールディング能力を示したことに注意すべきである。
TAR1-5-19およびその突然変異体の受容体結合アッセイ:
活性アッセイは、増大させる量のdAbを用いて、固定化されたTNF-α受容体と結合する可溶性TNF-αを競合させるのに使用されるRBA-ELISAの受容体結合アッセイであった。次いで、結合したTNF-αをビオチン化した非競合抗体、およびストレプトアビジンHRPコンジュゲートで検出した。IC50(nMにおける)は、受容体に対するTNF−αの50%の非飽和量の低下を生じさせるのに必要なdAb量である。結果を表31に示す。
ここで、フォールディングゲートキーパーのTAR1-5-19への導入はTAR1-5-19のインビトロでの活性に影響した。これは、TAR1-5-19におけるY49残基がTNF-αとの特異的な接触に(直接的にまたは間接的に)関与し得るということを示唆する。TAR1-5-19については、Y49はフォールディングゲートキーパーを導入するための最良な選択であるようには見えない(変異体は依然として中程度に活性であるが)。Y49を中心とする15のアミノ酸セグメント内の他の位置は、dAbの活性を低下させること無くSE-スコアの低下を達成すると考えられ得る。例えば、I48がP、D、T、GまたはNで置換され、Y49がS、C、E、G、K、NまたはRで置換され、および/またはI75がNまたはMで置換されたTAR1-5-19変異体を本明細書記載のように産生および特徴付けし得る。かかるTAR1-5-19変異体は本明細書に示した方法を用いて容易に産生され得る。
結論
本研究においては、抗原dAb複合体の構造の予備知識が無くとも、フォールディングゲートキーパーを予め規定された特異性のdAbに導入した。TAR1-5-19の変異体の結合は6から20倍低下したが、変異体は依然として中程度の活性でもって標的に結合し、これは、変異体が生物学的活性を有することを示す。2つの単一の点変異体のみが作製され、研究されたことに注意すべきである。フォールディングゲートキーパーを導入するさらなる利点は、例えば、位置多様化によって、またはライブラリー作製によって、単一の点変異または変異の組合せを含むさらなる変異体を作製し、スクリーニングすることによって実現され得る。
表24 (11アミノ酸のウィンドウでの)DP47-VHのSweet-Eisenberg(S/E)値
表25 (11アミノ酸のウィンドウでの)DPK9-VKのSweet-Eisenberg(S/E)値
表26 (15アミノ酸のウィンドウでの)DP47-VHのSweet-Eisenberg(S/E)値
表27 (15アミノ酸のウィンドウでの)DPK9-VKのSweet-Eisenberg(S/E)値
本発明は好ましい具体例への参照を特に示し、かつ記載するが、添付の請求の範囲に包括される発明の目的から逸脱すること無く形態および詳細における種々の変化がなされ得るということが当業者に理解されよう。
図1は、生殖細胞系VH遺伝子セグメントDP47及び生殖細胞系VJ遺伝子セグメントJH4b(配列番号1、コード鎖;配列番号2、非コード鎖)を含む、ヒト免疫グロブリンH鎖可変領域DP47ダミー(ここではDP47dとも称する)をコードする核酸の例示である。図1はまた、コードされるVHドメインのアミノ酸配列(配列番号3)も示す。アミノ酸はKabatのシステムに従って番号付けている(Kabat, E.A.ら、Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版, U. S. Department of Health and Human Services, U. S.Government Printing Office(1991))。
図2は、生殖細胞系Vκ遺伝子セグメントDPK9及び生殖細胞系JK遺伝子セグメントJK1(配列番号4、コード鎖;配列番号5、非コード鎖)を含む、ヒト免疫グロブリンL鎖(κ)可変領域DPK9ダミー(ここではDPK9dとも称する)をコードする核酸の例示である。図2はまた、コードされるVκドメインのアミノ酸配列(配列番号6)も示す。アミノ酸はKabatのシステムに従って番号付けている。
図3A〜3Fは、熱誘導アンフォールディング及びリフォールディング後の、DP47d骨格に基づくVHドメインを提示するファージクローンによって保持されるプロテインA結合活性の相対量を示すヒストグラムである。各々のファージクローンの試料を加熱して、提示されるVHドメインをアンフォールドさせ、その後冷却してリフォールディングを生じさせて、試料を加熱せずに放置した。熱処理したファージ試料と処理していないファージ試料のプロテインAへの結合をELISAによって評価した。非処理クローンの結合活性のパーセンテージで表わした熱処理クローンの結合活性を示す。「dp47」と表示されている柱はDP47dを指す。
図4A〜4Cは、図3A−3FにおいてプロテインAに対して60%を超える相対結合を保持するファージ上に提示されるいくつかのVHドメインの相補性決定領域(CDR1、CDR2、CDR3)のアミノ酸配列を示す表のパネルである。配列は、図4A−4Cではクローン番号によって特定される。これらのクローンはまた、ここでは「pA−」接頭辞を用いて言及される。例えばクローン13は、ここでは「pA−C13」とも称される。図4A及び4Bに示す配列の最初の群は、プロテインA結合の結果によって評価したとき高度のリフォールディングを有するクローンからである(第1群)。図4Cの配列の次の群は、良好なリフォールディングを有するクローンからである。これらのクローンはまた、CDRの外側に突然変異を含む(第2群)。図4Cの配列の最後の群は、より低いリフォールディングを有するクローンからである。
図5は、提示されるVHドメインが可逆的熱変性を受ける能力と、VHドメインの22位から36位までのアミノ酸配列の疎水性の間の関係を示すグラフである。いくつかの提示VHの22位から36位までについての配列に関するSweet/Eisenberg疎水性スコア(SE−15値)を、15アミノ酸のウインドウを用いて決定した。熱誘導アンフォールディング及びリフォールディングを受けた後の各々のクローンについて、SE−15値を相対的プロテインA結合活性(ELISA)に対してプロットした。このグラフは、提示されるVHが熱誘導アンフォールディング及びリフォールディングを受ける能力は、22位から36位までのアミノ酸配列についての0又はそれ以下のSE−15値と相関することを示す。アミノ酸の位置はKabatに従って定義している。
図6は、いくつかの提示VHの22位から36位までについての配列に関するSweet/Eisenberg疎水性スコア(Sweet/Eisenberg値)を示すヒストグラムである。VHドメインDP47d及びBSA1は0より大きいSweet/Eisenberg値を有し、可逆的熱誘導アンフォールディングを受けない。VHドメインHEL4、pA−C13、pA−C36、pA−C47、pA−C59、pA−C76及びpA−C85は、0未満のSweet/Eisenberg値を有し、これらのクローンの各々のVHドメインは可逆的熱誘導アンフォールディングを受ける。アミノ酸の位置はKabatに従って定義している。
図7は、アンフォールディング曲線とリフォールディング曲線の特徴的な形状の例示である。曲線は、正しく折りたたまれたポリペプチドの濃度の測定値(例えば楕円度又は蛍光)を横座標とし、アンフォールディング因子(例えば熱(温度))を縦座標として使用してプロットしている。アンフォールディング及びリフォールディング曲線は、ポリペプチドが折りたたまれる領域、ポリペプチドが様々な程度にほどけるアンフォールディング/リフォールディング転移、及びポリペプチドがほどける部分を含む。リフォールディング曲線のy軸切片は、回収されたリフォールディングタンパク質の相対量である。例示するプロットにおいて、TMはポリペプチドの融解温度であり、TM−10及びTM+10はそれぞれポリペプチドの融解温度マイナス10℃及びプラス10℃である。例示するリフォールディング曲線は、75%を超えるポリペプチドがリフォールディングされることを示す。
図8は、dAb HEL4の熱誘導アンフォールディングを示すグラフである。dAb HEL4を加熱によってアンフォールドし、加熱の間の楕円度を評価した(黒い丸)。次に、温度を下げることによってアンフォールドしたdAbをリフォールディングした。リフォールディングしたdAbを加熱によって再びアンフォールドし、加熱の間の楕円度を評価した(白い菱形)。グラフは、両方の熱誘導アンフォールディングのアンフォールディング曲線が重なり合うことを示しており、dAb HEL4が可逆的熱誘導アンフォールディングを受けることを明らかにする。挿入図は、25℃での折りたたまれたdAb HEL4(Fold)及び80℃でのほどけたdAb HEL4(Unfold)についての遠-UV CDスペクトルを示す。
図9は、Trp47をArgで置換したDP47変異体(DP47−W47R)を含むdAbが、加熱したとき可逆的にアンフォールドしないことを示すグラフである。dAb DP47−W47Rを加熱によってアンフォールドし、加熱の間の楕円度を評価した(黒い丸)。次に、温度を下げることによってアンフォールドしたdAbをリフォールディングした。リフォールディングしたdAbを加熱によって再びアンフォールドし、加熱の間の楕円度を評価した(白い四角)。アンフォールディング曲線は重なり合わず、変性したポリペプチドに特徴的な形状を有する。
図10は、Ser35をGlyで置換したDP47変異体(DP47−S47G)を含むdAbが、加熱したとき限られた度合で可逆的にアンフォールドすることを示すグラフである。dAb DP47−S47Gを加熱によってアンフォールドし、加熱の間の楕円度を評価した(黒い丸)。次に、温度を下げることによってアンフォールドしたdAbをリフォールディングした。リフォールディングしたdAbを加熱によって再びアンフォールドし、加熱の間の楕円度を評価した(白い菱形)。アンフォールディング曲線は重なり合わず、リフォールディング時に一定の割合の楕円度(従ってもとの二次構造の一部)が回復されたこと、及び試料を再加熱したときに融解転移が認められることを明らかにする。
図11は、ポリペプチドの熱力学的安定性(△Gフォールド→アンフォールド)とファージ上に提示されるポリペプチドの可逆的アンフォールディングの関係を示すグラフである。グラフは、リフォールド不能のポリペプチドBSA1及びDP47dが高い熱力学的安定性を有すること、及びリフォールド可能なポリペプチドHEL4及びいくつかのリフォールド可能なDP47の突然変異変異体は、より低い熱力学的安定性を有することを示す。リフォールド可能なポリペプチドの熱力学的安定性は、熱誘導アンフォールディングの間に得た楕円度データから決定した。リフォールド不能のポリペプチドの熱力学的安定性は、尿素誘導性アンフォールディングの間の蛍光を観測することによって決定した。
図12は、ポリペプチドの熱力学的安定性(△Gフォールド→アンフォールド)と大腸菌上清中のタンパク質発現レベルの関係を示すグラフである。グラフは、リフォールド不能のポリペプチドBSA1及びDP47は、高い熱力学的安定性を有するが比較的低いレベルで発現されること、及びリフォールド可能なポリペプチドHEL4及びいくつかのリフォールド可能なDP47の突然変異変異体は、より低い熱力学的安定性を有するが、比較的高レベルで発現されることを示す。リフォールド可能なポリペプチドの熱力学的安定性は、熱誘導アンフォールディングの間に得た楕円度データから決定した。リフォールド不能のポリペプチドの熱力学的安定性は、尿素誘導性アンフォールディングの間の蛍光を観測することによって決定した。タンパク質発現は、培養物の細胞密度(OD600)に正規化した、大腸菌の1L培養物からプロテインAセファロースを用いて精製したポリペプチドの量である。
図13は、大腸菌上清中のタンパク質発現レベルとファージ上に提示されるポリペプチドの可逆的アンフォールディングの関係を示すグラフである。グラフは、リフォールド不能のポリペプチドBSA1及びDP47dが比較的低いレベルで発現されること、及びリフォールド可能なポリペプチドHEL4及びいくつかのリフォールド可能なDP47dの突然変異変異体は比較的高レベルで発現されることを示す。グラフは、ファージ上に提示されるポリペプチドの可逆的アンフォールディングと、そのポリペプチドを発現する大腸菌の培養物の上清中のポリペプチドの量との間の直接相関を明らかにする。タンパク質発現は、培養物の細胞密度(OD600)に正規化した、大腸菌の1L培養物からプロテインAセファロースを用いて精製したポリペプチドの量である。
図14は、可逆的にアンフォールド可能なVκ(DPK9−175N)及び可逆的にアンフォールド可能なVH(DP47−F27D)を含む一本鎖Fv(scFv)の熱誘導アンフォールディングを示すグラフである。scFvを加熱によってアンフォールドし、加熱の間の楕円度を評価した(黒い丸)。次に、温度を下げることによってアンフォールドしたscFvをリフォールディングした。リフォールディングしたscFvを加熱によって再びアンフォールドし、加熱の間の楕円度を評価した(白い菱形)。グラフは、両方の熱誘導アンフォールディングのアンフォールディング曲線が重なり合うことを示しており、scFvが可逆的熱誘導アンフォールディングを受けることを明らかにする。生殖細胞系VHと生殖細胞系Vκ、生殖細胞系VHとアンフォールド可能なVκ(DPK9−I75N)、又は可逆的にアンフォールド可能なVH(DP47−F27D)と生殖細胞系Vκを含む他のscFvは、使用した条件下で凝集した。挿入図は、熱誘導アンフォールディングの前の折りたたまれたscFv(暗い軌跡)及び熱誘導アンフォールディングとリフォールディング後の折りたたまれたscFv(より明るい軌跡)についての遠紫外線CDスペクトルを示す。スペクトルは重なり合い、scFvがリフォールディング後にすべての二次構造を回復したことを示す。
図15A及び15Bは、ファージの熱処理(80℃で10分間、その後4℃に10分間冷却)が提示されるdAbのプロテインA又は抗体への結合に及ぼす作用を示すヒストグラムである。図15Aでは、DP47d又はHEL4 dAbのいずれかを多価性で提示するファージ(5×1011TU/ml)を、ELISAによって抗c−myc抗体(9E10)又はプロテインAのいずれかへの結合に関して検定した。9E10は、dAbに付加されたc−mycタグペプチドタグを線状決定基として認識する。ファージの段階希釈を使用して、0.5OD650nm−OD450nmのELISAシグナルのために必要なファージ力価から保持される結合を算定した(未処理力価/熱処理力価)。図15Bでは、DP47dを提示するファージをELISAによってプロテインAへの結合に関して検定した。ファージ濃度は、高(5×1011TU/ml)又は低(1×109TU/ml)であり、DP47dは多価又は一価状態で提示された。 図15Cは、ファージの熱処理(80℃で10分間、その後4℃に10分間冷却)が感染性に及ぼす作用を示すヒストグラムである。DP47d又はHEL4のいずれかを多価性で提示するファージを加熱してその後冷却し、10分後にファージ試料を22℃で10分間、0.9mg/mLトリプシンで処理し、その後大腸菌TG1細胞に感染させるために使用した。
図16A〜16Cは、熱処理(80℃で10分間)の前後の陰性染色したファージ先端の透過型電子顕微鏡写真のコピーである。図16A及び16Bは、加熱したDP47dファージが凝集物を形成することを示す。しかし、図16Cに示すように、可逆的にアンフォールドする、HEL4 VHドメインを提示する加熱したHEL4ファージは凝集物を形成しなかった。 図16Dは、レーンにつき1010形質導入単位(transducing units)(TU)のファージを分離し、抗pIIIマウスモノクローナル抗体を使用して検出したウエスタンブロットの画像のコピーである。レーン1−6に負荷したファージは、それぞれfd、HEL4(多価)、DP47d(多価)、M13、HEL4(一価)及びDP47d(一価)であった。
図17Aは、選択ヒトVH3 dAbの代表的な分析用ゲルろ過クロマトグラムである。SUPERDEX−75カラム(Amersham Biosciences)を使用してC13(――)、C36(− - −)、C47(− −)、C59(- - - )、C76(・・・・・)及びC85(......)dAb(PBS中10μM)についてのクロマトグラムを得た。C13、C36、C47、C59、C76及びC85についての見かけMrは、それぞれ22kDa、17kDa、19kDa、10kDa、20kDa及び15kDaであった。 図17Bは、235nmでのCDによって記録したC36 dAb(PBS中5μM)の熱誘導変性曲線を示すグラフである:▼、第1回加熱後の平均残余楕円度;◇、第2回加熱後の平均残余楕円度。挿入図:種々の温度での遠-UV領域内のdAb HEL4(PBS中5μM)のCDスペクトル;▲、アンフォールディング前25℃;●、85℃(アンフォールドしたポリペプチド);○、試料冷却後25℃。
図18Aは、TAR2−10−27及び変異体TAR2−10−27 F27D及びTAR2−10−27 Y23Dが、受容体結合ELISAにおいてヒト腫瘍壊死因子受容体1(TNFR1)に結合し、TNFの受容体への結合を阻害することを示すグラフである。TNFR1をプレート上に固定し、TNFをTAR2−10−27、TAR2−10−27 F27D又はTAR2−10−27 Y23Dと混合して、その後ウェルに添加した。固定された受容体に結合したTNFの量を、抗TNF抗体を用いて定量した。TAR2−10−27、TAR2−10−27 F27D及びTAR2−10−27 Y23Dは各々ヒトTNFR1に結合し、TNFの受容体への結合を阻害した。 図18Bは、TAR2−10−27及び変異体TAR2−10−27 F27D及びTAR2−10−27 Y23Dが、インビトロアッセイにおいてHeLa細胞上に発現されるヒト腫瘍壊死因子受容体1(TNFR1)に結合し、TNFが誘導するIL−8の産生を阻害したことを示すグラフである。HeLa細胞をマイクロタイタープレートに塗布し、TAR2−10−27、TAR2−10−27 F27D又はTAR2−10−27 Y23D及び300pg/ml TNFと共に一晩インキュベートした。インキュベーション後、上清を細胞から吸引し、サンドイッチELISAを用いて上清中のIL−8の量を測定した。TAR2−10−27、TAR2−10−27 F27D及びTAR2−10−27 Y23Dは各々ヒトTNFR1に結合し、TNF誘導性のIL−8産生を阻害した。