以下、添付図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る締付制御システムの対象となる被締結体、すなわちワーク80の斜視図である。また図2は、図1の要部拡大図である。
ワーク80は、具体的には自動車の前輪部分であって、ドライブシャフト81とストラットアセンブリ82との結合体である。ドライブシャフト81の先端(図1の状態で下端)にはブレーキディスク83とブレーキキャリパ84とが取付けられている。ブレーキディスク83とブレーキキャリパ84とを含む前輪のブレーキシステムはディスクブレーキであって、油圧駆動されるブレーキキャリパ84でブレーキディスク83を挟圧することによってブレーキディスク83の回転が制動される。ブレーキキャリパ84にはこれに油圧を供給するブレーキホース85の一端がコネクタボルト87によって接続されている。ブレーキホース85の他端は後の製造工程において車両側と接続されるので、図1、図2に示す製造段階ではフリー状態とされている。ブレーキホース85の中間部にはホースブラケット86が設けられている。一方、ストラットアセンブリ82には板状のブラケット支持部82aが固設されている。そしてブラケット支持部82aとホースブラケット86とがホースブラケットボルト88によって結合されている。
そして図2に詳細を示すように、ドライブシャフト81(の先端付近)とストラットアセンブリ82とは、ボルト・ナット90(締結部材。以下単にボルト90ともいう)で締結されている。図示の例ではボルト90は2本設けられている(第1ボルト91及び第2ボルト92)が、後述するように機種によっては第2ボルト92が省略され、1本のボルト90(第1ボルト91)で締結される場合もある。
ワーク80はドライブシャフト81が略鉛直となる姿勢で治具75に保持されている。
そして治具75を含むワーク80全体が搬送パレット2に載置されている。
ワーク80の組立を行う製造ラインでは組立順に組立ステーション又は組付エリア(複数の組付ステーションからなる纏まり)が配置され、各組立ステーション等を搬送パレット2が順次送られ、所定の組立工程が施されることによりワーク80が組立てられる。
図3は、締付制御システム1が適用されるボルト組付エリアQの正面図である。ボルト組付エリアQは、ワーク80にボルト90の組付を行う製造エリアである。以下の説明において、図3の左右方向をX軸方向、紙面に垂直な方向をY軸方向、上下方向をZ軸方向とする。Z軸方向はボルト組付エリアQの天地方向でもある。
ボルト組付エリアQは、X軸方向に離間して立設された一対の支柱5と、各支柱5の上端部に架設されたX軸レール6とを枠体として備える。そしてこの枠体に囲まれた空間に、X軸方向に並ぶ2つの組付ステーションSTが設置されている。図3に示す状態で、その一方(左側)を第1ステーションST1、他方を第2ステーションST2と称する。以下第1ステーションST1の構成について説明する。
第1ステーションST1は概略構成として、ボルト90(のナット側)を回すナットランナ12(締付工具)と、同ボルトヘッド側を保持する回り止めソケット20と、ナットランナ12及び回り止めソケット20をX−Y−Z方向に移動可能に保持する保持装置10と、ナットランナ12に装着されたソケット14の仕様を検知するソケット仕様検知部30(ソケット仕様検知手段)と、ナットランナ12がボルト90の締付位置にあることを検知する締付位置検知部40(締付位置検知手段)とを備える。
保持装置10は、X軸方向に移動可能なX軸移動体6bと、X−Y方向に移動可能な可動ベース8と、X−Y−Z方向に移動可能な支持台11とを備える。
X軸移動体6bは、一対の車輪6aを介してX軸レール6に係合されている。X軸移動体6bの下部にはY軸方向に延びる一対のY軸レール7が固設されている。可動ベース8は、二対の車輪7aを介してそのY軸レール7に係合されている。車輪6a及び車輪7aの転動により、可動ベース8は容易かつ円滑にX−Y方向に移動自在とされている。
支持台11は、可動ベース8の下方にエアシリンダ9を介して設けられている。支持台11は、エアシリンダ9の作動によってZ軸に沿った移動、すなわち上下移動可能とされている。このようにして、支持台11及びこれに取付けられたものはX−Y−Z方向に移動可能となっている。なお、支持台11のX−Y方向移動は作業者の押し引きによる手作業で行われ、上下方向移動はエアシリンダ9に設けられた図略のシリンダスイッチを作業者が操作することにより行われる。
ナットランナ12は支持台11に固設され、内蔵する電動モータ12b(図7参照)によってX軸方向に延びる回転軸13を回転させる。回転軸13の先端にはボルト90(のナット側)に嵌合してこれを回転させるソケット14が着脱自在に装着されている。回転軸13は、エアシリンダ22によってナットランナ12の本体に対してX軸軸方向に伸縮可能とされている。
回り止めソケット20は、L字型のブラケット21を介して支持台11に取付けられている。回り止めソケット20はソケット14に対してX軸方向に対向配置されている。回り止めソケット20はボルト90(のボルトヘッド)に嵌合し、ボルト締付時にソケット14がナットを回転させたとき、ボルトが連れ回りするのを防止する。回り止めソケット20とブラケット21とはエアシリンダ23によってX軸軸方向に移動可能とされている。
ボルト締付時には、エアシリンダ22,23によって、ソケット14と回り止めソケット20とが互いに接近する方向に移動してナット及びボルトヘッドに嵌合するが、エアシリンダ22,23はそれよりもさらに互いに接近する方向に両者を挟圧する。この挟圧力により、ソケット14や回り止めソケット20は、ナットやボルトヘッドをナメることなく、適正な締付が行われる。
なお本実施形態では、ソケット14として対辺(六角の2面幅)が17mmの第1ソケット14a(図4参照)と対辺19mmの第2ソケット14bとが択一選択されて用いられる。これに対して回り止めソケット20は一種類で固設されている。回り止めソケット20の先端付近には対辺19mmの六角穴が形成され、それよりもやや奥には対辺17mmの六角穴が形成されている。これにより、何れのボルトヘッドに対しても嵌合可能であり、適正な回り止め機能を有するようになっている。
また図3には示されていないが、ナットランナ12は、起動ボタン12a及びトルクセンサ12cを備える(図7参照)。起動ボタン12aは、作業者が押下するボタンであって、所定の駆動可能条件が成立しているときにこの起動ボタン12aを押下することにより、モータ12bが駆動する。トルクセンサ12cは、ナットランナ12による実際の締付トルクを検知するセンサである。
次に、ソケット仕様検知部30と締付位置検知部40について説明する。ソケット仕様検知部30は、ナットランナ12(の回転軸13)に装着されたソケット14の仕様(第1ソケット14aであるか第2ソケット14bであるか)を検知するものである。また締付位置検知部40は、ナットランナ12が各締付位置にあるか否かを検知するものである。後に詳述するように、ナットランナ12は、これらの検知結果に基き、ソケット14が正しく選択装着され、且つナットランナ12が締付けるべきボルト90の締付位置にあるときのみ駆動可能とされる。
図3に示すようにソケット仕様検知部30は支持台11の、作業者の手が届く範囲内に設けられている。ソケット仕様検知部30は、現在非装着状態(以下待機状態という)のソケット14を検知することにより、間接的に現在装着中のソケット14を検知する。
図4はソケット仕様検知部30の詳細図である。ソケット14及びその近傍を縦断面図で示す。ソケット保持台31がボルト32によって支持台11に固設されている。ソケット保持台31には、図示のように対辺17mmの第1ソケット14aと対辺19mmの第2ソケット14bとを載置可能である。第1ステーションST1の稼働時には第1ソケット14aまたは第2ソケット14bの何れか一方がナットランナ12に装着され、他方が待機状態となっている。作業者は待機状態のソケットをソケット保持台31の所定の待機位置に保持させておくこととされている。ソケット仕様検知部30は、ソケット保持台31に保持されている待機状態のソケットが第1ソケット14aであるか第2ソケット14bであるかを検知する。このとき、必然的に他方の第2ソケット14bまたは第1ソケット14aがナットランナ12に装着されていることになるので、ソケット仕様検知部30は実質的にナットランナ12に装着されているソケット14の仕様を検知しているのと同義である。
第1ソケット14aは略円柱状で、その先端(図では下方)には対辺17mmの六角穴16aが形成されている。一方、その基端側には回転軸13の先端部に嵌合する四角穴17aが形成されている。四角穴17aの側壁近傍にはこの四角穴17aに一部張り出すようにボール18aが設けられ、その外周側がオーリング19aで止められている。ボール18aの転動とオーリング19aの弾力(復元力)とにより、作業者は適度な力で容易に第1ソケット14aを着脱することができる(ワンタッチ着脱機構)とともに、装着中の第1ソケット14aが容易に脱落しないようになっている。
第1ソケット14aの外径はφ27mmである。ソケット保持台31には、略円筒形で内径が約φ27mmの第1ソケット保持枠33が固設されている。従って、図示のように第1ソケット保持枠33はその内周側に第1ソケット14aを嵌合させた状態でこれを保持することができ、この位置が第1ソケット14aの所定の待機位置である。作業者は、第1ソケット14aが待機状態にあるとき、この待機位置に載置することとされている。
第1ソケット保持枠33は、周方向の一部が切り欠かれ、切欠部33aが形成されている。そして切欠部33aを通すように第1ソケットセンサ34が設置されている。第1ソケットセンサ34は近接センサであって、第1ソケット14aが所定の待機位置に保持されているか否かを検知する。
一方、第2ソケット14bは略円柱状で、その先端(図では下方)には対辺19mmの六角穴16bが形成されている。そして第2ソケット14bの基端側には回転軸13の先端部に嵌合する四角穴17bが形成されている。四角穴17aの側壁近傍には第1ソケット14aと同様に、ボール18aとオーリング19aとからなるワンタッチ着脱機構が設けられている。また六角穴16bと四角穴17aとを連通させる貫通孔16cが設けられている。
ソケット保持台31には、略段付円柱状の第2ソケット保持軸35がボルト36によって固設されている。第2ソケット保持軸35の基端側(大径側)の外径はφ18.8mmであって、対辺19mmの六角穴16bとは嵌合するが第1ソケット14aの対辺17mmの六角穴16aとは嵌合しない。また第2ソケット保持軸35の先端側の小径部37は貫通孔16cと嵌合するように形成されている。従って、図示のように第2ソケット保持軸35はその外周側に第2ソケット14bを嵌合させた状態でこれを保持することができ、この位置が第2ソケット14bの所定の待機位置である。作業者は、第2ソケット14bが待機状態にあるとき、この待機位置に載置することとされている。
待機位置にある第2ソケット14bの近傍に第2ソケットセンサ39が設置されている。第2ソケットセンサ39は近接センサであって、第2ソケット14bが所定の待機位置に保持されているか否かを検知する。
上述した内容から明らかなように、第1ソケット保持枠33は第1ソケット14aのみを、第2ソケット保持軸35は第2ソケット14bのみを保持し、逆の組合せは不可となっている。従って、第1ソケットセンサ34は第1ソケット14aが待機状態にあるか否かを、第2ソケットセンサ39は第2ソケット14bが待機状態にあるか否かをそれぞれ確実に検知する。
次に締付位置検知部40について説明する。図3に示すように、締付位置検知部40は可動ベース8の上部近傍に設けられている。締付位置検知部40は、可動ベース8のX−Y方向位置を検知することにより、これとX−Y方向に連動するナットランナ12のX−Y方向位置を検知するものである。
図5は、締付位置検知部40を下から見た平面図である。締付位置検知部40は概略構成として、X軸レール6に固定された第1,第2締付位置センサ42,43と、可動ベース8に固定された延設板45とを含む。締付位置検知部40は、延設板45のX−Y方向移動(特に矢印A1で示すY軸方向移動)に伴う延設板45の所定の位置変化を第1,第2締付位置センサ42,43で検知するものである。
第1,第2締付位置センサ42,43は、ブラケット41を介してX軸レール6に固設されており、両者はその検知部を下に向けた状態で互いにY軸方向に離間して配置されている。一方、延設板45はX−Y平面に平行な板状体であって、ボルト46によって可動ベース8に固設されている。すなわち可動ベース8と一体となって、X軸レール6に対し(第1,第2締付位置センサ42,43に対し)X−Y方向に移動する。
第1,第2締付位置センサ42,43は、その真下に延設板45が存在するとき、それを検知する。また延設板45は、ナットランナ12が第1ボルト91を締付ける位置にあるとき、第1締付位置センサ42の真下に存在し、かつ第2締付位置センサ43の真下に存在しないように調整されている(図5に二点鎖線で示す)。同様に、ナットランナ12が第2ボルト92を締付ける位置にあるとき、第2締付位置センサ43の真下に存在し、かつ第1締付位置センサ42の真下に存在しないように調整されている(同実線で示す)。
第1ボルト91と第2ボルト92とは、X軸方向位置の差が小さく、Y軸方向位置の差が大きい。そこで締付位置検知部40では、主として第1ボルト91と第2ボルト92とのY軸方向位置を検知するように構成されている。但し、X軸方向位置に関しても、それが大きく外れた場合(図5の状態で延設板45が大きく右にずれた場合)には第1,第2締付位置センサ42,43が延設板45を検知しなくなるので、その位置ずれを認識することができる。
以上、第1ステーションST1の構成について説明したが、第2ステーションST2もこれと略同一の構成を備える。従ってその重複説明を省略する。
そして図3に示すように、ボルト組付エリアQには、各組付ステーションSTの各ナットランナ12の下方においてX軸方向に延びる搬送レール5cが敷設されている。搬送レール5cにはY軸方向を軸線とする多数のローラー5aが列設されている。
搬送パレット2にセットされたワーク80が搬送レール5cのローラー5a上を上流側(第1ステーションST1側)から下流側(第2ステーションST2側)に円滑に搬送されるようになっている。そして各組付ステーションSTでは搬送パレット2が位置決めされ、ワーク80が所定の位置に固定された状態で必要なボルト90の締付が行われるように構成されている。
ところで、生産能力(生産速度、生産タクト)を考慮に入れなければ、ボルト組付エリアQでなすべき工程は、一方の組付ステーションSTのみで行い得る。換言すれば、第2ステーションST2は、第1ステーションST1に対してこれと同等物が付加的に設けられたものである。第2ステーションST2を設けることにより、第1ステーションST1のみの場合に比べて生産能力を最大2倍に増大することができる。その他にも、例えば故障や改造実施等によって一方の組付ステーションSTでの製造ができない場合、他方の組付ステーションSTでの製造を行うことにより、生産ラインを停止させることなく操業を継続することができるという利点もある。
また要求される生産速度に応じて、一方の組付ステーションSTのみを稼働する形態と両方の組付ステーションSTを稼働する形態とに切換えるようにすることもできる。こうすることにより、ボルト組付エリアQ全体の生産タクトの変動要求に対する組付ステーションSTあたりの生産タクトの変動を抑制することができ、効率的な装置の稼働や人員配置を行うことができる。
両方の組付ステーションSTを稼働する場合、比較的単純な操業形態、例えば同一機種のワーク80のみが搬入されるようなときには、特に組付分担を設けなくても、搬入されたワーク80を各組付ステーションSTにおいて交互に抜き取り、それぞれ締付作業を行えば良いかもしれない。しかしながら本実施形態では、ボルト組付エリアQには4車種(4機種)のワーク80が供給される。さらにソケット14の仕様や締結するボルトの本数もまちまちとなっている。このような複雑な操業形態において、各組付ステーションSTにおいて作業ミスを抑制し、適正かつ円滑な締付け作業を行い得るよう、各組付ステーションSTにおける組付分担が予め設定される。以下、この組付分担について説明する。
図6は、締付制御システム1の操作盤50(組付分担設定手段)の組付分担設定画面50aを示す図である。組付分担設定画面50aは上記組付分担を設定するための画面であるが、その説明の前に操作盤50の概要について説明する。
操作盤50は、液晶画面を有するとともに、その画面に表示されたボタン等を押す(触れる)ことにより入力が可能な、いわゆるタッチパネルである。操作盤50は、作業者または管理者(以下ユーザーという)による各種の設定入力を受け付けたり、操業中に現在作業対象のワーク80の車種や仕様等を表示したりする。操作盤50は、階層構造の操作モードを有し、その操作モードに対応した画面を表示する。画面上に表示されるモード切換えボタンをユーザーが押すことにより、操作モードと表示画面が切換えられる。
操作盤50は、初期の操作モードとして初期モードを有する。初期モードでは図略の初期画面が表示される。初期画面には、対象機種等の基本的な情報が表示されるとともに、メニューボタンを含むモード切換えボタンが表示される。
ユーザーが初期画面のメニューボタンを押すと、メニュー選択モードに切換わるとともに図略のメニュー画面が表示される。メニュー画面では各種の条件等を設定するための複数のメニューボタンが表示される。そのメニューボタンのうちの一つである「分担設定」ボタンを押すと、組付分担設定モードに切換わるとともに図6に示す組付分担設定画面50aが表示される。
組付分担設定画面50aの左上には初期画面ボタン51が、右上にはメニューボタン52が表示されている。これらを押すと、それぞれ初期モード、メニュー選択モードに戻る。
初期画面ボタン51、メニューボタン52の下にはマトリクス状に配置された設定ボタン53が表示されている。マトリクスの各行は車種を表す。組付分担設定画面50aでは最大で6車種の設定が可能である。本実施形態では車種A,B,C,Dの4車種が設定されており、残りが予備とされている。
マトリクスの各列は組付分担を示す。これらの列は、4列1組の第1ステーションST1と第2ステーションST2とに区分されている。それぞれの組付ステーションSTにおいて、「無」、「第1」、「第2」、「両方」の4列(4種類の組付分担)が設定されている。なおこれらの組付分担は、順に「0」、「1」、「2」、「3」の記号(数値)でも表現され、各列に配置された設定ボタン53には、その記号が表示されている。なお設定ボタン53は、押されたボタン(車種及び組付ステーションSTごとに択一選択され、有効なボタン)が高輝度表示され、それ以外の設定ボタン53は低輝度表示される。図6では低輝度表示の設定ボタン53にハッチングを付している。
組付分担「無」、「0」は、当該組付ステーションSTではボルト90の締付けを行わないことを意味する。「第1」、「1」は、当該組付ステーションSTにおいて第1ボルト91のみを締付けることを意味する。「第2」、「2」は、当該組付ステーションSTにおいて第2ボルト92のみを締付けることを意味する。「両方」、「3」は、当該組付ステーションSTにおいて第1ボルト91と第2ボルト92の両方を締付けることを意味する。なお車種Aのワーク80は第2ボルト92が省略され、第1ボルト91のみが設定されている。従って車種Aに関しては「第2」と「両方」(「2」と「3」)という選択肢が設けられていない。
使用するソケット14は、車種A,B,Cに対しては対辺17mmの第1ソケット14a、車種Dに対しては対辺19mmの第2ソケット14bとされている。
車種毎の組付分担設定を詳細に説明すると、車種Aでは、第1ステーションST1で組付分担「1」、第2ステーションST2で組付分担「0」が選択されている。従って、第1ステーションST1において第1ソケット14aによって第1ボルト91が締付けられる。
車種Bでは、第1ステーションST1で組付分担「3」、第2ステーションST2で組付分担「0」が選択されている。従って、第1ステーションST1において第1ソケット14aによって第1ボルト91と第2ボルト92の両方が締付けられる。
車種Cでは、第1ステーションST1で組付分担「1」、第2ステーションST2で組付分担「2」が選択されている。従って、第1ステーションST1において第1ソケット14aによって第1ボルト91が締付けられ、次に第2ステーションST2において第1ソケット14aによって第2ボルト92が締付けられる。
車種Dでは、第1ステーションST1で組付分担「0」、第2ステーションST2で組付分担「3」が選択されている。従って、第2ステーションST2において第2ソケット14bによって第1ボルト91と第2ボルト92の両方が締付けられる。
このような設定の場合、第1ステーションST1においては常に第1ソケット14aが選択されるが、第2ステーションST2においては車種によって第1ソケット14aと第2ソケット14bとの切換えが必要である。第2ステーションST2の作業者は、供給されたワーク80の車種を操作盤50の表示で確認し、その車種に応じたソケット14をナットランナ12に装着して締付作業を行う。
なお、各車種において、一方の組付ステーションSTの分担が決定すると、他方の組付ステーションSTの分担はその残余として一義的に決定する。従って、一方の組付ステーションSTにおいて組付分担の変更が行われると他方の組付分担はそれに応じて自動的に変更される。例えば図示の状態で、車種Cにおいて第1ステーションST1での組付分担が「1」から「2」に変更される(ユーザーが「2」ボタンを押す)と、第2ステーションST2での組付分担が自動的に「2」から「1」に変更され、「1」ボタンが高輝度表示される。
図7は、締付制御システム1の制御ブロック図である。制御部60(駆動制御手段)は、各組付ステーションSTにおいてボルト90を適正に締付けるためのシーケンス制御を行うコントローラであり、いわゆるPLC(Programmable Logic Controller)が用いられている。
制御部60には、IDアンテナ4と、ナットランナ(NR)コントローラ12dを介してナットランナ12と、第1,第2締付位置センサ42,43と、第1,第2ソケットセンサ34,39と、操作盤50と、判定表示部55と、プリンタ58とが接続されている。
IDアンテナ4は、個々の搬送パレット2に添付されているIDカード3との間で無線通信を行うためのアンテナである。IDカード3には、搬送パレット2にセットされたワーク80に固有の情報(車種等)が書き込まれている。制御部60は、IDアンテナ4を介してIDカード3に書き込まれた情報を読み出すことができる。また制御部60は、ボルト組付エリアQにおける締付完了の直後に、工程の記録(ボルト90の締付が適正に行われたことやその実際の締付トルクの値等)を、IDアンテナ4を介してIDカード3に書き込む。
NRコントローラ12dは、制御部60(駆動可能条件判定部61)からの駆動許可信号を受け、且つ起動ボタン12aが押下されているときにナットランナ12のモータ12bを駆動するコントローラである。NRコントローラ12dは車種ごと、或いは締付位置ごとに予め設定された管理トルクT(ナットランナ12の狙いの締付トルク)の数以上の駆動チャンネルを有する。そして各駆動チャンネルに対して、そのうちの一つの管理トルクTが割り当てられ、設定される。第1,第2ボルト91,92の締付に際しては、車種毎に予め設定された管理トルクT1,T2(駆動チャンネル)が選択される。駆動チャンネルの切換えは制御部60(締付管理トルク設定部62)からの切換信号によって自動的に行われる。なおNRコントローラ12dは、制御部60からの駆動許可信号がないときには起動ボタン12aが押下されてもモータ12bを駆動しない。
ナットランナ12のトルクセンサ12cは、ボルト締付時の実際の締付トルクを計測し、NRコントローラ12dを介して制御部60にその計測信号を送る。
第1,第2締付位置センサ42,43は上述のように締付位置検知部40に設けられたセンサであり、ナットランナ12がボルト90を締付けるのに適正な位置にあるか否かの信号を制御部60(の駆動可能条件判定部61)に送る。
第1,第2ソケットセンサ34,39は上述のようにソケット仕様検知部30に設けられたセンサであり、ナットランナ12に装着されているソケット14(厳密には待機状態にあるソケット14)の検知信号を制御部60(の駆動可能条件判定部61)に送る。
操作盤50は上述のように各種の設定内容を制御部60に入力したり、制御部60からの制御信号に基いて操作モードや表示内容の切換えを行ったりする。
制御部60の駆動可能条件判定部61は、第1,第2締付位置センサ42,43および第1,第2ソケットセンサ34,39からの検知信号に基き、ナットランナ12の駆動可能条件の成否を判定する。そして駆動可能条件が成立した場合にはNRコントローラ12dに駆動許可信号を送る。駆動可能条件は、予め操作盤50で設定された組付分担に基き、作業対象のワーク80に対して、待機状態にあるべきソケット14がソケット仕様検知部30において適性に待機状態にあること(つまり適正なソケット14がナットランナ12に装着されていること)、且つナットランナ12が適正な締付位置にあること、である。この両条件が成立したとき、駆動可能条件が成立したと判定される。
制御部60の締付管理トルク設定部62は、管理トルクT(第1ボルト91に対しては第1トルクT1、第2ボルト92に対しては第2トルクT2)の設定を行う。具体的には、予め操作盤50で設定された組付分担に基き、ワーク80の車種や締付位置に応じて予め設定されている駆動チャンネルを選択し、その切換信号をNRコントローラ12dに送る。
判定表示部55は、各種ランプの点滅或いは点灯等により、工程に関する情報を作業者に報知する。例えば、駆動可能条件判定部61はNRコントローラ12dとともに判定表示部55にも駆動許可信号を送り、判定表示部55はその駆動許可信号を受けて図略の締付選択OKランプを点滅させる。これにより作業者は適正なソケット14が選択され、且つナットランナ12が締付対象のボルト90の締付位置にあることを認識することができる。
また制御部60は、各ボルト90の締付後、トルクセンサ12cによって計測された実際の締付トルクが、予め設定されたそれぞれの許容範囲に入っているときには締付OK、そうでないときには締付NGの判定を行い、締付判定信号を判定表示部55に送る。判定表示部55は締付判定信号を受け、OKのときには図略の締付OKランプを、NGのときには締付NGランプを、それぞれ点灯させる。
また制御部60は、組付分担の設定に基いて、各組付ステーションSTにおいて締付けるべきボルトの締付が完了したと判定されると、判定表示部55に作業完了信号を送る。判定表示部55はこれを受けて図略の作業完了ランプを点灯させる。
プリンタ58は、工程の記録を記録紙に出力する。具体的には、ボルト組付エリアQでのボルト締付工程完了後に印字工程が設けられ、IDカード3に書き込まれた工程記録が読み出され、記録紙に印字される。この印字工程は、搬送パレット2にワーク80がセットされた状態で行われる一群の工程(他の組付エリアや組付ステーションでの工程を含む)完了後に纏めて行われる。他の工程の記録と共に、どのワーク80のどのボルト90を幾らの締付トルクで締め付けたのかという記録を記録紙に印字して残すことにより、高い工程管理状態を維持することができる。
図8〜9は制御部60によるシーケンス制御の概略フローチャートである。以下このフローチャートを参照して当該制御の内容とボルト90の締付工程について説明する。
搬送パレット2にセットされたワーク80がボルト組付エリアQに供給されると、まず第1ステーションST1の所定位置に固定される。そして制御部60はIDアンテナ4を介してIDカード3から車種等の情報を読み取り、操作盤50にそれを表示させる。また組付分担(「0」、「1」、「2」、「3」の何れか)を判定する。
組付分担が「0」でも「2」でもないとき(ステップS2及びS3でNO)、すなわち組付分担が「1」または「3」のとき、第1ステーションST1での第1ボルト91の締付作業が行われる。作業者は、第1ボルト91に適応したソケット14がナットランナ12に装着されていることを確認し、或いはそれに交換し、ナットランナ12を第1ボルト91の締付位置に移動させる。駆動可能条件判定部61は、ソケット仕様検知部30及び締付位置検知部40の検知信号に基いてその状態を認知したら、駆動可能条件が成立した、すなわち第1締付準備OKであると判定する(ステップS4でYES)。
次に締付管理トルク設定部62は、管理トルクTを当該車種の第1トルクT1に設定する(ステップS5)。具体的にはNRコントローラ12dに第1トルクT1へのチャンネル切換信号を送る。同時に駆動可能条件判定部61はNRコントローラ12dと判定表示部55に駆動許可信号を送る。それを受けて判定表示部55は締付選択OKランプを点滅させる。
作業者は締付選択OKランプが点滅していることを確認して起動ボタン12aを押下する(ステップS6でYES)。それによってNRコントローラ12dはナットランナ12のモータ12bを第1トルクT1で駆動する(ステップS7)。これにより、第1ボルト91の適正な締付が行われる。
第1ボルト91の締付が完了すると、トルクセンサ12cによる検出値が制御部60に送られ、OK/NGの判定がなされる(ステップS8)。実際の締付トルクが適正トルク(予め設定された第1トルクT1近傍の許容範囲内)であればOKで、その判定結果が判定表示部55に送られ、締付OKランプが点灯される(ステップS9)。そして制御部60は、工程の記録(どのボルト90を幾らの締付トルクで締付けたか等)をIDアンテナ4を介してIDカード3に書き込み、リターンする。
ここで何らかの理由により実際の締付トルクが適正トルクでなければ(ステップS8でNO)、NGと判定され、締付NGランプが点灯される(ステップS10)。その後はリターンされ、工程が中断される。この場合、作業者は部品を交換する等して工程をやり直す。
ステップS8でYESであれば、ステップS9に続いて組付分担の判定が行われる(ステップS11)。ここで組付分担が「1」ではない(ステップS11でNO)、すなわち組付分担が「3」であれば、引き続いて第2ボルト92の締付作業が行われる。
作業者は、第2ボルト92に適応したソケット14がナットランナ12に装着されていることを確認し、或いはそれに交換し、ナットランナ12を第2ボルト92の締付位置に移動させる。駆動可能条件判定部61は、ソケット仕様検知部30及び締付位置検知部40の検知信号に基いてその状態を認知したら、駆動可能条件が成立した、すなわち第2締付準備OKであると判定する(ステップS12でYES)。
次に締付管理トルク設定部62は、管理トルクTを当該車種の第2トルクT2に設定する(ステップS13)。具体的にはNRコントローラ12dに第2トルクT2へのチャンネル切換信号を送る。同時に駆動可能条件判定部61はNRコントローラ12dと判定表示部55に駆動許可信号を送る。それを受けて判定表示部55は締付選択OKランプを点滅させる。
作業者は締付選択OKランプが点滅していることを確認して起動ボタン12aを押下する(ステップS14でYES)。それによってNRコントローラ12dはナットランナ12のモータ12bを第2トルクT2で駆動する(ステップS15)。これにより、第2ボルト92の適正な締付が行われる。
第2ボルト92の締付が完了すると、トルクセンサ12cによる検出値が制御部60に送られ、OK/NGの判定がなされる(ステップS16)。実際の締付トルクが適正トルク(予め設定された第2トルクT2近傍の許容範囲内)であればOKで、その判定結果が判定表示部55に送られ、締付OKランプが点灯される(ステップS17)。
ここで何らかの理由により実際の締付トルクが適正トルクでなければ(ステップS16でNO)、NGと判定され、締付NGランプが点灯される(ステップS18)。その後はリターンされ、工程が中断される。この場合、作業者は部品を交換する等して工程をやり直す。
ステップS17の後、制御部60は作業完了信号を判定表示部55に送り、作業完了ランプを点灯させる(ステップS19)。さらに制御部60は、工程の記録(どのボルト90を幾らの締付トルクで締付けたか等)をIDアンテナ4を介してIDカード3に書き込む。IDカード3に書き込まれた記録は、第1ステーションST1での記録とともに後の印字工程で記録紙に印字され、所定期間保管される。
遡って、ステップS2でYES、またはステップS11でYESの場合、第1ステーションST1での締付作業がない(組付分担「0」)、または完了した(組付分担「1」)ことを示すので、ステップS19に移行する。またステップS3でYESの場合、第1ステーションST1では第2ボルト92のみを締付ける(組付分担「2」)ので、第1ボルト91の締付工程をスキップしてステップS12に移行する。
ステップS19の後、リターンされて第1ステーションST1での工程が完了する。この後、搬送パレット2にセットされたワーク80は第1ステーションST1から第2ステーションST2に搬送され、同様の工程が同様のフローチャートにて実行される。そして第2ステーションST2での工程が完了すると、ワーク80はボルト組付エリアQから搬出される。
以上説明したように、本実施形態の締付制御システム1によれば、ソケット仕様検知部30と締付位置検知部40とによって、ソケット仕様のみならず締付位置も特定し、締付を行うことができる。従って、作業者がナットランナ12に適正なソケット14を装着し、且つ適正な締付位置のボルト90を締付けられるように誘導し、チェックすることができる。従って複雑な締付形態であってもその作業ミスを的確に予防することができる。
さらに、どのボルトを幾らの締付トルクで締付たのか、といった詳細な工程の記録を残す必要がある場合、その要求に容易に応えることができる。
さらに、ソケット仕様や締付位置と締付管理トルクTとが関連付けられているので、確実な締付管理トルクTでの締付けを行うことができる。特に、締付け位置の相違によって締付け管理トルクTが異なるような場合、間違った付け管理トルクTで締付けてしまうことを高度に防止することができる。
また、稼働させる組付ステーションSTの数を調節することにより、生産タクトの変更に柔軟に対処することができる。そして組付ステーションST間で締付位置の組付分担を変更することができるので、柔軟かつ効率的な締付工程を設定することができる。
従って、異なる締付形態を有する複数の機種を容易に混流させることができ、多品種生産に柔軟に対処することができる。
以上、本発明の各実施形態について説明したが、上記実施形態は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば上記実施形態では、ワーク80が自動車の前輪部分であってドライブシャフト81とストラットアセンブリ82との結合体であるとしたが、これ以外のあらゆるワーク80に対して適用可能である。
またボルト組付エリアQにおける組付ステーションSTの数が3ステーション以上であっても良い。
図6に示す組付分担の設定は一例であって、これ以外の設定も自由に行うことができる。また車種の数も適宜変更可能である。またその最大数を6車種に限定するものではなく、それ以上の車種設定が可能であるようにしても良い。
ソケット仕様検知部30はソケット仕様検知手段の一例であって、ソケット仕様検知手段としてこのような機構に限定するものではない。またソケット14の種類は3種類以上設定されていても良い。同様に締付位置検知部40は締付位置検知手段の一例であって、締付位置検知手段としてこのような機構に限定するものではない。また締付位置の数は3箇所以上設定されていても良い。この場合、1つのワーク80あたりのボルト90が3本以上であっても良い。
上記実施形態では、同一車種(同一のワーク80)に対しては使用するソケット14が同一であるとしたが、例えば同一車種において第1ボルト91と第2ボルト92とで異なるソケット14を用いるようにしても良い。本実施形態では、操作盤50で予めそのように設定することにより、そのような場合にも容易に対処することができる。