以下においては、本発明について図面を参照しつつ具体的に説明する。
図1に示した電子写真感光体1は、円筒状基体10の外周面10Aに、電荷注入阻止層11A、光導電層11Bおよび表面層11Cを順次積層形成したものである。
円筒状基体10は、感光体の支持母体となるものであり、少なくとも表面に導電性を有するものとして形成されている。この円筒状基体10は、たとえばアルミニウム(Al)、ステンレス(SUS)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)、スズ(Sn)、金(Au)、銀(Ag)などの金属材料、もしくは例示した金属材料を含む合金材料により、全体が導電性を有するものとして形成されている。円筒状基体10はまた、樹脂、ガラス、セラミックなどの絶縁体の表面に例示した金属材料、あるいは酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide、ITO)および二酸化スズ(SnO2)などの透明導電性材料による導電性膜を被着したものであってもよい。例示した材料のうち、円筒状基体10を形成するための材料としては、Al系材料を用いるのが最も好ましく、また円筒状基体10の全体をAl系材料により形成するのが好ましい。そうすれば、電子写真感光体1を軽量かつ低コストで製造可能となり、その上、電荷注入阻止層11Aや光導電層11Bをa−Si系材料により形成する場合には、それらの層と円筒状基体10との間の密着性が高くなって信頼性を向上させることができる。
円筒状基体10の端部10Bは、たとえば図2に示したように、2つの面取り面12,13および凹部17が形成されたものである。面取り面12は、端面15(環状の第2端面)に連続し、かつ端面15よりも内面側に設けられたものであり、たとえば図示しないフランジの挿入容易性を高める観点から端面15に対する交差角度θ1が30°以上60°以下とされている。面取り面13は外周面10Aに連続して設けられたものであり、たとえば端面15に対する交差角度θ2が30°以上60°以下とされている。凹部17の深さD2(段差の長さ)は、たとえば0.025mm以上0.600mm以下とされている。凹部17と端面15との境界18は、たとえば円筒状基体10の軸方向視における外周面10Aからの最短距離D3(環状の第1端面の幅)が0.5mm以上となる位置に設定されている。なお、端部10Bにおいては、面取り面12,13の一方または双方を省略してもよい。
図1に示した電荷注入阻止層11Aは、円筒状基体10からのキャリア(電子)の注入を阻止するためのものであり、たとえばa−Si系材料により形成されている。この電荷注入阻止層11Aは、たとえばa−Siに、ドーパントとして硼素(B)、窒素(N)、あるいは酸素(O)を含有させたものとして形成されており、その厚みは2μm以上10μm以下とされている。
光導電層11Bは、レーザ光などの光照射によってキャリアを発生させるためのものであり、たとえばa−Si系材料、あるいはSe−Te、As2Se3などのアモルファスセレン(a−Se)系材料により形成されている。ただし、電子写真特性(たとえば光導電性特性、高速応答性、繰り返し安定性、耐熱性あるいは耐久性)および表面層11Cをa−Si系に材料により形成した場合における表面層11Cとの整合性を考慮した場合には、光導電層11Bは、a−Si、もしくはa−Siに炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)などを加えたa−Si系材料により形成するのが好ましい。また、光導電層11Bの厚みは、使用する光導電性材料および所望の電子写真特性により適宜設定すればよく、a−Si系材料を用いて光導電層11Bを形成する場合には、光導電層11Bの厚みは、たとえば5μm以上100μm以下、好適には10μm以上80μm以下とされる。
表面層11Cは、電子写真感光体1の表面を保護するためのものであり、画像形成装置内での摺擦による削れに耐え得るように、たとえばアモルファスシリコンカーバイト(a−SiC)や窒化アモルファスシリコン(a−SiN)などのa−Si系材料、あるいはアモルファスカーボン(a−C)などにより形成されている。この表面層11Cは、電子写真感光体1に照射されるレーザ光などの光が吸収されるのを充分に抑制すべく、照射される光に対して充分広い光学バンドギャップを有しており、また、画像形成における静電潜像を保持出来得る抵抗値(一般的には1011Ω・cm以上)を有している。
電子写真感光体1における電荷注入阻止層11A、光導電層11Bおよび表面層11Cは、たとえば図3および図4に示したプラズマCVD装置2を用いることにより形成される。
プラズマCVD装置2は、支持体3を真空反応室4に収容したものであり、回転手段5、原料ガス供給手段6および排気手段7をさらに備えている。
支持体3は、円筒状基体10を支持するためのものであるとともに、第1導体として機能するものである。この支持体3は、フランジ部30を有する中空状に形成されているとともに、円筒状基体10と同様な導電性材料により全体が導体として形成されている。支持体3は、2つの円筒状基体10を支持できる長さ寸法に形成されており、導電性支柱31に対して着脱自在とされている。そのため、支持体3では、支持した2つの円筒状基体10の表面に直接触れることなく、真空反応室4に対して2つの円筒状基体10の出し入れを行なうことができる。
導電性支柱31は、円筒状基体10と同様な導電性材料により全体が導体として形成されており、真空反応室4(後述する円筒状電極40)の中心において、後述するプレート42に対して絶縁材32を介して固定されている。導電性支柱31には、導板33を介して直流電源34が接続されている。この直流電源34は、制御部35によってその動作が制御されている。制御部35は、直流電源34を制御することにより、導電性支柱31を介して、支持体3にパルス状の直流電圧を供給させるように構成されている(図7および図8参照)。
導電性支柱31の内部には、セラミックパイプ36を介してヒータ37が収容されている。セラミックパイプ36は、絶縁性および熱伝導性を確保するためのものである。ヒータ37は、円筒状基体10を加熱するためのものである。ヒータ37としては、たとえばニクロム線やカートリッジヒーターを使用することができる。
ここで、支持体3の温度は、たとえば支持体3あるいは導電性支柱31に取り付けられた熱電対(図示略)によりモニタされており、この熱電対におけるモニタ結果に基づいて、ヒータ37をオン・オフさせることにより、円筒状基体10の温度が目的範囲、たとえば200℃以上400℃以下から選択される一定の範囲に維持される。
真空反応室4は、円筒状基体10に対して堆積膜を形成するための空間であり、円筒状電極40および一対のプレート41,42により規定されている。
円筒状電極40は、第2導体として機能するものであり、支持体3の周囲を囲む円筒状に形成される。この円筒状電極40は、円筒状基体10と同様な導電性材料により中空に形成されており、絶縁部材43,44を介して一対のプレート41,42に接合されている。
円筒状電極40は、支持体3に支持させた円筒状基体10と円筒状電極40との間の距離D4が10mm以上100mm以下となるような大きさに形成されている。これは、円筒状基体10と円筒状電極40との距離D4が10mmよりも小さい場合は真空反応室4に対する円筒状基体10の出し入れなどにおいて作業性を充分に確保できず、また円筒状基体10と円筒状電極40との間で安定した放電を得ることが困難となり、逆に、円筒状基体10と円筒状電極40との距離D4が100mmよりも大きい場合は、プラズマCVD装置2が大きくなってしまい単位設置面積当たりの生産性が悪くなるためである。
円筒状電極40は、ガス導入口45および複数のガス吹き出し孔46が設けられているとともに、その一端において接地されている。なお、円筒状電極40は、必ずしも接地する必要はなく、直流電源34とは別の基準電源に接続してもよい。円筒状電極40を直流電源34とは別の基準電源に接続する場合、基準電源における基準電圧は、支持体3(円筒状基体10)に対して負のパルス状電圧(図7参照)を印加する場合には、−1500V以上1500V以下とされ、支持体3(円筒状基体10)に対して正のパルス状電圧(図8参照)を印加する場合には、−1500V以上1500V以下とされる。
ガス導入口45は、真空反応室4に供給すべき原料ガスを導入するためのものであり、原料ガス供給手段6に接続されている。
複数のガス吹き出し孔46は、円筒状電極40の内部に導入された原料ガスを円筒状基体10に向けて吹き出すためのものであり、図の上下方向等間隔で配置されているとともに、周方向にも等間隔で配置されている。複数のガス吹き出し孔46は、同一形状の円形に形成されており、その孔径は、たとえば0.5mm以上2.0mm以下とされている。もちろん、複数のガス吹き出し孔46の孔径、形状および配置については、適宜変更可能である。
プレート41は、真空反応室4が開放された状態と閉塞された状態とを選択可能とするめのものであり、プレート41を開閉することによって真空反応室4に対する支持体3の出し入れが可能とされている。プレート41は、円筒状基体10と同様な導電性材料により形成されているが、下面側に防着板47が取着されている。これにより、プレート41に対して堆積膜が形成されるのが防止されている。この防着板47もまた、円筒状基体10と同様な導電性材料により形成されているが、防着板47はプレート41に対して着脱自在とされている。そのため、防着板47は、プレート41から取り外すことにより洗浄が可能であり、繰り返し使用することができる。
プレート42は、真空反応室4のベースとなるものであり、円筒状基体10と同様な導電性材料により形成されている。プレート42と円筒状電極40との間に介在する絶縁部材44は、円筒状電極40とプレート42との間にアーク放電が発生するのを抑える役割を有するものである。このような絶縁部材44は、たとえばガラス材料(ホウ珪酸ガラス、ソーダガラス、耐熱ガラスなど)、無機絶縁材料(セラミックス、石英、サファイヤなど)、あるいは合成樹脂絶縁材料(テフロン(登録商標)などのフッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ビニロン、エポキシ、マイラー、PEEK材など)により形成することができるが、絶縁性を有し、使用温度で充分な耐熱性があり、真空中でガスの放出が小さい材料であれば特に限定はない。ただし、絶縁部材44は、成膜体の内部応力および成膜時の温度上昇に伴って生じるバイメタル効果に起因する応力により反りが発生して使用できなくなるのを防止するために、一定以上の厚みを有するものとして形成されている。たとえば、絶縁部材44をテフロン(登録商標)のような熱膨張率3×10−5/K以上10×105/K以下の材料により形成する場合には、絶縁部材44の厚みは10mm以上に設定される。このような範囲に絶縁部材44の厚みを設定した場合には、絶縁部材44と円筒状基体10に成膜される10μm以上30μm以下のa−Si膜との界面に発生する応力に起因するそり量が、水平方向(円筒状基体10の軸方向に略直交する半径方向)の長さ200mmに対して、水平方向における端部と中央部との軸方向における高さの差で1mm以下とすることができ、絶縁部材44を繰り返し使用することが可能となる。
プレート42および絶縁部材44には、ガス排出口42A,44Aおよび圧力計49が設けられている。排気口42A,44Aは、真空反応室4の内部の気体を排出するためのものであり、排気手段7に接続されている、圧力計49は、真空反応室4の圧力をモニタリングするためのものであり、公知の種々のものを使用することができる。
図3に示したように、回転手段5は、支持体3を回転させるためのものであり、回転モータ50および回転力伝達機構51を有している。回転手段5により支持体3を回転させて成膜を行なった場合には、支持体3とともに円筒状基体10が回転させられるために、円筒状基体10の外周に対して均等に原料ガスの分解成分を堆積させることが可能となる。
回転モータ50は、円筒状基体10に回転力を付与するものである。この回転モータ50は、たとえば円筒状基体10を1rpm以上10rpm以下で回転させるように動作制御される。回転モータ50としては、公知の種々のものを使用することができる。
回転力伝達機構51は、回転モータ50からの回転力を円筒状基体10に伝達・入力するためのものであり、回転導入端子52、絶縁軸部材53および絶縁平板54を有している。
回転導入端子52は、真空反応室4内の真空を保ちながら回転力を伝達するためのものである。このような回転導入端子52としては、回転軸を二重もしくは三重構造としてオイルシールやメカニカルシール等の真空シール手段を用いることができる。
絶縁軸部材53は、支持体3とプレート41との間の絶縁状態を維持しつつ、回転モータ50からの回転力を支持体3に入力するためのものであり、たとえば絶縁部材44などの同様な絶縁材料により形成されている。ここで、絶縁軸部材53の外径は、成膜時において、支持体3の外径(後述する上ダミー基体38Bの内径)よりも小さくなるように設定されている。より具体的には、成膜時における円筒状基体10の温度が200℃以上400℃以下に設定される場合、絶縁軸部材53の外径は、支持体3の外径(後述する上ダミー基体38Bの内径)よりも0.1mm以上5mm以下、好適には3mm程度大きくなるように設定される。この条件を満たすために、非成膜時(常温環境下(たとえば10℃以上40℃以下))においては、絶縁軸部材53の外径と支持体3の外径(後述する上ダミー基体38Bの内径)との差は、0.6mm以上5.5mm以下に設定される。
絶縁平板54は、プレート41を取り外しするときに上方から落下するゴミや粉塵などの異物が円筒状基体10へ付着するのを防止するためのものであり、上ダミー基体38Bの内径より大きな外径を有する円板状に形成されている。絶縁平板54の直径は、円筒状基体10の直径の1.5倍以上3.0倍以下とされ、たとえば円筒状基体10として直径が30mmのものを用いる場合には、絶縁平板54の直径は50mm程度とされる。
このような絶縁平板54を設けた場合には、円筒状基体10に付着した異物に起因する異常放電を抑制することができるため、成膜欠陥の発生を抑制することができる。これにより、電子写真感光体1を形成する際の歩留まりを向上させ、また電子写真感光体1を用いて画像形成する場合における画像不良の発生を抑制することができる。
図3に示したように、原料ガス供給手段6は、複数の原料ガスタンク60,61,62,63、複数の配管60A,61A,62A,63A、バルブ60B,61B,62B,63B,60C,61C,62C,63C、および複数のマスフローコントローラ60D,61D,62D,63Dを備えたものであり、配管64およびガス導入口45を介して円筒状電極40に接続されている。各原料ガスタンク60〜63は、たとえばB2H6、H2(またはHe)、CH4あるいはSiH4が充填されたものである。バルブ60B〜63B,60C〜63Cおよびマスフローコントローラ60D〜63Dは、真空反応室4に導入する各原料ガス成分の流量、組成およびガス圧を調整するためのものである。もちろん、原料ガス供給手段6においては、各原料ガスタンク60〜63に充填すべきガスの種類、あるいは複数の原料タンク60〜63の数は、円筒状基体10に形成すべき膜の種類あるいは組成に応じて適宜選択すればよい。
排気手段7は、真空反応室4のガスをガス排出口42A,44Aを介して外部に排出するためのものであり、メカニカルブースタポンプ71およびロータリーポンプ72を備えている。これらのポンプ71,72は、圧力計49でのモニタリング結果により動作制御されるものである。すなわち、排気手段7では、圧力計49でのモニタリング結果に基づいて、真空反応室4を真空に維持できるとともに、真空反応室4のガス圧を目的値に設定することができる。真空反応室4の圧力は、たとえば1.0Pa以上100Pa以下とされる。
次に、プラズマCVD装置2を用いた堆積膜の形成方法について、円筒状基体10にa−Si膜が形成された電子写真感光体1(図1参照)を作製する場合を例にとって説明する。
まず、円筒状基体10に堆積膜(a−Si膜)を形成にあたっては、プラズマCVD装置2のプレート41を取り外した上で、複数の円筒状基体10(図面上は2つ)を支持させた支持体3を、真空反応室4の内部にセットし、再びプレート41を取り付ける。
支持体3に対する2つの円筒状基体10の支持に当たっては、支持体3の主要部を外套した状態で、フランジ部30上に、下ダミー基体38A、円筒状基体10、円筒状基体10、および上ダミー基体38Bが順次積み上げられる。
各ダミー基体38A,38Bとしては、製品の用途に応じて、導電性または絶縁性基体の表面に導電処理を施したものが選択されるが、通常は、円筒状基体10と同様な材料により円筒状に形成されたものが使用される。
ここで、下ダミー基体38Aは、円筒状基体10の高さ位置を調整するためのものである。上ダミー基体38Bは、支持体3に堆積膜が形成されるのを防止し、成膜中に一旦被着した成膜体の剥離に起因する成膜不良の発生を抑制するためのものである。上ダミー基体38Bは、一部が支持体3の上方に突出した状態とされる。
一方、円筒状基体10としては、たとえば端部15の形状が図2に示したものが使用される。そのため、上ダミー基体38Bと下ダミー基板38Aとの間に2つの円筒状基体10を隣接させて配置させた場合には、それらの円筒状基体10の端部10Bの間には隙間が形成される。
図2に示したような円筒状基体10の外周面10Aと端面15との間に凹部17を設けた円筒状基体10を用いた場合には、図6(a)に示したように、隣接する円筒状基体10における凹部17の底面17A(環状の第1端面)どうしは互いに接触することはなく、凹部17と端面15との境界18よりも外方側に隙間が形成される。このような隙間は、図6(b)に示したように、隣接する円筒状基体10が位置ズレすることなく隣接する場合であっても、図6(c)に示したように隣接する円筒状基体10が位置ズレして隣接する場合であっても、凹部17の底面17Aを露出させるものとなる。
次いで、真空反応室4の密閉状態とし、回転手段5により支持体3を介して円筒状基体10を回転させるとともに、円筒状基体10を加熱し、排気手段7により真空反応室4を減圧する。
円筒状基体10の加熱は、たとえばヒータ37に対して外部から電力を供給してヒータ37を発熱させることにより行なわれる。このようなヒータ37の発熱により、円筒状基体10が目的とする温度に昇温される。円筒状基体10の温度は、その表面に形成すべき膜の種類および組成によって選択されるが、たとえばa−Si膜を形成する場合には250℃以上300℃以下の範囲に設定され、ヒータ37のオン・オフすることにより略一定に維持される。
一方、真空反応室4の減圧は、排気手段7によってガス排出口42A,44Aを介して真空反応室4からガスを排出させることにより行なわれる。真空反応室4の減圧の程度は、圧力計49(図3参照)での真空反応室4の圧力をモニタリングしつつ、メカニカルブースタポンプ71(図3参照)およびロータリーポンプ72(図3参照)の動作を制御することにより、たとえば10−3Pa程度とされる。
次いで、円筒状基体10の温度が所望温度となり、真空反応室4の圧力が所望圧力となった場合には、原料ガス供給手段6により真空反応室4に原料ガスを供給するとともに、円筒状電極40と支持体3との間にパルス状の直流電圧を印加する。これにより、円筒状電極40と支持体3(円筒状基体10)との間にグロー放電が起こり、原料ガス成分が分解され、原料ガスの分解成分が円筒状基体10の表面に堆積される。
一方、排気手段7においては、圧力計49をモニタリングしつつ、メカニカルブースタポンプ71およびロータリーポンプ72の動作を制御することにより、真空反応室4におけるガス圧を目的範囲に維持する。すなわち、真空反応室4の内部は、原料ガス供給手段6におけるマスフローコントローラ60D〜63Dと排気手段7におけるポンプ71,72によって安定したガス圧に維持される。真空反応室4におけるガス圧は、たとえば1.0Pa以上100Pa以下とされる。
真空反応室4への原料ガスの供給は、バルブ60B〜63B,60C〜63Cの開閉状態を適宜制御しつつ、マスフローコントローラ60D〜63Dを制御することにより、原料ガスタンク60〜63の原料ガスを、所望の組成および流量で、配管60A〜63A,64およびガス導入口45を介して円筒状電極40の内部に導入することにより行なわれる。円筒状電極40の内部に導入された原料ガスは、複数のガス吹き出し孔46を介して円筒状基体10に向けて吹き出される。そして、バルブ60B〜63B,60C〜63Cおよびマスフローコントローラ60D〜63Dによって原料ガスの組成を適宜切り替えることにより、円筒状基体10の外周面10Aには、電荷注入阻止層11A、光導電層11Bおよび表面保護層11Cが順次積層形成される。
円筒状電極40と支持体3との間へのパルス状の直流電圧を印加は、制御部35によって直流電源34を制御することにより行なわれる。
一般に、13.56MHzのRF帯域以上の高周波電力を使用した場合、空間で生成されたイオン種が電界によって加速され、正・負の極性に応じた方向に引き寄せられることになるが、高周波交流により電界が連続して反転することから、前記イオン種が円筒状基体10あるいは放電電極に到達するより前に、空間中で再結合を繰り返し、再度ガスまたはポリシリコン粉体などのシリコン化合物となって排気される。
これに対して、円筒状基体10側が正負いずれかの極性になるようなパルス状の直流電圧を印加してカチオンを加速させて円筒状基体10に衝突させ、その衝撃によって表面の微細な凹凸をスパッタリングしながらa−Siの成膜を行った場合には、極めて凹凸の少ない表面をもったa−Siが得られる。本発明者らはこの現象を“イオンスパッタリング効果”と名付けた。
このようなプラズマCVD法において、効率よくイオンスパッタリング効果を得るには、極性の連続的な反転を避けるような電力を印加することが必要であり、前記パルス状の矩形波の他には、三角波、直流電力、直流電圧が有用である。また、全ての電圧が正負いずれかの極性になるように調整された交流電力等でも同様の効果が得られる。印加電圧の極性は、原料ガスの種類によってイオン種の密度や堆積種の極性などから決まる成膜速度などを考慮して自由に調整できる。
ここで、パルス状電圧により効率よくイオンスパッタリング効果を得るには、支持体3(円筒状基体10)と円筒状電極40との間の電位差は、たとえば50V以上3000V以下の範囲内とされ、成膜レートを考慮した場合、好ましくは500V以上3000V以下の範囲内とされる。
より具体的には、制御部35は、円筒状電極40が接地されている場合には、支持体3(導電性支柱31)に対して、−3000V以上−50V以下の範囲内の負のパルス状直流電位V1を供給し(図7参照)、あるいは50V以上3000V以下の範囲内の正のパルス状直流電位V1を供給する(図8参照)。
一方、円筒状電極40が基準電極(図示略)に接続されている場合には、支持体3(導電性支柱31)に対して供給するパルス状直流電位V1は、目的とする電位差ΔVから基準電源により供給される電位V2を差分した値(ΔV−V2)とされる。基準電源により供給する電位V2は、支持体3(円筒状基体10)に対して負のパルス状電圧(図7参照)を印加する場合には、−1500V以上1500V以下とされ、支持体3(円筒状基体10)に対して正のパルス状電圧(図8参照)を印加する場合には、−1500V以上1500V以下とされる。
制御部35はまた、直流電圧の周波数(1/T(sec))が300kHz以下に、duty比(T1/T)が20%以上90%以下となるように直流電源34を制御する。
なお、本発明におけるduty比とは、図7および図9に示したようにパルス状の直流電圧の1周期(T)(円筒状基体10と円筒状電極40との間に電位差が生じた瞬間から、次に電位差が生じた瞬間までの時間)における電位差発生T1が占める時間割合と定義される。たとえば、duty比20%とは、パルス状の電圧を印加する際の、1周期に占める電位差発生(ON)時間が1周期全体の20%であることを言う。
このイオンスパッタリング効果を利用して得られたa−Siの光導電層11Bは、その厚みが10μm以上となっても、表面の微細凹凸が小さく平滑性がほとんど損なわれない。そのため、光導電層11B上に表面層11Cであるa−SiCを1μm程度積層した場合の表面層11Cの表面形状は、光導電層11Bの表面形状を反映した滑らかな面とすることが可能となる。その一方で、表面層11Cを積層する場合においても、イオンスパッタリグ効果を利用することにより、表面層11Cを微細凹凸が小さい平滑な膜として形成することができる。
ここで、電荷注入阻止層11A、光導電層11Bおよび表面層11Cの形成に当たっては、原料ガス供給手段6におけるマスフローコントローラ60D〜63Dおよびバルブ60B〜63B,60C〜63Cを制御し、目的とする組成の原料ガスが真空反応室4に供給されるのは上述の通りである。
たとえば、電荷注入阻止層11Aをa−Si系の堆積膜として形成する場合には、原料ガスとして、SiH4(シランガス)などのSi含有ガス、B2H6などのドーパント含有ガス、および水素(H2)やヘリウム(He)などの希釈ガスの混合ガスが用いられる。ドーパント含有ガスとしては、ホウ素(B)含有ガスの他に、窒素(N)あるいは酸素(O)含有ガスを用いることもできる。
光導電層11Bをa−Si系の堆積膜として形成する場合には、原料ガスとして、SiH4(シランガス)などのSi含有ガスおよび水素(H2)やヘリウム(He)などの希釈ガスの混合ガスが用いられる。光導電層11Bにおいては、ダングリングボンド終端用に水素(H)やハロゲン元素(F、Cl)を膜中に1原子%以上40原子%以下含有させるように、希釈ガスとして水素ガスを用い、あるいは原料ガス中にハロゲン化合物を含ませておいてもよい。また、原料ガスには、暗導電率や光導電率などの電気的特性及び光学的バンドギャップなどについて所望の特性を得るために、周期律表第13族元素(以下「第13族元素」と略す)や周期律表第15族元素(以下「第15族元素」と略す)を含有させてもよく、上記諸特性を調整するために炭素(C)、酸素(O)などの元素を含有させてもよい。
第13族元素および第15族元素としては、それぞれホウ素(B)およびリン(P)が共有結合性に優れて半導体特性を敏感に変え得る点、および優れた光感度が得られるという点で望ましい。電荷注入阻止層11Aに対して第13族元素および第15族元素を炭素(C)、酸素(O)などの元素とともに含有させる場合には、第13族元素の含有量は0.1ppm以上20000ppm以下、第15族元素の含有量は0.1ppm以上10000ppm以下となるように調整される。また、光導電層11Bに対して第13族元素および第15族元素を炭素(C)、酸素(O)等の元素とともに含有させる場合、あるいは、電荷注入阻止層11Aおよび光導電層11Bに対して炭素(C)、酸素(O)等の元素を含有させない場合には、第13族元素は0.01ppm以上200ppm以下、第15族元素は0.01ppm以上100ppm以下となるように調整される。なお、原料ガスにおける第13属元素あるいは第15属元素の含有量を経時的に変化させることにより、これらの元素の濃度について層厚方向にわたって勾配を設けるようにしてもよい。この場合には、光導電層11Bにおける第13族元素および第15族元素の含有量は、光導電層11Bの全体における平均含有量が上記範囲内であればよい。
また、光導電層11Bについては、a−Si系材料に微結晶シリコン(μc−Si)を含んでいてもよく、このμc−Siを含ませた場合には、暗導電率・光導電率を高めることができるので、光導電層22の設計自由度が増すといった利点がある。このようなμc−Siは、先に説明した成膜方法を採用し、その成膜条件を変えることにより形成することができる。たとえば、グロー放電分解法では、円筒状基体10の温度および直流パルス電力を高めに設定し、希釈ガスとしての水素流量を増すことによって形成できる。また、μc−Siを含む光導電層11Bにおいても、先に説明したのと同様な元素(第13族元素、第15族元素、炭素(C)、酸素(O)など)を添加してもよい。
表面層11Cをa−SiC系の堆積膜として形成する場合には、原料ガスとして、SiH4(シランガス)などのSi含有ガスおよびCH4などのC含有ガスの混合ガスを供給する。原料ガスにおけるSiとCとの組成比については、連続的あるいは間欠的に変化させてもよい。すなわち、Cの比率が高くなるほど成膜速度が遅くなる傾向があるため、表面層11Cにおける光導電層11Bに近い部分についてはC比率が低くなるようにしつつ、自由表面側についてはC比率が高くなるように表面層11Cを形成するようにしてもよい。たとえば、表面層11Cの光導電層11B側(界面側)においては、水素化アモルファスシリコンカーバイト(a−Si1−xCx:H)におけるx値(炭素比率)が0を超えて0.8未満の比較的Si構成比の高い第1のSiC層を堆積した後、x値(炭素比率)が0.95以上1.0未満程度までC濃度を高くした第2のSiC層を堆積した2層構造であってもよい。
第1のSiC層は、その膜厚が、耐圧、残留電位、膜強度などから決定され、通常0.1μm以上2.0μm以下、好適には0.2μm以上1.0μm以下、最適には0.3μm以上0.8μm以下とされる。第2のSiC層は、その膜厚が、耐圧、残留電位、膜強度、寿命(耐摩耗性)等から決定され、通常0.01μm以上2μm以下、好適には0.02μm以上1.0μm以下、最適には0.05μm以上0.8μm以下とされる。
表面層11Cは、上述のようにa−C層として形成することもできる。この場合、原料ガスとしては、C2H2(アセチレンガス)あるいはCH4(メタンガス)などのC含有ガスが用いられる。また、表面層11Cは、その膜厚が、通常0.1μm以上2.0μm以下、好適には0.2μm以上1.0μm以下、最適には0.3μm以上0.8μm以下とされる。
表面層11Cをa−C層として形成した場合には、Si−O結合に比べてC−O結合のほうが結合エネルギが小さいため、表面層11Cをa−Si系材料により形成する場合に比べて、表面層11Cの表面が酸化することをより確実に抑制できる。そのため、表面層11Cをa−C層として形成した場合には、印刷時のコロナ放電により発生するオゾンなどによって、表面層11Cの表面が酸化されることが適切に抑制されるため、高温高湿環境下などでの画像流れの発生を抑制することができる。
円筒状基体10に対する膜形成が終了した場合には、支持体3から円筒状基体10を抜き取ることにより、図1に示した電子写真感光体1を得ることができる。そして、成膜後は、成膜残渣を取り除くため、真空反応室4内の各部材を分解し、酸、アルカリ、ブラスト等の洗浄を行い、次回成膜時に欠陥不良となる発塵が無いようウエットエッチングを行う。ウエットエッチングに代えて、ハロゲン系(ClF3、CF4、O2、NF3、SiF6またはこれらの混合ガス)のガスを用いてガスエッチングを行うことも有効である。
上述のように、隣接する円筒状基体10の間に隙間が形成され、その隙間には円筒状基体10の周りに存在する気体が流入可能となっている。そのため、円筒状基体10の外周面10Aに堆積膜を形成するときに、原料ガスの分解成分が隣接する円筒状基体10の間の隙間に流入し、その分解成分ガスが隙間を規定する面に堆積する。その結果、円筒状基体10には、外周面10Aから連続して、面取り面13、凹部17の底面17Aに堆積膜が形成される。そのため、円筒状基体10に堆積膜を形成しているときに、円筒状基体10の端部に粉体化した堆積物が付着して微小突起となることもなく、また円筒状基体10の端部10Bにおいて堆積膜の剥離することが抑制される。また、外周面10Aから連続して、面取り面13および凹部17の底面17Aに堆積膜が形成されると、円筒状基体10の端部10Bにおける膜の密着性が向上する。そのため、成膜終了後において基体支持体3から円筒状基体10を取り外すときに、円筒状基体10の端部10Bにおいて膜剥がれが生じることを抑制することができる。したがって、本発明では、円筒状基体10に微小突起が形成されることが抑制され、円筒状基体10の端部10Bでの膜剥がれや抑制されているために不良品の発生を抑制することができる。その結果、電子写真感光体1を製造する際の歩留まりを向上させることができ、製造コストの低減を図ることができるようになる。