図1は、本発明に係る画像形成装置Xの概略構成を表す図である。画像形成装置Xは、画像形成方式としてカールソン法を採用したものであり、電子写真感光体10、帯電器11、露光器12、現像器13、転写器14、定着器15、クリーニング器16、および除電器17を備えている。
帯電器11は、電子写真感光体10の表面を負極性に帯電する役割を担うものである。帯電電圧は、例えば200V以上1000V以下に設定される。本実施形態において帯電器11は、例えば芯金を導電性ゴムおよびPVDF(ポリフッ化ビニリデン)によって被覆して構成される接触型帯電器が採用されているが、これに代えて、放電ワイヤを備える非接触型帯電器(例えばコロナ帯電器)を採用してもよい。
露光器12は、電子写真感光体10に静電潜像を形成する役割を担うものである。具体的には、露光器12は、画像信号に応じて特定波長(例えば650nm以上780nm以下)の露光光(例えばレーザ光)を電子写真感光体10に照射することにより、帯電状態にある電子写真感光体10の露光光照射部分の電位を減衰させて静電潜像を形成する。露光器12としては、例えば複数のLED素子(波長:680nm)を配列させてなるLEDヘッドを採用することができる。
もちろん、露光器12の光源としては、LED素子に代えてレーザ光を出射可能なものを使用することもできる。つまり、LEDヘッドなどの露光器12に代えて、ポリゴンミラーを含んでなる光学系、あるいは、原稿からの反射光を通すレンズおよびミラーを含んでなる光学系を採用することにより、複写機の構成の画像形成装置とすることもできる。
現像器13は、電子写真感光体10の静電潜像を現像してトナー像を形成する役割を担うものである。本実施形態における現像器13は、現像剤(トナー)Tを磁気的に保持する磁気ローラ13Aを備えている。
現像剤Tは、電子写真感光体10の表面上に形成されるトナー像を構成するものであり、現像器13において摩擦帯電させられる。現像剤Tとしては、例えば、磁性キャリアおよび絶縁性トナーを含んでなる二成分系現像剤と、磁性トナーを含んでなる一成分系現像剤とが挙げられる。
磁気ローラ13Aは、電子写真感光体10の表面(現像領域)に現像剤を搬送する役割を担うものである。磁気ローラ13Aは、現像器13において摩擦帯電した現像剤Tを一定の穂長に調整された磁気ブラシの形で搬送する。この搬送された現像剤Tは、電子写真感光体10の現像領域において、静電潜像との静電引力により感光体表面に付着してトナー像を形成する(静電潜像を可視化する)。トナー像の帯電極性は、正規現像により画像形成が行われる場合には、電子写真感光体10の表面の帯電極性と逆極性とされ、反転現像により画像形成が行われる場合には、電子写真感光体10の表面の帯電極性と同極性とされる。
なお、本実施形態において現像器13は、乾式現像方式を採用しているが、液体現像剤を用いた湿式現像方式を採用してもよい。
転写器14は、電子写真感光体10と転写器14との間の転写領域に供給された記録媒体Pに、電子写真感光体10のトナー像を転写する役割を担うものである。本実施形態における転写器14は、転写用チャージャ14Aおよび分離用チャージャ14Bを備えている。転写器14では、転写用チャージャ14Aにおいて記録媒体Pの背面(非記録面)がトナー像とは逆極性に帯電され、この帯電電荷とトナー像との静電引力によって、記録媒体P上にトナー像が転写される。また、転写器14では、トナー像の転写と同時的に、分離用チャージャ14Bにおいて記録媒体Pの背面が交流帯電させられ、記録媒体Pが電子写真感光体10の表面から速やかに分離させられる。
転写器14としては、電子写真感光体10の回転に従動し、且つ、電子写真感光体10とは微小間隙(通常、0.5mm以下)を介して配置された転写ローラを用いることも可能である。この転写ローラは、例えば直流電源により、電子写真感光体10上のトナー像を記録媒体P上に引きつけるような転写電圧を印加するように構成される。転写ローラを用いる場合には、分離用チャージャ14Bのような転写分離装置は省略することもできる。
定着器15は、記録媒体Pに転写されたトナー像を記録媒体Pに定着させる役割を担うものであり、一対の定着ローラ15A,15Bを備えている。定着ローラ15A,15Bは、例えば金属ローラ上にテフロン(登録商標)などで表面被覆したものとされている。定着器15では、一対の定着ローラ15A,15Bの間を通過させる記録媒体Pに対して、熱や圧力などを作用させることにより、記録媒体Pにトナー像を定着させることができる。
クリーニング器16は、電子写真感光体10の表面に残存するトナーを除去する役割を担うものであり、クリーニングブレード16Aを備えている。クリーニングブレード16Aは、電子写真感光体10の表面から、残留トナーを掻きとる役割を担うものである。クリーニングブレード16Aは、例えばポリウレタン樹脂を主成分としたゴム材料により形成されている。
除電器17は、電子写真感光体10の表面電荷を除去する役割を担うものであり、特定波長(例えば780nm以上)の光を出射可能とされている。除電器17は、例えばLEDなどの光源によって電子写真感光体10の表面の軸方向全体を光照射することにより、電子写真感光体10の表面電荷(残余の静電潜像)を除去するように構成されている。
図2は、電子写真感光体10の概略構成を表す断面図である。電子写真感光体10は、基体10Aおよび感光層10Bを有しており、画像信号に基づいた静電潜像やトナー像が形成されるものである。なお、電子写真感光体10は、図外の回転機構によって図1の矢印A方向に回転可能とされる。
基体10Aは、電子写真感光体10の支持母体となるものであり、少なくとも表面に導電性を有するように構成されている。本実施形態に係る基体10Aの形状は円筒状であるが、これには限られず、例えば無端ベルト状としてもよい。基体10Aは、例えば金属あるいは該金属を含んでなる合金により、全体が導電性を有する構成としてもよいし、合成樹脂やガラス、セラミックスなどにより構成される絶縁体の表面に金属および透明導電性材料などの導電性膜を形成することにより、表面に導電性を有する構成としてもよい。金属としては、例えばアルミニウム(Al)、ステンレス(SUS)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、インジウム(In)、ニオブ(Nb)、テルル(Te)、バナジウム(V)、パラジウム(Pd)、タンタル(Ta)、スズ(Sn)、白金(Pt)、金(Au)、および銀(Ag)が挙げられる。合成樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリカーボネート、セルロースアセテート、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、およびポリアミドが挙げられる。透明導電性材料としては、例えばITO(Indium Tin Oxide)およびSnO2が挙げられる。以上のような構成の中でも、アモルファスシリコン系(a−Si系)材料により感光層10Bを形成する場合における該感光層10Bとの密着性を高める観点から、基体10Aの少なくとも表面をAl系合金(例えばAl−Mn系合金、Al−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金)により構成するものが特に好ましい。
基体10Aにおける感光層10Bの形成面は、旋盤などにより表面処理が施される。表面処理としては、例えば鏡面加工および線状溝加工が挙げられる。
感光層10Bは、基体10Aの外周面10Aa上に形成されており、その厚みは例えば15μm以上90μm以下に設定されている。感光層10Bの厚みを15μm以上にすると、例えば長波長光吸収層を設けなくても記録画像に干渉縞が発生するのを適切に抑制することができ、感光層10Bの厚みを90μm以下にすると、応力に起因して基体10Aから感光層10Bが剥がれてしまうのを適切に抑制することができる。
本実施形態において感光層10Bは、下部電荷注入阻止層101、光導電層102、上部電荷注入阻止層103、および表面層104を積層形成したものである。
下部電荷注入阻止層101は、基体10A側からの電荷が光導電層102側に注入されるのを阻止する役割を担うものである。具体的に、下部電荷注入阻止層101は、負極性の帯電処理を感光層10Bの自由表面に受けた際に、基体10A側より光導電層102側にホールが注入されるのを阻止する機能を有している。
下部電荷注入阻止層101は、シリコンを主体とする非単結晶材料により構成されている。本明細書において非単結晶材料とは、多結晶、微結晶、あるいは非晶質の部分を含む材料を意味している。
下部電荷注入阻止層101は、周期律表第15族元素(以下、「第15族元素」とする)を含んでいる。下部電荷注入阻止層101に含まれる第15族元素は、該下部電荷注入阻止層101中に実質的に均一に分布されていてもよいし、層厚方向において不均一に分布されている部位を有していてもよいが、残留電荷の発生を低減する観点から実質的に均一に分布されているのが好ましい。なお、いずれの場合においても、面内方向における特性の均一化を図る観点から、基体10Aの表面に平行な面内方向において実質的に均一に分布されているのが好ましい。
下部電荷注入阻止層101における第15族元素の原子濃度は、5×1017[1/cm3]以上5×1019[1/cm3]以下とされている。下部電荷注入阻止層101における第15族元素の原子濃度が5×1017[1/cm3]未満であると、電荷注入阻止能力を充分に確保できない場合があり、下部電荷注入阻止層101における第15族元素の原子濃度が5×1019[1/cm3]を超えると、光導電層を構成する非単結晶材料の主体であるシリコンに比べて原子径が相対的に大きい第15族元素が過剰となり、膜質が脆くなってしまう場合がある。
第15族元素としては、リン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)などが挙げられ、中でも下部電荷注入阻止層101を構成する非単結晶材料の主体であるシリコンとの原子径の差に起因する格子の歪みを低減する観点から、リンが特に好ましい。
下部電荷注入阻止層101に第15族元素を導入するための原料としては、例えば、PH3およびP2H4などの水素化リンと、PF3、PF5、PCl3、PCl5、PBr3、PBr5、およびPI3などのハロゲン化リンと、AsH3と、AsF3と、AsCl3と、AsBr3と、AsF5と、SbH3と、SbF3と、SbF5と、SbCl3と、SbCl5と、BiH3と、BiCl3と、BiBr3とが挙げられる。
下部電荷注入阻止層101には、炭素、酸素、および窒素のうちの少なくとも1種の元素を添加させてもよい。この添加元素は、下部電荷注入阻止層101中に実質的に均一に分布されていてもよいし、層厚方向において不均一に分布されている部位を有していてもよい。但し、分布濃度が不均一である場合は、残留電荷の発生を低減するとともに、密着性を向上する観点から、基体10A側における添加元素の濃度が大きくなるように含有させるのが好ましい。なお、いずれの場合においても、面内方向における特性の均一化を図る観点から、基体10Aの表面に平行な面内方向において実質的に均一に分布されているのが好ましい。
下部電荷注入阻止層101の厚さは、所望の電子写真特性および経済的効果などの観点から、0.1μm以上10μm以下に設定されている。下部電荷注入阻止層101の厚さが0.1μm未満であると、基体10A側からの電荷の注入を充分に阻止することができない場合があり、下部電荷注入阻止層101の厚さが10μmを超えると、残留電荷が発生し、メモリ特性が悪化してしまう場合がある。
光導電層102は、レーザ光などの光照射によってキャリアを発生させる役割を担うものである。光導電層102は、シリコンを主体とする非単結晶材料により構成されており、微結晶シリコンを含んでなる場合は、暗導電率・光導電率を高めることができ、光導電層102の設計自由度を高めることができる。このような微結晶シリコンは、成膜条件を変えることによって形成することができ、例えばグロー放電分解法を採用する場合、基体10Aの温度および直流パルス電力を高めに設定し、希釈ガス(例えば水素)の流量を増すことによって形成できる。
光導電層102は、シリコンの未結合手を補償する観点から、水素およびハロゲン元素の少なくとも一方を含むのが好ましい。光導電層102が含有する水素およびハロゲン元素の総和は、シリコンと水素とハロゲン元素との総和に対して1原子%以上40原子%以下とされるのが好ましい。光導電層102にシリコンを導入するための原料としては、SiH4、Si2H6、Si3H8、Si4H10などの水素化珪素(シラン類)が挙げられ、中でもシリコンの供給効率あるいは取扱い容易性などの観点からSiH4およびSi2H6が特に好ましい。光導電層102にハロゲン元素を導入するための原料としては、F2、BrF、ClF、ClF3、BrF3、BrF5、IF3、IF7、SiF4、およびSi2F6などが挙げられる。なお、光導電層102にシリコンを導入するための原料は、必要に応じてH2およびHeの少なくとも一方により希釈してもよい。
光導電層102における水素あるいはハロゲン元素の含有量を制御するには、例えば、基体10Aの温度、光導電層102に各元素を導入するための原料の供給量、あるいは放電電力などを調整すればよい。
光導電層102は、周期律表第13族元素(以下、「第13族元素」とする)を含んでいる。光導電層102に含まれる第13族元素は、該光導電層102中に実質的に均一に分布されていてもよいし、層厚方向において不均一に分布されている部位を有していてもよいが、光感度を高める観点から、基体10A側の端部領域が表面層104側(基体10Aとは反対側)の端部領域より濃度が小さくなるように分布されているのが好ましい。なお、いずれの場合においても、面内方向における特性の均一化を図る観点から、基体10Aの表面に平行な面内方向において実質的に均一に分布されているのが好ましい。
光導電層102における第13族元素の原子濃度は、2.5×1014[1/cm3]以上4×1015[1/cm3]以下とされている。光導電層102における第13族元素の原子濃度が2.5×1014[1/cm3]未満であると、正電荷に対する耐電圧を充分に(例えば第13族元素の原子濃度が0の場合の1.5倍以上に)高めることが困難となり、光導電層102における第13族元素の原子濃度が4×1015[1/cm3]を超えると、残留電位を充分に低い状態(例えば残留電位20V以下の状態)に維持することが困難となる。
第13族元素としては、硼素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)などが挙げられ、中でもCVD法による成膜時のドーピング濃度の制御容易性の観点から硼素が特に好ましい。
光導電層102に第13族元素を導入するための原料としては、例えば、B2H6、B4H10、B5H9、B5H11、B6H10、B6H12、およびB6H14などの水素化硼素と、BF3、BCl3、およびBBr3などのハロゲン化硼素と、AlCl3と、GaCl3と、Ga(CH3)3と、InCl3と、TlCl3とが挙げられる。
光導電層102に対する第13族元素の導入は、層形成時に、光導電層102の主たる構成元素を導入する原料とともに、第13族元素を導入するための原料を反応容器中に供給することにより行われる。また、伝第13族元素を導入するための原料は、必要に応じてH2およびHeの少なくとも一方により希釈してもよい。さらに、原料における第13族元素の含有量を経時的に変化させたり、希釈の程度を変化させたりすることにより、光導電層102における第13族元素の濃度を層厚方向に変化させてもよい。このような構成の場合、光導電層102における第13族元素の含有量は、光導電層102の全体における平均含有量が所定範囲内であればよい。
さらに、光導電層102には、炭素、酸素、および窒素のうちの少なくとも1種の元素を含有させてもよい。光導電層102が含有する炭素と酸素と窒素との総和は、これらの元素とシリコンとの総和に対して1×10−5原子%以上2原子%以下とされるのが好ましい。
光導電層102の厚さは、所望の電子写真特性および経済的効果などの観点から、5μm以上100μm(好適には10μm以上80μm以下)に設定されている。光導電層102の厚さが5μm未満であると、帯電能あるいは光感度を充分に確保できない場合があり、光導電層102の厚さが100μmを超えると、不必要に形成時間が長くなり、製造コストの増大に繋がってしまう場合がある。
上部電荷注入阻止層103は、帯電器11により感光層10Bの表面に帯電した電荷が光導電層102側に注入されるのを阻止する役割を担うものであり、シリコンおよび炭素の少なくとも一方を主体とする非単結晶材料により構成されている。
上部電荷注入阻止層103が含有する炭素の量は、シリコンおよび炭素の総和に対して10原子%以上70原子%以下の範囲であり、表面層104における炭素の含有量よりも少ないことが好ましい。上部電荷注入阻止層103が含有する炭素の量が10原子%未満であると、電荷注入を阻止する能力が充分に確保できない場合があり、上部電荷注入阻止層103が含有する炭素の量が70原子%を超えると、電荷の横流れ(EV流れ)を充分に抑制できない場合がある。また、上部電荷注入阻止層103における炭素の含有量を表面層104における炭素の含有量よりも少なくすることにより、上部電荷注入阻止層103と表面層104との界面における電荷の滞在が抑制され、残留電位を低減することが可能となる。
上部電荷注入阻止層103は、第13族元素を含んでいる。上部電荷注入阻止層103に含まれる第13族元素は、該上部電荷注入阻止層103中に実質的に均一に分布されていてもよいし、層厚方向において不均一に分布されている部位を有していてもよいが、電荷注入阻止機能を効果的に得る観点から、実質的に均一に分布されているのが好ましい。なお、いずれの場合においても、面内方向における特性の均一化を図る観点から、基体10Aの表面に平行な面内方向において実質的に均一に分布されているのが好ましい。
上部電荷注入阻止層103における第13族元素の原子濃度は、5×1017[1/cm3]以上5×1019[1/cm3]以下とされている。上部電荷注入阻止層103における第13族元素の原子濃度が5×1017[1/cm3]未満であると、電荷注入阻止能力を充分に確保できない場合があり、上部電荷注入阻止層103における第13族元素の原子濃度が5×1019[1/cm3]を超えると、残留電荷が発生し、メモリ特性が悪化してしまう場合がある。
第13族元素としては、光導電層102に含有される第13族元素と同様のものが挙げられる。また、上部電荷注入阻止層103に第13族元素を導入するための原料としては、光導電層102に第13族元素を導入するための原料と同様のものが挙げられる。
上部電荷注入阻止層103に対する第13族元素の導入は、層形成時に、上部電荷注入阻止層103の主たる構成元素を導入する原料とともに、第13族元素を導入するための原料を反応容器中に供給することにより行われる。
上部電荷注入阻止層103は、窒素、酸素、および炭素のうちの少なくとも1種を含んでいてもよい。上部電荷注入阻止層103に含まれる窒素、酸素、あるいは炭素は、該上部電荷注入阻止層103中に実質的に均一に分布されていてもよいし、層厚方向において不均一に分布されている部位を有していてもよい。なお、いずれの場合においても、面内方向における特性の均一化を図る観点から、基体10Aの表面に平行な面内方向において実質的に均一に分布されているのが好ましい。
上部電荷注入阻止層103に含有される窒素、酸素、および炭素の総和は、これらの各元素とシリコンとの総和に対して10原子%以上70原子%以下であるのが好ましい。
上部電荷注入阻止層103の厚さは、電荷注入の阻止能力あるいは画像品質などの電子写真特性の観点から、0.01μm以上1μm以下に設定されている。上部電荷注入阻止層103の厚さが0.01μm未満であると、電荷注入阻止能力を充分に確保できない場合があり、上部電荷注入阻止層103の厚さが1μmを超えると、残留電荷が発生し、メモリ特性が悪化してしまう場合がある。
表面層104は、主として電子写真感光体10の耐湿性、繰り返し使用特性、電気的耐圧性、使用環境特性、あるいは耐久性を高める役割を担うものであり、シリコンおよび炭素の少なくとも一方を主体とする非単結晶材料により構成されている。
表面層104は、例えば、アモルファスシリコンカーバイド(a−SiC)により構成される場合、a−SiC中の炭素含有量がシリコンおよび炭素の総和に対して40原子%以上90原子%以下であるのが好ましく、水素化アモルファスシリコンカーバイド(a−SiC:H)により構成される場合、a−SiC:H中の炭素含有量がシリコンおよび炭素の総和に対して55原子%以上93原子%以下(好適には60原子%以上70原子%以下)であるのが好ましい。
表面層104は、シリコンの未結合手を補償する観点から、水素およびハロゲン元素の少なくとも一方を含むのが好ましい。表面層104における水素の含有量は、構成元素の総和に対して1原子%以上70原子%以下(好適には1原子%以上45原子%以下)とされるのが好ましい。表面層104における水素の含有量が1原子%未満であると、水素を含有させることによる効果を充分に得ることができない場合があり、表面層104における水素の含有量が70原子%を超えると、表面層104の表面に光が照射される際に生じる電荷のトラップを充分に抑制できない(ひいては残留電位に起因する画像不良の発生を充分に抑制できない)場合がある。
表面層104の厚さは、耐久性あるいは残留電位などの観点から、0.2μm以上1.5μm以下(好適には、0.5μm以上1μm以下)に設定されている。表面層104の厚さが0.2μm未満であると、耐刷による画像キズあるいは画像濃度ムラの発生を充分に抑制できない場合があり、表面層104の厚さが1.5μmを超えると、残留電位に起因する画像不良の発生を適切に抑制できない場合がある。
図3は、電子写真感光体10における下部電荷注入阻止層101、光導電層102、上部電荷注入阻止層103、および表面層104を形成するプラズマCVD装置Yの一例を示す模式的構成図である。
プラズマCVD装置Yは、反応室20と、支持機構30と、直流電圧供給機構40と、温度制御機構50と、回転機構60と、ガス供給機構70と、排気機構80と、を備えている。
反応室20は、基体10Aに対して堆積膜を形成するための空間であり、円筒状電極21と、一対のプレート22,23と、絶縁部材24,25により規定されている。
円筒状電極21は、堆積膜の形成空間を規定するとともに、第2導体としての役割を担うものである。円筒状電極21は、基体10Aと同様の導電性材料により構成されており、絶縁部材24,25を介して一対のプレート22,23に接合されている。本実施形態における円筒状電極21は、支持機構30に支持させた基体10Aと円筒状電極21との離間距離が10mm以上100mm以下となるように形成されている。これは、基体10Aと円筒状電極21との距離が10mmよりも小さくなると、基体10Aと円筒状電極21との間で安定した放電を得難くなる場合があり、基体10Aと円筒状電極21との距離が100mmよりも大きくなると、プラズマCVD装置Yが必要以上に大きくなってしまい単位設置面積当たりの生産性が低下する場合があるからである。
円筒状電極21は、ガス導入口21aおよび複数のガス吹き出し孔21bを有しており、その一端において接地されている。円筒状電極21の接地は必須の要件ではなく、後述の直流電源41とは別の基準電源に接続する構成としてもよい。なお、円筒状電極21を直流電源41とは別の基準電源に接続する場合、基準電源における基準電圧は、例えば1500V以上1500V以下とされる。
ガス導入口21aは、洗浄ガスおよび原料ガスを反応室20に導入するための開口であり、ガス供給機構70に接続されている。
複数のガス吹き出し孔21bは、円筒状電極21の内部に導入された洗浄ガスおよび原料ガスを基体10Aに向けて吹き出すための開口であり、図の上下方向および周方向において等間隔で配置されている。複数のガス吹き出し孔21bは、同一形状の円形に形成されており、その孔径は例えば0.5mm以上2.0mm以下とされている。なお、複数のガス吹き出し孔21bの孔径、形状および配置については、適宜変更可能である。
プレート22は、反応室20の開放状態と閉塞状態とを選択することが可能な構成とされており、プレート22を開閉することにより反応室20に対する後述の支持体31の出し入れが可能とされている。プレート22は、基体10Aと同様の導電性材料により形成されているが、その下面側に防着板26が取り付けられている。これにより、プレート22に対して堆積膜が形成されるのが防止されている。なお、防着板26は、基体10Aと同様の導電性材料により形成されており、プレート22に対して着脱自在とされている。
プレート23は、反応室20のベースとなるものであり、基体10Aと同様の導電性材料により形成されている。プレート23と円筒状電極21との間に介在する絶縁部材25は、円筒状電極21とプレート23との間にアーク放電が発生するのを抑制する役割を担うものである。このような絶縁部材25は、例えばガラス材料(ホウ珪酸ガラス、ソーダガラス、耐熱ガラスなど)、無機絶縁材料(セラミックス、石英、サファイヤなど)、あるいは合成樹脂絶縁材料(テフロン(登録商標)などのフッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ビニロン、エポキシ、マイラー、PEEK材など)により形成することができるが、絶縁性を有し、使用温度で充分な耐熱性があり、真空中でガスの放出が小さい材料であれば特に限定はない。
プレート23および絶縁部材25には、ガス排出口23A,25Aおよび圧力計27が設けられている。ガス排出口23A,25Aは、反応室20の内部の気体を排出する役割を担うものであり、排気機構80に接続されている。圧力計27は、反応室20の圧力をモニタリングするためのものであり、公知の種々のものを使用することができる。
支持機構30は、基体10Aを支持するとともに、第1導体としての役割を担うものである。支持機構30は、支持体31と、導電性支柱32と、絶縁材33とを含んで構成されている。本実施形態における支持機構30は、2つの基体10Aを支持することができる長さ(寸法)に形成されており、支持体31が導電性支柱32に対して着脱自在とされている。このような構成によると、支持した2つの基体10Aの表面に直接触れることなく、反応室20に対して2つの基体10Aの出し入れを行なうことができる。
支持体31は、フランジ部31aを有する中空状の部材であり、基体10Aと同様の導電性材料により全体が導体として構成されている。
導電性支柱32は、導板32aを有する筒状の部材であり、基体10Aと同様の導電性材料により全体が導体として構成されている。導電性支柱32は、その上端部において支持体31の内壁面に当接するように構成されている。
絶縁材33は、導電性支柱32とプレート23との間の電気的絶縁性を確保する役割を担うものであり、反応室20の略中央において導電性支柱32とプレート23との間に介在している。
直流電圧供給機構40は、導電性支柱32に対して直流電圧を供給する機構であり、直流電源41および制御部42を有している。
直流電源41は、導電性支柱32に対して印加する直流電圧を発生させる役割を担うものであり、導板32aを介して導電性支柱32に接続されている。
制御部42は、直流電源41の動作を制御する役割を担うものであり、該直流電源41に接続されている。制御部42は、直流電源41の動作を制御して、導電性支柱32を介して支持体31にパルス状の直流電圧(図4参照)を印加することができるように構成されている。
温度制御機構50は、基体11の温度を制御する役割を担うものであり、セラミックパイプ51およびヒータ52を有している。
セラミックパイプ51は、絶縁性および熱伝導性を確保する役割を担うものであり、導電性支柱32の内部に収容されている。
ヒータ52は、基体10Aを加熱する役割を担うものであり、導電性支柱32の内部に収容されている。基体10Aの温度制御は、例えば支持体31あるいは導電性支柱32に熱電対(図示せず)を取り付け、そのモニタ結果に基づいてヒータ52をオン/オフ制御することにより行われる。基体10Aの温度は、例えば200℃以上400℃以下の範囲における所定温度に維持される。なお、ヒータ52としては、例えばニクロム線およびカートリッジヒータが挙げられる。
回転機構60は、支持体31を回転させる役割を担うものであり、回転モータ61と、回転導入端子62と、絶縁軸部材63と、絶縁平板64とを有している。回転機構60により支持機構30を回転させて成膜を行う場合、支持体31とともに基体10Aが回転させられるために、原料ガスの分解成分を基体10Aの外周に対して略均等に堆積させるうえで好適である。
回転モータ61は、基体10Aに回転力を付与する役割を担うものである。回転モータ61は、例えば基体10Aを1rpm以上10rpm以下の一定の回転数で回転させるように動作制御される。回転モータ61としては、公知の種々のものを使用することができる。
回転導入端子62は、反応室20内を所定の真空度に保ちながら回転力を伝達する役割を担うものである。このような回転導入端子62としては、回転軸を二重もしくは三重構造としてオイルシールあるいはメカニカルシールなどの真空シール手段を用いることができる。
絶縁軸部材63および絶縁平板64は、支持機構30とプレート22との間の絶縁状態を維持しつつ、回転モータ61からの回転力を支持機構30に伝達する役割を担うものであり、例えば絶縁部材25と同様の絶縁材料により形成されている。
絶縁平板64は、プレート22を取り外す際に落下するゴミあるいは粉塵などの異物が基体10Aへ付着するのを防止する役割を担うものである。このような絶縁平板64を有する場合、基体10Aに異物が付着することに起因する異常放電の発生を抑制することができるため、成膜欠陥の発生を抑制することができる。
ガス供給機構70は、複数の原料ガスタンク71,72,73,74と、複数の配管71A,72A,73A,74Aと、バルブ71B,72B,73B,74B,71C,72C,73C,74Cと、複数のマスフローコントローラ71D,72D,73D,74Dとを含んでなり、配管75およびガス導入口21aを介して円筒状電極21に接続されている。
各原料ガスタンク71,72,73,74は、原料ガスが充填されたものである。原料ガスとしては、例えばSiH4、H2、B2H6、CH4、N2、あるいはNOが用いられる。
バルブ71B,72B,73B,74B,71C,72C,73C,74Cおよびマスフローコントローラ71D,72D,73D,74Dは、反応室20に導入するガス成分の流量、組成およびガス圧を調整するためのものである。なお、ガス供給機構70においては、各原料ガスタンク71,72,73,74に充填すべきガスの種類、あるいは複数の原料ガスタンク71,72,73,74の数は、基体10Aに形成すべき膜の種類あるいは組成に応じて適宜選択すればよい。
排気機構80は、反応室20のガスをガス排出口23A,25Aを介して外部に排出する役割を担うものであり、メカニカルブースタポンプ81およびロータリーポンプ82を有している。これらのポンプ81,82は、圧力計27でのモニタリング結果により動作制御されるものである。すなわち、排気機構80では、圧力計27でのモニタリング結果に基づいて、反応室20を所定の真空状態に維持できるとともに、反応室20のガス圧を目的値に設定することができる。なお、反応室20の圧力は、例えば1.0Pa以上100Pa以下とされる。
次に、プラズマCVD装置Yを用いた堆積膜の形成方法について、電子写真感光体10(図2参照)を作製する場合を例にとって説明する。
まず、プラズマCVD装置Yのプレート22を取り外した上で、複数の基体10A(図面上は2つ)を支持させた支持機構30を、反応室20の内部にセットし、再びプレート22を取り付ける。支持機構30における2つの基体10Aの支持は、支持体31のフランジ部31a上において、下ダミー基体D1、基体10A、中間ダミー基体D2、基体10A、および上ダミー基体D3を順次積み上げる形で行われる。各ダミー基体D1,D2,D3としては、例えば、全体が導電性を有する構成のものや、絶縁体の表面に導電性膜を形成した構成のものが挙げられるが、中でも基体10Aと同様の構成のものが特に好ましい。下ダミー基体D1は、主として基体10Aの高さ位置を調整する役割を担うものである。中間ダミー基体D2は、主として隣接する基体10Aの端部間にアーク放電が発生するのを抑制する役割を担うものである。中間ダミー基体38Bとしては、その長さがアーク放電の発生を充分に抑制できる長さ(例えば1cm以上)に設定され、その外周面側角部が曲面加工(例えば曲率半径0.5mm以上)あるいは面取り加工(カットされた部分の軸方向の長さおよび深さ方向の長さがそれぞれ0.5mm以上)が施されたものが採用される。上ダミー基体D3は、主として支持体31に堆積膜が形成されるのを抑制する役割を担うものである。上ダミー基体D3としては、その一部が支持体31の最上部より上方に突出するように構成されたものが採用される。
次いで、温度制御機構50により基体10Aを所定温度に制御するとともに、排気機構80により反応室20を減圧する。基体10Aの温度制御は、ヒータ52を発熱させることにより所定温度近傍まで昇温させた後、ヒータ52をオン・オフすることによって所定温度に維持される。基体10Aの温度は、その表面に形成すべき膜の種類および組成によって適宜設定されるが、例えばa−Si系膜を形成する場合は250℃以上300℃以下の範囲に設定される。一方、反応室20の減圧は、圧力計27での反応室20の圧力をモニタリングしつつ、メカニカルブースタポンプ81およびロータリーポンプ82の動作を制御することにより、ガス排出口23A,25Aを介して反応室20からガスを排出させることによって行なわれる。なお、反応室20の減圧は、例えば1×10−3Pa程度に至るまで行われる。
次いで、基体10Aの温度を所定温度で維持するとともに、反応室20を所定圧力まで減圧した状態で、ガス供給機構70により反応室20に原料ガスを供給するとともに、円筒状電極21と支持体31との間にパルス状の直流電圧を印加する。これにより、円筒状電極21と支持体31(基体10A)との間にグロー放電が発生して原料ガスが分解され、その分解成分が基体10Aの表面に堆積されることとなる。排気機構80においては、圧力計27のモニタリングしつつ、メカニカルブースタポンプ81およびロータリーポンプ82の動作を制御することにより、反応室20の圧力を所定範囲(例えば1.0Pa以上100Pa以下)に維持する。すなわち、反応室20の内部は、ガス供給機構70におけるマスフローコントローラ71D,72D,73D,74Dと排気機構80におけるポンプ81,82によって圧力を所定範囲に維持する。反応室20への原料ガスの供給は、バルブ71B,72B,73B,74B,71C,72C,73C,74Cの開閉状態を適宜制御しつつ、マスフローコントローラ71D,72D,73D,74Dを制御することにより、原料ガスタンク71,72,73,74の原料ガスを、所望の組成および流量で、配管71A,72A,73A,74A,75およびガス導入口21aを介して円筒状電極21の内部に導入することにより行なわれる。円筒状電極21の内部に導入された原料ガスは、複数のガス吹き出し孔21bを介して基体10Aに向けて吹き出される。そして、バルブ71B,72B,73B,74B,71C,72C,73C,74Cおよびマスフローコントローラ71D,72D,73D,74Dによって原料ガスの組成を適宜切り替える。一方、円筒状電極21と支持体31との間におけるパルス状直流電圧の印加は、円筒状電極21が接地されている場合、−3000V以上−50V以下(好適には−3000V以上−500V以下)の負のパルス状直流電位V1(図4参照)となるように行われ、円筒状電極21が基準電源(図示せず)に接続されている場合、基準電源により供給される電位V2を基準電位として、目的とする電位差ΔV(例えば−3000V以上−50V以下)となるように行われる。また、支持体31(基体10A)に対して負のパルス状電圧(図4参照)を印加する場合、基準電源により供給される電位V2は、例えば1500V以上1500V以下に設定される。制御部42は、直流電圧の周波数(1/T(sec))が300kHz以下に、duty比(T1/T)が20%以上90%以下となるように直流電源41を制御する。本実施形態におけるduty比とは、図4に示したようにパルス状の直流電圧の1周期T(基体10Aと円筒状電極21との間に電位差が生じた瞬間から、次に電位差が生じた瞬間までの時間)における電位差発生時間T1が占める時間割合と定義される。例えば、duty比20%とは、パルス状の電圧を印加する際の、1周期に占める電位差発生時間が1周期全体の20%であることを意味する。以上のようにして、基体10Aの表面には、下部電荷注入阻止層101、光導電層102、上部電荷注入阻止層103、および表面層104が順次積層形成される。
本実施形態に係る電子写真感光体10では、光導電層102が2.5×1014[1/cm3]以上4×1015[1/cm3]以下の原子濃度で第13族元素を含んでなるため、残留電位が基準値(例えば20V)以下に維持されるとともに、正電荷に対する耐電圧が基準値(例えば第13族元素の原子濃度が0の場合の1.5倍)以上に高められている。したがって、電子写真感光体10は、残像を低減させつつ、正電荷に対する耐電圧特性を向上させるうえで好適である。
電子写真感光体10において第13属元素が硼素であると、光導電層102を構成する非単結晶材料の主体であるシリコンとの原子径の差に起因する格子の歪みを低減することができる。また、硼素の水素化合物(例えばB2H6)は常温においてガス状で存在するため、ガリウム、アルミニウム、インジウムなどに比べて、CVD(Chemical Vapor Deposition)法による成膜時のドーピング濃度の制御がし易い。
電子写真感光体10において、光導電層102における基体10A側の端部領域が表面層104側(基体10Aとは反対側)の端部領域より第13族元素の濃度が小さい場合、光導電層102の基体10A側におけるキャリア(電子)の走行性を高めることが可能となる。このようにして、キャリア(電子)の走行性を高めることができれば、光感度を高めることが可能となる。
本実施形態に係る画像形成装置Xは、電子写真感光体10を備えているため、電子写真感光体10の有する効果と同様の効果を享受することができる。すなわち、画像形成装置Xは、残像を低減させつつ、正電荷に対する耐電圧特性を向上させるうえで好適である。
以上、本発明の具体的な実施形態を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の思想から逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
図5に示すように、電子写真感光体10は、基体10Aと光導電層102との間に珪酸塩層105を形成してもよい。珪酸塩層105は、基体10Aの構成材料(例えばアルミニウム)とシリコンと酸素とを主成分とするものである。珪酸塩層105の厚さは、該珪酸塩層105の存在効果を充分に確保する観点から0.5nm以上が好ましく、基体10Aの導電性を充分に確保する観点から15nm以下が好ましい。珪酸塩層105の形成は、例えば主としてアルミニウムからなる基体10Aを珪酸塩含有水溶液中に浸漬することにより行われる。珪酸塩としては、珪酸カリウムおよび珪酸ナトリウムなどが挙げられる。珪酸塩含有水溶液における珪酸塩の濃度は、珪酸塩障害の発生を抑制する観点から、1質量%以上2質量%以下とするのが好ましい。このように、基体10Aと光導電層102との間に位置する珪酸塩層105を更に備える構成とすると、リーク電流が流れ始める電圧を高めることができるため、耐電圧を向上させることができる。
電子写真感光体10は、下部電荷注入阻止層101を有する構成とされているが、これに代えて、障壁層を有する構成としてもよい。この障壁層としては、例えば上述の珪酸塩層105と、酸化金属層(酸化アルミニウムなど)と、窒化金属層(窒化アルミニウムなど)とが挙げられる。
電子写真感光体10における下部電荷注入阻止層101は、第15族元素を含んでいるが、これに代えて、第15族元素を含まない構成としてもよい。このような構成によると、例えば基体10A上に珪酸塩層105を形成する場合において、基体10Aと下部電荷注入阻止層101との間の密着性を高めることができる。
[実施例]
<電子写真感光体の作製>
電子写真感光体は、円筒状基体としてアルミニウム合金素管(外径:84mm、長さ360mm)を用いて作製した。このアルミニウム素管に対しては、図3に示すプラズマCVD装置を用いて、表1に示す条件で感光層(下部電荷注入阻止層、光導電層、上部電荷注入阻止層、および表面層)を形成した。表1におけるB2H6の流量は、SiH4の流量に対する比で表している。なお、プラズマCVD装置の電源としては、直流パルス電源(パルス周波数:50kHz、Duty比:70%)を使用した。また、膜厚の測定は、その断面をSEMおよびXMAで分析することにより行なった。
<第13族元素の原子濃度の測定>
二次イオン質量分析装置(型番:PHI ADEPT−1010、アルバック・ファイ株式会社製)を用いて、試験用サンプルに対してO2 +イオンを8.0keVの加速電圧で照射し、試験用サンプルから放出される二次イオンを質量分析することによって測定した。試験用サンプルは、アルミニウム合金素管(外径:84mm、長さ360mm)上に、図3に示すプラズマCVD装置を用いて表1に示す条件で下部電荷注入阻止層のみを形成することにより作製した。このような試験サンプルは、上述のようにして作製した電子写真感光体における下部電荷注入阻止層上の各層(光導電層、上部電荷注入阻止層、および表面層)を取り除いたものと実質的の同様の状態であると考えられる。
<耐電圧の測定>
各電子写真感光体の最表層に対して高電圧発生装置(型番:Model 610C、トレック・ジャパン株式会社製)のプローブを接触させた状態で所定電圧(例えば1〜2.2kV)を印加したときのリーク電流を測定し、そのリーク電流が基準値(2mA)となった場合に印加した電圧を耐電圧として表2に示した。
<残留電位(表面電位)の測定>
各電子写真感光体を画像形成装置(型番:KM−8030、京セラミタ株式会社製)に搭載し、電子写真感光体の表面に対してマイナス電位で0.3μC/cm2の電荷を与えたときの表面電位を、現像位置に設置した表面電位計(商品名:Model 344、トレック・ジャパン株式会社製)により測定した。その測定結果は表2に示した。
<評価>
実施例1〜9の電子写真感光体は、いずれも残留電位が基準値(20V)以下に維持されるとともに、正電荷に対する耐電圧が基準値(第13族元素の原子濃度が0の場合の1.5倍)以上に高められている。したがって、実施例1〜9の電子写真感光体では、残像を低減させつつ、正電荷に対する耐電圧特性を向上させることができた。
一方、比較例1,2の電子写真感光体は、正電荷に対する耐電圧が基準値(第13族元素の原子濃度が0の場合の1.5倍)以下であり、正電荷に対する耐電圧特性を充分に向上させることができなかった。また、比較例3,4の電子写真感光体は、残留電位が基準値(20V)を超えており、残像を充分に低減させることができなかった。具体的には、画像出力を行うと、黒ベタ濃度が低下し、コントラストの悪化が見られた。