JP4834264B2 - スパークプラグ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はスパークプラグに関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車エンジン等の内燃機関の点火用に使用されるスパークプラグとしては、中心電極と、自身の側面と中心電極の先端面との間に放電ギャップを形成する平行電極とを備えたいわゆる平行対向型のスパークプラグがあり、上記放電ギャップにて中心電極の軸線方向に火花放電が可能とされている。このような平行対向型のスパークプラグにおいては、耐久性向上を目的として、中心電極及び接地電極の少なくとも一方にPt合金やIr合金等の貴金属チップを溶接したものがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
近年、エンジンの高性能化、燃焼効率の向上、燃焼ガスの変更に伴い、スパークプラグの電極温度が上昇し、又は厳しい熱サイクルに晒されるようになり、電極母材に耐久性向上を目的として溶接された貴金属チップが剥離する場合がある。特に、中心電極に比して高温環境下に晒され、相対的に冷熱温度変化の激しい平行電極においては貴金属チップが剥離する可能性が高い。このように貴金属チップが電極母材から剥離すると、耐久性向上効果がなくなり、当該スパークプラグの耐久寿命が短くなってしまう場合がある。
【0004】
本発明の課題は、上記のような平行対向型のスパークプラグにおいて、特に貴金属チップを溶接する場合の平行電極母材の材質選択により、貴金属チップの剥離を防止ないし抑制することが可能なスパークプラグを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段及び作用・効果】
上記問題を解決するために本発明のスパークプラグは、
中心電極と、該中心電極の外側に配置される絶縁体と、絶縁体の外側を覆う筒状の主体金具と、一端側が前記主体金具の先端部に配設され、他端側の側面が中心電極の先端面との間に放電ギャップを形成する平行電極とを備え、平行電極における放電ギャップに臨む位置に、貴金属元素を主成分とする貴金属チップが配設されるとともに、平行電極の少なくとも表層部を形成する電極母材が、Crを15質量%以上25質量%以下、Feを0.05質量%以上5質量%以下、Alを0.05質量%以上5質量%以下、Cを0.01質量%以上0.1質量%以下、Si及び/又はMnを0.1質量%以上2質量%以下、含有し、残部がNi及び不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0006】
平行電極は、中心電極に比して燃焼環境下に晒され、熱が逃げ難くいため、熱酸化等により中心電極よりも相対的に貴金属チップの剥離が生じやすく、また中心電極に比して相対的に長いため折れやすいものである。そこで、本発明においては、平行電極の少なくとも表層部を形成する電極母材を、上記各成分からなる高温強度及び耐酸化性に優れたNi合金にて構成したため、高温環境下における強度及び耐食性が高いものとなり、上記貴金属チップの剥離が防止ないし抑制され、当該スパークプラグは高い耐久性を具備するものとなる。
【0007】
貴金属チップは例えば溶接により平行電極に配設することが可能で、本発明の構成成分を含む電極母材を具備する平行電極においては、該溶接された貴金属チップの剥離が防止ないし抑制される。なお、平行電極において少なくとも貴金属チップが溶接等により配設された面、及びその周辺が上記各成分を少なくとも含む電極母材にて構成されるものとすることができ、特に少なくとも上記貴金属チップ近傍において各成分が含まれていれば、貴金属チップの剥離を防止ないし抑制することができる。
【0008】
次に、上記平行電極の構成成分について説明する。
Crは高温強度、高温耐食性を向上させる作用がある。含有量が15質量%未満の場合には、十分な高温強度ないし耐食性の向上が見られない場合があり、25質量%を超えると該平行電極の曲げ加工等における加工性が低下する場合がある。Crの含有量は好ましくは16質量%以上22質量%以下とするのが良い。
Feは高温強度、高温耐食性を向上させる作用がある。含有量が5質量%を超える、もしくは0.05質量%未満の場合には、十分な高温強度ないし耐食性の向上が見られない場合がある。Feの含有量は好ましくは0.5質量%以上3質量%以下とするのが良い。
Alは高温強度、高温耐食性を向上させる作用がある。含有量が0.05質量%未満の場合、十分な高温強度ないし耐食性の向上が見られない場合があり、5質量%を超えると該平行電極の曲げ加工等における加工性が低下する場合がある。また、主体金具に対して溶接により該平行電極を配設する場合には、その溶接性も低下する場合がある。Alの含有量は好ましくは0.3質量%以上4.5質量%以下とするのが良い。
Cは高温強度を向上させる作用がある。含有量が0.1質量%を超えると該平行電極の曲げ加工等における加工性が低下する場合があり、また主体金具に対して溶接により該平行電極を配設する場合には、その溶接性も低下する場合がある。また、0.01質量%未満では、高温強度の向上が見られない場合がある。Cの含有量は好ましくは0.05質量%以上0.1質量%以下とするのが良い。
Si及び/又はMnは耐酸化性を向上させ、含有量が2質量%を超えると該平行電極の曲げ加工等における加工性が低下する場合がある。Si及び/又はMnの含有量は好ましくは0.5質量%以上1質量%以下とするのが良い。
【0009】
また、上記電極母材にはWを10質量%以上20質量%以下含有させることができる。WはNi合金中に固溶硬化して高温強度、高温耐酸化性を向上させる。10質量%未満の場合、該高温強度、高温耐酸化性の顕著な向上効果が得られなくなる場合があり、20質量%を超えると該平行電極の曲げ加工等における加工性が低下する場合がある。Wの含有量は好ましくは10質量%以上15質量%以下とするのが良い。
【0010】
また、上記電極母材にはMoを0.5質量%以上5質量%以下含有させることができる。MoはWと同様にNi合金中に固溶硬化して高温強度、高温耐酸化性を向上させる。0.5質量%未満の場合、該高温強度、高温耐酸化性の顕著な向上効果が得られなくなる場合があり、5質量%を超えると該平行電極の曲げ加工等における加工性が低下する場合がある。Moの含有量は好ましくは1質量%以上3質量%以下とするのが良い。
【0011】
さらに、上記電極母材にはCoを0.5質量%以上5質量%以下含有させることができ、該Coの添加により高温強度を向上させることができる。0.5質量%未満の場合は、高温強度の顕著な向上効果が得られなくなる場合があり、5質量%を超えて添加しても、それ以上の効果が得られないことから経済性を考慮して上限を5質量%とするのがよい。Coの含有量は好ましくは2質量%以上5質量%以下とするのが良い。
【0012】
なお、本明細書において「主成分」、「主体として含む」とは、特に断りがないかぎり、最も質量含有率が高くなる態様で含むことを意味するものとして用いた。
【0013】
【発明の実施の形態】
図1に示す本発明の一例たるスパークプラグ100は、いわゆる平行対向型のスパークプラグであって、筒状の主体金具1、先端部が突出するようにその主体金具1内に嵌め込まれた絶縁体2、先端部を突出させた状態で絶縁体2の内側に設けられた中心電極3、及び主体金具1に一端側が結合され、他端側が中心電極3の先端面と対向するように配置された平行電極4等を備えている。そして、平行電極4と中心電極3との間には放電ギャップgが形成されている。
【0014】
ここで、平行電極4は、図2に示すように中心電極3の先端面3aと概ね平行に配置される直線状の平行部4aを有し、該平行部4aの側面において中心電極3の先端面3aとの間に放電ギャップgを形成している。この平行電極4において、放電ギャップgに臨む位置には、貴金属元素を主成分とする貴金属チップ32が溶接により接合されている。なお、中心電極3の先端面3aには本実施例の場合、貴金属元素を主成分とする貴金属チップ31が同様に溶接により接合されており、該貴金属チップ31の先端面をもって中心電極3の先端面3aとしている。このように電極の発火部に貴金属チップを配設させることにより、電極の耐久性が向上されている。
【0015】
図1に戻り、主体金具1は炭素鋼等で形成され、主体金具1の外周面には取付け用のねじ部7が形成されている。スパークプラグ100は、該ねじ部7により例えばガソリンエンジン(内燃機関)のシリンダヘッドに取り付けられる。そして、その状態で平行電極4と中心電極3との間に高電圧を印加することにより、火花放電ギャップgに火花放電して、該エンジンの着火源としての役割を果たすこととなる。なお、ねじ部7の外径は、例えば14mmである。また、中心電極3はインコネル(Inconel:商標名)等のNi合金で構成されている。さらに、絶縁体2はアルミナ等のセラミックス焼成体で構成されている。
【0016】
絶縁体2の軸方向には貫通孔6が形成されており、その一方の端部側に端子金具8が挿入・固定され、同じく他方の端部側に中心電極3が挿入・固定されている。また、該貫通孔6内において端子金具8と中心電極3との間に抵抗体15が配置されている。この抵抗体15の両端部は、導電性ガラスシール層16,17を介して中心電極3と端子金具8とにそれぞれ電気的に接続されている。これら導電性ガラスシール層16,17及び抵抗体15は、導電性結合層を形成するものである。なお、抵抗体15を省略し、端子金具8と中心電極3とを単一の導電性ガラスシール層で接合するようにしてもよい。なお、端子金具8は低炭素鋼等で構成され、表面には防食のための図示しないNiメッキ層が形成されたものである。
【0017】
上記スパークプラグ100において、平行電極4の少なくとも表層部を形成する電極母材がNiを主成分とするNi合金から構成されている。さらに、上記貴金属チップ32の剥離を防止ないし抑制するために、該電極母材がCrを15質量%以上25質量%以下、Feを0.05質量%以上5質量%以下、Alを0.05質量%以上5質量%以下、Cを0.01質量%以上0.1質量%以下、Si及び/又はMnを0.1質量%以上2質量%以下、含有して構成されている。
【0018】
なお、平行電極4における更なるチップの剥離防止のために、Wを10質量%以上20質量%以下、及び/又はMoを0.5質量%以上5質量%以下、及び/又はCoを0.5質量%以上5質量%以下含有させることができる。このような構成成分を具備した母材を、平行電極4の少なくとも表層部を形成する電極母材として適用することにより、該平行電極4における貴金属チップ32の剥離が防止ないし抑制され、ひいてはスパークプラグ100の耐久寿命向上に寄与することが可能となる。また、平行電極4の先端が主体金具1に対してスパークプラグ100の軸線方向に5mm以上突出している場合には、特に熱の影響を受けやすいので上記の効果が大きくなる。
【0019】
【実施例】
上記構成のスパークプラグ100について、本発明の効果を確認するために以下の実験を行った。平行電極4の電極母材の材質として、表1に示す各添加元素からなる種々の組成の合金を採用した。この電極母材を主体金具1の先端面1aに抵抗溶接により接合して、平行電極4とし、図1に示すのと同様の形態の各種スパークプラグを作成した(比較例1〜3,実施例1〜6)。このスパークプラグ(比較例1〜3,実施例1〜6)を用いて以下の各試験(耐剥離性試験、引張り強さ試験、耐酸化性試験、耐折損性試験)を行った。なお、各電極には貴金属チップ31,32としてPt−20質量%Irからなる円板状部材を抵抗溶接により接合させてある。
【0020】
【表1】
【0021】
(耐剥離性試験)
まず、平行電極4に溶接された貴金属チップ32の耐剥離性試験を行った。具体的には、机上冷熱バーナー試験により、1000℃、2分間加熱と、自然冷却1分を1サイクルとして、この冷熱サイクルを1000サイクル行った後の酸化スケールの発生率(%)を算出することで評価した。すなわち、貴金属チップは電極材料の火花消耗を抑制するために配設されているが、該電極材料と貴金属チップとの溶接面における酸化スケールの発生率(%)を評価することで貴金属チップの剥離性を評価することができる。ここでは、冷熱サイクルを1000サイクル行った後の平行電極4を、貴金属チップ32の中心軸線を含む軸方向に切断した面にエッチングを施し、貴金属チップ32の径方向における酸化スケールの深さを測定した。図3に切断面の模式図を示す。酸化スケール深さは、平行電極4の母材と貴金属チップ32との界面に生じる亀裂sfの、チップの径方向への進展長(B1+B2)として定義される値である。そして、酸化スケール発生率(%)は、酸化スケール深さ(B1+B2)とチップ径Aとの比(B1+B2)/Aで定義される値であり、貴金属チップの剥離度合いを測る目安となる。
【0022】
(引張り強さ試験)
表1に示す添加元素を含む各電極材料を用い、平行電極を形成する前の線材を作製した。そして、それらを適宜切断し、800℃にて引張り試験を行った。結果を表2に示す。
【0023】
(耐酸化性試験)
表1に示した各比較例及び実施例のスパークプラグを電気炉(大気中)において加熱冷却する耐酸化性試験を行ない、平行電極4表面の酸化膜厚が0.1mmに達するサイクル数を確認した。試験は、1100℃、24時間加熱と、室温までの徐冷とを1サイクルとした。結果を表2に示す。
【0024】
(耐折損性試験)
耐折損性試験用エンジン(2000cc、4気筒、4サイクル)に、表1に示した各比較例及び実施例のスパークプラグを取り付け耐折損性試験を行ない、その後の平行電極4のクラック発生の有無の状態を確認した。試験は、回転数7000rpmで運転1分、アイドル1分を1サイクルとして、200サイクル繰り返した。結果を表2に示す。
【0025】
【表2】
【0026】
このように、各試験において、実施例1〜6のスパークプラグは比較例1〜3に比して相対的に良好な結果を示した。具体的には、耐剥離性試験において、実施例1〜6では酸化スケールの発生率が約30%以下(詳しくは26%以下)となり、比較例に比して非常に低い発生率であった。特に実施例6では酸化スケールの発生率が3%であり、極めて良好な耐酸化性を具備していた。即ち、貴金属チップの耐剥離性が極めて高いことが分かる。ここで、該冷熱サイクルを1000サイクル行った後の貴金属チップの耐剥離性について金属顕微鏡にて観察した。その観察図を図4に示す。図4(a)は実施例6のものであり、図4(b)は比較例1のものである。比較例1の平行電極4’においては貴金属チップ32’の剥離が生じているのに対し、実施例6の平行電極4においては、貴金属チップ32が極めて剥離し難くなっていることが分かる。
【0027】
次に、引張り強さ試験においては、比較例1〜3に対応する電極母材は120〜160MPa(詳しくは122.5〜149.9MPa)程度の引張り強さである一方、実施例1〜6に対応する電極母材は270〜530MPa(詳しくは270.5〜514.5MPa)程度の引張り強さで、実施例の方が相対的に高く、引張り強度が高くなっていることが分かる。
【0028】
耐酸化性試験においては、平行電極4表面の酸化膜厚が0.1mmに達するサイクルとして、比較例1〜3では11〜20サイクルの早いサイクルで0.1mmに到達した。一方、実施例1〜6では30サイクル到達時点でも平行電極4表面の酸化膜厚は0.1mmに達せず、比較例1〜3に比して相対的に耐酸化性が高いことが分かる。
【0029】
耐折損性試験においては、比較例1〜3では平行電極4に折損又は0.5mm以上のクラック発生が確認された。一方、実施例1〜6については折損が無く、クラックの発生についても無い若しくは0.5mm未満の微小クラックの発生であった。
【0030】
以上の結果から、実施例1〜6のスパークプラグについては、平行電極4において、従来に比して相対的に強度が向上し高い耐折損性を具備するとともに、貴金属チップ32の剥離が防止ないし抑制され、高い耐酸化性を具備するものとなる。したがって、該実施例1〜6のスパークプラグは優れた耐久寿命性を備えたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のスパークプラグの一例を示す全体縦断面図。
【図2】図1の要部拡大断面図。
【図3】酸化スケール発生率を説明するための断面模式図。
【図4】平行電極における貴金属チップの剥離性について金属顕微鏡にて観察した結果を示す観察図。
【符号の説明】
1 主体金具
2 絶縁体
3 中心電極
4 平行電極(接地電極)
32 貴金属チップ
100 スパークプラグ
Claims (4)
- 中心電極(3)と、
該中心電極(3)の外側に配置される絶縁体(2)と、
前記絶縁体(2)の外側を覆う筒状の主体金具(1)と、
一端側が前記主体金具(1)の先端部(1a)に配設され、他端側の側面が前記中心電極(3)の先端面(3a)との間に放電ギャップ(g)を形成する平行電極(4)とを備え、
前記平行電極(4)における前記放電ギャップ(g)に臨む位置に、貴金属元素を主成分とする貴金属チップ(32)が配設されるとともに、
前記平行電極(4)の少なくとも表層部を形成する電極母材が、Crを15質量%以上25質量%以下、Feを0.05質量%以上5質量%以下、Alを0.05質量%以上5質量%以下、Cを0.01質量%以上0.1質量%以下、Si及び/又はMnを0.1質量%以上2質量%以下、含有し、残部がNi及び不可避的不純物からなることを特徴とするスパークプラグ(100)。 - 前記電極母材がWを10質量%以上20質量%以下、含有する請求項1に記載のスパークプラグ(100)。
- 前記電極母材がMoを0.5質量%以上5質量%以下、含有する請求項1又は2に記載のスパークプラグ(100)。
- 前記電極母材がCoを0.5質量%以上5質量%以下、含有する請求項1ないし3のいずれか1項に記載のスパークプラグ(100)。
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