近年、超音波が伝搬路伝達する時間を計測し、流体の移動速度を測定して流量を計測する超音波流計がガスメータ等に利用されつつある。図17は、このようなタイプの超音波流量計の主要部断面図構成を示している。
図17に示す超音波流量計では、流量を測定すべき被測定対象流体が管内を流れるように配置されている。管壁102には、一対の超音波送受波器101a、101bが相対して設置されている。超音波送受波器101a、101bは、電気機械変換素子として圧電セラミック等の超音波送受波素子(圧電体)を用いて構成されており、圧電ブザー、圧電発振子と同様に共振特性を示す。
図17の例では、最初の段階で、超音波送受波器101aが超音波送波器として用いられ、超音波送受波器101bが超音波受波器として用いられる。この段階においては、超音波送受波器101aの共振周波数近傍における周波数を持つ交流電圧を超音波送受波器101a内の圧電体に印加する。すると、超音波送受波器101aは超音波送波器として機能し、流体(例えば天然ガスや水素ガス)中に超音波を放射する。放射された超音波は、経路L1に伝搬して、超音波受波器101bに到達する。このとき、超音波送受波器101bは受波器として機能し、超音波を受けて電圧に変換する。
次に、超音波送受波器101bが超音波送波器として機能し、超音波送受波器101aが超音波受波器として機能する。すなわち、超音波送受波器101bの共振周波数近傍の周波数を持つ交流電圧を超音波送受波器101b内の圧電体に印加することにより、超音波送受波器101bから流体中に超音波を放射させる。放射された超音波は、経路L2を伝搬して、超音波送受波器101aに到達する。超音波送受波器101aは伝搬してきた超音波を受けて電圧に変換する。
このように、超音波送受波器101aおよび101bは、送波器としての機能と受波器としての機能を交互に果たすために、一般に「超音波送受波器」と総称される。
図17に示す超音波流量計では、連続的に交流電圧を印加すると、超音波送受波器から連続的に超音波が放射されて伝搬時間を測定することが困難になるので、通常はパルス信号を搬送波とするバースト電圧信号を駆動電圧として用いられる。
以下、上記超音波流量計の測定原理を、より詳細に説明する。
まず、駆動用のバースト電圧信号を超音波送受波器101aに印加することにより、超音波送受波器101aから超音波バースト信号を放射する。これにより、超音波バースト信号は経路L1を伝搬してt時間後に超音波送受波器101bに到達する。経路L1の距離は、経路L2の距離と等しく、Lであるとする。
超音波送受波器101bは、伝達して来た超音波バースト信号のみを高いSN比で電気バースト信号に変換することができる。この電気バースト信号を電気的に増幅して、再び、超音波送受波器101aに印加して超音波バースト信号を放射する。このようにして動作する装置を「シング・アラウンド型装置」と呼ぶ。
また、超音波パルスが超音波送受波器101aから放射された後、超音波送受波器102bに到達するまでの時間を「シング・アラウンド周期」という。「シング・アラウンド周期」の逆数は、「シング・アラウンド周波数」と呼ばれる。
図17において、管の中を流れる流体の流速をV、流体中の超音波の速度をC、流体の流れる方向と超音波パルスの伝搬方向の角度をθとする。超音波送受波器101aを超音波送波器、超音波送受波器101bを超音波受波器として用いたときに、超音波送受波器101aから出た超音波パルスが超音波送受波器101bに到達する時間であるシング・アラウンド周期をt1、シング・アラウンド周波数f1とすれば、次の式(1)が成立する。
f1=1/t1=(C+Vcosθ)/L ・・・(1)
逆に、超音波送受波器101bを超音波送波器として、超音波送受波器101を超音波受波器として用いたときのシング・アラウンド周期をt2、シング・アラウンド周波数f2とすれば、次の式(2)の関係が成立する。
f2=1/t2=(C−Vcosθ)/L ・・・(2)
両シング・アラウンド周波数の周波数差Δfは、次の式(3)で示される。
Δf=f1−f2=2Vcosθ/L ・・・(3)
式(3)によれば、超音波の伝搬経路の距離Lと周波数差Δfとから、流体の流速Vを求めることができる。そしてその流速Vから、流量を決定することができる。
このような超音波流量計では高い精度が求められる。精度を高めるためには、超音波送受波器内の圧電体の超音波送受波面に形成される音響整合部材の音響インピーダンスが重要となる。音響整合部材は、特に、超音波送受波器が気体に超音波を放射(送波)する場合、および、気体を伝搬してきた超音波を受け取る場合に重要な役割を果たす。
以下、図18を参照しながら、音響整合部材の役割を説明する。図18は、従来の超音波送受波器103の断面構成を示している。
図示されている超音波送受波器103は、圧電体104と、圧電体103の一方の面に接合された音響整合部材105とを備えている。音響整合部材105は、エポキシ系の接着剤によって圧電体105の一方の面に接着されている。
圧電体104の超音波振動は、接着層を介して音響整合部材105に伝わる。この後、超音波振動は、音響整合部材105と接する気体(超音波伝搬媒体)に音波として放射される。
音響整合部材105の役割は、圧電体の振動を効率良く気体に伝搬させることにある。以下、この点をより詳細に説明する。
物質の音響インピーダンスZは、その物質中の音速Cと物質の密度ρとを用いて次の式(4)によって定義される。
Z=ρ×C ・・・(4)
超音波の放射対象となる気体の音響インピーダンスは、圧電体の音響インピーダンスと大きく異なっている。一般的な圧電体であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等のピエゾセラミックスの音響インピーダンスZ1は、2.9×107kg/m2/秒程度である。これに対して、空気の音響インピーダンスZ3は4.0×102kg/m2/秒程度である。
音響インピーダンスの異なる境界面では、音波が反射しやすく、境界面を透過する音波の強度が低下する。このため、圧電体と気体の間に、式(5)で示す音響インピーダンスZ2を持つ物質を挿入することが行われている。
Z2=(Z1×Z3)(1/2)・・・(5)
このような音響インピーダンスZ2をもつ物質を挿入すると、境界面での反射が抑えられ、音波の透過率が向上する事が知られている。
音響インピーダンスZ1を2.9×107kg/m2/秒、音響インピーダンスZ3を4.0×102kg/m2/秒とした場合、式(5)を満たす音響インピーダンスZ2は、1.1×105kg/m2/秒程度となる。1.1×105kg/m2/秒の値を持つ物質は、当然に、式(4)、すなわち、Z2=ρ×Cを満足しなければならない。このような物質を固体材料の中から見出すことは極めて難しい。その理由は、固体でありながら、密度ρが十分に小さく、かつ、音速Cが低いことが要求されるからである。
現在、音響整合部材の材料としては、ガラスバルーンやプラスチックバルーンを樹脂材料で固めた材料が広く用いられている。また、このような音響整合部材に適した材料を作成する方法として、中空ガラス球を熱圧縮する方法や溶融材料を発泡させる等の方法などが、例えば特許文献1等などに開示されている。
しかし、これらの材料の音響インピーダンスは、5.0×105kg/m2/秒より大きい値であり、式(5)を満足しているとは言い難い。高感度な超音波送受波器を得るためには、音響インピーダンスを更に小さくした材料で音響整合部材を形成することが必要である。
このような課題を解決するため、本出願人は、式(5)を充分に満足する音響整合材料を発明し、特願平2001−056051号の明細書に開示している。この材料は、耐久性を付与した乾燥ゲルを用いて作製され、密度ρが小さく、かつ、音速Cも低い。乾燥ゲルなどの音響インピーダンスの極めて低い材料から形成した音響整合部材を備えた超音波送受波器は、気体との間で効率的かつ高感度で超音波の送受波を行うことができ、その結果、気体の流量を高い精度で測定することが可能になる。
また、本出願人は、乾燥ゲルを音響整合部材として用いた超音波センサの信頼性を改善するのに保護部を設けることが有効であることを見いだし、特願2002−194203号の明細書に開示している。
更に、本出願人は、任意の音響インピーダンスを有する乾燥ゲルからなる単層あるいは多層の音響整合部材を備えた超音波送受波器およびその製造方法を特願2002−370421号の明細書に開示している。
特許第2559144号(特開平2−177799号公報)
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明による超音波送受波器の第1の実施形態の一断面を示している。図示されている超音波送受波器1は、圧電体(電気機械変換素子)2と、圧電体2の両面に設けられた一対の電極3a、3bと、電極3aを介して圧電体2の主面(超音波送受波面)に接合された整合部材ケース4と、整合部材ケース4の内側に形成された音響整合部材5とを備えている。
圧電体2は、圧電性を有する材料から形成され、厚さ方向(図1の上下方向)に分極されている。圧電体2の上面側に設けられた電極3aと下面側に設けられた電極3bとの間に電圧信号が印加されると、電圧信号に基づいて圧電体2が伸縮し、圧電体2の超音波送受波面から超音波が放射されることになる。この超音波は、整合部材ケース4の底面部分、および整合部材ケース4内に形成された音響整合部材5を介して、超音波の伝搬媒体(例えば気体)6へ放射される。一方、伝搬媒体6を伝播してきた超音波は、音響整合部材5および整合部材ケース4の底面部分を介して圧電体2へ達し、電極3a、3bの間に電圧信号を発生させる。このようにして、圧電体2は、1つで超音波の送信および受信の両方を行うことができる。
本実施形態で用いる圧電体2の材料は任意であり、公知の圧電性材料を用いることができる。また、圧電体2の代わりに、電歪体を用いてもよい。電歪体を用いる場合にも、その材料は任意であり、公知の材料を用いることができる。また、電極3a、3bも公知の導電材料から形成される。
音響整合部材5は、圧電体2で発生した超音波を伝搬媒体6へ効率よく伝搬させる役割を果たすとともに、伝搬媒体6を伝搬してきた超音波を効率よく圧電体2へ伝える役割を果たす。本実施形態の音響整合部材5は、乾燥ゲルの単層から形成されている。乾燥ゲルは、密度ρと音速Cの積(ρ×C)で規定される音響インピーダンスを極めて小さくすることが可能な材料であり、このため、空気などの気体への超音波の送受波効率を極めて高くすることができる。
乾燥ゲルとは、ゾルゲル反応によって形成される多孔質体である。より具体的には、ゲル原料液の反応によって固体化した固体骨格部を有する。まず、この固体骨格部が溶媒を含んだ湿潤ゲルが形成され、その後、乾燥によって溶媒を除去することにより、最終的な乾燥ゲルが得られる。この乾燥ゲルは、数nm〜数μm程度の固体骨格部を有し、この固体骨格部の間に平均細孔直径が1nm〜数μm程度の範囲にある連続気孔が形成された多孔質体である。
乾燥ゲルは、密度の低い状態では、固体部分を伝搬する音速が極端に小さくなるとともに、細孔によって多孔質体内の気体部分を伝搬する音速も極端に小さくなるという性質を有する。そのため、密度の低い状態では音速が500m/秒以下の非常に遅い値を示し、極めて低い音響インピーダンスを示す。特に、固体骨格部および細孔径が数nm程度と小さい場合には、極めて遅い音速を有する多孔質体が得られる。また、ナノメートルサイズの細孔部では、気体の圧損が大きいため音響整合部材として用いた場合に、音波を高い音圧で放射できるという特徴も有する。
このように有利な性能を有する乾燥ゲルであるが、強度が低いため取り扱いが困難であるという問題を有している。このため所望の形状への加工や、取り扱いの際の衝撃、あるいは他の部品との接合の際の加圧により、破損してしまうことがある。また、破損しなくても、マイクロクラックが生じて初期の性能には変化が見られない場合でも、長期の使用や、熱的な衝撃の繰り返しによりクラックが増大して、超音波送受波器の性能が劣化してしまうことがある。更に、安定化のために疎水化処理を行った乾燥ゲルは、その撥水性のため接着が困難であるか、ほとんど不可能である。
このため、製造の歩留まりを向上させ、超音波送受波器の信頼性を向上させるためには、形成後の乾燥ゲルに対しては加工を行わず、乾燥ゲルをハンドリングするときや超音波送受波器の組み込む際にも乾燥ゲルに応力が加わらないようにすることが望ましい。
本実施形態では、このように機械的強度の低い乾燥ゲルを用いて、信頼性の高い超音波送受波器を実現するため、図1に示す構成の整合部材ケース4を採用する。そして、整合部材ケース4の内側にゲル原料液を充填し、ケース4の内部で固体化および乾燥を行って乾燥ゲル層を形成している。このようして、整合部材ケース4と音響整合部材5とが一体化した複合体を作製した後、その複合体を圧電体2に接合するため、乾燥ゲルに加工を行わう必要がなく、また、音響整合部材5をハンドリングする際にも乾燥ゲルには直接触れることがない。更に、音響整合部材5を圧電体2に固定する工程でも応力が乾燥ゲルに殆ど印加されないため、初期のマイクロクラックが乾燥ゲルに形成されない。
このように本実施形態の構成によれば、超音波送受波器を長期間使用する場合や、熱的な衝撃が繰り返し印加されるような環境においても、音響整合部材5の破損を防止して、長期信頼性を確保することができる。
以下、本実施形態の超音波送受波器の製造方法を説明する。
まず、送信および/または受信の対象とする超音波の波長に合わせた圧電体2を用意する。圧電体2としては、圧電セラミックスや圧電単結晶など圧電性の高い材料が好ましい。圧電セラミックとしては、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、ニオブ酸鉛などを用いることができる。また圧電単結晶としては、チタン酸ジルコン酸鉛単結晶、ニオブ酸リチウム、水晶などを用いることができる。
本実施形態では、圧電体2としてチタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスを用い、送受波する超音波の周波数を500kHzに設定している。このような超音波を圧電体2が効率よく送受波できるようにするため、圧電体素子の共振周波数を約500kHzに設計する。
チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスの音速は約3800m/秒であり、圧電体はその厚さを波長の1/2の厚さとしたときに、強くその共振が出ることが知られており、超音波の送受信効率が良くなる。
このため本実施形態では、直径が12mm、厚さが約3.8mmの円柱形状にすることにより、500kHzの超音波の送受波に適した圧電セラミックスから形成された圧電体2を用いている。圧電体2の上下両面には、焼付けによる銀製の電極3a、3bが設けられ、圧電体2は、この方向に分極処理されている。
このような圧電体2の一方の主面に対しては、後に詳しく述べる方法で作製した音響整合層5を備えたステンレス製の整合部材ケース4を接合する。
整合部材ケース4には、以下のような特性が必要とされる。
1、ゲル原料液をその内側部分に保持できること
2、ゲル原料液に対して、化学的に安定であること
3、圧電体と接着が可能であること
4、音響的な阻害になりにくいこと。
ステンレスは、以上の1〜3の条件を満足している。そして、整合部材ケース4の底面部分を構成する素材の音速を考慮して、その部分の厚さを適切に設定すれば、音響的な阻害とならないようにすることができるので、第4の条件をも満足させることができる。
整合部材ケース4の底面部分の厚さは、送受信する超音波の波長の1/20以下に設定することが好ましい。この部分の厚さが、送受信する超音波の波長の1/20より大きいと、感度の低下や波形に対して、大きな影響を与えることとなるからである。ステンレスの音速は、約5500m/秒であり、超音波の500kHzにおける1波長は約11mmとなる。よって、整合部材ケース4の厚さを0.55mm以下に設定することにより、整合部材ケース4が超音波送受信器の性能に与える影響が少なくなる。
整合部材ケース4の底面部分の厚さは、送受信する超音波の波長の1/40以下とすることが更に好ましい。本実施形態の整合部材ケース4は、金属のプレス成型によって作製しやすいように、0.2mmの厚さに設定しているため、音響的阻害を抑制するとともに、大量生産に適している。この0.2mmの厚さは、送受信する超音波波長の約1/55であり、超音波送受信器の性能に与える影響は極めて少ない。
なお、本実施形態では、整合部材ケース4をプレス成型されたステンレスから形成しているが、上記1〜4の条件を満足する材料であればステンレスに限定されず、他の材料から形成することができる。コストや使用環境などを総合的に勘案して、他の材料(セラミックや他の金属)を適宜選択すればよい。
音響整合部材5を構成する乾燥ゲルの材質としては、無機材料、有機高分子材料などを用いることができる。無機材料の固体骨格部としては、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化チタンなどを用いることができる。また有機材料の固体骨格部としては、一般的な熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を用いることができ、例えば、ポリウレタン、ポリウレア、フェノール硬化樹脂、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸メチルなどを用いることができる。
本実施形態では、コスト、環境安定性、製造のしやすさなどから固体骨格部として酸化ケイ素を持つ乾燥ゲルを採用している。このような乾燥ゲルからなる音響整合部材を、整合部材ケースの内側に形成する。音響整合部材となる乾燥ゲルの特性は、前述の(数5)に示されるものにすると、送受信感度が高くなり好ましい。
本実施形態では、圧電体2として密度7.7×103kg/m3、音速3800m/秒のチタン酸ジルコン酸鉛を用いているため、その音響インピーダンスは2.9×107kg/m/秒程度となる。一方、伝播媒体6としては、空気を用いるとする。空気は、密度は約1.18kg/m3、音速は340m/秒であるので、その音響インピーダンスは約4.0×102kg/m2/秒である。
以上の数値を式(5)に代入して、1層の音響整合部材に適する音響インピーダンスを算出すると、1.1×105kg/m2/秒となる。このような特性をもつ乾燥ゲルとしては、密度0.28×103kg/m3、音速400m/秒のものを用いることが好適である。また音響整合部材5として機能する乾燥ゲル層の厚さを送受信する超音波の波長の1/4程度とした時に、特に送受信効率が高くなるため好ましい。本実施形態では、用いる超音波の音速は400m/秒で、周波数が500kHzであるため、乾燥ゲルの厚さを0.20mmに設定している。
次に、図2(a)から(c)を参照しながら、音響整合部材5を整合部材ケース4の内側に形成する方法を説明する。
まず、図2(a)に示す整合部材ケース4を用意する。この整合部材ケース4の底面のサイズは、圧電体の主面のサイズ(直径12mm)と略等しく設定されている。そして、整合部材ケース4のケース深さは、ゲル原料液がケースの内部から溢れたり、形成された音響整合部材5に手が触れたりすることが無いように、乾燥ゲルの厚さよりも大きく作製されている。本実施形態では、乾燥ゲルの厚さが0.2mmであるので、ケースの深さを0.4mmに設定している。
整合部材ケース4の内部と乾燥ゲルとの密着性が良くなるように、整合部材ケース4をアセトンで超音波洗浄した後、整合部材ケース4の内側にプラズマ処理を行って水酸基を付与することが好ましい。水酸基をケース内面に付与することにより、乾燥ゲルとケース4とが化学的に結合する。
次に、図2(b)に示すように、整合部材ケース4の内側に、ゲル原料液5aを、定量滴下装置により注入する。ゲル原料液5aの体積は、ゲル・乾燥による収縮のため、乾燥後のには乾燥前の90%程度に減少する。このため、最終的に形成される乾燥ゲルの厚さが0.2mmとなるように、ゲル原料液5aの滴下量は、例えば25μlに設定される。ゲル原料液の配合比は、テトラメトキシシラン/エタノール/アンモニア水=1/1/4(モル比)とすることができる。ゲル原料液5aの量は、用いる圧電体2や音響整合部材5の大きさ、超音波の周波数に基づいて適宜最適化される。
内部にゲル原料液5aを滴下した整合部材ケース4を、50℃に設定された恒温槽中の水平の取れた台上で約1日放置することにより、整合部材ケース4の内部にゲル原料液をゲル化させ、湿潤ゲルを形成する。このとき、図示していない多数の整合部材ケース4を1つトレイ上に配列してバッチ処理を行えば、効率的である。以下の処理も同様である。
こうして形成した湿潤ゲルに対して、更に疎水化処理を行う。疎水化処理は、湿潤ゲルを形成した後、ジメチルジメトキシシラン/エタノール/10重量%アンモニア水を、重量比で45/45/10の割合で混合して得られた疎水化液に、40℃で、約1日間、浸漬することによって行う。
最後に、湿潤ゲルを大気中で乾燥して、整合部材ケース4の内側に形成された乾燥ゲルの層(音響整合部材5)を得る(図2(c))。なお、疎水化処理は必須ではないが、乾燥ゲルの安定化のため行うことが好ましい。
湿潤ゲルの溶媒を乾燥させて乾燥ゲルからなる音響整合部材5を形成するとき、ゲル化および密度調整・乾燥の各工程において、熱処理時の温度が音響整合部材5の特性を左右する重要なパラメータとなる。一方、音響整合部材5は、均一な密度および音速を有することが求められる。音響整合部材5の密度や音速に不均一な部分があると、音響整合部材の役割を十分に果たすことができなくなるためである。均一な密度および音速を有する音響整合部材5を形成するためには、ゲル化、密度調整、乾燥の各工程における温度が十分に制御されることが重要である。
図3(a)に示す整合部材ケース4は、圧電体を外部から遮蔽するための容器(図3(b)に示される圧電体ケース40)よりも、熱容量が相対的に小さい。このため、設定温度の変化に対して、整合部材ケース4の温度をスムーズに追随させることができる。その結果、充分均一に制御された密度と音速を有する乾燥ゲルからなる音響整合部材5を形成することが可能となる。図3(b)に示すような構造を持つ圧電体ケース40では、製造時における温度制御が充分になされない場合、音響整合層(乾燥ゲル)の密度および音速に不均一な部分が生じる。
図4(a)および(b)に示すようにして、湿潤ゲルを貯えたケース4、40の底面をヒータ41で加熱し、湿潤ゲルの温度を制御する場合を考える。この場合、ケース4、40の底面部中央に比べて外周部の温度が低くなる傾向がある。図4(c)は、温度のケース底面内分布を示している。曲線aは、図4(a)の整合部材ケース4における温度分布を示しており、曲線bは、図4(b)の圧電体ケース40における温度分布を示している。図4(c)からわかるように、本実施形態における整合部材ケース4を用いると、均一な温度分布が得やすいため、均一な音響整合部材5を形成するのに有効である。
次に、上述の方法で作製した整合部材ケース/音響整合部材の複合体を、図1に示すように圧電体2に接合する。接合は、エポキシ系接着剤の接着により行う。この接合時にも、音響整合部材5である乾燥ゲルに大きな力が加わらないように、圧電体2には印刷によって接着剤膜を形成し、その上に整合部材ケース/音響整合部材の複合体を設置する。この後、整合部材ケース4の折り曲げられている上部端を、0.1kg/cm3で加圧し、120℃中で2時間硬化させる。圧電体2と整合部材ケース4との間に形成された接着層の厚さは例えば約30μmである。
このようにして形成した超音波送受波器は、従来のガラスバルーンをエポキシ樹脂で固めた音響整合部材を有する超音波送受波器に比べ、約7倍の高い超音波の送受信が可能となる。
このように、底の浅い有底型の整合部材ケース4を超音波送受波器に用いることにより、乾燥ゲルからなる音響整合部材5を採用して、長期使用や厳しい環境での使用についても高い信頼性を発揮することができる。
なお、本実施形態では、整合部材ケース4の内側に乾燥ゲルからなる音響整合部材を形成した後に、整合部材ケース/音響整合部材からなる複合体を圧電体に接合して超音波送受波器を製造しているが、圧電体2に整合部材ケースを接合した後に乾燥ゲルからなる音響整合部材5を形成しても良い。このようにする場合は、整合部材ケース/圧電体の複合体を取り扱うことになるため、ゲル層を形成する際に扱う部品が大きくなるなどの量産上の課題があるが、接着の際の応力が発生しないため、更に強度の低い乾燥ゲルを用いる場合などには好適である。
本実施形態では、底面が平坦な整合部材ケース4を用いているが、整合部材ケース4の底面には凹凸が設けられていても良い場合がある。図5(a)は、底面に凹凸が存在する整合部材ケース4と圧電体2との組み合わせの断面を示しており、図5(b)は、その上面図である。
図5(a)および(b)に示すような凹凸がケース4の底面に設けられている場合、ケース4の底面と圧電体2との間に隙間が形成される。この隙間の空間内に接着剤を充填させることによって、ケース4と圧電体2とを接合すると、接着力が増加するという利点がある。この底面の凹凸が超音波の波長に比べて充分に小さい場合、音響的な阻害要因とはならない。
一方、ケース4の底面部に形成されている凹凸のサイズを大きくして、接着層の最大厚さが超音波の波長に比べて無視できないサイズに設定すると、その部分における超音波の放射音響パワー低下する。図5(b)に示すような同心円状の凹凸を整合部材ケース4の底面部に形成することにより、近距離における超音波の干渉による音場の乱れを防止することが可能となる利点がある。
本実施形態で好適に用いられる整合部材ケース4の形状は、音響整合部材を内部に保持して圧電体の超音波送受波面に固定され得る底面部と、この底面部から超音波放射方向に突出する側面部とを有しており、この側面部は音響整合部材の側面全体をカバーしている。このような構成を有している限り、図1に示すケース4から高い自由度で改変することが可能である。
なお、図3(b)に示す容器の側面部は、上端で反対側に折れ曲がる部分40aを有している。このような部分40aは破損しやすので、好ましくない。これに対し、図3(a)に示す整合部材ケース4には、急峻に折れ曲がる部分はなく、量産に適している。また、図3(a)の整合部材ケース4は、圧電体2を取り囲む必要がないため、その分、小型化しやすく、取り扱いも容易になる。また、多数のケース4に湿潤ゲルを入れて、それらを同時に熱処理する場合にも、恒温槽などの設備を大型化する必要が無い。
整合部材ケース4の断面形状は、上記実施形態におけるものに限定されず、本発明で好適に用いられる整合部材ケースは、図6(a)から(d)に示す各種の断面形状を有していてもい。
(実施形態2)
次に、図7を参照しながら、本発明による超音波送受波器の第2の実施形態を説明する。
本実施形態の超音波送受波器では、音響整合部材が異なる音響インピーダンスを有する2層の乾燥ゲル層からなっている。この点を除けば、本実施形態の超音波送受波器は、実施形態1における超音波送受波器の構成と同様の構成を有している。
一般に、音響整合部材は、音響インピーダンスの不整合による音波の内部反射を抑えて、効率よく圧電体2から超音波伝搬媒体5へ超音波を放射させる役割を果たす。単一の周波数を有する超音波(すなわち連続波の超音波)を送受波する場合には、その周波数に合わせた厚さの均一な音響インピーダンスを有する音響整合部材を1層設けるだけで十分である。
しかし、通常の超音波送受波器では、パルスまたはバースト状の超音波を送受波することが一般的である。パルスまたはバースト状の超音波は、単一の周波数成分でなく、広範囲の周波数成分を含んでいる。このような超音波の送受波を高感度に行うためには、圧電体と超音波伝搬媒体の間で、音響整合部材の音響インピーダンスを徐々に変化させることが好ましい。音響インピーダンスを徐々に変化させるには、音響整合部材を多層化して、構成層の音響インピーダンスを徐々に変化させればよい。
音響整合部材の音響インピーダンスは、超音波送受波器の性能に大きく影響する。1層の音響整合部材における音響インピーダンスの設定は、式(5)に示す関係を満足するように行うことが一般的であるが、2層の音響整合部材におけるそれぞれの音響インピーダンスの設定は、いくつかの考え方があり、その一つに式(6)〜(7)の関係を満足するように決定することが知られている。
Z1=(Z04×Z33)1/7・・・(6)
Z2=(Z0×Z36)1/7・・・(7)
式(6)〜(7)において、Z0は圧電体の音響インピーダンス、Z1は第1音響整合層の音響インピーダンス、Z2は第2音響整合層の音響インピーダンス、Z3は伝搬媒体の音響インピーダンスである。
前述のように、伝搬媒体5として空気を考えて、Z1、Z2を算出すると、Z1は約2.40×105kg/m2/秒となり、Z2は1.98×103kg/m2/秒となる。
しかしながら、音響インピーダンス2.40×105kg/m2/秒なる音響インピーダンスは固体材料としては極めて低く、強度も極めて低く実用に適さない。このため実用に耐えうる強度を持ち、Z1に近い音響インピーダンスを持つ乾燥ゲルとして、本実施形態では、密度が0.15kg/m3、音速が約100m/秒、音響インピーダンスが1.5×104kg/m2/秒である乾燥ゲル層を用いて、音響整合層5bを形成する。
また第1音響整合層5aとしては、密度が0.8kg/m3、音速が1000m/秒、音響インピーダンスが8.0kg/m2/秒である乾燥ゲル層を用いる。第1音響整合層5aに適する音響インピーダンス値は、1次元の計算機シミュレーションにより、送受波感度の高くなる値を設定している。
またそれぞれの音響整合層の厚さは前述のように、送受信する超音波の波長の1/4程度となるように、第1音響整合層の厚さを500μmとし、第2音響整合層の厚さを50μmに設定する。
音響インピーダンスの異なる乾燥ゲルからなる音響整合層5a、5bは、ゲル化工程を2段階に分けて行う第1ゲル化、第2ゲル化工程を経て形成する。本出願人は第1、第2ゲル化工程を用いて、音響インピーダンスの異なる多層の乾燥ゲル層を形成する方法を特願2002―370421に開示しており、本実施例でも同じ方法で多層の乾燥ゲル層を形成した。
以上のような工程で得られた乾燥ゲルからなる2層の音響整合部材を有する超音波送受波器の音響特性を評価したところ、従来のガラスバルーンを音響整合部材に用いた超音波送受波器に比較して、約40倍の送受波感度を得ることができることがわかった。
本実施形態では、2層の音響整合部材が同じ酸化シリカからなるものであるため、剥離などの不良が起こりにくく、歩留まり良く製造された。また、使用時においても長期信頼にたる動作を継続することができる。本実施形態の音響整合部材は、2層構造を有しているが、音響整合部材は3層以上の多層構造を有していても良い。
(実施形態3)
次に、図8を参照しながら、本発明による超音波送受波器の第3の実施形態を説明する。
本実施形態の音響整合部材は、多孔質体および乾燥ゲルの複合体から形成されている。この点以外では、本実施形態の超音波送受波器は、実施形態1における超音波送受波器と同様の構成を有している。
図8に示す超音波送受波器では、別途作製した多孔質体を整合部材ケースの底面に配置した後、その上に乾燥ゲル層を形成している。このような構成により、第1整合層部分の厚さを精密に制御することが可能であり、性能の均一な超音波送受波器を製造することが容易となる。
多孔質体の作製は、次のようにして行った。すなわち、シリカ粉とガラスをアクリルビーズと混合し、これをプレス成型する。その後、アクリルを燃焼によって除去させるとともに、シリカとガラスを焼結させる。このようにして形成したシリカ/ガラス複合体は、密度が約0.6、音速が約2000m/秒であるため、音響整合部材として適する厚さは、500kHzにおいて約1.0mmである。本実施形態では、シリカ/ガラス複合体の両面を研磨して、その厚さを1.0mmに設定する。
上記の方法で作製した多孔質体を、整合部材ケース4の内側に配置した後、ゲル原料液をケース4の内部に流し込んだ。そして、ゲル化および乾燥を行うことにより、整合部材ケース4の内部において、多孔質体および乾燥ゲルからなる第1整合層と、乾燥ゲル単体からなる第2整合層とを積層した。
本実施形態では、密度0.15×103kg/m3、音速100m/秒、音響インピーダンス1.5×104kg/m2/秒の特性の乾燥ゲルとしを作製した。乾燥ゲル単体からなる第2音響整合層の厚さが、送受信する超音波の波長の約1/4(約50μm)となるようにゲル原料液の注入量を調整した。
シリカ/ガラスの多孔質体と乾燥ゲルの複合体から形成されている第1音響整合層の密度は約0.72×103kg/m3、音速はシリカ/ガラスの多孔質体と同じである。
このようにして形成した超音波送受波器は、従来の超音波送受波器の30倍以上の送受信感度を得ることができる。
図9に示すように、多孔質体の上部に形成する乾燥ゲル層を更に多数層としても良い。こうすることで広帯域な超音波の送受信が可能となる超音波送受波器を実現することができるものである。
(実施形態4)
次に、図10および図11を参照しながら、本発明の第4の実施形態を説明する。
本実施形態は、乾燥ゲルおよび小径粒子からなる複合体を用いて音響整合部材を形成している。この点以外では、本実施形態の超音波送受波器は、実施形態1における超音波送受波器と同様の構成を有している。
以下、本実施形態における超音波送受波器の製造方法を説明する。
まず、ゲル原料液に沈降する密度を有する小径粒子を整合部材ケースの中に定量入れて最密充填に近くなるようにセットする。この際、安定的に最密充填するように超音波振動を印加することが有効である。今回は小径粒子として粒子径約50μmのガラスビーズを用いた。ガラスビーズ径が大きいと、超音波の送受信に対して阻害要因となる。
整合部材ケースに入れるガラスビーズの量は、第1整合層に相当するガラスビーズ/乾燥ゲル複合体の厚さによって決まる。ガラスビーズ/乾燥ゲル複合体の音速は約2000m/秒であるため、第1整合層の厚さは、送受信する超音波の波長の約1/4となるように約1.0mmとする。
球体をある空間に充填する場合の充填率は面心立方格子構造の状態が最も密に充填された状態で、この場合には充填部分の体積の約74%がガラスビーズで充填されていることとなるが、実際にはここまで充填することは殆ど不可能で、ある容器の中にガラスビーズを充填する場合には、実験的には通常ガラスビーズの充填率は60%程度である。
こうして形成した整合部材ケース内のガラスビーズ層にゲル原料液を静かに注入する。この際、ガラスビーズは互いに結合していないため、なるべくこの構造が崩れないようにする必要がある。ゲル原料液は、形成される乾燥ゲルが、密度0.25×10^3kg/m3、音速300m/sとなるように調合した。
ゲル原料液は、ガラスビーズを完全にゲル原料液に浸漬させ、更に第2整合層となるゲル単体の層を形成する厚さ分を見込んで注入する。今回は、第2整合層として、音速300m/sの乾燥ゲルを用いているため、送受信する超音波の波長の約1/4となる150μmの厚さを見込んで注入した。ゲル原料液を充填した後、更に気泡の除去、ガラスビーズの再充填のため超音波振動を印加した。
この後、ゲル原料液をゲル化(固化)させてガラスビーズの相対位置関係を固定するとともに、小径粒子と乾燥ゲルからなる第1整合層と、乾燥ゲルからなる第2整合層を同時に形成する。
このようにすると、実施形態2において音響整合部材5を2層にした場合に比較してゲル化工程が1度で済むほか、実施形態3との比較においては、第1整合層を構成する多孔体部分の成型が必要ないため、工程の短縮化と低コスト化が計れるという有利な効果が得られる。
こうして形成された第1音響整合層はガラスビーズと乾燥ゲルの複合体である。この密度は、ガラスビーズの真密度:約2.2×103kg/m3であり、その充填率が60%であるので、約1.4×103kg/m3である。
本実施形態の超音波送受波器によれば、従来の超音波送受波器と比較して、約10倍の送受信感度を得ることができる。
ガラスビーズは相互に接触しているのみで、本質的には粒子同士が接合していない。このため、音速が比較的遅く、空中用超音波送受波器の音響整合層として好適に用いられ得る。
なお、図11のように、2層以上の乾燥ゲル層を用い、3層以上の多層構造を備えた音響整合部材を形成してもよい。音響整合部材を多層化し、各層における音響インピーダンスを段階的に変化させることにより、広帯域の超音波の高い効率で送受信することができるようになる。
(実施形態5)
図12および図13を参照しながら、本発明の第5の実施形態を説明する。
本実施形態の超音波送受波器は、図12に示すように、整合部材ケース4の上部における屈曲部に取り付けられた77を有している。この点以外では、本実施形態の超音波送受波器は、実施形態1における超音波送受波器と同様の構成を有している。
センサカバー7は、メッシュ状の前面保護部7aと、前面保護部7aを整合部材ケース4に固定する取付け部7bとから構成されている。前面保護部7aのメッシュ構造の網目の大きさは、流体の流れを乱さないようにしつつ、超音波の伝搬を阻害しないように、例えば20〜1000μm程度の大きさに設定されている。本実施形態では、センサカバー7はステンレスから形成されており、整合部材ケース4と取付け部7bとの接合、および前面保護部7aと取付け部7bとの接合は、いずれも、溶接によって行われている。
図12に示すように、音響整合部材5の表面をセンサカバー7で保護することにより、超音波送受波器の取り扱いの際に、音響整合部材5に触れることが無くなる。そのため、超音波送受波器に不良要因を与えることなく、その後の作業を行うことができる。また、センサカバー7を取り付けることにより、整合部材ケース4の強度が高まるため、大きな力が整合部材ケース4に加わっても、ケース変形が抑制される。このため、整合部材ケース4からの音響整合部材5の剥離を防止して、信頼性を高めることができる。
センサカバー7の形状は、図12に示すものに限定されない。例えば、図13Aに示すように、前面保護部7aが、音響整合部材5の表面に立てた法線に対して角度θ(0°<θ<90°)だけ傾斜していてもよい。前面保護部7aに、このような傾斜を与えると、後に図15を参照しつつ説明する超音波流量計に用いる場合に特に好ましい効果が得られる。すなわち、2つの超音波送受波器が対向している面を結ぶ線と流体が流れる方向とが形成する角と、前面保護部7aの傾斜角θとを等しく設定することにより、測定部における流体の流れを乱すこと無く、流量を正確に測定することが可能になる。
センサカバー7は、整合部材ケース4に取り付けて使用される場合に限定されず、図13Bに示すように、整合部材ケース4以外の超音波送受波器を構成する部材に取り付けて使用しても良い。図13Bに示す例では、例えばSUS(ステンレス)からなる円筒状の取り付け部7bを圧電体2の側面に接着部9を用いて接合している。
このような構成の超音波送受波器を超音波流量計に用いた場合にも、測定部の流体の流れを乱すことなく、流量を測定することが可能になる。また、センサの取り扱い時、例えば流路への取り付け時に破損しやすい音響整合層に触れることがない。このため、歩留まりの良い、安定した流量計を低コストにて提供することができる。
(実施形態6)
図14を参照しながら、本発明の第6の実施形態を説明する。
本実施形態の超音波送受信波器は、圧電体2を外部から遮蔽する構造支持体8を更に備えている。この点以外において、本実施形態の超音波送受信波器は、実施形態1における超音波送受波器と同様の構成を有している。
構造支持体8は、圧電体2を収容する容器8aと、この容器8aを封止する底板8bとを備えている。底板8bには、図示していない回路と圧電体2とを接続するためのリード部8cが設けられている。圧電体は、容器8aの平坦部分に接合され、容器8aの側面部が圧電体2を取り囲んでいる。容器8aの側面部の端は、外側に折れ曲がり、底板8bと接合されている。このような構造支持体8は、例えば、ステンレスから好適に作製される。
圧電体2を外部から遮蔽する構造支持体8を用いることにより、超音波送受波器の取り扱いが更に容易となる。また、構造支持体13の内部を不活性ガスで満たせば、流量測定の対象とする流体から圧電体2を遮断することができるため、可燃性ガスを流量を測定する際に安全性を高めることが可能になる。動作時に圧電体2の電極3a、3bには電圧が印加されるため、可燃性ガスなどと圧電体2が接すると、可燃性ガスに引火する危険性もある。しかし、構造支持体8を密閉性の容器から構成し、圧電体2が設けられている内部空間を外部の流体などから遮断することにより、そのような引火を防止し、可燃性ガスなどに対しても安全に超音波を送受波することができる。
また、可燃性ガス以外の流体であっても、圧電体2と反応し、圧電体2に特性の劣化を与える可能性のある媒体が存在する。そのような媒体との間で超音波を送受波する場合でも、本実施形態によれば、圧電体2の劣化を防止して、長期間に渡って信頼性の高い動作を実現することが可能となる。
構造支持体8の材料は、ステンレスなどの金属材料に限定されず、セラミック、ガラス、樹脂などから目的に応じた材料が選択される。本実施形態では、外部の流体と圧電体2を確実に分離し、構造支持体8に何らかの機械的な衝撃が加わったとしても、圧電体2と外部流体との接触を防止するような強度を与えるため、金属材料から構造支持体13を作製している。
安全な気体に対して超音波の送受波を行う場合には、コスト低減を目的として、樹脂などの材料からなる構造支持体8を用いても良い。
構造支持体8と整合部材ケース4との接合は、整合部材ケース4内で音響整合部材5を形成したあとに行うことが好ましい。図3(a)および(b)を参照しながら説明したように、乾燥ゲルからなる音響整合部材5を形成する工程では、ケースの熱容量を小さくし、温度分布を一様化することが好ましい。このため、整合部材ケース4と構造支持体8とを接合したあとに、乾燥ゲルの形成を行うと、整合部材ケース4および構造支持体8が全体として大きな熱容量を持つため、乾燥ゲル中に密度や音速の不均一な部分が形成される可能性がある。このため、整合部材ケース4を構造支持体8に取り付ける前に、ケース4内で乾燥ゲルを完成しておくことが好ましい。
(実施形態7)
図15を参照しながら、本発明による超音波流量計の実施形態を説明する。
本実施形態の超音波流量計は、流量測定部51として機能する管内を被測定流体が速度Vで流れるようにして設置される。流量測定部51の管壁52には、本発明の超音波送受波器から形成した超音波送受波器1aおよび1bが相対して配置されている。
ある時点では、超音波送受波器1aが超音波送波器として機能し、超音波送受波器1bを超音波受波器として機能するが、他の時点では、超音波送受波器1aが超音波中は受波器として機能し、超音波送受波器1bを超音波送波器として機能する。この切り替えは切替回路53によって行われている。
超音波送受波器1aおよび1bは、切替回路53を介して、超音波送受波器1aおよび1bを駆動する駆動回路54と、超音波パルスを検知する受波検知回路55とに接続されている。受波検知回路55の出力は、超音波パルスの伝搬時間を計測するタイマ56に送られる。
タイマ56の出力は、流量を演算する演算部57に送られる。演算部57では、測定された超音波パルスの伝搬時間に基づいて、流量測定部51内を流れる流体の速度Vが計算され、流量が求められる。駆動回路54およびタイマ56は、制御部58に接続され、制御部58から出力された制御信号によって制御される。
以下、この超音波流量計の動作をより詳細に説明する。
被測定流体として、例えばLPガスが流量測定部51を流れる場合を考える。超音波送受波器1aおよび1bの駆動周波数を約500kHzとする。制御部58は、駆動回路54に送波開始信号を出力すると同時に、タイマ56の時間計測を開始させる。
駆動回路54は送波開始信号を受けると、超音波送受波器1aを駆動し、超音波パルスを送波する。送波された超音波パルスは流量測定部51内を伝搬して、超音波送受波器1bで受波される。受波された超音波パルスは超音波送受波器1bで電気信号に変換され、受波検知回路55に出力される。
受波検知回路55では受波信号の受波タイミングを決定し、タイマ56を停止させる。演算部57は、伝搬時間t1を演算する。
次に、切替回路53により、駆動回路54および受波検知回路55に接続する超音波送受波器1aおよび1bを切り替える。そして、再び、制御部59は駆動回路54に送波開始信号を出力すると同時に、タイマ56の時間計測を開始させる。
伝搬時間t1の測定と逆に、超音波送受波器1bで超音波パルスを送波し、超音渡送受波器1aで受波し、演算部57で伝搬時間t2を演算する。
ここで、超音波送受波器1aと超音渡送受波器1bの中心を結ぶ距離をL、LPガスの無風状態での音速をC、流量測定部51内での流速をV、非測定流体の流れの方向と超音波送受波器1aおよび1bの中心を結ぶ線との角度をθとする。
伝搬時間t1、t2は、それぞれ、測定によって求められる。距離Lは既知であるので時間t1とt2を測定すれば流速Vが求められ、その流速Vから流量を決定することができる。
このような超音波流量計において、伝搬時間t1、t2はゼロクロス法と呼ばれる方法によって測定される。この方法では、図9(a)に示すような受波波形に対して、適切なスレッショルドレベルを設定し、そのスレッショルドレベルを超えて、次に振幅が0になる点の時間を計測する。
受波信号のS/Nが悪い場合、ノイズレベルによっては振幅が0となる点が時間的に変動するため、正確にt1、t2を測定することが出来ず、正確な流量を測定することが困難になる場合がある。
このような超音波流量計の超音波送受波器として、本発明の超音波送受波器を用いると、受波信号のS/Nが向上して、t1、t2を高い精度で測定することが可能となる。
また本実施形態では、超音波送受波器を図15に示すような所謂Zパス型と呼ばれる配置にした超音波流量計での説明を行ったが、超音波送受信器の配置形態は、これに限定されるものでなく、図16(a)〜(c)に示すように、Vパス、Wパス、Iパスなどの配置形態としても同様の効果が得られる。
以上の各実施形態では、最上層の音響整合層(第1音響整合層)の上面は、乾燥ゲル層が直接伝播媒体6と接触しているが、この面を厚さ10μm以下程度の保護膜でカバーしてもよい。
このような保護膜は、大気と音響整合部材の直接的な接触を避け、音響整合部材の性能を長期に渡って保持するのに寄与する。
保護膜は例えば、アルミニウム、酸化ケイ素、低融点ガラス、高分子などの材料からなる膜(単層に限定されない)によって構成される。保護膜は、スパッタリングやCVD法などによって堆積される。