以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の第1の実施形態における超音波送受信器(超音波振動子)の一断面を示している。図示されている超音波送受信器1は、圧電体4と、圧電体4上に設けられた音響整合層3と、圧電体4に対して固定された保護部2とを備えている。
圧電体4は、圧電性を有する材料から形成され、厚さ方向に分極されている。圧電体4の上下面には、不図示の電極が形成され、電極に印加される信号に基づいて超音波を放射する。また、超音波を受けた場合は、電極間に電圧信号を発生させる。本発明では、圧電体4の材料は任意であり、公知のものを用いることができる。
圧電体4の主面(超音波送受波面)S1を基準とする保護部2の高さHは音響整合層3の厚さを規定しており、好ましい態様では、保護部2の高さは音響整合相層3の厚さに略等しい。
図2は、図1の超音波送受信器1の上面を示している。図2からわかるように、本実施形態の超音波送受信器1では、リング状の保護部2が音響整合層3を取り囲み、音響整合層3の外周面(側面)の全体が保護部2の内周面と接触している。このような保護部2を圧電体4の上面に設けることにより、圧電体4から音響整合層3が剥離しにくくなり、また、音響整合層3の破損を防止することができる。その結果、超音波送受信器1の製造段階および使用段階における信頼性が著しく向上する。
なお、のちに述べる製造方法によれば、保護部2の高さHを調節することによって音響整合層3の厚さを高精度で制御することができる。そのため、音響整合層3を高い精度で安定的に形成することができるので、品質に優れた超音波送受信器を歩留りよく製造することが可能となる。音響整合層3の厚さが素子ごとにばらつくと、超音波送受信器の特性(感度など)が変動するため、所定の厚さを有する音響整合層3を再現性良く形成することが重要である。前述したように、最大の送受信感度を得るための適切な音響整合層の厚さは、送受信する超音波の波長の約1/4である。このため、音速が約280m/sの乾燥ゲルを音響整合層に用いて500kHz程度の超音波の送受信を行う場合は、乾燥ゲルの音響整合層の好ましい厚さを140μm程度に設定する必要がある。この厚さが10%程度異なると、送受信感度は20%程度変動するおそれがある。このように音響整合層3の厚さが僅かに変化するだけで、送受信感度が大きく変動するが、本実施形態によれば、所望の厚さを有する音響整合層3が再現性良く形成されている。
本実施形態の超音波送受信器1は、例えば、以下のようにして製造される。
まず、送受信する超音波の波長に合わせた圧電体4を用意する。圧電体4としては、圧電セラミックスや圧電単結晶など圧電性の高い材料が好ましい。圧電セラミックスとしては、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、ニオブ酸鉛などを用いることができる。また圧電単結晶としては、チタン酸ジルコン酸鉛単結晶、ニオブ酸リチウム、水晶などを用いることができる。
本実施形態では、圧電体4としてチタン酸ジルコン酸鉛圧電セラミックスを用い、送受信する超音波の周波数を500kHzに設定している。このような超音波を圧電体4が効率よく送受信できるようにするため、素子の共振周波数を500kHzに設計する。このため、本実施形態では、直径が12mm、厚さが約3mmの円柱形状を有する圧電セラミックスから形成された圧電体4を用いている。
このような圧電体4に対して、外径12mm、内径11mm、厚さ140μmのリング状保護部2を接合する。本実施形態では、保護部2として、ステンレス製の金属リングを用いている。ステンレス性の保護部2と圧電体4との接合は、接着剤による接着によって行うことができる。例えば、接着剤としてエポキシ系樹脂を用い、0.2MPaの圧力をかけながら、150℃の恒温槽中で、2時間放置して硬化させればよい。
本実施形態では、乾燥ゲルから音響整合層3を形成する。乾燥ゲルから形成した音響整合層3の音速は約280m/sであるため、音響整合層3における超音波の波長は約640μmである。このため、音響整合層3の厚さを、音響整合層3における超音波波長の約1/4に等しくなるように、140μmに設定している。この厚さの音響整合層3を形成するため、本実施形態では、保護部2の厚さを140μmに設定している。
保護部2の役割は、まず第1に、超音波送受信器1の製造段階や使用段階における外部から受ける機械的な衝撃または熱的な衝撃から、音響整合層3を保護することにある。第2に、超音波送受信器1としての動作(使用)時に、送受信する超音波の振動から超音波送受信器1を保護することも重要な役割である。
音響整合層3が、その役割を果たすためには、圧電体4と音響整合層3とが密着していることが極めて重要である。圧電体4と音響整合層3との間に僅かでも剥離が生じると、音響整合層3としての役割を果たすことができなくなる。
本願発明者は、圧電体4と音響整合層3との密着性を保持するためには、図2に示すように、音響整合層3の外周部分に保護部2を設けた構造が極めて有効であることを見いだした。保護部2が無い場合には、超音波送受信器1の製造時や使用時に大幅な特性劣化が進行し、高性能の超音波送受信器1を実用化することができなくなる可能性がある。
本実施形態の音響整合層3は、密度ρと音速Cとの積(ρ×C)で規定される音響インピーダンスが極めて小さい材料から形成される。このため、空気などの気体に対する超音波の送受信効率を極めて高くすることができる。音響インピーダンスが極めて小さい材料として、本実施形態では、前述したように乾燥ゲルを用いている。
音響整合層3を乾燥ゲルから形成することにより、ガラスバルーンやプラスチックバルーンを樹脂材料で固めた従来材料から音響整合層を形成した場合に比較して、気体と圧電体との間の音響整合が極めて良くなるため、超音波送受信効率を格段に向上させることができる。
本明細書における「乾燥ゲル」とは、ゾルゲル反応によって形成される多孔質体であって、ゲル原料液の反応によって固体化した固体骨格部が、溶媒を含んで構成された湿潤ゲルを経て、乾燥して溶媒除去することで形成されたものである。この乾燥ゲルは、ナノメートルサイズの固体骨格部によって平均細孔直径が数nmから数μm程度の連続気孔が形成されているナノ多孔質体である。
このような微細な構造を有する多孔質体であるため、固体部分を伝搬する音速が極端に小さくなるとともに、細孔によって多孔質体内の気体部分を伝搬する音速も極端に小さくなるという性質を有する。そのため、音速として500m/s以下程度の非常に遅い値を示し、従来の音響整合層とは全く異なる低い音響インピーダンスを得ることができる。また、ナノメートルサイズの細孔部では、気体の圧損が大きいために音響整合層として用いた場合に、音波を高い音圧で放射できるという特徴も有する。
このような乾燥ゲルの材質としては、無機材料、有機高分子材料など様々な材料を用いることができる。無機材料の固体骨格部としては、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化チタンなどを用いることができる。また有機材料の固体骨格部としては、一般的な熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を用いることができ、例えば、ポリウレタン、ポリウレア、フェノール硬化樹脂、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸メチルなどを用いることができる。
本実施形態では、予め圧電体4と保護部2とによって形成された凹型空間P1(図1参照)の内部に上述の乾燥ゲルから音響整合層3を形成する。すなわち、液体状であるゲル原料液を圧電体4と保護部2とで構成される凹型空間P1に流し込んだ後、ゲル化、疎水化、および乾燥を行うことにより、音響整合層3となる乾燥ゲルを形成する。なお、本実施形態では、酸化ケイ素の固体骨格部を有する乾燥ゲルを音響整合層3として用いている。
具体的には、以下に示す工程1〜4を順次行うことにより、音響整合層3を形成することができる。
1、テトラエトキシシラン、エタノール、およびアンモニア水溶液(0.1規定)を、モル比で、1:3:4となるように調製したゲル原料液(ゾル)を用意する。
2、このゲル原料液をスポイトで圧電体と保護部で形成される凹型空間に滴下する。そのとき、凹型空間P1の体積よりも過剰な量のゲル原料液を滴下する。次に、凹型空間P1の内部に溜まったゲル原料液の高さが保護部の高さHと同じになるよう、テフロン(登録商標)製の平板(不図示)を用いたすり切り操作を行った後、テフロン板で蓋をする。
3、室温で約1日放置し、原料液がゲル化(湿潤ゲルの形成)した後、テフロン板を取り外す。その後、トリメチルエトキシシランの5重量%ヘキサン溶液中で、疎水化処理を行う。
4、超臨界乾燥槽に導入し、二酸化炭素雰囲気のもと、12MPa、50℃の条件で超臨界乾燥をおこなう。こうして、乾燥ゲルが形成される。
このような工程1〜4により、例えば、密度ρが0.3×103kg/m3、音速Cが280m/s、厚さが140μmの音響整合層4を形成することができる。
本発明は、密度が50kg/m3以上1000kg/m3以下で、かつ、音響インピーダンスが2.5×103kg/m2/s以上1.0×106kg/m2/s以下の材料から音響整合層を形成する場合に顕著な効果を発揮するが、上記の方法によれば、このような音響整合層を好適に作製することが可能となる。
上記方法によれば、音響整合層3の厚さを保護部2の高さHに略等しくすることができるため、保護部2によって音響整合層3の厚さを高精度で制御できる。保護部2は、製造工程のある段階においては、ゲル原料液のガイドとして機能しているといえる。
上記方法によれば、厚さばらつきの少ない音響整合層3を歩留まり良く形成できるため、超音波送受信器の特性ばらつきを抑制することが可能になる。なお、本発明において、保護部2の高さを音響整合層3の厚さと等しくすることは不可欠ではない。保護部2の高さが音響整合層3の厚さより大きい場合は、音響整合層3の収縮を抑制し、機械的な衝撃から保護する機能は充分に発揮される。逆に、保護部2の高さが音響整合層3の厚さより小さい場合でも、保護部2を設けない場合にくられべれば、音響整合層3の収縮を抑制し、機械的な衝撃から保護する機能が高い程度で発揮される。
上記方法で作製した音響整合層3を備えた超音波送受信器について、その送受信波形を測定した。測定により得られた波形図を図3(a)に示す。比較のため、ガラスバルーンをエポキシで固めた材料を音響整合層に用いた場合の送受信波形を図3(b)に示す。ここで用いたガラスバルーンの音響整合層は、密度が0.52g/cm3、音速が2500
m/s、厚さが1.25mmである。
なお、従来技術について説明したように、音響整合層の音響インピーダンスは、式(5)で規定される値を示すことが望ましい。本実施形態では、圧電体4にチタン酸ジルコン酸鉛圧電セラミックスを用い、超音波を伝搬する伝搬媒体としては空気を設定している。従って、圧電体4の密度が7.7×103kg/m3であり、音速が3800m/sであるので、音響インピーダンスは約29×106kg/m2/sとなる。一方、空気の密度は0.00118kg/m3であり、その音速は340m/sであるので、音響インピーダン
スは約0.0004×106kg/m2/sとなる。このため、式(5)より、音響整合層の好ましい音響インピーダンスは、理論上、約0.1×106kg/m2/sとなる。
本実施形態の超音波送受信器1における音響整合層3の音響インピーダンスは、密度が0.3×103kg/m3で、音速が280m/sであるため、約0.084×106kg
/m2/sとなり、理論上の理想値に極めて近いものとなっている。
図3からわかるように、本実施形態によれば、従来のセンサに比較して3倍以上の送受信感度を得ることができる。また、本実施形態では、保護部2を設けているため、機械的強度が低く壊れやすい乾燥ゲルから形成した音響整合層を有する超音波送受信器でも、歩留まり良く製造され、しかも、使用時においても、長期間信頼に足る動作を継続することができる。外部振動テスト、熱的衝撃のテスト、連続振動テストなどを行い、音響整合層3が圧電体4から剥離するか否かを厳しい条件下で評価したが、超音波送受信器の性能が劣化することは無く、極めて安定な動作を確認することができた。
本実施形態では、上記工程4において、湿潤ゲルを乾燥させて乾燥ゲルを得る際、超臨界乾燥法を用いたが、通常の大気中での乾燥を行っても良い。この場合、湿潤ゲルから乾燥ゲルへの変化する過程で収縮が起こり、10〜20%程度の体積変化が発生する。このような体積収縮が生じると、従来の構成では、音響整合層3が圧電体4から剥離する。しかし、本実施形態の場合は、図4に示すように、保護部2が存在するため、乾燥ゲルの収縮が主として厚さ方向にのみ起こる。すなわち、圧電体4と音響整合層3との界面で、面内方向の応力がほとんど発生せず、音響整合層3の剥離が効果的に防止される。従って、超臨界乾燥法よりも簡便な大気中乾燥法を採用しても、高感度・高信頼性の超音波送受信器1を作製することができ、製造コストを低減することが可能となる。
なお、保護部2の高さは、乾燥ゲルの収縮率を考慮して、最終的な音響整合層3の厚さが最適な大きさを持つように設定されることが好ましい。なお、収縮の程度が大きくなりすぎて、音響整合層3の最も薄い部分の厚さが平均厚さの90%以下に減少すると、音響整合層3の特性が劣化するので好ましくない。超臨界乾燥法によれば、音響整合層3の最も薄い部分の厚さを平均厚さの98%以上に維持することができる。
音響整合層3の下面と接する圧電体4の上面、および音響整合層3の側面と接する保護部2の内側面に対しては、前もって、プラズマクリーニングや酸処理などの表面処理を行っておくことが好ましい。このような処理によって接触面に水酸基を形成しておくと、乾燥ゲルと圧電体4および保護部2との間の化学的な結合をより強固にすることができる。
音響整合層3と圧電体4および保護部2と間で強固な結合を実現するには、圧電体4および保護部2の表面のうち、音響整合層3に接する領域を粗面化してもよい。粗面化の手法としては、通常のヤスリがけや、ブラスト処理、物理的あるいは化学的なエッチング操作などが有用に利用することができる。
音響整合層3と保護部2との密着性を向上させるには、保護部2の材料として多孔質材料を用いることも有効である。多孔質体から保護部2を形成することにより、音響整合層3の一部が保護部2の内部まで浸透して一体化するため、更に強固な密着状態を得ることができる。
保護部2に使用可能な多孔質体としては、例えば、発泡法等によって製造された金属、セラミック、樹脂などがあげられる。多孔質金属としては、ステンレス、ニッケル、銅など、セラミックとしてはアルミナ、チタン酸バリウムなど、樹脂としてはエポキシ、ウレタンなど様々な材料を用いることもできる。
なお、本明細書において、「音響整合層を保護する」とは、音響整合層を機械的な振動や衝撃から守ることだけではなく、形成時に収縮する材料から音響整合層を作製する工程で音響整合層の剥離を抑制することをも含むものとする。音響整合層をこのようにして保護する部材を採用することにより、機械的強度が弱く、収縮性を有する材料から音響整合層を形成しても、音響整合層の機能(音響的な整合により圧電体と超音波の伝搬媒体との間の超音波の送受信を効率的に行えるような働き)を実用レベルで持続させることができる。
(実施形態2)
図5を参照しながら、本発明の第2の実施形態を説明する。
本実施形態では、保護部と圧電体とが一体化されている。具体的には、圧電体5の主面中央部に凹部5aを形成し、圧電体5の一部5bを保護部として用いている。言い換えると、圧電体5の一部5bが保護部として機能し、保護部と圧電体が一体的に形成されている。
図5の超音波送受信器は、次のようにして作製される。
まず、分極処理の済んだ圧電体5を用意した後、圧電体5の一方の面(主面)を加工して凹部5aを形成する。凹部5aを形成するための加工は、エンドミルやサンドブラストによって行うことができる。凹部5aの深さは、保護部(5b)の高さに対応する。この後、凹部5aが形成された面に電極を形成し、圧電体の凹部と反対側の面にも電極を形成する。電極は、例えば、めっきやスパッタなどにより、金、ニッケルなどの金属膜を形成することによって作製される。
本実施形態によれば、圧電体5を加工し、その主面の周辺部を保護部と機能させるため、別途作製した保護部を圧電体に接合する工程が不要となる。保護部の接合に接着を用いた場合は、接着層の存在による保護部の高さの変化を考慮する必要があるが、本実施形態によれば、高さが高い精度で規定された保護部によって音響整合層3の厚さを高精度で調節できるため、安定して高性能の超音波送受信器を提供することができる。
本実施形態においても、圧電体5の表面のうち、音響整合層3と接触する部分に対して水酸基を形成する処理を行うことが好ましい。また、圧電体5に凹部5aを形成する加工に際して、圧電体5を粗面化すれば、音響整合層3と圧電体5との密着性を更に向上させることができる。
上記の実施形態1および実施形態2では、保護部として機能する部分は、圧電体5の主面に垂直な側面を有するリング状に形成されている。しかし、この保護部の側面は、図6に示すように、テーパを有していても良い。また、図7に示すように、音響整合層3の外周側面の全てに接触している必要は無く、複数の部分に分割された構造や、一部に切り欠きが形成された構造を有していても良い。
上記の実施形態1または2の構成によれば、乾燥ゲルなどの密度が低く、音速の遅い材料を音響整合層に用いた場合でも、保護部が音響整合層と圧電体との結合を強固にして、高い送受信感度を発揮するとともに、超音波送振動子の製造工程段階における取り扱いを容易にし、高性能の超音波送振動子を高歩留まりで提供することが可能となる。また、超音波送振動子の使用段階における機械的衝撃や、超音波の送受信に伴う振動によっても特性の劣化しにくく信頼性に優れた素子が実現する。
(実施形態3)
図8を参照しながら、本発明の第3の実施形態を説明する。
本実施形態に特徴的な点は、構造支持体6を有している点にある。図8に示す構造支持体6は、音響整合層3なとが固定される円板状支持部6aと、この円盤状支持部から軸方向に連続的に延びる円筒部6bとを備えている。円筒部の端部は、断面がL字型に折れ曲がり、遮蔽のためのプレート60や、他の装置などに固定されやすくなっている。
構造支持体6の支持部6aの表面には、音響整合層3と保護部2とが配置されており、支持部6aの裏面には圧電体4が配置されている。すなわち、圧電体4および音響整合3は、それぞれ、構造支持体6を挟んで対向する位置に設けられている。このような構造支持体6を用いることにより、超音波送受信器(超音波送受波器)の取り扱いが極めて容易となる。
構造支持体6を密閉可能な容器(センサーケース)から構成することができる。この場合、構造支持体6の円筒部6bの開放端を遮蔽用プレート60などで塞ぎ、かつ、構造支持体6の内部を不活性ガスで満たせば、流速測定の対象とする流体から圧電体4を遮断することができる。圧電体4には電圧が印加されるため、可燃性ガスで圧電体4が囲まれていると、可燃性ガスに引火する危険性もある。しかし、構造支持体6を密閉型の容器から構成し、内部を外部から遮断することにより、そのような引火を防止できるため、可燃性ガスに対しても安全に超音波を放射することができる。また、外部のガスが可燃性でなくとも、圧電体4と反応し、圧電体4の特性を劣化する可能性のあるガスに超音波を放射する場合でも、圧電体4を外部のガスから遮断することにより、圧電体4の劣化を抑制し、長期間に渡って信頼性の高い動作を実現することが可能となる。
なお、図8の例では、保護部2は、圧電体4の超音波送受信面の外側周辺部に配置されている。一般に保護部2は音響整合層3の役割を果たさないため、圧電体4の主面上に保護部2が配置すると、その部分は超音波の送受信に寄与しない部分となり、送受信感度が低下してしまう。
構造支持体6が音響的阻害要因とならないようにするには、圧電体4が接触する円板状支持部6aの厚さを、送受信する超音波の波長の1/8以下とすることが望ましい。この厚さを波長の1/8程度以下とすることにより、構造支持体6は超音波の伝搬を阻害しなくなる。
本実施形態では、構造支持体6の材料としてステンレスを用い、構造支持体6の厚さを0.2mmに設定している。ステンレス中の音速は、約5500m/sであるため、0.2mmは周波数500kHzの超音波における波長の約55分の1に相当する。このように薄いステンレスから構造支持体6を形成しているため、構造支持体6が超音波の伝搬経路内に介在しても、殆ど音響的な障害とはならない。
構造支持体6の材料は、金属材料に限定されず、セラミック、ガラス、樹脂なから目的に応じた材料が選択され得る。本実施形態では、外部の流体と圧電体とを確実に分離し、構造支持体6に何らかの機械的衝撃が加わったとしても、圧電体と外部流体との接触を防止することができる強度を与えるため、金属材料から構造支持体6を作製している。これにより、例えば可燃性や爆発性を有するガスを対象として超音波の送受信を行っても、高い安全性を確保することができる。
安全な気体に対して超音波の送受信を行う場合には、コスト低減を目的として、樹脂などの材料から構造支持体6を形成しても良い。
構造支持体6と音響整合層3との密着性を高めるため、構造支持体6の表面のうち、音響整合層3と接触する部分に、前もって、水酸基を付加するプラズマ処理や酸処理を行うことが好ましい。また、やすりがけやサンドブラスト処理、化学的および/または物理的エッチングなどによって、この部分の粗面化を行ってもよい。
(実施形態4)
次に、図9を参照しながら、本発明の第4の実施形態を説明する。
本実施形態の超音波送受信器では、構造支持体7の一部7aが保護部として機能し、構造支持体7と保護部とが一体化している。例えばステンレスなどの金属材料をプレス成形することによって構造支持体7を作製する際、その円板状支持部に凹部7bを形成し、凹部7bの周辺(構造支持体7のプレス成形によって折り曲げられた部分7a)を保護部として用いることができる。
このような構成を採用することにより、保護部を構造支持体に接合する工程を省くことができる。また、実施形態1と同様に、接着層によって保護部の高さがばらつくこともなくなるため、高感度な超音波送受信器を歩留まり良く作製することができる。
なお、図9では、構造支持体7を密閉するためのプレートを記載していないが、必要に応じて、このようなプレートを構造支持体7に固着または一体化してもよい。以下に説明する他の実施形態でも同様である。
(実施形態5)
図10および図11を参照しながら、本発明の第5の実施形態を説明する。
本実施形態の超音波送受信器は、音響整合層3と圧電体4との間に配置された他の音響整合層(下層の音響整合層)8を備えている。下層音響整合層8の挿入を除けば、本実施形態の構成は実施形態2の構成と同様である。
音響整合層は、音響インピーダンスの不整合による音波の内部反射を抑え、効率よく超音波を圧電体から媒体(超音波伝搬媒体)に放射させる役割を果たす。このような音響整合層は、単一の周波数を有する超音波(連続波の超音波)を送信または受信する場合には、1層で充分である。
これに対し、通常の超音波送受信器では、パルスまたはバースト状の超音波を送受信する。パルスまたはバースト状の超音波は、単一の周波数成分ではなく、広帯域の周波数成分を含んでいる。このような超音波の送受信を高感度で行うためには、圧電体と超音波伝搬媒体との間で、音響整合層の音響インピーダンスを徐々に変化されることが好ましい。このように音響インピーダンスを徐々に変化させるには、音響整合層を多層化し、構成層の音響インピーダンスを徐々にシフトさせればよい。
本実施形態では、図10に示すように、音響整合層を2層化している。具体的には、下層の音響整合層8として、セラミックスからなる多孔質焼結体を用いている。この音響整合層8は、見かけ密度が約0.64×103kg/m3、音速が2000m/s、音響インピーダンスが約1.28×106kg/m2/sである。セラミックスとしては、チタン酸バリウム系の材料を用いている。
「見かけ密度」とは、多孔質体に含まれる空間部分も含んだ密度である。多孔質セラミックスは、体積の約80%が空間部分(空孔)であり、セラミックスの実体部は全体の約20体積%である。このような多孔質セラミックスは、樹脂製のボールとセラミックス粉末を混合、加圧成形した後に、セラミックスを焼結させる過程において、樹脂ボールを加熱、燃焼除去することによって形成される。焼結に際して加熱を急激に行うと、樹脂ボールが膨張または急激なガス化を起こし、セラミックス構造体を破壊してしまうため、緩やかな加熱を行うことが好ましい。
本実施形態では、このような下層の音響整合層8を圧電体4(直接的には構造支持体6)に対して固定した後、この音響整合層8のうち、圧電体4とは反対側の面に対して、保護部2を接合する。保護部2は、実施形態1で用いた保護部2と同様にステンレス製のリングから作製したものを用いることができる。接合は全てエポキシ系の接着剤で行うことができる。
こうして下層の音響整合層8と保護部2とによって形成された凹部内に、実施形態1と同様にして、音響整合層3となる乾燥ゲル層を形成した。
本実施形態では、実施形態1における工程1と同様の工程1において、ゲル化反応触媒となるアンモニアの濃度を変更することにより、乾燥ゲルの密度を調整し、音響整合層として密度0.2×103kg/m3、音速160m/s、音響インピーダンス約0.032×106kg/m2/sの乾燥ゲル層を形成する。保護部2の高さは、音響整合層の音速が160m/sであるため、音響整合層における超音波波長の1/4となるよう、80μmに設定している。保護部2の内側面には、プラズマエッチングにより水酸基を付与する処理を行うことが好ましい。
図11(a)は、本実施形態における超音波送受信器の送受信波形を示している。図11のグラフ中において、縦軸は信号振幅、横軸は時間である。軸上の数値は指数標記であり、例えば「2.0E−04」は2.0×10-4を意味している。他のグラフも同様である。
測定に用いた超音波送受信器では、下層の音響整合層8となる多孔質セラミックスの厚さを1mmとし、保護部2および第1音響整合層(乾燥ゲル層)3の厚さを80μmに設定した。
比較のため、図10の超音波送受信器において、2層の音響整合層3、8の代わりに、ガラスバルーンをエポキシで固めた従来の音響整合層を用いた超音波送受信器を作製し、その送受信波形を測定した。測定結果を図11(b)に示す。
音響整合層を2層とすることにより、従来の超音波センサに比較して約20倍の高い感度を得ることができた。また、実施形態1における超音波センサと比較しても、高感度化と同時に広帯域化(短パルス化)が図られたことがわかる。このように、音響整合層の2層化により、パルスやバースト波を送受信するのに極めて好適な超音波送受信器を提供することが可能となる。
(実施形態6)
図12を参照しながら、本発明の第6の実施形態を説明する。
本実施形態では、下層の音響整合層9の一部が保護部として機能し、音響整合層9と保護部とが一体化している。この例では、音響整合層9を加工して、その主面に凹部を形成している。上層の音響整合層3となる乾燥ゲル層は、下層の音響整合層9の凹部内に形成される。
このような構成を採用することにより、保護部を音響整合層9に接合する工程を省くことができる。また、接着層によって保護部の高さがばらつくという問題も解決することができ、広帯域において高感度で動作する超音波送受信器を歩留まり良く製造することができる。
本実施形態では、下層の音響整合層9を多孔質体から形成している。このため、上層の音響整合層3との結合が強く、高感度、高安定性を確保することができる。この密着性を更に高めるため、上層の音響整合層3と下層の音響整合層9との接触面に対して、前もって、水酸基を付与するプラズマ処理または酸処理などを行ってことが好ましい。
本実施形態および前述の実施形態5では、音響整合層が2層構造を有しているが、本発明の超音波振動子は、このような構成に限定されず、3層以上の多層構造を有していてもよい。音響整合層を多層化することにより、更に感度を高め、帯域を広くすることができる。ただし、多層化によって感度を高めるには、音響インピーダンスが極めて低い材料から最外層となる音響整合層を形成する必要があるため、実用上は、2層構造の採用が現実的である。
(実施形態7)
図13〜15を参照しながら、本発明の第7の実施形態を説明する。
本実施形態の超音波送受信器は、図13に示すように、圧電体4の背面側に背面負荷材10が接合されており、保護部2は背面負荷材10の上部に形成されている。この他の点では、実施形態3と同様の構成を有している。
背面負荷材10は、圧電体4から背面側へ放射される超音波を減衰させる機能を有しており、そのような機能を発揮し得る材料であれば、どのような材料から形成されていても良い。
保護部2は、筒状の金属から形成されており背面負荷材10の主面に接着されている。保護部2の厚さは、圧電体4、下層の音響整合層8、および上層の音響整合層3の合計厚さに等しい。本実施形態では、圧電体4の厚さを3mm、音響整合層8の厚さを1mm、音響整合層3の厚さを0.08mmに設定しているため、保護部2の厚さは4.08mmである。
本実施形態の背面負荷材10はフェライトゴムから形成されている。フェライトゴムは、ゴム中に鉄粉を分散させた材料であり、音波の減衰率が高い。このような背面負荷材10を圧電体4の背面に接合することにより、圧電体4の背面側から放射された超音波を減衰させ、広帯域の(パルス幅の短い)超音波を送受信することが可能となる。
図14は、図13の構成を有する超音波送受信器について測定した送受信波形を示している。実施形態3の超音波送受信器に比べて、本実施形態の送受信感度は低下しているが、より広い帯域での動作が実現し、幅の短いパルスの送受信に適した超音波送受信器を構成することができる。
図13に示す背面負荷材10に代えて、図15に示す背面負荷材11を用いても良い。図15に示す背面負荷材11は、その一部が保護部として機能し、保護部と背面負荷材とが一体化している。背面負荷材11は、主面の周辺部を除く領域に凹部が形成された構成を有しており、凹部内に圧電体4が挿入され、背面負荷材11の凹部内面に接着されている。背面負荷材11に設けられた凹部の深さは、圧電体4の高さよりも大きく設定されており、挿入後の圧電体4の上面に音響整合層となる乾燥ゲル層を形成すれば、図15の構成が得られる。背面負荷材11の採用により、図13の超音波送受信器と同様の広帯域化が達成される。
(実施形態8)
図16を参照しながら、図12に示す超音波送受信器の製造方法の実施形態を説明する。
まず、図16(a)に示すように、圧電体4および下層の音響整合層9を構造支持体6に接合する。接合には接着剤を用いることができる。前述のように、圧電体4は圧電セラミックスから形成され、構造支持体6はステンレスから形成されている。下層の音響整合層9は、上面に凹部を有する多孔質セラミックスから形成されている。この凹部は、平板状の多孔質セラミックスの上面を旋盤などによって加工することによって形成される。
次に、図16(b)に示すように、構造支持体6に接着された状態の音響整合層9の凹部に対し、上層の音響整合層となる乾燥ゲルを形成する。乾燥ゲルの形成は、第1の実施形態について説明した方法で行うことができる。
多孔質セラミックスから形成された音響整合層9にゲル原料を充分に浸透させるため、ゲル原料を流し込んだ後、真空または減圧雰囲気内に配置することが好ましい。このようにして、本実施形態では、ゲル原料を、音響整合層9の保護部として機能する部分だけではなく、音響整合層9の内部全体に浸透させる。こうすることにより、乾燥ゲルを下層の音響整合層9に強固に結合させるとともに、音響整合層9の特性を均一にすることが可能となる(図16(c))。以下、この点を、図17を参照して説明する。
図17(a)は、下層の音響整合層9にゲル原料が充分に浸透した状態を示している。このため、下層の音響整合層9は音響的に単一つの層として機能し、音響インピーダンスは、音響整合層9の相対的に高い値から、上層の音響整合層の相対的に低い値へ階段状に減少する。
一方で、ゲル原料の浸透が不十分である場合には、図17(b)に示すように、実質的に3層構造を有する音響整合層が形成される。この場合、ゲル原料の浸透が不充分な最下層(第1層)の音響インピーダンスが設定値よりも小さくなるため、真ん中の層(第2層)の音響インピーダンスが最も大きくなる。音響インピーダンスの分布が図17(b)に示すようになると、図中の下方に配置される圧電体(不図示)から超音波伝搬媒体となる気体に向かって音響インピーダンスが段階的に小さくならず、超音波送受波器の特性が劣化してしまうため、ゲル原料の浸透を充分に行うことが好ましい。
上記の実施形態では、図16に示すように、下層の音響整合層9を構造支持体6に固定する工程の後、第1音響整合層3を形成する工程を行っているが、これらの工程の順序を反対にしてもよい。図18(a)から(d)を参照して、他の製造方法を説明する。
まず、図18(a)に示すように、保護部として機能する部分を有する音響整合層9を用意する。次に、図18(b)に示すように、音響整合層9の凹部にゲル原料を滴下し、凹部内のゲル原料の高さを保護部の高さに一致させるようにすり切り、ゲル原料を音響整合層9の全体に浸透させる。ゲル材料の硬化、疎水化の後、超臨界乾燥法でゲル原料を乾燥させ、図18(c)に示すように、乾燥ゲルからなる音響整合層3を下層の音響整合層上9に形成する。
その後、図18(d)に示すように、圧電体4が固定された状態の構造支持体6に音響整合層を接着する。なお、構造支持体6を用いず、図18(c)の音響整合層を圧電体4に直接接着しても良い。
なお、接着時に加圧によって乾燥ゲルが破壊されないように、最適な加圧条件を選択することが好ましい。乾燥ゲルの圧縮方向の応力に対する強度は比較的高いため、上記接着工程で製造歩留まりが低下することは殆ど無い。
なお、上層の音響整合層3の弾性率と下層の音響整合層9の弾性率とが相互に近い値を示すように、音響整合層3および音響整合層9の材料を選定することが好ましい。両者の弾性率が近いと、接着面の全体に均一な圧力を与えることができ、感度の高い超音波送受信器を高い歩留まりで製造することが容易になる。
図18(a)から(d)に示す方法では、音響整合層9の上に乾燥ゲルを形成する工程において、圧電体や構造支持体を取り扱う必要が無いため、乾燥装置などの設備が小型で済み、低コストで超音波送受波器を製造することが可能となる。
乾燥ゲルの形成工程においては、接着層などの有機物に化学的な負荷がかかる可能性があるが、接着工程を乾燥ゲル形成の後に行うことにより、接着部分を劣化させない。
(実施形態9)
図19を参照しながら、本発明の他の実施形態を説明する。
本実施形態に特徴的な点は、保護部2が音響整合層3の形成された領域の外周部だけでなく、当該領域の内部にも形成されていることにある。
ゲル原料から湿潤ゲルを経て乾燥ゲル層を形成する際、乾燥ゲル層の上面に凹凸が形成される場合がある。また、湿潤ゲルの乾燥を超臨界乾燥によらずに通常の乾燥法で行う場合、乾燥ゲルの収縮が起こるため、図4に示すような凹部が乾燥ゲルに形成されやすい。
超音波送受波面が広い場合、上記の凹凸は大きくなりやすく、音響整合層の厚さを最適値に設定していても、現実には場所によっては音響整合層の厚さが最適な値から大きくシフトしてしまうことになる。
乾燥ゲル層中の音速は著しく遅いため、音響整合層として適切に機能させるには、極めて薄く形成する必要があり、厚さの許容される誤差範囲も小さい。
図19(a)または図19(b)に示すようなレイアウトを有する保護部を形成すれば、音響整合層の厚さの誤差を目標値から±5%以内程度に抑えることができる。
図19(a)または図19(b)に示すように、超音波送受信器における超音波放射面の内部にも保護部2を設けると、音響整合層3の厚さの変動を最小に抑えることができるが、超音波放射面の内側に設けられた保護部2は、超音波の送受信に対して阻害要因となり得る。保護部2による音響的な特性劣化を防止するために、保護部2の大きさを、保護部2としての役割を果たす範囲においてできる限り小さくすることが好ましい。
図19(a)の構成例では、断面が円形の保護部2をランダムに配置しているが、保護部2の断面形状は円形に限定されず、矩形や多角形であってもよい。また、その配列もやランダム配置に限定されない。
図19(b)の構成例では、同心円状の保護部2が設けられている。この構成例では、超音波送受信器における超音波放射面の内部にも保護部2が存在しているが、超音波送受信器の特性劣化が防止される。図19(b)の構成は、超音波送受器の中心軸上において超音波放射面から近距離Lだけ離れた位置へ超音波を送信する場合に有効である。
保護部2と超音波放射面の中心との間の距離をrとすると、距離rは、次の式(6)を満足することが好ましい。
ここで、λは超音波が伝搬する気体中の波長であり、Lは超音波送受信器の超音波放射面からの距離である。例えば、周波数が500kHz、超音波伝搬媒体が空気(音速340m/s)、測定距離Lが10mmの場合、(式6)から、中心からの半径rが2.6〜3.7mm、4.6〜5.4mm、6.1〜6.7mm・・・の位置に保護部2を設けることが好ましいことがわかる。このような位置に保護部2を設けると、音の干渉による音場の乱れを防止し、近距離における超音波の感度劣化を防止するのに有効である。
超音波送受信器の音波放射面の各点を、それぞれ、点音源に見立てると、それぞれの点音源から放射された球面波を合成したものが送信される超音波となる。超音波放射面からの距離が短い場合、位相の異なる超音波が相殺するため、高出力の超音波を送信することができない位置が存在する。超音波放射面から位相の同じ超音波のみを放射させるためには、位相の異なる超音波を放射する領域に保護部2を設けることが有効である。このような領域に保護部2が設けられると、位相の異なる超音波の放射を抑えることができるため、近距離における音場の乱れを防止して、高出力の超音波送信が可能となる。
(実施形態10)
図20は、本発明による超音波送受波器の第10の実施形態を示す断面図である。本実施形態の超音波送受波器21は、圧電体22と、圧電体22の両面に設けられた電極23a、23bと、圧電体22上に電極23aを介して設けられた保護整合層(第1音響整合部)24と、圧電体22上に電極23aを介して設けられた音響整合層(第2音響整合部)25とを備えている。
図21は、図20に示した超音波送受波器21の上面図である。図21からわかるように、本実施形態の超音波送受波器は、厚さ(高さ)の異なる保護整合層24と音響整合層25とが交互に同心円状に配置された構造を有している。
本実施形態における圧電体22は、圧電性を有する材料から形成され、厚さ方向に分極されている。圧電体22の上下面に設けられた電極23a、23bに電圧が印加されると、電圧信号に基づいて圧電体22で超音波が発生し、保護整合層24および音響整合層25を介して超音波伝搬媒体(気体など)26へ放射される。また、超音波伝搬媒体26を伝播してきた超音波は、保護整合層24および音響整合層25を介して圧電体22へ伝播する。入射してきた超音波によって圧電体22は変形し、電極23aと電極23bとの間に電圧信号が発生する。
圧電体22の材料は任意であり、種々の公知材料から形成したものを用いることができる。圧電体22の代わりに公知の電歪体を用いてもよい。電極23a、23bは好ましくは金属から形成されるが、金属以外の導電材料から形成されていても良い。
保護整合層24および音響整合層25は、圧電体22で発生した超音波振動を伝搬媒体26へ効率よく伝搬させ、また、超音波伝搬媒体26を伝搬してきた超音波を効率よく圧電体22へ伝える機能を有している。
本実施形態の音響整合層25は、好ましくは、乾燥ゲルから形成される。乾燥ゲルは、ゾルゲル反応によって形成される多孔質体であり、密度ρと音速Cとの積(ρ×C)で規定される音響インピーダンスを極めて小さくすることが可能な材料である。このため、乾燥ゲルから形成した音響整合層25を用いることにより、空気などの気体に対する超音波の送受波効率を極めて高くすることができる。
乾燥ゲルは、湿潤ゲルを形成した後、この湿潤ゲルを乾燥することによって得られる。湿潤ゲルは、まず、ゲル原料液を用意し、このゲル原料液の反応によって湿潤ゲルを作製することができる。湿潤ゲルは、ゲル原料液の反応によって固体化した固体骨格部を有しており、この固体骨格部が溶媒を含んだ状態にある。
湿潤ゲルを乾燥することによって得られる乾燥ゲルは、多孔質体であり、数nm〜数μm程度の固体骨格部の隙間に連続した気孔を有している。気孔の平均サイズは1nm〜数μm程度と極めて小さい。
作製条件を調節して乾燥ゲルの密度を小さくしてゆくと、乾燥ゲルの固体部分における音速が極端に小さくなるとともに、細孔内の気体部分における音速も極端に小さくなる。そのため、乾燥ゲルの音速は、低密度状態で500m/秒以下の低い値を示し、極めて低い音響インピーダンスを示すことになる。特に固体骨格部および細孔径が数nm程度と小さいサイズを持つ乾燥ゲルは極めて低い音速を示す。また、ナノメートルサイズの細孔部では気体の圧損が大きいため、乾燥ゲルから音響整合層を形成した場合、音波を高い音圧で放射できる。
後述する製造方法によれば、同じ原料を用いても製造プロセス条件を調節することにより、乾燥ゲルの音響インピーダンスを広い範囲内で任意に値に制御することができる。また、製造プロセス条件を変えることにより、密度が略同程度の大きさでありながら、音速だけを変化させた音響整合層を作製することも可能である。
乾燥ゲルは、このような有利な特徴を有するが、機械的強度が低い。このため、製造歩留まりを高くすることが困難であり、使用時における信頼性も低かった。このように機械的強度の低い乾燥ゲルを保護する部材を設けることにより、製造歩留まりおよび信頼性が向上することは、実施形態1〜9について示したとおりである。
実施形態1〜9における保護部は、超音波送受波器の製造歩留まり、あるいは使用時における信頼性を向上させるのに極めて有効であり、さらに音響整合層の厚さを高精度に制御しうるため、超音波送受波器の性能安定化に対して有効である。しかし、前述のように、圧電体が超音波を放射または受け取る面(主面)上に保護部を設けると、その保護部が音響的な障害となり得る。これは、また、実施形態1〜9では、音響整合層の材料とは異なる材料から形成される上記保護部の厚さが、音響整合層の厚さと略等しくなるように設定されているため、保護部と音響整合層との間で音速が異なり、音響整合層と略同じ厚さの保護部は音響整合層の役割をしないためである。このため、実施形態1〜9の保護部は、超音波の送受信に対して阻害する要因となり得るため、圧電体の主面の外側に配置することが好ましい。
しかし、更に厳しい環境条件に対する信頼性の確保や、超音波送受波器の外径の制限などによっては、圧電体上部に保護部を設けざるを得ない場合がある。
本実施形態では、圧電体の主面に、音響整合層25を保護する機能を果たす保護部(密度が相対的に高く、音響整合層25よりも機械的強度が高い材料から形成される)を有しながらも、超音波送受波器としての性能を損なわない構成を採用する。
本実施形態では、圧電体22の主面に設けられた保護部の厚さを送受信する超音波の波長の約1/4に設定している。これにより、機械的強度が相対的に高い保護部も音響整合層として機能する。このため、本明細書では、このような保護部を「保護整合層」と称する場合がある。このような構成を採用することにより、音響整合層を保護する保護部も音響整合層としての役割を果たすため、高感度な超音波送受波器を実現することができる。
音響整合層としての機能を最もよく発揮する厚さは、超音波の波長の1/4である。一方、保護整合層24における音速と音響整合層25における音速は異なる。このため、保護整合層24の厚さL3と音響整合層25の厚さL1とは、図20に示されるように、異なる大きさを有している(L3>L1)。
保護整合層24および音響整合層25の厚さがいずれも音速の1/4程度に設定されると、保護整合層24の厚さが音響整合層25の厚さと異なるため、音響整合層25の上面から放射された超音波と、保護整合層24の上面から放射された超音波が干渉する場合がある。高感度な超音波送受波器を実現するためには、それぞれから放射される超音波の位相関係が極めて重要となる。
図22(a)は、保護整合層24の上面における超音波の波形を示し、図22(b)は、音響整合層25の上方において、保護整合層24の上面と同じレベルにおける超音波の波形を示している。なお、図22(b)における符号「ta」は、超音波が超音波伝搬媒体26を伝搬する時間を示している。各グラフにおける横軸の1目盛りは、超音波の周波数が500kHzのとき、約3μ秒である。
音響整合層25の上面から放射された超音波は、気体などの超音波伝播媒体26を通って保護整合層24の上面と同じレベルに達する。このため、伝搬媒体26における音速や伝播媒体26のサイズL2によっては、音響整合層25の上方において、保護整合層24の上面と同じレベルにおける超音波の波形の位相関係が変化する。
なお、図22(a)および(b)の信号波形は、保護整合層24および音響整合層25から放射される超音波の波長および振幅が等しいと仮定して求めたものである。
保護整合層24の厚さL3および音響整合層25の厚さL1が、それぞれ、各層における超音波波長の1/4であるとき、保護整合層24の下面と上面との間を超音波が伝搬するに要する時間は、音響整合層25の下面と上面との間を超音波が伝搬するに要する時間に等しい。従って、音響整合層25の上面から放射された超音波が保護整合層24の上面と同じレベルの位置に達した超音波の位相は、保護整合層24を伝搬して保護整合層24の上面に達した超音波の位相に比べて、遅れている。この位相の遅れは、音響整合層25の上面から出た超音波が伝搬媒体26の中を距離L2だけ伝播する時間に対応している。
送受信する超音波の周波数をf[秒-1]とすると、超音波の1波長に等しい距離だけ超音波が進むのに必要な時間は1/f[秒]である。超音波が本実施形態の保護整合層24を通過するのに必要な時間t3は、1/4f[秒]である。一方、超音波が本実施形態の音響整合層25を通過するのに必要な時間t2も、1/4f[秒]である。ここで、超音波が伝搬媒体26の中をL2の距離だけ伝搬するために必要な時間をt2(=ta)とすると、時間t2に依存して、保護整合層24の上面から放射された超音波と音響整合層25の上面から放射された超音波との間に干渉が発生する。この干渉により、超音波の波形および感度が変化する。
図22(c)は、時間t2が1/2f[秒]である場合に観測される超音波波形を示しており、図22(d)は、時間t2が1/f[秒]である場合に観測される超音波波形を示している。図22(c)および(d)からわかるように、時間t2の値により、観測される超音波の感度が大きく異なる。時間t2が1/2f[秒]と等しいとき、位相のずれが超音波の半波長となり、観測される超音波の感度は低くなる。一方、時間t2が1/f[秒]のとき、位相のずれが超音波振動子の波長の整数倍となるため、観測される超音波の感度は高くなる。時間t2が1/2f〜1/f[秒]の範囲内にあるとき、t2が1/2f[秒]から1/f[秒]に近づくほど、超音波の送受信感度が上昇する。
音響整合層25から放射された超音波が伝搬媒体26を伝搬して保護整合層24の上面と同じレベルに達したとき、その超音波の位相が保護整合層24を伝搬してきた超音波の位相と略一致するように音響整合層25および保護整合層24の厚さを調節すると、高感度の超音波送受波器を提供できる。なお、本明細書で「位相が略一致する」とき、超音波の位相の差が超音波波長の1/4以下になることを意味し、位相の差は小さいほど好ましい。
図23は、時間t2が1/f[秒]である場合の超音波の位相を模式的に示した断面図である。この図では、保護整合層24の上面における超音波の位相と、音響整合層25の上方であって保護整合層の上面と同レベルにおける超音波の位相とが一致している。このような位相の一致が生じしたとき、超音波の送受信感度が最大化される。なお、このような位相の完全な一致が生じない場合でも、位相のずれが少なく設定されると、超音波の送受信感度は従来よりも充分に向上される。位相のずれは、超音波伝搬媒体における超音波波長の1/4以下に調節されていることが好ましく、1/8以下に調節されていることが更に好ましい。
音響整合層25の厚さL1および保護整合層24の厚さL3を、それぞれ、音響整合層25および保護整合層24における超音波波長の1/4程度に制御するだけでは、L2の大きさは(L3−L1)として一義的に決まるため、t2を任意に設定することができない。このため、時間t2が所望の大きさになるようにするには、音響整合層25や保護整合層24の厚さだけではなく、音響整合層25や保護整合層24における音速を適切に制御する必要がある。本発明の好ましい実施形態では、音響整合層25を音速の制御が容易な乾燥ゲルから形成する。
次に、図24(a)から(c)を参照しながら、本実施形態の超音波送受波器21の製造方法の実施形態を説明する。本実施形態においては、超音波伝搬媒体26として空気(密度:1.18kg/m3、音速:約340m/s、音響インピーダンス約4.0×102kg/m2/s)を考える。
まず、図24(a)に示すように、送受信する超音波の波長に合わせた圧電体22を用意する。この段階の圧電体22には、図24(a)に示す保護整合層24は設けられていない。圧電体22としては、圧電セラミックスや圧電単結晶など圧電性の高い材料が好ましい。圧電セラミックスとしては、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、ニオブ酸鉛などを用いることができる。圧電単結晶としては、チタン酸ジルコン酸鉛単結晶、ニオブ酸リチウム、水晶などを用いることができる。
本実施形態では、圧電体22としてチタン酸ジルコン酸鉛セラミックスを用い、送受信する超音波の波長を500kHzに設定している。このような超音波を圧電体22が効率よく送受信できるようにするため、圧電体22の共振周波数を500kHzに設計する。このため本実施形態では、直径が12mm、厚さが約3.8mmの円柱形状を有する圧電セラミックスから形成された圧電体22を用いている。圧電体22の両面には銀の焼付けによる電極23a、23bが形成され、この方向に分極処理が施されている。
次に、保護整合層24としての機能する3つのリング状部材を用意し、図24(a)に示すように圧電体22の主面に接合する。このとき、図21に示すように、リング状部材の各中心が圧電体22の中心に揃うようにする。保護整合層24としての機能する3つのリング状部材は、それぞれ、外径12mm、内径11mm、厚さ1.0mmの第1リング状部材、外径8mm、内径7mm、厚さ1.0mmの第2リング状部材、および、外径4mm、内径3mm、厚さ1.0mmの第3リング状部材である。
本実施形態における保護整合層24には、機械的強度が高く、音響整合層を保護できる機能が求められるだけでなく、音響整合層の機能を果たすために比較的低い音響インピーダンスを有することが求められる。このような材料として、本実施形態では、多孔質体のセラミックスを用いる。この多孔質セラミックスは、見かけ密度が0.64×103kg
/m3、音速が2000m/s、音響インピーダンスが約1.28×106kg/m3であ
る。セラミックスとしては、チタン酸バリウム系の材料を用いている。なお、「見かけ密度」とは、多孔質体に含まれる空間部分をも含んだ密度である。多孔質セラミックスは、体積の約80%程度が空間部分であり、セラミックスの実体部分は約20体積%である。
上述のように、保護整合層24の音速が約2000m/sであるため、500kHzにおける波長の1/4の厚さは1.0mmに相当する。このため、本実施形態では保護整合層24として機能するリング状部材の厚さを1.0mmに設定している。
本実施形態で用いる多孔質セラミックスは、次のようにして作製され得る。
まず、樹脂製の微小なボールとセラミックス粉末を混合、加圧成形する。その後、セラミックスを焼結する。この焼結過程において、樹脂ボールは加熱され、燃焼して除去される。焼結に際して、加熱を急激に行うと、樹脂ボールが膨張または急激なガス化を起こし、セラミックス構造体を破壊してしまうおそれがある。このため、焼結は緩やかな加熱によって行うことが好ましい。
本実施形態では、このような多孔質セラミックスから形成したの保護整合層24と圧電体22とを接着剤による接着によって接合する。例えば、接着剤としてはエポキシ系樹脂を用い、0.1MPa程度の圧力をかけながら、150℃の恒温槽中で2時間程度放置すると、接着剤は硬化し、保護整合層24と圧電体22とが接合する。
次に、こうして形成した圧電体22/保護整合層24からなる複合体上に、図24(b)に示すように音響整合層25を設ける。本実施形態では、音響整合層25を乾燥ゲルから形成する。
本実施形態では、まず、図24(b)に示す厚さの音響整合層25を形成した後、図24(c)に示すように音響整合層25を薄くする。このとき、図20に示す距離L2(=L3−L1)が空気中に超音波の1波長に等しくなるように、保護整合層24の厚さL3および音響整合層の厚さL1を設定する。具体的には、送受信する超音波の周波数が500kHであるので、この超音波の空気中における1波長は、0.62mmである。一方、保護整合層24の厚さL3は1.0mmであるため、音響整合層25の厚さL1は、0.32mm(=1.0mm−0.62mm)となる。また、音響整合層25が音響整合層として適切に機能するためには、この厚さL1(=0.32mm)が音響整合層25を伝搬する超音波の波長の1/4となることが最も望ましい。従って、0.32mmが送受信する超音波の波長の1/4となるような音速を有する材料特性を有することが必要となる。計算によれば、音速が640m/sとなるような乾燥ゲルから厚さ0.32mmの音響整合層25を形成すれば良い。
なお、保護整合層24の厚さは、保護整合層24における超音波波長の1/4であることが好ましいが、その大きさに限定されるわけではない。超音波波長の1/8以上1/3以下の範囲であれば良く、超音波波長の1/6以上1/4以下の範囲であることが更に好ましい。超音波の波長に分布がある場合、ピーク波長を基準にして厚さを決定することが好ましい。本明細書においては、波長に分布がある場合、「波長の1/4」とは「ピーク波長の1/4」を意味するものとする。
音響整合層25が単層である場合、音響整合層25の厚さも、音響整合層25における超音波波長の1/4であることが好ましいが、その大きさに限定されるわけではない。超音波波長の1/8以上1/3以下の範囲であれば良く、超音波波長の1/6以上1/4以下の範囲であることが更に好ましい。音響整合層が多層構造を有している場合、各構成層が上記の厚さを有していることが好ましい。音響整合層が多層構造を有している超音波送受波器は、実施形態2として後述する。
音響整合層25を構成する乾燥ゲルの材質としては、無機材料、有機高分子材料など様々な材料を用いることができる。無機材料の固体骨格部としては、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化チタンなどを用いることができる。また有機材料の固体骨格部としては、一般的な熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を用いることができ、例えば、ポリウレタン、ポリウレア、フェノール樹脂、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸メチルなどを用いることができる。
本実施形態では、音響整合層25の材料として、コスト、環境安定性、製造のしやすさ、超音波送受波器の安定な温度特性などの観点から、固体骨格部として酸化ケイ素(シリカ)を持つ乾燥ゲルを採用する。
640m/sの音速は、乾燥ゲルの音速としては比較的高い値である。このため、本実施形態では、音響整合層25として乾燥ゲル層を形成する際に、ゲル化工程(以下、「第1ゲル化工程」と称する。)に引き続いて乾燥工程を行う従来の製造方法ではなく、第1ゲル化工程後に第2ゲル化工程を行う方法を採用する。
第2ゲル化工程を行わずに第1ゲル化工程だけを行う場合は、相対的に高い音速を示す乾燥ゲルを得ることが困難である。なお、乾燥ゲルの密度は、音速と略比例して高くなるため、「高い音速」は「高い密度」を意味する。ゲルの音速を高くする目的で、ゲル原料液中におけるゲル原料の濃度を高くすると、ゲル化反応が均一に進行せず、ランダムな音速分布を持つ湿潤ゲルが形成される。この湿潤ゲルを乾燥することによって得られる乾燥ゲルも、ランダムな密度分布を持つこととなる。このため、ゲル原料液中におけるゲル原料の濃度を高くすると、音速を均一化することは極めて難しくなる。
本実施形態では、ゲルの不均一化を避けるため、第1ゲル化工程で形成する乾燥ゲルの音速は200m/s程度以下に調節し、第2ゲル化工程によって密度を更に上昇させ、均一に音速を上昇させる。第2ゲル化工程では、第1ゲル化工程で得られた湿潤ゲルを再びゲル原料液(第2ゲル化原料液)に浸漬する処理を行う。そして、第2ゲル化工程では、第2ゲル化原料液中の触媒となるアンモニアの濃度を低く調整する。このため、第1ゲル化工程で得られた湿潤ゲルの外ではゲル化が起こらない。しかし、第1ゲル化工程で得られた湿潤ゲルの内部では、第1ゲル化工程で形成された骨格に第2ゲル化原料液が付着していくように成長する。このため、ゲル原料液自体がゲル化しない条件においても、この反応は進行する。このようにしてゲルの音速、密度を変化させることが可能となる。
具体的には、以下に示す工程を行うことにより、乾燥ゲルによる音響整合層25を形成する。
工程1: 第1ゲル化ゲル原料液の用意
テトラエトキシシラン/エタノール/水/塩化水素を、モル比で1/2/1/0.00078で混合して、65度の恒温槽中で3時間、テトラエトキシシランの加水分解を進行させる。更に、水/NH3を、2.5/0.0057の割合(テトラエトキシシランに対
するモル比)を加えて混合したゲル原料液を用意する。
工程2: 第1ゲル化工程
上記のようにして調整したゲル原料液(第1ゲル化原料液)を、圧電体22と保護整合層24で形成された空間に滴下する。この際、一番外側の保護整合層24の外周にテフロン製のシートを巻きつけ、ゲル原料液がこぼれないように枠を形成する。
ゲル原料液を滴下したサンプルを恒温槽中で水平を保ちながら50℃で約1日放置する。こうして、圧電体22と保護整合層24とによって形成された空間内に供給されたゲル原料液がゲル化し、湿潤ゲルを形成する。
工程3: 第2ゲル化工程(音速、密度の調整)
第1ゲル化工程で得られた音響整合層に対して、そのまま乾燥工程を行った場合、密度は2.0×102kg/m3程度、音速は200m/s程度となる。本実施形態では、音速、密度を更に高くする目的で第2ゲル化工程を行う。
まず、第1ゲル化工程で得られた湿潤ゲルをエタノールで洗浄し、第2ゲル化原料液を準備する。第2ゲル化原料液として、テトラエトキシシラン/エタノール/0.1規定アンモニア水を、体積比で60/35/5を混合したものを用いる。
第1ゲル化工程で得られた圧電体22/湿潤ゲル/保護整合層24からなる複合体を密閉容器中の第2ゲル化原料液に浸漬し、70℃の恒温槽中で約48時間放置する。この第2ゲル化工程により第1ゲル化工程で得られたゲル骨格が成長し、密度、音速が高くなる。
工程4: 疎水化工程
疎水化工程は、必ずしも必要ではないが、吸湿により性能が劣化することがあるため、行うことが好ましい。疎水化工程は、第2ゲル化工程の後、湿潤ゲル内に残留している、第2ゲル化原料液をエタノールにより置換・洗浄した後、ジメチルジメトキシシラン/エタノール/10重量%アンモニア水を、重量比で45/45/10の割合で混合して得られた疎水化液に、40℃で、約1日間、浸漬することによって、疎水化工程を行う。
工程5: 乾燥工程
以上の工程で得られた湿潤ゲルから、乾燥ゲルを得るために、乾燥工程を行う。本実施形態では、乾燥方法として、超臨界乾燥法を用いる。乾燥ゲルは前述のように、非常に小さなナノメートルサイズ程度の多孔質体であり、骨格部分の太さや、結合の強さ、空孔の大きさによっては、湿潤ゲルから乾燥ゲルへの溶媒乾燥の際に、溶媒の表面張力によって、破壊されてしまうことがある。
このため、表面張力の働かない超臨界乾燥法が有用に利用することができる。具体的には、上述の疎水化液をエタノールで置換した後、以上の工程で得られた圧電体22/湿潤ゲル/保護部研音響整合層25の複合体を耐圧容器に入れて、湿潤ゲル内のエタノールを液化二酸化炭素に置換する。
更に容器内にポンプで液化二酸化炭素を送り込むことにより、容器内の圧力を10MPaまで上昇させる。その後、50℃まで昇温することで容器内を超臨界状態とした。次に温度を50℃に保ったまま、圧力をゆっくり開放することで乾燥を完了する。
工程6: 厚さ調整工程
こうして形成した乾燥ゲル層を、旋盤によりその厚さを0.32mmとなるように音響整合層25のみの部分を研削した。
このようにして得られた音響整合層25を形成する乾燥ゲルの密度は、約0.6×103kg/m3であり、音速は約640m/sとなる。また保護整合層24の一部に、音響整合層25となる乾燥ゲルが浸透しているが、保護整合層24の音速には影響を与えない。
乾燥ゲルから音響整合層を形成する工程の前に、電極23bと音響整合層25との密着性が良くなるように電極23bの表面を処理することが好ましい。表面処理によって電極23bと音響整合層25との密着性が増すと、信頼性が更に向上する。このような表面処理としては、乾燥ゲルと化学的な結合をしやすい圧電体表面の電極に水酸基が付与されるようなプラズマ処理などを採用することができる。あるいは、電極23bの表面に物理的な凹凸を形成することによってアンカー効果を付与することも有効である。具体的には、化学的および/または物理的なエッチング処理を好適に採用することができる。
本実施形態では、音響整合層25となるゲルを形成した後、旋盤による研削を行い、乾燥ゲルの厚さを調整する。厚さの調節は、第1ゲル化工程の際に滴下する第1ゲル化原料液の量(高さ)を調整することによって行ってもよい。この場合には、形成される音響整合層の厚さが最終的に0.32mm程度となるように、33.9μLのゲル原料液をマイクロピペットで正確に量り取り、圧電体22上に滴下する。保護整合層24が80%の空隙を有する多孔質体であるため、多孔質体に吸収される体積を換算して滴下量を計算する必要がある。
このようにして製造した超音波送受波器の送受信波形を図25に示す。図25において、本実施形態の超音波送受波形は実線で示され、保護部と音響整合層25とが同じ厚さを有する超音波送受波器(比較例)の超音波送受信波形は点線で示されている。図25からわかるように、本実施形態によれば、信号の振幅が増加する。
本発明の構造を用いることで高感度化を達成できる。
本実施形態では、保護整合層24の上面と同一レベルの位置における超音波の位相を揃えるため、音響整合層25および伝搬媒体26を伝搬してきた超音波が、保護整合層24を伝搬してきた超音波に比べて、ちょうど波長分だけ位相の遅れを生じるようにしている。さらに大きな音速を有する材料から保護整合層24を形成する場合や、保護整合層24の厚さL3を大きく設定する場合には、伝搬媒体26による位相遅れを超音波波長の2波長以上に設定してもよい。
(実施形態11)
次に、図26を参照しながら、本発明の超音波送受波器の第11の実施形態を説明する。本実施形態の主な特徴点は、音響整合層が下層の第1音響整合層25aおよび上層の第2音響整合層25bを含む積層構造を有している点である。
音響整合層25が2層構造を有する場合にも、各音響整合層25a、25bの厚さのそれぞれを、各音響整合層における超音波波長の1/4程度に設定することが好ましい。
本実施形態でも、第10の実施形態と同様に、保護整合層24の上面と同一レベルの位置において超音波の位相を揃えるため、音響整合層25および伝搬媒体26を伝搬してきた超音波が、保護整合層24を伝搬してきた超音波に比べて、超音波波長の略整数倍分だけの位相の遅れを生じるようにしている。
図26に示す構成では、超音波が保護整合層24を伝播して保護整合層24の上面に達したとき、その超音波と同位相の超音波は第1音響整合層と第2音響整合層25bの境界面に達している。これは、第1音響整合層25aの音速が保護整合層24における音速よりも小さいためである。超音波が第1音響整合層25aの上面から第2音響整合層25bの上面に達するまでに、更に1/4f[秒]の時間がかかる。このため音響整合層25bの上面から伝搬媒体26を伝搬して保護整合層24の上面と同じレベルに達するまでの時間が3/4f[秒]となるように設定すると、保護整合層24の上面レベルで位相が揃う。このような構成を採用すると、音響整合層25aおよび25bを透過して放射された超音波と、保護整合層24を透過して放射された超音波との間に、1波長分のずれが生じ、両超音波が干渉して強め合うため、超音波の振幅が大きくなる。
本実施形態における音響整合層25a、25bの製造方法を説明する。
まず、第10の実施形態における音響整合層25の製造方法と同様にして、保護整合層24を作製する。保護整合層24の材料として多孔質セラミックスを用い、その厚さ(L7)を1.0mmに設定する。
本実施形態では、空気などの伝搬媒体26を伝搬する時間が3/4f[秒]となるように、第2音響整合層25bの上面から保護整合層24の上面レベルまでの距離(L6)を0.51mmに設定する。この結果、第1音響整合層25aと第2音響整合層25bの合計厚さ(L4+L5)は、0.49mmに等しくなる。
本実施形態では、第2音響整合層25bの音速を200m/sに設定すると、第2音響整合層25bの厚さ(L5)は0.10mmに設定することが好ましい。L5=0.10mmとすると、第1音響整合層25aの厚さ(L4)は0.39mm(=0.49mm−0.10mm)となる。第1音響整合層25aの厚さが第1音響整合層25aにおける超音波の1/4波長に相当するようにするには、第1音響整合層25aの音速を780m/sにする必要がある。
次に、上記のような2層の音響整合層25a、25bの作製方法を説明する。この方法で特徴的な点は、第10の実施形態で行った第2ゲル化工程を2度行うことにある。すなわち、本実施形態では、第1ゲル化工程で形成された湿潤ゲルの外側ではゲル化をしない第2ゲル化工程(第2−1ゲル化工程)を行った後に、湿潤ゲルの外側でもゲル化が生じる第2ゲル化工程(第2−2ゲル化工程)を行う。
本実施形態では、まず、第10の実施形態で行った工程1〜工程6と同様の工程を行うことにより、第1音響整合層25aを形成する。ただし、このときの第2ゲル化工程は、第2−1ゲル化工程である。
この後に行う第2−2ゲル化工程における音響インピーダンスの増加を見込み、第2−1ゲル化工程では、第1音響整合層25aの密度約0.5×103kg/m3、音速500m/s程度となるように処理時間を調節する。本実施形態では、処理時間を第10の実施形態における第2ゲル化工程の処理時間よりも短縮し、約36時間に設定する。
次に、第2−2ゲル化工程を行うことにより、第1音響整合層25aの音響インピーダンスを増加ざせるとともに、第1音響整合層25aの上部に第2音響整合層25bを形成する。この第2−2ゲル化工程は、具体的には、以下のようにして行った。
第2−2ゲル化工程:
まず、第2−2ゲル化原料液として、テトラエトキシシラン/エタノール/0.05規定アンモニア水をモル比で、1/4/3の割合で混合した液を用意する。この第2−2ゲル化原料液を、第1音響整合層25aと保護整合層24によって形成された空間内に充填する。次に、このまま室温で約24時間放置することにより、ゲル化を完了する。こうして、第1音響整合層25aの音響インピーダンスを調整するとともに、第2音響整合層25bとなる湿潤ゲルを形成する。
この後、第10の実施形態と同様にして、疎水化工程、乾燥工程、および厚さ調整工程を行うことにより、音響整合層25a、25bを完成する。本実施形態における音響整合層25a、25bは、以下のように特徴付けられる。
第1音響整合層25a
密度:0.7×103kg/m3、音速:780m/s
音響インピーダンス:5.46×105kg/m2/s
厚さ:0.39mm
第2音響整合層25b
密度:0.2×103kg/m3、音速:200m/s
音響インピーダンス:4.0×104kg/m2/s
厚さ:0.10mm
本実施形態の超音波送受信器の送受信波形を図27に示す。図27において、本実施形態の超音波送受波器の超音波送受波形は実線で示され、音響整合層と保護整合層の厚さを等しくした超音波送受波器(比較例)の送受波形形は点線で示される。図27からわかるように、本実施形態の超音波送受波器によれば、高感度化を実現することができる。
本実施形態では、音響整合層25を2層とした構成としたが、3層以上としても、保護整合層24の上面部分で、超音波の位相が揃うように設計することで同様の効果が得られる。
(実施形態12)
図28を参照しながら、本発明による超音波送受波器の第12の実施形態を説明する。本実施形態の特徴的な点は、第1音響整合層25aと保護整合層24とが、同じ材料によって一体的に形成されている点にある。第1音響整合層25aの上部には乾燥ゲルから形成した第2音響整合層25bが形成されている。
本実施形態では、第1音響整合層25aおよび保護整合層24における超音波の音速や波長が等しく、しかも、保護整合層24の厚さL11を超音波の1/4波長に設定する。このため、第1音響整合層25aの厚さL8は超音波の1/4波長よりも小さい。第1音響整合層25aの厚さL8は、第2音響整合層25bの厚さL9と、第2音響整合層25bの上面から保護整合層24の上面レベルまでの距離L10によって決まる。
本実施形態においても、音響整合層25aおよび5bを透過して放射された超音波と、保護整合層24を透過して放射された超音波との間に、超音波波長の整数倍の位相遅れが生じる構成を採用している。このため、保護整合層24の上面レベルにおいて、音響整合層25a、25bおよび伝搬媒体26を伝搬してきた超音波の位相が揃う。
音響整合層25a、25bを透過してきた超音波の感度を高めるには、第1音響整合層25aの厚さよりも第2音響整合層25bの厚さが重要である。本実施形態では、第2音響整合層25bの厚さは、送受信する超音波の波長の約1/4に設定する。第1音響整合層25aの厚さも、感度に影響を与えるが、その影響の多くは周波数の比帯域に及ぶ。
このため、本実施形態では、まず材質の機械的強度などの点から、第2音響整合層25bを構成しうる乾燥ゲル層の特性を決定する。次に、保護整合層24と同じ材料から形成する第1音響整合層25aの厚さL8と、音波伝搬媒体の厚さL10とを設定する。
本実施形態では、保護整合層24の材料として、前述の実施形態と同様に多孔質セラミックスを用い、その厚さ(L11)を超音波波長の1/4に設定する。すなわち、L11を1.0mmに設定する。この場合、上記の多孔質セラミックスから形成される第1音響整合層25aの音速は200m/s、密度は0.2×103kg/m3となる。乾燥ゲルから形成する第2音響整合層25bの厚さを超音波波長の1/4に設定するため、L9を0.10mmとする。
このとき、以下の式7が成立する。
L8+L10=0.9[mm]・・・(7)
式7は、L11を1.0mm、L9を0.1mmに設定したことから導かれる。
優れた特性を発揮するには、以下の式が成立することが好ましい。
L8/1+L10/(17/25)=1[波長]・・・(8)
本実施形態では、周波数が500kHzの超音波を送受信するため、音響整合層25aにおける超音波の1波長は1.0mm、音波伝搬媒体26における超音波の1波長は17/25mmとなる。式8は、超音波の1波長に対する第1音響整合層25aの厚さL8の比率と、超音波の1波長に対する伝搬媒体26の厚さL10の比率との和である。式8を満足するということは、超音波が第1音響整合層25aおよび音波伝搬媒体26を透過する際に1波長だけ進むことを意味している。言い換えると、超音波が感じる第1音響整合層25aおよび音波伝搬媒体26の実効的な厚さが1波長分であることを意味する。
式7および式8を満足するL8およびL10を算出すると、L8=約0.69mm、L10=0.21mmとなる。
次に、図29(a)から(d)を参照しながら、本実施形態の超音波送受波器の製造方法を説明する。
まず、図29(a)に示すように、多孔質セラミックスからなる厚さ1.0mmのペレットを用意し、このペレットを図29(b)に示すように加工する。本実施形態では、ペレットの上面に溝を形成し、溝底部の厚さを0.69mmに調節する。この溝底部が第1音響整合層25aとして機能する部分である。溝は図21に示すようにリング状に形成する。
次に、図29(c)に示すように、溝の内部に第2音響整合層25bを形成する。音響整合層25bの厚さが0.1mmになるようにする。保護整合層24/音響整合層25a、25bの複合体を、図29(d)に示すように、圧電体22に接合し、超音波送受波器21を形成する。
第1音響整合層25bは、テトラメトキシシラン/エタノール/0.05規定アンモニア水をモル比で、1/7/4の割合で混合した液を用いて、実施形態1と同様にして第1ゲル化工程を行うことによって形成する。
保護整合層24/音響整合層25a、25bからなる複合体の圧電体への接着は、実施形態1と同様に、エポキシ系の接着剤によって行うことができる。
本実施形態によれば、保護整合層24と音響整合層25aを一括的に形成できるため、製造工程を簡単にし、製造コストを低減できる。
(実施形態13)
図30を参照しながら、本発明による超音波送受波器の第13の実施形態を説明する。本実施形態に特徴的な点は、構造支持体を有している点である。
本実施形態の超音波送受波器は、圧電体22と第1音響整合層25や保護整合層24との間に構造支持体27を有している点を除けば、実施形態1の超音波送受波記録媒体の構成と同様の構成を有している。
構造支持体27は音響整合層25などが固定される円盤状支持部と、この円盤状支持部から軸方向に連続的に伸びる円筒部とを備えている。円筒部の端面は、断面がL字型に折れ曲がり、圧電体22の遮蔽のためのプレート(不図示)や、他の装置などに固定しやすくなっている。
構造支持体27の表面には音響整合層25や保護整合層24が配置されており、支持部裏面には圧電体22が配置されている。このような構造支持体27を用いることにより、超音波送受波器の取り扱いが極めて容易となる。
構造支持体は、密閉可能な容器(センサケース)から構成することができる。この場合、構造支持体27の円筒部の開放端を遮蔽プレートなどで塞ぎ、かつ、構造支持体27の内部を不活性ガスで満たせば、流量測定の対象とする流体から圧電体22を遮断することができる。
圧電体22には電圧が印加されるため、可燃性ガスなどと圧電体が接すると、可燃性ガスに引火する危険性もある。しかし構造支持体27を密閉性の容器から構成し、圧電体22のある内部を外部流体などと遮断することによって、そのような引火を防止して、可燃性ガスなどに対しても安全に超音波を送受波することができる。
また可燃性ガスでなくとも、圧電体22と反応し、圧電体22に特性の劣化を与える可能性のあるガスとの間で超音波を送受波する場合でも、圧電体22が外部ガスから遮断することが好ましい。そうすることにより、圧電体22の劣化を防止し、長期間に渡って信頼性の高い動作を実現することが可能となる。
構造支持体27のうち、圧電体22と音響整合層25や保護整合層24との間に位置する部分は音響整合層として機能しない。このため、構造支持体27が音響的な阻害として働かないようにするため、構造支持体27のうち、圧電体22と音響整合層25や保護整合層24との間に位置する部分の厚さを、送受波する超音波の波長の1/8程度以下とすることが望ましい。
本実施形態では、構造支持体27をステンレスから形成し、上記部分の厚さを0.2mmに設定している。
ステンレスの音速は約5500m/秒であり、超音波の500kHzにおける波長は約11mmとなる。0.2mmの厚さは波長の約1/55に相当するため、構造支持体27の存在は殆ど音響的阻害要因にはならない。
構造支持体27の材料は、ステンレスなどの金属材料に限定される物ではなく、セラミック、ガラス、樹脂などから目的に応じた材料が選択される。本実施形態では、外部の流体と圧電体を確実に分離し、構造支持体に何らかの機械的な衝撃が加わったとしても、圧電体と外部流体との接触を防止できる強度を与えるため、金属材料から構造支持体27を作製している。これにより、例えば可燃性や爆発性を有するガスを対象として超音波の送受波を行っても高い安全性を確保することができる。
なお、安全な気体に対して超音波の送受波を行う場合には、コスト低減を目的として、樹脂などの材料からなる構造支持体を用いても良い。
(実施形態14)
図31(a)および(b)を参照しながら、本発明による超音波送受波器の第14の実施形態を説明する。図31(a)および(b)は、本実施形態の上面図である。
図21に示す例では、保護整合層24として機能する多孔質セラミック製のリング(同じ幅で直径の異なる3つのリング状部材)を用い、それらの中心が一致するように圧電体主面に配置しているが、図31(a)に示すように幅の異なるリングを用いて保護整合層24を形成しても良い。また、図31(b)に示すように、島状の保護整合層24をランダムに配置してもよい。
保護整合層24と音響整合層25とが、超音波送受波器の主面上に規則的に配列されている場合、その主面に対して或る角度を持った方向に超音波の位相が揃い、振幅が強まる。これは、「サイドローブ」と呼ばれ、超音波計測を行う上で阻害要因となる。しかし、図31に示すように、保護整合層24の配列が周期性を持たない構成を採用することにより、サイドローブを抑制し、精度および信頼性の高い超音波計測を可能とすることができる。
(実施形態15)
図32を参照しながら、本発明による超音波送受波器の第15の実施形態を説明する。
本実施形態の超音波送受波器は、保護整合層24の厚さが面内分布を有している点に第1の特徴点を有している。前述の各実施形態では、保護整合層24の厚さが面内で一様に設定されているが、本実施形態では、意図的に面内分布が与えられている。また、本実施形態の第2の特徴点は、圧電体22上に設けられた保護整合層24が異なる2種類の材料から形成されていることにある。
本実施形態の構成によれば、異なる材料の採用および/または異なる厚さの面内分布を付与することにより、サイドローブを抑制したり、送受信する超音波の周波数を変化させて広帯域化することができる。
なお、各保護整合層24の厚さは、超音波波長の1/8以上1/3以下の範囲内に含まれていることが好ましく、超音波波長の1/6以上1/4以下の範囲内に含まれていることが更に好ましい。ただし、異なる厚さを有する保護整合層24の一部の厚さが上記の範囲から外れていてもよい。上記の範囲から外れた厚さを有する保護整合層24は、音響整合層としては機能しないため、超音波送受信の感度が低下する。しかし、音響整合層として機能しない保護層(もはや「保護整合層」とは呼べない)を圧電体上の適当な位置に置くことにより、近距離における超音波場の乱れを防止して良好な超音波計測を可能にすることができる。
(実施形態16)
図33を参照しながら、本発明による超音波流量計の実施形態を説明する。
本実施形態の超音波流量計は、流量測定部51として機能する管内を被測定流体が速度Vで流れるよう設置される。流量測定部51の管壁52には、本発明の超音波送受信器から形成した超音波送信受波器1aおよび1bが相対して配置されている。
ある時点では、超音波送受信器1aが超音波送波器として機能し、超音波送受信器1bを超音波受波器として機能するが、他の時点では、超音波送受信器1aが超音波受波器として機能し、超音波送受信器1bを超音波送波器として機能する。この切り替えは、切替回路53によって行われる。
超音波送受信器1a、1bは、切替回路53を介して、超音波送受信器1aおよび1bを駆動する駆動回路54と、超音波パルスを検知する受信検知回路55とに接続されている。受信検知回路55の出力は、超音波パルスの伝搬時間を計測するタイマ56に送られる。タイマ56の出力は、流量を演算する演算部57に送られる。演算部57では、測定された超音波パルスの伝搬時間に基づいて、流量測定部51内を流れる流体の速度Vが計算され、流量が求められる。駆動回路54およびタイマ56は、制御部58に接続され、制御部58から出力された制御信号によって制御される。
以下、この超音波流量計の動作をより詳細に説明する。
被測定流体として、LPガスが流量測定部51を流れる場合が考える。超音波送信受波器1aおよび1bの駆動周波数を約500kHzとする。制御部58は、駆動回路54に送信開始信号を出力すると同時に、タイマ56の時間計測を開始させる。駆動回路54は、送信開始信号を受けると、超音波送信受波器1aを駆動し、超音波パルスを送信する。送信された超音波パルスは流量測定部51内を伝搬して、超音波送信受波器1bで受信される。受信された超音波パルスは超音波送信受波器1bで電気信号に変換され、受信検知回路55に出力される。
受信検知回路55は、受信信号の受信タイミングを決定し、タイマ56を停止させる。演算部57は、伝搬時間t1を演算する。
次に、切替回路53により、駆動回路54および受信検知回路55に接続する超音波送信受波器1aおよび1bを切り替える。そして、再び、制御部59は駆動回路54に送信開始信号を出力すると同時に、タイマ56の時間計測を開始させる。伝搬時間t1の測定と逆に、超音波送信受波器1bで超音波パルスを送信し、超音渡送信受波器1aで受信し、演算部57で伝搬時間t2を演算する。
ここで、超音波送信受波器1aと超音渡送信受波器1bの中心を結ぶ距離をL、LPガスの無風状態での音速をC、流量測定部51内での流速をV、被測定流体の流れの方向と超音波送信受波器1aおよび1bの中心を結ぶ線との角度をθとする。
伝搬時間t1、t2は、それぞれ、測定によって求められる。距離Lは既知であるので、時間t1とt2を測定すれば、流速Vが求められ、その流速Vから流量を決定することができる。
このような超音波流量計において、伝搬時間t1、t2はゼロクロス法と呼ばれる方法によって測定される。この方法では、図34(a)に示すような受信波形に対して、適切なスレッショルドレベルを設定し、そのスレッショルドレベルを超えて次に振幅が0となる点の時間を測定する。受信信号のS/Nが悪い場合、ノイズレベルによっては振幅が0となる点が時間的に変動するため、正確にt1、t2を測定することができず、正確な流量を測定することが困難になる場合がある。
このような超音波流量計の超音波送受波器として、本発明の超音波送受信器を用いると、受信信号のS/Nが向上し、t1、t2を高い精度で測定することが可能となる。
図34(b)に示すように、図34(a)の場合に比べて、受信信号の立ち上がりが遅い(狭帯域である)と、スレッショルドレベルの設定値に対して、t1、t2を測定する受信信号の山の位置が変動し、測定誤差となる可能性がある。しかし、本発明による超音波送受信器は広帯域で適切に動作するため、受信信号の立ち上がりがよく、正確な流量測定を安定的に行うことが可能となる。なお、t1、t2の値としては、他数回の測定によって得られた値の平均値を用いることが好ましい。
広帯域の超音波を送受信できるということは、信号の立下りも早いことを意味する。このため、測定の繰り返しを速く行った場合でも、前の送受信信号の影響を受けることが無い。その結果、測定の繰り返し周波数を高くしても、瞬時の計測を可能とするものであり、ガスもれなどを瞬時に検知することが可能となる。
以上の各実施形態では、最上層の音響整合層(第1音響整合層)の上面は露出しているが、この面を厚さ10μm以下の保護膜でカバーしても良い。このような保護膜は、大気と音響整合層との直接的な接触を避け、音響整合層の特性を長期にわたって保持するのに寄与する。保護膜は、例えば、アルミニウム、酸化ケイ素、低融点ガラス、高分子などの材料からなる膜(単層に限定されない)によって構成される。保護膜は、スパッタリング法やCVD法などによって堆積される。