本発明は、かかる課題に対処するためになされたものであって、その目的は、EGR状態実際値がEGR状態目標値に一致するようにEGR弁開度をフィードバック制御するEGR制御装置において、内燃機関の運転状態が変化した直後においてフィードバック補正値が不適切な値となることでEGR状態実際値がEGR状態目標値から大きく異なる事態が発生することを抑制できるものを提供することにある。
本発明に係る内燃機関のEGR制御装置は、内燃機関の排気通路と吸気通路とを連通するEGR通路と、EGR通路に介装されて排気通路から吸気通路へ流れるEGRガスの流量を制御するEGR弁とを備えた内燃機関に適用される。
本発明に係るEGR制御装置は、EGR弁開度基準値決定手段と、EGR状態目標値決定手段と、EGR状態実際値取得手段と、フィードバック補正値算出手段と、EGR弁開度指令値算出手段と、EGR弁制御手段とを備えている。以下、これらの手段について順に説明していく。
EGR弁開度基準値決定手段は、内燃機関の運転状態(回転速度、負荷等)に基づいてEGR弁の開度の基準値であるEGR弁開度基準値を決定する。このEGR弁開度基準値は、例えば、上述したEGR弁開度定常適合値と等しい値に設定される。
EGR状態目標値決定手段は、内燃機関の運転状態(回転速度、負荷等)に基づいてEGR状態の目標値を決定する。このEGR状態とは、例えば、EGR率(=燃焼室に吸入されるガスの流量に対する吸気通路に導入されるEGRガスの流量の割合)等である。このEGR状態の目標値は、例えば、上述したEGR状態定常適合値と等しい値に設定される。
EGR状態実際値取得手段は、EGR状態の実際値を取得する。EGR状態実際値としてのEGR率の実際値は、例えば、吸気行程において燃焼室に吸入された全ガス量と同吸気行程において吸気通路を通過した空気(新気)の量とに基づいて求めることができる。
フィードバック補正値算出手段は、EGR状態目標値とEGR状態実際値との差の積算値から得られる積分項(I項)に少なくとも基づいてEGR弁の開度をフィードバック制御するためのフィードバック補正値を計算する。このフィードバック補正値は、例えば、EGR状態目標値とEGR状態実際値との差についての比例項(P項)と積分項(I項)とに基づく比例・積分処理(PI処理)により算出される。
EGR弁開度指令値算出手段は、EGR弁開度基準値とフィードバック補正値とに基づいてEGR弁の開度の指令値を算出する。このEGR弁開度指令値は、例えば、EGR弁開度基準値にフィードバック補正値を加えることで算出される。
EGR弁制御手段は、EGR弁の開度の実際値がEGR弁開度指令値に一致するようにEGR弁の開度を制御する。これにより、EGR状態実際値がEGR状態目標値に一致するようにEGR弁の開度がフィードバック制御される。
本発明に係るEGR制御装置の特徴は、前記フィードバック補正値算出手段が、前記内燃機関の運転状態に応じて、同内燃機関が同運転状態にて定常状態に維持される場合における前記フィードバック補正値の収束値が変化することを考慮して、前記内燃機関の運転状態が変化したとき前記フィードバック補正値を補正するフィードバック補正値補正手段を備えたことにある。
これによれば、機関の運転状態の変化直後において上記フィードバック補正値を補正することで、同変化直後の時点からフィードバック補正値をその後において収束していく値に直ちに近づけることができる。従って、機関の運転状態が変化したとき、フィードバック補正値がEGR状態実際値をEGR状態目標値に一致させるための適切な値と一時的に大きく異なる値となる事態が抑制され得、この結果、係る事態に基づいてEGR状態実際値がEGR状態目標値から一時的に大きく異なる事態が発生することが抑制され得る。
この場合、前記フィードバック補正値補正手段は、前記EGRガスの流量に対応する前記EGR弁の開度のばらつき範囲が前記EGRガスの流量に応じて変化することを考慮して、前記EGR弁開度基準値が変化したとき前記フィードバック補正値を補正するように構成されることが好適である。
上述したように、上記EGR弁の流量特性(EGR弁の開度とEGRガスの流量との関係)は、排気ガスの圧力(EGR弁の前後の差圧)等に依存して大きくばらつく。そして、或るEGRガスの流量を得るためのEGR弁の開度のばらつき範囲(以下、単に「EGR弁開度のばらつき範囲」と称呼する。)は、EGRガスの流量に応じて変化する。具体的には、後に図4を参照しながら詳述するように、このEGR弁開度のばらつき範囲は、EGRガスの流量が大きいほど(即ち、EGR弁開度が大きいほど)大きくなる。
従って、EGR弁開度基準値が変化すると(従って、EGR弁開度が変化すると)、EGR弁開度のばらつき範囲が変化する。ここで、EGR弁開度のばらつき範囲が変化することは、上述したようにEGR弁開度指令値とEGR弁開度基準値との差を補償するための値として機能するフィードバック補正値の収束値が変化することを意味する。
上記構成は係る観点に基づくものである。これによれば、EGR弁開度基準値が変化したとき、同EGR弁開度基準値の変化直後の時点からフィードバック補正値をその後において収束していく値に直ちに近づけることができる。
より具体的には、前記フィードバック補正値補正手段は、前記EGR弁開度基準値が変化したとき、前記EGR弁開度基準値の変化前の値に対応する前記EGR弁開度のばらつき範囲に対する前記EGR弁開度基準値の変化後の値に対応する前記EGR弁開度のばらつき範囲の割合(以下、単に「EGR弁開度のばらつき範囲の割合」と称呼する。)を利用して前記フィードバック補正値を補正するように構成される好適である。
EGR弁開度のばらつき範囲の割合は、EGR弁開度基準値の変化前におけるフィードバック補正値の収束値に対するEGR弁開度基準値の変化後におけるフィードバック補正値の収束値の割合(以下、単に「フィードバック補正値の収束値の割合」と称呼する。)と強い相関がある。
従って、上記構成によれば、上記「フィードバック補正値の収束値の割合」を考慮してフィードバック補正値が補正され得るから、EGR弁開度基準値の変化直後の時点におけるフィードバック補正値をその後において収束していく値により確実に近づけることができる。
この場合、具体的には、前記フィードバック補正値補正手段は、前記EGR弁開度基準値の変化前の値と前記EGR弁開度基準値の変化後の値とに基づいて前記ばらつき範囲の割合を求め、前記ばらつき範囲の割合を前記フィードバック補正値の積分項に乗じることで前記フィードバック補正値を補正するように構成されると好ましい。
上述したように、上記「EGR弁開度のばらつき範囲」はEGR弁開度基準値そのものに応じて変化する。即ち、上記「EGR弁開度のばらつき範囲」は、EGR弁開度基準値そのものと強い相関がある。また、EGR弁開度基準値の変化直前の時点におけるフィードバック補正値は、同時点におけるフィードバック補正値の積分項の値に略等しい。
従って、上記構成によれば、上記「EGR弁開度のばらつき範囲の割合」が簡易、且つ精度良く求められ得るから、EGR弁開度基準値の変化直後の時点におけるフィードバック補正値をその後において収束していく値に簡易、且つ精度良く近づけることができる。
また、上記本発明に係るEGR制御装置は、前記EGR弁に流入するガスの圧力と同EGR弁から流出するガスの圧力の差圧(以下、「EGR弁前後の差圧」と称呼する。)を取得する差圧取得手段を備えた内燃機関に適用され、フィードバック補正値補正手段は、前記EGR弁の開度と前記EGRガスの流量との関係が前記差圧に応じて変化することを考慮して、前記差圧が変化したとき前記フィードバック補正値を補正するように構成されることが好適である。
上述したように、上記EGR弁の流量特性(EGR弁の開度とEGRガスの流量との関係)は、EGR弁前後の差圧にも依存して大きくばらつく。従って、EGR弁前後の差圧が変化することは、上述したようにEGR弁開度指令値とEGR弁開度基準値との差を補償するための値として機能するフィードバック補正値の収束値が変化することを意味する。
上記構成は係る観点に基づくものである。これによれば、EGR弁前後の差圧が変化したとき、同EGR弁前後の差圧の変化直後の時点からフィードバック補正値をその後において収束していく値に直ちに近づけることができる。
この場合、前記フィードバック補正値補正手段は、前記EGR弁前後の差圧に応じて変化する前記EGR弁の開度と前記EGRガスの流量との関係を前記EGR弁前後の差圧に対応させながら予め記憶する記憶手段を備え、前記EGR弁前後の差圧が変化したとき、前記EGR弁前後の差圧の変化前の値に対応する前記EGR弁の開度と前記EGRガスの流量との関係と、前記EGR弁前後の差圧の変化後の値に対応する前記EGR弁の開度と前記EGRガスの流量との関係とを利用して前記フィードバック補正値を補正するように構成されることが好適である。
より具体的には、前記フィードバック補正値補正手段は、前記EGR弁前後の差圧が変化したとき、前記EGR弁開度基準値と、前記EGR弁前後の差圧の変化前の値に対応する前記EGR弁の開度と前記EGRガスの流量との関係と、から同EGR弁開度基準値に対応するEGRガスの流量であるEGRガス流量参照値を取得し、前記EGRガス流量参照値と、前記EGR弁前後の差圧の変化後の値に対応する前記EGR弁の開度と前記EGRガスの流量との関係と、から同EGRガス流量参照値に対応するEGR弁の開度であるEGR弁開度参照値を取得し、前記EGR弁開度参照値と前記EGR弁開度基準値との差を前記フィードバック補正値に加えることで前記フィードバック補正値を補正するように構成されることが好ましい。
後に図8を参照しながら詳述するように、EGR弁前後差圧が変化したことに基づくフィードバック補正値の収束値の変化量は、上記「EGR弁開度参照値とEGR弁開度基準値との差」に等しくなる。従って、上記構成によれば、EGR弁前後の差圧の変化直後の時点におけるフィードバック補正値をその後において収束していく値に簡易、且つ精度良く近づけることができる。
以下、本発明の各実施形態に係る内燃機関(ディーゼル機関)のEGR制御装置について図面を参照しつつ説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る内燃機関のEGR制御装置を4気筒内燃機関(ディーゼル機関)10に適用したシステム全体の概略構成を示している。このシステムは、燃料供給系統を含むエンジン本体20、エンジン本体20の各気筒の燃焼室(筒内)にガスを導入するための吸気系統30、エンジン本体20からの排ガスを放出するための排気系統40、排気還流を行うためのEGR装置50、及び電気制御装置60を含んでいる。
エンジン本体20の各気筒の上部には燃料噴射弁(噴射弁、インジェクタ)21が配設されている。各燃料噴射弁21は、図示しない燃料タンクと接続された燃料噴射用ポンプ22に燃料配管23を介して接続されている。燃料噴射用ポンプ22は、電気制御装置60と電気的に接続されていて、同電気制御装置60からの駆動信号により燃料の実際の噴射圧力が指令燃料噴射圧力になるように同燃料を昇圧するようになっている。
これにより、燃料噴射弁21には、燃料噴射用ポンプ22から前記指令燃料噴射圧力まで昇圧された燃料が供給されるようになっている。また、燃料噴射弁21は、電気制御装置60と電気的に接続されていて、同電気制御装置60からの駆動信号(指令燃料噴射量Qに応じた指令信号)により所定時間だけ開弁し、これにより各気筒の燃焼室内に前記指令燃料噴射圧力にまで昇圧された燃料を前記指令燃料噴射量Qだけ直接噴射するようになっている。
吸気系統30は、エンジン本体20の各気筒の燃焼室にそれぞれ接続された吸気マニホールド31、吸気マニホールド31の上流側集合部に接続され同吸気マニホールド31とともに吸気通路を構成する吸気管32、吸気管32内に回動可能に保持されたスロットル弁33、電気制御装置60からの駆動信号に応答してスロットル弁33を回転駆動するスロットル弁アクチュエータ33a、スロットル弁33の上流において吸気管32に順に介装されたインタクーラー34と過給機35のコンプレッサ35a、及び吸気管32の先端部に配設されたエアクリーナ36とを含んでいる。
排気系統40は、エンジン本体20の各気筒にそれぞれ接続された排気マニホールド41、排気マニホールド41の下流側集合部に接続された排気管42、排気管42に配設された過給機35のタービン35b、及び排気管42に介装されたディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、「DPNR」と称呼する。)43を含んでいる。排気マニホールド41及び排気管42は排気通路を構成している。
EGR装置50は、排気ガスを還流させる通路(EGR通路)を構成する排気還流管51と、排気還流管51に介装されたEGR弁52と、EGRクーラー53とを備えている。排気還流管51はタービン35bの上流側排気通路(排気マニホールド41)とスロットル弁33の下流側吸気通路(吸気マニホールド31)を連通している。EGR弁52は電気制御装置60からの駆動信号に応答し、再循環(EGR)される排気ガス量(排気還流量、EGRガス流量)を変更し得るようになっている。
電気制御装置60は、互いにバスで接続されたCPU61、CPU61が実行するプログラム、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、及び定数等を予め記憶したROM62、CPU61が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM63、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM64、並びにADコンバータを含むインターフェース65等からなるマイクロコンピュータである。
インターフェース65は、吸気管32に配置された熱線式エアフローメータ71、スロットル弁33の下流であって排気還流管51が接続された部位近傍の吸気通路に設けられた吸気温センサ72、スロットル弁33の下流であって排気還流管51が接続された部位近傍の吸気通路に配設された吸気管圧力センサ73、クランクポジションセンサ74、アクセル開度センサ75、及びタービン35bの上流であって排気還流管51が接続された部位近傍の排気通路に配設された排気管圧力センサ76と接続されていて、これらのセンサからの信号をCPU61に供給するようになっている。
また、インターフェース65は、燃料噴射弁21、燃料噴射用ポンプ22、スロットル弁アクチュエータ33a、及びEGR制御弁52と接続されていて、CPU61の指示に応じてこれらに駆動信号を送出するようになっている。
熱線式エアフローメータ71は、吸気通路内を通過する吸入空気の質量流量(単位時間当りの吸入空気量、単位時間あたりの新気量)を計測し、同質量流量Ga(空気流量Ga)を表す信号を発生するようになっている。吸気温センサ72は、エンジン10のシリンダ(即ち、燃焼室、筒内)に吸入されるガスの温度(即ち、吸気温度)を検出し、同吸気温度Tbを表す信号を発生するようになっている。吸気管圧力センサ73は、エンジン10のシリンダに吸入されるガスの圧力(即ち、吸気管圧力)を検出し、同吸気管圧力Pbを表す信号を発生するようになっている。
クランクポジションセンサ74は、各気筒の絶対クランク角度を検出し、クランク角度CAを表すとともにエンジン10の回転速度であるエンジン回転速度NEをも表す信号を発生するようになっている。アクセル開度センサ75は、アクセルペダルAPの操作量を検出し、アクセル操作量Accpを表す信号を発生するようになっている。排気管圧力センサ76は、エンジン10のシリンダから排出される排気ガスの圧力(即ち、排気管圧力)を検出し、同排気管圧力Pexを表す信号を発生するようになっている。
(吸排気系の作動の概要)
次に、上記のように構成された内燃機関のEGR制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)が適用された内燃機関10における吸排気系のガスの流れの概要について説明する。図2は、或る一つの気筒のシリンダ内(筒内)に吸気マニホールド31からガスが吸入され、筒内に吸入されたガスが排気マニホールド41へ排出される様子を模式的に示した図である。
図2に示したように、筒内に吸入されるガス(筒内ガス)には、吸気管32の先端部からスロットル弁33を介して吸入された新気と、排気還流管51からEGR弁52を介して吸入されたEGRガスが含まれる。吸入される新気の(質量)流量Gaと吸入されるEGRガスの(質量)流量Gegrの和に対するEGRガス流量Gegrの割合(即ち、EGR率Regr=Gegr/(Gegr+Ga))は、電気制御装置60(CPU61)により後述するようにEGR弁52の開度(及び、スロットル弁33の開度)が制御されることで調整される。
かかる新気、及びEGRガスは、吸気行程において開弁している吸気弁Vinを介してピストンの下降に伴って筒内に吸入されて筒内ガスとなる。筒内ガスは、ピストンが下死点に達した時点(以下、「ATDC-180°」と称呼する。)で吸気弁Vinが閉弁することにより筒内に密閉され、その後の圧縮行程においてピストンの上昇に伴って圧縮される。
そして、ピストンが上死点近傍に達すると、本装置は、前記指令燃料噴射量Qに応じた所定時間だけ燃料噴射弁21を開弁することで燃料を筒内に直接噴射する。この結果、噴射された燃料は、時間の経過に伴って筒内ガスと混ざり合いながら混合気となって筒内において円錐状に拡散していき、所定のタイミングで自己着火が発生することに起因して燃焼(拡散燃焼)する。
そして、燃焼後に燃焼室内に存在するガスは、排気ガスとなって、排気行程において開弁している排気弁Voutから排気通路を介してピストンの上昇に伴って排気マニホールド41へ排出され、係る排ガスは、排気管42を介して外部へと排出されていく。
(EGR制御の概要)
次に、本装置によるEGR制御(具体的には、EGR弁52の開度の制御)の概要について説明する。本装置では、下記(1)式に従ってEGR弁開度θの指令値(EGR弁開度指令値θi)が決定され、EGR弁開度θの実際値がEGR弁開度指令値θiに一致するようにEGR弁52が制御される。(1)式において、θbはEGR弁開度基準値であり、FBはフィードバック補正値である。
θi=θb+FB ・・・(1)
(1)式において、EGR弁開度基準値θbは、EGR弁開度定常適合値と等しい値に設定される。EGR弁開度定常適合値とは、機関10が現時点での運転状態(エンジン回転速度NE、指令燃料噴射量Q)にて定常状態に維持されている場合においてNOx発生量を効果的に低減するための最適なEGR弁開度であって予め適合されている値である。
即ち、EGR弁開度定常適合値(=EGR弁開度基準値θb)は、或る定常運転状態(エンジン回転速度NE、指令燃料噴射量Q)においてNOx発生量を効果的に低減するために最適なEGR率(EGR率定常適合値)及びそのEGR率定常適合値に対応するEGR弁52の開度(即ち、上記EGR弁開度定常適合値)を適合する適合実験を、エンジン回転速度NEと指令燃料噴射量Qの組み合わせを種々変更しながら実行することで取得される。なお、本装置では、上記「EGR率定常適合値」そのものが、EGR率Regrの目標値(EGR率目標値Regrt)として使用される。
(1)式において、フィードバック補正値FBは、下記(2)式に従って算出される。(2)式において、FBp,FBiはそれぞれ、上記EGR率目標値RegrtからEGR率の実際値(EGR率実際値Regract)を減じた値についての比例項(P項)、積分項(I項)であり、下記(3)式、(4)式に従ってそれぞれ算出される。
FB=FBp+FBi ・・・(2)
FBp=Kp・(Regrt−Regract) ・・・(3)
FBi=(Ki・Σ(Regrt−Regract))・α ・・・(4)
(3)式において、Kpは比例ゲイン(定数)である。(4)式において、Kiは積分ゲイン(定数)である。EGR率実際値Regractの取得方法については後にフローチャートを参照しながら説明する。また、(4)式において、αはフィードバック補正値FBを補正するため(より具体的には、I項FBiを補正するため)の補正係数である。補正係数αについては後に詳述する。
以上により、(1)式に従ってEGR弁開度指令値θi(従って、EGR弁開度実際値)が制御されることで、EGR率実際値RegractがEGR率目標値Regrtに一致するようにEGR弁開度θがフィードバック制御される。
<フィードバック補正値FBの収束値の性格>
次に、フィードバック補正値FBの収束値の性格について説明する。(1)式から理解できるように、(2)式に従って計算されるフィードバック補正値FBは、EGR弁開度指令値θi(即ち、EGR率実際値RegractをEGR率目標値Regrtに一致させるためのEGR弁開度)とEGR弁開度基準値θbとの差を補償するための値として機能している。
この「EGR弁開度指令値θiとEGR弁開度基準値θbとの差」(=フィードバック補正値FB)は、現時点での内燃機関の運転状態(エンジン回転速度NE、指令燃料噴射量Q)での実際の排気ガス圧力と、同じ運転状態(エンジン回転速度NE、指令燃料噴射量Q)にて上記適合実験が行われた場合における排気ガス圧力(以下、「基準排気圧」と称呼する。)との差に起因して発生する。以下、このことを、図3を参照しながら説明する。
図3は、EGR弁52の流量特性、即ち、EGR弁開度θとEGRガス流量Gegr(EGR弁52を通過するガスの流量)との関係の一例を示している。図3から理解できるように、EGR弁52の流量特性は、排気ガス圧力に大きく依存する。
いま、内燃機関が或る定常運転状態(エンジン回転速度NE、指令燃料噴射量Q)(以下、「第1定常運転状態」と称呼する。)にあって同第1定常運転状態に対応するEGR弁開度基準値が値θ1であるものとする。ここで、図3に示した値Gegr1は、第1定常運転状態においてEGR率実際値RegractをEGR率目標値Regrtに一致させる(収束させる)ために必要なEGRガス流量である。
先ず、現時点での実際の排気ガス圧力が上記基準排気圧と等しい値に維持されている場合について説明する。この場合、EGRガス流量Gegrを値Gegr1と一致させるため(従って、EGR率実際値RegractをEGR率目標値Regrtに一致させるため)に必要なEGR弁開度は値θ1(=EGR弁開度基準値θb)と等しくなる。従って、この場合、(理論的には)EGR弁開度指令値θiはEGR弁開度基準値θbと等しい値に収束する。換言すれば、フィードバック補正値FBは「0」に収束する。
一方、例えば、現時点での実際の排気ガス圧力が何らかの理由によって上記基準排気圧より低い或る値に維持されている場合(図3に示した「低排気圧時」に対応している)について説明する。この場合、EGRガス流量Gegrを値Gegr1と一致させるために必要なEGR弁開度は値θ1に値A1を加えた値(θ1+A1)となる。従って、この場合、EGR弁開度指令値θiはEGR弁開度基準値θbに値A1を加えた値(θ1+A1)に収束する。換言すれば、フィードバック補正値FBは値A1に収束する。
このように、フィードバック補正値FBは、定常運転状態において、現時点での実際の排気ガス圧力と上記基準排気圧との差に依存して決定される値に収束する。なお、定常運転状態では、EGR率実際値RegractはEGR率目標値Regrtに収束しているから(P項FBp=0)、フィードバック補正値FBの収束値は、I項FBiの収束値そのものと一致する。以上、フィードバック補正値FBの収束値の性格について説明した。
<補正係数αによるフィードバック補正値FBの補正>
次に、補正係数αによるフィードバック補正値FBの補正について説明する。以下、補正係数αによる補正の作用・効果を説明するため、先ずは、I項FBiが、上記(4)式に代えて、(4)式から補正係数αを省略した下記(5)式に従って計算されるものとして説明を続ける。
FBi=Ki・Σ(Regrt−Regract) ・・・(5)
上述のように現時点での実際の排気ガス圧力と上記基準排気圧との差に依存して決定されるフィードバック補正値FBの収束値(即ち、I項FBiの収束値)は、EGR弁開度基準値θbに応じて変化する。以下、このことを、図4を参照しながら説明する。
いま、内燃機関が上記第1定常運転状態にあって、且つ、現時点での実際の排気ガス圧力が何らかの理由によって上記基準排気圧より低い値(上述した図3に示した「低排気圧時」に対応する値)に維持されている場合を考える。この場合、上述したように、EGR弁開度指令値θiは値(θ1+A1)に収束し、フィードバック補正値FBは値A1に収束している(より具体的には、I項FBiは値A1に収束している)。この状態は、図4における点P1に対応する。
次に、この状態から、実際の排気ガス圧力が上記基準排気圧より低い状態を維持しながらEGR弁開度基準値θbが値θ1から値θ2に変化して、内燃機関が過渡運転状態を経て上記第1定常運転状態とは異なる第2定常運転状態に移行する場合を考える。値θ2は、第2定常運転状態に対応するEGR弁開度基準値であり、値Gegr2は、第2定常運転状態においてEGR率実際値RegractをEGR率目標値Regrtに一致させる(収束させる)ために必要なEGRガス流量である。
この場合、上記過渡運転状態を経て内燃機関の運転状態が第2定常運転状態に移行完了した後は、EGR弁開度指令値θiは値(θ2+A2)に収束し、フィードバック補正値FBは値A2(<値A1)に収束する(より具体的には、I項FBiは値A2に収束する)。この状態は、図4における点P2に対応する。
このように、定常運転状態におけるフィードバック補正値FBの収束値(即ち、I項FBiの収束値)は、EGR弁開度基準値θbに応じて変化する。これは、図4から容易に理解できるように、定常運転状態においてEGR弁開度指令値θiがEGR弁開度基準値θbから偏移する量が、EGR弁開度基準値θbが大きいほど大きくなることに基づく。
以上のことを考慮すると、フィードバック補正値FBのI項FBiが上記(5)式に従って算出される場合、第1定常運転状態から上記過渡運転状態に移行した直後(即ち、EGR弁開度基準値θbが変化した直後)におけるフィードバック補正値FB(≒A1)が、その後においてフィードバック補正値FBが収束していく値(=A2)と大きく異なることになる。この状態は、図4における点P2’に対応する。
このことは、上記過渡運転状態において、フィードバック補正値FBがEGR率実際値RegractをEGR率目標値Regrtに一致させるための適切な値と一時的に大きく異なる値となり得ることを意味し、この結果、EGR率実際値RegractがEGR率目標値Regrtから一時的に大きく異なる事態が発生し得ることを意味する。
そこで、本装置では、係る不適切な事態の発生を抑制するために補正係数αが導入され、フィードバック補正値FBのI項FBiが、補正係数αが使用された上記(4)式に従って算出される。以下、補正係数αの決定方法について説明する。
図4を参照しながら説明した例では、第1定常運転状態から過渡運転状態に移行した直後(即ち、EGR弁開度基準値θbが変化した直後)においてフィードバック補正値FBのI項FBiが値A1から値A2に直ちに補正されることで、上記不適切な事態の発生が抑制され得る。
換言すれば、EGR弁開度基準値θbが変化したとき、EGR弁開度基準値θbの変化直後において、EGR弁開度基準値θbの変化前におけるフィードバック補正値FBの収束値(=A1)に対するEGR弁開度基準値θbの変化後におけるフィードバック補正値FBの収束値(=A2)の割合(A2/A1)(以下、単に「フィードバック補正値の収束値の割合」と称呼する。)をI項FBiに乗じることで、上記不適切な事態の発生が抑制され得る。
他方、図4から容易に理解できるように、排気ガス圧力のばらつきに起因して発生する、或るEGRガス流量を得るためのEGR弁開度のばらつき範囲(即ち、或るEGR弁開度基準値に対応するEGRガス流量に対応するEGR弁開度のばらつき範囲)(以下、単に「EGR弁開度のばらつき範囲」とも称呼する。)は、EGRガス流量が大きいほど(従って、EGR弁開度基準値θbが大きいほど)大きくなる傾向がある。例えば、図4に示した例では、値θ1に対応するEGR弁開度のばらつき範囲は、値θ2に対応するEGR弁開度のばらつき範囲よりも大きくなる。
換言すれば、EGR弁開度基準値θbに対応する「EGR弁開度のばらつき範囲」は、EGR弁開度基準値θbそのものと強い相関があり、例えば、値「θb・K(θb)」と表すことができる。ここで、K(θb)は、EGR弁開度基準値θbに応じて変化する係数である。
従って、EGR弁開度基準値の変化前の値(以下、「θbb」と表記する。)に対応する「EGR弁開度のばらつき範囲」に対するEGR弁開度基準値の変化後の値(以下、「θb」と表記する。)に対応する「EGR弁開度のばらつき範囲」の割合(以下、「EGR弁開度のばらつき範囲の割合Ratio」と称呼する。)は、θbb、及びθbを利用して下記(6)式に従って表すことができる。
Ratio=(θb・K(θb))/(θbb・K(θbb)) ・・・(6)
加えて、EGR弁開度基準値θbが変化した場合において、上記(6)式に従って表される「EGR弁開度のばらつき範囲の割合Ratio」は、上述した「フィードバック補正値の収束値の割合」とほぼ等しくなると考えられる。
以上のことから、上記不適切な事態の発生を抑制するためには、EGR弁開度基準値θbが変化したとき、EGR弁開度基準値θbの変化直後において、上記「EGR弁開度のばらつき範囲の割合Ratio」をI項FBiに乗じればよい。
そこで、本装置は、上記(4)式に使用される補正係数αを、EGR弁開度基準値θbが変化する毎に、その時点でのαの値そのものに上記「EGR弁開度のばらつき範囲の割合Ratio」を乗じることで更新していく。そして、本装置は、このようにして設定・更新されていく補正係数αを上記(4)式に適用していくことで、EGR弁開度基準値θbが変化する毎にフィードバック補正値FBを補正していく(より具体的には、I項FBiを補正していく)。
これにより、EGR弁開度基準値θbが変化する毎に、EGR弁開度基準値θbの変化直後の時点からフィードバック補正値FBをその後において収束していく値に直ちに近づけることができ、この結果、上記不適切な事態(EGR率実際値RegractがEGR率目標値Regrtから一時的に大きく異なる事態)の発生を抑制するこができる。以上、補正係数αによるフィードバック補正値FBの補正について説明した。
(実際の作動)
次に、上記のように構成された内燃機関の制御装置の実際の作動について説明する。CPU61は、図5にフローチャートにより示したEGR率実際値Regractを取得するためのルーチンを所定時間(例えば、8msec)の経過毎に繰り返し実行するようになっている。従って、所定のタイミングになると、CPU61はステップ500から処理を開始し、ステップ505に進んで、現時点が或る気筒の吸気行程終了時点と一致しているか(ATDC-180°になっているか)否かを判定し、「No」と判定する場合にはステップ595に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
一方、「Yes」と判定する場合、CPU61はステップ510に進んで吸気温センサ72により得られる吸気温度Tbを下死点時筒内ガス温度Ta0として取得するとともに、続くステップ515にて吸気管圧力センサ73により得られる吸気管圧力Pbを下死点時筒内ガス圧力Pa0として取得する。
次いで、CPU61はステップ520に進んで、気体の状態方程式に基づく下記(7)式に従って筒内吸入ガス量Gcylを求める。下記(7)式において、Va0はATDC-180°における下死点時燃焼室内容積である。燃焼室内容積は、機関10の設計諸元に基づいてクランク角度の関数として表すことができるから、この関数に基づいて下死点時燃焼室内容積Va0を求めることができる。下記(7)式は、ATDC-180°において筒内ガス温度、及び筒内ガス圧力は吸気温度Tb、及び吸気管圧力Pbにそれぞれ略等しいとの仮定のもとで成立する式である。
Gcyl=Pa0・Va0/(R・Ta0) ・・・(7)
続いて、CPU61はステップ525に進み、エアフローメータ71により得られる現時点での単位時間あたりの新気量Gaと、クランクポジションセンサ74により得られる現時点でのエンジン回転速度NEと、Ga、NEを引数とする一吸気行程において筒内に吸入された新気量Gnを求める関数funcGnと、に基づいて、一吸気行程において筒内に吸入された新気量Gnを求める。
そして、CPU61はステップ530に進み、上記求めた筒内吸入ガス量Gcylと、上記求めた一吸気行程において筒内に吸入された新気量Gnと、ステップ530内に記載の式と、に従って現時点でのEGR率実際値Regractを求めた後、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。このようにして、EGR率実際値Regractは、或る気筒の吸気行程終了時点が到来する毎に更新されていく。このステップ530は、EGR状態実際値取得手段に相当する。
また、CPU61は、図6にフローチャートにより示したEGR弁の制御を行うためのルーチンを所定時間(例えば、8msec)の経過毎に繰り返し実行するようになっている。従って、所定のタイミングになると、CPU61はステップ600から処理を開始し、ステップ605に進んで、アクセル操作量Accp及びエンジン回転速度NE、並びに、Accp,NEを引数とするテーブルMapQから現時点での指令燃料噴射量Qを求める。テーブルMapQは、アクセル開度Accp及びエンジン回転速度NEと指令燃料噴射量Qとの関係を規定するテーブルであり、ROM62内に格納されている。
次に、CPU61はステップ610に進んで、エンジン回転速度NE及び上記指令燃料噴射量Q、並びに、NE,Qを引数とするテーブルMapθbから現時点でのEGR弁開度基準値θbを求める。テーブルMapθbは、エンジン回転速度NE及び指令燃料噴射量QとEGR弁開度基準値θbとの関係を規定するテーブルであり、ROM62内に格納されている。このステップ610は、EGR弁開度基準値決定手段に相当する。
続いて、CPU61はステップ615に進んで、エンジン回転速度NE及び上記指令燃料噴射量Q、並びに、NE,Qを引数とするテーブルMapRegrtから現時点でのEGR率目標値Regrtを求める。テーブルMapRegrtは、エンジン回転速度NE及び指令燃料噴射量QとEGR率目標値Regrtとの関係を規定するテーブルであり、ROM62内に格納されている。このステップ615は、EGR状態目標値決定手段に相当する。これらのテーブルMapθb、及びテーブルMapRegrtは、上述した適合実験の結果に基づいて作製されている。
次に、CPU61はステップ620を経由して図7にフローチャートにより示した補正係数αの計算を行うためのルーチンの処理をステップ700から開始する。即ち、CPU61はステップ700からステップ705に進むと、先のステップ610にて決定されている今回のEGR弁開度基準値θbと、θbを引数とするテーブルMapKから今回の係数Kを求める。
続いて、CPU61はステップ710に進み、前回のEGR弁開度基準値θbbと、上記テーブルMapKから前回の係数Kbを求める。ここで、θbbとしては、前回の本ルーチン実行時において後述するステップ725にて更新されている値が使用される。
次いで、CPU61はステップ715に進んで、上記今回のEGR弁開度基準値θbと、上記前回のEGR弁開度基準値θbbと、ステップ705にて求めた今回の係数Kと、ステップ710にて求めた前回の係数Kbと、上記(6)式に相当するステップ715内に記載の式とに基づいて「EGR弁開度のばらつき範囲の割合Ratio」を求める。
次に、CPU61はステップ720に進み、現時点での補正係数αの値に上記求めた割合Ratioを乗じることで補正係数αの値を更新し、続くステップ725にて、前回のEGR弁開度基準値θbbを上記今回のEGR弁開度基準値θbに設定・更新した後、ステップ795を経由して図6のステップ625に進む。
CPU61はステップ625に進むと、EGR率偏差dRegrを、先のステップ615にて求めたEGR率目標値Regrtから先のステップ530にて更新されているEGR率実際値Regractを減じた値に設定する。
続いて、CPU61はステップ630に進み、上記求めたEGR率偏差dRegrと、上記(3)式に相当する式とに基づいてP項FBpを求め、続くステップ635にて、次のステップ640にて更新されているEGR率偏差の積分値SdRegrと、先のステップ720にて更新されている補正係数αと、上記(4)式に相当する式とに基づいてI項FBiを求める。
即ち、次のステップ640では、CPU61は、現時点でのEGR率偏差の積分値SdRegrに先のステップ625にて求めたEGR率偏差dRegrを加えることでEGR率偏差の積分値SdRegrを更新する。
次いで、CPU61はステップ645に進み、上記求めたP項FBpと、上記求めたI項FBiと、上記(2)式とに基づいてフィードバック補正値FBを求め、続くステップ650にて、先のステップ610にて求めたEGR弁開度基準値θbと、上記フィードバック補正値FBと、上記(1)式とに基づいてEGR弁開度指令値θiを求める。
そして、CPU61はステップ655に進んで、EGR弁開度実際値が上記求めたEGR弁開度指令値θiとなるようにEGR弁52へ制御指示を行った後、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以上、図6のステップ620〜645、及び図7のルーチンはフィードバック補正値算出手段に相当し、図6のステップ650はEGR弁開度指令値算出手段に相当し、図6のステップ655はEGR弁制御手段に相当し、ステップ635、及び図7のルーチンはフィードバック補正値補正手段に相当する。
以上、説明したように、本発明の第1実施形態に係る内燃機関のEGR制御装置よれば、EGR弁開度指令値θiが、EGR弁開度の定常適合値と等しいEGR弁開度基準値θbに、EGR率目標値RegrtとEGR率実際値Regractの差dRegrについての比例項FBp及び積分項FBiに基づくフィードバック補正値FB(=FBp+FBi)を加えた値(θb+FB)に設定され、EGR弁開度実際値がEGR弁開度指令値θiとなるようにEGR弁52が制御される。積分項FBiには、EGR弁開度基準値の変化前の値に対応する「EGR弁開度のばらつき範囲」に対するEGR弁開度基準値の変化後の値に対応する「EGR弁開度のばらつき範囲」の割合Ratio(上記(6)式を参照)に相当する補正係数αが乗じられる。
これにより、EGR弁開度基準値θbが変化する毎に、EGR弁開度基準値θbの変化直後の時点からフィードバック補正値FBをその後において収束していく値に直ちに近づけることができる。従って、EGR弁開度基準値θbの変化直後においてフィードバック補正値FBが不適切な値となることでEGR率実際値RegractがEGR率目標値Regrtから大きく異なる事態が発生することを抑制することができる。
本発明は上記第1実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記第1実施形態においては、EGR弁開度基準値θbに対応する「EGR弁開度のばらつき範囲」を値「θb・K(θb)」で表し、「EGR弁開度のばらつき範囲の割合Ratio」を上記(6)式(Ratio=(θb・K(θb))/(θbb・K(θbb)))で求めているが、EGR弁開度基準値θbに対応する「EGR弁開度のばらつき範囲」を関数func(θb)で表し、「EGR弁開度のばらつき範囲の割合Ratio」を下記(8)式に従って求めてもよい。或いは、「EGR弁開度のばらつき範囲の割合Ratio」を下記(9)式に従って求めてもよい。
Ratio=func(θb)/func(θbb) ・・・(8)
Ratio=θb/θbb ・・・(9)
また、上記第1実施形態においては、積分項FBiを補正係数αで補正することに代えて、EGR弁開度基準値θbが変化する毎に、EGR弁開度基準値θbの変化前の時点における「EGR弁開度のばらつき範囲」(=値「θbb・K(θbb)」)に対する積分項FBi(=Ki・SdRegr)の値の割合Y(=(Ki・SdRegr)/(θbb・K(θbb)))を求め、EGR弁開度基準値θbの変化直後において、積分項FBi(=Ki・SdRegr)の値が「EGR弁開度基準値θbの変化後における「EGR弁開度のばらつき範囲」(=値「θb・K(θb)」)に上記割合Yを乗じた値(θb・K(θb)・Y)」と一致するようにEGR率偏差の積分値SdRegrを補正してもよい。即ち、EGR弁開度基準値θbの変化直後において、EGR率偏差の積分値SdRegrを値「(θb・K(θb)・Y)/Ki」に設定してもよい。これによっても上記第1実施形態と同じ作用・効果が得られる。
また、上記第1実施形態においては、図7のステップ720にて補正係数αが毎回更新計算されるようになっているが(EGR弁開度基準値θbが一定の場合、ステップ715にてRatio=1となるから補正係数αは変化しない)、EGR弁開度基準値θbが変化した場合にのみ、ステップ720による補正係数αの更新計算を実行するように構成してもよい。「EGR弁開度基準値θbの変化」は、例えば、EGR弁開度基準値の今回値θbと前回値θbbとの差が所定値以上となったことにより検出され得る。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るEGR制御装置について説明する。なお、この第2実施形態は、本発明の範囲には含まれない参考例である。この第2実施形態は、EGR弁52の前後の差圧(以下、「EGR弁前後の差圧ΔP」と称呼する。)が変化したときフィードバック補正値FBの定常運転状態における収束値が変化することが考慮されてフィードバック補正値FBが補正される点で、EGR弁開度基準値θbが変化したときフィードバック補正値FBの定常運転状態における収束値が変化することが考慮されてフィードバック補正値FBが補正される上記第1実施形態と異なる。以下、係る相違点を中心に説明する。
先に図3、図4を参照しながら説明したように、EGR弁52の流量特性は、排気ガス圧力に大きく依存する。このことは、図8に示すように、EGR弁52の流量特性がEGR弁前後の差圧ΔPに大きく依存することに基づいている。そして、フィードバック補正値FBの収束値は、EGR弁前後の差圧ΔPに応じて変化する。以下、このことを、図8を参照しながら説明する。
いま、内燃機関が或る定常運転状態にあって、且つ、EGR弁前後の差圧ΔPが値ΔP1に維持されている場合を考える。ここで、値ΔP1は、現時点での実際の排気ガス圧力が上記基準排気圧と等しい値に維持されている場合に対応するEGR弁前後の差圧である。また、値θ3はこの定常運転状態に対応するEGR弁開度基準値であり、値Gegrrefはこの定常運転状態においてEGR率実際値RegractをEGR率目標値Regrtに一致させる(収束させる)ために必要なEGRガス流量(以下、「EGRガス流量参照値」と称呼する。)である。この場合、上述したように、EGR弁開度指令値θiはEGR弁開度基準値θb(=θ3)と等しい値に収束し、フィードバック補正値FBは「0」に収束する。
次に、この状態から、実際の排気ガス圧力が何らかの理由により上記基準排気圧より低くなってEGR弁前後の差圧ΔPが値ΔP1から値ΔP2(<ΔP1)に変化した場合を考える。この場合、EGRガス流量GegrをEGRガス流量参照値Gegrrefと一致させるために必要なEGR弁開度は値θ3に値Δθを加えた値(θ3+Δθ)となる。従って、この場合、EGR弁開度指令値θiはEGR弁開度基準値θbに値Δθを加えた値(θ3+Δθ)に収束する。換言すれば、フィードバック補正値FBは値Δθに収束する。このように、定常運転状態におけるフィードバック補正値FBの収束値は、EGR弁前後の差圧ΔPに応じて変化する。
ところで、図8に示したEGR弁前後の差圧ΔPに応じたEGR弁52の流量特性は、予め実験等を通して取得することができる。従って、EGR弁前後の差圧ΔPが既知であれば、EGR弁前後の差圧ΔPの変化に起因するフィードバック補正値FBの収束値の変化量(即ち、上記値Δθ)を求めることができる。この値Δθを求める手法の詳細については、後にフローチャートを参照しながら説明する。
そこで、第2実施形態では、補正加算値βが導入され、フィードバック補正値FBのI項FBiが、補正加算値βが使用された下記(10)式に従って算出される。(10)式において、補正加算値βは、EGR弁前後の差圧ΔPが変化する毎に、その時点でのβの値そのものに上記値Δθを加えることで更新されていく。
FBi=Ki・Σ(Regrt−Regract)+β ・・・(10)
そして、本装置は、このようにして設定・更新されていく補正加算値βを上記(10)式に適用していくことで、EGR弁前後の差圧ΔPが変化する毎にフィードバック補正値FBを補正していく。
これにより、EGR弁前後の差圧ΔPが変化する毎に、EGR弁前後の差圧ΔPの変化直後の時点からフィードバック補正値FBをその後において収束していく値に直ちに近づけることができ、この結果、第1実施形態と同様、EGR率実際値RegractがEGR率目標値Regrtから一時的に大きく異なる事態の発生を抑制するこができる。
(第2実施形態の実際の作動)
次に、以上のように構成された第2実施形態の実際の作動について説明する。第2実施形態のCPU61は、第1実施形態に係る図5のルーチンをそのまま実行するとともに、第1実施形態に係る図6、図7のルーチンに代えて図9、図10にフローチャートにより示したルーチンをそれぞれ実行する。図9のルーチンは、第1実施形態に係る図6のルーチンに対応していて、図9のルーチンにおいて図6のルーチンのステップと同じステップについては図6のステップ番号と同じステップ番号が付されている。以下、第2実施形態に特有のルーチンである図9、図10について説明する。
図9のルーチンは、補正係数αを計算するステップ620を補正加算値βを計算するステップ905に変更した点、並びに、上記(4)式に基づいてI項FBiを計算するステップ635を上記(10)式に基づいてI項FBiを計算するステップ910に変更した点を除いて、図6のルーチンと同じである。従って、図9のルーチンについての詳細な説明は省略する。
補正加算値βを計算するための図10のルーチンの処理は、図9のステップ905を経由して開始される。即ち、第2実施形態のCPU61はステップ905を経由して図10のステップ1005に進むと、排気管圧力センサ76から得られる現時点での排気管圧力Pexから、吸気管圧力センサ73から得られる現時点での吸気管圧力Pbを減じることで、現時点での(今回の)EGR弁前後の差圧ΔPを求める。これは、EGR弁前後の差圧ΔPは、排気管圧力Pexと吸気管圧力Pbの差に略等しいことに基づく。このステップ1005は、差圧取得手段に相当する。
次いで、CPU61はステップ1010に進み、種々のEGR弁前後の差圧に対するEGR弁開度θとEGRガス流量Gegrとの関係を規定する種々のテーブルMapGegr(θ)(図8を参照)の中から、前回のEGR弁前後の差圧ΔPb、及び先のステップ1005で求めた今回のEGR弁前後の差圧ΔPに対応するものを、テーブルMapGegr1、テーブルMapGegr2としてそれぞれ特定する。
ここで、前回のEGR弁前後の差圧ΔPbとしては、前回の本ルーチン実行時において後述するステップ1035にて更新されている値が使用される。上記種々のテーブルMapGegr(θ)はROM62内に格納されている。このステップ1010は記憶手段に相当する。
続いて、CPU61はステップ1015に進み、図9のステップ610にて求めたEGR弁開度基準値θbと、上記特定されたテーブルMapGegr1とからEGRガス流量参照値Gegrref(図8を参照)を求める。次に、CPU61はステップ1020に進んで、上記EGRガス流量参照値Gegrrefと、上記特定されたテーブルMapGegr2とからEGR弁開度参照値θref(図8を参照)を求める。
続いて、CPU61はステップ1025に進んで、上記値Δθを、上記EGR弁開度参照値θrefから上記EGR弁開度基準値θbを減じた値に設定し、続くステップ1030にて、現時点での補正加算値βに上記値Δθを加えることで補正加算値βを更新する。
そして、CPU61はステップ1035に進み、前回のEGR弁前後の差圧ΔPbを今回のEGR弁前後の差圧ΔPに更新した後、図9のステップ625に進む。以上、図9のステップ910、及び図10のルーチンはフィードバック補正値補正手段に相当する。
以上、説明したように、本発明の第2実施形態に係る内燃機関のEGR制御装置よれば、積分項FBiには、EGR弁前後の差圧ΔPの変化に起因するフィードバック補正値FBの収束値の変化量(即ち、上記値Δθ)に相当する補正加算値βが加えられる。
これにより、EGR弁前後の差圧ΔPが変化する毎に、EGR弁前後の差圧ΔPの変化直後の時点からフィードバック補正値FBをその後において収束していく値に直ちに近づけることができる。従って、EGR弁前後の差圧ΔPの変化直後においてフィードバック補正値FBが不適切な値となることでEGR率実際値RegractがEGR率目標値Regrtから大きく異なる事態が発生することを抑制することができる。
本発明は上記第2実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記第2実施形態においては、EGR弁前後の差圧ΔPの計算に使用される排気管圧力と吸気管圧力を共にセンサ出力から取得しているが、排気管圧力及び吸気管圧力の何れか一方、或いは両方を計算により推定してもよい。
また、上記第2実施形態においては、図10のステップ1030にて補正加算値βが毎回更新計算されるようになっているが(EGR弁前後の差圧ΔPが一定の場合、ステップ1025にてΔθ=0となるから補正加算値βは変化しない)、EGR弁前後の差圧ΔPが変化した場合にのみ、ステップ1030による補正加算値βの更新計算を実行するように構成してもよい。「EGR弁前後の差圧ΔPの変化」は、例えば、EGR弁前後の差圧の今回値ΔPと前回値ΔPbとの差が所定値以上となったことにより検出され得る。
加えて、上記第1実施形態ではEGR弁開度基準値θbの変化に起因するフィードバック補正値FBの収束値の変化量に相当する補正係数αが考慮されてI項FBiが計算され(ステップ635を参照)、上記第2実施形態ではEGR弁前後の差圧ΔPの変化に起因するフィードバック補正値FBの収束値の変化量に相当する補正加算値βが考慮されてI項FBiが計算されているが(ステップ910を参照)、本発明に係るEGR制御装置においては、補正係数α及び補正加算値βを共に考慮した下記(11)式に従ってI項FBiが計算されてもよい。
FBi=(Ki・Σ(Regrt−Regract)+β)・α ・・・(11)
50…EGR装置、51…排気還流管、52…EGR弁、60…電気制御装置、61…CPU、71…エアフローメータ、73…吸気管圧力センサ、74…クランクポジションセンサ、75…アクセル開度センサ、76…排気管圧力センサ