JP4782440B2 - リン酸カルシウム系吸着剤及びその製造方法 - Google Patents
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本発明のリン酸カルシウム系吸着剤は、焼結したリン酸カルシウム(以後「焼結リン酸カルシウム」と記す。)と、その表面を被覆するリン酸カルシウムの微粒子とからなる。焼結リン酸カルシウムを主成分とする吸着剤は、大きな機械的強度を有する。またリン酸カルシウムの微粒子によって被覆された吸着剤は、大きな表面積を有するためにタンパク質等の吸着能に優れている。吸着剤の比表面積は3〜50 m2/gであるのが好ましく、3〜10 m2/gであるのがより好ましく、5〜7 m2/gであるのが更に好ましい。比表面積が3 m2/gより小さいと吸着能が小さ過ぎ、50 m2/gより大きいと吸着剤が脆過ぎる。タンパク質の吸着量は吸着剤1gあたり25 g以上であるのが好ましい。吸着剤の平均粒径は1〜10000μmが好ましく、1〜1000μmがより好ましく、1〜100μmが更に好ましい。平均粒径が1μmより小さいとカラムを流れる溶離液の流速が小さ過ぎ、分離に要する時間が長過ぎるので好ましくない。10000μmより大きいと吸着剤の表面積が小さ過ぎ、分離能が低過ぎる。
焼結リン酸カルシウムの構成材料としては、ハイドロキシアパタイト、フッ素アパタイト、炭酸アパタイト等のアパタイト類、リン酸二カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム等が挙げられる。中でも機械的強度が高いハイドロキシアパタイトが好ましい。リン酸カルシウム粒子は多孔質体であるのが好ましい。多孔質のリン酸カルシウム粒子は大きな表面積を有するので、優れた吸着能を示す。より好ましいリン酸カルシウム粒子は400〜1400℃で焼結したものであり、さらに好ましいのは900〜1200℃で焼結したものである。焼結したリン酸カルシウム粒子は十分な機械的強度を有しており、力を加えられても破損し難い。したがって焼結したリン酸カルシウム粒子を主成分とする吸着剤は、カラム中でフィルター詰まりを生じ難い。
焼結リン酸カルシウム粒子の表面は、リン酸カルシウム微粒子によって被覆される。焼結リン酸カルシウム粒子が微粒子によって被覆された吸着剤は、焼結リン酸カルシウム粒子より大きな表面積を有し、優れた吸着能を示す。リン酸カルシウム微粒子の平均粒径は20〜500 nmであるのが好ましく、20〜150 nmであるのがより好ましい。平均粒径が20 nmより小さいとカラムを流れる溶離液の流速が小さ過ぎ、分離に時間がかかり過ぎる。平均粒径が500 nmより大きいと吸着剤の表面積を増大させる効果が小さ過ぎ、吸着能を十分に向上させることができない。リン酸カルシウム微粒子としては、上述の焼結リン酸カルシウム粒子の構成材料として挙げたリン酸カルシウムからなる微粒子を用いることができる。中でも機械的強度及び溶液耐性の観点からハイドロキシアパタイトが特に好ましい。
本発明のリン酸カルシウム系吸着剤の製造方法として、焼結ハイドロキシアパタイト粒子にハイドロキシアパタイト微粒子を被覆する場合を例にとって説明するが、本発明の方法はハイドロキシアパタイト以外の焼結リン酸カルシウム粒子及びリン酸カルシウム微粒子からなる吸着剤にも適用することができる。
ハイドロキシアパタイトの合成方法は特に限定されず、一般的な方法によることができる。ハイドロキシアパタイトの合成方法は、例えば金澤孝文、門間秀毅著 「リン酸カルシウムの化学」(化学の領域 27巻、No.8、22〜32頁及びNo.9、28〜37頁、1973年)、J.C.Elliott,Elsevier著,「Structure and chemistry of the apatites and other calcium orthophosphates」(Elsevier, Studies in Inorganic Chemistry 18、1994年)に記載されている。ハイドロキシアパタイトの合成方法のうち好ましいのは、湿式法である。湿式法によると、簡便かつ安価に大量のハイドロキシアパタイトを合成できる。
造粒方法は特に限定されないが、吸着剤粒子を比較的簡単に作製することができるスプレードライ法が好ましい。図2はスプレードライ装置の一例を示す。図2に示すスプレードライ装置はスラリー供給タンク1と、ドライチャンバ2と、エアヒータ3と、分級機4と、フィルタ5と、回収タンク6とを具備する。ドライチャンバ2の塔頂部にはエアヒータ3から出た送風管11が接続されており、さらにスラリー供給タンク1から供給されたスラリーを噴霧するためのアトマイザ7が取り付けられている。ドライチャンバ2の下部は輸送管12を介して分級機4に接続されている。
分級したハイドロキシアパタイトを焼結する前に、水溶性高分子化合物及び界面活性剤を除去するため必要に応じて脱脂処理を行ってもよい。脱脂処理は300〜400℃でハイドロキシアパタイト粒子を加熱することにより行うことができる。次いでハイドロキシアパタイト粒子を400〜1400℃で焼結する。焼結温度が400℃未満であると、十分な強度を有するハイドロキシアパタイトが得られず、また1400℃超であるとハイドロキシアパタイトはリン酸三カルシウムと酸化カルシウムに分解してしまう。焼結時間は焼結温度に応じて適宜設定すれば良い。焼結温度に達するまで徐々に昇温することにより脱脂を兼ねることができる。例えば、室温から約10〜100℃/時の昇温速度で約600℃〜700℃まで昇温し、次に約400℃/時の昇温速度で焼結温度まで昇温し、焼結温度で保持するのが好ましい。焼結温度では、3〜10時間程度保持するのが好ましい。焼結完了後は徐冷する。
焼結したハイドロキシアパタイト粒子の表面に以下の方法によりリン酸カルシウムの微粒子を析出させ、焼結ハイドロキシアパタイト粒子の表面がリン酸カルシウム微粒子で被覆された吸着剤を作製する。
(A) 焼結ハイドロキシアパタイト粒子の作製
(1) ハイドロキシアパタイト粒子の作製
リン酸塩溶液とカルシウム塩溶液を公知の方法によって反応させて、ハイドロキシアパタイトを生成させた。得られたハイドロキシアパタイトスラリーから上澄み水を除き、ハイドロキシアパタイトの含有量を10容量%に調整した。このスラリーを図2に示すスプレードライ装置を用いて造粒し、生成した粒子をサイクロン分級機(ターボクラシファイアーTC-15N、株式会社日清製粉製)により分級し、平均粒子径が約40μmのハイドロキシアパタイト粒子を得た。
ハイドロキシアパタイト粒子を約50℃/時の昇温速度で約700℃まで昇温し、1200℃で4時間保持して焼結した。焼結後ハイドロキシアパタイト粒子を室温まで放冷し、平均粒径が約32μmの焼結ハイドロキシアパタイト粒子を得た。この焼結ハイドロキシアパタイト粒子を110℃の恒温槽で一昼夜乾燥させた。
(1) X線回折分析
焼結ハイドロキシアパタイト粒子の結晶相をX線回折装置(理学電機(株)製)を用いて分析した。X線回折ピークを図3に示す。図3に示すように、得られたX線回折パターンはハイドロキシアパタイトに典型的なものであった。ハイドロキシアパタイトに特徴的なX線回折強度ピークを表1に示す。
焼結ハイドロキシアパタイト粒子を試料台に載せ、白金−パラジウムを蒸着して走査電子顕微鏡(S-4200、(株)日立製作所製)により観察した。1050℃で焼結させたハイドロキシアパタイト粒子のSEM画像を図11に示す。図11に示すように約200〜400 nmの一次粒子が形成しており、一次粒子の表面は平滑であった。これは焼結の過程で粒子成長が起こったためであると考えられる。一次粒子は粒界により結合しており、多孔質焼結体の典型的なSEM像であった。焼結ハイドロキシアパタイト粒子の表面形状の焼結温度による変化を確認するために、平均粒子径が約40μmであって未焼結のハイドロキシアパタイト粒子、同平均粒子径で焼結温度をそれぞれ400℃、550℃、700℃、850℃、1000℃及び1150℃としたハイドロキシアパタイト粒子を作製し、各焼結温度で得られた試料を上記と同様に試料台に載せ、白金−パラジウムを蒸着して走査電子顕微鏡(S-4200、(株)日立製作所製)により観察した。図4は未焼結のハイドロキシアパタイト粒子のSEM写真であり、図5〜図10はそれぞれ400℃、550℃、700℃、850℃、1000℃及び1150℃で焼結したハイドロキシアパタイト粒子のSEM写真である。
1050℃で焼結したハイドロキシアパタイト粒子の比表面積を流動式比表面積自動測定装置(フローソーブ2300、株式会社島津製作所製)を用い、N2ガス吸着法による一点BET法により測定した。結果を表2に示す。表2に示すように吸着剤の平均粒径が約40μmのとき焼結ハイドロキシアパタイト粒子(焼結アパタイト)の比表面積は1.4 m2/gであり、吸着剤の平均粒径が約80μmのとき焼結アパタイトの比表面積は1.6 m2/gであった。
焼結ハイドロキシアパタイト粒子を試料とし、レーザー回折型粒度分布測定装置(Microtrac社製)を用い、水を分散媒として粒度分布を測定した。結果を表3及び図12に示す。得られた焼結ハイドロキシアパタイト粒子の平均粒径は32.39μmであった。
焼結ハイドロキシアパタイト粒子によるタンパク質の分離・吸着能を液体クロマトグラフ装置LC-6Aにより測定した。まず、1.2 gの焼結ハイドロキシアパタイト粒子を直径7mm、長さ15 mmのフィルター付カラム容器に充填し分析カラムを作製した。カラム使用前にpH7.0の400 mMリン酸ナトリウム緩衝液によりカラムを洗浄した後、pH7.0の10 mMリン酸ナトリウム緩衝液を少なくとも20 ml加え平衡化した。
焼結ハイドロキシアパタイト粒子を20 mlのカラムに充填し、液体クロマトグラフ装置(LC-6A、(株)島津製作所製)によりタンパク質の吸着量を測定した。カラムに充填した焼結ハイドロキシアパタイト粒子を400 mMリン酸ナトリウム緩衝液で洗浄後、10 mMリン酸ナトリウム緩衝液で洗浄し平衡化した。リゾチウム(SIGMA社製)を10 mMリン酸ナトリウム緩衝液に溶解し、10 mg/mlとしたものを試料とし、この試料を0.02 ml/秒の速度でカラムに注入し、吸着させた。次いで10 mMリン酸ナトリウム緩衝液を流して非吸着物質を除去した後、400 mMリン酸ナトリウム緩衝液を流して吸着タンパク質をカラムより溶出させた。溶出タンパク質は280 nmの紫外線の吸光度を測定することにより検出した。溶出タンパク質を含む分画液の体積及びカラムに充填した吸着剤の乾燥質量により吸着したリゾチウムの量を算出した。結果を表5に示す。表5に示すように焼結ハイドロキシアパタイト粒子1gあたりのタンパク質の吸着量は22.5 mgであった。
合成例1(A)で作製した焼結ハイドロキシアパタイト粒子を用い、以下の工程により焼結ハイドロキシアパタイト粒子の表面にリン酸カルシウム微粒子を被覆した。
リン酸カルシウム結晶を析出させた焼結ハイドロキシアパタイト粒子に対して、合成例1(B)(1)と同様にX線回折分析を行った。その結果を図14に示す。図14に示すようにハイドロキシアパタイト特有の回折ピークが観察された。
リン酸カルシウム結晶を析出させた焼結ハイドロキシアパタイト粒子の走査電子顕微鏡(SEM)観察結果を図15に示す。図15に示すように、平滑な一次粒子からなる焼結ハイドロキシアパタイト粒子の表面にリン酸カルシウム結晶を析出させた粒子表面は直径20〜150 nmの微粒子で被覆されていた。また焼結ハイドロキシアパタイト粒子の表面には細孔が観察され、多孔質構造が保持されていることが分かる。
リン酸カルシウム結晶を析出させた焼結ハイドロキシアパタイト粒子の比表面積を合成例1(B)(3)と同様にして測定した。比表面積の測定結果を表2に併せて示す。表2に示すように、吸着剤の平均粒径が約40μmのときリン酸カルシウム結晶を析出させた焼結ハイドロキシアパタイト粒子(微粒子被覆アパタイト)の比表面積は5.6 m2/gであり、吸着剤の平均粒径が約80μmのとき微粒子被覆アパタイトの比表面積は6.1 m2/gであった。
合成例1(B)(4) と同様にして測定したリン酸カルシウムを析出させた焼結ハイドロキシアパタイト粒子の粒度分布を表6及び図16に示す。リン酸カルシウムを析出させた焼結ハイドロキシアパタイトの平均粒径は34.66μmであった。
リン酸カルシウム微粒子被覆後の質量を秤量した。リン酸カルシウム結晶を析出させた焼結ハイドロキシアパタイト粒子の乾燥質量は5.29 gであった。
リン酸カルシウム微粒子を被覆した焼結ハイドロキシアパタイト粒子を吸着剤としてカラムに充填した以外、合成例1(B)(5)と同様にして得たタンパク質のクロマトグラムを図17に示す。タンパク質混合試料は3つに分画され、各溶出分画の割合は、クロマトグラムの面積の総和に対する割合として非吸着分画約37%、第二分画約41%及び第三分画約21%であった。これらの分画中に含まれるタンパク質をSDS-PAGE法により分析した結果を表4に示す。
リン酸カルシウム結晶を析出させた焼結ハイドロキシアパタイト粒子をカラムに充填した以外合成例1(B)(6)と同様にしてタンパク質の吸着量を測定した。結果を表5に併せて示す。表5に示すようにリン酸カルシウム結晶を析出させた焼結ハイドロキシアパタイト粒子1gあたりのタンパク質吸着量は31.1 mgであった。
実施例1から、リン酸カルシウム結晶を析出させた焼結ハイドロキシアパタイトのXRDパターンは、ハイドロキシアパタイト特有のピークを示すものであり、析出したリン酸カルシウムの結晶相はハイドロキシアパタイトであることが分かる。またSEM像から析出したハイドロキシアパタイト微粒子の大きさは20〜150 nmであり、このハイドロキシアパタイト微粒子が焼結ハイドロキシアパタイト粒子の表面を被覆したことにより表面積が大幅に向上したと考えられる。
焼結ハイドロキシアパタイト粒子を含まない点を除いて実施例1と同様にして、リン酸カルシウム化合物の沈澱を得た。得られたリン酸カルシウム化合物を、乾燥機で乾燥した。乾燥したリン酸カルシウム化合物のX線回折分析パターンを図18に示す。得られたX線回折分析パターンは、ハイドロキシアパタイトに典型的なものであった。ここで、参考例1における乾燥したリン酸カルシウム化合物は、実施例1における微粒子と同条件により合成したものである。したがって実施例1における微粒子もハイドロキシアパタイトであることが分かる。
2・・・ドライチャンバ
3・・・エアヒータ
4・・・分級機
5・・・フィルタ
6・・・回収タンク
7・・・アトマイザ
11・・・送風管
12・・・輸送管
13・・・ポンプ
14・・・送風機
15・・・排風機
17・・・バルブ
100・・・リン酸カルシウム
101・・・気孔
Claims (7)
- 焼結したリン酸カルシウム粒子の表面が、20〜150 nmの平均粒径を有する未焼結のリン酸カルシウム微粒子で被覆されてなる、3〜50 m 2 /gの比表面積を有することを特徴とするリン酸カルシウム系吸着剤。
- 請求項1に記載のリン酸カルシウム系吸着剤において、前記焼結したリン酸カルシウム粒子の平均粒径が1〜10000μmであることを特徴とするリン酸カルシウム系吸着剤。
- 請求項1又は2のいずれかに記載のリン酸カルシウム系吸着剤において、前記リン酸カルシウム粒子及び前記リン酸カルシウム微粒子がハイドロキシアパタイトからなることを特徴とするリン酸カルシウム系吸着剤。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のリン酸カルシウム系吸着剤において、前記焼結したリン酸カルシウム粒子の気孔率が80%以下であることを特徴とするリン酸カルシウム系吸着剤。
- リン酸カルシウム粒子を焼結した後、前記焼結したリン酸カルシウム粒子をカルシウム塩水溶液中に浸漬し、この溶液に溶液全体のpHが6.4〜10になるまでリン酸を含有する水溶液を滴下及び撹拌することにより、前記焼結したリン酸カルシウム粒子の表面にリン酸カルシウムの微粒子を析出させることを特徴とするリン酸カルシウム系吸着剤の製造方法。
- 請求項5に記載のリン酸カルシウム系吸着剤の製造方法において、前記リン酸カルシウム粒子を400〜1400℃で焼結することを特徴とするリン酸カルシウム系吸着剤の製造方法。
- 請求項5又は6に記載のリン酸カルシウム系吸着剤の製造方法において、前記リン酸カルシウム粒子を焼結して平均粒径が1〜10000μmの焼結したリン酸カルシウム粒子を作製し、前記焼結したリン酸カルシウム粒子の表面に前記リン酸カルシウム微粒子を平均粒径が20〜150 nmとなるまで析出させることを特徴とするリン酸カルシウム系吸着剤の製造方法。
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