以下、本発明の生産方法およびハイドロキシアパタイトの粒子を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
まず、本発明の生産方法およびハイドロキシアパタイトの粒子について説明するのに先立って、本発明の生産方法を適用することができる吸着剤を備える吸着装置の一例について説明する。
なお、以下では、吸着装置が備える吸着剤すなわちハイドロキシアパタイトの粒子を含む粒子からなる粉体を、粒径が規格に適合したものを得る際に、所定の条件を満たさない規格外のハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体が、所望の範囲外であるものとして生成され、この所望の範囲外であるハイドロキシアパタイトの粒子に対して、本発明の生産方法を適用する場合を一例として説明する。
<吸着装置>
図1は、本発明の生産方法を適用することができる吸着剤を備える吸着装置の一例を示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図1中の上側を「流入側」、下側を「流出側」と言う。
ここで、流入側とは、分離すべきタンパク質等の単離物を分離(精製)する際に、例えば、試料液(試料を含む液体)、溶出液であるリン酸系緩衝液等の液体を、吸着装置内に供給する側のことを言い、一方、流出側とは、前記流入側と反対側、すなわち、前記液体が吸着装置内から流出する側のことを言う。
タンパク質等の単離物を試料液から分離(精製)する、図1に示す吸着装置1は、カラム2と、粒状の吸着剤(充填剤)3と、2枚のフィルタ部材4、5とを有している。
カラム2は、カラム本体21と、このカラム本体21の流入側端部および流出側端部に、それぞれ装着されるキャップ(蓋体)22、23とで構成されている。
カラム本体21は、例えば円筒状の部材で構成されている。カラム本体21を含めカラム2を構成する各部(各部材)の構成材料としては、例えば、各種ガラス材料、各種樹脂材料、各種金属材料、各種セラミックス材料等が挙げられる。
カラム本体21には、その流入側開口および流出側開口を、それぞれ塞ぐようにフィルタ部材4、5を配置した状態で、その流入側端部および流出側端部に、それぞれキャップ22、23が螺合により装着される。
このような構成のカラム2では、カラム本体21と各フィルタ部材4、5とにより、吸着剤充填空間20が画成されている。そして、この吸着剤充填空間20の少なくとも一部に(本実施形態では、ほぼ満量で)、吸着剤3が充填されている。
吸着剤充填空間20の容積は、試料液の容量に応じて適宜設定され、特に限定されないが、試料液1mLに対して、0.1mL以上100mL以下程度が好ましく、1mL以上50mL以下程度がより好ましい。
吸着剤充填空間20の寸法を上記のように設定し、かつ後述する吸着剤3の寸法を後述のように設定することにより、試料液中から目的とする単離物を選択的に単離(精製)すること、すなわち、タンパク質のような単離物と、試料液中に含まれる単離物以外の夾雑物とを確実に分離することができる。
なお、吸着剤3を用いて単離(精製)される単離物としては、酸性タンパク質、塩基性タンパク質のようなタンパク質に限定されず、例えば、酸性アミノ酸、DNA、RNA、および負電荷リポソーム等の負帯電物質、ならびに、塩基性アミノ酸、正電荷コレステロールおよび正電荷リポソーム等の正帯電物質が挙げられる。
また、カラム本体21に各キャップ22、23を装着した状態で、これらの間の液密性が確保されるように構成されている。
各キャップ22、23のほぼ中央には、それぞれ、流入管24および流出管25が液密に固着(固定)されている。この流入管24およびフィルタ部材4を介して吸着剤3に、前記液体が供給される。また、吸着剤3に供給された試料液は、吸着剤3同士の間(間隙)を通過して、フィルタ部材5および流出管25を介して、カラム2外へ流出する。このとき、試料液(試料)中に含まれる単離物と単離物以外の夾雑物とは、吸着剤3に対する吸着性の差異および溶出液に対する親和性の差異に基づいて分離される。
各フィルタ部材4、5は、それぞれ、吸着剤充填空間20から吸着剤3が流出するのを防止する機能を有するものである。これらのフィルタ部材4、5は、それぞれ、例えば、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリエーテルポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の合成樹脂からなる不織布、発泡体(連通孔を有するスポンジ状多孔質体)、織布、メッシュ等で構成されている。
吸着装置1において、吸着剤3は、ハイドロキシアパタイトの二次粒子を含む粒子からなる粉体、またはその焼結粉体で構成される。
このハイドロキシアパタイトの粒子は、その二次粒子、さらには一次粒子および多次粒子を含み、主として、その二次粒子で構成される。
また、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)の二次粒子は、その一次粒子およびその凝集体を含有するスラリーを乾燥して、これらを造粒することにより得られた、主としてハイドロキシアパタイトで構成されるものである。さらに、本実施形態では、かかる二次粒子の嵩密度が0.65g/mL以上であり、かつ、比表面積が70m2/g以上となっている。ハイドロキシアパタイトは、化学的に安定なアパタイト構造からなり、このハイドロキシアパタイトの二次粒子を含む粉体は、特に吸着装置1が備える吸着剤3に好適に利用できる。なお、ハイドロキシアパタイトは、Ca/P比が1.64以上1.70以下程度のものを意図する。
かかる構成の吸着剤3に、試料液を供給すると、試料液中に含まれる単離物が、このもの固有の吸着(担持)力で特異的に吸着し、その吸着力の差に応じて、試料液中に含まれる単離物以外の夾雑物と分離・精製される。
ハイドロキシアパタイトの二次粒子は、上記のとおり、本実施形態では、その嵩密度が0.65g/mL以上に設定されているが、0.70g/mL以上0.95g/mL以下程度であるのがより好ましい。かかる範囲内の嵩密度を有する二次粒子は、その重量が重く、粒子内における空隙が少なくなっていると考えられ、充填密度が高い粒子と言うことができるため、高い強度を発揮するものとなる。そのため、この二次粒子を含む粉体を吸着剤3として適用した際に、その長寿命化を図ることができる。
また、上記のとおり、本実施形態では、その比表面積は、70m2/g以上に設定されているが、75m2/g以上100m2/g以下程度であるのがより好ましい。かかる範囲の高い比表面積を有する二次粒子を含む粉体は、吸着剤3として適用した際に、単離物が吸着剤3に接触する機会が増大し、単離物と吸着剤3との間の相互作用が向上するため、吸着剤3は、単離物に対して優れた吸着能を発揮するものとなる。
また、二次粒子の形態(形状)は、図1に示すように、粒状(顆粒状)のものであるのが好ましいが、その真球度が0.95以上1.00以下程度であるのがより好ましく、0.97以上1.00以下であるのがさらに好ましい。このように、真球度が高い二次粒子を、吸着剤3として適用すると、吸着剤充填空間20への吸着剤3の充填率を向上させることができる。
このような二次粒子の安息角は、粒径40±4μmの大きさに分級したとき、27°以下であるのが好ましく、22°以上25°以下程度であるのがより好ましい。このように安息角が低い二次粒子は、流動性が高く、吸着剤充填空間20に二次粒子を吸着剤3として充填する際の操作性(充填効率)の向上を図ることができる。
また、二次粒子を焼成した焼結粉体は、その表面に形成される細孔の平均孔径が、700℃で焼成した場合、0.07μm以下であるのが好ましく、0.04μm以上0.06μm以下程度であるのがより好ましい。また、400℃で焼成した場合、0.05μm以下であるのが好ましく、0.02μm以上0.04μm以下程度であるのがより好ましい。細孔の平均孔径がかかる範囲内となることにより、焼結粉体の比表面積を確実に大きくすることができる。
以上のような二次粒子は、本実施形態では、その大きさに応じて用意され、粒径40±4μmの大きさを有する二次粒子が、粒径が規格に適合したハイドロキシアパタイトの二次粒子として選択されて、吸着剤3に適用される。これに対して、粒径40±4μmの大きさを有しないものが、所望の範囲外であるハイドロキシアパタイトの二次粒子であると判定され、本発明の生産方法が適用されるが、その詳細については後述する。
また、粒径40±4μmの大きさに分級された二次粒子の圧縮粒子強度(破壊強度)が、2.0MPa以上であるのが好ましく、2.4MPa以上3.0MPa以下程度であるのがより好ましい。かかる範囲の圧縮粒子強度を有する粉体は、吸着剤3に適用するのに充分な強度を有するものと言うことができる。
なお、本実施形態のように、吸着剤3を吸着剤充填空間20にほぼ満量充填する場合の他、吸着装置1は、吸着剤充填空間20の一部(例えば流入管24側の一部)に吸着剤3を充填し、その他の部分には他の吸着剤を充填するようにしてもよい。
<吸着剤の製造方法>
以上のような、ハイドロキシアパタイトの二次粒子を含む粒子からなる粉体、すなわち吸着剤3は、次のような粉体の製造方法により製造される。
すなわち、本実施形態における、粉体の製造方法は、水酸化カルシウム等のカルシウム源を含有する第1の液と、リン酸等のリン源を含有する第2の液とを攪拌しつつ反応させて、ハイドロキシアパタイトの一次粒子およびその凝集体を含むスラリーを得る工程[S1A]と、スラリーに含まれる凝集体を物理的に粉砕し、粉砕された凝集体をスラリー中に分散させる工程[S2A]と、スラリーを乾燥して、粉砕された凝集体を造粒させることにより、主としてハイドロキシアパタイトの二次粒子を含む粒子で構成される粉体を得る工程[S3A]とを有する。
以下、これらの工程について、順次説明する。
なお、以下では、カルシウム源として水酸化カルシウムを用い、リン酸源としてリン酸を用いる場合を一例に説明する。
[S1A:ハイドロキシアパタイトの凝集体を含むスラリーを得る工程]
この工程では、水酸化カルシウムを含有する水酸化カルシウム分散液(第1の液)と、リン酸を含有するリン酸溶液(第2の液)とを、攪拌しつつ、水酸化カルシウムとリン酸とを反応させ、ハイドロキシアパタイトの一次粒子と、その凝集体を含むスラリーを得る。
具体的には、例えば、容器(図示せず)内で、水酸化カルシウム分散液(第1の液)を攪拌しつつ、この分散液に、リン酸溶液(第2の液)を滴下し、水酸化カルシウム分散液とリン酸溶液との混合液を混合し、この混合液中で水酸化カルシウムとリン酸とを反応させて、ハイドロキシアパタイトの一次粒子と、その凝集体を含むスラリーを得る。
かかる方法では、リン酸を含むリン酸溶液を使用する湿式合成法が用いられる。これにより、高価な製造設備を必要とせず、より容易かつ効率よくハイドロキシアパタイト(合成物)を合成することができる。また、水酸化カルシウムとリン酸との反応では、ハイドロキシアパタイト以外の副生成物は、水のみであるため、形成される二次粒子や焼結粉体内に副生成物が残留することがなく、さらにこの反応が酸塩基反応であるため、水酸化カルシウム分散液およびリン酸溶液のpHを調整することにより、この反応を容易に制御できるという利点がある。
なお、リン酸を含むリン酸溶液としては、リン酸水溶液の他、リン酸水溶液に、アルコールのような他の液体が若干量添加されているものであってもよい。
また、この反応を攪拌しつつ行うことにより、水酸化カルシウムとリン酸との反応を効率よく進行させること、すなわち、それらの反応の効率を向上させることができる。
さらに、水酸化カルシウム分散液とリン酸溶液とを含有する混合液を攪拌する攪拌力は、特に限定されないが、混合液(スラリー)1Lに対して、0.75W以上2.0W以下程度の出力であるのが好ましく、0.925W以上1.85W以下程度の出力であるのがより好ましい。攪拌力をこのような範囲とすることにより、水酸化カルシウムとリン酸との反応の効率を、より向上させることができる。
水酸化カルシウム分散液中における水酸化カルシウムの含有量は、5wt%以上15wt%以下程度であるのが好ましく、10wt%以上12wt%以下程度であるのがより好ましい。また、リン酸溶液中におけるリン酸の含有量は、10wt%以上25wt%以下程度であるのが好ましく、15wt%以上20wt%以下程度であるのがより好ましい。水酸化カルシウムおよびリン酸の含有量を、かかる範囲内に設定することにより、水酸化カルシウム分散液を攪拌しつつ、リン酸溶液を滴下する際の水酸化カルシウムとリン酸との接触機会が増大することから、水酸化カルシウムとリン酸とを効率よく反応させることができ、ハイドロキシアパタイトを確実に合成することができる。
リン酸溶液を滴下する速度は、1L/時間以上40L/時間以下程度であるのが好ましく、3L/時間以上30L/時間以下程度であるのがより好ましい。このような滴下速度でリン酸溶液を水酸化カルシウム分散液中に混合(添加)することにより、水酸化カルシウムとリン酸とを、より穏やかな条件で反応させることができる。
この場合、リン酸溶液を滴下する時間(加える時間)は、5時間以上32時間以下程度かけて行うのが好ましく、6時間以上30時間以下程度かけて行うのがより好ましい。このような滴下時間で、水酸化カルシウムとリン酸とを反応させることにより、ハイドロキシアパタイトを十分に合成することができる。なお、滴下時間を上記の上限値を越えて長くしても、水酸化カルシウムとリン酸との反応の進行は、それ以上期待できない。
ここで、水酸化カルシウムとリン酸との反応が徐々に進行すると、スラリー中には、ハイドロキシアパタイト(合成物)の微粒子(以下、単に「微粒子」と言う。)が生成する。そして、これらの微粒子同士は、一の微粒子(一次粒子)の正に帯電している部分と、他の微粒子の負に帯電している部分との間にファンデルワールス力(分子間力)が働き、それらが凝集することにより、ハイドロキシアパタイト(合成物)の凝集体(以下、単に「凝集体」と言う。)が生成する。この凝集体の生成に伴い、スラリーの粘度は、徐々に上昇する。
さらに、水酸化カルシウムとリン酸との反応が進行すると、スラリー中における正の電荷と負の電荷との割合が接近する。このとき、スラリー中では、微粒子に働く斥力が減少し、微粒子同士の凝集がさらに加速して、より粒径の大きな凝集体が形成される。
[S2A:凝集体を粉砕したのち分散させる工程]
この工程では、前記工程[S1A]で得られたスラリー中に含まれる、ハイドロキシアパタイトの一次粒子の凝集体を物理的に粉砕し、粉砕された凝集体をこのスラリー中に分散する。
このようにスラリー中に含まれる凝集体を破砕する構成とすると、スラリー中に含まれる凝集体の粒径が小さくなり、これに起因して、後工程[S3A]において得られるハイドロキシアパタイトの二次粒子を、その嵩密度が0.65g/mL以上であり、かつ、比表面積が70m2/g以上のものに設定することができる。
ハイドロキシアパタイトの一次粒子の凝集体を物理的に粉砕する方法としては、特に限定されず、例えば、高圧力で噴霧したスラリーの液滴同士を衝突させる湿式ジェットミル法、ジルコニアのようなセラミックスで構成される球体との共存下でスラリーを密閉容器内に収納し、この密閉容器を回転させるボールミル法等が挙げられるが、これらの中でも、湿式ジェットミル法を用いるのが好ましい。
ここで、湿式ジェットミル法は、ハイドロキシアパタイトの一次粒子の凝集体が分散したスラリーに高圧力を加え、このスラリーを噴霧することにより液滴の状態で、対向衝突チャンバー、ボール衝突チャンバーまたはシングルノズルチャンバーに導入することで、これら同士が衝突して凝集体が粉砕する方法である。
かかる方法によれば、ハイドロキシアパタイトの一次粒子の凝集体を、確実に粉砕することができる。そのため、後工程[S3A]において得られるハイドロキシアパタイトの二次粒子を、その嵩密度が0.65g/mL以上であり、かつ、比表面積が70m2/g以上のものに設定することができる。
また、粉砕された凝集体の平均粒径は、1μm以下であるのが好ましく、0.1μm以上0.6μm以下程度であるのがより好ましい。粉砕された凝集体の平均粒径をかかる範囲内とすることにより、後工程[S3A]において得られるハイドロキシアパタイトの二次粒子の嵩密度および比表面積を前記範囲内のものに設定することができる。
なお、スラリー中に一次粒子を分散させる方法としては、本実施形態のように一次粒子の凝集体を物理的に粉砕する方法の他に、スラリー中に一次粒子を分散させる界面活性剤や分散剤を添加する方法も考えられる。しかしながら、後者の方法では、次工程[S3A]におけるスラリーの乾燥では、得られるハイドロキシアパタイトの粉体中に、添加した界面活性剤や分散剤が残存してしまう。そのため、これらを除去するためにハイドロキシアパタイトの粉体を、800℃以上の温度で焼成する必要がある。かかる温度で焼成すると、粉体の比表面積が小さくなる。そのため、上記のように、比表面積を70m2/g以上のものとすることは、実質的に実現不可能となる。
また、本実施形態のように、後工程[S3A]において得られるハイドロキシアパタイトの二次粒子を、その嵩密度が0.65g/mL以上であり、かつ、比表面積が70m2/g以上であることを満足するものに設定する必要がない場合には、本工程[S2A]における、前記凝集体の物理的な粉砕を、省略することができる。
[S3A:スラリーを乾燥してハイドロキシアパタイトの粉体を得る工程]
この工程では、前記工程[S2A]を経た、粉砕された凝集体を含有するスラリーを乾燥することにより、粉砕された凝集体を造粒させて、主としてハイドロキシアパタイトの二次粒子で構成される粉体(乾燥粉体)を得る。
前記工程[S2A]において、本実施形態では、ハイドロキシアパタイトの一次粒子が凝集した凝集体が粉砕されて、凝集体の大きさが小さいものとなっている。そのため、本工程[S3A]において得られるハイドロキシアパタイト粉体を、その嵩密度が0.65g/mL以上であり、かつ、比表面積が70m2/g以上であることを満足するものとし得る。
スラリーを乾燥する方法としては、特に限定されないが、噴霧乾燥法が好適に使用される。かかる方法によれば、粉砕された凝集体を造粒させて、所望の粒径の粉体を、より確実かつ短時間で得ることができる。
また、スラリーを乾燥する際の乾燥温度は、75℃以上250℃以下程度であるのが好ましく、95℃以上220℃以下程度であるのがより好ましい。かかる範囲内に設定することにより、嵩密度が高く、かつ比表面積が広い二次粒子を得ることができる。
なお、このような粉体(乾燥粉体)は、焼成(焼結)して焼結粉体とすることもできる。これにより、粉体(焼結粉体)の圧縮粒子強度(破壊強度)をより向上させることができる。
この場合、粉体を焼成する焼成温度は、200℃以上900℃以下程度であるのが好ましく、400℃以上700℃以下程度であるのがより好ましい。
以上のような工程を経て、主としてハイドロキシアパタイト(合成物)の二次粒子を含む粒子で構成される粉体が得られる。
以上のようにして得られた、ハイドロキシアパタイトの二次粒子を含む粒子で構成される粉体が分級され、本実施形態では、粒径40±4μmの大きさを有するものが、粒径が所望の範囲内である二次粒子と判定され、吸着剤3(固定層用材料)として用いられる。
これに対して、粒径40±4μmの大きさを有しないもの、すなわち、粒径36μmよりも小さいものと粒径44μmよりも大きいものとを、粒径が所望の範囲外であるハイドロキシアパタイトの粒子であると判定する。そして、粒径が所望の範囲外であると判定されたハイドロキシアパタイトの粒子について、本発明の生産方法を適用することで、粒径が所望の範囲内であるハイドロキシアパタイトの粒子(本発明のハイドロキシアパタイトの粒子)を含む粉体の再生を、図ることが可能である。このように、本発明の生産方法を用いることで、粒径が所望の範囲外であると判定されたハイドロキシアパタイトの粒子を、廃棄することなく、粒径が所望の範囲内であるハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体の再生に用いることができる。そのため、粒径が規格に適合したハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体を生産する際の生産性の向上が図られる。
<粒径が規格に適合したハイドロキシアパタイトの粒子の再生方法>
以下、本発明の生産方法を適用することで、粒径が所望の範囲外であると判定されたハイドロキシアパタイトの粒子を用いて、粒径が規格に適合したハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体を再生(生産)する再生方法について説明する。
図2は、本発明の生産方法を適用して、粒径が規格に適合したハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体を生産する方法を示すフローチャートである。
粒径が規格に適合したハイドロキシアパタイトの粒子を再生する再生方法に適用される、本発明の生産方法は、図2に示すように、粒径が所望の範囲外であると判定されたハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体を用意する工程[S1B]と、粒径が所望の範囲外であると判定されたハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体を、リン酸溶液中に溶解させる工程[S2B]と、粒径が所望の範囲外であると判定されたハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体の少なくとも一部が溶解したリン酸溶液を用いて、粒径が規格に適合したハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体を生成する工程[S3B]とを有する。
以下、これらの工程について、順次説明する。
[S1B:粒径が所望の範囲外であると判定されたハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体を用意する工程(第1のステップ)]
この工程では、ハイドロキシアパタイトの粒子のうち、粒径が所望の範囲外(規格外)であると判定されたものを含む粉体(以下、「規格外粉体」と言うこともある。)を用意する。
本実施形態では、前述した吸着剤の製造方法、すなわち、前記工程[S1A]~[S3A]を適用することで得られたハイドロキシアパタイト二次粒子を含む粒子のうち、例えば、分級することで、粒径が所望の範囲内である二次粒子と判定されたものが吸着剤3として用いられる。そして、この吸着剤3として用いられる二次粒子を除く、粒径が所望の範囲内であると判定された二次粒子よりも大きい粒径を有するものと、粒径が所望の範囲内であると判定された二次粒子よりも小さい粒径を有するものとを回収することで、規格外粉体が用意される。
すなわち、前述した吸着剤の製造方法、すなわち、前記工程[S1A]~[S3A]により、本工程[S1B]に先立って、ハイドロキシアパタイトの二次粒子を含む粒子からなる粉体を用意するステップが構成される。また、本工程[S1B]により、粒径が所望の範囲外となったハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体を回収する第1のステップが構成される。
[S2B:用意したハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体を、リン酸溶液中に溶解させる工程(第2のステップ)]
この工程では、規格外粉体を、リン酸を含有するリン酸溶液中において攪拌することで、このリン酸溶液中に溶解させる。
具体的には、例えば、容器(図示せず)内で、リン酸溶液を攪拌しつつ、この溶液に、規格外粉体を添加し、リン酸溶液に規格外粉体を混合し、この混合により、リン酸溶液中に規格外粉体を溶解させる。
かかる方法では、このリン酸溶液中への溶解を攪拌しつつ行う際に、この攪拌する条件を適宜設定することにより、リン酸溶液中に規格外粉体を、効率よく溶解させることができる。
ここで、リン酸溶液中に溶解させる規格外粉体は、本実施形態では、粒径が所望の範囲内である二次粒子よりも粒径が大きいものと、小さいものとの双方を含んでおり、また、その嵩密度および比表面積がともに大きいものとなっている。
このように、溶解させるべき規格外粉体、すなわち、溶解させるべきハイドロキシアパタイトの二次粒子を含む粒子は、形状が均一でなく、さらに、その嵩密度および比表面積等の物性が一定ではないものが含まれる。そのため、溶解させるために使うべき、好ましいリン酸溶液におけるリン酸の濃度(量)は、その時々によって変化する。具体的には、リン酸溶液中における、リン酸の濃度が高くなり過ぎると、ハイドロキシアパタイトの溶解量が低下し好ましくない。また、リン酸の濃度が低くなり過ぎると、ハイドロキシアパタイトが充分に溶解しないばかりか、アパタイト以外のリン酸カルシウムが析出してしまうため好ましくない。そのため、前述した吸着剤の製造方法の条件によって、変化するハイドロキシアパタイトの粒子の形態変動に影響されずに、リン酸溶液中に規格外粉体を効率よく溶解させるは、リン酸溶液中への規格外粉体の溶解を、攪拌しつつ行う際の条件を適宜設定することが好ましい。
すなわち、本工程[S2B]では、リン酸溶液中への規格外粉体の溶解を攪拌しつつ行う際に、規格外粉体の溶解の進行に伴って、溶解状態の確認を行いつつ、規格外粉体の溶解が可能となるように、または促進するように溶解条件の調整を行うことが好ましい。これにより、上記の通り、溶解すべき規格外粉体の形状等の形態が変動したとしても、リン酸溶液中に規格外粉体を効率よく溶解させることができる。
また、このとき、規格外粉体のリン酸溶液中への溶解状態の確認は、特に限定されないが、リン酸溶液の濁度を検出することが好ましい。濁度を検出することで、規格外粉体のリン酸溶液中への溶解状態を、比較的容易かつ確実に確認することができる。
さらに、前記溶解状態の確認に基づく、規格外粉体をリン酸溶液中へ溶解させる溶解条件の調整は、リン酸溶液の撹拌速度の調整、リン酸溶液への溶解時間の調整を含む操作により実施することが好ましい。これにより、リン酸溶液における規格外粉体の溶解量(含有量)を、比較的容易かつ確実に調整することができる。
また、リン酸溶液中への規格外粉体の溶解を攪拌しつつ行うとき、規格外粉体のリン酸溶液への添加は、リン酸溶液に対して、複数回に分けて投入することが好ましい。このように、規格外粉体をリン酸溶液に複数回に分けて投入することで、適正量以上の規格外粉体がリン酸溶液に添加されるのを、的確に抑制または防止することができる。すなわち、リン酸溶液中に溶解が可能な容量以上の規格外粉体が、リン酸溶液中に添加されるのを、的確に抑制または防止することができる。
前述の通り、規格外粉体の溶解状態の確認を行いつつ、規格外粉体をリン酸溶液に溶解させる溶解条件が調整されるが、かかる溶解条件のうち、リン酸溶液におけるリン酸含有量は、10wt%以上25wt%以下であるのが好ましく、15wt%以上25wt%以下であるのがより好ましい。リン酸溶液中における、リン酸含有量が前記上限値を超えると、ハイドロキシアパタイトの溶解量が低下し好ましくない。また、リン酸含有量が前記下限値未満となると、ハイドロキシアパタイトが充分に溶解しないばかりか、アパタイト以外のリン酸カルシウムが析出してしまう恐れがあるため好ましくない。
また、規格外粉体を添加して、リン酸溶液を攪拌するときの攪拌力は、特に限定されないが、リン酸溶液1Lに対して、0.75W以上2.0W以下程度の出力であるのが好ましく、0.925W以上1.85W以下程度の出力であるのがより好ましい。攪拌力をこのような範囲とすることにより、リン酸溶液に対して規格外粉体を溶解させる効率を、より向上させることができる。
さらに、リン酸溶液の液温(温度)は、特に限定されないが、好ましくは0℃以上70℃以下程度、より好ましくは25℃以上50℃以下程度に設定される。これにより、リン酸溶液に対して規格外粉体を、より穏やかな条件で溶解させることができる。
また、規格外粉体を添加してリン酸溶液を攪拌する時間は、1時間以上72時間以下程度かけて行うのが好ましく、6時間以上72時間以下程度かけて行うのがより好ましい。このような攪拌時間で、規格外粉体をリン酸溶液に溶解させることにより、規格外粉体をリン酸溶液中に十分に溶解させることができる。なお、攪拌時間を上記の上限値を越えて長くしても、リン酸溶液中に対する規格外粉体への溶解の進行を、それ以上期待できない。
以上のような本工程[S2B]を経ることで、規格外粉体を、リン酸溶液中に溶解させることができる。
なお、前述の通り、規格外粉体の溶解状態の確認を行いつつ、規格外粉体をリン酸溶液に溶解させる溶解条件を調整したとしても、規格外粉体が溶解したリン酸溶液には、規格外粉体の一部が分散物や沈殿物として残存することがある。そのため、本工程[S2B]の後、すなわち、後工程[S3B]に先立って、溶解することなくリン酸溶液中に残存している規格外粉体を濾過する工程を有していることが好ましい。これにより、リン酸溶液中に溶解することなく残存している規格外粉体を、確実に除去することができる。そのため、後工程[S3B]において、規格外粉体が溶解したリン酸溶液を用いて、粒径が規格に適合したハイドロキシアパタイトの二次粒子を含む粉体を生成する際に、生成される二次粒子を含む粉体中に、不純物として残存した規格外粉体が混入してしまうのを、的確に抑制または防止することができる。したがって、後工程[S3B]で生成される、粒径が規格に適合したハイドロキシアパタイトの二次粒子を含む粉体の純度の向上を図ることができる。さらに、かかる二次粒子を含む粉体を生産する方法を繰り返して実施する場合、濾過した規格外粉体を、再度、前記工程[S1B]において、リン酸溶液に溶解させる粉体として用いることで、粒径が規格に適合したハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体の再生効率のさらなる向上を図ることができる。
また、規格外粉体が溶解したリン酸溶液の濾過に用いる濾過フィルタが備える細孔の孔径は、0.45μm以下であることが好ましく、0.22μm以下であることがより好ましい。これにより、かかる孔径の下限値未満の粒径を備える規格外粉体が、規格外粉体が溶解したリン酸溶液中に残存することとなるが、このような規格外粉体が含まれていたとしても、かかる粒径を有する微細な規格外粉体は、ハイドロキシアパタイトの一次粒子の凝集体として利用し得る程度の大きさのものである。そのため、後工程[S3B]において、規格外粉体が溶解したリン酸溶液を用いて生成された規格粉体中に、不純物が残存するのを、より的確に抑制または防止することができる。
また、溶解すべき規格外粉体の形状等の形態が変動することなく、ほぼ同一の形態を有する規格外粉体を用いて、本発明の生産方法を適用して、粒径が規格に適合したハイドロキシアパタイトの二次粒子を含む粉体を、繰り返して生成(再生)させる場合、本工程[S2B]において、リン酸溶液中への規格外粉体の溶解を、攪拌しつつ行う際の溶解条件は、ほぼ一定となる。そのため、粒径が規格に適合したハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体の初回の生成の際に、本工程[S2B]において、リン酸溶液中に規格外粉体を効率よく溶解させるための溶解条件を設定すれば、2回目以降の生成の際には、本工程[S2B]における前記溶解条件の設定を省略することができる。
[S3B:規格外粉体が溶解したリン酸溶液を用いて、粒径が規格に適合したハイドロキシアパタイトの二次粒子を含む粉体を生成する工程(第3のステップ)]
この工程では、前記工程[S2B]を経ることで得られた、規格外粉体が溶解したリン酸溶液を用いて、粒径が規格に適合したハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体(以下、「規格粉体」と言うこともある。)を得る。
この規格粉体を得る本工程[S3B]は、規格外粉体が溶解したリン酸溶液と、水酸化カルシウム等のカルシウム源を含有する第1の液と、を攪拌しつつ反応させて、ハイドロキシアパタイトの一次粒子およびその凝集体を含むスラリーを得る工程[S3B-1]と、スラリーに含まれる凝集体を物理的に粉砕し、粉砕された凝集体をスラリー中に分散させる工程[S3B-2]と、スラリーを乾燥して、粉砕された凝集体を造粒させることにより、粒径が規格に適合したハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体を得る工程[S3B-3]とを有する。
以下、本工程[S3B]を構成する、これらの工程[S3B-1]~[S3B-3]について、順次説明する。
[S3B-1:ハイドロキシアパタイトの一次粒子および凝集体を含むスラリーを得る工程]
この工程では、規格外粉体が溶解したリン酸溶液と、水酸化カルシウム等のカルシウム源を含有する第1の液とを含む混合液を、攪拌しつつ、水酸化カルシウムとリン酸とを反応させ、ハイドロキシアパタイトの一次粒子と、その凝集体を含むスラリーを得る。
具体的には、例えば、容器(図示せず)内で、水酸化カルシウム分散液(第1の液)を攪拌しつつ、この分散液に、規格外粉体が溶解したリン酸溶液を滴下し、水酸化カルシウム分散液と規格外粉体が溶解したリン酸溶液との混合液を混合し、この混合液中で水酸化カルシウムとリン酸とを反応させて、ハイドロキシアパタイトの一次粒子と、その凝集体を含むスラリーを得る。
かかる方法では、規格外粉体が溶解したリン酸溶液を使用する湿式合成法が用いられる。これにより、高価な製造設備を必要とせず、より容易かつ効率よくハイドロキシアパタイトの一次粒子(合成物)を合成することができる。また、水酸化カルシウムとリン酸との反応では、ハイドロキシアパタイト以外の副生成物は、水のみであるため、形成される二次粒子や焼結粉体内に副生成物が残留することがなく、さらにこの反応が酸塩基反応であるため、水酸化カルシウム分散液およびリン酸溶液のpHを調整することにより、この反応を容易に制御できるという利点がある。
また、この反応を攪拌しつつ行うことにより、規格外粉体が溶解したリン酸溶液が水酸化カルシウム分散液に添加された液中において、水酸化カルシウムとリン酸との反応を効率よく進行させること、すなわち、それらの反応の効率を向上させることができる。
なお、規格外粉体が溶解したリン酸溶液と、水酸化カルシウムを含有する第1の液とを含む混合液において、リン酸と水酸化カルシウムとを反応させる条件は、前記工程[S1A]において、水酸化カルシウムを含有する水酸化カルシウム分散液(第1の液)と、リン酸を含有するリン酸溶液(第2の液)とを含む混合液において、リン酸と水酸化カルシウムとを反応させる条件として説明したのと同様の条件に設定することができる。
なお、本実施形態では、規格外粉体が溶解したリン酸溶液を用いて、粒径が規格に適合したハイドロキシアパタイトの二次粒子を含む粒子からなる粉体を生成するために、本工程[S3B-1]の後に、後工程[S3B-2]~[S3B-3]が実施されるが、ハイドロキシアパタイトの二次粒子を含む粒子からなる粉体を得ることなく、ハイドロキシアパタイトの一次粒子を得る場合には、後工程[S3B-2]~[S3B-3]の実施が省略される。
この工程[S3B-1]により、ハイドロキシアパタイトの一次粒子を生成するステップが構成される。
[S3B-2:凝集体を粉砕したのち分散させる工程]
この工程では、前記工程[S3B-1]で得られたスラリー中に含まれる、ハイドロキシアパタイトの一次粒子の凝集体を物理的に粉砕し、粉砕された凝集体をこのスラリー中に分散する。
このようにスラリー中に含まれる凝集体を破砕する構成とすると、スラリー中に含まれる凝集体の粒径が小さくなり、これに起因して、後工程[S3B-3]において得られるハイドロキシアパタイトの二次粒子を、その嵩密度が0.65g/mL以上であり、かつ、比表面積が70m2/g以上のものに設定することができる。
ハイドロキシアパタイトの一次粒子の凝集体を物理的に粉砕する方法等は、前記工程[S2A]で説明したのと、同様の方法等を用いることができる。
また、本実施形態のように、後工程[S3B-3]において得られるハイドロキシアパタイトの二次粒子を、その嵩密度が0.65g/mL以上であり、かつ、比表面積が70m2/g以上であることを満足するものに設定する必要がない場合には、本工程[S3B-2]における、前記凝集体の物理的な粉砕を、省略することができる。
[S3B-3:スラリーを乾燥して粒径が規格に適合したハイドロキシアパタイトの粉体を得る工程]
この工程では、前記工程[S3B-2]を経た、粉砕された凝集体を含有するスラリーを乾燥する。
これにより、粉砕された凝集体を造粒させて、粒径が規格に適合したハイドロキシアパタイトの二次粒子を含む粒子からなる粉体(乾燥粉体)を得ることができる。
前記工程[S3B-2]において、本実施形態では、ハイドロキシアパタイトの一次粒子が凝集した凝集体が粉砕されて、凝集体の大きさが小さいものとなっている。そのため、本工程[S3B-3]において得られるハイドロキシアパタイト粉体を、その嵩密度が0.65g/mL以上であり、かつ、比表面積が70m2/g以上であることを満足するものとし得る。
スラリーを乾燥する方法等としては、前記工程[S3A]で説明したのと、同様の方法等を用いることができる。
この工程[S3B-3]により、得られたハイドロキシアパタイトの一次粒子からハイドロキシアパタイトの二次粒子を生成するステップが構成される。
以上のような工程[S3B-1]~[S3B-3]で構成される工程[S3B]を経ることで、粒径が規格に適合したハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体が得られる。
そして、かかる工程[S3B]では、所定の条件を満たさないと判定された規格外のハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体を有効に利用して、規格に適合したハイドロキシアパタイトの粒子を生産し得ることから、規格に適合したハイドロキシアパタイトの粒子を生産する際の生産性の向上を図ることができる。
なお、本実施形態では、粒径が所望の範囲外であると判定されたハイドロキシアパタイトの二次粒子を含む粒子からなる粉体(規格外粉体)として、粒径が所望の範囲内である二次粒子よりも粒径が大きいものと、小さいものとの双方を含んでいる場合について説明したが、規格外粉体には、これらの双方が含まれている必要はなく、粒径が所望の範囲内である二次粒子よりも粒径が大きいものと、小さいものとのいずれか一方が含まれていればよい。ただし、粒径が所望の範囲内である二次粒子よりも粒径が小さいものの方が、大きいものと比較して、分級の際により多く小さいものであると判定され、さらに、リン酸溶液に対する溶解性にも優れる。そのため、規格外粉体として、粒径が所望の範囲内である二次粒子よりも粒径が小さいものを含むものを選択することで、規格に適合したハイドロキシアパタイトの粒子を生産する際の生産性をより向上させることができる。
以上、本発明の生産方法について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。
例えば、本発明の生産方法では、任意の目的で、1以上の工程を追加することができる。
また、前記実施形態では、所定の条件を満たさない規格外のハイドロキシアパタイトの二次粒子を含む粒子からなる粉体が、粒径が所望の範囲外であるものとして生成され、この粒径が所望の範囲外であるハイドロキシアパタイトの粒子に対して、本発明の生産方法を適用する場合について説明したが、所定の条件を満たさない規格外のハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体としては、粒径が所望の範囲外であるものに限定されず、例えば、以下に示すものであってもよい。すなわち、使用期限切れとなったハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体、吸着剤としての複数回の使用により粒径にバラツキが生じたハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体、および、ハイドロキシアパタイトとは異なるリン酸カルシウム系化合物が規定量以上に混入しているハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体等をも、所定の条件を満たさない規格外のハイドロキシアパタイトの粒子を含む粉体として用いることができる。そして、これらの粉体に対しても、本発明の生産方法を適用することができる。
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
なお、本発明はこれらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
1.ハイドロキシアパタイト粒子のリン酸溶液に対する溶解性の確認
[1A] まず、リン酸溶液(リン酸濃度14wt%)50mLに対して、ハイドロキシアパタイト粒子(BIO-RAD社製、CHT 40μm Type I)を、それぞれ、1.00g、2.00g、3.00g、3.25g、3.50gおよび4.00gずつ添加し、その後、このハイドロキシアパタイト粒子が添加されたリン酸溶液を、スターラーを用いて攪拌した。なお、ハイドロキシアパタイト粒子の添加が省略されたリン酸溶液、すなわち0.00gのハイドロキシアパタイト粒子が添加されたリン酸溶液についても、コントロールとして、スターラーを用いて攪拌した。
[2A] 次に、スターラーによる攪拌を継続し、その1時間後、および、3日後の前記リン酸溶液の濁度を、吸光光度計(島津製作所社製、「UV Spectrophotometer UV-1800」)を用いて波長660nmで測定した。
その結果を、図3に示す。
図3から明らかなように、リン酸溶液の攪拌開始3日後では、リン酸溶液に対するハイドロキシアパタイト粒子の添加量が1.00g~3.25gの範囲で、リン酸溶液の濁度が0となり、ハイドロキシアパタイト粒子がリン酸溶液中に完全に溶解していることが確認された。これに対して、リン酸溶液に対するハイドロキシアパタイト粒子の添加量を3.50gとしたときでは、1時間後と3日後との間で、リン酸溶液の濁度に変化が認められない。そのため、これ以上、リン酸溶液中にハイドロキシアパタイト粒子が溶解しないことが分かった。さらに、リン酸溶液に対するハイドロキシアパタイト粒子の添加量を4.00gとしたときでは、1時間後から3日後のように時間の経過とともにさらに濁度が上昇する結果が得られており、これは、時間の経過により、ハイドロキシアパタイト粒子とは異なる、他のリン酸カルシウム系化合物が、リン酸溶液中に析出したことに起因すると推察された。
以上のことから、ハイドロキシアパタイト粒子をリン酸溶液中に、その攪拌により溶解させることが可能であり、ハイドロキシアパタイト粒子の溶解量は、リン酸溶液(リン酸濃度14wt%)50mLあたり、最大で3.25gであることが判った。
2.ハイドロキシアパタイトの製造
(実施例1)
[1B] まず、リン酸溶液(リン酸濃度14wt%)50mLあたり、ハイドロキシアパタイト粒子(BIO-RAD社製、CHT 40μm Type I)を、3.00g添加し、その後、このハイドロキシアパタイト粒子が添加されたリン酸溶液を、スターラーを用いて3日間攪拌することで、リン酸溶液中にハイドロキシアパタイト粒子が溶解したカルシウムイオン含有リン酸溶液を得た。
[2B] 次に、水酸化カルシウム2400gを純水60Lに分散させ、この水酸化カルシウム分散液をタンクに入れて攪拌しつつ、このものにカルシウムイオン含有リン酸溶液4Lを1L/時間の速度で滴下した。これにより、ハイドロキシアパタイトの一次粒子が凝集した凝集体を含有するスラリーを得た。
なお、滴下中の雰囲気の温度は、常温(25℃)とした。
また、前記分散液にリン酸溶液を滴下した混合液を攪拌する攪拌力は、混合液(スラリー)1Lに対して1.7Wの出力とした。
[3B] 次に、得られたスラリーに含まれる凝集体を、湿式ジェットミル装置(スギノマシン社製、「スターバースト」)を用いて、200MPaの高圧力をかけて粉砕することにより、粉砕された凝集体を含有するスラリーを得た。
[4B] 次に、粉砕された凝集体を含有するスラリーを、噴霧乾燥機(マツボー社製、「MAD-6737R」)を用いて、210℃で噴霧乾燥することにより、スラリー中に含まれるハイドロキシアパタイトを造粒させて球状をなす実施例1の二次粒子(R-HAp二次粒子)を得た。
なお、この実施例1の二次粒子(R-HAp二次粒子)について、前記工程[1B]~[4B]を3回繰り返して実施して、3ロット分のR-HAp二次粒子を製造した。
(参考例1)
前記工程[1B]を省略し、前記工程[2B]において、カルシウムイオン含有リン酸溶液に代えて、リン酸溶液(リン酸濃度14wt%)を用いたこと以外は、前記実施例1と同様にして、球状をなす参考例1の二次粒子(C-HAp二次粒子)を得た。
3.製造されたハイドロキシアパタイトの評価
実施例1のR-HAp二次粒子および参考例1のC-HAp二次粒子について、粉末X線回折法を用いて、それぞれの二次粒子として、ハイドロキシアパタイトが生成されているか否かの確認を行った。
実施例1のR-HAp二次粒子および参考例1のC-HAp二次粒子について、それぞれ測定された、X線での回折パターンを、図4に示す。
図4から明らかなように、実施例1のR-HAp二次粒子は、各ロットともに、参考例1のC-HAp二次粒子と同様の回折パターンを示しており、参考例1のC-HAp二次粒子と同様に、ハイドロキシアパタイトの二次粒子で構成されていることが明らかとなった。すなわち、リン酸溶液中にハイドロキシアパタイト粒子が溶解したカルシウムイオン含有リン酸溶液を、リン酸溶液と同様にリン酸源として用いたとしても、ハイドロキシアパタイトの二次粒子を生成し得ることが明らかとなった。
したがって、カルシウムイオン含有リン酸溶液を得る際に用いるハイドロキシアパタイト粒子として、所定の条件を満たさないと判定された規格外のハイドロキシアパタイトの二次粒子を含む粒子からなる粉体を選択したとしても、規格に適合したハイドロキシアパタイトの粒子を生産し得ることから、規格に適合したハイドロキシアパタイトの粒子の再生に、所定の条件を満たさないと判定された規格外のハイドロキシアパタイトの二次粒子を含む粒子からなる粉体を利用し得ることが判った。
4.ハイドロキシアパタイト粒子を溶解させるリン酸溶液の濃度の確認
[1C] まず、リン酸溶液(リン酸濃度5wt%、10wt%、14wt%、25wt%、50wt%、85wt%)50mLを、それぞれ、用意した後に、各リン酸溶液に対して、ハイドロキシアパタイト粒子(BIO-RAD社製、CHT 40μm Type I)を、3.00gずつ添加し、その後、このハイドロキシアパタイト粒子が添加されたリン酸溶液を、スターラーを用いて攪拌した。
[2C] 次に、スターラーによる攪拌を継続し、その1時間後、2時間後、8時間後、1日後、および、3日後の前記リン酸溶液の濁度を、吸光光度計(島津製作所社製、「UV Spectrophotometer UV-1800」)を用いて波長660nmで測定した。
その結果を、図5に示す。
図5から明らかなように、攪拌開始1時間後において、リン酸濃度の低い5wt%のリン酸溶液ではハイドロキシアパタイト粒子がほとんど溶解していない。また、リン酸濃度50wt%のリン酸溶液では、一部溶解したハイドロキシアパタイト粒子同士が結合することに起因して形成された大きな塊(図示を省略)が析出する結果が得られた。そのため、図5に示す通り、攪拌開始直後の濁度が最も低下しているように見える結果を示した。さらに、リン酸濃度の最も高い85wt%のリン酸溶液では、5wt%のリン酸溶液と同様に、ハイドロキシアパタイト粒子がほとんど溶解していなかった。
さらに、攪拌時間の経過による、濁度の変化を見ると、5wt%のリン酸溶液と85wt%のリン酸溶液とは、常時、濁度が4以上となりほとんど溶解していなかった。また、10wt%のリン酸溶液でも、ある程度はハイドロキシアパタイト粒子が溶解するが、時間と共に濁度が上昇していることから、他のリン酸カルシウム系化合物が析出している可能性を示した。さらに、14~50wt%のリン酸溶液では、時間とともに濁度が低下する傾向を示したが、中でも、14~25wt%のリン酸溶液において、濁度の低下速度が速くなる結果を示したことから、ハイドロキシアパタイト粒子が優れた溶解性をもって溶解し得ることが判った。
以上の通り、リン酸溶液におけるリン酸濃度に応じて、リン酸溶液に溶解し得るハイドロキシアパタイト粒子の溶解量が変化することが判った。したがって、ハイドロキシアパタイト粒子をリン酸溶液に溶解させる際には、溶解の進行に伴って、溶解状態の確認を行いつつ、ハイドロキシアパタイト粒子を溶解させる溶解条件の調整を行う必要があることが判った。
5.ハイドロキシアパタイト粒子が溶解されたリン酸溶液における濁度の確認
[1D] まず、リン酸溶液(リン酸濃度14wt%)50mLあたり、ハイドロキシアパタイト粒子(BIO-RAD社製、CHT 40μm Type I)を、3.00g添加し、その後、このハイドロキシアパタイト粒子が添加されたリン酸溶液を、スターラーを用いて3時間攪拌することで、リン酸溶液中にハイドロキシアパタイト粒子が溶解したカルシウムイオン含有リン酸溶液を得た。
[2D] 次に、孔径0.45μmの細孔を備える濾過フィルタを用いて、カルシウムイオン含有リン酸溶液中に残存する、ハイドロキシアパタイト粒子を濾過した。
このとき、濾過フィルタを用いたカルシウムイオン含有リン酸溶液の濾過の前後において、カルシウムイオン含有リン酸溶液の濁度を、吸光光度計(島津製作所社製、「UV Spectrophotometer UV-1800」)を用いて波長660nmで測定した。
なお、この濾過フィルタを用いたカルシウムイオン含有リン酸溶液の濾過を、前記工程[1D]~[2D]を3回繰り返して実施して、3ロット分のカルシウムイオン含有リン酸溶液について行った。
その結果を、表1に示す。
表1から明らかなように、ハイドロキシアパタイト粒子が溶解したカルシウムイオン含有リン酸溶液は、各ロットともに、ろ過フィルタによる濾過後において、その濾過前と比較して、濁度が低くなる結果を示した。
したがって、カルシウムイオン含有リン酸溶液を、ろ過フィルタを用いて濾過することで、カルシウムイオン含有リン酸溶液に残存するハイドロキシアパタイト粒子を除去し得ることが明らかとなった。
よって、濾過されたカルシウムイオン含有リン酸溶液を、前記規格外粉体が溶解したリン酸溶液として用いることで、粒径が規格に適合したハイドロキシアパタイトの二次粒子を含む粒子からなる粉体を生成する際に、生成される二次粒子を含む粉体中に、不純物として残存した規格外粉体が混入してしまうのを、的確に抑制または防止することができる。したがって、濾過されたカルシウムイオン含有リン酸溶液を用いて生成される、粒径が規格に適合したハイドロキシアパタイトの二次粒子を含む粒子からなる粉体の純度の向上を図ることができる。さらに、濾過した規格外粉体を、再度、リン酸溶液に溶解させる粉体として用いることで、粒径が規格に適合したハイドロキシアパタイトの二次粒子を含む粒子からなる粉体の再生効率のさらなる向上を図ることができる。