JP4777705B2 - 耐熱プレコート鋼板 - Google Patents

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Description

本発明は、加熱調理器具,暖房機器,空調機器,自動車排ガス流路部材等に使用され、加熱時に有害な煙,ガス,臭を発生しない耐食品汚染性,耐食性,耐熱性に優れたプレコート鋼板に関する。
耐食性の良好な鋼材としてAl-Si合金めっき鋼板が多用されているが、湿潤雰囲気,排ガス雰囲気,海塩粒子飛散雰囲気等に長時間放置すると、鋼板表面に白錆が発生し外観が劣化する。白錆の発生はクロメート処理で防止でき、クロメート処理は塗膜密着性の向上にも有効である。
しかし、クロメート処理では、環境に有害な水溶性の六価Crイオンを含むクロメート処理液やリンス液等の廃液処理に多大な負担がかかる。そこで、チタン系,ジルコニウム系,モリブデン系,リン酸塩系等の薬液を用いるクロムフリーの化成処理が検討されており、アルミニウム材料ではDI缶等への適用を主目的として多数の提案がある。
たとえば、チタン系では、チタン化合物,リン酸イオン,フッ化物,促進剤を含む水溶液をアルミニウム含有金属材料に接触させ、水洗・乾燥することにより化成皮膜を形成している(特許文献1)。本発明者等も、バルブメタルの酸化物,水酸化物を主成分とするクロムフリーの化成皮膜を形成すると、Al-Si合金めっき鋼板の耐食性が改善されることを紹介した(特許文献2)。
特開平9-20984号公報 特開2003-213458号公報
耐熱性が要求される加熱調理器具,暖房機器,空調機器,自動車排ガス流路部材等の素材にAl-Si合金めっき鋼板を使用するとき、周辺部材との調和を損なう金属光沢を嫌って鋼板表面に樹脂塗膜を設けた塗装鋼板が好まれている。なかでも、製品形状に加工した後でも塗装が不要な耐熱プレコート鋼板に対する需要が強い。耐熱プレコート鋼板の塗膜には、400℃以上の耐熱温度,2〜4t程度の180度折曲げ加工によっても塗膜剥離が生じない加工性が要求される。塗膜の強化方法としては、アルキル基,アルケニル基,フェニル基を配合したシリコーン樹脂塗料を用い、シロキサン結合のネットワーク構造を形成する方法がある(特許文献3,4)。
特開昭63-172640号公報 特開平2-265742号公報
シリコーン樹脂は、従来の有機樹脂に比較して耐熱性に優れたシロキサン結合を主骨格にしているが、樹脂に導入される有機基の種類や含有量によって樹脂塗膜の特性が大きく変動する。一般的には、シリコーン樹脂中の有機基の含有量を減らすと、耐熱性が向上するものの加工性が低下する。この点、従来のシリコーン樹脂は、樹脂中の有機基比率が比較的高いためプレコート化に耐える加工性を有するが、400℃以上の高温域における耐熱性に劣る。しかも、400℃以上に加熱されると、樹脂中のSi-C65結合が徐々に切断され、発煙,異臭の原因となるベンゼンが少量ながらも放出される。
そこで、本出願人は、耐熱性に優れたプレコート鋼板用の塗料として、モノメチルシラノールゾルにエポキシ樹脂,イソシアネートを配合した塗料を提案した(特許文献5)。提案の塗料は、シリコーン樹脂中の有機基比率が比較的低いため400℃以上の耐熱性に優れており、少ない有機基比率に起因する加工性低下を有機樹脂の配合で防止しプレコート化を可能にしている。
特開平8-245922号公報
当該塗料を用いて製造された塗装鋼板から作製された製品では、使用初期に添加有機樹脂が加熱分解する嫌いがある。特にイソシアネートが加熱分解する際、特有の臭気や煙が発生する。添加有機樹脂が加熱分解した直後には、モノメチルシラノールから形成されるオルガノポリシロキサン樹脂もシロキサン結合の十分なネットワークを形成しておらず、一時的に不安定な皮膜状態を経る。そのため、異臭や発煙が懸念される用途、たとえば身近に使用される加熱調理機器,耐食性が要求される自動車排気系部材等では、添加有機樹脂の加熱分解及びオルガノポリシロキサン樹脂のネットワーク形成促進による耐食性向上を狙ってプレス加工後に400〜500℃に数分加熱する予備加熱を施した後で本製品に組み込む工程が採用される。
ところで、本出願人は、バルブメタルの酸化物,水酸化物を主成分とするクロムフリーの化成皮膜を介し、メチルシリコーン樹脂に鱗片状粉末を配合した塗料から成膜される塗膜を鋼板の片面又は両面に設けた塗装鋼板を紹介した(特許文献6)。この塗装鋼板は、塗膜に分散している鱗片状粉末により優れた加工性及び加熱後の塗膜密着性を示す。しかし、鱗片状粉末の添加は塗料のコスト上昇や塗膜の光沢低下等をもたらすので、鱗片状粉末添加の代替として、加熱時に煙,異臭等の有害成分が発生せず、加工性,耐熱性に優れ且つクロムを使用しない新規技術が望まれる。
特開2004-52000号公報
そこで、各種塗装前処理やクロムフリー化成処理の適用を検討すると共に、密着性向上成分と考えられる組成物を選択し、クロムフリーの化成皮膜に複合添加してみた。密着性向上に寄与する組成物,化成皮膜等には、以下のものが挙げられる。
・水溶性有機カルボン酸を含む金属処理用組成物(特許文献7)
・水溶性又は水分散性の有機ポリマー又はポリマー生成樹脂を含む化成皮膜(特許文献8)
・水溶性過酸化物を含むAl含有金属材料用表面処理液(特許文献9)
・有機皮膜形成剤を含むAl,Al合金用化成処理液(特許文献10)
・ポリアクリレート又はポリ(ビニルフェノール)とアルデヒド及びヒドロキシ官能性有機アミンとの反応生成物から合成されたポリマーを含むAl合金用クロムフリー処理液(特許文献11)
・水溶性有機質ポリマー,水分散性有機質ポリマー,ポリマー形成樹脂を含む金属表面処理用組成物(特許文献12)
特開平7-197273号公報 特開平11-6077号公報 特開平9-20984号公報 特表平9-511548号公報 特表平8-510505号公報 特表平10-505636号公報
前掲の塗装前処理剤,金属表面処理用組成物,化成皮膜で付与される特性を調査した結果、何れも300〜400℃の加熱で煙や臭が発生した。また、メチルシリコーン樹脂塗料から成膜された塗膜の密着性は、300℃以上に加熱された後で著しく低下した。加熱時の煙や臭,加熱後の密着性不良は、有機成分の熱分解が原因であろう。したがって、加熱時に煙や臭が発生せず、加熱後に密着性が低下しないためには、有機成分を全く含まない化成皮膜が必須である。
ところで、鋼板の表面処理に際し、有機樹脂やクロメート皮膜にシリカ成分を複合添加することは古くから知られている。たとえば、フッ素,リンを含むシリカ-有機樹脂複合皮膜を設けた鋼板(特許文献13),熱処理で改質したAl含有亜鉛めっき鋼板上に設けたシリカ-有機樹脂複合皮膜(特許文献14),ヒュームドシリカ等のシリカ含有を許容する塗料組成物(特許文献15),シリカ含有塗布型クロメート皮膜を設けた多層めっき鋼材(特許文献16)等がある。しかし、化成皮膜にシリカを分散させ、Al-Si合金めっき鋼板に対するメチルシリコーン樹脂塗膜の密着性を改善する試みはこれまでのところ報告されていない。
特開2000-263695号公報 特開2002-205355号公報 特開平5-279600号公報 特開平3-87381号公報
予備加熱の必要なく成形加工された耐熱プレコート鋼板をそのまま各種機器に組み込めると、製造工程が簡略化され、製品コストも低減できる。臭気や煙を予め除去する予備加熱を省略でき耐熱性も良好な塗膜を形成できる耐熱塗料としては、フェニル基を有するシリコーン樹脂に代えてメチルシリコーン樹脂をベースに使用することが考えられる。しかし、メチルシリコーン樹脂をベースとする塗膜の性能は、プレコート鋼板を300〜400℃の温度域に加熱したとき短時間で著しく低下する。塗膜性能の低下は、次のように推察される。
シリコーン樹脂に含まれているSi-CH3結合は、300〜350℃の加熱で分解反応を開始する。他方、シラノール基(Si-OH)間の脱水縮合反応によりSi-O-Siのシロキサン結合を進行させてネットワーク構造を十分発達させるためには、400℃以上の高温長時間加熱が必要である。そのため、メチルシリコーン樹脂単独の系が300〜400℃の中間温度域に加熱されると、Si-CH3結合が加熱分解するものの、ネットワーク構造の形成に必要なSi-O-Siのシロキサン結合が十分に進行しない。すなわち、メチルシリコーン樹脂から成膜された塗膜は、一時的に不安定な皮膜状態になる。
また、加熱調理器具等の実使用状態では、食品類や調味料の飛散・付着が予想される。食品類や調味料は、NaCl,ミネラル,有機酸,硫酸イオン等を多く含み、酸性のものが多く、中にはpH3以下の強酸性調味料もある。付着した食品類の腐敗によるpH低下も懸念される。つまり、付着した食品類や調味料が腐食性因子となって、加熱調理器具等の構成材料である鋼板が過酷な腐食雰囲気に曝される。耐熱プレコート鋼板を加熱調理器具等の素材に使用する場合、所定形状に成形加工した後で空焼き(予備加熱)工程を経ずに製品に組み込むことがある。この場合、加熱調理器具等の使用中に耐熱プレコート鋼板が加熱されるが、幅広い温度域での後加熱が余儀なくされ、熱源から離れたコーナー部,合せ部等では後加熱温度が低いため塗膜強化に必要なネットワーク構造が十分に形成されない。
メチルシリコーン樹脂塗料から成膜された塗膜の特性に関し、本発明者等はクロムフリーの化成皮膜の成分が及ぼす影響に着目し、種々の成分を添加した化成皮膜と塗膜物性との関係を調査・検討した。その結果、シリカゾル,フュームドシリカ等のシリカ成分を添加した化成皮膜と特定の基材,樹脂塗膜とを組み合わせることが有効であることを解明した。
本発明は、化成皮膜,基材,樹脂塗膜の組合せに関する知見をベースとし、予備加熱や後加熱を省略しても使用時に異臭や煙の発生がなく、耐食性,加工性,耐食品汚染性に優れた耐熱プレコート鋼板を提供することを目的とする。
本発明の耐熱プレコート鋼板は、Al-Si合金めっき鋼板を基材とし、バルブメタルであるTi,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,Wから選ばれた一種又は二種以上の酸化物,水酸化物を主体としシリカゾル,フュームドシリカ等のシリカ成分を含む化成皮膜を介し、一般式(CH3)aSiO(4-a-b)/2(OH)bで表されるメチルシリコーン樹脂から成膜された塗膜が基材の片面又は両面に設けられている。式中、aは0.5〜1.5,bは0.5〜1.05の範囲にある値である。
基材としては、めっき層全体としてのSi含有量が5〜13質量%,めっき層表層のSi含有量が7〜80質量%のAl-Si合金めっき鋼板が好適である。樹脂塗膜には、耐熱性やバリヤー性の向上,着色,光沢調整等のためにアルミフレーク,ステンレス鋼フレーク,ガラスフレーク,アルミナフレーク,マイカ粉,タルク粉,板状カオリン,硫酸バリウムフレーク等の鱗片状粉末や、無機着色顔料,無機体質顔料等を分散させても良い。
実施の形態
Al-Si合金めっき鋼板の原板には低炭素鋼、中炭素鋼、高炭素鋼、合金鋼等があるが、良好なプレス成形性が要求される用途では低炭素Ti添加鋼,低炭素Nb添加鋼等の深絞り用鋼板が好適である。溶融アルミニウムめっきは常法に従って実施されるが、Al-Si合金めっき層全体としてのSi含有量を5〜13質量%の範囲に調整することが好ましい。Si含有量を5質量%以上とすることにより、めっき層表層にSiが濃化しやすくなると共に、加工性に有害な合金層が下地鋼/めっき層の界面に生成・成長することが抑制される。しかし、13質量%を超えるSi含有量では、溶融めっき後の冷却過程で初晶Siがめっき層に晶出し、加工性が著しく劣化する。
Si:5〜13質量%のAl-Si合金めっき鋼板を溶融めっき浴から引き上げ、冷却速度等の冷却条件の調整によって溶融めっき層の表層にSiを濃化させた後、酸洗,アルカリ洗浄等を施すと金属Si主体の凸部,Alリッチの凹部が溶融めっき層の表面に形成される。酸洗,アルカリ洗浄等で金属Si主体の凸部,Alリッチの凹部を形成する場合,水洗・乾燥工程が必要になる。Alに対してエッチング作用のある化成処理液を使用する場合、化成処理液を溶融めっき層に塗布して乾燥させる化成皮膜の生成過程で表層のAlが選択的にエッチング除去され、酸洗やアルカリ洗浄に依らずともAlリッチの凹部が形成される。
金属Si主体の凸部,Alリッチの凹部が溶融めっき層の表層に分布している状況は、AES分析法で1000μm四方の領域を操作・分析し、同様にArスパッタでめっき層表面から100nmの深さまで繰返し分析することにより確認できる。本発明者等による実験結果から,溶融めっき層の表面から深さ100nmまでの表層域におけるSi濃度を7質量%以上にすると、平坦部耐食性,加工部耐食性が目標レベルに達することが判った。しかし、表層域のSi濃度が80質量%を超えるまでにAlがエッチング除去されると、めっき層の表層が脆くなり、プレス加工時等の際に鋼板が変形すると化成皮膜が脱落しやすくなる。
Al-Si合金めっき鋼板に化成処理液を塗布し、水洗せずに乾燥することにより化成皮膜が形成される。化成処理液はバルブメタルを含む限り塗布型,反応型の何れでも良いが、反応型化成処理液では処理液の安定性を維持する上でpHを若干低く調整する。バルブメタルは、酸化物が高い絶縁抵抗を示す金属を指し、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,Wから選ばれた一種又は二種以上が使用される。
たとえば、バルブメタルとしてチタンを含む化成処理液では、TiCl4,(NH4)2TiF6,TiOSO4,Ti(SO4)2,Ti(OH)2,K2[TiO(COO)2],XnTiF6(X:アルカリ金属又はアルカリ土類金属,n:1又は2)がTiソースに使用される。TiF6 2-+4H2O→Ti(OH)4+6F-等の反応に従って化成皮膜の最終的な主成分がバルブメタルの酸化物,水酸化物となる限り、フッ化物,硫酸塩等もTiソースに使用できる。
化成処理液には、シリカゾル,フュームドシリカの一種又は二種がシリカ成分として含まれる。シリカゾルはコロイダルシリカ,湿式シリカとも呼ばれ、水分散体やアルコール分散体として市販されている。シリカゾルは、無定型シリカ粒子が水中に分散してコロイド状になっており、粒子表面にSi-OH基やOH-イオンが存在している。フュームドシリカは乾式シリカとも呼ばれ、高純度の四塩化珪素を酸水素炎中で高温加水分解させることにより製造される。フュームドシリカの粒子内はシリカ成分であるが、粒子表面がSi-OH基で覆われており、Si-OH基の個数は製造直後で1.5個/nm2とも言われている。
バルブメタルの酸化物,水酸化物を主成分とする化成皮膜に含ませたシリカゾルやフュームドシリカは、表面のSi-OH基とバルブメタルの水酸化物との間で脱水縮合し、Si-O-Siの強固な結合を形成する。また、シリカゾルやフュームドシリカの表面に残存するSi-OH基は、水素結合基による密着性向上効果が極めて大きく、Al-Si合金めっき鋼板の表面や化成皮膜を構成するバルブメタルの酸化物,水酸化物,更にはメチルシリコーン樹脂との間で強いインターアクションを起こすと考えられる。
バルブメタルの酸化物,水酸化物を主成分とする化成皮膜に対するシリカ成分の添加効果で最も特徴的なことは、メチルシリコーン樹脂をベースとする塗膜をもつ耐熱プレコート鋼板が300〜400℃に加熱されたとき塗膜性能の著しい低下を防止できることにある。塗膜の密着性低下は樹脂に含まれているSi-CH3結合が300〜350℃の加熱で分解反応を開始するものの、シラノール基(Si-OH)間の脱水縮合反応によるSi-O-Siのシロキサン結合が十分に進行しないためであるが、バルブメタルの酸化物,水酸化物を主成分としシリカ成分とが共存する化成皮膜を介在させると、300〜400℃の加熱によっても塗膜性能の低下がない。これは、シリカ成分の表面を覆っているSi-OH基が樹脂塗膜中のSi-OH基やSi-O-Siとの間で強固な水素結合を形成し、化成皮膜と樹脂塗膜の間でSi-OH基の脱水縮合反応が起きることが原因と考えられる。
化成処理液に対するシリカ成分の添加量は、バルブメタルの金属原子を1として総重量比:0.01〜0.45の範囲で選定することが好ましい。0.01未満ではシリカ成分の添加効果が十分でなく、0.45を超えると化成皮膜が脆くなり却って密着性が低下する。
バルブメタルの酸化物,水酸化物からなる化成皮膜は、電子の移動に対する抵抗体として働き、雰囲気中の水分に含まれている溶存酸素による還元反応(下地鋼との酸化反応)を抑制する。高い絶縁抵抗を示すバルブメタルの酸化物は、腐食促進因子や水,プロトン,酸素等の腐食作用を呈する物質を効果的に遮蔽する。その結果、下地鋼からの金属成分の溶出(腐食)が防止される。
腐食抑制作用は、化成皮膜にシリカゾル,フュームドシリカ等のシリカ成分を含ませることにより更に向上する。シリカ成分が腐食抑制に及ぼす影響は、次のように説明できる。シリカ成分の表面にあるSi-OH基は、バルブメタルの水酸化物と同様に、メチルシリコーン樹脂に十分なネットワーク構造が形成されるまでの300〜400℃の中間温度域でシラノール基(Si-OH)又はシロキサン結合(Si-O)と水素結合する。一部、化成皮膜のSi-OH基とメチルシリコーン樹脂のSi-OH基が脱水縮合し、Si-O-Si結合を形成することもある。その結果、化成皮膜に塗布されたメチルシリコーン樹脂との密着性が著しく向上し、300〜400℃の中間温度域における耐食品汚染性,耐食性が飛躍的に向上する。
ロールコート法,スピンコート法,スプレー法等で化成処理液をAl-Si合金めっき鋼板に塗布し、水洗せずに乾燥することにより化成皮膜が形成される。常温乾燥も可能であるが、連続操業を考慮すると50℃以上に保持して乾燥時間を短縮することが好ましい。しかし、乾燥温度が高くなるほど化成皮膜に含まれているバルブメタルやシリカ成分の水酸化物が減少するので、乾燥温度の上限を300℃とすることが好ましい。化成処理液の塗布量は、十分な耐食性を確保するため好ましくはTi換算付着量で1mg/m2以上とする。なお、化成処理に先立って、Al-Si合金めっき鋼板は必要に応じアルカリ脱脂される。
化成皮膜形成後、直ちにメチルシリコーン樹脂塗料を塗布し、焼付け乾燥によって樹脂塗膜を形成する。樹脂塗料の塗布にはスプレー法,ロールコート法,バーコート法等が採用され、塗膜硬度を保証し加工密着性を確保するため好ましくは150〜300℃の範囲で加熱・乾燥する。300℃を超える高温乾燥では、耐食品汚染性,耐食性に悪影響が現れるだけでなく、塗膜の加工性も損なわれプレコート鋼板としての特性が得られない。樹脂塗膜は、耐食性,加工密着性を勘案して2〜15μm(好ましくは、10μm以下)の範囲の膜厚に調節される。膜厚:2μm以上で耐食性の改善効果がみられるが、15μmを超える厚膜では塗膜の加工密着性が低下する。
メチルシリコーン樹脂は、一般式(CH3)aSi(4-a-b)/2(OH)bの化合物である。指数a,bは、ブロッキングを起こすことなく塗膜に必要硬度を付与し、長時間焼付けを必要とせずにコイルでの連続塗装を可能にするためa=0.5〜1.5,b=0.5〜1.05の範囲に調整することが好ましい。a<0.5では塗膜の加工密着性が低下し、a>1.5では耐熱性が劣る。b<0.5では、塗装原板に配向した水酸基との脱水縮合で結合する起点が少なくなるため加工密着性が低下し,塗膜の硬化性も劣る。逆にb>1.05では、焼成時に三次元架橋が過度に進行して塗膜の加工密着性が低下する。
メチルシリコーン樹脂には、焼成顔料,着色顔料,体質顔料,金属粉,鱗片状粉末等、各種添加材を単独又は複合添加できる。着色顔料には、Mn,Fe,Cr,Cu,Ti等の酸化物や複合酸化物、グラファイト,カーボンブラック等がある。防錆顔料には、従来のクロム系顔料の他に、環境を考慮したモリブデン酸カルシウム,リンモリブデン酸カルシウム,リンモリブデン酸アルミニウム等の非クロム系顔料も使用できる。金属粉には、Ni,Co,Cu等がある。鱗片状粉末には、アルミフレーク,アルミナフレーク,ステンレス鋼フレーク,ガラスフレーク,マイカ粉,タルク粉、板状カオリン,硫酸バリウムフレーク等、500℃以上の耐熱性をもつものが好ましい。添加剤により触媒機能等を付与することも可能であり、この種の添加剤としてはTiO2を初めとする光触媒がある。
板厚:0.4mmの極低炭素鋼板を溶融めっきし、付着量:60g/m2でSi:6〜11質量%のAl-Si合金めっき層を形成した。得られたAl-Si合金めっき鋼板を原板に使用し、バルブメタルの化合物を種々の比率で含む化成処理液を塗布した後、水洗せずにオーブンに装入し、最高到達板温:200℃で乾燥することによりバルブメタルの酸化物,水酸化物を主成分としシリカ成分を含む化成皮膜を形成した。
化成皮膜形成後、直ちに樹脂塗料をバーコート法で塗布し、最高到達板温:220℃で加熱焼成することにより、乾燥膜厚:7μmの塗膜を形成した。樹脂塗料には、一般式(CH3)0.95Si1.05(OH)0.95のメチルシリコーン樹脂をベースとし、樹脂の合計質量:100質量部に対し黒色顔料(MnCuCrOx焼成顔料):70質量部を配合した塗料を使用した。
原板のAl-Si合金めっき層,化成処理液の組成を表1に示す。
Figure 0004777705
得られた塗装鋼板から試験片を切り出し、加工試験,腐食試験に供した。
加工試験では、試験片を180度曲げ加工(4〜6t)し、加工部に粘着テープを貼り付けた後で瞬時に引き剥がすテープ剥離試験で塗膜の剥離状況を調査した。剥離がほとんど検出されない塗膜を○,点状の剥離が著しく生じた塗膜を△,下地鋼から剥離した塗膜を×として加工密着性を評価した。
腐食試験では,未加熱の試験片の他に300℃×10時間,400℃×10時間,500℃×100時間で加熱した試験片も用意した。JIS Z2371に準拠した塩水噴霧試験を100時間継続した後、テープ剥離試験で各試験片の塗膜密着性(二次密着性)を調査した。剥離がほとんど検出されない塗膜を○,点状の剥離が著しく生じた塗膜を△,全面剥離した塗膜を×として二次密着性を評価した。
更に、未加熱,300℃×10時間,400℃×10時間,500℃×100時間加熱の各試験片を食品汚染試験に供した。食品汚染試験では、ケチャップ,醤油,マヨネーズを当量づつ混合した調味料を試験片に1g滴下し、試験片を水平に維持したままで60℃,98%RHの恒温恒湿槽に装入した。恒温恒湿槽で5時間保持した後,室温に19時間放置した。そして、調味料滴下→高温高湿保持→室温放置を1サイクルとし、3サイクル繰り返した後で試験片をテープ剥離試験にかけ、塗膜密着性を調査した。剥離がほとんど検出されない塗膜を○,点状の剥離が著しく生じた塗膜を△,全面剥離した塗膜を×として耐食品汚染性を評価した。
加熱時の異臭や発煙の評価では、50mm角の試験片を500℃に達するまで加熱したときの臭や煙の発生状況を調査した。臭や煙が全くない試験片を○,臭や煙が僅かに発生した試験片を△,臭や煙が著しく発生した試験片を×と評価した。
表2の調査結果にみられるように、Al-Si合金めっき鋼板を塗装原板とし、シリカ成分を含む化成皮膜を介してメチルシリコーン樹脂塗膜を設けた本発明例No.1〜8は、加工密着性,耐食性,耐食品汚染性,異臭や発煙の抑制何れにおいても優れていた。
他方、化成処理せずに樹脂塗膜を直接形成した比較例No.10は加工密着性に劣り、未加熱状態や300〜400℃加熱後には耐食性,耐食品汚染性にも劣っていた。
シリカ成分を含まない化成皮膜を設けた比較例No.9も、加工密着性,300〜400℃加熱後の耐食性,耐食品汚染性に劣っていた。
タンニン酸を含む化成皮膜を設けた比較例No.11は、加熱後の耐食性,耐食品汚染性に劣っており、500℃に加熱したとき異臭や煙が著しく発生した。
エポキシ樹脂,フュームドシリカを含む化成皮膜を介してメチルシリコーン樹脂塗膜を設けた比較例No.12は、加工密着性,未加熱状態での耐食性,耐食品汚染性は良好であったが、加熱後の耐食性,耐食品汚染性に劣っていた。比較例No.12でも、500℃に加熱したとき異臭や煙が著しく発生した。
Figure 0004777705
以上に説明したように、Al-Si合金めっき鋼板を基材とし、バルブメタルの酸化物,水酸化物を主成分としシリカ成分を含む化成皮膜を介し、メチルシリコーン樹脂塗料から成膜された塗膜を積層することにより、300〜400℃の中間温度域においても優れた耐熱性を呈し、加熱後にも十分な耐食性,耐食品汚染性を維持する耐熱プレコート鋼板が得られる。この耐熱プレコート鋼板は、予備加熱や後加熱を必要とせず所定形状に加工したまま各種機器に組み込むことができ、使用時に異臭や発煙がないため加熱調理器具,暖房機器,空調機器,自動車排ガス流路部材等の素材として重宝される。

Claims (2)

  1. Al-Si合金めっき鋼板の片面又は両面に化成皮膜を介し樹脂塗膜が設けられているプレコート鋼板であり、
    化成皮膜は、バルブメタルであるTi,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,Wから選ばれた一種又は二種以上の酸化物,水酸化物を主成分とし、シリカゾル,フュームドシリカの一種又は二種を含み、
    樹脂塗膜は、一般式(CH3)aSi(4-a-b)/2(OH)b〔ただし、a=0.5〜1.5,b=0.5〜1.05〕で表されるメチルシリコーン樹脂塗料から成膜された塗膜であることを特徴とする耐熱プレコート鋼板。
  2. Al-Si合金めっき鋼板が表層Si濃度:7〜80質量%のAl-Si合金めっき層を有している請求項1記載の耐熱プレコート鋼板。
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