JP4756856B2 - ガラス組成物およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、脱泡清澄の容易なガラス組成物に関し、特に情報表示装置などに好適に用いられるガラス基板などに適したガラス組成物と、その製造方法に関する。
情報表示装置、特にアクティブマトリクス型液晶表示装置の基板に用いられるガラス組成物には、これまで無アルカリのホウケイ酸ガラス組成物が用いられてきた。この無アルカリホウケイ酸ガラスの代表例としては、米国コーニング社のコード7059などが挙げられる。
このような表示装置は、近年、大型なものが求められるようになっており、そのガラス基板の面積もまた大型化している。この表示装置の製造において、そのガラス基板に泡などの欠点が存在すると、製造歩留まりが大きく低下してしまう。
一般に、ガラス物品の製造過程において、ガラス物品に泡などが残留しないようにすることを清澄するという。また、ガラス融液を清澄するために、融液に清澄剤を添加する方法がごく一般に知られている。この清澄剤としては、酸化ヒ素,酸化アンチモンやフッ化物が周知である。また、スズやランタノイドなどやそれらの化合物を周知な清澄剤の代替として用いる方法が、例えば特開2003−192377号公報で開示されている。
一方、清澄剤によらない清澄法としては、減圧脱泡法がある。この方法では、ガラス融液を減圧雰囲気に保持する。そうすると、融液中に溶解していた気体は泡を形成しやすくなる。また、減圧によって融液中に存在する泡が膨張し、浮力が大きくなり浮上して融液表面で消失する。この2つの作用によって清澄を行なう方法である。この減圧脱泡法の一例は、特開2003−160340号公報に開示されている。
また清澄剤によらない別の清澄法が、特開2003−300750号公報に開示されている。この公報で開示されている方法は、熔融したガラス組成物にヘリウム、ネオンなどのガスを含有させることにより清澄する方法である。
特開2003−192377号公報 特開2003−160340号公報 特開2003−300750号公報
しかし、無アルカリホウ珪酸ガラス組成物に代表される情報表示装置基板用ガラス組成物は、熔融時の融液の粘性(以下、高温粘性と呼ぶ)が高いという特徴がある。粘性の高い融液の脱泡・清澄は難しいので、これらのガラス組成物を用いたガラス基板の泡などの欠点を低減させることは元来困難である。
このような粘性の高いガラス組成物を脱泡・清澄させるために、上述した酸化ヒ素,酸化アンチモンやフッ化物が、清澄剤として用いられている。しかし、近年の環境意識の高まりのなかで、酸化ヒ素を使用すると、環境に与える負荷が大きいとの指摘が強くなってきている。したがって、これら周知な清澄剤の使用を極力控えるべきである。
また、特開2003−192377号公報で開示されている実施例の多くに、周知な清澄剤であるSb23が含まれている。つまり、同公報で開示されている代替清澄剤は、周知な清澄剤を完全に置き換えることができていない。
一方、特開2003−160340号公報に開示されている真空脱泡法には、以下のような問題点がある。すなわち、
・高低差を設けた複雑な構造の熔解炉が必要であること
・熔解する高い温度で気密を保つ必要があること
・高価な白金類による内張りが必要であること
・耐火物の目地を塞ぐための特殊な構造や作業が必要であること
・特殊な構造を維持するための頻繁な補修が必要であること
・熔解炉の稼働率が低いこと
などの問題点である。
さらに、特開2003−300750号公報に開示されている熔融ガラスにガスを含有させる方法は、大規模な生産には不向きである。なぜなら、同方法に用いるガスは高価であり、大量生産においては多量に使用するので、製造コストが高くなるからである。
なお、上述した表示装置の基板に用いられるガラス組成物には、以下の特性が求められる。
(1)熱膨張係数がシリコン材料のそれに近似していること。アクティブマトリクス用のトランジスタにはシリコン材料が用いられるからである。なおシリコンの熱膨張係数は約32×10-7-1である。
(2)高温に耐え得ること。上述のトランジスタの製造プロセスにおいて、ガラス基板は熱処理に曝される。その熱処理に対して、ガラス組成物が変形,融解や失透を起こさないことが必要である。
(3)プロセスの処理液に侵されないこと。上述のトランジスタの製造プロセスにおいて使われるフッ酸などの化学薬品に対して、ガラス組成物が不適切に溶解,白濁したりしないことが必要である。
(4)アルカリ成分の溶出が少ないこと。アルカリ成分の溶出が多いガラス組成物を用いたガラス基板を用いると、上述した製造プロセスの過程で、多量のアルカリ成分が、ガラス基板から上述のトランジスタへ拡散してしまう。アルカリが多量に拡散することによって、このトランジスタが劣化し、結果として表示装置の性能を損なってしまう。なお、アルカリ成分のうち、特にナトリウム成分が、とりわけ大きな影響を与える。
これらの状況に鑑み、本発明は容易かつ安価に脱泡清澄が可能であり、情報表示装置、特にアクティブマトリクス型液晶表示装置のガラス基板として好適に用いられるガラス組成物の提供を目的とする。
本発明の情報表示装置用ガラス基板は、請求項1に記載の発明として、質量%で示して、
SiO2 70〜88%,
23 6〜18%,
Al23 0.5〜4.5%,
Li2O 0〜0.5%,
Na2O 0〜0.5%,
2O 2〜10%,
MgO+CaO+SrO+BaO 0〜2%,
を含み、所定の含有率の範囲の塩素を含むことを特徴とするガラス組成物からなるガラス板を用いた情報表示装置用ガラス基板である。
請求項2に記載の発明として、質量%で示して、
SiO2 75〜82%,
23 10〜15%,
Al23 0.5〜3%,
Li2O 0〜0.5%,
Na2O 0〜0.5%,
2O 4〜8%,
Li2O+Na2O+K2O 5〜8%,
を含むガラス組成物からなるガラス板を用いた情報表示装置用ガラス基板である。
請求項3に記載の発明として、質量%で示して、
SiO2 75〜82%,
23 10〜15%,
Al23 0.5〜3%,
2O 5〜8%,
を含み、実質的にLi2OおよびNa2Oを含まないガラス組成物からなるガラス板を用いた情報表示装置用ガラス基板である。
請求項4に記載の発明として、塩素含有率が、質量%で示して0.005〜1%であるガラス組成物からなるガラス板を用いた情報表示装置用ガラス基板である。
請求項5に記載の発明として、Pb,Sb,As,V,Ti,およびCeの何れの酸化物をも実質的に含まないガラス組成物からなるガラス板を用いた情報表示装置用ガラス基板である。
請求項6に記載の発明として、50〜350℃の範囲における平均線熱膨張係数が30〜50×10-7-1であるガラス組成物からなるガラス板を用いた情報表示装置用ガラス基板である。
請求項に記載の発明として、上述のガラス基板を用いた情報表示装置である。
請求項に記載の発明として、所定の組成になるように調合した、塩化物を含有するガラス原料からなるバッチを、熔融することによって、質量%で示して、
SiO2 70〜88%,
23 6〜18%,
Al23 0.5〜4.5%,
Li2O 0〜0.5%,
Na2O 0〜0.5%,
2O 2〜10%,
MgO+CaO+SrO+BaO 0〜2%,
を含み、所定の範囲の塩素を含むガラス組成物からなるガラス板を製造することを特徴とする情報表示装置用ガラス基板の製造方法である。
請求項に記載の発明として、質量%で示して、
SiO2 75〜82%,
23 10〜15%,
Al23 0.5〜3%,
Li2O 0〜0.5%,
Na2O 0〜0.5%,
2O 4〜8%,
Li2O+Na2O+K2O 5〜8%,
を含むガラス組成物からなるガラス板を製造する、情報表示装置用ガラス基板の製造方法である。
請求項10に記載の発明として、質量%で示して、
SiO2 75〜82%,
23 10〜15%,
Al23 0.5〜3%,
2O 5〜8%,
を含み、実質的にLi2OおよびNa2Oを含まないガラス組成物からなるガラス板を製造する、情報表示装置用ガラス基板の製造方法である。
請求項11に記載の発明として、前記塩素含有率が質量%で示して0.005〜1%であるガラス組成物からなるガラス板を製造する、情報表示装置用ガラス基板の製造方法である。
請求項12に記載の発明として、塩化物がアルカリ金属塩化物またはアルカリ土類塩化物であるガラス組成物からなるガラス板を製造する、情報表示装置用ガラス基板の製造方法である。
請求項13に記載の発明として、塩化物が塩化カリウム(KCl)であるガラス組成物からなるガラス板を製造する、情報表示装置用ガラス基板の製造方法である。
請求項14に記載の発明として、Pb,Sb,As,V,Ti,およびCeの何れの酸化物をも実質的に含まないガラス組成物からなるガラス板を製造する、情報表示装置用ガラス基板の製造方法である。
請求項15に記載の発明として、50〜350℃の範囲における平均線熱膨張係数が30〜50×10-7-1であるガラス組成物からなるガラス板を製造する、情報表示装置用ガラス基板の製造方法である。
本発明のガラス組成物における各成分の限定の理由は以下の通りである。なお、以下、質量%を単に%と略記する。
(SiO2
SiO2は、ガラスの骨格を形成する必須成分である。SiO2の含有率が70%未満では、ガラス組成物の耐熱性が低くなる。一方、SiO2の含有率が88%を超えると、ガラス融液の粘性が上昇し、熔解清澄が困難になる。したがって、SiO2の含有率は、70%〜88%である必要があり、75〜82%がより好ましい。
(B23
23は、ガラス組成物からのアルカリ溶出を増やさずに、ガラスの熔解性を改善する必須成分である。B23の含有率が6%未満では、ガラスバッチの熔解やガラス融液の清澄が困難になる。一方、B23はガラスの分相を促進する成分であるので、その含有率が18%を超えると、分相による化学的耐久性の悪化や乳白化を起こしやすくなり、耐熱性も低下する。したがって、B23の含有率は、6〜18%である必要があり、10〜15%がより好ましい。
(Al23
Al23はガラス組成物の耐熱性を高め、分相を抑制する必須成分である。分相を抑制する効果は、Al23の含有率が0.5%以上であるときに顕著である。しかし、Al23は熔解が困難であり、4.5%を超えるとガラス中に未溶解の異物として残存し、さらにガラス融液中の気泡を抜けにくくする。そのため、Al23の含有率は、0.5〜4.5%である必要があり、0.5%〜3%がより好ましい。
(K2O)
2Oはガラスの熔解性を高める必須成分であり、その含有率が2%未満ではガラスの熔解が困難になる。また、ガラス融液中に塩化物イオンが存在するときは、1400℃以上で塩化カリウムとして気化し、ガラス中の泡を拡大浮上させるとともに、その流動でガラス融液を均質化させる。さらに、Kイオンは、LiやNaイオンと比較してイオン半径が大きいために、ガラス物品中での移動速度が小さく、ガラス物品からのKイオンの溶出量は、ごく少量である。そのため、本発明のガラス組成物からなるガラス物品を用いた製品の性能が、溶出したKイオンによって損なわれる虞がない。
一方、K2Oはガラスの熱膨張係数を大きくする成分であり、10%を超えるとシリコン材料との熱膨張率の差が大きくなる。さらに、K2Oはガラス融液表面からホウ酸カリウムとして揮発する。ホウ酸カリウムが揮発すると、K2OおよびB23の含有率が、ガラス融液の表面と、表面以外の内部とで一致しなくなるので、ガラス融液の不均質が大きくなり、脈理の大きな原因となる。したがって、K2Oの含有率は、2〜10%である必要があり、4〜8%が好ましく、5〜8%がより好ましい。
(Na2O,Li2O)
Na2OおよびLi2Oは共にガラスの熔解性を高める成分であり、さらにK2Oと共存することで、ガラス組成物の化学的耐久性を高める効果を持つ。しかし、LiやNaイオンは、Kイオンと比較してイオン半径が小さいために、ガラス中での移動速度が大きい。そのためにガラス融液の分相を起こしやすい。さらに、本発明のガラス組成物からなるガラス物品を用いた製品において、徐々にガラス物品からLiやNaイオンが溶出し、製品の性能を損なう虞がある。また、Na2OやLi2Oは、K2Oと同じく熔解中にガラス融液表面からホウ酸塩として揮発しやすい。ホウ酸塩が揮発すると、ホウ酸カリウムの揮発と同様に、Na2OやLi2O,B23の含有率がガラス融液の表面と、表面以外の内部とで一致しなくなる。すると、ガラス融液の不均質が大きくなり、脈理の大きな原因となる。さらに、LiやNaイオンはガラス融液中における移動速度が大きいので、それらのイオンは上述の含有率の差を駆動力として拡散する。この拡散によって、ガラス融液の表面以外の内部において、Na2OやLi2O,B23の含有率が不均一になる。したがって、Na2O,Li2Oの含有率は、それぞれ0.5%以下である必要があり、さらには、実質的にNa2O,Li2Oを含有しないのが好ましい。
(アルカリ酸化物の合計量)
さらに、熔解を容易にするためにはLi2O,Na2OおよびK2Oのいわゆるアルカリ酸化物の含有率を、合計で5〜8%とするのが好ましい。
(アルカリ土類)
MgO,CaO,SrO,BaOなどのアルカリ土類は、ガラスの耐熱性を高め、ガラス中のアルカリの移動を妨げることにより分相を防ぎ、化学的耐久性を高める成分である。しかし、その含有率が合計で2%を超えると、熔解時の塩化物の揮発による清澄を妨げ、泡品質を悪化させる。したがって、アルカリ土類の含有率は、2%以下である必要があり、0.5%以下が好ましい。
(塩素および塩化物)
本発明のガラス組成物は、塩素(以下、Clと表記することがある)を含有するので、泡の残留の少ないガラス物品を得ることが容易である。塩素は、塩化物、特にアルカリ金属塩化物またはアルカリ土類塩化物を添加したガラス原料バッチを熔融することで、ガラス組成物に含有させることが好ましい。このようにすることで、ガラス融液に対する、塩素の効果的な清澄効果を実現することができる。
本発明のガラス組成物において、塩化物による清澄のメカニズムは、完全には解明されていないが、発明者は以下のように考えている。
塩化物、特にアルカリ金属塩化物の沸点は、本発明のガラス組成物の熔融に適した温度範囲、例えば1400℃〜1650℃に近似している。LiClの沸点は1325〜1360℃、NaClの沸点は1413℃であり、また、KClは1500℃で昇華する。つまり、本発明のガラス組成物の熔融に適した温度範囲において、それらアルカリ金属塩化物の蒸気圧が、大気圧に匹敵するほど高くなるものと考えられる。
したがって、本発明のガラス組成物を熔融しているとき、塩素はガラス融液中でアルカリと結合し、アルカリ金属塩化物の気体となり得る。このアルカリ金属塩化物の気体は、ガラス融液中で気泡を形成し、あるいはガラス融液中の気泡を拡大させることで、それらの気泡を浮上させ、ガラス融液表面で気泡が破れ、ガラス融液から除去される効果を持つ。このようなメカニズムにより、ガラス組成物が清澄される、と考えている。
一方、Clは、熔解後の残存量が多すぎると、成型中のガラス内部で凝縮し、塩化物の結晶を含んだ泡を形成したり、ガラスの分相や失透を起こしやすくしたりする。したがって、熔解、成形後のガラス組成物におけるClの含有率は、0.005〜1%であることが好ましく、0.005〜0.3%であることがより好ましい。
(含有しないことが好ましい成分)
本発明のガラス組成物においては、実質的にPb,Sb,As,V,Ti,およびCeの何れの酸化物を含まないことが、さらに好ましい。なぜなら、本発明のガラス組成物がこれらの化合物を含む場合、上述した塩素による清澄の効果が、阻害されてしまうことがあるからである。
本発明のガラス組成物において、上述の酸化物が清澄を阻害するメカニズムは、明らかではないが、発明者は以下の可能性を考えている。
上述の酸化物のうち、Pb,Sb,As,VおよびTiを陽イオンとする酸化物について、これらの金属を陽イオンとする塩化物の沸点は、本発明のガラス組成物の熔融に適した温度範囲と比較すると、非常に低い。したがって、ガラス原料バッチを熔融するとき、その初期、つまり、ガラス原料バッチが充分に熔解されていないときに、塩素の一部はこれらの金属塩化物の形で揮発してしまう。そして、清澄に適した温度に達したとき、ガラス融液中には、塩素は充分には残留していない。それゆえ、清澄効果が不足する可能性が考えられる。
他方は、Ceの酸化物である。Ceの塩化物の沸点は1727℃であり、上述のような問題は起こらないにも拘わらず、Clによる清澄を妨げる。この原因は明らかではないが、Ceイオンはガラス中で+3価と+4価の状態を取りうる。この価数の変化が、特定の温度,状況で起こり、Clの清澄性を妨げる可能性が考えられる。
(その他の成分)
本発明のガラス組成物は、屈折率の制御,温度粘性特性の制御,失透性の向上などを目的として、その他の成分として、上述の成分以外の成分を含有することができる。その他の成分として、Y23,La23,Ta25,Nb25,GeO2,またはGa25などの成分が、合計で3%を上限として含有されていてもよい。
なお、産業上利用し得るガラス原料に微量不純物として含まれ、上述に記載されていない成分が混入する場合もある。この微量不純物としては、Fe23を例示できる。これら不純物の合計含有率が0.5%未満の場合は、ガラス組成物の物性に及ぶ影響は小さく、実質上問題とならない。
本発明のガラス組成物によれば、泡などの欠点が少ないガラス板を安価に提供することができる。なぜなら、本発明のガラス組成物は、組成の組み合わせの効果が好ましく、また所定の範囲の塩素を含むため、従来の無アルカリホウケイ酸ガラスなどと比較して、熔融中の泡抜けが良好だからである。
また、本発明のガラス組成物は、好ましい組成の組み合わせにより、シリコンの熱膨張係数と近似した熱膨張係数を示す。この特徴により、本発明のガラス組成物からなるガラス板を用いた情報表示装置用ガラス基板は、シリコンとの熱膨張の差による反りや応力を生じにくい。
さらに、本発明のガラス組成物は、組成の好ましい組み合わせにより、フッ酸など化学薬品に対する耐久性に優れている。この特徴により、本発明のガラス組成物からなるガラス板は、情報表示装置用ガラス基板に好適に用いられる。なぜなら、この情報表示装置の製造プロセスにおいて、このガラス基板が薬品に曝らされても、このガラス基板は、不必要に侵されないからである。
また、本発明のガラス組成物は、その組成にNa2OやLi2Oを成分として少量しか含まない、あるいは実質的に含まないため、Na2OやLi2Oの溶出量が非常に小さい、あるいは実質的にゼロである。この特徴により、本発明のガラス組成物からなる情報表示装置用ガラス基板は、ガラス基板から溶出したアルカリ成分によって装置の性能を損なう虞がない。
本発明のガラス組成物の製造方法は、泡などの欠点の少ない高い品質のガラス板を、環境に対して小さな負荷で、また低いコストで、製造することができる。なぜなら、塩化物を用いて清澄するため、従来用いられてきた酸化ヒ素などの環境負荷の大きい清澄剤が不要であり、また減圧、希ガス雰囲気などの特殊な清澄技術を適用しなくてもよいからである。
以下、本発明の最良の実施形態について例を挙げて説明する。なお、本発明は下記に限定されるわけではない。
(実施例)
表1および2に示した組成になるように、ガラス体を以下の手順に従って作製し、得られたガラス体のガラス転移温度、線膨張係数、密度を測定した。
Figure 0004756856
Figure 0004756856
まず、表1および2に示すガラス組成となるように、通常のガラス原料である、シリカ,アルミナ,炭酸リチウム,炭酸ナトリウム,炭酸カリウム,塩化カリウム,塩基性炭酸マグネシウム,炭酸カルシウム,炭酸ストロンチウムおよび酸化ジルコニウムを用いて、ガラス原料バッチ(以下バッチと呼ぶ)を調合した。
このうち塩化カリウムは、揮発による含有率の低下が起こらないと仮定した場合に、ガラス組成物100g当たり0.4gとなる量を、バッチに添加した。なお、表に記載したCl量は、作製したガラス体を蛍光X線法によって定量分析した値である。
調合したバッチは、白金ルツボの中で熔融および清澄した。まず、このルツボを1350℃に設定した電気炉で2時間保持してバッチを熔融した。次に、その電気炉を2時間かけて1550℃まで昇温することで、ガラス融液の清澄を行なった。その後、ガラス融液を炉外で鉄板上に流し出し、冷却固化してガラス体を得た。このガラス体には引き続いて徐冷操作を施した。徐冷操作は、このガラス体を650℃に設定した別の電気炉の中で30分保持した後、その電気炉の電源を切り、室温まで冷却することによって行なった。この徐冷操作を経たガラス体を試料ガラスとした。
(密度の測定)
まず、純水を浸液として用いたアルキメデス法により、試料ガラスの密度を測定した。
(熱膨張係数およびガラス転移点の測定)
さらに、この試料ガラスに通常のガラス加工技術を用い、φ5mm、長さ15mmの円柱形状とし、ガラス試片とした。このガラス試片に対して示差熱膨張計(理学株式会社製サーモフレックス TMA8140型)を用い、熱膨張係数およびガラス転移点を測定した。
(失透温度の測定)
まず、上述した試料ガラスを粉砕して、失透温度測定用試料とした。つまり、メノウ乳鉢を用いて試料ガラスを粉砕し、2380μmの篩を通過し、1000μmの篩上に留まったガラス粒を篩い分けた。そのガラス粒をエタノールに浸漬し、超音波洗浄した後、恒温槽で乾燥させて、失透温度測定用試料とした。
次に、失透温度測定用試料を温度勾配炉の中に所定時間保持することで失透を発生させた。つまり、この試料の25g分を、幅12mm、長さ200mm、深さ10mmの白金ボート上に、ほぼ一定の厚さになるように入れた。続いてこの白金ボートを、980〜1180℃の温度勾配を持った電気炉内に2時間保持して失透を発生させ、白金ボートを炉から取り出し室温まで放冷した。
最後に、倍率40倍の光学顕微鏡を用いて、白金ボートのガラス内部に発生した失透を観察し、失透が観察された最高温度を失透温度とした。
(耐酸性の評価)
耐酸性は、フッ酸に曝したときのエッチングレート(侵食速度)で評価した。まず、上述の試料ガラスを切断、研削して基板状に加工した後に表面を光学研磨し、その光学研磨面の一部に耐酸性樹脂でマスキングを施して、耐酸性評価試片とした。次に、この試片を、60℃に加温した0.2%のフッ酸水溶液に浸漬し、エッチングした。試片のマスキングされた部分はエッチングされないが、マスキングされていない部分はフッ酸によりエッチングされるので、マスキングされた部分とされなかった部分との間に段差ができる。その段差を表面凹凸計で測定し、単位時間当りの侵食速度を計算することにより、耐フッ酸性を評価した。
(清澄性の評価)
上述の試料ガラスを、倍率40倍の光学顕微鏡で観察し、厚み、視野面積と観察された泡の数からガラス1cm3当りの泡数を算出した。この方法はルツボを用いた簡易な熔解なので、算出した泡数は、実際に商業規模で生産されるガラス体に含まれる泡数と比較して、非常に多い。しかし、この方法で算出した泡数が少ない程、商業規模で生産したガラス体に含まれる泡数も少ないことが分かっている。したがって、この方法は、清澄性の指標として利用できる。
表1および2に示すように、実施例1〜9の試料ガラスに残存する泡の数は、比較例と比較して非常に少ない。しかも、実施例の試料ガラスには、酸化ヒ素など環境負荷が大きい清澄剤を添加していない。したがって、本発明のガラス組成物によると、酸化ヒ素などを用いることなく、泡などの欠点の極めて少ないガラス基板を製造することができる。
また、実施例1〜9のガラス組成物は、フッ酸に対するエッチングレートが10〜25nm/minと非常に小さく、また、エッチング処理後に上述の耐酸性評価片は白濁したりしない。つまり、フッ酸によって不適切に侵されることがなく、耐酸性に優れている。したがって、本発明のガラス組成物からなる情報表示装置用ガラス基板は、情報表示装置の製造プロセスで用いられる薬品によって悪影響を受けることがない。
さらに、実施例1〜9のガラス組成物は、熱膨張係数が30〜50×10-7-1の範囲である。この値はシリコン材料の熱膨張係数(約32×10-7-1)と充分に近い。したがって、本発明のガラス組成物からなる情報表示装置用ガラス基板は、シリコン材料と共に用いられた際に、反りや応力を生じにくい。
また、実施例1〜9のガラス組成物のガラス転移点Tgは、全て500℃以上である。したがって、本発明のガラス組成物からなる情報表示装置用ガラス基板は、情報表示装置の製造プロセス中で曝される熱処理履歴に対して、変形,軟化や失透など不都合を起こさない。
なお、実施例1〜9のガラス組成物の密度は、何れも2.2〜2.3g・cm-3の範囲である。この値は比較例1やその他の無アルカリホウ珪酸ガラスや建築用フロート板ガラスの2.5〜2.8g・cm-3と比較して軽量である。したがって、本発明のガラス組成物からなる情報表示装置用基板は、情報表示装置の軽量化に用いることができる。
さらに、実施例1〜9のガラス組成物の失透温度は、何れも980℃未満である。この失透温度は、ガラス融液を冷却し固化させるときに、980℃未満まで失透が生じないことを意味している。したがって、本発明のガラス組成物から平面ガラス板を製造する際に、フロート法,ダウンドロー法,フュージョン法などの製法を採用することができる。なお、ここに列挙した製法の中で、特にフロート法は、大型で平坦性と表面粗さに優れたガラス板を多量に製造することができる。
(比較例1)
比較例1は、一般的に液晶用基板として用いられるガラス組成物と同じ組成のガラス体である。比較例1は、泡数が5000個/cm3と非常に多いので、比較例1の組成物は清澄性が悪い。さらに、比較例1のエッチングレートは590nm/minと非常に大きい。したがって、比較例1の組成のガラス基板を、製造,使用時に酸性の薬品,ガスによる処理が必要な用途に用いることは、好ましくない。
(比較例2)
比較例2のガラス体も、実施例と比較して泡が多く、清澄性に劣る。さらに、ガラス中での移動速度が高いナトリウムを含むため、ガラス体には揮発による脈理が生じていた。また、比較例2の組成のガラス基板を液晶表示装置用基板に用いると、ガラス基板からナトリウムが溶出し、電極や液晶の機能を阻害する虞がある。さらに、比較例2のエッチングレートは68nm/minと大きいので、比較例2の組成のガラス基板を、製造,使用時に酸性の薬品,ガスによる処理が必要な用途に用いることは、好ましくない。
(比較例3)
比較例3のガラス体は、泡数が実施例に近く、清澄性が高いといえる。しかし、ガラス中での移動速度が高いナトリウムを含むため、ガラス体には揮発と相分離による強い脈理が生じ、また膨張係数が51×10-7-1と大きい。したがって、比較例3の組成のガラス基板を液晶表示装置用基板に用いると、ガラス基板からナトリウムが溶出し、電極や液晶の機能を阻害するとともに、シリコンとの熱膨張差によって表示装置に反りを生じる虞がある。さらに、比較例3のエッチングレートは46nm/minと大きいので、比較例3の組成のガラス基板を、酸性の薬品やガスに曝すことが必要な用途に用いることは好ましくない。
以上の実施例および実施例から分かるように、本発明のガラス組成物は、清澄が容易で、30〜50×10-7-1の範囲の線膨張係数を持ち、耐酸性に優れている。また、本発明のガラス組成物からなる情報表示装置用基板は、特にアクティブマトリクス型液晶基板に適した大型の基板の、高歩留まりかつ高効率、低コストな生産に好適である。
本発明のガラス組成物は、耐薬品性や耐熱性、小さな熱膨張係数を要求される用途に用いることができる。さらに、酸化ヒ素や酸化アンチモンなどの環境負荷の高い成分を含まないガラス物品が求められる用途に用いることができる可能性がある。

Claims (15)

  1. 質量%で示して、
    SiO2 70〜88%,
    23 6〜18%,
    Al23 0.5〜4.5%,
    Li2O 0〜0.5%,
    Na2O 0〜0.5%,
    2O 2〜10%,
    MgO+CaO+SrO+BaO 0〜2%,
    を含み、所定の範囲の塩素を含むことを特徴とするガラス組成物からなるガラス板を用いた情報表示装置用ガラス基板
  2. 請求項1に記載の情報表示装置用ガラス基板であって、
    前記ガラス組成物は、質量%で示して、
    SiO2 75〜82%,
    23 10〜15%,
    Al23 0.5〜3%,
    Li2O 0〜0.5%,
    Na2O 0〜0.5%,
    2O 4〜8%,
    Li2O+Na2O+K2O 5〜8%,
    を含む、情報表示装置用ガラス基板
  3. 請求項2に記載の情報表示装置用ガラス基板であって、
    前記ガラス組成物は、質量%で示して、
    SiO2 75〜82%,
    23 10〜15%,
    Al23 0.5〜3%,
    2O 5〜8%,
    を含み、実質的にLi2OおよびNa2Oを含まない、情報表示装置用ガラス基板
  4. 請求項1〜3の何れか1項に記載の情報表示装置用ガラス基板であって、
    前記ガラス組成物は、記塩含有率が、質量%で示して0.005〜1%である、情報表示装置用ガラス基板
  5. 請求項1〜4の何れか1項に記載の情報表示装置用ガラス基板であって、
    前記ガラス組成物は、Pb,Sb,As,V,TiおよびCeの何れの酸化物を実質的に含まない、情報表示装置用ガラス基板
  6. 請求項1〜5の何れか1項に記載の情報表示装置用ガラス基板であって、
    前記ガラス組成物は、50〜350℃の範囲における平均線熱膨張係数が30〜50×10-7-1である、情報表示装置用ガラス基板
  7. 請求項1〜6の何れか1項に記載のガラス基板を用いた情報表示装置。
  8. 所定の組成になるように調合した、塩化物を含有するガラス原料からなるバッチを、熔融することによって、質量%で示して、
    SiO2 70〜88%,
    23 6〜18%,
    Al23 0.5〜4.5%,
    Li2O 0〜0.5%,
    Na2O 0〜0.5%,
    2O 2〜10%,
    MgO+CaO+SrO+BaO 0〜2%,
    を含み、所定の範囲の塩素を含むガラス組成物からなるガラス板を製造することを特徴とする情報表示装置用ガラス基板の製造方法。
  9. 請求項8に記載の情報表示装置用ガラス基板の製造方法であって、
    前記ガラス組成物は、質量%で示して、
    SiO2 75〜82%,
    23 10〜15%,
    Al23 0.5〜3%,
    Li2O 0〜0.5%,
    Na2O 0〜0.5%,
    2O 4〜8%,
    Li2O+Na2O+K2O 5〜8%,
    を含む、情報表示装置用ガラス基板の製造方法。
  10. 請求項9に記載の情報表示装置用ガラス基板の製造方法であって、
    前記ガラス組成物は、質量%で示して、
    SiO2 75〜82%,
    23 10〜15%,
    Al23 0.5〜3%,
    2O 5〜8%,
    を含み、実質的にLi2OおよびNa2Oを含まない、情報表示装置用ガラス基板の製造方法。
  11. 請求項8〜10の何れか1項に記載の情報表示装置用ガラス基板の製造方法であって、
    前記ガラス組成物は、前記塩素含有率が質量%で示して0.005〜1%である、情報表示装置用ガラス基板の製造方法。
  12. 請求項8〜11の何れか1項に記載の情報表示装置用ガラス基板の製造方法であって、
    前記塩化物がアルカリ金属塩化物またはアルカリ土類塩化物の何れかである、情報表示装置用ガラス基板の製造方法。
  13. 請求項8〜12の何れか1項に記載の情報表示装置用ガラス基板の製造方法であって、
    前記塩化物が塩化カリウムである、情報表示装置用ガラス基板の製造方法。
  14. 請求項8〜13の何れか1項に記載の情報表示装置用ガラス基板の製造方法であって、
    前記ガラス組成物は、Pb,Sb,As,V,TiおよびCeの何れの酸化物を実質的に含まない、情報表示装置用ガラス基板の製造方法。
  15. 請求項8〜14の何れか1項に記載の情報表示装置用ガラス基板の製造方法であって、
    前記ガラス組成物は、50〜350℃の範囲における平均線熱膨張係数が30〜50×10-7-1である、情報表示装置用ガラス基板の製造方法。
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