JP4453240B2 - 無アルカリガラス及びこれを用いたディスプレイ用ガラス基板 - Google Patents

無アルカリガラス及びこれを用いたディスプレイ用ガラス基板 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ等のフラットディスプレイ基板及び、電荷結合素子(CCD)、等倍近接型固体撮像素子(CIS)等のイメージセンサーや太陽電池用のガラス基板として適した無アルカリガラス及びそれを用いたディスプレイ用ガラス基板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ等のフラットディスプレイ基板として、ガラス基板が広く使用されている。
【0003】
特に薄膜トランジスタ型アクティブマトリックス液晶ディスプレイ(TFT−LCD)等の電子デバイスは、薄型で消費電力も少ないことから、カーナビゲーションや、デジタルカメラのファインダー、近年ではパソコンのモニターやTV用など、様々な用途に使用されている。
【0004】
TFT−LCDパネルメーカーでは、ガラスメーカーで成形されたガラス基板(素板)の上に複数個分のデバイスを作製した後、デバイス毎に分割切断して製品とすることによって、生産性の向上、コストダウンを図っている。近年、TVやパソコンのモニター等の用途においては、デバイスそのものにも大型のものが要求されており、これらのデバイスを多面取りするために、1000×1200mmといった大面積のガラス基板が要求されている。
【0005】
また携帯電話やノート型パソコンといった携帯型のデバイスにおいては、携帯時の利便性から、機器の軽量化が要求されており、ガラス基板にも軽量化が要求されている。ガラス基板の軽量化を図るには、基板を薄肉化することが有効であり、現在、TFT−LCD用ガラス基板の標準の厚みは約0.7mmと非常に薄くなっている。
【0006】
ところが、上記のような大型、薄肉のガラス基板は、自重によるたわみが大きく、そのことが製造工程において大きな問題になっている。
【0007】
すなわち、この種のガラス基板は、ガラスメーカーで成形された後、切断、徐冷、検査、洗浄等の工程を通過する。これらの工程中、ガラス基板は、複数段の棚が形成されたカセットに出し入れされる。このカセットは、左右の内側2面、あるいは左右および奥の内側3面に形成された棚に、ガラス基板の両辺、あるいは3辺を載置するようにして水平方向に保持できるようになっているが、大型で、薄型のガラス基板はたわみ量が大きいため、ガラス基板をカセットの棚に入れる際に、ガラス基板の一部が、カセットや他のガラス基板に接触して破損したり、カセットの棚からガラス基板を取り出す際に、大きく揺動して不安定となりやすい。またディスプレイメーカーにおいても、同じ形態のカセットが使用されているため、同様の問題が発生している。
【0008】
このようなガラス基板の自重によるたわみ量は、ガラスの密度に比例し、ヤング率に反比例して変化する。従ってガラス基板のたわみ量を小さく抑えるためには、ヤング率/密度の比で表される比ヤング率を高くする必要がある。比ヤング率を高めるためには、ヤング率が高く、しかも密度の低いガラス材質が必要となるが、同じ比ヤング率でも、より密度の低いガラスでは、軽くなる分だけ同一重量のガラスの板厚を厚くできる。ガラスのたわみ量は板厚の二乗に反比例して変化するので、板厚を厚くすることによるたわみ低減への効果は非常に大きい。ガラスの密度を下げることはガラスの軽量化を図る上でも大きな効果があるので、ガラスの密度はできるだけ小さい方が良い。
【0009】
一般に、この種の無アルカリガラスには、比較的多量のアルカリ土類金属酸化物が含有されている。ガラスの低密度化を図るためには、アルカリ土類金属酸化物の含有量を低減することが有効であるが、アルカリ土類金属酸化物はガラスの溶融性を促進させる成分であるため、その含有量を減らすと溶融性が低下する。ガラスの溶融性が低下すると、ガラス中に泡、異物等の内部欠陥が発生しやすくなる。ガラス中の泡や異物は、光の透過を妨げるため、ディスプレイ用ガラス基板としては致命的な欠陥となるが、このような内部欠陥を抑えるためには、ガラスを高温で長時間溶融しなければならない。
【0010】
しかしながら高温での溶融はガラス溶融窯への負担を増加させる。例えば、窯に使用されているアルミナやジルコニアといった耐火物は、高温になればなるほど激しく浸食され、窯のライフサイクルも短くなる。また、高温で使用可能な部材は限られるため、使用される全ての部材が割高になる。更に、窯の内部を常に高温に保つためのランニングコストは低温で溶融するガラスに比べて高くなる等、高温での溶融はガラスを生産する上で非常に不利なものであるため、低温で溶融することが可能な無アルカリガラスが求められている。
【0011】
また、この種のガラス基板にとっては耐熱衝撃性も重要な要求課題である。ガラス基板の端面には面取りを行ったとしても微細な傷やクラックが存在しており、熱による引張り応力が傷やクラックに集中して働くと、時としてガラス基板が割れることがある。ガラスの破損はラインの稼働率を下げるだけでなく、破損の際に生じた微細なガラス粉が別のガラス基板上に付着し、断線不良やパターニング不良等を引き起こす恐れが大きい。
【0012】
ところでTFT−LCDの最近の開発方向として、大画面化、軽量化以外に、高精細化、高速応答化、高開口率化などの高性能化が挙げられ、特に近年では、液晶ディスプレイの高性能化および軽量化を目的として、多結晶シリコンTFT−LCD(p−Si・TFT−LCD)の開発が盛んにおこなわれている。従来のp−Si・TFT−LCDでは、その製造工程温度が800℃以上と非常に高かったため、石英ガラス基板しか用いることができなかった。しかし最近の開発により、製造工程温度が400〜600℃まで低下しており、現在大量に生産されているアモルファスシリコンTFT−LCD(a−Si・TFT−LCD)と同様に、無アルカリガラス基板が用いられるようになってきた。
【0013】
p−Si・TFT−LCDの製造工程は、a−Si・TFT−LCDの製造工程に比べ、熱処理工程が多く、ガラス基板は急加熱と急冷が繰り返されるため、ガラス基板への熱衝撃はより一層大きくなる。更に、上記したようにガラス基板は大型化しており、ガラス基板に温度差がつきやすくなるだけでなく、端面に微少なキズ、クラックが発生する確率も高くなり、熱工程中で基板が破壊する確率が高くなる。この問題を解決する最も根本的かつ有効な方法は、熱膨張差から生じる熱応力を減らすことであり、そのため熱膨張係数の低いガラスが求められている。また熱膨張係数を低下させるとp−Si等の薄膜トランジスタ(TFT)材料との熱膨張差が小さくなり、ガラス基板のそりが発生し難くなるため好ましい。
【0014】
またp−Si・TFT−LCDの製造工程温度は、最近低くなったとは言っても、未だa−Si・TFT−LCDの製造工程温度に比べてかなり高い。ガラス基板の耐熱性が低いと、p−Si・TFT−LCDの製造工程中で、ガラス基板が400〜600℃の高温にさらされた時に、熱収縮と呼ばれる微小な寸法収縮が起こり、これがTFTの画素ピッチのずれを引き起こして表示不良の原因となる恐れがある。またガラス基板の耐熱性が更に低いと、ガラス基板の変形、そり等が起こる恐れがある。さらに成膜等の液晶製造工程でガラス基板が熱収縮してパターンずれが起こる。このような問題が生じないように、耐熱性に優れたガラスが要求されている。
【0015】
さらにTFT−LCD用ガラス基板の表面には、透明導電膜、絶縁膜、半導体膜、金属膜等が成膜され、しかもフォトリソグラフィーエッチング(フォトエッチング)によって種々の回路やパターンが形成される。また、これらの成膜、フォトエッチング工程において、ガラス基板には、種々の熱処理や薬品処理が施される。
【0016】
従ってガラス中にアルカリ金属酸化物(Na2O、K2O、Li2O)が含有されていると、熱処理中にアルカリイオンが成膜された半導体物質中に拡散し、膜特性の劣化を招くため、実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないことや、フォトエッチング工程において使用される種々の酸、アルカリ等の薬品によって劣化しないような耐薬品性を有することが要求される。
【0017】
一般にTFTアレイプロセスは、成膜工程→レジストパターン形成→エッチング工程→レジスト剥離工程の繰り返しで構成される。エッチング液としてはAl、Mo系膜のエッチングにはリン酸系溶液、ITO系膜のエッチングには王水(HCl+HNO3)系溶液、SiNX、SiO2膜等のエッチングにはバッファードフッ酸(BHF)溶液など、多種多様な薬液が使用され、それらは低コスト化を考慮して、使い捨てではなく、循環の液系フローをもって管理されている。
【0018】
ガラス基板の耐薬品性が低いと、エッチングの際、薬液とガラス基板との反応生成物が、循環フロー系のフィルターをつまらせたり、不均質エッチングによってガラス表面に白濁をおこす、あるいはエッチング液の成分が変化することによって、エッチングレートが不安定になる等、様々な問題を引き起こす可能性がある。特にBHFに代表されるフッ酸系の薬液はガラス基板を強く浸食するため、上記のような問題が発生しやすい。従って特に耐BHF性に優れていることが要求されている。
【0019】
ガラス基板の耐薬品性については浸食量が小さいだけでなく、外観変化を引き起こさないことが重要である。薬液処理によってガラスの外観が白濁や荒れなどの変化を起こさないことは、光の透過率が重要なディスプレイ基板として不可欠な特性である。
【0020】
この浸食量と外観変化の評価結果は、特に耐BHF性について必ずしも一致せず、例えば同じ浸食量を示すガラスであっても、その組成によって薬品処理後に外観変化を引き起こしたり、引き起こさなかったりする場合がある。
【0021】
またTFT−LCD用ガラス基板は、主としてダウンドロー法やフロート法により成形される。ダウンドロー法の例としては、スロットダウンドロー法やオーバーフローダウンドロー法等が挙げられ、ダウンドロー法で成形したガラス基板は研磨加工が不要であるため、コストダウンを図りやすいという利点がある。ただしダウンドロー法によってガラス基板を成形する場合には、ガラスが失透しやすいため、耐失透性に優れたガラスが要求される。
【0022】
【発明が解決しようとする課題】
現在、TFT−LCD用ガラス基板としては、コーニング社製の1737ガラスや日本電気硝子株式会社製のOA−10ガラス等が市販されている。しかし、これらのガラスは耐熱性には優れているが、いずれもガラスの溶融性を促進させるためにアルカリ土類金属酸化物を多く含有しており密度が高い。そのため、ガラス基板を製造した際、自重によるたわみが大きく大型、薄肉化を図ることが困難であった。
【0023】
本発明の目的は、TFT−LCD用ガラス基板に要求される特性を満足し、しかも、ガラス基板の軽量化のために、アルカリ土類金属の含有量を低減させても、ガラスの溶融性が低下しない無アルカリガラスを提供することである。
【0024】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、種々の実験を繰り返した結果、TFT−LCDに使用されるガラス基板に要求される諸特性を満足し、溶融性にも優れたガラス組成を見いだし、本発明として提案するものである。
【0025】
すなわち、本発明の無アルカリガラス基板は、質量百分率で、SiO 53〜70%、Al 10〜16.9%、B 8〜20%、MgO 0〜%、CaO 0〜7.4%、SrO 0〜1.5%、BaO 0〜2.2%、ZnO 0〜%、MgO+CaO+BaO+SrO+ZnO 0〜7.4%、ZrO 0〜5%、P 0.1〜10%、SnO 0〜5%、Sb 0〜5%、Cl 0〜3%の組成を有し、実質的にアルカリ金属酸化物を含有せず、密度が2.328g/cm以下、歪点が600℃以上、液相粘度が105.0dPa・s以上であることを特徴とする。
【0026】
【作用】
無アルカリガラスにおいて、RO/Al23の値は、ムライト、アノーサイト等の失透異物の析出のし易さを示す目安となり、この値が小さくなると失透傾向が強くなる。ところで、ガラスの密度を低下させるには、ガラス中のアルカリ土類金属酸化物RO(R:Mg、Ca、Sr、Ba)の含有量を低減させるのが最も有効である。しかし、ガラス中のRO含有量を低減させると、RO/Al23の値が小さくなり、ガラスの液相温度が著しく上昇し、ガラスが失透しやすくなる。その結果、ガラスの成形性を悪化させる。密度を低下させて、且つ、失透が起こらないように、ROと共に、Al23の含有量も低減してRO/Al23の値を大きくなるようにすることも考えられるが、この場合は、ガラスの歪点が低下する。
【0027】
歪点を維持し、且つ、低密度化を達成しようとすれば、RO/Al23の値が低い組成域となるが、本発明の無アルカリガラスでは、P25を必須成分として含有させているため、このような組成域においても、ガラスを失透させることなく、ガラスの低密度化を図ることができる。また、Al23の含有量を低減させなくても、失透を抑えることができるため、ガラスの歪点の低下も抑えることができる。尚、失透を抑えるための効果的なP25の添加量としては、(MgO+CaO+BaO+SrO)/Al23のモル比をxとし、P25の含有量(モル百分率)をyとした際、y≧−0.5x+0.55の関係になるように調整することが望ましい。
【0028】
本発明の無アルカリガラスは、歪点、密度、溶融性、成形性以外にも、TFT−LCDに使用されるガラス基板に要求される諸特性、即ち、熱膨張係数、耐薬品性、比ヤング率等を考慮して組成を規定したものである。
【0029】
以下、本発明の無アルカリガラスのその他の成分を限定した理由を説明する。
【0030】
本発明におけるSiO2の含有量は53〜70%である。53%より少ないと、耐薬品性、特に耐酸性が悪化し、また低密度化を図ることが困難となる。また70%より多いと、高温粘度が高くなり、溶融性が悪くなると共に、ガラス中にクリストバライトが生じ易くなる。SiO2の好ましい範囲は55〜68%、より好ましくは55〜65%である。
【0031】
Al23の含有量は10〜16.9%である。10%より少ないと、歪点が低下する。またAl23にはガラスのヤング率を向上させ、比ヤング率を高める働きがあるが、10%より少ないとヤング率が低下する。また16.9%より多いと液相温度が高くなり、耐失透性が低下する。
【0032】
23は融剤として働き、粘性を下げ溶融性を改善する成分である。B23の含有量は8〜20%である。8%より少ないと、融剤としての働きが不十分となると共に、耐バッファードフッ酸性が悪化する。また20%より多いと、ガラスの歪点が低下し、耐熱性が低下すると共に耐酸性が悪化する。さらにヤング率が低下するため、比ヤング率が低下する。B23の好ましい範囲は10〜20%、より好ましくは10〜16%である。
【0033】
MgOは、歪点を低下させることなく、高温粘性を下げ、ガラスの溶融性を改善する。またアルカリ土類金属酸化物の中では最も密度を下げる効果がある。しかしながら多量に含有すると液相温度が上昇し、耐失透性が低下する。またMgOはバッファードフッ酸と反応して生成物を形成し、ガラス基板表面の素子上に固着したり、ガラス基板に付着してこれを白濁させる恐れがあるため、その含有量には制限がある。従ってMgOの含有量は0〜6%、好ましくは0〜0.5%である。
【0034】
CaOも、MgOと同様に歪点を低下させることなく、高温粘性を下げ、ガラスの溶融性を著しく改善する成分であり、その含有量は0〜7.4%である。CaOが多いと、バッファードフッ酸と反応して生成物を形成し、ガラス基板表面の素子上に固着したり、ガラス基板に付着してこれを白濁させる恐れがある。
【0035】
SrOは、ガラスの耐薬品性、耐失透性を向上させる成分であり、その含有量は0〜1.5%である。SrOが多いと、ガラスの密度や熱膨張係数が上昇する。
【0036】
BaOもSrOと同様にガラスの耐薬品性、耐失透性を向上させる成分であり、その含有量は0〜2.2%である。BaOが多いと、ガラスの密度や熱膨張係数が上昇する。
【0037】
ZnOは、ガラス基板の耐バッファードフッ酸性を改善すると共に溶融性を改善する成分であり、その含有量は0〜%である。ZnOが多いと、ガラスが失透しやすくなり、歪点も低下する上、密度が上昇するため好ましくない。ZnOの好ましい範囲は0〜0.9%である。
【0038】
MgO、CaO、BaO、SrO、ZnOの各成分は混合して含有させることによりガラスの液相温度を著しく下げ、ガラス中に結晶異物を生じさせ難くするため、ガラスの溶融性、成形性を改善する効果がある。しかしながら、これらの合量が多くなると、密度が上昇し、ガラス基板の軽量化が図れなくなる上、比ヤング率が低下するため好ましくない。
【0039】
ZrO2は、ガラスの耐薬品性、特に耐酸性を改善し、ヤング率を向上させる成分であるが、5%より多くなると、液相温度が上昇し、ジルコンの失透異物が出易くなるため好ましくない。ZrO2の好ましい範囲は0〜3%、より好ましくは0〜1%である。
【0040】
25は、ガラスの失透を抑え、高歪点、低密度のガラスを得るための必須成分である。つまり、ガラスの歪点を維持した状態でガラスの密度を低下させるために、RO/Al23の値を小さくしても、P25を含有することによりガラスの失透を抑えることができる。P25の含有量は0.1〜10%である。0.1%より少ないと、ガラスに失透が生じる。また10%より多いと、ガラスが分相、乳白すると共に、耐酸性が著しく悪化するため好ましくない。P25の好ましい範囲は0.1〜8%、より好ましくは0.1〜6%である。
【0041】
上記成分以外にも、本発明では、ガラスの耐薬品性及び溶融性向上させるために、TiO2を5%まで含有することができる。しかし、5%より多くなるとガラスに着色を生じ、その透過率を減ずるためディスプレイ用のガラス基板としては好ましくない。
【0042】
また、Y23、Nb23、La23も5%程度まで含有することができる。これらの成分は歪点、ヤング率等を高める働きがあるが、多く含有すると密度が増大してしまうので好ましくない。
【0043】
更に本発明のガラスには、ガラス特性が損なわれない限り、As23、Sb23、Sb25、F2、Cl2、SO3、C、あるいはAl、Siなどの金属粉末等の清澄剤を5%まで含有させることができる。また、CeO2、SnO2、Fe23なども清澄剤として5%まで含有させることができる。
【0044】
ところで本発明のような無アルカリガラスを溶融する場合、高温で働くAs23が従来より清澄剤として用いられてきた。しかし、近年、環境に配慮する意味からAs23のような環境負荷化学物質は使用しにくくなってきた。SnO2は、As23と同様に高温で清澄力があり、本発明の無アルカリガラスを溶融するための清澄剤として非常に効果的である。しかし、多く含有させると失透を生じるため、その含有量は5%以下、望ましくは2%以下に規制される。
【0045】
またClは、無アルカリガラスの溶融を促進する効果があり、これの添加により、ガラスを低温で溶融し、清澄剤の働きを促進する、あるいはガラス溶融コストを下げ、製造設備の長寿命化を図ることができる。しかし多く含有しすぎるとガラスの歪点を下げるため、望ましくは3%以下に規制される。Cl成分の原料としては塩化バリウムなどアルカリ土類金属酸化物の塩化物か、塩化アルミニウムのような原料などを用いることができる。
【0046】
さらに本発明の無アルカリガラスの清澄剤としては、Sb23やSb25も有効であるが、無アルカリガラスは溶融温度が高いため、これらの清澄剤としての効果はAs23に比較すると小さい。よってSb23やSb25を使用する場合には、量を増やすか、あるいはClなどの溶融性を促進する成分との組み合わせにより溶融温度を低下させることが望ましい。ただしSb23やSb25を5%以上含有すると密度の上昇を招くため、好ましくは2%以下、より好ましくは1.5%以下に限定される。
【0047】
本発明において、清澄剤としてAs23を用いない場合には、Sb23、Sb25、SnO2およびClの群から選択された1種又は2種以上を0.005〜3.0%含有させることが好ましく、特にSb23+Sb25 0.05〜2.0%、SnO2 0.01〜1.0%、Cl 0.005〜1.0%の割合で含有させるのが最も好ましい。
【0048】
また、たわみ量を小さくし、ガラス基板をカセットの棚へ出し入れする際の破損等を防止するために、ガラスの密度は2.45g/cm以下(好ましくは、2.40g/cm以下)にすべきであり、本発明では2.328g/cm 以下に限定している。
【0049】
また、熱工程でのガラス基板の熱収縮を抑えるために、ガラスの歪点は600℃以上であることが必要である。
【0050】
上記特性以外にも、以下の特性を有することが望まれている。
【0051】
反りを小さくするに、TFT材料とガラスの熱膨張係数を近似させることが望ましく、30〜380℃の温度範囲におけるガラスの平均熱膨張係数が36×10-7/℃以下(好ましくは、26〜33×10-7/℃)であること。
【0052】
ダウンドロー法で板状に成形しても失透が発生しないように、液相温度が1200℃以下(望ましくは1180℃以下)、液相温度における粘度が105.0dPa・s以上であること。
【0053】
ガラス基板のたわみ量を小さくするために、比ヤング率が、27.5GPa/g・cm-3以上(好ましくは29.0GPa/g・cm-3以上)であること。
【0054】
ガラスの溶融を良好に行うために、102.5dPa・sの粘度におけるガラス融液の温度が1650℃以下であること。
【0055】
10%HCl水溶液やバッファードフッ酸にガラス基板を浸漬しても、目視による表面観察で白濁、荒れがなく、優れた耐薬品性を有すること。
【0056】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
【0057】
表1〜8は、本発明の実施例ガラス(試料No.1〜6、12〜23)と、比較例ガラス(試料No.7〜10、24)を示している。なお試料No.11は参考例である。
【0058】
【表1】
Figure 0004453240
【0059】
【表2】
Figure 0004453240
【0060】
【表3】
Figure 0004453240
【0061】
【表4】
Figure 0004453240
【0062】
【表5】
Figure 0004453240
【0063】
【表6】
Figure 0004453240
【0064】
【表7】
Figure 0004453240
【0065】
【表8】
Figure 0004453240
【0066】
表中の各ガラス試料は次のようにして作製した。
【0067】
まず表の組成となるようにガラス原料を調合したバッチを白金坩堝に入れ、1600℃で24時間溶融した後、カーボン板上に流し出して板状に成形した。こうして得られたガラス試料について、密度、熱膨張係数、粘度、ヤング率、比ヤング率、耐BHF性、耐HCl性、液相温度、液相粘度の各種特性を測定して表に示した。
【0068】
表から明らかなように実施例であるNo.1〜6、12〜23の各ガラス試料は、アルカリ金属酸化物を含有せず、密度が2.328g/cm以下、熱膨張係数が28〜33×10−7/℃であり、歪点が618℃以上であった。また比ヤング率が29.0GPa/g・cm−3以上であり、耐BHF性の評価において浸食量が0.9μm以下、耐HCl性の評価において浸食量が8.1μm以下と優れており、外観評価においても変化が確認されなかった。このことから実施例の各試料は、TFT−LCD用ガラス基板として好適であることが理解できる。
【0069】
更に、これらの各試料は、高温粘度102.5dPa・sに相当する温度が1650℃以下であるため溶融し易く、液相温度が1172℃以下、液相粘度が105.0dPa・s以上であるため耐失透性に優れていた。このことから実施例の各試料は、生産性にも優れていることが理解できる。
【0070】
それに対し、比較例であるNo.24のガラス試料は、液相温度が1224℃であり、液相粘度は104.7dPa・sと低く、耐失透性及び成形性に劣ると予想される。
【0071】
尚、表中の密度は、周知のアルキメデス法によって測定した。
【0072】
熱膨張係数は、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した。
【0073】
歪点、徐冷点は、ASTM C336−71の方法に基づいて測定した。これらの値が高いほど、ガラスの耐熱性が高いということになる。軟化点は、ASTM 338−93の方法に基づいて測定した。また粘度104.0、103.0、102.5の各温度は、白金球引き上げ法で測定した。高温粘度である102.5dPa・sに相当する温度は、溶融温度を示しており、この温度が低いほど、溶融性に優れていることになる。
【0074】
ヤング率は、共振法により測定し、比ヤング率は、ヤング率と密度の値から求めた。
【0075】
耐BHF性と耐HCl性については、次の方法で評価した。まず各ガラス試料の両面を光学研磨した後、一部をマスキングしてから所定の濃度に調合した薬液中で、定めた温度で定めた時間浸漬した。薬液処理後、マスクをはずし、マスク部分と浸食部分の段差を表面粗さ計で測定し、その値を浸食量とした。また各ガラス試料の両面を光学研磨した後、所定の濃度に調合した薬液中で、定めた温度で定めた時間浸漬してから、ガラス表面を目視で観察し、ガラス表面が白濁したり、荒れたり、クラックが入っているものを×、全く変化の無いものを○とした。
【0076】
薬液及び処理条件は、耐BHF性の浸食量は、130BHF溶液(NH4HF:4.6質量%,NH4F:36質量%)を用いて20℃、30分間の処理条件で測定した。外観評価は、63BHF溶液(HF:6質量%,NH4F:30質量%)を用いて、20℃、30分間の処理条件で行った。また耐HCl性の浸食量は、10質量%塩酸水溶液を用いて80℃、24時間の処理条件で測定した。外観評価は、10質量%塩酸水溶液を用いて80℃、3時間の処理条件で行った。
【0077】
液相温度は、各ガラス試料を粉砕し、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定したものである。
【0078】
液相粘度は、液相温度におけるガラスの粘度を示す。液相温度が低く、液相粘度が高いほど、耐失透性に優れ、成形性に優れることになる。ダウンドロー法によって良好にディスプレイ用ガラス基板を成形するためには、液相温度を1200℃以下、液相粘度を105.0dPa・s以上にすることが望まれる。
【0079】
また実施例である試料No.1のガラスを試験溶融炉で溶融し、オーバーフローダウンドロー法で成形することによって、厚み0.5mmのディスプレイ用ガラス基板を作製した。このガラス基板の反りは0.075%以下、うねり(WCA)は0.15μm以下(カットオフfh:0.8mm、fl:8mm)、表面粗さ(Ry)は100Å以下(カットオフλc:9μm)であり、表面精度に優れ、液晶ディスプレイ用ガラス基板として適したものであった。
【0080】
【発明の効果】
以上のように本発明の無アルカリガラスは、P25を必須成分として含有しているため、失透が起こりやすい組成域においても、失透しにくく、溶融性及び歪点を維持しながら、低密度化を達成することができる。

Claims (6)

  1. 質量百分率で、SiO 53〜70%、Al 10〜16.9%、B 8〜20%、MgO 0〜%、CaO 0〜7.4%、SrO 0〜1.5%、BaO 0〜2.2%、ZnO 0〜%、MgO+CaO+BaO+SrO+ZnO 0〜7.4%、ZrO 0〜5%、P 0.1〜10%、SnO 0〜5%、Sb 0〜5%、Cl 0〜3%の組成を有し、実質的にアルカリ金属酸化物を含有せず、密度が2.328g/cm以下、歪点が600℃以上、液相粘度が105.0dPa・s以上であることを特徴とする無アルカリガラス。
  2. (MgO+CaO+BaO+SrO)/Alのモル比をx、Pのモル百分率をyとした際、y≧−0.5x+0.55の関係になることを特徴とする請求項1記載の無アルカリガラス。
  3. 液相温度が1200℃以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の無アルカリガラス。
  4. ダウンドロー法で成形されることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の無アルカリガラス。
  5. ディスプレイ用途に用いられることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の無アルカリガラス。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載のガラスからなることを特徴とするディスプレイ用ガラス基板。
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