JP4712166B2 - 結晶タガトースの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、有機溶媒を含まないタガトース溶液から結晶タガトースを得る方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
タガトースは、ガラクトースを異性化して得られる糖質であるが、天然界ではその存在量は少なく、その諸物性は甘味度・味質・エネルギー量などのいくつかの特性の他はほとんど知られていない。タガトースの甘味度は砂糖の90%程度であり、その味質はフラクトースに類似して、非常にさわやかでキレの良い甘味を呈する。また、そのエネルギー量は1.5kcal/gと推定されており、低カロリー甘味料として使用可能である。
【0003】
これまでタガトースの結晶は、高純度のタガトース溶液にエタノールなどの有機溶媒を添加して結晶化させる方法が知られている。例えば、特表平5−504256号公報には、エタノールを含むタガトース含有シロップにタガトース結晶の種を添加して結晶タガトースを得る方法が記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、タガトースの水への溶解度など詳細な特性が分かっていないために、有機溶媒を用いない水系からのタガトースの結晶化方法はこれまで報告されていない。
【0005】
したがって、本発明の目的は、有機溶媒を用いない水系から結晶タガトースを得る方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、タガトースの物性を鋭意研究した結果、高濃度水溶液に種結晶を添加することにより、タガトースが結晶として多量に析出することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の結晶タガトースの製造方法は、固形分当りのタガトース純度が70%以上であって、かつ固形分濃度が60〜98質量%のタガトースを含有する、有機溶媒を含まない溶液の温度を30〜80℃に保持し、これにタガトースの種結晶を加え、溶液の温度が最終的に0〜50℃になるまで0.1〜10℃/時間の速度で液温を下げることにより、タガトースの過飽和度を1.25以下に保ちつつ、撹拌・冷却しながらタガトースを晶析させることを特徴とする。
【0008】
上記発明においては、結晶化が終了したマセキットの一部を、母液に添加して半連続的もしくは連続的に結晶タガトースを製造することが好ましい。さらに、前記マセキットから生成した結晶タガトースを遠心分離又は濾別し、乾燥して結晶タガトースを得ることが好ましい。
【0010】
【発明の実施形態】
本発明で用いるタガトースを含有する溶液(有機溶媒を含まない)としては、固形分当りのタガトース純度が70%以上であって、かつ固形分濃度が60〜98質量%のタガトースを含有する溶液(以下、単にタガトース溶液という。)が用いられる。本発明においては、固形分当りのタガトース純度が90%以上であって、かつ固形分濃度が65〜95質量%のタガトースを含有する溶液がより好ましい。固形分当りのタガトース純度が70%未満であるとタガトースの結晶を析出させることができない。また、固形分濃度が60質量%未満であると飽和溶液とするために20℃以下にしなければならず、エネルギーコストがかかり効率的でない。また、固形分濃度が98質量%超であると溶液の粘度が高くなり、作業性が低下し、疑晶が析出しやすくなる。
【0011】
このようなタガトース溶液は、公知の方法により得ることができ、その調製法については特に限定されるものではない。例えば、ガラクトースを溶解性アルカリ金属塩あるいはアルカリ土類塩を用いて異性化してタガトースを生成する方法(特表平5−804256号)や、L−アラビノースイソメラーゼを用いて酵素的にガラクトースを異性化してタガトースを生成させる方法(米国特許No.821969)などにより調製できる。
【0012】
また、タガトース溶液は、イオン交換樹脂などで脱塩されていることが好ましいが、タガトースの結晶化に影響を及ぼさない範囲内で塩類や色素などを含んでいてもよい。
【0013】
以下、本発明の結晶タガトースの製造方法を工程の順に説明する。
【0014】
1)結晶化操作
上記のようなタガトース溶液を容器に入れて、溶液の温度を30〜80℃に保持する。次いで、0.006〜80質量%の種結晶(結晶タガトース、後述するマセキットなど)を添加して、撹拌しながら、溶液の温度が最終的に0〜50℃になるまで0.1〜10℃/時間の速度で液温を下げることによりタガトースの結晶が析出する。本発明においては、結晶化操作中は過飽和度を1.25以下に保つことが必要であり、そのために上記のような精密な温度管理が重要である。過飽和度は1.25以下であれば結晶を製造する上で特に問題は起こらないが、これ以上の過飽和度であると、疑晶が析出して結晶を分離する際に非常に困難となる。本発明においては、結晶を均一に大きく析出させるために、過飽和度を1.05以下に保つことがより好ましい。なお、結晶化操作中の過飽和度は、マキセットをサンプリングしてマキセットの温度で遠心分離を行い、上清のタガトース濃度を測定することにより求められる。
【0015】
2)結晶分離操作
結晶化操作を終了した溶液(マセキット)を、例えば遠心分離又は濾別することにより結晶タガトースを分離できる。また、分離した結晶タガトースをさらに少量の水で洗浄して乾燥することが好ましい。このようにして純度85%以上の結晶タガトースを得ることができる。
【0016】
本発明においては、上記マセキットを種結晶としても使用できる。例えば、新鮮なタガトース溶液に、該溶液の5〜80質量%のマセキットを添加して、上記1)の結晶化操作を行なうことにより、半連続的もしくは連続的に結晶タガトースの製造を行なうことができる。
【0017】
なお、上記のように半連続式もしくは連続式に結晶タガトースを製造する際の結晶缶の構造は、特に限定されるものではないが、例えば結晶ブドウ糖や結晶果糖などの製造に用いられる結晶缶などが挙げられる。
【0018】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0019】
試験例 (タガトースの溶解度の測定)
10℃、10mlの脱イオン水に、結晶タガトース(シグマアルドリッチジャパン(株)製)を2gずつ添加し、溶解しなくなった時点で徐々に温度を上げ、溶け残った結晶が完全に溶解する温度を読み取った。そして、さらに2gの結晶タガトースを添加し、同様の操作を約70℃まで繰り返した。その結果を表1に示す。
【0020】
【表1】
Figure 0004712166
【0021】
表1から、タガトースの水に対する溶解度曲線が得られ、温度(A)のタガトース溶液の濃度/温度(A)のタガトースの溶解度より、過飽和度が求められる。
【0022】
実施例1
特表平5−504256号に記載の例1の方法に準じて、異性化反応からイオン交換樹脂処理までの工程を行なった。
【0023】
・異性化反応
2,500gのガラクトース(和光純薬工業(株)製)を、脱イオン水22,500gに溶解し、20℃(液温)で撹拌しながら、水酸化カルシウムスラリー(酸化カルシウム781gを脱イオン水2,344gに溶解したもの)3,125gを徐々に加えて、異性化反応を行なった。反応の進行は30分毎にHPLC分析でチェックした。5時間後、ガラクトースの転位が80%以上に達した時点でリン酸を徐々に加えて反応液のpHを5.8に調整し、反応を終了した。
【0024】
・イオン交換樹脂処理
この反応液を遠心分離して、濾液と沈殿物を別々に回収した。そして、この沈殿物を脱イオン水で洗浄した後再度遠心分離して、回収した固形分を上記濾液と混合した。この混合溶液をイオン交換樹脂(オルガノ社製)に通して脱イオン処理した後濃縮して、タガトース純度82%、固形分濃度86.0質量%のタガトース溶液を2082.5g得た。
【0025】
このタガトース溶液341.8gを、1,000ml容のセパラブルフラスコに入れ、70℃の水浴中で撹拌しながら溶液の温度を68℃とした。この溶液に結晶タガトースの種結晶0.03gを添加して、2.5℃/時間の速度で水浴の温度を降下させ、溶液の温度が20℃となった時点で、そのまま5時間保持した。
【0026】
セパラブルフラスコ中の溶液はタガトースの結晶を含むマセキットとなり、マセキット中の溶液部分の固形分濃度は78.7質量%であった。このマセキットを遠心分離して少量の水で結晶を洗浄後乾燥して、純度92%の結晶タガトースを211.3g得た。
【0027】
実施例2
実施例1で得られたタガトース溶液340.5gを、1,000ml容のセパラブルフラスコに入れて、実施例1と同様の結晶化操作を行なった。結晶化操作終了後、セパラブルフラスコに50gのマセキットを残し、実施例1で得られたタガトース溶液210.2gを添加して70℃の水浴中で15分間撹拌後、2.5℃/時間の速度で水浴の温度を降下させ、溶液の温度が20℃となった時点で、そのまま5時間保持した。
【0028】
得られたマセキットを遠心分離して少量の水で結晶を洗浄後乾燥して、純度91%の結晶タガトースを205.8g得た。
【0029】
実施例3
実施例1で得られたタガトース溶液360.5gを、1,000ml容のセパラブルフラスコに入れ、70℃の水浴中で撹拌しながら溶液の温度を68℃とした。この溶液に結晶タガトースの種結晶0.02gを添加して、最初の5時間を0.5℃/時間、次の5時間を1℃/時間、次の5時間を1.5℃/時間、次の5時間を2℃/時間、次の10時間を2.5℃/時間の速度で水浴の温度を降下させ、溶液の温度が20℃となった時点で、そのまま5時間保持した。
【0030】
セパラブルフラスコ中の溶液はタガトースの結晶を含むマセキットとなり、このマセキットを遠心分離して少量の水で結晶を洗浄後乾燥して、純度95%の結晶タガトースを195.6g得た。
【0031】
比較例
実施例3で遠心分離により濾別された濾液は、タガトース純度56%であり、この溶液を濃縮して固形分濃度84.8%にし、実施例3と同様に結晶化を試みたが、添加した種結晶が溶解してしまい、結晶は析出しなかった。
【0032】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、固形分当りのタガトース純度が70%以上であって、かつ固形分濃度が60〜98質量%のタガトースを含有する、有機溶媒を含まない溶液の温度を30〜80℃に保持し、これにタガトースの種結晶を加え、溶液の温度が最終的に0〜50℃になるまで0.1〜10℃/時間の速度で液温を下げることにより、タガトースの過飽和度を1.25以下に保ちつつ、撹拌・冷却することにより、有機溶媒を用いることなく、結晶タガトースを得ることができる。

Claims (3)

  1. 固形分当りのタガトース純度が70%以上であって、かつ固形分濃度が60〜98質量%のタガトースを含有する、有機溶媒を含まない溶液の温度を30〜80℃に保持し、これにタガトースの種結晶を加え、溶液の温度が最終的に0〜50℃になるまで0.1〜10℃/時間の速度で液温を下げることにより、タガトースの過飽和度を1.25以下に保ちつつ、撹拌・冷却しながらタガトースを晶析させることを特徴とする結晶タガトースの製造方法。
  2. 結晶化が終了したマセキットの一部を、母液に添加して半連続的もしくは連続的に結晶タガトースを製造する請求項1に記載の結晶タガトースの製造方法。
  3. 前記マセキットから生成した結晶タガトースを遠心分離又は濾別し、乾燥して結晶タガトースを得る請求項1又は2に記載の結晶タガトースの製造方法。
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