しかしながら、近年の大型陶板は乾式成形タイルが主流となっている。この乾式成形タイルは、粉状の原料を高圧のプレス機で成形するため、均一密度のタイルを得るには製法上の制約などから裏面に縦縞、横縞、格子縞、斜め格子縞などのリブが設けられ、凹凸(不陸)のある裏面となることが多い。そして、このリブによる凹凸の存在がアンカー金物の両サイドピースの陶板裏面に対する座りを悪くして、場合によっては爪の引っかかり具合を不安定なものとする。このため、アンカー金物の陶板への取り付け作業には十分な注意と時間を必要とする。爪の陶板への引っかかり具合を安定なものとしなければ、施工時あるいは施工後における陶板の落下を招く虞がある。
つまり、リブが陶板裏面に存在することで、そのリブ付近に定着用溝が形成された場合に、アンカー金物が陶板から浮いた箇所と陶板に着いた箇所とが生ずるため、サイドピースのがたつきや隙間が増大し、その結果として定着用溝への爪のかかり具合が浅かったり深かったりとばらついて不安定となる。しかも、金物のかかり具合が不安定となり、場合によっては定着用溝のオーバーハング部分が欠損して陶板の落下などを招く虞が生ずる。また、サイドピースの取り付け高さが全体的に変動したり、あるいは左右前後方向で高さが異なることで傾斜したりすると、センターピースの支持に対するがたつきに増減が生じたり陶板に傾斜が生ずることから、外装面の仕上がりにも影響が出やすくなる。
そこで本発明は、裏面にリブ等による凹凸を有する陶板などの外装材でも、定着用溝への爪のかかり具合が安定するアンカー金物を提供することを目的とする。また、本発明は、定着用溝のオーバーハング部分の欠損を少なくするアンカー金物を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するため、本発明は、建物躯体側に取り付けられるセンターピースと、該センターピースを挟むように両側に配置されかつ陶板の裏面の定着用溝に引っ掛けられる爪を有すると共に該爪の前記定着用溝への引っかけにより陶板側に取り付けられる左右一対のサイドピースと、サイドピース同士を連結して一体化するボルトとで構成されており、各ピースには陶板に対して直交する一対の垂直壁とこれら垂直壁を連結する陶板と平行な水平壁とを有する溝形の骨格部を備えるアンカー金物において、陶板の裏面にはリブによる凹凸が設けられており、センターピースの一対の垂直壁の両方の下端縁からサイドピースの一対の垂直壁のうちのセンターピース側の垂直壁に向けて水平壁と平行に突出しサイドピースのセンターピース側の垂直壁の下端縁の下に潜り込みサイドピースのセンターピース側の垂直壁を受け支える座板或いは左右一対のサイドピースそれぞれの一対の垂直壁のうちのセンターピース側の垂直壁の下端縁からセンターピースの一対の垂直壁のうちのサイドピース側の垂直壁に向けて水平壁と平行に突出しセンターピースのサイドピース側の垂直壁の下端縁の下に潜り込み該センターピースのサイドピース側の垂直壁を受け支える座板を備え、該座板が陶板の裏面の凹凸に乗っかって平面を作り出すと共に該座板にサイドピースのセンターピース側の垂直壁若しくはセンターピースの一対の垂直壁が載置されてセンターピースとサイドピースとが座板を介して一定高さに保たれるるようにしている。
ここで、座板は、サイドピースあるいはセンターピースの前端から後端にかけて全域に設けることが、より定着用溝への爪のかかり具合のばらつきを少なくして平面度を得る上で好ましいが、定着用溝への爪のかかり具合のばらつきを少なくするには一部に存在するだけでも十分に機能することから、必要最小限の範囲に形成することが軽量化とコスト低減を図る上で望ましく、各ピースの前後方向に部分的に設けることが好ましい。また、陶板には押されたり、引っ張られたりする力が働くので、座板が前後に配置されていれば両方の力に有効に作用する。したがって、座板は前端から後端までの全域あるいは少なくとも前後端の左右にそれぞれ座板を設けることが好ましい。さらに好ましくは、センターピースあるいはサイドピースのいずれであっても前端あるいは後端寄りにバランス良く対称に配置することである。また、座板の存在は、サイドピースの内側の垂直壁あるいはセンターピースの両垂直壁によって陶板側に加えられる力を分散させて緩和することから、陶板の破壊強度を上げることができる。
そこで、請求項1記載のアンカー金物において、座板はサイドピースのセンターピース側の垂直壁あるいはセンターピースのサイドピース側の垂直壁の前部側あるいは後部側の少なくともいずれか一方に配置されることが好ましい。
また、請求項1記載のアンカー金物において、座板はサイドピースのセンターピース側の垂直壁あるいはセンターピースのサイドピース側の垂直壁の前部側及び後部側の双方の各端部寄りに配置されていることが好ましい。
また、請求項1記載のアンカー金物において、座板は、サイドピースのセンターピース側の垂直壁あるいはセンターピースのサイドピース側の垂直壁の前部側及び後部側に互い違いに配置して左右非対称とすることが好ましい。
また、請求項1記載のアンカー金物において、座板はサイドピースのセンターピース側の垂直壁あるいはセンターピースのサイドピース側の垂直壁の前部側あるいは後部側のいずれか一方の端部寄りでかつ向かい合うサイドピースのセンターピース側の垂直壁とセンターピースのサイドピース側の垂直壁との間で座板が互い違いに配置されていることが好ましい。
また、請求項6記載の発明は、請求項5記載のアンカー金物において、座板はセンターピースを中心に左右対称に配置されていることが好ましい。
また、請求項1記載のアンカー金物において、座板はサイドピースのセンターピース側の垂直壁あるいはセンターピースのサイドピース側の垂直壁の下端を外側に折り曲げて一体成形され、対向するセンターピースのサイドピース側の垂直壁あるいはサイドピースのセンターピース側の垂直壁が座板の上に載置されるようにしていることが好ましい。
また、請求項8記載の発明は、請求項1記載のアンカー金物において、いずれか一方のサイドピースの骨格部の一対の垂直壁に開けられているねじ孔の間の水平壁には、骨格部の曲げ加工前に予め開けられかつねじ孔の周囲の一対の垂直壁の間を分断する貫通孔が設けられていることが好ましい。
また、請求項1記載のアンカー金物において、座板はサイドピースのセンターピース側の垂直壁の後部側の端部寄りに配置され、センターピースの後部長さをサイドピースの前記座板よりもさらに後方へはみ出すように設けてボルトを中心とする取付部までの距離とボルトから後端までの距離を同じにすると共に、座板よりも後方へはみ出た後端付近の垂直壁の下端縁に陶板と当接する突起を設けていることが好ましい。
さらに、請求項1記載のアンカー金物において、センターピースあるいはサイドピースの水平壁には不陸調整用の弾性変形部が設けられていることが好ましい。
本発明のアンカー金物によれば、座板を介してサイドピースあるいはセンターピースの垂直壁を支持することとなるため、定着用溝への爪のかかり具合のばらつきを少なくして高さを均一にして格段に平面度を増すこととなる。そして、本発明のアンカー金物によれば、両サイドピースが安定して同じ高さで陶板裏面の定着用溝に爪を引っかけて固定されるので、全体として安定した深さで爪がかることが可能となることから、爪の引っかかり具合を安定なものとして、施工後の陶板の落下を防ぐことができる。特に、サイドピースあるいはセンターピースの前端から後端にかけて全域あるいは局部的に前後にバランス良く座板を設ける場合、定着用溝への爪のかかり具合のばらつきを少なくする上で好ましいばかりか、サイドピースの内側の垂直壁あるいはセンターピースの両垂直壁を介して陶板側に加えられる力を分散させ緩和することから、陶板の破壊強度を上げると共に強度的に安定で爪の把持力にばらつきが少なくなる。
つまり、リブ等による不陸が陶板裏面に存在しても、そのリブ付近に定着用溝が形成された場合に、リブの上に座板が乗っかかって平面を作りだし、その上にサイドピースあるいはセンターピースの垂直壁が載置されて、センターピースとサイドピースとは互いに座板を介して一定高さに保たれるため、アンカー金物が陶板の裏面から一定の高さに浮いたところで両サイドピースの爪が定着用溝に引っかかり、定着用溝への爪のかかり具合が安定する。しかも、左右のサイドピースと定着用溝との間の引っかかり強度に偏りがなくなるので、一方の定着用溝のオーバーハング部分に力が集中してオーバーハング部分が欠損することを防ぐことができる。そして、定着用溝のオーバーハング部分の欠損に起因する陶板の落下を防止できる。また、センターピースの支持も安定することから、陶板面の仕上がりにも影響することが少なくなる。
さらに、本発明のアンカー金物によれば、座板を介してサイドピースの内側の垂直壁あるいはセンターピースの両垂直壁で力が陶板側に加えられるので、力を分散させて緩和させることから、陶板の破壊強度を上げることができる。例えば、陶板が捲り上げられようとする力や押し付けられようとする力に対して、爪の部分だけでなく座板でも力を受けるため、特にサイドピースに座板が設けられているときには、破壊強度を上げる上でより有効に機能する。
さらに請求項2記載のアンカー金物によれば、必要最小限の座板でも定着用溝への爪のかかり具合のばらつきを少なくして高さを均一にして格段に平面度を増すことができるので、アンカー金物の軽量化とコスト低減を図る上で好ましい。ここで、特にサイドピースの後部側に座板を設ける場合には、タイルの破壊までの強度を高める効果が高い。座板によってオーバーハング部から離れた部分でも陶板にかかる力を受けるため、陶板にかかる力を分散でき、爪が引っ掛けられる陶板の定着用溝のオーバーハング部が幅欠けするのを防いでタイルが破壊を起こすまでの力を結果的に大きくするものと思われる。また、センターピースの垂直壁の下端縁によって加わる力も分散される。本発明者の実験によると、座板がない場合にはある場合に比べてタイルがより早い時点(より小さな力で)壊れることが確認されている。
さらに請求項3記載のアンカー金物によれば、前部側及び後部側の双方の各端部寄りに配置されているので、定着用溝への爪のかかり具合のばらつきを少なくするばかりか、サイドピースの内側の垂直壁あるいはセンターピースの両垂直壁を介して陶板側に加えられる力を分散させて緩和することで、陶板の破壊強度を上げると共に強度的に安定で爪による陶板の把持力にばらつきを少なくできる。しかも、定着用溝への爪のかかり具合のばらつきを少なくするには一部に存在するだけで十分に機能することから、必要最小限の範囲に形成することが軽量化とコスト低減を図ることができる。
さらに請求項4記載のアンカー金物によれば、座板を前部側及び後部側に互い違いに配置して左右非対称としているので、必要最小限の座板で陶板が押されたり、引っ張られたりする両方の力に作用することができる。しかも、アンカー金物の更なる軽量化とコスト低減を図ることができる。
さらに請求項5記載のアンカー金物によれば、前部側と後部側とで互い違いに配置されている座板によって、陶板が押されたり、引っ張られたりする両方の力に有効に作用するので、定着用溝への爪のかかり具合のばらつきを少なくするばかりか、陶板側に加えられる力を分散させ緩和して、陶板の破壊強度を上げると共に強度的に安定で爪の把持力にばらつきを少なくすることができる。
さらに請求項6記載のアンカー金物によれば、座板はセンターピースを中心に左右対称に配置されているので、左右のサンドピース間で陶板が押されたり、引っ張られたりする両方の力に有効に座板が作用し、定着用溝への爪のかかり具合のばらつきを少なくするばかりか、安定感が得られるばかりか、陶板側に加えられる力を分散させ緩和して、陶板の破壊強度を上げると共に強度的に安定で爪の把持力にばらつきを少なくすることができる。加えて、センターピース側の座板がハット形断面に形成されることにより、断面二次モーメントをさらに大きくして曲げに対するセンターピースの強度を大きくできるので、より肉薄に形成できる。
さらに請求項7記載のアンカー金物によれば、垂直壁の下端を外側に折り曲げて一体成形され、対向するセンターピースの垂直壁あるいはサイドピースの内側の垂直壁が座板の上に載置されるようにしているので、プレス曲げ加工によって一体的に連続成形でき、製作が容易でコストダウンが可能である。
さらに請求項8記載のアンカー金物によれば、ねじ孔の周辺の内側の垂直壁と外側の垂直壁とが貫通孔の存在によって分断されて互いに引っ張られあるいは圧縮されることがなくなるため、曲げ加工によって骨格部を形成する際に、ねじ孔の周辺が引っ張られることがなくなり、ねじ孔が歪まなくて済む。したがって、タップ立てに専用ジグを必要としないばかりか、精確にねじを立てることができる。しかも、曲げ加工時にねじ孔に歪みが生じないので、現在の確立されたプレス曲げ加工技術によれば、内側の垂直壁のねじ孔と外側の垂直壁のねじ孔とが同軸上に配置された状態を容易に確保できる。
さらに請求項9記載のアンカー金物によれば、センターピースの取付部の側にセンターピースを相対的に持ち上げるような力が作用したときに、反対側のセンターピースの後端側の突起が陶板に当たり反力を陶板で受けるようにしてほぼ同じ力が取付部と陶板との間に働くようにしているので、座板による分散と相俟って陶板にかかる力の軽減効果を増大させ、オーバーハング部が欠けてサイドプレートの爪が外れるまでの強度即ち破壊強度を上げる防ぐことができる。
さらに請求項10記載のアンカー金物によれば、下地に対して直にアンカー金物を取り付けることにより陶板を固定する場合には、たとえ下地の不陸があったとしても、不陸調整用の弾性変形部の変形により下地の不陸を調整し、下地の精度に陶板張りの仕上がりが影響を受けることが少なくなる。依って、直に下地にアンカー金物を固定することにより陶板張りを行う場合にも、下地とアンカー金物との間にライナーを入れるなどの不陸調整が不要となり、迅速な施工が可能となると共に作業が容易なものとなる。
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。尚、本明細書においては、組み立て状態にあるアンカー金物のボルトの軸方向を幅方向、ボルトの軸方向と直交する各ピースの長手方向を前後方向とし、ボルトが貫通する位置よりもセンターピースの取付部が形成されている側を前部、その端部を前端、ボルトが貫通する位置よりも取付部が形成されている側とは反対側を後部、その端部を後端と呼ぶものとする。
図1から図7に本発明のアンカー金物の第1の実施形態を示す。このアンカー金物1は、一般にはステンレススティール製であり、建物躯体20側に取り付けられるセンターピース2と、陶板21の裏面21aの定着用溝22に爪6が引っかけられて陶板21側に取り付けられる左右一対のサイドピース3,4と、サイドピース3,4同士を連結するボルト5とで構成されている。センターピース2とサイドピース3,4はそれぞれ互いに独立した別部材として形成されている。尚、センターピース2と一方のサイドピース例えばサイドピース4との間には、スポンジ等の弾性材でできたリング形状あるいは筒状のクッション19が配置され、センターピース2のがたつきを抑えながらもセンターピース2の相対的な動きを可能とするスペースSをセンターピース2とサイドピース4との間に確保している。
左右一対のサイドピース3,4は、陶板21に対して直交する一対の垂直壁8とこれら垂直壁8を連結する陶板21と平行な水平壁9とを有する溝形の骨格部7をそれぞれ備えると共に、該骨格部7の外側(反センターピース2側)の垂直壁8の下端縁が外側に折り曲げられて陶板21と平行な水平壁13とさらにその先端が下向きでかつ垂直壁8側に折り返されるようにV形に折り曲げられて内向きに傾斜する爪6がそれぞれ形成された対称形状を成している。このサイドピース3,4は、センターピース2を挟持するように配置され、センターピース2を挟んだ状態でボルト5によってサイドピース3,4同士が陶板21を介して連結されることによって一体化される。一方のサイドピース3には、垂直壁8のほぼ中央を貫通するボルト5の外径よりも大きな直径の貫通孔18が、他方のサイドピース4には垂直壁8のほぼ中央を貫通するねじ孔17がそれぞれ設けられている。また、センターピース2の垂直壁8のほぼ中央にも貫通孔18が設けられている。そして、これら貫通孔18とねじ孔17とが同軸上に配置された状態でボルト5を貫通させてねじ孔17に先端のねじ部16を螺合させることで、サイドピース3,4同士が連結される。尚、サイドピース4のねじ孔17は、内側と外側の両垂直壁8にそれぞれ形成され、ボルト5を締め付けた際に、片方の垂直壁8だけにねじ孔17がある場合に比較してサイドピース4が浮き上がるのを防止する効果を高めるようにしている。
他方、センターピース2にも、サイドピース3,4と同様に、陶板21に対して直交する一対の垂直壁8とこれら垂直壁8を連結する陶板21と平行な水平壁9とを有する溝形の骨格部7が形成されて、支持構造物としての強度が保たれている。また、センターピース2の一方の端部例えば前端側には建物躯体側に固定される取付部12が図2に示すようにサイドピース3,4の前端よりも更に前方へ突出するように形成され、反対側の端部たる後端15もサイドピース3,4の後端よりも後方に突出させられてボルト5が貫通する位置からの長さがほぼ同じに設定され、取付部12にかかる力と反対側の端部15にかかる力とが等しくなるように設けられている。これによって、取付部12と陶板21とに均等に力が働くようにして、陶板に働く外力を軽減させるようにしている。また、取付部12は、少なくとも1つの垂直壁8が延長形成されてL形の断面形状とされることにより断面二次モーメントが増やされている。さらに、この実施形態のセンターピース2によれば、サイドピース3,4よりも肉厚を薄く、例えばサイドピース3,4の半分程度の薄さにして、サイドピース3,4をセンターピース2の座板10の上に載せるようにしても、従来のアンカー金物とほとんど変わらない高さとするようにしている。これにより、座板が陶板裏面のリブに乗り上げてサイドピース3,4の垂直壁の下に潜り込んだときの浮上量・嵩張り量を少なく抑えることができる。加えて、センターピース2を薄く形成することで、材料コストを低減できると共に、折り曲げ加工を容易にすると共に、重なる部分の切り欠きが小さくできるため、センターピースあるいは両サイドピース3,4の断面欠損が少なくできる。しかも、取付部12の構造強度が補強されているので、左右のサイドピース3,4よりもセンターピース2の肉厚を薄くしても、強度的に遜色のないものとなり、建物躯体側から働く力や変位でセンターピース2の曲げ変形を防ぐことができる。勿論、この実施形態に限られず、図26〜図30に示すように、従来のアンカー金物と同様に、センターピース2の肉厚とサイドピース3,4の肉厚とを同じくしたり、あるいは必要に応じてサイドピース3,4よりもセンターピース2を厚く形成するようにしても良い。
また、隣り合わせにあるセンターピース2とサイドピース3,4のいずれか一方のピースの垂直壁8の下端縁には、他方のピースの垂直壁8に向けて水平壁9と平行に突出し垂直壁8の下端縁の下に潜り込み垂直壁8を受け支える座板10を備えるようにしている。本実施形態の場合、センターピース2に座板10が形成されている。具体的には、センターピース2の両垂直壁8の下端縁が外側に折り返されてハット形断面に形成されることにより、サイドピース3,4の骨格部7の垂直壁8の下に潜り込む座板10が形成されている。ここで、センターピース2の両垂直壁8の下端縁は、座板10部分が外側に折り返されて形成されるため、座板10が形成されていない領域では少なくとも座板10の厚み分だけ、脚(垂直壁8)としての長さが短く形成されることとなる。換言すれば、座板10が形成されている部分では、センターピース2の両垂直壁8の下端縁よりも座板10の部分だけが陶板裏面21a側へ突出していることとなる。他方、サイドピース3,4側には、センターピース2の座板10と対応する位置に座板10の肉厚よりも深い切り欠き11が形成され、平坦な陶板裏面21aに対して取り付けられるときには、サイドピース3,4側は切り欠き11が設けられていない領域の垂直壁8の下端縁が、センターピース2側は座板10の裏面がそれぞれ陶板裏面21aに当接するように設けられている。つまり、サイドピース3,4の両垂直壁8の下端縁よりも切り欠き11の部分だけが陶板裏面21aから離れる方向へ凹むこととなる。したがって、平坦な陶板裏面21aの上にアンカー金物1が載置されたときには、サイドピース3,4側は切り欠き11が設けられていない領域の垂直壁8の下端縁のみで陶板裏面21aに当接し、センターピース2側は座板10の裏面のみで当接し、切り欠き11の部分では座板10に対し切り欠き部分の垂直壁8の下端縁は浮いているように設けられている。そして、センターピース2の座板10が陶板裏面21aのリブ23などで持ち上げられたときには、座板10にサイドピース3,4の切り欠き11の部分の垂直壁8が当接して、切り欠き11が設けられていない領域の垂直壁8の下端縁が陶板裏面21aから浮くようにして支持されるように設けられている。このため、サイドピース3,4はセンターピース2の座板10の上に乗っかるようにして支持され、陶板21に固定される。
座板10はセンターピース2の前後方向の全域に形成しても良いが、定着用溝22への爪6のかかり具合のばらつきを少なくするには一部に存在するだけで十分に機能することから、必要最小限の範囲に形成することが軽量化とコスト低減を図る上で望ましい。そこで、本実施形態では、図2及び図3に示すように、センターピース2の後部側に座板10を形成している。この場合には、センターピース2の後部即ちボルト5よりも後端15側の領域のセンターピース2の横断面形状をハット形にして断面二次モーメントをさらに大きくすることで曲げに対する強度を大きくできる。したがって、センターピース2の肉厚をサイドピース3,4よりも薄くしても、構造的強度はサイドピース3,4の強度と遜色ないものにできる。本発明者等の実験によると、センターピース2の肉厚をサイドピース3,4に必要とされる強度から求められる肉厚の半分程度としても、強度上は問題ないことが確認された。さらに、センターピース2の両側の座板10に乗るサイドピース3,4によってセンターピース2の浮上が抑制されるため、建物躯体20側から働く回転モーメントで捲り上がり難くすることができる。
ここで、座板10の幅は例えば図10に示すように左右で同じとしても良いが、図3に示すように一方の座板10の幅を最小限のものとすると共に、他方の座板10の幅を広くしてクッション19を配置してセンターピース2のがたつきを抑えながらもセンターピース2の相対的な動きを可能とするスペースSをセンターピース2とサイドピース4との間に確保するのに十分なものとすることが好ましい。この場合には、定着用溝22の間隔を広めに変更する場合にも対応でき、より一層定着用溝22への爪6のかかり具合のばらつきを少なくすることができる。
さらに、センターピース2あるいはサイドピース3,4のいずれか一方あるいは双方の水平壁9には、不陸調整用の弾性変形部14が形成されている。本実施形態の場合、弾性変形部14は、切り起こし曲げ加工によって水平壁9にU型の切り込みが入れられ、かつ水平壁9に対して90°未満で傾斜するように切り起こされることによって板ばねとして機能するように形成されたものである。この板ばねから成る弾性変形部(以下、単にばねと呼ぶ)14は例えば水平壁9に対して10〜45°、好ましくは15〜30°、より好ましくは20゜程度の傾斜が与えられている。このばね14は、アンカー金物1の建物躯体20への取付の際に、自由端側が下地などに当接して力を受けることで下地の凹凸方向に自由に弾性変形可能であり、下地の不陸の度合いに応じて変形することにより、下地とアンカー金物1との間のがたつきを抑えると共にこれらの間の隙間を一定に調整可能とする。このばね14は、本実施形態の場合、最も幅が広く形成されるセンターピース2の水平壁9に形成されているが、これに特に限定されるものではなく、サイドピース3,4の幅をばね14を形成するに十分な広さのものとしてサイドピース3,4の水平壁9にもばね14を形成するようにしても良い。例えば、サイドピース3,4とセンターピース2の3ピースにそれぞればね14を備えることも可能であるが、場合によっては図26に仮想線で示すように、サイドピース3,4のみに前後対称にばね14を形成するようにしても良い。サイドピース3,4の前後に対称にばね14を設ければ、センターピース2にばね14が無くとも不陸を調整することができる。また、ばね14は、どちら向きに切り起こしても良いが、好ましくはボルト5から離れたところで下地に接触するように後端15あるいは前端側へ向けて突出するように形成することである。また、センターピース2におけるばね14は、例えば図28に示すように、後部側に在ればどちら向きでも良いが、好ましくは取付部12から離れたところで下地に接触するように後端15側へ向けて突出するように形成することである。
ここで、サイドピース3,4とセンターピース2との間隔Sを狭くすると、地震時などに相対的にセンターピース2が動き得る許容幅が少なくなるため、センターピース2の動きが制限されて陶板21側に力が直に伝わってしまう問題がある。その反面、サイドピース3,4とセンターピース2との間に大きな隙間を設定すると、サイドピース3,4の間におけるセンターピース2の位置が安定せずに、平常時(地震負荷などがかからない時など)におけるセンターピース2ひいては陶板21のがたつきが大きくなる問題がある。また、センターピース2の骨格部7の幅W1が狭いと、ボルト5まわりにヨーイング及び/またはローリングを起こし易くなり、地震時の動きの吸収に直接関与しないがたつきが大きくなる。そこで、センターピース2の骨格部7の幅W1をサイドピース3,4の骨格部7の幅W2の例えば2〜5倍、好ましくは2〜4倍、より好ましくは2.5〜3.5程度に広げると共にセンターピース2の骨格部7と少なくともいずれか一方のサイドピース3あるいは4の骨格部7との間にクッション19を介在させて、平常時におけるがたつきを低減させながらも、地震時に胴縁や下地が動いたときにセンターピース2が相対的に自由に動くことで振動を吸収し、陶板21側に力が直に伝わり難くい構造とすることが好ましい。勿論、陶板裏面の凹凸の影響によるアンカー金物のがたつきを無くすという観点からは、センターピース2の骨格部7の幅W1とサイドピース3,4の骨格部7の幅W2とがほとんど変わらなくとも影響はない。
尚、陶板21の裏面21aの定着用溝22は、陶板21の上下のこば面に溝加工されたものであり、陶板裏面21aに対して斜めに切り込まれてサイドピース3,4の爪6が引っかかるオーバーハング部22aが形成されている。この一対の溝22の間で囲まれる陶板の形状は蟻形を成し、その両端を区画する溝22の斜面でオーバーハング部22aを形成している。尚、図面上では爪6の角度と定着用溝22のオーバーハング部22aの角度とが同じ角度であるように描写されているが、爪6の角度をオーバーハング部22aの角度よりも小さく(鋭角)して、爪6の先端あるいは先端側寄りでオーバーハング部22aと当接させることが好ましい。この場合、爪6が当たるオーバーハング部22aの根元部分では厚みがより厚く、欠けに対して強くなることから、オーバーハング部22aの欠けが少なくなる。
図8及び図9に、本発明の第2の実施形態を示す。尚、以下に説明する他の実施形態において上述の実施形態と同様の構成要素については、特に断りがない限り同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
この実施形態のアンカー金物1は、第1の実施形態における左右の座板10を前後方向に互い違いに配置して左右非対称としたものである。この場合には、センターピース2の前部側にも座板10を設けることにより、取付部12の取付用孔12aの周辺の変位が抑えられる。つまり、センターピースの前部側において、サイドピース4の垂直壁8がセンターピース2の座板10に乗っかるような形態になるので、陶板21を建物躯体20に押し付けるような変位が与えられた場合に、座板10を介して陶板21に力が分散して加わり、破壊に強くなる。これにより、何らかの要因で陶板21が引っ張られることで取付部12が面外方向に変形する場合にも、センターピース2の取付部12の周辺の変位を抑えることで陶板21の破損までの強度が上がることは本発明者等の実験により確認された。勿論、センターピース2の左右の垂直壁8あるいは左右のサイドピース3,4のセンターピース2に面する垂直壁8にそれぞれ設けられる座板10は、前端から後端までの全域に形成されることが好ましいが、例えば図10、図13、図26や図29等に示すように部分的でかつ左右対称に設けても良いし、図3や図9等に示すように左右非対称に設けても良い。さらに、座板10は、センターピース2の中央(ボルト5の通過位置)を含めてあるいは含めずに前部側(ボルト5の通過位置よりも取付部12寄りの領域)でも、後部側でも、必要に応じていずれの場所にでも形成することができる。乾式形成陶板の裏面に形成されるリブの形状は様々であるため、それに応じて座板10を適宜配置させることが望まれる。
また、図10〜図12に第3の実施形態として、引っ掛けタイプのアンカー金物の実施形態を示す。この引っ掛けタイプのアンカー金物は、センターピース2がフック部分25を有し、建物躯体20側に設置される胴縁と呼ばれる下地金物(以下、胴縁という)29にフック部分25を引っ掛けるようにして使用するものである。この場合における胴縁29は、フック部分25で囲まれる凹部26に収められるフランジを有し、陶板21と直交する方向にはがたつきなく引っ掛けられるように設けられている。通常、このアンカー金物1は、陶板21の下端縁側に取り付けられ、胴縁29にフック部分25が引っ掛けられて陶板を支える。尚、本実施形態では、センターピース2の後部に形成した左右の座板10の幅は同じで、左右対称に形成されている。これは、引っ掛けタイプのアンカー金物の場合、図23に示すように建物躯体20に直接固定されず胴縁29などに引っ掛けられて取り付けられる構造であるため、直下の陶板21のアンカー金物1と干渉することもなければ、サイドピース3,4とセンターピース2との間に幅方向への変位を吸収するための隙間Sを設定する必要が無いことから、センターピース2を偏らせて配置する必要が無いからである。
さらに、図13〜図16に第4の実施形態を示す。この実施形態では、サイドピース3,4の前端付近と後端付近とにそれぞれ座板10が設けられている。具体的には、サイドピース3,4の内側の垂直壁8の下端縁が外側即ちセンターピース2側に向けて折り曲げられてセンターピース2の垂直壁8の下端縁の下に潜り込むように設けられている。この場合には、サイドピース3,4から突出する座板10と重なるセンターピース2の垂直壁8の下端縁部分には、座板10の肉厚よりも深い切り欠き11が形成され、湿式成形陶板などの平坦な陶板裏面21aに対して取り付けられるときには、センターピース2側は切り欠き11が設けられていない領域の垂直壁8の下端縁が、サイドピース3,4側は座板10の裏面がそれぞれ陶板裏面21aに当接するように設けられている。サイドピース3,4側に座板10が設けられてその上にセンターピース2の垂直壁8が載置される本実施形態の場合には、特に、陶板21の破壊までの強度を高める効果がある。センターピース2の垂直壁8の下端縁によって陶板21に加わる力が分散されるため、座板10がない場合に比べてより大きな力が作用しても陶板21が壊れることがなくなる。しかも、サイドピース3,4の前後端に座板10を対称に配置する場合、陶板21が押されたり、引っ張られたりする力の双方に対して有効に座板10が作用する。勿論、この実施形態における座板10についても、図2に示すように、クッション19を介在させる側とさせない側とで座板10の幅を異ならせることも可能である。
さらに、図17〜図20に第5の実施形態を示す。この実施形態は、引っ掛けタイプのアンカー金物で、サイドピース3,4の前後端付近に座板10を設けたものである。この実施形態では、サイドピース3,4のセンターピース2側の垂直壁8の下端縁がセンターピース2側に折り曲げられてセンターピース2の垂直壁8の下端縁の下、即ち切り欠き11に潜り込むように設けられている。この実施形態においても、センターピース2の肉厚は薄く例えばサイドピース3,4に必要とされる肉厚よりも薄く形成されている。しかしながら、曲げ加工による曲げ強度の向上とセンターピース2の垂直壁8には補強用リブ24を設けることで、肉厚を薄くすることによる強度の低下を補うようにしている。このように、センターピースを薄く形成することで、材料コストを低減できると共に、折り曲げ加工を容易にすると共に、重なる部分の切り欠きが小さくできるため、センターピース2あるいは両サイドピース3,4の断面欠損が少なくできる。
さらに、図26〜図28に第6の実施形態を示す。この実施形態のアンカー金物は、曲げ加工前の内側の垂直壁8に相当する部分と外側の垂直壁8に相当する部分とにそれぞれタップによって予めねじ孔17を設けた状態で、内側の垂直壁8と外側の垂直壁8との2つのねじ孔17が同心上に配置されるように骨格部7の曲げ加工を可能とする構造としたものである。
ボルト5を締め付けるためのねじ孔17は一般にタップ立てにより切られる。そして、このねじ孔17をサイドピース4の骨格部7の内側の垂直壁8と外側の垂直壁8とにそれぞれ同心状に配置するには、サイドピース4の曲げ加工前のブランクに先にタップ立てを実施してから骨格部7を曲げるか、骨格部7を曲げ加工によって成形した後に内側垂直壁8と外側垂直壁8とにタップ立てを行う方法の2通りの加工方法が考えられる。ここで、曲げ加工によってチャネル状に骨格部7を成形してからタップ立てを行ってねじ孔17を切る場合には、タップを立てる際の力が垂直壁8にかかるので、そのままではねじ孔の軸が傾いてしまう。そこで、両垂直壁8に撓みが生じないように、内側の垂直壁8と外側の垂直壁8との間即ち骨格部7の内側の空間に専用ジグを配置して撓みを防ぎ、ねじ孔17の軸が傾かないようにする必要がある。このため、専用ジグが必要となるばかりか作業に手間がかかる問題がある。他方、曲げ加工前にねじ孔17をタップ立てする場合には、曲げ加工前のブランクの両垂直壁8の目的とする位置に精確にタップ立てでねじ孔17を切っても、曲げ加工時にねじ孔17部分に歪みが生じてしまい、内側の垂直壁8のねじ孔17と外側の垂直壁8のねじ孔17とでそれぞれねじ孔の中心軸が互いに逆方向に傾いてしまい、ボルトが通し難くなったりボルト5の回りが悪くなるという問題がある。
そこで、曲げ加工によって形成される骨格部の水平壁9に相当する部分の2箇所のねじ孔17の間でかつ曲げ加工の際に生じるコーナー部分での中立軸の内側の圧縮力並びに外側の引っ張り力がねじ孔17の周囲に影響を与える領域・部分に、曲げ加工前に予め貫通孔33を開けておく。これにより、ねじ孔17の周辺の内側の垂直壁8と外側の垂直壁8とが貫通孔33の存在によって分断されて互いに引っ張られあるいは圧縮されることがなくなるため、曲げ加工によって骨格部7を形成する際に、ねじ孔17の周辺が引っ張られることがなくなり、ねじ孔17が歪まなくて済む。
しかも、この貫通孔33の存在は、同じような形状のサイドピース3,4の間でも、ねじ孔17が切ってあるサイドピース4であることが貫通孔33の有無によって一目で判別できる。このため、アンカー金物1の組み立て作業もより迅速なものとできる。
また、図26〜28に示すように、両サイドピース3,4の少なくとも後端近傍に座板10を設けて、この座板10の上にセンターピース2を載置させ、かつボルト5を中心とする取付部12の取り付け孔12aの中心までの距離とボルト5から後端15までの距離をほぼ同じにするようにセンターピース2の後部長さをサイドピース3,4の後座板10よりもさらに後方へはみ出すように設ける場合には、座板10よりも後方へはみ出た部分(後端付近)の垂直壁8の下端縁に陶板21に向かって突出する突起34を設けることが好ましい。これにより、センターピース2の取付部12の側にセンターピース2を相対的に持ち上げるような力が作用したときに、反対側のセンターピース2の後端15側の突起34が陶板21に当たり反力を陶板21で受けることができる。そして、ボルト5を中心とする取付部12の取り付け孔12aの中心までの距離とボルト5から後端15の突起34までの距離をほぼ同じにすることによって、陶板21に加わる力を軽減してほぼ同じ力が取付部12と陶板21との間に作用させることにより陶板21あるいはセンターピースの取付部12に偏った過大な荷重が作用するのを防いで強度アップを図ることができる。尚、図中の符号35はセンターピース2の垂直壁8の中央の下端に設けられた突起35であり、ボルト5を貫通させる孔18の周辺で強度不足による破断が起きないようにするための十分な縁空きを取るようにしている。尚、図13〜20及び図31の実施形態においても同様である。
また、図29〜図30に第7の実施形態を示す。引っ掛けタイプのアンカー金物1においては、センターピース2のフック部分25の長さが図12や図20に例示するようにサイドピース3,4の前端縁に達する程に長いものが一般的である。このフック長さのアンカー金物1の場合、建物躯体20側に設置される胴縁29にフック部分25を引っ掛ける際に、引っ掛け易くなると共に外れ難くなってより安定な支持が得られる。その反面、陶板21の施工後に一部陶板を張り替えるような場合、例えば欠損した陶板を貼り替えるようなときには、陶板21を持ち上げながら手前側に回転させることで胴縁29からフック部分25を取り外し、さらに新たな陶板21の嵌め込む場合にも、陶板21の下端に取り付けたフック式アンカー金物1のフック部分25を胴縁29に引っ掛けてから胴縁29を中心に陶板21を奥側へ回転させながら陶板21をゆっくりと差し込むことでセットせざるを得ない。このことから、目地32の幅を大きくとっておかないと陶板21の張り替え作業が難しくなる。また、センターピース2の後部長さを長くすると、陶板21にかかる力が小さくなると共にセンターピース2の揺動範囲が小さく抑えられるため、胴縁29への設置後の支持が安定する。その反面、施工後に一部陶板を張り替えるような場合には、陶板21に対するセンターピース2の揺動範囲が小さいために陶板21の回転がその分だけ制約を受け、目地32の幅を大きくとっておかないと陶板21の張り替え作業が難しくなる。
そこで、この実施形態の引っ掛けタイプのアンカー金物は、図10〜図12あるいは図20に記載の実施形態にかかる引っ掛けタイプのアンカー金物に比べて、センターピース2のフック部分25の長さ並びにセンターピース2の後部長さを短くしている。つまり、センターピース2はサイドピース3,4よりも前後にそれぞれ20%〜50%、好ましくは25%〜40%程度短かくされている。この場合には、センターピース2の前のフック25部分だけでなく、後部を短くすることにより、センターピース2の回転バランスとコストダウンを図ると共に目地の幅も狭くできる。つまり、胴縁29からフック部分25を取り外すために必要とされる陶板21の持ち上げ量が少なくて済む。さらに、ボルト5が貫通する孔よりも後方のセンターピース2の長さを短くすることにより、陶板21に対するセンターピース2の揺動角度が大きくなるために、その分だけ陶板の持ち上げ量が少なくて済む。同様に、取り外した陶板21の位置に新たな陶板21を嵌め込む際に必要な陶板21の挿入量も少なくて済む。したがって、目地32の幅を狭くすることができる。
また、座板10は、好ましくは、図31あるいは図32に示す第8の実施形態あるいは第9の実施形態に示すように、センターピース2あるいはサイドピース3,4のいずれであっても前端あるいは後端寄りにバランス良く(対称に配置)設けることである。これら実施形態の場合、サイドピース3,4の内側の垂直壁8あるいはセンターピース2の両垂直壁8を介して陶板21側に加えられる力を座板10を介して行うこととなるので、加わる力を分散させ緩和することができ、陶板の破壊強度を上げることに効果的である。例えば、座板10をセンターピース2の前部とサイドピース3,4の後部とに設けた第8の実施形態の場合には陶板21を捲り上げる力に対して爪6の部分だけでなく座板10でも力を受け止めるため、より効果的である。他方、センターピース2の後部とサイドピース3,4の前部とに座板10を設けた第9の実施形態のアンカー金物1の場合には、サイドピースの垂直壁がセンターピースの座板に乗っかるような形態になるので、陶板21を躯体壁面に押し付けるような変位が与えられた場合に、座板10を介して陶板21に力が分散して加わるので、破壊に強くなる。勿論、陶板21には押されたり、引っ張られたりする力が働くので、センターピース2あるいはサイドピース3,4のいずれであっても座板10が前後に配置されていれば両方の力に有効に作用する。
以上のように組合わされたセンターピース2とサイドピース3,4及びボルト5を用いて、陶板21を把持しかつ建物躯体20に取り付ける乾式工法について説明する。因みに、アンカー金物1を利用した乾式工法は、例えば図24あるいは図25に示すような直接固定タイプ(下地そのものあるいは下地に取り付けられている胴縁29に固定する)と、図23に示すような引っ掛けタイプの併用との2方式がある。
まず、図21に示すように、陶板21の裏面の上下のこば面にかけて適宜位置に一対の定着用溝22を加工する。この定着用溝22は、陶板21の上下のこば面に溝加工されたものであり、陶板裏面21aに対して斜めに切り込まれてサイドピース3,4の爪6が引っかかるオーバーハング部22aが形成されている。次いで、仮組み立て状態のアンカー金物1の一対のサイドピース3,4の爪6をそれぞれ定着用溝22に嵌め込む。そしてボルト5を締付けることによりサイドピース3,4を互いに引き寄せて両サイドピース3,4を陶板21を介して一体化する。そして、両サイドピース3,4の間でセンターピース2を或る程度の遊びを以て支持させるように組み立てる。
ここで、図13〜図20並びに図26〜図30に示すように、サイドピース3,4の内側の垂直壁8に座板10を設ける場合、陶板21の定着用溝22に爪6が引っ掛けられているサイドピース3,4の骨格部7がボルト5の締め付けにより互いに引っ張られて陶板21を締め付ける際に、骨格部7を挟んで内側に配置される座板10と外側に配置される水平壁13とによって骨格部7が水平移動させられる。このため、アンカー金物1は陶板21の裏面21aと当接する面積が増えるため、陶板裏面21aに対して平行を保ちながら爪6を陶板21の定着用溝22に嵌入させることができる。したがって、ボルト5の締め付けにより左右のサイドピース3,4の爪6と爪6との間隔を調整することで、陶板21の定着用溝22の間で形成される蟻を一対の爪6と水平壁13並びに座板10とで挟み付けることができ、安定した深さで固定することにより施工後の陶板21の落下を防ぐことができる。しかも、左右のサイドピース3,4の爪6と定着用溝22との間のかかり具合に偏りがなくなるので、一方の定着用溝22のオーバーハング部分22aに力が集中することによる欠損などを防ぐことができる。また、サイドピース3,4の座板10の上にセンターピース2が載置されて、センターピース2とサイドピース3,4とが一定高さに保たれるため、センターピース2を介して建物躯体20に取り付けられる陶板21の高さが揃い、陶板21から成る壁面の仕上がりを良好なものにできる。しかも、座板10の存在がオーバーハング部22aから離れた部分でも力を受けるため、陶板21にかかる力を分散できるので、陶板が破壊するまでの力が結果的には大きくなる爪6が当たるオーバーハング部22aが幅欠けするのを防ぐ。
以上のようにして一枚の外装体の適宜箇所に複数のアンカー金物1を取り付ける。通常、大型陶板の場合には、均等に4箇所にアンカー金物1を取り付ける。このとき、アンカー金物1は、図21に示すように、センターピース2の取着部12が陶板21の縁よりも外に突出するように両サイドピース3,4が定着用溝22を利用して陶板21に固定される。そして、ビス31などの固定手段が陶板21と干渉することなく取着孔12aを通されて建物躯体20に直接あるいは建物躯体20側の胴縁29にねじ込まれるように配慮されている。これにより、陶板の建物躯体20への取付け作業がし易いものとされる。
図23に鉄筋コンクリートに下地金具を介して陶板を取り付ける例を示す。鉄筋コンクリート建物躯体20に、アンカーボルト27を利用してアングル28を所定間隔で固定し、このアングル28に胴縁29を不陸調整を実施しながら締結ボルト30により固定する。そして、陶板21の上端側に固定されたアンカー金物1の取付部12が、胴縁29に図示していないビスなどで固着されて結合される。他方、陶板21の下端側には、フック型アンカー金具1が固定されており、胴縁29にセンターピース2のフック部25を引っ掛けるようにして陶板下端が胴縁29に固定される。ここで、胴縁29はその先端側が折り返されてフック型アンカー金具1の凹部26に嵌合するように設けられ、がたつきなくフック部25と係合するように設けられている。
図24に図1のアンカー金物1だけを利用して鉄筋コンクリートの胴縁29に陶板21を取り付ける例を示す。図21に示すように陶板21の上端側と下端側にそれぞれアンカー金物1を固定し、コンクリート外壁( 図示せず)の不陸調整済みの胴縁29に、アンカー金物1の取付部12を図示していないビスなどで固着されて結合される。このとき、上側の陶板の下端のアンカー金物1と下側の陶板の上端のアンカー金物1とは、互いに取付部12が組み合わされるように点対称に配置されている。そして、図示していないが、陶板21と陶板21との間の空間即ち目地32には目地材が充填される。
図25は、建物躯体20の下地に対して直にアンカー金物1を取り付けることにより陶板を固定する例である。一般に、センターピース2の取付部12を胴縁29や下地へ取り付けることで陶板21を建物躯体20へ固定する場合、図示していないが、下地などに不陸(平らでなく凹凸があること)が存在する場合には下地とアンカー金物との間にライナーを入れて1〜3mm程度アンカー金物を浮かすなどの不陸調整が必要となる。しかしながら、局在するセンターピースの取付部位毎にライナー挿入などの不陸調整を実施することは作業上面倒である。しかしながら、本発明のアンカー金物を利用する場合には、たとえ下地の不陸があったとしても、ばね14の変形により下地の凹凸の変位を吸収し、下地の施工精度に陶板張りの仕上がりが影響を受けることが少なくなる。依って、直に下地にアンカー金物1を固定することにより陶板張りを行う場合にも、下地の不陸調整が不要となり、迅速な施工が可能となると共に作業が容易なものとなる。これによって、下地などに不陸が存在しても、不陸調整を事前に行わずとも陶板を貼り付けることができるアンカー金物を提供することができる。尚、図中の符号31は、直に下地にアンカー金物1を固定するビスである。
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば本実施形態では、座板10とばね14の双方を備えるアンカー金物の例を主に挙げて説明したが、施工法によってはばね14を必要としないこともある。即ち、図23に示すように、胴縁29を使って建物躯体20に陶板21を固定する場合には、胴縁29を建物躯体20側に直接固定されたアングル28に取り付ける際に位置調整することで不陸調整を行うことができるのでばね14を必要としない。その反面、湿式成形陶板のようにリブの存在がなく裏面の凹凸がない陶板に用いる従来のアンカー金具であっても、下地に直接にセンターピース2をビス止めなどで固定する場合には、ばね14の存在は有用である。この場合においても、ばね14の下地面への当接による変形で不陸調整が行われるので、下地に直接アンカー金物1を取り付ける前に不陸調整を行う必要がなくなることから、陶板張り作業の施工がより簡易になる。つまり、センターピース2あるいはサイドピース3,4のいずれかにばね14を形成することは、下地に対して直にアンカー金物を取り付ける全てのケースにおいて有益・効果的である。
また、上述の各実施形態では、座板10はセンターピース2かサイドピース3,4のいずれか一方あるいは双方に互いに逆向きに突出するように形成するようにしているが、これに特に限られず、同じ方向に座板10を突出させるようにしても良い。図示していないが、例えば図26において、サイドピース4の内側の垂直壁8から座板10を突出させる一方、センターピース2の他方のサイドピース3と対向する垂直壁から座板10を突出させ、センターピース2の一方の垂直壁8がサイドピース4の座板10の上に載置されると共にセンターピース2の反対側の垂直壁のから突出する座板10にサイドピース3の垂直壁8が載置されるようにしても良い。この場合においても、構造的には複雑となるが、リブを有する陶板などの外装材の定着用溝へのアンカー金物の爪のかかり具合が安定するという初期の目的は達成される。
さらに、図8及び図9に示す第2の実施形態では、左右の座板10をセンターピース2の前後方向に互い違いに配置して左右非対称としているが、左右のサイドピース3,4に対して前後方向に互い違いに配置して左右非対称に設けるようにしても良い。この場合にも、サイドピース3,4の前後に座板10を設ける場合と同様の効果を得ることができる。また、図示していないが、座板はサイドピースの内側の垂直壁あるいはセンターピースの垂直壁の前部側あるいは後部側のいずれか一方の端部寄りでかつ向かい合うサイドピースの内側の垂直壁とセンターピースの垂直壁との間で座板が互い違いに配置されるようにしても良い。即ち、図8の実施形態において、さらにサイドピース4の後部とサイドピース3の前部とに各サイドピース3,4の内側の垂直壁8の下端をセンターピース2側に折り曲げて座板を突出させるようにしても良い。この場合の効果については、図31及び図32の場合と同様である。