JP4707250B2 - ディファレンシャル構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は終減速機構とディファレンシャル機構とを有する車両用のディファレンシャル構造に関し、なお詳細には、ディファレンシャル内の各部に潤滑油を導く誘導部材としての機能と、ブリーザへの潤滑油の進入を防止する遮断壁としての機能とを兼ね備える潤滑構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両用ディファレンシャルにおいては、一般に終減速機構とディファレンシャル機構とがディファレンシャルのハウジング(デフハウジングとも称される)内に配設されており、終減速機構を構成するリングギヤの回転を利用してハウジング内に貯留された潤滑油を掻き上げて潤滑するように構成されている。ハウジングの内壁面にはリブが設けられ、掻き上げられて内壁面に衝突した潤滑油をギアやベアリング等に導いて潤滑するように構成される。
【0003】
また、ディファレンシャルには内部温度の変化に伴う気体の膨張や収縮によりハウジング内部が加圧状態や負圧状態にならないように気体を流通させるブリーザが設けられている。ブリーザは気体の流通を許容し、かつ気体の流通時(息つき時)に潤滑油が噴き出さないようにする必要がある。このため、ブリーザはリングギヤの歯面の裏側等のように掻き上げられて飛散する潤滑油がかかりにくい位置に設けられる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このように、潤滑油を各部に導くリブと、気体の流通を図るブリーザとは、それぞれの作用に起因して好ましい配設位置の条件が相反するため、従来ではそれぞれが別個独立して設けられていた。例えば、ハウジングにおけるリングギヤの歯面と対峙する側の内壁面上部(例えばディファレンシャルキャリアの内壁面上部)にリブが設けられ、リングギヤ裏面側の壁面上部(例えばキャリアカバーの壁面上部)にブリーザが設けられていた。このため、ハウジングの構造が複雑化するという問題があった。
【0005】
一方、実公平4−51239号公報には、潤滑油を導く誘導部材としての機能とブリーザへの潤滑油の進入を防止する遮断壁としての機能とを兼ね備えるディファレンシャル構造が開示されている。これは、キャリアカバーに設けられたブリーザポートの近傍に潤滑油を遮蔽する遮蔽板を設け、この遮蔽板の下端部をブリーザポートと反対側に折り曲げて遮蔽板に衝突する潤滑油をサイドギヤシャフトのベアリングやシール部に導くというものである。
【0006】
しかしながら、この技術では、ブリーザおよび上記遮蔽板がサイドギヤシャフトを挟んでドライブピニオンと反対側に配設されるため、ドライブピニオンやディファレンシャル機構の潤滑を充分に行うことができないという問題があった。また、ブリーザをキャリアカバー側に設ける構成では、キャリアカバーとディファレンシャルキャリアとをフランジ接合させる関係上、ブリーザをハウジングの中央かつ最上部(機能上の最適位置)に設けることが難しいという問題があった。
【0007】
本発明は、上記のような問題に鑑みて成されたものであり、簡明な構成でブリーザ性能の向上とドライブピニオンおよびディファレンシャル機構の潤滑性の向上とを両立させるディファレンシャル構造を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、終減速機構とディファレンシャル機構とを液密的に収納するハウジングと、このハウジングに回動自在に軸支されケース内部にディファレンシャル機構を備えるディファレンシャルギヤケースと、このディファレンシャルギヤケースの外周部に配設された、かさ歯車から構成されるリングギヤと、ハウジングに回動自在に軸支されリングギヤと噛合して終減速機構を構成する、かさ歯車から構成されるドライブピニオンとを有し、リングギヤの回転によりハウジング内に貯留する潤滑油を掻き上げてハウジング内の潤滑を行うディファレンシャルである。そのうえで、上記目的を達成するため、本発明では、ハウジングにおけるリングギヤの歯面側の上部位置にハウジングの内部と外部とを連通するブリーザポートを設け、ハウジングの内部におけるブリーザポートの近傍領域に、ブリーザポートの下部近傍領域を取り囲みリングギヤの歯面方向に向けて形成された壁面部(例えば実施形態における壁面部23)と、壁面部に取り囲まれた開口を覆ってブリーザ室を形成しブリーザ室への潤滑油の進入を遮断する覆い板(例えば実施形態における潤滑プレート31,32,33等)とを設けており、この覆い板がリングギヤの歯面側に位置するとともに、ドライブピニオンの上方に延びて配設され、ブリーザ室における下側の壁面部にこの壁面部の上下を連通する切り欠き部(例えば実施形態における切り欠き部23a)を有し、切り欠き部はドライブピニオンに対してリングギヤの回転軸よりも後方に配置されているようにディファレンシャル構造を構成する。
【0009】
上記構成では、ハウジングにおけるリングギヤの歯面側の上部位置にブリーザポートが設けられ、このブリーザポートの下部近傍領域を取り囲む壁面部とその開口を覆う覆い板とからブリーザ室が構成される。ブリーザ室への潤滑油の進入を遮断する覆い板は、リングギヤの歯面側に位置するとともにドライブピニオンの上方に延びて配設されている。このため、リングギヤの回転によって掻き上げられた潤滑油は歯面側に位置する覆い板にぶつかって板面を伝って流れ、下方に位置するドライブピニオン上に落下して潤滑を行う。また、覆い板はブリーザ室の壁面としての機能と潤滑油をドライブピニオンに導く誘導部材としての機能の両方を発揮する。
【0010】
また、他の本発明は、終減速機構とディファレンシャル機構とを液密的に収納するハウジングと、ハウジングに回動自在に軸支されケース内部にディファレンシャル機構を構成するディファレンシャルギヤケースと、ディファレンシャルギヤケースの外周部に配設された、かさ歯車から構成されるリングギヤと、ハウジングに回動自在に軸支されリングギヤと噛合して終減速機構を構成する、かさ歯車から構成されるドライブピニオンとを有し、リングギヤの回転によりハウジング内に貯留する潤滑油を掻き上げてハウジング内の潤滑を行うディファレンシャルである。そのうえで、本発明では、ハウジングにおけるリングギヤの歯面側の上部位置にハウジングの内部と外部とを連通するブリーザポートを設け、ハウジングの内部におけるブリーザポートの近傍部に、このブリーザポートの下部近傍領域を取り囲みリングギヤの歯面方向に向けて形成された壁面部(例えば実施形態における壁面部23)と、壁面部に取り囲まれた開口を覆ってブリーザ室を形成しブリーザ室への潤滑油の進入を遮断する覆い板(例えば実施形態における潤滑プレート31,32,33等)とを設けており、この覆い板がリングギヤの歯面側に位置するとともに、ディファレンシャルギヤケースに形成されてディファレンシャル機構を露出させるケース開口部の回転面に沿ってその上方に配設され、ブリーザ室における下側の壁面部にこの壁面部の上下を連通する切り欠き部(例えば実施形態における切り欠き部23a)を有し、切り欠き部はドライブピニオンに対してリングギヤの回転軸よりも後方に配置されているようにディファレンシャル構造を構成する。
【0011】
上記構成では、ハウジングにおけるリングギヤの歯面側の上部位置にブリーザポートが設けられ、このブリーザポートの下部近傍領域を取り囲む壁面部とその開口を覆う覆い板とからブリーザ室が構成される。ブリーザ室への潤滑油の進入を遮断する覆い板は、リングギヤの歯面側に位置するとともにディファレンシャルギヤケースのケース開口部の帯状の回転面に沿ってその上方に配設されている。このため、リングギヤの回転により掻き上げられた潤滑油は歯面側に位置する覆い板にぶつかってその板面を伝って流れ、下方で回転するケース開口部を通って内部のディファレンシャル機構に落下して潤滑を行う。また、覆い板はブリーザ室の壁面としての機能と潤滑油をディファレンシャル機構に導く誘導部材としての機能の両方を発揮する。
【0012】
さらに、覆い板は切り欠き部の近傍において上記下側の壁面部よりも下方に延びて形成されることが好ましい。このような構成によれば、ディファレンシャルの温度変化時に気体流通路となる切り欠き部が覆い板の直後に位置し、かつこの切り欠き部近傍の覆い板が壁面部よりも下方に延びて形成されているため、切り欠き部からブリーザ室内に侵入可能な入射角の角度範囲が極めて小さく、リングギヤで掻き上げられたオイル飛沫の侵入を効果的に防止することができる。
【0013】
また、覆い板はケース開口部の回転面の上方に位置する縁部がケース開口部の中心に向けて形成されることが好ましい。このような構成によれば覆い板から滴下する潤滑油を、ディファレンシャル機構を構成するサイドギヤやピニオン等に均一に滴下させて潤滑することができる。
【0014】
また、覆い板にケース開口部およびドライブピニオンのうち少なくともいずれか一方に潤滑油を導く突起部(例えば実施形態における突起部33c,33d,33e等)を設けることも好ましい。このような構成によれば覆い板の板面を流下する潤滑油を効率的にドライブピニオンやディファレンシャル機構に導いて潤滑することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。なお、以下では本発明に係るディファレンシャル機構の実施例として、図10に示すようにフロントエンジン・リヤドライブの車両における後輪駆動用のディファレンシャルに適用した場合について説明する。
【0016】
この車両においてエンジン1で発生される回転駆動力は、トランスミッション2で所定減速比に減速され、プロペラシャフト3を介してディファレンシャル5のドライブシャフト4に伝達される。ドライブシャフト4に伝達された回転駆動力は、ディファレンシャル5のハウジング20内に設けられる終減速機構およびディファレンシャル機構を介して左右のサイドシャフト6a,6bに伝達され、このサイドシャフト6a,6bに連結されるアクスルシャフト7a,7bを介してタイヤ車輪に伝達される。
【0017】
ディファレンシャル5を、左右に延びるサイドシャフト6a,6bの回転軸を含む上下方向断面で切断して後方から見た断面図を図1に示し、このディファレンシャル5からディファレンシャル機構やベアリング等を取り外してディファレンシャルキャリア21のフランジ面側(図1における左側)から見た側面図を図2に示す。
【0018】
ディファレンシャル5のハウジング20は、ディファレンシャルキャリア(以下、デフキャリアという)21とキャリアカバー22とからなり、デフキャリア21左端の開口部にキャリアカバー22が嵌合締結されて一体のハウジングを形成する。デフキャリア21の前方部にはドライブシャフト4を回転自在に軸支するベアリングおよびオイルシールが設けられており(ともに不図示)、ハウジング20の内部にドライブピニオン4aが位置してドライブシャフト4が回転自在かつ液密的に支持されている。
【0019】
ディファレンシャル機構40は、ディファレンシャルギヤケース(以下、デフケースという)41、デフケース41内に左右に対向して配設される一対のサイドギヤ42a,42b、これらのサイドギヤを結んで噛合するピニオンギヤ44a,44b、ピニオンギヤ44a,44bを回転可能に軸支するピニオンシャフト43などから構成され、デフケース41が左右端部でデフキャリア21とキャリアカバー22とにそれぞれベアリング51a,51bで回転可能に軸支されている。
【0020】
デフケース41の外周部にはリングギヤ45がボルト締結されており、前述したドライブピニオン4aと噛合して終減速機構を構成する。
【0021】
デフケース41の左右中心部には、ベアリング51a,51bの内輪嵌合面と同軸に軸支部が形成されており、この軸支部に左右のサイドシャフト6a,6bを受容して回転可能に軸支する。サイドシャフト6a,6bの先端部には軸方向に延びるスプラインが形成されており、サイドギヤ42a,42bの内周に形成されたスプラインと係合してトルク伝達可能に構成されている。また、サイドシャフト6aの外周面とキャリアカバー22の内周面との間、サイドシャフト6bの外周面とデフキャリア21の内周面との間にはオイルシール52a,52bが設けられており、回転軸を液密的にシールしてハウジング20内に貯留される潤滑油の流出を防止している。
【0022】
このように構成されるディファレンシャル5において、エンジン1の回転駆動力がトランスミッション2、プロペラシャフト3を介してドライブシャフト4に伝達されると、ドライブシャフト4先端のドライブピニオン4aがハウジング20内で回転駆動され、このドライブピニオン4aと噛合するリングギヤ45およびこのリングギヤにボルト締結されたデフケース41が回動される。
【0023】
車両直進走行時のように、左右のタイヤ車輪が路面から受ける抵抗が略同一の状態では、左右のサイドギヤ42a,42bの回転抵抗が略同一になり、サイドギヤ42a,42bと噛合するピニオンギヤ44a,44bはピニオンシャフト43の軸廻りに回転力を生じない。このため、左右のサイドシャフト6a,6bはデフケース41に対して相対回転することなく、デフケース41とともに同一回転数で回転駆動される。
【0024】
一方、車両旋回走行時のように、左右のタイヤ車輪が路面から受ける抵抗が異なるとき、例えば図における左側の車輪の抵抗が大きいときには、デフケース内における左側のサイドギヤ42aの回転抵抗の方が右側のサイドギヤ42bの回転抵抗よりも大きくなるため、これらのサイドギヤ42a,42bと噛合するピニオンギヤ44a,44bには回転抵抗に応じてピニオンシャフト43の軸廻りに回転力が生じる。このため、左右のサイドシャフト6a,6bに回転速度差が生じ、例えば上例では左側のサイドシャフト4aがデフケース41の回転速度よりも遅く、右側のサイドシャフト6bがデフケース41の回転速度よりも速く回転駆動される。
【0025】
従って、上記のように左右のタイヤ車輪が路面から受ける抵抗が異なるときに、デフケース41内でサイドギヤ42a,42b、ピニオンギヤ44a,44bが回動され、ピニオンギヤを軸支する軸支部およびサイドシャフト6a,6bを支持するデフケース41の軸支部とに相対回転が生じる。このため、ディファレンシャル機構40の内部に対しても潤滑を行う必要がある。
【0026】
そこで、以上のように構成されるディファレンシャルのハウジング20内には、潤滑油が貯留されており、リングギヤ45の回転力によって掻き上げられる潤滑油によって終減速機構やディファレンシャル機構、ベアリング等の潤滑が行われる。ハウジング20の内部には、リングギヤによって掻き上げられた潤滑油を効率的に各被潤滑部に導くために種々の潤滑手段が設けられている。
【0027】
また、デフキャリア21の上部かつディファレンシャルの回転軸直上部には、ディファレンシャル5の温度変化に伴いハウジング内部の空気が膨張、収縮したときに、ハウジング20の内部が加圧状態や負圧状態にならないように気体を流通させるブリーザポート25が、デフキャリア21の上下を連通して形成されており、このブリーザポート25にブリーザプラグ26が取り付けられている。
【0028】
ブリーザポート25の近傍部におけるデフキャリア内壁面には、このブリーザポート25の下部近傍領域を取り囲むようにしてリングギヤ45の歯面方向に突出する壁面部23が形成されている。この壁面部23に取り囲まれてリングギヤ45の歯面方向に開口する開口端面には、その全面を覆うように潤滑プレート31が取り付けられており、潤滑プレート31の背後に壁面部で囲まれたブリーザ室24を形成する。このため、潤滑プレート31は、ブリーザ室24と対向して位置するリングギヤ45が掻き上げる潤滑油を直接受けて遮断しブリーザ室24への潤滑油の侵入を防止する。
【0029】
ブリーザ室下方の壁面部23は、ブリーザポート25側から2度〜5度程度の緩い傾斜角をもって下傾して形成されており、ブリーザポート25の反対側にあたる傾斜下方(車両後方側)の壁面部には、開口面から数mm程度の高さの切り欠き部23aが形成されている。このため、潤滑プレート31を取り付けた状態でこの切り欠き部23aが空気の通路となり、ハウジング内部の空気が膨張または収縮したときに切り欠き部23aおよびブリーザ室24を介して空気の排出、吸入が行われる。また、壁面部が緩い傾斜を持ちその下方に切り欠き部が形成されているため、気化した潤滑油がブリーザ室24内で凝縮したときに、この壁面部23を伝って下方に集まり、切り欠き部23aからハウジング内に戻される。
【0030】
ブリーザ室24の前面を覆う潤滑プレート31は、デフケース41を跨ぐように車両前後方向に延びて形成されており、後方側の下端部31aが切り欠き部23aの近傍領域において切り欠き部23aよりも下方に位置するように形成されている。このため、潤滑油の飛沫が切り欠き部23aを通ってブリーザ室24に入射するには、潤滑プレート31と平行に近い角度、かつ極めて小さな入射角度範囲でなければならず、リングギヤ45によって掻き上げられた潤滑油のほとんどを効果的に遮断することができる。
【0031】
従って、このようなブリーザ機構の構成によれば、ブリーザをデフケース41の回転軸直上(前後方向中心)かつ略最上部に設けており、車体の姿勢変化や加減速に伴う潤滑油の吹き出し、掻き上げられた潤滑油の噴き出し等を効果的に防止してブリーザ性能を大幅に向上させることができる。
【0032】
上記のようにしてブリーザ室24への潤滑油の侵入を防止する潤滑プレート31は、同時にディファレンシャル機構40およびドライブピニオン4aに潤滑油を導く誘導手段としての機能を備えている。図4は図1と同様の断面図について、デフケース41に設けられたケース開口部41aを点線で付記したものである。以下これらの各図を参照して潤滑プレート31の潤滑機能について説明する。
【0033】
ケース開口部41aは、ピニオンシャフト43を挟みこの軸と直交するデフケースの2カ所に設けられた開口部であり、デフケース41の内部に配設されるサイドギヤ42a,42bやピニオンギヤ44a,44b等を露出させて、これらの噛合部および軸支部、スプライン等に潤滑油を供給するための経路である。前述したようにデフケース41はリングギヤ45と一体でドライブピニオン4aに回転駆動される。このため、ケース開口部41aはデフケース41の回転に伴って回転し、その開口の大きさに応じた幅を持つ帯状の回転面を形成する。
【0034】
潤滑プレート31は、デフケース41を跨いで前後に延びており、その位置はケース開口部41aの回転面に沿ってその上方に位置するように配設されている。また潤滑プレート31は潤滑油を掻き上げるリングギヤ45と対峙して配設されているため、リングギヤ45が掻き上げた潤滑油の飛沫を直接衝突させて凝集させやすい。潤滑プレート31は、このようにして集めた潤滑油をプレート表面に沿って下方に導き、その下端部からケース開口部41aの回転周上に滴下させる。従って、デフケース41の内部に配設されるサイドギヤ42a,42bやピニオンギヤ44a,44b、これらの軸支部、スプライン等をケース開口部側から効果的に潤滑することができる。
【0035】
また、潤滑プレート31の前端部31bはドライブピニオン4aまで延び、その下端がドライブピニオン4aの上方に位置して配設されている。このため、潤滑プレート31の前方部に衝突した潤滑油は、ドライブピニオン4aの上方に導かれ、ドライブピニオン4aを効果的に潤滑することができる。
【0036】
次に、図5および図6には潤滑プレートの他の実施形態を示している。この潤滑プレート32は、以上説明した潤滑プレート31と同様にデフキャリア21に取付可能に構成されており、ブリーザ室24の全面を覆うとともに、前端部がドライブピニオン4aの上方に位置するように形成されている。この潤滑プレート32は、図5中にVI-VI矢を付して示す方向の断面図矢視図を図6に示すように、デフケース41を跨ぐ領域について同心円上に折り曲げ成形しており、曲げ端部がケース開口部41aの中心に向くように構成したものである。
【0037】
このような構成によれば、潤滑プレート32に衝突した潤滑油の飛沫は、このプレート表面に沿って下方に伝って流れ、折り曲げられた下端部32aからケース開口部41aの中心部に向けて滴下する。このため、ディファレンシャル機構を構成する左右のサイドギヤ42a,42bやピニオンギヤを均等に潤滑することができる。
【0038】
図7および図8は、潤滑プレートのさらに他の実施形態を示している。この潤滑プレート33は、上述した潤滑プレート31,32と同様にブリーザ室24の全面を覆い、前端部がドライブピニオン4aの上方に位置するように形成されている。この潤滑プレート33は、図7中にVIII-VIII矢を付して示す方向の断面図を図8(a)に例示するように、プレート表面に向けて突出する突起部33c,33d,33eを形成(エンボス加工)し、プレート表面を流れる潤滑油をこれらの突起部33c,33d,33eで所望の方向に導くように構成したものである。
【0039】
このような構成によれば、潤滑プレート33に衝突した潤滑油の飛沫は、プレート表面に形成された突起部33c,33d,33eに導かれて下方に流下し、プレートの下端部からケース開口部41aやドライブピニオン4aに滴下する。このため、例示するようにデフケース41の回転軸上から集中的に潤滑油を滴下させたり、ドライブピニオン4aにより多くの潤滑油を導くなど、潤滑油の供給を適宜に調整することができる。なお、この実施例では潤滑プレート33にエンボス加工により突起部を形成する例を示したが、図8(b)に示すように、例えば溶接等の手段によりプレートや線材等を凸状に立てて突起部を設け、あるいは鋳造等により突起部を一体成形させ、または樹脂材料を用いて射出成形等により突起部を一体成形させるものであっても良い。
【0040】
次に、図9にはキャリアカバー22に設けられた潤滑機構を示している。この潤滑機構は、リングギヤ45の回転によって掻き上げられた潤滑油をリングギヤ45の背面に位置するキャリアカバー側のベアリング51aやオイルシール52a、サイドシャフト6aの軸支部およびスプラインに供給するための潤滑機構である。
【0041】
キャリアカバー22の上部位置には、図9中にに点線で示すように壁面部が形成されており、その壁面の端面を覆うように貯留プレート35がねじ締結され、プレートの背後に貯留室27が形成される。貯留室27の壁面部はブリーザ室24のように閉じておらず、図における左方向が開いた開放部を有した部屋を形成する。貯留室27の底部にはこの底面を貫通しベアリング51aとオイルシール52aとの間に抜ける導入孔28が形成されている。
【0042】
このように構成される潤滑機構では、リングギヤ45の回転で掻き上げられキャリアカバー22の上部に衝突した潤滑油が、キャリアカバーの内壁面に沿って流下し、図9において左方に延びる斜面状の壁面部により導かれて貯留室27内に貯留される。貯留された潤滑油は導入孔28を通してベアリング51aとオイルシール52aとの間に供給され、この空間を潤滑油で満たして両部材を潤滑する。
【0043】
また、デフケース41の端部には潤滑油を受ける切り欠き部53aが形成され、サイドシャフト6aを支持する軸支部の内面には切り欠き部53aからデフケース中心部に延びるスパイラル状のオイル溝54aが形成されている。このスパイラル状のオイル溝54aの形成方向はデフケース41の正転時(車両の前進走行時)にデフケース端部から潤滑油を吸い込んでデフケース中央部に吐出するような回転方向で形成されている。このため、ベアリング51aとオイルシール52aとの間の空間に充満された潤滑油は、デフケース41が回転することにより切り欠き部53aからオイル溝54aを通してサイドシャフト6aとサイドギヤ42aとのスプライン係合部に供給され、これにより、サイドシャフト6aの軸支部およびスプライン係合部の潤滑が行われる。
【0044】
なお、デフキャリア21には、図2に示すようにハウジング内面に突出して潤滑油を集めるリブ29aと、リブ29aにより集められた潤滑油をベアリング51bとオイルシール52bとの間の空間に導く導入溝29bとが形成されており、ベアリング51bとオイルシール52bとの間の空間に充満された潤滑油は、上述したと同様にデフケース41に形成された切り欠き部53bおよびオイル溝54bを通してサイドシャフト6bとサイドギヤ42bとのスプライン係合部に供給され、これにより、サイドシャフト6bの軸支部およびスプライン係合部の潤滑が行われる。
【0045】
なお、以上説明した実施例においては、本発明に係るディファレンシャル構造をフロントエンジン・リヤドライブ車(FR車)のディファレンシャルに適用した例について示したが、本発明はこのような型式の車両のみならず、ハウジング内に減速機構とディファレンシャル機構とを備えるディファレンシャルであればどのような型式の車両であっても適用できる。例えば、フロントエンジン・フロントドライブ車(FF車)や、FF車またはFR車をベースとする四輪駆動車においても適用することができる。
【0046】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明では、ハウジング内に終減速機構とディファレンシャル機構とを収納するディファレンシャルにおいて、ハウジングにおける上部位置にブリーザポートを設け、ハウジング内部におけるブリーザポートの近傍領域にブリーザポートの下部近傍領域を取り囲む壁面部と、この壁面部に取り囲まれた開口を覆ってブリーザ室を形成しブリーザ室への潤滑油の進入を遮断する覆い板とを設け、この覆い板がリングギヤの歯面側に位置するとともに、ドライブピニオンの上方に延びて配設され、ブリーザ室における下側の壁面部にこの壁面部の上下を連通する切り欠き部を有し、切り欠き部はドライブピニオンに対してリングギヤの回転軸よりも後方に配置されているようにディファレンシャルを構成する。
【0047】
このような構成によれば、リングギヤの回転によって掻き上げられた潤滑油が歯面側に位置する覆い板に衝突して板面を伝って流れ、下方に位置するドライブピニオンに落下するためドライブピニオンに対して充分な潤滑を行うことができる。また覆い板はブリーザ室の壁面としての機能と潤滑油をドライブピニオンに導く誘導部材としての機能の両方を発揮する。従って、簡明な構成でブリーザ性能の向上とドライブピニオンの潤滑性の向上とを両立させるディファレンシャル構造を提供することができる。
【0048】
また、ハウジング内に終減速機構とディファレンシャル機構とを収納するディファレンシャルにおいて、ハウジングにおける上部位置にブリーザポートを設け、ハウジング内部におけるブリーザポートの近傍領域にブリーザポートの下部近傍領域を取り囲む壁面部と、この壁面部に取り囲まれた開口を覆ってブリーザ室を形成しブリーザ室への潤滑油の進入を遮断する覆い板とを設け、この覆い板がリングギヤの歯面側に位置するとともに、ディファレンシャルギヤケースに形成されたケース開口部の回転面に沿ってその上方に配設され、ブリーザ室における下側の壁面部にこの壁面部の上下を連通する切り欠き部を有し、切り欠き部はドライブピニオンに対してリングギヤの回転軸よりも後方に配置されているようにディファレンシャルを構成する。
【0049】
このような構成によれば、リングギヤの回転により掻き上げられた潤滑油は歯面側に位置する覆い板にぶつかってその板面を伝って流れ、下方で回転するケース開口部を通って内部のディファレンシャル機構に滴下するためディファレンシャル機構に対して充分な潤滑を行うことができる。また覆い板はブリーザ室の壁面としての機能と潤滑油をディファレンシャル機構に導く誘導部材としての機能の両方を発揮する。従って、簡明な構成でブリーザ性能の向上とディファレンシャル機構の潤滑性の向上とを両立させるディファレンシャル構造を提供することができる。
【0050】
また、覆い板は切り欠き部の近傍において上記下側の壁面部よりも下方に延びて形成することにより、切り欠き部からブリーザ室内に侵入可能な入射角の角度範囲が極めて小さく、リングギヤで掻き上げられたオイル飛沫のブリーザ室への侵入を効果的に防止することができる。
【0051】
また、ケース開口部の回転面の上方に位置する覆い板の縁部をケース開口部の中心に向けて形成することにより、覆い板から滴下する潤滑油をディファレンシャル機構のサイドギヤやピニオン等に均等に滴下させて潤滑することができる。
【0052】
また、覆い板にケース開口部およびドライブピニオンのうち少なくともいずれか一方に潤滑油を導く突起部を設けることにより、覆い板の板面を流下する潤滑油を効率的にドライブピニオンやディファレンシャル機構に導いて潤滑することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るディファレンシャル構造を備えるディファレンシャルの断面図である。
【図2】上記ディファレンシャルにおけるデフキャリアの側面図である。
【図3】上記デフキャリアにおけるブリーザ室近傍部を拡大して示す側面図である。
【図4】本発明に係るディファレンシャル構造を備えるディファレンシャルの断面図である。
【図5】本発明に係るディファレンシャル構造における潤滑プレートの第2実施例を示す正面図である。
【図6】図5中にVI-VI矢を付して示す方向の上記潤滑プレートの断面図である。
【図7】本発明に係るディファレンシャル構造における潤滑プレートの第3実施例を示す正面図である。
【図8】図8(a)は図7中にVIII-VIII矢を付して示す方向の上記潤滑プレートの断面図であり、図8(b)はこの潤滑プレートの他の実施例である。
【図9】上記ディファレンシャルにおけるキャリアカバーの正面図である。
【図10】本発明に係るディファレンシャル構造を備える車両の概略構成図である。
【符号の説明】
4a ドライブピニオン(終減速機構)
5 ディファレンシャル
20 ハウジング
23 壁面部
23a ブリーザ室下部の切り欠き部
24 ブリーザ室
25 ブリーザポート
31,32,33 潤滑プレート(覆い板)
40 ディファレンシャル機構
41 ディファレンシャルギヤケース
41a ケース開口部
45 リングギヤ(終減速機構)
Claims (5)
- 終減速機構とディファレンシャル機構とを液密的に収納するハウジングと、
前記ハウジングに回動自在に軸支されケース内部にディファレンシャル機構を備えるディファレンシャルギヤケースと、
前記ディファレンシャルギヤケースの外周部に配設された、かさ歯車から構成されるリングギヤと、
前記ハウジングに回動自在に軸支され前記リングギヤと噛合して前記終減速機構を構成する、かさ歯車から構成されるドライブピニオンとを有し、前記リングギヤの回転により前記ハウジング内に貯留する潤滑油を掻き上げて前記ハウジング内の潤滑を行うディファレンシャルにおいて、
前記ハウジングにおける前記リングギヤの歯面側の上部位置に前記ハウジングの内部と外部とを連通するブリーザポートを有し、
前記ハウジングの内部における前記ブリーザポートの近傍部に、前記ブリーザポートの下部近傍領域を取り囲み前記リングギヤの歯面方向に向けて形成された壁面部と、前記壁面部に取り囲まれた開口を覆ってブリーザ室を形成し前記ブリーザ室への前記潤滑油の進入を遮断する覆い板とを有し、
前記覆い板が前記リングギヤの歯面側に位置するとともに、前記ドライブピニオンの上方に延びて配設され、
前記ブリーザ室における下側の壁面部にこの壁面部の上下を連通する切り欠き部を有し、
前記切り欠き部は前記ドライブピニオンに対して前記リングギヤの回転軸よりも後方に配置されていることを特徴とするディファレンシャル構造。 - 終減速機構とディファレンシャル機構とを液密的に収納するハウジングと、
前記ハウジングに回動自在に軸支されケース内部にディファレンシャル機構を備えるディファレンシャルギヤケースと、
前記ディファレンシャルギヤケースの外周部に配設された、かさ歯車から構成されるリングギヤと、
前記ハウジングに回動自在に軸支され前記リングギヤと噛合して前記終減速機構を構成する、かさ歯車から構成されるドライブピニオンとを有し、前記リングギヤの回転により前記ハウジング内に貯留する潤滑油を掻き上げて前記ハウジング内の潤滑を行うディファレンシャルにおいて、
前記ハウジングにおける前記リングギヤの歯面側の上部位置に前記ハウジングの内部と外部とを連通するブリーザポートを有し、
前記ハウジングの内部における前記ブリーザポートの近傍部に、前記ブリーザポートの下部近傍領域を取り囲み前記リングギヤの歯面方向に向けて形成された壁面部と、前記壁面部に取り囲まれた開口を覆ってブリーザ室を形成し前記ブリーザ室への前記潤滑油の進入を遮断する覆い板とを有し、
前記覆い板は前記リングギヤの歯面側に位置するとともに、前記ディファレンシャルギヤケースに形成されて前記ディファレンシャル機構を露出させるケース開口部の回転面に沿いその上方に配設され、
前記ブリーザ室における下側の壁面部にこの壁面部の上下を連通する切り欠き部を有し、
前記切り欠き部は前記ドライブピニオンに対して前記リングギヤの回転軸よりも後方に配置されていることを特徴とするディファレンシャル構造。 - 前記覆い板は前記切り欠き部の近傍において前記下側の壁面部よりも下方に延びて形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のディファレンシャル構造。
- 前記覆い板は、前記ケース開口部の回転面の上方に位置する縁部が、前記ケース開口部の中心に向けて形成されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のディファレンシャル構造。
- 前記覆い板には、前記ケース開口部および前記ドライブピニオンのうち少なくともいずれか一方に潤滑油を導く突起部が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のディファレンシャル構造。
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