例えば自動車の車輪は懸架装置に対し、複列アンギュラ型の玉軸受ユニット等の転がり軸受ユニットにより回転自在に支持する。又、自動車の走行安定性を確保する為に、例えば非特許文献1に記載されている様な、アンチロックブレーキシステム(ABS)やトラクションコントロールシステム(TCS)、更には、エレクトリックスタビリティコントロールシステム(ESC)等の車両用走行安定化装置が使用されている。この様な各種車両用走行安定化装置を制御する為には、車輪の回転速度、車体に加わる各方向の加速度等の信号が必要になる。そして、より高度の制御を行なう為には、車輪を介して上記転がり軸受ユニットに加わる荷重(ラジアル荷重とアキシアル荷重との一方又は双方)の大きさを知る事が好ましい場合がある。
この様な事情に鑑みて、特許文献1には、ラジアル荷重を測定自在な、荷重測定装置付転がり軸受ユニットが記載されている。この従来構造の第1例の場合には、非接触式の変位センサにより、回転しない外輪と、この外輪の内径側で回転するハブとの径方向に関する変位を測定する事により、これら外輪とハブとの間に加わるラジアル荷重を求める様にしている。求めたラジアル荷重は、ABSを適正に制御する他、積載状態の不良を運転者に知らせる為に利用する。
又、特許文献2には、転がり軸受ユニットに加わるアキシアル荷重を測定する構造が記載されている。この特許文献2に記載された従来構造の第2例の場合、外輪の外周面に設けた固定側フランジの内側面複数個所で、この固定側フランジをナックルに結合する為のボルトを螺合する為のねじ孔を囲む部分に、それぞれ荷重センサを添設している。上記外輪を上記ナックルに支持固定した状態でこれら各荷重センサは、このナックルの外側面と上記固定側フランジの内側面との間で挟持される。この様な従来構造の第2例の転がり軸受ユニットの荷重測定装置の場合、車輪と上記ナックルとの間に加わるアキシアル荷重は、上記各荷重センサにより測定される。更に、特許文献3には、一部の剛性を低くした外輪相当部材に動的歪みを検出する為のストレンゲージを設け、このストレンゲージが検出する転動体の通過周波数から転動体の公転速度を求め、更に、転がり軸受に加わるアキシアル荷重を測定する方法が記載されている。
前述の特許文献1に記載された従来構造の第1例の場合、変位センサにより、外輪とハブとの径方向に関する変位を測定する事で、転がり軸受ユニットに加わる荷重を測定する。但し、この径方向に関する変位量は僅かである為、この荷重を精度良く求める為には、上記変位センサとして、高精度のものを使用する必要がある。高精度の非接触式センサは高価である為、荷重測定装置付転がり軸受ユニット全体としてコストが嵩む事が避けられない。
又、特許文献2に記載された従来構造の第2例の場合、ナックルに対し外輪を支持固定する為のボルトと同数だけ、荷重センサを設ける必要がある。この為、荷重センサ自体が高価である事と相まって、転がり軸受ユニットの荷重測定装置全体としてのコストが相当に嵩む事が避けられない。又、特許文献3に記載された方法は、外輪相当部材の一部の剛性を低くする必要があり、この外輪相当部材の耐久性確保が難しくなる可能性がある他、十分な測定精度を得る事が難しいと考えられる。
この様な事情に鑑みて本発明者等は先に、複列アンギュラ型玉軸受である転がり軸受ユニットを構成する1対の列の転動体(玉)の公転速度に基づいて、この転がり軸受ユニットに加わるラジアル荷重又はアキシアル荷重を測定する、転がり軸受ユニットの荷重測定装置に関する発明を行なった(第一の先発明=特願2004−7655号)。この先発明の転がり軸受ユニットの荷重測定装置の場合、上記各列の転動体の公転速度を求めるのに、これら各列の転動体を保持した保持器の回転速度を検出する事が、この公転速度を高分解能で求める面から有効である。但し、上記各列の転動体の転動面と、各列の保持器のポケットの内面との間には、これら各転動体の転動を許容すると共に、これら各転動体の転動面へのグリースの付着を許容する為の隙間が存在する為、上記各保持器は、回転に伴って径方向に変位しつつ回転する、振れ回りを生じる可能性がある。そして、この様な振れ回りが発生すると、上記各列の転動体の公転中心と上記各列の保持器の回転中心とがずれ、これら各列の保持器の回転速度、延いては上記各列の転動体の公転速度を正確に測定できなくなる。
この様な問題は、転がり軸受ユニットに加わるラジアル荷重又はアキシアル荷重を測定する、転がり軸受ユニットの荷重測定装置で、保持器の回転速度を測定する場合に限らずに生じ得る。即ち、各種回転部材の回転速度を検出する為の回転速度検出装置で、回転速度を検出すべき部材の回転中心とエンコーダの幾何中心とが不一致の場合に、この回転速度の検出精度が悪化する。この様な原因での回転速度検出の精度悪化を防止する為には、エンコーダの径方向反対側2個所位置に配置した1対の回転検出センサの検出信号を足し合わせる事で、上記両中心のずれによる影響をなくす事も考えられる。但し、この場合には回転検出センサが2個必要になって、その分、コスト並びに設置スペースが嵩む原因となる為、採用が難しくなる場合も考えられる。
比較的低周波の雑音成分を除去する為の技術として、非特許文献2に記載された、LMSアルゴリズムにより作動する適応フィルタが知られている。又、適応フィルタの概要に関しては、非特許文献3〜5等で、従来から知られている。又、適応フィルタの一種である同期式適応フィルタに関しても、例えば非特許文献6に記載される等により、従来から知られている。更に、同期式LMSアルゴリズムによりエンジンの振動を抑える技術が、非特許文献7に記載される等により、従来から知られている。但し、従来は、上述の様な適応フィルタは、低周波騒音と逆位相の音波を発する事でこの低周波騒音を低減する、所謂アクティブノイズコントロールを中心に使用していた。即ち、従来は上記適応フィルタを、空調機のダクトから室内に出る低周波騒音を低減したり、或は乗用車の室内に入り込む低周波の排気音或は走行音、更にはヘッドホンの外から入り込む低周波の外部騒音を低減する等、低周波騒音の低減にしか使用されていなかった。非特許文献7に記載された技術にしても、エンジンの振動抑制を目的としたものである。言い換えれば、上記非特許文献2に記載される等により従来から知られている適応フィルタの技術を、エンコーダの振れ回り運動に拘らず、このエンコーダを利用した回転速度検出の精度を向上させる事は、全く考えられていなかった。
この様な事情に鑑みて本発明者は先に、低コストで構成できて、耐久性や設置スペースに問題を生じる事がなく、しかも回転部材の回転速度を、制御の為に必要とされる精度を確保しつつ測定できる回転速度検出装置を発明した(第二の先発明=特願2004−230955号)。この第二の先発明は、上記適応フィルタの技術を、従来適用されていた音響分野等とは全く異なる、回転速度検出の分野に適用する事により、回転部材の回転速度を、実用上問題となる程の時間的遅れを生じさせる事なく測定できる回転速度検出装置を実現するものである。本発明は、この第二の先発明に改良を加えたものであるから、先ず、この先発明に就いて、図1〜8により説明する。
この図1〜8に示した例は、自動車の従動輪(FR車、RR車、MD車の前輪、FF車の後輪)を支持する為の転がり軸受ユニット1に加わる荷重(ラジアル荷重及びアキシアル荷重)を測定する為の転がり軸受ユニットの荷重測定装置に上記第二の先発明を適用した場合に就いて示している。この転がり軸受ユニット1自体は、従来から周知の構造であるから、詳しい説明は省略し、以下、荷重測定装置部分の構造及び作用を中心に説明する。
回転輪であると共に内輪相当部材であるハブ2の外周面に形成した複列アンギュラ型の内輪軌道3、3と、静止輪であると共に外輪相当部材である外輪4の内周面に形成した、それぞれが静止側軌道である複列アンギュラ型の外輪軌道5、5との間に、それぞれ転動体(玉)6a、6bを複列(2列)に分けて、各列毎にそれぞれ複数個ずつ、保持器7a、7bにより保持した状態で転動自在に設ける事により、上記外輪4の内径側に上記ハブ2を、回転自在に支持している。この状態で上記各列の転動体6a、6bには、互いに逆方向で、且つ、同じ大きさの接触角αa 、αb (図2参照)が付与されて、背面組み合わせ型の、複列アンギュラ型玉軸受を構成する。上記各列の転動体6a、6bには、使用時に加わるアキシアル荷重によって喪失する事がない程度に十分な予圧を付与している。この様な転がり軸受ユニット1の使用時には、上記外輪4を懸架装置に支持固定し、上記ハブ2の回転側フランジ8に制動用のディスクと車輪のホイールとを支持固定する。
上述の様な転がり軸受ユニット1を構成する上記外輪4の軸方向中間部で上記複列の外輪軌道5、5の間部分に取付孔9を、この外輪4を径方向に貫通する状態で形成している。そして、この取付孔9にセンサユニット10を、上記外輪4の径方向外方から内方に挿通し、このセンサユニット10の先端部11を、上記外輪4の内周面から突出させている。この先端部11には、それぞれが回転検出センサである1対の公転速度検出用センサ12a、12bと、1個の回転速度検出用センサ13とを設けている。
このうちの各公転速度検出用センサ12a、12bは、上記複列に配置された転動体6a、6bの公転速度を測定する為のもので、上記先端部11のうち、上記ハブ2の軸方向(図1〜2の左右方向)に関する両側面に、それぞれの検出面を配置している。図示の例の場合、上記各公転速度検出用センサ12a、12bは、上記複列に配置された各転動体6a、6bの公転速度を、前記各保持器7a、7bの回転速度として検出する。この為に図示の例の場合には、これら各保持器7a、7bを構成するリム部14、14を、互いに対向する側に配置している。そして、これら各リム部14、14の互いに対向する面に、それぞれが円輪状である公転速度検出用エンコーダ15a、15bを、全周に亙り添着支持している。これら各エンコーダ15a、15bの被検出面の特性は、円周方向に関して交互に且つ等間隔で変化させて、上記各保持器7a、7bの回転速度を上記各公転速度検出用センサ12a、12bにより検出自在としている。この為に、これら各公転速度検出用センサ12a、12bの検出面を、上記各公転速度検出用エンコーダ15a、15bの被検出面である、互いに対向する面に近接対向させている。
一方、上記回転速度検出用センサ13は、回転輪である前記ハブ2の回転速度を測定する為のもので、上記先端部11の先端面、即ち、上記外輪4の径方向内端面に、その検出面を配置している。又、上記ハブ2の中間部で前記複列の内輪軌道3、3同士の間に、円筒状の回転速度検出用エンコーダ16を外嵌固定している。上記回転速度検出用センサ13の検出面は、この回転速度検出用エンコーダ16の被検出面である、外周面に対向させている。この回転速度検出用エンコーダ16の被検出面の特性は、円周方向に関して交互に且つ等間隔で変化させて、上記ハブ2の回転速度を上記回転速度検出用センサ13により検出自在としている。
図示の例の場合には、上記各公転速度検出用エンコーダ15a、15bとして、被検出面である軸方向側面にS極とN極とを交互に且つ等間隔で配置した、円輪状の永久磁石を使用している。この様な各公転速度検出用エンコーダ15a、15bは、上記各保持器7a、7bのリム部14、14の側面に、これら各保持器7a、7bと同心に支持固定している。又、何れも回転速度を検出するセンサである、上記各公転速度検出用センサ12a、12b及び上記回転速度検出用センサ13として図示の例の場合には、磁気式の回転検出センサを使用している。
図示の例の転がり軸受ユニットの荷重測定装置の場合、上記各センサ12a、12b、13の検出信号は、図示しない演算器に入力する。そして、この演算器が、これら各センサ12a、12b、13から送り込まれる検出信号に基づいて、前記外輪4と前記ハブ2との間に加わるラジアル荷重とアキシアル荷重とのうちの一方又は双方の荷重を算出する。例えば、このラジアル荷重を求める場合に上記演算器は、上記各公転速度検出用センサ12a、12bが検出する各列の転動体6a、6bの公転速度の和を求め、この和と、上記回転速度検出用センサ13が検出する上記ハブ2の回転速度との比に基づいて、上記ラジアル荷重を算出する。又、上記アキシアル荷重は、上記各公転速度検出用センサ12a、12bが検出する各列の転動体6a、6bの公転速度の差を求め、この差と、上記回転速度検出用センサ13が検出する上記ハブ2の回転速度との比に基づいて算出する。この点に就いて、図3を参照しつつ説明する。尚、以下の説明は、アキシアル荷重Fa が加わらない状態での、上記各列の転動体6a、6bの接触角αa 、αb が互いに同じであるとして行なう。
図3は、前述の図1に示した車輪支持用の転がり軸受ユニット1を模式化し、荷重の作用状態を示したものである。複列の内輪軌道3、3と複列の外輪軌道5、5との間に複列に配置された転動体6a、6bには予圧F0 、F0 を付与している。又、使用時に上記転がり軸受ユニット1には、車体の重量等により、ラジアル荷重Fr が加わる。更に、旋回走行時に加わる遠心力等により、アキシアル荷重Fa が加わる。これら予圧F0 、F0 、ラジアル荷重Fr 、アキシアル荷重Fa は、何れも上記各転動体6a、6bの接触角α(αa 、αb )に影響を及ぼす。そして、この接触角αa 、αb が変化すると、これら各転動体6a、6bの公転速度nc が変化する。これら各転動体6a、6bのピッチ円直径をDとし、これら各転動体6a、6bの直径をdとし、上記各内輪軌道3、3を設けたハブ2の回転速度をni とし、上記各外輪軌道5、5を設けた外輪4の回転速度をno とすると、上記公転速度nc は、次の(1)式で表される。
nc ={1−(d・cos α/D)・(ni /2)}+{1+(d・cos α/D)・(no /2)} −−− (1)
この(1)式から明らかな通り、上記各転動体6a、6bの公転速度nc は、これら各転動体6a、6bの接触角α(αa 、αb )の変化に応じて変化するが、前述した様にこの接触角αa 、αb は、上記ラジアル荷重Fr 及び上記アキシアル荷重Fa に応じて変化する。従って上記公転速度nc は、これらラジアル荷重Fr 及びアキシアル荷重Fa に応じて変化する。図示の例の場合、上記ハブ2が回転し、上記外輪4が回転しない為、具体的には、上記ラジアル荷重Fr に関しては、大きくなる程上記公転速度nc が遅くなる。又、アキシアル荷重に関しては、このアキシアル荷重を支承する列の公転速度が速くなり、このアキシアル荷重を支承しない列の公転速度が遅くなる。従って、この公転速度nc に基づいて、上記ラジアル荷重Fr 及びアキシアル荷重Fa を求められる事になる。
但し、上記公転速度nc の変化に結び付く上記接触角αは、上記ラジアル荷重Fr と上記アキシアル荷重Fa とが互いに関連しつつ変化するだけでなく、上記予圧F0 、F0 によっても変化する。又、上記公転速度nc は、上記ハブ2の回転速度ni に比例して変化する。この為、これらラジアル荷重Fr 、アキシアル荷重Fa 、予圧F0 、F0 、ハブ2の回転速度ni を総て関連させて考えなければ、上記公転速度nc を正確に求める事はできない。このうちの予圧F0 、F0 は、運転状態に応じて変化するものではないので、初期設定等によりその影響を排除する事は容易である。これに対して上記ラジアル荷重Fr 、アキシアル荷重Fa 、ハブ2の回転速度ni は、運転状態に応じて絶えず変化するので、初期設定等によりその影響を排除する事はできない。
この様な事情に鑑みて前記第一の先発明では、前述した様に、ラジアル荷重を求める場合には、前記各公転速度検出用センサ12a、12bが検出する各列の転動体6a、6bの公転速度の和を求める事により、上記アキシアル荷重Fa の影響を少なくしている。又、アキシアル荷重を求める場合には、上記各列の転動体6a、6bの公転速度の差を求める事により、上記ラジアル荷重Fr の影響を少なくしている。更に、何れの場合でも、上記和又は差と、前記回転速度検出用センサ13が検出する上記ハブ2の回転速度ni との比に基づいて上記ラジアル荷重Fr 又は上記アキシアル荷重Fa を算出する事により、上記ハブ2の回転速度ni の影響を排除している。但し、上記アキシアル荷重Fa を、上記各列の転動体6a、6bの公転速度の比に基づいて算出する場合には、上記ハブ2の回転速度は、必ずしも必要ではない。
尚、上記各公転速度検出用センサ12a、12bの信号に基づいて上記ラジアル荷重Fr とアキシアル荷重Fa とのうちの一方又は双方の荷重を算出する方法は、他にも各種存在するが、この様な方法に就いては、前述の特願2004−7655号に詳しく説明されているし、本発明の要旨とも関係しないので、詳しい説明は省略する。
但し、何れの方法により何れの荷重を求めるにしても、上記各公転速度検出用センサ12a、12bの検出信号に基づいて上記各列の転動体6a、6bの公転速度を正確に求められる事が、荷重の測定精度を高める為に重要である。
これに対して上記各公転速度検出用センサ12a、12bの検出信号(に基づく、公転速度を表す信号)中には、被検出面の着磁ピッチ(円周方向に隣り合うS極とN極との間のピッチ)の誤差に基づく比較的高周波の変動と、保持器7a、7bの振れ回り運動に伴う、前述した様な比較的低周波の変動とが入り込んでいる。この様な変動を処理(低減)しないと、各列の転動体6a、6bの公転速度を正確に求められず、従って、上記ラジアル荷重Fr や上記アキシアル荷重Fa の測定精度が悪化する。そこで前記第二の先発明の場合には、図4に示す様な適応フィルタにより、上記振れ回り運動に基づく、上記比較的低周波の変動を低減する他、図示しない平均化フィルタ等のローパスフィルタにより、上記着磁ピッチの誤差に基づく、上記比較的高周波の変動を低減する様にしている。
先ず、上記2種類の変動が生じる理由に就いて、図5〜6により説明する。前記公転速度検出用エンコーダ15a(15b)を支持固定した(或は自身がエンコーダとしての機能を有する)保持器7a(7b)のポケットの内面と前記各転動体6a(6b)の転動面との間には、これら各転動体6a(6b)を転動自在に保持する必要上、隙間が存在する。従って、各構成部材の組み付け精度をいくら高めても、転がり軸受ユニット1の運転時に、上記各転動体6a(6b)のピッチ円の中心(上記ハブ2の回転中心)O2 と上記保持器7a(7b)の回転中心O7 とが、図5に誇張して示す様に、δ分だけずれる可能性がある。そして、このずれに基づいて上記公転速度検出用エンコーダ15a(15b)は、上記回転中心O7 の周囲で振れ回り運動を行なう。この振れ回り運動の結果、上記公転速度検出用エンコーダ15a(15b)の被検出面は、回転方向以外にも移動速度を持つ事になる。そして、この回転方向以外の移動速度、例えば図5の左右方向の移動速度が、回転方向の移動速度に加減される。一方、公転速度検出用センサ12a(12b)は、上記公転速度検出用エンコーダ15a(15b)の被検出面の移動速度に基づいて上記各転動体6a(6b)の公転速度を検出するので、上記δ分の偏心は、上記公転速度検出用エンコーダ15a(15b)の側面にその検出面を対向させた、公転速度検出用センサ12a(12b)の検出信号に影響を及ぼす。
この様な公転速度検出用エンコーダ15a(15b)の側面に上記公転速度検出用センサ12a(12b)の検出面を対向させると、この公転速度検出用センサ12a(12b)の検出信号(に基づく、公転速度を表す信号)は、図6の鎖線αに示す様に、正弦波的に変化する。即ち、各転動体6a(6b)の公転速度が一定である場合でも、この公転速度検出用センサ12a(12b)の出力信号が表す公転速度は、上記鎖線αで示す様に、正弦波的に変化する。具体的には、図5の左右方向の移動速度が回転方向の移動速度に足される場合には、上記出力信号は、実際の公転速度よりも速い速度に対応する信号となる。反対に、図5の左右方向の移動速度が回転方向の移動速度から差し引かれる場合には、上記出力信号は、実際の公転速度よりも遅い速度に対応する信号となる。図5は偏心量δを実際の場合よりも誇張して描いているが、例えば車両安定の為の制御をより厳密に行なうべく、転がり軸受ユニットに加わるラジアル荷重Fr 及びアキシアル荷重Fa をより正確に求める場合には、上記偏心に伴う誤差を解消する必要がある。
又、上記公転速度検出用エンコーダ15a(15b)の側面に配列されたS極とN極とのピッチは、本来同じはずであるが、製造時に発生する着磁誤差等により、少しずつではあるが互いに異なる場合がある。そして、この誤差に基づいても、上記公転速度検出用センサ12a(12b)の検出信号が変動する。この様な着磁ピッチの誤差に基づく変動の周期は、上記振れ回り運動に基づく変動の周期に比べると遥かに短くなる。例えば、上記公転速度検出用エンコーダ15a(15b)の側面(被検出面)の特性(S極とN極との繰り返し)が、この被検出面の全周で60回変化する場合、上記着磁ピッチの誤差に基づく変動の周期は、上記振れ回り運動に基づく変動の周期の1/60程度になる。
上記公転速度検出用エンコーダ15a(15b)から出力される検出信号(に基づく、公転速度を表す信号)は、上記2種類の変動が足し合わされた(重畳された)、図6に実線βで示す様なものになる。上記ラジアル荷重Fr 及びアキシアル荷重Fa を正確に求める為には、上記2種類の変動を低減する必要がある。そこで、前記第二の先発明の場合には、上記振れ回り運動に伴う、比較的低周波の変動を図4に示した適応フィルタ17により低減し、上記着磁ピッチの誤差に伴う比較的高周波の変動を、図示しない平均化フィルタ等のローパスフィルタにより低減する様にしている。尚、適応アルゴリズムとしては、適応フィルタとして後述するFIRフィルタを使用する、LMS(最小二乗平均)アルゴリズム(二乗平均誤差を最急降下法に基づいて最小にする演算規則)が好ましい。
先ず、図4に示した適応フィルタ17による、上記低周波の変動低減に就いて説明する。前記公転速度検出用センサ12a(12b)の検出部が対向する部分での、上記公転速度検出用エンコーダ15a(15b)の変位速度は、実際の回転速度dd と、前記δ分の偏心に基づく振れ回りによる回転1次成分の見掛け速度の変動分dn とが重畳されたものとなる。従って、上記公転速度検出用センサ12a(12b)の出力信号dは、上記実際の回転速度dd と上記変動分dn とを足し合わせた(d=dd +dn )速度を表す信号になる。上記適応フィルタ17によりこの変動分dn を上記出力信号dから差し引けば(減ずれば)、上記実際の回転速度dd を求められる事になる。
一方、上記適応フィルタ17を作動させる為には、上記振れ回りに基づく変動分dn と相関性のある参照信号xが必要になる。この参照信号xを入手できれば、上記適応フィルタ17は自己学習によって、実際の信号の流れ「dn →d」の伝達特性と同じ特性を持った、FIR(finite impulse response )方式のフィルタ(インパルス応答時間が有限なフィルタ=インパルス応答が有限時間内に0になるフィルタ)を形成する。そして、上記公転速度検出用センサ12a(12b)の出力信号dから、上記適応フィルタ17による計算の結果得られる、キャンセル信号y{=後述するy(k)}を差し引けば、上記公転速度検出用センサ12a(12b)の出力信号dから上記振れ回りによる変動分dn を取り除いた(d−dn )事と等価になる。この様にしてこの変動分dn を取り除く場合に、上記適応フィルタ17は、信号の主ルート(図4の上半部分)を送られる出力信号dに対してフィルタリングするのではなく、副ルート(図4の下半部分)を送られる参照信号xに基づいて上記変動分dn を取り除く為のキャンセル信号yを計算する。そして、上記主ルートである出力信号dから上記キャンセル信号yを引き算するだけであるので、上記出力信号dの応答遅れを招かない。
前記第二の先発明の場合、上記参照信号xを、前記公転速度検出用エンコーダ15a(15b)の1回転中での特性変化の回数に基づき、この公転速度検出用エンコーダ15a(15b)に対向した上記公転速度検出用センサ12a(12b)の出力信号の処理回路、又は、この検出信号に基づいて前記各転動体6a(6b)の公転速度を演算する為の処理回路により、自己生成する。従って、上記参照信号xの生成に要するコストを低減できる。即ち、前記第二の先発明の場合には、アクティブノイズコントロール用として従来から使用されていた適応フィルタとは異なり、別途設けたセンサの検出信号を使用する事なく上記参照信号xを入手して、上記適応フィルタ17により、上記公転速度検出用エンコーダ15a(15b)の振れ回りに基づく、上記公転速度検出用センサ12a(12b)の出力信号dの変動分dn を低減させる。即ち、上記公転速度検出用エンコーダ15a(15b)の1回転中での特性変化の回数(S極とN極との数)は予め分かっている。従って、この公転速度検出用エンコーダ15a(15b)の1回転分のパルス数を観察する事で、特に変位センサや回転速度センサ等のセンサを別途設けなくても、上記変動分dn と相関のある上記参照信号xを生成できる。具体的には、上記公転速度検出用エンコーダ15a(15b)の振れ回りの影響は、回転1次が主成分の波形であり、例えばこの公転速度検出用エンコーダ15a(15b)が、1回転当り60パルスのものであれば、60データで1周期となる様なサイン波、三角波、鋸波、矩形波、パルス波等として自己生成できる。
この様な参照信号xの波形は、上記各転動体6a(6b)の公転速度を算出する為の処理回路(CPU)で生成する事もできるし、上記公転速度検出用センサ12a(12b)に付属の電子回路部(IC)で生成する事もできる。何れにしても、得られた上記参照信号xに基づいて算出したキャンセル信号yは、上記公転速度検出用センサ12a(12b)の出力信号dから差し引いて、前記実際の回転速度dd を表す修正信号e{=後述するe(k)}を求める。この様にして求めた修正信号eは、上記各転動体6a(6b)の公転速度を演算する為の処理回路に送ってこの公転速度を求める為に利用する他、上記適応フィルタ17が自己学習する為の情報としても利用する。
尚、上記適応フィルタ17部分で、上記キャンセル信号yを求め、更にこのキャンセル信号yを上記公転速度検出用センサ12a(12b)の出力信号dから差し引いて、上記修正信号eを得る為の処理は、次の(2)〜(4)式に基づいて行なう。
上記(2)(3)(4)式中、kは時系列でのデータ番号、Nは適応フィルタ17として用いるFIRフィルタのタップ数である。又、wはFIRフィルタのフィルタ係数を表し、wk はk番目のデータ処理をする場合に使用するフィルタ係数を、wk+1 は次のデータ系列(k+1番目)を処理する場合に使用するフィルタ係数を、それぞれ表している。即ち、図示の例の場合、上記FIRフィルタは、上記式(4)により逐次適正にフィルタ係数が更新されていく適応フィルタとなる。
尚、上記(4)式中のμは、ステップサイズパラメータと呼ばれる、フィルタ係数を自己適正化させていく場合の更新量を決定する値であり、通常0.01〜0.001程度の値となるが、実際には、適応動作の妥当性を事前に調べて設定するか、次の(5)式を用いて逐次更新する事もできる。
尚、この(5)式中のαも、フィルタ係数を自己適正化させていく為の更新量を決定するパラメータとなるが、0<α<1の範囲であれば良く、上記μよりも設定が容易である。又、図示の例の場合には、前記参照信号xを自己生成するので、上記(5)式中の分母の値は既知であり、μの最適値を事前に算出しておく事もできる。計算量削減の観点からは、予め(5)式でこのμを算出しておき、このμを定数として上記(4)式でフィルタ係数を自己適正化させるのが望ましい。
上述の様に、前記公転速度検出用センサ12a(12b)の出力信号dから、前記適応フィルタ17が算出したキャンセル信号yを差し引く事で、前記実際の回転速度dd を表す修正信号eを求められる。そして、この様にして求めた修正信号eに基づいて、前記各転動体6a(6b)の公転速度を正確に求められる。尚、実際の場合には、上記公転速度検出用センサ12a(12b)の出力信号d中には、前記ピッチ誤差に基づく、上記公転速度検出用センサ12a(12b)の振れ回りに基づく変動よりも周期が短い第二の変動が存在する。そこで、この第二の変動を平均化する為の平均化フィルタ等のローパスフィルタを、上記適応フィルタ17の前又は後に設けて、上記第二の変動に拘らず、上記各転動体6a、6bの公転速度を正確に求められる様にする。高周波の変動を抑える為の、平均化フィルタ等のローパスフィルタの構造及び作用に関しては、従来から周知である為、詳しい説明は省略する。
適応フィルタ17を使用して、エンコーダの振れ回りに基づく変動を抑える作用に就いてのシミュレーションの1例を、図7に示した。この図7は、100min-1 で定速回転している回転部材の回転速度を、60パルス/1回転のエンコーダで計測する場合に就いて示している。実線イが、回転速度検出用センサの検出結果に、タップ数=15の移動平均処理のみを施した(平均化フィルタのみを設けた)結果(出力信号dに相当)である。この場合には、エンコーダの振れ回りにより、上記回転速度の算出値が、約70〜130min-1 の間を変動している。尚、上記エンコーダの振れ回り量は、実際に生じる値に比べて、相当に大きく設定した。
これに対して、破線ロは、上記実線イで示した、移動平均後のデータを適用フィルタを用いて補正した結果(修正信号eに相当)を示している。上記破線ロから明らかな通り、適用フィルタの始動直後は算出値が変動しているものの、短時間経過後にフィルタ係数が自己適応し、算出結果が、ほぼ100min-1 の一定値に収束した。この事から、平均化フィルタと適応フィルタとを併用する事で、ピッチ誤差や、回転中心と幾何中心とのずれが大きい(振れ回り運動をする)エンコーダを使用しても、回転部材の回転速度を正確に求められる事が分かる。
尚、上記図7に示した2本の線イ、ロを求めるに就いては、参照信号xは、速度演算装置の中でパルス数をカウントしながら、60パルスで1周期となる正弦波を自己生成するとした。又、適応フィルタのステップサイズパラメータは、μ=0.002、タップ数N=30とした。
又、図8〜11は、前記第二の先発明に関する別の構造を示している。この別構造の場合には、エンコーダの1パルス毎に回転検出センサの検出信号に関して必要とする演算処理の回数を大幅に低減して、計算速度が特に速くない、低コストの演算器(CPU)での処理を可能にする。この為に上記別構造の場合には、同期式LMSアルゴリズムを使用し、計算量を大幅に削減可能にしている。但し、単に同期式LMSアルゴリズムを使用しただけの場合には、エンコーダの振れ回りである回転1次成分を補正(キャンセル)すると同時に、検出対象である回転速度を表すDCレベルまでも補正(キャンセル)してしまう。これでは、回転速度検出装置本来の機能を喪失してしまうので、フィルタ係数の零点をモニターし、上記DCレベルをキャンセルする事を防止する為に、零点補正を実施する。この様な観点で考えた上記別構造に就いて、以下に説明する。
前述の図1〜7に示した構造例で適応フィルタを適正化する為に利用する、前述の各式(2)(3)(4)は何れも単純な式ではあるが、実際の適用に際しては計算量が問題となる場合が考えられる。例えば、適応フィルタのタップ数N=60とすると、上記式(2)で掛け算を60回、上記式(3)で引き算を1回、上記式(4)で掛け算を120回と足し算を60回との180回、合計で241回の四則演算を、エンコーダの1パルス毎に実施しなければならない。従って、1個の転がり軸受ユニットに設けた複列の転動体の公転速度を求める為に必要な計算量は、482回/1パルスとなる。この計算量(演算回数)は物理的に処理不可能ではないが、処理速度が速い、比較的高価なCPUを使用する必要がある。例えば、ABS、TCS、ESC等の車両用走行安定化装置の制御の為に自動車用車輪(4個の車輪)の回転速度を検出する場合、上記高価なCPUを4個(若しくは1パルス毎に241回×2×4=1928回の四則演算が可能な程に高速のCPUを)使用する必要があり、上記車両用走行安定化装置のコスト増大の原因となる為、好ましくない。
この様な事情に鑑みて上記別構造の場合には、同期式LMSアルゴリズムを使用して計算量を大幅に削減し、低コストのCPUの使用を可能にする事を意図している。但し、上記同期式LMSアルゴリズムにより適応フィルタを動作させた場合、そのままではこの適応フィルタが、上記エンコーダの振れ回り成分だけでなく、回転速度を表すDC成分もキャンセルしてしまう。この様にDC成分をキャンセルする現象は、同期式LMSアルゴリズムを用いた場合に顕著である。そこで上記別構造の場合には、適応フィルタの出力値を零にする機能を持たせる事により、上記回転速度を表すDCレベルを正確に検出できる様にしている。
先ず、同期式LMSアルゴリズムの作動原理を説明する。前述の図4に示したブロック図で、適応フィルタ17に入力させる参照信号xは、エンコーダの振れ回り等に代表される、このエンコーダの回転n次(nは正の整数) 成分と相関のある信号であれば良いので、このエンコーダ1回転当り1インパルス信号でも構わない。そこで、上記参照信号xが1インパルス信号であると同時に、上記適応フィルタ17のタップ数Nが、上記エンコーダの1回転あたりのパルス数と等しい場合を想定する。この場合、時系列kの瞬間に計算に使用する参照信号xは、次の(6)式で表される。
この(6)式で、参照信号xが値1のインパルスとなる位置jは、時系列kが進んでいくのに従って右側に1個ずつずれて行き、一番右側の「N−1」番目までずれると、次の時系列では、新たなインパルス値が一番左の0番目に表れる事になる。即ち、上記参照信号xは、値1のインパルスの位置を0番目からN−1番目まで巡回させただけのデータ列となる。この式(6)を、前述の式(2)(4)に当て嵌めると、次の(7)(8)式を得られる。
同期式でない、通常のLMSアルゴリズムで適応フィルタ17を作動させる場合には、前述した様に、各式(2)(3)(4)に示す計算を繰り返し行なう必要があるのに対して、同期式LMSアルゴリズムで適応フィルタを作動させる場合には、上記(7)(8)式及び式(3)に示す計算を行なうだけで済む。例えば、適応フィルタ17のタップ数Nを60とした場合、通常のLMSアルゴリズムで適応フィルタ17を作動させると、エンコーダ1ピッチ毎の演算の回数の合計は、前述した様に241回になる。これに対して、同期式LMSアルゴリズムで適応フィルタ17を作動させる場合には、上記式(7)はデータ入れ替えのみで演算なし、上記式(3)で引き算1回、上記式(8)で掛け算1回と足し算1回との2回、合計で3回の四則演算を、上記エンコーダの1パルス毎に行なえば良い。即ち、LMSアルゴリズムとして同期式を採用する事で、採用しない場合に比べて、演算の回数を凡そ1/80に削減できる。
但し、上記適応フィルタ17を作動させるのに同期式LMSアルゴリズムを採用した場合に、回転速度を表す信号であるDC成分までもがキャンセルされる事を防止する為に、上記適応フィルタ17の零点を補正する必要がある。以下、この零点補正に就いて説明する。この零点補正が必要な現象の具体例として、エンコーダの振れ回りによる速度検出誤差の1例を、図8に示す。この図8に示した線図は、前述の図7の場合と同様に、100min-1 で定速回転している回転部材の回転速度を、60パルス/1回転のエンコーダで計測する場合に就いて示している。実線イが、回転速度検出用センサの検出結果に、タップ数=15の移動平均処理のみを施した(平均化フィルタのみを設けた)結果(図9の出力信号dに相当)である。この場合には、エンコーダの振れ回りにより、上記回転速度の算出値が、約70〜130min-1 の間を変動している。尚、上記図8の場合も、上記エンコーダの振れ回り量は、実際に生じる値に比べて、相当に大きく設定している。
この図8に実線イで示す様な回転速度に関する計測データを、前述の図4に示す様な適応フィルタ17を用いて処理し、上記エンコーダの振れ回りに基づく誤差をキャンセルした場合、この適応フィルタ17の設定値によっては、この振れ回りに基づく誤差成分に加えて、検出対象である回転速度のDCレベル(図8に破線ロで示した100min-1 を表す信号)もキャンセルしてしまう可能性がある。この様に、必要とするDCレベルまでキャンセルする現象は、上記適応フィルタを動作させるLMSアルゴリズムとして同期式を採用した場合に顕著である。図8に示した鎖線ハが、その具体例である。
上記適応フィルタを動作させるLMSアルゴリズムとして同期式を採用し、特に対策を施さない場合には、上記鎖線ハで示す様に、上記エンコーダの振れ回りに基づく変動成分だけでなく、回転速度を表すDC成分までもがキャンセルされて、出力値が零となる。これは、適応動作によって上記適応フィルタ17のフィルタ係数WがDCレベルを持ってしまい、結果としてこの適応フィルタ17の出力信号yがDCレベルを持ってしまう為に生じる現象である。この問題を解決する為に前記第二の先発明の別構造の場合には、図9に示す様に、上記フィルタ係数Wの平均値から上記DCレベルを算出し、このDCレベルに参照信号xのインパルス値を掛け算したDC信号を計算しておく(インパルス値が1である場合には掛け算不要)。そして、上記適応フィルタ17によって誤差をキャンセルされた信号eに、上述の様にして計算したDC信号を加える事で、正確な回転速度を表すDCレベルを得られる様にしている。
次に、上記フィルタ係数Wの平均値から、上記DCレベルを算出する方法に就いて説明する。同期式LMSアルゴリズムにより適応フィルタ17を動作させる事で、公転速度検出用センサ12a(12b)の出力信号から得られる回転速度を表す信号中に含まれる誤差成分をキャンセルし、上記図8の鎖線ハで示す様に出力値が零になる様な場合に於ける、上記適応フィルタ17のフィルタ係数は、図10に示す様に変動する。上記図8に示した例では、この適応フィルタ17のタップ数Nを60としたので、上記図10に示したフィルタ係数Wは、60個の値から構成されている。このフィルタ係数Wの平均値、即ち、求めようとする回転速度を表すDCレベルは、上記60個の値を総て合計してから60で除すれば求められる。但し、この様な計算を行なうと、演算回数が増大して、前記第二の先発明の別構造の目的である、CPUの低廉化を十分に図れなくなる。
ところで、誤差キャンセルの対象、即ち、前記エンコーダの振れに基づくうねりは、回転1次を主体とする回転n次成分である。又、上記別構造の場合には、適応フィルタのタップ数Nを、エンコーダ1回転当りのパルス数と等しくしているので、上記フィルタ係数Wは、周期がN(=60)の周期関数となる。上記図10に示した例では、回転1次の周期関数となっている。従って、N/2(=30)なる間隔を設定した任意の2点の平均値は、全体N(=60)点の平均値と等価になる。そこで、この様な2点の平均値を求め、上記回転速度を表すDCレベルとすれば、演算回数も大幅に低減できて、上記CPUの低廉化の面から有利である。もし、2点だけの平均で信頼性に不安が残る場合は、上記2点とは別に、N/2(=30)なる間隔を設定した任意の2点を選択し、合計4点の平均値を演算する。尚、図示はしないが、フィルタ係数Wが回転n次の周期関数の場合も、平均値を求める為の点の数を適宜増やし、その間隔を適切に設定する事で、上記平均値を同様に求められる。
上記第二の先発明の別構造により、エンコーダの振れ回りに基づく変動を抑える作用に就いてのシミュレーションの1例を、図11に示した。この図11は、100min-1 で定速回転している回転部材の回転速度を、60パルス/1回転のエンコーダで計測する場合に就いて示している。実線イが、回転速度検出用センサの検出結果に、タップ数=15の移動平均処理のみを施した(平均化フィルタのみを設けた)結果(出力信号dに相当)である。この場合には、エンコーダの振れ回りにより、上記回転速度の算出値が、約70〜130min-1 の間を変動している。鎖線ロは、前述の図9に示した同期式LMSアルゴリズムにより動作する適用フィルタ17を用い、且つ、上述したフィルタ係数WによるDC成分の補正を実施して、公転速度検出用センサ12a(12b)の出力信号から得られる回転速度を表す信号中に含まれる誤差成分をキャンセルした結果である。上記鎖線ロから明らかな通り、上記適応フィルタ17の始動直後はデータが変動しているものの、短時間経過後にフィルタ係数Wが自己適応して、算出結果が、ほぼ100min-1 の一定値に収束した。
上述の様な第二の先発明の場合、FIR方式の適応フィルタ(別構造の場合にはFIR方式の同期式LMS適応フィルタ)により、前記各公転速度検出用センサ12a、12bの検出信号を処理する様に構成している為、前記各公転速度検出用エンコーダ15a、15bの振れ回りの影響を除去しつつ、これら各公転速度検出用エンコーダ15a、15bの回転速度を精度良く、しかも応答後れを最小限に抑えた状態で検出できる。但し、上記FIR方式の適応フィルタ(特に同期式LMS適応フィルタ)の場合には、必ずしもフィルタの特性が安定する迄の収束性が良くない。即ち、前記(2)〜(4)式による演算を開始する際に最初に用いるフィルタ係数wk は、零を代入しておいても、動き始めれば自己適応していくので、起動後、或る程度時間を経過した後は、特に問題を生じない。但し、その場合でも、起動直後には上記適応フィルタのフィルタ係数wk が、正確な測定結果を得る為の値とは大きく異なったものとなる可能性がある。
上述の様にフィルタ特性に関する収束性が悪い場合には、上記適応フィルタを備えた回転速度検出装置が起動してからしばらくの間はこの適応フィルタが本来の機能を発揮せず、例えば上記各公転速度検出用エンコーダ15a、15bの回転速度、即ち、前記各転動体6a、6bの公転速度を正確に求められない。この場合に、これら各転動体6a、6bの公転速度により車輪支持用転がり軸受ユニットに加わる荷重を求め、この荷重により車両の走行安定性確保の為の制御を行なっていると、その間、この制御を適切に行なえなくなる。上記フィルタの特性が安定する迄にはあまり長い時間を要する事はないが、例えば車両を急発進させた場合には、発進直後から上記制御を行なう必要がある為、上記フィルタの特性が安定する迄に要する時間は少しでも短い方が好ましい。
特開2001−21577号公報
特開平3−209016号公報
特公昭62−3365号公報
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