JP4701372B2 - 新規なターフェニル骨格含有硫黄化合物 - Google Patents

新規なターフェニル骨格含有硫黄化合物 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は新規なターフェニル骨格含有硫黄化合物に関する。より詳しくは、電界等の外的刺激を印加して、自己組織化単分子膜を構成する分子及び分子集合体を動的に変化させ、膜表面全体の表面物性を可逆的に制御できる新規な機能薄膜として有用な、高い誘電異方性を有する液晶性ターフェニル骨格含有硫黄化合物及びその製造方法並びにそれを用いてなる自己組織化単分子膜に関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来から、金属等の基板を目的分子の溶液に浸すだけで自発的に分子が集合、秩序化されて形成される自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer;以下、「SAM」ともいう。)は、広い分野で開発が進められている。最も広く研究されているSAMは、アルカンチオールSAM等の有機硫黄SAMやシランカップリング剤を用いた有機シランSAMがある。特に、アルカンチオールは、そのエタノール溶液中にAu基板(金基板)を浸すとSAMが自発的に構築するもので、これまで最も精力的に研究されている。また、金薄膜とチオール分子との組み合わせによるシステムは、その安定な化学吸着性、高密度な分子膜配列を形成できることから、SAM研究の中心的役割を果たしている。
【0003】
例えば、Sabatani, E et al, Langmuir(1993), 9,2974-2981、Himmel,H-J et al, J. Am. Chem. Soc.(1998)120,12069-12074、及びIshida, T et al, J. Phys. Chem. B(1999)103,1686-1690の各文献において、SAMに使用されるターフェニル骨格を有するチオール誘導体が提案されている。
【0004】
しかし、これらのチオール化合物は、分子膜のパッキングが芳香族特有の分子間相互作用によってヘリングボーン構造(入れ子状配列)を取り易い。その場合、分子パッキングが強くなるため、2次元単分子膜の結晶性も強くなる。この強い結晶性は、分子のもつ高い誘電異方性を利用して電界印加下、SAMを動作させるのに大きな阻害要因となる。このため、誘電特性を保持しつつ、結晶性のないSAM、特に結晶性がなく且つ液晶性を有する(流動的で柔軟性のある)SAMを形成できる化合物の開発が望まれていた。
【0005】
ところで、特開平9−255621号公報には、誘電異方性が大きく、液晶表示素子に使用できる高分子分散型液晶材料として、ターフェニル骨格を有する特定の化合物が提案されている。しかし、これまでに高い誘電異方性を有する液晶性硫黄化合物の合成例は未だ報告されていなかった。
【0006】
従って、本発明の目的は、高い誘電異方性を有する液晶性硫黄化合物を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、種々検討を重ねた結果、特定の構造を有するターフェニル骨格含有硫黄化合物が、上記目的を達成し得るものであることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
即ち、本発明は、下記〔化2〕(前記〔化1〕と同じ)の一般式(I)で表されるターフェニル骨格含有硫黄化合物を提供するものである。
【0009】
【化2】
Figure 0004701372
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明のターフェニル骨格含有硫黄化合物について詳細に説明する。
本発明のターフェニル骨格含有硫黄化合物は、上記一般式(I)で表される新規なスルフィド化合物又はジスルフィド化合物である。即ち、本発明のターフェニル骨格含有硫黄化合物は、1つ又は2つの硫黄原子の両側に位置する2つの基が非対称な構造の化合物である。ここで、「非対称」とは、SAMを形成したときに、上記の2つの基によって自由空間ができ、この自由空間に向けてスムーズに分子動作が誘起し得る関係にあることをいう。
【0011】
本発明のターフェニル骨格含有硫黄化合物は、上記のように非対称な構造であるため、これにより形成されるSAMが高密度な2次元単分子結晶にはならず、分子に自由度が生じて自由空間を生じる。このため、SAMはアモルファス状となり、外部より電界が印加されたとき、誘電異方性のある分子部分が電界ベクトル方向へ動作する。このとき、その自由空間が存在することでスムーズに分子動作が誘起される効果を生じる。
【0012】
尚、従来のターフェニル系SAMでは結晶性が非常に強いため、分子膜は安定で外部力による経時変化が起こりにくいものであったが、本発明の化合物は、このような欠点を解消したものである。
【0013】
上記一般式(I)中、R及びRで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子等が挙げられ、これらの中でもフッ素原子が好ましい。また、Rで示される炭素原子数1〜20のアルキル基のうち、好ましくは炭素原子数が5〜18、特に8〜14のアルキル基である。更に、このアルキル基の炭素原子数は、nの数と同じか又はnより小さいことが好ましい。また、nは1〜20の数で、ターフェニル骨格とエーテル結合しているアルキレン基の炭素数と同じであり、好ましくは5〜18、更に好ましくは8〜14、最も好ましくは12である。
また、−O(CH−S−Sm−R基のベンゼン環に対する置換位置は限定されず、オルト体、メタ体、パラ体の何れであってもよい。
【0014】
本発明のターフェニル骨格含有硫黄化合物の例としては、上記一般式(I)において、mが0であり、nが1〜20であり、Rが上記基(A)である化合物や、上記一般式(I)において、mが1であり、nが1〜20であり、Rが上記基(A)である化合物や、上記一般式(I)において、mが1であり、nが1〜20であり、Rが炭素原子数がnと同じか又はnより小さいアルキル基である化合物等が挙げられる。特に、上記一般式(I)におけるnが5〜18である化合物、とりわけnが8〜14である化合物が好ましい。
【0015】
このようなターフェニル骨格含有硫黄化合物の好ましい具体例は、下記の化合物LC−(1)〜(3)等である。
【0016】
【化3】
Figure 0004701372
【0017】
【化4】
Figure 0004701372
【0018】
【化5】
Figure 0004701372
【0019】
これらの化合物の中でも、上記一般式(I)において、mが1であり、nが5〜18、特に8〜14であり、Rが炭素原子数がnと同じか又はnより小さいアルキル基である化合物〔特に、化合物LC−(3)〕は有用であり、次の点で特に好適である。即ち、上記の化合物は、これをSAMに形成したときに、ターフェニルに隣接する空間にちょうどアルキル鎖断面積分(約20平方オングストローム)だけ自由度が生まれる。そして、このSAMは、外部より電界が印加されたとき、誘電異方性の大きい分子部分(ターフェニル部)が電界ベクトル方向へ動作する。このため、より一層分子動作の誘起効果を生じる。
【0020】
本発明のターフェニル骨格含有硫黄化合物は、前述した通り、高い誘電異方性を有し且つ液晶性を有しているため、例えば、Au基板上に設けられる電界応答性SAMの形成分子材料として使用することができる。ここで、SAMの電界に対する応答性等の電界動作機能を検証するには、例えば、原子間顕微鏡(AFM)により行うことができる。具体的には、外部から電界を印加する前と後のSAMのAFMのイメージによる分子状態により、上記機能を検証することができる。即ち、SAMを形成する分子がパッキング状態にあるものは、電界印加前後の何れのAFMイメージにも規則的な状態が現れる。これに対し、SAMを形成する分子状態に自由空間のある緩い構造のものは、電界印加前にはAFMイメージにランダムな状態が現れ、電界印加後にはAFMイメージに規則的な状態が現れる。このようにして、SAMを形成する分子がパッキング状態にあるものは、電界動作機能が低いと判断でき、逆に、SAMを形成する分子状態に自由空間のある緩い構造のものは、電界動作機能が高いと判断できる。
【0021】
その他、SAMの電界動作機能の検証には、動的表面計測装置(表面プラズモン共鳴装置;SPR等)等によっても行うことでができる。
【0022】
更に、本発明のターフェニル骨格含有硫黄化合物は、濡れ性等の表面物性をコントロールできるため、電界応答型SAMをはじめ、これらの特性を発揮し得る種々の用途に利用できる。
【0023】
次に、本発明のターフェニル骨格含有硫黄化合物の製造方法について説明すると、該製造方法は、前述の新規なターフェニル骨格含有硫黄化合物を製造するための好ましい方法であり、具体的には以下に示す通りである。
【0024】
即ち、ブロモビフェニル誘導体とメトキシベンゼンボロン酸とからメトキシターフェニル誘導体を得、次いでこれとトリブロモボランとからヒドロキシターフェニル誘導体を得、その後これとジブロモアルカンとからターフェニルアルキロキシブロマイド誘導体を得、然る後該ブロマイド誘導体とチオ尿素とを反応させるか又は該ブロマイド誘導体とチオ硫酸ナトリウム五水和物及びアルカンチオールとを反応させることで、前記ターフェニル骨格含有硫黄化合物を製造することができる。ここで、ターフェニルアルキロキシブロマイド誘導体とチオ尿素とを反応させることで、上記一般式(I)におけるmが0で、nが1〜20で、Rが前記基(A)である化合物が製造でき、また、ターフェニルアルキロキシブロマイド誘導体とチオ硫酸ナトリウム五水和物及びアルカンチオールとを反応させることで、上記一般式(I)におけるmが1で、nが1〜20で、Rが前記基(A)である化合物、又は上記一般式(I)におけるmが1で、nが1〜20で、Rが炭素原子数がnと同じか若しくはnより小さいアルキル基である化合物が製造できる。
【0025】
次に、本発明の自己組織化単分子膜について説明すると、本発明の自己組織化単分子膜は、前述した高い誘電異方性を有する液晶性ターフェニル骨格含有硫黄化合物を用いてなる新規な機能薄膜である。このため、電界等の外的刺激を印加して、自己組織化単分子膜を構成する分子及び分子集合体を動的に変化させ、膜表面全体の表面物性を可逆的に制御できるものである。
【0026】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何等制限されるものではない。
【0027】
〔実施例1〕(化合物LC−(1)の合成)
化合物LC−(1)を合成するにあたって、先ず、下記〔化6〕に示す合成ルートにより、順次化合物P−(1)、化合物P−(2)の合成及び化合物LC−Brの合成を合成する。
【0028】
【化6】
Figure 0004701372
【0029】
化合物P−(1)の合成
2−フルオロ−4−ブロモ−4’−シアノビフェニル10.2g及びベンゼン63mlを窒素雰囲気下、フラスコに入れて攪拌、溶解させる。そのフラスコ中に、テトラキス(トリフェニルフォスフィン)パラジウム(0)0.4g及び2Mの炭酸ナトリウム水溶液48mlを加えて室温にて攪拌する。その後、反応混合物中にエタノール45mlに溶かしたp−メトキシベンゼンボロン酸5.6gを滴下する。滴下終了後さらに還流下、半日攪拌させる。冷却後、反応混合物に30%過酸化水素水2mlを加えて室温下攪拌させた後、クロロホルム抽出する。硫酸マグネシウムで乾燥させて溶媒を留去した後、アセトン、メタノール混合溶媒で再結晶する。さらにシリカゲルでクロロホルム溶媒下精製させた後、アセトンで再結晶し、無色針状結晶を得た。(収量7.5g)
得られた結晶の分析結果を以下に示す。
1H-NMR (CDCl3);δ=3.87(3H,t,Ar-O-CH3),7.00(2H,d,Ar-H),7.38-7.58(5H,m,Ar-H),7.72(4H,q,Ar-H) 、mp112-115℃(液晶性消失温度:255-258℃)
【0030】
〔2〕化合物P−(2)の合成
4−シアノ−2’−フルオロ−4”−メトキシターフェニル2g及びジクロロメタン50mlをフラスコ中に入れて溶液とした後、BBr3(1M;ジクロロメタン溶液)16mlを滴下する。滴下終了後、反応混合物をさらに室温にて2日ほど攪拌させる。その後、反応液を冷水に注ぎ、よく攪拌した後固形物をろ過して、乾燥させる。この黄色固形物をアセトン−水混合溶媒で再結晶させて白色結晶を得た。(収量1.34g)
得られた結晶の分析結果を以下に示す。
1H-NMR (CDCl3);δ=6.97(2H,d,Ar-H),7.49-7.67(5H,m,Ar-H),7.87(4H,q,Ar-H),8.66(1H,s,Ar-OH)、 mp224-225℃(液晶性消失温度:282-284℃)
【0031】
〔3〕化合物LC−Brの合成
1,12−ジブロモドデカン4.26g、炭酸カリウム1.26g及びアセトン30mlをフラスコに入れ攪拌下、4−シアノ−2’−フルオロ−4”−メトキシターフェニル1.5gをアセトン40mlに溶かした溶液をゆっくり滴下する。滴下終了後、反応混合物をさらに2日攪拌、還流させる。TLCにて出発物質がすべて反応したことを確認後、反応混合物を冷水に注ぎよく攪拌する。析出した固形物をろ過し、水及びエタノール(未反応1,12−ジブロモドデカンを除去するため)でよく洗浄した。乾燥後、固形物をシリカゲルカラムクロマログラフィにて精製した(クロロホルム/ヘキサン=4/1)。得られた白色結晶をさらにエタノールでよく洗浄した後、真空乾燥させて目的化合物(白色結晶)を得た。(収量2.06g)
得られた結晶の分析結果を以下に示す。
1H-NMR(CDCl3):δ=1.2-1.4(18H,m,-CH2-),1.84(2H,m,Ar-O-CH2-CH2-),3.48(2H,t,Br-CH2-),4.01(2H,t,Ar-O-CH2-),6.99(2H,d,Ar-H).7.36-7.56(5H,m,Ar-H),7.75(4H,q,Ar-H)、 mp105-108℃(液晶性消失温度:128-130℃)
【0032】
〔4〕化合物LC−(1)の合成
【0033】
【化7】
Figure 0004701372
【0034】
4−シアノ−2’−フルオロ−ターフェニル−4”−ドデシロキシルブロマイド0.4g、チオ尿素0.09g及び脱酸素させたエタノール50mlをフラスコ内に入れて攪拌下、加熱還流させる。完全に溶解した時点で1日還流を行う。反応物を室温まで冷却すると、白色結晶が析出する。この固形物をろ過して、さらにクロロフォルムで良く洗浄し、未反応臭化物を除去する。乾燥後、約0.34gのチオ尿素塩の化合物が得られた。引き続き、この塩を脱酸素させたエタノール50mlに再び加熱化溶解させて、さらに0.3gのLC−Brの50mlエタノール溶液加えて加熱攪拌下、10mlの蒸留水に溶かした50mg水酸化ナトリウム溶液を滴下させた。反応混合物は80℃で6時間還流させた後、室温に戻し析出した固形物をろ過しエタノールで再度洗浄し、乾燥させる。この固形物をクロロフォルム−エタノールで再結晶した後、シリカゲルクロマトグラフィによって精製(クロロフォルム/メタノール=32/1)した。目的物である白色結晶が得られた。(収量0.14g)
得られた結晶の分析結果を以下に示す。
1H-NMR(CDCl3);δ=1.2-1.4(36H,m,-CH2-),1.82(4H,m,Ar-O-CH2-CH2-),2.50(4H,t,-S-CH2-),4.00(4H,t,Ar-O-CH2-),6.99(4H,d,Ar-H),7.37-7.55(10H,m,Ar-H),7.72(8H,q,Ar-H)、mp127-128℃(液晶性消失温度:208-209℃)
【0035】
〔実施例2及び3〕(化合物LC−(2)及び化合物LC−(3)の合成)
【0036】
【化8】
Figure 0004701372
【0037】
4−シアノ−2’−フルオロターフェニル−4”−ドデシロキシブロマイド0.6gを40mlのジメチルホルムアミド(DMF)に60℃で溶解させ、水5mlに溶かしたチオ硫酸ナトリウム五水和物0.3gの溶液をゆっくり滴下させた。混合物は65℃にて4時間攪拌させた後200mlの冷水に注いでよく攪拌させた。チオ硫酸塩化合物の細かいコロイド状固形物が生成し、これを約1日かけてろ過した。残った固形物をクロロフォルムに懸濁させて未反応臭化物を取り除きもう一度ろ過、クロロフォルム−アセトンで洗浄、乾燥させ、Bunte塩を得た。引き続き、反応フラスコに1−ドデカンチオール0.23gとそれぞれ脱気させたTHF/MeOHの混合溶媒(12ml/6ml)を入れて窒素下攪拌させる。そこに2mlの蒸留水に溶かした水酸化ナトリウム0.4gを滴下させ、室温にて約1時間攪拌させた。その反応溶液に、ジメチルアセトアミド(DMA)/MeOHの混合溶媒(20ml/10ml)に溶かしたBunte塩0.45gを窒素気流下ゆっくりと滴下させ、12時間室温にて攪拌させた。その後、反応混合物を冷水に注ぎ、析出した白色固形物をろ過した。さらにろ過物を蒸留水、アセトンでよく洗浄した後乾燥させ粗結晶を得た。この粗結晶をシリカゲルカラムクロマトグラフィにて精製単離させた(クロロフォルム/ヘキサン=4/1)。この精製過程にてLC−(2)を副生成物として得た(収量0.08g)。また、カラムより得られた主生成物をヘキサン/クロロフォルム混合溶媒で再度、再結晶させLC−(3)(白色結晶)を得た(収量0.13g)。
得られた副生成物〔LC−(2)〕の分析結果を以下に示す。
1H-NMR(CDCl3);δ=1.2-1.4(32H,m,-CH2-),1.65(4H,m,-S-S-CH2-CH2-),1.80(4H,m,Ar-O-CH2-CH2-),2.66(4H,t,-S-S-CH2-),3.99(4H,t,Ar-O-CH2-),6.97(4H,d,Ar-H),7.37-7.55(10H,m,Ar-H),7.70(8H,q,Ar-H):、 mp85-87℃(液晶性消失温度:115-117℃)
また、得られた主生成物〔LC−(3)〕の分析結果を以下に示す。
1H-NMR(CDCl3);δ=0.86(3H,t,-CH3),1.2-1.4(34H,m,-CH2-),1.65(4H,m,-S-S-CH2-CH2-),1.80(2H,m,Ar-O-CH2-CH2-),2.66(4H,t,-S-S-CH2-),3.99(2H,t,Ar-O-CH2-),6.97(2H,d,Ar-H),7.37-7.55(5H,m,Ar-H),7.70(4H,q,Ar-H) 、mp115-118℃(液晶性消失温度:194-196℃)
【0038】
〔試験例1〕(電圧を交流印加させた場合)
本発明に係る実施例3のターフェニル骨格含有硫黄化合物〔LC−(3)〕のエタノール溶液中にAu基板を浸し、該基板上に化合物LC−(3)のSAMを形成した。このSAMの電界下での動作について調べる。一般的に、SAMの電界下での動作については、直接測定がかなり難しい。そこで、本発明に係る上記化合物LC−(3)により形成されたSAMの電界による動的変化を、液晶の動きに増幅させて間接的に測定する方法で観察した。その観察手法を図1〜4を参照しつつ説明する。図1は、化合物LC−(3)により形成されたSAM(以下、「LC−SAM」という。)を含む液晶セルに電界をかけた状態を示す模式図である。図1に示すように、液晶セルの電極は、LC−SAMを設けた金電極(厚さ50nm)と、対抗電極として水平配向膜化処理されたITO基板とを用いて構成され、セルギャップは約5μmである。内部に注入される液晶材料は誘電異方性が最も小さくなる組成で構成され、普通の液晶セル中では電界をかけても液晶は全く動作しない。このセル中、電圧が加わると液晶自体は動作しないのでLC−SAMの部分が変化しない限り、液晶相の動的変化が現れないはずである。LC−SAMが電極に応答して動作したとすると、SAMに直接接する液晶分子相、特に金電極界面から厚さ0.1μmあたりまで液晶相はSAMの動作に応答して変化する。その変化が次々と液晶相の中で伝達され、5ミクロンギャップ中に存在する液晶全体の動きとして伝播、増幅される結果、LC−SAM膜厚によるわずか2nmの動的変化が直接裸眼で観察可能になる。
【0039】
この観察手法により、前記LC−SAMの電界下での動的変化を観察した。メルク社の液晶TL213及びMX961210の2種類を50%ずつ混合して構成された液晶組成物を用いた。この液晶組成物からなる液晶セル中に電圧を加える前の状態は、図2に示すような光透過性をもっているが、交流電圧を50V(60Hz)加えると図3に示すような光透過性の変化をもたらす。また、液晶セル中の半分に電圧を加え、残り半分には電圧を加えない状態は図4に示される。図4から明らかなように、液晶セルに電圧がオンの状態とオフの状態とで液晶相に変化が生じていることが判る。電圧をオフにすると図2示す状態に戻り、電圧を再びかけると同じ変化が観察され、電圧による可逆変化が確認された。なお、液晶相のみの電圧依存性測定より、同じ電圧で液晶は動作しないことが確認されている。
【0040】
なお、液晶のみの電圧印加実験より、LC−SAM膜付きの液晶セルにて、液晶が動作を引き起こす電圧領域においては、液晶相中何ら動作変化は観察されなかった。このLC−SAMの電界下での状態は、図5に示す模式図のような状態となっていると推察される。
【0041】
また、LC−SAMの非電界下での状態は、AFMイメージにランダムな状態が現れることが確認されている(図示せず)。これに対し、比較化合物としてF(CF10(CHSHを用い、上記化合物LC−(3)と同様にして形成したSAMの非電界下での状態は、図6に示すようにAFMイメージに規則的な状態が現れる。更に、参考までに、Ishida, T et al, J. Phys. Chem. B(1999)103,1687には、本発明の化合物と同様のターフェニル骨格を有するチオール化合物から形成されたSAMの走査型トンネル顕微鏡(STM)イメージが規則的な状態で現れていることが示されている。
【0042】
〔試験例2〕(液晶セル表面解析用SPR)
金基板を含む液晶セルにおいて、金薄膜基板側をプリズム上に密着固定させ、P偏光の光をプリズムより導入して、金薄膜上にて選られる反射光変化から、金表面上に設けた自己組織化単分子膜と液晶バルクの界面近傍での動的変化をリアルタイムで計測できる表面プラズモン共鳴装置(SPR)を使用して、電界印加による自己組織化単分子膜の動作を確認した。
【0043】
具体的な測定装置の基本構成要素は、図7に示す模式図の通りである。液晶セルは、6ミクロンギャップ中に、誘電異方性が非常に小さく且つ屈折率異方性が比較的大きい液晶組成物、例えば、MX96及びTL213(メルク社製)の等量混合物を封入する。セルは2種類の異なる電極表面から構成される。一方は、厚さ約500オングストロームの金電極表面にチオールを含む自己組織化単分子膜が形成され、もう一方は、ITO透明電極と垂直配向膜で形成される。この液晶セルの金薄膜基板の裏側をSPRのプリズム表面に固定化させる。その際、基板とプリズムの屈折率が同じになるように材質が選定される。屈折率は1.50〜2.00の範囲で選定され、望ましくは1.70〜1.85の範囲に収まる材料を基板とプリズムに使用する。本試験例においては、屈折率が1.73の基板とプリズムを使用し、さらに基板とプリズムの密着性を向上させるために、同様の屈折率を有するマッチングオイルをプリズム表面に展開した後、液晶セル基板をプリズム表面に固定化する。液晶セルには交流電源をつなぎ、10Hz交流周波数にて0〜15Vppの範囲で電界を印加させる。電界を液晶セルにオンオフさせる間、SPRの測定モードを時間−SPR吸収角度変化のプロットで固定させて、1秒に1回のサンプリングで電界印加下、SPR吸収角度変化をモニターする。SPR用光源は670nmの半導体レーザーを使用した。
金薄膜と自己組織化単分子膜との境界を伝播する表面プラズモンの波数Kpの分散関係は、下記の式に示されるごとき方程式を解くことによって求めることが可能である。当該式において、εmは自己組織化単分子膜の誘電率、εsは金薄膜の誘電率、cは光の速度、θは光の入射角度である。
【0044】
【数1】
Figure 0004701372
【0045】
本試験例においては、3種類の異なる金表面基板を使用して、それぞれ液晶セルを作成した。表面を特異的に修飾するために、液晶性のテイルグループをもつチオール化合物(1)〔前記LC−(3)〕を使用し、また比較試験例として単純な直鎖メチレン構造をもつヘキサデカンチオール(2)を使用して金薄膜上にそれぞれ自己組織化単分子膜を形成させた。それぞれ、ジクロロメタン中、0.5mMの溶液を作成し、金基板を約1時間浸せきさせた後、ジクロロメタンで洗浄して窒素気流下、乾燥させる。また、残りの金基板表面には、何も吸着させずに、そのままで液晶セルの作成を行った。液晶性のチオール化合物(1)から形成される自己組織化単分子膜は、図5に示した模式図のようになる。図8は、各液晶セルのSPR吸収角度変化を時間変化でプロットさせたグラフを示す。印加電圧7Vppにおいて、化合物(1)を金表面に吸着させた液晶セルは、電界を印加させた状態でSPR吸収角度が0.015程減少するのに対し、ヘキサデカンチオール(2)を吸着させた液晶セルでは、電界印加状態で、非常に小さな変化しか認識できない。また、金薄膜のみ(3)で作成した液晶セルでは、同様に電界印加状態と非印加状態とでほとんど差はなく、金表面近傍の液晶分子層は電界印加において、動的変化を起こしていないことを示す。
【0046】
また、印加電圧をさらに上げてSPR吸収角度変化をモニターした(図9参照)が、同様に化合物(1)の液晶セルが、大きなSPR吸収角度変化を示すのに対して、ヘキサデカンチオール(2)及び金薄膜のみ(3)の液晶セルの場合は、電界のオンオフでほとんど差がない。これらの測定結果をもとにして、金表面近傍の液晶分子がどの程度の範囲で電界による動的変化を起こしているのか、特に基板からの厚さ方向変化、屈折率変化の程度を把握するために、シミュレーションによってそれらの変化を見積もった。
まず、化合物(1)を含む液晶セルにて観察されたSPR吸収角度変化の最大量は、印加電圧12.5Vppでは、約0.09である。この変化量をもとにして実際の屈折率変化を見積もると約0.0015の変化に相当し、また厚さ変化では約60オングストロームに相当する。つまり、化合物(1)の自己組織化単分子膜の厚さが約30オングストロームなので、そのSAM膜の上にさらに液晶分子1層分に相当する厚さ(仮に液晶分子が基板に対してほぼ垂直に配向しているとして)になる。よって、この化合物(1)の分子膜を含む液晶セル中では、電界印加下、セル中の液晶バルクは動的変化を起こしていないが、金薄膜上、分子膜を含む界面近傍の液晶層のみが動的変化を起こしていることがわかった。実際に、光学顕微鏡にてセル中の液晶バルクが同じ電界で変化するかどうかを調べたが、マクロレベルでは視覚的な変化は認識できなかった。このような基板界面で起こるミクロレベルでの、電界による自己組織化単分子膜の動的変化は、本試験例で使用した表面プラズモン共鳴装置(SPR)によってのみ観察することができた。また、同様の解析により、ヘキサデカンチオールを含む液晶セル及び金薄膜のみの液晶セルでは、電界印加下、基板表面近傍、及び液晶バルク両方とも動的変化は起きていないことがわかった。
【0047】
〔試験例3〕(電圧を直流印加させた場合)
LC−SAMを使用した電界に応答する自己組織化単分子膜を含む液晶セル中に直流電圧を10〜20Vの範囲で印加させると、10V、15V及び20Vの各電圧とも同様に表面プラズモン(SPR)共鳴が起こり、電圧強度が大きくなると、SPR共鳴角度変化も増大することが観測された(図10参照)。さらに、電圧印加時のSPR共鳴角度の立ち上がり変化をリアルタイムにて観察するために、測定サンプリング回数を0.1ms/1samplingという高速モードにて、SPR共鳴角度の電圧による変化を測定した。その結果、電圧印加直後からSPR共鳴角度変化が立ち上がって飽和するまでに、約100−150msの時間が必要であることが判明した。本測定では、試験例1の交流印加実験の場合と同様に、液晶組成物の誘電異方性はゼロに近いもの(同じもの)である。よって、電界印加時に応答するのは、電極表面上に設けられた自己組織化単分子膜のみであり、このSPR共鳴角度の時系列変化は、電界応答型分子膜の動的変化を捉えた結果であると説明できる。一方、電界に無応答なアルカンチオール(ヘキサデカンチオール;HDT)を分子膜として電極上に設けた液晶セルの場合、同様な直流電圧印加によるSPR共鳴角度の変化は観察されなかった(図11参照)。
【0048】
【発明の効果】
本発明によれば、新規なターフェニル骨格含有硫黄化合物が提供される。本発明のターフェニル骨格含有硫黄化合物は、高い誘電異方性を有し且つ液晶性を有するものである。
また、本発明によれば、上記の新規なターフェニル骨格含有硫黄化合物の製造方法が提供される。
更に、本発明によれば、上記の新規なターフェニル骨格含有硫黄化合物を用いてなる自己組織化単分子膜が提供される。この自己組織化単分子膜は、電界等の外的刺激を印加して、自己組織化単分子膜を構成する分子及び分子集合体を動的に変化させ、膜表面全体の表面物性を可逆的に制御できる新規な機能薄膜である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るターフェニル骨格含有硫黄化合物により形成されたSAMを含む液晶セルに電界をかけた状態を示す模式図である。
【図2】液晶セル中に電圧を加える前の状態の光透過性を示す図である
【図3】液晶セル中に交流電圧を50V(60Hz)加えたときの状態の光透過性を示す図である
【図4】液晶セル中に半分電圧を加えたときの状態の光透過性を示す図である。
【図5】本発明に係るターフェニル骨格含有硫黄化合物により形成されたSAMの電界下での状態を模式図である。
【図6】比較化合物としてのF(CF10(CHSHにより形成されたSAMの非電界下でのAFMイメージである。
【図7】試験例で使用するSPR測定システム(装置)の基本構成要素を示す概略図である。
【図8】各液晶セルの経時的なSPR吸収角度変化を示すグラフである。
【図9】各液晶セルの経時的なSPR吸収角度変化を示すグラフである。
【図10】本発明に係るターフェニル骨格含有硫黄化合物により形成されたSAM(LC−SAM)を含む液晶セルの、10V、15V及び20Vそれぞれの直流電圧印加下での経時的なSPR共鳴角度変化を示すグラフである。
【図11】ヘキサデカンチオール(HDT)を分子膜として電極上に設けた液晶セルの直流電圧(20V)印加下での経時的なSPR共鳴角度変化を示すグラフである。

Claims (5)

  1. 下記〔化1〕の一般式(I)で表されるターフェニル骨格含有硫黄化合物。
    Figure 0004701372
  2. 上記一般式(I)におけるnが、5〜18である請求項1記載のターフェニル骨格含有硫黄化合物。
  3. 上記一般式(I)におけるnが、8〜14である請求項1記載のターフェニル骨格含有硫黄化合物。
  4. 請求項1〜3の何れかに記載のターフェニル骨格含有硫黄化合物を製造する方法であって、ブロモビフェニル誘導体とメトキシベンゼンボロン酸とからメトキシターフェニル誘導体を得、次いでこれとトリブロモボランとからヒドロキシターフェニル誘導体を得、その後これとジブロモアルカンとからターフェニルアルキロキシブロマイド誘導体を得、然る後該ブロマイド誘導体とチオ尿素とを反応させるか又は該ブロマイド誘導体とチオ硫酸ナトリウム五水和物及びアルカンチオールとを反応させる、ターフェニル骨格含有硫黄化合物の製造方法。
  5. 請求項1〜3の何れかに記載のターフェニル骨格含有硫黄化合物を用いてなる自己組織化単分子膜。
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