JP4689059B2 - ビスフェノールaの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、陽イオン交換樹脂触媒を用いたビスフェノールA〔2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〕の製造方法に関し、さらに詳しくは、反応停止中に使用途中の触媒を活性低下させることなく、長期間保存することができ、かつ反応再開時にフェノール中へのスルホン酸の溶出が抑えられ、製品ビスフェノールAの品質悪化をもたらすことがないビスフェノールAの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ビスフェノールAはポリカーボネート樹脂やポリアリレート樹脂などのエンジニアリングプラスチック、あるいはエポキシ樹脂などの原料として重要な化合物であることが知られており、近年その需要はますます増大する傾向にある。
このビスフェノールAは、上記ポリカーボネート樹脂やポリアリレート樹脂などの原料として用いる場合、着色のない高純度のビスフェノールAが必要であるが、特に近年光学用途の需要が増大しているポリカーボネート樹脂の原料としては、従来以上に無色で高純度のビスフェノールAが要求されている。
【0003】
このビスフェノールAは、酸性触媒及び場合により用いられる硫黄化合物などの助触媒の存在下に、過剰のフェノールとアセトンとを縮合させることにより製造される。
この反応において用いられる酸触媒としては、従来、硫酸や塩化水素などの無機鉱酸が用いられていたが、近年、陽イオン交換樹脂が注目され(英国特許第842209号明細書、同第849565号明細書、同第883391号明細書)、工業的に用いられるようになった。
一方、助触媒として用いられる硫黄化合物としては、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、チオグリコール酸などの置換基を有する若しくは有しないアルキルメルカプタン類が有効であることが知られている(米国特許第2359242号明細書、同第2775620号明細書)。このメルカプタン類は、反応速度を上げるとともに、選択率を向上させる作用を有している。
【0004】
ところで、従来のビスフェノールAの製造方法においては、触媒として用いられる前記陽イオン交換樹脂は、装置の定修毎に交換されており、長期間保存する必要がなく、したがって、該陽イオン交換樹脂を使用途中で長期間保存する方法は、これまで知られていないのが実状である。
しかしながら、装置を不定期的に長期間停止させる必要が生じた場合、使用中の触媒を一時的に長期間にわたり、その触媒性能を保持したまま保管しなければならず、反応器中の原料フェノールと共に、そのまま保管することも考えられるが、この場合、陽イオン交換樹脂を長期間フェノール中に漬けておくと、該陽イオン交換樹脂からスルホン酸が流出し、運転開始後の製品ビスフェノールAの品質を悪化させるという問題が生じる。
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は、このような状況下で、陽イオン交換樹脂触媒を用いたビスフェノールAの製造において、反応停止中に使用途中の触媒を活性低下させることなく、長期間保存することができ、かつ反応再開時にフェノール中へのスルホン酸の溶出が抑えられ、製品ビスフェノールAの品質悪化をもたらすことがないビスフェノールAの製造方法を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、使用途中の強酸性のスルホン酸型陽イオン交換樹脂をフェノール液で洗浄したのち、フェノール液中で長期間保存し、反応を再開させる際に、上記フェノール液中で保存した強酸性のスルホン酸型陽イオン交換樹脂をフェノール液で洗浄後、触媒として使用することにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、強酸性のスルホン酸型陽イオン交換樹脂の存在下、フェノールとアセトンを縮合させてビスフェノールAを製造する方法において、反応を一旦停止し、3日間以上経過後再開するに当たり、使用途中の強酸性のスルホン酸型陽イオン交換樹脂をフェノールで洗浄したのち、フェノール液中で保存し、反応を再開させる際に、上記フェノール液中で保存した強酸性のスルホン酸型陽イオン交換樹脂をフェノールで洗浄後、触媒として使用することを特徴とするビスフェノールAの製造方法を提供するものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明のビスフェノールAの製造方法においては、陽イオン交換樹脂の存在下、フェノールとアセトンを縮合させてビスフェノールAを製造する方法であって、上記陽イオン交換樹脂としては、強酸性のスルホン酸型陽イオン交換樹脂が好適である。
該スルホン酸型陽イオン交換樹脂については、スルホン酸基を有する強酸性陽イオン交換樹脂であればよく特に制限されず、例えばスルホン化スチレン−ジビニルベンゼンコポリマー、スルホン化架橋スチレンポリマー、フェノールホルムアルデヒド−スルホン酸樹脂、ベンゼンホルムアルデヒド−スルホン酸樹脂などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の方法においては、上記陽イオン交換樹脂と共に、通常助触媒としてメルカプタン類が併用される。
【0007】
このメルカプタン類は、分子内にSH基を遊離の形で有する化合物を指し、このようなものとしては、アルキルメルカプタンや、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基などの置換基一種以上を有するアルキルメルカプタン類、例えばメルカプトカルボン酸、アミノアルカンチオール、メルカプトアルコールなどを用いることができる。このようなメルカプタン類の例としては、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン,チオグリコール酸、β−メルカプトプロピオン酸などのチオカルボン酸、2−アミノエタンチオール、2,2−ジメチルチアゾリジンなどのアミノアルカンチオール、メルカプトエタノールなどのメルカプトアルコールなどが挙げられるが、これらの中で、アルキルメルカプタンが助触媒としての効果の点で、特に好ましい。また、これらのメルカプタン類は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらのメルカプタン類は、前記陽イオン交換樹脂上に固定化させ、助触媒として機能させることもできる。
【0008】
前記メルカプタン類の使用量は、一般に原料のアセトンに対して、0.1〜20モル%、好ましくは、1〜10モル%の範囲で選定される。
また、フェノールとアセトンとの使用割合については特に制限はないが、生成するビスフェノールAの精製の容易さや経済性などの点から、未反応のアセトンの量はできるだけ少ないことが望ましく、したがって、フェノールを化学量論的量よりも過剰に用いるのが有利である。通常、アセトン1モル当たり、3〜30モル、好ましくは5〜15モルのフェノールが用いられる。また、このビスフェノールAの製造においては、反応溶媒は、反応液の粘度が高すぎたり、凝固して運転が困難になるような低温で反応させる以外は、一般に必要ではない。
本発明におけるフェノールとアセトンとの縮合反応は、触媒の陽イオン交換樹脂を充填した反応塔に、フェノールとアセトンと前記メルカプタン類を連続的に供給して反応させる固定床連続反応方式を用いることができる。この際、反応塔は1基でもよく、また2基以上を直列又は並列に配置してもよいが、工業的には、陽イオン交換樹脂を充填した反応塔を2基以上直列に連結し、固定床多段連続反応方式を採用するのが、特に有利である。
【0009】
固定床多段連続反応方式を採用する場合、供給するアセトンは各段に分割して供給することが好ましい。このアセトンの各段への供給割合は、触媒の活性によって左右されるが、水分によって反応が抑制されるため、水分が少ない上流段ほど反応負荷が高くなるようにするのが望ましい。例えば反応塔3基を直列に連結した場合、各反応塔におけるビスフェノールA生成負荷を、上流側から10:7:4程度にすると安定した品質のビスフェノールAを得ることができる。
また、反応に使用するフェノールについては不純物の少ないものが好ましく、特にヒドロキシアセトン濃度が1重量ppm以下のものを使用することが触媒寿命の低下を防止する上からも好ましい。
【0010】
この固定床連続反応方式における反応条件について説明する。
まず、アセトン/フェノールモル比は、通常1/30〜1/3、好ましくは1/15〜1/5の範囲で選ばれる。このモル比が1/30より小さい場合、反応速度が遅くなりすぎるおそれがあり、1/3より大きいと不純物の生成が多くなり、ビスフェノールAの選択率が低下する傾向がある。一方、メルカプタン類が陽イオン交換樹脂に固定化されない場合、メルカプタン類/アセトンモル比は、通常0.1/100〜20/100、好ましくは1/100〜10/100の範囲で選ばれる。このモル比が0.1/100より小さい場合、反応速度やビスフェノールAの選択率の向上効果が十分に発揮されないおそれがあり、20/100より大きいとその量の割りには効果の向上はあまり認められない。
また、反応温度は、通常40〜150℃、好ましくは60〜110℃の範囲で選ばれる。該温度が40℃未満では反応速度が遅い上、反応液の粘度が極めて高く、場合により、固化するおそれがあり、150℃を超えると反応制御が困難となり、かつビスフェノールA(p,p’一体)の選択率が低下する上、触媒の陽イオン交換樹脂が分解又は劣化することがある。
さらに、原料混合物のLHSV(液空間速度)は、通常0.2〜30hr-1、好ましくは0.5〜10hr-1の範囲で選ばれる。
【0011】
本発明の方法においては、反応塔から出てきた反応混合物は、公知の方法により後処理が施され、ビスフェノールAが取り出される。次に、この後処理の一例について説明すると、まず晶析に先立って低沸点物除去後、濃縮を行う。濃縮条件については特に制限はないが、通常温度130〜170℃、圧力13〜53kPaの条件で濃縮が行われる。温度が130℃未満では高真空が必要となり、170℃を超えると不純物が増加したり、着色の原因となる。また、濃縮残液のビスフェノールAの濃度は25〜40重量%の範囲にあるのが有利である。この濃度が25重量%未満ではビスフェノールAの回収率が低く、40重量%を超えると晶析後のスラリーの移送が困難となる。
【0012】
濃縮残液からのビスフェノールAとフェノールの付加物の晶析は、通常減圧下で水の蒸発潜熱を利用して冷却する真空冷却晶析法によって行われる。この真空冷却晶析法においては、該濃縮残液に、水を3〜20重量%程度添加し、通常温度40〜70℃、圧力3〜13kPaの条件で晶析処理が行われる。上記水の添加量が3重量%未満では除熱能力が十分ではなく、20重量%を超えるとビスフェノールAの溶解ロスが大きくなり、好ましくない。また晶析温度が40℃未満では晶析液の粘度の増大や固化をもたらすおそれがあり、70℃を超えるとビスフェノールAの溶解ロスが大きくなり好ましくない。
次に、このようにして晶析されたビスフェノールAとフェノールの付加物は、公知の方法により分離したのち、通常、フェノールにより洗浄処理が施される。次いで、洗浄処理された付加物をビスフェノールAとフェノールとに分離処理(脱フェノール)するが、この場合、温度は通常130〜200℃、好ましくは150〜180℃の範囲で選ばれ、一方圧力は通常3〜20kPaの範囲で選ばれる。
この分離処理により得られたビスフェノールAは、その中の残留フェノールをスチームストリッピングなどの方法により、実質上完全に除去することによって、高品質のビスフェノールAが得られる。
【0013】
本発明のビスフェノールAの製造方法においては、反応を一旦停止し、3日間以上経過後再開するに当たり、まず、使用途中の陽イオン交換樹脂をフェノールで洗浄したのち、フェノール液中に保存する。上記フェノールでの洗浄においては、洗浄液中のアセトン濃度が500重量ppm以下になるまで洗浄を行うことが好ましい。例えば、触媒1容量に対して、70℃程度の温度を有するフェノールを7〜8容量程度用いて洗浄することにより、洗浄液中のアセトン濃度を300重量ppm以下とすることができる。
また、上記洗浄後の陽イオン交換樹脂のフェノール液中での保存は、45〜80℃の温度で行うのが好ましい。
この温度が45℃未満ではフェノールが固化する場合があり、また80℃を超えると陽イオン交換樹脂からのスルホン酸の溶出量が増大するため、好ましくない。
なお、本発明では反応を一旦停止する期間は、3日間以上であるが、1年以上の長期間であっても適用することが可能であるが、経済性を考慮すれば通常は 1年未満である。
【0014】
運転停止期間が3日間以上と長期にわたる場合、陽イオン交換樹脂を保存したフェノール液中にはスルホン酸が多量に含まれているために、反応を再開させる際に、上記陽イオン交換樹脂をフェノールで洗浄したのち、触媒として使用する。この洗浄に用いられるフェノールの量は、陽イオン交換樹脂周りのスルホン酸を多量に含むフェノールを置換し得る量であればよく、通常触媒1容量に対して3容量程度のフェノールを用いて洗浄すればよい。
そして、この洗浄液は、陽イオン交換樹脂を保存していたフェノール液と共に蒸留処理し、フェノールを回収すると共に、高濃度のスルホン酸を含む残渣を系外へ排出するのがよい。該スルホン酸はビスフェノールAを分解する作用を有するため、特に脱フェノール工程に混入するとフェノールとイソプロペニルフェノールが増加し、製品ビスフェノールAの品質を悪化させるので、好ましくない。
【0015】
【実施例】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
内径20mm、高さ1500mmの充填層式の反応器にスルホン酸型イオン交換樹脂〔三菱化学(株)製、「ダイヤイオン−104H」〕を充填した。反応温度を80℃に保ち、反応器入口より、フェノール(ヒドロキシアセトン濃度は検出下限である1重量ppm以下である。)、アセトン及びエチルメルカプタンを、フェノール/アセトンモル比=20、LHSV=1hr-1の条件で連続的に供給し、反応を行ったのち、アセトン及びエチルメルカプタンの供給を停止し、触媒量の8倍容量のフェノールをLHSV=1hr-1で通液して、イオン交換樹脂を洗浄した。この際の反応器出口におけるアセトン濃度は300重量ppmであった。この状態でフェノールの通液を停止し、60℃の温度で20日間保持した。
【0016】
20日間保持後、該反応器中のフェノールを置換するために、フェノールをLHSV=1hr-1の条件で触媒量の3倍容量通液した。反応器から流出したフェノールを減圧蒸留して、精製フェノール及びスルホン酸を含む残渣を得た。このスルホン酸を含む残渣を系外へ排出したのち、反応停止前と同条件で反応を開始した。
アセトン転化率が75%に落着いたところで、反応液を減圧蒸留し、未反応アセトンやフェノールの一部を留去した。さらに減圧蒸留してフェノールを留去し、ビスフェノールAを40重量%濃度に濃縮した。この濃縮液を43℃に冷却して、ビスフェノールAとフェノールとの付加物を晶析し、次いで固液分離した。
次に、ビスフェノールAとフェノールとの付加物の脱フェノールを、圧力4kPa、温度170℃の条件で行い、フェノールを留去させ、ビスフェノールAを得た。得られたビスフェノールA中のフェノール含有量は10重量ppmであった。また、空気雰囲気下で220℃にて30分間加熱したのち、APHA標準液を用い、目視により色相評価を行った結果、APHA10で良好であった。
【0017】
比較例1
実施例1において、20日間保持後の反応器中のフェノール置換を実施せずに、反応を開始してビスフェノールAを製造したところ、ビスフェノールA中フェノール含有量は150重量ppmであり、色相はAPHA40であった。
比較例2
実施例1において、反応停止後フェノールによる触媒の洗浄を実施しなかったところ、フェノール中のアセトン濃度は3重量%であった。この状態で実施例1と同様に20日間保持したのち、フェノール置換を実施しようとしたが、反応器の圧力損失が大きく、運転を再開することは不可能であった。
【0018】
【発明の効果】
本発明によれば、陽イオン交換樹脂触媒を用いたビスフェノールAの製造において、反応停止中に使用途中の触媒を活性低下させることなく、長期間保存することができ、かつ反応再開時にフェノール中へのスルホン酸の溶出が抑えられ、製品ビスフェノールAの品質悪化をもたらすことがない。
Claims (4)
- 強酸性のスルホン酸型陽イオン交換樹脂の存在下、フェノールとアセトンを縮合させてビスフェノールAを製造する方法において、反応を一旦停止し、3日間以上経過後再開するに当たり、使用途中の強酸性のスルホン酸型陽イオン交換樹脂をフェノールで洗浄したのち、フェノール液中で保存し、反応を再開させる際に、上記フェノール液中で保存した強酸性のスルホン酸型陽イオン交換樹脂をフェノールで洗浄後、触媒として使用することを特徴とするビスフェノールAの製造方法。
- 使用途中の強酸性のスルホン酸型陽イオン交換樹脂のフェノールによる洗浄を、洗浄液中のアセトン濃度が500重量ppm以下になるまで行う請求項1記載のビスフェノールAの製造方法。
- 洗浄後の強酸性のスルホン酸型陽イオン交換樹脂のフェノール液中での保存を、45〜80℃の温度で行う請求項1又は2記載のビスフェノールAの製造方法。
- フェノール液中で保存した強酸性のスルホン酸型陽イオン交換樹脂をフェノール液で洗浄する際に得られる洗浄液を、該強酸性のスルホン酸型陽イオン交換樹脂を保存していたフェノール液と共に蒸留処理してフェノールを回収し、かつ残渣を系外へ排出する請求項1、2又は3記載のビスフェノールAの製造方法。
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