JP4670227B2 - ジルコニアセラミックス及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本願発明は、工業用材料に使用される機能性セラミックスに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
セラミックスは、耐熱性,耐摩耗性,耐食性に優れているため、切削工具,研磨剤,ベアリング,メカニカルシール,粉砕メディア,光接続部品,ダイス,エンジン,耐熱耐食材料,離型材,耐熱構造材,断熱材等の幅広い用途で使用されている。しかし、セラミックスは、共有又はイオン結合性が強く、金属のように塑性変形などを示さないので、クラック先端の応力集中を緩和できず、表面にある傷や内部欠陥を起点に破壊する材料である。このような脆性材料としての欠点を改善するために、様々な観点からセラミックスの微構造を変化させて性能を向上させている。例えば、アルミナセラミックスの機械的特性(強度,靭性等)を向上させるために、ジルコニアを添加してアルミナ結晶粒子の粒界にジルコニア結晶粒子を分散させていることが開示されており(例えば、特許文献1)、安定化剤を含有するジルコニアセラミックスの機械的特性を改善するために、アルミナを添加してジルコニア結晶粒子の粒界にアルミナ結晶粒子を分散させていることが開示されている(例えば、特許文献2)。いっぽう、安定化剤としてセリアを含有するジルコニアセラミックスのジルコニア結晶粒子の内部に、アルミナ結晶粒子を分散させて機械的特性を向上させている方法が開示されている(特許文献3)。
【0003】
しかし、酸化物系セラミックスは、セラミックスを構成している結晶粒子の粒界に添加物が結晶粒子として存在し分散している微構造であるが、このような微構造は、添加物が粒界に分散しているため、セラミックスを構成している結晶粒子が微粒となって、機械的特性はある程度向上するものの、結晶粒子同士の接合によって形成されている粒界の強度が改善されていないため、強度や靭性に課題が残されており、かつ、粒界強度が不均一であるために再現性の悪い特性となって信頼性の低いものとなることが開示されている(特許文献4及び特許文献5)。
酸化物系セラミックスは、セラミックスを構成している結晶粒子の内部に添加物が結晶粒子として存在し分散している微構造であるが、このような微構造も組織が細分化されているものの、粒界強度が改善されていないため、上記のとおり、強度や靭性に課題が残り、品質の信頼性の低いものとなることが開示されている(特許文献6)。
【0004】
【特許文献1】
特開昭57−100976号公報
【特許文献2】
特開昭58−032066号公報
【特許文献3】
特開平08−268755号公報
【特許文献4】
特開昭57−100976号公報
【特許文献5】
特開昭58−032066号公報
【特許文献6】
特開平08−268755号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本願発明では、上記のような従来方法における欠点を解消した、即ち、セラミックスを構成している結晶粒子の粒界を添加物の粒界偏析によって強化したセラミックス及びその製造方法の提供を本願発明の目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、添加物を含むセラミックスの粒界構造と添加物の粒界偏析を詳細に検討し、本願発明に到達した。
【0007】
即ち、本願発明は、
1)添加物としてアルミナを含むジルコニアセラミックスであり、かつ安定化剤としてイットリアを含むジルコニアセラミックスであって、該ジルコニアセラミックスの相対密度が98%以上、(3)式で定義されるイットリア濃度が1.5〜5モル%、(4)式で定義されるアルミナ含有量が5重量%を超えかつ50重量%以下であり、なおかつ焼結体の結晶粒子の平均粒径が1μm以下、曲げ強度が1700MPa以上であり、アルミナがジルコニアセラミックスを構成する結晶粒子の粒界及びその近傍に偏析してなるジルコニアセラミックス。
イットリア濃度(モル%)=[Y 2 O 3 (モル数)/(ZrO 2 (モル数)+Y 2 O 3 (モル数))]×100 (3)
アルミナ含有量(重量%)=[アルミナ(重量)/(アルミナ(重量)+ジルコニアセラミックス(重量)]×100 (4)
2)ジルコニアセラミックスの主成分の原料がジルコニウム化合物であり、安定化剤がイットリウム化合物、添加物がアルミニウム化合物であって、それらの化合物からなる混合溶液を噴霧乾燥するか、又は、該混合溶液にアルカリ水溶液をpHが9〜10になるまで添加して濾過・水洗・乾燥させ、1200℃以下の温度で仮焼し、上記の(4)式で定義されるアルミナ含有量が0.05〜1重量%、且つ、(3)式で定義されるイットリア濃度が1.5〜5モル%の該仮焼粉に、アルミナ粉末をイットリア濃度が1.5〜5モル%の該仮焼粉に、アルミナ粉末を上記の(4)式で定義されるアルミナ含有量が5重量%を超え且つ50重量%以下になるように混合し粉砕して得られるBET比表面積5m2/g以上の粉末を成形し、1200〜1500℃で予備焼結し、得られた予備焼結体を圧力50〜500MPa、温度1300〜1650℃で熱間静水圧プレス処理することを特徴とする1)記載のジルコニアセラミックスの製造方法。
【0009】
本明細書において、「粒界」とは、セラミックスを構成している結晶粒子同士が直接接合している境界のことであり、従って、境界には添加物又はセラミックスを構成している成分のアモルファス相等の第2相は存在していないことをいう。
【0010】
「近傍」とは、粒界から±約50nm以内の範囲のことをいう。
【0011】
「アルミナの偏析」とは、セラミックスを構成している結晶粒子の粒界及びその近傍で、アルミナの陽イオンであるAl3+が結晶粒子に固溶して偏析していることをいう。
【0012】
「相対密度」とは、実験的に求めた実測密度ρと理論密度ρ0を用いて、(5)式により算出された値のことをいう。
[相対密度(%)]=(ρ/ρ0)×100 (5)
本願発明のジルコニアセラミックスは、添加物としてアルミナを含むジルコニアであり、かつ安定化剤としてイットリアを含むジルコニアであって、該ジルコニアの相対密度が98%以上、上記(3)式で定義されるイットリア濃度(以降は、イットリア濃度と略記する)が1.5〜5モル%、上記(4)式で定義されるアルミナ含有量(以降はアルミナ含有量と略記する)が5重量%を超えかつ50重量%以下であり、なおかつ焼結体の結晶粒子の平均粒径が1μm以下、曲げ強度が1700MPa以上であり、アルミナがセラミックスを構成する結晶粒子の粒界及びその近傍に偏析してなるジルコニアセラミックスである。
【0013】
さらに、上記のセラミックスは、セラミックスを構成する結晶粒子の粒界及びその近傍に添加物が偏析していなければならない。粒界及びその近傍に添加物が偏析していないと、粒界強度が不均一となって、上記のとおり、再現性が悪くなり品質の信頼性が低下するからである。従来、上記の条件を満足するセラミックスでは、添加物が結晶粒子の形態としてセラミックス中に析出しているものがなかった。
【0014】
上記の条件に付け加えて、セラミックスの相対密度が95%以上であり、さらにセラミックスが酸化物系セラミックスであれば、セラミックスの種々の特性である機械的,電磁気的,光学的,熱的性質等が向上するので、工業用材料として使用される機能性セラミックスに好適である。さらに、酸化物系セラミックスがシリカ及び/又はジルコニアを添加物として含むアルミナであるセラミックス,酸化物系セラミックスがジルコニアを添加物として含むムライトであるセラミックス、あるいは、酸化物系セラミックスがアルミナを添加物として含むジルコニアであるセラミックスになると、機械的性質に優れた機能性セラミックスになるので、構造材料用に好適である。上記のジルコニアが安定化剤を含むジルコニアであれば、より好ましいものになる。特に、酸化物系セラミックスが安定化剤を含むジルコニアであり、さらにイットリア、カルシア、マグネシア及びセリアの1種以上の安定化剤を含有するジルコニアであれば、強度及び靭性に優れたセラミックスになる。
【0015】
次に、セラミックスの代表例としてイットリアを安定化剤として含有するジルコニアセラミックス(以下、ジルコニアセラミックスと表記)を、添加物の代表例としてシリカ,アルミナを具体的に挙げて、本願発明をさらに詳細に説明する。
【0016】
以下、ジルコニアセラミックスに係わる「ジルコニア」とは、イットリアが安定化剤として固溶しているものをいう。「イットリア濃度」とは、Y2O3/(ZrO2+Y2O3)の比率をモル%として表した値のことをいう。「アルミナ含有量」とは、アルミナ/(ジルコニア+アルミナ)の比率を重量%として表した値をいう。結晶粒子に係わる「平均粒径」とは、走査型電子顕微鏡を用いてプラニメトリック法により算出されたものの値をいう。「相対密度」とは、下記に示される(6)〜(9)の計算式で算出されたρ0用いて、(5)式で求めた値のことをいう。
A=0.5080+0.06980X/(100+X) (6)
C=0.5197−0.06180X/(100+X) (7)
α=[124.25(100−X)+225.81X]/[150.5(100+X)A2C] (8)
ρ0=100/[(Y/3.99)+(Z/2.65)+(100−Y−Z)/α] (9)
ここで、X、Yは、それぞれイットリア濃度(モル%)、アルミナ含有量(重量%)である。ジルコニア、アルミニウム化合物に係わる「BET比表面積」とは、吸着分子として窒素を用いて測定したものをいう。「平均粒径」とは、レーザー回折法、遠心沈降法等の粒度分布測定装置によって測定された値をいう。
【0018】
本願発明の代表例であるアルミナを添加物として含むジルコニアセラミックスは、該ジルコニアセラミックスを構成する結晶粒子の粒界及びその近傍にアルミナが偏析していなければならない。アルミナが偏析していないと、結晶粒子間の粒界強度が弱くなって、上記のとおり、品質の信頼性に劣るものになるからである。アルミナ含有量は5〜50重量%である。
【0019】
特に、アルミナを添加物として含むジルコニアセラミックスであって、該ジルコニアセラミックスの相対密度が98%以上、イットリア濃度が1.5〜5モル%、アルミナ含有量が5〜50重量%、更に、結晶粒子の平均粒径が1μm以下になると、強度及び靭性が向上するので構造材料用セラミックスに最適である。より好ましいイットリア濃度は2〜4モル%であり、より好ましくは2.5〜3.5モル%である。また、好ましい結晶粒子の平均粒径は0.6μm以下である。
【0022】
アルミナ含有量が5重量%を超えかつ50重量%以下であって、下記の本発明の要件である熱間静水圧プレス(HIP)処理で得られるジルコニアセラミックスは、上記のアルミナの偏析効果に加えて変態の臨界応力が向上し、さらに欠陥サイズも小さくなるために、曲げ強度が1700MPa以上となって、靭性に加えて、よりいっそう強度に優れたジルコニアセラミックスになる。最適なアルミナ含有量は5〜30重量%である。また、この条件の範囲内で、より好ましい相対密度は99%以上であり、結晶粒子の平均粒径は0.3〜0.6μmである。
【0024】
次に、セラミックスの代表例であるアルミナを添加物として含むジルコニアセラミックスの製造方法を具体的に挙げて、本願発明の製造方法について詳細に説明する。
【0025】
本願発明の代表例であるアルミナを添加物として含むジルコニアセラミックスを得るにあたっては、上記のセラミックスの主成分の原料としてジルコニア、添加物の原料としてアルミニウム化合物を用いればよい。特に、ジルコニアがBET比表面積5m2/g以上、平均粒径2μm以下であり、かつ、安定化剤としてイットリアを含むジルコニア粉末であり、アルミニウムの化合物が平均粒径0.01〜1.0μm、特に好ましくは0.1μm未満、更に、ジルコニアの平均粒径よりも小さい化合物であって、該ジルコニア粉末にアルミニウムの化合物を混合すると、成形し焼結して得られるジルコニアセラミックスの粒界及びその近傍にアルミナが偏析しやすくなって、前記のとおり、品質の信頼性に優れたものになる。上記の条件に付け加えて、BET比表面積が5〜20m2/g、平均粒径が0.05〜2μm、かつ、イットリア濃度が1.5〜5モル%のジルコニア粉末に、アルミニウム化合物の含有量が酸化物換算で5〜50重量%になるように混合すると、得られるジルコニアセラミックスの強度及び靭性が向上するので、前記のとおり、構造材料用セラミックスに最適なものになる。
【0026】
本発明のセラミックスは、アルミニウム化合物の含有量が5重量%を越える場合には、熱間静水圧プレス処理によって焼結することが好ましい。
【0036】
次にアルミニウム化合物が5〜50重量%までのセラミックスについて説明する。
【0037】
曲げ強度が1700MPa以上の機械的特性を有するアルミナを添加物として含むジルコニアセラミックスを得るにあたっては、セラミックスの主成分の原料がジルコニウム化合物であり、安定化剤がイットリウム化合物、添加物の原料がアルミニウム化合物であって、それらの化合物からなる混合溶液を噴霧乾燥するか、又は、該混合溶液にアルカリ水溶液をpHが9〜10になるまで添加して濾過・水洗・乾燥させ、1200℃以下の温度で仮焼して得られるイットリア濃度1.5〜5モルの仮焼粉を用い、最終的な最適な仮焼粉のアルミナ含有量は5〜50重量%とする。
【0038】
曲げ強度が1700MPa以上の機械的特性を有するアルミナを添加物として含むジルコニアセラミックスを得るにあたっては、まず最初にアルミナの含有量が0.01〜5重量%のセラミックスを調製する。アルミナ含有量が0.01重量%よりも小さくなると、アルミナの偏析効果が少なくなり、一方、アルミナ濃度が5重量%よりも大きくなるとアルミナの偏析効果が飽和し、本発明の効果が得られ難いからである。より好ましいアルミナ含有量は0.01〜2重量%であり、望ましくは0.05〜1重量%である。また、好ましいイットリア濃度は2〜4モル%であり、より好ましくは2.5〜3.5モル%である。上記の条件に加えて、アルカリ水溶液の添加速度に係わるR値を0.01〜0.5(h-1)の範囲に制御すると、上記のとおり、強度及び靭性を向上させるので有効な手段である。
【0039】
セラミックスの主成分、安定化剤、添加物の原料に用いられるジルコニウム化合物、イットリウム化合物、アルミニウム化合物としては、水和ジルコニアゾルの製造に用いられるジルコニウム塩として、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニル、塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム等、イットリア、水和イットリア、イットリアゾル、水酸化イットリウム、塩化イットリウム、硝酸イットリウム等、アルミナ、水和アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム等の化合物を用いればよい。また、ジルコニウム化合物としてジルコニウム塩水溶液の加水分解反応より得られる水和ジルコニアゾルを用いると、噴霧乾燥又はアルカリ水溶液の添加によって得られる共沈物の均一性が、よりいっそう高くなるのでジルコニウム化合物として好適である。
【0040】
次いで、上記で得られた仮焼粉は最終的にアルミナ含有量が5重量%を超え且つ50重量%以下になるようにアルミナ粉末と混合し、そして粉砕してBET比表面積5m2/g以上の混合粉末にする。混合及び粉砕方法に特に制限はなく、上記のアルミナ含有量とBET比表面積の条件を満足しているものであればいかなる方法で混合し粉砕してもよい。特に湿式粉砕して噴霧乾燥させるとアルミナ粉末との均一性が高くなるので好適である。より好ましいアルミナ含有量は5〜30重量%である。さらに、BET比表面積が3〜20m2/g及び/又は平均粒径が0.01〜1μmであり、特に好ましくは0.1μm未満、かつ、成形圧700kgf/cm3でプレス成形して1500℃で焼成して得られる焼結体の相対密度が90%以上になるアルミナ粉末を用いれば、得られるジルコニアセラミックスの変態の臨界応力が著しく向上するので、靭性に加えて、よりいっそう強度に優れたジルコニアセラミックスになる。
【0041】
次いで、上記の混合粉末を成形し1200〜1500℃で予備焼結させ、得られた予備焼結体を圧力50〜500MPa,温度1300〜1650℃でHIP処理すればよい。予備焼結の温度が1200℃よりも小さくなると、予備焼結体の表面に多数の開気孔が存在しているためにHIP処理後の相対密度が98%よりも低くなり、いっぽう、1500℃よりも高くなると、予備焼結体中に比較的大きな閉気孔が存在するためにHIP処理による閉気孔の除去が果たせなくなって、得られる焼結体の相対密度が98%よりも低くなり、1700MPa以上の曲げ強度を有するジルコニアセラミックスが得られなくなるからである。より好ましい予備焼結の温度は、1250〜1450℃である。HIP処理の圧力及び温度の条件が50MPa、1300℃よりも低くなると得られる焼結体の相対密度が98%よりも低くなり、いっぽう、500MPa、1500℃よりも大きくなると、結晶粒子の平均粒径が1μmよりも大きくなって、曲げ強度が1700MPaよりも小さくなるからである。より好ましいHIP処理の圧力と温度の条件は、100〜500MPa、1300〜1500℃である。もちろん、上記の混合粉末を成形する方法としては、加圧成形、射出成形、押出成形等の公知の方法を選択することができる。
【0042】
【発明の効果】
以上、説明したとおり、本願発明のセラミックスは、セラミックスを構成している結晶粒子の粒界を添加物の粒界偏析によって強化されており、工業用材料に使用される機能性セラミックスに適している。
【0043】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何等限定されるものではない。
【0044】
例中、原料粉末の成形は、金型プレスにより成形圧力700kgf/cm2で行い、得られた成形体は所定温度(保持時間2h)に設定して焼結させた。HIP処理は、上記で得られた成形体を1400℃で予備焼結させ、Arガス雰囲気中、150MPa、1500℃の条件で行った。得られた焼結体の相対密度は、アルキメデス法で測定し算出した。結晶粒子の平均粒径は、表面研磨し、熱エッチング処理したあとに、電界放出形走査型電子顕微鏡(FESEM)を用いてプラニメトリック法により算出した。単位面積当りのアルミナ結晶粒子の個数については、X線マイクロアナリシスを用いて測定した。また、結晶粒子の粒界観察とアルミナの偏析は、焼結体を機械研削し、イオンミリング処理して薄片試料を作製し、その薄片試料を用いて、電界放出形透過型電子顕微鏡と特性X線分光法により調べた。焼結体の強度は3点曲げ測定法で、靭性はSEPB法で評価した。また、品質寿命試験は、焼結体を140℃の熱水中に24時間浸漬させ、生成する単斜晶相の比率(単斜晶相率)を求めることによって評価した。単斜晶相率は、浸漬処理した焼結体についてX線回折測定を行い、単斜晶相の111及び11−1反射,正方晶相の111反射,立方晶相の111反射のピーク強度をそれぞれ求めて(10)式により算出した。
単斜晶相率(%)=[Im(111)+Im(11−1)]/[It(111)+Ic(111)+Im(111)+Im(11−1)] (10)
ここで、Iは各回折線のピーク強度、添字のm、t及びcは、それぞれ単斜晶相、正方晶相、立方晶相を表す。
【0068】
実施例1
オキシ塩化ジルコニウム濃度0.25モル/lの水溶液を調製し、煮沸温度で150時間、加水分解反応を行って水和ジルコニアゾルを得た。この水和ジルコニアゾル含有液に所定量の塩化イットリウムと塩化アルミニウムを添加して混合溶液(重量52.5kg)を調製した。次に、この混合溶液を攪拌しながら0.6モル/lのアンモニア水を5.25kg/hの添加速度で混合溶液に加えて共沈物を生成させた(即ち、R=0.1h−1)。得られた共沈物含有液のpHを測定したところpH=9.4であった。この共沈物含有液を濾過し水洗して乾燥させた。得られた乾燥粉について化学分析を行ったところ、イットリア濃度3モル%及びアルミナ含有量1重量%であった。この乾燥粉を950℃の温度で2時間仮焼して仮焼粉を得た。この仮焼粉に、BET比表面積14m2/g及び平均粒径0.4μmのアルミナ粉末をアルミナ含有量が20重量%になるように混合し湿式粉砕して噴霧乾燥させた。得られた粉末のBET比表面積は、13m2/gであった。このアルミナ粉末の焼結性を調べるために、を成形圧700kg/cm2でプレス成形して1500℃で焼成すると、得られた焼結体の相対密度は98.9%であった。
【0069】
次いで、上記で得られた混合粉末をプレス成形し、予備焼結させHIP処理して焼結体を作製した。得られた焼結体の相対密度は99.6%、結晶粒子の平均粒径は0.4μmであった。結晶粒子の粒界にはイットリア、アルミナ又はジルコニアのアモルファス相は存在せず、結晶粒子同士が直接接合しており、アルミナが粒界及びその近傍に偏析していることが確認された。焼結体の曲げ強度は2630MPa、靭性は5.4MPa・m1/2であった。
【0070】
実施例2
オキシ塩化ジルコニウム濃度0.3モル/lの水溶液を調製し、煮沸温度で165時間、加水分解反応を行って水和ジルコニアゾルを得た。この水和ジルコニアゾル含有液に所定量の塩化イットリウムと平均粒径0.015μmのアルミナゾルを添加して混合溶液(重量52.5kg)を調製した。次に、この混合溶液を攪拌しながら0.5モル/lのアンモニア水を9.45kg/hの添加速度で混合溶液に加えて共沈物を生成させた(即ち、R=0.18h−1)。得られた共沈物含有液のpHを測定したところpH=9.5であった。この共沈物含有液を濾過し水洗して乾燥させた。得られた乾燥粉について化学分析を行ったところ、イットリア濃度3モル%及びアルミナ含有量0.9重量%であった。この乾燥粉を1000℃の温度で2時間仮焼して仮焼粉を得た。この仮焼粉に、実施例1で用いたアルミナ粉末と同じものをアルミナ含有量が20重量%になるように混合し湿式粉砕して噴霧乾燥させた。得られた粉末のBET比表面積は、15m2/gであった。
【0071】
次いで、上記で得られた混合粉末をプレス成形し、予備焼結させHIP処理して焼結体を作製した。得られた焼結体の相対密度は99.5%、結晶粒子の平均粒径は0.4μmであった。結晶粒子の粒界には、イットリア、アルミナ又はジルコニアのアモルファス相は存在せず、結晶粒子同士が直接接合しており、アルミナが粒界及びその近傍に偏析していることが確認された。焼結体の曲げ強度は2510MPa、靭性は5.3MPa・m1/2であった。
【0072】
実施例3
オキシ塩化ジルコニウム濃度0.25モル/lの水溶液を調製し、煮沸温度で150時間、加水分解反応を行って水和ジルコニアゾルを得た。この水和ジルコニアゾル含有液に所定量の塩化イットリウムと塩化アルミニウムを添加して噴霧乾燥させた。得られた乾燥粉について化学分析を行ったところ、イットリア濃度3モル%及びアルミナ含有量1重量%であった。この乾燥粉を1000℃の温度で2時間仮焼して仮焼粉を得た。この仮焼粉に、実施例12で用いたアルミナ粉末と同じものをアルミナ含有量が20重量%になるように混合し湿式粉砕して噴霧乾燥させた。得られた粉末のBET比表面積は13m2/gであった。
【0073】
次いで、上記で得られた混合粉末をプレス成形し、予備焼結させHIP処理して焼結体を作製した。得られた焼結体の相対密度は99.3%、結晶粒子の平均粒径は0.4μmであった。結晶粒子の粒界にはイットリア、アルミナ又はジルコニアのアモルファス相は存在せず、結晶粒子同士が直接接合しており、アルミナが粒界及びその近傍に偏析していることが確認された。焼結体の曲げ強度は2450MPa、靭性は5.1MPa・m1/2であった。
【0074】
実施例4
オキシ塩化ジルコニウム濃度0.4モル/lの水溶液に所定量の塩化イットリウムと塩化アルミニウムを添加して混合溶液(重量52.5kg)を調製した。この混合溶液に、1モル/lのアンモニア水を23.6kg/hの添加速度で攪拌しながら混合溶液に加えて共沈物を生成させた(即ち、R=0.5h−1)。得られた共沈物含有液のpHを測定したところpH=9.2であった。この共沈物含有液を濾過し水洗して乾燥させた。得られた乾燥粉について化学分析を行ったところ、イットリア濃度3モル%及びアルミナ含有量1.5重量%であった。この乾燥粉を950℃の温度で2時間仮焼して仮焼粉を得た。この仮焼粉に、実施例12で用いたアルミナ粉末と同じものをアルミナ含有量が20重量%になるように混合したあと、湿式粉砕して噴霧乾燥させた。得られた粉末のBET比表面積は、16m2/gであった。
【0075】
次いで、上記で得られた混合粉末をプレス成形し、予備焼結させHIP処理して焼結体を作製した。得られた焼結体の相対密度は99.1%、アルミナ及びジルコニア結晶粒子の平均粒径は0.5μmであった。結晶粒子間の粒界には、イットリア,アルミナ又はジルコニアのアモルファス相は存在せず、結晶粒子同士が直接接合しており、アルミナが粒界及びその近傍に偏析していることが確認された。焼結体の曲げ強度は2030MPa、靭性は4.9MPa・m1/2であった。
Claims (2)
- 添加物としてアルミナを含むジルコニアセラミックスであり、かつ安定化剤としてイットリアを含むジルコニアセラミックスであって、該ジルコニアセラミックスの相対密度が98%以上、(1)式で定義されるイットリア濃度が1.5〜5モル%、(2)式で定義されるアルミナ含有量が5重量%を超えかつ50重量%以下であり、なおかつ焼結体の結晶粒子の平均粒径が1μm以下、曲げ強度が1700MPa以上であり、アルミナがジルコニアセラミックスを構成する結晶粒子の粒界及びその近傍に偏析してなるジルコニアセラミックス。
イットリア濃度(モル%)=[Y 2 O 3 (モル数)/(ZrO 2 (モル数)+Y 2 O 3 (モル数))]×100 (1)
アルミナ含有量(重量%)=[アルミナ(重量)/(アルミナ(重量)+ジルコニアセラミックス(重量)]×100 (2) - ジルコニアセラミックスの主成分の原料がジルコニウム化合物であり、安定化剤がイットリウム化合物、添加物がアルミニウム化合物であって、それらの化合物からなる混合溶液を噴霧乾燥するか、又は、該混合溶液にアルカリ水溶液をpHが9〜10になるまで添加して濾過・水洗・乾燥させ、1200℃以下の温度で仮焼し、(2)式で定義されるアルミナ含有量が0.05〜1重量%、且つ、(1)式で定義されるイットリア濃度が1.5〜5モル%の該仮焼粉に、アルミナ粉末を(2)式で定義されるアルミナ含有量が5重量%を超え且つ50重量%以下になるように混合し粉砕して得られるBET比表面積5m2/g以上の粉末を成形し、1200〜1500℃で予備焼結し、得られた予備焼結体を圧力50〜500MPa、温度1300〜1650℃で熱間静水圧プレス処理することを特徴とする請求項1記載のジルコニアセラミックスの製造方法。
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