JP4649694B2 - 溶銑の精錬方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、従来法に較べて省資源、省エネルギーで、且つスラグ発生量も少ない、環境に優しい溶銑精錬方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、転炉を用いた溶銑の精錬工程では、溶銑に酸素を吹き付けて溶銑中の炭素および珪素を酸素と反応させることで、これらをそれぞれCO及びSiOとして溶銑から分離・除去し、また、炉内に生石灰(CaO)を投入して溶銑中の硫黄及び燐をCaOと結合させることで、これらを溶銑から分離・除去し、これらによって炭素、珪素、硫黄、燐を鉄鋼製品に許容される所定の濃度まで低下させることが行われてきた。
【0003】
このような転炉を用いて炭素、珪素、燐等を同時に除去していた従来法に対し、最近では燐を事前に溶銑段階で除去すること(溶銑予備脱燐処理)が行われている。このようなプロセスでは転炉吹錬において脱燐のために必要であったスラグの量を大幅に削減することが可能となり、この結果、吹錬中にマンガン鉱石を投入して吹錬終了時点でスラグからのマンガン還元率を高め、出鋼中または出鋼後に添加されるマンガン合金鉄の使用量を削減することが可能になってきた。また、このようなプロセスでは、マンガン合金鉄の使用量の削減だけでなく、低燐鋼などの高品質鋼の製造が容易になる、製鋼トータルでのスラグ発生量を削減できるなどの効果が得られる。
【0004】
また、上記のような効果をより高めるための様々な対策もなされており、例えば、脱燐処理前の溶銑中珪素濃度を低下させること、脱燐処理後の溶銑中の燐濃度を鉄鋼製品の燐濃度レベルまで低下させることなどが行われている。
このうち前者のように脱燐処理前の溶銑中珪素濃度を低下させることにより、脱燐能に優れた塩基度(CaO/SiO)の高いスラグを少量の生石灰添加で生成させることが可能となり、少ないスラグ量で効率的な脱燐処理を行うことができる。脱燐処理前の溶銑中珪素濃度を低下させるには、高炉内での溶銑の低珪素化技術、さらには出銑後の酸化脱珪処理が利用できる。従来、高炉から出銑される溶銑は珪素濃度が0.35〜0.45wt%以上であったが、溶銑の低珪素化技術により珪素濃度が0.2wt%程度の溶銑が出銑できるという報告もなされている。さらに、出銑後の酸化脱珪処理では、高炉鋳床で固体酸素源を添加して脱珪処理したり、溶銑鍋や混銑車などの容器内で酸素含有ガスの吹き付け・吹き込み(以下、送酸という)や固体酸素源の添加を行いつつ脱珪処理することにより、溶銑中の珪素濃度を0.1wt%以下まで低減させることも可能となってきた。
【0005】
一方、後者のように脱燐処理後の溶銑中燐濃度を鉄鋼製品の燐濃度レベルまで低下させることにより、その後の脱炭工程において脱燐のためのスラグを必要とせず、少量のスラグで脱炭精錬を行うことができ、マンガンをマンガン鉱石から高歩留まりで回収することが可能となる。現状では脱燐剤や処理条件を限定した脱燐処理により、溶銑中燐濃度を鉄鋼製品の要求レベルである0.015wt%以下まで低下させることは比較的容易に達成される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上述したような溶銑の精錬工程は、スラグ量の削減に対しては効果的であるが、脱燐条件に関しては以下のような問題が生じる。
すなわち、添加した生石灰などのCaOを溶銑中の燐や硫黄と効率よく反応させるためには、生成するSiOやFeOと反応させてCaOを融体化させることが必要である。CaO−SiO−FeO系において高脱燐能を有する融体を生成させるためには、その組成中のCaO/SiOの重量比を3.0以上とする必要があり、これに応じてCaOの添加量が決定される。
【0007】
また、従来ではCaOの融体生成量を増大させるために蛍石(CaF)を適宜添加し、融体化を促進する対策が採られてきた。しかし、このように蛍石を添加したスラグには少量とは云えCaFが含まれることになり、特に最近ではスラグ中からの弗素イオンの溶出が環境保全上望ましくないという観点から弗素イオンの溶出量の規制基準を強化する傾向にあり、このことが転炉スラグの用途が制限される一つの要因となりつつある。
【0008】
そして、上記のようにスラグ量の削減のために脱燐処理前の溶銑中珪素濃度を低下させると、脱燐処理時に生成するSiOによるCaO源の融体化作用が低下する恐れがあり、さらに、上記のような理由から弗素を実質的に含有しないスラグを使用した場合、スラグが弗素を含有しないことによる融体化作用の低下分を補償するための対策が必要となる。特に、送酸量が少なく撹拌能力が小さい溶銑鍋や混銑車で脱燐処理を行う場合には、転炉などのように大規模な送酸設備や排気設備を有する場合に較べて、生成するFeO量や撹拌による融体生成量が不十分となりやすく、融体化促進対策の必要性が高くなる。。
【0009】
また、大量送酸が可能な転炉による脱燐工程においても、送酸による脱炭量が多くなると、後工程の脱炭工程における熱余裕が少なくなり、スクラップの使用量やマンガン鉱石の使用量などが制約される。したがって、転炉における脱燐工程においても、少ない送酸量で脱燐を効率的に行うことができれば、熱収支やマンガン歩留まりなどの点での改善効果が期待できる。また、転炉における脱炭工程においても、SiOの生成量が少ない条件下で添加したマンガン鉱石を十分に還元するためには、スラグの塩基度を高める必要があり、蛍石を添加しない場合、同様に融体化作用を確保する必要がある。
【0010】
ところで、脱燐処理において炉内に添加した粒状のCaO源の融体化を促進するために、例えば、N.I.Rogovtsev らはロータリーキルンで製造する段階で粒の表層部に酸化鉄をコーティングした精錬用CaO粒が迅速な脱燐に有効であることを明らかにしている(Steel in the USSR, July (1972), p518-520)。また、Mark Lee らによっても、同様の製法で得られた同様の精錬剤が、転炉における脱燐及び脱硫に極めて有効であることが報告されている(Electric Furmace Conference (1996), p539-549)。また、特開昭61−217513号公報には、カルシウムフェライト(2CaO−Fe、CaO−Fe、CaO−2Feの総称)の組成を有する低融点焼結鉱を用いた溶銑の脱燐方法が開示されている。
【0011】
しかしながら、これらの精錬剤は工業的に大量生産することが極めて難しく、また製造コストも高いため、実用化には至っていない。すなわち、カルシウムフェライト系の精錬剤は融点が低いため、充填層式の加熱炉を用いて製造した場合、充填物の溶融や充填物相互の焼結が生じるため充填物の物流が阻害され、この結果、加熱炉の操業自体が困難となる。また、ロータリーキルンを用いて製造した場合、キルン内壁に多量の溶融物が層状に付着するため、この溶融物を除去するために度々操業を中断せざるを得ず、この場合もロータリーキルンの操業は不可能となる。さらに、焼結機を用いて製造した場合、上述したようにカルシウムフェライト系の精錬剤は低融点であるため焼結層の通気性が非常に悪く、この場合も安定的な生産は不可能である。
【0012】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、SiOの生成量が少ない条件下においても、環境に悪影響を与える弗素を実質的に含まないスラグを用いて効率的且つ安定的な脱燐精錬及び脱炭精錬を行うことができるとともに、発生するスラグ量を少なくすることができる溶銑精錬方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための精錬方法は、スラグ発生量が可能な限り少なく、スラグにより損失するエネルギーを低減でき、且つ、マンガン合金の使用量を削減できる精錬方法であるとともに、SiOの生成量が少ない条件下で且つ弗素を含まなくても融体化し易く、高い脱燐能を有する精錬剤を用いた精錬方法である必要がある。すなわち、従来安価に且つ安定した製造が困難であった低融点のカルシウムフェライト系の脱燐剤に代わり、安価な原料を用いて安価な製造コストで製造可能な精錬剤を用い、これに高い脱燐能を安定して発揮させることが必要である。
【0014】
そして、精錬剤は、その製造時において製造容器の壁への付着や粒同士の結合などによって製造が阻害されることがなく、しかも使用時に迅速な融体化が可能であることが必要である。さらに、現在、脱燐工程の主流となっている溶銑鍋や混銑車などの溶銑搬送容器を用いた脱燐処理を可能とする精錬剤であることが必要である。
【0015】
本発明は、このような観点から最適な精錬条件を検討した結果なされたもので、以下のような特徴を有する。
[1]珪素濃度が0.20wt%以下の溶銑に対して、少なくとも脱燐工程、脱炭工程をこの順序で行う溶銑の精錬方法において、
脱燐工程では、弗素を実質的に含有せず、且つ石灰石採掘時に発生する粒径5mm未満の石灰石粉、及び石灰石のか焼の前処理として行われる石灰石原石の洗浄段階で発生する粒径5mm未満の石灰石粉の中から選ばれる1種以上の石灰石粉を造粒し、これを加熱処理して得られた精錬剤を用いることにより、30kg/T以下のスラグ量で溶銑中の燐濃度を実質的に製品の燐濃度レベルまで低下させ、次いで、脱炭工程を実施し、該脱炭工程では、弗素を実質的に含有せず、且つ石灰石採掘時に発生する粒径5mm未満の石灰石粉、及び石灰石のか焼の前処理として行われる石灰石原石の洗浄段階で発生する粒径5mm未満の石灰石粉の中から選ばれる1種以上の石灰石粉を造粒し、これを加熱処理して得られた精錬剤を用い、新たに発生するスラグ量を20kg/T以下にすることを特徴とする溶銑の精錬方法。
【0017】
[2]上記[1]の溶銑の精錬方法において、精錬剤が、造粒された原料を堅型炉、ロータリーキルン、流動層炉又は移動層炉で加熱処理して得られた精錬剤であることを特徴とする溶銑の精錬方法。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の詳細をその限定理由とともに説明する。
本発明の溶銑の精錬方法は、珪素濃度が0.20wt%以下、好ましくは0.10wt%以下の溶銑に対して、少なくとも脱燐工程、脱炭工程をこの順序で行う精錬方法である。
珪素濃度が0.20wt%以下の溶銑を得るためには、通常、高炉から出銑された溶銑を脱珪工程にて脱珪処理する。但し、高炉から出銑された溶銑の珪素濃度が0.20wt%以下の場合には、脱珪処理することなく後述する脱燐処理を行うことができる。この場合、後述するような脱珪工程が省略できる。一方、高炉から出銑された溶銑の珪素濃度が0.20wt%以下であっても、これを脱珪処理してさらに珪素濃度を下げることもできる。
【0019】
溶銑中の珪素濃度を0.20wt%以下まで低減させることにより、後に行われる脱燐工程において脱燐のために必要な高塩基度のスラグの量を十分に低減させることができる。ここで、溶銑の珪素濃度をなるべく低減させた方が、脱燐工程において高塩基度スラグを造滓し易く、スラグ発生量の低減化には有利であるので、溶銑の珪素濃度は可能な限り低減させることが好ましい。
【0020】
一般に、高炉から出銑された溶銑は高炉鋳床を経由して溶銑鍋や混銑車などの溶銑搬送容器に注湯されて貯留されるが、脱珪工程は高炉鋳床での脱珪処理若しくは溶銑搬送容器内での脱珪処理のいずれか、またはその両方で実施してよい。また、高炉鋳床から溶銑搬送容器への溶銑の注湯過程において脱珪処理を実施してもよい。必要な脱珪量と各処理位置での脱珪処理能力に応じて、それらの中から選択された処理形態の脱珪処理を行う。
【0021】
脱珪処理では、脱珪剤として酸素源が添加され、また、必要に応じて媒溶剤として生石灰などのCaO分が添加され、スラグの塩基度が調整される。脱珪剤としては、鉄鉱石やミルスケールなどの固体酸素源、若しくは酸素や酸素含有ガスなどの気体酸素源のいずれを用いてもよく、また両者を併用してもよい。
【0022】
脱珪処理では、溶銑をガス撹拌などにより十分に撹拌し、脱珪剤と溶銑とを強制的に混合することが、脱珪効率を高める上で有効である。この点、溶銑鍋などの容器内で行う脱珪処理は、その容器形状のために溶銑を撹拌できるため、他の方法、例えば高炉鋳床での脱珪処理などよりも効率がよい。したがって、特に優れた脱珪効率を得るためには、溶銑鍋などの容器内での脱珪処理を実施すること、或いは高炉鋳床で脱珪処理を実施してから容器内での脱珪処理を実施することが好ましい。このような容器としては、媒溶剤や脱珪剤などの供給手段と溶銑の撹拌手段能とを備えたものであればよく、先に述べた溶銑鍋などの取鍋、混銑車、その他の脱珪専用容器のいずれでもよい。
【0023】
脱珪剤や媒溶剤の添加は、溶湯流或いは溶銑浴面上への上置きや浴中への吹き込みにより行われる。例えば、溶銑鍋を用いた脱珪処理では、溶銑浴面に送酸用ランスを通じて気体酸素源が吹き付けられるとともに、浸漬ランスを通じて撹拌ガスや生石灰粉などの媒溶剤が溶銑中に吹き込まれ、さらに必要に応じて固体酸素源が溶銑浴面に上置き装入される。
【0024】
脱燐工程では、上記のようにして珪素濃度が0.20wt%以下にされた溶銑に対し、弗素を実質的に含有しない精錬剤(脱燐剤)を用いて、30kg/T(T:溶銑トン当たり。以下同様)以下のスラグ量で脱燐処理を行い、溶銑中の燐濃度を実質的に製品の燐濃度レベルまで低減させる。なお、精錬剤は弗素を実質的に含有しないものであり、したがって、精錬剤中に例えば不可避的不純物などとして少量の弗素が含まれることは妨げない。
【0025】
この脱燐工程において、脱燐処理される溶銑が珪素濃度0.20wt%以下の低珪素溶銑であることはスラグ量の低減化に有効であるが、少ないスラグ量で効率的な脱燐処理を行うには脱燐能が高いスラグを生成させる必要がある。このためにはスラグの塩基度を高めることが必要であり、したがって、脱珪スラグなどの混入は極力抑制することが好ましい。そのため、脱燐工程では前工程のスラグが分離・除去された溶銑を用いる。スラグの分離・除去は機械式排滓装置や手作業などにより行うことができる。
【0026】
脱燐工程で使用する容器に特別な制約はなく、溶銑鍋などの取鍋型容器、混銑車、転炉型容器などを用いて脱燐処理することができる。また、脱燐処理は、前記脱珪処理に引き続き同一容器内で行ってもよく、また、転炉などの別の容器に移し換えて行ってもよい。
【0027】
本発明の精錬方法における脱燐工程では、精錬剤として、弗素を実質的に含有せず、且つ石灰石粉を主体とする原料を造粒し、これを加熱処理して得られた精錬剤を用いて脱燐処理を行う。この精錬剤は、安価に且つ安定的に大量生産できるとともに、弗素を実質的に含有していないにも拘らず、石灰石粉を造粒しているので気孔率が高く、さらに脱炭酸処理を施した場合には気孔率がより高くなり、スラグとの接触面積が増大するためにスラグ中において融体化し易く、高い脱燐能を有している。このため、例えば溶銑搬送容器内で行われる脱燐処理のように、送酸能力の低い脱燐プロセスにおいても、脱燐反応を効率的に促進させることができる。また、その中でも以下に述べる精錬剤は、特に製造コストや脱燐能の面で優れている。
【0028】
精錬剤の主たる原料である石灰石粉はいずれから調達されるものであってもよいが、石灰石採掘時に発生する粒径5mm未満の石灰石粉、及び石灰石の“か焼”の前処理として行われる石灰石原石の洗浄段階で発生する粒径5mm未満の石灰石粉の中から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。このような石灰石粉は比較的安価に入手することができるとともに、廃棄物として処理される微粉石灰石の有効利用につながり、省資源化と原料コストの低減化を図ることができる。また、石灰石を粉砕するよりもかなりの低コストで入手可能である。
【0029】
石灰石粉の粒径が5mm以上では、この石灰石粉から製造される精錬剤の気孔率が低下して迅速な造滓が阻害され、十分な脱燐能を発揮しない。このように迅速な造滓のためには石灰石粉を適度に細粒化することが必要であるが、過剰に細粒化する必要はない。また、鉱山から採取する過程で自然に細粒が得られる場合を除き、粉砕器などで粉砕するにしても、粉砕エネルギーや歩留まりなどの経済性の問題もあり、細粒化には自ずと限界がある。
【0030】
精錬剤は、石灰石粉を混合し造粒した後、適当な温度で加熱処理されて製造される。石灰石粉の混合はドラムミキサーなどの慣用の混合機を用いることができ、また、造粒はペレタイザーなどの慣用の造粒機を用いることができる。造粒後の加熱処理は、一般的な堅型炉、ロータリーキルン、流動層炉又は移動層炉などを用いることができ、これらのいずれかにより造粒物の乾燥又は乾燥・脱炭酸処理を目的とした加熱処理が行われる。
【0031】
加熱温度は、付着水分の乾燥を目的とした200〜400℃程度の比較的低温度処理から、短時間での脱炭酸処理を目的とする1100℃以上の比較的高温度処理まで、適宜選択することができる。これは、脱燐処理前の溶銑の燐濃度が低かったり、マンガン鉱石中の脈石分が少ない場合には、少ない精錬剤で脱燐処理及び脱炭処理を行うことができるため、精錬剤添加時の粉化などの問題を生じない範囲で加熱温度を下げ、炭酸分が残留するようにしても炭酸分の分解による吸熱量は少なく、処理時の温度効果などの熱的な問題は小さいからである。ここで脱炭酸処理とは、石灰石の主成分である炭酸カルシウム中の炭酸(CO)を加熱除去する処理のことである。
【0032】
以上のような条件で加熱処理することにより、例えば、流動層炉を用いて加熱処理した際に充填物の物流が阻害されたり、ロータリーキルンを用いて加熱処理した際にキルン内壁に溶融物が層状に付着するなどの製造上のトラブルを適切に防止することができる。
【0033】
本発明の精錬方法における脱燐工程では、30kg/T以下のスラグ量で脱燐処理を行うが、上述した脱燐能の高い精錬剤を用いているので、脱燐反応を迅速に進行させることができ、その結果、スラグ量が30kg/T以下でも溶銑中の燐濃度を実質的に製品の燐濃度レベルまで、具体的には製品品種に応じて0.005〜0.015wt%程度まで低減させることができる。
【0034】
脱燐処理は、上述した精錬剤を溶銑浴面に上置き添加し若しくは溶銑浴中に吹き込み添加し、又は両者を併用して行われる。そして、スラグと溶銑との脱燐反応をより迅速に進行させるために、溶銑浴面への送酸及び浴中への撹拌ガスの吹き込みを行うことが好ましい。一般に、溶銑鍋などの取鍋型容器や転炉型容器を用いた脱燐処理では、送酸は上吹きランスなどを通じて行われ、撹拌ガスは浸漬ランスや炉底に設けた羽口(吹き込みノズル)を通じて浴中に吹き込まれる。
【0035】
転炉型容器で脱燐処理を行う場合、送酸量は純酸素換算量で2.0Nm/min・T以下とすることが好ましい。送酸の目的の一つである酸化鉄生成の観点からすると、送酸量が増大すれば生成する酸化鉄の増加が期待できるが、送酸量が2.0Nm/min・Tを超えると浴に対する酸素の作用を制御しにくくなり、また、一旦生成した酸化鉄の還元量も増大する。また、酸化鉄の還元量の増大によって溶銑の脱炭が進行するため浴の保有熱が消費され、後工程の脱炭工程での熱余裕が失われるなどの問題を生じ易い。すなわち、送酸によって生成する酸化鉄は造滓にとって有用であるが、送酸量が2.0Nm/min・Tを超えると脱炭などに伴う弊害が発生するため、送酸量は2.0Nm/min・T以下とすることが好ましい。
【0036】
図1は転炉型容器を用いた脱燐処理状況の一例を模式的に示しており、この例では転炉1内に上吹きランス2を通じて酸素が吹き込まれるとともに、炉底に設置した羽口4から撹拌ガスが溶銑5中に吹き込まれ、さらに、精錬剤や固体酸素源などの原料7が転炉1の上方の原料投入装置3から上置き添加され、スラグ6が形成されるようになっている。
また、溶銑搬送容器(例えば、溶銑鍋などの取鍋型容器、混銑車など)のような転炉型容器以外の容器で脱燐処理を行う場合には、撹拌力が転炉型容器に較べて弱く、溶銑とスラグとの反応は遅く、したがって、上記よりも低い送酸量で脱燐処理を行う必要があり、上記と同様の理由から送酸量を純酸素換算量で1.0Nm/min・T以下とすることが好ましい。
【0037】
脱炭工程では、転炉型容器を用いて上記低珪素・低燐溶銑を新たに発生するスラグ量を20kg/T以下にして吹錬を行う。
本発明の精錬方法における脱炭工程では、事前の脱燐工程において溶銑中の燐濃度は実質的に製品の燐濃度レベルまで低下しているため、脱炭工程では実質的な脱燐は必要とされない。このため、吹錬時に生成する酸化鉄の希釈剤として、及び、浴面からの粒滴の飛散や放熱を抑制するためのカバースラグとして少量のスラグは必要であるが、脱燐のためのスラグは必要としない。
【0038】
したがって、本発明法における脱炭工程のスラグは、マンガン鉱石の還元反応を効率的に進行させる機能を有することが重要であり、そのため、媒溶剤で生成させるスラグ量は、脱炭時に添加される鉄鉱石及びマンガン鉱石からの脈石分に応じた塩基度調整分のみの少量でよく、処理溶銑に対するスラグの発生量を20kg/T以下に抑えることができる。そして、高塩基度のスラグを迅速に生成させてマンガンの還元を促進させるために、媒溶剤として上述した精錬剤を用いることが好ましい。また、スラグの精錬能は必須ではなく、スラグ組成の多少の変動も問題ないため、炉内でのスラグ残し操業などにより、スラグを繰り返し使用することもできる。
【0039】
なお、本発明の精錬方法における脱炭工程では、脱炭処理時のスラグ量が少なく、したがって送酸量が多くなると脱炭反応が激しくなり、スラグに捕捉されずに、ダストとして系外に排出する鉄分が増加して鉄歩留まりが低下するので、これを防止するために、脱炭工程の送酸量は純酸素換算量で4Nm/min・T以下とすることが好ましい。
【0040】
【実施例】
高炉から出銑された溶銑に対し、高炉鋳床脱硅−溶銑鍋脱珪−転炉脱燐−転炉脱炭を行う一連の工程で溶銑の精錬を行った。
この実施例では、高炉から出銑された珪素濃度が約0.35wt%の溶銑を、高炉鋳床及び溶銑鍋での脱珪処理により珪素濃度0.20wt%以下まで脱珪した。溶銑鍋での脱珪工程では、溶銑中に浸漬したランスから約0.01Nm/min・Tの供給量で窒素ガスを浴中に吹き込んで溶銑を撹拌しつつ、必要とする脱珪量に応じて気体酸素や酸化鉄を添加し、脱硅反応を進行させた。
【0041】
脱珪処理後、生成スラグを排滓し、溶銑を脱燐処理するために転炉に装入した。脱燐処理前の溶銑温度は1310〜1355℃であった。脱燐剤としては、石灰石のか焼の前処理として行われる石灰石原石の洗浄段階で発生する粒径5mm以下の石灰石粉をドラムミキサーで混合した後、ペレタイザーで20〜30mmの粒度に造粒し、これをロータリーキルンで加熱処理して得られた精錬剤を使用した。ロータリーキルンでの加熱温度は1100℃を標準とし、400℃、900℃、及び1200℃でも実施した。
【0042】
脱燐剤としての精錬剤の添加量は処理する溶銑の燐濃度に応じて決められるため、珪素濃度が低い溶銑では精錬剤の添加量は少なく、そのため脱燐処理後に生成する脱燐スラグの量に差が生じた。本実施例では、生成するスラグの塩基度が4以上となるように、精錬剤の添加量を調整した。また、炉底部の羽口から約0.7Nm/min・Tの窒素ガスを吹き込んで溶銑を撹拌しつつ、上吹きランスから送酸を行い、上置き酸化鉄の酸素量と合わせて酸素供給量が約12Nm/Tになるように調整した。脱燐処理は8分間一定とし、脱燐処理終了時の溶銑温度は1320〜1340℃であった。また、脱燐処理終了時のスラグの酸化度を低位とするため、スラグ中の全酸化鉄濃度の指標であるT.Fe濃度を2wt%以下に調整した。
【0043】
転炉での脱燐処理が終了した溶銑は、一旦装入鍋に出湯し、しかる後別の転炉に再装入し、最終脱炭を主目的とした脱炭処理を行った。この脱炭処理では、炉底部の羽口から約0.12Nm/min・Tの供給量で窒素ガス又はアルゴンガスを吹き込んで溶銑を撹拌しつつ、上吹きランスから3.2Nm/min・Tの送酸量で送酸を行った。
【0044】
この脱炭工程では、マンガン鉱石などから混入するSiOに対してスラグの塩基度が約3.3となるように、上記精錬剤を媒溶剤として添加した。脱炭処理後、炉内のスラグを全量排滓し、炉内の炉壁などに付着した分を除けばスラグが残留しない状態で脱炭処理を継続して行った。この脱炭処理では、マンガン鉱石から混入するSiOに応じて添加される精錬剤を主体としてスラグが形成され、そのスラグへの残留マンガンがマンガン損失となった。この脱炭工程では、処理終了時の溶鋼中炭素濃度が0.09wt%、溶鋼温度が1645℃となるように制御した。
【0045】
また、比較のため、その他の条件を本発明例と同一として、脱炭工程のスラグ量を本発明条件外とした比較例1、溶銑の珪素濃度を本発明条件外とするとともに、脱燐工程のスラグ量を本発明条件外とした比較例2、脱燐工程及び脱炭工程で粒度が20〜30mmの塊状生石灰を用いるとともに、脱炭工程のスラグ量を本発明条件外とした比較例3、脱燐工程及び脱炭工程で粒度が20〜30mmの塊状生石灰を用いた比較例4、脱燐工程及び脱炭工程で粒度が20〜30mmの塊状生石灰を用いるとともに、脱燐工程のスラグ量を本発明条件外とした比較例5を合わせて実施した。表1に本発明例及び比較例における一連の工程の処理条件と処理結果を示す。
【0046】
【表1】
Figure 0004649694
【0047】
図2は、表1に示す結果のうちの脱燐処理前の溶銑中珪素濃度と脱燐処理後の溶銑中燐濃度との関係を示したものである。表1及び図2に示すように、塊状生石灰を用いた比較例3及び比較例4では、処理後の溶銑燐濃度が高く、製品の燐濃度レベルまで脱燐することができなかった。比較例5では製品の燐濃度レベルまで溶銑燐濃度を低下できたが、この場合には多量の塊状生石灰を必要とした。溶銑の珪素濃度が高い比較例2では多量の精錬剤を使用したにも拘わらず、溶銑燐濃度を製品燐濃度レベルまで下げることができなかった。これに対して本発明例では、使用した精錬剤が融体化し易いために、短時間で製品の燐濃度レベルまで低下させることができた。また、本発明例9〜11に示すように造粒後の加熱温度を変更しても、実質的に同様な脱燐効果が得られることが判かった。
【0048】
図3は、表1に示す結果のうちの脱燐処理前の溶銑中珪素濃度と脱炭工程におけるマンガン歩留まりとの関係を示したものである。表1及び図3に示すように、スラグ量が本発明範囲外である比較例1及び塊状生石灰を使用した比較例3〜5ではマンガン歩留まりが低い。特にスラグ量が本発明範囲外で且つ塊状生石灰を使用した比較例3はマンガン歩留まりが最も悪い。これに対して本発明例では、使用した精錬剤が融体化し易く、且つマンガン鉱石の還元に適した高塩基度のスラグを少ない精錬剤添加量で生成できるため、高いマンガン歩留まりが得られている。
【0049】
図4は、表1に示す結果のうちの脱燐処理前の溶銑中珪素濃度と脱燐工程及び脱炭工程における発生スラグ総量との関係を示したものである。表1及び図4に示すように、本発明による精錬方法では、脱炭工程から脱炭工程に至るまでの工程において、50kg/T以下の少ないスラグ量で目的とする組成の鋼を溶製することが可能であり、さらに、処理条件を選択することにより発生するスラグ量を20kg/T以下とすることも可能であることが判かる。
【0050】
【発明の効果】
以上述べたように本発明法によれば、スラグの発生量を極力少なくして省資源や省エネルギーに寄与することができるとともに、溶鋼の製造コストを低減でき、しかも、環境に悪影響を与える弗素を実質的に含まないスラグを使用して効率的且つ安定的な脱燐処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】転炉型容器を用いた脱燐処理状況の一例を模式的に示す説明図
【図2】脱燐処理前の溶銑中珪素濃度と脱燐処理後の溶銑中燐濃度との関係を示すグラフ
【図3】脱燐処理前の溶銑中珪素濃度と脱炭工程におけるマンガン歩留まりとの関係を示すグラフ
【図4】脱燐処理前の溶銑中珪素濃度と脱燐工程及び脱炭工程における発生スラグ総量との関係を示すグラフ
【符号の説明】
1…転炉、2…上吹きランス、3…原料投入装置、4…羽口、5…溶銑、6…スラグ、7…原料

Claims (2)

  1. 珪素濃度が0.20wt%以下の溶銑に対して、少なくとも脱燐工程、脱炭工程をこの順序で行う溶銑の精錬方法において、
    脱燐工程では、弗素を実質的に含有せず、且つ石灰石採掘時に発生する粒径5mm未満の石灰石粉、及び石灰石のか焼の前処理として行われる石灰石原石の洗浄段階で発生する粒径5mm未満の石灰石粉の中から選ばれる1種以上の石灰石粉を造粒し、これを加熱処理して得られた精錬剤を用いることにより、30kg/T以下のスラグ量で溶銑中の燐濃度を実質的に製品の燐濃度レベルまで低下させ、次いで、脱炭工程を実施し、該脱炭工程では、弗素を実質的に含有せず、且つ石灰石採掘時に発生する粒径5mm未満の石灰石粉、及び石灰石のか焼の前処理として行われる石灰石原石の洗浄段階で発生する粒径5mm未満の石灰石粉の中から選ばれる1種以上の石灰石粉を造粒し、これを加熱処理して得られた精錬剤を用い、新たに発生するスラグ量を20kg/T以下にすることを特徴とする溶銑の精錬方法。
  2. 精錬剤が、造粒された原料を堅型炉、ロータリーキルン、流動層炉又は移動層炉で加熱処理して得られた精錬剤であることを特徴とする請求項1に記載の溶銑の精錬方法。
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