JP3832386B2 - 低燐溶銑の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、溶銑予備処理として行われる脱燐処理により低燐溶銑を効率的に製造するための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、溶銑段階で予備脱燐を行って溶銑中のPをある程度除去した後、転炉で脱炭吹錬を実施する製鋼方法が発展してきた。この予備脱燐処理はトーピード、溶銑鍋、転炉等の設備を用い、CaO系精錬剤と気体酸素や固体酸素源(例えば、酸化鉄)等の酸素源を添加して行われる。この脱燐処理の際に溶銑からスラグ側にPを効率的に移行させるためには、スラグの組成やスラグ量等の制御が重要な因子となる。
【0003】
特に、精錬剤にCaF2(ホタル石)を添加することで、▲1▼スラグの融体性が向上する、▲2▼SiO2のネットワークを分断してCaイオンの活量が増加する、▲3▼FeOの活量が増加する、等の作用が得られることが従来から指摘されており、実操業でも脱燐の反応性を高めるためにCaF2が広く使用されている。例えば、特公平6−17496号では、添加CaOと酸素Oの重量比CaO/O以外に[CaF2+Al2O3]/CaO及びAl2O3/CaF2の各重量比を規定し、CaF2添加により脱燐効率を向上させる技術が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、最近では環境保護の観点から、スラグ中Fの溶出量の規制基準が強化される状況にあり、このため脱燐スラグ中のF濃度を極限まで低下させる必要が生じている。このためCaF2を使わない脱燐処理技術の開発が強く望まれているが、現状ではスラグを低塩基度化してスラグ量を極端に多くした操業を行うとか、多重処理を実施する等の方法を行っているのが実情である。しかし、前者のように脱燐スラグ量が極端に増大することは、環境保護の面から強く望まれているスラグ量削減というニーズに逆行するものであり、また、後者のように多重処理を実施することは生産性の低下と溶鋼の製造コストの上昇を招く問題があり、したがって、これらは抜本的な対策にはなり得ない。
一方、溶銑の脱燐反応はPの酸化反応であることから、従来では溶銑脱燐は溶銑温度が低温の方が有利であるというのが常識となっており、このため実際の操業も低目の溶銑温度で実施されている。しかし、このような操業では、後工程での熱余裕が確保しにくいという問題がある。
【0005】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、CaF2の添加量を極力削減し若しくはCaF2を添加することなく、効率的な溶銑脱燐を行うことができるとともに、後工程での熱余裕も適切に確保することができる低燐溶銑の製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
先に述べたように脱燐反応はPの酸化反応であることから、従来では溶銑温度は低温の方が有利であるというのが常識となっており、また、従来では高い溶銑温度で処理を行うとスラグからメタルへの復燐を生じると考えられていた。このため従来では、1360℃以上の高温領域で脱燐処理を行っても溶銑中のP濃度を低位まで低下させることは困難であると考えられてきた。これに対して本発明者らは、気体酸素と精錬剤を溶銑浴面に吹きつけることにより添加するとともに、脱燐処理する溶銑中のSi濃度を低くしてスラグ塩基度を相対的に高め、且つCaF2の添加量が少ない若しくは無添加の条件下で高温処理を行うと、脱燐生成物が固体となる3CaO・P2O5の組成に近くなるためスラグからメタルへの復燐がほとんどなく、このため高温で脱燐処理を行っても高い脱燐反応効率が得られることを見い出した。また、上吹きランスを通じて気体酸素を溶銑浴面に吹き付けるとともに、この気体酸素が供給される溶銑浴面領域(特に好ましくは、火点)に精錬剤を吹き付ける方法の場合、石灰が溶融してから燐酸化合物と反応する時間が短くなり(つまり、反応速度が大きくなり)、復燐速度がより小さくなるため特に有利であることも判った。
【0007】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その特徴は以下の通りである。
[1]高炉で製造された溶銑又は高炉で製造された後、脱珪処理された溶銑を容器内に保持し、該容器内に酸素源とCaO源である精錬剤を添加して、溶銑予備処理である脱燐処理を行うことにより低燐溶銑を製造する方法において、
Si濃度が0.10mass%以下の溶銑に対して、CaF2の添加量を1kg/溶銑ton以下若しくはCaF2を実質的に添加しない条件で、上吹きランスを通じて気体酸素と精錬剤の少なくとも一部を溶銑浴面に吹き付けることにより脱燐処理を行うとともに、脱燐処理終了時の溶銑温度を1360℃〜1450℃とすることを特徴とする低燐溶銑の製造方法。
【0008】
[2] 上記[1]の製造方法において、上吹きランスから供給される精錬剤の少なくとも一部が、気体酸素が吹き付けられる溶銑浴面領域に吹き付けられることを特徴とする低燐溶銑の製造方法。
[3] 上記[2]の製造方法において、上吹きランスから供給される精錬剤の少なくとも一部が、気体酸素の吹き付けにより溶銑浴面に生じる火点に吹き付けられることを特徴とする低燐溶銑の製造方法。
【0009】
[4] 上記[2]又は[3]の製造方法において、精錬剤の少なくとも一部を、気体酸素をキャリアガスとして溶銑浴面に吹き付けることを特徴とする低燐溶銑の製造方法。
[5] 上記[1]〜[4]のいずれかの製造方法において、気体酸素が供給される溶銑浴面領域に化学反応又は/及び熱分解反応により溶銑の熱を吸熱する物質を供給することを特徴とする低燐溶銑の製造方法。
[6] 上記[5]の製造方法において、化学反応又は/及び熱分解反応により溶銑の熱を吸熱する物質の少なくとも一部を、気体酸素の吹き付けにより溶銑浴面に生じる火点に供給することを特徴とする低燐溶銑の製造方法。
【0010】
[7] 上記[5]又は[6]の製造方法において、化学反応又は/及び熱分解反応により溶銑の熱を吸熱する物質が、二酸化炭素、水蒸気、窒素酸化物、金属の炭酸塩、金属の水酸化物の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする低燐溶銑の製造方法。
[8] 上記[7]の製造方法において、化学反応又は/及び熱分解反応により溶銑の熱を吸熱する物質が、熱分解によりCO2又はH2Oを発生する金属の炭酸塩、熱分解によりCO2又はH2Oを発生する金属の水酸化物の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする低燐溶銑の製造方法。
【0011】
[9] 上記[8]の製造方法において、化学反応又は/及び熱分解反応により溶銑の熱を吸熱する物質が、CaCO3、Ca(OH)2、CaMg(CO3)2の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする低燐溶銑の製造方法。
[10] 上記[1]〜[4]のいずれかの製造方法において、気体酸素が供給される溶銑浴面領域に、CaO源である精錬剤の一部又は全部に代えて、精錬剤生成物質で且つ化学反応又は/及び熱分解反応により溶銑の熱を吸熱する物質として、CaCO3、Ca(OH)2、CaMg(CO3)2の中から選ばれる1種以上を供給することを特徴とする低燐溶銑の製造方法。
【0012】
[11] 上記[10]の製造方法において、CaCO3、Ca(OH)2、CaMg(CO3)2の中から選ばれる1種以上の少なくとも一部を、気体酸素の吹き付けにより溶銑浴面に生じる火点に供給することを特徴とする低燐溶銑の製造方法。
[12] 上記[1]〜[11]のいずれかの製造方法において、脱燐処理により発生する排ガスのガス組成分析値と排ガス温度から脱燐処理中の溶銑温度を算出し、脱燐処理終了後の溶銑温度を制御することを特徴とする低燐溶銑の製造方法。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の低燐溶銑の製造方法では、溶銑を保持した容器内に酸素源とCaO源である精錬剤を添加して、溶銑予備処理である脱燐処理を行うに当たり、Si濃度が0.10mass%以下の溶銑に対して、CaF2の添加量を1kg/溶銑ton以下若しくはCaF2を実質的に添加しない(すなわち、精錬剤中に不可避的不純物として含まれる以外のCaF2を添加しない)条件で、上吹きランスを通じて気体酸素と精錬剤の少なくとも一部を溶銑浴面に吹き付けることにより脱燐処理を行うとともに、脱燐処理終了時の溶銑温度を1360℃〜1450℃とするものである。
【0014】
図1は、転炉型脱燐精錬炉(300ton)においてCaF2を添加しない条件で溶銑の脱燐処理を行い、脱燐効率(脱燐石灰効率)に及ぼす溶銑温度(脱燐処理終了時の溶銑温度)と脱燐処理前の溶銑中Si濃度の影響を調べたものである。なお、図1に示す脱燐石灰効率とは、精錬剤として添加した全石灰(焼石灰)に対する脱燐に寄与した石灰の割合であり、燐酸化物は3CaO・P2O5として固定されることを前提として化学量論比から導出したものである。
【0015】
この試験では、高炉溶銑を必要に応じて鋳床及び溶銑鍋内で脱珪した後、溶銑鍋内で脱硫し、この溶銑を転炉型脱燐精錬炉に移して脱燐処理を行ったが、この際、脱燐処理される溶銑のSi濃度と処理後の溶銑温度を種々変化させた。
精錬剤としてはCaF2(ホタル石)を含まないCaO主体の焼石灰のみを用いた。また、酸素源としては主に酸素ガスを用い、これを上吹きランスから溶銑浴面に吹き付けることにより添加し、一部について固体酸源(鉄鉱石)の添加を併用した。脱珪外酸素量は10〜11Nm3/溶銑tonの範囲で制御した。また、脱燐処理時間は10〜11分間とし、脱燐処理前の溶銑温度とスクラップ添加量を調整して、脱燐処理後の溶銑温度を制御した。
【0016】
図1において、○は精錬剤を上置き装入で添加するともに、脱燐処理終了時の溶銑温度を1260〜1350℃とした試験例(a)、▲は精錬剤を上記酸素ガスをキャリアガスとして溶銑浴面に吹き付けるとともに、脱燐処理終了時の溶銑温度を1360〜1450℃とした試験例(b)である。なお、精錬剤の添加量は溶銑中のSi濃度に応じて5〜30kg/溶銑tonの範囲で変化させた。
図1によれば、精錬剤の供給方法や脱燐処理終了時の溶銑温度に拘りなく、溶銑中Si濃度が低いほどCaOが2CaO・SiO2に消費される割合が減少するため、脱燐石灰効率は上昇している。一方、溶銑中Si濃度が0.10mass%以下の領域では、精錬剤を上置き装入により添加する方法で脱燐処理終了時の溶銑温度を1260〜1350℃とした場合(試験例(a))に較べ、精錬剤を酸素ガスとともに溶銑浴面に吹き付ける方法で脱燐処理終了時の溶銑温度を1360〜1450℃とした場合(試験例(b))の方が、脱燐石灰効率が高くなっている。脱燐反応は平均論的には低温の方が有利であるが、図1の結果は、試験例(b)においては、スラグ溶融性と脱燐生成物の固定化等により復燐速度が小さくなったためであると考えられる。
【0017】
図2は、精錬剤を酸素ガスとともに溶銑浴面に吹き付ける方法において、脱燐効率(脱燐石灰効率)に及ぼすCaF2の添加量の影響を調べたもので、図1の試験と同様の転炉型脱燐精錬炉を用い、精錬剤及び酸素源の添加形式及び添加量、処理時間等も図1の試験例(b)と同様とした。また、脱燐処理終了時の溶銑温度は1360〜1450℃の範囲とした。なお、CaF2は吹錬初期に上置き装入で一括添加した。
【0018】
図2によれば、CaF2の添加量が1kg/溶銑ton以下になると脱燐石灰効率が向上している。CaF2はCaOの溶融を促進する働きがあり、CaF2を添加することでスラグの液相率が増加する。しかし、処理温度(溶銑温度)が1360℃以上の場合には、CaF2を添加してスラグの液相率を高めると、スラグからメタルへの復燐速度が大きくなって平衡値に容易に近づくため、脱燐石灰効率が悪化するものと考えられる。したがって、処理温度(溶銑温度)を1360℃以上として脱燐効率を向上させるには、CaF2の添加量を最小限(1kg/溶銑ton以下若しくは実質的に無添加)に抑える必要がある。
また、脱燐処理終了時の溶銑温度が1450°を超えると、スラグと平衡する溶銑中のP濃度値が高くなる効果の方が、溶銑を高温にしてCaOを溶融させる効果よりも大きくなる。このため脱燐処理終了時の溶銑温度は1450°以下とする必要がある。
【0019】
以上の結果から、Si濃度が0.10mass%以下の溶銑に対して、CaF2の添加量を1kg/溶銑ton以下、若しくはCaF2を実質的に添加しない条件で、且つ上吹きランスを通じて気体酸素と精錬剤の少なくとも一部を溶銑浴面に吹き付ける方法で脱燐処理を行うことにより、脱燐処理終了時の溶銑温度が1360〜1450℃という高温であっても高い脱燐効率で脱燐処理を行うことができることが判る。
そして、このように本発明法では脱燐処理終了時に高い溶銑温度が確保できるため、後工程での熱余裕を十分に確保することができる。また、処理後の溶銑温度が高いため、スラグ中のT−Feを低く抑えることができ、脱燐鉄歩溜まりも向上する。
【0020】
一般に脱燐処理前の溶銑温度は1250〜1350℃程度であるが、脱燐処理終了時の溶銑温度を調整する方法としては、通常、スクラップの溶解を行う転炉型脱燐精錬炉を用いた脱燐処理の場合には、スクラップの投入量を抑制する方法などが挙げられる。また、溶銑鍋などの鍋型容器やトーピードカーを用いた脱燐処理の場合には、焼結粉などの固体酸素源の投入量を調整する方法などが挙げられる。したがって、そのような方法で処理終了時の溶銑温度を1360〜1450℃の範囲に調整すればよい。
【0021】
また、脱燐処理終了時の溶銑温度の具体的な制御方法としては、脱燐処理により発生する排ガスのガス組成分析値と排ガス温度から脱燐処理中の溶銑温度を算出し、これに基づき制御する方法が最も容易である。すなわち、この方法では、排ガスをガス組成分析してCO,CO2濃度を求めるとともに、排ガス温度からガスの生成量を算出する。そしてこれらから炉内での発熱量を算出し、これに基づき溶銑温度を算出することができる。
【0022】
本発明法では、上吹きランスを通じて気体酸素と精錬剤の少なくとも一部を溶銑浴面に吹き付けるが、この場合、精錬剤を気体酸素が供給(吹き付け)される溶銑浴面領域に吹き付けることが特に好ましい。
上吹きランスを通じて気体酸素を溶銑浴面に吹き付けると、浴面に衝突した気体酸素により大量のFeOが生成するため、精錬剤の滓化促進に非常に有利な条件となり、このFeOが大量に生成した領域に、上吹きランスを通じて精錬剤を直接供給することにより、精錬剤(CaO)の滓化を効果的に促進することができる。
【0023】
また、このような気体酸素と精錬剤の供給形態によれば、上述した復燐速度をより小さくすることができ、本発明を特に有利に実施することができる。すなわち、この供給形態では精錬剤として粉体が用いられ、且つこの精錬剤が、上述のように浴面に衝突した気体酸素によって大量のFeOが生成した溶銑浴面領域に直接供給されるため、塊石灰を上置き装入する方法に較べてCaO(精錬剤)がFeOと接触する面積が飛躍的に大きくなる。このためFeOにより酸化されたP2O5とCaOが反応する効率及び速度も大きくなり、CaO−FeO系でスラグが溶融している時間が短縮できる。つまり、脱燐反応は瞬時に完了し、その後のスラグの溶融時間が短いため、復燐速度も小さくすることが可能となる。
【0024】
また、上吹きランスによる気体酸素と精錬剤の溶銑浴面への吹き付けでは、精錬剤を気体酸素以外のキャリアガス(例えば、N2、Arなどの不活性ガス)を用いて溶銑浴面に吹き付けてもよいが、その場合でも、精錬剤の一部又は全部を気体酸素が供給(吹き付け)されている溶銑浴面領域に吹き付けることが好ましい。これは、気体酸素が供給される溶銑浴面領域は酸素供給によってFeOが生成する場所であり、このような浴面領域に直接CaOを添加することにより、CaOの滓化が効果的に促進されるとともにCaOとFeOの接触効率が高まり、これによって脱燐反応効率を顕著に促進できるからである。また、精錬剤は気体酸素が供給された溶銑浴面領域の中でも、特に気体酸素の上吹きにより生じる“火点”と呼ばれる領域に供給することが最も好ましい。この火点は気体酸素ガスジェットが衝突することにより最も高温となる溶銑浴面領域であるが、気体酸素による酸素反応が集中し且つ気体酸素ガスジェットにより強攪拌されている領域であるため、CaOの供給による効果が最も顕著に得られる領域であると言える。また、この意味で精錬剤を溶銑浴面に吹き付けるためのキャリアガスとしては気体酸素を用いることが好ましく、この場合には、気体酸素が精錬剤とともに溶銑浴面に吹き付けられることにより、精錬剤が火点に直接供給されることになり、この結果、溶銑浴面でのCaOとFeOの接触効率が最も高まり、脱燐反応を特に顕著に促進することができる。
【0025】
本発明法において、上吹きランスを用いて気体酸素と精錬剤を溶銑浴面に吹き付ける方法に特別な制限はなく、例えば、上吹きランスの複数のランス孔のうち、一部のランス孔から気体酸素のみを、また、他のランス孔から気体酸素又は気体酸素以外のガス(例えば、窒素やArなどの不活性ガス)をキャリアガスとして精錬剤を、それぞれ溶銑浴面に供給することもできる。これにより気体酸素が供給されている溶銑浴面領域に精錬剤を添加することができる。また、この場合には、ランス先端の中央に主ランス孔を、その周囲に複数の副ランス孔を有する上吹きランスを用い、副ランス孔から気体酸素を、主ランス孔から気体酸素又は上述した気体酸素以外のガスをキャリアガスとして精錬剤を、それぞれ溶銑浴面に供給することが特に好ましい。また、気体酸素の吹き付けと、気体酸素又は上述した気体酸素以外のガスをキャリアガスとする精錬剤の吹き付けを、異なる上吹きランスを用いて行ってもよい。但し、いずれの場合にも、上述したように精錬剤を最も効率的に滓化させるには、精錬剤のキャリアガスは気体酸素であることが特に望ましい。
【0026】
本発明において使用する気体酸素は、純酸素ガス、酸素含有ガスのいずれでもよい。また、溶銑保持容器内に添加される酸素源としては、気体酸素以外に酸化鉄(例えば、焼結粉、ミルスケール)等の固体酸素源を用いることができ、これらを上置き装入や浴中へのインジェクション等の任意の方法で添加することができる。但し、上述したような溶銑浴面への気体酸素の供給(吹き付け)による効率的な溶銑脱燐を行うためには、溶銑保持容器内に添加される酸素源の50%以上、好ましくは70%以上(気体酸素換算量)が上吹きランスを通じて溶銑浴面に供給される気体酸素であることが好ましい。
なお、気体酸素の一部は溶銑浴面への吹き付け以外の方法、例えば溶銑浴中へのインジェクションや底吹き等の方法で浴中に供給してもよい。
【0027】
精錬剤としては、通常、石灰などのCaO系精錬剤(CaOを主体とした精錬剤)を用いる。また、上吹きランスを通じて溶銑浴面に吹き付ける精錬剤は粉体を用いる。
また、精錬剤は、上吹きランスによる溶銑浴面への吹き付け以外に、一部を上置き装入や浴中へのインジョクションなどにより添加してもよいが、その場合でも、これらの方法により添加する精錬剤の量は精錬剤全体の20mass%以下とすることが望ましい。上吹きランスによる溶銑浴面への吹き付け以外の方法で添加される精錬剤の割合が全体の20mass%を超えると、精錬剤を気体酸素とともに溶銑浴面に吹き付けることによる脱燐反応促進の効果が低下する傾向がある。
【0028】
また、脱燐効率を向上させるためには溶銑をガス撹拌することが好ましい。このガス撹拌は、例えばインジェクションランスや底吹きノズルなどを通じて窒素やArなどの不活性ガスを溶銑中に吹き込むことにより行われる。このような撹拌ガスの供給量としては、十分な浴撹拌性を得るために0.02Nm3/min/溶銑ton以上とし、また、浴の撹拌が強すぎると生成したFeOを溶銑中のCが還元する速度が大きくなり過ぎるためのため0.3Nm3/min/溶銑ton以下とすることが好ましい。
脱燐処理を行うための溶銑保持容器としては、フリーボードが十分に確保できるという点から転炉型容器が最も好ましいが、例えば、溶銑鍋やトーピードカーなどの任意の容器を用いることができる。
【0029】
溶銑は高炉から供給されるが、製造される溶銑のSi濃度を低める方法としては、溶銑製造用の原料の予備処理などで珪酸分の全装入量を低減したり、高炉内での珪酸還元反応を抑制するための低温操業やコークスの偏在装入などの方法が有効である。したがって、高炉で製造された溶銑のSi濃度が0.10mass%以下の場合には、これら溶銑に対して下記のような脱珪処理を施すことなく、脱燐処理してもよい。
【0030】
一方、高炉で製造された溶銑のSi濃度が0.10mass%を超える場合には、脱燐処理に先立ち高炉鋳床や溶銑鍋などで脱珪処理を実施し、脱燐処理前の溶銑中Si濃度を0.10mass%以下とした上で脱燐処理を行う。
通常、溶銑の脱珪処理は固体酸素源や気体酸素を溶銑に添加することにより行われ、例えば、焼結粉やミルスケールなどの固体酸素源を溶銑浴面への上置き装入や浴中への吹き込みにより添加し、或いは気体酸素を溶銑浴面への吹き付けや浴中への吹き込みにより添加する方法が採られる。
【0031】
また、溶銑の脱珪処理は高炉鋳床や溶銑鍋以外に、例えば高炉鋳床から溶銑鍋などの搬送容器への溶銑流に対して酸素源を添加することにより行うこともできる。また、脱珪効率を高めるために容器内の溶銑中に撹拌ガスを吹き込んだり、焼石灰などのCaO源を添加してスラグの塩基度を調整することにより脱珪スラグ中の酸化鉄を極力低減させ、還元効率を高めるようにすることもできる。
溶銑の脱珪処理を経て脱燐処理を行う場合には、事前に脱硅スラグなどのスラグを排滓し、珪酸分の混入を極力抑制することが、効率的な脱燐処理を行う上で好ましい。このため脱燐処理前に機械式排滓装置や手作業により、溶銑からスラグを分離した後、脱燐処理を行う。
【0032】
図3に、溶銑の脱珪工程及び本発明法による脱燐工程の実施状況の一例を示す。この例では、まず、溶銑2(高炉溶銑)をトーピードカー1に入れ、脱珪用ランス3から酸化鉄、気体酸素などを吹き込んで脱珪処理を行ない、溶銑のSi濃度を0.10mass%以下とする。排滓後、転炉型脱燐炉4に溶銑2を移し、上吹きランス5から気体酸素をキャリアガスとして石灰などの精錬剤を溶銑浴面に吹き付けることにより脱燐処理を行う。この際、CaF2の添加量は1kg/溶銑ton以下(若しくはCaF2を実質的に添加しない)とし、また、脱燐処理終了時の溶銑温度を1360〜1450℃とする。脱燐吹錬終了後は、出湯口7から溶銑2を取鍋などに出湯し、残ったスラグ6は炉口から排滓する。
【0033】
気体酸素が吹き付けられる溶銑浴面領域は、浴面に衝突した気体酸素により大量の酸化鉄が生成するため、精錬剤の滓化促進に非常に有利な条件となる。しかし一方において、気体酸素が衝突する浴面領域(特に火点)に酸化反応によって高温場が形成されてしまい、従来技術に較べて高い溶銑温度で処理を行う本発明法においても、このような高温場の生成は石灰を溶融させる点に関しては有利であるが、脱燐平衡の観点からは不利に働くことになる。
【0034】
このような問題に対して、本発明者は、気体酸素が供給される溶銑浴面領域を脱燐反応に有利な温度条件とすることができる方策について検討を行い、その結果、気体酸素が供給される溶銑浴面領域に化学反応又は/及び熱分解反応により溶銑の熱を吸熱する物質を供給することにより、気体酸素による精錬剤の滓化促進作用が阻害されることなく、気体酸素が供給される溶銑浴面領域の温度上昇が適切に抑えられ、より高い脱燐反応効率が得られることを見い出した。
【0035】
化学反応又は/及び熱分解反応により溶銑の熱を吸熱する物質(以下「吸熱物質」という)の溶銑浴面に対する添加(供給)は、溶銑浴面に供給された気体酸素による発熱よって溶銑温度が過剰に上昇することを抑えるために行われるものであり、このため吸熱物質は気体酸素が供給された溶銑浴面領域に供給する必要がある。また、気体酸素が供給される溶銑浴面領域の中でも、特に上吹きランスによる気体酸素の吹き付けにより溶銑浴に生じる“火点”と呼ばれる領域に供給することが好ましい。この火点は気体酸素ガスジェットが衝突することにより最も高温となる溶銑浴面領域であり、気体酸素による酸化反応(FeOの生成反応)が集中し且つ気体酸素ガスジェットにより強撹拌されている領域であるため、吸熱物質の添加による効果が最も顕著に得られる領域であると言える。
【0036】
また、上述したように上吹きランスを用いて浴面上方から送酸を行う際に、気体酸素が供給される溶銑浴面領域(特に好ましくは、上述した“火点”の領域)に精錬剤を気体酸素や他のキャリアガスを用いて吹き付ける(投射する)方法は、気体酸素ガスジェットの溶銑浴面への衝突場、つまり気体酸素による酸化反応が集中し、且つ気体酸素ガスジェットによる強撹拌が行われている領域(FeOの主たる生成物)に精錬剤を直接供給することにより、CaOの滓化が効果的に促進されるとともに、CaOとFeOの接触効率が高まってCaOとFeOとの接触上最適な条件となり、これによって脱燐反応を特に顕著に促進させることができる。したがって、このような方法において、気体酸素による酸化反応が集中し且つ気体酸素ガスジェットにより強撹拌されている上記領域に吸熱物質を直接供給し、その領域での溶銑温度の上昇を抑えることにより、脱燐反応をさらに効果的に促進させることができる。
【0037】
ここで、吸熱物質としては、溶銑に添加された際の化学反応又は熱分解反応若しくはその両方の反応によって溶銑の熱を奪う(吸熱する)物質であれば特別な制限はない。したがって、この吸熱物質は気体、固体のいずれでもよい。
吸熱物質として用いることができる気体としては、例えば二酸化炭素、水蒸気、窒素酸化物(NOx)などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。これらの気体吸熱物質は溶銑浴面に供給されることにより主としてFeと反応し(例えば、CO2+Fe→FeO+CO、H2O+Fe→FeO+H2)、その際に溶銑の吸熱を行う。この結果、気体酸素によるFe酸化(Fe+1/2O2→FeO)による発熱に対し、トータルで吸熱になるか若しくは発熱量が大幅に減少する。また、上記気体吸熱物質のなかでも、製鉄所内で多量に発生する二酸化炭素や水蒸気は入手が容易である上、熱的な効果も大きいので特に好適である。また、これらのガスに窒素等が混入することにより純度が多少低くても、脱燐処理は最終製鋼段階(=脱炭処理)ではないため特に問題はない。また、供給された二酸化炭素や水蒸気が還元して生成するCOやH2は脱燐処理時の排ガスの一部として回収され、排ガスカロリーを高める効果もある。
【0038】
また、吸熱物質として用いることができる固体としては、金属の炭酸塩、金属の水酸化物、特に好ましくはアルカリ金属、アルカリ土類金属の炭酸塩、水酸化物が挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。これらの固体吸熱物質は、溶銑浴面に供給されることにより主として熱分解反応を生じ、その際に溶銑の吸熱を行うとともに、熱分解によりCO2又はH2Oを生成し、このCO2又はH2Oが上述したように吸熱物質としてさらに機能するため、特に高い吸熱効果が得られる。このような金属の炭酸塩としては、CaCO3、CaMg(CO3)2、MgCO3、NaCO3、FeCO3、MnCO3、NaHCO3(炭酸水素ナトリウム)などが挙げられ、また金属の水酸化物としてはCa(OH)2、Mg(OH)2、Ba(OH)2、Al(OH)3 Fe(OH)2、Mn(OH)n、Ni(OH)nなどが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。
【0039】
また、これら固体吸熱物質のなかでもCaCO3、Ca(OH)2、CaMg(CO3)2は、入手が容易であるだけでなく、上記熱分解によりCaOが生成し、このCaOが精錬剤として機能するという大きな利点があるので特に好ましい。通常、これらの固体吸熱物質は未焼成又は半焼成の石灰石、ドロマイトの形で添加される。
なお、固体吸熱物質は、その粒度が大きすぎると熱分解等が迅速に進行しないため、平均粒径5mm以下の粉粒物であることが好ましい。
以上述べたような気体吸熱物質と固体吸熱物質を併用してもよく、また固体吸熱物質を溶銑浴面に供給する際のキャリアガスの一部又は全部として気体吸熱物質を用いてもよい。
【0040】
吸熱物質(気体又は/及び固体)の添加方法に特別な制限はなく、上吹きランスや他のランスによる溶銑浴面への吹き付け、上置き装入(固体吸熱物質の場合のシュータなどを利用した装入)などで添加することができるが、吸熱物質を気体酸素が供給された溶銑浴面領域(特に好ましくは“火点”)に確実に供給して先に述べたような効果を得るためには、ランスにより溶銑浴面に供給すること、特に上吹きランスにより溶銑浴面に供給することが好ましい。
【0041】
また、吸熱物質を上吹きランスにより溶銑浴面に供給する場合、▲1▼吸熱物質を気体酸素と混合して(固体吸熱物質の場合、気体酸素をキャリアガスとして)、同じランス孔から溶銑浴面に供給する方法、▲2▼吸熱物質と気体酸素を別々のガス供給ラインを通じてランス内に供給して別々のランス孔から溶銑浴面に供給する方法(固体吸熱物質の場合は、吸熱物質の供給には気体酸素以外のキャリアガスが用いられる)、のいずれでもよい。
【0042】
吸熱物質を気体酸素が供給された溶銑浴面領域に確実に供給するという観点からは上記▲1▼の方法がより好ましいが、上記▲2▼の方法でも所定のランス孔を通じて供給された吸熱物質を、他のランス孔を通じて気体酸素が供給された溶銑浴面領域に供給することができる。具体的には、例えば上吹きランス先端の中央ランス孔から気体吸熱物質を供給し或いは気体酸素以外のガスをキャリアガスとして吸熱物質を供給し、この中央ランス孔の周囲の他のランス孔から気体酸素を供給するなどの形態が好ましい。キャリアガスとしてはN2やAr等の不活性ガスが好適であり、また、後述するように気体吸熱物質(例えばCO2)をキャリアガスとして用いてもよい。
【0043】
また、上記▲1▼の方法では、複数のランス孔のうち、一部のランス孔からは気体酸素のみを、また他のランス孔からは吸熱物質(場合により、さらに精錬剤)を混合した気体酸素を、それぞれ溶銑浴面に供給することもできる。
さらに、上記▲1▼、▲2▼のいずれの方法においても、気体酸素又は気体酸素以外のキャリアガス若しくは気体吸熱物質に精錬剤を単独で又は吸熱物質(気体又は/及び固体)とともに混合して溶銑浴面に供給することもできる。
【0044】
吸熱物質(気体又は/及び固体)又は吸熱物質と精錬剤を気体酸素と混合した状態で上吹きランスを通じて溶銑浴面に供給するには、例えば、上吹きランスの酸素供給ライン(ヘッダー、配管、ランス内の気体酸素流路等)の一部又は全部に吸熱物質を供給し、気体酸素と混合すればよい。
また、吸熱物質(気体又は/及び固体)又は吸熱物質と精錬剤は、上吹きランス以外の他の供給手段(例えば、他のランス)を用いて溶銑浴面に供給してもよい。上吹きランス以外のランスとしては、上吹きランスと同様に炉内の所定位置に粉粒体を供給できるものであればよく、通常、サンプリングや測温などに用いているサブランス等も炉内での冷却能が問題なければ使用できる。また、シューターや流し込み装置などの上置き投入装置でも、高温での耐用性や投入位置の精度などが問題なければ使用してよい。
【0045】
また、上述したように気体酸素が供給される溶銑浴面領域(特に好ましくは、上述した“火点”の領域)に精錬剤を気体酸素や他のキャリアガスを用いて吹き付け(投射する)、且つこの領域に吸熱物質を直接供給することにより、脱燐反応を最も効果的に促進させることができる。この場合は、上吹きランスのランス孔から気体酸素と精錬剤と吸熱物質(気体又は/及び固体)を混合した状態で溶銑浴面に吹き付ける方法を採ることができるが、それ以外にも、例えば上吹きランスの複数のランス孔のうち、一部のランス孔から気体酸素のみを、また、他のランス孔から、必要に応じて気体酸素又は気体酸素以外のガス(例えば、窒素やArなどの不活性ガス)をキャリアガスとして、精錬剤と吸熱物質(気体又は/及び固体)を、それぞれ溶銑浴面に供給することもできる。また、この場合には、ランス先端の中央に主ランス孔を、その周囲に複数の副ランス孔を有する上吹きランスを用い、副ランス孔から気体酸素を、主ランス孔から、必要に応じて気体酸素又は上述した気体酸素以外のガスをキャリアガスとして、精錬剤と吸熱物質(気体又は/及び固体)を、それぞれ溶銑浴面に供給することが特に好ましい。また、気体酸素の吹き付けと精錬剤及び吸熱物質の吹き付けを、異なる上吹きランスを用いて行ってもよい。但し、いずれの場合にも、上述したように精錬剤を最も効率的に滓化させるには、精錬剤と吸熱物質(気体又は/及び固体)は気体酸素とともに溶銑浴面に吹き付けられることが特に望ましい。
【0046】
図4(a)〜(e)は、上吹きランスを用いた気体酸素、精錬剤及び吸熱物質の溶銑浴面への供給形態の幾つかの例を示している。このうち、図4(a)は、気体酸素と精錬剤と吸熱物質(気体又は/及び固体)を混合してランス孔から供給する(溶銑浴面に吹き付ける)形態、図4(b)は、一部のランス孔から気体酸素と精錬剤を、他のランス孔から気体酸素と吸熱物質(気体又は/及び固体)を、それぞれ供給する(溶銑浴面に吹き付ける)形態、図4(c)は、一部のランス孔から気体酸素以外のキャリアガスと精錬剤を、他のランス孔から気体酸素と吸熱物質(気体又は/及び固体)を、それぞれ供給する(溶銑浴面に吹き付ける)形態、図4(d)は、一部のランス孔から気体吸熱物質と精錬剤を、他のランス孔から気体酸素と吸熱物質(気体又は/及び固体)を、それぞれ供給する(溶銑浴面に吹き付ける)形態、図4(e)は、一部のランス孔から気体酸素と精錬剤を、他のランス孔から気体吸熱物質又は気体吸熱物質と固体吸熱物質を、それぞれ供給する(溶銑浴面に吹き付ける)形態である。但し、気体酸素、精錬剤及び吸熱物質の溶銑浴面への供給形態はこれらに限定されない。
【0047】
上述したように固体吸熱物質のなかでもCaCO3、Ca(OH)2、CaMg(CO3)2は熱分解によりCaOが生成し、このCaOが精錬剤として機能するものであり、したがって、本発明ではCaO系の精錬剤(主として生石灰)の一部又は全部に代えて上記固体吸熱物質を供給し、この物質から生成するCaOを実質的な精錬剤として脱燐処理を行うこともできる。すなわち、この場合にはCaO系の精錬剤の一部又は全部に代えて、気体酸素が供給される溶銑浴面領域に、精錬剤生成物質で且つ化学反応又は/及び熱分解反応により溶銑の熱を吸熱する物質として、CaCO3、Ca(OH)2、CaMg(CO3)2の中から選ばれる1種以上(以下「精錬剤生成・吸熱物質」という)を供給するものである。
【0048】
この方法によれば、溶銑浴面に供給された上記精錬剤生成・吸熱物質が熱分解することによって溶銑の吸熱がなされるとともに、この熱分解によって精錬剤となるCaOと吸熱物質となるCO2又はH2Oとが生成し、このCO2又はH2OがFeと反応してさらなる溶銑の吸熱を行うという利点が得られるとともに、気体酸素が供給される溶銑浴面領域にCaO系の精錬剤と吸熱物質をともに供給したと同様の効果が得られ、これらの結果、高い脱燐反応効率を得ることができる。
【0049】
この場合も先に述べたと同様の理由により、上記精錬剤生成・吸熱物質は気体酸素が供給される溶銑浴面領域の中でも、特に上吹きランスによる送酸により生じる“火点”と呼ばれる領域に供給することが好ましい。
上記精錬剤生成・吸熱物質は、通常、未焼成又は半焼成の石灰石、ドロマイトの形で添加される。精錬剤生成・吸熱物質は、その粒度が大きすぎると熱分解等が迅速に進行しないため、平均粒径5mm以下の粉粒物であることが好ましい。また、上記精錬剤生成・吸熱物質は、先に述べたような気体吸熱物質と併用してもよく、また精錬剤生成・吸熱物質を溶銑浴面に供給する際のキャリアガスの一部又は全部として気体吸熱物質を用いてもよい。
【0050】
精錬剤生成・吸熱物質の添加方法に特別な制限はなく、上吹きランスや他のランスによる溶銑浴面への吹き付け、上置き装入(シュータなどを利用した装入)などで添加することができるが、精錬剤生成・吸熱物質を気体酸素が供給された溶銑浴面領域(特に好ましくは“火点”)に確実に供給して先に述べたような効果を得るためには、ランスにより溶銑浴面に供給すること、特に上吹きランスにより溶銑浴面に供給することが好ましい。
【0051】
また、精錬剤生成・吸熱物質を上吹きランスにより溶銑浴面に供給する場合、▲1▼精錬剤生成・吸熱物質を気体酸素と混合して(気体酸素をキャリアガスとして)、同じランス孔から溶銑浴面に供給する方法、▲2▼精錬剤生成・吸熱物質と気体酸素を別々のガス供給ラインを通じてランス内に供給して別々のランス孔から溶銑浴面に供給する方法(精錬剤生成・吸熱物質の供給には気体酸素以外のキャリアガスが用いられる)、のいずれでもよい。
【0052】
精錬剤生成・吸熱物質を気体酸素が供給された溶銑浴面領域に確実に供給するという観点からは上記▲1▼の方法がより好ましいが、上記▲2▼の方法でも所定のランス孔を通じて供給された精錬剤生成・吸熱物質を、他のランス孔を通じて気体酸素が供給された溶銑浴面領域に供給することができる。具体的には、例えば上吹きランス先端の中央ランス孔から気体酸素以外のガスをキャリアガスとして精錬剤生成・吸熱物質を供給し、この中央ランス孔の周囲の他のランス孔から気体酸素を供給するなどの形態が好ましい。キャリアガスとしてはN2やAr等の不活性ガスが好適であり、また、後述するように気体吸熱物質(例えばCO2)をキャリアガスとして用いてもよい。
また、上記▲1▼の方法では、複数のランス孔のうち、一部のランス孔からは気体酸素のみを、また他のランス孔からは精錬剤生成・吸熱物質を混合した気体酸素を、それぞれ溶銑浴面に供給することもできる。
【0053】
精錬剤生成・吸熱物質を気体酸素と混合した状態で上吹きランスを通じて溶銑浴面に供給するには、例えば、上吹きランスの酸素供給ライン(ヘッダー、配管、ランス内の気体酸素流路等)の一部又は全部に精錬剤生成・吸熱物質を供給し、気体酸素と混合すればよい。
また、精錬剤生成・吸熱物質は、上吹きランス以外の他の供給手段(例えば、他のランス)を用いて溶銑浴面に供給してもよい。上吹きランス以外のランスとしては、上吹きランスと同様に炉内の所定位置に粉粒体を供給できるものであればよく、通常、サンプリングや測温などに用いているサブランス等も炉内での冷却能が問題なければ使用できる。また、シューターや流し込み装置などの上置き投入装置でも、高温での耐用性や投入位置の精度などが問題なければ使用してよい。
精錬剤生成・吸熱物質の供給に使用する気体酸素は、純酸素ガス、酸素含有ガスのいずれでもよい。
【0054】
【実施例】
[実施例1]
高炉から出銑された溶銑を鋳床で脱珪処理した後、これを溶銑鍋に受銑してこの溶銑鍋内で脱珪処理し、排滓した後、脱燐処理用の300トン転炉に溶銑を装入した。脱燐処理では、上吹きランスを通じて酸素ガスを溶銑浴面に吹き付けるとともに、▲1▼上記酸素ガスをキャリアガスとして粒径3mm以下の石灰粉(精錬剤)を溶銑浴面に吹き付ける、▲2▼塊石灰(精錬剤)を上置き装入する、のいずれかの方法で精錬剤の添加を行った。転炉の炉底から窒素ガスを0.1Nm3/min/溶銑tonの供給量で吹き込んで溶銑を撹拌しながら、10〜11分間の脱燐処理を行った。また、脱燐処理前の溶銑温度とスクラップ添加量を調整して、脱燐処理終了時の溶銑温度を制御した。
各実施例の結果を、脱燐処理条件とともに表1及び表2に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
[実施例2]
高炉から出銑された溶銑を鋳床で脱珪処理した後、これを溶銑鍋に受銑してこの溶銑鍋内で脱珪処理し、排滓した後、脱燐処理用の300トン転炉に溶銑を装入した。脱燐処理では、上吹きランスを通じて酸素ガスを溶銑浴面に吹き付けるとともに、▲1▼上記酸素ガスをキャリアガスとして粒径1mm以下の石灰粉(精錬剤)を溶銑浴面に吹き付ける、▲2▼塊石灰(精錬剤)を上置き装入する、のいずれかの方法で精錬剤の添加を行った。吸熱物質はCaCO3又はCa(OH)2(いずれも粒径1mm以下)を用い、上記▲1▼の場合は予め石灰粉と所定の割合になるように混合しておき、石灰粉とともに溶銑浴面に吹き付けた。また、上記▲2▼の場合は、上吹きランスを通じて酸素ガスをキャリアガスとして溶銑浴面に吹き付けた。転炉の炉底から窒素ガスを0.1Nm3/min/溶銑tonの供給量で吹き込んで溶銑を撹拌しながら、10〜11分間の脱燐処理を行った。また、脱燐処理前の溶銑温度とスクラップ添加量を調整して、脱燐処理終了時の溶銑温度を制御した。
各実施例の結果を、脱燐処理条件とともに表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
【発明の効果】
以上述べたように本発明の低燐溶銑の製造方法によれば、CaF2の添加量を従来に較べて大幅に削減し若しくはCaF2を添加することなく、精錬剤の滓化を効果的に促進して効率的な脱燐処理を行うことができる。また、処理終了後の溶銑温度が高いため、後工程での熱余裕を十分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】CaF2無添加の脱燐処理における、溶銑中Si濃度及び脱燐処理後の溶銑温度と脱燐石灰効率とのの関係を示すグラフ
【図2】脱燐処理後の溶銑温度1360〜1450℃の脱燐処理における、CaF2添加量と脱燐石灰効率との関係を示すグラフ
【図3】脱珪工程及び本発明法による脱燐工程の一例を示す説明図
【図4】上吹きランスを用いた気体酸素、精錬剤及び吸熱物質の溶銑浴面への供給形態例を示す説明図
【符号の説明】
1…トーピードカー、2…溶銑、3…脱珪用ランス、4…転炉型脱燐炉、5…上吹きランス、6…スラグ、7…出湯口
Claims (12)
- 高炉で製造された溶銑又は高炉で製造された後、脱珪処理された溶銑を容器内に保持し、該容器内に酸素源とCaO源である精錬剤を添加して、溶銑予備処理である脱燐処理を行うことにより低燐溶銑を製造する方法において、
Si濃度が0.10mass%以下の溶銑に対して、CaF2の添加量を1kg/溶銑ton以下若しくはCaF2を実質的に添加しない条件で、上吹きランスを通じて気体酸素と精錬剤の少なくとも一部を溶銑浴面に吹き付けることにより脱燐処理を行うとともに、脱燐処理終了時の溶銑温度を1360℃〜1450℃とすることを特徴とする低燐溶銑の製造方法。 - 上吹きランスから供給される精錬剤の少なくとも一部が、気体酸素が吹き付けられる溶銑浴面領域に吹き付けられることを特徴とする請求項1に記載の低燐溶銑の製造方法。
- 上吹きランスから供給される精錬剤の少なくとも一部が、気体酸素の吹き付けにより溶銑浴面に生じる火点に吹き付けられることを特徴とする請求項2に記載の低燐溶銑の製造方法。
- 精錬剤の少なくとも一部を、気体酸素をキャリアガスとして溶銑浴面に吹き付けることを特徴とする請求項2又は3に記載の低燐溶銑の製造方法。
- 気体酸素が供給される溶銑浴面領域に化学反応又は/及び熱分解反応により溶銑の熱を吸熱する物質を供給することを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の低燐溶銑の製造方法。
- 化学反応又は/及び熱分解反応により溶銑の熱を吸熱する物質の少なくとも一部を、気体酸素の吹き付けにより溶銑浴面に生じる火点に供給することを特徴とする請求項5に記載の低燐溶銑の製造方法。
- 化学反応又は/及び熱分解反応により溶銑の熱を吸熱する物質が、二酸化炭素、水蒸気、窒素酸化物、金属の炭酸塩、金属の水酸化物の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項5又は6に記載の低燐溶銑の製造方法。
- 化学反応又は/及び熱分解反応により溶銑の熱を吸熱する物質が、熱分解によりCO2又はH2Oを発生する金属の炭酸塩、熱分解によりCO2又はH2Oを発生する金属の水酸化物の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項7に記載の低燐溶銑の製造方法。
- 化学反応又は/及び熱分解反応により溶銑の熱を吸熱する物質が、CaCO3、Ca(OH)2、CaMg(CO3)2の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項8に記載の低燐溶銑の製造方法。
- 気体酸素が供給される溶銑浴面領域に、CaO源である精錬剤の一部又は全部に代えて、精錬剤生成物質で且つ化学反応又は/及び熱分解反応により溶銑の熱を吸熱する物質として、CaCO3、Ca(OH)2、CaMg(CO3)2の中から選ばれる1種以上を供給することを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の低燐溶銑の製造方法。
- CaCO3、Ca(OH)2、CaMg(CO3)2の中から選ばれる1種以上の少なくとも一部を、気体酸素の吹き付けにより溶銑浴面に生じる火点に供給することを特徴とする請求項10に記載の低燐溶銑の製造方法。
- 脱燐処理により発生する排ガスのガス組成分析値と排ガス温度から脱燐処理中の溶銑温度を算出し、脱燐処理終了後の溶銑温度を制御することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11に記載の低燐溶銑の製造方法。
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