JP3665600B2 - 溶銑脱燐方法 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は溶銑脱燐処理において、フラックスの添加方法を適正化することにより、高精度・高速な精錬を可能とする方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
高まる製鋼トータルコストのミニマム化や低燐鋼の安定溶製のニーズから、近年溶銑予備処理は強撹拌条件下での脱燐精錬が可能な、上吹き酸素を用いた転炉型容器による方法へと移行しつつある。
【0003】
他の多くの予備処理と同様、この転炉型予備処理においては、脱燐反応は簡単に次式で示される。
2[P]+5[O]+3CaO→3CaO・P25 ・・(1)
ここで、[P],[O]はスラグ・メタル界面に存在するPとOであり、PがOにより酸化された後、スラグ中のCaOで固定化されると言われている。従って、スラグ中のCaO濃度が高い程、また、スラグ・メタル界面の酸素活量が高いほど、脱燐反応は効率良く進行する。
【0004】
しかしながら、スラグ中CaO濃度を増加するために多量の生石灰を脱燐用フラックスとして添加すると、生成スラグ量が増大する。CaO濃度が高いスラグは粉状化しやすいため、路盤材などへの有効利用が困難であり、スラグの多くは埋め立て処分されるなどして処理コストが増大する。少量の生石灰添加で、CaO濃度を低くすると有効利用しやすくなるとともに生成スラグ量も低減できる。ただし、その場合は、脱燐反応を進行させるためにスラグ・メタル界面の酸素活量を高める必要がある。
【0005】
従来の技術では、上吹き酸素や鉄鉱石などの酸化鉄源の添加によりスラグ中酸化鉄濃度を高める脱燐精錬を行っている。しかし、溶銑の脱燐精錬の場合、スラグ・メタル界面の脱炭反応が同時に進行するため、バルクスラグの酸化鉄濃度と平衡する酸素活量よりスラグ・メタル界面の酸素活量はかなり低くなっている。そのため、脱燐速度や脱燐効率が不充分であると共に、スラグ中の酸化鉄濃度を過剰に高めているが故にスロッピングによる操業不安定や鉄歩留まりの低下、生成スラグ量増大などを招くという問題があった。
【0006】
この問題に関し本発明者らが属するグループでは、上吹き酸素をスラグにより遮断し、溶銑表面に接触しないように吹きつけることにより、極めて速く脱燐を進行させる技術を開発した(特願2001−48592)。本発明者らはさらに研究を重ね、上述の酸素遮断吹錬時のフラックス添加方法に関して新たな知見を得、少ない副材量で、効率の良い脱燐方法を可能とし、処理後スラグの再利用も容易となる方法を開発した。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来技術が持つ、スラグ中の酸化鉄濃度を過剰に高めることに起因する、操業不安定、鉄歩留まり低下及び生成スラグ量増大といった問題を解決し、副材料使用量の削減、操業安定性の向上をもたらす、効率の良い精錬を可能とする方法に関する。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は以下の各方法にある。
(1)上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しない溶銑脱燐処理において、溶銑中に石灰と酸化鉄を主成分とするフラックスを酸素もしくは不活性ガスまたはそれらの混合ガスをキャリアガスとして一緒に吹き込む溶銑脱燐方法。
(2)トップスラグの設定塩基度を、初期1.8以下、末期で2.5以下とすることを特徴とする(1)に記載の溶銑脱燐方法。
【0009】
【発明の実施の形態】
通常、転炉型容器を用いた溶銑の脱隣精錬においては、溶銑装入後に生石灰を主体とする脱隣用フラックスを添加し、上吹き酸素により溶銑中のPを酸化して脱隣を行う。この際、上吹き酸素ジェットはスラグ層を突き抜けて直接溶銑表面に接触した状態となっている。本発明では、ランスのノズル径とノズル数の適正な設計と、フラックスの添加量に応じた操業中の上吹き酸素流量とランス高さの調整により、図1で示すように、上吹き酸素がスラグで遮断され、直接溶銑表面に接触しないように制御する。
【0010】
上吹き酸素をスラグにより遮断し、溶銑表面に接触しないようにするためには、下記(1)式で計算される酸素ジェットによるスラグ凹み深さLSが下記(2)式で計算される酸素ジェットが当たっていない部分のスラグ厚みLSo未満となるように定めると良い。
S=Lhexp(−0.78h/Lh) (1)
但し、Lh=63×(ρSM)-1/3×(Fo/n/d)2/3
S :酸素ジェットによるスラグ凹み深さ(mm)
h :ランス先端から酸素ジェットが当たっていない部分のスラグ上面までの距離(mm)
h :h=0のときのスラグ凹み深さ(mm)
ρS :スラグの嵩密度(=約1500kg/m3)
ρM :溶銑の密度(=6900kg/m3)
Fo:上吹き酸素流量(Nm3/h)
n :上吹きランスのノズル孔数(−)
d :上吹きランスのノズル孔直径(mm)
So=WS/ρS /(πD2/4)×1000 (2)
但し、WS=WCaO/(%CaO)f×100
So :酸素ジェットが当たっていない部分のスラグ厚み(mm)
S :スラグ質量(kg)
D :スラグ表面における精錬容器の内直径(m)
CaO :添加フラックス中の総CaO質量(kg)
(%CaO)f:精錬後のスラグ中CaO濃度(質量%)
【0011】
本発明者らが小型炉を用いて実施した溶銑脱隣実験の結果から、酸素がスラグにより遮断されて溶銑表面に接触しないように吹き付けた条件下においては、接触するように酸素を吹き付けた条件下での実験と比較して、同一のスラグ中酸化鉄濃度においても極めて脱隣が速くかつ低P濃度まで進行することがわかっている。そのときのスラグ中と溶銑中のP濃度から推定されるスラグ・メタル界面の酸素活量と、スラグ中の酸化鉄と平衡する酸素活量を比較すると、酸素が溶銑と接触する場合には前述のようにスラグ中酸化鉄と平衡する酸素活量に比べて推定したスラグ・メタル界面の酸素活量がかなり低くなっているのに対し、酸素が溶銑と接触しないようにした場合にはスラグ・メタル界面の酸素活量がスラグ中酸化鉄と平衡する酸素活量に近く、むしろそれよりも高くなっている場合が多かった。
【0012】
酸素が溶銑に接触すると、まず鉄を酸化して純粋な酸化鉄を生成する。この酸化鉄は溶銑中のCにより還元され、還元しきれなかった酸化鉄がスラグ中へ移行し、スラグ・メタル界面で脱隣に寄与する。このとき、スラグ中酸化鉄はスラグ・メタル界面で溶銑中Cによっても還元されるため、界面近傍の酸化鉄濃度はバルクスラグの酸化鉄濃度より低くなり、平衡する酸素活量もバルクスラグの酸化鉄と平衡する酸素活量よりも低くなる。一方、脱隣精錬時のような約3%以上の酸化鉄を含むスラグは、例えばTransaction ISIJ, 20(1980), pp801-809 でも示されているように、スラグ中の鉄イオンの価数変化(Fe2+⇔Fe3+)すなわち正孔の移動により、極めて速く酸素を透過することが知られている。したがって、酸素が溶銑に接触しない場合でも、スラグに接した酸素は高速でスラグ中を移行し、スラグ・メタル界面に達する。界面に達した酸素により、PやCの酸化と同時に鉄の酸化も起こるため、界面近傍のスラグ中酸化鉄濃度はバルクスラグの酸化鉄濃度よりもむしろ高くなり、それと平衡する界面の酸素活量もバルクスラグの酸化鉄濃度から推定する活量よりも高くなる。
【0013】
上記の理由により、上吹き酸素をスラグ中で遮断して溶銑表面に接触しないように制御することで、従来と同量の脱隣フラックス添加の場合には、脱隣反応は高速かつ低P濃度まで進行するため低P鋼の溶製が容易になる。また、少量の脱隣フラックス添加によっても従来と同等の脱隣能を有するため、発生スラグ量も低減される。
【0014】
上吹き酸素噴流をスラグにより遮断した吹錬では、液相スラグ中のFeイオンの価数変化を利用して酸素を透過するため、スラグの液相率を高めておくことが重要である。脱燐初期に速やかに酸素噴流の遮断を行うためには、早期に生石灰などの脱燐フラックスの滓化を促進することが必要とされる。また、遮断後の反応速度を速めるためにも、スラグ全体での物質移動速度を考慮すると液相率は高い方が望ましい。したがって、吹錬初期には、スラグ液相率を低めるためCaO濃度を低位に保持せしめることが望ましい。一方、吹錬末期はスラグ脱燐能を確保するためには高いCaO濃度が必要となってくる。従って、脱燐処理中にスラグ中CaO濃度の上昇、つまりCaO含有物の添加が必要となる。
【0015】
本発明者らは、このCaO含有物の添加方法として、キャリアガスを用いた溶銑中へのフラックス吹き込みが最も効果的であることを見出した。
【0016】
本発明者らが行った実験では、遮断吹錬時に塊状の石灰含有物をスラグに上方添加すると、急激な固相率の上昇と温度降下が生じるために、スラグの流動性が過度に低下し、酸素遮断が不可能となることが多く、処理の不安定性が増した。一方、キャリアガスを用いた溶銑中へのフラックス吹き込みでは、スラグによる酸素遮断を阻害することなく、スラグ中CaO濃度の増加が可能であった。これは、粉体として供給されたフラックスがスラグに到達する前に加熱され、スラグの著しい温度降下を生じさせず、かつ、粉体であるために比表面積が大きく、容易に滓化可能であるということによる。
【0017】
また、酸素を含有するキャリアガスによって、あるいは酸化鉄と共に溶銑中に直接吹き込まれた場合、石灰の一部はカルシウムフェライトとなり、トップスラグ内の固相率の増加を緩和可能であると共に、浮上中の脱燐反応によりさらに高速度で脱燐が可能となる。また、通常のインジェクションプロセスと比較し界面酸素活量が高いためにトップスラグからの復燐も生じ難い。
【0018】
ここで、キャリアガスを用いた溶銑中へのフラックス吹き込みとは、溶銑中に浸漬した管、あるいは容器底部または側面に設けたノズルより、酸素もしくは不活性ガスまたはそれらの混合ガスをキャリアガスとして、石灰と酸化鉄を主成分とするフラックスを、溶銑中に供給することを指す。溶銑上方に設けたノズルからのスラグ表面へのフラックスの吹き付けも可能ではあるが、前述した理由により、溶銑中への吹き込みがより効果的である。さらに、不活性ガスとはAr,Ne,N2,CO2のいずれか1種類、またはこれらの内で少なくとも2つ以上の混合ガスを指す。また、石灰としては、生石灰、石灰石、消石灰、ドロマイト、の他に、脱炭滓や脱燐滓に含まれるCaOを利用する場合も包含する。酸化鉄としては鉄鉱石、スケール、ダストの他に、脱炭滓や脱燐滓に含まれる酸化鉄を再利用する場合も包含する。
【0019】
また、ハロゲン化物を使用すると、耐火物の溶損が問題となるため、本発明ではハロゲン化物(蛍石、塩化カルシウムに代表されるF,Clなどの化合物)を使用しないことが望ましい。
【0020】
請求項2は、脱燐初期と末期のトップスラグの塩基度を規定し、石灰添加の指針となるものである。
【0021】
これまで述べてきた通り、遮断吹錬では脱燐初期のスラグ流動性が重要であるため、初期には流動性に高い相関をもつ設定塩基度はより低位であることが望ましい。ここで、設定塩基度とは投入するCaO量と、溶銑中珪素が全て脱珪されたとして物質収支計算から求められるSiO2生成量の重量比(CaO)/(SiO2)である。また、初期の設定塩基度とは、脱燐処理の開始時点までに投入された石灰分、及び、脱燐処理が開始されてから上方より添加された石灰分の総和を対象に求められる設定塩基度を指す。これまで述べてきた主旨により、脱燐が開始されてから上方より石灰を添加する場合は脱燐処理の前期1割の時間までに投入完了することが望ましい。送酸速度を一定として初期の塩基度を変更し、酸素噴流の遮断が確認された時間を調査した結果、塩基度が1.8以下であれば、十分な液相率が得られ、速やかにスラグによる酸素噴流が遮断され、遮断後の脱燐速度も十分であることが分かった。また、設定塩基度は低いほど遮断が容易となるため下限は特に定めないが、過剰なフォーミングが問題となるため、炉容、送酸能力、撹拌能力、粉体供給能力に合わせた制御が必要となる。
【0022】
また、脱燐末期は界面のみではなく、スラグ全体の脱燐能、特にCaO濃度が重要となってくる。したがって、この視点からは脱燐処理の終点での塩基度は高い程良い。しかし、遮断吹錬の継続を狙う場合、塩基度が高くなるとスラグ固相率が上昇し、遮断が不可能となるので、設定塩基度の上限は2.5とした。また、設定塩基度は高いほどスラグ全体の脱燐能が上がるため、特に下限は設けない。ただし、吹錬中の石灰供給を行っているので、吹錬初期に比して塩基度は必然的に高い。
【0023】
本願の主成分という意味は、石灰と酸化鉄の少なくとも一種以上を33質量%以上含有することを意味する。
【0024】
【実施例】
(実施例1)
実施例は6t規模の上底吹き転炉を用いて実施した。上吹きランスはノズル穴直径20φの6孔ランスを用い、酸素供給速度は脱燐処理中終始500Nm3/hとした。上吹きランス高さは、ランス先端からスラグ表面までの距離が1.7m一定となるように調整した。底吹きは単管とし窒素を処理の全般にわたり、22Nm3/h供給した。また、この底吹き配管を用いて、フラックスを溶銑中に吹き込んだ。
【0025】
溶銑の初期成分はC:4.3質量%、Si:0.05質量%、P:0.10質量%で温度は1300℃であった。処理前には生石灰を設定塩基度が1.2となるべく、CaO換算で7.7kg上部バンカーから投入した。送酸開始と共に、CaO換算で5.1kgの生石灰とFe23換算で2.2kgの酸化鉄の混合粉を10分間に渡り底吹き配管より溶銑中に吹き込みつつ、脱燐精錬を10分間行った。送酸開始後約2分までに、スラグによる酸素噴流の遮断が確認された。その結果、終点では設定塩基度が2.0、スラグ量は30kgであり、溶鉄中燐濃度は0.010質量%であった。
【0026】
(比較例1)
比較例1では、底吹きノズルからのフラックス吹き込みを行わず、初期の生石灰添加量をCaO換算で11.6kg上部バンカーより添加した以外は、実施例1と全く同様の試験を行った。この時、初期の設定塩基度は2.0であった。送酸開始から4分の時点でスラグによる酸素噴流遮断が確認された。終点では設定塩基度が2.0、スラグ量は29kgであり、溶鉄中燐濃度は0.020質量%であった。
このように、実施例1は比較例1に対し、良好な脱燐挙動を示した。
【0027】
(実施例2)
実施例2では、初期成分C:4.3質量%、Si:0.40質量%、P:0.10質量%、初期温度1300℃の溶銑を用いて、脱珪及び脱燐精錬を行った。底吹きに関しては実施例1と同様で、石灰と酸化鉄の混合粉を吹き込んだ。上吹きランスの形状は実施例1と同等である。
【0028】
設定塩基度1.2に相当する、CaO換算で61.7kgの生石灰を上部バンカーより投入した後、送酸速度1000Nm3/h、上吹きランス高さをランス先端からスラグ表面までの距離が1.0mとして、吹錬を開始した。この状態で2分間吹錬した後、送酸速度を500Nm3/h、ランス高さを1.7mに変更し、CaO換算で41.1kgの生石灰とFe23換算で17.6kgの酸化鉄の混合粉を底吹き配管より10分間に渡り溶銑中に吹き込みつつ、さらに10分間吹錬を続けた。送酸速度とランス高さを変更した時点から30秒後には、スラグによる酸素噴流の遮断が確認された。終点では設定塩基度が2.0、スラグ量は240kgであり、溶鉄中燐濃度は0.008質量%であった。
【0029】
(比較例2)
比較例2では、底吹きノズルからのフラックス吹き込みを行わず、初期の生石灰添加量をCaO換算で102kg上部バンカーより添加した以外は、実施例2と全く同様の試験を行った。この時、初期の設定塩基度は2.0であった。送酸開始から4分、つまり送酸条件変更から2分の時点でスラグによる酸素噴流遮断が確認された。終点では設定塩基度が2.0、スラグ量は235kgであり、溶鉄中燐濃度は0.015質量%であった。
このように、実施例2は比較例2に対し、良好な脱燐挙動を示した。
【0030】
【発明の効果】
本発明によって、スラグ中の酸化鉄濃度を過剰に高めることに起因する、操業不安定、鉄歩留まり低下及び生成スラグ量増大といった問題を解決し、副材料使用量の削減、操業安定性の向上をもたらす、効率の良い精錬が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶銑脱燐精錬時の転炉型容器内の酸素噴流、スラグ、溶銑の状況を示す模式図。
【符号の説明】
1 転炉型容器
2 上吹きランス
3 溶銑
4 スラグ
5 酸素ジェット

Claims (2)

  1. 上吹き酸素がスラグにより遮断されて直接溶銑に接触しない溶銑脱燐処理において、溶銑中に石灰と酸化鉄を主成分とするフラックスを酸素もしくは不活性ガスまたはそれらの混合ガスをキャリアガスとして一緒に吹き込む溶銑脱燐方法。
  2. トップスラグの設定塩基度を、初期1.8以下、末期で2.5以下とすることを特徴とする請求項1に記載の溶銑脱燐方法。
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