JP4649690B2 - 反射防止積層体およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は反射防止積層体に関するもので、ガラスやプラスチックなどの透明基材などに光干渉多層膜を塗工して、反射防止性を付与した積層体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ガラスやプラスチックなどの基材に、酸化チタンや酸化ケイ素などの無機酸化物を蒸着法あるいはスパッタ法などのドライコーティングによって薄膜を形成して反射防止膜などの光干渉による光学多層膜を形成する方法が知られており、その光学設計は基材表面から順次高屈折率層/低屈折率層(光学膜厚がλ/4−λ/4)積層した2層構成、中/高/低(λ/4−λ/4−λ/4)の3層構成などが知られている。
【0003】
しかし、このようなドライコーティングプロセスでは装置が高価で、成膜速度が遅く、生産性が高くないなどの課題を有している。
【0004】
これに対して金属アルコキシドなどを出発組成とし、基材に塗工して光学多層膜を形成する方法が知られており、高屈折率材料としてはTiやZrなどのアルコキシドを用い、低屈折率材料としてはSiなどのアルコキシドやF系のアクリル化合物などを用いる方法が提案されている。
【0005】
しかしこれらの塗膜では、乾燥重合に高温、長時間を必要とするため生産性に問題がある。またある程度の反射防止膜を得ることはできるが、硬度や耐擦傷性、基材との密着性などの物理的強度が不十分であり、光学多層膜は最外層に使用されるため、強度が不十分では実用に耐えることができないといった欠点を有している。
【0006】
これらを改善するために、金属アルコキシドとアクリル化合物との複合材料などが提案されている(特開平8−297201など)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの複合膜組成物は、硬度や耐擦傷性などの物理的強度を向上させようとするとアクリル系モノマー成分比率を高くする必要があり、光学特性を決定するTi系などのアルコキシドを出発組成とする高屈折率酸化物の体積比が抑制され高屈折率化をはかることができないという欠点を有し、この材料を用いた反射防止膜では十分な強度(硬度や耐擦傷性、密着性などの物理的強度)を維持しかつ反射防止性能に優れる積層体は見出されていない。
【0008】
そこで、本発明は、高い反射防止性能を有しかつ物理的的強度にも優れ、安価で、生産性に優れた反射防止積層体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上述の課題を達成すべく検討した結果、プラスチックやガラスなどの基材の少なくとも一方に、ハードコート層/高屈折率層/低屈折率層あるいはハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層を順次積層してるなる多層構成の反射防止膜が形成された積層体において、各層の境界の少なくとも1ヶ所に、該境界を挟んだ上下各層の中間的な屈折率をもつ中間境界層を形成することで課題を解決できることを見出し、本発明に至ったものである。
【0010】
具体的には、請求項1に係る発明は、基材の少なくとも一方に、ハードコート層/高屈折率層/低屈折率層あるいはハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層を順次積層してなる多層構成の反射防止膜が形成された積層体において、各層の境界の少なくとも1ヶ所に、膜厚方向の屈折率分布が不均一であり、該境界を挟んだ上下層と傾斜的な屈折率をもつ中間境界層が形成され、前記中間境界層は、下層が乾燥による硬化の状態で上層を積層することで、下層の一部が上層により浸食され上下層の一部が混合されて形成されたものであり、前記中間境界層が形成される際に下層となる層を構成するコーティング組成物は、熱硬化により架橋する成分とUV硬化により架橋する成分を含有し、前記熱硬化により架橋する成分はR’xM(OR)y−x(R:アルキル基、R’:末端にビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などの重合可能な不飽和結合を有する官能基、yは金属の酸化数xは0≦x<yの置換数、MはTi,Ta,Zr,In,Zn、Si、Alのいずれか1種)で表せる有機金属化合物およびその加水分解物の少なくとも一種であり、前記UV硬化により架橋する成分は多官能アクリル化合物であり、前記中間境界層が形成される際に上層となる層は塗工により積層されていることを特徴とする反射防止積層体に関するものである。
【0011】
請求項2に係る発明は、前記反射防止積層体を構成するハードコート層、高屈折層、中屈折率層、低屈折率層、および中間境界層の各層が、熱硬化により架橋する成分とUV硬化により架橋する成分を含有するコーティング剤を塗布して形成されてなる請求項1に記載の反射防止積層体に関するものである。
【0012】
請求項3に係る発明は、前記中間境界層の光学膜厚が上層もしくは下層の目的の光学膜厚の20/50〜1/50であることを特徴とする請求項1、2何れかに記載の反射防止積層体に関するものである。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明によれば、各層の境界に両者の中間的性質を有する材料を中間境界層として設けることで境界における、硬化時の応力緩和、熱膨張差によるサーマルショックなどに起因する層間強度低下に関わる因子を低減せしめることができ多層化しても十分な強度を発現させることができるものである。
【0016】
境界層の膜厚方向の屈折率分布を傾斜的に変化させることで、さらに効果が期待される。
【0017】
該境界層を設ける方法として、ウェットコーティングによる手法だと、構成する材料の配合比により屈折率を任意に変えることができるため好適であり、なかでもTiやSiなどの金属アルコキシドと分子中にビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などの重合可能な不飽和結合を少なくとも3個以上を有するアクリル系化合物とを主成分とすることで、一般式(A)の金属アルコキシドの加水分解生成物の加熱重合による酸化物ネットワークの形成とUVあるいはEB照射による被膜中のアクルロイル基などの重合可能な不飽和結合基の光(EB)重合による架橋の複合架橋により硬化するものであり、アクリル化合物を3官能とすることで被膜の架橋密度が高くでき好適である。
【0018】
【実施例】
本発明の一実施例を詳細に説明する。
【0019】
本発明の反射防止積層体は、プラスチックやガラスなどの基材の少なくとも一方に、ハードコート層/高屈折率層/低屈折率層あるいはハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層を順次積層してるなる多層構成の反射防止膜が形成された積層体において、各層の境界の少なくとも1ヶ所に、該境界を挟んだ上下各層の中間的な屈折率をもつ中間境界層が形成されるものであり、上記各層構成する材料は、Ti、Siなどの金属アルコキシドと多官能アクリル化合物とを主成分とする組成物からなるものてあり、これを基材に塗工し、加熱乾燥し、被膜を形成した後、UVなどの光照射を施すことでを形成されるもので、各層の設計条件にあわせて適宜、材料を組合せることができるものである。
【0020】
コーティング材料に含まれる各成分について以下に詳述する。
本発明において用いられる、Ti、Siなどの有機金属化合物は一般式R’xM(OR)y−x(R:アルキル基、R’:末端にビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などの重合可能な不飽和結合を有する官能基、yは金属の酸化数xは0≦x<yの置換数、MはTi,Ta,Zr,In,Zn、Si、Alのいずれか1種)で表せる有機金属化合物で、X=0の化合物は一般式M(OR)n(MはSi、Ti,Ta,Zr,In,Znのいずれか1種、Rはアルキル基nは金属の酸化数)(表1ではA1と表示)で表せられるものであり、テトラエトキシシラン、テトラ−iso−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルジルコネートなどが例示され、X≦1のアクリロイル基などを有する有機金属化合物は一般式R’xM(OR)y(R:アルキル基、R’:末端にビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などの重合可能な不飽和結合を有する官能基、yは金属の酸化数xは0<x<yの置換数)(表1ではA2と表示)で表せるもので、ビニルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシトリイソプロポキシチタネートなどが例示される。
【0021】
これらの有機金属化合物は特に例示に限定されるものでなく、2種以上組み合わせても何ら差し支えなく、目的の屈折率に合わせて、金属種などを選択することができ高屈折率成分としては、Ti、Zrなどの金属が好適で、低屈折率成分としてはSi、Alなどが好適である。
【0022】
これらの有機金属化合物はコーティング組成物中にp−トルエンスルホン酸などの有機酸触媒を含有させることで、塗工後に大気中の水分でもって加水分解反応させて被膜形成しても良いし、またあらかじめ水(塩酸などの触媒を含む)を添加し加水分解反応させたものを用いることもできる。
【0023】
その際に、有機金属化合物の加水分解物が、該有機金属化合物の全アルコキシル基を加水分解させるのに必要な水の量よりも1/8〜7/8の量の水で部分加水分解されたものであるとすることで安定な組成物を得ることができ、余分な水を残すことなく特別な分離精製せずに用いることができる。
【0024】
上記の調整は、アクリル化合物と余分な水との副反応を抑制したり、金属化合物の加水分解率をコントロールして、金属化合物ポリマーの成長を抑制したり、相溶性を高めることで、相分離を抑制し均質で分子架橋密度が高く、分子レベルのハイブリッド膜を形成至らしめるものである。
【0025】
また、アクリル化合物は、その分子中にビニル基、アクリロイル基やメタクリロイル基など重合可能なの不飽和結合を少なくとも3個以上有するものであって、例えばDPHAなどのモノマー類と、これらのモノマーの変性体、および誘導体、などが使用できる。
【0026】
なかでもDPHAなど多官能アクリルモノマー類およびその変性体など平均分子量200〜1000のものであれば、有機金属化合物の加水分解物と相溶性が良く、被膜形成時に相分離することなく、架橋密度の高い、均質で透明なハイブリッド被膜が形成できる。
【0027】
UV照射による硬化を行う際には、ラジカル重合開始剤を添加すると好適であり、ベンゾインメチルエーテルなどのベンゾインエーテル系開始剤、アセトフェノン、2、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、などのアセトフェノン系開始剤、ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系開始剤など特に限定されるものではない。
【0028】
さらに、平均粒径1〜50nmの結晶性の酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化インジウムから選ばれる高屈折超微粒子、シリカゾル、酸化珪素微粒子などの低屈折微粒子などを添加することができる。これらの微粒子を添加する技術は公知ではあるが、本発明のハイブリッド系組成物との組み合わせは、単なる組み合わせではなく、マトリックスであるコート組成物の無機のネットワークと無機フィラーとの相溶性、親和性が高く、単に有機樹脂中に分散するより、より良い分散状態、フィラーとマトリックスとの密着性が高い被膜が得られ、通常の添加効果よりも高い効果が得られるものである。
【0029】
上述した各成分をいくつか組み合わせてコーティング組成物に加えることができ、さらに、物性を損なわない範囲で、分散剤、安定化剤、粘度調整剤、着色剤など公知の添加剤を加えることができる。
【0030】
コーティング組成物の塗布方法には、通常用いられる、ディッピング法、ロールコティング法、スクリーン印刷法、スプレー法など従来公知の手段が用いられる。
被膜の厚さは目的の光学設計にあわせて、液の濃度や塗工量によって適宜選択調整することができる。
【0031】
本発明の境界層は多層化に際し光学特性に影響のでない程度の膜厚とすることで、境界層を上下層の一部として計算することができることを見出した。
【0032】
すなわち境界層と下層もしくは上層のとの2層で光学的に1層と見なすことができるもので、概ねその膜厚は目的の光学膜厚(λ/4)の20/50〜1/50であり、下層もしくは上層もそれに応じて膜厚を調整する必要がある。
【0033】
また、本発明の境界層は、上記材料を組み合わせた組成物をウェットコーティングにより形成されるものであるが、配合比を組み合わせて別途境界層を設置してもよいが、さらに好適にはウェットコーティングの利点を活かして下層の硬化状態(乾燥状態)を乾燥条件、あるいはUV照射条件を調整することで、半硬化状態とした上に積層することで、下層と上層の一部で混合層を形成せしめることで、簡便に形成することができるもので、本発明の材料組成は熱硬化により架橋する成分とUV硬化により架橋する成分より構成されるためこの半硬化状態を容易に形成できるものである。さらに、硬化条件によっては境界層の屈折率が膜厚方向に傾斜的に変化させることができるものである。
【0034】
本発明のコーティング組成物を具体的な実施例をあげて説明する。
【0035】
<実施例>
下記組成の材料を表1に示す割合になるように組み合わせて調液してハードコート層、高屈折率層、低屈折率層用の各コーティング組成物を作成し、UV硬化の開始剤としてアセトフェノン系開始剤を重合成分に対して2%添加した。
【0036】
基材として80μm厚のTACを用い、各材料をHC/高/低の順に、バーコーターにより塗布し、乾燥機で100℃−1min乾燥し、全層積層後に高圧水銀灯により1,000mJ/cm2の紫外線を照射して硬化させ反射防止積層体を得た。積層に際し、各層の光学膜厚(nd=屈折率n*膜厚d(nm))がnd=550/4nmになるよう適宜濃度調整をして、各種試験用の試験体を得た。
【0037】
本発明の比較例として積層の際に、各層積層毎にUV照射を実施して完全硬化状態で積層し境界層がない試験体を合わせて作成した。
【0038】
境界層の確認はESCAにより、各積層体の深さ方向の分析により実施し、比較例のものは高屈折率材料のTiの比率が深さ方向で層間付近で急激に変化し、境界層が存在していないのに対し、本実施例の積層体はHCと高屈折率層および高屈折率層と低屈折率層の各層間に上下層の1/5程度の膜厚に相当する範囲においてTiの濃度が傾斜的に変化している境界層が生成されていたのを確認した。
【0039】
実施例および比較例の試験体を下記評価方法にて評価した。
表2に結果を示す。
【0040】
<コーティング組成物の各成分>
(A)テトライソプロポキシドチタンとメタクリロキシプロピルトリメトキシシランを表1に示す固形分比になるように所定量混合し、混合物1molに対して0.1Nの塩酸2molとイソプロピルアルコールを添加、室温で2時間攪拌反応させた、複合加水分解ゾル溶液。
各成分の比率はA1を酸化チタン成分、A2をその他の成分とした。
(B)DPHAのIPA希釈溶液。
(C)平均粒径25nmの市販のシリカゾルIPA分散型
【0041】
<評価試験>
(1)光学特性
分光光度計により入射角5で550nmにおける反射率を測定し、反射率値か被膜の屈折率を見積もった。
【0042】
(2)密着性
塗料一般試験法JIS−K5400のクロスカット密着試験方法に準じて塗膜の残存数にて評価した。
【0043】
(3)鉛筆硬度
塗料一般試験法JIS−K5400の鉛筆引っかき値試験方法に準じて塗膜の擦り傷にて評価した。
【0044】
(4)耐擦傷試験
スチールウール#0000により、250g/cm2の荷重で往復5回擦傷試験を実施、目視による傷の外観を検査した。
評価は、傷なし◎、かるく傷あり○、かなり傷つく△、著しく傷つくの4段階とした。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
表2に示すように、反射防止特性は実施例、比較例とも反射率が0.5%以下で良好であるが、本発明の実施例の用に境界層を設けた積層体は耐擦傷性などの機械的強度に優れることがわかる。
【0048】
【発明の効果】
以上述べたように本発明の積層体は、M−O−Mの金属酸化物架橋とアクリル基の架橋を有し金属酸化物と有機化合物の分子レベルのハイブリッド構造を呈した被膜により構成され、層間に境界層を設置することで光学特性と物理的強度特性とを兼備した反射防止膜を形成することができるものである。
【0049】
すなわち、ディスプレイの反射防止膜などの基材の最外層に形成され、過酷な環境や取り扱いにも充分に耐えられる被膜を形成することができ、蒸着などと比べ装置コストも比較的安価で、成膜(塗工)速度も10倍以上で生産性も高く、製造も容易である。
【0050】
また本発明構成する組成物は、光照射などで硬化するため、低温での塗工が可能なので、フィルムなどのを巻き取り塗工で作成することが可能で、さらに下層の硬化状態を制御することで、任意に境界層を別途層を設けることなく作成できるため、安価に、大量生産できるといった効果を奏する。
Claims (3)
- 基材の少なくとも一方に、ハードコート層/高屈折率層/低屈折率層あるいはハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層を順次積層してなる多層構成の反射防止膜が形成された積層体において、各層の境界の少なくとも1ヶ所に、
膜厚方向の屈折率分布が不均一であり、該境界を挟んだ上下層と傾斜的な屈折率をもつ中間境界層が形成され、
前記中間境界層は、下層が乾燥による硬化の状態で上層を積層することで、下層の一部が上層により浸食され上下層の一部が混合されて形成されたものであり、
前記中間境界層が形成される際に下層となる層を構成するコーティング組成物は、熱硬化により架橋する成分とUV硬化により架橋する成分を含有し、
前記熱硬化により架橋する成分はR’xM(OR)y−x(R:アルキル基、R’:末端にビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などの重合可能な不飽和結合を有する官能基、yは金属の酸化数xは0≦x<yの置換数、MはTi,Ta,Zr,In,Zn、Si、Alのいずれか1種)で表せる有機金属化合物およびその加水分解物の少なくとも一種であり、前記UV硬化により架橋する成分は多官能アクリル化合物であり、
前記中間境界層が形成される際に上層となる層は塗工により積層されていることを特徴とする反射防止積層体。 - 前記反射防止積層体を構成するハードコート層、高屈折層、中屈折率層、低屈折率層、および中間境界層の各層が、熱硬化により架橋する成分とUV硬化により架橋する成分を含有するコーティング剤を塗布して形成されてなる請求項1に記載の反射防止積層体。
- 前記中間境界層の光学膜厚が上層もしくは下層の目的の光学膜厚の20/50〜1/50であることを特徴とする請求項1、2何れかに記載の反射防止積層体。
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