JP4648879B2 - リチウム二次電池用負極の製造方法 - Google Patents

リチウム二次電池用負極の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、リチウム二次電池に使用される負極の製造方法に関する。
リチウムイオンの吸蔵放出により充電・放電を行うリチウム二次電池は、高容量、高電圧、高エネルギー密度といった特徴を兼ね備えていることから、OA機器、なかでも携帯電話、パソコン等の携帯情報機器の電源として非常に多く使用されている。このリチウム二次電池では、充電時に正極から負極へリチウムイオンが移行し、負極に吸蔵されたリチウムイオンが放電時に正極へ移行する。
リチウム二次電池の負極を構成する負極活物質としては、炭素粉末が多用されている。これは後で詳しく述べるが、炭素負極の容量、初期効率及びサイクル特性といった各種特性の総合的な評価が高いためである。そして、この炭素粉末は、結着剤溶液と混合されてスラリー化され、そのスラリーを集電板の表面に塗布し乾燥後、加圧する粉末混練塗布乾燥法により負極シートとされる。ちなみに、正極を構成する正極活物質としては、リチウムを含有する遷移金属の酸化物、主にLiCoO2 などが使用されている。
現在多用されている炭素負極の問題点の一つは、他の負極に比べて理論容量が小さい点である。理論容量が小さいにもかかわらず、炭素負極が多用されているのは、初期効率、サイクル寿命といった容量以外の特性が高く、諸特性のバランスが良いためである。
携帯情報機器用電源として多用されるリチウム二次電池に関しては、更なる容量増大が求められており、この観点から炭素粉末より容量が大きい負極活物質の開発が進められている。このような負極活物質の一つがSiOであり、SiOの理論容量は炭素の数倍に達する。このSiO負極は、炭素負極と同様、SiOの微粉末を結着剤溶液と混合してスラリー化し、そのスラリーを集電板の表面に塗布積層し乾燥後、加圧する粉末混練塗布乾燥法により作製されている(特許文献1、2)。
特開平10−50312号公報 特開2002−71542号公報
ところが、このように理論容量が大きいSiO負極も未だ実用化には至っていない。その最大の理由はSiO負極の初期効率が極端に低いからである。
初期効率とは、初期充電容量に対する初期放電容量の比率であり、重要な電池設計因子の一つである。これが低いということは、初期充電で負極に注入されたリチウムイオンが初期放電時に十分に放出されないということであり、この初期効率が低いと如何に理論容量が大きくとも、実用負極容量が大きくならず、実用化は困難である。
加えて、これまでのSiO負極はサイクル特性も十分でない。サイクル特性とは、充放電を繰り返したときの放電容量の、1サイクル目の放電容量に対する維持特性である。これが低いと、充放電の繰り返しに伴って放電容量が低下し、実用負極容量が減少するため、実用化は困難である。つまり、二次電池用負極に求められる性能は、理論容量が大きく、同時に初期効率及びサイクル特性が高くなければならないということである。これまでのSiO負極は、後者の2特性が良くないために実用化に至っていないのである。
更に、リチウム二次電池は更なる小型化が要求されているが、粉末混練塗布乾燥法によって作製されるSiO負極では、SiO層が低密度の多孔質体となるため、小型化が難しいという問題もある。
ちなみに、前記の特許文献1、2では、SiO負極のサイクル特性を向上させるためにSiO層形成前のSiO粉末に非酸化性雰囲気で熱処理が実施されている。
このような状況下で本発明者らは、集電体の表面に真空蒸着によりSiOの緻密層(薄膜)を形成することを企画した。その結果、このような薄膜型SiO負極では、粉末混練塗布乾燥法で形成される従来の粉末型SiO負極と比べて単位体積当たりの容量が増加するだけでなく、そのSiO層で問題になっていた初期効率の低さが飛躍的に改善され、合わせてサイクル特性も向上することが判明した。また、真空蒸着のなかではイオンプレーティング法によって形成された薄膜が特に高性能であることが判明した。
このような知見を基礎として、本発明者は先に、集電体の表面にSiO、厳密にはSiOx(0.5≦x<1.2)の緻密な薄膜を形成した薄膜型SiO負極を特許出願し(特許文献3)、同時にその薄膜型SiO負極の更なる改良に取り組んだ。その結果、以下の事実が判明した。
特開2004−349237号公報
SiO薄膜の理論容量が大きいとはいえ、その膜厚が大きいほど好ましいことは言うまでもない。なぜなら、膜厚の増大に比例して単位面積当たりの負極容量が増すからである。ところが、SiO薄膜の膜厚が5μm以上、とりわけ10μm以上になると、サイクル特性が悪化するようになる。これは充放電の繰り返しに伴ってSiO薄膜の剥離が進行するためと考えられる。そこでSiO薄膜が形成される集電体の表面を粗くしてみた。その結果、サイクル特性は改善された。しかし、その一方で、SiO負極に特徴的な初期効率が顕著に低下した。このため、SiOの膜厚を大きくしても、実用負極容量は期待するほどには増加しないのである。
なお、SiO薄膜の形成では、SiO粉末焼結体が真空蒸着ターゲット、スパッタリングターゲットとして多用される。スパッタリングターゲットに関しては、反応性スパッタリングにおける方法上の制約の解消を目的として、ボロン等をドープされたSi粉末をSiO粉末に混合し、抵抗率を下げたSi−SiO混合粉末焼結体が、特許文献4により提案されている。
特開2004−323324号公報
本発明の目的は、薄膜型SiO負極で問題となる膜厚を比較的大きくし且つ集電体を粗面化してサイクル特性の低下を阻止した場合の初期効率の低下を改善でき、もって実用負極容量の大幅増大を可能にするリチウム二次電池用負極の製造方法を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明者は、多方面からのアプローチによって初期効率を大きく向上させることが重要と考え、第1に熱処理に着目した。熱処理自体は、粉末型SiO負極では既に公知である(特許文献1、2)。粉末型SiO負極での熱処理では、前述したとおり、サイクル特性の向上を目的としてSiO層形成前の粉末原料に熱処理が行われる。しかし、薄膜型SiO負極の場合は、成膜材料であるSiOの析出体やその析出体から製造した焼結体に熱処理を行っても効果がない。
このような状況下で、本発明者らは薄膜を形成した後の段階で、熱処理を実施することを試みた。その結果、この成膜後の熱処理により薄膜型SiO負極における初期効率が向上することが判明した。
第2に、本発明者は成膜用ターゲットにも注目した。すなわち、リチウム二次電池用負極における酸素の存在は、酸素がリチウムイオンと結合し初期効率を低下させる原因になることから好ましくない。この観点から、本発明者は、薄膜型SiO負極中の酸素量を低減する方法として、成膜用ターゲット中の酸素量を減少させることを企画し、実験検討を繰り返した。その結果、従来はスパッタリングの方法面から抵抗率の低さが注目されていたSi−SiO混合粉末焼結体が、真空蒸着による薄膜型SiO負極における初期効率の向上に有効であることが判明した。
そして、Si−SiO混合粉末焼結体の使用と前述した成膜後の熱処理との組合せによれば、膜厚増大時に集電体を粗面化してサイクル特性の低下を阻止した場合の顕著な初期効率の低下が、極めて効果的に改善されることが明らかとっなった。
本発明のリチウム二次電池用負極の製造方法は、かかる知見を基礎としており、Si粉末を5〜30wt%含むSi−SiO混合粉末焼結ターゲットを用いて集電体の表面にSiOx(0.5≦x<1.2)の薄膜を形成した後に、非酸化性雰囲気中で650〜850℃の熱処理を行うものである。
集電体の表面にSiOx(0.5≦x<1.2)の薄膜(以下、単にSiOx薄膜と称す)を形成するための成膜方法としては、真空蒸着、なかでもイオンプレーティング法が、SiOx膜中の酸素量を低減でき初期効率を向上させ得る点から好ましい。SiOx薄膜の厚みは、単位面積あたりの負極容量を増大させる点から5μm以上が好ましい。
集電体の表面粗度は、SiOx薄膜の剥離、これによるサイクル特性の低下を阻止するために粗い方がよく、Rzで5.0以上が好ましい。集電体の表面を粗くした場合に初期効率が低下するが、この初期効率の低下が、成膜用ターゲットとしてのSi−SiO混合粉末焼結体の使用と成膜後の熱処理との組合せで効果的に抑制されることは前述したとおりである。その詳しい理由は後で説明する。
本発明の方法で製造されるリチウム二次電池用負極は、薄膜型SiO負極、厳密にはSiOx負極(酸化珪素負極)である。以下の説明では、特にことわりのない限り、SiO負極はSiOx負極(酸化珪素負極)を意味する。薄膜型SiO負極は粉末型SiO負極に比して初期効率が高いが、その理由の一つは次のように考えられる。
SiO粉末は例えば次のようにして製造される。まずSi粉末とSiO2 粉末の混合物を真空中で加熱することにより、SiOガスを発生させ、これを低温の析出部で析出させてSiO析出体を得る。この製法で得られるSiO析出体のSiに対するOのモル比はほぼ1となる。このSiO析出体を粉砕してSiO粉末を得るのであるが、粉末にすると表面積が増大するために、粉砕時及び粉末の使用時などに大気中の酸素により酸化され、SiO成形体のSiに対するOのモル比は1を超えてしまう。加えて、SiO粉末を粉末混練塗布乾燥法で積層する際にもSiO粉末の表面積の大きさ故に酸化が進んでしまう。こうしてSiOの粉末混練塗布乾燥層ではSiに対するOのモル比が高くなる。そして、粉末混練塗布乾燥層のSiO粉末のSiに対するOのモル比が高いと、初期充電時に吸蔵されたリチウムイオンが放電時に放出されにくくなり、初期効率が低下することになる。
これに対して、真空蒸着法では、成膜を真空中で行うために酸素モル比の増加が抑制され、結果、初期効率の低下が抑えられる。加えて、真空蒸着法で形成される薄膜は緻密である。一方、粉末混練塗布乾燥層は粉末が押し固められただけの粉末集合体に過ぎず、SiOの充填率が低い。初期充電容量は負極活物質層の単位体積あたりの充電量であるために、緻密な薄膜の方が初期充電容量が高くなり、2サイクル目以降も充電容量が高くなる。
真空蒸着法のなかでもイオンプレーティング法によって形成された薄膜が特に高性能になる理由については、Siに対するOのモル比が1:1の酸化珪素膜を形成しようとする場合でも、その酸化珪素膜中の酸素が低下する傾向が見られることが影響していると考えられる。即ち、酸化珪素膜中の酸素はリチウムイオンとの結合性が強いために出来るだけ少ない方が望ましいところ、イオンプレーティング法を用いることにより、酸化珪素膜のSiに対するOのモル比が最大で0.5程度まで低下するのである。ちなみにイオンプレーティング法で酸素モル比が低下する理由は現状では不明である。
また、粉末型SiO負極に比して薄膜型SiO負極のサイクル特性が優れる理由は次のように考えられる。粉末型SiO負極の場合、電気伝導性を確保するための導電助材等が粉末中に混合される。このため、リチウムイオンの吸蔵・放出時の体積膨張及び収縮により、活物質層であるSiO粉末層で微粉化が進み、且つ粉体の分離が進む。このため、集電性がしばしば悪化する。これに対し、薄膜型SiO負極の場合は、活物質層であるSiO薄膜の集電体に対する密着性が本質的に良好であり、しかも、SiO薄膜での活物質間の密着性も良好となる。これが薄膜型SiO負極でサイクル特性が優れる理由と考えられる。
薄膜型SiO負極で膜厚を大きくした場合にサイクル特性が悪化する理由は、膜厚の増大にしたがって集電体からの剥離が進むためと考えられる。実際、集電体の表面を粗くすると、サイクル特性の悪化が回避される。これは、集電体の表面の粗面化により、その表面に対するSiO薄膜の密着性が向上したためと考えられる。
一方、集電体の表面を粗くすることにより初期効率が低下するが、その理由は次のように考えられる。リチウム二次電池の初期効率の低下原因、特にSiO負極における低下原因としては、前述したSiO中の酸素量の増加がある。SiO中の酸素はリチウムイオンとの結合性が強く、これを固定してしまうために、出来るだけ少ない方が良いのである。すなわち、SiOのO−Li結合である。今一つの原因としては、SiO薄膜の表面での不動態膜の生成量の増大がある。詳しく説明すると、これは電解液とLiが反応して負極活物質の表面上に膜を形成する現象でありLiロスの一因となるのである。
集電体の表面を粗くすることによる初期効率の低下は主に後者が理由であると考えられる。これは集電体の表面を粗くする以上、避けることができない問題である。そして、薄膜型SiO負極に熱処理を行うと初期効率が改善されるが、その理由は、後者の理由が避け得ないものである以上、前者の理由と考えられる。すなわち、熱処理によりSiO薄膜中のSiOの一部がSiとSiO2 とに分解され、OがSiO2 の形で固定されることによりO−Li結合が緩和され、充放電に寄与するLi量が増加するものと考えられる。実際、本発明者らが行った各種の実験結果はこれを裏付けている。
そして、薄膜型SiO負極における熱処理は成膜後に行うことが重要である。すなわち、粉末型SiO負極では、SiO層形成前の粉末段階或いはそれより前の段階で熱処理が行われる。これと同じように成膜材料に熱処理を行うと、成膜の段階で性状が変化するために、期待する熱処理効果が得られない。これが薄膜型SiO負極の製造工程で行う熱処理と粉末型SiO負極の製造工程で行う熱処理とが決定的に相違する点である。ちなみに、粉末型SiO負極の製造工程では、SiO層の形成に加熱が伴わないため、粉末材料に行った熱処理の効果がそのままSiO層に引き継がれる。
これに加えて、薄膜型SiO負極では、SiO層が薄膜とはいえその膜厚は数μmから最大でも数十μmである。一方、粉末型SiO負極では、粉末材料の一次粒径が数十μm或いはそれ以上である。このため、薄膜形成後の熱処理の方がその効果がバルク内部まで進みやすく、熱処理効果が大きい。
しかも、粉末材料の場合は、活物質の性状が初期効率やサイクル特性の全てを決めるのではなく、他の多くの要因があり、熱処理の効果が直接的に発現しにくい。その点、薄膜は組成が単純で熱処理の効果が直接的かつ効果的に発現する傾向が強い。更に、粉末の場合は表面積が大きく、熱処理の後にその効果を相殺する酸化が進みやすいが、薄膜の場合はこの問題が生じにくいという利点もある。
これらの点において、薄膜型SiO負極における成膜後の熱処理は、粉末型SiO負極における粉末材料に対する熱処理と異なり、より効果的である。なお、薄膜型SiO負極における成膜後の熱処理では、膜厚が1μm程度と薄い場合でも、熱処理の効果はある程度は得られる。但し、膜厚が小さい場合は、もともとサイクル特性や初期効率の悪化が小さいために熱処理の効果は小さい。また、負極となるSiOxの膜厚が小さすぎるため、負極体積あたりの充電容量(例えば100サイクル目の充電容量)は大きいが、電池体積あたりの充電容量は小さくなる。つまり電池の小型化が難しくなる。このためSiOの膜厚は5μm以上が望ましいのである。
熱処理の温度は650〜850℃とする。この温度が650℃未満の場合は、O−Li結合の緩和による初期効率の向上が不十分である。具体的には、1サイクル目の初期充電容量は大きいが、初期放電容量は小さく、結果として初期効率の向上が不十分である。850℃を超える場合は充電容量が低下するが、これはSiO薄膜中に生成するSi粒子が高温の熱処理によって過度に成長することが原因と考えられる。
熱処理雰囲気は非酸化性であり、具体的には真空度が10-2torr以下の減圧雰囲気又は不活性ガス雰囲気である。
また熱処理時間は0.5〜5時間が好ましく、1〜3時間が特に好ましい。熱処理時間が短すぎる場合は熱処理効果、すなわちO−Li結合の緩和による初期効率の向上効果が不十分になるおそれがある。逆に熱処理時間を極端に長くしても熱処理効果が向上し続けるわけではなく、経済性の悪化が問題になる。
SiO薄膜の厚みは、単位面積当たりの負極容量を増大させる点から5μm以上が好ましく、10μm以上が特に好ましい。膜厚の上限については50μm以下が好ましく、30μm以下が特に好ましい。なぜなら、膜厚が大きすぎると、膜状の電池を積層構造にするために巻いたり曲げたりする際に、SiO薄膜がひび割れしたり剥離したりする可能性が高まるからである。
集電体の表面粗度は、SiO薄膜の剥離、これによるサイクル特性の低下を阻止するために粗い方がよく、最大高さ粗さRzで5.0以上が好ましい。この粗度の上限については、電池特性の点からは特にないが、電池全体の体積を小さくするためには集電体として使用されるCuなどの薄板も薄くする必要がある。そのためRzが大きすぎると、集電体の機械的強度が低下するおそれがある。この観点からRz≦10が望ましい。
集電体の表面にSiO薄膜を形成する方法としては真空蒸着が好ましく、イオンプレーティング法が特に好ましい。その理由は前述したとおりである。なおスパッタリングは、膜の特性としては真空蒸着法と同等であるが、成膜速度が遅く、生産性の面で問題が残る。
成膜後の熱処理と並んで重要な点は、成膜用ターゲットとして、Si粉末を5〜30wt%含むSi−SiO混合粉末焼結ターゲットを使用する点である。すなわち、粉末焼結ターゲットを製造する際に、Si粉末を5〜30wt%含み、残りが実質的にSiO粉末である混合粉末から粉末焼結により製造したターゲットを使用して、集電体の表面にSiO薄膜、厳密にはSiOx薄膜を形成するのである。そうすることにより、SiO膜中のSiに対するOのモル比が更に下がり、最大で0.5、更にはこれ以下まで低下することにより、初期効率が向上する。なお「実質的にSiO粉末」とは、Si及びSiO以外の粉末、例えばSiO2 粉末などが微量(好ましくは後述する膜中のOモル比が1以上とならない範囲内で)混じってもよいということである。
SiO−Si混合粉末焼結ターゲットにおけるSi粉末量が5wt%未満の場合は、SiO膜中のSiに対するOのモル比を低下させる効果が不十分であり、初期効率が十分に向上しない。このSi粉末量が30wt%を超えると、初期効率は向上するが、サイクル特性が低下する。サイクル特性が低下するのは、Si成分が多くなり過ぎると、充放電時における体積の膨張、収縮が大きくなり、充放電を繰り返すことによる破壊が問題になるからである。粉末粒径についてはSi粉末、SiO粉末ともに45μm以下が好ましく、20μm以下が特に好ましい。なぜなら、粉末粒径が大きすぎると、焼結前の原料の均一性が低下するからである。
抵抗率を下げるための、SiにおけるBドープなどは必ずしも必要でないが、成膜方法の面から低抵抗率が必要な場合に、これを行うことを妨げるものではない。
薄膜を構成するSiOのSiに対するOのモル比は、初期効率を向上させる点からは小さいほどよく、熱処理後の段階で1未満が好ましく、0.5以下も可能である。すなわちSiOxで表して(x<1)が好ましく、(x≦0.5)も可能である。ただし、このモル比が極端に小さい場合は、リチウムイオン吸蔵時の体積膨脹が顕著になり、負極活物質層が破壊するおそれがある。
集電体としては金属薄板が好適である。その金属としてはCu、Niなどを用いることができる。板厚は1〜50μmが好ましい。これが薄すぎると製造が難しくなり、機械的強度の低下も問題になる。一方、厚すぎる場合は負極の小型化が阻害される。
正極は、集電体の表面に正極活物質層を形成した構造である。正極活物質としては、LiCoO2 、LiNiO2 、LiMn2 4 などのリチウムを含有する遷移金属の酸化物が主に使用される。正極の作製法としては、酸化物の微粉末を結着剤溶液と混合してスラリー化し、そのスラリーを集電板の表面に塗布し乾燥後、加圧する粉末混練塗布乾燥法が一般的であるが、負極と同様の成膜により形成することもできる。
電解液としては、例えばエチレンカーボネートを含有する非水電解質などを使用することができる。
本発明のリチウム二次電池用負極の製造方法は、Si粉末を5〜30wt%含むSiO−Si混合粉末焼結ターゲットを用いて集電体の表面にSiOx膜を形成した後に、非酸化性雰囲気中で650〜850℃の熱処理を行うことにより、SiOを負極に用いたリチウム二次電池に特徴的な初期充電容量の大きさを阻害することなく、その欠点である初期効率の低さを大幅に改善できる。また、薄膜型SiOx負極で問題となる膜厚を比較的大きくし且つ集電体を粗面化してサイクル特性の低下を阻止した場合の初期効率の低下を改善できる。これにより、初期容量、初期効率及びサイクル特性を高い次元で並立させることができ、実用負極容量の大幅増大を可能にする。
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の方法で製造した負極の使用例を示すリチウム二次電池の縦断面図である。
図1に示すリチウム二次電池は所謂ボタン電池であり、正極面を形成する円形の偏平なケース10を備えている。ケース10は金属からなり、その内部には、円盤状の正極20及び負極30が下から順に重ねられて収容されている。正極20は、円形の金属薄板からなる集電体21と、その表面に形成された正極活物質層22とからなる。同様に、負極30は円形の金属薄板(例えば銅箔)からなる集電体31と、その表面に形成された負極活物質層32とからなる。そして両極は、それぞれの活物質層を対向させ、対向面間にセパレータ40を挟んだ状態で積層されて、ケース10内に収容されている。
ケース10内には又、正極20及び負極30と共に電解液が収容されている。そして、シール部材50を介してケース10の開口部をカバー60で密閉することにより、収容物がケース10内に封入されている。カバー60は負極面を形成する部材を兼ねており、負極30の集電体31に接触している。正極面を形成する部材を兼ねるケース10は、正極20の集電体21と接触している。
このリチウム二次電池において注目すべき点は、負極30における負極活物質層32が、集電体31上にSi−SiOの混合粉末焼結ターゲットを用いて、真空蒸着、好ましくはイオンプレーティングにより形成され、且つ非酸化性雰囲気中で熱処理を受けたSiOxの緻密な薄膜からなる点である。この薄膜を構成するSiOxのSiに対するOのモル比は1未満と小さく、0.5以下も可能である。また薄膜の厚みは5μm以上と大きく、集電体31の表面粗度はRzで5.0以上と粗い。
一方、正極20における正極活物質層22は、従来どおり、LiCoO2 などのリチウムを含有する遷移金属の酸化物の粉末を、結着剤溶液と混合してスラリー化し、そのスラリーを集電板21の表面に塗布し乾燥後、加圧する粉末混練塗布乾燥法により形成されている。
このリチウム二次電池は、その負極30の構造及び製造方法に関連して以下の特徴を有する。
第1に、負極活物質層32がSiOxからなるため、炭素粉末層と比べて理論容量が格段に大きい。第2に、そのSiOxが真空蒸着等にて形成された薄膜であり、Siに対するOのモル比が低い上に緻密であるため、初期充電容量を低減させずに初期効率を高くできる。第3に、薄膜の単位体積当たりの容量が大きく、且つ5μm以上と厚みが大きいため、負極容量が大である。第4に、集電体31の表面粗度がRzで5.0以上と粗いため、薄膜の厚みが大であるにもかかわらず、集電体31の表面に対する密着性が良好であり、薄膜の厚みを大きくしたときに問題となるサイクル特性の低下が阻止される。第5に、Si−SiO混合粉末焼結ターゲットの使用、及び薄膜に対する熱処理により、集電体31の表面を粗くしたことによる初期効率の低下が効果的に回避される。
かくして、このリチウム二次電池では、初期容量、初期効率及びサイクル特性が高い次元で並立し、実用負極容量の大幅増大が実現される。
次に、このリチウム二次電池における負極の構造及び製造方法が電池性能に及ぼす影響を調査した結果を示す。
前記負極を製造するにあたり、先ず集電体として電解銅箔(厚み:10μm、表面粗度:Rz=7.0)を用意した。また、成膜用ターゲットとして、Si粉末量を種々変更したSi−SiO混合粉末焼結ターゲットを作製すると共に、比較のためにSiO粉末焼結ターゲットを作製した。これらの作製に使用したSi粉末は粒径が45μm以下の破砕粉、SiO粉末も粒径が45μm以下の破砕粉であり、焼結条件は真空雰囲気中での1375℃加熱とした。作製されたターゲットは直径20mm、厚み10mmの円盤である。
各種ターゲットが作製されると、用意した集電体の表面に、各種ターゲットを使用してイオンプレーティング法により5μmの厚みに成膜を行った。イオンプレーティングにおける加熱源としてはEBガンを用い、成膜雰囲気は真空雰囲気中〔10-3Pa(10-5torr)〕とした。そして成膜後に真空雰囲気中(1×10-3Torr)で熱処理を実施した。熱処理温度は750℃、熱処理時間は2時間とした。なお、本明細書における膜厚は、平坦面に成膜を行ったと仮定したときの付着重量から算出した値である。
こうして製造された薄膜型SiOx負極を正極と組み合わせ、電解液と共にケース内に封入して前記リチウム二次電池(サイズ直径15mm、厚さ3mm)を完成させた。正極にはLiCoO2 の微粉末を用い、電解液にはエチレンカーボネートを含有する非水電解質を用いた。
完成した二次電池の性能として初期効率、サイクル特性及び急速充放電特性を調査した。比較のために、成膜後の熱処理を省略した薄膜型SiOx負極を用いた二次電池についても同じ調査を行った。調査結果を表1に示す。
表1中のサイクル特性は1回目の放電量に対する10回目の放電量の比率(容量維持率)により評価した。また評価値Aは(初期効率)×(サイクル特性)2 により算出し、総合評価はA<0.6の場合を不可、0.6≦A<0.75の場合を可、0.75≦Aの場合を良とした。評価値Aの算出でサイクル特性を2乗した理由は、サイクル特性の方が電池性能としての重要度が高いために、初期効率よりもサイクル特性に重きをおいた評価とすることにある。
またリチウム二次電池は、近年、小容量の携帯情報機器用電源だけでなく、ハイブリッド自動車用電池、エレベーター用電源などの動力用電源としても期待されている。動力用電源の場合、前述した負極容量や初期効率、サイクル特性等の諸特性に加えて、高速充放電特性に優れることが求められる。すなわち、リチウム二次電池では、充放電時の電流密度が小さいと充放電容量は変化しないが、充放電時の電流密度が大きくなるにしたがって、リチウムイオンの拡散抵抗等の影響を受け、充放電容量が減少する傾向がある。高速充放電を行ったときの充放電容量の維持性能を高速充放電特性といい、大電流密度で充放電を行ったときの充放電容量の低下率が小さい場合が、高速充放電特性が良好とされる。動力用電源の場合、充放電時の電流密度が必然的に大きくなるので、この特性の良好なことが求められる。
薄膜型SiO負極では、バインダー等のリチウムイオンの拡散を阻害する混合物がなく、リチウムイオンの拡散性が良好なために、本質的に急速充放電特性が良好である。この急速充放電特性は前述したとおり膜厚が薄いほど良好となるが、単位面積当たりの負極容量を確保する観点から、極端に膜厚を薄くすることはできない。したがって、薄膜化によらずに急速充放電特性を高めることが重要となるが、薄膜型SiO負極はその緻密さ故に、本質的に急速充放電特性に優れるのである。
そこで、この急速放電特性を評価項目に加え、これに対する成膜後の熱処理の影響度等を調査した。評価は次の方法により実施した。定電流(0.5mA/cm2 )で5mVまで充電し、以後、定電圧(5mV)でトータル15時間の充電を行った。その後、0.1mA/cm2 の電流密度での緩慢放電及び7.0mA/cm2 の電流密度での急速放電を行い、各放電での放電容量を調査した。放電でのカットオフ電圧は1.5Vとした。各サンプルにつきこの充放電を10回繰り返し、放電容量の平均値を算出した。放電電流密度(放電速度)が大きくなるほど放電容量は低下する。0.1mA/cm2 で放電を行ったときの放電容量(mAhr/g)と7.0mA/cm2 で放電を行ったときの放電容量(mAhr/g)との比、すなわち前者に対する後者の比率を急速放電特性として表1に示した。
Figure 0004648879
表1から分かるように、絶対的な負極容量を確保するために、薄膜型SiOx負極におけるSiOx膜厚を5μmと厚くしたが、集電体の表面粗度をRz=7と粗くしたため、基本的に良好なサイクル特性が確保された。ただし、初期効率は顕著に低下した。すなわち、成膜用ターゲットとしてSiO粉末焼結ターゲットを使用し、成膜後に熱処理を行わなかった場合の初期効率は低い。
しかしながら、Si−SiO混合粉末焼結ターゲットの使用と成膜後の熱処理との組合せにより、この初期効率は低下は飛躍的に改善された。この熱処理は急速放電特性の向上にも有効である。
本発明の方法で製造した負極の使用例を示すリチウム二次電池の縦断面図である。
符号の説明
10 ケース
20 正極
21 集電体
22 正極活物質層
30 負極
31 集電体
32 負極活物質層
40 セパレータ
50 シール部材
60 カバー

Claims (5)

  1. Si粉末を5〜30wt%含むSiO−Si混合粉末焼結ターゲットを用いて集電体の表面にSiOx(0.5≦x<1.2)の薄膜を形成した後に、非酸化性雰囲気中で650〜850℃の熱処理を行うことを特徴とするリチウム二次電池用負極の製造方法。
  2. 前記SiOx(0.5≦x<1.2)の薄膜を真空蒸着により形成する請求項1に記載のリチウム二次電池用負極の製造方法。
  3. 前記真空蒸着はイオンプレーティング法である請求項2に記載のリチウム二次電池用負極の製造方法。
  4. 前記SiOx(0.5≦x<1.2)の薄膜の厚みが5μm以上である請求項1に記載のリチウム二次電池用負極の製造方法。
  5. 前記集電体の表面粗度がRzで5.0以上である請求項1に記載のリチウム二次電池用負極の製造方法。
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