JP4632043B2 - ポリアクリロニトリル系酸化繊維フェルト、炭素繊維フェルト、及びそれらの製造方法 - Google Patents

ポリアクリロニトリル系酸化繊維フェルト、炭素繊維フェルト、及びそれらの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、賦形性が良く、高い導電性と電解質の浸透性・透過性の良い大型二次電池用電極材等に応用されるポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維フェルト及びその中間原料のPAN系酸化繊維フェルト、並びに、それらフェルトの製造方法に関する。
炭素繊維フェルトは導電性があり、空隙率が高く、化学的に安定な素材であり、近年、レドックスフロー電池、亜鉛−臭素電池、ナトリウム−硫黄電池等の大型二次電池の電極材への応用及び開発が進められている。
今後の電極材に対する、より需要拡大のための課題として炭素繊維フェルトには次の項目
1.厚さ方向の導電性の向上、
2.電解質の透過性の向上、
3.低コスト、生産性の向上、惹いては、目付の低減化、嵩密度の低減化、
の課題がある。
電極材としての炭素繊維フェルトの製造方法として、従来より次の方法が知られている。
(a) 炭素繊維ウェブを重ねあわせ、ニードルパンチング処理する方法。
(b) 酸化繊維ウェブを重ねあわせ、ニードルパンチング処理したのち、不活性ガス雰囲気下、高温焼成する方法。
しかし、製造方法(a)は、炭素繊維のウェブ加工時及びニードルパンチング時に、繊維切れの多発、毛羽の大量発生、更には発生する毛羽が装置の電気回路に付着して短絡による装置停止、回路短絡による誤作動等の電気トラブル、環境汚染等の問題が発生する。
これに対し、製造方法(b)は、毛羽発生がより少なく、賦形性の良い炭素繊維フェルトを得ることができ実用化が期待されている。この製造方法(b)の例としては、特許文献1及び2などに開示されたものが挙げられる。
特許文献1には、PAN系繊維の熱酸化繊維20〜99%とPAN系繊維以外の炭素化可能な有機系繊維及び無機系繊維80〜1%からなるスライバーを、網ロールに巻き、その外部にPAN系繊維の熱酸化繊維を積層し、この網ロールを形成した積層物を、積層物の外方から中心部に向かってニードルパンチして、多層構造円筒状フェルトとした後、1000℃以上の温度で熱処理する製造方法が開示されている。
特許文献2には、次の工程(1)、(2)、(3)、
(1)0.57〜3.40デシテックス(dtex)で、かつ繊維断面の真円度が0.8〜1のPAN系繊維を空気中で酸化処理し酸化繊維とする工程、
(2)酸化繊維をクリンプ付与処理した後、厚さ方向の繊維配列度が30〜80%にニードルパンチし、酸化繊維フェルトを作製する工程、
(3)酸化繊維フェルトを不活性ガス中、600〜1300℃で1〜10分間処理後、更に1700℃以上の温度で0.5〜10分間処理する工程、
を含む電極材用炭素繊維フェルトの製造方法が開示されている。
しかし、特許文献1及び2の炭素繊維フェルトの製造方法において、厚さ方向の導電性を向上させようとすると、以下の問題が発生する。
(α)厚さ方向の繊維配列度がアップする。
(β)ニードルパンチングでの打込み本数がアップする。
(γ)厚さが薄くなる(嵩密度が高くなる)。
(δ)電解質の透過性が低化する。
(ε)生産性が低下し、コストがアップする。
特開平7−85863号公報 (請求項3) 特開2001−279566号公報 (請求項5)
本発明者は、上記問題を解決するために種々検討しているうちに、炭素繊維フェルト製造用の主原料であり且つ中間原料の酸化繊維フェルト製造用の主原料である酸化繊維ステープル(a)に、主原料より太い酸化繊維ステープル(b)を副原料として所定の混合割合で混合した後ニードルパンチング処理することにより、ニードルパンチング処理時の厚さの減少を低減できることを知得した。更に、この酸化繊維フェルトを不活性雰囲気中で焼成することにより、電解質水溶液の透過性が良好で且つ厚さ方向の導電性が良好な炭素繊維フェルトが得られることを知得し、本発明を完成するに到った。
従って、本発明の目的とするところは、上記問題を解決したPAN系炭素繊維フェルト及びその中間原料のPAN系酸化繊維フェルト、並びに、それらフェルトの製造方法を提供することにある。
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
〔1〕 繊維直径が9〜20μmのポリアクリロニトリル系酸化繊維ステープル(a)55〜80質量%と、繊維直径が前記酸化繊維ステープル(a)の1.10〜1.40倍のポリアクリロニトリル系酸化繊維ステープル(b)45〜20質量%とからなり、厚さが5〜20mm、目付が500〜3000g/m2であるポリアクリロニトリル系酸化繊維フェルト。
〔2〕 繊維直径が9〜20μmのポリアクリロニトリル系酸化繊維ステープル(a)55〜80質量%と、繊維直径が前記酸化繊維ステープル(a)の1.10〜1.40倍のポリアクリロニトリル系酸化繊維ステープル(b)45〜20質量%との混合物をニードルパンチ処理することを特徴とするポリアクリロニトリル系酸化繊維フェルトの製造方法。
〔3〕 ポリアクリロニトリル系酸化繊維ステープル(a)及び(b)は、比重が1.35〜1.45、引っ張り強度が196MPa以上、伸度が10〜30%である〔2〕に記載のポリアクリロニトリル系酸化繊維フェルトの製造方法。
〔4〕 繊維直径が5〜12μmのポリアクリロニトリル系炭素繊維(A)55〜80質量%と、繊維直径が前記炭素繊維(A)の1.15〜1.45倍のポリアクリロニトリル系炭素繊維(B)45〜20質量%とからなり、繊維配列度が25〜80%、厚さ方向の比抵抗値が0.2Ωcm以下であるポリアクリロニトリル系炭素繊維フェルト。
〔5〕 厚さが4〜18mm、目付が300〜1800g/m2である〔4〕に記載のポリアクリロニトリル系炭素繊維フェルト。
〔6〕 繊維直径が9〜20μmのポリアクリロニトリル系酸化繊維ステープル(a)55〜80質量%と、繊維直径が前記酸化繊維ステープル(a)の1.10〜1.40倍のポリアクリロニトリル系酸化繊維ステープル(b)45〜20質量%との混合物をニードルパンチ処理してポリアクリロニトリル系酸化繊維フェルトを得、次いで前記ポリアクリロニトリル系酸化繊維フェルトを、不活性雰囲気下、1300〜2300℃で焼成することを特徴とする、繊維直径が5〜12μmのポリアクリロニトリル系炭素繊維(A)55〜80質量%と、繊維直径が前記炭素繊維(A)の1.15〜1.45倍のポリアクリロニトリル系炭素繊維(B)45〜20質量%とからなり、繊維配列度が25〜80%、厚さ方向の比抵抗値が0.2Ωcm以下であるポリアクリロニトリル系炭素繊維フェルトの製造方法。
〔7〕 ポリアクリロニトリル系酸化繊維ステープル(a)及び(b)の何れも、比重が1.35〜1.45、引っ張り強度が196MPa以上、伸度が10〜30%である〔6〕に記載のポリアクリロニトリル系炭素繊維フェルトの製造方法。
〔8〕 ポリアクリロニトリル系酸化繊維フェルトの厚さが5〜20mm、目付が500〜3000g/m2である〔6〕に記載のポリアクリロニトリル系炭素繊維フェルトの製造方法。
本発明の酸化繊維フェルトは、その製造方法において主原料である酸化繊維ステープル(a)に、酸化繊維ステープル(a)より太い酸化繊維ステープル(b)を副原料として特定の範囲の混合割合で混合した後ニードルパンチング処理しているので、ニードルパンチング処理時の厚さの減少を低減させた酸化繊維フェルトが得られる。
本発明の炭素繊維フェルトは、その製造方法において上記酸化繊維フェルトを不活性雰囲気中で焼成することにより製造される。このようにして製造された本発明の炭素繊維フェルトは、電解質水溶液の透過性が良好で且つ厚さ方向の導電性が良好である。
本発明の炭素繊維フェルトは、以下の項目の課題
1.厚さ方向の導電性の向上、
2.電解質の透過性の向上、
3.低コスト、生産性の向上、惹いては、目付の低減化、嵩密度の低減化、
を全て満足させることができ、レドックスフロー電池、亜鉛−臭素電池、ナトリウム−硫黄電池等の大型二次電池の電極材等の炭素繊維材料として有用な素材である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のPAN系酸化繊維フェルトは、繊維直径が9〜20μm、好ましくは11〜17μmのPAN系酸化繊維(a)(主原料)と、繊維直径が前記酸化繊維(a)の1.10〜1.40倍のPAN系酸化繊維(b)(副原料)とからなる。
[原料の酸化繊維(a)及び(b)]
PAN系酸化繊維フェルト製造用原料のPAN系酸化繊維(a)及び(b)は何れも、PAN系繊維を空気中、200〜300℃の温度で処理することにより環化反応を生じさせ、酸素結合量を増加させて不融化、難燃化させる耐炎化処理、及びその後工程のクリンプ付与処理によって得られる。繊維の断面形状は真円度(断面の最大直径/最小直径比)が1.0〜1.05のものが好ましい。
上記PAN系繊維は、例えばアクリロニトリルの単独重合体又はアクリロニトリルを95質量%以上含有する単量体を重合した共重合体を含む紡糸溶液を、湿式又は乾湿式紡糸法において紡糸・水洗・乾燥・延伸等の処理を行うことによって得ることができる。共重合する単量体としては、アクリル酸メチル、イタコン酸、メタクリル酸メチル、アクリル酸等のビニル単量体が好ましい。
[原料の酸化繊維ステープル(a)]
酸化繊維ステープル(a)の繊維直径が9μm未満の場合は、この酸化繊維ステープルの開繊性が悪く、ステープルの均質な混合が難しい。更にこれを用いて製造するフェルトの剛性が低くなる。フェルトへの加工時、絞まり易い。酸化繊維ステープル(a)の繊維直径が20μmを超える場合は、この酸化繊維ステープルを用いてフェルトに加工する時ウェブ切れが発生し易い。フェルト強度が低下する。炭素化時、繊維が脆くなり微粉末が発生し易い。
酸化繊維ステープル(a)の平均綿長(カット長)は35〜150mmが好ましい。酸化繊維ステープル(a)の平均綿長が35mm未満の場合は、酸化繊維同士が絡み難いため、得られるウェブ及びフェルトの強度が低下する。酸化繊維ステープル(a)の平均綿長が150mmを超える場合は、フェルトへの加工時に繊維の均一な分散が得られにくくなる。
酸化繊維ステープル(a)の比重は1.35〜1.45が好ましい。酸化繊維ステープル(a)の比重が1.35未満の場合は、酸化繊維フェルトを炭素化する際に、酸化繊維が著しく収縮し、得られる炭素繊維フェルトが堅くなると共に、繊維強度が低下し、このため微粉末の発生量が増加する。酸化繊維ステープル(a)の比重が1.45を超える場合は、酸化繊維の強度が低下するため、酸化繊維を用いて酸化繊維フェルトを製造する際の加工性が低下する。
酸化繊維ステープル(a)の乾強度は引っ張り強度で196MPa(20kgf/mm2)以上が好ましい。酸化繊維ステープル(a)の乾強度は高いほどフェルトへの加工性が向上する。酸化繊維ステープル(a)の乾強度が196MPa未満の場合は、繊維切れが多発しフェルトへの加工が難しくなる。
酸化繊維ステープル(a)の乾伸度は5〜30%が好ましい。酸化繊維ステープル(a)の乾伸度は高いほどフェルトへの加工性が向上する。酸化繊維ステープル(a)の乾伸度が5%未満の場合は、繊維切れ多発しフェルトへの加工が難しくなる。酸化繊維ステープル(a)の乾伸度が30%を超える場合は、酸化繊維フェルトの製造が難しくなる。
酸化繊維ステープル(a)のクリンプ数は2.0〜5.0ヶ/cmが好ましい。酸化繊維ステープル(a)のクリンプ数が2.0ヶ/cm未満の場合は、フェルトへの加工時、ウェブ切れが発生し易い。得られるウェブ及びフェルトの強度が低下する。酸化繊維ステープル(a)のクリンプ数が5.0ヶ/cmを超える場合は、クリンプ付与処理時にクリンプでの糸切れが多発し、酸化繊維の強度が低下する。更に、フェルトへの加工時において締まり易くフェルト厚さが薄くなる。
酸化繊維ステープル(a)のクリンプ率は8〜16%が好ましい。酸化繊維ステープル(a)のクリンプ率が8%未満の場合は、フェルトへの加工時にウェブ切れが発生し、フェルト強度が低下する。酸化繊維ステープル(a)のクリンプ率が16%を超える場合は、クリンプ付与処理時クリンプでの糸切れが多発する。
[原料の酸化繊維ステープル(b)]
酸化繊維(b)の酸化繊維(a)に対する繊維直径比B/Aが1.10倍未満の場合は、炭素化フェルトの賦形性向上効果、電解液の透過性の改善効果が認められない。酸化繊維(b)の酸化繊維(a)に対する繊維直径比B/Aが1.40倍を超える場合は、得られる酸化繊維フェルト及び炭素化フェルトの強度が低下する。
酸化繊維(b)の平均綿長(カット長)は35〜150mmが好ましい。酸化繊維(b)の平均綿長が35mm未満の場合は、絡みがないため、得られるウェブ及びフェルトの強度が低下する。酸化繊維(b)の平均綿長が150mmを超える場合は、フェルトへの加工時において繊維の均一な分散が得られにくくなる。
酸化繊維ステープル(b)の比重は1.35〜1.45が好ましい。酸化繊維ステープル(b)の比重が1.35未満の場合は、酸化繊維フェルトを炭素化する際に、酸化繊維が著しく収縮し、得られる炭素繊維フェルトが堅くなると共に、繊維強度が低下する。その結果、微粉末の発生量が増加する。酸化繊維ステープル(b)の比重が1.45を超える場合は、酸化繊維の強度が低下するため、酸化繊維を用いて酸化繊維フェルトを製造する際の加工性が低下する。
酸化繊維ステープル(b)の乾強度は引っ張り強度で196MPa(20kgf/mm2)以上が好ましい。酸化繊維ステープル(b)の乾強度は高いほどフェルトへの加工性が向上する。酸化繊維ステープル(b)の乾強度が196MPa未満の場合は、繊維切れが多発しフェルトへの加工が難しくなる。
酸化繊維ステープル(b)の乾伸度は5〜30%が好ましい。酸化繊維ステープル(b)の乾伸度は高いほどフェルトへの加工性が向上する。酸化繊維ステープル(b)の乾伸度が5%未満の場合は、繊維切れが多発しフェルトへの加工が難しくなる。酸化繊維ステープル(b)の乾伸度が30%を超える場合は、酸化繊維フェルトの製造が難しくなる。
酸化繊維ステープル(b)のクリンプ数は2.0〜5.0ヶ/cmが好ましい。酸化繊維ステープル(b)のクリンプ数が2.0ヶ/cm未満の場合は、フェルトへの加工時、ウェブ切れが発生し易い。得られるウェブ及びフェルトの強度が低下する。酸化繊維ステープル(b)のクリンプ数が5.0ヶ/cmを超える場合は、クリンプ付与処理時クリンプでの糸切れが多発し、酸化繊維の強度が低下する。フェルトへの加工時締まり易くフェルト厚さが薄くなる。
酸化繊維ステープル(b)のクリンプ率は8〜16%が好ましい。酸化繊維ステープル(b)のクリンプ率が8%未満の場合は、フェルトへの加工時においてウェブ切れが発生し、フェルト強度が低下する。酸化繊維ステープル(b)のクリンプ率が16%を超える場合は、クリンプ付与処理時にクリンプでの糸切れが多発する。
[酸化繊維フェルト]
上記酸化繊維ステープル(a)と、酸化繊維ステープル(b)とを混合後、ニードルパンチ処理することにより、本発明のPAN系酸化繊維フェルトは得られる。
ニードルパンチ処理は、一般的なフェルト加工方法として用いられている。本例では、酸化繊維(a)のステープル綿(主原料)と酸化繊維(b)のステープル綿(副原料)とを混合し、ウェブ加工後、ラップ取りする。次いで、このラップを2〜8枚積層し、連続的にニードル板にて打込みを行って酸化繊維フェルトを作製する。
ニードルの打込み本数は200〜1500本/cm2の範囲内で行うことが好ましい。フェルトの厚さ、嵩密度、繊維配列度の調整はニードルパンチ処理時に行われる。ニードルの打込み本数が200本/cm2未満の場合は、フェルト強度が低下し、厚さ方向の繊維配列度が低くなる。ニードルの打込み本数が1500本/cm2を超える場合は、フェルト強度が低下する。
本発明のPAN系酸化繊維フェルトは、酸化繊維(a)含有率が55〜80質量%であり、酸化繊維(b)含有率が45〜20質量%である。
酸化繊維(a)含有率が55質量%未満の場合、即ち酸化繊維(b)含有率が45質量%を超える場合は、得られる酸化繊維フェルト及び炭素化フェルトの強度が低下する。酸化繊維(a)含有率が80質量%を超える場合、即ち酸化繊維(b)含有率が20質量%未満の場合は、炭素化後のフェルトの賦形性向上効果、及び電極として用いた場合における電解液の透過性の改善効果が認められない。
本発明のPAN系酸化繊維フェルトは、目付が500〜3000g/m2、厚さが5〜20mmである。嵩密度は0.135〜0.170g/cm3とすることが好ましい。
酸化繊維フェルトの目付が500g/m2未満の場合は、フェルト強度が低下する。酸化繊維フェルトの目付が3000g/m2を超える場合は、5〜20mmのフェルトが作製困難になり、後工程での連続焼成が難しくなる。
酸化繊維フェルトの厚さが5mm未満の場合は、フェルト強度が低下する。酸化繊維フェルトの厚さが20mmを超える場合は、フェルトの製造が難しくなる。具体的には、厚さ方向へニードルを打ち込みにくくなる。
なお、酸化繊維フェルトの目付、厚さが、上記範囲を外れる場合は、上記範囲の嵩密度を有する酸化繊維フェルトが得られない。
[炭素繊維フェルト]
以上のようにフェルト加工して製造した酸化繊維フェルトを、不活性雰囲気中で焼成して炭素化処理することにより本発明のPAN系炭素繊維フェルトは得られる。
炭素化処理は、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性雰囲気下、最高温度1300〜2300℃で行う。なお、昇温下で炭素化する場合の昇温速度は200℃/min以下が好ましい。炭素化処理時の最高温度が1300℃未満の場合は、炭素繊維固有の特性向上、すなわち耐熱性向上、強度向上、電気伝導性向上等の効果が発現されない。炭素化処理時の最高温度が2300℃を超える場合は、繊維強度の劣化が起こり、その劣化に伴い、微粉末が多発する。最高温度での炭素化処理時間は0.5〜20分が好ましい。
酸化繊維ステープル(a)(主原料)と酸化繊維ステープル(b)(副原料)のある比率の酸化繊維フェルトを炭素化処理すると、炭素繊維(A)[主成分炭素繊維、即ち主原料酸化繊維ステープル(a)由来の炭素繊維]と炭素繊維(B)[副成分炭素繊維、即ち副原料酸化繊維ステープル(b)由来の炭素繊維]との比率が同じ炭素繊維フェルトが得られる。
本発明のPAN系炭素繊維フェルトは、繊維直径が5〜12μmのPAN系炭素繊維(A)と、繊維直径が前記炭素繊維(A)の1.15〜1.45倍のPAN系炭素繊維(B)とからなる。
炭素繊維(A)の繊維直径が5μm未満の場合は、炭素繊維フェルトを電極材として用いるとき、電解質液の透過性が不足する。炭素繊維(A)の繊維直径が12μmを超える場合は、太い繊維[炭素繊維(B)]を混合する効果(賦形性向上、電解質液透過性向上)が十分に発揮されない。
炭素繊維(B)の繊維直径が炭素繊維(A)の1.15倍未満の場合は、太い繊維[副成分炭素繊維(B)]の主成分炭素繊維(A)への混入効果が発揮されず、フェルト加工時の厚さ方向に絞まりやすくなる。炭素繊維(B)の繊維直径が炭素繊維(A)の1.45倍を超える場合は、太い繊維[副成分炭素繊維(B)]の主成分炭素繊維(A)への混入効果が発揮されず、フェルト加工時の厚さ方向に絞まりにくく、嵩密度が過度に低くなり、フェルト強度の低下を来す。
本発明のPAN系炭素繊維フェルトは、厚さが4〜18mm、目付が300〜1800g/m2であり、これら厚さ、目付に伴い嵩密度は0.09〜0.115g/cm3とすることが好ましい。
炭素繊維フェルトの厚さが4mm未満の場合は、フェルト強度が低下する。酸化繊維フェルトの厚さが18mmを超える場合は、炭素繊維フェルトを電極材として用いるとき、厚さ方向の通電性が不足する。更に、電解質液の透過性が低下する。
炭素繊維フェルトの目付が300g/m2未満の場合は、フェルト強度が低下する。酸化繊維フェルトの目付が1800g/m2を超える場合は、炭素繊維フェルトを電極材として用いるとき、厚さ方向の通電性が不足する。更に、電解質液の透過性が低下する。
炭素繊維フェルトの嵩密度が0.090g/cm3未満の場合は、フェルト強度が低下する。炭素繊維フェルトを電極材として用いるとき、厚さ方向の通電性が不足する。炭素繊維フェルトの嵩密度が0.115g/cm3を超える場合は、フェルト強度が低下する。炭素繊維フェルトを電極材として用いるとき、電解質液の透過性が不足する。
本発明のPAN系炭素繊維フェルトは、後述する測定方法で求められる厚さ方向の比抵抗値が低いほど良く、比抵抗値は0.2Ωcm以下である。比抵抗値が0.2Ωcmを超える場合は、電極材料に利用することが難しい。なお、比抵抗値が0.05Ωcm未満の炭素繊維フェルトは作製が困難である。
本発明のPAN系炭素繊維フェルトは、強度が10kN/cm以上である。強度が10kN/cm未満の場合は、取扱性が悪い。
本発明のPAN系炭素繊維フェルトは、後述する測定方法で求められる厚さ方向の繊維配列度が25〜80%である。繊維配列度が25%未満の場合は、電極材として炭素繊維フェルトを用いるとき、電解質液の透過性が低く、比抵抗値が増大する。繊維配列度が80%を超える場合は、賦形性が低下し、製造時及び/又は取扱時に微粉末を発生しやすい。
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、各物性の測定は次の方法によった。
[酸化繊維(a)の繊維含有率、酸化繊維(b)の繊維含有率]
紡績時の混打綿等の混合工程における酸化繊維ステープル(a)、(b)の各投入質量から、酸化繊維(a)の繊維含有率(主酸化繊維含有率)を、下記式
(酸化繊維ステープル(a)の投入質量)×100/[(酸化繊維ステープル(a)の投入質量)+(酸化繊維ステープル(b)の投入質量)]
で算出した。
酸化繊維(b)の繊維含有率(副酸化繊維含有率)は、下記式
(酸化繊維ステープル(b)の投入質量)×100/[(酸化繊維ステープル(a)の投入質量)+(酸化繊維ステープル(b)の投入質量)]
で算出した。
[繊維特性:繊度、乾強度、乾伸度、クリンプ数、クリンプ率、平均繊維長(カット長)]
JIS L 1015に基づいて測定した。
[フェルト厚さ]
直径5mmの円形圧板で厚さ方向に1.2Nの荷重(61.9kPa)を負荷したときの厚さを測定した。
[フェルト目付]
200mm×250mmのフェルトを120℃で1時間乾燥した後の質量値より算出した。
[フェルト嵩密度]
上記フェルト目付とフェルト厚さとから算出した。
[フェルト強度]
幅50mm、長さ120mm以上のサンプルを、チャック間距離100mmの冶具に固定し、速度30mm/minで引っ張った時の破断強度を1cmに換算した値から求めた。
[副/主繊維直径比]
測定対象フェルトを長さ方向に10mm、幅方向に10mmにカットした後、加熱溶融したポリエチレン樹脂をフェルト内部に十分に含浸させた。樹脂を含浸させたフェルトを冷却し、長さ方向にカットした。カットした断面を電子顕微鏡で写真撮影(倍率2000倍)し、得られた写真を用いて繊維直径(最小直径部分:μm)を測定した。1検体で100点の繊維直径を測定後、繊維直径分布図を作製した。分布図の2つのピーク位置から主繊維直径[炭素繊維フェルトの場合は主成分炭素繊維(A)の繊維直径、酸化繊維フェルトの場合は主原料酸化繊維(a)の繊維直径]と、副繊維直径[炭素繊維フェルトの場合は副成分炭素繊維(B)の繊維直径、酸化繊維フェルトの場合は副原料酸化繊維(b)の繊維直径]とを求め、次式
副/主繊維直径比=副繊維直径÷主繊維直径
を用いて直径比を計算した。
[炭素繊維(A)の繊維含有率、炭素繊維(B)の繊維含有率]
測定対象フェルトを50mm角にカットし、この50mm角のシートを更に3mm間隔に短冊状にカットした。次いで各短冊の単繊維をピンセットでほぐした後、200mlビーカーに入れ、1容量%のエタノール水溶液を150mlビーカーに入れ、攪拌分散させた。この分散液をスポイトで採取し、分散液をプレパラートの上に載せた。倍率200倍で顕微鏡で分散液の顕微鏡写真撮影を行った。この顕微鏡写真を用いて検体数n=100の繊維直径と繊維長を測定した。繊維直径についてはμm単位で小数1桁まで求めた。
この繊維直径について、横軸を繊維直径、縦軸を繊維の個数としてヒストグラムにまとめると、細い繊維[炭素繊維(A)]のピークと太い繊維[炭素繊維(B)]のピークとが出現した。これらの各ピークの中心繊維直径から±10%の繊維直径の範囲に入る繊維の個数より、各繊維直径の平均値を算出し、それぞれCAμm及びCBμmとした。
炭素繊維(A)の繊維含有率(主炭素繊維含有率)は、下記式
(炭素繊維(A)の個数×CAの自乗×原料酸化繊維ステープル(a)の繊維長)×100/[(炭素繊維(A)の個数×CAの自乗×原料酸化繊維ステープル(a)の繊維長)+(炭素繊維(B)の個数×CBの自乗×原料酸化繊維ステープル(b)の繊維長)]
を用いて算出した。
炭素繊維(B)の繊維含有率(副炭素繊維含有率)は、下記式
(炭素繊維(B)の個数×CBの自乗×原料酸化繊維ステープル(b)の繊維長)×100/[(炭素繊維(A)の個数×CAの自乗×原料酸化繊維ステープル(a)の繊維長)+(炭素繊維(B)の個数×CBの自乗×原料酸化繊維ステープル(b)の繊維長)]
を用いて算出した。
[比抵抗値]
2枚の50mm直径(厚さ10mm)の金メッキした電極を用いて、炭素繊維フェルトを電極が全面接触するように挟み、圧縮率95%における厚さ方向の電気抵抗値R(Ω)を測定した。比抵抗値は下式
比抵抗値(Ωcm)=R×(S/L)
S:接触面積 2.5×2.5×3.14=19.6cm2
L:測定時のフェルトの厚さ(圧縮率95%)
を用いて算出した。
[厚さ方向の繊維配列度]
X線回折ピーク角度(2Θ=26.0°付近)で、Z−X面及びZ−Y面に沿って試料を回転させる。X線回折強度変化に基因する結晶子の配向ピークが観察される。結晶子が繊維軸方向に高配向していることを利用し、この配向ピーク面積を測定し、下式
厚さ方向(Z)の繊維配列度(%)
=[Z方向の配向ピーク面積]÷[(X+Y+Z)の配向ピーク合計面積]
(ここで、炭素繊維フェルトの厚さ方向をZ、幅方向をX、長さ方向をYとする)
により繊維配列度(%)を算出した。
[剛性(剛軟度)]
剛軟度は賦形性の指標として用いられる。数値が大きいほど剛直で賦形性が高い。JIS−L−1096の45°カンチレバー法(A法)に従って測定試料を2cm×約50cmにカットした。図1に示すように、水平面2と、この水平面2に延長して形成された45°の斜面4をもつ表面の滑らかな水平台100の上にカットした試験片6をスケール8に平行に置いた。次に試験片6をスケール8に沿わして斜面4の方向に緩やかに滑らせてた。試験片6の先端10が斜面4と接したとき後端12の位置をスケール8により読み取り、試験片6が移動した長さを剛軟度として示した。
[液透過性]
測定対象フェルトを直径30mm円柱状に打ち抜き、これを内径30mmの硝子カラムに充填した。線速度[空塔速度(SV)1000hr-1]で水(25℃)を通液した時の圧力損失値[kPa(kgf/cm2)]を測定し、この圧力損失値を透過性の指標とした。圧力損失値の値が小さいほど透過性が良いことを示す。
[実施例1〜2、比較例1〜4]
繊維直径15.0μm、比重1.42、乾強度461MPa(47kgf/mm2)、乾伸度23%、カット長51mmのPAN系酸化繊維ステープル(a)と、表1に示す繊維直径、比重、乾強度、乾伸度、カット長のPAN系酸化繊維ステープル(b)とを、表1の条件でフェルト加工(混綿、カーディング)して、表1に示す目付のウェブを得た。
このウェブをラップ状にしたのち、4枚積層した状態に巻き上げ、これをニードルパンチ法によりパンチング処理し、表1に示す打込み本数、目付、厚さ、嵩密度の酸化繊維フェルトを得た。
この酸化繊維フェルトを窒素雰囲気下、1600℃の温度にて2分間焼成を行い、表1に示す目付、厚さ、嵩密度、酸化繊維(a)由来の炭素繊維(A)の繊維直径、酸化繊維(b)由来の炭素繊維(B)の繊維直径、副/主繊維直径比、炭素繊維(B)の含有率、引っ張り強度、繊維配列度、比抵抗値、剛性及び液透過性の炭素繊維フェルトを得た。
Figure 0004632043
表1に示すように、実施例1、2においては良好な物性の炭素繊維フェルトが得られた。しかし、比較例1においては副酸化繊維及び副炭素繊維の含有率が低いため、賦形性、液透過性が悪く、良好な物性の炭素繊維フェルトは得られなかった。比較例2においては副酸化繊維及び副炭素繊維の含有率が高いため、引っ張り強度、繊維配列度、電気抵抗値、賦形性が悪く、良好な物性の炭素繊維フェルトは得られなかった。比較例3においては副/主繊維直径比が小さいため、賦形性、液透過性が悪く、良好な物性の炭素繊維フェルトは得られなかった。比較例4においては副/主繊維直径比が大きいため、引っ張り強度、繊維配列度、電気抵抗値、賦形性が悪く、良好な物性の炭素繊維フェルトは得られなかった。
表1中、×で示す箇所が本発明の構成から逸脱している。
炭素繊維フェルトの剛軟度測定器の一例を示す概略側面図である。
符号の説明
2 水平面
4 斜面
6 試験片
8 スケール
10 試験片の先端
12 試験片の後端
100 水平台

Claims (7)

  1. 繊維直径が9〜20μmのポリアクリロニトリル系酸化繊維ステープル(a)55〜80質量%と、繊維直径が前記酸化繊維ステープル(a)の1.10〜1.40倍のポリアクリロニトリル系酸化繊維ステープル(b)45〜20質量%とからなり、厚さが5〜20mm、目付が500〜3000g/m2 、嵩密度は0.135〜0.15g/cm 3 であるポリアクリロニトリル系酸化繊維フェルト。
  2. 繊維直径が9〜20μmのポリアクリロニトリル系酸化繊維ステープル(a)55〜80質量%と、繊維直径が前記酸化繊維ステープル(a)の1.10〜1.40倍のポリアクリロニトリル系酸化繊維ステープル(b)45〜20質量%との混合物をニードルパンチ処理することを特徴とする、繊維直径が9〜20μmのポリアクリロニトリル系酸化繊維ステープル(a)55〜80質量%と、繊維直径が前記酸化繊維ステープル(a)の1.10〜1.40倍のポリアクリロニトリル系酸化繊維ステープル(b)45〜20質量%とからなり、厚さが5〜20mm、目付が500〜3000g/m 2 、嵩密度が0.135〜0.15g/cm 3 であるポリアクリロニトリル系酸化繊維フェルトの製造方法。
  3. ポリアクリロニトリル系酸化繊維ステープル(a)及び(b)は、比重が1.35〜1.45、引っ張り強度が196MPa以上、伸度が10〜30%である請求項2に記載のポリアクリロニトリル系酸化繊維フェルトの製造方法。
  4. 繊維直径が5〜12μmのポリアクリロニトリル系炭素繊維(A)55〜80質量%と、繊維直径が前記炭素繊維(A)の1.15〜1.45倍のポリアクリロニトリル系炭素繊維(B)45〜20質量%とからなり、厚さが4〜18mm、目付が500〜1800g/m 2 、嵩密度が0.09〜0.099g/cm 3 繊維配列度が25〜80%、厚さ方向の比抵抗値が0.2Ωcm以下であるポリアクリロニトリル系炭素繊維フェルト。
  5. ポリアクリロニトリル系炭素繊維(B)の繊維直径が、炭素繊維(A)の1.15〜1.29倍である請求項4に記載のポリアクリロニトリル系炭素繊維フェルト。
  6. 繊維直径が9〜20μmのポリアクリロニトリル系酸化繊維ステープル(a)55〜80質量%と、繊維直径が前記酸化繊維ステープル(a)の1.10〜1.40倍のポリアクリロニトリル系酸化繊維ステープル(b)45〜20質量%との混合物をニードルパンチ処理してポリアクリロニトリル系酸化繊維フェルトを得、次いで前記ポリアクリロニトリル系酸化繊維フェルトを、不活性雰囲気下、1300〜2300℃で焼成することを特徴とする、繊維直径が5〜12μmのポリアクリロニトリル系炭素繊維(A)55〜80質量%と、繊維直径が前記炭素繊維(A)の1.15〜1.45倍のポリアクリロニトリル系炭素繊維(B)45〜20質量%とからなり、厚さが4〜18mm、目付が500〜1800g/m 2 、嵩密度が0.09〜0.099g/cm 3 繊維配列度が25〜80%、厚さ方向の比抵抗値が0.2Ωcm以下であるポリアクリロニトリル系炭素繊維フェルトの製造方法。
  7. ポリアクリロニトリル系酸化繊維ステープル(a)及び(b)の何れも、比重が1.35〜1.45、引っ張り強度が196MPa以上、伸度が10〜30%である請求項6に記載のポリアクリロニトリル系炭素繊維フェルトの製造方法。
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