JP4628608B2 - 異常陰影候補検出装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、異常陰影候補検出装置に関し、特に詳しくは、任意の規格化条件による規格化処理が施された医用画像データに基づいて該医用画像中の異常陰影候補を検出する異常陰影候補検出装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
医療分野においては、従来より、放射線画像をフイルムに記録して診断に供していたが、近年はこれに代わってコンピューテッド・ラジオグラフィ(CR)システムが広く用いられている。CRシステムとは、放射線画像を一旦蓄積性蛍光体シート(イメージングプレート)と称されるシートに記録し、その後このシートに励起光を照射して、シートから発光する、記録されている放射線画像に応じた光量の輝尽発光光を光電的に読み取り、得られた電気信号(画像信号)をデジタル化し、このデジタル化された信号(画像データ)に基づいて、画像データが表す可視画像(放射線画像)をフイルムにプリントしたり、モニタに表示するものである。このCRシステムは、照射放射線量と輝尽発光光量との線形性を幅広い範囲で保つことができる蓄積性蛍光体シートを使用しているため、放射線フイルムに放射線画像を直接記録する場合に比べて画像上の微弱な濃度変動等を把握しやすい等の有用性を有するとともに、画像信号をデジタル化しているため、各種の画像処理が容易になるという利点がある。
【0003】
また、このCRシステムには、観察読影のための可視画像を診断に適した濃度・コントラストを有する画像にするためのEDR(Exposure Data Recognizer)と称される機能が採用されている。このEDRとしては、観察読影のための可視画像を得る読取操作(以下、「本読み」という。)に先立ち、本読みの際に照射すべき励起光よりも低いレベルの励起光を用いて、蓄積性蛍光体シートに記録されている放射線画像の概略を読み取る先読みを行い、この先読みにより得られた先読画像信号を分析して上記本読みの際の読取条件を決定する先読みEDRが知られている。
【0004】
また、先読みEDRでは、先読みによって読取条件を最適化したうえでさらに本読みを行なうことになるが、先読みを行なうことに伴う時間的ロスや処理および装置の複雑化を防止するために、先読みを行わないEDR(本読みEDR)も提案されている。
【0005】
これは、蓄積性蛍光体シートから発せられる輝尽発光光の、想定される光量に対して、検出レンジを予め十分に広く(例えば4桁程度)確保したうえで放射線画像情報の全体を読み取って画像データを得、この得られた画像データから、診断に適した濃度・コントラストを有する画像にするための最適な濃度・コントラスト変換条件(以下、「規格化条件」という。)を求め、上記検出レンジを十分に広く確保して得られた画像データに対し、この規格化条件に基づいて規格化処理を施す方法である(特開平2−108176号公報等)。この方法によれば、光電読取手段による励起光照射光量、感度、ダイナミックレンジ等の設定を改めて行なうことなく、計算処理だけで最適な画像を再生するのに必要な画像データを得ることができるため、近年ではこの本読みEDRが一般的になっている。このEDR等による規格化処理は、CRシステムに限らず、CT装置やMRI装置等の医用画像生成装置によって得られた医用画像に対して行なわれることもある。
【0006】
ここで、上記先読みEDRにおける読取条件、および上記本読みEDRにおける規格化条件とは、例えば入出力の関係を定める読取ゲイン、収録スケールファクタ等を意味するものである。
【0007】
読取ゲインSkは、図9に示すように、出力画像信号範囲の中心値Qc(0〜1023の場合511)に対応する入力画像信号レベルであり、また、同図に示す変換直線Hの傾きが収録スケールファクタGpである。
【0008】
読取ゲインSkは輝尽発光量を表わす値であり、Mo管球の管電圧25kVpで20mR(=5.16×10-6C/Kg)が照射されたときの発光量を基準値3.0とすると、
【数1】
で定義される。また収録スケールファクタGpは、例えば、
【数2】
等により求めることができる。
【0009】
一方、医療分野においては、被写体の放射線画像を読影して病変部を発見し、またその病変部の状態を観察して、疾病の有無や進行状況の診断を行うことが一般的に行なわれている。しかしながら、放射線画像の読影は読影者の経験や画像読影能力の高低によって左右され、必ずしも客観的なものとはいえなかった。
【0010】
例えば、乳癌の検査を目的として撮影されたマンモグラフィ(乳房を被写体とした診断用放射線画像)においては、その画像から癌化部分の特徴の一つである腫瘤陰影や微小石灰化陰影等の異常陰影を検出することが必要であるが、読影者によっては必ずしも的確にその異常陰影の範囲を指定することができるとは限らない。このため、読影者の技量に依存することなく、腫瘤陰影や微小石灰化陰影を始めとする異常陰影を的確に検出することが求められていた。
【0011】
そこで、この要望に応えるとともに、上述したような優れた特長を有するCRシステムを医療診断用として積極的に活用することを目的とし、診断用画像として取得された被写体の画像データが表す画像中の異常陰影の候補を計算機を用いて自動的に検出する異常陰影候補検出処理システム(計算機支援画像診断装置)が提案されている(特開平8-294479号公報、特開平8-287230号公報等)。この異常陰影候補検出処理システムは、異常陰影の濃度分布の特徴や形態的な特徴に基づいて、主として腫瘤陰影を検出するのに適したアイリスフィルタ処理や、主として微小石灰化陰影を検出するのに適したモフォロジーフィルタ処理等を利用して、画像中の異常陰影候補を計算機を用いて自動的に検出するものである。
【0012】
アイリスフィルタ処理は、画像信号の濃度勾配の集中度の最大値を表すアイリスフィルタ出力値と所定の閾値とを比較することにより、画像中における乳癌の特徴的形態の一つである腫瘤陰影の候補領域を検出するのに有効な手法であり、一方、モフォロジーフィルタ処理は、画像信号に対して、検出しようとする微小石灰化陰影よりも大きいサイズの構造要素を用いたモフォロジー演算処理の出力値と所定の閾値とを比較することにより、画像中における乳癌の特徴的形態の一つである微小石灰化陰影の候補領域を検出するのに有効な手法である。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記CRシステムが病院等の施設に導入される際には、撮影された画像を診断に適した可視画像として再生することができるように、予め撮影部位別に標準的な先読みEDR或いは本読みEDRが設定されている。上記異常陰影候補検出処理システムにおけるアイリスフィルタ処理やモフォロジーフィルタ処理は、この予め設定されているEDRによる処理が行われて得られた画像データを処理の対象とするものとして最適化されている。
【0014】
しかしながら、各施設では再生画像の好みや診断の方法に合わせてEDRの設定(Sk,Gp等のパラメータ設定等)を変更することがある。例えば、施設ごとに、EDRのアルゴリズムやパラメータ(信号範囲検出方法など)を変更したり、Sk,Gpの値を所望の値(固定値)に設定したりすることがある。その結果、CRシステムにより得られる画像データの濃度やコントラストが施設ごとに変動し、この画像データを利用して上記異常陰影候補の検出処理を行なうと、検出結果がばらついてしまうことがある。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑み、濃度やコントラスト等が異なる画像データに基づいて画像中の異常陰影候補を検出する場合でも、常に一定の検出レベルを保つことができる異常陰影候補検出装置を提供することを目的とするものである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明の異常陰影候補検出装置は、任意の規格化条件に基づく規格化処理が施された医用画像データに対し、一定の画質を有する医用画像データを得るための所定の再規格化処理を施す再規格化処理手段と、再規格化処理手段により得られた再規格化医用画像データに基づいて、医用画像データに基づく医用画像中の異常陰影候補を検出する異常陰影候補検出手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0017】
ここで、規格化条件とは、例えば、読取ゲインSkや収録スケールファクタGp、また、読取感度(S値)やラチチュード(L値)等を意味するものである。
【0018】
規格化処理とは、例えば、このような規格化条件に基づいて画像を規格化処理関数fにより変換するものであり、この規格化処理関数fは、例えば、画像データを10bitとすると、
【数3】
により与えられる。
【0019】
また、規格化処理とは、規格化処理関数fにより画像を変換するものに限られるものではなく、先読みにより決定された読取条件で本読みを行うことにより、規格化された画像データを得る処理でもよい。この場合、上記規格化条件には、「先読みにより決定された読取条件」が相当する。すなわち、「任意の規格化条件に基づく規格化処理が施された医用画像データ」とは、例えば本読みEDRにより得られる医用画像データを意味するものであるが、これに限られるものではなく、先読みEDRにより得られる医用画像データを適用することもできる。
【0020】
一定の画質を有する医用画像データとは、例えば、一定の濃度やコントラストを有する画像データを意味するものである。また、異常陰影とは、癌の特徴的形態の1つである腫瘤陰影や微小石灰化陰影を意味するものであり、異常陰影候補検出手段とは、腫瘤陰影を検出するのに適したアイリスフィルタ処理や微小石灰化陰影を検出するのに適したモフォロジーフィルタ処理等を利用して、異常陰影の候補を検出するものである。
【0021】
また、本発明の異常陰影候補検出装置において、上記所定の再規格化処理を、任意の規格化条件を参照して医用画像の原画像データを取得し、取得された原画像データに基準規格化処理を施して再規格化医用画像データを取得するものとしてもよい。
【0022】
基準規格化処理とは、例えばEDRによる規格化処理において、標準的なものとして定められた規格化条件による規格化処理を意味するものである。この基準規格化処理は、撮影部位別に定められているものでもよい。
【0023】
なお、「任意の規格化条件に基づく規格化処理が施された医用画像データ」として先読みEDRにより得られた医用画像データを適用する場合には、この先読みEDRにより得られた医用画像データを、上記規格化処理関数fにより変換された画像データであると仮定して仮想的な原画像データを取得し、この仮想的な原画像データに基準規格化処理を施すようにすればよい。すなわち、上記原画像データとは、仮想的な原画像データを含むものとする。
【0024】
なお、上記規格化処理は、EDRによるものに限られるものではない。
【0025】
【発明の効果】
本発明の異常陰影候補検出装置によれば、任意の規格化条件に基づいて規格化処理が施されている医用画像データに対して一定の画質を有する医用画像データを得るための所定の再規格化処理を施し、得られた一定の画質を有する再規格化医用画像データに基づいて画像中の異常陰影候補を検出するから、異常陰影候補の検出レベルを安定させることができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の異常陰影候補検出装置の具体的な実施の形態について図面を用いて説明する。図1は本発明の一実施形態による異常陰影候補検出装置の概略構成を示す図である。
【0027】
本実施形態による異常陰影候補検出装置は、CRシステムにより収録された、任意の規格化条件に基づいて規格化処理が施されている規格化画像データP′を入力し、この規格化画像データP′に基づいて、一定の濃度とコントラストを有する再規格化画像データP″を取得する再規格化処理手段10と、再規格化処理手段10から再規格化画像データP″を入力し、再規格化画像データP″に基づいて画像中の異常陰影候補を検出する異常陰影候補検出手段20とにより構成されている。
【0028】
規格化画像データP′は乳房の放射線画像を表す放射線画像データであり、各施設において任意に設定された規格化条件により規格化処理が施された画像データである。ここで、各施設において任意に設定可能な規格化条件は、読取ゲインSkと収録スケールファクタGpであるとする。なお、各規格化画像データP′の読取ゲインSk、収録スケールファクタGpは各規格化画像データP′とともに記録されている。
【0029】
異常陰影候補検出手段20は、この再規格化画像データP″に基づいて、画像中の腫瘤陰影候補をアイリスフィルタ処理を利用して検出し、微小石灰化陰影候補をモフォロジーフィルタ処理を利用して検出するものである。以下、アイリスフィルタ処理およびモフォロジーフィルタ処理について詳細に説明する。
【0030】
アイリスフィルタ処理とは、画像信号の勾配を勾配ベクトルとして算出し、その勾配ベクトルの集中度を出力するアイリスフィルタを用いて、画像中の腫瘤陰影の候補領域を検出するものである。すなわち、X線フイルム上における放射線画像(高濃度高信号レベルの画像信号で表される画像)において、腫瘤陰影部分は周囲の画像部分に比べて濃度値(画像信号値)が僅かに低く、腫瘤陰影の内部においては、略円形の周縁部から中心部に向かうにしたがって濃度値が低くなるという局所的な濃度値の勾配が認められることが知られているため、アイリスフィルタを用いることにより、画像中の腫瘤陰影の候補領域を検出することができる。
【0031】
以下、図2のマンモグラフィを参照して説明する。原画像データPにおける腫瘤陰影P1内部の任意の画素における勾配ベクトルは図2(2)に示すように腫瘤陰影P1の中心付近を向くが、血管陰影や乳腺など細長い陰影P2は図2(3)に示すように勾配ベクトルが特定の点に集中することはない。このため、局所的に勾配ベクトルの向きの分布を評価し、特定の点に集中している領域を抽出すれば、それが腫瘤陰影P1の候補領域となる。なお、図2(4)に示すような乳腺等の細長い陰影同士が交差した陰影P3は、勾配ベクトルが特定の点に集中する傾向があるため擬似的に候補領域として検出され得る。以下にアイリスフィルタ処理の具体的なアルゴリズムを示す。
【0032】
まず、対象となる画像を構成する全ての画素について、各画素jごとに下記式(1)に示す計算式に基づいた画像データの勾配ベクトルの向きθを求める。
【0033】
【数4】
ここでf1 〜f16は、図3に示すように、その画素jを中心とした例えば縦5画素×横5画素の大きさのマスクの外周上の画素に対応した画素値(画像データ)である。
【0034】
次に、対象となる画像を構成する全ての画素について、各画素ごとにその画素を注目画素とする勾配ベクトルの集中度Cを次式(2)にしたがって算出する。
【0035】
【数5】
ここでNは注目画素を中心に半径Rの円内に存在する画素の数、θjは注目画素とその円内の各画素jとを結ぶ直線と、その各画素jにおける上記式(1)で算出された勾配ベクトルとがなす角である(図4参照)。したがって上記式(2)で表される集中度Cが大きな値となるのは、各画素jの勾配ベクトルの向きが注目画素に集中する場合である。
【0036】
ところで、腫瘤陰影近傍の各画素jの勾配ベクトルは、腫瘤陰影のコントラストの大小に拘らず、略その腫瘤陰影の中心部を向くため、上記集中度Cが大きな値をとる注目画素は腫瘤陰影の中心部の画素ということができる。一方、血管陰影など細長い陰影は勾配ベクトルの向きが一定方向に偏るため集中度Cの値は小さい。したがって、画像を構成する全ての画素について、それぞれ注目画素に対する上記集中度Cの値を算出し、その集中度Cの値が予め設定された閾値を上回るか否かを評価することによって腫瘤陰影を検出することができる。すなわち、このフィルタは通常の差分フィルタに比べて血管や乳腺等の影響を受けにくく、腫瘤陰影を効率よく検出できるという特長を有している。
【0037】
さらに実際の処理においては、腫瘤の大きさや形状に左右されない検出力を達成するために、フィルタの大きさと形状とを適応的に変化させる工夫がなされる。図5にそのフィルタを示す。このフィルタは、図4に示すものと異なり、注目画素を中心として2π/M度の角度間隔で隣接するM種類の方向(図5においては、11.25 度ごとの32方向を例示)の放射状の線上の画素のみで上記集中度の評価を行うものである。
【0038】
ここでi番目の線上にあって、かつ注目画素からn番目の画素の座標([x],[y])は、注目画素の座標を(k,l)とすれば,下記式(3)、(4)で与えられる。
【0039】
【数6】
ただし、[x],[y]は、x,yを超えない最大の整数である。
【0040】
さらに、その放射線上の線上の各線ごとに最大の集中度が得られる画素までの出力値をその方向についての集中度Cimaxとし、その集中度Cimaxを全ての方向で平均し、この平均値を注目画素についての勾配ベクトル群の集中度Cとする。
【0041】
具体的には、まずi番目の放射状の線上において注目画素からn番目の画素までで得られる集中度Ci(n)を下記式(5)により求める。
【0042】
【数7】
すなわち式(5)は、始点を注目画素とし、終点をRmin からRmax までの範囲内で変化させて、集中度Ci (n)を算出するものである。
【0043】
ここでRmin とRmax とは、抽出しようとする腫瘤陰影の半径の最小値と最大値である。
【0044】
次に、勾配ベクトル群の集中度Cを下記式(6)および(7)により計算する。
【0045】
【数8】
ここで式(6)のCimaxは、式(5)で得られた放射状の方向線ごとの集中度Ci (n)の最大値であるから、注目画素からその集中度Ci (n)が最大値となる画素までの領域が、その線の方向における腫瘤陰影の領域となる。
【0046】
全ての放射状の方向線について式(6)の計算をしてその各線上における腫瘤陰影の領域の辺縁点を求め、この各線上における腫瘤陰影の領域の隣接する辺縁点を、直線または非線形曲線で結ぶことにより、腫瘤陰影の候補となり得る候補領域の輪郭を特定することができる。
【0047】
そして、式(7)では、この領域内の式(6)で与えられた集中度の最大値Cimaxを放射状の方向線の全方向(式(7)では32方向の場合を例示)について平均した値を求める。この求められた値がアイリスフィルタ出力値Iであり、この出力値Iを、腫瘤陰影であるか否かを判断するのに適した予め設定した一定の閾値Tと比較し、I≧T(若しくはI>T)であればこの注目画素を中心とする領域が候補領域であり、I<T(若しくはI≦T)であれば候補領域ではないと判定し、候補領域を検出する。
【0048】
なお、前述の集中度Ci (n)の計算は、式(5)の代わりに下記式(5′)を用いてもよい。
【0049】
【数9】
すなわち、式(5′)は、抽出しようとする腫瘤陰影の半径の最小値Rmin に対応した画素を起点とし、終点をRmin からRmax までとした範囲内で集中度Ci (n)を算出するものである。
【0050】
一方、モフォロジーフィルタ処理は、画像信号に対して、検出しようとする微小石灰化陰影(個々の微小な点状の石灰化陰影、以下単に石灰化陰影ともいう)よりも大きいサイズの構造要素を用いたモフォロジー演算処理の出力値と所定の閾値とを比較することにより、画像中における乳癌の特徴的形態の一つである微小石灰化陰影を検出するのに有効な手法である。以下、モフォロジーフィルタ処理について詳細に説明する。
【0051】
モフォロジーフィルタは、所定のサイズの構造要素を用いて、構造要素よりも小さいサイズのノイズや陰影を画像中から除去または抽出することが可能なフィルタであり、画像信号の平滑化や、癌の特徴的な形態の一つである微小石灰化陰影の抽出等に利用される。
【0052】
(モフォロジーの基本演算)
モフォロジー演算処理は一般的にはN次元空間における集合論として展開されるが、直感的な理解のために2次元の濃淡画像を対象として説明する。
【0053】
濃淡画像を座標(x,y)の点が濃度値f(x,y)に相当する高さをもつ空間とみなす。ここで、濃度値f(x,y)は、濃度が低い(CRTに表示した場合には輝度が高い)ほど大きな画像信号となる高輝度高信号レベルの信号とする。
【0054】
まず、簡単のために、その断面に相当する1次元の関数f(x)を考える。モフォロジー演算処理に用いる構造要素gは次式(8)に示すように、原点について対称な対称関数
【数10】
であり、定義域内で値が0で、その定義域が下記式(9)であるとする。
【0055】
【数11】
このとき、モフォロジー演算の基本形は式(10)〜(13)に示すように、非常に簡単な演算となる。
【0056】
【数12】
すなわち、ダイレーション(dilation)処理は、注目画素を中心とした、±m(構造要素Bに応じて決定される値)の幅の中の最大値を検索する処理であり(図6(A)参照)、一方、イロージョン(erosion )処理は、注目画素を中心とした、±mの幅の中の最小値を検索する処理である(同図(B)参照)。また、オープニング(opening )処理は最小値探索の後に、最大値を探索することに相当し、クロージング(closing )処理は最大値探索の後に、最小値を探索することに相当する。オープニング処理は低輝度側から濃度曲線f(x)を滑らかにし、マスクサイズ2mより空間的に狭い範囲で変動する凸状の濃度変動部分(周囲部分よりも輝度が高い部分)を取り除くことに相当する(同図(C)参照)。一方、クロージング処理は、高輝度側から濃度曲線f(x)を滑らかにし、マスクサイズ2mより空間的に狭い範囲で変動す凹状の濃度変動部分(周囲部分よりも輝度が低い部分)を取り除くことに相当する(同図(D)参照)。
【0057】
ここで、濃度の高いもの程大きな値となる高濃度高信号レベルの信号の場合においては、濃度値f(x)の画像信号値が高輝度高信号レベルの場合に対して大小関係が逆転するため、高濃度高信号レベルの信号におけるダイレーション処理は、高輝度高信号レベルにおけるイロージョン処理(図6(B))と一致し、高濃度高信号レベルの信号におけるイロージョン処理は、高輝度高信号レベルにおけるダイレーション処理(同図(A))と一致し、高濃度高信号レベルの信号におけるオープニング処理は、高輝度高信号レベルにおけるクロージング処理(同図(D))と一致し、高濃度高信号レベルの信号におけるクロージング処理は、高輝度高信号レベルにおけるオープニング処理(同図(C))と一致する。なお、ここでは高輝度高信号レベルの画像信号(輝度値)の場合について説明する。
【0058】
(石灰化陰影検出への応用)
石灰化陰影の検出には、原画像から平滑化した画像を引き去る差分法が考えられる。単純な平滑化法では石灰化陰影と細長い形状の非石灰化陰影(乳腺や血管や乳腺支持組織等)の識別が困難であるため、多重構造要素を用いたオープニング演算に基づく下記式(14)で表されるモフォロジー演算処理が提案されている(「多重構造要素を用いたモルフォロジーフィルタによる微小石灰化像の抽出」電子情報通信学会論文誌 D-II Vol.J75-D-II No.7 P1170 〜1176 1992年7月、「モルフォロジーの基礎とそのマンモグラム処理への応用」MEDICAL IMAGING TECHNOLOGY Vol.12 No.1 January 1994 )。
【0059】
【数13】
ここでBi (i=1,2,3,4)は図7に示す直線状の4つの構造要素Bである。構造要素Bを検出対象の石灰化陰影よりも大きく設定すれば、オープニング処理で、構造要素Bよりも細かな凸状の信号変化部分(空間的に狭い範囲で変動する画像部分)である石灰化陰影は取り除かれる。一方、細長い形状の非石灰化陰影はその長さが構造要素Bよりも長く、その傾き(延びる方向)が4つの構造要素Bi のうちいずれかに一致すればオープニング処理(式(14)の第2項の演算)をしてもそのまま残る。したがってオープニング処理によって得られた平滑化画像(石灰化陰影が取り除かれた画像)を原画像fから引き去ることで、小さな石灰化陰影の候補のみが含まれる画像が得られる。これが式(14)の考え方である。
【0060】
なお前述したように、高濃度高信号レベルの信号の場合においては、石灰化陰影は周囲の画像部分よりも濃度値が低くなり、石灰化陰影は周囲部分に対して凹状の信号変化部分となるため、オープニング処理に代えてクロージング処理を適用し、式(14)に代えて式(15)を適用する。
【0061】
【数14】
しかし、これによっても石灰化陰影と同等の大きさをもつ非石灰化陰影が一部残る場合があり、そのような場合については、次式(16)のモフォロジー演算に基づく微分情報を利用して式(14)のPに含まれる非石灰化陰影をさらに除去する。
【0062】
【数15】
ここで、Mgradの値が大きいほど石灰化陰影の可能性が大きいので、石灰化候補画像Cs は下記式(17)により求めることができる。
【0063】
【数16】
ここで、T1,T2は実験的に決められる、予め設定された閾値である。
【0064】
ただし、石灰化陰影の大きさとは異なる非石灰化陰影については、式(14)のPと所定の閾値T1との比較のみで除去できるため、石灰化陰影と同等の大きさをもつ非石灰化陰影が残ることのないような場合は、式(17)の第1項の条件(P(i,j)≧T1)を満たすだけでよい。
【0065】
最後に、式(18)に示す、マルチスケールのオープニング演算とクロージング演算との組合わせにより、石灰化陰影のクラスタ領域Cc を検出する。
【0066】
【数17】
ここで、λ1とλ2はそれぞれ融合したい石灰化陰影の最大距離と除去したい孤立陰影の最大半径とによって決められ、λ3=λ1+λ2である。
【0067】
なお、これらのモフォロジー演算処理に関する説明は上述したように、高輝度高信号レベルの画像データの場合についてであるが、高濃度高信号レベルの画像データ(高濃度の画素ほど大きなデジタル値を持つ画像データ)の場合については、オープニング演算とクロージング演算とが逆の関係になる。
【0068】
以上が、アイリスフィルタ処理およびモフォロジーフィルタ処理の詳細である。
【0069】
次に、以上のように構成された本実施形態の異常陰影候補検出装置の作用について説明する。図8は、再規格化処理手段10における再規格化処理フローを示す図である。
【0070】
EDRを採用しているCRシステムにより収録された乳房の放射線画像データ(規格化画像データ)P′が、この規格化画像データP′の規格化条件データSk,Gp(簡単のため、各規格化条件を示すデータについてもSk,Gpとする)とともに再規格化処理手段10に入力されると、再規格化処理手段10では、まず最初に、入力された規格化画像データP′と規格化条件データSk,Gpとを参照して原画像データPを取得する(ステップS10)。ここで、規格化処理を関数fで表すと、規格化画像データP′は規格化条件データSk,Gpに基づいて、
【数18】
と示すことができるため、この式に基づいて原画像データPは、
【数19】
により得ることができる。なお、規格化処理を表す関数fは、各画像データを10bitとすると、
【数20】
により与えられる。
【0071】
ステップS10で原画像データPが得られると、次に原画像データPに基づいて基準EDR処理により基準規格化条件Sk′,Gp′を得る(ステップS20)。
ここで基準EDR処理とは、乳房の画像データに対する標準的なEDRとしてCRシステムに予め設定されている処理である。
【0072】
さらに、基準規格化条件Sk′,Gp′に基づいて原画像データPに対し基準規格化処理を施すことにより、再規格化画像データP″を得ることができる。すなわち、
【数21】
により、再規格化画像データP″を得る。
【0073】
異常陰影候補検出手段20は、得られた再規格化画像データP″に基づいて画像中の腫瘤陰影候補をアイリスフィルタ処理を利用して検出し、画像中の微小石灰化陰影候補をモフォロジーフィルタ処理を利用して検出する。
【0074】
本発明の異常陰影候補検出装置によれば、任意の規格化条件により規格化された画像データから原画像データを取得し、この原画像データを基準規格化条件により再規格化して得られた再規格化画像データP″に基づいて画像中の異常陰影候補を検出しているため、施設ごとに任意に変更されている規格化条件に影響されることなく、一定の基準による安定した検出結果が得られる。
【0075】
特に、各施設においてCRシステムを利用する際には、各施設の好みに合わせて規格化条件(EDRのパラメータ設定)を変更することにより、診断性能の向上に繋がり得る再生画像を得ることができるため、規格化条件を各施設において変更することは画像診断上望ましいことである。しかしながら、規格化条件を変更することにより異常陰影候補の検出レベルが各施設でばらついてしまうと、施設によって検出結果が異なることとなり、誤診に繋がる可能性もある。
【0076】
本発明の異常陰影候補検出装置によれば、好みの再生画像を得るために各施設において規格化条件が変更されていたとしても、それにより異常陰影候補の検出結果がばらつくことはないため、CRシステムの利点を活用して診断性能を向上させ得る再生画像の取得を実現しながらも、異常陰影候補検出装置の診断支援システムとしての性能を維持することができる。
【0077】
なお、上記実施形態においては、規格化条件としてSk,Gpを用いた例を示したが、L値(L=4/Gp)やS値(S=4×104-Sk)を規格化条件に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態による異常陰影候補検出装置の概略構成図
【図2】アイリスフィルタ処理の作用を示す図
【図3】注目画素jを中心とした縦5画素×横5画素の大きさのマスクを表す図
【図4】注目画素と各画素jにおける勾配ベクトルとがなす角を説明する図
【図5】輪郭形状が適応的に変化するように設定されたアイリスフィルタを示す概念図
【図6】モフォロジーフィルタの基本作用を示す図
【図7】直線状の4つの構造要素Bを示す図
【図8】再規格化処理手段における再規格化処理を示すフローチャート
【図9】読取条件である読取ゲインと収録スケールファクタを表わす図
【符号の説明】
10 再規格化処理手段
20 異常陰影候補検出手段
Claims (1)
- 任意の規格化条件に基づいて規格化処理が施された医用画像データに対し、前記任意の規格化条件を参照して前記医用画像の原画像データを取得するとともに、該取得した原画像データに対して予め設定された基準規格条件に基づいて規格化処理を施して再規格化医用画像データを取得する再規格化処理を施す再規格化処理手段と、
該再規格化処理手段により得られた再規格化医用画像データに基づいて、前記医用画像データに基づく医用画像中の異常陰影候補を検出する異常陰影候補検出手段とを備えたことを特徴とする異常陰影候補検出装置。
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