以下、この発明の実施の一形態を、図面に基づいて説明する。
図1及び図2は本発明による走行車体を備えた田植機の全体側面図及び平面図である。この田植機1は、走行車体2の後方に昇降リンク装置3を介して5条植の苗植付部4が昇降可能に設けられ、さらに、走行車体2の後部上側に肥料タンク220L,220R、肥料繰出部221,…等からなる施肥装置5の本体部が設けられている。また、走行車体2の前部左右両端部には、左右各2段づつ予備苗枠6,…が設けられている。この予備苗枠6は、後述する走行車体2のステップ25から上方に延びる予備苗枠支持フレーム260に支持されている。
走行車体2は、走行部として駆動輪である各左右一対の前輪7,7及び後輪8,8を備えた四輪駆動車両であって、図3に示すように、機体の前部に配設されたミッションケース10の左右側面部から前輪アクスルケース11,11が側方に延設され、その先端部に変向可能に設けた前輪ファイナルケース12,12に前輪7,7が回転自在に支承され、また、ミッションケース10の背面部に左右一対のメインフレーム13,13の前端部が固着され、該メインフレームの後端部から左右側方に延びるリヤフレーム14の先端部に固定して設けた後輪ファイナルケース15,15に後輪8,8が回転自在に支承されている。リヤフレーム14には、昇降リンク装置3を支持する左右一対のリンク支持フレーム16,16が上向きに突設されている。
メインフレーム13,13の前後中央部の上方にエンジン20が搭載されており、該エンジンの上側を覆うエンジンカバー21の上に座席22が設置されている。座席22の前方は各種操作機構が内蔵されたボンネット23で、その上方に操向輪である前輪7,7を操向するための操向ハンドル24が設けられている。エンジンカバー21及びボンネット23の周囲は、人が移動したり作業を行ったりするためのステップ25になっている。図中符号30は変速レバー、31は副変速レバー、32は植付昇降レバー、33はクラッチ・ブレーキペダル、34はクラッチ・ブレーキレバー、36はチョークつまみ、37は昇降制御の感度調節レバーである。
次に、この走行車体2の動力伝達機構について説明する。
エンジン20の左側面部にエンジン出力軸40が突出し、そのエンジン出力軸40の回転動力が、ベルト式変速装置41と主クラッチ機能付きのベルト伝動装置42とを介して、ミッションケース10の左側面部に突出するミッション入力軸43に伝達される。また、エンジン出力軸40の延長線上でベルト式変速装置41よりも外側に油圧ポンプ45が設けられ、エンジン出力軸40の回転動力でこの油圧ポンプ45が直接駆動される。このようにベルト式変速装置41やベルト伝動装置42よりも伝動上手側から回転動力を取ることにより、ベルトのスリップや脈動による影響を受けず油圧ポンプ45の回転を安定させることができる。
ベルト式変速装置41は、エンジン出力軸40に一体回転するように嵌合する駆動プーリ50と、中継軸51に回転自在に嵌合する従動プーリ52とに伝動ベルト53を掛け、該ベルトにテンションプーリ54で張力を付与している。駆動プーリ50及び従動プーリ52は割りプーリになっており、両プーリ50,52の有効径を互いに大小逆側に変更することにより伝動比を変更し、駆動プーリ50の有効径が一定以下になると伝動停止になる。
ベルト伝動装置42は、前記ベルト式変速装置41の従動プーリ52に一体の駆動プーリ42aとミッション入力軸43に取り付けた従動プーリ42bとに伝動ベルト42cを掛け、この伝動ベルト42cにテンションプーリ42dで張力を付加するようにしたもので、テンションプーリ42dを伝動ベルト42cから離すと、エンジン20の回転動力がミッションケース10へ伝動されない主クラッチ「切」の状態になるようになっている。
図4はミッションケースの内部構造を示す図である。主クラッチとしてのベルト伝動装置42を介してミッション入力軸43に入力された回転動力は、「路上走行速」「通常植付速」「超低速」「中立」の各シフト位置を有する副変速装置70を介して副変速軸71に伝達される。そして、副変速軸71の回転動力の一部は、走行用動力として前後進切替装置72を介してブレーキ軸73に伝達される。前後進切替装置72は、副変速軸71からブレーキ軸73へ逆転方向に動力を伝達する「前進」と、同方向に動力を伝達する「後進」と、動力を伝達しない「PTO」とを切り替えるようになっている。
ブレーキ軸73には四輪ブレーキ装置75が設けられている。75aは四輪ブレーキ装置の操作アームである。そして、ブレーキ軸73の回転動力は、デフ装置76によって左右の前輪アクスル77,77に分配して伝達され、さらに該前輪アクスルによって前輪ファイナルケース12,12に伝動されて前輪7,7を駆動する。76aはデフ装置76のデフ機能を停止させるデフロックピンである。このデフロックピン76aを回動させることにより、デフロック用圧縮スプリング76bに抗してデフロック爪76cを作動させ、デフ装置76をデフロック状態に切り替えるようになっている。デフ装置76のデフケース本体76dと一体回転する左右の筒軸261には、該筒軸261と一体回転すると共に該筒軸261に沿ってスライド可能に後輪クラッチ・ブレーキ装置78,78がそれぞれ設けられている。尚、後輪クラッチ・ブレーキ装置78は、クラッチ・ブレーキ用圧縮スプリング78aにより左右方向内側へ付勢されている。該後輪クラッチ・ブレーキ装置78,78が、後輪8への伝動経路に設けたサイドクラッチ及びサイドブレ−キとなる。後輪クラッチ・ブレーキ装置78,78は、左右方向外側にブレーキ板78bと左右方向内側に駆動ギヤ78cを備え、該駆動ギヤ78cと噛み合う従動ギヤ262へ伝動する。この後輪クラッチ・ブレーキ装置78がクラッチ・ブレーキ用圧縮スプリング78aに抗して左右方向外側へ移動することにより、ブレーキ板78bが圧接されると共に後輪クラッチ・ブレーキ装置78の左右方向内端に設けた該筒軸261との係合部78dの係合が外れ、後輪8の制動及び後輪8への伝動の遮断を行う。尚、後輪クラッチ・ブレーキ装置78の左右方向への移動に拘らず、駆動ギヤ78cは、従動ギヤ262に常時噛合状態となるように歯幅が広く設定されている。尚、後輪クラッチ・ブレーキ装置78の左右方向外側への移動において、先ず前記係合部78dの係合が外れ、その後ブレーキ板78bが圧接される。従って、先ずサイドクラッチの伝動を遮断してからサイドブレ−キが制動作動する構成となっている。尚、従動ギヤ262からミッションケース10の背面部に設けた後輪伝動軸79,79へ伝動され、該後輪伝動軸79,79から後輪ファイナルケース15,15内を介して後輪8,8へ伝動される。
操向ハンドル24の操作で回動するピットマンアーム250をミッションケース10の底面部に設けており、該ピットマンアーム250に左右のタイロッド251L,251Rを介して左右に回動可能な前輪ファイナルケース12,12をそれぞれ連結している。ピットマンアーム250が左に回動すると左右のタイロッド251L,251Rが左に移動して左右の前輪7,7が右に操向し、ピットマンアーム250が右に回動すると左右のタイロッド251L,251Rが右に移動して左右の前輪7,7が左に操向する。また、ピットマンアーム250に左右の連動ロッド252L,252Rを介して左右の後輪クラッチ・ブレーキ装置78,78を操作する左右のクラッチ・ブレーキアーム253L,253Rをそれぞれ連結している。尚、ピットマンアーム250に設けたそれぞれの長孔250a,250aに摺動可能に連動ロッド252L,252Rを連結し、左側の連動ロッド252Lをピットマンアーム250の回動軸250bの前側で左側に連結し、右側の連動ロッド252Rをピットマンアーム250の回動軸250bの後側で左側に連結している。従って、左側の連動ロッド252Lは左寄りで平面視で左側のタイロッド251Lに近づけて配置され、右側の連動ロッド252Rは中央寄りに配置されている。ピットマンアーム250が左に回動すると、前記長孔250aの端部で押されて右側の連動ロッド252Rが右に移動し、右側の後輪クラッチ・ブレーキ装置78が作動して右側の後輪8への伝動を断つと共に該後輪8を制動する。ピットマンアーム250が右に回動すると、前記長孔250aの端部で引かれて左側の連動ロッド252Lが右に移動し、左側の後輪クラッチ・ブレーキ装置78が作動して右側の後輪8への伝動を断つと共に該後輪8を制動する。尚、一方の連動ロッド252L,252Rが作動している間は、他方の連動ロッド252L,252Rは前記長孔250a内を摺動して作動しない構成となっている。
また、図14に示すように、左右のタイロッド251L,251R及び右側の連動ロッド252Rを同じ高さに配置し、左側の連動ロッド252Lのみを他のロッド251L,251R,252Rより高位に配置し、左側のクラッチ・ブレーキアーム253Lを下方に屈曲させた構成としている。そして、平面視で左側のタイロッド251Lと左側の連動ロッド252Lとを交差させている。
よって、機体前端部のピットマンア−ム250に左右のタイロッド251L,251R及び左右の連動ロッド252L,252Rを直接連結して該ピットマンア−ム250から後側に延ばした構成としながら、前輪7の操向を円滑に行える向きにタイロッド251L,251Rを配置できると共に、後輪クラッチ・ブレーキ装置78を円滑に作動させるべくクラッチ・ブレーキアーム253L,253Rに対して垂直に近い向きで連動ロッド252L,252Rを配置でき、前輪の操向や後輪クラッチ・ブレーキ装置78の作動を適確に且つ適正な作動タイミングで作動させることができると共に、ピットマンア−ム250ひいては操向ハンドル24の操作荷重の軽減も図ることができる。従って、機体の旋回が円滑且つ容易に行える。また、一対の連動ロッド252L,252R及びタイロッド251L,251Rを配置するスペースの左右幅を小さくでき、5条植の田植機等の車輪7,8のトレッドの狭い走行車体2においてもこのトレッド幅内に前記ロッド252L,252R、251L,251Rを収めることができ、機体の小型化を図ることができる。
また、左側のタイロッド251Lと左側の連動ロッド252Lとを交差させた構成とすることにより、右側のタイロッド251Rと右側の連動ロッド252Rとを平面視で干渉しないように離れて配置させることができるので、右側のタイロッド251Rと右側の連動ロッド252Rとを同じ高さに配置でき、ひいては一対の連動ロッド252L,252R及びタイロッド251L,251Rを配置するスペースの上下方向の幅を小さくでき、機体全体の低位置化及び低重心化を図ることができて機体が安定する。
また、一対の連動ロッド252L,252R及びタイロッド251L,251Rが機体前端部のピットマンア−ム250に連結されているので、作業者が機体の前側且つ下側から潜り込むようにして一対の連動ロッド252L,252Rを容易に着脱したり該ロッド252L,252Rの有効長を調節して前輪7の操向に対する後輪クラッチ・ブレーキ装置78の作動タイミングを調節することができ、メンテナンス性が向上する。同様に、タイロッド251L,251Rを、容易に着脱したり、該ロッド251L,251Rの有効長を調節して左右の前輪7の向きを互いに調節することができる。しかも、前側に配置される左側の連動ロッド252Lを右側の連動ロッド252Rより高位に配置しているので、機体の前側且つ下側から潜り込むようにして一対の連動ロッド252L,252Rを着脱したり有効長を調節したりするとき、前記前側に配置される連動ロッド252Lが邪魔にならずに他方の後側に配置される連動ロッド252Rを着脱又は調節することができる。尚、図1に示すように、ミッションケース10の底面は前上がりに構成されているので、前側に配置される左側の連動ロッド252Lを右側の連動ロッド252Rより高位に配置することにより、これらの連動ロッド252L,252Rを配置するスペ−スがミッションケース10の底面に沿って構成されるため、前記スペ−スが無闇に大きくならない。
ステップ25より上側で左側の予備苗枠支持フレーム260の左右方向外側(左側)には、牽制操作具となる牽制ペダル263が設けられている。具体的には、予備苗枠支持フレーム260に固着した箱型の牽制ペダル取付ユニット264に牽制ペダル回動軸265を回動可能に設け、後述する左用牽制アーム266Lを前記牽制ペダル回動軸265に固着している。そして、前記左用牽制アーム266Lに牽制ペダルアーム267を溶接して固着し、該牽制ペダルアーム267の先端(前端)部に牽制ペダル263を設けている。従って、この牽制ペダル263は、略上下方向となる一方向の操作経路で回動操作する構成となっている。牽制ペダルアーム267の先端(前端)には平面視でU字型のペダル支持プレート268を固着して牽制ペダルアーム267の左右方向内側(右側)に向けて設け、ペダル支持プレート268に設けた略前後方向の拡縮用軸269に回動自在に牽制ペダル263を取り付けている。従って、図15に示すように、牽制ペダル263を拡縮用軸269回りに右側へ回動させてペダル支持プレート268に上側から当接させて支承し、該牽制ペダル263を機体の左右方向内側(右側)に位置させると、牽制ペダル263の大部分が機体平面視でステップ25の外縁より内側に位置し(機体平面視でステップ25と重複し)、座席22にいるオペレータが牽制ペダル263を踏み込み操作し易くなる。
逆に、牽制ペダル263を拡縮用軸269回りに左側へ回動させて牽制ペダルアーム267に上側から当接させて支承し、該牽制ペダル263を機体の左右方向外側(左側)に位置させると、牽制ペダル263の大部分(図15では全て)が機体平面視でステップ25の外縁より外側に位置し、機体前端の畦から機体への苗補給又は肥料補給の際のステップ25上での移動において牽制ペダル263が邪魔にならないようにできる。
牽制ペダル回動軸265には、右側から順に右用牽制アーム266R、左用牽制アーム266L及びデフロック用アーム270を一体回転するように設けている。右用牽制アーム266Rの先端部には右用牽制ケーブル271Rが連結され、該ケーブル271Rの他端が右側のクラッチ・ブレーキアーム253Rの先端部に連結されている。同様に、左用牽制アーム266Lの先端部には左用牽制ケーブル271Lが連結され、該ケーブル271Lの他端が左側のクラッチ・ブレーキアーム253Lの先端部に連結されている。また、デフロック用アーム270の先端部にはデフロックケーブルスプリング272を介してデフロックケーブル273が連結され、該ケーブル273の他端がデフロックピン76aに連結されている。従って、図16及び図17に示すように、牽制ペダル263を踏み込み操作せずに放した状態では、牽制ペダル263がデフロック用圧縮スプリング76b及びデフロックケーブルスプリング272により最上位置の通常制動位置Aとなる。この状態では、牽制ケーブル271L,271Rはクラッチ・ブレーキアーム253L、253Rの回動位置に拘らず緩んだ状態であり、後輪クラッチ・ブレーキ装置78に作用せず、デフロックケーブルスプリング272が伸長するためデフロックケーブル273があまり引かれずにデフロックピン76aもデフロック状態に回動しない。牽制ペダル263を踏み込み操作した非制動位置Bでは、牽制ケーブル271L,271Rは後輪クラッチ・ブレーキ装置78が制動する位置にクラッチ・ブレーキアーム253L、253Rが回動するのを規制すると共に、デフロックピン76aは依然としてデフロック状態に回動しない。牽制ペダル263を更に踏み込み操作したデフロック位置Cでは、牽制ケーブル271L,271Rは依然として後輪クラッチ・ブレーキ装置78が制動するのを規制すると共に、デフロックケーブル273が引かれてデフロックピン76aがデフロック状態に回動する。牽制ペダル263を更に踏み込み操作した非遮断位置Dでは、牽制ケーブル271L,271Rが更に引かれて後輪クラッチ・ブレーキ装置78が伝動を断つのを規制すると共に、デフロックケーブル273が引かれてデフロックピン76aがデフロック状態に回動する。前記通常制動位置A、非制動位置B、デフロック位置C、非遮断位置Dは、上下回動方向の操作経路において上側から順に配置されている。尚、図16及び図17に示すこれらの位置A,B,C,Dは、それぞれ牽制ペダル263を通常制動位置A側から非遮断位置D側へ踏み込み操作した場合の作動開始点である。
前記牽制ケーブル271L,271R及びデフロックケーブル273のアウター271La,271Ra,273aは、牽制ペダル263側では牽制ペダル取付ユニット264の内部に固着した共通の牽制ペダル側取付プレート274に固着されている。また、左用及び右用の牽制ケーブル271L,271Rのアウター271La,271Raは、ミッションケース10の前面に締付ボルト275で取り付けた共通のクラッチ・ブレーキアーム側取付プレート276に固着されている。牽制ケーブル271L,271R及びデフロックケーブル273は、機体の左右中央部でステップ25の下方にあるミッションケース10付近から機体の左側でステップ25より上側で且つ平面視でステップ25の外縁近くにある牽制ペダル取付ユニット264まで、ステップ25の下方を経由した短い経路上に配索され、ステップ25上を移動する作業者の邪魔にならず且つ短く設定できる。
また、左右の連動ロッド252L,252Rは前輪7の操向に連動して共に左右方向で同じ側(右側)に移動する構成としているので、前輪7の操向に連動して左右のクラッチ・ブレーキアーム253L,253Rが作動するのを規制する方向が左右方向で同じ側(右側)となり、左用及び右用の牽制ケーブル271L,271Rによりクラッチ・ブレーキアーム253L,253Rの前記作動方向の反対側(左側)から該アーム253L,253Rを引いてサイドクラッチの伝動の遮断又はサイドブレーキの制動作動を牽制することができる。従って、共通の牽制ペダル263で操作される両者の牽制ケーブル271L,271Rをまとめて短い経路で牽制ペダル263がある左右一側(左側)へ向けて配索しやすく、これらの連繋構成を簡単に配置できる。このことより、左用及び右用の牽制ケーブル271L,271Rのアウター271La,271Raを互いに近い位置で固定することができるため、両者のアウター271La,271Raを共通のクラッチ・ブレーキアーム側取付プレート276に固着できるのである。尚、前輪7の操向に連動して左右のクラッチ・ブレーキアーム253L,253Rが作動する左右一側方(右側)とは反対側となる機体の左右他側(左側)に、牽制ペダル263を配置している。
規制操作具となる規制レバー277は、牽制ペダル取付ユニット264の右側に位置し、該ユニット264に回動可能に設けた規制レバー回動軸278の右端に固着されている。左用牽制アーム266Lと対向する規制レバー回動軸278の中途部には、その断面が円形の一部を切り欠いた略半月状となる規制カム279を構成している。従って、図16に示すように、規制レバー277を後側に回動させた許容状態Eでは、規制カム279の切り欠き面部分に左用牽制アーム266Lが当接する通常制動位置Aへ牽制ペダル263を操作し得る。一方、図18に示すように、規制レバー277を前側に回動させた規制状態Fでは、規制カムの切り欠き端部分に左用牽制アーム266Lが当接して牽制ペダル263が非制動位置Bとなり、牽制ペダル263の通常制動位置Aへの移動を規制する。尚、牽制ペダルアーム267は非遮断位置D側へいくほど水平に近づくが、規制レバー277の規制に拘らず、デフロック位置C、非遮断位置Dは変わらないので、これらの位置C,Dへの牽制ペダル263の踏み込み操作を上方から容易に行える。
ところで、副変速軸71の回転動力の残りは、作業装置駆動用の回転動力(PTO)として、一対の株間副変速ギヤ81,82を経由してPTO出力軸83に伝達される。上記株間副変速ギヤ81,82はミッションケース10の右側面の内側に配置されており、その外側に着脱自在に取り付けられたカバー84を外してギヤ比の異なる株間副変速ギヤに交換することが可能である。PTO出力軸83の後端にはPTO伝動軸85が接続され、該軸を介してPTOが植付クラッチケース86へ伝達される。尚、PTO出力軸83及びPTO伝動軸85は、後側へいくにつれて左右方向の外側(右側)へ位置するように斜めに配置され、右側の前輪7の近くに配置される前側部分を左右方向の内寄り(左寄り)に位置させて右側の前輪7の操向による該前輪7と干渉しないようにしている。
植付クラッチケース86に伝達されたPTOは施肥動力と植付動力とに分岐し、施肥動力は植付クラッチケース86から取り出され、植付動力は株間調節装置及び植付クラッチを経由して植付クラッチケース86から取り出される。植付クラッチケース86から取り出された植付動力は、植付伝動軸88を介して苗植付部4へ伝達される。尚、植付伝動軸88は、PTO出力軸83及びPTO伝動軸85と同様に、後側へいくにつれて左右方向の外側(右側)へ位置するように斜めに配置されている。
変速レバー30の操作機構を図5及び図6に示す。変速レバー30は操向ハンドル24の左下方に設けられていて、軸90を支点にして左右に回動可能かつ軸91を支点にして前後に回動可能になっている。変速レバー30を左右に操作すると、前後進切替アーム92を介して前後進切替ロッド93が上下動させられ、前後進切替装置72が切り替えられる。また、変速レバー30を前後に操作すると、アーム、連結ロッド、中継軸等からなる連係部94を介してベルト式変速装置41の変速操作ロッド68が前後移動させられ、ベルト式変速装置41が変速操作される。この変速レバーの操作範囲はレバーガイド95によって規制されている。
レバーガイド95は図7に示す形状をしており、変速レバー30の前後位置がNにあるときベルト式変速装置41が伝動停止状態になり、これより前方及び後方に操作するとその操作量に応じて速度が速くなる。また、前後進切替装置72は、変速レバー30が左右中央位置で「PTO」、右側位置で「前進」、左側位置で「後進」となる。「PTO」及び「前進」では変速レバー30をNよりも前側の前進域Fにのみ操作することができ、「後進」では変速レバー30をNよりも後側の後進域Rにのみ操作することができる。
したがって、変速レバー30をNよりも前方に操作すると常に前進速になり、Nよりも後方に操作すると常に後進速になる。変速レバー30の操作方向と機体の進行方向が一致するので感覚的に分かりやすい。前進速から後進速に或はその逆に切り替える際、その過程で必ずベルト式変速装置41が伝動停止状態となるので、主クラッチを「切」にすることなく変速レバー30の操作だけで前後進の切替を行える。また、前進域Fのレバーストロークに比べ後進域Rのレバーストロークを狭くして後進の最大速度を規制しているので、安全である。なお、前後進切替装置72が「PTO」で変速レバー30を前進域Fに操作した場合は、走行部は駆動されず作業装置だけが駆動される。
図8及び図9にクラッチ・ブレーキペダル及びクラッチ・ブレーキレバーの操作機構を示す。クラッチ・ブレーキペダル33は座席22の右側足下部に設けられ、支持軸100を支点にして前後に回動自在となっている。また、クラッチ・ブレーキペダル33には、これと一体にクラッチ・ブレーキレバー34が上向きに取り付けられている。
クラッチ・ブレーキペダル33と一体回動するアーム101が設けられ、このアーム101とミッションケース10の前方に左右方向に設けた回動軸102の右端部に取り付けたアーム103とがロッド104を介して連結されている。回動軸102の左端部には前記ベルト伝動装置42のテンションローラを支持するテンションアーム105が取り付けられている。テンションアーム105には、テンテンションプーリ42dが伝動ベルト42cに張力を付加する方向にテンションアーム105を付勢する引っ張りスプリング105aが取り付けられている。また、このテンションアーム105に一体形成された突起部と四輪ブレーキ装置75の操作アーム75aとが四輪ブレーキ作動ロッド106とが連結されている。
これにより、クラッチ・ブレーキペダル33を前方に踏み込み操作もしくはクラッチ・ブレーキレバー34を前方に回動操作すると、ベルト伝動装置42のテンションプーリ105が伝動ベルト42cから離れて主クラッチ「切」となるとともに、四輪ブレーキ装置75がブレーキ作動する。
また、クラッチ・ブレーキペダル33には、先端部が鍵状に形成されたロックアーム110が回動自在に設けられ、これがトルクスプリング111によって一定方向に付勢されている。これにより、クラッチ・ブレーキペダル33又はクラッチ・ブレーキレバー34を一定以上操作すると、ロックアーム110の鍵状部がロックピン112に係合し、クラッチ・ブレーキペダル33及びクラッチ・ブレーキレバー34がその操作位置のままに保持され、機体が停止状態に維持される。クラッチ・ブレーキレバー34の前側に設けられたロック解除レバー113をクラッチ・ブレーキレバー34側に引き寄せ操作すると、ロックアーム110がロックピン112から外れ、引っ張りスプリング105のクラッチ・ブレーキペダル33及びクラッチ・ブレーキレバー34が通常位置に戻り、主クラッチ「入」となるとともに、四輪ブレーキ装置75のブレーキ作動が解除される。
このように、ミッションケース10の右側に設けたクラッチ・ブレーキペダル33及びクラッチ・ブレーキレバー34の操作力は、ミッションケース10の前側に配置した回動軸112を経由して、ミッションケース10の左側に設けたベルト伝動装置42のテンションプーリ105を作動させることにより、操作機構を簡略な構成とし、ステップ25の下側の限られた空間内に無理なく配置することができる。
植付昇降レバー32の操作機構を図5及び図10に示す。植付昇降レバー32は操向ハンドル24の右下方に設けられていて、軸130を支点にして前後に回動可能になっている。植付昇降レバー32の回動は中継筒軸131を経由して、植付クラッチケース86及び後述する油圧バルブ176の各操作部へ伝達される。132は中継筒軸131に一体に取り付けられた操作位置決め用の植付昇降カムで、このカムにはローラ支持アーム133に回転自在に支持されたカムローラ134が当接している。ローラ支持アーム133は、スプリング135によってカムローラ134が植付昇降カム132に当接する側に付勢されている。これにより、植付昇降レバー32は、苗植付部を上昇させる「上げ」、苗植付部を下降させる「上げ」、苗植付部を自動昇降制御する「自動」、植付クラッチを切る「植付切」の各操作位置で安定して保持される。
図5及び図11に示すように、ローラ支持アーム133とステアリングポスト137との間にリフト部材138が回動自在に設けられている。操向ハンドル24が一定角度以上操作されると、ステアリング軸139に取り付けられた山形カム140がピン141を押すことによりリフト部材138が回動する。すると、リフト部材の丸棒部138aがローラ支持アーム133を押し上げて、カムローラ134による植付昇降カム132の規制がなくなるので、スプリング142の張力により植付昇降レバー32が「上げ」まで回動する。したがって、操向ハンドル24を一定角度以上操作すると、苗植付部4が自動的に上昇する。
また、図5及び図12に示すように、リフト部材138と前記前後進切替アーム92との間にバックリフトアーム143が設けられている。変速レバー30が「後進」に操作されると、前後進切替アーム92がバックリフトアーム143のローラ143aを押し上げることにより、バックリフトアーム143を介してリフト部材138を回動させ、上記と同様に植付昇降レバー32が「上げ」まで回動する。したがって、変速レバー30を「後進」に操作すると、苗植付部4が自動的に上昇する。バックリフトアーム143が元に戻ろうとする復元力は変速レバー30の左右回動支点(軸90)の方向に作用し、変速レバー30が「後進」に操作された状態では上記復元力が前後進切替アーム102の外端面で受けられるので、変速レバー30を「前後進中立(PTO)」に戻す方向に力がかからず変速レバー30が「後進」の操作位置で安定する。
バックリフトアーム143は回動支点軸144に摺動自在に支持されており、バックリフト解除レバー145を操作して前後にスライドさせられるようになっている。バックリフトアーム143を後方にスライドさせた状態では、バックリフトアーム143が前後進切替アーム92及びリフト部材138に対し前後位置がずれた状態となり、変速レバー30を「後進」に操作しても苗植付部4が上昇しない。
昇降リンク装置3は、前記リンク支持フレーム16,16に側面視で互いに平行な上リンク170及び左右一対の下リンク171,171が回動自在に支持され、これら各リンクの後端部に連結枠172が枢結されている。連結枠172には苗植付部4から前方に突出するローリング軸173が挿入され、苗植付部4がローリング自在に連結されている。下リンク171,171と一体回動するスイングアーム174が設けられ、メインフレーム13,13に基部側が支持された油圧シリンダ175のピストンロッドが上記スイングアーム174に連結されている。油圧シリンダ175を伸縮させると、各リンクが上下に回動し、苗植付部4がほぼ一定姿勢のまま昇降する。油圧シリンダ175を制御する油圧バルブ176は、機体右側部のステップ25下側に設けられている。
図3に示すように、油圧バルブ176のスプールを操作するバルブアーム290は、PTO伝動軸85の側方(右方)に配置される上下方向の回動支点軸290a回りに回動する構成となっており、PTO伝動軸85の上方に配置されている。前記回動支点軸290aは、側方(右方)に延びPTO伝動軸85の下方に配置される支持ステー(図示せず)に設けられている。従って、PTO伝動軸85がバルブアーム290、回動支点軸290a及び支持ステーに囲まれて防護されており、機体に配索されるケーブル、油圧ホース及び電気ハーネス等がPTO伝動軸85に干渉して破損したりするのを防止している。
苗植付部4は、伝動機構が内蔵された苗植付部フレーム180に、苗を載せて左右往復動すると共に各条ごとに苗送りベルト181a,…が苗を下方へ搬送して所定の苗取出口181b,…に一株づつ供給する苗載台181、前記苗取出口181b,…に供給される苗を取り出して表土面に植え付ける5組の苗植付装置183,…、植付作業時に次行程における機体進路の左右中心を表土面に線引きする左右の線引きマーカ184,184、整地用のセンターフロート185及びサイドフロート186,186等が組み付けられている。
前記センターフロート185は表土面の凹凸を検出するための接地体でもあり、植付作業時には、センターフロート185によって検出される表土面の凹凸に基づき、前記油圧バルブ176を駆動して苗植付部4を昇降制御し、苗の植付深さを常に一定に維持する。前記昇降制御の感度を調節する感度調節レバー37は、座席22の右側に設けられており、前後回動操作により感度を複数段階に調節するようになっている。感度調節レバー37を油圧バルブ176と左右同じ側に設けられているので、両者を連係させるワイヤの配索を簡略にできる。
施肥装置5は、肥料タンク220L,220R内の肥料を肥料繰出部221,…によって一定量づつ下方に繰り出し、その繰り出された肥料を施肥ホース223,…を通して施肥ガイド224,…まで移送し、該施肥ガイドの前側に設けた作溝体225,…によって苗植付条の側部近傍に形成される施肥溝内に落とし込むようになっている。
以上により、圃場を往復走行して農作業(植付作業)を行うにあたり、畦際で180度の小回り旋回をするとき、連動機構により操向前輪7の操向に連動して旋回内側となる後輪8のサイドクラッチの伝動を断つか又はサイドブレ−キを制動作動させかを規制操作具277で切り替えることにより、圃場状況に適した条件で小回り旋回をすることができ、作業能率が向上する。そして、走行状況から判断して旋回内側の後輪8を駆動すべきとき又は左右の前輪7をデフロック状態で駆動すべきときは、牽制操作具263を操作して走行不能に陥るのを一時的に回避できる。
尚、前輪7をほどんど操向しない直進作業時でも牽制操作具263をデフロック位置Cに操作すれば、前輪デフ装置76をデフロック状態にすることができ、機体の直進性を向上させることができる。すなわち、牽制操作具263により従来備えている前輪デフロックペダルを兼用することができ、機体に設けた操作具の数を減らすことにより操作性の向上を図ることができる。また、前記牽制操作具263は、予備苗枠6の近くに設けて機体の前側で左右方向外端部に配置したので、圃場の畦越え時やトラックへの機体積込時等、前上がり姿勢で危険を伴うときに機体から降りて機体の前側で機体前部が浮き上がるのを上から押さえて防止しながら走行させる場合に、手で操作することができる。
また、クラッチ・ブレーキペダル33を機体の右側部に配置して他の操作ペダルがない機体の左側部に牽制ペダル263を配置しているので、他の操作ペダルと勘違いして牽制ペダル263を誤操作するのを防止でき、不要にサイドクラッチを伝動状態にして後輪8により圃場を荒らしたり小回り旋回を阻害して作業性を悪化するようなことを防止できる。
また、牽制ペダルアーム267は、左右方向外側(左側)に変位しながら前方に延びた構成となっており、機体の左右中央にある座席22にいるオペレータが牽制ペダル263を踏み込んで回動操作させやすい方向に向いている。いいかえると、機体平面視で牽制ペダル回動軸265に対して略垂直な方向に座席22にいるオペレータがおり、オペレータから見て牽制ペダル263があまり横方向に移動しない状態で踏み込み操作を容易に行えるのである。尚、予備苗枠支持フレーム260を走行車体2に対して該フレーム260に沿う上下方向の回動軸回りに回動可能に設けて予備苗枠6を移動可能に構成した場合、予備苗枠支持フレーム260の回動で機体平面視における牽制ペダルアーム267の角度を変更することができ、オペレータの体格に応じてあるいは機体から降りて手で操作するとき等、操作し易い角度に牽制ペダルアーム267を向けることができる。
尚、上記の実施の形態においては、牽制ペダル263の操作経路において通常制動位置A、非制動位置B、デフロック位置C、非遮断位置Dの順に配置した構成としたが、前記非遮断位置Dまでの操作ストロークが長くなって、牽制ペダル263の操作で走行不能になる状態を速やかに回避できないことが考えられる。これに対して、通常制動位置、非制動位置、非遮断位置、デフロック位置の順に配置して牽制ペダルの操作で前輪デフロックより先にサイドクラッチの伝動の遮断の牽制が行われる構成とすると、前輪より車輪径も大きく走行推進力も大きい後輪を、牽制ペダルの操作で速やかに駆動させることができ、走行不能になる状態を速やかに回避することができる。また、走行車体の後側に重量物である作業装置(苗植付部)を設けた農作業機(田植機)にあっては、前輪より後輪の分担荷重が大きくなり後輪の走行推進力も大きくなるが、上記構成により走行不能になる状態を速やかに回避することができる。
また、前述のデフロックケーブル273を規制レバー277に連結し、牽制ペダルにおいてデフロック位置を設けずに、規制操作具の規制状態への操作で前輪デフ装置をデフロック状態とするように構成してもよい。これにより、デフロック位置がない分、牽制ペダルの操作ストロークが短くなって、牽制ペダルを非遮断位置へ速やかに操作することができ、走行不能になる状態を速やかに回避することができる。また、規制操作具を規制状態に操作するような土壌が軟らかい圃場や耕盤が深い圃場等の荒れやすい圃場では、圃場の凹凸が大きい傾向があり、旋回時に走行推進力が不足しやすいばかりでなく、操向ハンドル24が左右にとられて機体の直進作業時においても直進性を維持しにくいのであるが、規制操作具の規制状態への操作で直進時も前輪デフ装置をデフロック状態に維持することができ、直進性を向上させることができる。すなわち、規制操作具により、操向前輪7の操向時に連動機構252L,252Rにより後輪8のサイドクラッチの伝動を断つと共にサイドブレ−キを制動作動させる通常制動状態から後輪8のサイドクラッチの伝動の遮断は許容するがサイドブレ−キの制動作動は牽制する非制動状態への切替と、前輪デフ装置のデフロック状態への切替とを、共通の規制操作具により連動して行うことができ、操作性が向上する。従来は、操向前輪の操向時においてサイドブレ−キを制動作動させる通常制動状態とサイドブレ−キの制動作動を牽制する非制動状態との切替を連動ロッドの調整で行い、前輪デフ装置のデフロック状態への切替を専用の前輪デフロックペダルで行っていたので、上述のような圃場状況下で両者を共に切り替えたいときにそれぞれの切替手段により行わなければならず、面倒である。
また、図19に示すように、牽制ペダルア−ム267の先端部に軸状のロック部280を設けると共に、該ロック部280に係合するフック281を牽制ペダル取付ユニット264から支持させて設け、前記ロック部280及びフック281からなるロック機構により牽制ペダル263をデフロック位置C又は非遮断位置Dで固定できるようにしてもよい。これにより、土壌が軟らかい圃場や耕盤が深い圃場等の荒れやすい圃場で、牽制ペダル263を踏み続けなくても常時前輪デフ装置をデフロック状態に維持したりあるいは前輪7の操向によるサイドクラッチの伝動の遮断を牽制することができ、旋回時における走行推進力の向上や直進作業時における直進性を維持を図ることができる。特に、耕盤の深い圃場などで車輪が土壌内に潜り込んでしまって機体が沈没し走行不能に陥ったときには、機体が沈没したぬかるみから脱出するためにデフロック状態やサイドクラッチを伝動状態にして長時間車輪を駆動させる必要があるが、前記ロック機構により牽制ペダル263を踏み続けなくてもよいので、操作性が向上する。