JP4611419B2 - はんだ濡れ性、挿抜性に優れた銅合金すずめっき条 - Google Patents

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Description

本発明は、コネクタ、端子、リレ−、スイッチ等の導電性ばね材として好適な、はんだ濡れ性、挿抜性に優れたすずめっき条に関する。
自動車用及び民生用のコネクタ、端子、リレ−、スイッチ等の電子部品用導電性ばね材には、Snの優れた耐食性、はんだ濡れ性、電気接続性という特性を生かし、Snめっきが施された銅又は銅合金条が使用されている。銅合金のSnめっき条は、一般的に、連続めっきラインにおいて、脱脂及び酸洗の後、電気めっき法によりCu下地めっき相を形成し、次に電気めっき法によりSnめっき相を形成し、最後にリフロー処理を施しSnめっき相を溶融させる工程で製造される。
近年、電子・電気部品の回路数増大により、回路に電気信号を供給するコネクタの多極化が進んでいる。Snめっき材は、その軟らかさからコネクタの接点においてオスとメスを凝着させるガスタイト構造が採られるため、金めっき等で構成されるコネクタに比べ、コネクタの挿入力が高い。このためコネクタの多極化によるコネクタ挿入力の増大が問題となっている。
例えば、自動車の組み立てラインでは、コネクタを嵌合させる作業は、現在ほとんど人力で行われている。コネクタの挿入力が大きくなると、組み立てラインで作業者に負担がかかり、作業効率の低下に直結する。さらに、作業者の健康を損なう可能性も指摘されている。このことから、Snめっき材の挿入力の低減が強く望まれている。
また、自動車の電子制御ユニットのなかにはプリント基板が内蔵されており、プリント基板にはオス端子(以下、基板端子とする)が実装されている。このオス端子は、一端にメス端子を有するワイヤーハーネスを介して、外部の電子機器等と接続されている。
プリント基板端子をプリント基板に実装する方法は、表面実装と、挿入実装とがある。挿入実装では、プリント基板端子は、プリント基板のスルーホールに挿入され、フラックス塗布、予熱、フローはんだ付け、冷却、洗浄の各工程を経て、プリント基板にはんだ実装される。
一方、表面実装の場合、回路基板上にはんだペーストをスクリーン印刷し、その位置に部品を乗せ、予熱、リフローはんだ付け、冷却、洗浄の各工程を経て、はんだ実装される。表面実装は挿入実装と比較して、実装の高密度化が可能であり、商品の小型化、高機能化の要求から、表面実装の比率が高まってきている。しかし、表面実装は挿入実装と比較して、接合に要するはんだの量が少ないため、素材に対するはんだ濡れ性の要求が厳しい。
以上のように、プリント基板に実装され、オス端子等として使用されるSnめっき材においては、挿入力の低減及びはんだ濡れ性の改善が近年の課題となっている。コネクタの挿入力を低減するための有効な方法は、下記特許文献1[0010]、特許文献2[0023]等に開示されている通り、Snめっき相を薄くすることである。更に、特許文献3では、薄いSnめっき相上のSn酸化膜の厚さを調整しており、特許文献4では、表面を粗化処理した母材上に薄いSn被覆層をめっきして低挿入力、低接触抵抗を維持するとともにはんだ付け性を付与している。
特開平10−265992号公報 特開平10−302864号公報 特開2000−164279号公報 特開2007−258156号公報
上記の通り、近年、挿抜性に優れ、かつはんだ濡れ性にも優れたSnめっき条が求められている。しかし、従来技術の手法により単にSnめっきを薄くするだけでは、挿入力が低減する反面、はんだ濡れ性が劣化して好ましくない。又、薄いSnめっき相上のSn酸化膜の厚さは経時的に増大するため目的とする物性を維持することは困難であり、母材表面の粗化処理は設備及び費用がかかるため好ましくない。したがって、Sn相を薄くする場合に、上記従来技術の問題点が解決されたSnめっきのはんだ濡れ性を改善する技術を適用することが必要となる。
本発明の目的は、挿抜性に優れ、かつはんだ濡れ性にも優れたすずめっき条を提供することであり、特に、Cu下地めっき及びCu−Ni下地めっきに関して改善された挿抜性及びはんだ濡れ性を有するすずめっき条を提供することである。
本発明の銅合金すずめっき条は、銅合金条の表面に、Cuめっきを最後に行う下地めっき、Snめっきの順で電気めっきを施し、その後、リフロー処理を施して得られる。リフロー処理によりCuめっき及びSnめっきからCu−Sn合金相が形成される。Sn相を溶解除去して現出するCu−Sn合金相の表面は、均一に分散した粒子状のCu−Sn合金相で覆われている(図1参照)。本発明は、このCu−Sn合金相の成長(Cu−Sn拡散)を制御することの重要性に着目してなされた。
本発明者らは、銅合金すずめっき条の製造においてSnめっき工程でのCu下地めっきの条件及びリフロー条件を調整してCu−Sn合金相の表面を制御することにより、優れたはんだ濡れ性及び挿抜性を同時に達成できることを見出した。本発明は、この発見に基づきなされたものであり、以下の通りである。
(1) 銅合金条の表面に、Cuめっきを最後に行う下地めっき、Snめっきの順で電気めっきを施し、その後、リフロー処理を施しためっき条であり;
リフロー処理によりSnめっき相の下にCu−Sn合金相が形成され、めっき表面に対する垂直断面における、Sn相とCu−Sn合金相との界面で、JIS B0601で規定される粗さ曲線のための平均線より高い山の頭頂部とその直上のSnめっき最表面との高度差の平均値hが0.1〜0.3μmであり、
めっき表面において、最長径5.0μm以下、深さ0.1〜0.4μmのピンホールが500μm×500μm平方に20個以下であることを特徴とする銅合金すずめっき条。
(2) Sn相を溶解除去し、Cu−Sn合金相を表面に現出させたときに、Cu−Sn合金相表面のJIS B0601で規定される粗さ曲線要素の平均高さRcが0.27μm以下であり、粗さ曲線要素の平均長さRsmが4.0μm以上であることを特徴とする(1)の銅合金すずめっき条。
(3) 表面から母材にかけて、Sn相、Cu−Sn合金相、Cu相の各相でめっき皮膜が構成され、Sn相の厚みが0.2〜0.8μm、Cu−Sn合金相の厚みが0.6〜2.0μm、Cu相の厚みが0〜0.8μmであることを特徴とする(1)又は(2)記載の銅合金すずめっき条。
(4) 表面から母材にかけて、Sn相、Cu−Sn相、Ni相の各相でめっき皮膜が構成され、Sn相の厚みが0.2〜0.8μm、Cu−Sn合金相の厚みが0.6〜2.0μm、Ni相の厚みが0.1〜0.8μmであることを特徴とする(1)又は(2)記載の銅合金すずめっき条。
(1)Snめっき最表面とCu−Sn合金相界面上の山の頭頂部との高度差h
本発明の銅合金すずめっき条は、Cu−Sn合金相表面の山部直上のSnめっきが薄いため優れた挿抜性を示す。具体的には、めっき表面に対する垂直断面における、Sn相とCu−Sn合金相との界面で、JIS B0601:2001で規定される粗さ曲線のための平均線より高い山の頭頂部とその直上のSnめっき最表面との高度差の平均値hが0.1〜0.3μmである。ここで、上記高度差hは下記の通り決定される。
試料断面水平方向幅15μmの範囲中に観察されるSn相とCu−Sn合金相との界面の幅15μmで、JIS B0601で規定される粗さ曲線のための平均線より高い山の頭頂部とそれぞれの直上のSnめっき最表面との高度差の平均値を高度差hnとする。山が10以上ある場合は、高い順に10個の山の頭頂部直上のSnめっき最表面との高度差を測定して平均する。この手順を圧延平行方向及び直角方向に各10断面行い、得られた高度差h1-20の平均値を高度差hとする。
上記高度差hが0.3μmよりも大きくなると、挿入力が増大する。0.1μmよりも小さくなると、加熱したときの接触抵抗の増大や、ピンホールの数が増大することで、はんだ濡れ性の劣化が顕著になる。
(2)ピンホール
本発明のピンホールとは、Snめっき相を突き抜けて形成された孔を称する。図3に本発明で対象とするピンホールを含むすずめっき表面の光学顕微鏡写真を示す。右下の黒い直線は100μmを示す。従来技術ではSnめっきが薄いとピンホールができやすく、はんだ濡れ性が劣化するため、Snめっきの薄さには限界があった。即ち、リフロー時に溶融するSnの表面張力が大きいと、界面エネルギーの低い、小さいSn表面積となるため、Suめっき相にCu−Sn合金相まで届く孔が形成されてピンホールの数が多くなる。そして、Cu−Sn合金相界面に凹凸がある場合、上記のとおり、Snすずめっき表面のピンホールはCu−Sn合金相最表面の山を底部として形成されやすい。更に、ピンホール周囲では、Cu−Sn合金相の、格子拡散よりも拡散速度の速い粒界拡散が生じる。そのため、ピンホール底部周囲でもCu−Sn拡散相が表面に露出しやすく、結果的にはんだ濡れ性が劣化する。図4にピンホールを含むすずめっき表面のSEM像を示す。Sn相は白色で、Snピンホール周囲に現出したCu−Sn合金相は灰色で認識できる。これらの事情から、従来技術ではSnめっき厚みを薄くできず、優れた挿抜性を達成できなかった。
しかし、本発明の銅合金すずめっき条は、Snめっきが薄くても、Snめっき表面において、最長径5.0μm以下、深さ0.1〜0.4μmのピンホールが500μm×500μm平方に20個以下であるため優れたはんだ濡れ性を示す。ピンホールの個数が20個を超えると、はんだ濡れ性が劣化する。好ましくは10個以下である。
ここで、ピンホールの深さが0.1μm未満ではただの凹み(ピット)でしかなく、Cu−Sn合金相の露出は生じないためはんだ濡れ性に大きな影響を与えない。本発明のSn相とCu−Sn合金相との界面の山の頭頂部とその直上のSnめっき最表面との高度差の平均値hは0.1〜0.3μmであるので、Snめっき表面において最長径5.0μmを超える及び/又は深さ0.4μmを超えるピンホールは存在しない。ピンホールの深さ及び直径は、凹凸走査型電子顕微鏡(SEM)により容易に測定できる。図5にピンホールの拡大SEM画像を、図6に凹凸SEMにより測定された図5のピンホールの深さと大きさのプロファイルを示す。図5のピンホール直径は3.0μm、深さは0.30μmである。
(3)Cu−Sn合金相表面の平均高さRc(JIS B0601:2001)
上記のとおり、Snすずめっき表面のピンホールはCu−Sn合金相最表点の山を底部として形成されやすい。図2に図1の直線に沿って測定したCu−Sn合金相の表面粗さのプロファイルを示す。Cu−Sn合金相表面の粗さ曲線要素の平均高さRcが0.27μmを超えると、Cu−Sn合金相表面で大きな粒子状に成長した山の頂点とSnめっき最表面までの距離が短くなり、ピンホールの数が多くなる。平均高さRcが小さすぎると比較的柔らかいSn相が存在する谷部の深さが小さくなり、挿抜性に劣るため、好ましくは0.15μm以上である。
(4)Cu−Sn合金相表面の平均長さRsm(JIS B0601:2001)
めっき断面において、粒子状に形成されたCu−Sn合金相(拡散相)の表面からSnめっき最表面までの距離は、Cu−Sn合金相(拡散相)の個々の山の頂点において短くなる。従って、Cu−Sn合金相表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmを4μm以上とすることで合金相の山の頂点の数が少なくなり、めっき表面にピンホールが形成される可能性も少なくなる。平均長さRsmが大きくなる場合とは、低温でリフロー処理を行いCu−Sn合金相表面の山の発達が徐々に起こる場合であり、低温での溶融Snの表面張力は大きいためリフロー処理後のピンホールの数が多くなる。従って、平均長さRsmは、好ましくは7.0μm以下である。
(5)本発明のすずめっき条の製造方法
本発明のすずめっき条は、銅合金条の表面に任意で他の下地めっきを行った後、Cu下地めっきを電気めっきで行って製造される。めっき前の銅合金条表面は、Snめっき後のリフロー処理においてCu−Sn相が不規則に成長することを回避するため、全ての方向における粗さ曲線要素の算術平均粗さRaが0.3μm未満であることが好ましい。
Cuの電気めっきでは、Cuイオンを含む溶液中で、被めっき材を陰極として通電することにより、被めっき材表面にCuを還元析出させる。その際、Cu電着粒の大きさを制御することにより、Sn電気めっき後のリフロー処理で形成されるCu−Sn合金相表面の平均高さRcを調整できる。
Cu電着粒が粗大になるとCu下地めっき表面が粗くなり、リフロー後に形成されるCu−Sn合金相表面が粗くなり、合金相表面の粗さ曲線要素の平均高さRcが大きくなる。反対に、Cu電着粒が微細になると、リフロー後のCu−Sn合金相表面が平滑になり、合金相表面のRcが小さくなる。Cu電着粒を小さくするためには、
・電流密度を大きくすること、
・めっき浴液の攪拌速度を上げること、
・めっき浴液に適当な界面活性剤を加えること、
・めっき浴の温度を下げること、
・めっき浴の濃度を上げること、
等が効果的である。
上記調整によりCu電着粒を小さくし、Cuめっき表面を平滑にすることは、従来、外観や表面平滑性が重要なCu最表面めっきにおいては行われていたが、Cu下地めっきについては、生産性の低下、コストアップなどの理由により、行われていなかった。特にSnめっきのCu下地めっきは、リフロー後にほとんどがCu−Sn相に変換されてしまうため、Cu電着粒を制御する必要は全く無かった。リフロー後のCu−Sn相表面を制御するためにCu電着粒を小さくする必要があることは本発明者により初めて発見された。
リフロー処理の条件によって、Cu−Sn合金相表面の粗さ曲線要素の平均長さRsm及びSnめっき表面のピンホール数は変化する。上記Rsmを長くするには、
・リフロー温度を下げること、
・リフロー時間(拡散時間)を長くすること、
・リフロー後の冷却速度を遅くすること、
等が効果的である。
リフロー時の温度は、450〜600℃が好ましい。450℃未満では溶融Snの表面張力が大きいため、表面のピンホールの数が多くなる。600℃を超えると、Cu−Sn合金相表面の粗さ曲線要素の平均長さが4μm未満となり、やはりピンホールの数が多くなる。
リフロー後の冷却速度は、リフロー温度及び時間に応じて変化するが、例えば水冷で、50〜300℃/secで冷却してもよい。
(6)めっきの厚み
(6−1)Cu下地リフローSnめっき
表面から母材にかけて、Sn相、Cu−Sn合金相、Cu相の各相でめっき皮膜が構成されている。Cu下地めっき、Snめっきの順に電気めっきを行い、リフロー処理を施すことにより、このめっき皮膜構造が得られる。
リフロー後のSn相の平均厚みは0.2〜0.8μmが好ましい。Sn相が0.1μm未満になるとはんだ濡れ性が低下し、0.8μmを超えると、必要な挿入力が増大する。
リフロー後のCu−Sn合金相の厚みは0.6〜2.0μmが好ましい。Cu−Sn合金相は硬質であるため、Sn相との界面が本発明の構成である場合、0.6μm以上の厚さで存在すると、挿入力の低減に寄与する。一方、Cu−Sn合金相の厚さが2.0μmを超えると、曲げ性などの機械的特性が劣化する。
Cuめっき相はリフロー後にCu−Sn合金相へ完全に転換されてもよく、0.8μm以下の厚みで残存しても良い。
(6−2)Cu/Ni下地リフローSnめっき
表面から母材にかけて、Sn相、Cu−Sn合金相、Ni相の各相でめっき皮膜が構成される。Ni下地めっき、Cu下地めっき、Snめっきの順に電気めっきを行い、リフロー処理を施すことにより、このめっき皮膜構造が得られる。
リフロー後のSn相の平均厚みは0.2〜0.8μmが好ましい。Sn相が0.1μm未満になるとはんだ濡れ性が低下し、0.8μmを超えると、挿入力が増大する。
リフロー後のCu−Sn合金相の厚みは0.4〜2.0μmが好ましい。Cu−Sn合金相は硬質なため、0.4μm以上の厚さで存在すると、挿入力の低減に寄与する。一方、Cu−Sn合金相の厚さが2.0μmを超えると、曲げ性などの機械的特性が劣化する。
リフロー後のNi相の厚みは0.1〜0.8μmが好ましい。Niの厚みが0.1μm未満ではめっきの耐食性や耐熱性が低下する。一方、リフロー後のNiの厚みが0.8μmを超えるめっき材では、加熱した際にめっき相内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進される。
電気めっき時の各めっきの厚みを、Snめっきは0.6〜1.3μmの範囲、Cuめっきは0.1〜1.5μm、Niめっきは0.1〜0.8μmの範囲で適宜調整し、その次に上記と同様にリフロー処理を行うことにより、本発明のめっき構造が得られる。Cuめっき相はリフロー後にCu−Sn合金相へ完全に転換されてもよく、0.4μm以下の厚みで残存しても良い。
(a)母材
組成Cu−35%Znの銅合金(厚み:0.32mm、引張強度540MPa、0.2%耐力510MPa、ヤング率103GPa、導電率26%IACS、ビッカース硬さ171Hv)を使用した。尚、上記ビッカース硬さは母材の圧延方向直角断面に対してJIS Z 2244に準拠して測定された値である。上記銅合金表面の粗さ曲線要素の算術平均粗さRaは0.05〜0.13μmであった。
(b)めっき処理
上記母材に、Cu下地めっき又はCu/Ni下地めっきを施した後、リフローSnめっきを行った。Cu下地めっきは、下記表1の条件で行った。
攪拌は全てプロペラ式攪拌装置で行った。めっき溶液全量は2Lで、使用した界面活性剤は第一工業製薬社製、商品名「EN25」:成分C96O(CH2CH2O)nH、製品濃度1.2容量%である。Cu/Ni下地めっきの場合は、下記条件でNiめっきを行った後、表1の条件でCuめっきを行った。
(Ni下地めっき条件)
・硫酸ニッケル:250g/L
・塩化ニッケル:45g/L
・ホウ酸:30g/L
・温度:50℃
・電流密度:5 A/dm2
・攪拌回転数:200rpm
上記のとおり下地めっきを行った材料にSnめっきを下記条件で行った。使用した界面活性剤は上記と同じである。
(Snめっき条件)
・メタンスルホン酸:80g/L
・メタンスルホン酸錫:250g/L
・界面活性剤:5g/L
・温度:50℃
・電流密度:8 A/dm2
・攪拌回転数:200rpm
Snめっき後に、リフロー処理として、炉内温度450〜600℃、雰囲気ガスを窒素(酸素1vol%以下)に調整した加熱炉中に5〜15秒間挿入し、その後水冷を行った。Sn、Cu、Niめっき厚みは、電着時間により調整した。下記実施例、比較例ではCu下地めっき、Ni−Cu下地めっき共、リフロー後にCuめっき相は残存しなかった。
リフロー後の材料について、以下の評価を行った。
(1)めっき厚
(1−1)電解式膜厚計によるめっき厚測定
CT−1型電解式膜厚計(株式会社電測製)を用い、リフロー後の試料に対し、JIS H8501に従い、Snめっき相、Cu−Sn合金相、Cu/Ni下地めっき相の場合はNiめっき相の厚みを測定した。測定条件は下記の通りである。
電解液
・Snめっき相及びCu−Sn合金相:コクール社製電解液 R−50
・Niめっき相:コクール社製電解液 R−54
Cu下地Snめっきの場合、電解液R−50で電解を行うと、始めSnめっき相を電解してCu−Sn合金相の手前で電解がとまり、ここでの装置の表示値がSnめっき相厚となる。ついで再度電解をスタートさせて次に装置が止まるまでの間にCu−Sn合金相が電解され、終了時点での表示値がCu−Sn合金相の厚みに相当する。
Cu/Ni下地めっき相の場合のNiめっき相の厚みは、はじめに電解液R−50を使用して上記のようにSnめっき相及びCu−Sn合金相の厚みを測定した後、スポイトで電解液R−50を吸い取りだし、純水で入念に水洗いしてから電解液R−54に交換し、Niめっき相の厚みを測定する。
(1−2)めっき相断面観察によるCuめっき相厚の測定
上記電解式膜厚計では銅合金上のCuめっき厚を測定できないことから、めっき相の断面をSEMで観察することによりCuめっき相の厚さを求めた。
圧延方向に対して平行方向の断面が観察できるように試料を樹脂埋めし、観察面を機械研磨にて鏡面に仕上げた後、SEMにて倍率2000倍で反射電子像、母材成分とめっき成分の特性X線像を撮影する。反射電子像では各めっき相、例えばCu下地Snめっきの場合はめっき表相からSnめっき相、Cu−Sn合金相、Cuめっき相、母材の順に色調のコントラストがつく。また、特性X線像では、Snめっき相はSnのみ、Cu−Sn合金相はSnとCu、母材はその含有成分が検出されることから、Cuのみが検出されている相がCuめっき相であることがわかる。よって、特性X線像ではCuのみが検出されている相であり、かつ、他とは色調のコントラストが異なる相の厚みを反射電子像で測ることによりCuめっき相の厚みを求めることが出来る。厚みは反射電子像上で任意に5箇所の厚みを測定しその平均値をCuめっき相厚とする。
ただし、この方法では電解式膜厚法に比べ極狭い範囲の厚みしか求めることが出来ない。そこで、この観察を10断面行い、その平均値をCuめっき厚とした。
(2)ピンホールの個数、大きさ、深さ
ピンホールの個数は、めっき表面を金属顕微鏡(型式:PME3)を用いて、100倍で偏光フィルターを入れて2mm×2mm視野を観察した。そのほかに、SEMでの反射電子像の観察等も必要に応じて用いた。ピンホールの大きさと深さは、ELIONIX社製凹凸走査型電子顕微鏡SEM(ERA−8000)により求めた。図5に凹凸SEMで観察したピンホールの反射電子像の拡大写真を示し、図6にそのピンホールの深さと大きさのプロファイルとして凹凸SEMで得られたデータを示す。ピンホールの深さは、ピンホールの穴の最低部から、ピンホール周囲のめっき表面の最高山を結ぶ線までの深さ方向の距離とした。ピンホールの大きさは、ピンホールの深さの値に対して、めっき表面のピンホール周囲の最高部から深さ方向に5%深い位置間の水平距離とした。
(3)Snめっき最表面とCu−Sn合金相表面の山の頭頂部との高度差h
リフロー後の試料を樹脂埋めし、めっき表面に対して垂直に切断して観察断面を機械研磨にて鏡面に仕上げた後、SEMにて倍率10000倍で反射電子像を撮影する。反射電子像では各めっき相、例えばCu下地Snめっきの場合はめっき表相からSnめっき相、Cu−Sn合金相、Cuめっき相、母材の順に色調のコントラストがつく。水平方向15μmの範囲の反射電子像中に観察される、Sn相とCu−Sn合金相との界面の山の最頂部の位置から表面までの距離をそれぞれ測定して、平均することで、Snめっき最表面とCu−Sn合金相表面の山の頭頂部との高度差を求めることが出来る。この手順を圧延平行方向及び直角方向に各10断面行い、その平均値をSnめっき最表面とCu−Sn合金相の最表点との高度差hとした。
(4)Cu−Sn合金相表面の粗さ曲線要素の平均高さRc及び平均長さRsm
リフロー後の試料を、Meltex社製エンストリップTL−105液中に25℃で1分浸漬し、Sn相を溶解除去し、Cu−Sn合金相を表面に現出させた。Cu−Sn合金相の平均粗さ曲線を、ELIONIX社製凹凸SEM(ERA−8000)により求めた。倍率3000倍で、圧延平行方向及び直角方向に各10ライン(1ライン40μm)測定し、その平均値からRc及びRsmを求めた。3000倍の倍率でのCu−Sn合金相表面のSEM画像の一例を図1に、図1の画像中の直線に沿って測定したCu−Sn合金相の表面粗さプロファイルを図2に示す。このプロファイルよりRc及びRsmを計算した。
(5)挿抜性
図7に示すように、Snめっき材の板試料を試料台上に固定し、そのSnめっき面に接触子を荷重Wで押し付けた。次に、移動台を水平方向に移動させ、このとき接触子に作用する抵抗荷重Fをロードセルにより測定した。そして、動摩擦係数μをμ=F/Wより算出した。
Wは4.9Nとし、接触子の摺動速度(試料台の移動速度)は50mm/minとした。摺動は板試料の圧延方向に対し平行な方向に行った。摺動距離は100mmとし、この間のFの平均値を求めた。
接触子は、上記板試料と同じSnめっき材を用い、図8のように作製した。すなわち、直径7mmのステンレス球を試料に押し付けて、板試料と接触する部分を半球状に成形した。
(6)はんだ濡れ性
JIS−C0053のはんだ付け試験方法(平衡法)に準じ、リフロー後の材料と鉛フリーはんだとの濡れ性を評価した。試験はレスカ社製SAT−2000 ソルダーチェッカーを用い、下記条件で行った。得られた荷重/時間曲線より、浸漬開始から表面張力による浮力がゼロ(即ちはんだとサンプルの接触角が90°)になるまでの時間をはんだ濡れ時間(t2)(秒)として求めた。t2が3秒以下であると、通常の導電性ばね材として好適に使用できる。
試験条件の詳細は以下の通りである。
(フラックス塗布)
・フラックス:25%ロジン−エタノール
・フラックス温度:室温
・フラックス深さ:20mm
・フラックス浸漬時間:5秒
・たれ切り方法:ろ紙にエッジを5秒当ててフラックスを除去し、装置に固定して30秒保持。
(はんだ付け)
・はんだ組成:千住金属工業(株)製 Sn−3.0%Ag−0.5%Cu
・はんだ温度:260℃
・はんだ浸漬速さ:25±2.5mm/s
・はんだ浸漬深さ:2mm
・はんだ浸漬時間:10秒
表2、3に本発明の実施例及び比較例の結果を示す。下記実施例及び比較例において、比較例12及び24で上記表1の条件bを採用した以外は、全て条件aで行った。
Cu下地めっきに関する表2では、本発明例1〜6は、Snめっき最表面とCu−Sn合金相界面上の山の頭頂部との高度差hが0.1〜0.3μm範囲内であり、めっき表面のピンホール数が500μm平方に20個以下であり、本発明の範囲内である。そのため、優れたはんだ濡れ性及び挿抜性を示した。発明例6では、Cuめっき上がり及びSnめっき上がりの厚みが大きくして、リフロー処理を比較的高温、長時間に調整した例であり、Cu層は残存しているが本発明の範囲内となっている。
一方、比較例7で低温長時間のリフロー処理を行うと、低温溶融Snの表面張力が大きいため、ピンホールが増えてはんだ濡れ性に劣る。比較例8で高温短時間のリフロー処理を行うと、Sn−Cu相が急激に発達し表面上に山が多く発生するためRsmの値が小さくピンホール数が増大し、はんだ濡れ性に劣る。比較例9は、発明例5と同様にSnめっき厚みを0.6μmとして、リフロー後のSn相厚みを0.30μmと薄くしたが、hが0.1μm未満であるためピンホール数が増大し、はんだ濡れ性が悪い。比較例10は、Snめっき厚みを0.9μmと厚くしたためhが0.3μmを超え、ピンホールは生じなかったが挿抜性に劣る。比較例11は、Snめっき厚みを1.2μmと更に厚くしたため、hが0.3μm以上となり、ピンホールはほとんど生じなかったが挿抜性に非常に劣る。比較例12は、Cuめっき条件が適切でないためCu電着粒が粗く、Cu−Sn合金相の粗さ曲線の平均高さRcが大きくなり、ピンホール数が多くなりはんだ濡れ性に劣る。
Ni−Cu下地めっきに関する表3も同様に、本発明例13〜18は本発明の範囲内であり、優れたはんだ濡れ性及び挿抜性を示した。発明例18も発明例6と同様にめっき上がり厚みが大きいが、リフロー処理の調整により本発明の範囲内となっている。
一方、比較例19で低温長時間のリフロー処理を行うと、比較例7と同様にはんだ濡れ性に劣る。比較例20で高温短時間のリフロー処理を行っても、比較例8と同様にはんだ濡れ性に劣る。比較例21は比較例9と同様にはんだ濡れ性が悪い。比較例22は比較例10と同様に挿抜性に劣る。比較例23は、比較例11と同様にピンホールはほとんど生じなかったが、hが大きいため、挿抜性に劣る。比較例24は、比較例12と同様にはんだ濡れ性に劣る。
本発明のすずめっき条のSn相を溶解除去し、表面に現出したCu−Sn合金相のSEM画像である。 図1の直線に沿って測定したCu−Sn合金相の表面粗さのプロファイルである。 ピンホールを含むすずめっき表面の光学顕微鏡写真である。 ピンホールを含むすずめっき表面のSEM画像である。 図4のピンホールの拡大SEM画像である。 図5のピンホールの深さと大きさのプロファイルである。 動摩擦係数測定方法の説明図である。 接触子先端の加工方法の説明図である。

Claims (5)

  1. 銅合金条の表面に、Cuめっきを最後に行う下地めっき、Snめっきの順で電気めっきを施し、その後、リフロー処理を施しためっき条であり;
    リフロー処理によりSnめっき相の下にCu−Sn合金相が形成され、めっき表面に対する垂直断面における、Sn相とCu−Sn合金相との界面で、JIS B0601で規定される粗さ曲線のための平均線より高い山の頭頂部とその直上のSnめっき最表面との高度差の平均値hが0.1〜0.3μmであり、
    めっき表面において、最長径5.0μm以下、深さ0.1〜0.4μmのピンホールが500μm×500μm平方に20個以下であり、
    Sn相を溶解除去し、Cu−Sn合金相を表面に現出させたときに、Cu−Sn合金相表面のJIS B0601で規定される粗さ曲線要素の平均長さRsmが4.0〜7.0μmであることを特徴とする銅合金すずめっき条。
  2. Sn相を溶解除去し、Cu−Sn合金相を表面に現出させたときに、Cu−Sn合金相表面のJIS B0601で規定される粗さ曲線要素の平均高さRcが0.27μm以下であることを特徴とする請求項1の銅合金すずめっき条。
  3. 表面から母材にかけて、Sn相、Cu−Sn合金相、Cu相の各相でめっき皮膜が構成され、Sn相の厚みが0.2〜0.8μm、Cu−Sn合金相の厚みが0.6〜2.0μm、Cu相の厚みが0.1〜0.8μmであることを特徴とする請求項1又は2記載の銅合金すずめっき条。
  4. 表面から母材にかけて、Sn相、Cu−Sn合金相の各相でめっき皮膜が構成され、Sn相の厚みが0.2〜0.8μm、Cu−Sn合金相の厚みが0.6〜2.0μmであることを特徴とする請求項1又は2記載の銅合金すずめっき条。
  5. 表面から母材にかけて、Sn相、Cu−Sn相、Ni相の各相でめっき皮膜が構成され、Sn相の厚みが0.2〜0.8μm、Cu−Sn合金相の厚みが0.6〜2.0μm、Ni相の厚みが0.1〜0.8μmであることを特徴とする請求項1又は2記載の銅合金すずめっき条。
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