JP4610108B2 - 揺動内接噛合遊星歯車機構、及び角度伝達誤差低減方法 - Google Patents
揺動内接噛合遊星歯車機構、及び角度伝達誤差低減方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、外歯歯車が組み込まれた揺動内接噛合遊星歯車機構に関するものであり、特に、回転動力を伝達する際の角度伝達誤差(角速度の変動)等を低減させる技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、第1軸と、該第1軸に設けた偏心体を介してこの第1軸に対して偏心回転可能な状態で取付けられた外歯歯車と、該外歯歯車が内接噛合する内歯歯車と、外歯歯車に該外歯歯車の自転成分のみを伝達する手段を介して連結された第2軸と、を備えた揺動内接噛合遊星歯車機構が広く知られている。
【0003】
2枚の外歯歯車を採用した従来例を図5及び図6に示す。この従来例は、前記第1軸1を入力軸、第2軸2を出力軸とすると共に、内歯歯車10を固定することによって上記機構を「減速機」に適用したものである。
【0004】
入力軸1には所定位相差(この例では180°)をもって偏心体3a、3bが嵌合されている。なお、偏心体3aと3bは一体化されている。それぞれの偏心体3a、3bには軸受4a、4bを介して外歯歯車5a、5bが取付けられている。この外歯歯車5a、5bには内ローラ孔6a、6bが複数個設けられ、この内ローラ孔6a、6bに対して内ピン7及び内ローラ8が嵌合されている。
【0005】
前記外歯歯車5a、5bの外周にはトロコイド歯形等の外歯9が設けられている。この外歯9はケーシング12に固定された内歯歯車10と内接噛合している。具体的に説明すると、内歯歯車10の内歯は、具体的には外ピン11がピン溝13に遊嵌されて回転し易く保持された構造である。
【0006】
前記外歯歯車5a、5bを貫通する内ピン7は、出力軸2に固着又は嵌入されている。
【0007】
入力軸1が1回転すると偏心体3a、3bが1回転する。この偏心体3a、3bの1回転により、外歯歯車5a、5bも入力軸1の周りで揺動回転を行おうとするが、内歯歯車10によってその自転が拘束されるため、外歯歯車5a、5bは、この内歯歯車10に内接しながらほとんど揺動のみを行うことになる。
【0008】
今、例えば外歯歯車5a、5bの歯数をN、内歯歯車10の歯数をN+1とした場合、その歯数差は1である。そのため、入力軸1の1回転毎に外歯歯車5a、5bはケーシング12に固定された内歯歯車10に対して1歯分だけずれる(自転する)ことになる。これは入力軸1の1回転が外歯歯車の−1/Nの回転に減速されたことを意味する。
【0009】
この外歯歯車5a、5bの回転は内ローラ孔6a、6b及び内ローラ8の隙間によってその揺動成分が吸収され、自転成分のみが内ローラ8及び内ピン7を介して出力軸2へと伝達される。
【0010】
ここにおいて、内ローラ孔6a、6b及び内ピン7(内ローラ8)は「等速度内歯車機構」を形成している。
【0011】
この結果、減速比−1/Nの減速が達成される。なお、この減速比を一般的に表現すると、減速比I=−(内歯の歯数−外歯の歯数)/(外歯の歯数)となる。
【0012】
なお、この従来例では、揺動内接噛合遊星歯車機構の内歯歯車10を固定し、第1軸1を入力軸、第2軸2を出力軸としていたが、第2軸2を固定し、第1軸1を入力軸、内歯歯車10を出力軸とすることによっても減速機を構成可能である。更に、これらの入出力を逆転させることにより、増速機を構成することも可能である。
【0013】
なお、特開昭60−260737号公報、あるいは米国特許3129611号等には平行軸歯車によって第1段の減速を行った後に、複数の偏心体軸を介して外歯歯車を揺動回転させるタイプの揺動内接噛合遊星歯車機構が提案されているが、入力軸の回転が複数本の偏心体軸に等しく減速分配されることを除いては、既に図5及び図6で説明した揺動内接噛合遊星歯車機構と殆ど同じ構造となっている。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
一般に、インボリュート系歯形は、噛み合う歯車の中心間距離に誤差があっても(該中心間距離が固定されている限り)入力・出力回転速度比は設定値からずれることはないが、トロコイド歯形系、あるいはサイクロイド系歯形においては、中心間距離に誤差があると速度比が設定値から周期的にずれてしまうのが大きな特徴の1つとされている(例えば日刊工業新聞社、仙波正荘著、「歯車」第1巻17頁)。
【0015】
揺動内接噛合遊星歯車機構においては、上述したように、その外歯歯車5a、5bがトロコイド系歯形で構成されている。従って、内歯歯車10及び外歯歯車5a、5bのピッチ円中心間の距離に設計値に対する誤差があると、運転によってこの誤差が1回転毎に変動することにより、角度伝達誤差(入力回転角と出力回転角の理論値からのずれ)が周期的に現れ、これが回転方向の加振力の一因となるという問題があった。
【0016】
以上のことは、1枚の外歯歯車が内歯歯車と噛合する際に生じるものであるが、特に、本従来例のように「歯数差=1」の条件で2枚の外歯歯車5a、5bを採用すると、図7に示されるように、外歯歯車5aの角度伝達誤差Aと外歯歯車5bの角度伝達誤差Bが重畳され、大きな角度伝達誤差C(=A+B)となって現れるという問題があった。
【0017】
この問題に関連するものとして特開平6−241283号公報で提案されている技術が存在する。これは、歯数差が「1」であるという従来の一般的な考え方を覆し、「歯数差を外歯歯車の枚数の整数倍」としたものである。外歯歯車が複数枚であることが本技術の前提なので、この提案では歯数差は常に2以上となっている。
【0018】
例えば図8に示されるように、2枚の外歯歯車305a、305bで考えた場合、内歯歯車310と外歯歯車305a、305bとの歯数差が「2」の整数倍、即ち偶数に設定され、そもそも内歯311の歯数は偶数であることから、外歯歯車305a、305bの各々の歯数も偶数に設定される。
【0019】
この条件で2枚の外歯歯車305a、305bを重ねた状態で、それぞれの外歯309及び各外歯歯車を貫通する孔(例えば内ローラ孔)を加工すると共に、各外歯歯車305a、305bをそれぞれの偏心方向(180度反対方向)に単にずらして組み込むようにする。
【0020】
このようにすると、2枚の外歯歯車305a、305bにおける同時に加工された外歯の噛合タイミングが180度がずれることになるので、各外歯歯車305a、305bの角度伝達誤差が打ち消し合うように作用し、全体として偏心体軸1回転当り1回の角度伝達誤差を低減できる。
【0021】
しかしながら、この特開平6−241283号公報でも指摘されているように、この技術は従来一般的であった「歯数差=1」という考えを覆した結果得られたものである。
【0022】
従って、揺動内接噛合遊星歯車構造の減速比IはI=−(歯数差)/(外歯の数)となることから、外歯歯車5a、5bの外歯の数を一定と考えた場合、歯数差を「2」にすると歯数差「1」の場合と比較して、得られる減速比が半減する(数値としては2倍となる)という問題があった。
【0023】
更に、近年の各種機械設備の高精度化の要求に対しては、角度伝達誤差のより一層の低減が求められており、上記解決手法では必ずしも十分対応することができない状況が存在するという問題があった。
【0024】
又、これらの従来例では高い伝達トルクを確保するために外歯歯車を2枚以上用意し、全体の動的バランスを保つために、各外歯歯車を異なる位相方向(ここでは180度の位相差)に偏心させた状態で内歯歯車に組み込んでいる。従って、高い伝達トルクが要求されない場合は1枚の外歯歯車で十分と考えられるが、上記角度伝達誤差を低減したい場合には、2枚の外歯歯車であって内歯歯車との歯数差が2となる上記の揺動内接噛合遊星歯車構造を敢えて採用しなければならず、設備コストの上昇に繋がっていた。
【0025】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、高い増減速比と角度伝達誤差の低減が両立されて、優れた伝達特性を有し、更に製造コストの低減をも可能とする揺動内接噛合遊星歯車機構を得ることを目的としている。
【0026】
【課題を解決するための手段】
本発明は、第1軸と、該第1軸に対して偏心体を介して偏心揺動回転する外歯歯車と、該外歯歯車と内接噛合する内歯歯車と、前記外歯歯車の各々に形成される内ピン孔に遊嵌する内ピンを有して前記外歯歯車の自転成分と同期可能な第2軸と、を備える揺動内接噛合遊星歯車機構において、同じ加工機械を用いて加工された複数枚の前記外歯歯車を前記第1軸に対して同一方向に偏心させることで外歯歯車群を構成し、該外歯歯車群における前記外歯歯車を、前記同じ加工機械を用いて加工したときの状態を基準として各外歯歯車の自転方向位相を互いにずらした状態で前記内歯歯車に組み込むようにしたことによって上記目的を達成するものである。
【0027】
本発明者は、複数の外歯歯車を異なる偏心方向に組み込むことで各々の角度伝達誤差を打ち消すという従来の発想を覆し、歯形誤差が略一致する複数の外歯歯車を「同一の」偏心方向に組み込むことで外歯歯車群を構成することに着目した。そして、複数の外歯歯車の自転方向の位相を互いにずらすことによって、同一群の中で互いの角度伝達誤差を打ち消すようにした。
【0028】
つまり、複数の外歯歯車をまとめて考えれば、外歯歯車群として動力伝達に関して1つの外歯歯車の機能を発揮していることになるが、その中の各外歯歯車は、角度伝達誤差を低減するという機能を有していることになる。
【0029】
この結果、内歯歯車と外歯歯車との歯数差等に基本的に制約されることなく、更に各外歯歯車の偏心方向をずらすことを考慮することなく、高精度な回転速度制御及び回転位相制御等が外歯歯車群によって自己完結的に達成可能となる。
【0030】
角度伝達誤差をより小さく抑えるには、外歯歯車群における複数の外歯歯車の間で角度伝達誤差を効率良く打ち消すことが要求される。従って上記発明では、前記外歯歯車群における前記外歯歯車が少なくともN枚用意された際に、該外歯歯車群の歯数がNの倍数に設定され、且つ、前記少なくともN枚の外歯歯車が、前記自転方向位相が互いに360/N(度)ずれた状態で前記内歯歯車に組み込まれることが好ましい。このようにすると、互いの位相差が均等間隔に配分されるので、各外歯歯車の角度伝達誤差が均等に分散されて効率良く打ち消し合う。
【0031】
ところで角度伝達誤差は外歯歯車の形状誤差のみで決定されるものではなく、これと噛合する内歯歯車の形状誤差、外歯歯車の中心に挿入される偏心体の形状誤差等も含めて考慮される。とはいうものの、例えば、内歯枠の内周面に外ピンが設置されることで内歯を構成するような外ピンタイプの内歯歯車や、一般的には円柱(軸)形状となる偏心体等は、各々を独立して形成したとしても形状誤差が小さい。従って、角度伝達誤差の「大部分は」外歯歯車の形状に依存していると考えることが出来る。
【0032】
しかし、より一層の角度伝達誤差を低減するには、上記内歯歯車及び偏心体の形状誤差の影響を除外することが好ましく、上記外歯歯車群における全ての前記外歯歯車が、共通の前記偏心体に対して組み込まれると共に、共通の前記内歯歯車に内接噛合することが好ましい。このようにすると、複数の外歯歯車間における角度伝達誤差が「略完全に」外歯歯車の形状誤差に依存することになるため、上記発明を適用すれば極めて効果的に互いの角度伝達誤差を打ち消すようになる。
【0033】
特に好ましくは、前記外歯歯車群における前記外歯歯車が少なくとも3枚用意され、更に、該外歯歯車の歯すじ方向厚さをW、該外歯歯車のピッチ円直径をDとした場合に、該外歯歯車がW/D≦0.07に設定されるようにする。
【0034】
上記発明では、複数の外歯歯車を同じ方向に偏心させた状態で組み込み、動力伝達に関しては外歯歯車群を従来の1枚の外歯歯車と全く同じように機能させるので、一見無駄(冗長)な構成と理解される可能性があるが、実際はそうではない。即ち、上記発明のように複数の外歯歯車のそれぞれの厚さを従来よりも薄くして、それらが一体となる外歯歯車群が従来の外歯歯車の1枚分程度の能力を発揮できるようにすることも可能であり、軸方向に機構全体が大型化することが防止され、更に、比較的薄い素材を用いて各外歯歯車をポンチ加工等によって容易に製造することが可能になる。つまり、動力伝達能力に関しては外歯歯車の枚数によって必要な分だけ確保し、一方で角度伝達誤差は大幅に低減され、更に製造コストも低減可能になるという極めて合理的な構造である。
【0035】
なお、前記外歯歯車群における前記外歯歯車の側面が、隣接する該外歯歯車の側面に当接されている事が好ましい。このようにすると、各外歯歯車の軸方向のぶれや振動が互いの接触により規制されるので、内部構造をより簡潔にすることが出来る。
【0036】
上記発明において外歯歯車の加工機械は特に限定されないが、好ましくはプレス加工機械又は切削加工機械のいずれかを用いる。高精度且つ低コストを実現するには上記プレス加工が最も望ましい。なお、プレス加工の場合は複数枚の歯車素材をまとめて打ち抜くようにしても良いが、外歯歯車の歯形はポンチの形状に依存して常に一定であるので、又各素材を別々に打ち抜いて上記複数枚の外歯歯車を製造しても構わない。一方、切削加工機械の場合は、各切削工程によって多少のずれが発生するため、複数枚分の歯車用素材をまとめた状態で同時加工することが好ましい。
【0037】
なお、これらの複数の外歯歯車を加工する際には、上記内ピンが挿入される内ピン孔(これは、内ピンに内ローラが被覆されている場合には内ローラ孔とも呼ばれる)、及び偏心体が挿入される偏心体孔も同様に加工しておくことが好ましい。
【0038】
以上の発明の揺動内接噛合遊星歯車機構は、1つの外歯歯車群を有する場合に限定されない。例えば前記外歯歯車群を少なくとも2つ構成することによって第1外歯歯車群及び第2外歯歯車群を用意し、該第1及び第2外歯歯車群を離反する方向に偏心させた状態で前記内歯歯車に組み込むようにしてもよい。又、全てが外歯歯車群で構成されている必要はなく、一部においては従来の単体の外歯歯車が単独で組み込まれている場合も本発明は含んでいる。
【0039】
【発明の実施の形態】
以下図面を参照しながら本発明の実施の形態の例について詳細に説明する。
【0040】
図1に、本発明の第1実施形態に係る揺動内接噛合遊星歯車機構が採用された減速装置100を示す。なお、ここでは、第1軸を入力軸、第2軸を出力軸とすると共に、内歯歯車を固定することによって揺動内接噛合遊星歯車機構を「減速機構」として適用したものである。
【0041】
減速装置100は、第1軸である入力軸101と、この入力軸101に対して偏心体103a、103bを介し互いに360/2(度)の位相差を有して偏心揺動回転する第1外歯車グループ(群)105a及び第2外歯歯車グループ(群)105bと、第1及び第2外歯歯車グループ105a、105bのそれぞれと内接噛合する内歯歯車110と、各外歯歯車グループ105a、105bの自転成分と同期可能な第2軸である出力軸102と、を備える。詳細は後述するが、各外歯歯車グループ105a、105bは、複数の外歯歯車A1、A2、A3が積層されることで構成されている。
【0042】
偏心体103a、103bは、入力軸101に所定位相差(この例では180°)をもって一体的に設けられている。それぞれの偏心体103a、103bは軸受104a、104bを介して、第1及び第2外歯歯車グループ105a、105bの共通偏心体孔113a、113bに挿入され、その結果、第1及び第2外歯歯車グループ105a、105bが偏心体103a、103bに対して回転自在となっている。
【0043】
第1及び第2外歯歯車グループ105a、105bの各々には共通内ローラ孔(内ピン孔)106a、106bが形成されており、この双方に対して、出力軸102に設けられる内ピン107及び内ローラ108が接触状態でまとめて遊嵌している。この内ピン107及び内ローラ108が介在することで、外歯歯車グループ105a、105bの自転と出力軸102の回転とが同期している。なお、内ピン107の一端は、出力軸102に固着又は嵌入され、他端はリング状のフランジ部材116に保持されている。
【0044】
出力軸102とフランジ部材116とは、内ピン107に加えて、キャリアピン132によって連結されている。このキャリアピン132は、第1及び第2外歯歯車グループ105a、105bに形成される共通キャリアピン孔134a、134bを非接触状態で遊嵌している。従って、キャリアピン132は各外歯歯車グループ105a、105bと出力軸102の回転を同期させる役目ではなく、フランジ部材116と出力軸102を強固に連結する機能を果たしている。
【0045】
第1及び第2外歯歯車グループ105a、105bの外周にはトロコイド歯形等の外歯109が形成されており、この外歯109が内歯歯車110と内接噛合している。
【0046】
具体的に内歯歯車110は、円筒状の共通内歯枠120と、この共通内歯枠120の内周面に形成されるピン溝122と、このピン溝122に遊嵌状態で設置される外ピン111と、を備えており、この外ピン111が回転し易く保持されている。又、共通内歯枠120は特に図示しない外部部材に固定されるようになっている。
【0047】
入力軸101が1回転すると偏心体103a、103bが1回転する。この偏心体103a、103bの1回転により、外歯歯車グループ105a、105bが入力軸101の周りで揺動回転を行おうとするが、内歯歯車110によってその自転が拘束されるため、外歯歯車グループ105a、105bは、この内歯歯車に内接しながら微小な自転を含んだ揺動を行うことになる。この微少な自転が、内ピン107を介して出力軸102に伝達されることにより、所望の減速を得ることができる。
【0048】
次に、外歯歯車グループ105a、105b等について詳細に説明する。なお、第1外歯歯車グループ105aと第2外歯歯車グループ105aは同じ構造であるので、ここでは第1外歯歯車グループ105aについてのみ説明する。
【0049】
第1外歯歯車グループ105aは、3枚の外歯歯車A1、A2、A3から構成されている。3枚の外歯歯車A1、A2、A3は、歯車用素材を同じ加工機械を用いて加工することで製造されており、具体的にはプレス機械(図示略)による打ち抜き加工によって製造される。打ち抜き加工を可能にした理由は、外歯歯車A1、A2、A3の歯すじ方向厚さWとピッチ円直径Dとの関係をW/D≦0.07の関係に設定したことにある。
【0050】
この3枚の外歯歯車A1、A2、A3は上記自転方向の位相を互いにずらした状態で組み合わされることで第1外歯歯車グループ105aが構成される。なお、ここでいう位相とはプレス加工時の状態を基準としており、3枚の外歯歯車A1、A2、A3で同じポンチを用いていることから、位相が一致した状態ならば各外歯歯車A1、A2、A3の形状が略一致する。つまり、この第1外歯歯車グループ105aでは敢えて互いの形状をずらしていることになる。
【0051】
詳細に説明すると外歯歯車A1、A2、A3の歯数は3の倍数(ここでは78)に設定され、これらの外歯歯車A1、A2、A3が120度(360/3度)の位相差で積層される。即ち、外歯歯車A1に対して外歯歯車A2が120度の位相差で積層され、この外歯歯車A2に対して外歯歯車A3が更に120度の位相差で積層されている。外歯歯車群105aの中において位相をずらして組み合わせる外歯歯車の枚数(ここではA1、A2、A3の3枚全て)の倍数に歯数を設定しておけば、積層した際に外歯が互いに一致する。
【0052】
更に外歯歯車A1、A2、A3は、内ローラ孔R、キャリアピン孔K及び偏心体孔Hが形成されている。これらも上記プレス加工の際に同時に形成されるものであり、偏心体孔Hは外歯歯車A1、A2、A3の中心に形成され、これらが重ね合わされた状態で共通偏心体孔113aが構成される(図1参照)。
【0053】
形成される内ローラ孔Rの個数は、各外歯歯車A1、A2、A3において、外歯歯車群105aの中で位相をずらして組み合わせる外歯歯車の枚数(ここでは3枚)の倍数に相当する量が形成される。ここでは計9個形成されている。この9個の内ローラ孔Rを3つのグループR1,R2,R3として捉えた場合、これらは上記120(=360/3)度の位相差で周方向に等間隔で形成されている。このようにすると、3枚の外歯歯車A1、A2、A3を上記位相差(120度)で積層した場合に、各内ローラ孔Rが互いに完全に一致することになり、一致した状態で共通内ローラ孔106aが構成される(図1参照)。
【0054】
同様にキャリアピン孔Kも、各外歯歯車A1、A2、A3において、外歯歯車群105aの中で位相をずらして組み合わせる外歯歯車の枚数(ここでは3枚)の倍数に相当する量が形成される。ここでは3個のキャリアピン孔Kが上記120(=360/3)度の位相差で周方向に等間隔で形成されている。このようにすると、3枚の外歯歯車A1、A2、A3を上記位相差(120度)で積層した場合に、各内キャリアピン孔Kが互いに一致し、その状態で共通キャリアピン孔134aが構成される(図1参照)。なお、本実施形態ではキャリアピン孔Kが上記内ローラ孔Rよりも大きい場合を示したが、例えば図3に示されるように、キャリアピン孔Kと内ローラ孔Rを同じ大きさにして、これらを同ピッチ円上に設けても構わない。
【0055】
又本実施形態ではフランジ部材116を利用することで内ピン107が両持ち保持されるようにしているが、本発明はそれに限定されず出力軸102に片持ち保持されていても良い。その場合はフランジ部材116、上記キャリアピン孔K及びキャリアピン132が不要になる。
【0056】
以上のようにして第1外歯歯車グループ105aが構成されるが、これと全く同様にして第2外歯歯車グループ105bが構成される。この点では、事前に計6枚の外歯歯車を打ち抜き加工によって製造しても構わない。
【0057】
更に、ここでは外歯歯車A1、A2、A3の歯数が、3の倍数であると共に2の倍数となるように設定されている。これは、既に従来例で示したように、第1外歯歯車グループ150aと第2外歯歯車グループ150bとを、180度反対方向(離反方向)にスライドさせて内歯歯車110に組み込むことを想定しているからである。つまり、従来例で示した「スライド組み込みによる角度伝達誤差の低減」の効果も併せて得ることを想定している。この結果、各外歯歯車A1、A2、A3と内歯歯車110との歯数差が「2」であることが要求されるので、内歯歯車110の歯数は80(=78+2)に設定され、減速比Iは、I=2/78=1/39となる。
【0058】
なお、第1外歯歯車グループ105aについて着目すると、3枚の外歯歯車A1、A2、A3が、共通の偏心体103a及び共通の内歯歯車110に対して組み込まれていることになる。更に、3枚の外歯歯車A1、A2、A3のそれぞれが、隣接する外歯歯車A1、A2、A3の側面に自身の側面を当接させた状態で組み込まれていることになる。
【0059】
しかし、ここでは各外歯歯車A1、A2、A3を互いに固定していない。互いに固定してしまうと、その固定による組み合わせ誤差が発生して新たな角度伝達誤差を生み出す要因になるからである。つまり、全体としては外歯歯車グループ105aとして1つの動力伝達機能を発揮するが、それは、各外歯歯車A1、A2、A3が独立して機能した結果であるといえる。
【0060】
図1に戻って第1及び第2外歯歯車グループ105a、105bは、減速装置100に組み込まれた状態で、出力軸102の端面102aと、フランジ部材116の端面116aと、中間に挿入されるリング部材130によって軸方向の移動が規制される。この結果、各外歯歯車A1、A2、A3の偏心体103a、103bからの離脱が防止されている。
【0061】
次に、本減速装置100における第1及び第2外歯歯車グループ105a、105bの作用について説明する。
【0062】
図4に示されるように、外歯歯車A1、A2、A3のそれぞれについては、動力伝達時に角度伝達誤差a1、a2、a3が発生する。これは既に述べたように、この種の揺動内接噛合遊星歯車機構に採用されるトロコイド歯形等のサイクロイド系歯形は中心間距離に誤差があると、速度比が周期的にずれるからである。
【0063】
そこで本第1及び第2外歯歯車グループ105a、105bでは、それぞれ3枚の外歯歯車A1、A2、A3を同一の偏心方向に組み込んだ上で、自転方向の位相を互いにずらして組み合わせている。この結果、上記角度伝達誤差a1、a2、a3が等間隔位相差で発生することになり、同一グループ105a、105bの中で互いの角度伝達誤差a1、a2、a3を打ち消すことができる。しかも、各外歯歯車グループ105a、105bは、全体として1枚の外歯歯車のように機能するので、十分な動力伝達機能を発揮することができる。
【0064】
更に、各外歯歯車グループ105a、105bの中で自己完結された状態で、上記の角度伝達誤差を低減することができるので、内歯歯車110と外歯歯車A1、A2、A3との歯数差が一般的に制約されない。
【0065】
又例えば第1外歯歯車グループ105aについて考えてみると、共通の(1の)内歯歯車110と共通の(1の)偏心体103aに組み込まれているので、複数の外歯歯車A1、A2、A3間における角度伝達誤差が完全に各外歯歯車A1、A2、A3の形状誤差に依存し、上記のように等間隔の位相差(120度)で組み合わせれば、極めて効果的に互いの角度伝達誤差a1、a2、a3を打ち消し合うようになる。
【0066】
又本外歯歯車グループ105a、105bにおいては、各外歯歯車A1、A2、A3の厚さを従来よりも薄くして、それらが一体となって従来の外歯歯車の1枚分程度の能力を発揮できるようにしている。従って、軸方向に機構全体が大型化することが防止されている上に、その枚数や厚みを適宜変更すれば、伝達能力を柔軟に変更することが出来る。又比較的薄い素材を用いていることから、各外歯歯車A1、A2、A3をポンチ加工等によって容易に製造することで、製造コストを大幅に低減することが可能になる。
【0067】
ところで、本実施形態では、2つの外歯歯車グループを有してこれらを離反させて内歯歯車に組込み、各外歯歯車グループの外歯歯車が3枚、更に、内歯歯車110と外歯歯車A1、A2、A3との歯数差が「2」となる場合を便宜的に示した。
【0068】
この状況をまとめると、外歯歯車の歯数、内ローラ孔Rの個数、は下記のようになる。
【0069】
(1)位相を360/3度ずらして各外歯歯車を組み合わせることが出来る条件
外歯歯車の歯数:3の倍数
内ローラ孔Rの個数:3の倍数
(必要であれば)キャリアピン孔Kの個数:3の倍数
【0070】
(2)2つの外歯歯車グループを離反させて内歯歯車に組み込む条件
外歯歯車の歯数:2の倍数
【0071】
従って、(1)(2)の条件の併せた結果、下記のようになる。
【0072】
外歯歯車の歯数:6の倍数
内ローラ孔Rの個数:3の倍数
(必要であれば)キャリアピン孔Kの個数:3の倍数
【0073】
各グループ内で位相をずらして積層する外歯歯車の枚数をNとすれば下記の一般条件が得られる。
【0074】
外歯歯車の歯数:2*Nの倍数
内ローラ孔Rの個数:Nの倍数
(必要であれば)キャリアピン孔Kの個数:Nの倍数
【0075】
又本実施形態では2枚歯数差の場合に限って示したが、本発明は各内歯歯車グループで完結的に角度伝達誤差を低減できることに特徴であるので、従来誤差低減が困難とされていた外歯歯車が2枚(ここでは外歯歯車グループが2つ)、且つ内歯歯車と外歯歯車の歯数差が「1」の揺動内接噛合遊星歯車機構にも適用可能である。その場合は、外歯歯車の歯数を奇数とし、一方の外歯歯車グループを、他方の外歯歯車グループに対して180度回転させた状態で離反方向に偏心させて組み込むようにするので、下記の条件を満たすことが好ましい。
【0076】
(1)各グループにおいて位相をずらして組み込む外歯歯車の枚数をNとした際、位相を360/N度ずらして積層させることが出来る条件
外歯歯車の歯数:Nの倍数
内ローラ孔Rの個数:Nの倍数
(必要であれば)キャリアピン孔Kの個数:Nの倍数
【0077】
(2)一方の外歯歯車グループを他方の外歯歯車グループに対して180度回転させても、互いの共通内ローラ孔が一致し、離反方向に偏心させて内歯歯車に組み込むことができる条件
外歯歯車の歯数:奇数=(2n+1)、n(自然数)
内ローラ孔Rの個数:偶数
(必要であれば)キャリアピン孔Kの個数:偶数
【0078】
従って、(1)(2)の条件の併せた条件は下記のようになる。
【0079】
外歯歯車の歯数:N*(2n+1)、n(自然数)
内ローラ孔Rの個数:2*Nの倍数
(必要であれば)キャリアピン孔Kの個数:2*Nの倍数
【0080】
このように歯数差「1」を採用すると、外歯歯車の歯数が同一の条件では、本実施形態で示した歯数差2の場合よりも減速比を2倍に高めることが可能になる。逆に言うと、2枚歯数差の場合と同一減速比を得ようとすれば、外歯歯車の歯数を2分の1に設定可能となり、より減速装置をコンパクトに構成可能となる。
【0081】
なお、本発明は、揺動内接噛合遊星歯車機構が2つの外歯歯車グループを有する場合に限定されず、1つでもよく、又3つ以上でも構わない。又本発明の外歯歯車グループと、従来の(単体の)外歯歯車を組み合わせて用いるようにしても良い。
【0082】
本実施形態では各外歯歯車グループにおいて、全ての外歯歯車を位相をずらして積層する場合に限って示したが、本発明はそれに限定されず、多数の外歯歯車における一部の(複数の)外歯歯車の位相をずらすようにしても良い。
【0083】
更に本実施形態では、各外歯歯車グループにおける複数の外歯歯車が互いに接触している場を示したが、本発明はそれに限定されず、一定の間隔を空けて各外歯歯車が設けられており、それらが全体として外歯歯車グループとして機能する場合も含んでいる。更に、例えば第1外歯歯車グループの外歯歯車と、第2外歯歯車グループの外歯歯車とが、交互に配置されている場合も含んでいる。
【0084】
又この実施形態では、内歯歯車が固定され、第1軸を入力軸、第2軸を出力軸としていたが、第2軸を固定し、第1軸を入力軸、内歯歯車を出力軸とすることによっても減速装置を構成可能である。更に、これらの入出力を逆転させることにより増速装置を構成することも可能である。
【0085】
以上、ここでは第1及び第2実施形態を示したが、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば、これらの各部分等を適宜組み合わせた実施形態も存在し、更に、今回示した形態以外の各種実施形態も存在する。なお、明細書全文に表れてくる部材の形容(機能・形状)はあくまで例示であって、これらの記載に限定されるものではない。
【0086】
【発明の効果】
本発明によれば、揺動内接噛合遊星歯車機構の特徴である高い減速比を維持した状態で、回転方向の振動(角度伝達誤差)を低減することが出来るようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る揺動内接噛合遊星歯車機構が適用された減速装置を示す断面図
【図2】図1のII-II矢視断面図
【図3】同減速装置の他の例を示す断面図
【図4】同減速装置の角度伝達誤差を模式的に示す線図
【図5】従来の揺動内接噛合遊星歯車機構が採用された減速装置を示す断面図
【図6】図5のVI-VI断面図
【図7】同揺動内接噛合遊星歯車機構の角度伝達誤差を示す線図
【図8】歯数差「2」の揺動内接噛合遊星歯車機構の噛合状態を示す模式図
【符号の説明】
100、200…減速装置
101…第1軸
102…第2軸
105a…第1外歯歯車グループ
105b…第2外歯歯車グループ
106…共通内ローラ孔
107…内ピン
108…内ローラ
110…内歯歯車
111…外ピン
120…共通内歯枠
122…ピン溝
Claims (6)
- 第1軸と、該第1軸に対して偏心体を介して偏心揺動回転する外歯歯車と、該外歯歯車と内接噛合する内歯歯車と、前記外歯歯車の各々に形成される内ピン孔に遊嵌する内ピンを有して前記外歯歯車の自転成分と同期可能な第2軸と、を備える揺動内接噛合遊星歯車機構において、
同じ加工機械を用いて加工された複数枚の前記外歯歯車を前記第1軸に対して同一方向に偏心させることで外歯歯車群を構成し、
該外歯歯車群における前記外歯歯車を、前記同じ加工機械を用いて加工したときの状態を基準として各外歯歯車の自転方向位相を互いにずらした状態で前記内歯歯車に組み込むようにした
ことを特徴とする揺動内接噛合遊星歯車機構。 - 請求項1において、
前記外歯歯車群における前記外歯歯車が少なくともN枚用意された際に、該外歯歯車群の歯数がNの倍数に設定され、且つ、前記少なくともN枚の外歯歯車が、前記自転方向位相が互いに360/N(度)ずれた状態で前記内歯歯車に組み込まれている
ことを特徴とする揺動内接噛合遊星歯車機構。 - 請求項1又は2において、
前記外歯歯車群における全ての前記外歯歯車が、共通の前記偏心体に対して組み込まれると共に、共通の前記内歯歯車に内接噛合する
ことを特徴とする揺動内接噛合遊星歯車機構。 - 請求項1、2又は3において、
前記外歯歯車群における前記外歯歯車が少なくとも3枚用意され、更に、該外歯歯車の歯すじ方向厚さをW、該外歯歯車のピッチ円直径をDとした場合に、該外歯歯車がW/D≦0.07に設定されている
ことを特徴とする揺動内接噛合遊星歯車機構。 - 請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記外歯歯車群を少なくとも2つ構成することによって、第1外歯歯車群及び第2外歯歯車群を用意し、
該第1及び第2外歯歯車群を離反する方向に偏心させた状態で前記内歯歯車に組み込むようにした
ことを特徴とする揺動内接噛合遊星歯車機構。 - 第1軸と、該第1軸に対して偏心体を介して偏心揺動回転する外歯歯車と、該外歯歯車と内接噛合する内歯歯車と、前記外歯歯車の各々に形成される内ピン孔に遊嵌する内ピンを有して前記外歯歯車の自転成分と同期可能な第2軸と、を備える揺動内接噛合遊星歯車機構における角度伝達誤差の低減方法において、
同じ加工機械を用いて複数枚の前記外歯歯車を加工すると共に、該複数枚の外歯歯車を前記第1軸に対して同一方向に偏心させることで外歯歯車群を構成し、
該外歯歯車群における前記外歯歯車を、前記同じ加工機械を用いて加工したときの状態を基準として各外歯歯車の自転方向位相を互いにずらした状態で前記内歯歯車に組み込む
ことを特徴とする揺動内接噛合遊星歯車機構の角度伝達誤差の低減方法。
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