JP4602775B2 - 高耐熱非晶性ポリエステル - Google Patents

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Description

本発明は新規なポリエステルに関する。さらに詳しくは耐熱性に優れ、且つ非晶性を示すポリエステルに関する。
近年、大画面液晶テレビ、パソコンモニター、並びに携帯電話の表示画面等に使用される液晶表示画面の進歩は目覚しく、後二者については軽量化についても注力されて来た。とりわけ携帯電話に関しては、今や国民の約半数が所有するに至り、上記進歩に拍車が掛かる感がある。このような液晶表示画面には、動作方式によっても異なるが、プラスチック基板、偏光板、位相差板、反射板等、種々のプラスチック関連材料が適切に選択、組み合わされ使用される。かかる用途に使用される樹脂の一つとして、ビスフェノールAポリカーボネート(以下単にポリカーボネートと称する)とポリメタクリル酸メチルが挙げられる。ポリカーボネートは透明で耐衝撃性に優れ、上記用途に関して一応満足な材料である。然しながら、溶融粘度が高く、成型時に配向複屈折が大きいことが問題となっている。配向複屈折の存在は光学等方性、あるいは異方性の不均一の一因となり、液晶表示装置にあっては、色相変調や光漏れ等の問題の原因となる。ポリメタクリル酸メチルは非常に優れた透明性を有し、目下最良の光学用途樹脂に位置付けられている。然しながら、ポリメタクリル酸メチルは高吸水率と低耐熱性を問題として抱える。
かかる現状を鑑み、溶融粘度が比較的低く成型性に優れる非晶性ポリエステルの開発も行われている。例えば特許文献1では、ポリエチレンテレフタレートに、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分、及び/またはエチレングリコール以外のグリコール成分を共重合することによって、非晶性で透明性に優れるポリエステルが得られることが開示されている。然しながら、このような非晶性ポリエステルのTgは大抵100℃未満であり、液晶表示装置の周辺部材としては耐熱性に難がある。非晶性且つ高耐熱性ポリエステルの例としては、特許文献2及び3の、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキエトキシ)フェニル−フルオレン]誘導体、ジカルボン酸、ジオールの共重合体が開示されており、145℃にTgを示す非晶性ポリエステルが得られることが教示されている。然しながら、前記の9,9−ビス[4−(2−ヒドロキエトキシ)フェニル]フルオレン誘導体は、その前駆体である9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン誘導体が、カルボン酸エステルと反応しない為に、エチレングリコールによる末端変性という新たな一工程を経て得ている。また、フルオレン−9,9’−ジイル基が、ポリマー主鎖から若干遠いため、Tgをポリカーボネート相当の150℃以上に向上するためには、該フルオレン誘導体がやや多めに必要となる。
上述のように、簡便な方法で製造できる、十分な耐熱性を有する非晶性ポリエステルは未だ知られていない。
特開2004−256819号公報 特開平6−184288号公報 特開平8−109249号公報
上記背景技術に記述した様に、非晶性ポリエステルを得ようとする場合、脂肪族ジオールや脂肪族ジカルボン酸に代表される、第三成分が必須であった。かかる成分を共重合したポリエステルのTgは、通常100℃未満であり耐熱性を求められる分野への部材としては難がある。一方、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン誘導体のような、耐熱性に寄与しつつ非晶性ポリエステルを与える特殊ジヒドロキシ化合物についても盛んに研究されている。然しながら、上記ジヒドロキシ化合物はジカルボン酸およびそれらの誘導体との反応性に乏しく、エチレングリコール等で末端変性させなければ高分子量の非晶性ポリエステルが得られなかった。
本発明者は、かかる従来技術の諸問題点に鑑み鋭意検討を重ねた結果、特定のジヒドロキシ化合物を重合せしめたポリエステルは、非晶性で透明性に優れ、且つ高耐熱性を有し、例えば光学用途等に相応しいことを見出し、本発明の完成に至った。
すなわち本発明は以下のとおりのものである。
[1] 1)非晶性であり、かつ2)ガラス転移温度が100℃以上180℃未満であるポリエステルであって、当該ポリエステルは、3)主たるモノマーとして、下記式(1)で示されるジカルボン酸Aと、下記式(2)で示される脂肪族ジヒドロキシ化合物Bと、下記式(3)で示される脂肪族ジヒドロキシ化合物Cとを共重合せしめ、4)該ポリエステル中における脂肪族ジヒドロキシ化合物Bの残基と脂肪族ジヒドロキシ化合物Cの残基のモル組成比が0<{B/(B+C)}×100≦100であることを特徴とするポリエステル。
Figure 0004602775
[ただし式中Rは炭素数6〜20の芳香族基、炭素数1〜20の脂肪族基または炭素数3〜12の脂環族基を示し、Rは炭素数1〜20の脂肪族基、炭素数6〜20の芳香族基または炭素数3〜12の脂環族基を示し、Rは炭素数6〜20の芳香族基を示し、RとRは環を形成していてもよい。Rは炭素数1〜20の脂肪族基または炭素数3〜12の脂環族基を示す。また式中x及びyはそれぞれ独立に0〜2の整数である。]
[2] 該ポリエステルにおける脂肪族ジヒドロキシ化合物BとCのモル組成比{B/(B+C)}×100が20より大きく80以下であることを特徴とする上記のポリエステル。
[3] 上記式(2)で表される脂肪族ジヒドロキシ化合物Bは、RとRが環を形成しており、下記構造式群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする上記のポリエステル。
Figure 0004602775
[式中x、yの定義は上記と同じ]
[4] 上記式(1)におけるRがフェニレン基であり、上記式(2)におけるR及びRは環を形成したフルオレン−9,9−ジイル基であり、上記式(3)におけるRがエチレン基であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のポリエステル。
[5]上記ポリエステルを10%以上100%未満含むことを特徴とする樹脂組成物。
[6]上記ポリエステル、あるいは樹脂組成物を製膜して得られるフィルム。
[7]延伸されたものである、上記フィルム。
[8]位相差を有し、かつ波長450nmにおける面内位相差R(450)と、550nmにおける面内位相差R(550)との比が下記式(4)を満たすことを特徴とする上記フィルム。
0.95<R(450)/R(550)<1.15 (4)
本発明のポリエステルはその主鎖に対して垂直に配向し得る芳香族基を持ち、適度に無秩序な構造をとる為、結晶を含まず透明性が良好である。また上記芳香族基は主鎖の運動性を抑制するため、該ポリエステルのガラス転移温度(以下Tgと表記することがある)は非常に高い。
本発明が提供するポリエステルは、通常のポリエステルとは異なり、その主鎖に対して垂直に配向し得る芳香族基を持ち、適度に無秩序な構造をとる為、実質結晶構造を含まず透明である。また上記芳香族基は主鎖の運動性を抑制するため、Tgは非常に高い。以下、本発明を実現するための詳細について述べる。
本発明のポリエステルは、上記式(1)で表されるジカルボン酸Aと、上記式(2)で表される脂肪族ジヒドロキシ化合物Bと、上記式(3)で表される脂肪族ジヒドロキシ化合物Cとを共重合することにより製造される。したがって、本発明のポリエステルは、上記式(1)で表されるジカルボン酸Aの残基と、上記式(2)で表される脂肪族ジヒドロキシ化合物Bの残基と、上記式(3)で表される脂肪族ジヒドロキシ化合物Cの残基とを含んでなる。
本発明で使用するジカルボン酸AにおけるRは炭素数6〜20から成る芳香族基、炭素数1〜20から成る脂肪族基、或いは炭素数3〜12から成る脂環族基から成る群から選択される少なくとも一種以上であり、好ましくは炭素数6〜20から成る芳香族基、或いは炭素数3〜12から成る脂環族基である。
かかる基としては、例えば1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、ナフタレン−1,4−ジイル基、ナフタレン−1,5−ジイル基、ナフタレン−2,6−ジイル基、ナフチレン−2,7−ジイル基、アントラセン−1,4−ジイル基、アントラセン−1,5−ジイル基、アントラセン−1,8−ジイル基、アントラセン−1,10−ジイル基、アントラセン−2,6−ジイル基、フェナントレン−1,8−ジイル基、フェナントレン−2,7−ジイル基、フェナントレン−3,6−ジイル基、フェナントレン−9,10−ジイル基、シクロプロパン−1,2−ジイル基、シクロブタン−1,2−ジイル基、シクロブタン−1,3−ジイル基、シクロペンタン−1,2−ジイル基、シクロペンタン−1,3−ジイル基、シクロヘキサン−1,4−ジイル基、デカリン−1,4−ジイル基、デカリン−1,5−ジイル基、デカリン−2,6−ジイル基、デカリン−2,7−ジイル基、ノルボルナン−1,4−ジイル基、ノルボルナン−2,3−ジイル基、ノルボルナン−2,7−ジイル基、スピロ[3,3]ヘプタン−2,6−ジイル基、スピロ[4,4]ノナン−2,7−ジイル基、スピロ[5,5]ウンデカン−3,9−ジイル基、テトラシクロドデセン−2,3−ジイル基が挙げられるが、このうち1,4−フェニレン基、ナフタレン−2,6−ジイル基、アントラセン−1,4−ジイル基、アントラセン−1,5−ジイル基、シクロヘキサン−1,4−ジイル基、デカリン−1,4−ジイル基、デカリン−2,6−ジイル基、ノルボルナン−2,3−ジイル基、テトラシクロドデセン−2,3−ジイルが好ましく、更に好ましくは1,4−フェニレン基、ナフタレン−2,6−ジイル基、デカリン−2,6−ジイル基、テトラシクロドデセン−2,3−ジイルが挙げられる。
上記基は1種類でも2種類以上組み合わされていてもよい。
また、脂肪族ジヒドロキシ化合物Bは本発明のポリエステルを構成する重要な物質である。上記式(2)において、Rは炭素数1〜20から成る脂肪族基、炭素数6〜20から成る芳香族基、或いは炭素数3〜12から成る脂環族基、Rは炭素数6〜20から成る芳香族基からそれぞれ選択され、RとRは環を形成していてもよい。かかる基の具体例としては、例えばフルオレン−9,9−ジイル基、フルオレン−9,9−ジメチレン基、フルオレン−9,9−ジエチレン基、インダン−1,1−ジイル基、インダン−1,1−ジメチレン基、インダン−1,1−ジエチレン基、1−フェニルエチレン基、1,1−ジフェニルエチレン基、1,2−ジフェニルエチレン基、1−フェニルプロパン−1、2−ジイル基、2−フェニルプロパン−1、2−ジイル基、1−フェニル−2−メチルプロパン−1,2−ジイル基、2−フェニルブタン−2,3−ジイル基、2−フェニル−3−メチルブタン−2,3−ジイル基、2、3−ジフェニルブタン−2,3−ジイル基、1−フェニルブタン−1,2−ジイル基、2−フェニルブタン−1,2−ジイル基、1−メチル−2−フェニルブタン−1,2−ジイル基、2−フェニルブタン−2,3−ジイル基、フェニルメタンジイル基、1−フェニルエタン−1,1−ジイル基、2−フェニルエタン−1,1−ジイル基、1−フェニルプロパン−1,1−ジイル基、3−フェニルプロパン−1,1−ジイル基、ジフェニルメタンジイル基、ナフチルメタンジイル基、1−ナフチルエタン−1,1−ジイル基、2−ナフチルエタン−1,1−ジイル基、1−ナフチルプロパン−1,1−ジイル基、3−ナフチルプロパン−1,1−ジイル基、ナフチルフェニルメタンジイル基等が挙げられる。この内、フルオレン−9,9−ジイル基、インダン−1,1−ジイル基、1−フェニルエタン−1,1−ジイル基、ジフェニルメタンジイル基、1−ナフチルエタン−1,1−ジイル基が好ましく、フルオレン−9,9−ジイル基、1−フェニルエタン−1,1−ジイル基が特に好ましい。
上記基は1種類でも2種類以上組み合わされていてもよい。
上記脂肪族ジヒドロキシ化合物Bとしては、上記式(2)においてRとRが環を形成しており、具体的には下記式群
Figure 0004602775
からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物が好ましい。その中でも、上記式群の左の化合物が特に好ましい。
上記脂肪族ジヒドロキシ化合物BにおけるR、及び/或いはRは該ポリエステルの主鎖に対して垂直に配向し得るため、その微細構造を適度に無秩序ならしめ、結晶化を阻害する。更に上記R、及び/或いはRは分極性に富む芳香族基を該ポリエステルの主鎖に対して垂直方向に有していることから、負の固有複屈折を示す。従ってポリエステル中の脂肪族ジヒドロキシ化合物Bは、主鎖に平行方向、即ち正の固有複屈折を相殺し、従来のポリエステルには無い特異な光学特性を発現することを可能とする。かかる光学特性としては、例えばフィルムを形成したときの位相差の波長分散特性(例えば波長450nmにおける面内位相差R(450)と、550nmにおける面内位相差R(550)との比(R(450)/R(550))が1近傍(フラット分散)となること、或いは逆分散(波長が大きくなるにしたがって位相差が大きくなる)になることや、低複屈折、低光学弾性係数が挙げられ、これらの程度は該ポリエステルにおける脂肪族ジヒドロキシ化合物BとCのモル組成比{B/(B+C)}×100によって任意に制御可能である。
脂肪族ジヒドロキシ化合物Cは通常のポリエステルの汎用原料を指す。具体的なRの例としては、エチレン基、プロパン−1,2−ジイル基、プロパン−1,3−ジイル基、ブタン−1,2−ジイル基、ブタン−1,3−ジイル基、ブタン−1,4−ジイル基、ブタン−2,3−ジイル基、ペンタン−1,2−ジイル基、ペンタン−1,3−ジイル基、ペンタン−1,4−ジイル基、ペンタン−1,5−ジイル基、ペンタン−2,3−ジイル基、ペンタン−2,4−ジイル基、シクロプロパン−1,1−ジイル基、シクロプロパン−1,2−ジイル基、シクロブタン−1,1−ジイル基、シクロブタン−1,2−ジイル基、シクロペンタン−1,1−ジイル基、シクロペンタン−1,2−ジイル基、シクロペンタン−1,3−ジイル基、シクロヘキサン−1,1−ジイル基、シクロヘキサン−1,2−ジイル基、シクロヘキサン−1,3−ジイル基、シクロヘキサン−1,4−ジイル基、α,α−ジメチレンシクロプロパン基、α,β−ジメチレンシクロプロパン基、α,α−ジメチレンシクロブタン基、α,β−ジメチレンシクロブタン基、α,α−ジメチレンシクロペンタン基、α,β−ジメチレンシクロペンタン基、α,γ−ジメチレンシクロペンタン基、α,α−ジメチレンシクロヘキサン基、α,β−ジメチレンシクロヘキサン基、α,γ−ジメチレンシクロヘキサン基、α,δ−ジメチレンシクロヘキサン基、デカリン−1、4−ジイル基、デカリン−1、5−ジイル基、デカリン−2、6−ジイル基、ノルボルナン−1,4−ジイル基、ノルボルナン−2,3−ジイル基、ノルボルナン−2,7−ジイル基、スピロ[3,3]ヘプタン−2,6−ジイル基、スピロ[4,4]ノナン−2,7−ジイル基、スピロ[5,5]ウンデカン−3,9−ジイル基、テトラシクロドデセン−2,3−ジイル基が挙げられるが、得られるポリエステルの高耐熱性を考慮すると、エチレン基、デカリン−1、4−ジイル基、デカリン−1、5−ジイル基、デカリン−2、6−ジイル基、ノルボルナン−1,4−ジイル基、ノルボルナン−2,3−ジイル基、ノルボルナン−2,7−ジイル基、スピロ[3,3]ヘプタン−2,6−ジイル基、スピロ[4,4]ノナン−2,7−ジイル基、スピロ[5,5]ウンデカン−3,9−ジイル基、テトラシクロドデセン−2,3−ジイル基が好ましく、エチレン基、デカリン−2、6−ジイル基、ノルボルナン−2,3−ジイル基、テトラシクロドデセン−2,3−ジイル基が特に好ましいと言える。
上記基は1種類でも2種類以上組み合わされていてもよい。
本発明のポリエステルの分子量としては、テトラクロロエタン/フェノール=40/60重量比の混合溶液10ml中に120mgを溶解させた溶液を調整し、35℃にて測定したときの還元粘度(ηsp/C)で0.3以上2.0以下がよく、還元粘度0.7〜1.0で強度十分なフィルムが得られるので好ましい。
本発明のポリエステルは、ジカルボン酸A、脂肪族ジヒドロキシ化合物B及びCを重合せしめて得られるが、その手法については特に制限はなく、通常の工業生産に採用されている常法が採用される。即ち、例えばA)ジカルボン酸Aと脂肪族ジヒドロキシ化合物B、及びCを、触媒存在下で直接反応させる直接重合法、B)ジカルボン酸Aを塩化チオニル等で処理し、ジアシルクロリド誘導体とした後、ピリジンやトリエチルアミン共存下で脂肪族ジヒドロキシ化合物B、及びCと接触させる溶液重合法、C)ジカルボン酸Aをメタノールやフェノールと反応させてジエステル誘導体とした後、脂肪族ジヒドロキシ化合物B、及びCとエステル交換させるエステル交換法である。
該ポリエステルにおける脂肪族ジヒドロキシ化合物BとCのモル組成比{B/(B+C)}×100は0より大きく100以下であり、高耐熱性や樹脂の力学物性を考慮した場合、20より大きく80以下が好適である。
該ポリエステルは、他の樹脂と混ぜてポリマーブレンドやコンポジットとし、ポリエステル樹脂組成物として多様な用途に応用することも可能である。ここで言う他の樹脂とは、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートに代表されるポリエステル類、ビスフェノール−Aポリカーボネートに代表されるポリカーボネート類、ポリメチルメタクリレートやポリメチルアクリレートに代表されるアクリル系樹脂、ポリスチレンやポリビニルカルバゾールのような芳香族ビニル系樹脂等、凡そ工業用途に使用される樹脂一般を指す。該ポリエステルを他の樹脂と混ぜる際に、必要に応じて相溶化剤、難燃化剤、あるいは紫外線吸収剤等の改質剤を添加する方法も好適に使用できる。該ポリエステル樹脂組成物にあっては、高耐熱性及び非晶性を維持すべく、好ましくは本発明のポリエステルを10%以上100%未満含む。本発明のポリエステルが10%未満の場合、他の樹脂の特性を改質せしめるには不十分であり、得られるポリエステル樹脂組成物は他の樹脂そのものと何ら変わらない。
上記の如く得られたポリエステル、あるいはその樹脂組成物はフィルムとして使用される。例えば製膜後延伸し、光学用途フィルムとして好適に使用することが出来る。本発明が提供するポリエステル、あるいはその樹脂組成物は非晶性であるため、有機溶媒に対する溶解度が高く、また溶融成型も容易である。従って製膜延伸の具体的手段としては、A)該ポリエステル、あるいはその樹脂組成物を塩化メチレンのような有機溶媒に溶解せしめ、得られた粘性溶液を金属性ベルト上に塗布し、乾燥させるキャスト法、或いはB)フィルム製膜用押し出しダイを備えたエクストルーダ等を用いて押し出し製膜法が挙げられる。
延伸工程は、位相差の波長分散特性制御には不可欠であり、延伸倍率によって位相差の程度を制御することが可能である。延伸は上記製膜工程と連続して行ってもよいし、逐次的に行っても構わない。本発明が提供するポリエステル及びその樹脂組成物を製膜延伸して得られるポリエステルフィルムを光学用途に使用する場合、その位相差は波長450nm、並びに550nmにおける面内位相差R(450)、R(550)、の比R(450)/R(550)が0.95より大きく1.15未満であることが好ましい。即ち上記フィルムの位相差は、波長に対してほぼフラット分散乃至は逆分散を示す。このようにして得られたフィルムは、バーティカルアライメント(VA)モードの液晶表示装置における位相差板として好適に使用可能である。
上記フィルムの厚さとしては、10μm〜200μmの範囲が好ましい。
以下、参考例及び実施例によって本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の参考例、実施例によって何ら限定されるものではない。
<評価法>
(1)還元粘度ηsp/Cの測定
ηsp/Cの測定は、テトラクロロエタン/フェノール=40/60重量比の混合溶液10ml中に試料120mgを溶解させた溶液を調整し、35℃にて測定した。
(2)DSC測定
DSCはTAインスツルメンツ社製DSC2920型示差走査熱量計を用いて測定した。試料片はよく乾燥させたフィルムから切り出し、5.0mgを専用アルミパンに入れて測定に使用した。昇温速度は10℃/分である。
(3)ポリエステル組成測定(プロトンNMR)
ポリエステル組成測定は、重クロロホルム中、日本電子製核磁気共鳴装置JNM−EX270スペクトルメーターを使用し、7〜8.5ppmに観測される芳香族基由来のピーク面積比を用いて算出した。
(4)面内位相差値の測定
面内位相差値Rは日本分光(株)製分光エリプソメータM150を用い、入射光線とフィルム表面が直交する状態で測定した。
(5)色相評価
ポリエステルフィルムの色相評価は島津製作所製UV−2400PCを用い、カラー測定モードで求められたL、a、b値で評価した。
(6)ポリエステルフィルムの一軸延伸
ポリエステルフィルムの延伸は、カトーテック社製延伸機を用い、各ポリエステルフィルムのTg−5℃にて、33.3%/分の延伸速度で100%、即ち二倍延伸した。
[実施例1]
留出物トラップ、空冷冷却管を具えた100ml三口フラスコを用意し、予め内部を窒素置換した。テレフタル酸ジメチル9.709g(0.05モル)、9,9’−ジヒドロキシメチルフルオレン4.526g(0.02モル)エチレングリコール6.207g(0.1モル)、酢酸カルシウム・一水和物15.8mg(0.1ミリモル)、及び三酸化アンチモン7.2mg(0.025ミリモル)を、窒素気流下でフラスコに仕込んだ。フラスコを180℃に加熱、内容物を溶解せしめ、15分毎に10℃の速度で昇温しながら200℃に到達させエステル交換を行った。メタノールの理論留出量である4mlの留出が終わったことを確認し、着色防止剤としてリン酸トリメチルを14mg(1×10−4モル)加え、フラスコ内を90分かけて0.5mmHgに減圧した。続いてフラスコ内を30分に渡って270℃にまで昇温し、高重合度化を行った。270℃に到達後、2時間保持した時点で重合を終了し、フラスコ内のポリエステル溶融物を取り出した。得られたポリエステルの還元粘度、Tg、及びプロトンNMRによる組成解析結果を表1に記載した。
[実施例2]
9,9’−ジヒドロキシメチルフルオレンを6.788g(0.03モル)に変えた以外は実施例1と全く同様の方法でポリエステル重合を実施した。得られたポリエステルの還元粘度、Tg、及びプロトンNMRによる組成解析結果を表1に記載した。
[実施例3]
9,9’−ジヒドロキシメチルフルオレンを9.051g(0.04モル)に変えた以外は実施例1と全く同様の方法でポリエステル重合を実施した。得られたポリエステルの還元粘度、Tg、及びプロトンNMRによる組成解析結果を表1に記載した。
[実施例4]
9,9’−ジヒドロキシメチルフルオレンを11.314g(0.05モル)に変えた以外は実施例1と全く同様の方法でポリエステル重合を実施した。得られたポリエステルの還元粘度、Tg、及びプロトンNMRによる組成解析結果を表1に記載した。
[実施例5]
テレフタル酸ジメチルをテレフタル酸ジフェニル15.916g(0.05モル)、9,9’−ジヒドロキシメチルフルオレンを9.051g(0.04モル)に変えた以外は実施例1と全く同様の方法でポリエステル重合を実施した。得られたポリエステルの還元粘度、Tg、及びプロトンNMRによる組成解析結果を表1に記載した。
[実施例6]
テレフタル酸ジメチルをテレフタル酸ジフェニル15.916g(0.05モル)、9,9’−ジヒドロキシメチルフルオレンを11.314g(0.05モル)に変えた以外は実施例1と全く同様の方法でポリエステル重合を実施した。得られたポリエステルの還元粘度、Tg、及びプロトンNMRによる組成解析結果を表1に記載した。
[比較例2]
9,9’−ジヒドロキシメチルフルオレンを2−メチル−2−フェニル−1,3−プロパンジオール8.311g(0.05モル)に変えた以外は実施例1と全く同様の方法でポリエステル重合を実施した。得られたポリエステルの還元粘度、Tg、及びプロトンNMRによる組成解析結果を表1に記載した。
[実施例8]
テレフタル酸ジメチルを2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル12.212g(0.05モル)、に変えた以外は実施例1と全く同様の方法でポリエステル重合を実施した。得られたポリエステルの還元粘度、Tg、及びプロトンNMRによる組成解析結果を表1に記載した。
[実施例9〜14、16、比較例3]<フィルムの製膜と延伸>
実施例1〜6、8、および比較例2にて得たポリエステルを夫々クロロホルムに溶解し、20重量%のフィルム原液とした。この原液をガラス板上に塗布し、この上を、クリアランスが40μmのドクターナイフで掃引して製膜した。これを一昼夜室温で乾燥させた後に剥離し、目視では着色が無い透明フィルムを得ることができた。更にこのフィルムを20cm四方の金属製枠に挟み込み、熱風循環型乾燥機を用いて50℃で乾燥させた。このようにして得られたフィルム原反を一軸二倍延伸に供した。
得られたフィルムのL、a、b値、450、及び550nmにおける面内位相差比R(450)/R(550)を表2に示す。
[比較例1]
9,9’−ジヒドロキシメチルフルオレンの替わりにR、Rの何れにも芳香族基を持たない1,4−シクロヘキサンジメタノールを用いた以外は実施例1と同様の方法でポリエステルの重合を行った。色相良好なポリエステルが得られたものの、Tgが低く、本発明請求の範囲を達成するには至らなかった。得られたポリエステルの還元粘度、Tg、及びプロトンNMRによる組成解析結果を表1に記載した。
Figure 0004602775
Figure 0004602775
本発明のポリエステルは非晶質であり、透明性に優れ、かつ耐熱性に優れており、フィルム加工性も良好であることから、例えば位相差板等の光学用途の成形品として有用である。

Claims (9)

  1. 1)非晶性であり、かつ2)ガラス転移温度が100℃以上180℃未満であるポリエステルであって、当該ポリエステルは、3)主たるモノマーとして、下記式(1)で示されるジカルボン酸Aと、下記式(2)で示される脂肪族ジヒドロキシ化合物Bと、下記式(3)で示される脂肪族ジヒドロキシ化合物Cとを共重合せしめ、4)該ポリエステル中における脂肪族ジヒドロキシ化合物Bの残基と脂肪族ジヒドロキシ化合物Cの残基のモル組成比が0<{B/(B+C)}×100≦100であることを特徴とするポリエステル。
    Figure 0004602775
    [ただし式中Rは炭素数6〜20の芳香族基、炭素数1〜20の脂肪族基または炭素数3〜12の脂環族基を示し、Rは炭素数1〜20の脂肪族基、炭素数6〜20の芳香族基または炭素数3〜12の脂環族基を示し、Rは炭素数6〜20の芳香族基を示し、RとRは環を形成している。Rは炭素数1〜20の脂肪族基または炭素数3〜12の脂環族基を示す。また式中x及びyはそれぞれ独立に0〜2の整数である。]
  2. 該ポリエステルにおける脂肪族ジヒドロキシ化合物BとCのモル組成比{B/(B+C)}×100が20より大きく80以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル。
  3. 上記式(2)で表される脂肪族ジヒドロキシ化合物Bは下記構造式群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル。
    Figure 0004602775
    [式中x、yの定義は上記と同じ]
  4. 上記式(1)におけるRがフェニレン基であり、上記式(2)におけるR及びRは環を形成したフルオレン−9,9−ジイル基であり、上記式(3)におけるRがエチレン基であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のポリエステル。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステルを10%以上100%未満含むことを特徴とする樹脂組成物。
  6. 請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル製膜して得られるフィルム。
  7. 請求項5記載の樹脂組成物を製膜して得られるフィルム。
  8. 延伸されたものである、請求項6または7に記載のフィルム。
  9. 位相差を有し、かつ波長450nmにおける面内位相差R(450)と、550nmにおける面内位相差R(550)との比(R(450)/R(550))が下記式(4)を満たすことを特徴とする請求項記載のフィルム。
    0.95<R(450)/R(550)<1.15 (4)
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