以下図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明においては、例えば、GaAs(ガリウムヒ素)等の高融点半導体材料を試料として、当該試料に対して不純物拡散のためのアニーリング処理とった加熱処理を行うのに用いて好適な高温加熱炉について説明する。
図1は本実施形態に係る高温加熱炉1の外観構成を示す正面図、図2は当該高温加熱炉1の側面図、図3は高温加熱炉の断面図である。図1及び図2に示すように、高温加熱炉1は、大別して、予備加熱室3と本加熱室2との2つの加熱室を備えている。予備加熱室3は、試料を予備加熱温度(例えば、〜1500℃)まで加熱して予備加熱処理を施すためのものである。本加熱室2は、予備加熱室3にて予備加熱された試料を、予備加熱温度よりも高温の最適処理温度(例えば1200℃〜2600℃)まで加熱して本加熱処理を施すものである。図3に示すように、本加熱室2の底部には連通口9が形成されており、この連通口9に、予備加熱室3の天井面を接続し、本加熱室2と予備加熱室3とが連通口9により連通している。
また、高温加熱炉1は、試料がセットされる、高融点金属材料(例えばW(タングステン))から形成された試料台14と、この試料台14を搬送する搬送機構16とを備え、この搬送機構16により、試料台14が連通口9を通って本加熱室2及び予備加熱室3との間で搬送される。この搬送機構16には、上記連通口9を塞ぐ閉塞板24が設けられ、搬送機構16が試料台14を本加熱室2に搬入したときに、閉塞板24が連通口9を塞ぎ、本加熱室2と予備加熱室3とが分離される。なお、この搬送機構16の詳細については後述することにする。
図2に示すように、高温加熱炉1の背面には、上記本加熱室2の排気を行う真空ポンプ4aと、上記予備加熱室3の排気を行う真空ポンプ4bとを備えた排気機構4が設けられている。これらの真空ポンプ4a、4bには例えばターボ分子ポンプ及び油回転式ポンプが用いられ、特に、本加熱室2の排気を行う真空ポンプ4aは、10-5Pa〜10-2Pa程度の真空度を達成可能な能力を有し、本加熱室2と予備加熱室2とが閉塞板24によって分離された状態において、本加熱室2内に若干の希ガスが含まれる場合には、当該本加熱室2を10-2Pa程度まで排気可能であり、また、希ガスを含まない場合には、10-5Pa程度まで排気可能である。
次いで、上記予備加熱室3及び本加熱室2の詳細について順に説明する。
図4は予備加熱室3の構成を概略的に示す図であり、図5は予備加熱室3の上面図である。図4に示すように、予備加熱室3には、予備加熱槽5と、当該予備加熱槽5に試料台14を搬送するためのスイング機構17とが設けられている。予備加熱槽5は、試料台14にセットされた試料に対して上記予備加熱処理を施すものであり、図面正面が開口した箱形形状の筐体8を有し、その筐体8の内部には、予備加熱手段としてのコの字状に形成されたロッドヒータ6と、このロッドヒータ6の左右両側及び上下を囲う保温用の反射板7と、当該予備加熱槽5内で発生したガスが吸着して除去されるコールドトラップ44とが設けられている。本実施の形態では、ロッドヒータ6には、高融点金属材料から形成された例えばMo(モリブデン)ロッドヒータが用いられ、また、反射板7には、高融点金属材料であるW(タングステン)及びMo(モリブテン)から形成された反射板(後に詳述)が用いられている。
また、図5に示すように、上記筐体8及び反射板7の各々の下面には、試料台14を支持する、高融点金属材料(例えばW(タングステン))から形成された支持棒15の通過溝7a及び8aが形成されている。この支持棒15は、予備加熱室3において、上記スイング機構17により支持され、予備加熱槽5への搬入或いは搬出が行われる。具体的には、このスイング機構17は、回転軸17aと、この回転軸17aに一端が支持されたアーム17bとを備えている。回転軸17aは、予備加熱室3の底面を貫通し、図3に示す、サーボモータ40の出力軸に図示せぬ減速機構を介して連結され、このサーボモータ40により回転駆動される。アーム17bには、図6に示すように、その一端に上記回転軸17が挿入される挿入孔41が形成され、他端に、試料台14を支持する支持棒15が嵌る溝部42が形成されている。一方、支持棒15の軸上には、図4に示すように、反射板43が設けられており、支持棒15がアーム17bの溝部42に嵌ったときには、この反射板43により落下が規制されてアーム17bに支持される。そして、図5に示すように、回転軸17aの回転によりアーム17bが予備加熱室3の正面側から背面側にスイングするように移動することで、支持棒15と共に試料台14が予備加熱槽5に搬入される。
予備加熱槽5に試料台14が搬入されると、図4に示すように、試料台14がロッドヒータ6に囲まれた位置に配置され、真空雰囲気の下、ロッドヒータ6により試料台14にセットされた試料が予備加熱温度(例えば室温〜約1500℃程度の所定温度)に加熱され、予備加熱処理が施される。この予備加熱処理により、試料に吸着していた吸着ガスや当該試料に含まれていた内蔵ガスが気化し、上記コールドトラップ44により吸着除去されるか、或いは、上記真空ポンプ4bにより高温加熱炉1の外へ排気され、試料8の脱ガス処理が行われることとなる。
次いで本加熱室2の構成について詳述する。図7は本加熱室2の内部構成を示す概略的に示す図である。本加熱室2は、上記の通り、10-2Pa〜10-3Paの圧力雰囲気の下、試料を1200℃〜2600℃の間の最適処理温度まで加熱して試料に対する本加熱処理を実施するものである。この図に示すように、本加熱室2の内部には、本加熱手段としてのW(タングステン)メッシュヒータ10が配置されると共に、このWメッシュヒータ10の四方、上方及び下方には、Wメッシュヒータ10を収納するように箱形に組まれた反射板11が配置されている。反射板11は、図8に示すように、高融点金属材料のMo(モリブテン)から形成された8枚の板材が積層され、さらにその上に、高融点金属材料のW(タングステン)から形成された4枚の板材が積層されて、これらの板材が締結具13により締結されて構成されている。そして、このように構成された反射板11は、W(タングステン)から形成された板材がWメッシュヒータ10と対向するように配置される。本実施の形態では、上記予備加熱槽5に内設された反射板7、及び、試料台14を支持する支持棒15に設けられた反射板43も同様に構成されている。なお、Wメッシュヒータ10の下方を覆う反射板11の面内には嵌合孔12が形成され、この嵌合孔12には、上記支持棒15に設けられた反射板43が嵌合することとなるが、これについては後述する。
このように、高融点金属材料からなる板材を積層させて反射板11を構成することにより、反射板11に、断熱機能に加え、次に説明するように、Wメッシュヒータ10に対して反射加熱機能を持たせることが可能となる。
詳述すると、Wメッシュヒータ10が加熱時に発する波長エネルギーは、次の式によって表される。
W(タングステン)の波長エネルギー
=W(タングステン)の分光放射率×理想黒体の波長エネルギー
なお、理想黒体の波長エネルギーは、Plankの放射則から容易に求めることが可能である。また、分光放射率は、文献“The Science Of Incandescence" 著者“Dr. Milan R. Vukcevich”に記載されている下式を用いて算出可能である。
E〔λ、T〕=a〔λ〕−b〔λ、T〕{(T−1600)/1000}
ここで、ε:放射率、λ:波長〔μm〕、T:温度〔K〕である。
Plankの放射則による高温領域1800℃〜2600℃でのW(タングステン)の波長エネルギー特性を図9に示す。この図に示されるように、高温領域1800℃〜2600℃でのW(タングステン)の波長エネルギーは、波長1.0μm〜1.5μmの間でピークを持ち、波長0.4μm〜3.5μmの波長領域の間に、W(タングステン)から熱放射される波長エネルギーのほとんどが含まれることがわかる。つまり、波長0.4μm〜3.5μmにおいて高い反射特性を有する材料が、Wメッシュヒータ10に対して反射加熱機能を有することとなる。
次いで、図10は、W(タングステン)の分光放射率と反射率との関係を示す図である。なお、この図に示す分光放射率は上記と同様にして算出されたものでありまた、反射率は、次式に示すキルヒホッフの法則を用いて算出されたものである。
R=1−ε
ここで、R:反射率、ε:放射率である。
前掲図9に示されるように、W(タングステン)による熱放射の波長エネルギーの波長のピークは、2200℃において約1.1μmであり、このときのW(タングステン)の反射率は約0.65である。また、W(タングステン)は、比較的波長エネルギーの高い波長1.1μm〜3.0μmの波長領域では、その波長が長くなるにつれて反射率が増加し、例えば、波長3.0μmにおいては約0.8に達する。すなわち、清浄な高純度雰囲気でのW(タングステン)メッシュヒーター6に対して、W(タングステン)は十分な反射特性を有するといえる。
従って、高融点金属材料から形成された複数枚の板材を積層すると共に、その上に高融点金属材料のW(タングステン)から形成された複数枚の板材を積層して反射板11を構成し、W(タングステン)から形成された板材をWメッシュヒータ10と対向させて配置することで、当該Wメッシュヒータ10から放射される熱放射エネルギーを反射し、この反射エネルギーによって加熱効果を得ることができるのである。
また、本実施の形態では、上記のように、箱形に組まれた反射板11の内部に、Wメッシュヒータ10と、試料台14とが収納される構成としているため、当該反射板11による反射加熱効果により、試料台14にセットされた試料を効率的に加熱することができると共に、試料の四方から反射加熱されるため、試料が半導体ウエハー等の板状形状を有する試料の場合であっても、試料の面内温度分布を均一化することが可能となる。
なお、反射板11の材質としては、本加熱手段に用いられるヒータの熱輻射に対して十分な反射特性を有し、また、融点が雰囲気温度よりも高い物質であれば任意の物質を用いることができ、例えばヒータとしてW(タングステン)メッシュヒータ10を用いて2600℃までの加熱が行われる場合には、波長0.4μm〜3.5μmの反射板材料として、上記W(タングステン)の他に、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブテン)等の高融点金属材料を用いることも可能である。Ta(タンタル)を用いた場合の好適な反射板7の構成としては、例えば(Ta/Ta/Ta/Ta/Mo/Mo/Mo/Mo/Mo)といったように、Mo(モリブテン)から形成された厚さ3mmの5枚の板材を積層し、その上に、Ta(タンタル)から形成された厚さ3mmの4枚の板材を積層した構成が有り得る。また、反射板11としては、高融点金属以外に高融点化合物を用いても良い。例えばヒータとしてW(タングステン)メッシュヒータ10を用いて2600℃までの加熱が行われる場合には、波長0.4μm〜3.5μmの反射板材料として、WC(炭化タングステン)やZrC(炭化ジリコニウム)、TaC(炭化タンタル)、HfC(炭化ハフニウム)、MoC(炭化モリブテン)等の炭化物、或いは、BN(窒化ホウ素)等の窒化物を用いることができる。
また、上記反射板11の反射面上にWC(炭化タングステン)やAu(金)等で赤外線反射膜を更に形成し、Wメッシュヒータ10の熱放射波長領域である波長0.4μm〜3.5μmの波長領域において高い反射率を得る構成としても良い。このWC(炭化タングステン)の近赤外線領域における反射率は平滑な平面状態に成膜することで比較的高い値を得ることができ、また、Au(金)は、図11に示すように、波長0.4μm〜3.5μmの波長領域において反射率95%以上の高反射率を有する。
ここで、W(タングステン)の融点は約3400℃であり、また、Mo(モリブテン)の融点は約2620℃である。また、WC(炭化タングステン)の融点は約2720℃であり、Au(金)の融点は約1060℃である。そこで、2600℃の温度雰囲気を達成する本加熱室2の反射板11としては、高融点であり、基材として馴染みの良いWC(炭化タングステン)をW(タングステン)上に被膜する構成が好ましい。また、1500℃の温度雰囲気を達成する予備加熱室3の反射板7としては、比較的融点の低いものの、Au(金)をMo(モリブテン)上に被膜する構成としたもを用いることが好ましい。
ところで、従来の一般的な高温加熱炉においては、予備加熱手段及び本加熱手段に用いられるヒータとしては、カーボンヒータが広く用いられている。これは、カーボンが安価で加工性に優れ、且つ、昇華点が3370℃と高温なためである。しかしながら、昇華点は雰囲気圧力により変わり、カーボンの場合、その雰囲気圧力と温度によっては、3370℃以下でも昇華することがあり、ヒータ痩せによる雰囲気温度の再現性の低下や、本加熱室2内や予備加熱室3内といった炉内の汚染、さらには、試料への付着といった弊害を生じる。
また、一般的な高温加熱炉においては、ヒータの周囲に配置される断熱材(本実施の形態では反射板7、11)の材料としては、グラファイトが広く用いられている。しかしながら、グラファイトには不純物が混入されているために、当該グラファイトを断熱材の材料として使用する場合には、特別な表面処理を施さない限り、試料を汚染するといった問題がある。更には、グラファイトを材料とした断熱材は、熱容量が大きいため、炉内の温度を急激に変えるといった温度制御が困難となる。
これに対して、本実施の形態においては、本加熱手段及び予備加熱手段として、Wメッシュヒータ10及びMoロッドヒータ6といった、高融点金属材からなるヒータを用いると共に、断熱材として、高融点金属材料から形成された複数枚の板材が積層されてなる反射板7、11を用いる構成とし、カーボン(グラファイト)単体物を炉内(本加熱室2及び予備加熱室3内)部品の材料に使用しない構成としたため、上記のような従来の問題が解決される。また、このように、本加熱室2内や予備加熱室3内が、ヒータや断熱材から昇華する物質に汚染されることが無いため、これら本加熱室2内や予備加熱室3内の真空度を高真空度に維持することが可能となる。
さて、上述のように、本実施の形態では、予備加熱室3において試料を予備加熱することで脱ガス処理を行い、その後に、この試料を本加熱室2に搬送して本加熱処理を行う構成としている。しかしながら、本加熱室2では、予備加熱室3よりも高温で試料が加熱されることがあるため、上記脱ガス処理で排出されなかった不純物が試料から気化し、本加熱室2内を汚染するばかかりか、試料表面に再付着して試料を汚染する恐れがある。
そこで本実施の形態では、図7に示すように、本加熱室2に、コールドトラップ44を設けると共に、試料台14にセットされた試料から気化したガスを直接吸着すべく試料台14の上方全体を覆う防着カバー45を設ける構成としている。
このように、コールドトラップ44及び防着カバー45を本加熱室2に設ける構成とすることで、本加熱処理中に試料から気化した不純物といった吸着ガス、或いは、当該本加熱処理において必要以上に注入された反応ガスを吸着し、本加熱室2内を所望の雰囲気に維持すると共に、本加熱室2内の汚染を防止することが可能となる。
次いで、予備加熱室3と本加熱室2との間で試料台14を搬送する搬送機構16について詳述する。前掲図3に示すように、搬送機構16は、予備加熱室3の底面を貫通して昇降する昇降ロッド18と、昇降駆動部19とを備えている。昇降ロッド18の上端には、上記試料台14を支持する支持棒15の下端が挿脱される挿入孔23が設けられ、試料台14を本加熱室2に搬送する際には、この挿入孔23に支持棒15が挿入される。上記昇降駆動部19は、予備加熱室3の下方に配置され、昇降ロッド18の下端18を押し上げ或いは引き下げることで、当該昇降ロッド18を昇降させるものである。
具体的には、昇降駆動部19は、駆動源としてのサーボモータ20と、当該サーボモータ20に連結されたボール螺子21と、当該ボール螺子21の軸上に連結されたL字状台座22と、当該L字状台座22に設けられ、上記昇降ロッド18の下端を受ける軸受け22aとを備えている。サーボモータ20の出力軸は減速機構23を介してボール螺子21の下端側に連結され、サーボモータ20の駆動力を受けて当該ボール螺子21が回転駆動されると、L字状台座22がボール螺子21の軸上を上下に移動連結され、これにより、昇降ロッド18の下端が押し上げられ或いは引き下げられて、昇降ロッド18が昇降駆動される。
昇降ロッド18の上昇時には、その上端に挿着された支持棒15が本加熱室2と予備加熱室3とを連通する連通口9に進入して、支持棒15の上端に支持された試料台14が、本加熱室2のWメッシュヒータ10の近傍、すなわち、箱形に組まれた反射板11の内部に配置される。このとき、支持棒15に設けられた反射板43(図4参照)が本加熱室2の反射板11の下方の嵌合孔12(図7参照)に嵌合することで、反射板11、43によって密閉空間が形成される。
ここで、本実施の形態では、図3に示すように、上記昇降ロッド18の軸上には、上記連通口9を塞ぐ円盤状の閉塞板24が設けられ、昇降ロッド18が上昇して試料台14が本加熱室2に搬送されたときには、この閉塞板24によって連通口9が塞がれ、本加熱室2と予備加熱室3とが分離される。また、図7に示すように、閉塞板24の上面にはOリング32が設けられており、連通口9の縁部との密着性を高め、本加熱室2の気密性が維持されるようになっている。
このように、本実施の形態では、試料台14を本加熱室2と予備加熱室3との間で昇降する昇降ロッド18に閉塞部24を設ける構成とすることで、試料台14を本加熱室2に搬送すると同時に、本加熱室2と予備加熱室3とを瞬時に分離することを可能とし、また、従来の真空バルブ等を用いて本加熱室2と予備加熱室3とを分離する構成に比べ、分離のための部品点数を少なくし、メンテナンスを容易とすると共に装置コストを削減可能とし、さらには、真空バルブの開閉工程を省略可能とすることで、予備加熱室3から本加熱室2への試料の搬送時間を短縮可能としているのである。
ところで、閉塞板24が連通口9を塞いだとき、閉塞板24の上面は、何ら対策を施さなければ、Wメッシュヒータ10の熱線(熱放射)により熱損傷を受けてしまう。そこで、本実施形態では、Wメッシュヒータ10から閉塞板24へに向かう熱線を防止するための反射板シャッター機構46を本加熱室2に設ける構成としている。
この反射板シャッター機構46は、前掲図7に示すように、連通口9の上方に配置された反射板シャッター47と、当該反射板シャッター47を左右に開閉させるための一対の開閉シャフト48と、この開閉シャフト48を駆動する一対のシャフト駆動部49(図3参照)とを備えている。反射板シャッター47は、図12に示すように、左反射板47aと右反射板47bとを備え、全体として円盤形状に構成され、左右反射板47a、47bが上記開閉シャフト48により左右に分離或いは密着させられて、反射板シャッター47の開閉が行われる。これら左右反射板47a、47bは、上記反射板11と同様のものであり、W(タングステン)から形成された板材がWメッシュヒータ10の配置されている方向(すなわち、図面上側)に向くように開閉シャフト48に支持される。また、反射板シャッター47の中心部には貫通孔53が設けられており、上記試料台14が本加熱室2内に配置されている場合には、当該試料台14を支持する支持棒15が当該反射板シャッター47の貫通孔53に嵌る構成となっている。
かかる構成の下、試料台14が本加熱室2に搬送され、閉塞板24により連通口9が閉塞された場合に、シャフト駆動部49により開閉シャフト48が駆動されて反射板シャッター47が閉じて、この反射板シャッター47がWメッシュヒータ10と閉塞板24との間に介在することとなる。これにより、Wメッシュヒータ10から閉塞板24に向かう熱線が遮蔽され、閉塞板24に熱損傷が生じるのが低減されることとなる。また、反射板シャッター47として、断熱効果及び反射加熱効果を有する上記反射板11と同様の構造のものを用いることで、本加熱室2内の保温性を向上させることが可能となる。
さて、本実施の形態では、試料台14を搬送するための昇降ロッド18が予備加熱室3内に常時配置される構成となっている。従って、上記閉塞板24と同様に、何ら対策を施さなければ、この昇降ロッド18も熱損傷を受けてしまう。そこで、本実施の形態では、昇降ロッド18内に冷却水を循環させて、昇降ロッド18の熱損傷を低減する構成としている。
図13は、昇降ロッド18の構成を示す断面図である。この図に示すように、昇降ロッド18は、大別して、昇降軸部18aと、昇降軸部18aの上端に接続された昇降軸上端部18bと、昇降軸部18aの下端に接続された昇降軸下端部18cとを備え、昇降軸上端部18bには、試料台14を支持する支持棒15が挿入される挿入孔23が形成され、また、昇降軸部18aの上方には、上記閉塞板24が設けられる。
昇降軸部18aは内部に中空部25を有する管体形状に形成され、その中空部25には軸方向に延びる水管26が設けられている。一方、昇降軸下端部18cの側面には、注水口27と排水口28とが形成されていると共に、当該昇降軸下端部18cには、注水口27と上記水管26とを接続する注水管29と、上記昇降軸部18aの中空部25に接続される排水管30とが埋設されている。この構成の下、昇降軸下端部18cの注水口27に冷却水の注水が行われると、その冷却水が水管26に沿って上昇して当該水管26の上端開口から冷却水が噴き出し、昇降軸部18aの中空部25を経由した後に、昇降軸下端部18cの排水管30を通り、排水口28から排水される。これにより、昇降軸部18aの冷却が行われ、昇降ロッド18の熱損傷が低減される。また、昇降軸部18aの冷却により、熱伝導等により閉塞板24も冷却されるため、当該閉塞板24の熱損傷防止にも寄与することとなる。
ここで、本実施の形態では、昇降ロッド18のうち、昇降軸部18aのみを上記冷却水によって冷却する構成とし、昇降軸上端部18bについては、冷却を禁止している。詳述すると、この昇降軸上端部18bは、昇降ロッド18の上昇時には、図3に示すように、連通口9の内部にまで進入する。従って、この昇降軸上端部18bまで冷却する構成とすると、その冷却によって本加熱室2の高温雰囲気が乱される恐れがある。そこで、本実施形態では、昇降ロッド18のうち、本加熱室2に進入する部分である昇降軸上端部18bについては、冷却を禁止すると共に、この昇降上端部18bを高融点材料から形成する構成とし、本加熱室2の高温雰囲気に乱れが生じるのを防止しているのである。
また、本実施の形態では、当該本加熱室2へ進入する試料台14及び支持棒15が、図4に示すように、予備加熱処理の際に、試料と共に加熱される構成としているため、当該試料台14及び支持棒15の本加熱室2への進入に伴って、本加熱室2内の温度雰囲気が破壊されるのを抑制することができる。
さて、上記のように、本実施の形態では、昇降ロッド18を上昇或いは下降させることで、試料台14を本加熱室2と予備加熱室3との間で搬送する構成としている。この構成において、試料を予備加熱室3から本加熱室2に素早く搬送しようとすると、昇降ロッド18に振動が生じたり、或いは、閉塞板24が連通口9に当接するときの衝撃が大きくなったりして、試料台14にセットされた試料が傾いたり、最悪の場合、試料が試料台14から落下する恐れがある。
そこで本実施の形態では、昇降ロッド18の下端部である昇降軸下端部18cに、図13に示すように、昇降ロッド18に生じる振動を抑制する制振機構50を設ける構成としている。この制振機構50は、スプリング51を備え、このスプリング51により、昇降ロッド18の振動が吸収される。なお、スプリング51に代えて、ゲル状の振動吸収材料を用いる構成としても良い。
このように、昇降ロッド18の下端部に制振機構50を設ける構成とすることで、昇降ロッド18を比較的速い速度で昇降させたとしても、当該昇降ロッド18の振動が抑制され、また、上記閉塞板24と連通口9との当接時の衝撃が吸収され、これにより、試料台14にセットされた試料が傾いたり、或いは、落下したりするのが防止される。
次いで、以上のように構成された高温加熱炉1の動作について、図3及び図14乃至図20を参照しつつ説明する。
当該高温加熱炉1にて熱処理を行うに際し、先ず、予備加熱室3に配置された試料台14に試料をセットする。そして、図3に示すように、昇降ロッド18を上昇させて閉塞板24により連通口9を塞ぎ、予備加熱室3と本加熱室2とを分離した状態にすると共に、反射板シャッター機構46を動作させて反射板シャッター47が閉じた状態とする。次いで、排気機構4を動作させて、所定圧力(真空度)(例えば、10-3Pa)に達するまで当該予備加熱室3及び上記本加熱室2の排気を行う。このとき、本加熱室2内で希ガス雰囲気下で試料に対して熱処理を行う場合には、本加熱室2内の圧力を約10-3Pa程度の真空状態まで一旦排気した後、希ガスを導入して、約10-2Pa程度の真空状態とする。
次に、予備加熱室3及び本加熱室2の圧力が上記所定圧力に達した後、予備加熱室3のロッドヒータ6及び本加熱室2のWメッシュヒータ10により予備加熱室3内の温度が予備加熱温度に達するまで加熱すると共に、本加熱室2内の温度が最適処理温度に達するまで加熱を行う。予備加熱温度及び最適処理温度は、当該高温加熱炉1を用いて行うプロセスや試料等によって決定されるものであり、予備加熱温度は室温〜1500℃の間の温度、また、最適処理温度は1200℃〜2600℃の間の温度である。
予備加熱室3の予備加熱槽5内の温度が予備加熱温度に達すると共に、本加熱室2内の温度が最適処理温度に達した後、図14に示すように、スイング機構17により、試料台14を予備加熱槽5に搬送し、当該予備加熱槽5内で、試料に対して所定時間の予備加熱処理を行い、脱ガス処理を実施する。予備加熱処理が終了した後、図15に示すように、予備加熱室3の床面に閉塞板24が当接する程度に昇降ロッド18を下降させる。この昇降ロッド18の降下に伴い予備加熱室3と本加熱室2とが連通した状態となる。そして、図16に示すように、スイング機構17をスイングさせて、試料台14を予備加熱室3の予備加熱槽5から搬出し、降下させていた昇降ロッド18の上端部の挿入孔23の上方に試料台14を支持する支持棒15の下端部を位置させる。
次いで、図17に示すように、昇降ロッド18を少し上昇させて、支持棒15の下端部を昇降ロッド18の上端部の挿入孔23に挿入させて、試料台14を昇降ロッド18に装着する。そして、この昇降ロッド18を若干上昇させて、スイング機構17のアーム17bが昇降ロッド18の上昇を妨げないように、当該アーム17bを予備加熱槽5の下方まで待避させる。次に、図18に示すように、反射板シャッター機構46を動作させて、反射板シャッター47を開状態とする。
次に、図19に示すように、閉塞板24が連通口9に当接し当該連通口9を塞ぐまで昇降ロッド18を上昇させる。これにより、試料台14が加熱されていた本加熱室2に搬入され、箱状に組まれた反射板11の内部に配置される。また、このとき、試料台14を支持する支持棒15に設けられた反射板43が反射板11の嵌合孔12に嵌合し、反射板11及び反射板43により密閉空間が形成され、当該密閉空間の内部に上記試料台14が配置されることとなる。そして、図20に示すように、反射板シャッター機構46を動作させて、反射板シャッター47を閉じて、当該試料台14にセットされていた試料に対して所定時間が経過するまで本加熱処理を実施する。このとき、予備加熱槽5のロッドヒータ6はオフして、予備加熱室3の雰囲気温度を下げておく。
ここで、本実施の形態では、上記のように、本加熱室2内の雰囲気が、試料への加熱処理に必要な最適処理温度及び圧力に維持されており、試料台14を本加熱室2に搬入すれば、当該試料台14にセットされている試料に対して、速やかに本加熱処理が実施されることとなる。さらに、試料台14を本加熱室2の搬入と同時に、昇降ロッド18に設けられている閉塞板24が連通口9を塞ぎ、予備加熱室3と本加熱室2とを分離するため、従来のように、予備加熱室3と本加熱室2とを分離するための真空バルブを閉操作するといった工程が必要なく、予備加熱処理後、本加熱処理に移行するまでの時間を大幅に短縮することが可能となる。昇降ロッド18の下端部に制振機構50を設けた構成としているため、試料台14にセットされている試料の水平度を維持しつつ当該昇降ロッド18の昇降速度を速くでき、これにより、試料台14の搬送時間を短縮することが可能となる。
このように、本実施の形態では、試料に対する予備加熱終了後、試料に対して速やかに本加熱処理を実施することができ、予備加熱処理終了後、約1〜2分以内に、試料に対して本加熱処理を実施して当該試料の全体(特に、試料表面温度)を最適処理温度まで加熱することができるようになっている。また、このとき、本加熱室2内において、箱状に組まれた反射板11内に配置されるため、試料台14にセットされている試料表面が均一に加熱されることとなる。これにより、例えば、本加熱処理として、不純物拡散処理やドーピング処理といった半導体プロセスを実施する場合に、不純物拡散やドーピングの均一化制御が可能となると共に、この反応速度制御も容易となる。
なお、試料に対する本加熱処理終了は、反射板シャッター47を開き、昇降ロッド18を降下させ、試料台14を予備加熱室3に搬送する。そして、スイング機構17にて、昇降ロッド18から支持棒15を外した後、図3に示すように、昇降ロッド18を上昇させて、閉塞板24により連通口9を塞ぎ、再度、予備加熱室3と本加熱室2とを分離する。そして、試料が冷却するのを待った後、予備加熱室3を大気圧に戻し、試料の取り出しを行う。このように、試料を取り出す際に、予備加熱室3と本加熱室2とを分離状態とすることで、試料を換えて再度、本加熱処理を行う際に、当該本加熱室2の温度上昇を待たずに速やかに処理を行うことが可能となる。
以上説明したように、本実施の形態によれば、高温加熱炉1が、試料を最適処理温度まで加熱するための本加熱室2に加え、当該本加熱室2に連通するように設けられ、試料に対して予備加熱するための予備加熱室3と、本加熱室2と予備加熱室3との間で試料を搬送する搬送機構16とを備える構成としたため、予備加熱室3内にて試料の温度を高めた後に、当該試料を本加熱室2に搬送することで、試料の温度が最適処理温度に達するまでの時間を短時することが可能となる。
特に、試料によっては、加熱初期段階において、試料に付着、或いは、内蔵されていた汚染物が気化する等して汚染ガスを発生するが、このように、予備加熱室3にて試料を予備加熱する構成とすることで、当該予備加熱室3にて試料の脱ガス処理を行うことができるため、本加熱室2の汚染を防止することができる。
また、本加熱室2と予備加熱室3とを連通する連通口9を塞ぐ閉塞板24が搬送機構16に設けられ、搬送機構16が試料を本加熱室2に搬送したときに、閉塞板24が連通口9を塞ぎ本加熱室2と予備加熱室3とを分離する構成としたため、試料を本加熱室2に搬送すると同時に、本加熱室2と予備加熱室3とを瞬時に分離することができ、また、従来の真空バルブ等を用いて本加熱室2と予備加熱室3とを分離する構成に比べ、分離のための部品点数を少なくし、メンテナンスを容易とすると共に装置コストを削減可能とし、さらには、真空バルブの開閉工程を省略されるため、予備加熱室3から本加熱室2への試料の搬送時間が短縮される。
また、本加熱室2のWメッシュヒータ10と連通口9との間に設けられ、Wメッシュヒータ10から連通口9に向かう熱輻射を反射する反射板シャッター47を本加熱室2に設けた構成としたため、連通口9を塞ぐ上記閉塞板24の熱損傷が低減される。
また、搬送機構16が備える昇降ロッド18の下端部に、当該昇降ロッド18に生じる振動を抑制する制振機構50を設ける構成としたため、昇降ロッド18を比較的速い速度で昇降させたとしても、当該昇降ロッド18の振動が抑制され、これにより、試料台14にセットされた試料が傾いたり、或いは、落下したりするのが防止される。この結果、試料として、4インチ〜12インチサイズの比較的大面積な試料を用いたとしても、その水平度を維持することが可能となる。
また、昇降ロッド18内に冷却水を循環させて当該昇降ロッド18を冷却する構成としたため、この昇降ロッド18の熱損傷を低減することが可能となる。
また、予備加熱室3に加え本加熱室2にもコールドトラップ44を配置する構成としたため、本加熱室2内で試料から発生したガスや、余分な反応ガスを吸着排除し、当該本加熱室2の雰囲気が破壊されるのが防止される。
また、本加熱室2に試料が配置されたときに、当該試料の上方全体を覆い、Wメッシュヒータ10の加熱によって試料から発生するガスを直接吸着する防着カバーを本加熱室2に設ける構成したため、試料から発生したガスが本加熱室2内部の側壁等に付着して、当該本加熱室2が汚染されるのが防止される。
また、予備加熱室3内での予備加熱処理が終了するまでに、本加熱室2の雰囲気温度を、最適処理温度まで高めておくことで、予備加熱終了後の試料に対して、速やかに本加熱処理を行うことができる。
次いで、本発明の他の実施の形態について説明する。
図21は、本実施の形態に係る高温加熱炉1の全体構成を概略的に示す図である。この図に示すように、本実施の形態に係る高温加熱炉1は、上述した本加熱室2及び予備加熱室3を備え、更に、予備加熱室2の左右側に真空バルブ61を介して連接された試料待機室60a、60bを備えている。これらの試料待機室60a、60bの各々には、試料を複数個装填可能なカセット62が収納されている。予備加熱室3右側の試料待機室60aのカセット62には、未処理の試料が充填され、予備加熱室3左側の試料待機室60bのカセット62には、本加熱処理済みの試料が充填される。カセット62に試料を充填する際には、試料を高融点材料(例えばTa(タンタル))から形成されたシャーレ63に配置して充填する。
また、この高温加熱炉1には、予備加熱室3右側の試料待機室60aのカセット62から試料(シャーレ63)を取り出して予備加熱室3に搬送する機構と、予備加熱室3から当該予備加熱室3左側の試料待機室60bのカセット62へ試料(シャーレ63)を搬送する機構との2つの図示せぬ機構が設けられている。
さらに、本実施の形態では、予備加熱室3内に、予備加熱槽5にて予備加熱された試料を本加熱室2へ搬送する搬送経路上を加熱して、搬送中に試料の温度低下を防止するための加熱源としての補助加熱ヒータ64を配置した構成としている。この補助加熱ヒータ64としては、例えばW(タングステン)やTa(タンタル)、Mo(モリブテン)等の高融点金属材料からなる上記ロッドヒータの他に、ハロゲンランプやXe(キセノン)ランプ等を用いることも可能である。
このように、予備加熱室3と本加熱室2との間の試料の搬送経路上を補助加熱ヒータ64により加熱する構成とすることで、図22に示すように、補助加熱ヒータ64による補助加熱が無い場合に比べ、予備加熱後の試料搬送途中における温度低下を防止し、本加熱処理を行うことが可能となる。
以上説明したように、本実施の形態によれば、未処理試料の試料待機室60aから予備加熱室3への搬送、当該試料への予備加熱処理及び本加熱処理、そして、本加熱処理後に試料を試料待機室60bへ搬送するといった一連の処理を繰り返し行う、いわゆるバッチ処理が可能となると共に、予備加熱後の温度を維持したまま試料を本加熱室2へ搬送し、試料が最適処理温度に達するまでの時間を短縮することが可能となる。特に、試料待機室60a、60bを設ける構成とすることで、試料の温度低下を待たずとも、次の試料に対する加熱処理を実行することが可能となる。これらの結果、当該高温加熱炉1を用いた加熱処理の高いスループットを達成することが可能となる。