JP4592882B2 - ポリオレフィン系多層発泡体シートおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、独立気泡層と連続気泡層からなり美麗な外観を持つ多層発泡体シートおよびこのような多層発泡体シートを層間剥離なしに製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、多層発泡体シートを製造する方法としては、単層の発泡シート同士を積層する技術が一般的であった。積層方法としては、発泡シート同士を熱融着する方法、または発泡シート同士を接着剤で接着する方法が知られている。
【0003】
しかし、発泡シート同士を熱融着する方法では、熱融着時の発泡シートの収縮および熱劣化によって、厚さや発泡倍率が減少するだけでなく、シートにしわが発生することもあった。
【0004】
一方、接着剤を用いる方法では、独立気泡発泡体では接着剤のしみ込みは少ないが、連続気泡発泡体ではセル内部に接着剤がしみ込み易く、連続気泡発泡体に特有の特性を維持することが困難である。具体的には、発泡体の断熱性、吸音性、吸水性の低下などが生じる問題があった。また、表皮面を取り去った発泡体同士では気泡の断面部分同士を接着することになり実質的な接着面積が小さいので、接着剤の均一塗布が困難であるうえに接着強度の低下を招いていた。
【0005】
また、従来の多層発泡体シートの製造方法では、単層の発泡体シートを製造した後に、熱融着工程または接着剤塗布工程および乾燥工程などが必要となるため製造工程が複雑になる。特に、3層以上の多層発泡体シートは、一度で熱融着または接着させることが困難であり、二度以上にわたって熱融着または接着させる必要があるため、厚さや発泡倍率の低下および熱による劣化などが顕著になる。
【0006】
さらに、従来の多層発泡体シートを気温差の大きい環境や日光のあたる環境下で使用すると、材料間の熱膨張係数の違いから歪みが生じ、経時的に熱融着界面または接着界面が剥離するといった問題があった。また、独立気泡発泡体と連続気泡発泡体とからなる多層発泡体シートを高温多湿化で使用すると、連続気泡発泡体での吸湿が顕著になり、接着界面へ水分が到達する確率が高くなるため、加水分解による接着剤の劣化などを促進させやすいといった問題があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、熱融着や接着などの後工程なしに界面のない多層発泡体シートを製造することができ、厚さや発泡倍率の低下を防ぐとともに層間の剥離の問題を防ぎ、かつ独立気泡層による断熱性と連続気泡層による吸音性、吸水性、緩衝性とを両立できる多層発泡体シートを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明のポリオレフィン系多層発泡体シートは、(A)ポリオレフィン系樹脂に有機過酸化物および発泡剤を含有してなる組成物と、(B)ポリオレフィン系樹脂100重量部に有機過酸化物、発泡剤および発泡促進剤0.1〜5重量部および/またはシリコーン化合物0.01〜20重量部を含有してなる組成物を用い、(A)組成物が両面に位置するように(A)組成物と(B)組成物を交互に多層押出成形することにより、積層して多層シートを得た後、該多層シートを加熱発泡することにより得たポリオレフィン系多層発泡体シートであって、最外層(A層)はJIS−K−6767で規定される見かけ密度が0.020〜0.090g/cm3、ASTM D2856で規定される連続気泡率が60%未満の、断熱性を有する独立気泡層であり、該最外層に隣接する層(B層)はJIS−K−6767で規定される見かけ密度が0.010〜0.090g/cm3、ASTM D2856で規定される連続気泡率が60〜100%である、吸音性及び緩衝性を有する連続気泡層であり、最外層(A層)と該最外層に隣接する層(B層)の220℃における溶融物の歪み50%の条件におけるt=10(sec)の緩和弾性率をそれぞれGA 10 、GB 10 とし、t=300(sec)の緩和弾性率をそれぞれGA 300 、GB 300 としたとき、
{(GA 10 −GA 300 )/GA 10 }/{(GB 10 −GB 300 )/GB 10 }
の値が0.5〜1.2の範囲にあることを特徴とする。
【0010】
本発明のポリオレフィン系多層発泡体シートの製造方法は、(A)ポリオレフィン系樹脂に有機過酸化物および発泡剤を含有してなる組成物と、(B)ポリオレフィン系樹脂100重量部に有機過酸化物、発泡剤および発泡促進剤0.1〜5重量部および/またはシリコーン化合物0.01〜20重量部を含有してなる組成物を用い、(A)組成物が両面に位置するように(A)組成物と(B)組成物を交互に多層押出成形することにより、積層して多層シートを得た後、該多層シートを加熱発泡するポリオレフィン系多層発泡体シートの製造方法であって、最外層(A層)はJIS−K−6767で規定される見かけ密度が0.020〜0.090g/cm 3 、ASTM D2856で規定される連続気泡率が60%未満の独立気泡層であり、該最外層に隣接する層(B層)はJIS−K−6767で規定される見かけ密度が0.010〜0.090g/cm 3 、ASTM D2856で規定される連続気泡率が60〜100%である連続気泡層であり、最外層(A層)と該最外層に隣接する層(B層)の220℃における溶融物の歪み50%の条件におけるt=10(sec)の緩和弾性率をそれぞれGA 10 、GB 10 とし、t=300(sec)の緩和弾性率をそれぞれGA 300 、GB 300 としたとき、
{(GA 10 −GA 300 )/GA 10 }/{(GB 10 −GB 300 )/GB 10 }
の値が0.5〜1.2の範囲にあることを特徴とする。
【0011】
本発明の製造方法は、例えば、第1押出機に前記(A)組成物を投入し、第2押出機に前記(B)組成物を投入して、第1押出機および第2押出機の両方に接続された一基の多層ダイから押し出すことにより、(A)組成物が両面に位置し、かつ(A)組成物と(B)組成物が交互に1層以上積層された発泡性多層シートを得た後、該発泡性多層シートを加熱発泡することにより実施される。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明においては、独立気泡発泡体シートの原料として(A)ポリオレフィン系樹脂に有機過酸化物および発泡剤を含有してなる発泡性組成物、連続気泡発泡体シートの原料として(B)ポリオレフィン系樹脂100重量部に有機過酸化物、発泡剤および発泡促進剤0.1〜5重量部および/またはシリコーン化合物0.01〜20重量部を含有してなる発泡性組成物が用いられる。
【0013】
本発明の(A)および(B)組成物に用いられるポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、メタロセン触媒を用いたポリエチレン、メタロセン触媒を用いたポリプロピレンなどが挙げられる。これらは単独で、または2種以上ブレンドして用いることができる。
【0014】
特に(B)組成物においては、シリコーンオイルのブリードアウトを防ぐために、ポリオレフィン系樹脂としてエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体などのエチレン−極性ビニル化合物共重合体またはエチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素三元共重合体などを用いることがより好ましい。
【0015】
本発明の(A)および(B)組成物に用いられる有機過酸化物は架橋剤として作用する。有機過酸化物としては、たとえば、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシジイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルパーオキシクメン、4,4’−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレリック酸n−ブチルエステル、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどが挙げられる。
【0016】
(A)組成物においては、有機過酸化物の配合量が少ないと、気泡膜強度が小さくなって発泡時に独立気泡化しにくくなり、有機過酸化物の配合量が多いと、気泡膜の成長が阻されて低倍率の発泡体しか得られなくなる。このため、(A)組成物における有機過酸化物の配合量は、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、0.3〜2.5重量部、さらに0.5〜1.5重量部とすることが好ましい。
【0017】
(B)組成物においては、有機過酸化物の配合量が多いと、気泡膜強度が大きすぎて破泡しにくいため連続気泡化が困難となる。このため、(B)組成物における有機過酸化物の配合量は、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、1.2重量部以下、さらに0.8重量部以下とすることが好ましい。
【0018】
本発明の(A)および(B)組成物に用いられる発泡剤は、加熱すると分解してガスを発生するタイプの発泡剤である。このような発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、p−トルエンスルホニルヒドラジド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ジアゾアミノベンゼン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロテレフタルアミド、アゾビスイソブチロニトリルなどが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上混合して用いることができる。特に、アゾジカルボンイミド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジドからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いると、高倍率の発泡体を容易に得ることができる。発泡剤の配合量はポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、5〜50重量部が好ましい。
【0019】
本発明の(B)組成物に用いられる発泡促進剤としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウムなどの金属酸化物、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、酢酸亜鉛などの脂肪酸金属塩、硼砂、水酸化カルシウム、グリセリン、ジエチレングリコールなどが挙げられる。これらは単独で、または2種以上混合して用いられる。発泡促進剤の添加量が多いと、発泡剤の分解温度が低くなりすぎて組成物の混練工程で分解が起こすか、または必要以上に気泡膜の破壊を起こすため、高倍率発泡体が得られない。発泡促進剤の配合量はポリオレフィン系樹脂100重量部に対して0.1〜5重量部とすることが好ましい。
【0020】
本発明の(B)組成物に用いられるシリコーン化合物としては、シランカップリング剤、シリコーンオイル、シリコーン樹脂、シリコーンエラストマーが用いられる。
【0021】
代表的なシランカップリング剤としては、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン塩酸塩、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシシランなどが挙げられる。シランカップリング剤の配合量はポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、0.01〜20重量部、さらに0.05〜5重量部とすることが好ましい。
【0022】
シリコーンオイルとしては、ストレートシリコーンオイルまたは変性シリコーンオイルが挙げられる。ストレートシリコーンオイルでは、側鎖または末端の有機基が、ジメチル、メチル、フェニル、メチル、水素から選ばれる少なくとも1基以上の有機基から構成される。変性シリコーンオイルには、非反応型と反応型が含まれる。非反応型変性シリコーンオイルとしては、側鎖または末端の有機基がアルキル(C2以上)、アラルキル、フッ化アルキル、ポリオキシアルキレンから選ばれる少なくとも1基以上の有機基で変性されたシリコーンオイルが用いられる。反応型変性シリコーンオイルとしては、アミノ、エポキシ、アルコール、メルカプト、カルボン酸から選ばれる少なくとも1基以上の有機基で変性されたシリコーンオイルが用いられる。その他、ストレートシリコーンオイルまたは変性シリコーンオイルに耐熱向上剤、潤滑向上剤、着色剤、ゴム膨潤剤などを添加して機能の向上を図った、添加剤入りオイルも用いることができる。シリコーンオイルの配合量はポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、0.01〜20重量部、さらに0.1〜5重量部とすることが好ましい。
【0023】
シリコーン樹脂は構造中に多官能性シロキサン成分を共重合した、フェニルメチルシリコーンレジンやメチルシリコーンレジンが挙げられる。変性シリコーン樹脂としては、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂で変性したものが好ましい。シリコーン樹脂の配合量はポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、0.01〜20重量部、さらに0.1〜5重量部とすることが好ましい。
【0024】
シリコーンエラストマーとしては、ポリジメチルシロキサンを乾式または湿式シリカにて補強した熱加硫型シリコーンゴム、およびこれらのシリコーンゴムにフェニル基、フルオロアルキル基などを導入したシリコーンゴムが挙げられる。シリコーンエラストマーの配合量はポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、0.01〜20重量部、さらに1〜20重量部とすることが好ましい。
【0025】
本発明における(A)および(B)組成物には目的に応じて、充填剤、難燃剤、難燃助剤、滑剤、酸化防止剤、安定剤、銅害防止剤、金属不活性化剤、帯電防止剤、防かび剤、抗菌剤、顔料などを添加してもよい。
【0026】
なお、本発明では上記樹脂組成物は架橋されるが、架橋方法として電離性放射線を照射する方法も選択できる。電離性放射線としては、電子線、γ線、X線、中性子線などが挙げられる。この中では電子線が最も好ましく、その照射量は1〜15Mradが好ましい。
【0027】
次に、本発明の多層発泡体シートの製造方法について説明する。本発明の方法では、(A)組成物が両面に位置するように(A)組成物と(B)組成物を交互に1層以上積層して発泡性多層シートを得た後、この発泡性多層シートを加熱発泡することにより多層発泡体シートを製造する。
【0028】
本発明の方法において、発泡性多層シートを作製するには、プレス成形または多層押出成形を用いることができる。
【0029】
プレス成形による方法では、(A)組成物と(B)組成物をそれぞれロール混練した後にプレスしてシートを得た後、例えば(A)組成物シート/(B)組成物シート/(A)組成物シートを重ねて再びプレスすることによって発泡性多層シートを得る。
【0030】
多層押出成形による方法では、例えば(A)組成物を第1押出機へ投入し、(B)組成物を第2押出機へ投入し、両押出機に共通して接続された多層ダイで押し出すことによって、発泡性多層シートを得る。押出機としては、単軸、2軸押出機など従来、公知のものを用いることができる。多層ダイとしては、従来公知のマルチマニホールド方式またはフィードブロック方式のいずれのシートダイでも用いることができる。マルチマニホールドTダイは、複数の組成物をそれぞれ拡幅化するための複数のマニホールドと拡幅後の流れを合流するためのスリットを併せ持ったTダイであり、最大4層程度までの積層が可能である。フィードブロックTダイは、Tダイ入り口までに各層を合流させるためのフィードブロックと、それらを拡幅化するためのシングルマニホールドTダイとを有し、フィードブロックの構成を変えることで4層以上の多層化にも容易に対応できる。
【0031】
以上のような方法で、例えば(A)組成物シート/(B)組成物シート/(A)組成物シートの3層構造の発泡性多層シートを得た後、この発泡性多層シートを約160〜230℃程度の炉へ投入し加熱発泡させることにより、目的の多層発泡体シートを得ることができる。この場合、最外層(両面)のA層は独立気泡層、中央の(B)層は連続気泡層となる。こうして得られた3層発泡体シートはそのままの構造で使用してもよいし、厚さ方向中央部でスライスして(A)組成物/(B)組成物で構成される独立気泡層/連続気泡層の2層発泡体シートとしても使用できる。
【0032】
本発明の多層発泡体シートでは、最外層(A層)はJIS−K−6767で規定される見かけ密度が0.020〜0.090g/cm3、ASTM D2856で規定される連続気泡率が60%未満であり、最外層に隣接する層(B層)はJIS−K−6767で規定される見かけ密度が0.010〜0.090g/cm3、ASTM D2856で規定される連続気泡率が60〜100%である。
【0033】
独立気泡層であるA層の見かけ密度が0.020g/cm3未満では見かけ密度の低下による断熱性の向上がみられず、0.090g/cm3を超えると断熱性や緩衝性が低下する。また、A層の連続気泡率が60%以上であると、断熱性や剛性が低下する。
【0034】
連続気泡層であるB層の見かけ密度が0.010g/cm3未満では剛性や耐傷性が不十分となり、0.090g/cm3を超えると断熱性や緩衝性が低下する。また、B層の連続気泡率が60%未満であると、吸音性や緩衝性が低下する。
【0035】
また、最外層(A層)と最外層に隣接する層(B層)の220℃における溶融物の歪み50%の条件におけるt=10(sec)の緩和弾性率をそれぞれGA10、GB10とし、t=300(sec)の緩和弾性率をそれぞれGA300、GB300としたとき、
{(GA10−GA300)/GA10}/{(GB10−GB300)/GB10}
の値が0.5〜1.2の範囲にあるという条件を満たす場合には、(A)組成物と(B)組成物から得られる発泡性多層シートを加熱発泡させて多層発泡体シートを得る本発明の方法に特有の問題も解決できる。
【0036】
緩和弾性率は、溶融時の樹脂の粘弾性挙動の尺度となる値で、例えばレオメトリック・サイエンティフィック社のアレス粘弾性測定システムなどの歪み制御型回転レオメーターを用いて測定できる。具体的には、以下のようにして測定を行う。例えば、(A)および(B)の各組成物で構成される発泡性シートを、樹脂の融点以上の温度に設定された熱プレスの間に挟んで気泡を抜き、プレスシートを得る。このシートをレオメーターの25mmφの平行平板間に挟み、平板間隔1.5mm、温度220℃に保ち、50%の一定歪みをかけたまま静止する。サンプルにかかった歪みによって発生した応力は時間とともに緩和される。このときの応力を一定歪みで除した値が緩和弾性率と定義される。この緩和弾性率の時間依存性の曲線より、各時間での緩和弾性率を求めることができる。測定は300sec以上行う。
【0037】
上記の関係を満足する場合には、独立気泡層と連続気泡層の発泡バランスが良好で、外観の美麗な多層発泡体シートが得られる。一方、{(GA10−GA300)/GA10}/{(GB10−GB300)/GB10}の値が1.2を超える場合には、(B)組成物で構成される発泡層の連続気泡率が低くなりすぎて、連続気泡体としての性能を保持できない。また、{(GA10−GA300)/GA10}/{(GB10−GB300)/GB10}の値が0.5未満の場合には、それぞれの組成物で構成される2種の発泡層の発泡バランスが崩れ、例えばしわが多くなったり、周辺部で層間剥離が生じたり、また厚さ精度が悪くなるといった問題が生じる。
【0038】
本発明の多層発泡体シートは、加熱圧着工程または接着工程なしに製造できるので、厚さや発泡倍率の低下を防止できる。また、本発明の多層発泡体シートは層間の加熱圧着界面または接着界面を持たないため、熱、雨水、太陽光などの環境下にさらされたときにも劣化による層間剥離が生じにくいという利点がある。さらに、本発明の多層発泡体シートは、独立気泡層により優れた断熱性が得られると同時に連続気泡層により優れた吸音性や緩衝性が得られ、種々の特性を両立させることが可能である。
【0039】
【実施例】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明の好適な例のうちのいくつかを示すだけであり、本発明はこれらによって限定されるものではない。実施例1〜5については表1に、実施例6〜9については表2に、比較例1〜5については表3に、比較例6および7については表4にそれぞれ示す。
【0040】
実施例1
(A)組成物として、低密度ポリエチレン(密度0.923g/cm3、MFR=0.8/10min、日本ユニカー(株)製NUC−8505)100重量部、有機過酸化物としてジクミルパーオキサイド(DCP)0.6重量部、および発泡剤としてアゾジカルボンアミド20重量部を、第1押出機(30mmφ)に投入した。
【0041】
(B)組成物として、低密度ポリエチレン(密度0.920g/cm3、MFR=1.5/10min、住友化学製スミカセンG202)100重量部、架橋剤としてジクミルパーオキサイド(DCP)0.3重量部、発泡剤としてアゾジカルボンアミド15重量部、発泡促進剤として亜鉛華0.2重量部、およびシリコーンオイルとしてジメチルシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製SH200)0.2重量部を第2押出機(40mmφ)に投入した。
【0042】
これらの組成物を、両押出機に共通に取り付けられた2種3層Tダイより押し出し、外層両面が(A)組成物、内層が(B)組成物からなる2種3層の発泡性シートを得た。この発泡性多層シートを220℃に加熱した炉内に投入して発泡させ、2種3層の多層発泡体シートを得た。
【0043】
この多層発泡体シートの外観は美麗で、表面のしわ、端部の層間剥離は見られなかった。また、各層の厚さは約5.0mm/10.0mm/5.0mmであり、厚さ比率が均一な多層発泡体シートであることが確認された。また、以下のようにして多層発泡体シートの物性を調べた。
【0044】
(a)見かけ密度および連続気泡率
多層発泡体シートの各層を切り取り、JIS−K−6767で規定される見かけ密度と、ASTM D2856で規定されるエアピクノメーター法による連続気泡率を測定した。
【0045】
(b)熱伝導率
多層発泡体シートを10mmの厚さ(A層の厚さ/B層の厚さ=5mm/5mm)にスライスし、JIS−K−1412で規定される平板熱流計法により熱伝導率を測定した。
【0046】
(c)吸音率
スライスした多層発泡体シートを連続気泡層(B層)が内側になるようにパイプ状に成形し、パイプの一端に80dBの音源を置き、もう一端に騒音測定機を置いて、音がどれくらい小さくなったかを測定し、吸音率を計算した。
【0047】
(d)衝撃強度
100mm×100mm×20mmの大きさのサンプルを切り出し、質量が10kg、衝突面の面積が100cm2の正方形の重りを50cmの高さから自由落下させたときの衝撃強度を計装化衝撃試験にて測定した。
【0048】
(e)剥離テスト
多層発泡体シートをサンシャインウェザオメーターにセットし、500時間照射後に界面を剥離させて試験した。
【0049】
(実施例2)
(B)組成物の有機過酸化物を0.5重量部、発泡促進剤を1.0重量部、ジメチルシリコーンオイルを1.0重量部とした以外は実施例1と同様にして多層発泡体シートを製造し、物性を調べた。
【0050】
(実施例3)
(B)組成物の有機過酸化物を0.8重量部、発泡促進剤を2.0重量部、ジメチルシリコーンオイルを2.0重量部とした以外は実施例1と同様にして多層発泡体シートを製造し、物性を調べた。
【0051】
(実施例4)
(B)組成物の有機過酸化物を1.0重量部、発泡促進剤を2.5重量部、ジメチルシリコーンオイルを2.5重量部とした以外は実施例1と同様にして多層発泡体シートを製造し、物性を調べた。
【0052】
(実施例5)
(B)組成物の有機過酸化物を0.4重量部、発泡促進剤を0.5重量部、シリコーンオイルを無添加とした以外は実施例1と同様にして多層発泡体シートを製造し、物性を調べた。
【0053】
(実施例6)
(B)組成物の有機過酸化物を0.4重量部、発泡促進剤を無添加、ジメチルシリコーンオイルを0.5重量部とした以外は実施例1と同様にして多層発泡体シートを製造し、物性を調べた。
【0054】
(実施例7)
(B)組成物のジメチルシリコーンオイルの代わりに、シランカップリング剤としてγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学社製KBM602)1.0重量部を用いた以外は実施例2と同様にして多層発泡体シートを製造し、物性を調べた。
【0055】
(実施例8)
(B)組成物のジメチルシリコーンオイルの代わりに、シリコーン樹脂としてメチルシリコーンレジン(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製SR2400)1.0重量部を用いた以外は実施例2と同様にして多層発泡体シートを製造し、物性を調べた。
【0056】
(実施例9)
(B)組成物のジメチルシリコーンオイルの代わりに、シリコーンゴム(東芝シリコーン社製TSE2571−5U)5.0重量部を用いた以外は実施例2と同様にして多層発泡体シートを製造し、物性を調べた。
【0057】
(比較例1)
(B)組成物の発泡促進剤およびシリコーンオイルを無添加とした以外は実施例1と同様にして多層発泡体シートを製造し、物性を調べた。
【0058】
(比較例2)
(B)組成物の有機過酸化物を0.4重量部とした以外は比較例1と同様にして多層発泡体シートを製造し、物性を調べた。
【0059】
(比較例3)
(B)組成物の有機過酸化物を0.5重量部とした以外は比較例1と同様にして多層発泡体シートを製造し、物性を調べた。
【0060】
(比較例4)
(B)組成物の有機過酸化物を0.6重量部とした以外は比較例1と同様にして多層発泡体シートを製造し、物性を調べた。
【0061】
(比較例5)
実施例1の(B)組成物のみで単層の発泡体シートを製造し、物性を調べた。
【0062】
(比較例6)
既製の架橋ポリエチレン独立気泡発泡体シート(発泡体A)と架橋ポリエチレン連続気泡発泡体シート(発泡体B)の気泡面に接着剤を塗布した後、両者を接合してロールで圧着して、独立気泡層と連続気泡層の2層発泡体シートを得た。なお、連続気泡発泡体シートは、予め独立気泡発泡体シートを作成した後に2本のロール間で圧縮して気泡を破壊させて連続気泡化させた。発泡体AおよびBの物性、2層発泡体シートの物性、外観、剥離テストについて、実施例1と同様に評価した。
【0063】
(比較例7)
既製の架橋ポリエチレン独立気泡発泡体シート(発泡体A)と既製のポリウレタン連続気泡発泡体シート(発泡体B)の気泡面に接着剤を塗布した後、両者を接合してロールで圧着して、独立気泡層と連続気泡層の2層発泡体シートを得た。発泡体AおよびBの物性、2層発泡体シートの物性、外観、剥離テストについて、実施例1と同様に評価した。
【0064】
実施例1〜9で得られた多層発泡体シートはいずれも、連続気泡発泡体層の密度が低く、すなわち発泡倍率が高く、かつ連続気泡率が高いという特徴を示している。また、連続気泡層による吸音性、緩衝性と、独立気泡層による断熱性との両立が達成されている。また、発泡時の独立気泡層と連続気泡層の発泡バランスは良好で、外観にはしわ、端部の界面剥離などが見られず、しかも厚さの均一性に優れた多層発泡体シートが得られる。さらに、サンシャインウェザオメーターにおける耐候性試験後でも多層発泡体シートの層間の剥離現象は認められない。
【0065】
一方、比較例1は発泡促進剤およびシリコーン化合物を添加していないため、両層の発泡バランスが崩れ、外観はしわが多くて凹凸が大きいだけでなく、層間の界面剥離も生じた。比較例2は発泡バランスは良好であるが、発泡促進剤およびシリコーン化合物を添加していないため、連続気泡層の連続気泡率が低くなり、吸音性や緩衝性が不十分である。比較例3および4は独立気泡層のみから構成される単層とみなすことができ、熱伝導率は良好であるが、吸音性や緩衝性に劣る。比較例5は(B)組成物からなる単層発泡体シートであり、密度が高く、連続気泡率が小さくなっており、吸音性、緩衝性、断熱性のいずれも劣っている。また、発泡時の支持体に粘着するため、剥がした後の表面外観が悪く、しわや凹凸も目立ち、商品価値の低い発泡体である。比較例6および7は、独立気泡発泡体と連続気泡発泡体を気泡面で接着処理して2層発泡体を得ているために、圧着時に厚さや発泡倍率の低下が起こり、さらにサンシャインウェザオメーターにおける耐候性試験後に層間の界面にて剥離が生じる。特に、連続気泡層は連続気泡率が高いが、連続気泡化の際の圧縮や接着時の圧縮により密度が大きくなり、熱伝導率および緩衝性に劣っている。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明によれば、独立気泡層と連続気泡層とからなる多層発泡体シートを一度に製造することができる。また、独立気泡層の断熱性と連続気泡層の吸音性、緩衝性を併せ持った多層発泡体シートが得られる。また、従来の熱融着や接着剤を用いる接合方法による界面剥離の問題を解消できる。しかも、多層発泡体シートを加熱発泡させたときに、表面のしわ、端部の界面剥離ならびに厚さの不均一性などのトラブルも生じない。したがって、本発明の多層発泡体シートは、自動車、家電、建材、文具、雑貨など各種の分野に好適に適用できる。
Claims (3)
- (A)ポリオレフィン系樹脂に有機過酸化物および発泡剤を含有してなる組成物と、(B)ポリオレフィン系樹脂100重量部に有機過酸化物、発泡剤および発泡促進剤0.1〜5重量部および/またはシリコーン化合物0.01〜20重量部を含有してなる組成物を用い、(A)組成物が両面に位置するように(A)組成物と(B)組成物を交互に多層押出成形することにより、積層して多層シートを得た後、該多層シートを加熱発泡することにより得たポリオレフィン系多層発泡体シートであって、
最外層(A層)はJIS−K−6767で規定される見かけ密度が0.020〜0.090g/cm3、ASTM D2856で規定される連続気泡率が60%未満の、断熱性を有する独立気泡層であり、該最外層に隣接する層(B層)はJIS−K−6767で規定される見かけ密度が0.010〜0.090g/cm3、ASTM D2856で規定される連続気泡率が60〜100%である、吸音性及び緩衝性を有する連続気泡層であり、最外層(A層)と該最外層に隣接する層(B層)の220℃における溶融物の歪み50%の条件におけるt=10(sec)の緩和弾性率をそれぞれGA 10 、GB 10 とし、t=300(sec)の緩和弾性率をそれぞれGA 300 、GB 300 としたとき、
{(GA 10 −GA 300 )/GA 10 }/{(GB 10 −GB 300 )/GB 10 }
の値が0.5〜1.2の範囲にあることを特徴とするポリオレフィン系多層発泡体シート。 - (A)ポリオレフィン系樹脂に有機過酸化物および発泡剤を含有してなる組成物と、(B)ポリオレフィン系樹脂100重量部に有機過酸化物、発泡剤および発泡促進剤0.1〜5重量部および/またはシリコーン化合物0.01〜20重量部を含有してなる組成物を用い、(A)組成物が両面に位置するように(A)組成物と(B)組成物を交互に多層押出成形することにより、積層して多層シートを得た後、該多層シートを加熱発泡するポリオレフィン系多層発泡体シートの製造方法であって、最外層(A層)はJIS−K−6767で規定される見かけ密度が0.020〜0.090g/cm 3 、ASTM D2856で規定される連続気泡率が60%未満の独立気泡層であり、該最外層に隣接する層(B層)はJIS−K−6767で規定される見かけ密度が0.010〜0.090g/cm 3 、ASTM D2856で規定される連続気泡率が60〜100%である連続気泡層であり、最外層(A層)と該最外層に隣接する層(B層)の220℃における溶融物の歪み50%の条件におけるt=10(sec)の緩和弾性率をそれぞれGA 10 、GB 10 とし、t=300(sec)の緩和弾性率をそれぞれGA 300 、GB 300 としたとき、
{(GA 10 −GA 300 )/GA 10 }/{(GB 10 −GB 300 )/GB 10 }
の値が0.5〜1.2の範囲にあることを特徴とするポリオレフィン系多層発泡体シートの製造方法。 - 第1押出機に前記(A)組成物を投入し、第2押出機に前記(B)組成物を投入して、第1押出機および第2押出機の両方に接続された一基の多層ダイから押し出すことにより、(A)組成物が両面に位置し、かつ(A)組成物と(B)組成物が交互に多層押出成形することにより、積層された多層シートを得た後、該多層シートを加熱発泡することを特徴とする請求項2に記載のポリオレフィン系多層発泡体シートの製造方法。
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