JP4580130B2 - ポリビニルアルコール系樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂にカチオン基を導入したポリビニルアルコール系樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
カチオン変性ポリビニルアルコールは、通常、ノニオン性であるポリビニルアルコール(以下、PVAと略称する)にカチオン基を導入させたものであり、これらのカチオン変性PVAは、各種アニオン性物質との反応性を有しており、抄紙時の紙に対する歩留まりが高いことから、内添用紙力増強剤、インクジェット印刷用コーティング剤などに使用されている。それ以外にも、エマルジョン用乳化分散剤、高分子凝集剤、脱水剤、マイクロカプセル用壁剤、繊維糊剤、帯電防止剤、ロックウールなどの無機物のバインダー、水性塗料のバインダー、アニオン化合物のキヤッチャー剤等に広く使用されている。
【0003】
このカチオン変性PVAの製造方法としては、酢酸ビニルとカチオン性単量体との共重合物をケン化する共重合法(例えば、特公昭62−34242号公報)やPVAを製造した後にカチオン化剤を付加させる後変性法(例えば、特公昭57−34842号公報、特開昭63−43905号公報)がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記の共重合法は、使用するカチオン性単量体の種類によっては溶剤回収工程などに悪影響を及ぼすので、使用できるカチオン性単量体の種類が制限されたり、溶剤回収の際に使用する付帯設備を新たに設ける必要があるなどの問題がある。
【0005】
一方、特公昭57−34842号公報、特開昭63−43905号公報に例示されている後変性法では、共重合法で見られるような問題はなく、簡単な設備で簡易に製造することができるという利点があるが、後変性の反応触媒として、水酸化ナトリウム等のアルカリを使用する必要があるため、原料PVAに低ケン化度のPVAを使用しても残存酢酸エステル基がアルカリによって加水分解され、完全ケン化タイプのカチオン変性PVAしか得られないという問題がある。また、後変性によるカチオン化では、使用するグリシジル基を有する第四級アンモニウム塩がアルカリで分解し、カチオン基が脱離するとともに、低級アミン系化合物に由来する臭気が発生するという問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の欠点を改善し、工業的に有利な方法で製造することができ、かつ、アルカリを使用することがないため、原料のPVAの残存酢酸エステル基の加水分解が起こらず、また、低級アミン系化合物由来の臭気の発生がなく、アニオン性物質との反応性が高く、内添用紙力増強剤、インクジェット用コーティング剤として有用なPVA系樹脂組成物を得ることを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、かかる目的を達成するものであって、(A)PVA系樹脂と(B)多価金属塩と(C)グリシジル基を有する第四級アンモニウム塩とを配合してなることを特徴とするPVA系樹脂組成物であって、前記の多価金属塩は硫酸アルミニウムであることが望ましく、PVA系樹脂はケン化度75〜90モル%のPVAまたはジアセトンアクリルアミド−脂肪酸ビニルエステル共重合体のケン化物であることが望ましい。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明において使用されるPVA系樹脂(A)としては、従来公知の未変性PVA、各種変性PVAなどが挙げられ、脂肪酸ビニルエステルを重合して得られる重合体や脂肪酸ビニルエステルとエチレン性不飽和単量体とを共重合して得られる共重合体などをケン化することによって製造することができる。
【0010】
上記の重合あるいは共重合に使用される脂肪酸ビニルエステルとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどが挙げられ、中でも酢酸ビニルが工業的に好ましく、従来より公知のバルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などの各種の重合法により製造することができるが、中でもメタノールを溶剤として用いる溶液重合が工業的に好ましい。
【0011】
共重合に使用するエチレン性不飽和単量体としては、例えばクロトン酸、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和モノカルボン酸およびそのエステル・塩・無水物・アミド・ニトリル類、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸およびその塩、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノメチル等の不飽和二塩基酸モノアルキルエステル類、炭素数2〜30のα−オレフィン類、アルキルビニルエーテル類、ビニルピロリドン類が挙げられる。
【0012】
また、得られた重合体あるいは共重合体のケン化方法は、従来より公知のアルカリケン化および酸ケン化法を適用することができ、中でも重合体のメタノール溶液またはメタノールと水、酢酸メチル、ベンゼン等の混合溶液に水酸化アルカリを添加して加アルコール分解する方法が工業的に好ましく、得られた未変性PVAあるいは共重合変性PVAをアセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、アセトアセチル化などによって後変性した変性PVA系樹脂であってもよい。
【0013】
PVA系樹脂の重合度、ケン化度は特に制限はないが、未変性PVAでは、ケン化度が75〜90モル%のPVAはグリシジル基を有する第四級アンモニウム塩との反応性が高いので、好ましい。また、変性PVAでは、中でもジアセトンアクリルアミド−脂肪酸ビニルエステル共重合体のケン化物は、グリシジル基を有する第四級アンモニウム塩との反応性が高いので、好ましい。
【0014】
本発明において使用される多価金属塩(B)としては、例えばアルミニウム、チタン、ジルコニウム、マグネシウム等の塩が挙げられ、より具体的には、硫酸アルミニウム、硫酸アンモニウムアルミニウム、酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、フッ化アルミニウム、水酸化アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酸化アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、チオジグリコール酸アルミニウム、3フッ化アルミニウム、トリメチルアルミニウム、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド等のアルミニウム塩、およびアルミニウムの酸性水溶液、塩化チタン、2ホウ化チタン、2ケイ化チタン、チタンエトキシド、チタン2−エチル−1−ヘキサノラート、水素化チタン、ヨウ化チタン、酸化チタン、フッ化チタンカリウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸チタン、テトラブトキシチタン、チタンテトライソプロポキシドなどのチタン塩、およびチタンの酸性水溶液、塩化ジルコニウム、炭化ジルコニウム、2ホウ化ジルコニウム、塩化酸化ジルコニウム、ジルコニウムアセチルアセトナート、2ケイ化ジルコニウム、水素化ジルコニウム、酸化ジルコニウム、ヨウ化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、ジルコニウムn−プロポキシド、オキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム等のジルコニウム塩、およびジルコニウムの酸性水溶液、酢酸マグネシウム、臭化マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、クエン酸マグネシウム、マグネシウムエトキシド、フッ化マグネシウム、水酸化マグネシウム、乳酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、酸化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウムなどのマグネシウム塩、およびマグネシウムの酸性水溶液などが挙げられるが、これらに限らない。中でも、水溶性の多価金属塩の効果が高く、特に硫酸アルミニウムが好適である。
【0015】
本発明において使用されるグリシジル基を有する第四級アンモニウム塩(C)は、下式で示されるものであって、具体的には、グリシジルトリメチルアンモニウムクロライド、グリシジルトリエチルアンモニウムクロライド、グリシジルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、グリシジルジメチルラウリルアンモニウムクロライド、グリシジルジメチルステアリルアンモニウムクロライド等が挙げられ、これらを単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0016】
【化1】
【0017】
(式中のR1,R2およびR3は、炭素数1〜4又は12〜22のアルキル基、又はベンジル基、Xは塩化物、臭化物、硫酸塩又は酢酸塩を示す。)
【0018】
本発明において、PVA系樹脂(A)に対する多価金属塩(B)の配合量はPVA系樹脂100質量部に対して0.1質量部以上であり、好ましくは0.2〜50質量部であり、より好ましくは0.5〜20質量部であり、また、グリシジル基を有する第四級アンモニウム塩(C)の配合量は、PVA系樹脂100質量部に対して0.05質量部以上であり、好ましくは0.1〜50質量部であり、より好ましくは0.2〜20質量部である。本発明は、PVA系樹脂(A)に対して、多価金属塩(B)およびグリシジル基を有する第四級アンモニウム塩(C)の両方が配合されていることが重要であり、いずれかが配合されていないと効果はない。
【0019】
本発明のPVA系樹脂組成物は、水溶液あるいは水分散液として調製され、使用される。その調製方法としては、特に制限はないが、例えば、あらかじめ作製したPVA系樹脂の水溶液に、多価金属塩の水溶液あるいは水分散液、およびグリシジル基を有する第四級アンモニウム塩またはその水溶液あるいは水分散液を添加し、常温にてあるいは加熱して攪拌する方法、あるいはPVA系樹脂を水に溶解する際に、多価金属塩およびグリシジル基を有する第四級アンモニウム塩のいずれかあるいは両方を添加する方法などの各種の方法が挙げられ、PVA系樹脂に対する多価金属塩、グリシジル基を有する第四級アンモニウム塩を添加する順序についても特に制限はなく、その効果は変わらない。
【0020】
本発明のPVA系樹脂組成物の水溶液あるいは水分散液を作製する際、必要に応じてデンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリアクリル酸誘導体、ゼラチン等の他の天然高分子、合成高分子、クレー、カオリン、タルク、シリカ、炭酸カルシウム等の無機充填剤、グリセリン、ソルビトール等の可塑剤、界面活性剤、消泡剤、帯電防止剤、キレート剤、架橋剤等を本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。
【0021】
【実施例】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。
なお、得られたPVA系樹脂組成物の性能評価は次の方法によって行った。
【0022】
▲1▼.内添用紙力増強剤としての評価(手すき紙の引張強さ)
JIS−P8209に基づいて以下の方法で手すき紙(成紙)を作製した。
実施例または比較例で作製したPVA系樹脂組成物の水溶液をパルプ(NL・B・K・P)の1%水性スラリーにパルプに対して固形分換算で0.5%になるように添加混合し、パルプのスラリー濃度が0.15%になるように水で希釈した。次いで、手すき装置を用いて上記のスラリー液から坪量60±3g/m2なるように抄紙し、340kPaで5分間プレス脱水し、120℃1分間回転式ドラム乾燥機で乾燥した。
得られた成紙を20℃,65%RHの条件下で48時間調湿し、その引張強さの試験をJIS−P811に準じて行い、その結果を裂断長として示した。
【0023】
▲2▼.インクジェット用コーティング剤としての評価
実施例または比較例で作製した樹脂組成物の水溶液を厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート製のシート上に、乾燥後の塗布量が15g/m2なるようにバーコーター塗布し、20℃で48時間乾燥してインクジッェト記録用シートを作製した。
得られた記録用シートにインクジェットプリンター(PM−750C エプソン社製)にてパターン印字を行い、そのドット形状を顕微鏡で観察し、以下の基準で解像度の評価を行った。
○はほぼ円形 △は円形が多少くずれている ×は不定形を示す。
【0024】
実施例1
重合度1780、ケン化度88.0モル%の未変性PVAの10質量%水溶液100質量部に、2質量%硫酸アルミニウム水溶液10質量部、グリシジルトリメチルアンモニウムクロライド0.5質量部および純水を加えて、5質量%のPVA系樹脂組成物水溶液を調製した。
【0025】
得られたPVA系樹脂組成物水溶液を用いて抄紙を行い、成紙の引張強さを前述のようにして測定した。得られた結果は、表2に示すように紙力増強効果が大きかった。また、印字されたドットの形状は円形であり、インクジェット用コーティング剤として使用した場合に優れた性能を示すことが明らかになった。
【0026】
実施例2〜8
PVA系樹脂の種類(重合度、ケン化度、変性の有無、変性度)、多価金属塩の種類、添加量、グリシジル基を有する第四級アンモニウム塩の種類、添加量を表1ように変更した以外は実施例1同様にして、5質量%のPVA系樹脂組成物水溶液を調製し、内添用紙力増強剤およひインクジェット用コーティング剤としての性能評価を行った。表2に示すように、いずれも紙力増強効果が高く、インクジェット用コーティング剤としても優れた性能を示すことが明らかになった。
【0027】
比較例1
硫酸アルミニウムおよびグリシジルトリメチルアンモニウムクロライドを使用しない以外は、実施例1同様にして5質量%のPVA水溶液を調製し、内添用紙力増強剤およびインクジェット用コーティング剤としての性能評価を行った。表2に示すように、各実施例に比べて紙力増強効果は低く、インクジェット用コーティング剤として使用した場合の解像度は低かった。
【0028】
比較例2
グリシジルトリメチルアンモニウムクロライドを使用しない以外は、実施例1と同様にして5質量%のPVA系樹脂組成物水溶液を調製し、内添用紙力増強剤およびインクジェット用コーティング剤としての性能評価を行った。表2に示すように、各実施例に比べて紙力増強効果は低く、インクジェット用コーティング剤としての性能も実用レベルには達しなかった。
【0029】
比較例3
硫酸アルミニウムを使用しない以外は、実施例1と同様にして5質量%のPVA系樹脂組成物水溶液を調製し、内添用紙力増強剤およびインクジェット用コーティング剤としての性能評価を行った。表2に示すように、各実施例に比べて紙力増強効果は低く、インクジェット用コーティング剤としての性能も実用レベルには達しなかった。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、工業的に有利な方法で製造することができ、かつ、アルカリを使用することがないため、原料のPVAの残存酢酸エステル基の加水分解が起こらず、また、低級アミン系化合物由来の臭気の発生がなく、しかもアニオン性物質との反応性が高く、内添用紙力増強剤、インクジェット用コーティング剤として有用なPVA系樹脂組成物を提供することができる。
Claims (5)
- (A)ポリビニルアルコール系樹脂と(B)多価金属塩として硫酸アルミニウムと(C)グリシジル基を有する第四級アンモニウム塩とを配合してなり、(i)(A)ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液に、(B)前記多価金属塩の水溶液あるいは水分散液及び(C)グリシジル基を有する第四級アンモニウム塩又はその水溶液あるいは水分散液を添加し、常温にてあるいは加熱して攪拌する方法、又は(ii)(A)ポリビニルアルコール系樹脂を水に溶解する際に、(B)前記多価金属塩及び(C)グリシジル基を有する第四級アンモニウム塩を添加する方法によって製造されることを特徴とするポリビニルアルコール系樹脂組成物。
- 前記ポリビニルアルコール系樹脂はケン化度75〜90モル%のポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1に記載のポリビニルアルコール系樹脂組成物。
- 前記ポリビニルアルコール系樹脂はジアセトンアクリルアミド−脂肪酸ビニルエステル共重合体のケン化物である請求項1又は2に記載のポリビニルアルコール系樹脂組成物。
- 多価金属塩(B)の配合量が、PVA系樹脂100質量部に対して0.2〜50質量部であり、グリシジル基を有する第四級アンモニウム塩(C)の配合量が、PVA系樹脂100質量部に対して0.1〜50質量部である請求項1に記載のポリビニルアルコール系樹脂組成物。
- (i)(A)ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液に、(B)硫酸アルミニウムの水溶液あるいは水分散液及び(C)グリシジル基を有する第四級アンモニウム塩又はその水溶液あるいは水分散液を添加し、常温にてあるいは加熱して攪拌する、又は(ii)(A)ポリビニルアルコール系樹脂を水に溶解する際に、(B)硫酸アルミニウム、及び(C)グリシジル基を有する第四級アンモニウム塩を添加することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載されたポリビニルアルコール系樹脂組成物の製造方法。
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