JP4566302B2 - ベンゾチオフェンの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はベンゾチオフェンの製造法に関する。詳しくは、ナフタレンを多量に含む留分からベンゾチオフェンを回収する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ベンゾチオフェンは、医薬品、農薬等の合成原料あるいは芳香族樹脂等の原料として有用な化合物である。ベンゾチオフェンは、石炭や石油の高温熱分解に由来する留分、例えばコールタール留分、流動接触分解油等に含有されており、特にナフタレン含有留分に濃縮されて比較的多量に存在する。
【0003】
ナフタレン含有留分からベンゾチオフェンを回収しようという試みもなされているが、ベンゾチオフェンの含有量はナフタレンに比べて圧倒的に少ないだけでなく、ナフタレンとベンゾチオフェンは沸点が近接するため、蒸留による分離は困難であり、また、晶析による分離もナフタレンとベンゾチオフェンは共晶を形成するため同様に困難である。特開平10−265416号公報には、ナフタレンとベンゾチオフェンの分離に吸着分離法を使用することが記載されているが、工業的に実施するには吸着剤の寿命等解決すべき課題が残る。
【0004】
一方、ナフタレンはベンゾチオフェンを含むナフタレン含有留分から回収することが行われている。この回収方法としては蒸留法、晶析法、洗浄法あるいはこれらの組み合わせなど、種々の方法が知られているが、いずれの方法もベンゾチオフェンは不純物含有留分又は含有油として燃料油等に混合処理されている。
【0005】
ナフタレン含有留分から、精製ナフタレンを得る方法の一例としては、これを蒸留してナフタレン濃度約90%以上、通常約95%程度の粗ナフタレンを得、これを連続晶析する方法が、特開昭47−29279号公報や特開昭56−152702号公報等で知られているが、ベンゾチオフェンを回収することについては何も触れられていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、粗ナフタレン又はナフタレン留分に含まれるベンゾチオフェンを有用成分として回収することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ナフタレン濃度約90%以上の粗ナフタレンを連続晶析して精製ナフタレンを分離したのちの残油であってナフタレン濃度が70〜90%の残油を、再度連続晶析して精製ナフタレンと母液とに分離すると共に、分離された母液を蒸留してベンゾチオフェン濃度が50%以上の留分を取り出すことを特徴とするベンゾチオフェン濃度が60〜80%の留分の製造方法である。ここで、残油中のベンゾチオフェン濃度が3〜10%であり、母液中のベンゾチオフェン濃度が5〜20%であることが有利である。また、本発明は、ナフタレン濃度約90%以上の粗ナフタレン連続晶析して精製ナフタレンを分離したのちの残油を精密蒸留して、ベンゾチオフェン濃度が40%以上の留分を取り出すことを特徴とするベンゾチオフェン濃度が40〜70%の留分の製造方法である。
【0008】
本発明で使用する粗ナフタレンは、ナフタレン濃度が約90%以上であって、ベンゾチオフェンを含有するものであればどのようなものであってもよいが、ベンゾチオフェン含有量が1%以上の95%級の粗ナフタレンが好ましい。このような、粗ナフタレンは、例えばタール系ナフタレン含有油を蒸留、晶析又は洗浄等の処理をすることにより得られる。なお、断りのない限り、%は重量%である。
【0009】
粗ナフタレンの晶析は、連続晶析、バッチ晶析のいずれでもよいが、ナフタレンの精製効率の点で連続晶析が有利である。晶析は、これを一旦溶融し、融点の高い成分である精製ナフタレンを固体として、融点の低い成分である不純物が濃縮された残油を液体として分離するものであるが、連続晶析の場合は精製ナフタレンは溶融して系外に抜き出すことが多い。なお、この際、必要により溶媒を添加することもできるが、残油の濃度が薄くなるという欠点がある。
【0010】
連続晶析の一例としては、前記特開昭47−29279号公報や特開昭56−152702号公報等に記載された方法を挙げることができる。例えば、特開昭56−152702号公報に記載された方法によれば、粗ナフタレンは、上から下に向かって温度が上昇する温度勾配を有する縦型の塔型晶析装置に装入され、上部で結晶が析出され、析出された結晶は徐々に沈降し、その際、上昇してくる還流液と向流接触して、融解、析出を繰り返して精製され、精製されたナフタレン結晶は低部に達し、そこで溶融されて一部は塔外に抜き出され、残部は還流液として循環され、沈降してくる結晶と接触されて徐々に不純物濃度が高められた還流液は残油又は母液として上部から抜き出されるという方法である。
【0011】
残油の性状は晶析条件によっても異なるが、晶析は純度が高くなると融点が高くなり、純度が低くなると融点が低下するという現象を利用したものであるから、原料の粗ナフタレンよりナフタレン分が減少し、ベンゾチオフェンを含む不純物分が増大しているものであり、ナフタレン濃度が70〜90%のものである必要がある。この残油中のベンゾチオフェンの含有量は、3〜10%の範囲であることが好ましい。残油中のベンゾチオフェンの含有量を高めることは、ベンゾチオフェンの回収のためには有利であるが、精製ナフタレンの製造効率が低下する。また、分離される結晶又はこの融液は精製ナフタレンであるが、この純度は99.9%以上とすることがよい。残油及び精製ナフタレンの純度又は濃度は、融点と関係があるので、取り出す残油及び精製ナフタレンの温度を制御することにより可能である。塔型の連続晶析装置の場合、精製ナフタレンが濃縮する下部の方が温度の高い状態となり、しかも残油と精製ナフタレンとの純度又は濃度差が大きいと、温度差も大きくなり、液密度の逆転も大きくなり、安定した温度勾配を設けることが困難となるので、1段の晶析だけでベンゾチオフェンを高い濃度で回収することは不利である。なお、逆転した液密度状態で安定した温度勾配を設けるための方法としては、結晶スラリー濃度を高めたり、平面攪拌したりして対流を抑制する方法などがあるが限度がある。なお、残油と母液については、本明細書では前記粗ナフタレンを晶析した際に得られる液を残油といい、この残油を再度晶析した際に得られる液を母液という。
【0012】
本発明は、前記の粗ナフタレンを晶析して精製ナフタレンを分離したのちの残油であってナフタレン濃度が70〜90%の残油からベンゾチオフェンを回収するものである。第1の方法はこれを、更に晶析したのち、得られる母液を蒸留する方法であり、第2の方法は上記残油を精密蒸留する方法である。
【0013】
【発明の実施の態様】
第1の方法では、残油を再度晶析して精製ナフタレンと母液とに分離する。この晶析方法としては、前記と同様な晶析方法を採用することができる。また、連続晶析法、バッチ晶析法のいずれでもよいが、精製効率の点で連続晶析法が優れる。この晶析でも、精製ナフタレンが結晶又は融液として取り出され、ベンゾチオフェンを含む不純物が濃縮された液は母液として取り出される。
【0014】
分離された母液の性状は晶析条件によっても異なるが、前記残油よりナフタレン分が減少し、ベンゾチオフェンを含む不純物分が増大しているものであり、この母液中のベンゾチオフェンの含有量は、5〜20%、好ましくは10〜20%の範囲であることがよい。また、ナフタレン濃度は50〜80%程度とすることがよい。母油中のベンゾチオフェンの含有量を高めることは、ベンゾチオフェンの回収のためには有利であるが、前記のとおり精製ナフタレンの製造効率が低下する。また、分離される精製ナフタレンの純度も99.9%以上とすることがよい。前記のとおり母液及び精製ナフタレンの純度又は濃度は取り出す残油及び精製ナフタレンの温度を制御することにより可能である。ここでの晶析は、粗ナフタレンよりナフタレン濃度の低い残油を晶析するため、分離される母液と精製ナフタレンとの純度又は濃度差がより大きくなるため、温度差もより大きくなり、安定した温度勾配を設けることが更に、困難となるので、晶析だけでベンゾチオフェンを必要以上に高い濃度で回収しようとすることは不利である。
【0015】
そこで、次いでこの母液を蒸留してベンゾチオフェン濃度が50%以上の留分を取り出す。この蒸留には通常の蒸留法を採用することができ、減圧蒸留にすることは必須ではないが、精製効率を高めるためには有利である。しかし、蒸留で濃度を極めて高くすることは、沸点が近接した成分が多いことから不利であるので、60〜80%程度にとどめ、これ以上の濃度が要求される場合の最終精製は吸着分離、再結晶等で行うことが有利である。
【0016】
第2の方法では、前記残油を再度の晶析に付することなく、精密蒸留してベンゾチオフェン濃度が40%以上の留分を取り出す。この蒸留には通常の精密蒸留法を採用することができ、減圧蒸留にすることは必須ではないが、精製効率を高めるためには有利である。しかし、この場合の蒸留は、第1の方法の場合の蒸留と異なり残油中のベンゾチオフェン濃度が低いので、蒸留段数を高める必要がある。理論段数でいえば50段以上とすることが望ましい。この蒸留も、蒸留だけで濃度を極めて高くすることは、沸点が近接した成分が多いことから不利であるので、40〜70%程度にとどめ、これ以上の濃度が要求される場合の最終精製は吸着分離、再結晶等で行うことが有利である。
【0017】
【実施例】
以下、本発明の実施例を示す。特に断りのない限り、部は重量部であり、部/hrは時間当たりの重量部である。
実施例1
上部に残油取り出し口、下部に結晶融液取り出し口、上部に原料装入口を有する塔型の連続晶析装置であって、上部から下部に向かって温度が上昇する温度勾配を設けた連続晶析装置の原料装入口から、石炭系の95%ナフタレンを、1500部/hrでフィードし、精製ナフタレンを結晶融液取り出し口から1100部/hrで、残油を残油取り出し口から500部/hrで回収した。その際の残油抜き取り口温度は72.5℃であった。抜き取った残油(ベンゾチオフェン7.4%、ナフタレン85.9%、その他6.7%)1000部を理論段数80段、還流比50、常圧条件下で蒸留し、前留分として845部留出させ、その後主留分として86部留出させた。主留分の組成をガスクロマトグラフィーで測定した結果、ベンゾチオフェン45.0%、ナフタレン39.9%、その他15.1%であった。また、晶析残油中に含まれるベンゾチオフェン基準の回収率は52%であった。
【0018】
実施例2
実施例1で抜き取った残油を再度、前記の連続晶析装置へ330部/hrでフィードし、精製ナフタレンを90部/hrで、母液を240部/hrで抜き取った。その際の母液抜き取り温度は66.5℃であった。抜き取った母液(ベンゾチオフェン15.0%、ナフタレン73.0%、その他12.0%)1000部を理論段数80段、還流比50、常圧条件下で蒸留し、前留分として780部留出させ、その後主留分として150部留出させた。主留分の組成をガスクロマトグラフィーで測定した結果、ベンゾチオフェン75%、ナフタレン10%、その他15%であった。また、晶析母液中に含まれるベンゾチオフェン基準の回収率は75%であった。
【0019】
【発明の効果】
本発明の製造方法によれば、粗ナフタレン中に低濃度で含まれるベンゾチオフェンを比較的簡単な方法で、有利に製造することができる。また、同時に精製ナフタレンを製造することもできる。
Claims (3)
- ナフタレン濃度約90%以上の粗ナフタレンを連続晶析して精製ナフタレンを分離したのちの残油であってナフタレン濃度が70〜90%の残油を、再度連続晶析して精製ナフタレンと母液とに分離すると共に、分離された母液を蒸留してベンゾチオフェン濃度が60〜80%の留分を取り出すことを特徴とするベンゾチオフェン濃度が60〜80%の留分の製造方法。
- 残油中のベンゾチオフェン濃度が3〜10%であり、母液中のベンゾチオフェン濃度が5〜20%である請求項1記載のベンゾチオフェン濃度が60〜80%の留分の製造方法。
- ナフタレン濃度約90%以上の粗ナフタレンを連続晶析して精製ナフタレンを分離したのちの残油を精密蒸留して、ベンゾチオフェン濃度が40〜70%の留分を取り出すことを特徴とするベンゾチオフェン濃度が40〜70%の留分の製造方法。
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