JP4545006B2 - 温度管理媒体およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、物品が一旦、冷蔵温度域以下の雰囲気中に曝され、その後、これより高い温度の雰囲気中に曝されたか否かという温度履歴を容易に確認することができる温度管理媒体およびその製造方法に関する。
近年、冷凍あるいは冷蔵した状態で配送される荷物が一段と増加するに伴って、これらの荷物を配達先まで予め決められた温度に保ちながら運搬する宅配便などの配送手段が普及している。このような配達手段を用いて荷物を配送すると、例えば、集荷元の冷凍・冷蔵施設から配送車へ荷物を積み込む時、配送車間で荷物を積み替える時、配送車から荷物を取り出し配達先へ配達する時などに、本来ならば冷凍・冷蔵状態が保たれなければならない荷物が、直射日光による高温雰囲気や室温雰囲気に曝されることがある。
また、無事に冷凍・冷蔵状態が保たれながら配達先に届けられた後も、荷物の冷凍・冷蔵状態が保たれることが求められる。荷物の中身が食品や医薬品である場合、これらの冷凍・冷蔵状態が保たれないと、これらに変質や雑菌の繁殖などが生じて、その品質が損なわれるおそれがある。極端な場合、食品や医薬品の冷凍・冷蔵状態が保たれないと、食中毒や医療事故などを誘発しかねない。このような厳格な温度管理が求められるものとしては、食品や医薬品の他に、化学分野や写真分野で用いられる各種薬品などが挙げられる。
従来、上述のような温度管理が正常に行われているか否かを簡便に確認する方法として、以下に示す方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、脂溶性色素を溶解した炭素数7〜15の高級アルコールの1種または2種以上が、非イオン系界面活性剤および水に分散されてなる乳化液(エマルション)を、密封容器に充填してなる保存温度管理用インジケータが開示されている。この保存温度管理用インジケータは、通常の温度条件下では、外観上は、乳化液の色素の色調が抑えられ、不透明な乳濁色を呈している。一方、この保存温度管理用インジケータが、乳化液が氷結する温度以下に曝されると、一旦、乳化液の全成分が凝固するが、乳化液が再び融解するとき、粗大化した乳化粒子は浮上し、色素の濃い色調を有した油滴または油層が上層へ浮上し、水層と、油滴または油層とに分離する。よって、このような変化が認められた保存温度管理用インジケータを含む包装内の物品は劣化している恐れがあるとして使用時に注意を促すことができる。
また、特許文献2には、室温で液状の、保存管理温度を超えると溶融する油性物質を非イオン界面活性剤および水によってエマルション化してなるO/W型エマルション層と、上記油性物質のみを選択的に拡散透過する、油溶性色素をエマルション層と反対面に設けてなる障壁と、油性物質を拡散透過する不透明層とを密封容器に順次設けてなる保存温度管理用インジケータが開示されている。この保存温度管理用インジケータは、O/W型エマルション層が、一旦、氷点下にて凍結した後、解凍する際に、水と油性物質とに相分離し、この油性物質のみが障壁を拡散透過して、障壁の上に設けられた油溶性色素を溶かし、さらに油溶性色素の上の不透明層を拡散透過して発色または着色する。これにより、厳格な温度管理を必要とする物品に異常があったことを肉眼で容易に検知することができる。
上述した従来の方法には、以下に示すような課題があった。
1つには、環境ホルモンであることが知られている非イオン性界面活性剤を使用することから、上記の保存温度管理用インジケータを食品や医薬品などに貼付して用いる場合、その安全性を確保することが難しい。例えば、意識せずに上記のような乳化液が充填されている密封容器を破損すると、乳化液が皮膚、食品、薬品などに付着するおそれがある。乳化液が皮膚に付着すると、その非イオン性界面活性剤が皮膚から体内に吸収されて健康を害するおそれがある。また、乳化液が食品や薬品に付着すると、その食品や薬品を誤って飲み込んだ結果、非イオン性界面活性剤が体内に吸収されて健康を害するおそれがある。
また、従来の温度管理用インジケータは、室温にて保存可能な期間が数日〜6ヶ月程度と短く、長期に渡って室温にて安定に保存することができないという問題があった。
特開昭57−37227号公報 特開平5−149797号公報
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、食しても安全、長期に渡って室温にて安定に保存可能、かつ、所定温度で作動する温度管理媒体を提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決するために、常温にて液状で、かつ、所定温度まで冷却すると凝固する乳化液を備え、該乳化液は昇温により融解し、相分離する温度管理媒体であって、前記乳化液は、水、油脂およびリン脂質を含む脂質混合物からなり、前記リン脂質はレシチンおよびリゾレシチンであり、前記レシチンおよび前記リゾレシチンを合わせたリン脂質の配合量は、前記油脂100質量部に対して、0.1質量部以上、40質量部以下であり、前記レシチンと前記リゾレシチンの配合割合は、質量比で20:80〜80:20であり、前記乳化液の分散相をなす微粒子の平均粒径が5μm以上、30μm以下である温度管理媒体を提供する。
かかる構成によれば、温度管理媒体は、乳化液が所定温度以下にて凝固し、乳化液が再び所定温度を超える温度に昇温することにより融解し、相分離して、一旦、相分離したら二度と元の乳化液には戻らないから、この相分離した状態を、光学的に識別することで、この温度管理媒体が貼付された荷物が、設定した以上の高温に曝されたか否かを判別できる。特に、この温度管理媒体は、急速冷凍した後に急速加熱した際の相分離能力が非常に優れている。また、温度管理媒体は、室温保存しても、乳化液が相分離することなく、安定に分散状態(エマルションの形態)を保つことができる
また、人体に悪影響を及ぼすことのない、水、油脂およびリン脂質を含む脂質混合物から構成されているから、意識せずに乳化液が皮膚、食品、薬品に付着し、その結果、乳化液が体内に入っても、健康を害することはない。
かかる構成によれば、乳化液が、界面活性剤のレシチンおよびリゾレシチンを含むから、室温にて安定に保存することができる。
上記構成の温度管理媒体において、前記油脂はトリアシルグリセロールを主成分とし、前記所定温度前後で凝固する食用油脂であることが好ましい。
かかる構成によれば、乳化液が所定温度以下にて凝固し、乳化液が再び所定温度を超える温度に昇温することにより融解し、相分離して、一旦、相分離したら二度と元の乳化液には戻らない。
また、本発明は、油脂にレシチンを含む脂質混合物を溶解して、油脂混合液を調製する工程Aと、前記レシチンを含む脂質混合物をリゾ化してリゾレシチンを含む脂質混合物を調製する工程Bと、前記リゾレシチンを含む脂質混合物を水に溶解して、前記リゾレシチンを含む脂質混合物の水溶液を調製する工程Cと、前記リゾレシチンを含む脂質混合物の水溶液と前記油脂混合液とからなる混合液を攪拌して乳化液を調整する工程Dとを備え、前記工程Dにおいて、前記レシチンおよび前記リゾレシチンを合わせたリン脂質の配合量を、前記油脂100質量部に対して、0.1質量部以上、40質量部以下とし、前記レシチンと前記リゾレシチンの配合割合を、質量比で20:80〜80:20とする温度管理媒体の製造方法を提供する。
かかる構成によれば、リン脂質を含む脂質混合物をリゾ化した後、このリゾ化したリン脂質を含む脂質混合物と、リゾ化していないリン脂質を含む脂質混合物を用いて乳化液を得るから、両者の親和性が非常に高くなり、得られた乳化液は長期に渡って室温にて保存可能なものとなる。また、乳化液の分散相をなす微粒子の平均粒径を5μm以上、30μm以下とすることができるので、長期に渡って室温にて安定に保存可能な乳化液を得ることができる。
本発明の温度管理媒体は、乳化液が、水、油脂およびリン脂質を含む脂質混合物からなるから、室温にて安定に保存することができる。すなわち、温度管理媒体は、室温保存しても、乳化液が相分離することなく、安定に分散状態(エマルションの形態)を保つことができる。また、乳化液が、人体に悪影響を及ぼすことのない、水、油脂およびリン脂質を含む脂質混合物から構成されているから、意識せずに乳化液が皮膚、食品、薬品に付着し、その結果、乳化液が体内に入っても、健康を害することはない。
さらに、本発明の温度管理媒体によれば、乳化液が所定温度以下にて凝固し、乳化液が再び所定温度を超える温度に昇温することにより融解し、相分離して、一旦、相分離したら二度と元の乳化液には戻らないから、この相分離した状態を、光学的に識別することで、この温度管理媒体が貼付された荷物が、設定した以上の高温に曝されたか否かを判別できる。したがって、本発明の温度管理媒体によれば、宅配便などで配送される荷物の温度管理を簡易に行うことができる。
本発明の温度管理媒体の製造方法によれば、リン脂質を含む脂質混合物をリゾ化した後、このリゾ化したリン脂質を含む脂質混合物と、リゾ化していないリン脂質を含む脂質混合物を用いて乳化液を得るから、両者の親和性が非常に高くなり、得られた乳化液は長期に渡って室温にて保存可能なものとなる。また、1つの材料(レシチン)を用いて、もう1つの材料を生成するので、製造コストを削減することができる。さらに、乳化液の分散相をなす微粒子の平均粒径を5μm以上、30μm以下とすることができるので、長期に渡って室温にて安定に保存可能な乳化液を得ることができる。
以下、本発明を実施した温度管理媒体およびその製造方法について詳細に説明する。
図1は、本発明に係る温度管理媒体の一実施形態を示す概略正面図であり、(a)は密閉容器内に収容された乳化液を、(b)は密閉容器内に収容された乳化液が水相と油相に相分離した状態をそれぞれ表している。
図1中、符号10は温度管理媒体、11は乳化液、12は密閉容器、13は水相、14は油相をそれぞれ示している。
この実施形態の温度管理媒体10は、乳化液11と、密閉容器12とから概略構成されており、乳化液11が密閉容器12内に収容され、この密閉容器12が密閉されてなるものである。
乳化液11は、水、油脂およびリン脂質を含む脂質混合物から構成されるエマルションである。この乳化液11は、水または油脂のいずれか一方が分散媒(連続相)をなし、他方が分散相(不連続相)をなしており、リン脂質を含む脂質混合物が界面活性剤として機能し、水または油脂のいずれか一方が他方に微粒子状に分散している。また、乳化液11は、分散媒(連続相)が水で、分散相(不連続相)が油脂の場合、水中油滴型(Oil in Water型:O/W型)エマルションをなし、一方、分散媒(連続相)が油脂で、分散相(不連続相)が水の場合、油中水滴型(Water in Oil型:W/O型)エマルションをなす。
また、乳化液11の分散相(不連続相)をなす微粒子の平均粒径は5μm以上、30μm以下が好ましく、10μm以上、20μm以下がより好ましい。乳化液11の分散相(不連続相)をなす微粒子の平均粒径が5μm未満あるいは30μmを超えると、温度管理媒体10を急速冷凍した後に急速加熱する温度履歴に曝した際の相分離能力が十分ではない。
乳化液11において、水と油脂の割合(水:油)は、目的とする温度管理媒体10の作動温度(乳化液11の凝固する温度)範囲に応じて適宜調整されるが、5:95(wt:wt)〜95:5(wt:wt)が望ましく、10:90(wt:wt)〜60:40(wt:wt)が好ましく、15:85(wt:wt)〜30:70(wt:wt)が特に好ましい。
乳化液11を構成する水としては、特に限定されず、如何なる水でも用いられるが、レシチンおよびリゾレシチンへの影響を考慮すると、イオン交換水や蒸留水が好適に用いられる。
油脂としては、融点が0℃以上または0℃以下であり、かつ、室温(約23℃)付近にて界面活性剤を用いて水とともに乳化液11を構成し、一旦、所定温度以下、例えば、0℃〜室温以下に曝された後、再び所定温度を超える温度に昇温することにより水と相分離するものが挙げられる。このような油脂としては、例えば、トリアシルグリセロール(TAG)、ジアシルグリセロール(DAG)、モノアシルグリセロール(MAG)などの油脂を主成分とする食用油脂が挙げられる。乳化液11では、これらの油脂から選択される1種または2種以上が、目的とする温度管理媒体10の作動温度(乳化液11が凝固する温度)範囲に応じて適宜用いられる。また、融点が0℃以上の油脂と、融点が0℃以下の油脂とを適宜の割合で混合して用いるか、あるいは、融点が0℃以上の油脂または融点が0℃以下の油脂のいずれか一方を適宜用いることにより、温度管理媒体10の作動温度範囲を所望の温度範囲に制御することができる。
なお、本発明では、所定温度とは、−60℃以上、+20℃以下の範囲の温度をいう。
また、リン脂質を含む脂質混合物としては、レシチンおよびリゾレシチンを主成分とするものが挙げられる。
レシチンは、乳化液11において、水または油脂のいずれか一方を他方に微粒子状に分散させるための界面活性剤として機能する。レシチンとしては、下記の一般式(1)で表される大豆レシチン、下記の一般式(5)〜(8)で表される卵黄リン脂質を含む卵黄レシチン、魚介類由来のレシチンなどが挙げられる。
Figure 0004545006
上記の一般式(1)中、R、Rは飽和および不飽和炭化水素から構成される。また、Bは塩基を表している。
例えば、Bが下記の式(2)で表される塩基である場合、上記の一般式(1)で表される大豆レシチンはホスファチジルコリン、Bが下記の式(3)で表される塩基である場合、上記の一般式(1)で表される大豆レシチンはホスファチジルエタノールアミン、Bが下記の式(4)で表される塩基である場合、上記の一般式(1)で表される大豆レシチンはホスファチジルイノシトール、Bが水素原子である場合、上記の一般式(1)で表される大豆レシチンはホスファチジン酸である。
Figure 0004545006
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大豆レシチンは、上記の式(1)に示すように、2つの脂肪酸基と、1つの塩基を有している。大豆レシチンは天然の乳化剤であり、抗酸化作用、離型作用、分散作用、起泡・消泡作用、保水作用、蛋白質・澱粉との結合作用、チョコレートの粘度低下作用など多岐にわたる性質を兼ね備えている。また、大豆レシチンは、大豆を抽出した大豆粗油を濾過後、約2%の温水を加え攪拌し、ガム状となって油層から分離したものを乾燥することにより得られる。さらに、大豆レシチンは、安価で大量供給が可能であり、精製度合いによって様々な状態で得ることができるという特長を備えているので、使用条件によって種類を選択できる。
卵黄レシチンは、鶏卵の卵黄は水分48%、蛋白質16%、脂質33%からなるが、この脂質中に30%含まれる成分がリン脂質である。また、卵黄の脂質は中性脂肪65%、リン脂質30%、コレステロール4%から構成されている。また卵黄リン脂質は、上記の式(5)のホスファチジルコリン(Phosphatidylcholine)70〜80%、上記の式(6)のホスファチジルエタノールアミン(Phosphatidylethanolamine)10〜15%、上記の式(7)のスフィンゴミエリン(Sphingomyelin)1〜3%、上記の式(8)のリゾホスファチジルコリン(Lysophosphatidylcholine)1〜2%から構成されている。
リゾレシチンは、上記のようなレシチンと同様に、乳化液11において、水または油脂のいずれか一方を他方に微粒子状に分散させるための界面活性剤として機能する。リゾレシチンとしては、上記の一般式(1)で表される大豆レシチン、上記の一般式(5)〜(8)で表される卵黄リン脂質を含む卵黄レシチン、魚介類由来のレシチンなどをリゾ化して、レシチンから脂肪酸が1個取れた構造をなすリン脂質が挙げられる。ここで、リゾ化とは、酵素であるPhospholipaseA2を用いて、レシチンが持つグリセリン基の第二位の脂肪酸を脱離させることをいう。
また、リゾレシチンは、は天然の乳化剤であり、抗酸化作用、離型作用、分散作用、起泡・消泡作用、保水作用、蛋白質・澱粉との結合作用、チョコレートの粘度低下作用など多岐にわたる性質を兼ね備えている。
乳化液11において、レシチンおよびリゾレシチンを合わせたリン脂質の配合量は、油脂100質量部に対して、0.1質量部以上、40質量部以下が好ましく、1質量部以上、20質量部以下がより好ましい。
レシチンおよびリゾレシチンを合わせたリン脂質の配合量が、油脂100質量部に対して、0.1質量部未満では、乳化し難い。一方、レシチンおよびリゾレシチンを合わせたリン脂質の配合量が、油脂100質量部に対して、40質量部を超えると、水に油脂およびリン脂質が分散し難くなり、うまく乳化しない。
また、レシチンとリゾレシチンの配合割合は、目的とする温度管理媒体10の作動温度(乳化液11の凝固する温度)範囲に応じて適宜調整されるが、20:80(wt:wt)〜80:20(wt:wt)が好ましく、70:30(wt:wt)〜30:70(wt:wt)がより好ましい。
乳化液11では、レシチンおよびリゾレシチンの配合量、ならびに、レシチンとリゾレシチンの割合を上記の範囲内とすることにより、乳化液11の分散相(不連続相)をなす微粒子の平均粒径を5μm以上、30μm以下とすることができる。
また、乳化液11には、その凝固点を所望の温度範囲に調整するために、糖類や水溶性高分子を配合してもよい。糖類や水溶性高分子の種類、配合量などを変えることにより、乳化液11の凝固点を所望の温度範囲に調整することができる。
糖類としては、例えば、フルクトース、グルコース、ガラクトース、マンノースなどの単糖類、麦芽糖、ショ糖、ラクトース、セルビオースなどの二糖類、スタキオース、ラフィノースなどのオリゴ糖類、ペクチン、ガラクタン、デンプン、アミロース、ブルラン、アラビアガム、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、カルボキシメツルキチンなどの多糖類が挙げられる。これらの中でも、凝固点調整の意味から分子量の分かっている、単糖類や二糖類が望ましい。
水溶性高分子としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、セルロース誘導体(例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)、ゼラチン、ポリアクリル酸サミド、ポリオキシエチレンオキサイド、ポリオキシプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、ポリアクリル酸ナトリウム、イソブテン−無水マレイン酸共重合体、ビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体、無水マレイン酸、ポリアクリルアミド、ポリビニルエーテルなどが挙げられる。水溶性高分子は、重合度が大きくなると粘性が高くなり、乳化が困難となる傾向にあることから、重量平均分子量100,000以下のものを使用することが好ましい。
密封容器12としては、乳化液11を収容する部分(空間)を有し、乳化液11が相分離した様子を光学的に確認できる材質からなるものが好ましく、ガラスやプラスチック、あるいは食して無害な材料が好適に用いられる。食して無害な材料としては、例えばプルラン、オブラート、ガム、アメなどが挙げられる。その形態としては、例えば管状、板状、フィルム状、球状などが挙げられる。なお、相分離を確認するだけならば、密封容器12を、乳化液11が相分離してなる水相13と油相14の境界付近のみ透明な材質とし、他は不透明な金属などからなる構成としてもよい。
特に、密閉容器12として可撓性のフィルム状のものを用いた場合、荷物の外形に沿って温度管理媒体10を貼付することができるばかりでなく、温度管理媒体10に外力が加えられた際に密閉容器12自体が柔軟に変形してその影響を回避することができるので望ましい。
また、乳化液11の相分離によって、密閉容器12内に収容されている液体の体積が変動してもその影響を受けないようにするために、例えば空気などの気体を密封容器12内に封入しておいてもよい。なお、乳化液11が液状ではなく高粘度物状などの形態をなす場合には、密封容器12は必ずしも要しない。
また、密封容器12を容易に荷物に貼付するため、密閉容器12の表面に粘着剤からなる粘着シートが設けられていてもよい。
また、この実施形態の温度管理媒体10は、密封容器12内における乳化液11の相分離を利用したものである。すなわち、温度管理媒体10は、室温(約23℃)近傍にて乳化液11が安定かつ均一な白色の液体であり、乳化液11が所定温度以下、例えば、0℃〜室温以下にて凝固し、乳化液11が再び所定温度を超える温度(乳化液11を構成する油脂、レシチンおよびリゾレシチンの融点を超える温度)に昇温することにより相分離して、図1(b)に示すように透明な水相13と、不透明な油相14とに相分離して、一旦、相分離したら二度と元の乳化液には戻らない(非可逆)ことを利用したものである。特に、この温度管理媒体10は、急速冷凍した後に急速加熱する温度履歴に曝した際の相分離能力が非常に優れている。このように相分離した状態を、例えば目視やセンサにより光学的に識別することで、この温度管理媒体10が貼付された荷物が、設定した以上の高温に曝されたか否かを判別できる。しかも、乳化液11の相分離は非可逆であるから、温度管理媒体10が荷物から取り外されない限り、所定の温度以上の環境に曝されたことを隠すことはできない。したがって、この温度管理媒体10によれば、宅配便などで配送される荷物の温度管理を簡易に行うことができる。
また、相分離後に透明となる水相13の性質を利用する技術としては、目視あるいはセンサで水相13を確認する際に、水相13の向こう側に識別記号や文字を配置してその下地の情報を読み取ったり、または鏡面を設けることによって反射光を捉えて識別することで、相分離が生じたか否かを正確にかつ定量的に確認することも可能である。
この実施形態の温度管理媒体10では、乳化液11が、界面活性剤のレシチンおよびリゾレシチンを所定の割合で含み、レシチンは親油系界面活性剤として機能し、リゾレシチンは親水系界面活性剤として機能し、乳化させたときに、リゾレシチンによって、より細かい粒子が形成され、界面に界面活性剤が隙間なく配列することから、乳化液11の分散相(不連続相)をなす微粒子の平均粒径は5μm以上、30μm以下であるから、室温にて安定に保存することができる。すなわち、温度管理媒体10は、室温保存しても、乳化液11が相分離することなく、安定に分散状態(エマルションの形態)を保つことができるので、予め大量に生産しておき、必要に応じて適宜の数を用いることができる。
また、乳化液11は、人体に悪影響を及ぼすことのない、水、油脂、リン脂質を含む脂質混合物から構成されているから、意識せずに乳化液11が皮膚、食品、薬品に付着し、その結果、乳化液が体内に入っても、健康を害することはない。よって、温度管理媒体10は、食品や薬品などのパッケージに貼付したり、あるいは同梱して用いても、事故が発生するおそれがないことから、安全性が極めて高い。よって、本発明は、従来使用するのが難しかった分野も含めて幅広い分野において活用可能であり、かつ、包装を必ずしも要しないことから低コスト化も図れる温度管理媒体をもたらす。
また、油脂と、リン脂質を含む脂質混合物との組合せを適宜選択することにより、乳化液11を高粘度物の形態とすることができる。このようにすれば、乳化液11を密封容器12などに内包させる必要がないので、乳化液11のパッケージングなどが不要になることから、温度管理媒体を使用する際の自由度が向上する。
次に、この実施形態の温度管理媒体10の製造方法の一例を説明する。
油脂にレシチンを溶解して、油脂混合液を調整する(工程A)。
なお、油脂を2種以上用いる場合、予めこれらを混合した後、この油脂の混合物にレシチンを溶解する。
一方、工程Aで用いたレシチンをリゾ化して、リゾレシチンを得る(工程B)。
この工程Bにおいて、レシチンをリゾ化するには、酵素であるPhospholipaseA2を用いて、レシチンが持つグリセリン基の第二位の脂肪酸を脱離させる。
次いで、工程Bで得られたリゾレシチンを水に溶解して、リゾレシチンの水溶液を調製する(工程C)。
次いで、攪拌しながら、リゾレシチンの水溶液に油脂混合液を少しずつ加えて、水または油脂のいずれか一方を他方に微粒子状に分散させて、乳化液11を得る(工程D)。
次いで、密閉容器12内に乳化液11を充填して、密閉容器12を密閉し、温度管理媒体10を得る。なお、この際、密閉容器12の乳化液11で満たされていない部分に、空気などの気体を封入してもよい。
この実施形態の温度管理媒体の製造方法では、レシチンをリゾ化してリゾレシチンを得た後、このリゾレシチンとレシチンを用いて乳化液11を得るから、リゾレシチンとレシチンの親和性が非常に高くなり、得られた乳化液11は室温にて保存可能なものとなる。また、1つの材料(レシチン)を用いて、もう1つの材料を生成するので、製造コストを削減することができる。
なお、この実施形態では、レシチンをリゾ化してリゾレシチンを生成し、このリゾレシチンとレシチンを用いて乳化液を調製する温度管理媒体の製造方法を例示したが、本発明はこれに限定されない。本発明にあっては、市販のリゾレシチンを用いてもよい。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例)
水100gに、リゾレシチン(商品名;SLP−ホワイトリゾ、辻製油社製、)20gを溶解して、リゾレシチンの水溶液を調製した。
油脂A(融点−5℃、商品名;ココナードRK、花王社製)150gと油脂B(融点20〜26℃、商品名;ニッコールトリファットC−24、日光ケミカル社製)150gを混合して油脂Aと油脂Bの混合物を調整した。
この混合物300gに、大豆レシチン(WAKO社製)20gを溶解して、油脂混合液を調整した。
次いで、攪拌しながら、リゾレシチンの水溶液に、油脂混合液を少しずつ加え、油脂混合液を全量加えた後、1300rpmで30分間、室温にて攪拌することにより乳化させて乳化液を得た。
得られた乳化液の分散相(不連続相)をなす微粒子の平均粒径を測定したところ、12μmであった。
この乳化液をガラス製のサンプル瓶に入れて密封し、これを液体窒素(−195℃)内で1分間急冷した後、再び室温(約23℃)まで昇温させて、その時の乳化液の状態(相分離の有無)を目視により確認した。この結果を表1に示す。表1において、○は乳化液の相分離が生じたことを、×は乳化液の相分離が生じなかったことを表している。
また、乳化液を37℃の雰囲気に1ヶ月間曝して、乳化液の保存安定性を調べた。この結果を表1に示す。表1において、○は乳化液の色調に変化がなく安定であることを、×は乳化液の色調に変化があり不安定であることを表している。
(比較例)
リゾレシチンの水溶液に、油脂混合液を少しずつ加え、油脂混合液を全量加えた後、6000rpmで5分間、室温にて攪拌した以外は実施例と同様にして、乳化液を得た。
得られた乳化液の分散相(不連続相)をなす微粒子の平均粒径を測定したところ、4μmであった。
また、実施例と同様にして、この比較例の乳化液の相分離の有無、および、保存安定性を調べた。この結果を表1に示す。
Figure 0004545006
表1の結果から、実施例では、分散相(不連続相)をなす微粒子の平均粒径を12μmとしたので、極端な急冷により、氷点下の環境に曝された後、再び室温に昇温すると、相分離することが確認された。また、実施例の乳化液は室温にて安定に保存することができることが確認された。
一方、比較例では、実施例の乳化液は室温にて安定に保存することができるものの、分散相(不連続相)をなす微粒子の平均粒径を4μmとしたので、極端な急冷により、氷点下の環境に曝された後、再び室温に昇温しても、相分離しないことが確認された。
本発明の温度管理媒体は、荷物の表面に貼付する従来の利用形態の他に、食品や薬品と同梱して用いる新たな形態にも利用できることから、食品や薬品の温度管理の状況を把握することにも利用できる。
本発明に係る温度管理媒体の一実施形態を示す概略正面図であり、(a)は密閉容器内に収容された乳化液を、(b)は密閉容器内に収容された乳化液が水相と油相に相分離した状態をそれぞれ表している。
符号の説明
10・・・温度管理媒体、11・・・乳化液、12・・・密閉容器、13・・・水相、14・・・油相。

Claims (3)

  1. 常温にて液状で、かつ、所定温度まで冷却すると凝固する乳化液を備え、該乳化液は昇温により融解し、相分離する温度管理媒体であって、
    前記乳化液は、水、油脂およびリン脂質を含む脂質混合物からなり、
    前記リン脂質はレシチンおよびリゾレシチンであり、
    前記レシチンおよび前記リゾレシチンを合わせたリン脂質の配合量は、前記油脂100質量部に対して、0.1質量部以上、40質量部以下であり、
    前記レシチンと前記リゾレシチンの配合割合は、質量比で20:80〜80:20であり、
    前記乳化液の分散相をなす微粒子の平均粒径が5μm以上、30μm以下であることを特徴とする温度管理媒体。
  2. 前記油脂はトリアシルグリセロールを主成分とし、前記所定温度前後で凝固する食用油脂であることを特徴とする請求項1に記載の温度管理媒体。
  3. 油脂にレシチンを含む脂質混合物を溶解して、油脂混合液を調製する工程Aと、前記レシチンを含む脂質混合物をリゾ化してリゾレシチンを含む脂質混合物を調製する工程Bと、前記リゾレシチンを含む脂質混合物を水に溶解して、前記リゾレシチンを含む脂質混合物の水溶液を調製する工程Cと、前記リゾレシチンを含む脂質混合物の水溶液と前記油脂混合液とからなる混合液を攪拌して乳化液を調整する工程Dとを備え
    前記工程Dにおいて、前記レシチンおよび前記リゾレシチンを合わせたリン脂質の配合量を、前記油脂100質量部に対して、0.1質量部以上、40質量部以下とし、前記レシチンと前記リゾレシチンの配合割合を、質量比で20:80〜80:20とすることを特徴とする温度管理媒体の製造方法。
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