JP4537673B2 - ラミネート金属板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、食品缶などの容器材料として用いられる金属板の表裏に,融点の異なる2種類の樹脂をラミネートしたラミネート金属板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば食品缶などの容器材料においては、容器外側面には印刷性、耐食性、レトルト密着性が要求され、容器内側面にはミートリリース性、耐食性、レトルト密着性が要求される。このため、金属板の片側には容器外側面に要求される特性を備えたPET樹脂をラミネートし、反対面には容器内側面に要求される特性を備えたポリプロピレン樹脂をラミネートしたラミネート金属板が求められている。この場合、金属板としては一般的に鋼板およびアルミニウム板が使用されている。
【0003】
一般にラミネート金属板は、加熱された金属板と樹脂フィルムとを重ね合わせ、ラミネートロールにより加圧して接着させる方法(熱ラミネーション法)で製造されている。接着させるためには金属板と接するフィルム表面温度がその溶融開始点Tsm(通常、融点より0〜30℃程度低い温度)以上、より好ましくは融点MP以上である必要があるが、その一方ではラミネートロールと接するフィルム表面温度が溶融開始点以上となると、フィルムがラミネートロールに巻きついて製造が不可能となってしまう。
【0004】
従ってラミネート部の金属板温度はフィルムの融点との関係において厳密に管理する必要があるが、上記の例ではPET樹脂の融点は例えば265℃であるのに対して、ポリプロピレン樹脂の融点は例えば168℃であって、大きく相違している。このため、金属板の温度をPET樹脂の融点に合わせて高温にするとポリプロピレン樹脂がラミネートロールに巻きつき、逆に金属板の温度をポリプロピレン樹脂の融点に合わせて低温にするとPET樹脂が接着できないという矛盾があった。
【0005】
このため特許文献1に示されるように、まず融点の高い樹脂フィルムのラミネートを行ない、金属板の温度が低下した後工程で融点の低い樹脂フィルムのラミネートを行なうという2段階のラミネート方法が提案されている。しかしこの方法では2ヵ所にラミネート設備を設置しなければならず、設備コストが嵩むという問題があった。
【特許文献1】
特開昭63−231926号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記した従来の問題点を解決して、融点が異なる2種類のフィルムをラミネートロールに巻き付かせることなく、金属板の両面に同時にラミネートすることができるラミネート金属板の製造方法を提供するためになされたものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するためになされた請求項1の発明のラミネート金属板の製造方法は、融点が異なる2種類のフィルムを金属板の両面にラミネートするラミネート金属板の製造方法において、融点の低い側のフィルムの厚みd2を、前記の数1で規定される範囲としたことを特徴とするものである。なお、フィルム内部の融点が厚み方向位置により異なる場合には、一方のフィルムのロールに接する側の表面融点のうち低い方をMP2とし、他のフィルムの金属板面側フィルム融点をMP1としたとき、MP1≧MP2の関係が成り立てば同様に計算することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図1において、10は左右一対のラミネートロールであり、融点の高い側のフィルム1と融点の低い側のフィルム2とが金属板3の両面に重ね合わせられ、ラミネートロール10により加圧接着される。金属板3は例えば鋼板であり、融点の高い側のフィルム1は例えばPET樹脂(融点265℃)であり、融点の低い側のフィルム2は例えばポリプロピレン樹脂(融点168℃で、鋼板面側に鋼板との接着を得るための極性樹脂層を付与した樹脂)である。なおAは金属板3とフィルムとが接触する直前の点、Bはフィルムがラミネートロール10から離れる直前の点である。
【0011】
本発明では、金属板3を予め融点の高い側のフィルム1の溶融開始点以上で、好ましくは融点+50℃以下の温度、例えば270℃に加熱しておく。この結果、フィルム1、フィルム2ともに金属板3との接触面の温度は溶融開始点以上となり、金属板3と接着する。このときフィルム1、2ともに金属板3からの伝熱により反対面(ラミネートロール10と接する面)の温度も上昇するが、フィルム1についてはロール出側の金属板温度Td(=Φ・Ti、Φはラミネート時の抜熱条件で定まる定数で0.75≦Φ<1)をフィルム1の溶融開始点以下にするような条件で一般的に接着させることができるので、その条件下ではラミネートロール10に巻き付くことはない。
【0012】
図2には、説明のために融点が同じフィルム1を金属板3の両面に接着した場合において、ロールがフィルムから離れる直前の、金属板とフィルム内の温度分布を模式的に示す。金属板とフィルムがロールによって接触する直前の点Aにおける金属板の温度Tiは、フィルムの溶融開始点Tsm1より高くするが、ロールがフィルムから離れる直前の点Bにおける金属板の温度Td(=Φ・Ti)は、フィルムの溶融開始点Tsm1よりも通常低くなっている。従って、この時点でのフィルム表面の温度はフィルムの溶融開始点Tsm1より低くなり、ロール10に巻き付くことはない。
【0013】
通常、フィルムの厚みは例えば成膜の下限が10μmであるとか、耐食性を保つためには20μm以上必要であるとの理由で決められている。そして決定された厚みに応じてラミネート条件を選ぶことにより、巻き付きを回避することができる。ロールにフィルムが付着しないようにする条件とは、ロールとフィルムが接触している間中、常にフィルム厚さ位置C点における温度が溶融開始点Tsm1以下になるような条件であり、ラミネート条件を選定すれば達成することができる。具体的には、融点の違う2種類のフィルムを金属板にラミネートする場合、食缶用途で耐食性を考慮すると高融点側のフィルムの厚みは20〜30μm程度が一般的であるが、その他の用途についてはそれ以上の厚みも取り得る。
【0014】
また金属板の温度は、フィルムと接触する時は通常フィルムの溶融開始点Tsm1より高くするが、ロールがフィルムから離れる時点では図2に示すようにフィルムの溶融開始点Tsm1より通常低くなる。これはフィルムを通じてロール側に抜熱されるためである。金属板とフィルムが接触する直前の点Aにおける温度(Ti)がフィルムの溶融開始点Tsm1より高いことを考慮すると、経験的に数1中に示したように0<MP1−Td=MP1−Φ・Ti≦50(℃)の条件が必要になる。すなわち、MP1−Φ・Tiが50℃以上になると、TiがTsm1以下になり、接着が十分でない場合がある。この条件は、融点の違う2種類のフィルムをラミネートする時の高い融点のフィルムを金属板に接着させるためのロール入側温度Tiの必要条件になる。なお、Φはラミネート時の抜熱条件で決まり、具体的にはラミネートロールの表面温度や圧下力を調整することで決まる。Φ<1であり,一般的に0.75≦Φ<1に調整可能である。
【0015】
さらに、金属板とフィルムが接着する温度Tiは高い方が金属板と高い融点のフィルムの密着性がよくなる。Tiを高めるとTd(=Φ・Ti)も高くなることから、密着性をより高めるためには、経験的には接着下限温度よりも10℃程度Tiを高くすればよく、概ね0<MP1−Φ・Ti≦40程度とすることで達成できる。フィルムの密着性を高めることにより、フィルムの剥離強度、耐食性、レトルト密着性などを向上させることができる。
【0016】
融点が高いフィルム1と融点が低いフィルム2とをラミネートする際、フィルム厚みを考慮せず、フィルム1の融点に見合ったラミネート条件を適用すると、金属板3からの伝熱によりフィルム2のラミネートロール10と接する面の温度がフィルム2の溶融開始点を越え、ラミネートロール10へ巻きついてしまうケースが発生する。しかし本発明では、融点の低い側のフィルムの厚みd2を調整することによって、具体的にはd2≧k(△MP−△T)/Vとすることによって、この問題を解決した。ここで、△MP=MP1−MP2であり、MP1は高い融点のフィルムの融点(℃)、MP2は低い融点のフィルムの融点(℃)、Vは通板速度(m/s)である。また△T=MP1−Φ・Tiである。
【0017】
ここでkは、伝熱法則に従うと数2で表わされる係数である。
【数2】
【0018】
以下に、この数2の式の内容について説明する。先ず図3に示すように横軸xをフィルム厚みとし、縦軸を温度Tとしたフィルム内部の1次元伝熱解析モデルを作成する。x=0の温度はある時間tにおける金属板の温度である。そしてフィルムのロールに接する面の温度が溶融開始点Tsm1以下ならばロールに付着しないものとする。ロールに付着しない距離dが必要なフィルム厚みとなる。
【0019】
本発明では2種類のフィルムを金属板にラミネートするので図4のように2本の曲線となるが、それぞれの熱伝導度λ、比熱CPは大幅には異ならない(オーダーが変わることは少ない)ので、距離xをλで割ってCpを乗ずることでパラメーター化し、2本の曲線を図5のように1本に近似する。そして図5においてTsm1,Tsm2から引いた水平線とこの曲線との交点のx座標(dCp/λ)1と(dCp/λ)2とを求め、これらの値にλ1(λ2)を乗じてCp1(Cp2)で割ることによって、ロールに付着する厚みd1,d2が計算できる。
【0020】
図5の曲線を直線で近似すると、T=A−B(Cpx/λ)で表される。x=0のときT=Td=Φ・Ti=Aであるから、T=Φ・Ti−B(Cpx/λ)である。
従ってロールに付着しないためにはΦ・Ti−B(Cpx/λ)≦Tsm、故にx≧λ/(Cp・B)(Φ・Ti−Tsm)となる。いま問題にしているのは低融点側のフィルムがロールに付着しない条件であるので、d2≧λ2/(Cp2・B)(Φ・Ti−Tsm2)となる。
【0021】
時間tは接触時間であるので、t=L/V(Vは通板速度、Lは接触長さ)であり、傾きBは接触時間に反比例する(接触時間が長くなると均温化する)と考えると、B=α(V/L)となる。従ってd2≧λ2・L/(Cp2・α・V)(Φ・Ti−Tsm2)であり、λ2・L/(Cp2・α)=kとすると、d2≧k(Φ・Ti−Tsm2)/Vとなる。
【0022】
このd2≧k(Φ・Ti−Tsm2)/Vの式は、Tsm1−Tsm2≒MP1−MP2=△MP、△T´=Tsm1−Φ・Tiの関係からd2≧k(△MP−△T´)/Vと略等価である。ΔT=MP1−Φ・Ti≧△T´なので、d2≧k(△MP−△T´)/V≧k(△MP−ΔT)/Vとなり、図6に示すように融点の低い側のフィルム2のラミネートロール10と接する面の温度を、フィルム2の融点以下に維持するための条件を表した式となる。なお図2では単純化した温度勾配を記載したが、フィルム1,2がラミネートロール10、10間を通過する時間は数十msec程度の短時間で非定常的な熱移動が生ずるため、実際の熱移動現象の正確な解析はきわめて困難である。さらにロールの押し力やフィルムの表面状態などで金属板とフィルム間、フィルムとロール間の接触状態が変化してそれにより、フィルムの表面温度も変化するので温度勾配も変化する。
そこで、kの値の範囲を伝熱法則をもとに操業的に求めたところ、k≧2の範囲にあることがわかった。kの値は大きければ大きいほど、フィルムの巻き付き抑制効果大であるが、実用的には5程度で十分である。
【0023】
ここでd2の求め方を再度説明する。
1)2種類のフィルムを選ぶ。
2)低融点側のMP2、λ2、Cp2を調べる。
3)高融点側のMP1、λ1を調べる。
(通常操業している実績があればλ1、Cpは不明でも良い)
4)MP1よりTiの値とΦの条件を求める。
通常はMP1−Φ・Ti=△Tとした時、△T≦50℃とする。
5)d2≧k(△MP−△T)/Vの式よりd2を求める。
この場合、d2の最小値はk=2のときになる。この値は低融点フィルムのλ2とCp2や操業条件を参考にして決める。なお、d1の値は耐食性等の機能により決定する。
【0024】
また上式によれば、通板速度Vを大きくすればフィルムの厚みd2を薄くすることができるが、フィルムの通板性や金属板の均一加熱を行なうためには通板速度Vをあまり高めることは好ましくなく、通常は2.5〜3.5m/s程度で運転される。しかし設備によっては、3.5m/sを越える値とすることもできることはいうまでもない。金属板としては、容器用材料として一般に使用されているアルミニウム板や、軟鋼板、各種メッキ鋼板、ステンレス鋼板等の各種金属を用いることができる。フィルムとしては、ポリエステル系樹脂(PET,PBT等)、ポリオレフィン系樹脂(PE,PP等)などの熱可塑性樹脂であれば原理的に適用可能である。また、密着性向上の目的で、金属板表面へクロム酸化物皮膜を付与したもの、樹脂の鋼板接着面に極性を有する接着層を付与したもの等を組み合わせて使用することも可能である。
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
【0025】
【実施例】
表1に示す各種のフィルム1(融点MP1、厚みd1)と、各種のフィルム2(融点MP2、厚みd2)とを、表1に示したラミネート条件でクロムメッキ鋼板の両面にラミネートした。実施例1〜8はいずれも、ラミネート条件から計算されたd2計算値よりも、フィルム2の厚みd2を大きくしたものである。各実施例におけるフィルム1のロール巻き付きと、フィルム2の鋼板への密着性を評価し、表2に示した。また本発明の条件を外れた例を、比較例1〜5として同様に表1、表2に示した。
【0026】
なお、表1中にPPとして示したのはポリプロピレンフィルムであるが、純粋なPPは無極性で熱ラミネーションによっては十分に接着できないので、金属接着面側に厚み4μmの極性を有する変性PP接着層(融点166℃)を付与したものを使用した。また、PEとして示したポリエチレンフィルムも純粋なものは無極性で熱ラミネーションによっては十分に接着できないので、金属接着面側に厚み10μmのエチレンアクリル酸共重合体樹脂接着層(融点99℃)を付与したものを使用した。
【0027】
実施例1によれば、蒸気中で125℃×30分のレトルト処理を行ってもフィルム剥離のない良好な密着性が得られた。比較例1は、他の条件を実施例1と同一にしたまま、フィルム2の厚みをd2の計算値である25.5μmよりも小さい25μmにしたもので、ラミネートロールへの巻き付きが生じた。そこで他の条件を同一としたまま比較例1の通板速度を2.9m/sまで高めたのが実施例2である。これによりd2の計算値は22μmとなり、フィルム2の厚みの25μm以下となった。この結果、ラミネートロールへの巻き付きを回避することができた。
【0028】
比較例2は、Tiを下げてTd=ΦTi=175℃まで下げた結果、△T=MP1−ΦTiを51℃とした例である。この場合には接着ができなくなった。更に比較例3はΦTiをフィルム1の融点MP1と等しい226℃まで上げた例で、フィルム2がラミネートロールに巻きついた。
【0029】
実施例3は実施例1から、フィルム2の種類をPEに変更した例であり、ラミネートロールへの巻きつきを発生させることなくラミネート金属板が製造できた。比較例4は実施例3と同一条件でフィルム2の厚みをd2の計算値である70.4μmより薄い60μmとしたもので、フィルム2のラミネートロールへの巻きつきが生じた。
【0030】
比較例5も、フィルム2の厚みをd2の計算値より薄い40μmとしたもので、フィルム2のラミネートロールへの巻きつきが生じた。そこで実施例4では、他の条件を比較例5と同一としたままで、フィルム2の厚みを70μmとした。その結果、ラミネートロールへの巻きつきがなくなり、得られたラミネート金属板をレトルト殺菌処理しても、フィルム1の剥離は生じなかった。
【0031】
実施例5は、フィルム2の厚みをd2の計算値と一致させた例である。これは低融点フィルム厚が上限に近い例であるが、この場合のk値を低密度ポリエチレンフィルムの厚みである85μmを利用して計算すると、およそk=5になる。この程度のkの値が実用上の上限と考えられる。
【0032】
実施例6は、通板速度を下限値である1m/sとしても、支障なくラミネートできた例である。また実施例7は、通板速度を設備上の上限値である3.5m/sとしても、支障なくラミネートできた例である。実施例8は、フィルム1として2層PETフィルムを用いた例である。この2層PETフィルムは、外側が厚さ7μmで融点が265℃のPET、内側が厚さ6μmで融点が226℃のPET-IAからなるものである。
【0033】
上記の実施例及び比較例では、金属板としてクロムメッキ鋼板を用いたが、メッキをしない鋼板、アルミニウム板、銅板等でも必要に応じて表面処理を施すことにより、同様の結果となることを実験により確認した。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明のラミネート金属板の製造方法によれば、融点の低い側のフィルムの厚みを調整することによって、融点が異なる2種類のフィルムを、ラミネートロールに巻き付かせることなく、金属板の両面に同時にラミネートすることができる。このため既存のラミネート装置をそのまま使用することができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】ラミネート装置の説明図である。
【図2】融点が同じフィルムを金属板の両面にラミネートした場合におけるロールがフィルムから離れる直前の温度分布図である。
【図3】伝熱解析モデルを示すグラフである。
【図4】2種類のフィルム内の温度勾配を示すグラフである。
【図5】フィルムがロールに付着しない厚みを求める方法を示すグラフである。
【図6】本発明におけるラミネートロール出口での温度分布図である。
【符号の説明】
1 融点の高い側のフィルム
2 融点の低い側のフィルム
3 金属板
10 ラミネートロール
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