JP3813223B2 - 結晶性熱可塑性樹脂シートの熱ラミネート方法 - Google Patents

Description

【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、プラスチックの熱融着ラミネート方法で、特に結晶性のあるポリオレフィン系素材の樹脂シートに適した熱ラミネート方法に関する。
【０００２】
【従来の技術】
従来より、可塑剤を含んだ塩化ビニル樹脂シート等の熱可塑性樹脂シートを熱ラミネートする方法が知られている。例えば、「特許庁公報 周知・慣用技術集」（日本国特許庁、昭和５９年６月１５日発行、第１６３頁）には、熱可塑性樹脂フィルムの熱融着接着方法として、２層の樹脂フィルムを連続的に熱圧着するか、又は加熱プレスで熱圧着することにより接着一体化する方法が挙げられている。また、接着一体化と樹脂フィルムの表面への賦形をするエンボス処理を同時に行う、いわゆるダブリングエンボス法が挙げられている。この方法によれば、対象とする樹脂フィルムは、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体フィルム等であるが、又、一般的に熱接着が困難なオレフィン系樹脂フィルム、ポリエステルフィルム等も、あらかじめヒートシール剤をフィルムにコーティングしておく事により同様に熱接着する事が出来ると説明している。
【０００３】
図３は、この様な方法によるエンボス装置を兼ねた従来の熱ラミネート装置（すなわちダブリングエンボス装置）の装置構成を示す概念図である。同図を説明すれば、２層の樹脂シートＳ１及びＳ２は各々巻取ロール９１ａ及び９１ｂから供給され、予熱ロール９２ａ及び９２ｂで各々予熱されてからヒートドラム９３部分で重ね合わされつつヒートドラム９３で加熱されると共に、予熱用パネルヒータ９４ａでも非接触による輻射熱でも加熱され、次いで、予熱用パネルヒータ９４ｂ及び９４ｃで輻射加熱されつつ、表面をテフロン製として非粘着化した予熱ロール９５ａ〜９５ｃでさらに加熱されて、エンボスロール９６と圧胴９７の間に導かれて、加圧されてエンボス処理と２層のシートの積層・接着による一体化が行われ、その後、冷却ロール９８で冷却されて巻取ロール９１ｃで巻き取られるというものである。
【０００４】
この様な構造の熱ラミネート装置には他にも各種あり、例えば特開昭５７−１５７７５６号公報では、可塑剤を含有する塩化ビニル樹脂シートについて、積層後に上側となる上台シートのみを熱ドラムで加熱後、さらにヒータによる非接触加熱でシートが軟化する温度まで加熱し、一方、積層後に下側となる下台シートの方は予め施されているエンボスが戻らない程度にまで抑えて予備加熱して、これら両シートを重ね合わせて加圧して、２層のシート間にエンボスがある構造の積層シートを製造する熱ラミネート方法が開示されている。
【０００５】
また、特公平４２−５５１号公報では、赤外線による輻射加熱装置及び加熱ドラムにより塩化ビニルレーザの樹脂シートＡを軟化させ、これにポリエステルフィルム等の耐熱性で強靱屈曲性に富みかつ剥離しやすい薄いフィルムＢを重ね合わせて状態で、エンボスロールと圧胴との間を通すことで、エンボスと共に積層して熱ラミネートを行った後、フィルムＢをシートＡから剥離することで、エンボスロールの凹凸をフィルムＢを通してシートＡの表面に間接的にエンボス形成するという、熱ラミネート方法を応用した薄いぼかした紋模様を形成する方法等も提案されている。
【０００６】
また、特公平２−６１３７８号公報では、一対の熱ラミネートロールに積層すべき２層の樹脂シートを重ね合わせて通す前に、予備熱処理ロールでより厚みの大きい方の樹脂シートを予熱処理しながら行う熱ラミネート方法が提案されている。また、同号公報ではこの方法が適用できる樹脂として、ポリスチレン系樹脂等と共に、ポリエチレン、ポリプロピレン等の結晶性熱可塑性樹脂等も挙げている。
【０００７】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した従来の熱ラミネート方法では、可塑剤含有の塩化ビニル樹脂シートや非晶性熱可塑性樹脂シート等では熱ラミネートの適正温度範囲が広く製造は容易だが、特にポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂等による結晶性熱可塑性樹脂シートの場合には適正温度範囲が狭く熱ラミネートに問題があった。それは、結晶性熱可塑性樹脂シートでは、シートの樹脂の融点近傍において、急激にシートが軟化して強度が低下する熱−機械的特性がある為に温度制御が難しく、加熱過多の場合、シートが溶融し、切断又は歪みや伸びを生じてしまうからであった。そして、シート表面が粘着性をおびて、加熱ローラから剥離しない等の問題が生じた。また、加熱が少な過ぎると、２層の樹脂シート同士の接着力が不足してラミネート強度が出ず、またエンボスも施す場合にはエンボスの入りが甘く、エンボスの耐熱性が低くてラミネート時の残留応力や歪みの解放も不充分であった。
なお、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂のシートの場合には、得られた積層シートの表面の接着性を改善する為に、コロナ処理等を熱ラミネート前に施しておいたとしても、加熱によりその効果が薄れてしまうという問題もあった。
【０００８】
【課題を解決するための手段】
そこで上記課題を解決する為に、本発明の熱ラミネート方法では、２層の結晶性熱可塑性樹脂シートの樹脂の結晶融解温度に注目しつつ、加圧積層を主として仮ラミネートとしての第１の加圧積層（各請求項の工程(b) ）の工程と、本ラミネートとしての第２の加圧積層（各請求項の工程(d) ）の工程との２段階に分けて行い、最初の仮ラミネート工程では、両シートの接着面表面近傍のみ接着性を発現させるために結晶融解温度以上に加熱し、それ以外の部分は結晶融解温度未満に保つことでこの部分でシートの強度を確保した状態で仮接着を行い、次いで本ラミネート工程で、両シート表面を所望の表面状態（平滑又は凹凸）にする為、及び両シート内の残留応力を除く為、更により接着力を高くする為に両シートを結晶融解温度以上で融点迄未満の温度まで加熱した状態で接着し、その後、結晶融解温度以下に、さらに室温まで冷却する様にして、熱可塑性樹脂シートが結晶性であっても熱ラミネートを行える様にした。この結果、両シートの熱変形、歪み、破断、ガイドローラ等接触部分との粘着防止を企てつつ、両シートを積層できる様にした。
【０００９】
また、上記の方法は、両シートに予め接着剤を施したものを使う場合は、該接着剤としてその接着力発現温度を両シートの結晶融解温度未満のものが施されているものを用意し、仮ラミネート工程は前記接着力発現温度以上で且つ上記結晶融解温度未満の温度で接着を行い、後は前述同様に本ラミネート工程は両シートを結晶融解温度以上で融点迄未満の温度まで加熱した状態で接着する様にして、熱可塑性樹脂シートが結晶性であっても熱ラミネートを行える様にした。この場合も前述同様に、両シートの熱変形、歪み、破断、ガイドローラ等接触部分との粘着防止を企てつつ、両シートを積層できることとなる。
【００１０】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しながら本発明の結晶性熱可塑性樹脂シートの熱ラミネート方法を説明する。
【００１１】
先ず、図１は本発明の結晶性熱可塑性樹脂シートの熱ラミネート方法を実現する為の熱ラミネート装置の装置構成を示す概念図である。同図に示す如く、本発明を実現し得る熱ラミネート装置の加圧積層部分は、第１の加圧積層を行う仮ラミネート部分と、第２の加圧積層を行う本ラミネート部分とを有する。仮ラミネート部分は圧着ロール３１及び３２で加圧され、本ラミネート部分はラミネートロール５及び圧胴６により加圧される。
樹脂シートＳ１及びＳ２は、各々巻取ロール１１及び１２から対を成す供給側ニップロール８１ａ及び８１ｂによりニップされつつ送り出されて仮ラミネート部分に供給されていく。そして、仮ラミネート部分では、両シートＳ１及びＳ２は、その接着面側を各々、加熱ロール２１及び２２により加熱れさ、さらに加熱ロールから離れて表面が低温の圧着ロール３１及び３２により挟まれて加圧積層されるまでの間に冷えない様に、予熱用パネルヒータ４１及び４２による赤外線輻射により加熱されて、圧着ロール３１及び３２により両樹脂シート同士の仮ラミネートが行われる。そして、本発明の熱ラミネート方法では、この仮ラミネートの際に、両樹脂シートの接着面側の表面近傍の温度と、非接着面側の表面近傍の温度を、所定の温度に制御することになる。
【００１２】
以上の様にして２層の樹脂シートは、仮ラミネートにより一応積層されて積層シートとなるが、次にこの積層シートを最終的な温度まで加熱して本ラミネートを行う。そこで、圧着ロールから出た積層シートは、圧着ロールから垂直にほぼ自重により落下させて、ラミネートロール５及び圧胴６に至る直前で予熱用パネルヒータ４３及び４４によって、本発明が規定する所定の温度まで積層シートに接触することなく非接触で加熱して、ラミネートロール５及び圧胴６によって、加圧し積層、接着して一体化する。
従って、本ラミネートのラミネートロール５及び圧胴６（のニップ面）は、仮ラミネートの圧着ロール３１及び３２（のニップ面）の真下に位置する構造である。即ち、シートの自重（重力）の方向はシートの搬送方向の成分のみ有し、シートと直交しそれを変形させる成分を持たない。又、ローラ等から力を受ける事もない。これによって、本ラミネート直前に結晶融解温度以上且つ融点未満の温度まで加熱されて弾性率が低下して不安定な状態の仮接着した積層シートであっても、安定的に仮ラミネート部分から本ラミネート部分に搬送移入できることとなる。これに対して、例えば図３に示す従来の熱ラミネート装置では、接触加熱による予熱ロール９５ａ〜ｃ等により蛇行したり、張力によって伸ばされたりする等して、この点でも結晶性熱可塑性樹脂シートの加工は不可能な構造であった。
【００１３】
その後、剥離ロール８３により積層シートをラミネートロール５から剥離して、クーリングロール７１〜７３によって段階的に冷やした後、対を成す排紙側ニップロール８２でニップされつつ引き出されて巻取ロール１３に巻き取られる。
【００１４】
以上は本発明の熱ラミネート方法で用い得る熱ラミネート装置の一例であるが、この装置では、従来の熱ラミネート装置と異なり、積層する樹脂シートの接着面側と非接着面側との両方の表面を別々に加熱制御でき、また、２段階の加圧積層部分がある点が大きく異なる。
例えば、図３に示した従来の熱ラミネート装置では、各種予熱ロール及び予熱用パネルヒータのシートに対する加熱面は、特に接着面側を加熱するというものではなく、装置的構造の容易性から、主として積層後のシートの表側面（例えば、シートＳ１に対する予熱ロール９２ａ、予熱用パネルヒータ９４ａ〜９４ｃ、予熱ロール９５ａ〜９５ｃ）である。ただ一つ接着面側に有るものはシートＳ２に対する予熱ロール９２ｂである。
【００１５】
また、図１の熱ラミネート装置で、加熱ロール２１及び２２は、内部が中空になった鉄、銅等の金属製ロールで空芯内に油、水（水蒸気）等の伝熱媒体を循環させたり、誘電加熱で温度制御を行う。ロール表面は耐蝕性を考慮したクロムメッキ或いは剥離性を考慮したフッ素樹脂コートがされていても良い。この加熱ロール２１及び２２は、積層すべき２層の樹脂シートの接着面に接触して接着面側を非接着面側に対してより高い温度に加熱する。なお、この様な接触による伝導加熱によらずに次に説明する非接触加熱のヒータに置き換えることもできる。
予熱用パネルヒータ４１及び４２、さらに予熱用パネルヒータ４３及び４４は、近赤外線〜遠赤外線を輻射する電熱線ヒータ、セラミックヒータ等の電熱式赤外線輻射ヒータ、或いは高周波交流電場を用いた誘電加熱、或いは熱風の吹き付け、或いはＹＡＧレーザ、炭酸ガスレーザ等の赤外線レーザ光の照射等の非接触で加熱して加熱調整が容易にできるものとする。シートの接着面側表面近傍のみを加熱するという点から仮ラミネート直前のヒータ４１、４２は電熱線輻射ヒータ、或いは熱風の吹き付け、或いは赤外レーザのパルス照射が好ましい。又、本ラミネート直前のヒータ４３、４４はシート厚み方向全体を均一に加熱するという点から、遠赤外線を輻射するセラミック電熱ヒータ、誘電加熱が好ましい。
圧着ロール３１及び３２も、加熱ロール２１及び２２と同様に内部が中空の金属製ロールで空芯内に油、水（水蒸気）等の伝熱媒体を循環させたり、誘電加熱で温度制御を行う。但し、一方のロールの表面にはシリーコンゴム等のゴム状弾性体を被覆しておくことが好ましい。
【００１６】
ラミネートロール５は中空の金属製ロールで、表面はエンボスをしない場合にはクロムメッキ等で鏡面平滑に仕上げてある。また、エンボスをする場合は、すなわちエンボスロールの場合は銅メッキを介して、或いは介さずにエッチング、彫刻等の手法により表面に所望の凹凸模様を施したものを使う。或いはエンボスロールとしては、ロール表層を樹脂或いはセラミックスにしてレーザ彫刻を行ったもの、或いは電鋳法によって所望の凹凸模様の母型上に銅等の金属をメッキして作ったもの等も使用できる。なお、凹凸模様は木目導管、皮紋、砂目、梨地、ヘアライン、布目等である。
圧胴６は中空の金属製ロールでその表面をシリコーンゴム層等のゴム状弾性体で被覆し、空芯内には温水を循環させて温度制御したロールである。
そして冷却ロール７１〜７３は、金属等の熱伝導率の高い材質の中空ロール内に冷水等の低温の伝熱媒体を流通された構成のロールである。冷却は或いはヒートパイプに接触させたりしても良い。また、冷風の吹付けを併用しても良い。
【００１７】
なお、上述の熱ラミネート装置で冷却ロールで冷却されてから巻取ロールで巻き取る迄の間に塗工装置を設ければ、オンラインで熱ラミネートと塗工とを同時に行うこともできる。塗工装置としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、コンマコーター等の各種のウェブ用コーターで良く、また必要に応じて乾燥ゾーンを併設する。また、塗工装置の前に、或いは塗工装置が設けない場合でも、適宜、水濡れ性、接着性能の向上を図る為にコロナ処理でラミネート後の積層フィルムの表面を改質しても良い。
【００１８】
次に、本発明の熱ラミネート方法に適する樹脂シートとしては、熱可塑性樹脂からなるものであるが、特に結晶性の熱可塑性樹脂からなるシートにおいて、優れた適性を発揮する。これらの結晶性熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、或いは、ナイロン６、ナイロン６６等の線状ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂等に有効である。また、この他、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂等でも有効である。また、樹脂シートの厚みは、通常１０〜５００μｍ程度である。
【００１９】
そして、本発明の結晶性熱可塑性樹脂シートの熱ラミネート方法でいうところの、結晶融解温度について説明する。一般に純粋な結晶の場合は、固体状態から液体状態に変化する結晶融解温度は、融点として一義的に定義される得る物理量である。ところが、柔軟な分子鎖からなる通常の結晶性の高分子物質の場合には、固体状態は無定形領域と結晶領域（微結晶）とからなっており、この微結晶は種々の大きさ、種々の内部欠陥等により安定状態の異なった種々の集合状態になっており、その結果、結晶性（熱可塑性）高分子では、純粋結晶の様な明確な融点はなく、或る広がりを持った融点を示す。従って、示差熱分析（ＤＴＡ）や示差走査熱分析（ＤＳＣ）等による熱分析の際のピーク温度が融点となる。また、ピークが複数でる事も有るが、この場合、本発明の方法では主ピークを融点として扱えば良い。そして、ピークにはすそ野があり、これは試料中の微結晶の中には主ピークの温度以下の温度で結晶の融解が起こるものを示すものだが、このすそ野の開始地点の温度がいずれかの微結晶の融解が開始する温度であり、すなわち補外融解開始温度を、本発明では結晶融解温度として捉える。
【００２０】
以上は熱分析を前提とした話であったが、これは温度−機械的特性（例えば弾性率Ｅ）との関係でも同様なことが言える。これを図示したのが図２である。図２は、樹脂シートの温度制御を結晶融解温度等に注目して行う本発明の熱ラミネート方法と従来の熱ラミネート方法を、樹脂の弾性率と温度との関係で対比した説明図である。同図で横軸は温度Ｔ、縦軸は弾性率Ｅであり、Ｃｃｒｙｓで指示される曲線が結晶性熱可塑性樹脂の曲線を、Ｃａｍｏｒで指示される曲線が非晶性熱可塑性樹脂の曲線を概念的に示したものである。
非晶性の熱可塑性樹脂では、弾性率は温度が上昇するにつれてガラス転移点Ｔｇ付近で段差が生じて低下し、その後、徐々に低下しながら、弾性率の低下度合いが増して融点Ｔｍ又は流動点（Ｔｍ）で急激に低下する。そして、樹脂シートが熱ラミネートされるには、適度な粘着性と機械的強度が必要であり、この結果、弾性率には加工適正上限弾性率Ｅｕと加工適正下限弾性率Ｅｌとの間に、適正加工弾性率範囲ΔＥが存在する。
一方、結晶性熱可塑性樹脂Ｃｃｒｙｓの場合には、弾性率は温度の上昇とともに、ガラス転移点Ｔｇで若干の段差をともなって低下し、その後、徐々に減少して、微結晶が融解が進行すると共に弾性率の低下が激しくなり、融点で最も弾性率の低下が激しくなり、その後、流動化していく。
適正加工弾性率範囲ΔＥにおける弾性率の低下の度合いは、結晶性熱可塑性樹脂は非晶性熱可塑性樹脂に比べて急峻である為に、結晶性熱可塑性樹脂の適正加工温度範囲ΔＴｃｒｙｓは非晶性熱可塑性樹脂の適正加工温度範囲ΔＴａｍｏｒに比べて狭く、これが従来の熱ラミネート装置では結晶性熱可塑性樹脂シートを加工できない理由である。
【００２１】
そこで、本発明の結晶性熱可塑性樹脂シートの熱ラミネート方法では、適正加工温度範囲ΔＥを実現する結晶性熱可塑性樹脂の適正加工温度範囲ΔＴｃｒｙｓから逸脱しても問題無く熱ラミネートを行うべく、少なくとも２層の樹脂シートが粘着を発現して仮固定できるまで（最終的なラミネート接着力がなくてもまだ良い）に加熱するために、微結晶が融解を開始しだす温度として前記結晶融解温度以上に、接着面表面近傍側のみを加熱して仮ラミネートを行う。そして、接着とは関係ない非接着面近傍側は温度を上げずに結晶融解温度未満として、こちらの方で樹脂シートの強度を保たせる様にするのである。従って接着面表面近傍の温度が例えば融点以上に上昇し流動性が出たとしても、非接着面（裏面）は結晶融解温度未満であり十分な強度を有し、又、２層複合されている為、シートが大きく変形する事は無い。一方、接着面表面近傍が例えば結晶融解温度未満に下降しても、後の本ラミネート工程で接着力不足等は解消される。その結果、ラミネートの適正加工温度範囲は実質上大幅に拡大する。また、非接着面表面近傍を結晶融解温度未満であるが加熱しておくのは、接着面側の加熱を助ける為、また次の本ラミネートの予熱も兼ねている。
【００２２】
そして、以上の様にして仮ラミネートが済めば、後は、積層されたシート全体の熱歪み等を除去する為に、また、最終的なラミネート強度を出す為に、（さらにエンボスの場合はエンボスする為に）、積層シート全体を結晶融解温度以上に加熱する。この時も融点未満の温度として積層シート全体の破断、変形、ガイドローラへの粘着を防止する。
その後は、従来公知の熱ラミネート同様に室温まで冷却することとなる。
【００２３】
以上の様に、加圧積層を２段階に分けて行う事で１段階で行う事に比べて、安定的に製造できる利点がある。もしも、一段階で行おうとすれば、例えば図１において、ラミネートロール５と圧胴６との間に、予熱された２層の樹脂シートを供給する際に、他方のシートは右側から、もう片方のシートは左側からと斜めに供給しなければならない。しかし、予熱された結晶性熱可塑性樹脂シートの機械的強度は弱く不安定なので、斜めからの供給ではシートを張力を与えて供給しないと自重でたるみが生じるし、また張力を与えて供給すると延びて破断が生じる。結局、真上から２層のシートを供給することが必要となり、また２層のシートを隣接して供給すれば、シートのバタツキにより予熱されたシートが粘着により不意に接着したりして安定しない。従って、意識的に且つ安定的に２層のシートを（仮）接着させてから、ラミネートロールと圧胴との間に供給することが必要となる。
【００２４】
また、本発明の結晶性熱可塑性樹脂シートの熱ラミネート方法は、積層する２層の樹脂シートの接着面に熱融着性接着剤層が形成されていなくても、熱ラミネートが可能であるが、熱融着性接着剤層が形成されている場合でも、上述の本発明の方法は拡張できる。それは、熱融着性接着剤層の接着力発現温度と、熱融着性接着剤層以外の樹脂シート部分の樹脂の結晶融解温度に注目して、接着面側の表面近傍は前者の接着力発現温度以上にして、非接着面側の表面近傍は後者の結晶融解温度未満になる様にして最初の仮ラミネートを行う様にする。後の本ラミネートは前述と同様に、樹脂シートの樹脂の結晶融解温度以上且つ融点以下の温度に積層された両シートの両層を加熱して行えば良い。
この場合、熱融着性接着剤は熱で融着性を発現する接着剤であれば、ドライラミネート用接着剤等、従来公知のもので良く、特に限定されない。また、接着力発現温度は、両シートの結晶融解温度以上であっても、未満であっても支障は無い。
この様に、熱融着性接着剤層が形成された結晶性熱可塑性樹脂シートは、単層ではなく最初から２層構成の結晶性熱可塑性樹脂シートとして捉えることができ、これら各層の、結晶融解温度、融点等の熱特性に注目して熱ラミネートを行えば良いことになる。
【００２５】
【実施例】
以下、本発明の結晶性熱可塑性樹脂シートの熱ラミネート方法を実施例で説明する。
【００２６】
図１に示す様な構成の熱ラミネート装置で、ポリプロピレン製で厚さ１００μｍの樹脂シート（結晶融解温度１３０℃、融点１７６℃）を２層用意し、巻取から帯状連続シートとして供給して、熱ラミネートを行った。
加熱ロール２１及び２２の表面温度は１４０℃として結晶融解温度よりも高く設定し、また、圧着ロール３１及び３２の表面温度は９５℃として結晶融解温度よりも低く設定し、さらに予熱用パネルヒータ４１及び４２により適量の赤外線を輻射し、加熱ロールの接触を離れてから圧着ロールで２層のシートが圧着される迄の間の冷却を防止する。そして圧着ロール３１及び３２による圧着直前の両シートの接着面の表面温度を１４０℃、非接触面の表面温度を９５℃に保つ。
以上の様にして仮ラミネート工程が終了した積層シートは、圧着ロール３１及び３２の間から垂直に下方に落として次の本ラミネートの為の圧胴５及びラミネートロール６の間に導かれる。その際、仮接着が行われた積層シートを両面から別の予熱用パネルヒータ４３及び４４によって赤外線輻射で加熱し、今度は両面の表面温度を、結晶融解温度以上で融点よりも低い１７０℃に調整し、加熱直後にラミネートロール５と圧胴６との間に積層シートが入る様にして、本ラミネートを行う。ラミネートロール及び圧胴は表面温度を６０℃に設定し、その後、冷却ロール７１、７２及び７３により室温まで冷却する。冷却ロールの表面温度は、ラミネートロールに近い方の上流側から順に、４０℃、３０℃、２５℃とする。なお、シートの送り速度は２５ｍ／ｍｉｎとした。
【００２７】
また、上記で用いる熱ラミネート装置の各構成要素は次の様なものである。加熱ロール２１及び２２は表面をクロムメッキした中空の鉄製ロールで空芯内を高圧蒸気を通して加熱する。圧着ロール３１及び３２は、片方は表面クロムメッキの中空鉄製ロールで空芯を熱水を通して加熱し、もう片方は中空鉄製ロール表面をシリコーンゴム層で被覆し、空芯内を熱水を通して加熱する構造である。次に、予熱用パネルヒータ４１、４２はニクロム線条電熱ヒータを、又、予熱パネルヒータ４３、４４は電熱加熱式のセラミックス面輻射ヒータをそれぞれ用いたもので輻射熱により加熱するものである。また、ラミネートロール５は空芯の鉄製ロールで表面はクロムメッキを行い鏡面平滑に仕上げてある。空芯内に温水を循環させて加熱する。また、圧胴６は空芯鉄製ロールの表面を硬度５０°のシリコーンゴム層で被覆し、空芯内には温水を循環させて加熱する構造である。そして、冷却ロール７１〜７３は空芯鉄製ロールで表面をクロムメッキで鏡面仕上げしたもので、空芯内を冷水を通して冷却する構造である。
【００２８】
【発明の効果】
本発明によれば、ポリオレフィン系素材の様な結晶性を有する熱可塑性樹脂シートを、、熱融着性接着剤を該樹脂シートに施すこと無く、充分な接着力で効率良く、高速でなお且つシートの歪み、変形、破断、ガイドローラとの粘着を防ぎつつ、ラミネート（また、必要に応じてエンボスも）する事ができる。また、加工条件、特にシート加熱条件のバラツキによる影響を受けにくい。
また、樹脂シートに熱融着性接着剤を施してある樹脂シートを用いる場合に於いても、該接着剤の接着力発現温度如何にかかわらず樹脂シートの非接着面近傍が結晶融解温度未満で仮ラミネート工程が行われる為、シートの歪み、変形、破断、ガイドローラ等への粘着の防止効果が特に高い。また、本ラミネート工程で結晶融解温度以上に加熱して加圧圧接される為、両樹脂シートの接着力の低下、残留応力（歪み）の発生は生じない。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明の結晶性熱可塑性樹脂シートの熱ラミネート方法を実現し得る熱ラミネート装置の装置構成の一例を示す概念図。
【図２】樹脂シートの温度制御を結晶融解温度等に注目して行う本発明の熱ラミネート方法と従来の熱ラミネート方法を、樹脂の弾性率と温度との関係で対比した説明図。
【図３】従来の熱可塑性樹脂シートの熱ラミネート方法を行う熱ラミネート装置の装置構成の一例を示す概念図。
【符号の説明】
１１〜１３ 巻取ロール
２１、２２ 加熱ロール
３１、３２ 圧着ロール
４１〜４４ 予熱用パネルヒータ（非接触加熱）
５ ラミネートロール（又はエンボスロール）
６ 圧胴
７１〜７３ 冷却ロール
８１ａ，８１ｂ 給紙側ニップロール（対）
８２ 排紙側ニップロール（対）
８３ 剥離ロール
９１ａ〜９１ｃ 巻取ロール
９２ａ、９２ｂ 予熱ロール
９３ ヒートドラム
９４ａ〜９４ｃ 予熱用パネルヒータ（非接触加熱）
９５ａ〜９５ｃ 予熱ロール
９６ エンボスロール
９７ 圧胴
９８ 冷却ロール
Ｃｃｒｙｓ 結晶性熱可塑性樹脂
Ｃａｍｏｒ 非晶性熱可塑性樹脂
Ｅ 弾性率
Ｅｕ 加工適正上限弾性率
Ｅｌ 加工適正下限弾性率
ΔＥ 適性加工弾性率範囲
Ｔｃ 結晶融解温度
Ｔｇ ガラス転移温度
Ｔｍ 融点又は流動温度
ΔＴｃｒｙｓ 結晶性熱可塑性樹脂の適正加工温度範囲
ΔＴａｍｏｒ 非晶性熱可塑性樹脂の適正加工温度範囲
Ｓ１ シート１
Ｓ２ シート２

Claims (2)

1. ２層の結晶性熱可塑性樹脂シートを熱融着により積層、接着する熱ラミネート方法であって、
   (a) 該樹脂シートの各々の接着面に熱融着性接着剤層を形成せずに、該２層の樹脂シートを、各々の接着面表面近傍が該樹脂シートの樹脂の結晶融解温度以上に、また各々の非接着面の表面近傍が該樹脂シートの樹脂の結晶融解温度未満になる様に加熱し、
   (b) 次いで、該２層の樹脂シートを、その接着面同士が対面するような向きで両面から加圧積層し、
   (c) 次いで、該２層の樹脂シートの両層を共に、該樹脂シートの樹脂の結晶融解温度以上で且つ融点未満にまで加熱させ、
   (d) 次いで、該２層の樹脂シートを両面から加圧し、そして該２層の樹脂シートを結晶融解温度未満にまで冷却し、
   (e) 次いで、該２層の樹脂シートを室温にまで冷却する、
   工程からなることを特徴とする、結晶性熱可塑性樹脂シートの熱ラミネート方法。
2. ２層の結晶性熱可塑性樹脂シートを熱融着により積層、接着する熱ラミネート方法であって、
   (a) 該樹脂シートの各々の接着面に接着力発現温度が該樹脂シートの樹脂の結晶融解温度未満である熱融着性接着剤層を形成したものを用意し、該２層の樹脂シートを、各々の接着面表面近傍が上記接着剤の接着力発現温度以上に、また各々の非接着面の表面近傍が該樹脂シートの樹脂の結晶融解温度未満になる様に加熱し、
   (b) 次いで、該２層の樹脂シートを、その接着面同士が対面するような向きで両面から加圧積層し、
   (c) 次いで、該２層の樹脂シートの両層を共に、該樹脂シートの樹脂の結晶融解温度以上で且つ融点未満にまで加熱させ、
   (d) 次いで、該２層の樹脂シートを両面から加圧し、そして該２層の樹脂シートを結晶融解温度未満にまで冷却し、
   (e) 次いで、該２層の樹脂シートを室温にまで冷却する、
   工程からなることを特徴とする、結晶性熱可塑性樹脂シートの熱ラミネート方法。

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