吐出口から液体を吐出する液体吐出ヘッドは、例えば、液体としてインクを使用し、記録信号に応じてインクの吐出を制御してインクを記録媒体に付着させるようにすることにより、インクジェット方式の記録ヘッドとして用いられる。また、このような液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置は、例えば、インクジェット記録装置として応用されている。
ここでインクジェット方式の記録方法について説明すると、インクジェット記録法(液体噴射記録法)は、作動時における騒音の発生が無視し得る程度に極めて小さいという点、高速記録が可能であり、しかも定着という特別な処理を必要とせずにいわゆる普通紙に記録の行なうことができる点等において極めて優れており、最近ではプリント方式の主流になりつつある。特に、熱エネルギーを利用するインクジェット記録ヘッドでは、電気熱変換体(ヒータ)によって発生した熱エネルギーを液体に付与することにより、液体中で選択的に発泡現象を生じさせ、その発泡のエネルギーにより吐出口からインク液滴を吐出する。
図18は、従来の液体吐出ヘッドを代表するものとして、インクジェット方式の記録装置に搭載される記録ヘッドの回路構成を示している。この種の記録ヘッドの電気熱変換素子(ヒータ)とその駆動回路は、例えば特開平05−185594号公報(特許文献1)に示されているように、半導体プロセス技術を用いて、同一のシリコン半導体基板上に形成することができる。
図18に示すように、半導体基板上には、インクを吐出するための熱を発生するヒータ(電気熱変換素子)101が複数個設けられており、各ヒータ101に対してそのヒータ101に所望の電流を供給するためのn型パワートランジスタ102が接続している。各ヒータ101の一端は、ヒータ用の電源ラインVHに共通に接続しており、各ヒータ101の他端側に、対応するn型パワートランジスタ102のドレインが接続している。各n型パワートランジスタ102のソースは、いずれも接地ラインGNDHに接続している。さらに、これら複数のヒータ101に対して共通に、それぞれのヒータ101に電流を供給して記録ヘッドのノズル(吐出口)からインクを吐出するか否かを決定する画像データを一時的に格納するシフトレジスタ116が設けられている。シフトレジスタ116には、転送クロック信号CLKが入力する入力端子と、ヒータ101をON(オン)/OFF(オフ)させる画像データDATAがシリアルに入力する画像データ入力端子が設けられている。シフトレジスタ116の各段はそれぞれ1つのヒータ101に対応しており、シフトレジスタ116の各段の出力には、各ヒータ101に対する画像データをヒータごとに記録保持するためのラッチ回路115が接続している。各ラッチ回路115は、シフトレジスタ116の出力を入力とするとともに、ラッチタイミングを制御するためのラッチ信号LTを入力するラッチ信号入力端子を備えている。ラッチ信号LTは、それぞれのラッチ回路115に対して共通に入力する。各ラッチ回路115の出力側にはそれぞれAND(アンド)回路114が設けられている。AND回路114は、ラッチ回路115の出力とヒータ101に電流を流すタイミングを決定するヒート信号HEとを入力としている。ヒート信号HEは、それぞれのAND回路114に対して共通に入力している。AND回路114の出力は、レベル変換回路103を介して、対応するヒータ101に接続したパワートランジスタ102のゲートに入力される。レベル変換回路103は、いわゆる論理レベルの信号をパワートランジスタ102のゲート制御が可能な電圧振幅の信号に変換する回路である。
ここで、n型パワートランジスタは、電界効果トランジスタであって、例えば、nMOSトランジスタやn型DMOS(Double Diffused MOS)である。
レベル変換回路103の回路構成を説明すると、AND回路114からの画像データを反転させる第1のインバータ回路208と、第1のインバータ回路208から出力される信号をさらに反転させる第2のインバータ回路207とが設けられている。レベル変換回路103には、電圧発生回路117から出力される内部電源ラインVHTMから電力が供給されている。さらにレベル変換回路103において、第2のインバータ回路207の出力は、pMOSトランジスタ202及びnMOSトランジスタ203からなる第1のCMOSインバータ回路に入力している。pMOSトランジスタ202のソースには、第1のCMOSインバータ回路をAND回路114の出力電圧である5V以下(ロジック部の電源電圧は一般的に5V以下である)の信号で駆動可能とするために、内部電源ラインVHTMから供給される電圧を分割するための第1のバッファ用pMOSトランジスタ201が接続している。同様に、pMOSトランジスタ205及びnMOSトランジスタからなり、第1のインバータ回路208の出力が入力する第2のCMOSインバータ回路が設けられ、pMOSトランジスタ205のソースには、第2のバッファ用pMOSトランジスタ204が接続している。ここで、第1のバッファ用pMOSトランジスタ201のゲートは、対をなす第2のCMOSインバータ回路の出力部であるトランジスタ205,206の接続部に接続されている。同様に、第2のバッファ用pMOSトランジスタ204のゲートも、対をなす第1のCMOSインバータ回路の出力部であるトランジスタ202,203の接続部に接続されている。トランジスタ205,206の接続部は、レベル変換回路103の出力として、対応するパワートランジスタ102のゲートに接続されている。
電圧発生回路117の出力電圧VHTMは、CMOSインバータのブレイクダウン耐圧及びMOSトランジスタのゲート耐圧を越えることなく、可能な限り高く設定することが望ましい。可能であれば、各ヒータ101に対する電源ラインVHと共用してもよい。しかしながら、通常の場合、各ヒータ101への駆動電圧は20V以上の高い値に設定される場合が多く、その一方で、CMOSインバータは、そのブレイクダウン耐圧が15V程度までであるような半導体プロセスで作られることが多い。また、MOSトランジスタのゲート耐圧はゲート酸化膜の厚さなどに依存するため、MOSトランジスタのゲートに印加される電圧は、ゲート酸化膜の絶縁耐圧より十分低い電圧とする必要がある。このため、レベル変換回路103での最適な電源電圧(すなわち電圧VHTM)と各ヒータ101の駆動電圧(電圧VH)とを一致させることは難しい。もっとも、レベル変換回路103の電源ラインを別に設けることは、システム全体のコストアップにも繋がる。
そこで、従来の技術では、例えば、電圧発生回路117を図19に示すような回路構成で実現している。図19に示す回路では、抵抗R3、R1を電源ラインVHと接地点との間で直列に接続し、抵抗R3、R1の分圧比によりヒータの電源ラインVHから任意の電圧を作り出し、これにバッファとしてのnMOSトランジスタT1と抵抗R2から構成されるソースフォロア回路を接続し、nMOSトランジスタT1のソースを電圧発生回路117の出力端として構成している。
以上説明した回路構成等は、特開平11−129479号公報(特許文献2)に開示されている。上述したように、ヒータ101や、ヒータ101を駆動するための駆動回路などは、例えばシリコン半導体基板上に一体的に設けられている。そこで、記録ヘッドを構成するシリコン半導体基板上での各回路部分の配置やレイアウトについて説明する。図20は、シリコン半導体基板上での各回路部分のレイアウトの一例を示す図である。これは、特開平08−108536号公報(特許文献3)に開示されているものである。
略矩形のシリコン半導体基板150において、基板の一方の長辺に沿うようにして複数個のヒータ101が配列しており、各ヒータ101にはそれぞれパワートランジスタ102が接続している。図では、このようにして設けられる複数個のパワートランジスタ102の形成領域の全体を矩形の領域122で示している。図示するように、ヒータ101の形成領域(ヒータ部)に隣接して、パワートランジスタの形成領域122が配置されている。さらに、図18に示したレベル変換回路103やシフトレジスタ116などを含む一群のロジック回路が設けられる駆動ロジック回路部123が、パワートランジスタの形成領域122に対し、ヒータ101の形成領域とは反対側で隣接して設けられている。図示していないが、駆動ロジック回路部123に対しては、転送クロック信号CLKや、画像データDATA、ラッチ信号LT、ヒート信号HEの供給するための配線も接続している。
パワートランジスタの形成領域122に対しては、ヒータ101に所定の電圧を印加するための電源ライン(電源配線)105が接続され、また、駆動ロジック回路部123には、パワートランジスタからの電流が流れ込むGND(接地)ライン(GND配線)110が接続されている。したがって、電源ライン105は、図18でのVHの電源ラインに対応し、GNDライン110はGNDHラインに対応する。図示していないが、駆動ロジック回路群123に対しては、転送クロック信号CLKや、画像データDATA、ラッチ信号LT、ヒート信号HEの供給するための配線も接続されている。ここで、電源ライン105は、多層配線技術によって形成される半導体基板150において、第2層目のアルミニウム配線によって、各パワートランジスタ102の素子上に配置されるように形成されている。一方、パワートランジスタ102に接続される信号線などは、半導体基板150における第1層目のアルミニウム配線により形成され、電源ライン105とは電気的に絶縁されている。なお、本明細書において、アルミニウム配線の用語には、半導体装置の製造プロセスの分野における慣習にしたがって、純アルミニウムからなる配線層のほかに、アルミニウムを含む合金からなる配線層も含まれる。第1層目、第2層目の用語は、シリコン半導体基板の本体に近い方が第1層目、表面側が第2層目として用いられている。
配線106は、電源ライン105とヒータ101とを結ぶ配線であって、半導体基板150における第2層目のアルミニウム配線で直接接続されている。また、配線107は、ヒータ101とパワートランジスタ102とを結ぶ配線であって、半導体基板150の第1層目のアルミニウム配線で形成されている。このように、配線106,107を設けることにより、第2層目のアルミニウム配線である電源ライン105の下側へ、配線107を通し、パワートランジスタ102とヒータ101とを直接接続できる。一方、GNDライン110は、半導体基板150における第2層目のアルミニウム配線で形成されてり、駆動ロジック回路部123を構成する各素子上に配置されている。一方、駆動ロジック回路部123内の信号線などは第1層目のアルミニウム配線により形成され、GNDライン110とは電気的に絶縁されている。なお、電源ライン105の端部には電源用ボンディングパッド111が設けられ、GNDライン110の端部にはGND用ボンディングパッド112が設けられている。ここで示した例では、電源ライン105及びGNDライン110のいずれも半導体基板150の左右両端側に引き出されるようになっており、これらの左右両端部にボンディングパッド111,112が形成されている。
特開平05−185594号公報
特開平11−129479号公報
特開平08−108536号公報
次に、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。以下では、液体吐出ヘッドはインクジェット記録に用いるインクジェット記録ヘッドであって、記録素子として、電流によって発熱するヒータを用いる場合について説明する。本発明では、半導体基板上に多数個のヒータを配置し、さらに、外部から入力する信号に応じてこれらヒータを駆動する駆動ロジック回路やパワートランジスタも半導体基板上に配置する場合に、半導体基板上での配線抵抗の差による影響を少なくするために、多数個のヒータをいくつかのセグメントに分割している。各セグメントには、複数個のヒータと、それらのヒータに1対1で対応するパワートランジスタとが含まれている。
《第1の実施形態》
まず、本発明を詳細に理解するために、セグメントの配置の違いによる配線抵抗の違いに関して説明する。
図1は、インクジェット方式の記録装置に搭載される、本発明の第1の実施形態に基づく記録ヘッドの回路構成を示す図である。ここで示す回路構成は、記録ヘッドの小型化および高速動作に適した時分割駆動方式(ブロック駆動方式)の駆動回路を示しており、図示されたヒータやパワートランジスタ、駆動ロジック回路部はいずれも同一の半導体基板上に多層配線技術を用いて作りこまれている。
インクを吐出するための熱を発生するヒータ101が多数個設けられており、ヒータ101ごとに所望の電流を供給するためのn型パワートランジスタ102が接続されている。ここでは、ヒータ101とパワートランジスタ102との対のうち、隣接する4対で1セグメントとしている。ヒータ101に対する電源配線(VH配線)およびGND配線(GNDH配線)は、半導体基板上において、セグメントごとに、ボンディングパッド付近までそれぞれ個別に接続されており、ボンディングパッド部付近で全てのセグメントの電源配線及びGND配線がまとまってボンディングパッドに接続されている。
例えば6個のセグメントが配置されているとき(すなわち24個のヒータが設けられているとき)に、ここでは、VH配線およびGNDH配線は、いずれも左側の3つのセグメントと右側の3つのセグメントとに分けられており、左側の3セグメントは、半導体基板の左端部に設けられたボンディングパッドVH1、GNDH1に接続され、右側の3セグメントは、半導体基板の右端部に設けられたボンディングパッドVH2、GNDH2に接続し、これによって、配線抵抗を低減させている。さらに、各セグメントへの配線の寄生抵抗が等しくなるように、ボンディングバッド部から近いセグメントに対しては配線幅を細く、遠いセグメントに対して配線幅を太くしている。また、セグメント内の各ヒータにおける配線抵抗値の差が小さくなるように、各セグメントにおいてVH配線がそのセグメントの図示右端から接続されるならば、GNDH配線はセグメントの図示左端から接続されるようにし、逆にVH配線がセグメントの図示左端から接続されるならば、GNDH配線はセグメントの図示右端から接続を行う工夫が施されている。なお、VH配線及びGNDH配線は、いずれも、多層配線構造を有する半導体装置を製造するための標準的な製造方法、例えば、大規模集積回路(LSI)を製造するための標準的なプロセスによって形
成されるので、その配線層の厚さは、均一である。
ここで説明したVH配線およびGNDH配線の引き回しに関して図示したものが図2である。図2では、インク供給口に対して、両側に記録ヘッド駆動回路を搭載した構成を示している。この記録ヘッドは、従来技術と同様に、シリコン半導体基板上に、半導体装置製造技術を用いて、特に、多層配線技術を用いて形成されている。そして、VH配線は、第2層目のアルミニウム配線を用いて、パワートランジスタ部(パワートランジスタ102の形成領域)の上を通るように設けられている。また、GNDH配線も、第2層目のアルミニウム配線を用いて、レベル変換部(レベル変換回路の形成領域)の上を通るように設けられている。
図1の説明を続けると、各パワートランジスタ102ごとにレベル変換回路103が設けられており、レベル変換回路103の出力は対応するパワートランジスタ102のゲートに供給されている。電圧発生回路117は、内部電源ラインを介して電源電圧VHTMを各レベル変換回路103に供給するために設けられている。レベル変換回路103ごとにAND回路(第1のAND回路)114aが設けられ、第1のAND回路114aの出力が対応するレベル変換回路103に入力するようになっている。レベル変換回路103の構成、および、電圧発生回路117の構成は、図18及び図19に示した従来の回路構成と同じであり、ここでは、具体的な回路構成については説明しない。
時分割駆動を実現するために、ラッチ回路部115aが設けられており、ここに示す例では、ラッチ回路部115a内には11個のラッチ回路が存在する。ラッチ回路部105aには、ラッチ信号LTを入力するための入力端子が設けられている。また、11段のシフトレジスタ回路116が設けられており、このシフトレジスタ回路116の11個の出力端は、次段の回路に続くラッチ回路部115a内の11個のラッチ回路と一対一で接続されている。また、シフトレジスタ116回路には、転送クロック信号CLKと、ヒータ101をON/OFFさせる画像データDATAをシリアルに入力するための画像データ信号入力端子とが設けられている。ここでは、隣接する8個のヒータ101によって、時分割駆動用の1つのブロックが構成されており、図示したものは24個のヒータ101を有するから、3ブロックが設けられていることになる。各ブロック内で、ヒータ101は時分割駆動されるようになっている。
ラッチ回路部115aからの出力の先行の3ビットは、ブロックを選択するものである。この3ビットのうちの1ビットは、図示左側のブロックのヒータ101ごとの第1のAND回路114aの第1の入力端子(図示左側の端子)に供給されている。この3ビットのうちの残りの2ビットのうちの1ビットは、同様に、2番目のブロックの第1のAND回路114aの第1の入力端子に供給され、最後の1ビットは、3番目のブロック(図示右端のブロック)の第1のAND回路114aの第1の入力端子に供給されている。
先行する3ビットに引き続く残りの8ビットは、ブロック中の8個のヒータのうちどのヒータを選択するかを示すものである。ラッチ回路部115aの出力のうち、この8ビット分には、それぞれ、第2のAND回路118が設けられて、ラッチ回路部115aからの信号が入力される。第2のAND回路118のもう一方の入力端子には、ヒータのオン時間を決定するヒータ信号HEが入力されている。1番目の第2のAND回路118の出力は各ブロックの1番目のヒータに対応する第1のAND回路114aの第2の入力端子に接続し、同様に、n番目(2<n<8)の第2のAND回路118の出力は各ブロックのn番目のヒータに対応する第1のAND回路114aの第2の入力端子に接続している。ここで、8個の第2のAND回路118の出力については、同時には2個以上が“1”とならないようになっている。
この構成を用いることにより、同時にオン状態とすることができるヒータの個数は、ブロックの個数だけであるが、ブロックごとに、そのブロック内でヒータを時分割駆動しているので、ヒータ個数が増加したとしても高速動作が可能となる。ここでは、VH配線及びGNDH配線に関し、4個のヒータでセグメントを構成するとともに、8個のヒータで時分割駆動の単位となるブロックを構成しているが、セグメントを構成するヒータの数とブロックを構成するヒータの数はこれらに限られるものではなく、また両者の関係の上述したのものに限られるものではない。例えば、セグメントとブロックとが同じヒータで構成されるようにしてもよい。例えば図3は、4個のヒータで1セグメントを構成するとともに、この1セグメントがそのまま時分割駆動上の1ブロックを構成する回路構成を示している。この場合、ブロックの選択に6ビット、ブロック内のヒータの選択に4ビットを必要とするから、10段のシフトレジスタが使用されることになり、また、第2のAND回路118は4個設けられることになる。あるいは、1つのブロックを複数のセグメントで構成する場合であっても、上述した1ブロックを2セグメントで構成する場合のほかに、1ブロックを3セグメント以上で構成するようにしてもよい。
図4は、図1に示す記録ヘッドの駆動回路を駆動するための各種信号の関係を示すタイミングチャートである。
本実施形態の記録ヘッドは、従来の記録ヘッドの回路構成とは異なり、先述してきたように8個のヒータで1ブロックを構成しているため、駆動タイミングチャートにおいて、画像データ信号DATAの前半3クロック分(BSEL)と後半8クロック分(SSEL)とは、そのデータの示す意味が異なる。前半の3クロック(BSEL)に与えられるデータは、ヒータ部のどのブロックを駆動するかを選択するデータであり、後半8クロック分(SSEL)は、ブロック中のどのヒータを駆動させるかを選択するデータである。転送クロック信号CLKにより全データがシフトレジスタ116内に書き込まれると、ラッチ信号LTにより、その値が確定され、次段の各々の回路に出力される。
図4に示すタイミングチャートを用いて図1に示す駆動回路を駆動させると、ラッチ回路115aの出力BSELは、ブロック内の全ての第1のAND回路114aに入力され、ラッチ回路部115aの出力SSELは第2のAND回路118を介して、ブロックを構成する各ヒータに対応した第1のAND回路114aに入力される。すなわち、第2のAND回路118において、ラッチ回路部115aの出力SSELとヒート信号HEをロジック処理し、その出力を第1のAND回路114aにおいてラッチ回路部115aの出力BSELとロジック処理することで、所望のヒータを駆動させることができる。
図1に示す回路構成を持つ記録ヘッドの基板上のレイアウトは、先にも説明したように、例えば、図2に示すようになる。記録ヘッド基板の短辺側に電力を供給するボンディングパッドが設けられ、そこからヒータ部の各セグメントへVH配線、GNDH配線が接続されている。図1で示しているシフトレジスタ回路116やラッチ回路部115aなどのロジック回路部は、例えば、図2に示すように、パワートランジスタ部とボンディングパッド部の間に設けられている。レベル変換回路103は、ヒータ101ごとに設けられるものであるから、レベル変換回路103の形成領域(レベル変換回路部)は、パワートランジスタ部に沿うように設けられている。
図5は、図2において点線で囲んだ部分を拡大した図であり、ヒータ101、パワートランジスタ102、レベル変換回路103の配置構成と電源配線レイアウトを、より詳細に説明しているものである。ただし、本発明の特徴は補助配線を有することであるが、図5は、本発明の効果を説明するために、補助配線を有さない構成を示している。図5において、斜線部分は第2層目のアルミニウム配線層AL2での配線パターンを示しており、濃い灰色部分は、第1層目のアルミニウム配線層AL1での配線パターンを示している。先にも述べたように、ボンディングパッド部からセグメントまでの抵抗値が等しくなるように、各セグメントへの配線の太さが異なっている。すなわち、ボンディングパッド部から近い方のセグメントに対するVH配線とGNDH配線の配線幅をそれぞれa1、a2とし、ボンディングパッド部から遠い方のセグメントに対するVH配線とGNDH配線の配線幅をそれぞれb1、b2とすると、b1>a1、b2>a2の関係が成り立っている。そして、セグメント内の各ヒータに関し、VH配線とGNDH配線との間の抵抗値の差が小さくなるように、VH配線がセグメントの左端のヒータに対応する位置に接続されるように、折り返し構造をもつレイアウトがされている。GNDH配線は、セグメントの右端のヒータに対応する位置に接続されるようにレイアウトされている。
図5において符号AAは、パワートランジスタ102の出力端(ドレイン端子)であり、第1層目の配線層AL1によって構成されている。このAAの位置には、スルーホールも形成されており、この位置でパワートランジスタ102の出力端は、第2層目の配線層AL2にも引き出され、第2層目の配線層AL2をパターニングして形成された配線147により、ヒータ101に接続している。またヒータ101と第2層目の配線層AL2として構成されたVH配線とは、第2層目の配線層AL2をパターニングして形成された配線146により接続されている。
図5において符号BBは、パワートランジスタのGNDH配線への接続部を示すものであり、第1層目の配線層AL1がパターニングされて、セグメント内のパワートランジスタ102のソースを全て接続している。記録ヘッドにおいては、ヒータ101の相互のピッチは、記録ヘッドの解像度によって決定され、ヒータとパワートランジスタとが1対1で設けられる以上、パワートランジスタを配置するために使用可能なスペースも解像度によって限定されることになる。具体的には、例えば、600dpi(25.4mmあたりに600ドット)の解像度を有する記録ヘッドにおいては、ヒータの配置ピッチ(幅)が42.5μmであり、この幅の中に、ヒータごとのパワートランジスタやレベル変換回路などをレイアウトしなければならない。パワートランジスタは相対的に大きなフロア面積を有するので、効果的にレイアウトを行うためには、隣接するパワートランジスタのソース領域を重ね合わせることが好ましく、このようにすることで、実効的に600dpiの配置幅より広い幅を利用することができる。そのために、符号BBによる第1層目の配線パターンは、同一セグメント内のパワートランジスタのソースを全て接続するように設けられている。また、符号BBの位置には、スルーホールを形成されており、パワートランジスタ102のソースを第2層目の配線層AL2にまで引き出している。そして、第2層目の配線層AL2に形成されたGNDH配線によって、各パワートランジスタのソースは、ボンディングパッドに接続されている。
以上に説明したような構成を採用することにより、VH配線とGNDH配線との間の配線抵抗がヒータの場所によって異なるといった問題を解決することができ、高速動作実現可能な記録ヘッドを提供することができる。
上記の構成をさらに検討すると、図5から明らかなように、VH配線側では、第2層目の配線層AL2によってセグメント内のヒータを接続しているが、GNDH配線側は、第2層目の配線層AL2だけでなく第1層目の配線層AL1をも用いてレイアウトがなされている。このため、同一セグメント内の各々のヒータに対する、VH配線とGNDH配線との間の抵抗値の差が大きくなる。この抵抗値の差は、1つのセグメントを構成するヒータの個数が多くなり、さらに、第2層目の配線層AL2の比抵抗が第1層目の配線層AL1の比抵抗に比べ大きいときに、より大きくなる。このことを図6を用いて説明する。
図6は、1セグメントが24個のヒータで構成される場合における、セグメント内のGNDH配線及びVH配線のレイアウトイメージと寄生抵抗(配線抵抗)の等価回路を示したものである。この等価回路は、第1層目のアルミニウム配線層AL1のシート抵抗ρAL1をρAL1=0.05Ω/□、第2層目のアルミニウム配線層AL2のシート抵抗ρAL2をρAL2=0.15Ω/□として、算出したものである。なお、ここで用いたシート抵抗値に関して、第2層目の方が第1層目より大きいのは、熱エネルギーを用いてインクを吐出する記録ヘッドでは、インクの流路および液室を構成するノズル部が記録ヘッド上に構成されるため、配線工程後の記録ヘッドの表面上の段差を考慮すると第2層目の配線層AL2の膜厚が第1層目の配線層AL1の膜厚より薄い傾向にあるからである.このときの1番目のヒータ#1および24番目のヒータ#24におけるパッドからの配線抵抗値は、下記の表1に示すようになる。なお抵抗Roは、ボンディングパッドからそのセグメントに至るまでのVH配線、GNDH配線の配線抵抗である。
表1より、ヒータ#24とヒータ#1との(GNDH+VH)配線抵抗の差ΔRは3.5Ωとなる。
この配線抵抗差ΔRをさらに低減する方法として、VH配線側の第2層目の配線層AL2の電源配線幅を広くし抵抗値を合わせる方法が考えられるが、そのような手法は、記録ヘッドの基板サイズの制約から実現できないことがある。
また別の低減方法として、GNDH配線側の第2層目の配線層AL2の配線幅を小さくして、VH配線側の抵抗値に合わせる方法が考えられるが、これは、GNDH配線の抵抗を高くするので、パワートランジスタのソース電位を上昇させ、パワートランジスタのオン時の抵抗値を大きくする。これは、インクを吐出するエネルギー以外の無効な電力を消費を意味し、省エネルギーの観点から考えて簡単には実施できない。
上述した方法以外に配線抵抗差ΔRを低減させる方法として、第2層目の配線層AL2以外の場所で、VH配線側の配線抵抗値をGNDH配線側の抵抗値に合わせ込む方法が考えられる。そのレイアウトを図7に示す。
図7に示したものは、図5に示した構成において、さらに、補助配線100を設けた点で相違する。補助配線100は、セグメントごとに、ヒータ101の配置領域とパワートランジスタ102の出力端の位置(符号AAの位置)とによって挟まれた位置において設けられている。補助配線100は、多層配線における第2層目の配線層AL2以外の配線層に形成され、スルーホールを介し、セグメント内の各ヒータのVH配線側の端部を相互に電気的に接続する。この補助配線100は、VH配線側の配線抵抗値をGNDH配線側の抵抗値に合わせ込むためのものである。ここで、補助配線100を構成する配線層は、GNDH配線側配線の一部が形成されている配線層である第1層目の配線層AL1であることが好ましく、また、補助配線100の配線幅は、第1層目の配線層AL1においてパワートランジスタのソースを接続する部分の幅と等しいものであることが望ましい。
図8は、図7に示すように補助配線100を設けた場合における、セグメント内のGNDH配線及びVH配線のレイアウトイメージと寄生抵抗(配線抵抗)の等価回路を示している。図8では、図6に示したものと同様に、1セグメントが24個のヒータで構成されており、等価回路の算出に際しては、第1層目の配線層AL1のシート抵抗ρAL1をρAL1=0.05Ω/□、第2層目のアルミニウム配線層AL2のシート抵抗ρAL2をρAL2=0.15Ω/□としている。このときの1番目のヒータ#1および24番目のヒータ#24におけるパッドからの配線抵抗値は、下記の表2に示すようになる。
表2から分かるように、補助配線100を設けることにより、ヒータ#24とヒータ#1との配線抵抗の差ΔRを0.4Ωまで低減させることができる。もちろん、レイアウト可能なスペースに余裕があれば、抵抗合わせ込み補助配線100の幅を広くし、ヒータ#24とヒータ#1との配線抵抗の差ΔRをより0に近づけるようにしても構わない。
以上説明したように本実施形態では、図7に示したように抵抗合わせ込み補助配線100を設けることによって、記録ヘッドの基板サイズを著しく大きくすることなく、効果的にセグメント内の配線抵抗値を合わせ込むことができるようになる。さらに、配線層AL1あるいは配線層AL2において配線層の膜厚変更があった場合でも、セグメント内の配線抵抗値のばらつきにおいてはその膜厚変更の影響を受けにくい、という特徴もある。
《第2の実施形態》
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。この第2の実施形態の特徴は、記録ヘッドにおいて配線層を3層有した点にある。記録ヘッドの回路構成については、第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
第2の実施形態の記録ヘッドにおけるVH配線およびGNDH配線の配置を示したのが図9である。図9では、インク供給口に対して、両側に記録ヘッド駆動回路を搭載した構成を示している。VH配線は、第2層目のアルミニウム配線または第3層目のアルミニウム配線を用いて、パワートランジスタ部(パワートランジスタ102の形成領域)の上を通るように設けられている。また、GNDH配線も、第2層目のアルミニウム配線または第3層目のアルミニウム配線を用いて、レベル変換部(レベル変換回路の形成領域)の上を通るように設けられている。本実施形態においては、ボンティングパッド部の近くに配されているヒータと接続する配線を第2層目のアルミニウム配線、ボンティングパッド部から離れた位置に配されているヒータと接続する配線を第3層目のアルミニウム配線で形成している。図において、第2層目のアルミニウム配線は、相対的に暗い灰色で示されており、第3層目のアルミニウム配線は相対的に明るい灰色で示されている。ただし、ボンディングパッドにおいて、第2層目のアルミニウム配線と第3層目のアルミニウム配線とは相互に接続されている。このような構成にすることによって、第3の配線層(最上部の配線層)は膜厚を比較的厚く設定することによって低抵抗とすることが可能であるため、セグメントの配置によらず配線の抵抗を揃えることが可能となり、更に好適である。
レベル変換回路103は、ヒータ101ごとに設けられるものであるから、レベル変換回路103の形成領域(レベル変換回路部)は、パワートランジスタ部に沿うように設けられている。
図10は、図9において点線で囲んだ部分を拡大した図であり、ヒータ101、パワートランジスタ102、レベル変換回路103の配置構成と配線レイアウトを、より詳細に説明するための図である。図10において、細かい斜線部分は第2層目のアルミニウム配線層AL2での配線パターンを示しており、粗い斜線部分は第3層目のアルミニウム配線層AL2での配線パターンを示しており、濃い灰色部分は、第1層目のアルミニウム配線層AL1での配線パターンを示している。先にも述べたように、ボンディングパッド部からセグメントまでの抵抗値が等しくなるように、各セグメントへの配線の太さが異なっている。すなわち、配線層が異なっていてもほぼ同等な抵抗値となるような関係になるように配線幅が決まる。また上述したように、配線の膜厚によって抵抗値を揃えることも可能である。そして、セグメント内の各ヒータに関し、VH配線とGNDH配線との間の抵抗値の差が小さくなるように、GNDH配線がセグメントの左端のヒータに対応する位置に接続されるように、折り返し構造をもつレイアウトがされている。VH配線は、セグメントの右端のヒータに対応する位置に接続されるようにレイアウトされている。
図10において符号BBは、パワートランジスタのGNDH配線への接続部を示すものであり、第1層目の配線層AL1がパターニングされて、セグメント内のパワートランジスタ102のソースを全て接続している。また、符号BBの位置には、スルーホールが形成されており、パワートランジスタ102のソースを第2層目の配線層AL2または第3層目の配線層AL3にまで引き出している。そして、第2層目の配線層AL2または第3層目の配線層AL3によって形成されたGNDH配線によって、各パワートランジスタのソースは、ボンディングパッドに接続されている。
以上に説明したような構成を採用することにより、VH配線とGNDH配線との間の配線抵抗がヒータの場所によって異なるといった問題を解決することができ、高速動作実現可能な記録ヘッドを提供することができる。
上記の構成をさらに検討し、第1の実施形態と同様に、配線層が3層に増えた場合においても補助配線を設けることによって好適な液体吐出用半導体装置を提供することが可能となる。
図11は、1セグメントが24個のヒータで構成される場合における、セグメント内のGNDH配線及びVH配線のレイアウトイメージと寄生抵抗(配線抵抗)の等価回路を示したものである。この等価回路は、第1層目のアルミニウム配線層AL1のシート抵抗ρAL1をρAL1=0.05Ω/□、第2層目のアルミニウム配線層AL2または第3のアルミニウム配線層のシート抵抗ρAL23をρAL23=0.15Ω/□として、算出したものである。なお、ここで用いたシート抵抗値に関して、第2層目、第3層目の方が第1層目より大きいのは、熱エネルギーを用いてインクを吐出する記録ヘッドでは、インクの流路および液室を構成するノズル部が記録ヘッド上に構成されるため、配線工程後の記録ヘッドの表面上の段差を考慮すると第2層目の配線層AL2の膜厚または第3層目の配線層AL3の膜厚が第1層目の配線層AL1の膜厚より薄い傾向にあるからである。このときの1番目のヒータ#1および24番目のヒータ#24におけるパッドからの配線抵抗値は、下記の表3に示すようになる。なお抵抗Roは、ボンディングパッドからそのセグメントに至るまでのVH配線、GNDH配線の配線抵抗である。
表3より、ヒータ#24とヒータ#1との(GNDH+VH)配線抵抗の差ΔRは3.5Ωとなる。
この配線抵抗差ΔRをさらに低減する方法として、VH配線側の第2層目の配線層AL2または第3層目の配線層AL3の電源配線幅を広くし抵抗値を合わせる方法が考えられるが、そのような手法は、記録ヘッドの基板サイズの制約から実現できないことがある。
また別の低減方法として、GNDH配線側の第2層目の配線層AL2または第3層目の配線層AL3の配線幅を小さくして、VH配線側の抵抗値に合わせる方法が考えられるが、これは、GNDH配線の抵抗を高くするので、パワートランジスタのソース電位を上昇させ、パワートランジスタのオン時の抵抗値を大きくする。これは、インクを吐出するエネルギー以外の無効な電力を消費を意味し、省エネルギーの観点から考えて簡単には実施できない。
上述した方法以外に配線抵抗差ΔRを低減させる方法として、第2層目の配線層AL2または第3層目の配線層AL3以外の場所で、VH配線側の配線抵抗値をGNDH配線側の抵抗値に合わせ込む方法が考えられる。そのレイアウトを図12に示す。
図12に示したものは、図10に示した構成において、さらに、補助配線100を設けた点で相違する。補助配線100は、セグメントごとに、ヒータ101の配置領域とパワートランジスタ102の出力端の位置(符号AAの位置)とによって挟まれた位置において設けられている。補助配線100は、多層配線における第2層目の配線層AL2または第3層目の配線層AL3以外の配線層に形成され、スルーホールを介し、セグメント内の各ヒータのVH配線側の端部を相互に電気的に接続する。この補助配線100は、VH配線側の配線抵抗値をGNDH配線側の抵抗値に合わせ込むためのものである。ここで、補助配線100を構成する配線層は、GNDH配線側配線の一部が形成されている配線層である第2層目の配線層AL2または第3層目の配線層AL3であることが好ましく、また、補助配線100の配線幅は、第1層目の配線層AL1においてパワートランジスタのソースを接続する部分の抵抗値と等しくなる幅ものであることが望ましい。
図13は、図12に示すように補助配線100を設けた場合における、セグメント内のGNDH配線及びVH配線のレイアウトイメージと寄生抵抗(配線抵抗)の等価回路を示している。図22では、図13に示したものと同様に、1セグメントが24個のヒータで構成されており、等価回路の算出に際しては、第1層目の配線層AL1のシート抵抗ρAL1をρAL1=0.05Ω/□、第2層目のアルミニウム配線層AL2または第3層目の配線層AL3のシート抵抗ρAL23をρAL23=0.15Ω/□としている。このときの1番目のヒータ#1および24番目のヒータ#24におけるパッドからの配線抵抗値は、下記の表4に示すようになる。
表4から分かるように、補助配線100を設けることにより、ヒータ#24とヒータ#1との配線抵抗の差ΔRを0.4Ωまで低減させることができる。もちろん、レイアウト可能なスペースに余裕があれば、抵抗合わせ込み補助配線100の幅を広くし、ヒータ#24とヒータ#1との配線抵抗の差ΔRをより0に近づけるようにしても構わない。
以上説明したように本実施形態では、補助配線100を設けることによって、記録ヘッドの基板サイズを著しく大きくすることなく、効果的にセグメント内の配線抵抗値を合わせ込むことができるようになる。さらに、配線層AL1あるいは配線層AL2あるいは配線層AL3において配線層の膜厚変更があった場合でも、セグメント内の配線抵抗値のばらつきにおいてはその膜厚変更の影響を受けにくい、という特徴もある。
また上記実施形態においては、配線層が2層、3層の場合に関して説明したが、本発明においては、それ以上配線を設けた場合においても対応可能である。本発明が適用されるのは、特にスイッチ素子の一端子をセグメントごとに配線で共通に接続する構成において、好適に適用されるものであり、この共通に接続した配線に対応する配線を補助配線として設けるものである。
《記録ヘッド、該記録ヘッドを用いたインクジェット記録装置》
次に、上述したような回路構成でヒータ、パワートランジスタ、駆動ロジック回路部、VH配線、GNDH配線などが半導体基板に作り込まれてインクジェット記録ヘッド用基体が構成されているとして、そのようなヘッド用基体を用いた記録ヘッドと、そのような記録ヘッドを用いたインクジェット記録装置とについて説明する。
図14は、上述したようなインクジェット記録ヘッド用基体808を有する記録ヘッド810の主要部を示している。ここでは、上述したヒータ101は、発熱部806として描かれている。図14に示すように、基体808は、複数の吐出口800に連通した液路805を形成するための流路壁部材801と、インク供給口803を有する天板802とを組み付けることにより、記録ヘッド810を構成できる。この場合、インク供給口803から注入されるインクが内部の共通液室804へ蓄えられて各液路805へ供給され、その状態で基体808、発熱部806を駆動することで、吐出口800からインクの吐出がなされる。
図15は、このようなインクジェット記録ヘッド810の全体構成を示す図である。インクジェット記録ヘッド810は、上述した複数の吐出口800を有する記録ヘッド部811と、この記録ヘッド部811に供給するためのインクを保持するインク容器812とを備えている。インク容器812は、境界線Kを境に記録ヘッド部811に着脱可能に設けられている。インクジェット記録ヘッド810には、図16に示す記録装置に搭載された時にキャリッジ側からの電気信号を受け取るための電気的コンタクト(不図示)が設けられており、この電気信号によってヒータが駆動される。インク容器812内部には、インクを保持するために繊維質状若しくは多孔質状のインク吸収体が設けられており、これらのインク吸収体によってインクが保持されている。
図15に示す記録ヘッド810をインクジェット記録装置本体に装着し、装置本体から記録ヘッド810へ付与される信号をコントロールすることにより、高速記録、高画質記録を実現できるインクジェット記録装置を提供することができる。以下、このような記録ヘッド810を用いたインクジェット記録装置について説明する。
図16は、本発明に係る実施形態のインクジェット記録装置900を示す外観斜視図である。
図16において、記録ヘッド810は、駆動モータ901の正逆回転に連動して駆動力伝達ギア902、903を介して回転するリードスクリュー904の螺旋溝921に対して係合するキャリッジ920上に搭載されており、駆動モータ901の駆動力によってキャリッジ920と共にガイド919に沿って矢印a又はb方向に往復移動可能となっている。不図示の記録媒体給送装置によってプラテン906上に搬送される記録用紙P用の紙押え板905は、キャリッジ移動方向に沿って記録用紙Pをプラテン906に対して押圧する。
フォトカプラ907、908は、キャリッジ920に設けられたレバー909のフォトカプラ907、908が設けられた領域での存在を確認して駆動モータ901の回転方向の切換等を行うためのホームポジション検知手段である。支持部材910は記録ヘッド810の全面をキャップするキャップ部材911を支持し、吸引手段912はキャップ部材911内を吸引し、キャップ内開口513を介して記録ヘッド810の吸引回復を行う。移動部材915は、クリーニングブレード914を前後方向に移動可能にし、クリーニングブレード914及び移動部材915は、本体支持板916に支持されている。クリーニングブレード914は、図示の形態でなく周知のクリーニングブレードが本実施形態にも適用できることは言うまでもない。また、レバー917は、吸引回復の吸引を開始するために設けられ、キャリッジ920と係合するカム918の移動に伴って移動し、駆動モータ901からの駆動力がクラッチ切換等の公知の伝達手段で移動制御される。記録ヘッド810に設けられた発熱部806に信号を付与したり、駆動モータ901等の各機構の駆動制御を司る記録制御部(不図示)は、装置本体側に設けられている。
上述のような構成のインクジェット記録装置900は、記録媒体給送装置によってプラテン906上に搬送される記録用紙Pに対し、記録ヘッド810が記録用紙Pの全幅にわたって往復移動しながら記録を行うものであり、記録ヘッド810は、前述の各実施形態の回路構造を有するインクジェット記録ヘッド用基体を用いて製造されているため、高精度で高速な記録が可能となる。
次に、上述した装置の記録制御を実行するための制御回路の構成について説明する。図17はインクジェット記録装置900の制御回路の構成を示すブロック図である。制御回路は、記録信号が入力するインタフェース1700、MPU(マイクロプロセッサ)1701、MPU1701が実行する制御プログラムを格納するプログラムROM1702、各種データ(上記記録信号やヘッドに供給される記録データ等)を保存しておくダイナミック型のRAM(ランダムアクセスメモリ)1703と、記録ヘッド1708に対する記録データの供給制御を行うゲートアレイ1704とを備えている。ゲートアレイ1704は、インタフェース1700、MPU1701、RAM1703間のデータ転送制御も行う。さらにこの制御回路は、記録ヘッド1708を搬送するためのキャリアモータ1710と、記録紙搬送のための搬送モータ1709と、ヘッド1708を駆動するヘッドドライバ1705、搬送モータ1709及びキャリアモータ1710をそれぞれ駆動するためのモータドライバ1706、1707とを備えている。
上記制御構成の動作を説明すると、インタフェース1700に記録信号が入るとゲートアレイ1704とMPU1701との間で記録信号がプリント用の記録データに変換される。そして、モータドライバ1706、1707が駆動されるとともに、ヘッドドライバ1705に送られた記録データに従って記録ヘッドが駆動され、印字が行われる。
本発明は、特にインクジェット記録方式の中でも本出願人の提唱する、熱エネルギーを利用してインクを吐出する方式の記録ヘッド、記録装置において、優れた効果をもたらすものである。
その代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4,723,129号明細書、同第4,740,796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方法はいわゆるオンデマンド型、コンティニュアス型のいずれにも適用可能であるが、特に、オンデマンド型の場合には、液体(インク)が保持されているシートや液路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて該沸騰を越える急速な温度上昇を与える少なくとも一つの駆動信号を印加することによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰させて、結果的にこの駆動信号に一対一対応し液体(インク)内の気泡を形成出来るので有効である。この気泡の成長、収縮により吐出用開口を介して液体(インク)を吐出させて、少なくとも一つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行なわれるので、特に応答性に優れた液体(インク)の吐出が達成でき、より好ましい。このパルス形状の駆動信号としては、米国特許第4,463,359号明細書、同第4,345,262号明細書に記載されているようなものが適している。なお、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明の米国特許第4,313,124号明細書に記載されている条件を採用すると、さらに優れた記録を行なうことができる。
記録ヘッドの構成としては、上述の各明細書に開示されているような吐出口、液路、電器熱変換体の組み合わせ構成(直線状液流路または直角液流路)の他に熱作用部が屈曲する領域に配置されている構成を開示する米国特許第4,558,333号明細書、米国特許第4,459,600号明細書を用いた構成も本発明に含まれるものである。加えて、複数の電気熱変換体に対して、共通するスリットを電気熱変換体の吐出部とする構成を開示する特開昭59−123670号公報や熱エネルギーの圧力波を吸収する開口を吐出部に対応させる構成を開示する特開昭59−138461号公報に基づいた構成としても本発明は有効である。
さらに、記録装置が記録出来る最大記録媒体の幅に対応した長さを有するフルラインタイプの記録ヘッドとしては、上述した明細書に開示されているような複数記録ヘッドの組み合わせによって、その長さを満たす構成や一体的に形成された一個の記録ヘッドとしての構成のいずれでもよいが、本発明は、上述した効果を一層有効に発揮することができる。
なお、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で上記実施形態を修正又は変更したものに適用可能である。
本発明は、複数の機器(例えばホストコンピュータ、インタフェイス機器、リーダ、プリンタなど)から構成されるシステムに適用しても、一つの機器からなる装置(例えば、複写機、ファクシミリ装置等)に適用してもよい。