JP4534415B2 - 高分子光導波路の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高分子光導波路、特にフレキシブルな高分子光導波路の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
高分子導波路の製造方法としては、(1)フイルムにモノマーを含浸させてコア部を選択的に露光して屈折率を変化させフイルムを張り合わせる方法(選択重合法)、(2)コア層及びクラッド層を塗布後、反応性イオンエチングを用いてクラッド部を形成する方法(RIE法)、(3)高分子材料中に感光性の材料を添加した紫外線硬化樹脂を用いて、露光・現像するフォトリソグラフィー法を用いる方法(直接露光法)、(4)射出成形を利用する方法、(5)コア層及びクラッド層を塗布後、コア部を露光してコア部の屈折率を変化させる方法(フォトブリーチング法)等が提案されている。
然し、(1)の選択重合法はフイルムの張り合わせに問題があり、(2)や(3)の方法は、フォトリソグラフィー法を使うためコスト高になり、(4)の方法は、得られるコア径の精度に課題がある。また、(5)の方法はコア層とクラッド層との十分な屈折率差がとれないと言う問題がある。
現在、性能的に優れた実用的な方法は、(2)や(3)の方法だけであるが前記のごときコストの問題がある。そして(1)ないし(5)のいずれの方法も、大面積でフレキシブルなプラスチック基材に高分子導波路を形成するのに適用しうるものではない。
【0003】
また、高分子光導波路を製造する方法として、キャピラリーとなる溝のパターンが形成されたパターン基板(クラッド)にコア用のポリマー前駆体材料を充填し、その後硬化させてコア層を作り、その上に平面基板(クラッド)を貼り合わせる方法が知られているが、この方法ではキャピラリー溝にだけでなく、パターン基板と平面基板の間にも全面的にポリマー前駆体材料が薄く充填され硬化されてコア層と同じ組成の薄い層が形成される結果、この薄い層を通って光が漏洩してしまうという問題があった。
この問題を解決する方法の1つとして、デビット・ハートはキャピラリーとなる溝のパターンが形成されたパターン基板と平面基板とをクランプ用治具で固着し、さらにパターン基板と平面基板との接触部分を樹脂でシールなどした後減圧して、モノマー(ジアリルイソフタレート)溶液をキャピラリーに充填して、高分子光導波路を製造する方法を提案した(特許文献1参照)。
この方法はコア形成用樹脂材料としてポリマー前駆体材料を用いる代わりにモノマーを用いて充填材料を低粘度化し、キャピラリー内に毛細管現象を利用して充填させ、キャピラリー以外にはモノマーが充填されないようにする方法である。
しかし、この方法はコア形成用材料としてモノマーを用いているため、モノマーが重合してポリマーになる際の体積収縮率が大きく、高分子光導波路の透過損失が大きくなるいう問題がある。
また、この方法は、パターン基板と平面基板とをクランプで固着する、あるいはこれに加えさらに接触部を樹脂でシールするなど煩雑な方法であり、量産にはむかず、その結果コスト低下を期待することはできない。また、クラッドとして厚さがmmオーダーあるいは1mm以下のフィルムを用いる高分子光導波路の製造に適用することは不可能である。
【0004】
また、最近、ハーバード大学のGeorge M. Whitesidesらは、ナノ構造を作る新技術として、ソフトリソグラフィーの一つとして毛細管マイクロモールドという方法を提唱している。これは、フォトリソグラフィーを利用してマスター基板を作り、ポリジメチルシロキサン(PDMS)の密着性と容易な剥離性を利用してマスター基板のナノ構造をPDMSの鋳型に写し取り、この鋳型に毛細管現象を利用して液体ポリマーを流し込んで固化させる方法であり、以下の非特許文献1に詳しい解説記事が記載されている。
【0005】
又はバード大学のGeorge M. WhitesidesのグループのKim Enochらによって毛細管マイクロモールド法に関する特許が出願されている(特許文献2参照)。
しかし、この特許に記載の製造方法を高分子光導波路の製造に適用しても、光導波路のコア部は断面積が小さいので、コア部を形成するのに時間がかかり、量産に適さない。また、モノマー溶液が重合して高分子になるときに体積変化を起こしコアの形状が変化し、透過損失が大きくなるという欠点を持つ。
【0006】
また、IBMチュリッヒ研究所のB. MichelらはPDMSを用いた高解像度のリソグラフィー技術を提案しており、この技術により数十nmの解像力が得られると報告している。詳しい解説記事は、以下の非特許文献2に記載されている。
このように、PDMSを使ったソフトリソグラフィー技術や、毛細管マイクロモールド法は、ナノテクノロジーとして最近、米国を中心に注目を集めている技術である
【0007】
しかしながら、前記のごときマイクロモールド法を用いて光導波路を作製すると、硬化時の体積収縮率を小さくする(したがって透過損失を小さくする)ことと、充填を容易にするために充填液体(モノマー等)を低粘度化することを両立させえない。したがって、透過損失を小さくすることを優先的に考慮すると、充填液体の粘度をある限度以下にすることができず、充填速度が遅くなり、量産は望めない。また前記のマイクロモールド法は、基板としてガラスやシリコン基板を用いることが前提になっており、フレキシブルなフィルム基材を用いることは考慮されていない。
【0008】
このような要請に基づき本発明者らは、フレキシブルなフィルム基材をクラッド用フィルムとして用い、極めて簡便に高分子光導波路を製造する方法を開発した。(特願2002−187473号)
この方法は、1)光導波路に対応する凸部が形成された原盤に鋳型形成用樹脂材料の層を形成した後剥離して型を取り、次いで前記型に形成された凸部に対応する凹部が露出するように型の両端を切断して鋳型を作製し、2)前記鋳型に該鋳型との密着性が良好なクラッド用フィルム基材を密着させ、3)クラッド用フィルム基材を密着させた鋳型の一端を、コアとなる紫外線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂に接触させ、紫外線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂を毛細管現象により前記鋳型の凹部に進入させ、4)進入させた紫外線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂を硬化させ、鋳型をクラッド用フィルム基材から剥離し、5)コアが形成されたクラッド用フィルム基材の上にクラッド層を形成することを特徴とする方法である。
この方法により、従来作製することが困難であったフレキシブルなクラッドフィルム基材の上に簡便な方法で高分子光導波路を形成することが可能になった。また、この方法においては、鋳型凹部にコア用の硬化性樹脂を注入する速度を上げるため、系を減圧にしたり、硬化性樹脂を加圧注入することも考慮されている。しかしながら、系を減圧にしたり、硬化性樹脂を圧入すると、鋳型が変形したりしてその結果望ましい特性の高分子光導波路を得ることができない場合があった。
【0009】
【特許文献1】
特許第3151364号明細書
【特許文献2】
米国特許6355198号明細書
【非特許文献1】
SCIENTIFIC AMERICAN September 2001(日経サイエンス2001年12月号)
【非特許文献2】
IBM J. REV. & DEV. VOL. 45 NO. 5 SEPTEMBER 2001
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記のごとき問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡便な方法で、生産性が高く、コア形状を高精度に維持して導波損失の少ない高分子光導波路を製造する方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記課題は、以下の高分子光導波路の製造方法を提供することにより解決される。
(1)1)(i)光導波路コアに対応する複数の凸部が形成された原盤と鋳型形成用硬化性樹脂を用いて作製され、前記凸部に対応する複数の凹部、該凹部の両端部であるコア形成用紫外線硬化性樹脂の進入部及び排出部、並びにすべての進入部に連通する共通の空隙部及びすべての排出部に連通する共通の空隙部を有し、前記鋳型形成用硬化性樹脂が硬化した層である硬化ゴム層と、(ii)前記硬化ゴム層を補強しかつコア形成用紫外線硬化性樹脂を圧入するための注入口及び減圧口を備え、かつ、下記3)の工程において鋳型凹部に充填されたコア形成用紫外線硬化性樹脂に紫外線を照射するための露光用開口部を設けた強化部材とを有する鋳型を作製する工程、
2)前記鋳型にクラッド用基材を密着させる工程、
3)コア形成用紫外線硬化性樹脂を強化部材の注入口から圧入するとともに、減圧口から鋳型の排出部近傍を減圧排気して、前記鋳型の硬化ゴム層の空隙部を通じて進入部からコア形成用紫外線硬化性樹脂を鋳型凹部に充填する工程、
4)露光用開口部を通して紫外線を照射して充填したコア形成用紫外線硬化性樹脂を硬化させ、鋳型をクラッド用基材から剥離する工程、
5)コアが形成されたクラッド用基材の上に、クラッド層を形成する工程、
を有する高分子光導波路の製造方法。
【0012】
(2)前記硬化ゴム層の前記進入部又は前記排出部の端面における断面で、前記空隙部の面積が、前記空隙部を通じて連通する各凹部の端部の面積の総和の5〜20000倍であることを特徴とする前記(1)に記載の高分子光導波路の製造方法。
(3)前記鋳型の硬化ゴム層が、硬化性シリコーンゴムオリゴマーが硬化した層であることを特徴とする前記(1)に記載の高分子光導波路の製造方法。
(4)前記硬化ゴム層の厚さが、10μm〜30mmであることを特徴とする前記(1)に記載の高分子光導波路の製造方法。
(5)前記強化部材が、金属材料又はセラミック材料からなることを特徴とする前記(1)に記載の高分子光導波路の製造方法。
(6)前記強化部材の肉厚が、1mm〜40mmであることを特徴とする前記(1)に記載の高分子光導波路の製造方法。
【0013】
(7)前記露光用開口部が紫外線透過材料からなることを特徴とする前記(1)に記載の高分子光導波路の製造方法。
(8)前記露光用開口部が強化部材に設けた切り欠き部であることを特徴とする前記(1)に記載の高分子光導波路の製造方法。
(9)前記1)の工程において、鋳型が、原盤の上に鋳型形成用硬化性樹脂の層を形成した後、この層の上に強化部材を載置し、次いで硬化させ、その後原盤を剥離して作製されることを特徴とする前記(1)に記載の高分子光導波路の製造方法。
【0014】
(10)前記クラッド用基材が、鋳型との密着性が良好なクラッド用フィルム基材であることを特徴とする前記(1)に記載の高分子光導波路の製造方法。
(11)前記クラッド用フィルム基材が、脂環式オレフィン樹脂フイルムであることを特徴とする前記(10)に記載の高分子光導波路の製造方法。
(12)前記2)の工程において、クラッド用基材と鋳型の強化部材を固定することを特徴とする前記(1)に記載の高分子光導波路の製造方法。
(13)前記2)の工程において、クラッド用基材が保持部材の上に置かれることを特徴とする前記(1)に記載の高分子光導波路の製造方法。
(14)前記2)の工程において、鋳型の強化部材とクラッド用基材が保持された保持部材を固定することを特徴とする前記(1)に記載の高分子光導波路の製造方法。
【0015】
(15)前記3)の工程において、コア形成用紫外線硬化性樹脂を圧入させる圧力を段階的に増加させるのに同期して、段階的に減圧排気することを特徴とする前記(1)に記載の高分子光導波路の製造方法。
(16)前記鋳型形成用硬化性樹脂を硬化した層の表面エネルギーが、10dyn/cm〜30dyn/cmであることを特徴とする前記(1)に記載の高分子光導波路の製造方法。
(17)前記鋳型形成用硬化性樹脂を硬化した層のシェア(Share)ゴム硬度が15〜80であることを特徴とする前記(1)に記載の高分子光導波路の製造方法。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の高分子光導波路の製造方法は、1)(i)光導波路コアに対応する複数の凸部が形成された原盤と鋳型形成用硬化性樹脂を用いて作製され、前記凸部に対応する複数の凹部、該凹部の両端部であるコア形成用紫外線硬化性樹脂の進入部及び排出部、並びにすべての進入部に連通する共通の空隙部及びすべての排出部に連通する共通の空隙部を有し、前記鋳型形成用硬化性樹脂が硬化した層である硬化ゴム層と、(ii)前記硬化ゴム層を補強しかつコア形成用紫外線硬化性樹脂を圧入するための注入口及び減圧口を備え、かつ、下記3)の工程において鋳型凹部に充填されたコア形成用紫外線硬化性樹脂に紫外線を照射するための露光用開口部を設けた強化部材とを有する鋳型を作製する工程、
2)前記鋳型にクラッド用基材を密着させる工程、
3)コア形成用紫外線硬化性樹脂を強化部材の注入口から圧入するとともに、減圧口から鋳型の排出部近傍を減圧排気して、前記鋳型の硬化ゴム層の空隙部を通じて進入部からコア形成用紫外線硬化性樹脂を鋳型凹部に充填する工程、
4)露光用開口部を通して紫外線を照射して充填したコア形成用紫外線硬化性樹脂を硬化させ、鋳型をクラッド用基材から剥離する工程、
5)コアが形成されたクラッド用基材の上に、クラッド層を形成する工程、
を有する。
なお、以下において、「コア形成用紫外線硬化性樹脂」を単に「コア形成用硬化性樹脂」という。
【0017】
本発明において用いられる鋳型は2つの部分すなわち、1)光導波路コアに対応する複数の凸部に対応する複数の凹部、該凹部の両端部であるコア形成用硬化性樹脂の進入部及び排出部、並びにすべての進入部に連通する共通の空隙部及びすべての排出部に連通する共通の空隙部を有し、前記鋳型形成用硬化性樹脂が硬化した層である硬化ゴム層と、2)前記硬化ゴム層を補強しかつコア形成用硬化性樹脂を圧入するための注入口及び減圧口を備え、かつ、前記3)の工程において鋳型凹部に充填されたコア形成用硬化性樹脂に紫外線を照射するための露光用開口部を設けた強化部材とを有することを特徴とする。注入口及び減圧口は1つ以上設けられ、2以上設けることにより鋳型内部に均一な加圧状態を作ることができる。
本発明の高分子光導波路の製造方法は前記のごとき強化部材を設けた鋳型を用いるので、鋳型凹部にコア形成用硬化性樹脂を加圧充填(圧入)する際、圧力を大きくしても鋳型が変形したり、鋳型とクラッド用基材との間でずれることがなく、そのため、コア形状の精度を犠牲にすることなく、充填速度を大きくすることができる。
また、鋳型に前記のごとき空隙部を設けたため、各進入部及び各排出部におけるコア形成用硬化性樹脂の注入圧力の均一化及び減圧圧力の均一化が図られ、鋳型各凹部への樹脂の注入が均一化される。
したがって、本発明の製造方法により、コア形状を高精度に維持して導波損失の少ない高分子光導波路を、簡便な方法で、生産性が高く作製することができる。
【0018】
先ず、本発明の方法により高分子光導波路を製造する方法の概略を説明する。
図1(A)は、光導波路に対応する凸部12と空隙部形成用凸部(図示せず)が形成された原盤10の上に、鋳型形成用硬化性樹脂の層22aを形成し、次に、鋳型形成用硬化性樹脂が未硬化の状態において、樹脂層22aの上から強化部材24を押圧しつつ載せた状態を示す図である。
次に、この状態で鋳型形成用硬化性樹脂の層22aを硬化させると鋳型形成用硬化性樹脂は硬化ゴム層22となり、強化部材24と接着し一体化する。この一体化したものを原盤10から剥離し、鋳型20とする(図1(B)参照)。鋳型20の硬化層22には、前記凸部12に対応する凹部23、凹部23の一端である進入部(図示せず)及び他端である排出部(図示せず)、さらに鋳型の少なくとも一端に空隙部(図示せず)が形成される。
このようにして作製した鋳型20に、クラッド用基材30を密着させる(図1(C)参照)。次に、コア形成用硬化性樹脂を鋳型の強化部材24に設けた注入口(図示せず)を通し、進入部からコア形成用硬化性樹脂を鋳型凹部に圧入し、排出部から排出させる。図1(D)は、鋳型の凹部に硬化性樹脂を充填した状態を示す。その後硬化性樹脂を硬化させる。
次いで鋳型20を剥離すると、図1(E)に示すように、クラッド基材30の上にコア40が形成される。
さらに、クラッド用基材のコア形成面にクラッド層50を形成することにより、本発明の高分子光導波路60(図1(F)参照)が作製される。
【0019】
次に、本発明を工程順にさらに詳細に説明する。
1)鋳型作製工程
<原盤の作製>
原盤には、高分子光導波路コアに対応する複数の凸部と、鋳型各凹部の進入部及び排出部に連通する共通の空隙部を鋳型に形成するための凸部とが作製される。図2は鋳型凹部の一方に空隙部を作製する場合に用いる原盤の一例を概念図で示しているが、本発明においては鋳型凹部の両側に空隙部を設けるので、空隙部形成のための凸部を両端に設ければよい。10は原盤、12は高分子光導波路コアに対応する3本の凸部、14は空隙部形成のための凸部を示す。
これらの凸部の作製には、たとえばRIE法、面精度の高い機械加工等を特に制限なく用いることができる。また光導波路に対応する凸部の膜厚を変化させる必要がない場合は、厚膜レジスト(SU−8)をスピンコートした後露光するフォトリソグラフィー法により、簡便に原盤を作製することができる。また、本出願人が先に出願した電着法又は光電着法により高分子光導波路を作製する方法(特願2002−10240号)も、原盤を作製するのに適用できる。原盤に形成される光導波路に対応する凸部の大きさは30〜200μm程度であるが、高分子光導波路の用途等に応じて適宜決められる。例えばシングルモード用の光導波路の場合には、10μm角程度のコアを、マルチモード用の光導波路の場合には、50〜100μm角程度のコアが一般的に用いられるが、用途によっては数百μm程度と更に大きなコア部を持つ光導波路も利用される。
また、高分子光導波路コアに対応する凸部だけを最初に作製し、その後空隙部作製用凸部を、型を用いてモールドするなどの方法も採用しうる。
【0020】
<鋳型の作製>
鋳型の空隙部は鋳型形成用硬化性樹脂の硬化層に設けられ、コア形成用硬化性樹脂が進入する側及び排出する側に設けられる。
鋳型硬化ゴム層の進入側に空隙部を設けると、鋳型強化部材の注入口から注入されたコア形成用硬化性樹脂は、一旦、ここに充満された後、各進入部から凹部に充填される。このような空隙部を設けず、鋳型硬化ゴム層の端部にコア形成用硬化性樹脂の複数の進入部が顕れている場合には、進入部に直接注入圧力が作用し、各進入部に均一な圧力をかけることが難しく、その結果、各凹部に同様な速度で均一に樹脂を充填することが困難となる。しかし、鋳型硬化ゴム層の進入部側に共通の空隙を設けると、空隙断面積は進入部の断面積よりはるかに大きいため、強化部材の注入口から圧入された樹脂は、空隙部にまず流入し、その後各凹部に樹脂が進入する。即ち、各進入部に対する注入圧力が緩和され、均一化される。
また、鋳型硬化ゴム層の、すべての凹部排出部に連通する共通の空隙部を設けるため、後述の減圧口を通して鋳型内部を減圧する場合にも、鋳型凹部の端部である各排出部における吸引負圧の緩和と均一化が得られ、鋳型各凹部への樹脂の注入が均一化される。
空隙部の断面積は、すべての凹部の総断面積の5〜20000倍であることが好ましく、より好ましくは500〜2500倍である。(ここで、「すべての凹部の総断面積」とは、空隙部を通じて連通する各凹部の端部の面積の総和を意味する。)
【0021】
鋳型を作製するには、高分子光導波路コアに対応する凸部及び空隙部作製のための凸部が形成された原盤に、後述の鋳型形成用硬化性樹脂の層を、塗布、注型などにより形成した後、未硬化の状態で樹脂層の上から強化部材を押圧しつつ載せ、次いで、樹脂を硬化させる。樹脂は硬化と同時に強化部材に固着する。この状態になったら、強化部材とともに硬化ゴム層を原盤から剥離して鋳型を得る。
【0022】
図3に参考例としての鋳型を一例を示す。図3(A)は鋳型の斜視図を、図3(B)はA−A断面図を表わす。20は鋳型を、22は鋳型形成用硬化性樹脂が硬化した硬化ゴム層を、24は硬化ゴム層を補強する強化部材である。硬化ゴム層22には前記凹部23と、空隙部(図3(C)参照)が形成されている。また、図3(C)は鋳型硬化ゴム層の、コア形成用硬化性樹脂が進入する側の端面が顕れるようにした断面図であり、21がすべての進入部に連通する空隙部である。
強化部材24にはコア形成用硬化性樹脂を圧入するための注入口25a及び25bが設けられ、コア形成用硬化性樹脂を注入するための注入管26a及び26bが連結される。注入口は1個以上設けられるが、加圧状態が各凹部の進入部(充填口)において均一になるように、複数設けることが好ましい。
【0023】
また、コア形成用硬化性樹脂として紫外線硬化性樹脂を用いるので、強化部材24の、前記硬化ゴム層22の凹部23に対応する部分は光透過性部材24a(例えばガラス板、石英板、硬質プラスチック板)で作られ、露光用開口部となる。
また、露光用開口部に光透過性部材を用いる代わりに、図4に示すように、強化部材24を、硬化ゴム層22の凹部23に対応する部分が切り欠かれた形のものにすることも可能である。
【0024】
図5に、本願発明の鋳型のコア形成用硬化性樹脂の進入側及び排出側に空隙部を設け、かつ、減圧口をも設けた鋳型を示す。図5(A)は鋳型の斜視図を、図5(B)は、鋳型長手方向において凹部及び空隙部が顕れるように切断した断面図である。なお、説明のために同一図中に、注入口25bと減圧口27bを仮想線で示している。
図5(A)中、25a及び25bは注入口、26a及び26bは注入管、27a及び27bは減圧口、28a及び28bをは減圧排気管をそれぞれ示す。鋳型内部を減圧状態にすることにより、一層充填速度を上げることができる。この際、強化部材24により鋳型が補強されているので、コアの成形精度が落ちることはない。減圧口も1個以上設け、鋳型凹部の各排出部において減圧状態が偏らないように複数設けることが好ましい。
また、図5(B)中、22は鋳型の硬化ゴム層、21は空隙部、23は凹部をそれぞれ示し、23a及び23bは凹部の両末端部である進入部及び排出部である。
硬化ゴム層の厚さは、10μm〜30mm程度であることが好ましい。また、強化部材は、金属材料、セラミック材料、硬質プラスチック材料等で作られ、その肉厚は1mm〜40mm程度が適切である。
【0025】
<鋳型形成用硬化性樹脂>
鋳型形成用硬化性樹脂としては、その硬化物が原盤から容易に剥離することができること、鋳型(繰り返し用いる)として一定以上の機械的強度・寸法安定性を有することが好ましい。
鋳型形成用硬化性樹脂は、原盤に形成された個々の光導波路を正確に写し取らなければならないので、ある限度以下の粘度、たとえば、2000〜7000mPa・s程度を有することが好ましい。また、粘度調節のために溶剤を、溶剤の悪影響がない程度に加えることができる。
本発明において用いる鋳型形成用硬化性樹脂とは、硬化性シリコーンゴムオリゴマーのように、硬化後、弾性を有するゴム状体となるものである。
【0026】
前記鋳型形成用硬化性樹脂としては、硬化後、シリコーンゴムとなる硬化性シリコーンゴムオリゴマー又はモノマー(熱硬化型、室温硬化型)が、剥離性、機械強度・寸法安定性の観点から、また、クラッド用基材との密着性の良さから好ましく用いられる。特にシリコーンゴムはクラッド用基材との密着性と剥離性という相反した特性に優れ、ナノ構造を写し取る能力を持ち、シリコーンゴムとクラッド用基材とを密着させると液体の進入させ防ぐことができる。このようなシリコーンゴムを用いた鋳型は高精度に原盤を写し取り、クラッド用基材に良く密着するため、鋳型とクラッド用基材の間の凹部のみに効率よくコア形成用樹脂を充填することが可能となり、さらにクラッド用基材と鋳型の剥離も容易である。したがって、この鋳型からは高精度に形状を維持した高分子光導波路を、極めて簡便に作製することができる。
硬化性シリコーンゴムオリゴマー又はモノマーとしては、メチルシロキサン基、エチルシロキサン基、フェニルシロキサン基を含むものが好ましく、特に硬化性ジメチルシロキサンゴムオリゴマー(PDMS)が密着性及び剥離性の点から好ましい。
【0027】
また、前記原盤にはあらかじめ離型剤塗布などの離型処理を行なって鋳型との剥離を促進させることが望ましい。
鋳型の硬化ゴム層の表面エネルギーは、10dyn/cm〜30dyn/cm、好ましくは15dyn/cm〜24dyn/cmの範囲にあることが、クラッド用基材との密着性の点からみて好ましい。
鋳型の硬化ゴム層のシェア(Share)ゴム硬度は、15〜80、好ましくは20〜60であることが、型取り性能や剥離性の点からみて好ましい。
鋳型の硬化ゴム層の表面粗さ(二乗平均粗さ(RMS))は、0.5μm以下、好ましくは0.1μm以下にすることが、さらには0.5nm〜0.05μmの範囲にあることが、型取り性能の点からみて好ましい。
さらに、コア形成用硬化性樹脂が紫外線硬化性樹脂の場合は、鋳型(強化部材が開口部を有する場合は硬化ゴム層を意味し、開口部をもたない場合は硬化ゴム層と強化部材の凹部に対応する部分の両者を含める)は光透過性であることが必要で、350nm〜700nmの波長領域における光透過率が80%以上であることが好ましい。
【0028】
2)前記鋳型にクラッド用基材を密着させる工程
本発明において用いるクラッド用基材としては、ガラス基材、セラミック基材、プラスチック基材等のものが制限なく用いられる。また屈折率制御のために前記基材に樹脂コートしたものも用いられる。クラッド用基材の屈折率は、1.55より小さく、1.50より小さいものがより好ましい。特に、コア材の屈折率より0.05以上小さいことが必要である。また、クラッド基材としては、鋳型との密着性に優れ、両者を密着させた場合、鋳型凹部以外に空隙が生じないものが好ましい。プラスチック基材の中でも、フレキシブルなフィルム基材を用いた高分子光導波路は、カプラー、ボード間の光配線や光分波器等としても使用でき、その用途に応じて、フィルム基材の屈折率、光透過性等の光学的特性、機械的強度、耐熱性、鋳型との密着性、フレキシビリティー(可撓性)等を考慮して選択される。前記フィルムとしては脂環式アクリルフイルム、脂環式オレフィンフイルム、三酢酸セルロースフイルム、含フッ素樹脂フイルム等が挙げられる。フィルム基材の屈折率は、コアとの屈折率差を確保するため、1.55より小さく、好ましくは1.53より小さくすることが望ましい。
【0029】
前記脂環式アクリルフイルムとしてはトリシクロデカン等の脂肪族環状炭化水素をエステル置換基に導入した、OZ−1000、OZ−1100等が用いられる。
また、脂環式オレフィンフイルムとしては主鎖にノルボルネン構造を有するもの、及び主鎖にノルボルネン構造を有しかつ側鎖にアルキルオキシカルボニル基(アルキル基としては炭素数1から6のものやシクロアルキル基)等の極性基をもつものが挙げられる。中でも前記のごとき主鎖にノルボルネン構造を有しかつ側鎖にアルキルオキシカルボニル基等の極性基をもつ脂環式オレフィン樹脂は、低屈折率(屈折率が1.50近辺であり、コア・クラッドの屈折率の差を確保できる)及び高い光透過性等の優れた光学的特性を有し、鋳型との密着性に優れ、さらに耐熱性に優れているので特に本発明の高分子光導波路の作製に適している。
また、前記フィルム基材の厚さはフレキシビリティーと剛性や取り扱いの容易さ等を考慮して適切に選ばれ、一般的には0.1mm〜0.5mm程度が好ましい。
【0030】
この工程において、鋳型とクラッド用基材を確実に密着させ、次のコア形成用硬化性樹脂の圧入工程において鋳型の一端を加圧、又はさらに他端を減圧した場合でも両者がわずかでもずれないようにすることが望ましい。そのため、鋳型の強化部材とクラッド用基材とをネジで固定したり、クラッド用基材を保持部材に保持させたり、クラッド基材が保持された保持部材と鋳型の強化部材を固定したりして、鋳型とクラッド用基材を安定的に密着させることが好ましい。特にクラッド用基材としてフレキシブルフィルムを用いる場合、鋳型とフィルムを密着させてもコア形成用硬化性樹脂を加圧注入するとフィルム表面に軽い波打状態を発生する場合があるので、前記のごとき手段を採用することが好ましい。
図6(A)は鋳型の4隅を固定ネジ60によりクラッド用基材30に固定する例を示し、図6(B)は図6(A)のA−A断面図を示す。
また、図7はクラッド用基材の保持部材62によりクラッド用基材を保持する例を示し、図7(B)は図7(A)のA−A断面図を示す。
さらに図8に示すように、鋳型20と保持部材62に固定用の嵌合部29と63を設け、鋳型を保持部材に嵌め込みで固定する方法も挙げられる。
【0031】
3)クラッド用基材を密着させた鋳型の注入口からコア形成用硬化性樹脂を圧入する工程
この工程においては、コア形成用硬化性樹脂を、鋳型の強化部材に設けられた注入口から鋳型内部の空間に注入する。硬化ゴム層の進入部側に空隙部が形成されている場合には、注入された樹脂は空隙部に流入し、さらに、硬化ゴム層に形成された凹部の一端である進入部から凹部全体に圧入し、凹部の他端である排出部からコア形成用硬化性樹脂を排出する。この際、強化部材に減圧口を設け、圧入と同期して減圧排気するとさらに充填速度が向上する。また、樹脂の圧入の圧力を段階的に増加させ、これと同期して段階的に圧力を減少させながら減圧排気を行うことが好ましい。
用いるコア形成用硬化性樹脂は凹部内への充填が容易なように十分低粘度である他、前記硬化性樹脂の硬化後の屈折率はクラッドを構成する高分子材料よりも高い(クラッドとの差が0.02以上)ことが必要である。このほかに、原盤に形成された凸部が有する元の形状を高精度に再現するため、前記硬化性樹脂の硬化前後の体積変化が小さいことが必要である。例えば、体積が減少すると導波損失の原因になる。したがって、前記硬化性樹脂は、体積変化ができるだけ小さいものが望ましく、10%以下、好ましくは6%以下であるのが望ましい。溶剤を用いて低粘度化することは、硬化前後の体積変化が大きいので避ける方が好ましい。
【0032】
したがって、前記硬化性樹脂の粘度は、10mPa・s〜2000mPa・s、望ましくは20mPa・s〜1000mPa・s、更に好ましくは30mPa・s〜500mPa・sにするのが好ましい。
また、前記硬化性樹脂としてエポキシ系、ポリイミド系、アクリル系の紫外線硬化性樹脂が好ましく用いられる。
コアとなる硬化性樹脂の硬化物の屈折率は、クラッドとなる前記フィルム基材(以下の5)の工程におけるクラッド層を含む)より大きいことが必要で、1.53以上、好ましくは1.55以上である。クラッド(以下の5)の工程におけるクラッド層を含む)とコアの屈折率の差は、0.02以上、好ましくは0.05以上である
【0033】
4)充填したコア形成用硬化性樹脂を硬化させ、鋳型をクラッド用基材から剥離する工程
充填したコア形成用硬化性樹脂を硬化させる。紫外線硬化性樹脂を硬化させるには、紫外線ランプ、紫外線LED、UV照射装置等が用いられる。
また、前記1)〜3)の工程で用いる鋳型をそのままクラッド層に用いることも可能で、この場合は、鋳型を剥離する必要はなくそのままクラッド層として利用する。
【0034】
5)コアが形成されたクラッド用基材の上にクラッド層を形成する工程
コアが形成されたクラッド用基材の上にクラッド層を形成するが、クラッド層としてはフィルム(たとえば前記2)の工程で用いたようなフィルム基材が同様に用いられる)、硬化性樹脂(紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂)を塗布して硬化させた層、高分子材料の溶剤溶液を塗布して乾燥して得られる高分子膜等が挙げられる。クラッド層としてフィルムを用いる場合は、接着剤を用いて貼り合わされるが、その際、接着剤の屈折率がフィルムの屈折率と近いことが望ましい。クラッド層の屈折率は、コアとの屈折率差を確保するため、1.55より小さく、好ましくは1.53より小さくすることが望ましい。また、クラッド層の屈折率を前記フィルム基材の屈折率と同じにすることが、光の閉じ込めの点からみて好ましい。さらに、クラッド用基材とクラッド層の屈折率の差が0.1以内であることが光の導波損失を抑制する効果の点からみて好ましい。
【0035】
本発明の高分子光導波路の製造方法において、特に、鋳型形成用硬化性樹脂として熱硬化性のシリコーンゴムオリゴマー又はモノマー、中でも熱硬化性のジメチルシロキサンゴムオリゴマー又はモノマーを用い、フィルム基材として主鎖にノルボルネン構造を有しかつ側鎖にアルキルオキシカルボニル基等の極性基をもつ脂環式オレフィン樹脂を用いる組み合わせは、両者の密着性が特に高く、また、凹部構造の断面積が極めて小さくても(例えば10×10μmの矩形)毛細管現象により素早く凹部に硬化性樹脂を充填することができる。
【0036】
【実施例】
以下に参考例、実施例及び比較例を示し本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
参考例1
ガラス基板に紫外線硬化型厚膜レジスト液(マイクロケミカル(株)製、SU−8)をスピンコート法で塗布した後、80℃加熱オーブンでプリベークし、フォトマスクを通して高圧水銀灯により露光した後、現像工程を経て、断面が正方形の微細凸部(幅:50μm、高さ:50μm、長さ:50mm)を5本作製した。次に、これを120℃でポストベークした。このようにして作製した凸部の端部に、モールドにより、高さ4mm、幅(凸部に直交する方向)20mm、基板長手方向長さ15mmの、断面が長方形の凸部を形成し、原盤とした。
次に、図3(A)に示すようなアルミ製の強化部材を作製した。露光用開口部24aは石英製とした。
前記原盤に離型剤を塗布した後、この上に熱硬化性シリコーンゴムオリゴマー(ダウコウニングアジア社製:SYLGARD184、ジメチルポリシロキサン)を、凸部の長手方向の一端が一部露出するように、かつ、他端にある空隙部作製用凸部の端までが覆われるように、塗布した。この上から前記強化部材を押圧し固定した。その後、120℃で30分間加熱して硬化させ、シリコンゴムと強化部材を一体化させた。硬化シリコーンゴム層の厚さは10mmであった。次いでこれを原盤から剥離し鋳型を得た。鋳型のシリコンゴム層には、50μm角の凹部と、コア形成用硬化性樹脂の進入部と排出部、空隙部とが形成された。
この強化シリコンゴム鋳型と膜厚188μmのアートンフイルム(JSR(株)製、屈折率1.510)を加圧密着させた。また、鋳型強化部材の注入口にコア形成用硬化性樹脂の注入管を連結した。注入管から粘度が1300mPa・sの紫外線硬化性樹脂(JSR社製:PJ3001)を圧力注入した。およそ120秒後に凹部全体に樹脂が充填された。鋳型から注入管をはずし、鋳型の露光用開口部から50mW/cm2のUV光を10分間照射してコア形成用硬化性樹脂を硬化させた。
鋳型を剥離すると、アートンフイルム上に屈折率1.51のコアが形成された。
さらに、アートンフイルムのコア形成面に、硬化後の屈折率がアートンフイルムと同じ1.510である紫外線硬化性樹脂(JSR(株)製)を全面に塗布した後、50mW/cm2のUV光を10分間照射して紫外線硬化させ(硬化後の膜厚10μm)た。フレキシブルな高分子光導波路が得られた。この高分子光導波路の損失は、0.33dB/cmであった。5本の高分子光導波路の導波光損失は、0.338±0.008dB/cmの範囲であった。
【0037】
実施例1
ガラス基板に、参考例1と同様にして、10本の凸部(幅:100μm、高さ:100μm、長さ:100mm)と、凸部の両端部に、高さ2mm、幅(凸部に直交する方向)10mm、基板長手方向長さ20mmの、断面が長方形の凸部を形成し、原盤とした。
次に、図5に示すようなアルミ製の強化部材を作製した。露光用開口部24aはガラス製とした。
参考例1と同様にして、前記原盤から鋳型を作製した。硬化シリコーンゴム層の厚さは6mmであった。次いでこれを原盤から剥離し鋳型を得た。鋳型のシリコンゴム層には、100μm角の凹部と、コア形成用硬化性樹脂の進入部と排出部、空隙部とが形成された。
この強化シリコーンゴム鋳型と膜厚188μmのアートンフイルム(JSR(株)製、屈折率1.510)を加圧密着させた。また、鋳型強化部材の注入口にコア形成用硬化性樹脂の注入管を連結し、減圧口に減圧排気管を連結した。注入管から粘度が1300mPa・sの紫外線硬化性樹脂(JSR社製:PJ3001)を圧力注入するとともに、これと同期して減圧口から減圧排気した。およそ110秒後に凹部全体に樹脂が充填された。鋳型から注入管、減圧排気管をはずし、鋳型の露光用開口部から75mW/cm2のUV光を10分間照射してコア形成用硬化性樹脂を硬化させた。
鋳型を剥離すると、アートンフイルム上に屈折率1.570のコアが形成された。
さらに、アートンフイルムのコア形成面に、硬化後の屈折率がアートンフイルムと同じ1.510である熱硬化性樹脂(JSR(株)製)を全面に塗布した後、110℃、6分熱処理して硬化させた(硬化後の膜厚10μm)。フレキシブルな高分子光導波路が得られた。この高分子光導波路の最良の光損失は、0.45dB/cmであった。10本の高分子光導波路の導波光損失は、0.458±0.008dB/cmの範囲であり、ばらつきの少ない特性であった。
【0038】
実施例2
ガラス基板に、参考例1と同様にして、15本の凸部(幅:50μm、高さ:50μm、長さ:50mm)と、凸部の両端部に、高さ2mm、幅(凸部に直交する方向)15mm、基板長手方向長さ20mmの、断面が長方形の凸部を形成し、原盤とした。
次に、図5に示すようなステンレス製の強化部材を作製した。露光用開口部24aは石英製とした。
参考例1と同様にして、前記原盤から鋳型を作製した。硬化シリコーンゴム層の厚さは5mmであった。次いでこれを原盤から剥離し鋳型を得た。鋳型のシリコンゴム層には、50μm角の凹部と、コア形成用硬化性樹脂の進入部と排出部、空隙部とが形成された。
この強化シリコーンゴム鋳型と膜厚188μmのアートンフイルム(JSR(株)製、屈折率1.510)を加圧密着させた。また、鋳型強化部材の注入口にコア形成用硬化性樹脂の注入管を連結し、減圧口に減圧排気管を連結した。注入管から粘度が1300mPa・sの紫外線硬化性樹脂(JSR(株)製:PJ3001)を圧力注入するとともに、これと同期して減圧口から減圧排気した。およそ90秒後に凹部全体に樹脂が充填された。鋳型から注入管、減圧排気管をはずし、鋳型の露光用開口部から50mW/cm2のUV光を10分間照射してコア形成用硬化性樹脂を硬化させた。
鋳型を剥離すると、アートンフイルム上に屈折率1.591のコアが形成された。
さらに、アートンフイルムのコア形成面に、硬化後の屈折率がアートンフイルムと同じ1.510である紫外線硬化性樹脂接着剤(JSR(株)製)を全面に塗布した後、この上に厚さが120μmのアートンフイルムを載せ、50mW/cm2のUV光を15分間照射して硬化させた。フレキシブルなフィルムサンドイッチ型の高分子光導波路が得られた。この高分子光導波路の損失は、0.45dB/cmであった。15本の高分子光導波路の導波光損失は、0.35±0.009dB/cmの範囲内にすべて入っていた。
【0039】
比較例1
参考例1において、原盤に空隙部形成用凸部を作製しない他は、参考例1と同様にして高分子光導波路を作製した。導波損失は、最良値で0.43dB/cmであった。また、鋳型に形成された5本の凹部のうち2本は注入不良であり、導波損失を測定することはできなかった。
【0040】
比較例2
Si基板に厚膜レジスト(マイクロケミカル(株)製、SU−8)をスピンコート法で塗布した後、80℃でプリベークし、フォトマスクを通して露光し、現像して、断面が正方形の凸部(幅:50μm、高さ:50μm、長さ:150mm)を5本形成した。次に、これを120℃でポストベークして、光導波路コア作製用原盤を作製した。
次に、この原盤に離型剤を塗布した後、熱硬化性シリコンゴムオリゴマー(ダウコウニングアジア社製:SYLGARD184、ジメチルポリシロキサン)を流し込み、120℃で30分間加熱して固化させた後、剥離して、前記断面が正方形の凸部に対応する凹部を持った型(鋳型の厚さ:3mm)を作製した。さらに、前記型の両端を切断して下記紫外線硬化性樹脂の入出力部を作り鋳型とした。
この鋳型と、鋳型よりひとまわり大きいガラス基板(厚さ500μm)を密着させた。次に、鋳型の一端にある入出力部に、粘度が1300mPa・sの紫外線硬化性樹脂(JSR社製:屈折率1.5010)を数滴落としたところ、毛細管現象により前記凹部に紫外線硬化性樹脂が充填された。50mm充填するのに24時間を要した。次いで、50mW/cm2のUV光をPDMS鋳型を透して5分間照射して紫外線硬化させた。鋳型をアートンフイルムから剥離したところ、アートンフイルム上に前記原盤凸部と同じ形状のコアが形成された。コアの屈折率は1.591であった。
次に、ガラス基板のコア形成面に、硬化後の屈折率がガラス基板と同じ1.510である紫外線硬化性樹脂(JSR(株)製)を全面に塗布した後、50mW/cm2のUV光を10分間照射して紫外線硬化させ(硬化後の膜厚10μm)た。ガラス基板上に高分子光導波路が得られた。この高分子光導波路の損失は、1.98dB/cmであった。また、4本の高分子光導波路コアは導波せず測定不能であった。
【0041】
【発明の効果】
本発明の高分子光導波路の製造方法は前記のごとき強化部材を設けた鋳型を用いるので、鋳型凹部にコア形成用硬化性樹脂を加圧充填(圧入)する際、圧力を大きくしても鋳型が変形したり、鋳型とクラッド用基材との間でずれることがなく、そのため、コア形状の精度を犠牲にすることなく、充填速度を大きくすることができる。
また、鋳型に前記のごとき空隙部を設けたため、各進入部及び各排出部におけるコア形成用硬化性樹脂の注入圧力の均一化及び減圧圧力の均一化が図られ、鋳型各凹部への樹脂の注入が均一化される。
したがって、本発明の製造方法により、コア形状を高精度に維持して導波損失の少ない高分子光導波路を、簡便な方法で、生産性が高く作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の高分子光導波路の製造方法を示す工程概略図である。
【図2】 参考例1で用いる原盤の一例を示す斜視図である。
【図3】 参考例1で用いる鋳型の一例を示す概念図で、図3(A)は斜視図を、図3(B)はA−A断面図を、図3(C)は硬化樹脂層の空隙部が顕れるように切断した断面図を示す。
【図4】 本発明で用いる鋳型の他の例を示す概念図である。
【図5】 本発明で用いる鋳型の他の例を示す概念図で、図5(A)は斜視図を、図5(B)は硬化樹脂層の凹部及び空隙部が顕れるように長手方向に切断した断面図を示す。
【図6】 本発明の鋳型を固定ネジを用いてクラッド用基材に密着固定させた状態を示す概念図である。
【図7】 クラッド用基材を保持部材により保持させ鋳型と密着させた状態を示す概念図である。
【図8】 クラッド用基材を鋳型に密着固定させる他の態様を示す概念図である。
【符号の説明】
10 原盤
12 高分子光導波路コアに対応する凸部
14 空隙部形成のための凸部
20 鋳型
21 空隙部
22 樹脂硬化層
23 凹部
23a 進入部
23b 排出部
24 強化部材
25a、25b 注入口
27a、27b 減圧口
30 クラッド用基材
40 コア
50 クラッド層
62 保持部材
Claims (17)
- 1)(i)光導波路コアに対応する複数の凸部が形成された原盤と鋳型形成用硬化性樹脂を用いて作製され、前記凸部に対応する複数の凹部、該凹部の両端部であるコア形成用紫外線硬化性樹脂の進入部及び排出部、並びにすべての進入部に連通する共通の空隙部及びすべての排出部に連通する共通の空隙部を有し、前記鋳型形成用硬化性樹脂が硬化した層である硬化ゴム層と、(ii)前記硬化ゴム層を補強しかつコア形成用紫外線硬化性樹脂を圧入するための注入口及び減圧口を備え、かつ、下記3)の工程において鋳型凹部に充填されたコア形成用紫外線硬化性樹脂に紫外線を照射するための露光用開口部を設けた強化部材とを有する鋳型を作製する工程、
2)前記鋳型にクラッド用基材を密着させる工程、
3)コア形成用紫外線硬化性樹脂を強化部材の注入口から圧入するとともに、減圧口から鋳型の排出部近傍を減圧排気して、前記鋳型の硬化ゴム層の空隙部を通じて進入部からコア形成用紫外線硬化性樹脂を鋳型凹部に充填する工程、
4)露光用開口部を通して紫外線を照射して充填したコア形成用紫外線硬化性樹脂を硬化させ、鋳型をクラッド用基材から剥離する工程、
5)コアが形成されたクラッド用基材の上に、クラッド層を形成する工程、
を有する高分子光導波路の製造方法。 - 前記硬化ゴム層の前記進入部又は前記排出部の端面における断面で、前記空隙部の面積が、前記空隙部を通じて連通する各凹部の端部の面積の総和の5〜20000倍であることを特徴とする請求項1に記載の高分子光導波路の製造方法。
- 前記鋳型の硬化ゴム層が、硬化性シリコーンゴムオリゴマーが硬化した層であることを特徴とする請求項1に記載の高分子光導波路の製造方法。
- 前記硬化ゴム層の厚さが、10μm〜30mmであることを特徴とする請求項1に記載の高分子光導波路の製造方法。
- 前記強化部材が、金属材料又はセラミック材料からなることを特徴とする請求項1に記載の高分子光導波路の製造方法。
- 前記強化部材の肉厚が、1mm〜40mmであることを特徴とする請求項1に記載の高分子光導波路の製造方法。
- 前記露光用開口部が紫外線透過材料からなることを特徴とする請求項1に記載の高分子光導波路の製造方法。
- 前記露光用開口部が強化部材に設けた切り欠き部であることを特徴とする請求項1に記載の高分子光導波路の製造方法。
- 前記1)の工程において、鋳型が、原盤の上に鋳型形成用硬化性樹脂の層を形成した後、この層の上に強化部材を載置し、次いで硬化させ、その後原盤を剥離して作製されることを特徴とする請求項1に記載の高分子光導波路の製造方法。
- 前記クラッド用基材が、鋳型との密着性が良好なクラッド用フィルム基材であることを特徴とする請求項1に記載の高分子光導波路の製造方法。
- 前記クラッド用フィルム基材が、脂環式オレフィン樹脂フイルムであることを特徴とする請求項10に記載の高分子光導波路の製造方法。
- 前記2)の工程において、クラッド用基材と鋳型の強化部材を固定することを特徴とする請求項1に記載の高分子光導波路の製造方法。
- 前記2)の工程において、クラッド用基材が保持部材の上に置かれることを特徴とする請求項1に記載の高分子光導波路の製造方法。
- 前記2)の工程において、鋳型の強化部材とクラッド用基材が保持された保持部材を固定することを特徴とする請求項1に記載の高分子光導波路の製造方法。
- 前記3)の工程において、コア形成用紫外線硬化性樹脂を圧入させる圧力を段階的に増加させるのに同期して、段階的に減圧排気することを特徴とする請求項1に記載の高分子光導波路の製造方法。
- 前記鋳型形成用硬化性樹脂を硬化した層の表面エネルギーが、10dyn/cm〜30dyn/cmであることを特徴とする請求項1に記載の高分子光導波路の製造方法。
- 前記鋳型形成用硬化性樹脂を硬化した層のシェア(Share)ゴム硬度が15〜80であることを特徴とする請求項1に記載の高分子光導波路の製造方法。
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