JP4532756B2 - アンカー部材用袋体及びそれを用いたアンカー部材、並びにそれを用いたアンカー工法 - Google Patents

アンカー部材用袋体及びそれを用いたアンカー部材、並びにそれを用いたアンカー工法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、構造物を地盤に定着させるアンカー部材用袋体及びそれを用いたアンカー部材、並びにそれを用いたアンカー工法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、建築物等の構造物を地盤に定着させる場合に、アンカー部材が広く使用されている。このアンカー部材は、地盤に孔を穿設し、その孔に鋼棒よりなる引張り部材を挿入し、その引張り部材の先端のアンカー定着部を前記孔に圧入したモルタル等で地盤に固定し、頭部をジャッキで緊張してねじや楔で構造物に固定するものであって、このアンカー部材を介して構造物を地盤に定着させている。
【0003】
このアンカー部材としては、仮設の構造物に対して一時的に使用され、不必要になったときには除去される仮設アンカー部材と、永久構造物に対して使用し、その構造物が存在する間は、アンカー機能を果す永久アンカー部材とがある。
【0004】
永久アンカー部材の場合、アンカー定着部におけるグラウトやモルタル等の自硬性流体にクラックが発生し、そのクラックから水が浸入して引張り部材が腐蝕して耐久性が低下する恐れがある。
【0005】
そのため、この引張り部材のアンカー定着部を保護する手段として、当該アンカー定着部に繊維製筒体を被せ、この繊維製筒体内に自硬性流体を二次注入して自硬性流体を補強し、クラックの発生を防止する方法が知られている。
【0006】
しかしながら、この方法によれば、グラウトやモルタル等の自硬性流体が繊維製筒体によって内部と外部とに二分されることとなり、繊維製筒体とモルタル等との界面において剥がれが生じ、引張り部材に引張り力が作用したときに引張り部材が繊維製筒体と共に抜けるおそれがある。
【0007】
そこで、本出願人により、例えば、実公平7−45631号公報に開示されるような永久アンカー部材が開発された。これは、引張り部材の上に袋体を嵌合し、その袋体の中にモルタル等の自硬性流体を注入し、アンカー部材とするものである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このアンカー部材においては、袋体の内部の自硬性流体にクラックが発生すると、このクラック内に、袋体を通過して内部に浸透してきた水分が浸入するおそれがある。一般にセメントは、アルカリ性であるため、引張り部材である鉄筋等が錆びるのを防止している。しかし、クラックから水分が浸入すると、この水分は、弱い酸性であるため、セメントを腐食するとともに、引張り部材である鉄筋に錆びを発生させる。鉄筋に錆びが発生すると、錆のために鉄筋の径が大きくなり、セメントの破壊を助長させるものとなり、アンカー部材の内部破壊につながる。
【0009】
本発明は、前記課題を解決するために、構造物と地盤とをより強固に定着させることのできるアンカー部材用袋体及びそれを用いたアンカー部材、並びにそれを用いたアンカー工法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するための本発明の請求項1に記載のアンカー部材用袋体は、構造物を地盤に定着させるアンカー部材に用いられる袋体であって、縦糸及び横糸とで織製されてなり、前記縦糸と前記横糸のいずれか一方若しくは両方が水膨潤性繊維を混合した糸で筒状に織成してなり、前記水膨潤性繊維の膨張によって内外部の水分の通過が遮断されることを特徴とする
袋体が水膨潤性繊維を混合した糸で構成されているため、例えば、グラウト、セメントミルクやモルタル等の自硬性流体を注入した場合、初期には、自硬性流体中に含まれる水分は袋体の外に流出するが、その後、袋体を構成する糸に混合した水膨潤性繊維が膨張して、袋体の織り目部分の孔や繊維間を塞ぎ、袋体内外部の水分の通過が抑制され、袋体外部からの水分の浸透がなくなる。そのうえ、初期には水分が流出するので、緻密な硬化体となる。
【0011】
請求項2に記載のアンカー部材は、構造物を地盤に定着させるアンカー部材であって、引張り部材の一端に構造物に対する固定機能を有する頭部を形成し、前記引張り部材の前記頭部の下方には、縦糸及び横糸とで織製されてなり、前記縦糸と前記横糸のいずれか一方若しくは両方が水膨潤性繊維を混合した糸で筒状に織成してなる袋体を嵌合して、前記袋体の中に自硬性流体を注入して、前記袋体本体を膨張させて前記水膨潤性繊維の膨張によって内外部の水分の通過が遮断された状態で、地盤に密着させてなることを特徴とする。
袋体が水膨潤性繊維を混合した糸で構成されているため、例えば、グラウト、セメントミルクやモルタル等の自硬性流体を注入した場合、自硬性流体中に含まれる水分によって、袋体を構成する糸を混合した水膨潤性繊維が膨張して、袋体の織り目部分の孔や繊維間を塞ぎ、袋体内外部の水分の通過がなくなる。このため、袋体外部からの水分の浸透がなくなるため、自硬性流体の固化後に、クラック等が発生した場合であっても、内部の引張り部材にまで、水分が浸入することがなくなる。このため、内部の引張り部材である鉄筋等が錆びることを予防でき、アンカー部材として使用した場合であっても、アンカー部材の内部破壊を抑制することができる。ここで、自硬性流体とは、セメントミルク、モルタル等のように、時間の経過とともに、固化する流体をいう。
【0012】
請求項3に記載のアンカー工法は、地盤にアンカー挿入用の孔を掘削する工程と、引張り部材に袋体を嵌合し、前記袋体が嵌合された引張り部材を前記孔に挿入する工程と、前記袋体内に自硬性流体を注入して前記袋体本体を膨張させる工程と、からなる構造物を地盤に定着させるアンカー工法であって、前記袋体が、水膨潤性繊維を混合した糸で織成された筒状の袋体であり、前記水膨潤性繊維の膨張によって内外部の水分の通過が遮断されることを特徴とする。
袋体が水膨潤性繊維を混合した糸で筒状に織成されているため、自硬性流体を注入すると袋体は膨張する。そして、自硬性流体注入当初は、袋体の織り目部分の孔や繊維間から自硬性流体中の余剰水が出るので、袋体内には、自硬性流体の硬化に必要な水しか残らない。そのため、袋体内部の自硬性流体は、緻密な硬化体となる。そのうえ、次第に水膨潤性繊維が水を吸収し、袋体の織り目部分の孔や繊維間が詰まり、水が出なくなる。その後、地震等で硬化した自硬性流体にクラックが入っても、水膨潤性繊維は膨潤したままであるため、袋体外部から水が浸入してくることがなくなる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態例を説明する。図1は本発明の永久アンカー部材Aの一実施形態例の使用状態を示すものである。本実施形態例に係るアンカー部材Aは、鋼棒等よりなる引張り部材1と、その引張り部材1の一端に形成された構造物等の地盤7に対し固定機能を発現するブロック6を有する頭部2と、引張り部材1の他端に形成されたアンカー定着部3とで構成されている。このアンカー定着部3は、ブロック6に取付けられ、ブロック6の下方側に位置する引張り部材1の先端部に嵌合された水膨潤性繊維を混合した糸で筒状に織成されてなる袋体4と、この袋体4内に注入されたグラウト、セメントミルクやモルタル等の自硬性流体とで構成されている。なお、袋体は異径筒状のものを使用すれば、アンカー部材を地盤により強固に定着することができる。
【0014】
袋体4は、縦糸及び横糸若しくはいずれか一方に水膨潤性樹脂を浸漬加工した繊維または吸水繊維を混合した糸を用いて異径に織製された筒状袋体である。なお、水膨潤性樹脂を浸漬加工した繊維をそのまま糸として使用してもよい。そして、引張り部材1の外周面を覆うように被せられており、頭部2或いはブロック6に任意の方法によって取り付けられている。この袋体4は、水膨潤性樹脂を浸漬加工した繊維や吸水繊維を混合した糸を用いて織製されたものに限らず、例えば、織物の状態で水膨潤性樹脂を塗布加工や浸漬加工したものであってもよい。また、溶媒を吸収し、ゼリー状になった水膨潤性樹脂を塗布し、乾燥してもよい。
【0015】
ここで、水膨潤性樹脂としては、天然高分子類のでんぷん系、セルロース系、合成高分子類のポリビニルアルコール系、アクリル系、ポリエーテル系、縮合ポリマー等があげられる。本実施形態例に係る袋体4は、溶媒によって液状化させた水膨潤性樹脂に、ポリエステル繊維を浸漬し、乾燥することで縦糸及び横糸を作り、そのまま使用した。繊維への加工の際、これらの樹脂の付着量等を調整することにより所望の流体不透過性を有した袋体とすることができる。
【0016】
また、吸水繊維としては、例えば、東洋紡績(株)の「ランシールF」(商品名)を使用することができる。さらに、これと合成繊維を混紡したものを使用することもできる。混紡する量を調整することで所望の流体不透過性が得られる。
【0017】
また、特に土木分野で使用する場合は、セメントミルクやモルタル等を使用するため、袋体内部はアルカリ性雰囲気になるため、広範囲のph領域で安定した膨潤性を示すポリビニルアルコール系の樹脂が好ましい。中でも、非イオン性樹脂を使用するのが好ましい。
【0018】
このアンカー部材Aを使用して永久アンカーを形成するには、先ず地盤7に孔8を掘削し、この孔8内にアンカー部材Aを挿入する。そして、頭部2から袋体4内部に通ずる図示省略する自硬性流体5の注入口から、グラウト、セメントミルク、モルタル等の自硬性流体を注入して袋体4を膨張させ、引張り部材1と地盤に形成した孔8内面との間をシールする。自硬性流体5注入初期には、自硬性流体5に含まれる余剰水が袋体4の織成された織り目部分の孔や繊維間より袋体4の外部に流出する。その後、袋体4を構成する糸に混合した水膨潤性繊維が膨潤し、袋体4の織り目部分の孔や繊維間が塞がれる。これによって、袋体4内部には、自硬性流体5の硬化に必要な水しか残らないので、緻密な硬化体となる。加えて、自硬性流体5の外部への流出も防げるため、袋体4内部への自硬性流体5の注入量も必要最低限とすることができる。さらに、水膨潤性繊維は、膨潤すると膨潤したままであるため袋体4の織り目部分の孔や繊維間は、塞がれた状態のまま維持される。このため、袋体4外部からの水分等の浸入も防ぐことができる。このように、自硬性流体5が硬化した後では、袋体4内には、水分が残らず、また、外部からの水分の浸入もないことから、鋼棒等からなる引張り部材1を錆びさせる水が袋体4内に存在しなくなる。このため、自硬性流体5に、例えば、地震等によってクラックが発生した場合であっても、袋体4内に水分が、存在しないため鋼棒等の引張り部材1が錆びることがなく、アンカー部材Aの内部破壊を防止でき、耐久性に優れたものとできる。
【0019】
次に、頭部2をナット等の締結部材10によって構造物に固定し、頭部2の周囲にシール材を充填する。以上の工程により、頭部2が構造物に定着されると共にアンカー定着部3が孔8の奥部の地盤7に定着され、その間の引張り部材1に引張り力が加えられ、構造物は地盤に対して強固に定着される。なお、図1〜図3は、法面に用いた場合であり、ブロック6の固定に用いられている。
【0020】
また、図2は、本発明のアンカー部材Aの他の実施形態例を示すものであって、袋体4が太いテーパー状をなしている。本実施形態例によると、引張り部材1と地盤の孔8とが自硬性流体5により強固に定着されると共に、引張り部材1に加わる荷重や地盤の変動などにより自硬性流体5全体に亙ってクラックが生じることが少なくなる。また、袋体4と地盤7に形成された孔8との間の接触面積が大きく、また袋体4の形状によるアンカー効果により袋体4が地盤7から抜けることがなく、長期間の定着が可能となる。
【0021】
また、図3は、本発明のアンカー部材Aの他の実施形態例を示すものであって、袋体4が波状をなし、複数の異径部9が形成されている。本実施形態例によると、袋体4と地盤7に形成された孔8との間の接触面積を大きくとることができ、また袋体4の形状によるアンカー効果により袋体4が地盤7から抜けることがなく、長期間の定着が可能となる。
【0022】
【発明の効果】
本発明によると、袋体の内外の水分の透過が抑制できるため、例えば、袋体内部のモルタル等にクラックが発生した場合であっても、外部からの水の浸入がないため、モルタル内部の鋼棒等の引張り部材が錆びることがなくなり、アンカー部材の内部破壊を防止することができ、永久アンカーとして耐久性に優れたものとできる。また、自硬性流体の注入の最終段階では、水が抜けることがなくなるため、袋体の注入口の圧力と先端側の圧力間での損失が少ない。そのため強固なアンカー部材が形成される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態例のアンカー部材の概略断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態例のアンカー部材の概略断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態例のアンカー部材の概略断面図である。
【符号の説明】
A アンカー部材
1 引張り部材
2 頭部
4 袋体
5 自硬性流体
6 ブロック
10 締結部材

Claims (3)

  1. 構造物を地盤に定着させるアンカー部材に用いられる袋体であって、縦糸及び横糸とで織製されてなり、前記縦糸と前記横糸のいずれか一方若しくは両方が水膨潤性繊維を混合した糸で筒状に織成してなり、前記水膨潤性繊維の膨張によって内外部の水分の通過が遮断されることを特徴とするアンカー部材用袋体。
  2. 構造物を地盤に定着させるアンカー部材であって、引張り部材の一端に構造物に対する固定機能を有する頭部を形成し、前記引張り部材の前記頭部の下方には、縦糸及び横糸とで織製されてなり、前記縦糸と前記横糸のいずれか一方若しくは両方が水膨潤性繊維を混合した糸で筒状に織成してなる袋体を嵌合して、前記袋体の中に自硬性流体を注入して、前記袋体本体を膨張させて前記水膨潤性繊維の膨張によって内外部の水分の通過が遮断された状態で、地盤に密着させてなることを特徴とするアンカー部材。
  3. 地盤にアンカー挿入用の孔を掘削する工程と、
    引張り部材に袋体を嵌合し、前記袋体が嵌合された引張り部材を前記孔に挿入する工程と、
    前記袋体内に自硬性流体を注入して前記袋体本体を膨張させる工程と、からなる構造物を地盤に定着させるアンカー工法であって、
    前記袋体が、水膨潤性繊維を混合した糸で織成された筒状の袋体であり、前記水膨潤性繊維の膨張によって内外部の水分の通過が遮断されることを特徴とするアンカー工法。
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