JP4508328B2 - 高分子水性エマルジョン - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、屋内または屋外用の塗料、建築仕上げ塗材等として有用であり、具体的には、建築物、鋼構造物、建材、モルタル、軽量気泡コンクリートを含む各種コンクリート、プラスチック、自動車への塗料、建築仕上げ塗材等の上塗りとして塗装するかあるいは、建材、モルタル、コンクリート、鋼材、自動車、プラスチックへ直接塗装するクリアーコート剤、トップコート剤、塗料等として各種用途に利用することができるが、特に多孔性無機質板、コンクリート等の多孔質の下地基材に適する硬化型水性塗料に関する。さらに詳しくは、ケイ酸カルシウム板、セメント系無機質板、石膏ボード、押し出し成形板、コンクリート、軽量気泡コンクリート、モルタル、ロックウールボード、木毛板などの建材へ直接塗布されるシーラー、または該直接塗布されるシーラーを介して塗られるシーラーまたは下地塗料として最適であり、下地となる建材等に対し密着性、耐水性、耐透水性などの良好な塗膜を形成することができる高分子水性エマルジョンに関する。
【0002】
【従来の技術】
一般の軽量建材は、多孔質であるため、表面強度が小さく、また水分を吸収し易く、さらに軽量気泡コンクリート、モルタルなども表面強度が小さい。従って直接の仕上げ塗装あるいは上塗り塗装や、ラミネート仕上げを行うと、仕上げ塗装あるいは上塗り塗装による塗膜のはくり、ふくれ、凍結による下地基材となる建材の破壊、下地基材となる建材からのアルカリ溶出による塗装面の汚染および塗膜欠陥、とくに軽量建材では吸水による下地基材となる建材の反りを避けられなかった。
従来これらの建材へは、下地塗料すなわちシーラーとしては、溶剤可溶型の一液性のあるいは反応硬化型のウレタン系樹脂、一液性あるいは反応硬化型アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、とくに市場の要求から水性化が望まれており、水性のアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂が一般的に使用されている。しかし水性のアクリル系樹脂は下地塗料として密着性が充分でなく、水性のエポキシ系樹脂では太陽光による変色に問題があった。
【0003】
特開平3−221575号公報では、アセトアセチル化した水溶性ポリビニルアルコールに対してカルボン酸ヒドラジドを硬化剤として使用した硬化塗膜が提案されているが耐水性が充分ではなく、とくに下地基材からのアルカリによって脆弱な塗膜となり、ふくれの発生を防ぐことができなかった。
特開平5−179102号公報、特開平5−247376号公報、特開平6−256709号公報、特開平6−287457号公報では、特定の酸価を有するアクリル系樹脂と、カルボン酸ジヒドラジドを硬化剤として使用した硬化塗膜が提案されているがカルボニル基の分布が制御されておらず耐水性に劣り、とくに下地基材からのアルカリによって脆弱な塗膜となり、密着性の不良、ふくれの発生を防ぐことができなかった。
【0004】
特開平8−157774号公報には、水溶性ポリビニルアルコールと粒子径の小さなアクリル系エマルジョンの混合物を使用することが開示されているが、水溶性ポリビニルアルコールが硬化塗膜を形成しないため、耐水性は充分なものでなく、湿潤時の密着性が不良であった。
特開平2−155956号公報では常温硬化カチオン系エマルジョンが提案されているが、例示されている硬化塗膜では、下地基材に対して充分な密着性が得られなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来の水性シーラーの欠点である基材となる建材への含浸性、耐水性における欠点を改良し、各種下地基材および上塗り塗膜との密着性に優れた水性シーラーを提供することを課題とする。すなわち下地基材へ含浸浸透して表面を補強する塗膜を形成し、かつその塗膜が耐水性に優れるため各種下地基材に対する密着性および耐透水性を改善し、防水性能に優れる高分子水性エマルジョンを提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記のような課題を解決するために鋭意検討をかさねた結果、高分子水性分散物中の全カルボニル基のうち該高分子分散体粒子中の内部に存在するものの割合が、一定比率に満たないときに、該水性分散物から得られる皮膜が、従来では予想しえなかった各種基材に対する密着性または耐透水性を発現するため、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の第1は、水性媒体中で油溶性開始剤を使用することによって得られるカルボニル基を有する高分子水性エマルジョンが、数平均分子量が1000〜10万であり、該高分子水性エマルジョンに含まれる全カルボニル基量に対する分散粒子内部のカルボニル基量の割合(=分散体粒子分配率)が50%未満である、ポリ(メタ)アクリルレート系及び/又はポリスチレン−(メタ)アクリレート系の高分子水性エマルジョンであり、該高分子水性エマルジョンが、さらに、1分子中に2個以上のヒドラジン基および/またはセミカルバジド基を有するヒドラジン誘導体(ウレタン結合を有するものを除く)を含有す
ることを特徴とする高分子水性エマルジョンである。
【0007】
本発明の第2は、カルボニル基を有する、ポリ(メタ)アクリルレート系及び/又はポリスチレン−(メタ)アクリレート系高分子水性エマルジョンにおいて、全カルボニル基量Bに対し、該分散体粒子表面部分のカルボニル基量Dが30%以上であることを特徴とする本発明の第1に記載の高分子水性エマルジョンである。
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における高分子水性エマルジョンは、塗料、建築仕上塗材等として有用であり、具体的には、建築物、鋼構造物、建材、モルタル、コンクリート、プラスチック、自動車への塗料、建築仕上塗材等の下塗材あるいは基材へ直接塗装するシーラー、クリアーコート剤、塗料等として有用であり、好ましくは多孔性無機質板、コンクリート等の多孔質の下地基材に適する硬化型水性下地塗料用であり、さらに詳しくは、ケイ酸カルシウム板、セメント系無機質板、石膏ボード、押し出し成形板、コンクリート、軽量気泡コンクリート、モルタル、ロックウールボード、木毛板などの建材へ直接塗布されるか、または該直接塗布されるシーラーを介して塗られるシーラーまたは下地塗料として最適であり、下地となる建材等に対し密着性、耐水性、耐透水性などの良好な塗膜を形成することができる硬化型水性下地塗料用として有用である。
【0009】
本発明の高分子水性エマルジョンとしては、少なくとも2個のアルド基またはケト基を有する水溶性および/または水分散性であれば良く、かつ水性媒体中で油溶性開始剤を使用して重合される高分子水性エマルジョンであり、具体的には油溶性開始剤を使用してラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合された重合体であればよいが、好ましくは、高分子水性エマルジョンが、少なくとも2個のアルド基またはケト基を有する水溶性および/または水分散性であって、かつ水性媒体中で油溶性開始剤を使用することによって得られる重合体である。
【0010】
従来公知のポリ(メタ)アクリレート系、ポリビニルアセテート系、酢酸ビニル−アクリル系、酢酸ビニル−VeoVa系、エチレン酢ビ系、シリコーン系、ポリブタジエン系、スチレンブタジエン系、NBR系、ポリ塩化ビニル系、塩素化ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリスチレン系、塩化ビニリデン系、ポリスチレン−(メタ)アクリレート系、スチレン−無水マレイン酸系等の共重合体などのポリカルボニル重合体が挙げられ、シリコーン変性アクリル系、フッ素−アクリル系、アクリルシリコン、エポキシ−アクリル系等の変性共重合体も含まれ、これらの一種または二種以上を用いることができる。
これらの粒子径は、例えば0.01μ〜100μであり、さらには0.05μ〜10μである。
本発明において、高分子水性エマルジョンは、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性の何れであっても良い。
【0011】
アルド基またはケト基は、重合反応後カルボニル基として架橋反応に関与すると考えられる。分子中に少なくとも1個のアルド基またはケト基を有するエチレン性不飽和単量体を具体的に示せば、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、アクリルオキシアルキルプロパナール類、メタクリルオキシアルキルプロパナール類、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタクリレート、アセトニルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートアセチルアセテート、ブタンジオールアクリレートアセチルアセテート等が挙げられ、分子中に少なくとも1個のアルド基またはケト基を有するエチレン性不飽和単量体およびその他のエチレン性不飽和単量体を含むエチレン性不飽和単量体混合物を重合することにより、高分子水性エマルジョンが得られる。ただし、カルボン酸およびエステル類の持つカルボニル基を含有するエチレン性不飽和単量体は除外する。
【0012】
高分子水性エマルジョンを得るための単量体混合物では、分子中に少なくとも1個のアルド基またはケト基を有するエチレン性不飽和単量体を0.5重量%以上使用することが好ましい。単量体混合物中のアルド基またはケト基を有するエチレン性不飽和単量体の量が0.5%以上であることによって、架橋点が多くなり塗膜性能が充分となる。さらに好ましくは0.5重量%以上20重量%以下である。
【0013】
高分子水性エマルジョンを得るための単量体混合物において使用できるその他のエチレン性不飽和単量体として具体的には、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリルアミド系単量体、メタクリルアミド系単量体、シアン化ビニル類等が挙げられ、(メタ)アクリル酸エステルの例としては、アルキル基の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アルキル基の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、エチレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレン(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシプロピレン(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0014】
(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。
【0015】
(ポリ)オキシエチレン(メタ)アクリレートの具体例としては、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール等が挙げられる。
(ポリ)オキシプロピレン(メタ)アクリレートの具体例としては、(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコール等が挙げられる。
【0016】
(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレートの具体例としては、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール等が挙げられる。
(メタ)アクリルアミド系単量体類としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどがあり、シアン化ビニル類としては、例えば(メタ)アクリロニトリルなどがある。
【0017】
また上記以外の具体例としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン類、ブタジエン等のジエン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロオレフィン類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、n−酪酸ビニル、安息香酸ビニル、p−t−ブチル安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類、酢酸イソプロペニル、プロピオン酸イソプロペニル等のカルボン酸イソプロペニルエステル類、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル類、スチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物、酢酸アリル、安息香酸アリル等のアリルエステル類、アリルエチルエーテル、アリルグリシジルエーテル、アリルフェニルエーテル等のアリルエーテル類、さらにγ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6,−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6,−ペンタメチルピペリジン、パーフルオロメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピロメチル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、トリメチロルプロパントリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2,3−シクロヘキセンオキサイド、(メタ)アクリル酸アリル、メタクリル酸アシッドホスホオキシエチル、メタクリル酸3−クロロ−2−アシッドホスホオキシプロピル、メチルプロパンスルホン酸アクリルアミド、ジビニルベンゼン等やそれらの併用が挙げられる。
【0018】
高分子水性エマルジョンは、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性の何れであっても良い。中でもアニオン性であることは好ましく、特にカルボン酸基を含むことによりアニオン性であることが水溶性を高める観点から好ましい。カルボン酸基により高分子水性エマルジョンは酸価を有することになる。
高分子水性エマルジョンにカルボン酸基を含有させるには、重合時に使用する単量体混合物にエチレン性不飽和カルボン酸単量体を混合する。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸、無水マレイン酸およびイタコン酸、フマール酸、マレイン酸の半エステルなどが挙げられ、その共重合量としては、高分子水性エマルジョンが有する酸価が20mgKOH/g以上であり、好ましくは25mgKOH/g以上であり、さらに好ましくは25mgKOH/g以上250mgKOH/g以下である。酸価が20mgKOH/g以上において、高分子水性エマルジョンの水溶性が高くなるため、塗膜の各種下地基材に対する密着性が充分となる。
なお、酸価は、乾燥樹脂のg重量に対する、中和に使用したKOHの固形分重量である。
【0019】
高分子水性エマルジョンがノニオン性である場合の例としては、重合に使用する単量体混合物に、ノニオン基を持つエチレン性不飽和単量体を含有させる。具体的には、上記の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、(ポリ)オキシプロピレン(メタ)アクリレートが挙げられ、アニオン基またはカチオン基を持つエチレン性不飽和単量体は使用しない。ノニオン基を持つエチレン性不飽和単量体は、単量体混合物中0.5重量%〜30重量%で使用することが好ましく、単量体混合物中1重量%〜20重量%で使用されることがさらに好ましい。1重量%以上で下地基材への浸透性が良好となる。
高分子水性エマルジョンがカチオン性である場合は、重合に使用する単量体混合物に、カチオン基を持つエチレン性不飽和単量体を含有させる。
【0020】
カチオン基を持つエチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルおよび塩、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルおよび塩、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノプロピルおよび塩、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミドおよび塩、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミドおよび塩、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドおよび塩、ビニルピリジン、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミドエピクロルヒドリン付加物のハロゲン化塩、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドエピクロルヒドリン付加物のハロゲン化塩及びアルキルスルホン酸塩、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノメチルエピクロルヒドリン付加物のハロゲン化塩、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノプロピルエピクロルヒドリン付加物のハロゲン化塩及びアルキルスルホン酸塩などが挙げられる。
【0021】
カチオン基を持つエチレン性不飽和単量体は、単量体混合物中0.5重量%〜30重量%で使用されることが好ましく、単量体混合物中1重量%〜20重量%で使用されることがさらに好ましい。1重量%以上で下地基材への浸透性が良好となる。
高分子水性エマルジョンの数平均分子量は1000〜10万であり、1000〜5万であることが好ましく、4000〜5万であることがさらに好ましい。このように比較的低分子量の成分を有することで、高分子水性エマルジョンの各種下地への密着性が確保されると推定している。
本発明は、油溶性開始剤を使用することによって上記の所望の分子量を持つ高分子水性エマルジョンを得ることが可能となる。
【0022】
本発明の高分子水性エマルジョンの重合が、水性媒体中で油溶性開始剤を使用することによって懸濁重合、乳化重合、マイクロエマルジョン重合またはミニエマルジョン重合から得ることが好ましい。重合の際、分子中に少なくとも1個のアルド基またはケト基を有するエチレン性不飽和単量体およびその他のエチレン性不飽和単量体を含むエチレン性不飽和単量体混合物を水性媒体中へ、乳化剤の存在下で、ホモジナイザー等の乳化機により前もって乳化しておくことが好ましい。
【0023】
本発明の油溶性開始剤はラジカル重合触媒として、熱または還元性物質などによってラジカル分解してエチレン性不飽和単量体の付加重合を起こさせるものであり、具体的には、アゾ系開始剤として、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カーボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチル−ブチロニトリル)、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、2−2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリ−2ニル)プロパン]、2,2−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2−シアノ−プロピラゾ−ホルムアミド、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(2−ヒドロキシ−メチルプロピオニトリル)、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリ−2ーニル)プロパン]、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)等が挙げられ、
【0024】
過酸化物系開始剤としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,5,5トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、1,1ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチル、1,1ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサノン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジ−イソプロピルハイドロパーオキサイド、P−メタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンビス−ハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、イソブチルパーオキサイド、ラウロリルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、n−トルオイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネイト、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、
【0025】
ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ−3−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ−(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ビス−(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、a−a−ビス−ネオデカノイルパーオキシ)ジイソロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3,−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノールパーオキシ)ヘキサン、
【0026】
1,1,3,3,−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1,3,3,−テトラメチルブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス−t−ブチルパーオキシイソフタレート等が挙げられ、これら1種または2種以上を組み合わせて使用するこができる。その量としては分子中に少なくとも1個のアルド基またはケト基を有するエチレン性不飽和カルボニル基含有単量体と他の単量体の総量に対して通常0.05〜20重量%配合され、0.1〜10重量%配合されることが好ましく、0.2〜5重量%配合されることがさらに好ましい。
なお、重合速度の促進、さらに低温での重合を望むときには、重亜硫酸ナトリウム、塩化第一鉄、アスコルビン酸塩、ロンガリット等の還元剤をラジカル重合触媒と組み合わせて用いる。
【0027】
本発明では、上記の油溶性開始剤以外のラジカル重合触媒として、水溶性開始剤も併用することは可能であり、水溶性の過硫酸塩、過酸化物、アゾビス化合物等が使用できる。その例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルパーオキシマレイン酸、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ジハイドロクロライド、2,2−アゾビス[2−(5メチル−2−イミダゾリ−2ーニル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリ−2ーニル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2−アゾビス{2−メチル−N−[1−1ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2−アゾビス(2−メチル−プロピオンアミド)ジハイドレート等が挙げられ、通常は使用しなくても良いが、使用する場合にはその使用量としては、分子中に少なくとも1個のアルド基またはケト基を有するエチレン性不飽和カルボニル基含有単量体と他の単量体の総量に対し、10重量%以下が配合され、5重量%以下が配合されることが好ましく、0.01〜5重量%配合されることがさらに好ましい。
さらに、所望の分子量を持つ水溶性ポリカルボニル化合物を得る目的で、連鎖移動剤を重合過程で添加することも可能である。具体的には、ブチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類、メタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、α−メチルスチレンダイマー,四塩化炭素等が挙げられ、通常は使用しなくても良いが、使用する場合にはその使用量としては、分子中に少なくとも1個のアルド基またはケト基を有するエチレン性不飽和カルボニル基含有単量体と他の単量体の総量に対し、10重量%以下が配合され、5重量%以下が配合されることが好ましく、0.01〜5重量%配合されることがさらに好ましい。
【0028】
本発明の水性媒体中の懸濁重合、乳化重合、マイクロエマルジョン重合またはミニエマルジョン重合では重合用乳化剤を利用することが好ましい。アニオン性の場合には、アニオン性界面活性剤および/またはノニオン性界面活性剤を使用する。例えば、脂肪酸石鹸、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸塩、p−スチレンスルホン酸塩等のアニオン性界面活性剤である。また、反応型のアニオン性界面活性剤としては、例えば、三洋化成(株)製エレミノール(商標)JS−2、JS−5があり、花王(株)製ラテムル(商標)S−120、S−180A、S−180、第一工業製薬(株)製アクアロン(商標)HS−10、旭電化工業(株)製アデカリアソープ(商標)SE−1025N、メタアクリル酸スルホアルキルエステルの塩、p−スチレンスルホン酸の塩、リン酸エステル基を有する界面活性剤として旭電化工業(株)製アデカリアソープSDX−730、SDX−731、SDX−334(商品名)等のアンモニウム塩、ナトリウム塩およびカリウム塩などを用いることができる。また、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンプロックコポリマー等のノニオン性界面活性剤を用いることができる。
【0029】
またカチオン性の場合には、カチオン性界面活性剤および/またはノニオン性界面活性剤を使用する。例えば、ラウリルアミン塩酸塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルアンモニウムハイドロオキサイド、ポリオキシエチレンアルキルアミン等であり、またノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンプロックコポリマー等である。
これらの界面活性剤の使用量としては、高分子水性エマルジョンの固形分に対して0.05〜20重量%であることが好ましい。
【0030】
本発明の高分子水性エマルジョンは、重合中および/または重合後に、アニオン性であればアルカリ及び/または有機溶剤の添加によって、カチオン性であれば酸及び/または有機溶剤の添加によって、重合物の少なくとも一部を可溶化することにより、高分子水性エマルジョンを得ることもできる。
このような可溶化処理に使用されるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、有機アミン類、アンモニアが挙げられ、特に乾燥後の塗膜の耐水性を向上せしめる観点から、モノエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、モルホリン類としてモルホリン、4−モルホリノエタノールなどが好ましく挙げられる。この中で揮発性のアルカリ成分としてはアンモニアが好ましい。
酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、酢酸、乳酸、ヒドロキシ酢酸が挙げられ、その添加は重合の前でも、重合中でも、重合後であっても良い。
【0031】
また可溶化処理に使用できる有機溶剤は、アルカリまたは酸の添加だけでは水溶化が不充分であるときに補助的に使用しても良いし、有機溶剤だけで可溶化させても良い。使用される有機溶剤としては、例えばCS−12(チッソ(株)製)、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ベンジルアルコール、グルタル酸ジメチル、グルタル酸イソプロピル等が挙げられる。特に長期の分散安定性を保つ目的から高分子水性エマルジョンを上記のアルカリ成分または酸成分を使用してpHを3〜10の範囲に調整することが好ましい。
【0032】
本発明において、高分子水性エマルジョンのカルボニル基を定量するには、カルボニル基を含有する高分子水性エマルジョンに、該水性分散体中のカルボニル基と反応し得る化合物(A)を該カルボニル基に対して過剰当量添加して該カルボニル基と反応させ、次いで、該化合物(A)と反応し得る化合物(B)を未反応の該化合物(A)に対して過剰当量添加して該未反応の化合物(A)と反応せしめて化合物(C)を生成せしめたのち、該化合物(C)を定量し、その定量値から、即ち未反応の化合物(A)の量から、水性分散体のカルボニル基量を計算で求めればよい。好ましくは、化合物(A)が水溶性第1級アミン化合物の酸性塩であり、化合物(B)がケトン化合物またはアルデヒド化合物であり、化合物(C)が該酸性塩由来の酸であり、さらに好ましくは、水溶性第1級アミン化合物の酸性塩を添加してカルボニル基と反応せしめたのち、水性分散体のpHを2〜10に調整し、および水溶性第1級アミン化合物の酸性塩由来の酸の定量を、水性分散体のpHをケトン化合物若しくはアルデヒド化合物の添加前のpHとするのに要する塩基の量として測定する水性分散体のカルボニル基の定量方法であるか、または化合物(A)が水溶性第1級アミン化合物であり、化合物(B)がケトン化合物またはアルデヒド化合物であり、化合物(C)がオキシム化合物である水性分散体のカルボニル基の定量方法である。
【0033】
さらに詳しくは、カルボニル基と反応し得る化合物(A)は、溶媒に溶解し、カルボニル基と反応性を有するものである。具体的には、第1級アミン化合物類、第1級アミン化合物類の酸性塩、シアン化物類、亜硫酸水素塩、ヒドラジン化合物類、アルコール類、ハロゲン化合物類、イリド化合物類、銀化合物類が例示される。
具体的には、第1級のアミン化合物によるオキシム化合物の生成量を定量する方法、第1級アミン化合物の酸性塩を反応させる方法、シアン化物の付加反応によるニトリル化合物の生成量またはシアン化物の残量を定量する方法、亜硫酸水素塩による亜硫酸水素塩付加物の生成量または亜硫酸水素塩の残量を定量する方法、ヒドラジン化合物によるヒドラゾン化合物の生成量またはヒドラジン化合物の残量を定量する方法、アルコールの付加によるアセタール化合物の生成量またはアルコールの残量を定量する方法、ハロゲン化合物によるα−ハロゲン化物の生成量またはハロゲン化物の残量を定量する方法、イリド化合物を用いたwittig反応による化合物の生成量またはイリド化合物の残量を定量する方法、銀化合物等による銀の生成量または銀化合物等の残量を定量する方法が挙げられるが、分析精度、簡便さの点において、第1級アミン化合物もしくはその酸性塩を反応させる方法が優れている。特に簡便さに優れているのは酸性塩を反応させる方法である。
【0034】
第1級アミン化合物類としては、メチルアミン、エチルアミン、イソプロピルアミン、ヒドロキシルアミン、エタノールアミン、ジメチルヒドラジン等が挙げられ、好ましくはヒドロキシルアミンである。
第1級アミン化合物類の酸性塩としては、上記に記載の第1級アミン化合物類の塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩、乳酸塩、ヒドロキシ酢酸塩が挙げられるが、好ましくは、ヒドロキシルアミン塩酸塩である。
シアン化物類としては、シアン化ナトリウムシアン化カリウムが挙げられ、亜硫酸水素塩としては、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムが挙げられ、ヒドラジン化合物類としては、ヒドラジン、フェニルヒドラジン、セミカルバジド、フェニルセミカルバジドが挙げられ、アルコール類としては、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールが挙げられ、ハロゲン化合物としては、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられ、イリド化合物類としては、メチレントリフェニルホスホランが挙げられ、また、銀化合物類としては、Tollens試薬が挙げられる。
【0035】
本発明において、カルボニル基を含有する高分子水性分散体に対する化合物(A)の添加量は、水性分散体のカルボニル基量より過剰であればよいが、水性分散体のカルボニル基1当量に対して1.05当量以上が好ましく、1.5当量以上であることがさらに好ましく、3当量以上であることがさらに好ましい。
カルボニル基を定量するためには、上記化合物(A)とカルボニル基との反応による生成物の量もしくは化合物(A)の未反応量を定量しても良い。しかし、測定精度を高くするためには、さらに化合物(B)を添加して第2段目の反応を行うのがよい。
第2段目の反応としては、カルボニル基と反応しないで残っている化合物(A)に対して、化合物(B)を過剰当量添加して、残っている化合物(A)の全量を化合物(B)と反応せしめて化合物(C)を生成せしめる。
化合物(B)は、水性分散体の溶媒に溶解し、化合物(A)と反応するものであればよく特に制限されないが、生成する化合物(C)が簡便に精度良く測定できる化合物になるよう選択する。
【0036】
具体的には、化合物(A)として第1級アミン化合物もしくはその酸性塩を用いた場合には、化合物(B)として、ケトン化合物、アルデヒド化合物、エポキシ基含有化合物、カルボン酸ハロゲン化合物、スルホン酸ハロゲン化合物、酸無水物、亜硝酸塩等が挙げられる。これらの中では、化合物(B)として、ケトン化合物もしくはアルデヒド化合物を用いることが簡便で好ましい。
化合物(A)として第1級アミン化合物を用い、化合物(B)として、ケトン化合物もしくはアルデヒド化合物を用いた場合は、生成する化合物(C)はケトオキシム化合物またはアルドオキシム化合物であり、これを定量すればよい。
化合物(A)として第1級アミン化合物の酸性塩を用い、化合物(B)として、ケトン化合物もしくはアルデヒド化合物を用いた場合は、化合物(C)は遊離する酸であり、これを定量すればよい。特に優れているのは酸性塩を用いる方法である。
【0037】
その他、化合物(A)として第1級アミン化合物もしくは第1級アミン化合物の酸性塩を用いる場合に、化合物(B)としてエポキシ基含有化合物を用いてその反応生成物を定量する方法、カルボン酸ハロゲン化物またはスルホン酸ハロゲン化物との反応によるN−置換アミドまたはN−置換スルホンアミドを定量する方法、酸無水物との反応によるN−置換アミドを定量する方法、亜硝酸塩との反応によりジアゾニウム塩にした後、そのまま定量するか、さらに、ハロゲン基、水酸基によるジアゾニウム基の置換反応物、または酸によるジアゾニウム基とH基との置換反応物を定量する方法も挙げられる。
【0038】
化合物(B)として用いることができるケトン化合物としては、低分子量のケトン化合物であれば特に制限無く、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが挙げられ、またアルデヒド化合物としては、低分子量のアルデヒド化合物であれは特に制限無く用いることができ、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒドが挙げられる。ただし、水溶性であることが好ましく、具体的にはアセトンが挙げられる。
化合物(B)の添加量は、未反応の化合物(A)に対して過剰量であればよいが、添加した化合物(A)1当量に対して、1.01当量以上とすることが安全であり望ましい。また1.2当量以上であることがさらに好ましい。
【0039】
化合物(C)の測定方法としては、特に制限されないが、測定精度や簡便さを考慮するとガスクロマトグラフィーもしくは高速液体クロマトグラフィーを使用することが望ましい。
なお、化合物(C)としてオキシム化合物を定量する場合は、カルボニル基を含有する高分子水性エマルジョンと化合物(A)として添加した第1級アミン化合物との反応物と、第1級アミン化合物と化合物(B)として添加したケトン化合物もしくはアルデヒド化合物との反応物が混在することになる。多くの場合、水性分散体と化合物(C)は分子量や疎水度が異なるため容易に分離できるが、区別することが困難な場合は、あらかじめ両者を何らかの手段を用いて分離しておく必要がある。
【0040】
化合物(A)として第1級アミン化合物の酸性塩を用い、化合物(B)として、ケトン化合物もしくはアルデヒド化合物を用いた場合は、化合物(C)として定量すべき酸を精度良く定量するために、カルボニル基を有する高分子水性エマルジョンに、該高分子水性エマルジョン中のカルボニル基に対し過剰量の第1級アミン化合物の塩を添加し反応させた後、水性分散体のpHを2〜10の範囲内に調整することが反応速度を速める目的から好ましい。さらに系のpHを2〜8の範囲内に調整することは好ましく、pHを3〜6に調整することはさらに好ましい。pHの調整には強塩基を使用することが好ましく、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用することが好ましい。
【0041】
この場合、化合物(C)としての酸の定量は、系のpHを上記のように2〜10の範囲内に調整したあとに、未反応の水溶性第1級アミン化合物の塩に対し過剰量のケトン化合物もしくはアルデヒド化合物を添加し、続いて系のpHを該ケトン化合物および/またはアルデヒド化合物の添加前の値にするのに要する塩基の量を定量するのがよい。また使用する塩基としては、強塩基を使用することが好ましく、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用することが好ましい。
また、高分子水性エマルジョンに、過剰量の第1級アミン化合物の塩を添加し反応させるには、5℃〜100℃で30分以上加熱処理することが望ましく、特に反応時の分散安定性を確保する目的から、10℃〜80℃で1時間以上加熱処理することが好ましい。また、20℃〜50℃の範囲で2時間以上加熱処理することがさらに好ましい。
【0042】
本発明において、高分子水性エマルジョンに化合物(A)として第1級アミン化合物を添加する際、界面活性剤を併せて添加することが好ましい。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤を使用することが好ましく、さらに界面活性剤を添加すると共に液のpHを3〜11に調整することが好ましい。さらに好ましくは、高分子水性エマルジョンに化合物(A)として第1級アミン化合物の塩を添加する際に、ノニオン系界面活性剤を添加し、さらに液のpHを4〜10に調整することである。これらの操作により水性媒体中での正確な定量が可能となる。ノニオン系界面活性剤の添加量としては、好ましくは水性分散体100重量部(水を含んだ量である。)に対して0.1〜300重量部、さらに好ましくは高分子水性エマルジョンに対し0.5〜50重量部である。
【0043】
次に、本発明における高分子水性エマルジョンのカルボニル基分布を定量する方法について説明する。前述したように、ここでいうカルボニル基とはケト基あるいはアルド基である。
本発明における高分子水性エマルジョンは、主として、水性媒体と水性分散体重合体粒子(以下、分散体粒子)とからなり、該水性エマルジョンに含まれるカルボニル基の由来として、以下の4通りのものがある。
α;水性媒体中に分散する化合物に由来するカルボニル基。
β;分散体粒子表面に吸着した化合物に由来するカルボニル基。
γ;分散体粒子を形成する重合体に由来し、分散体粒子表層部に存在するカルボニル基。
δ;分散体粒子を形成する重合体に由来し、分散体粒子内層部に取り込まれているカルボニル基。
【0044】
ここで、γにおける粒子表層部分とは、粒子表面近傍も含む。即ち、γカルボニル基には、分散体粒子のある程度の内部に存在するカルボニル基量も含まれる。また、δカルボニル基は、分散体粒子内層部に取り込まれているため、α〜γカルボニル基に比べて化学的に不活性であり、前述のカルボニル基と反応性を有する試薬を用いた定量法により、直接定量することはできず、下記に述べるカルボニル基量H(=δ)として計算により求められる。
以下に定義する、本発明における、種々のカルボニル基量A〜Iは、同じく、以下に述べる測定法、並びに計算により求めることができる。
▲1▼ 高分子水性エマルジョンに対し、前記記載のいずれかの方法でカルボニル基量A(=α+β+γ)を定量する。
▲2▼ 高分子水性エマルジョンを溶解または充分膨潤せしめたあと、前記記載のいずれかの方法で高分子水性エマルジョンに含まれる全カルボニル基量B(=α+β+γ+δ)を定量する。
【0045】
▲3▼ 高分子水性エマルジョンに対して過剰の乳化剤を添加混合し、次に固液分離し、前記のいずれかの方法で、水相に含まれている、分散体粒子を形成する重合体に由来しないカルボニル基量C(=α+β)を定量する。
▲4▼ 高分子水性エマルジョンに対して過剰の乳化剤を添加混合し、次に固液分離し、前記記載のいずれかの方法で、固相に含まれている分散体粒子表層部のカルボニル基量D(=γ)を定量する。
▲5▼ 高分子水性エマルジョンに対して過剰の乳化剤を添加混合し、次に固液分離したあと、固相部分を溶解せしめ、前記のいずれかの方法で、分散体粒子形成の重合体に由来するカルボニル基量E(=γ+δ)を定量する。
▲6▼ 高分子水性エマルジョンをそのまま固液分離し、前記のいずれかの方法で、液相に含まれている水性媒体中に存在するカルボニル基量F(=α)、もしくは固相に含まれている分散体粒子表面に存在するカルボニル基量G(=β+γ)を定量する。
【0046】
上記の▲1▼〜▲6▼のいずれの工程でも、前記のいずれかの定量方法を用いて高分子水性エマルジョンにおける所定の種類のカルボニル基量を定量できる。
▲1▼の工程では、分散体粒子は粒子が水性媒体中に分散している状態のままで定量を行うため、粒子内部に埋もれているカルボニル基は定量結果に寄与しないと考えられる。すなわち水相部分と分散体粒子表面部分に存在するカルボニル基量を定量していると考えられる。このようにして定量されたカルボニル基量をAとする。
▲2▼の工程では、高分子水性エマルジョンを何らかの手段によって溶解あるいは膨潤せしめてから定量を行うため、粒子内部のカルボニル基も定量結果に寄与すると考えられる。すなわち水相部分、分散体粒子表面部分、分散体粒子内部部分のすべての部分のカルボニル基量が定量されると考えられる。このようにして定量されたカルボニル基量をBとする。なお、分散体粒子を溶解または膨潤せしめる溶媒としては、例えば、テトラヒドロキシフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシド、N,N−ジメチルアセトアミドが挙げられ、必要に応じて一部水を除去する方法が挙げられる。
【0047】
▲3▼の工程では、まず高分子水性エマルジョンに対して過剰の乳化剤を添加混合することにより、粒子表面に吸着した成分を水性媒体中に溶解させ、しかる後水性分散体を限外濾過、遠心分離等により固液分離し、粒子部分と水相部分を分離してから、水相部分のカルボニル基量を定量する。すなわち分散体粒子吸着および高分子水性エマルジョンの水相のカルボニル基量の和として定量される水相部分のカルボニル基量であり、このカルボニル基量をCとする。
▲4▼の工程では、▲3▼の工程と同様に高分子水性エマルジョンを固液分離した後、粒子部分を溶解せしめることなく、分散体粒子が分散しているままでカルボニル基量を定量する。具体的には、固相を分離した後、乳化剤等を添加し、超音波振動により再分散させてから、定量を行うことが好ましい。このようにすることにより分散体粒子表面部分に固定しているカルボニル基量が定量されると考えられる。このカルボニル基量をDとする。
【0048】
▲5▼の工程では、▲3▼の工程と同様に高分子水性エマルジョンを固液分離した後、粒子部分を▲2▼の工程と同様にして溶解せしめ、しかるのち、溶解した粒子部分のカルボニル基量を測定する。このようにすることにより分散体粒子の表面部分と内部部分を併せた粒子全体に固定しているカルボニル基量が定量されると考えられる。このカルボニル基量をEとする。
▲6▼の工程では、水相部分の一部が分散体粒子表面に吸着したままの状態でのカルボニル基量を定量していると考えられる。
【0049】
▲1▼から▲6▼の工程を利用し、各部分のカルボニル基量A、B、Cを直接定量するか、または下記の計算式を利用し、算出することができる。
▲1▼から▲6▼の定量工程の定量結果に基づき、下記(1)〜(4)の式を適宜用いて、更に各種のカルボニル基量を計算により求めることができる。
(1)分散体粒子形成の重合体に由来しないカルボニル基量C=A−DまたはB−E
(2)分散体粒子表面に露出したカルボニル基量D=A−CまたはE+A−B
(3)分散体粒子内部のカルボニル基量H(=δ)=E−DまたはB−AまたはB−C−D
(4)分散体粒子表面に吸着しているカルボニル基量I(=β)=C−FまたはG−D
例えば、分散体粒子形成の重合体に由来しないカルボニル基量Cを知るためには、Cを直接定量するほか、AとDを定量、もしくはBとEを定量してそれらの差を求めてもよい。また、分散体粒子表面に露出したカルボニル基量Dを求めるためには、Dを直接定量するほか、AとCを定量してその差を求めてもよく、これらいずれかを採用することで、できるだけ少ない工程でカルボニル基分布を知ることができる。また、どの部分のカルボニル基量を知りたいかにより、もっとも目的にかなった定量方法を組み合わせて選択すればよい。
【0050】
本発明においてカルボニル基を含有する高分子水性エマルジョンが該水性エマルジョン中に、不純物として硫酸根および/又はカルボン酸根と共存していてもカルボニル基分布定量が可能であり、具体的には、硫酸根が由来する化合物としては、硫酸イオン化合物、スルホン酸基を持つ化合物、硫酸エステル基を持つ化合物が挙げられおよびその塩も含まれ、カルボン酸根が由来する化合物としては、炭酸イオン化合物、カルボン酸基を持つ化合物が挙げられおよびその塩も含まれる。
本発明において、分散体粒子分配率とは、上述のカルボニル基量HのBに対する割合(=[H/B])で定義される。
本発明カルボニル基量は上記に示したいずれか方法によって定量されるものであって、本発明の第1においては、高分子水性エマルジョンは、カルボニル基の分散体粒子分配率が50%未満である。
【0051】
本発明の第2において、カルボニル基を含有する高分子水性エマルジョンでは、全カルボニル基量Bに対し、該カルボニル基の分散体粒子分配率が50%未満であると共に、該分散体粒子表面部分のカルボニル基量Dが30%以上であることを特徴とする本発明の第1の高分子水性エマルジョンである。好ましくはカルボニル基の分散体粒子分配率が40%未満であると共に、分散体粒子表面部分のカルボニル基量Dが40%以上であり、さらに好ましくはカルボニル基の分散体粒子分配率が35%未満であると共に、分散体粒子表面部分のカルボニル基量Dが45〜95%である。
このときの全カルボニル基量Bとしては、不揮発固形分1gに対してカルボニル基量が1.5mmol以下の範囲であり、不揮発固形分1gに対してカルボニル基量が1mmol以下の範囲であることが好ましく、不揮発固形分1gに対してカルボニル基量が0.6mmol以下の範囲であることがさらに好ましい。
本発明の第3に示す1分子中に2個以上のヒドラジン基および/またはセミカルバジド基を有するヒドラジン誘導体は、セミカルバジド基の耐加水分解性がヒドラジン基より良好であることから、ヒドラジン誘導体はセミカルバジド基を有するポリセミカルバジド化合物であることが好ましい。
【0052】
本発明において、ヒドラジン誘導体中のヒドラジン基および/またはセミカルバジド基と、該水性エマルジョンのカルボニル基Bとの比率は、モル比で0.01〜10の範囲であり、好ましくは0.05〜5の範囲であり、さらに好ましくは0.1〜2範囲である。この範囲では低汚染性に優れるが、さらにヒドラジン誘導体中のヒドラジン基および/またはセミカルバジド基と、該水性分散体中のカルボニル基Aとの比率が、モル比で0.01〜10の範囲であり、好ましくは0.05〜5の範囲であり、さらに好ましくは0.1〜2の範囲であり、この範囲において、下地基材に対する密着性および耐透水性に優れた塗膜を提供できる。
【0053】
本発明において、ヒドラジン誘導体としては、ポリヒドラジド化合物、ポリセミカルバジド化合物、または次式(1)で表される炭酸ポリヒドラジド類等が挙げられる。
【化1】
(式中、xは0〜20の整数を意味する。)
【0054】
ポリヒドラジド化合物の具体例としては、蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジヒドラジド、ヘキサデカンジオヒドラジド、1,4−シクロヘキサンジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イミノジ酢酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフトエ酸ジヒドラジド、1,4−ナフトエ酸ジヒドラジド、4,4‘−ビスベンゼンジヒドラジド、2,6−ピリジンジヒドラジド等のジカルボン酸ジヒドラジド類、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、トリメリット酸トリヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、ニトリロ酢酸トリヒドラジド、1,2,4−ブタントリカルボン酸トリヒドラジド等のトリカルボン酸トリヒドラジド類、ピロメリット酸テトラヒドラジド、1,4,5,8−ナフトエ酸テトラヒドラジド、エチレンジアミン四酢酸テトラヒドラジド等のテトラカルボン酸テトラヒドラジド類及び次式(2)で表されるがごとき数平均分子量が500〜500000の酸ヒドラジド系ポリマー等やそれらの併用が挙げられる。
【0055】
【化2】
(式中、Xは水素原子またはカルボキシル基であり、Yは水素原子またはメチル基であり、Aはアクリルアミド、メタアクリルアミド、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、無水マレイン酸から選ばれる単量体の重合した単位であり、Bはアクリルアミド、メタアクリルアミド、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、無水マレイン酸と共重合可能な単量体の重合した単位である。また、l、m及びnは下記の各式を満足する各構成成分のモル分率を示す。
2モル%≦l≦100モル%
0モル%≦m+n≦98モル%
l+m+n=100モル%
また、上記酸ヒドラジド系ポリマーは、ランダム共重合体でも、ブロック共重合体でもよい。)
【0056】
ポリセミカルバジド化合物の具体例としては、下記式(3)で表されるセミカルバジド誘導体、下記式(4)で表されるビスセミカルバジド類等が挙げられる。
セミカルバジド誘導体組成物が、次式(3)で表されるセミカルバジド誘導体であることは好ましい。
【化3】
【0057】
(式中、R1 は、直鎖状又は分岐状の炭素数2〜20のアルキレンジイソシアネート、置換されていないか或いは炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基又は炭素数1〜6のアルキレン基で置換されている炭素数5〜20のシクロアルキレンジイソシアネート、置換されていないか或いは炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数1〜8のアルコキシ基で置換されている炭素数6〜20のアリーレンジイソシアネート、及び置換されていないか或いは炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数1〜8のアルコキシ基で置換されている炭素数8〜20のアラルキレンジイソシアネートからなる群から選ばれる少なくとも一種のジイソシアネートの3量体〜20量体オリゴマーに由来する末端イソシアネート基を有さないポリイソシアネート残基、もしくはR1 は炭素数1〜8のイソシアナトアルキル基で置換されている炭素数2〜20のアルキレンジイソシアネートに由来する、末端イソシアネート基を有さないトリイソシアネート残基を表わす。R2 は、直鎖状又は分岐状の炭素数2〜20のアルキレン基、炭素数5〜20のシクロアルキルレン基、もしくは置換されていないか或いは炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数1〜8のアルコキシ基で置換されている炭素数6〜10のアリーレン基を表わす。R3 は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表わす。nは0又は1を表す。
l及びmは各々0または正の整数であり、ただし2≦(l+m)≦20であり、好ましくは3≦(l+m)≦20である。)
【0058】
【化4】
(式中、R4 は、直鎖状または分岐状の炭素数2〜20の2価の脂肪族残基、炭素数6〜25の2価の脂環族残基、置換基を有しても有さなくても良い炭素数6〜25の2価の芳香族残基、及び置換基を有しても有さなくても良い炭素数6〜25の2価の芳香脂環族残基を表す。R2 は、水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表す。)
【0059】
上記ポリセミカルバジド化合物の中で、式(3)で表されるセミカルバジド誘導体は、高分子水性エマルジョンの硬化剤として用いた場合、多官能の上、後で述べるカルボニル基を含有する高分子水性エマルジョンに対する相溶性が良好なため、架橋能力が高く、強靭でかつ耐水性に優れた皮膜を得ることができるので非常に好ましい。すなわち、組成物の平均セミカルバジド残基数は2.5個以上であることであり、好ましくは2.5個以上20個以下、より好ましくは3個以上20個以下である。
【0060】
本発明において、1分子あたりのセミカルバジド残基数とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるスチレン換算のセミカルバジド組成物数平均分子量をM、ポリセミカルバジド化合物1グラム中に含まれるセミカルバジド基のモル数をSとしたとき、M×Sで表される数で定義される。
このポリセミカルバジド化合物は、例えば、ポリイソシアネート化合物とヒドラジン化合物とを反応させることによって得られ、具体的には1分子中に−NCO基を平均2個以上、好ましくは平均2.5個以上20個以下、より好ましくは3個以上20個以下有するポリイソシアネート化合物とヒドラジン化合物とを反応させることによって得ることができる。
【0061】
上記式(3)で表されるポリセミカルバジド化合物の製造方法の一例について説明する。
式(3)中、l+m=2であるポリセミカルバジド化合物は、1分子中に−NCO基を2個有するジイソシアネート化合物とヒドラジン化合物とを反応させることによって得られる。
また、より防水性能に優れた組成物を得るためには、前記式(3)で表されるセミカルバジド誘導体が、1分子中に−NCO基を3個以上持つポリイソシアネート化合物とヒドラジン化合物とを反応させることによって得られるものであることが望ましい。
1分子中に−NCO基を3〜20個有するポリイソシアネート化合物、およびそれから誘導されるポリセミカルバジド化合物は、例えばWO96/01252号パンフレットに記載の方法で得ることができる。
【0062】
ここで、ポリイソシアネート1分子中の−NCO基数が20を超えない範囲がセミカルバジド基の数が比較的適当で、ポリセミカルバジド化合物(3)の粘度が高くなりすぎにくく、好適に取り扱える範囲である。
1分子中に−NCO基を3〜20個有するポリイソシアネート化合物は、ジイソシアネート化合物をオリゴマー化して得られる。例えば、ジイソシアネート類をビュレット結合、尿素結合、イソシアヌレート結合、ウレタン結合、アロファネート結合、ウレトジオン結合等によりオリゴマー化したポリイソシアネート化合物、更には1,8−ジイソシアナト−4−イソシアナトメチルオクタン及びこれらの併用が挙げられる。
具体的には、樹脂との相溶性の点から、基本骨格としてイソシアヌレート構造またはビュレット構造を有するポリイソシアネート化合物が好ましい。
【0063】
本発明においては、ポリセミカルバジド化合物又はその原料であるポリイソシアネート化合物が、ヒドラジン化合物の鎖延長により高分子化することを防ぐ目的から、ヒドラジン化合物を下式(5)で表されるモノアルデヒドまたはモノケトン等と反応させ、ヒドラゾン基として封鎖して用いることもできる。
R5 R6 C=O (5)
(式中、R5 、R6 は各々独立して水素原子、直鎖状もしくは分岐状の炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、もしくは置換されていないか或いは炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数1〜8のアルコキシル基で置換されている炭素数6〜10のアリール基を表し、R5 、R6 は場合によっては共同して環状構造を形成してもよい。)
【0064】
この場合、生成するポリセミカルバジド化合物はセミカルバジド基がセミカルバゾン基として封鎖されたものとなり、上記式(3)のポリセミカルバジド化合物の末端封鎖体である。
ポリセミカルバジド化合物から封鎖剤として用いたモノアルデヒド又はモノケトンの脱離は、本発明のカルボニル基を含有する高分子分散体へ混合使用する前に、または本発明の高分子水性エマルジョンの塗装後に加水分解して留去するのが好ましい。従って、留去させやすい上記封鎖剤としては30〜200℃の沸点を有するモノケトン、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等が好ましい。
【0065】
ポリセミカルバジド化合物は高分子水性エマルジョンへ溶解または分散して使用することが好ましく、特に水性媒体への分散性または溶解性、高分子水性エマルジョンへの分散性または溶解性を制御する目的で、高分子水性エマルジョンへ分散を必要する場合には、水に対し不溶または難溶性のポリセミカルバジド化合物を、水性媒体または高分子水性エマルジョンへ溶解して使用する場合には、水溶性ポリセミカルバジド化合物使用するが、とくに下記式(6)で表される親水性基含有化合物から選ばれる少なくとも1つを含有するポリセミカルバジド化合物あるいはポリセミカルバジド化合物との併用、下記のポリセミカルバジド化合物とケトン酸及び/又はその塩あるいはセミカルバジド誘導体との併用、またはセミカルバジド誘導体と界面活性剤との併用がすることがさらに好ましい。水性樹脂と混合しやすいように、水性媒体中へ分散した状態もしくは水性媒体中へ溶解した状態で存在するよう、これらポリセミカルバジド化合物について、下記に詳述する。
本発明において、前記式(3)で表されるポリセミカルバジド化合物からなるポリセミカルバジド化合物の水性媒体中への分散安定性や溶解性を補助する目的で、下記式(6)で表される親水性基含有化合物から選ばれる少なくとも1つとを混合して使用することができる。
【0066】
【化5】
【0067】
(式中、R11は、直鎖状又は分岐状の炭素数2〜20のアルキレンジイソシアネート、置換されていないか或いは炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基又は炭素数1〜6のアルキレン基で置換されている炭素数5〜20のシクロアルキレンジイソシアネート、置換されていないか或いは炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数1〜8のアルコキシ基で置換されている炭素数6〜20のアリーレンジイソシアネート、及び置換されていないか或いは炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数1〜8のアルコキシ基で置換されている炭素数8〜20のアラルキレンジイソシアネートからなる群から選ばれる少なくとも一種のジイソシアネートの3量体〜20量体オリゴマーに由来する、末端イソシアネート基を有さないポリイソシアネート残基、もしくはR11は炭素数1〜8のイソシアナトアルキル基で置換されている炭素数2〜20のアルキレンジイソシアネートに由来する、末端イソシアネート基を有すさないトリイソシアネート残基を表わす。R12は、直鎖状又は分岐状の炭素数2〜20のアルキレン基、炭素数5〜20のシクロアルキルレン基、もしくは置換されていないか或いは炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数1〜8のアルコキシ基で置換されている炭素数6〜10のアリーレン基を表す。R13は、水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表わす。Yは、非イオン系親水性基、イオン系親水性基及びイオン系親水性基に転化しうる基よりなる群(ただし、結合するカルボニル基に「O(酸素原子)」で結合する基は除く)から選ばれる少なくとも1つの有機基を表す。nは0又は1を表す。p及びqは、各々0または正の整数であり、rは正の整数であり、3≦(p+q+r)≦20である)
【0068】
上記式(6)で表される親水性基含有化合物のセミカルバジド基がセミカルバゾン基として封鎖された化合物が、式(6)における末端基H2 NR13N−の少なくとも1つが式R6 R5 C=NR13N−で表される封鎖末端基を有している(式中、R5 、R6 は各々独立して水素原子、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、もしくは置換されていないか或いは炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数1〜8のアルコキシ基で置換されている炭素数6〜10のアリール基をあらわし、R5 とR6 は場合によっては共同して環状構造を形成していてもよい。)親水性基含有化合物の末端封鎖体として用いることもできる。
【0069】
即ち、上記式(3)で表されるポリセミカルバジド化合物から選ばれる少なくとも1つと、上記式(6)で表される親水性基含有化合物から選ばれる少なくとも1つとを含有するポリセミカルバジド化合物を高分子水性エマルジョンとして有利に用いることができる。
そして、式(3)で表されるポリセミカルバジド化合物から選ばれる少なくとも1つと、式(6)で表される親水性基含有化合物から選ばれる少なくとも1つとを含有する組成物において、それらの重量比が99/1〜10/90の範囲内であることが望ましい。これにより、水性媒体あるいは分散体粒子に対して溶解性に優れるポリセミカルバジド化合物が得られる。
本発明の式(3)で表されるポリセミカルバジド化合物から選ばれる少なくとも1つと、式(6)で表される親水性基含有化合物から選ばれる少なくとも1つとを含有する組成物は、例えば、前記のWO96/01252号パンフレットに記載の方法で得ることができる。
【0070】
本発明において、ヒドラジン誘導体として、ポリセミカルバジド化合物と、ケトン酸及び/またはその塩との混合物を使用することも可能である。これは高分子水性エマルジョンへの混合を可能とし、防水性能性に優れた組成物を得ることができるからである。この場合、ポリセミカルバジド化合物が前記式(3)で表されるポリセミカルバジド化合物であれば好ましく、またポリセミカルバジド化合物が難水溶性のポリセミカルバジド化合物であれば、さらに好ましい。ここで難水溶性とは、25℃における水100gに対する溶解度が5g以下であることとする。
この本発明のポリセミカルバジド化合物は、樹脂と混合しやすいように、水性媒体中への分散及び水性媒体中への溶解からなる群から選ばれる少なくとも一つの状態であることが好ましい。
【0071】
本発明に係わるポリセミカルバジド化合物を水に分散あるいは溶解させる際には、場合によっては上記した式(6)で表される親水性基含有化合物以外の、他の界面活性剤を加えてもよい。このような界面活性剤の例としては、高級脂肪酸、酸性脂肪アルコール、アルキルスルホン酸塩、アルキルこはく酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸塩、スルホこはく酸アルキルエステルの塩、アルケニルこはく酸塩等のアニオン性界面活性剤や、エチレンオキサイドと長鎖脂肪アルコールまたはフェノール類、リン酸類との公知の反応生成物に代表されるノニオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、エチレンオキサイドとリン酸類との公知の反応生成物等のノニオン性界面活性剤、4級アンモニウム塩等を含有するカチオン性界面活性剤、(部分鹸化)ポリビニルアルコール等の高分子分散安定剤等やそれらの併用が挙げられる。
特に、式(6)で表される親水性基含有化合物またはアルケニルこはく酸塩が、式(3)のポリセミカルバジド化合物との親和性が高いので好ましい。
【0072】
本発明において、式(3)のポリセミカルバジド化合物へ親水性を付与するため、ケトカルボン酸類が挙げられ、具体的には、モノケトンカルボン酸としては下記一般式(7)、モノケトンジカルボン酸としては下記一般式(8)で示される。
モノケトンカルボン酸としては一般式(7)で示される。
【化6】
(式中、R7 は、水素原子、フェニル基、又は置換されていないか或いはヒドロキシル基又は炭素数1〜8のアルコキシ基で置換されている直鎖状または分岐状の炭素数1〜30のアルキル基を表す。R8 は、置換されていないか或いはヒドロキシル基又は炭素数1〜8のアルコキシ基で置換されている直鎖状または分岐状の炭素数1〜30のアルキレン基を表す。pは0又は1を表す。)
【0073】
具体的に例えば、ピルビン酸、レブリン酸、アセト酢酸、トリメチルピルビン酸、プロピオニル酢酸、ベンゾイルギ酸、フェニルピルビン酸、ケトカプリン酸、ケトウンデカン酸、ケトステアリン酸、ケトヘンエイコセン酸、ベンゾイル酢酸、ベンゾイルプロピオン酸、ケトグリコン酸等が挙げられる。
モノケトンジカルボン酸としては一般式(8)で示される。
【化7】
(式中、R9 、R10は、各々独立して、置換されていないか或いはヒドロキシル基又は炭素数1〜8のアルコキシ基で置換されている直鎖状または分岐状の炭素数1〜30のアルキレン基を表す。q、rは、各々0又は1を表す。)
【0074】
具体的に例えば、ケトマロン酸、アセトンジカルボン酸、2−ケトグルタル酸、アセトンジ酢酸、アセトンジプロピオン酸等が挙げられる。ケトン酸の塩は、上記ケトン酸を塩基で中和することにより得ることができる。中和に用いる塩基としては、例えばKOH、NaOH、LiOH等のアルカリ金属の水酸化物、アミン類等や、これらの併用が挙げられる。
上記アミン類の具体例としては、例えば、アンモニア、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、N−メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン等が挙げられる。
ポリセミカルバジド化合物と、一般式(7)及び/または一般式(8)との混合は、任意の割合で行うことができるが、ポリセミカルバジド化合物中のセミカルバジド基に対する一般式(7)または一般式(8)中のケト基の比が、(ケト基)/(セミカルバジド基)モル比で0.001〜10の範囲であることが好ましい。
【0075】
また、ポリセミカルバジド化合物と一般式(7)及び/または一般式(8)との混合は、任意の温度範囲において、無溶媒または溶媒中で行うことができる。上記溶媒の具体例としては、水、t−ブタノール、イソプロパノール、2−ブトキシエタール等のアルコール類、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン等のラクタム系溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、酢酸エチル、セロソルブアセテート等のエステル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒等やその併用が挙げられる。
【0076】
ポリセミカルバジド化合物の調整では界面活性剤を使用することができる。使用できる界面活性剤としては、例えば、ヘキサメタリン酸のナトリウム塩、カリウム塩、またはアンモニウム塩、トリポリリン酸のナトリウム塩、カリウム塩、またはアンモニウム塩、ポリアクリル酸等のカルボン酸基を持つポリマーのナトリウム塩、カリウム塩、またはアンモニウム塩。その他、例えば、高級脂肪酸、樹脂酸、酸性脂肪アルコール、硫酸エステル、高級アルキルスルホン酸、スルホン酸アルキルアリル、スルホン化ひまし油、スルホこはく酸エステル、アルケニルコハク酸等の塩に代表されるアニオン性界面活性剤、あるいはエチレンオキサイドと長鎖脂肪アルコールまたはフェノール類、リン酸類との公知の反応生成物に代表されるノニオン性界面活性剤、4級アンモニウム塩等を含有するカチオン性界面活性剤、(部分鹸化)ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の高分子分散安定剤等、その他ポリエーテル系増粘剤等の増粘剤、可塑剤、成膜助剤やそれらの併用が挙げられる。
【0077】
本発明の高分子水性分散物には通常塗料等に添加配合される成分、例えば粘性調整剤、pH調整剤、消泡剤、顔料、充填剤、分散剤、染料、防腐剤、界面活性剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤、有機溶剤、湿潤剤、界面活性剤、増粘剤、可塑剤、成膜助剤、防錆剤等を配合することは任意である。これらは、例えばアトライター、サンドミルなどの練肉機を使用して分散を行い、所定の粘度になるよう調整を行う。
【0078】
【発明の実施の形態】
以下に、実施例などを用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
実施例中の部は重量部を意味する。
実施例中に用いられる各種物性の測定方法は、下記の通りである。
▲1▼ 限外濾過
アドバンテック(株)ウルトラフィルターユニットを使用した。
▲2▼ 自動滴定装置による酸の定量
三菱化学製 GT−05を使用した。
【0079】
▲3▼ 数平均分子量
ゲルパーミィテーションクロマトグラフィーを用いて、ポリスチレン標品検量線より求めた。
【0080】
▲4▼ 平均セミカルバジド残基数の測定方法
サンプル約0.2g(Wグラム)をジメチルアセトアミド10ccに溶解する。これに、シクロヘキシルイソシアネート2.5gを50ccのジメチルアセトアミドに溶解した液を5cc加え、室温で1時間放置する。その後、ジノルマルブチルアミン3.2gをトルエン100ccに溶解した液10cc加え、さらに30分放置する。その後、イソプロパノール70ccを加え、指示薬としてブロモクレゾールグリーンを少量加え、0.1規定の塩酸(ファクターをF)で滴定する(滴定量A)。同様の操作をサンプルを加えないで行う(滴定値B)。以下の式により平均セミカルバジド残基数(単位はmeq/g)を求めた。
(B−A)×0.1×F/W
【0081】
▲5▼ 高分子水性エマルジョンの評価
各実施例または各比較例の組成物について下記に示す評価を行った。
(a)常態付着性
フレキシブル板、ケイ酸カルシウム板の7cm×15cmの試験体を用意し、15%の濃度に調整した各実施例または各比較例の組成物を、100g/m2 となるように塗布し、温度20℃,湿度65%の恒温恒湿室に7日間放置して乾燥した。続いて4mm×4mmの碁盤目状に25枡となるようカッターにてカットし、セロハンテープによる剥離テストを実施し、残留区画数を数えた。
◎:20個以上残存
△:5〜19個残存
×:4個以下の残存
【0082】
(b)湿潤付着性
フレキシブル板、ケイ酸カルシウム板の7cm×15cmの試験体を用意し、15%の濃度に調整した各実施例または各比較例の組成物を、100g/m2 となるように塗布し、温度20℃,湿度65%の恒温恒湿室に7日間放置して乾燥した。さらに50℃の温水中に10日間浸漬し、湿潤常態のまま4mm×4mmの碁盤目状に25枡となるようカッターにてカットし、セロハンテープによる剥離テストを実施し、残留区画数を数えた。
◎:20個以上残存
○:5〜19個残存
△:4個以下の残存
×:残存なし
【0083】
(c)透水試験a
フレキシブル板、ケイ酸カルシウム板の15cm×15cmの試験体を用意し、15%の濃度に調整した各実施例または各比較例の組成物を、100g/m2 となるように塗布し、温度20℃,湿度65%の恒温恒湿室に7日間放置して乾燥した。JIS−A−6909に定める透水試験B法により、24時間後の透水量を測定した。
◎:1cc以下
○:5cc未満
×:5cc以上
【0084】
(d)透水試験b
軽量気泡コンクリートとしてヘーベルライト(旭化成工業(株)製)の30cm×30cmの試験体を用意し、50%の濃度に調整した各実施例または各比較例の組成物を、400g/m2 となるように塗布し、温度20℃,湿度65%の恒温恒湿室に7日間放置して乾燥した。JIS−A−6909に定める透水試験B法により、24時間後の透水量を測定した。
◎:1cc以下
○:5cc以下
△:25cc未満
×:25cc以上
【0085】
【参考例1】
高分子水性エマルジョン(1)の調製
攪拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を取りつけた反応容器に、水400部を投入し、反応容器内を80℃とする。次に、メタクリル酸63部、ジアセトンアクリルアミド45部、メタクリル酸メチル350部、アクリル酸ブチル542部、n−ドデシルメルカプタン8.0部の混合液へ2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)15部を溶解後、このモノマー混合液と、水550部、ラテムルS−180A(花王(株)製、界面活性剤:商品名)の20%水溶液40部、過硫酸アンモニウム1.5部の混合液とをホモジナイザーによりプレ乳化液とし、滴下槽より反応容器中への4時間かけて流入させる。流入中は反応容器中の温度を83℃に保つ。流入が終了してからさらに2時間保つ。室温まで冷却後、25%アンモニア水を添加してpH6.5とし、樹脂固形分49.7%、平均粒子径3120Åの高分子水性エマルジョン(1)を得た。数平均分子量は25000であった。
【0086】
<高分子水性エマルジョン表面部分のカルボニル基量Aの定量>
カルボニル基を含有する高分子水性エマルジョン(1)2.00gへ水5.00gおよびニューコール506(商品名、花王(株)製、界面活性剤)25%水溶液0.30gを加え約10分攪拌した後、1.96%塩酸ヒドロキシルアンモニウム水溶液1.80gを添加し、30℃の温浴にて約8時間攪拌し反応液を得た。この反応液のpHを測定したところ2.67であった。さらにこの反応液の内、2.50gを他容器に取り、水20gを添加し、0.1規定水酸化ナトリウム水溶液にてpHを4.00に調整する。引き続き、メチルエチルケトン1.00gを添加し25℃で攪拌し、pHを測定したところ1.77であった。続いて攪拌下にてこの反応液へ、0.02規定の水酸化カリウム水溶液を滴下し、pH4.00になる量を測定した。この測定量から、カルボニル基量Aの値として、カルボニル量はカルボニル基を含有する高分子水性分散体固形分1gに対し0.2197mmolであり、高分子水性分散体中の全カルボニル量Bの85.9%が存在した。
【0087】
<水相部分のカルボニル基量Cの定量>
カルボニル基を含有する高分子水性エマルジョン(1)を2.00g、水3.00gおよびニューコール506(商品名、花王(株)製、界面活性剤)25%水溶液0.35g添加し約1時間攪拌した。続いて分画分子量50000のフィルターにて限外濾過を行い、得られた濾液の内、1.20gを他容器に取り、2%塩酸ヒドロキシルアンモニウム水溶液0.50gを添加し、30℃の温浴にて約8時間攪拌反応させた。この反応液に水20gを添加し充分攪拌した後、反応液のpHを測定したところ、pHは4.88であった。続いてこの反応液へ、0.1規定水酸化ナトリウム水溶液を使用してpHを4.00に調整した後、メチルエチルケトン1.00gを添加後、25℃にて充分攪拌し、pHを測定したところpHは3.62であった。続いて攪拌下にてこの反応液へ、0.02規定水酸化カリウム水溶液を滴下し、pH4.00になる量を測定した。この測定量から、カルボニル基量Cは、高分子水性分散体固形分1gに対し0.0322mmolであり、ラテックス中の全カルボニル量Bの12.6%が存在した。
【0088】
<分散体粒子表面部分のカルボニル基量Dの算出>
高分子水性エマルジョン表面部分のカルボ二ル基量Aが0.2197mmol、水相部分のカルボニル基量Cが0.0322mmolと定量され、分散体粒子表面部分のカルボニル基量Dは、高分子水性エマルジョン表面部分のカルボ二ル基量Aと水相部分のカルボニル基量Cとの差として0.1875mmolと算出でき、高分子水性エマルジョン中の全カルボニル量Bの73.3%が存在した。
【0089】
<全カルボニル基量Bの定量>
カルボニル基を含有する高分子水性分散エマルジョン(1)2.00gへにテトラヒドロキシフラン10.0gを加え充分に攪拌し、溶解またはほぼ溶解状態にした後、1.96%の塩酸ヒドロキシルアンモニウム水溶液を1.80g添加し、30℃の温浴にて約8時間攪拌し反応液を得た。この反応液のpHを測定したところpHは2.45であった。この反応液の一部である3.80gを他容器に取り、水2gを加え、0.1規定水酸化ナトリウム水溶液にてpHを4.00に調整する。続いてメチルエチルケトン1.00gを添加し25℃で攪拌し、pHを測定したところpH1.65であった。続いて攪拌下にてこの反応液へ、0.02規定の水酸化カリウム水溶液を滴下し、pH4.00になる量を測定した。この測定量から、全カルボニル量Bは高分子水性エマルジョン固形分1gに対し0.2558mmolであり、本発明の定量方法にて、ジアセトンアクリルアミドに由来する全カルボニル量0.2558mmolに対し99.3%のカルボニル量Bを検出することができた。
【0090】
【参考例2】
高分子水性エマルジョン(2)の調製
攪拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を取りつけた反応容器に、水1000部を投入し、反応容器内を80℃とする。次に、メタクリル酸63部、ジアセトンアクリルアミド45部、メタクリル酸メチル300部、スチレン50部、アクリル酸ブチル542部の混合液へ2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)20部を溶解後、水780部、ラテムルS−180Aの20%水溶液75部の混合し、ホモジナイザーによりプレ乳化液とし、滴下槽より反応容器中への4時間かけて流入させる。流入中は反応容器中の温度を83℃に保つ。流入が終了してからさらに2時間保つ。室温まで冷却後、25%アンモニア水を添加してpH6.3とし、樹脂固形分34.7%、平均粒子径3450Åの高分子水性エマルジョン(1)を得た。数平均分子量は47000であった。
参考例1と同様の方法にて各部のカルボニル量を定量し、その結果を表1に示した。
【0091】
【参考例3】
高分子水性エマルジョン(3)の調製
攪拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を取りつけた反応容器に、水400部を投入し、反応容器内を80℃とする。次に、アクリル酸30部、ジアセトンアクリルアミド30部、メタクリル酸メチル420部、アクリル酸2−エチルヘキシル520部、t−ドデシルメルカプタン15部の混合液へ、ベンゾイルパーオキサイド20部を溶解後、このモノマー混合液と、水540部、ラテムルS−180Aの20%水溶液40部、過硫酸アンモニウム2.0部の混合液とをホモジナイザーによりプレ乳化液とし、滴下槽より反応容器中への4時間かけて流入させる。流入中は反応容器中の温度を83℃に保つ。流入が終了してからさらに2時間保つ。室温まで冷却後、25%アンモニア水を添加してpH7.0とし、樹脂固形分49.6%、平均粒子径3620Åの高分子水性エマルジョン(3)を得た。数平均分子量は24000であった。
参考例1と同様の方法にて各部のカルボニル量を定量し、その結果を表1に示した。
【0092】
【参考例4】
高分子水性エマルジョン(4)の調製
攪拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を取りつけた反応容器に、水400部を投入し、反応容器内を80℃とする。次に、アクリル酸30部、ジアセトンアクリルアミド30部、メタクリル酸メチル420部、アクリル酸2−エチルヘキシル520部、t−ドデシルメルカプタン20部の混合液へ、ベンゾイルパーオキサイド20部を溶解後、このモノマー混合液と、水540部、ラテムルS−180Aの20%水溶液40部、t−ブチルハイドロパーオキサイド5部の混合液とをホモジナイザーによりプレ乳化液とし、滴下槽より反応容器中への4時間かけて流入させる。流入中は反応容器中の温度を83℃に保つ。流入が終了してからさらに2時間保つ。室温まで冷却後、25%アンモニア水を添加してpH7.0とし、樹脂固形分49.6%、平均粒子径3260Åの高分子水性エマルジョン(4)を得た。数平均分子量は17000であった。
参考例1と同様の方法にて各部のカルボニル量を定量し、その結果を表1に示した。
【0093】
【参考例5】
高分子水性エマルジョン(5)の調製
攪拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を取りつけた反応容器に、水400部を投入し、反応容器内を80℃とする。アクリル酸63部、ジアセトンアクリルアミド45部、メタクリル酸メチル350部、アクリル酸ブチル542部、n−ドデシルメルカプタン12.0部の混合液へt−ブチルパーベンゾエート25部を溶解後、このモノマー混合液と、水550部、ラテムルS−180Aの20%水溶液40部、過硫酸アンモニウム1.5部の混合液とをホモジナイザーによりプレ乳化液とし、滴下槽より反応容器中への4時間かけて流入させる。なお、プレ乳化液流入開始時に、反応容器中へ次亜硫酸ナトリウム1部を添加しておく。流入中は反応容器中の温度を83℃に保つ。流入が終了してからさらに2時間保つ。室温まで冷却後、25%アンモニア水を添加してpH6.7とし、樹脂固形分49.7%、平均粒子径3540Åの高分子水性エマルジョン(5)を得た。数平均分子量は28000であった。
参考例1と同様の方法にて各部のカルボニル量を定量し、その結果を表1に示した。
【0094】
【参考例6】
高分子水性エマルジョン(6)の調製
攪拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を取りつけた反応容器に、水1000部を投入し、反応容器内を80℃とする。次に、メタクリル酸63部、ジアセトンアクリルアミド45部、メタクリル酸メチル350部、アクリル酸ブチル542部、n−ドデシルメルカプタン5.0部の混合液へ、水780部、ラテムルS−180Aの20%水溶液75部、過硫酸アンモニウム3.5部の混合液とをホモジナイザーによりプレ乳化液とし、滴下槽より反応容器中への4時間かけて流入させる。流入中は反応容器中の温度を83℃に保つ。流入が終了してからさらに2時間保つ。室温まで冷却後、25%アンモニア水を添加してpH6.5とし、樹脂固形分34.5%、平均粒子径1520Åの高分子水性エマルジョン(6)を得た。数平均分子量は220000であった。
参考例1と同様の方法にて各部のカルボニル量を定量し、その結果を表1に示した。
【0095】
【参考例7】
<ポリセミカルバジド化合物Aの合成例>
ヘキサメチレンジイソシアネート168部、ビュレット化剤としての水1.5部を、エチレングリコールメチルエーテルアセテートとリン酸トリメチルの1:1(重量比)の混合溶媒130部に溶解し、反応温度160℃にて1時間反応させた。得られた反応液を薄膜蒸留缶を用いて、1回目は1.0mmHg/160℃の条件下、2回目は0.1mmHg/200℃の条件下にて2段階の処理により余剰のヘキサメチレンジイソシアネート、および溶媒を留去回収し、残留物を得た。得られた残留物は、99.9重量%のポリイソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネートのビュウレット型ポリイソシアネート)および0.1重量%の残存ヘキサメチレンジイソシアネートを含んでいた。得られた残留物の粘度は1900(±200)mPa.s/25℃、数平均分子量は約600(±100)であり、平均−NCO官能基数は約3.3、−NCO基含有量は23.3重量%であった。
【0096】
還流冷却器、温度計および撹拌装置を有する反応器にイソプロピルアルコール1000部にヒドラジン1水和物80部を撹拌しながら約30分かけて室温で添加した後、上記ポリイソシアネート(−NCO基含量23.3重量%)144部をテトラヒドロフラン576部に溶解した溶液を10℃にて約1時間かけて添加し、さらに40℃にて3時間撹拌を続け、1000部の水を添加した。続いて得られた反応液中のイソプロピルアルコール、ヒドラジン、テトラヒドロフラン、水等を加熱減圧下に留去することにより168部のビウレット構造を有するポリセミカルバジド化合物Aを得た。平均セミカルバジド残基数を測定したところ、4.6meq/gであった。
【0097】
【実施例1】
参考例1の高分子水性エマルジョン(1)100重量部に対し、エチレングリコールモノブチルエーテル10重量部を充分攪拌混合した後、ポリセミカルバジド化合物Aの30%水溶液9.3重量部を攪拌混合し、各付着性能試験、透水試験に供した。その結果を表2に示す。
【実施例2】
参考例2の高分子水性エマルジョン(2)100重量部に対し、エチレングリコールモノブチルエーテル10重量部を充分攪拌混合した後、ポリセミカルバジド化合物Aの30%水溶液5.2重量部を攪拌混合し、各付着性能試験、透水試験に供した。その結果を表2に示す。
【0098】
【実施例3】
参考例3の高分子水性エマルジョン(3)100重量部に対し、エチレングリコールモノブチルエーテル10重量部を充分攪拌混合した後、ポリセミカルバジド化合物Aの30%水溶液6.1重量部を攪拌混合し、各付着性能試験、透水試験に供した。その結果を表2に示す。
【実施例4】
参考例4の高分子水性エマルジョン(4)100重量部に対し、ポリセミカルバジド化合物Aの30%水溶液6.9重量部を攪拌混合し、各付着性能試験、透水試験に供した。その結果を表2に示す。
【0099】
【実施例5】
参考例5の高分子水性エマルジョン(5)100重量部に対し、ポリセミカルバジド化合物Aの30%水溶液8.2重量部を攪拌混合し、各付着性能試験、透水試験に供した。その結果を表2に示す。
【実施例6】
参考例1の高分子水性エマルジョン(1)100重量部に対し、アジピン酸ジヒドラジドの8%水溶液13.9重量部を攪拌混合し、各付着性能試験、透水試験に供した。その結果を表2に示す。
【比較例1】
参考例6の高分子水性エマルジョン(6)100重量部に対し、ポリセミカルバジド化合物Aの30%水溶液6.5重量部を攪拌混合し、各付着性能試験、透水試験に供した。その結果を表2に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
【発明の効果】
カルボニル基を含有する高分子水性エマルジョンについて、分散体中のカルボニル基量測定法を利用して測定される特定部位のカルボニル基量が特定量の範囲比率で存在するとき、該硬化皮膜において従来の水性シーラーの欠点である基材となる建材への含浸性、耐水性における欠点が改良される。すなわち下地基材へ含浸浸透して表面を補強する塗膜を形成しかつその塗膜が耐水性に優れるため、各種下地基材に対する密着性および耐透水性を改善し、防水性能に優れる高分子水性エマルジョンを提供することができる。
Claims (2)
- 水性媒体中で油溶性開始剤を使用することによって得られるカルボニル基を有する高分子水性エマルジョンが、数平均分子量が1000〜10万であり、該高分子水性エマルジョンに含まれる全カルボニル基量に対する分散粒子内部のカルボニル基量の割合(=分散体粒子分配率)が50%未満である、ポリ(メタ)アクリルレート系及び/又はポリスチレン−(メタ)アクリレート系の高分子水性エマルジョンであり、該高分子水性エマルジョンが、さらに、1分子中に2個以上のヒドラジン基および/またはセミカルバジド基を有するヒドラジン誘導体(ウレタン結合を有するものを除く)を含有することを特徴とする高分子水性エマルジョン。
- カルボニル基を有する、ポリ(メタ)アクリルレート系及び/又はポリスチレン−(メタ)アクリレート系高分子水性エマルジョンにおいて、全カルボニル基量Bに対し、該分散体粒子表面部分のカルボニル基量Dが30%以上であることを特徴とする請求項1に記載の高分子水性エマルジョン。
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