JP4501038B2 - 水性インク組成物及び画像形成方法及びメンテナンス方法及びメンテナンス液 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は水性インク,特にインクジェット記録用水性インクに関し,分散安定性に優れ,ノズル目詰まりを損なわず,高濃度でかつ滲みが少なく,かつ耐水性・耐洗濯性に優れたインクジェット記録を可能にする水性インク組成物に関する。
【0002】
また本発明はこの水性インク組成物を用いた場合のメンテナンスに適したメンテナンス液及びメンテナンス方法を提供する。
【0003】
【従来の技術】
インクジェット記録用インクは大別すると油性インクと水性インクがあるが,油性インクは臭気・毒性の点で問題があり,水性インクが主流となりつつある。
【0004】
しかしながら,従来の水性インクの多くは着色剤として水溶性染料を用いているため耐水性や耐光性が悪いという欠点を有していた。また,染料が分子レベルで溶解しているため,オフィスで一般に使用されているコピー用紙などのいわゆる普通紙に印刷すると髭状のフェザリングと呼ばれるブリードを生じて著しい印刷品質の低下を招いていた。
【0005】
上記欠点を改良するためにいわゆる水性の顔料インクが過去に様々に提案されており,例えばバインダー兼分散剤として水溶性樹脂を用いてカ−ボンブラックや有機顔料を分散させた樹脂溶解型のインクやポリマーラテックスあるいはマイクロカプセルとして着色剤を内包する樹脂分散型のインクが各種提案されている。
【0006】
樹脂溶解型の顔料分散インクは,インクの水分蒸発に伴いノズル付近のインク粘度上昇による異常噴射や,最悪ノズル目詰まりを生じ易かった。また,水溶性樹脂を用いているために記録紙上での滲みが大きく,耐水性・耐洗濯性が十分とはいえなかった。
【0007】
染料インクや樹脂溶解型の顔料分散インクの滲みを防止するためにアルギン酸やその誘導体,カルボキシメチルセルロースやアラビアゴム等の高分子系の増粘剤が提案されているが,染料インクでは滲み防止効果は小さく,樹脂溶解型の顔料分散インクでは溶解している水溶性樹脂の乾燥が遅いため滲み防止効果が少なく,またノズル目詰まりが必ずしも避けられなかった。また耐水性や耐洗濯性が十分といえなかった。
【0008】
樹脂分散型の水性インクは,インクの水分蒸発に伴う粘度上昇は比較的少なく,また耐水性に優れるという利点がある。具体的には,特開昭58−45272号公報では染料を含有したウレタンポリマーラテックスを含むインク組成物,特開昭62−95366号公報では水不溶性有機溶媒中にポリマーと油性染料を溶解し,さらに表面(界面)活性剤を含む水溶液と混合して乳化させた後に溶媒を蒸発してポリマー粒子中に内包された染料を含むインクが提案され,特開昭62−254833号公報ではカプセル化時の有機溶媒と水との間の界面張力を10ダイン以下にすることによる着色料水性懸濁液の製造法が提案され,特開平1−170672号公報では同様にマクロカプセル化した色素を含有する記録液等が提案されている。しかしながら,着色樹脂粒子と記録媒体(例えば記録紙や布の繊維)との密着が十分でなく,耐水性に劣り,特に繊維に用いたときには十分な耐洗濯性が得られなかった。
【0009】
特開平7−331141号公報,特開平7−331142号公報,特開平7−331143号公報の明細書中にアルキルジメチルアミンオキシドが例示されていて,良好な耐水性・耐洗濯性を示すが,強力な洗濯条件では必ずしも十分ではなく,また顔料の分散安定性が必ずしも満足できるものではなかった。
【0010】
強力な耐水・耐洗濯性を得る手段としては,樹脂を架橋剤で架橋する方法が最も好ましく,特開昭62−231787号公報ではインク成分として,顔料および水溶性もしくは水分散性のポリエステルまたはポリアミドと架橋剤をインク中または被記録材料中に配合し,被記録材料中で架橋させるインクジェットプリント方法が提案されているが,インク中に架橋剤を含有させた場合には樹脂と架橋剤の反応による樹脂のゲル化に加えて,顔料分散安定性が不安定となり易いという問題が解決されていなかった。特開平8−333537号公報では特殊な単量体組成物を共重合して得られる熱可逆型増粘性を示す高分子と,多官能架橋剤とを含有し,乾燥して水不溶性となることを特徴とする水性インクが提案されているが,ノズル目詰まりを生じやすく,また強力な耐水・耐洗濯性を得ることが出来なかった。
【0011】
強力な耐水・耐洗濯性,さらには記録媒体に対する密着性を改良する手段として,特開平5−271598号公報ではバインダー樹脂として,分子中に複数個の2−オキサゾリン基を有する化合物(A)および2−オキサゾリン基と反応し得る基を分子中に複数個有する化合物(B)を含む印刷インキ組成物が,特開平7−118548号公報ではカルボキシル基を含有する重合体(A),重合体(A)に含まれるカルボキシル基の中和に要する理論量の0.3〜3倍モルの塩基性化合物(B)および,特定の構造を有するオキサゾリニル基含有重合体を含有する,一液で安定な低温硬化性樹脂組成物が提案されているが,いずれも顔料分散安定性に問題を有しており,特にノズル目詰まりを起こしやすいインクジェット記録には不適であった。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は,従来の樹脂溶解型の顔料インクや樹脂分散型の顔料インクや,顔料にエマルジョンを併用したインクを用いても得られない,分散安定性に優れ,かつノズル目詰まりもなく,かつ高濃度で滲みが少なく,かつ,とりわけ耐水・耐洗濯性に優れたインクジェット記録用水性インクを提供することにある。
【0013】
また本発明が解決しようとする課題は,この水性インク組成物を用いた場合のメンテナンスに適したメンテナンス液及びメンテナンス方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は,上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果,本発明を解決するに至った。
【0015】
即ち本発明は,少なくとも,水,カルボキシル基を有する樹脂(A)に包含された顔料着色樹脂粒子,塩基(B)からなる水性媒体に,樹脂(A)と架橋する成分(C)を含有する水性インク組成物,好ましくは,樹脂(A)と架橋する成分(C)が,オキサゾリン基を有する化合物で,更に好ましくは,更に好ましくは水分散性のオキサゾリン基を有する重合体(D)である水性インク組成物を提供するものである。
【0016】
また本発明は,少なくとも,水,カルボキシル基を有する樹脂(A)に包含された顔料着色樹脂粒子,塩基(B)からなる水性媒体に,樹脂(A)と架橋する成分(C)を含有させた水性インク組成物で,記録媒体に印刷を行った後,外部から熱エネルギーを加えるか,内部から発熱させて架橋させることを特徴とする画像形成方法を提供する。
【0017】
さらに,少なくとも,水,カルボキシル基を有する樹脂(A)に包含された顔料着色樹脂粒子,塩基(B)からなる水性媒体に,樹脂(A)と架橋する成分(C)を含有させた水性インク組成物で記録媒体に印刷を行った後,インクを適用するのに用いた部材のインクと接する部分を,pH8〜11で,少なくともアルコールアミンを含有し,表面張力が40mN/m以下に調整された水性媒体からなるメンテナンス液を用いて洗浄を行うことを特徴とするメンテナンス方法を提供する。
【0018】
加えて,pH8〜11の水性媒体からなるメンテナンス液が,少なくともアルコールアミンを含有し,表面張力が40mN/m以下に調整されたものであること特徴とする,少なくとも,水,カルボキシル基を有する樹脂(A)に包含された顔料着色樹脂粒子,塩基(B)からなる水性媒体に,樹脂(A)と架橋する成分(C)を含有させた水性インク組成物用メンテナンス液を提供する。
【0019】
本発明における水としては,例えば蒸留水,イオン交換水,純水,超純水を用いることが出来る。
【0020】
本発明では,カルボキシル基を有する樹脂(A)に包含された顔料着色樹脂粒子が水性インク組成物に含まれる。
【0021】
このカルボキシル基を有する樹脂(A)に包含された顔料着色樹脂粒子とは,顔料が,カルボキシル基を有する樹脂(A)に包含された構造を有する,着色された樹脂の粒子を意味する。
【0022】
本発明のカルボキシル基を含有する樹脂(A)は,カルボキシル基を有するものであれば特に種類の制限はないが,好ましくは酸価が50以上280以下の合成樹脂が好ましく,その少なくとも一部が塩基(B)で中和されてなる自己水分散性樹脂の場合は,特に優れた分散安定性を維持することが出来,しかもより耐水性に優れた画像の印刷が出来る。
【0023】
このような樹脂(A)としては,例えばアクリル酸樹脂,マレイン酸樹脂,ポリエステル樹脂等があるが,特に好ましくは,スチレン−(メタ)アクリル酸系樹脂である。尚,本発明で(メタ)アクリルとは,アクリルとメタアクリルとの両方を包含する。
【0024】
スチレン−(メタ)アクリル酸系樹脂とは,スチレン系モノマーを必須成分として,(メタ)アクリル酸系モノマー,例えば(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステル,を共重合させた樹脂である。
【0025】
当該樹脂(A)としては,例えばスチレンあるいはα−メチルスチレンのような置換スチレン,アクリル酸メチルエステル,アクリル酸エチルエステル,アクリル酸ブチルエステル,アクリル酸2−エチルヘキシルエステル等のアクリル酸エステル,メタクリル酸メチルエステル,メタクリル酸エチルエステル,メタクリル酸ブチルエステル,メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸エステルから選ばれる少なくとも一つ以上のモノマー単位と,アクリル酸,メタクリル酸から選ばれる少なくとも一つ以上のモノマー単位を含む共重合体である。
【0026】
これらの共重合体は,前記樹脂(A)の場合には,ガラス転移温度が30℃〜130℃であることが好ましい。樹脂(A)を重合で得るに当たっては,この範囲となるようにモノマー成分を選択することが好ましく,少なくともその一部が共有結合性の架橋や多価金属によるイオン架橋されていても良い。
【0027】
本発明の水性インク組成物には,上記顔料着色樹脂粒子の他に,水と,塩基と,樹脂(A)と架橋する成分(C)を含む。
【0028】
前記樹脂(A)を用いて自己水分散性樹脂として用いる場合には,そのカルボキシル基の少なくとも一部を塩基(B)で中和すればよい。塩基,即ちアルカリ性中和剤による中和は,得られる自己水分散性樹脂が水に溶解しない程度に中和すればよいが,カルボキシル基が樹脂(A)のカルボキシル基と架橋する成分(C)が反応する場合にはフリーのカルボキシル基は少ない方が好ましい。
【0029】
塩基(B)としては,例えば水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物,アンモニア,トリエチルアミン,モルホリン等の塩基性物質の他,特にトリエタノールアミン,ジエタノールアミン,N−メチルジエタノールアミン等のアルコールアミンとりわけトリエタノールアミンが,インクジェット記録用水性インクとして好ましい。塩基(B)が,不揮発性の塩基の場合には印刷後いつまでもインク層に残留して樹脂(A)のカルボキシル基と架橋する成分(C)の反応が進まない場合があるため,その様な場合にはアンモニアなどの揮発性塩基を組み合わせて用いるのが好ましい。
【0030】
本発明の樹脂(A)と架橋する成分(C),即ち架橋剤としては,イオン的に架橋するもの,光あるいはエネルギー線を吸収して架橋するもの,熱あるいは高周波加熱によって架橋するものなど公知慣用の多官能性の化合物が用いることが可能である。少なくとも常温において,大過剰の水の存在下で,樹脂(A)と架橋する成分(C)とが,少なくとも12時間は実質的に反応完結しない様に成分(C)を選択するのが良い。
【0031】
なかでも熱により架橋するものは一般的に容易に用いることが可能で,具体的にはアジリジン化合物,イソシアネート基,エポキシ基,アルコキシ基,オキサゾリン基等を有する多官能性化合物があるが,上記した様な範囲にあるものが好ましく,反応性が遅すぎると実用的でなく,また反応性が高すぎると顔料着色樹脂粒子と直ちに反応して凝集物を生じることから,適度な反応性を持った架橋剤が必要であり,オキサゾリン基を有する化合物,特にオキサゾリン重合体(D)が好ましい。これは,公知慣用の技術によって容易に得ることが可能である。
【0032】
オキサゾリン基を有する重合体(D)としては,以下の一般式で表される付加重合性オキサゾリンを必須成分として含む単量体成分を重合してなる,水溶性または水分散性のオキサゾリン基含有重合体が安定性,反応性,反応後の密着性に優れている。
【0033】
【化2】
【0034】
(式中R1,R2,R3,R4はそれぞれ水素,ハロゲン,アルキル基,アラルキル基,シクロアルキル基,シクロアルケニル基,置換又は未置換のアリール基を示し,R5はアルケニル基又はシクロアルケニル基)
【0035】
上記した様な一般式で表される付加重合性オキサゾリンにおいては,R5におけるアルケニル基又はシクロアルケニル基が,付加重合性の不飽和二重結合に対応する。
【0036】
オキサゾリン基を有する重合体(D)は,上記した様な一般式で表される付加重合性オキサゾリンのみの重合体であってもよいが,それとオキサゾリン環を開環させない付加重合性単量体との共重合体であることが好ましい。
【0037】
本発明の,上記付加重合性オキサゾリン単量体には,オキサゾリンとは反応しない付加重合性単量体,具体的には(メタ)アクリル酸エステル,(メタ)アクリルニトリル,(メタ)アクリルアミド,ビニルエステル,ビニルエーテル等を組み合わせることが可能であるが,この場合付加重合性アキサゾリン化合物の含有量は一般に知られているように5質量%以上中でも5〜50質量%が硬化性の点で好ましい。
【0038】
本発明において,オキサゾリン重合体(D)が水溶性の場合は,顔料着色樹脂粒子の樹脂(A)との反応がインク中で生じやすく,印刷後は記録媒体表面に顔料着色樹脂粒子がインク層を形成する一方で,オキサゾリン重合体(D)が水性媒体と共に記録媒体中に浸透し相分離するために架橋効率が低下したり,更にオキサゾリン重合体の分子量が大きい場合にはインクジェット吐出特性が低下し易いという欠点を有する場合がある。
【0039】
これに対して,オキサゾリン重合体(D)が水分散性の場合は,カルボキシル基を有する樹脂(A)で包含された顔料着色樹脂粒子と共存した時の安定性が高く,かつ記録媒体上での顔料着色樹脂粒子と共に高濃度にインク層を形成して高い架橋効率を示し,更に溶解重合体成分が少なく,安定したインクジェット吐出を示す。これは顔料が有機顔料である場合に顕著である。できればオキサゾリン重合体(D)のガラス転移温度は,室温(30℃)以上,中でも30〜130℃であることがインクジェット記録において短時間でノズル目詰まりを起こすことがなく好ましい。
【0040】
さらには,上記樹脂(A)と,この水分散性のオキサゾリン基を有する重合体(D)のいずれもが,ガラス転移温度30〜130℃であるのが好ましい。
【0041】
これらのオキサゾリン重合体は公知慣用の技術を用いて自ら合成しても良いが,市販の以下の商品を用いることが可能である。インク中での含有量は安定性と硬化程度を考慮して適当に決めればよいが,おおよそ0.1〜10質量%の範囲が好ましい。
【0042】
水溶性オキサゾリン重合体
【0043】
水分散性オキサゾリン重合体
【0044】
尚,2−イソプロペニル−2−オキサゾリンは,前記一般式において,R1=R2=R3=R4=水素原子であり,R5=イソプロペニル基(アルケニル基の一例)である。
【0045】
本発明の水性インク組成物において,架橋成分(C)に使用量は,特に制限されるものではないが,カルボキシル基を有する樹脂(A)に包含された顔料着色樹脂粒子を構成する樹脂(A)不揮発分100質量部当たり,0.1〜100質量部,好ましくは0.1〜60質量部である。
【0046】
水性インク組成物中には,塩基(B)も必須成分として含まれる。塩基(B)を含ませることによりインクを好適な塩基性とすることが出来る。
本発明の水性インク組成物のpHは,7〜10,好ましくは8〜9の範囲にある場合には,オキサゾリンを有する重合体(D)と樹脂(A)で包含された顔料着色樹脂粒子の反応は遅く,かつ顔料を包含している樹脂のインク中への溶解も少なく,ノズル目詰まりを防止することが出来る。
【0047】
こうして得られた本発明の水性インク組成物は,水のみまたは水を主体とする水性媒体に,上記した各成分が少なくとも含まれたものである。
【0048】
本発明のインク組成物をインクジェット記録用として用いる場合には,インク中の分散粒子即ち,カルボキシル基を有する樹脂(A)に包含された顔料着色樹脂粒子,および水分散性のオキサゾリン基を有する重合体(D)の平均粒子径は0.5μmより小さいこと,中でも0.001〜0.4μmが好ましい。
【0049】
本発明のインク組成物は,カルボキシル基を有する樹脂(A)に包含された顔料着色樹脂粒子と架橋成分(C)の組み合わせによって,布地等の被記録体への密着性が上がり強力な耐水・耐洗濯性が発現するが,塩基(B)で中和された,カルボキシル基を有する樹脂(E)からなる樹脂粒子を併用する様に含ませることにより,さらに密着強度を上げる事が可能である。
【0050】
ここで,塩基(B)で中和された,カルボキシル基を有する樹脂(E)からなる樹脂粒子は,顔料を含んでいない点で,前記したカルボキシル基を有する樹脂(A)に包含された顔料着色樹脂粒子と区別される。
【0051】
この時の樹脂(E)は樹脂(A)の具体例から選ぶことが出来るが特に限定されるものではないが,ガラス転移温度は30〜130℃が好ましい。またインクジェット記録用として用いる場合には,塩基(B)で中和された,樹脂(E)からなる樹脂粒子は,平均粒子径は0.5μm以下,中でも0.001〜0.4μmが好ましい。これは樹脂エマルジョンの形態で加えることが出来る。
【0052】
本発明のインク組成物には,樹脂(A)と架橋成分(C)に対して硬化触媒として作用する化合物を併用しても良く,特に架橋成分(C)がオキサゾリン基を有する化合物の場合,硬化触媒としてリン酸水素2アンモニウム等を加えることが好ましい。
【0053】
本発明での顔料は特に限定されるものはなく,例えばカーボンブラック,チタンブラック,チタンホワイト,硫化亜鉛,ベンガラ等の無機顔料やフタロシアニン顔料,モノアゾ系,ジスアゾ系等のアゾ顔料,フタロシアニン顔料,キナクリドン顔料等の有機顔料がある。
【0054】
特に顔料表面あるいは顔料化学構造中にカルボキシル基やスルホン基のような酸性基を有している顔料,具体的にはスルホン化処理カーボンブラック,メタルソルトアゾイエロー,C.I.ピグメントイエロー151,オレンジ17,レッド48,49,50,51,52,53,54,55,57,58,60,63,64,68,バイオレット1,5,グリーン2,12,ブラウン5,アシッドブルー45等は,従来処方の範囲内においては,しばしば耐水性,特に耐洗濯性を悪くするが,本発明の樹脂(A)と架橋する成分(C)を併用することにより,著しく耐水・耐洗濯性を向上させることが可能となる。
【0055】
かかる顔料の使用量(含有量)は,特に規定されないが,最終的に得られる水性インキ中で0.5〜10質量%となるような量が好ましい。
【0056】
本発明の水性インク組成物は,水と,カルボキシル基を有する樹脂(A)によって包含された顔料着色樹脂粒子と,塩基(B)と,前記樹脂(A)と架橋する成分(C)とを別々に調製してから,任意の順序で混合することによっても得ることが出来るが,カルボキシル基を有する樹脂(A)によって包含された顔料着色樹脂粒子を作製する方法を用いると分散安定性の点でより好ましい。
【0057】
本発明の好ましい例である樹脂(A)によって顔料が包含された着色樹脂粒子を作製する方法は,特に限定されるものではないが,より好ましい具体的な例は,下記工程にて得ることが出来る。
【0058】
(1)カルボキシル基を有する樹脂(A)に,少なくとも顔料を分散または溶解して固形着色コンパウンドを得る樹脂着色工程。
(2)少なくとも,水,樹脂(A)を溶解する有機溶媒,塩基(B),前記樹脂着色工程で得られた固形着色コンパウンドを混合し,分散によって少なくとも樹脂(A)の一部が溶解している着色剤懸濁液を得る懸濁工程。
(3)前記懸濁工程で得られた着色剤懸濁液中の顔料表面に,溶解している樹脂(A)を沈着させる再沈殿工程。
【0059】
(1)の樹脂着色工程は,カルボキシル基を有する樹脂(A)に,少なくとも顔料を分散または溶解して固形着色コンパウンドを得る工程である。この工程は,例えば従来知られているロールやニーダーやビーズミル等の混練装置を用いて,溶液や加熱溶融された状態で,顔料を,樹脂(A)に均一に溶解または分散させ,最終的に固体混練物(固形着色コンパウンド)として取り出すことにより行うことが出来る。
【0060】
(2)の懸濁工程は,少なくとも,水,樹脂(A)を溶解する有機溶媒,塩基(B),前記樹脂着色工程で得られた固形着色コンパウンドを混合し,分散によって少なくとも樹脂(A)の一部が溶解している着色剤懸濁液を得る工程である。(1)の樹脂着色工程で得られた固形着色コンパウンドを,分散媒として水,樹脂(A)を溶解する有機溶媒,塩基(B)を必須とする混合溶媒に加えて,均一に分散する様に攪拌することによって,固形着色コンパウンド表面から,顔料を包含する樹脂(A)が,有機溶媒と塩基(B)の助けを借りて,溶解または自己乳化し,いずれの場合も少なくとも当該樹脂(A)の一部が溶解している着色剤懸濁液が得られる。
【0061】
懸濁液を得るための撹拌方法としては,公知慣用の手法がいずれも採用でき,例えば従来の1軸のプロペラ型の撹拌翼の他に,目的に応じた形状の撹拌翼や撹拌容器を用いて容易に懸濁可能である。
【0062】
懸濁液を得るに当たって,せん断力がない或いは相対的に小さい,単なる混合撹拌のみで,或いは,顔料が比較的凝集しやすい場合には,それに加えて更に,次いで高せん断力下において,より分散を安定させてもよい。この場合の分散機としては,高圧ホモジナイザーや商品名マイクロフルイダイザーやナノマイザーで知られるビーズレス分散装置等を用いるのが,顔料の再凝集が少なく好ましい。
【0063】
(3)の再沈殿工程は,前記懸濁工程で得られた着色剤懸濁液中の顔料表面に,溶解している樹脂(A)を沈着させる工程である。本発明において「再沈殿」とは,顔料,或いは溶解している樹脂(A)が顔料表面に吸着した着色剤を懸濁液の液媒体から,分離沈降させることを意味するものではない。従って,この工程で得られるものは,固形成分と液体成分とが明らか分離した単なる混合物ではなく,溶解している樹脂(A)が顔料表面に吸着した着色剤が,懸濁液の液媒体に安定的に分散した着色樹脂粒子水性分散液である。
【0064】
この(2)の懸濁工程の着色剤懸濁液中の顔料表面へ溶解樹脂の沈着は,例えば,▲1▼少なくとも一部当該樹脂(A)が溶解している着色剤懸濁液に,当該樹脂(A)に対して貧溶媒として機能する水または水性媒体を加えて行うか,及び/又は,▲2▼着色剤懸濁液から有機溶媒を除去して行うことによって容易に行うことが出来る。
【0065】
この様にして得られた着色樹脂粒子水分散液から共存している有機溶媒を更に除いて,樹脂(A)によって包含された顔料着色樹脂粒子の安定な水分散液を得る。
【0066】
本製造方法において,カルボキシル基を有する樹脂(A)を溶解する有機溶媒が用いられるが,これは当該樹脂(A)に対して良溶媒として機能するものである。当該有機溶媒としては,当該樹脂(A)に対して適宜選択することが出来,例えばアセトン,ジメチルケトン,メチルエチルケトン等のケトン系溶媒,メタノール,エタノール,イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒,クロロホルム,塩化メチレン等の塩素系溶媒,ベンゼン,トルエン等の芳香族系溶媒,酢酸エチルエステル等のエステル系溶媒,エチレングリコールモノメチルエーテル,エチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶媒,アミド類等樹脂を溶解させるものであれば使用可能である。
【0067】
当該樹脂(A)が,例えばスチレン,置換スチレン,(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーと,(メタ)アクリル酸とを含む組成物の共重合体の場合には,メチルエチルケトン等のケトン系溶媒を主として,助溶媒としてイソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒から選ばれる少なくとも1種類以上の組み合わせが良い。
【0068】
好ましい本発明の水性インク組成物に製造方法においては,このようにして得られた分散液に,本発明の樹脂(A)と架橋する成分(C)を直接加えてインク化するが,樹脂(A)と架橋する成分(C)が熱的に架橋する場合には,長期の保管によって顔料着色樹脂粒子と架橋成分(C)が反応し,凝集を生じたり,インクジェット記録の場合はノズル目詰まりを生じることから使用直前に加えることが好ましい。
【0069】
またインクジェット記録用インク組成物としては,必要に応じて以下の添加剤類を併用することが好ましい。
【0070】
乾燥防止剤は,インクジェット記録用水性インク組成物に限らず,添加される場合が多い。インクジェット記録用水性インク組成物においては,インクジェットの噴射ノズル口でのインクの乾燥を防止する効果を与えるものであり,通常水の沸点以上の沸点を有するものが使用される。
【0071】
このような乾燥防止剤としては,特に限定されるものではなく,従来知られているエチレングリコール,ジエチレングリコール,ポリエチレングリコール,グリセリン等の多価アルコール類,N−メチル−2−ピロリドン,2−ピロリドン等のピロリドン類,アミド類,ジメチルスルホオキサイド,イミダゾリジノン等が使用可能であるが,特にグリセリンがメインの乾燥防止剤の場合に最も優れた乾燥防止効果を示し,他の乾燥防止剤類はグリセリンと併用する場合は少量に止めたほうがよい。
【0072】
乾燥防止剤の使用量は,種類によって異なるが,通常水100重量部に対して1〜150重量部の範囲から適宜選択されるが,グリセリン及びそれに他の乾燥防止剤を併用したものを使用する場合には10〜50重量部が好適である。
【0073】
インクジェット記録用水性インク組成物に限らず,水性インク組成物の被印刷媒体への浸透をより良好とするために,公知慣用の浸透剤の必要量を用いることが好ましい。
【0074】
ジェット噴射して付着したインクを紙によりよく浸透させるために,浸透剤として,記録紙への浸透性付与効果を示す,エタノール,イソプロピルアルコール等の低級アルコール,ジエチレングリコール−N−ブチルエーテル等のグリコールエーテル,プロピレングリコール誘導体等の水溶性有機溶媒や界面活性剤を加えてもよい。
【0075】
その他,必要に応じて水溶性樹脂,防腐剤,キレート剤等の添加剤を加えることができる。
【0076】
本発明の水性インク組成物は,そのままでも使用できるが,好適には,1μm以上の粗大粒子を含まない様に,さらに好適には0.5μmを越える粗大粒子を含まない様に,0.001〜0.4μmとなる様に,濾過を行うことによりサブミクロンオーダーの着色樹脂微粒子を主体としたものがインクジェット記録用水性インクとしては好ましい。
【0077】
本発明では,少なくとも,水,カルボキシル基を有する樹脂(A)に包含された顔料着色樹脂粒子,塩基(B)からなる水性媒体に,樹脂(A)と架橋する成分(C)を含有させた水性インク組成物で,記録媒体に印刷を行った後に,外部からエネルギーを与えるか,高周波加熱により内部から発熱させて架橋させることにより画像を形成させる。
【0078】
オキサゾリン基を有する化合物,好ましくは水溶性又は水分散性のオキサゾリン基を有する重合体(D)が,前記架橋成分(C)の場合,熱エネルギーを加えるか,高周波加熱により内部から発熱させる画像形成方法では優れた架橋効果を発現する。
【0079】
この際,本発明の水性インク組成物による印刷は,通常は,インクを記録媒体に対して適用するための部材を用いて,それを介して行われる。この部材を記録媒体と接触させてそこからインクを出して描画するか,非接触のままこの部材からインクを出して描画させて画像を形成させる。後者で代表的なのは,インクジェット記録法であり,この方法では,インクの画像形成のための必要量を記録媒体の目的箇所に向けて飛翔付着させるため,ノズルの様な部材を含む印刷装置が用いられる。
【0080】
本発明の画像形成方法は記録媒体,具体的には紙や木綿・羊毛・ポリエステル・ナイロン・レーヨン等の天然繊維や合成繊維からなる布,フィルム,板,さらには金属,ガラス,セラミックス等あらゆるものに対して強い密着性(接着性)や耐水性,耐洗濯性のに対して極めて優れた効果を示す。
【0081】
特に記録媒体として,例えば繊維布帛のような,表面の凹凸の大きいものについては,従来のインクに比べて前記した様な各耐久性の改善程度は,極めて大きなものとなる。
【0082】
本発明の,少なくとも,水,カルボキシル基を有する樹脂(A)に包含された顔料着色樹脂粒子,塩基(B)からなる水性媒体に,樹脂(A)と架橋する成分(C)を含有させた水性インク組成物で,記録媒体に印刷を行う場合,インクを適用するのに用いた部材のインクと接する部分は,印刷終了後,そのまま放置するとインクと接する部分の内部に凝集物が発生するので洗浄を行うことが好ましい。特にインクジェット記録装置は,インク適用のための部材として微小ノズルを含む上,さらにインク容器とノズルとを接続する配管をも有する印刷装置なので,ノズル目詰まり等の原因となるために,洗浄を行うことが好ましい。
【0083】
本発明の水性インク組成物を適用するのに用いた部材の,当該組成物と接触する部分を洗浄するに当たっては,pH8〜11であって,少なくともアルコールアミンを含有し,表面張力が40mN/m以下に調整されたメンテナンス液を用いるのが好ましい。
【0084】
このインクと接する部分の洗浄に用いるメンテナンス液は,顔料着色樹脂粒子を包含する樹脂(A)のオキサゾリン化合物による架橋を防止しながら,樹脂(A)で包含された顔料着色樹脂粒子に対する洗浄効果,オキサゾリン基を有する化合物,特に水溶性又は水分散性のオキサゾリン基を有する重合体(D)に対する洗浄効果に優れたメンテナンス液である。
【0085】
本発明のメンテナンス液は,pH8〜11の水性媒体であるが,pHを与える方法としては,本発明の塩基(B)が使用可能であるが,好ましくは顔料着色樹脂粒子を包含する樹脂(A)をできるだけ溶解しないようにするために,少なくともアルコールアミン,好ましくはトリエタノールアミンを含ませるのが良い。
【0086】
また,メンテナンス液の表面張力は,インクジェット記録装置の,ノズルや配管等の部材が含まれるインク供給系内での濡れおよび洗浄性を考慮すると,40mN/m以下,好ましくは0.1〜30mN/mに調整されることが好ましい。
【0087】
本発明のメンテナンス液は,公知慣用の界面活性剤や水溶性有機溶剤により達成することが可能である。より具体的には,水100質量部と,乾燥防止剤1〜10質量部,塩基(B)0.1〜5質量部,界面活性剤0.001〜3質量部とを混合し,0.5μmを越える粗大粒子を含まない様に,濾過を行うことにより調製することが出来る。
【0088】
【発明の実施の形態】
本発明は次の好適な実施形態を含む。
1.下記工程にて,カルボキシル基を有する樹脂(A)に包含された顔料着色樹脂粒子水分散液を製造する。
【0089】
(1)カルボキシル基を有する樹脂(A)(スチレン−アクリル酸−メタクリル酸樹脂)と顔料を二本ロールで分散して固形着色コンパウンドを得る樹脂着色工程。
【0090】
(2)少なくとも,水,樹脂(A)を溶解する有機溶媒(メチルエチルケトン・イソプロピルアルコール),塩基(B)(アルコールアミン),前記樹脂着色工程で得られた固形着色コンパウンドを混合し,分散撹拌機を用いて分散して着色剤懸濁液を得る懸濁工程。
【0091】
(3)前記懸濁工程で得られた着色剤懸濁液に水を添加して,顔料表面に溶解樹脂(A)成分を沈着させる再沈殿工程。
【0092】
2.(3)の再沈殿工程後に脱溶剤を行い,更に濾過を行って水分散物を得る。
【0093】
3.得られた水分散液を,本発明のオキサゾリン基を有する重合体(D)の水分散液を含むインク調整用薬剤の水溶液(濾過済み)に徐々に加え,インクジェット記録用水性インクとする。本インクは使用直前に調整されることが好ましい。
【0094】
4.水,グリセリン,トリエタノールアミン,界面活性剤を混合し,濾過を行いメンテナンス液とする。
【0095】
5.インクジェット記録用プリンターを用いて3で得られた水性インクを,記録媒体に印刷し,印刷後加熱を行い,架橋定着させる。
【0096】
6.印刷後,4で得られたメンテナンス液を用いてインクジェットプリンターのインク供給系を洗浄し終了とする。
【0097】
【実施例】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚,以下の実施例中における「部」は『質量部』を表わす。
【0098】
(実施例1)
カーボンブラック20部とスチレン−アクリル酸−メタクリル酸樹脂(スチレン/アクリル酸/メタクリル酸=77/10/13;分子量5万・酸価160・ガラス転移温度107℃)20部の二本ロール混練物を,水210部,グリセリン35部,トリエタノールアミン8部,メチルエチルケトン90部,イソプロピルアルコール40部の混合溶液に入れ,室温で3時間撹拌し着色剤懸濁液を得た。
【0099】
得られた懸濁液に撹拌しながら,グリセリン30部と水210部の混合液を毎分5mlの速度で滴下し,黒色着色樹脂粒子水分散液を得た。得られたカプセル液をロータリーエバポレーターを用いてメチルエチルケトンとイソプロピルアルコールと水の一部を留去し,更に0.5μmのメンブランフィルターで濾過を行い,顔料分8質量%の最終の黒色着色樹脂粒子水分散液を得た。
【0100】
本発明の水溶性オキサゾリン重合体(エポクロスWS−500,不揮発分40質量%)10質量%,グリセリン5質量%,プロピレングリコールプロピルエーテル2質量%,トリエタノールアミン0.2質量%の混合水溶液(0.5μmメンブランフィルター濾過済み)50部に前記黒色着色樹脂粒子水分散液50部を攪拌しながら徐々に加えインクジェット記録用水性インクとした。得られたインクのpHは8.5であった。
【0101】
得られた水性インクは約2週間の間凝集物もなく安定な分散を示し,ピエゾ式インクジェットプリンターを用いた普通紙への印刷はノズル目詰まりもなく安定しており,得られた印刷物は滲みがなく,かつ極めて高い黒色度を示した。
市販のインクジェット用布(タイベック製)に印刷後,180℃の温度でアイロン掛けした後,市販の洗濯石鹸の1%溶液を用いて1時間洗濯を行った結果,全く色落ちすることはなかった。
【0102】
(比較例1)
実施例1のエポクロスWS−500を除いたインクを作製し,同様に評価を行った結果,安定性は優れていて普通紙への印刷物の滲みもほとんどなかったが,耐洗濯性試験によってやや色落ちした。
【0103】
(実施例2)
顔料C.I.ピグメントイエロー151の40部とスチレン−アクリル酸−メタクリル酸樹脂(スチレン/アクリル酸/メタクリル酸=77/10/13;分子量2万・酸価160・ガラス転移温度107℃)40部の二本ロール混練物を,水250部,グリセリン22部,トリエタノールアミン8部,メチルエチルケトン90部,イソプロピルアルコール40部の混合溶液に入れ,室温で3時間撹拌し混練物が溶解したところで,衝突式分散機ナノマイザー(ナノマイザー社製)を用いて98MPaの圧力で分散を行いイエローの着色剤懸濁液を得た。
【0104】
得られた着色剤懸濁液に撹拌しながら,グリセリン22部と水250部の混合液を毎分5mlの速度で滴下し,着色樹脂粒子分散液を得た。得られたカプセル液をロータリーエバポレーターを用いてメチルエチルケトンとイソプロピルアルコールと水の一部を留去し,更に0.5μmのメンブランフィルターで濾過を行い,最終の黄色着色樹脂粒子水分散液(顔料濃度8質量%)を得た。
【0105】
本発明の水分散性オキサゾリン重合体(エポクロスK−1030E,不揮発分40質量%)10質量%,アクリル系樹脂エマルジョン(ジョンクリルJ538,ガラス転移温度64℃,平均粒子径0.1μm,不揮発分45質量%)10質量%,グリセリン10質量%,プロピレングリコールプロピルエーテル5質量%の混合水溶液,トリエタノールアミン0.2質量%,リン酸水素2アンモニウム塩0.2質量%(0.5μmメンブランフィルター濾過済み)50部に前記着色樹脂粒子水分散液50部を攪拌しながら徐々に加えインクジェット記録用黄色水性インクとした。得られたインクのpHは8.4であった。
【0106】
得られた水性インクは約1ヶ月の間凝集物もなく安定な分散を示し,ピエゾ式インクジェットプリンターを用いた普通紙へのフルカラー印刷はノズル目詰まりもなく安定しており,得られた印刷物は滲みが全くなく,かつ極めて鮮やかな黄色を示した。
【0107】
市販のインクジェット専用布(ポリエステル製ソフトクロス)に印刷後,130℃の温度でアイロン掛けした後,市販の洗濯石鹸の1%溶液を用いて1時間洗濯を行った結果,全く色落ちすることはなかった。
【0108】
(比較例2)
実施例2のエポクロスK−1030Eを除いたインクを作製し,同様に評価を行った結果,安定性は優れていて,普通紙への印刷物の滲みもほとんどなかったが,耐洗濯性はあまりなく,ほぼ完全に色落ちしてしまった。
【0109】
(メンテナンス例)
水93.9質量%,グリセリン5質量%,トリエタノールアミン1質量%,ノニオン性のフッ素系界面活性剤メガファックF−142D(大日本インキ化学工業製)0.1質量%を混合し,0.5μmのメンブランフィルターで濾過を行いメンテナンス液とした。このメンテナンス液は,pH9.9,表面張力20mN/mであった。
【0110】
実施例1および2の印刷後,用いたピエゾ式インクジェットプリンターのインク供給系(ノズル及び配管)の洗浄を行った結果,ノズル目詰まりを起こすことなく繰り返し使用が可能であった。
【0111】
【発明の効果】
本発明によると,少なくとも,水,カルボキシル基を有する樹脂(A)に包含された顔料着色樹脂粒子,塩基(B)からなる水性媒体に,樹脂(A)と架橋する成分(C)を含有する水性インク組成物を用いて印刷し,その後エネルギーを加えて架橋を行う画像形成方法と,pH8〜11の水性媒体からなるメンテナンス液を用いたメンテナンス方法を組み合わせると,ノズル目詰まりを生じることなく,高濃度で滲みの少ない印刷を可能にし,かつ得られた印刷物の耐水・耐洗濯性は飛躍的に向上する。
Claims (13)
- 少なくとも,水,カルボキシル基を有する樹脂(A)に包含された顔料着色樹脂粒子,塩基(B)からなる水性媒体に,樹脂(A)と架橋する成分(C)を含有し、前記成分(C)は,水分散性のオキサゾリン基を有する重合体(D)であることを特徴とするインクジェット記録用水性インク組成物。
- 樹脂(A)がスチレン−(メタ)アクリル酸系樹脂である請求項1または2に記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
- 塩基(B)がアルコールアミンである請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
- インクのpHが7〜10の範囲にある請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
- 樹脂(A)に包含された顔料着色樹脂粒子および水分散性のオキサゾリン基を有する重合体(D)の平均粒子径が0.5μmより小さい請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
- 塩基(B)で中和された,カルボキシル基を有する樹脂(E)からなる樹脂粒子を含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
- 塩基(B)で中和された,カルボキシル基を有する樹脂(E)からなる樹脂粒子の平均粒子径が0.5μm以下である請求項7に記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
- 樹脂(A)と,水分散性のオキサゾリン基を有する重合体(D)のガラス転移温度が30〜130℃である請求項1〜8のいずれか1項に記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
- 樹脂(E)のガラス転移温度が30〜130℃である請求項1〜9のいずれか1項に記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
- 樹脂(A)と架橋する成分(C)としてのオキサゾリン基を有する化合物に加えて,硬化触媒としてリン酸水素2アンモニウムを含有する請求項1〜10のいずれか1項に記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
- 少なくとも,水,カルボキシル基を有する樹脂(A)に包含された顔料着色樹脂粒子,塩基(B)からなる水性媒体中に,樹脂(A)と架橋する成分(C)を含有し、かつ前記成分(C)は水分散性のオキサゾリン基を有する重合体(D)である水性インク組成物で,記録媒体にインクジェット記録により印刷を行った後,外部から熱エネルギーを加えるか,内部から発熱させて架橋させることを特徴とする画像形成方法。
- 少なくとも,水,カルボキシル基を有する樹脂(A)に包含された顔料着色樹脂粒子,塩基(B)からなる水性媒体中に,樹脂(A)と架橋する成分(C)を含有し、かつ前記成分(C)は水分散性のオキサゾリン基を有する重合体(D)である水性インク組成物で、インクジェット記録により記録媒体に印刷を行った後,インクを適用するのに用いたインクジェット記録装置の部材のインクと接する部分を,pH8〜11で,少なくともアルコールアミンを含有し,表面張力が40mN/m以下に調整された水性媒体からなるメンテナンス液を用いて洗浄を行うことを特徴とするメンテナンス方法。
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