JP4494770B2 - 晶析方法および晶析装置 - Google Patents

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本発明は、有機酸塩の溶液に酸を添加して有機酸を結晶化させることを含む有機酸の晶析方法並びに該方法に好適な晶析装置に関するものである。
一般的に、カルボン酸のように水に難溶あるいは不溶の有機酸の結晶化は、その塩を、水の存在下で酸と反応させることによって結晶化する、いわゆる中和晶析と称される反応晶析によって行われる。
このような中和晶析としては、例えば、アジピン酸やニコチン酸等のように結晶性の有機酸の水溶性塩の水溶液に酸を添加して該有機酸の結晶を製造する方法が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
上記中和晶析法においては、容器内に仕込んだ上記有機化合物のアルカリ水溶液表面に、ポンプ等を用いて酸を滴下するか、あるいは、容器内に仕込んだ上記有機化合物のアルカリ水溶液中に、ディップ管を用いて酸を滴下することで、上記有機化合物の結晶を析出させる。
上記非特許文献1の記載によれば、ニコチン酸ナトリウム水溶液に塩酸を滴下していくと、最初に、ニコチン酸の(I)未飽和の状態から、(II)ニコチン酸の飽和溶解度を超えて結晶が析出しない過飽和状態を経て、(III)結晶析出による急速な過飽和状態の解消に至り、(IV)飽和状態での結晶析出が行われる。
Fang Wang外1名, "Monitoring pH Swing Crystallization of Notice Acid by the Use of Attenuated Total Reflection Fourier Transform Infrared Spectrometry","Ind. Eng. Chem. Res. Vol.39, No.6, 2000", p.2101-2104
しかしながら、本願本発明者等が、上記非特許文献1に記載の方法でアジピン酸一ナトリウム塩と塩酸とを反応させたところ、得られた結晶の平均粒子径は129μmと小さく、結晶の嵩密度が267kg/m3と小さいアジピン酸の結晶しか得ることができなかった。
このように従来の中和晶析法は、平均粒子径や嵩密度が小さな結晶しか得ることができず、このため、例えば、晶析により得られた結晶を濾過して取り出す場合に濾過作業に時間を要する等の問題点を有している。
本発明は、上記の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、いわゆる中和晶析と称される晶析方法において従来よりも大きな平均粒子径を有する結晶を製造することができる晶析方法を提供することにある。
本願発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、上記従来の中和晶析法を用いても平均粒子径が小さい結晶しか得られない要因の一つには、(IV)飽和状態や、特に(III)結晶析出による急速な過飽和状態の解消の時期に、新たな核発生が多く起こっていることが挙げられるとの結論に到達した。つまり、本願発明者等は、検討の結果、晶析反応に供せられる原料化合物の多くは核として析出し、結晶成長には殆ど供せられないため、平均粒子径が小さな結晶しか得ることができないとの考えに至った。
そこで、本願発明者等は、結晶成長に供される化合物の割合を高めるべくさらなる検討を行った結果、酸の滴下により発生した核に由来する微細な結晶を、その一部を塩基で塩とし溶解させ、この塩を再び酸と反応させることで、結晶成長に用いることができることを見出した。
本発明にかかる晶析方法においては、結晶の存在している状態では、酸や塩基を添加してもpHは殆ど変動しない。これは、本発明にかかる晶析方法においては、塩基を添加しても有機酸が塩になるだけであり、塩基の添加によってpHが大きく変化しないためである。このため、酸を添加して反応液を例えば中性以下のpHにすることで晶析反応を行う中和晶析において、一旦結晶が出てしまえば、塩基を添加してもpHが殆ど変動しないことで、このような晶析反応の制御は、一見不可能に思われる。しかしながら、本願発明者等は、晶析途中で塩基を添加することで上記した反応が起こることを見出すと共に、添加する酸と塩基との比を制御することで、上記の晶析反応を更によく制御することができることを見出した。なお、本発明において、晶析に必要な酸の添加量は、塩基の使用量によって変動する。
すなわち、本発明にかかる有機酸の晶析方法は、上記課題を解決するために、有機酸結晶含有液に塩基を添加することにより有機酸結晶の一部を有機酸塩に変換して溶解させ、該有機酸塩の溶解液に酸を添加することを含むことを特徴としている。
上記の構成によれば、微細な結晶を低減させることができ、しかも、結晶成長に用いられる化合物の割合を高め、効率よく結晶成長させることが可能となるので、平均粒子径が大きい、嵩密度が大きな結晶を再現性よく安定的に得ることができるという効果を奏する。
また、本発明にかかる有機酸の晶析方法は、上記課題を解決するために、有機酸塩の溶液に酸を添加することにより、析出する全有機酸結晶の少なくとも一部の有機酸結晶を析出させ、該有機酸結晶の含有液に塩基を添加することにより、析出した上記有機酸結晶の一部を有機酸塩に変換して溶解させ、該有機酸塩の溶解液に酸を添加することを含むものであってもよい。
上記の構成によれば、微細な結晶を低減させることができ、しかも、結晶成長に用いられる化合物の割合を高め、効率よく結晶成長させることが可能となるので、平均粒子径が大きい、嵩密度が大きな結晶を再現性よく安定的に得ることができるという効果を奏する。
また、本発明にかかる有機酸の晶析方法は、上記課題を解決するために、有機酸塩の溶液に酸を添加して有機酸を結晶化することからなる有機酸の晶析方法であって、酸の添加によって有機酸が結晶化し始めた後、該有機酸結晶の含有液中に塩基を添加して該有機酸の結晶の一部を有機酸塩に変換して溶解させながら、酸の添加を行うことを含むものであってもよい。また、かかる晶析方法では、酸の添加および塩基の添加を、互いに連通して設けられた別々の反応容器内で、該反応容器内液を反応容器間で循環させながら行い、かつ、初期酸添加前の有機酸塩の溶液中の有機酸塩量(g)をP、該有機酸塩の分子量を該有機酸塩1分子が有するアニオン性官能基数で除した値をZ、塩基の添加量(g)を該塩基の当量(g)で除した値をM、添加時間をT(min)、単位時間当りの上記液の循環量をF(ml/min)、系内における最大液量と最小液量の対数平均をL(ml)とするとき、L×M/(T×F×P×Z)で示される式の値が0.5以上、1.5未満を満足するように上記塩基の量を調整することが好ましい。
上記の構成によれば、目的の有機酸の過飽和度が非常に小さく、酸滴下付近で即座に結晶が析出することで核発生が支配的で結晶成長が乏しい場合に、酸で結晶を析出させつつ、塩基で、新たな核発生に由来する微細結晶を溶解させることで、微細結晶を低減させると共に結晶成長に供される有機酸塩量を増加させて結晶粒径を再現性よく安定的に大きくすることができる。
また、本発明にかかる有機酸の晶析方法では、下記M/(P×Z)が下記式を満足する範囲であることが好ましい。
Q/(P×Z)−0.3≦M/(P×Z)≦Q/(P×Z)−0.03
M:塩基の添加量(g)を該塩基の当量(g)で除した値
Q:塩基添加の前に添加する酸の添加量(g)を該酸の当量(g)で除した値
P:初期酸添加前の有機酸塩の溶液中の有機酸塩量(g)
Z:初期酸添加前の有機酸塩の溶液中の有機酸塩の分子量を該有機酸塩1分子が有するアニオン性官能基数で除した値
上記の構成によれば、結晶成長期間が長くなり、高い効果を得ることができる。
また、塩基添加後に残存する有機酸結晶の量は、析出する全結晶の1〜30重量%の範囲であることが好ましい。上記の構成によれば、結晶成長期間が長くなり、高い効果を得ることができる。
また、本発明にかかる有機酸結晶の製造方法は、上記課題を解決するために、本発明にかかる有機酸の晶析方法を用いて有機酸結晶を得る工程と、該工程により得られる有機酸結晶を含む反応液から有機酸結晶を単離する工程とを含むことを特徴としている。
上記の構成によれば、微細な結晶を低減させることができ、しかも、結晶成長に用いられる化合物の割合を高め、効率よく結晶成長させることが可能となるので、平均粒子径が大きい、嵩密度が大きな有機酸結晶を再現性よく安定的に得ることができるという効果を奏する。
また、本発明にかかる晶析装置は、上記課題を解決するために、晶析反応容器と、該晶析反応容器内に酸を供給する酸供給手段と、該晶析反応容器内に塩基を供給する塩基供給手段とを備え、該酸供給手段および塩基供給手段は、酸と塩基とを、該晶析反応容器内において互いに離間した位置に供給することを含むことを特徴としている。
上記の構成によれば、平均粒子径が大きい、嵩密度が大きな結晶を再現性よく安定的に得ることができるという効果を奏する。
また、本発明にかかる晶析装置は、酸供給手段を備えた第1の反応容器と、塩基供給手段を備えた第2の反応容器と、上記第1の反応容器と第2の反応容器とを連通し、上記第1の反応容器と第2の反応容器との間で反応液を循環させる液循環手段とを有していることを含む構成であってもよい。
上記の構成によれば、平均粒子径が大きい、嵩密度が大きな結晶を再現性よく安定的に得ることができるという効果を奏する。
本発明によれば、原料有機酸塩を酸と反応させることにより晶析した結晶の一部を、塩基により有機酸塩に変換して溶解し、この有機酸塩含有液を残りの結晶の存在下で再び酸と反応させることで、微細な結晶を低減させることができ、しかも、結晶成長に用いられる化合物の割合を高め、効率よく結晶成長させることが可能となるので、平均粒子径が大きい、嵩密度が大きな結晶を再現性よく安定的に得ることができるという効果を奏する。
また、本発明にかかる晶析装置は、上記晶析反応に好適に用いられ、該晶析装置を用いることで、平均粒子径が大きい、嵩密度が大きな結晶を再現性よく安定的に得ることができるという効果を奏する。
本発明の実施の一形態について以下に詳しく説明する。
本実施の形態にかかる晶析方法は、有機酸塩の溶液に酸を添加して結晶を析出させる晶析方法であって、有機酸塩を酸と反応させることにより晶析した有機酸結晶の一部を塩基により溶解させ、この溶解した有機酸塩を、残りの有機酸結晶の存在下に、再度、酸と反応させる方法である。
より具体的には、本実施の形態にかかる晶析方法は、有機酸塩を、晶析用の原料化合物、つまり、晶析反応開始時における出発物質(以下、原料有機酸塩と記す場合がある。)とし、原料有機酸塩の溶液、好適には水溶液に酸を添加して該有機酸塩を酸と反応させることにより、目的の有機酸の結晶を製造する方法であり、晶析に供せられる原料有機酸塩を酸と反応させて目的の有機酸の少なくとも一部を晶析させた後、該晶析により析出した有機酸結晶の一部を、塩基により有機酸塩に変換して液中に溶解させ、残りの結晶が存在した状態で、該有機酸塩溶解液に酸を添加して系中の有機酸塩を再度酸と反応させる方法である。
本実施の形態にかかる晶析方法としては、大きく分けて、以下に示す2つの方法が挙げられる。
第1の方法は、原料有機酸塩を酸と反応させて目的の有機酸を晶析させる、原料から目的物へと向かう正反応と、一旦析出した有機酸の結晶を、再度塩基により溶解させて有機酸塩に戻す、目的物から原料へと向かう逆反応とを独立して行う方法であり、(1)上記した正反応と逆反応とを交互に行うことで、上記した正反応と逆反応とを時間差で行う方法である。該方法としては、例えば、同じ容器の中で上記した正反応と逆反応とを交互に行うことで、同じ領域で異なる時間に上記した正反応と逆反応とを行う方法が挙げられる。なお、上記の方法は、正反応後に該反応における反応液を別の容器に移しかえて逆反応を行う等、上記した各反応後の反応液を別の容器に移しかえて次工程の反応を行うことで、正反応と逆反応とを交互に行ってもよい。
第1の方法の好ましい例としては、原料有機酸塩の溶液に酸を添加することにより析出すべき有機酸の少なくとも一部を結晶化させ、有機酸結晶含有液に塩基を添加することにより有機酸結晶の一部を有機酸塩に変換して溶解させ、該有機酸塩溶解液に酸を添加することを含む有機酸の晶析方法であり、具体的には、原料有機酸塩の溶液に酸を添加して有機酸結晶を析出させる晶析方法であって、該有機酸塩を酸と完全に反応させたときに析出する全有機酸結晶のうち少なくとも一部を析出させた後、この有機酸結晶含有液内に塩基を添加して有機酸結晶の一部を有機酸塩に変換して溶解させ、その後、さらに該有機酸塩溶解液に酸を添加して、溶解した有機酸塩を、残りの有機酸結晶の存在下、再度、酸と反応させる方法が挙げられる。より具体的には、有機酸塩を原料化合物とし、該有機酸塩の溶液、好適には水溶液に酸を添加して原料有機酸塩を酸と反応させることにより、対応する有機酸の少なくとも一部を晶析させた後、該晶析により析出した有機酸の結晶に塩基を添加して該結晶の一部を塩基と反応させることにより有機酸塩に変換して溶解させ、その後、有機酸塩溶解液に酸を添加して残りの結晶の存在下に、有機酸塩を再度酸と反応させて、残存する結晶を核(種晶)として結晶成長させる方法である。
つまり、上記第1の方法は、本実施の形態にかかる晶析、つまり、中和晶析に供する原料有機酸塩に、水の存在下で酸を滴下していき、目的の有機酸が、(I)未飽和の状態から、(II)有機酸の飽和溶解度を超えて結晶が析出しない過飽和状態を経て、(III)結晶析出により急速な過飽和状態が解消された後、(IV)飽和状態の任意の時点で(V)塩基を加え、塩基による中和分を除いた酸の量を(II)の時点に戻すことで、上記(III)や(IV)の時期に析出すると考えられる微細結晶(析出した結晶のなかでも比較的小さい結晶)を溶解し、(VI)再度酸を滴下することで、その溶解分を結晶成長にまわす方法である。
これに対し、第2の方法は、上記した正反応と逆反応とを、並行して同時に行う方法であり、例えば、(2)同じ容器内で、正反応を行いながら逆反応を行うか、あるいは、(3)酸の添加および塩基の添加を、互いに連通して設けられた別々の容器内で、該容器内液を容器間で循環させながら行うことで、異なる領域で並行して同時に上記した正反応と逆反応とを行う方法である。上記(2)の方法においては、酸と塩基とを、互いに離れた位置に滴下等により供給することで、同じ容器内に正反応を行う領域(結晶析出エリア)と逆反応を行う領域(部分溶解エリア)とが設けられ、不均一状態にて上記した正反応と逆反応とが行われる。
具体的に、第2の方法は、原料有機酸塩の溶液に酸を添加して有機酸を結晶化することからなる有機酸の晶析方法であって、酸の添加によって有機酸が結晶化し始めた後、酸の添加を、反応系中に塩基を添加して該有機酸結晶の一部を溶解させながら行うことを含む方法である。より具体的には、有機酸塩を酸と反応させることにより晶析した有機酸結晶含有液に塩基を供給して該結晶の一部を再度溶解させながら有機酸塩を酸と反応させる方法である。
つまり、上記第2の方法は、有機酸塩に対し酸を供給中に塩基を同時に加える方法であり、主に塩基で(IV)の飽和状態での新たな核発生に由来する微細結晶を溶解し、過剰酸の添加によりその溶解分を結晶成長にまわす方法である。
上記した2つの方法のうち、第1の方法は、上記(II)に示すように目的の有機酸の飽和溶解度を超えても結晶が析出しない過飽和状態を経て、(III)結晶析出による急速な過飽和状態の解消に至る場合、特に、過飽和度が非常に大きく、滴下中に一気に結晶が析出する場合に適している。
このように酸滴下中、例えば滴下初期または滴下終了直前まで過飽和で結晶が出ず、滴下中に一気に結晶が析出する場合は、核発生が支配的で結晶成長し難いため、得られる結晶の粒径が小さくなり易い。
このため、結晶析出後の任意の時点、つまり、(III)の急速な過飽和状態が解
消された後、(IV)の状態の任意の時点で塩基を加えると、(IV)で析出した結晶が、粒径が小さいものから溶解されていく。これは、粒径が小さい結晶の方が、比表面積が大きいためであり、これにより、(IV)で析出した結晶のうち微細結晶が溶解され、(V)で再度酸を滴下した場合、既に結晶が系内に存在するため、溶解せずに残っている結晶を核(種晶)として結晶成長が起こり易くなる。
例を挙げてより具体的に説明すると、有機酸の過飽和度が非常に大きく、過飽和状態が長く続く場合、例えば仕込み原料有機酸塩量(g)をP、仕込み原料有機酸塩の分子量を該有機酸塩1分子が有するアニオン性官能基数で除した値をZ、酸の添加量(g)を該酸の当量(g)で除した値をQ’としたときに、Q’/(P×Z)が0.8となる量を滴下したところではじめて有機酸の結晶が析出する場合、結晶が成長していない一次の核が一気に析出する。
このため、このような場合、析出した結晶は、残りの2割分しか成長しない。そこで、析出した結晶の例えば8割を溶解させると、反応液中の残りの有機酸塩量が増加する一方で、残り2割分は結晶が残存しているため、析出している結晶に対する有機酸塩の割合が、結晶溶解前と比較して格段に大きくなり、結晶成長に供される有機酸塩量が格段に多くなる。そこで、再度残りの有機酸塩に対応する酸量を滴下すると、残存している結晶は、該結晶を核(種晶)として結晶成長し、大きな結晶が再現性よく安定的に得られることになる。
すなわち、上記第1の方法は、目的の有機酸の過飽和度が非常に大きく、酸滴下中に一気に結晶が析出することで核発生が支配的で結晶成長が乏しい場合に、析出した結晶の一部を溶解させることで、微細結晶を低減させると共に結晶成長に供される有機酸塩量を増加させて結晶粒径を再現性よく安定的に大きくするものである。
したがって、上記第1の方法は、ニコチン酸、サリチル酸等のように過飽和度が比較的大きい有機酸の晶析に好適に用いることができる。
上記第1の方法は、(II)の範囲で前記Q’/(P×Z)が、通常、0.1〜1.0の範囲内、好ましくは0.3〜1.0の範囲内である化合物に対して好適に用いられる。
一方、過飽和度が非常に小さく、酸滴下付近で即座に結晶が析出する場合は、酸の滴下により次々と新たな核発生、つまり、微細結晶の生成が起こるため、このような場合には、上記第2の方法を用いることが好ましい。
すなわち、上記第2の方法は、目的の有機酸の過飽和度が非常に小さく、酸滴下付近で即座に結晶が析出することで核発生が支配的で結晶成長が乏しい場合に、酸で結晶を析出させつつ、塩基で、新たな核発生に由来する微細結晶を溶解させることで、微細結晶を低減させると共に結晶成長に供される有機酸塩量を増加させて結晶粒径を再現性よく安定的に大きくすることができる。
上記第2の方法を採用した場合にも、粒径が小さい結晶の方が、比表面積が大きいことから、塩基に対し、常に酸が過剰な状態、つまり、塩基による中和分を超える量の酸を滴下することで、新たに発生した微細な結晶のみが完全に溶解し、完全に溶解しないで残っている結晶は、酸と反応してさらに結晶成長する。よって、これを繰り返すことにより、目的の有機酸の過飽和度が非常に小さく、酸滴下付近で即座に結晶が析出する場合においても、微細結晶を低減させると共に結晶成長に供される原料化合物量を増加させ、核として存在している結晶の粒径を大きくすることができる。
通常、滴下時間に占める(II)の範囲が大きい場合には、(III)で微細結晶が多く析出するため、上記第1の方法の方が第2の方法よりも粒径を大きくする効果が大きい。逆に、酸を滴下するとすぐに結晶が析出してしまう場合のように、滴下時間に占める(II)の範囲が小さい場合には、滴下時間に占める(IV)の範囲が大きくなるため、上記第2の方法の方が第1の方法よりも粒径を大きくする効果が大きい。但し(IV)の範囲が全くない場合を除けば、上記第2の方法は常に有効に作用する。
したがって、上記第2の方法は、中和晶析全般、つまり、アジピン酸等のように過飽和度が比較的大きい化合物のみならず、ビオチンのようにあまり過飽和度が大きくない化合物の晶析にも好適に用いることができる。
上記第2の方法は、(II)の範囲で前記Q’/(P×Z)が、通常、0.4以下、好ましくは0.1以下の有機酸について好適に用いられる。
本発明において適用可能な有機酸としては、カルボキシル基、スルホン酸基、スルフェン酸基、ホスホン酸基、フェノール性水酸基等を有する融点50℃以上の化合物であり、アジピン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ビオチン等の脂肪族カルボン酸、安息香酸、ニコチン酸、サリチル酸等の芳香族カルボン酸、ベンゼンスルホン酸等の芳香族スルホン酸、フェニルスルフェン酸等の芳香族スルフェン酸、フェニルホスホン酸等の芳香族ホスホン酸、ビスフェノールA、キシレノール、ナフトール等のフェノール誘導体等を挙げることができる。有機酸塩としては、前記した有機酸の溶媒に可溶な塩であり、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩を挙げることができる。
原料有機酸塩は、原料有機酸塩の溶液として上記晶析反応に供せられる。該溶液中では有機酸塩はアニオンとなり、酸と反応して有機酸結晶を析出し、塩基と反応することにより、該結晶が溶解する。
有機酸塩としては、上記晶析が精製を目的とする場合等には、有機酸を塩基に溶解したものであってもよい。
有機酸塩は、水の存在下で酸または塩基と接触させることにより、該酸または塩基と反応して晶析あるいは溶解する。
本実施の形態では、例えば、有機酸塩を水またはアルカリに溶解させることにより調製した有機酸塩溶液、好適には、有機酸塩水溶液を反応原液として、該反応原液に酸および/または塩基を添加する場合を例に挙げて説明するものとするが、本発明は、これに限定されるものではなく、有機酸塩に対し後から、例えば、酸あるいは塩基を添加する際に、該酸あるいは塩基とともに水を添加しても構わない。また、予め原料有機酸塩溶液を調製する場合であっても、酸および/または塩基を水と混合して添加しても構わない。
有機酸塩を溶解するための溶媒としては、水系溶媒、具体的には、例えば、水;水と混ざり合う有機溶媒;またはそれらの混合物等が挙げられる。上記溶媒としては、水と均一に混ざり合うものであれば、特に限定されるものではないが、最も好ましくは水である。
また、上記有機溶媒としては、具体的には、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキサイド、ジメチルホルムアミド等が挙げられるが、これに限定されるものではない。これら有機溶媒は、一種類のみを用いてもよく、適宜二種類以上を混合して用いても構わない。
使用する塩基は、該塩基を加えることにより有機酸を溶解することができるものであればよく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアガス、アンモニア水、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム等が挙げられ、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム及び重炭酸ナトリウムを挙げることができる。本発明においては、仕込み原料有機酸塩のカチオン部と使用する塩基のカチオン部とは同じであることが好ましい。
また、使用する酸は、使用する溶媒との組み合わせにおいて、上記目的の化合物の溶解度が小さいもの、すなわち、上記原料化合物と反応して目的の化合物を晶析させることができるものであればよく、例えば、硫酸アンモニウム、炭酸ガス、塩酸ガス、SOx、NOx等が挙げられる。これら酸のなかでも、塩酸、硫酸が、取扱いが容易であることから好適である。
本実施の形態にかかる晶析方法は、例えば、中性以下のpHでの結晶の製造に好適に用いられる。
本実施の形態にかかる晶析方法は、前記したように水に難溶あるいは不溶の有機酸の結晶化に特に有効であり、このような有機酸の結晶の製造に好適に用いることができる。
本実施の形態にかかる晶析方法においては、一旦、晶析により析出した有機酸結晶を、どの時点で、どの程度まで塩基で有機酸塩に戻すかによって、最終的に必要とされる酸の添加量が決定される。
以下に、上記第1の方法および第2の方法について各々図を参照して具体的に説明する。
まず、上記第1の方法について説明する。
上記第1の方法に用いられる反応容器(晶析反応槽)としては、ディスクタービン翼、パドル翼、3枚後退翼等の後退翼、アンカー翼等を備えた、攪拌機付きの攪拌槽等が挙げられるが、該反応容器としては、原料である有機酸塩と酸および塩基との反応に用いることができるものであれば特に限定されるものではなく、その規模(容量)や形状、材質等も、特に限定されない。
なお、上記反応容器としては、該反応容器外壁側に、例えば冷媒または熱媒の導通により上記反応容器を通じて該反応容器内の反応液の冷却または加熱が可能なジャケットを有する反応容器が好適に用いられる。上記反応容器が、このようなジャケットを有していることで、中和熱の除去等、反応温度の制御が容易となる。
上記攪拌機(攪拌翼)による撹拌回転数は、反応容器での単位容積あたりの撹拌動力が0.05〜2.0kW/m3の範囲となるように設定されることが好ましく、0.1〜0.4kW/m3の範囲内となるように設定されることがより好ましい。
さらに、上記反応容器は、撹拌翼以外に、板バッフル、ビーバーテールバッフル、フィンガーバッフル、ディスク型バッフル、ドーナツ型バッフル等のバッフルを有してもよい。
図1に、上記第1の方法に好適に用いられる晶析装置の一例を示す。
図1に示す晶析装置1は、晶析反応に用いられる晶析反応槽としての反応容器2と、該反応容器2内に酸を供給する酸供給ライン3(酸供給手段)と、該反応容器2内に塩基を供給する塩基供給ライン4(塩基供給手段)とを備えている。
上記反応容器2には、上記反応容器2内に導入された反応原液を攪拌して反応させる攪拌機5が設置されている。また、該反応容器2は、その外壁側に、温水等の熱媒の入口または出口となる図示しない導通口を有するジャケット6を備えている。
上記酸供給ライン3は、酸を貯蔵する酸貯蔵槽7、酸供給路(流路)となる中空状の連結管8・9、酸を上記反応容器2内に滴下供給するための滴下管10、並びに、上記連結管8・9に介在して設けられ、上記酸貯蔵槽7に貯蔵された酸を、連結管8・9を介して上記滴下管10に送出する、酸供給用のポンプ11を備えている。
また、上記塩基供給ライン4は、塩基を貯蔵する塩基貯蔵槽12、塩基供給路(流路)となる中空状の連結管13・14、塩基を上記反応容器2内に滴下供給するための滴下管15、並びに、上記連結管13・14に介在して設けられ、上記塩基貯蔵槽12に貯蔵された塩基を、連結管13・14を介して上記滴下管15に送出する、塩基供給用のポンプ16を備えている。
次に、上記晶析装置1を用いた晶析動作の一例について以下に説明する。
まず原料有機酸塩を水またはアルカリに溶解させることにより、原料有機酸塩溶液を調製する。次いで、原料有機酸塩溶液を反応原液として上記反応容器2に導入する。次いで、ポンプ11を用いて酸貯蔵槽7に貯蔵されている酸を、連結管8・9を通じて滴下管10から上記反応容器2内の反応液に供給する。上記酸は、例えば、予め、所望の濃度となるように水に希釈して酸貯蔵槽7に貯蔵されている。本実施の形態では、例えば、6Nの塩酸水溶液を用いるものとするが、本発明は、これに限定されるものではない。
上記反応原液中の有機酸塩は、前記したように、該反応容器2内に導入された酸と反応し、これにより、有機酸が、(II)の過飽和状態、並びに(III)の急速な過飽和状態の解消の時期を経て(IV)の飽和状態に至り、結晶として析出する。
次いで、上記(IV)の任意の時点で、ポンプ16を用いて塩基貯蔵槽12に貯蔵されている塩基を、連結管13・14を通じて滴下管15から上記反応容器2内の反応液に供給して、該反応容器2内の微細な結晶、つまり、析出した結晶の一部を溶解させる。
上記塩基の供給のタイミングは、上記原料有機酸塩から一旦目的の有機酸を全て晶析させた後でもよいし、原料有機酸塩から一旦目的の有機酸の一部を晶析させた後でもよいが、塩基および酸の使用量をできるだけ少なく抑えるためには、後者、特に、結晶が析出した時点で、上記反応液に塩基を供給することが好ましい。
結晶の析出は、目視によって確認することもできるし、結晶が出た瞬間にpHが大きく変動することを利用してpH計を用いてpH変化を検出することもできる。勿論、結晶の析出を確認することなく、仕込み原料有機酸塩におけるアニオン性官能基数を1としたときに、酸の添加量を該酸の当量で除した値として、1あるいはそれ以上の過剰量を用いて、結晶を析出させることにより、一連の反応が全て自動的に行われるように制御してもよい。
次いで、ポンプ11を用いて酸貯蔵槽7に貯蔵されている酸を、再度、連結管8・9を通じて滴下管10から上記反応容器2内の反応液に供給する。これにより、塩基によって溶解させた結晶分の有機酸塩が再度、晶析に供され、結晶成長により、平均粒子径が大きな結晶を得ることができる。
本実施の形態にかかる晶析方法においては、供給される酸の添加量(g)を該酸の当量(g)で除した値(以下、酸当量値と記すことがある。)よりも供給される塩基の添加量(g)を該塩基の当量(g)で除した値(以下塩基当量値と記すことがある。)が少なく、かつ、有機酸塩中に含まれるアニオン性官能基を全て酸性化するために必要な酸の量に加えて塩基により中和される酸の量が仕込んだ有機酸塩に対して用いられる。つまり、本実施の形態にかかる晶析方法においては、供給される酸当量値よりも仕込んだ有機酸塩量(g)を有機酸塩の当量(g)で除した値と供給される塩基当量値の和が小さくなるように酸および塩基の使用量が決定される。上記塩基の使用量については、塩基により中和される分を除いた酸の量が上記(II)の領域まで減少するように設定すればよく、一旦、酸を添加して晶析した後、塩基を供給しても溶け残った有機酸結晶の量を該有機酸の当量で除した値をQ、仕込み原料有機酸塩量(g)をP、仕込み原料有機酸塩の分子量を該有機酸塩1分子が有するアニオン性官能基数で除した値をZとするとき、Q/(P×Z)が、通常0.01〜0.3の範囲内、望ましくは、0.05〜0.2の範囲内となるように上記塩基の使用量を設定すればよい。これにより、結晶成長期間が長くなり、高い効果を得ることができる。
例えば有機酸がアジピン酸の場合には、塩基を供給しても溶け残った結晶の量は、仕込み原料有機酸塩を酸と完全に反応させたときに析出する全結晶の、通常は1〜30重量%の範囲内(言い換えれば、仕込んだ有機酸塩の1〜30重量%の範囲内)、好ましくは5〜20重量%の範囲内となるように上記塩基を添加すればよい。
より具体的には、上記反応において、最初に添加する酸当量値を前記(P×Z)で除した値は、通常0.33〜3の範囲内であり、好ましくは0.5〜1.3の範囲内である。また、使用する塩基当量値を前記(P×Z)で除した値は、最初に添加する酸当量値を前記(P×Z)で除した値から通常0.03〜0.3を減じた値の範囲内であり、好ましくは、最初に添加する酸当量値を前記(P×Z)で除した値から0.05〜0.15を減じた値の範囲内である。塩基滴下後に使用する酸当量値を前記(P×Z)で除した値については、最初に使用した酸当量値を前記(P×Z)で除した値と塩基滴下後に使用する酸当量値を前記(P×Z)で除した値との和から使用した塩基当量値を前記(P×Z)で除した値を減じた値が、通常0.9〜3の範囲内であり、好ましくは1〜1.3の範囲内である。
なお、上記酸および塩基の供給時間や供給位置、供給方法については、特に限定されるものではなく、酸および塩基の供給には、必ずしも上記した構成を有する酸供給ライン3あるいは塩基供給ライン4を用いる必要はなく、当然、酸および塩基の供給に必ずしも滴下管10・15を必要とはしない。また、滴下管10・15を用いる場合、上記各滴下管10・15は、上記反応容器2の任意の位置に設けることができる。
また、上記晶析装置1を構成する各部材の材質や大きさ等は、上記した原料有機酸塩と酸または塩基との反応に用いることができるものであれば特に限定されるものではない。
さらに、上記反応容器2に対する反応原液の投入量は、晶析対象成分の濃度や使用される酸および塩基の量等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
また、上記した各反応における反応時間や反応温度、反応圧力等の条件も、原料有機酸塩の種類や量、酸あるいは塩基との組み合わせ等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
なお、晶析に際し、上記反応原液に酸および塩基を添加することで、僅かずつではあるが、反応液の液量が増加するため、この液量の増加を考慮した反応容器2並びに反応条件を用いることが望ましい。
次に、上記第2の方法について説明する。
上記第2の方法として、上記したように同じ反応容器内で正反応を行いながら逆反応を行う場合、該方法に用いられる晶析装置としては、前記図1に示す晶析装置1を用いることができる。
上記第2の方法に用いられる反応容器2(晶析反応槽)としては、ディスクタービン翼、パドル翼、3枚後退翼等の後退翼、アンカー翼等を備えた、攪拌機付きの攪拌槽等、前記第1の方法に用いられる反応容器2と同様の反応容器を用いることができる。該反応容器2としては、有機酸塩と酸および塩基との反応に用いることができるものであれば特に限定されるものではなく、その規模(容量)や形状、材質等も、特に限定されない。
また、上記第2の方法においても、上記反応容器2としては、反応容器外壁側に、例えば冷媒または熱媒の導通により上記反応容器を通じて該反応容器内の反応液の冷却または加熱が可能なジャケットを有する反応容器が好適に用いられる。上記反応容器2が、このようなジャケットを有していることで、中和熱の除去等、反応温度の制御が容易となる。
上記攪拌機5(攪拌翼)による撹拌回転数は、反応容器2での単位容積あたりの撹拌動力が0.05〜2.0kW/m3の範囲となるように設定されることが好ましく、0.05〜0.3kW/m3の範囲内となるように設定されることがより好ましい。
さらに、上記反応容器2は、撹拌翼以外に、板バッフル、ビーバーテールバッフル、フィンガーバッフル、ディスク型バッフル、ドーナツ型バッフル等のバッフルを有してもよい。特に、上記第2の方法として、前記(2)で示したように、同じ反応容器2内で正反応を行いながら逆反応を行う場合、このように上記反応容器2内がバッフル等で部分的に仕切られていることで、酸と塩基とが中和によって無駄に消費されることを抑制することができる。
なお、この場合においても各滴下管10・15は、図1に示す反応容器2の任意の位置に設けることができるが、このように、反応容器2内の不均一さを利用して塩基を加える場合には、酸と塩基とが中和によって無駄に消費されることを抑制するために、酸と塩基とが、使用する反応容器2における該反応容器2内のフローパターンから互いに混ざり合い難い位置、つまり、滴下した酸と塩基とが互いに接触し難い位置に供給されることが望ましく、両滴下管10・15が、互いにできるだけ離間して設けられていることが望ましい。
なお、図1に示す晶析装置1では、酸供給用の滴下管10が、上記反応容器2の底部に設けられる一方、塩基供給用の滴下管15が、上記反応容器2内の反応液の液面よりも上方、つまり、反応容器2内における上部に設けられ、これにより、上記反応容器2内の底部に酸が供給され、上記反応容器2内の上部に塩基が供給される構成としたが、上述したように両滴下管10・15が、互いに離れた位置に形成されていれば、これに限定されるものではない。
但し、微細な結晶は、攪拌により上方に移動し易い傾向にあるため、図1に示すように、滴下管10・15を用いて、酸は、反応容器2内の攪拌機5(撹拌翼)近傍に、塩基は、撹拌液である反応液の表面に供給するとよい。つまり、上記晶析装置1は、酸供給用の滴下管10が上記反応容器2の底部に設けられると共に、塩基供給用の滴下管15が、上記反応容器2の上部に設けられていることが、微細な結晶を低減して平均粒子径が大きな結晶を製造する上で望ましい。
次に、上記第2の方法において上記晶析装置1を用いた晶析動作の一例について以下に説明する。
まず原料有機酸塩を水またはアルカリに溶解させることにより、原料有機酸塩溶液を調製する。次いで、該原料有機酸塩溶液を反応原液として上記反応容器2に導入する。ここまでは上記第1の方法と同じであるが、上記(2)の方法を用いる場合、ポンプ11を用いて酸貯蔵槽7に貯蔵されている酸を、連結管8・9を通じて滴下管10から上記反応容器2内の反応液に供給しながら、ポンプ16を用いて塩基貯蔵槽12に貯蔵されている塩基を、連結管13・14を通じて滴下管15から上記反応容器2内の反応液に供給する。
この場合、上記正反応と逆反応とを効率良く行うためには、酸を供給開始後、結晶が析出し始めてから塩基の供給を開始することが望ましい。
上記反応液中では、酸の供給位置付近においては正反応が支配的に起こり、塩基の供給位置付近においては逆反応が支配的に起こる。酸の供給位置付近において析出した結晶は、攪拌により塩基の供給位置付近において微細な結晶が溶解され、残った結晶は、酸の滴下位置近傍で結晶成長する。上記の方法においては、上記反応容器2内でこの反応が繰り返されて、残った結晶は次第に大きな結晶となる。
なお、上記の晶析方法においても、供給する酸当量値よりも仕込み原料有機酸塩量を該有機酸塩の当量で除した値と供給する塩基当量値の和が小さくなるように酸および塩基の使用量が決定される。
使用する塩基当量値を前記(P×Z)で除した値は、通常、0.5〜10の範囲内であり、好ましくは、0.8〜2.5の範囲内である。
また、使用する酸当量値を前記(P×Z)で除した値は、用いられる塩基当量値を前記(P×Z)で除した値に、通常0.9〜1.5、好ましくは1.0〜1.3を加えた範囲内である。
塩基の供給は、一定速度で行ってもよいが、間欠的に滴下する方が、反応容器2内の不均一さが大きくなり、結晶の平均粒子径を大きくする傾向があることからより望ましい。
上記晶析方法において、供給される酸当量値に対する塩基当量値が比較的大きい方が結晶の平均粒子径を大きくする傾向があることから好ましい。また、塩基濃度は、濃い方が結晶の平均粒子径を大きくする傾向があることから好ましい。
なお、塩基の使用量、滴下時間等は、上記晶析装置1のフローパターン、つまり、この場合は上記反応容器2のフローパターンに起因する混合状態によって変化するため、条件を変化させて最適化されることが望ましい。つまり、上記の方法においては、反応容器2内に適度な淀みがあるように、攪拌条件、滴下位置、滴下速度、滴下量のバランスの最適化を行うことが望ましい。
また、上記したように晶析反応容器内に直接塩基を加えるのではなく、晶析反応容器とは異なる反応容器内に反応液を移して塩基を加え、再度晶析反応容器に戻すことにより上記した一連の反応を行ってもよい。
以下に、晶析反応容器とは異なる反応容器内に反応液を移して塩基を加え、再度晶析反応容器に戻すことにより上記した一連の反応を行う方法として、前記(3)に示したように、正反応と逆反応とを異なる反応容器にて行い、この異なる反応容器の間で容器内液を循環させて上記した正反応と逆反応とを交互に繰り返し行う方法について図2を参照して具体的に説明する。
図2に、上記方法に好適に用いられる晶析装置の一例を示す。
図2に示す晶析装置20は、原料有機酸塩を酸によって晶析するための晶析反応容器としての第1の反応容器21と、上記第1の反応容器21で晶析により析出した結晶の一部を塩基で溶解するための逆反応用の反応容器としての第2の反応容器31と、上記第1の反応容器21内に酸を供給する酸供給ライン40(酸供給手段)と、上記第2の反応容器31内に塩基を供給する塩基供給ライン50(塩基供給ライン)と、上記第1の反応容器21と第2の反応容器31との間で反応液を循環させる反応液循環ライン60(反応液循環手段)とを備えている。
上記第1の反応容器21には、該第1の反応容器21内に導入された反応原液を攪拌して反応させる攪拌機22が設置されている。また、該第1の反応容器21は、その外壁側に、温水等の熱媒の入口または出口となる図示しない導通口を有するジャケット23を備えている。
同様に、上記第2の反応容器31には、該第2の反応容器31内に導入された反応液を攪拌して反応させる攪拌機32が設置されている。また、該第2の反応容器31は、その外壁側に、温水等の熱媒の入口または出口となる図示しない導通口を有するジャケット33を備えている。
上記酸供給ライン40は、酸を貯蔵する酸貯蔵槽41、酸供給路(流路)となる中空状の連結管42・43、酸を上記第1の反応容器21内に滴下供給するための滴下管44、並びに、上記連結管42・43に介在して設けられ、上記酸貯蔵槽41に貯蔵された酸を、連結管42・43を介して上記滴下管44に送出する、酸供給用のポンプ45を備えている。
また、上記塩基供給ライン50は、塩基を貯蔵する塩基貯蔵槽51、塩基供給路(流路)となる中空状の連結管52・53、塩基を上記第2の反応容器31内に滴下供給するための滴下管54、並びに、上記連結管52・53に介在して設けられ、上記酸貯蔵槽51に貯蔵された酸を、連結管52・53を介して上記滴下管54に送出する、塩基供給用のポンプ55を備えている。
なお、第1および第2の各反応容器21・31や酸供給ライン40、塩基供給ライン50等の各々の構成、並びに、第1および第2の各反応容器21・31における各反応攪拌回転数等の晶析条件は、上述した通りであり、上記晶析装置1を用いた場合と同様に設定することができる。すなわち、上記晶析装置20における晶析条件は、正反応と逆反応とを各々別々の反応容器を用いて行うと共に、上記反応液循環ライン60を用いて上記第1の反応容器21と第2の反応容器31との間で反応液を循環させる以外は、上述した晶析装置1を用いた第2の方法による晶析条件と同様に設定することができる。
上記反応液循環ライン60は、上記第1の反応容器21と第2の反応容器31とを連結し、第1の反応容器21内の反応液を上記第2の反応容器31に送出する送路と、上記第1の反応容器21と第2の反応容器31とを連結し、第2の反応容器31内の反応液を上記第1の反応容器21に送出する戻路とを有している。
上記反応液循環ライン60の送路には、上記第1の反応容器21内の反応液を吸引する吸引管61と、反応液の流路となる中空状の連結管62・63と、上記連結管62・63に介在して設けられ、上記第1の反応容器21内の反応液を、連結管62・63を介して上記第2の反応容器31に送る、反応液循環用のポンプ64が設けられている。
また、上記反応液循環ライン60の戻路には、上記第2の反応容器31内の反応液を吸引する吸引管67と、反応液の流路となる中空状の連結管68・69と、上記連結管68・69に介在して設けられ、上記第2の反応容器31内の反応液を、連結管68・69を介して上記第1の反応容器21に送る、反応液循環用のポンプ70が設けられている。
これにより、上記各晶析装置21・31内の反応液は、各吸引管61・67により各連結管62・68を通じて各ポンプ64・70へと抜き出され、さらに、各連結管63・69を通じて各反応容器21・31に導入されることで、各反応容器21・31間で循環されるようになっている。
なお、上記反応容器21・31としては、例えば、撹拌混合槽、ラインミキサー、スタティックミキサー等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これら反応容器21・31としては、前記反応容器2と同様の反応容器を使用することもでき、原料有機酸塩と酸および塩基との反応に用いることができるものであれば特に限定されるものではなく、その規模(容量)や形状、材質等も、特に限定されない。
次に、上記晶析装置20を用いた晶析動作の一例について以下に説明する。
まず原料有機酸塩を水またはアルカリに溶解させることにより、原料有機酸塩溶液を調製する。次いで、該原料有機酸塩溶液を反応原液として第1の反応容器21に導入する。次いで、ポンプ45を用いて酸貯蔵槽41に貯蔵されている酸を、連結管42・43を通じて滴下管44から上記反応容器21内の反応液に供給する。上記酸は、前記したように、例えば、予め、所望の濃度となるように水に希釈して酸貯蔵槽41に貯蔵されている。
上記第1の反応容器21中の原料有機酸塩は、該第1の反応容器21内に導入された酸と反応し、結晶として析出する。この析出した結晶が分散された反応液は、反応液循環ライン60の送路に設けられたポンプ64により、吸引管61を用いて上記第1の反応容器21から抜き出され、連結管62・63を通じて第2の反応容器31内に導入される。
上記第2の反応容器31内には、塩基貯蔵槽51に貯蔵されている塩基が、ポンプ55により連結管52・53を通じて滴下管54から滴下供給されている。このため、上記第2の反応容器31に導入された反応液中の結晶は、該第2の反応容器31内に供給された塩基と反応してその一部が溶解し、反応液内には、比較的大きな結晶のみが残る。なお、上記塩基は、前記したように、例えば、予め、所望の濃度となるように水に希釈して塩基貯蔵槽51に貯蔵されている。
上記第2の反応容器31内で微細な結晶が溶解された反応液は、反応液循環ライン60の戻路に設けられたポンプ70により、吸引管67を用いて上記第2の反応容器31から抜き出され、連結管68・69を通じて第1の反応容器21内に戻される。
第1の反応容器21では、滴下管44を通じて酸貯蔵槽41から滴下供給されている酸によって、新たな結晶が生成する一方で、上記第2の反応容器31を介して循環された反応液内の結晶を核(種晶)として結晶成長する。
この第1の反応容器21内の反応液は、再び、反応液循環ライン60の送路を通じて第2の反応容器31に導入され、ここで、第1の反応容器21で新たに生成された微細な結晶が溶解されて再び第1の反応容器21に戻される。これを繰り返すことで、より大きな平均粒子径を有する結晶が製造される。
なお、上記晶析装置20を用いた場合、上記第2の反応容器31に塩基が供給されており、上記反応液循環ライン60の送路によって上記第2の反応容器31に供給された反応液中の微細な結晶が溶解することで、上記反応液循環ライン60の戻路では、比較的大きな結晶が該反応液循環ライン60の戻路を通って第1の反応容器21に戻される様子を観察することができる。
上記した晶析装置20を用いれば、上記反応液の循環は、ポンプ64・70によりその循環量並びに反応液の送出のタイミング等を制御することができる。したがって、上記の晶析装置20を用いることで、例えば上記した各反応容器、つまり、第1の反応容器21および第2の反応容器31での反応時間の調整を行うことができる。なお、上記晶析装置20を用いて常に反応液を循環させた状態で晶析を行うことができることは言うまでもないことである。
上記した晶析装置20を用いた場合の晶析条件は、前記晶析装置1を用いた第2の方法における晶析条件と同様に設定される。
例えば、上記攪拌機22(攪拌翼)による撹拌回転数は、上記第1の反応容器21での単位容積あたりの撹拌動力が0.05〜2.0kW/m3の範囲内となるように設定されることが好ましく、0.05〜0.3kW/m3の範囲内となるように設定されることがより好ましい。
但し、上記した晶析装置20を用いる場合、塩基供給側においては、撹拌回転数は、結晶を溶解するのに十分な程度であればよく、例えば、上記各攪拌機32(攪拌翼)による撹拌回転数は、上記第2の反応容器31での単位容積あたりの撹拌動力が0.1〜2.0kW/m3の範囲内となるように設定されることが好
ましい。
つまり、上記攪拌機22では、結晶を壊さないように比較的ゆっくり攪拌することが望ましいが、上記攪拌機32では特に限定されず、比較的強く攪拌する方が、結晶の溶解が速やかに実施できることから好ましい。
上記の晶析方法においても、供給する酸当量値よりも、仕込み原料有機酸塩の量を該有機酸塩の当量で除した値と供給される塩基当量値との和が小さくなるように酸および塩基の使用量が決定される。
使用する塩基当量値を前記(P×Z)で除した値は、通常0.1〜2.5の範囲内であり、好ましくは、0.75〜1.5の範囲内である。
また、使用される酸当量値を前記(P×Z)で除した値は、用いられる塩基の当量値を前記(P×Z)で除した値に、通常0.9〜1.5、好ましくは1.0〜1.2を加えた値の範囲内である。
但し、上記の方法においては、塩基の使用量は、反応容器31がアルカリ性である時間が長い方がよく、仕込み原料有機酸塩量(g)をP、仕込み原料有機酸塩の分子量を該有機酸塩1分子が有するアニオン性官能基数で除した値をZ、塩基当量値(塩基の添加量(g)を該塩基の当量(g)で除した値)をM、滴下時間をT(min)、単位時間当りの反応液の循環量をF(ml/min)、系内、つまり、上記晶析装置20における最大液量と最小液量の対数平均(すなわち、第1の反応容器21および第2の反応容器31中の液量および連結管62・63・68・69内の液量の総和の最大量と最小量の対数平均)をL(ml)とすると、(L×M)/(T×F×P×Z)で示される値(α)が0.5以上、1.5未満となる範囲内、好ましくは、0.7以上、1.1未満の範囲内となるように設定されることが望ましい。
なお、図2に示す晶析装置20では、吸引管61、67を用いて第1の反応容器21および第2の反応容器31から反応液を抜き出す構成としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば第1の反応容器21・第2の反応容器31の底部あるいは周壁等に反応液排出口を設け、該反応液排出口から反応液を抜き出す構成としてもよい。つまり、上記反応液循環ライン60を構成する各連結管62・63・68・69や吸引管61・67もまた、滴下管44・54同様、上記各反応容器21・31の任意の部分に接続することができる。
また、図2に示す晶析装置20では、反応液循環ライン60の送路により、第2の反応容器31の上部に第1の反応容器21から排出された反応液が供給され、反応液循環ライン60の戻路により、第1の反応容器21の上部に第2の反応容器31から排出された反応液が供給される構成としたが、上記晶析装置20の構成は、これに限定されるものではない。また、各反応容器や供給ライン、循環ライン等は、複数設けられていても構わない。
また、上記第2の方法においても、上記第1の反応容器31に初めに投入する反応液の投入量、各反応における反応時間や反応温度、反応圧力等の条件は、原料有機酸塩の種類や量、酸あるいは塩基との組み合わせ等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
かくして得られた有機酸結晶液は、通常の濾過により単離することができる。濾過方式としては、例えば遠心濾過、加圧濾過、減圧濾過、自然流下式濾過等、いずれの濾過方法を採用したものであってもよい。
以上のように、本実施形態によれば、上記した各晶析方法により晶析することで、微細な結晶を低減させることができ、しかも、結晶成長に用いられる有機酸の割合を高め、効率よく結晶成長させることが可能となるので、平均粒径が大きい結晶、嵩密度が大きな粉体を再現性よく安定的に得ることができる。
上記した各晶析方法を用いて得られる結晶は、平均粒径が大粒子側にシフトすることが期待される。これにより、上記結晶を含む反応液を濾別する際に、該反応液の濾過性が良くなるといった効果や、得られた目的の有機酸の粉体は、嵩密度が大きくなる、流動性が良くなるといった効果を得ることができる。
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
〔実施例1〕
半径30mmの3枚後退翼(攪拌機)を備えた1000mlのセパラブルフラスコ(反応容器)に、サリチル酸12.02g、8mol/l(20℃)の水酸化ナトリウム水溶液15.17g、水499.87gを加え、サリチル酸を完全に溶解させて原料有機酸塩の溶液(反応原液)とした。
続いて、上記3枚後退翼の攪拌回転数を370rpmに設定し、内温30℃にて定量ポンプを用いて上記セパラブルフラスコ内液表面に、6mol/l(20℃)の塩酸19.14gを29分間かけて滴下した。塩酸の滴下開始から7分目に、目視にて急激な結晶析出が観察された。
続いて、上記セパラブルフラスコ内液表面に、8mol/lの水酸化ナトリウム水溶液(20℃)11.02gを8分間かけて仕込んだ後、定量ポンプを用いて上記セパラブルフラスコ内液表面に、6mol/l(20℃)の塩酸12.75gを20分間かけて滴下した。
続いて、上記セパラブルフラスコ内の反応液を減圧濾過後、減圧乾燥させてサリチル酸の結晶10.35gを得た。次いで、該結晶の体積基準平均径を、レーザ回折式粒度分布測定機(英国Malvarn Instruments Ltd.製の「Master Sizer S Long bed」(商品名))で測定したところ、体積基準平均径は75.8μmであった。
〔比較例1〕
半径30mmの3枚後退翼(攪拌機)を備えた1000mlのセパラブルフラスコ(反応容器)に、サリチル酸12.02g、8mol/l(20℃)の水酸化ナトリウム水溶液15.18g、水500.01gを加え、サリチル酸を完全に溶解させて原料有機酸塩の溶液(反応原液)とした。
続いて、上記3枚後退翼の攪拌回転数を370rpmに設定し、内温30℃にて定量ポンプを用いて上記セパラブルフラスコ内液表面に、6mol/l(20℃)の塩酸19.15gを30分間かけて滴下した。塩酸の滴下開始から10分目に、目視にて急激な結晶析出が観察された。
続いて、上記セパラブルフラスコ内の反応液を減圧濾過後、減圧乾燥させてサリチル酸の結晶9.97gを得た。次いで、該結晶の体積基準平均径を、実施例1と同じレーザ回折式粒度分布測定機で測定したところ、体積基準平均径は53.3μmであった。
〔実施例2〕
半径23mmの3枚後退翼(攪拌機)を備えた500mlのセパラブルフラスコ(反応容器)に、アジピン酸14.62g、8mol/l(20℃)の水酸化ナトリウム水溶液17.53g、水199.01gを加え、アジピン酸を完全に溶解させて原料有機酸塩の溶液(反応原液)とした。
続いて、上記3枚後退翼の攪拌回転数を171rpmに設定し、内温30℃にて滴下ロート(滴下管)を用いて、6mol/l(20℃)の塩酸40.26gを、上記セパラブルフラスコ内下部に40分間かけて滴下した。
塩酸の滴下開始から16分目に、8mol/l(20℃)の水酸化ナトリウム水溶液15.95gを、上記セパラブルフラスコ内の反応液の液表面に、滴下ロートを用いて、上記酸の滴下と並行して同時に滴下を行い、24分で滴下を終了した。
その後、上記反応に用いた塩酸滴下用の滴下ロート並びに水酸化ナトリウム滴下用の滴下ロートを、各々3.19g、2.08gの水で洗浄した。
続いて、上記セパラブルフラスコ内の反応液を減圧濾過後、減圧乾燥させてアジピン酸の結晶を得た。次いで、該結晶の体積基準平均径を、実施例1と同じレーザ回折式粒度分布測定機で測定したところ、体積基準平均径は175μmであった。得られたアジピン酸の結晶1.50gを内径8mmのガラス管に仕込んだところ、粉体の高さは90mmとなり、粉体の嵩密度は332kg/m3であった。
〔比較例2〕
半径23mmの3枚後退翼を備えた500mlのセパラブルフラスコに、アジピン酸14.62g、8mol/l(20℃)の水酸化ナトリウム水溶液17.53g、水199.04gを加え、アジピン酸を完全に溶解して原料有機酸塩の溶液(反応原液)とした。
続いて、上記3枚後退翼の攪拌回転数を316rpmに設定し、内温30℃にて滴下ロートを用いて、6mol/l(20℃)の塩酸21.96gを、上記セパラブルフラスコ内の反応液の液表面に26分間かけて滴下し、上記滴下ロートを4.12gの水で洗浄した。
続いて、上記セパラブルフラスコ内の反応液を減圧濾過後、減圧乾燥させてアジピン酸を得た。次いで、該結晶の体積基準平均径を、実施例1と同じレーザ回折式粒度分布測定機で測定したところ、体積基準平均径は129μmであった。
得られたアジピン酸の結晶1.50gを内径8mmのガラス管に仕込んだところ、粉体の高さは112mmとなり、粉体の嵩密度は267kg/m3であった。
〔実施例3〕
半径30mmの3枚後退翼(攪拌機)を備えた1000mlのセパラブルフラスコ(第1の反応容器)に、ビオチン50.13g、8mol/l(20℃)の水酸化ナトリウム水溶液35.88g、水600.1gを加え、ビオチンを完全に溶解させて原料有機酸塩の溶液(反応原液)とし、上記3枚後退翼の攪拌回転数を300rpmに設定した。また、半径23mmの3枚後退翼(攪拌機)を備えた500mlのセパラブルフラスコ(第2の反応容器)に、水100.22gを加え、上記3枚後退翼の攪拌回転数を350rpmに設定した。上記第1の反応容器にディップ管を設置し、ポンプにて該第1の反応容器内の内容物(反応液)を、32.8ml/minで、上記第2の反応容器内の内容物の液表面に送液した。同時に、上記第2の反応容器にディップ管を設置し、ポンプにて該第2の反応容器内の内容物(反応液)を、32.8ml/minで、上記第1の反応容器内の内容物の液表面に送液し、両反応容器内の内容物を10分間循環させた。
続いて、上記流量による循環を続けながら、内温30℃にて定量ポンプを用いて、6mol/l(20℃)の塩酸101.25gを、上記第1の反応容器内の液表面に45分間かけて滴下した。同時に、上記流量による循環を続けながら、内温30℃にて定量ポンプを用いて、8mol/l(20℃)の水酸化ナトリウム水溶液48.96gを上記第2の反応容器内の内容物の液表面に45分間かけて滴下した。
滴下終了後、両反応容器内の内容物を上記流量にて10分間循環させた。続いて、両反応容器内の反応液を減圧濾過後、減圧乾燥させてビオチンの結晶49.83gを得た。次いで、該結晶の体積基準平均径を、実施例1と同じレーザ回折式粒度分布測定機で測定したところ、体積基準平均径は24.1μmであった。また、該結晶の疎嵩密度および密嵩密度を、粉体物性測定機(ホソカワミクロン製の「パウダーテスター」(商品名))にて測定したところ、それぞれ219kg/m3、402kg/m3であった。
〔比較例3〕
半径30mmの3枚後退翼(攪拌機)を備えた1000mlのセパラブルフラスコ(反応容器)に、ビオチン50.02g、8mol/l(20℃)の水酸化ナトリウム水溶液35.87g、水700.1gを加え、ビオチンを完全に溶解させて原料有機酸塩の溶液(反応原液)とし、上記3枚後退翼の攪拌回転数を300rpmに設定した。続いて、内温30℃にて定量ポンプを用いて、6mol/l(20℃)の塩酸44.93gを上記セパラブルフラスコ内の内容物(反応液)の液表面に40分間かけて滴下した。
続いて、上記セパラブルフラスコ内の反応液を減圧濾過後、減圧乾燥させてビオチンの結晶49.96gを得た。次いで、該結晶の体積基準平均径を、実施例3と同じレーザ回折式粒度分布測定機で測定したところ、体積基準平均径は14.6μmであった。また、該結晶の疎嵩密度および密嵩密度を、実施例3と同じ粉体物性測定機にて測定したところ、それぞれ188kg/m3、348kg/m3であった。
〔実施例4〕
半径23mmの3枚後退翼(攪拌機)を備えた500mlのセパラブルフラスコ(反応容器)に、ニコチン酸20.13g、8mol/l(20℃)の水酸化ナトリウム水溶液28.50g、水300.73gを加え、ニコチン酸を完全に溶解させて原料有機酸塩の溶液(反応原液)とした。続いて、上記3枚後退翼の攪拌回転数を300rpmに設定し、内温5℃にて滴下ロートを用いて上記セパラブルフラスコ内の内容物(反応液)の液表面に、6mol/l(20℃)の塩酸36.38gを3分間かけて滴下した。塩酸の滴下開始から1分10秒目に、目視にて急激な結晶析出が観察された。
続いて、上記セパラブルフラスコ内の内容物の液表面に、8mol/l(20℃)の水酸化ナトリウム水溶液20.71gを仕込んだ後、滴下ロートを用いて上記セパラブルフラスコ内の内容物の液表面に、6mol/l(20℃)の塩酸24.02gを2分間かけて滴下した。
続いて、上記セパラブルフラスコ内の反応液を減圧濾過後、減圧乾燥させてニコチン酸の結晶13.28gを得た。次いで、該結晶の体積基準平均径を、実施例1と同じレーザ回折式粒度分布測定機で測定したところ、体積基準平均径は20.4μmであった。
〔比較例4〕
半径23mmの3枚後退翼(攪拌機)を備えた500mlのセパラブルフラスコ(反応容器)に、ニコチン酸20.02g、8mol/l(20℃)の水酸化ナトリウム水溶液28.49g、水300.31gを加え、ニコチン酸を完全に溶解させて原料有機酸塩の溶液(反応原液)とした。
続いて、上記3枚後退翼の攪拌回転数を300rpmに設定し、内温5℃にて滴下ロートを用いて上記セパラブルフラスコ内の内容物(反応液)の液表面に、6mol/l(20℃)の塩酸36.16gを3分間かけて滴下した。塩酸の滴下開始から1分10秒目に、目視にて急激な結晶析出が観察された。
続いて、上記セパラブルフラスコ内の反応液を減圧濾過後、減圧乾燥させてニコチン酸の結晶14.10gを得た。次いで、該結晶の体積基準平均径を、実施例1と同じレーザ回折式粒度分布測定機で測定したところ、体積基準平均径は18.4μmであった。
本発明は、有機酸塩の溶液に酸を添加して大きな平均粒子径・嵩密度を有する結晶を製造することを含む有機酸の晶析方法並びに該方法に好適な晶析装置に関するものであり、前述したとおり、濾過作業が容易となるほか種々の有用性を有する。それゆえ、本発明は、有機酸の製造のみならず、有機酸を原料として用いる医薬品製造業、農薬品製造業、食品製造業、添加剤などの工業薬品製造業等の各種化学工業において利用可能である。
本発明の晶析方法に用いられる晶析装置の構成を示す模式図である。 本発明の晶析方法に用いられる他の晶析装置の構成を示す模式図である。
符号の説明
1 晶析装置
2 反応容器(晶析反応槽)
3 酸供給ライン(酸供給手段)
4 塩基供給ライン(塩基供給手段)
5 攪拌機
7 酸貯蔵槽
8 連結管
9 連結管
10 滴下管
12 塩基貯蔵槽
13 連結管
14 連結管
15 滴下管
20 晶析装置
21 第1の反応容器
22 攪拌機
31 第2の反応容器
32 攪拌機
40 酸供給ライン(酸供給手段)
41 酸貯蔵槽
42 連結管
43 連結管
44 滴下管
50 塩基供給ライン(塩基供給手段)
51 塩基貯蔵槽
51 酸貯蔵槽
52 連結管
53 連結管
54 滴下管
60 反応液循環ライン(反応液循環手段)
61 吸引管
62 連結管
63 連結管
67 吸引管
68 連結管
69 連結管

Claims (8)

  1. 有機酸塩の溶液に酸を添加して有機酸を結晶化することからなる、水に難溶あるいは不溶な有機酸の晶析方法であって、
    有機酸塩の溶液に酸を添加することにより、析出する全有機酸結晶の少なくとも一部の有機酸結晶を析出させた後、該有機酸結晶含有液に塩基を添加して、該有機酸結晶の一部を有機酸塩に変換して溶解させ、該有機酸塩の溶解液に酸を添加することを含む有機酸の晶析方法。
  2. 有機酸塩の溶液に酸を添加して有機酸を結晶化することからなる、水に難溶あるいは不溶な有機酸の晶析方法であって、
    有機酸塩の溶液に酸を添加することにより有機酸結晶析出し始めた後、該有機酸結晶の含有液に塩基を添加して、該有機酸結晶の一部を有機酸塩に変換して溶解させながら、添加を行うことを含む有機酸の晶析方法。
  3. の添加および塩基の添加を、互いに連通して設けられた別々の反応容器内で、該反応容器内液を反応容器間で循環させながら行い、かつ、初期酸添加前の有機酸塩の溶液中の有機酸塩量(g)をP、該有機酸塩の分子量を該有機酸塩1分子が有するアニオン性官能基数で除した値をZ、塩基添加量(g)を該塩基の当量(g)で除した値をM、添加時間をT(min)、単位時間当りの上記液の循環量をF(ml/min)、系内における最大液量と最小液量の対数平均をL(ml)とするとき、L×M/(T×F×P×Z)で示される式の値が0.5以上、1.5未満を満足するように上記塩基の量を調整する請求項2に記載の有機酸の晶析方法。
  4. 下記M/(P×Z)が下記式を満足する範囲である請求項1〜のいずれか1項に記載の有機酸の晶析方法。
    Q/(P×Z)−0.3≦M/(P×Z)≦Q/(P×Z)−0.03
    M:塩基の添加量(g)を該塩基の当量(g)で除した値
    Q:塩基添加の前に添加する酸の添加量(g)を該酸の当量(g)で除した値
    P:初期酸添加前の有機酸塩の溶液中の有機酸塩量(g)
    Z:初期酸添加前の有機酸塩の溶液中の有機酸塩の分子量を該有機酸塩1分子が有するアニオン性官能基数で除した値
  5. 塩基添加後に残存する有機酸結晶の量、析出する全結晶の1〜30重量%の範囲である請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機酸の晶析方法。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機酸の晶析方法を用いて有機酸結晶を得る工程と、該工程により得られる有機酸結晶を含む反応液から有機酸結晶を単離する工程とを含む有機酸結晶の製造方法
  7. 晶析反応容器と、該晶析反応容器内に酸を供給する酸供給手段と、該晶析反応容器内に塩基を供給する塩基供給手段とを備え、該酸供給手段および塩基供給手段は、酸と塩基とを、該晶析反応容器内において互いに離間した位置に供給することを含む、水に難溶あるいは不溶な有機酸の晶析装置。
  8. 酸供給手段を備えた第1の反応容器と、塩基供給手段を備えた第2の反応容器と、上記第1の反応容器と第2の反応容器とを連通し、上記第1の反応容器と第2の反応容器との間で反応液を循環させる液循環手段とを有していることを含む、水に難溶あるいは不溶な有機酸の晶析装置。
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