JP4475722B2 - リチウム電池用電極とその製造方法、およびそれを用いた電池 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
正極と負極の少なくともいずれか一方が、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵放出可能な物質を含む電極からなるリチウム一次電池もしくは二次電池に関し、より詳しく言えば有機電解液を使用し負極がリチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料からなるリチウムイオン二次電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ポータブル電話機、ビデオカメラ、ノート型パソコン等の小型化および携帯化、あるいは電気自動車の実用化に向けて、より高エネルギー密度の蓄電池が要望されているが、その中でも3V以上の出力が可能な有機電解液電池は期待されている。その代表例としては現在既に上市されているリチウムイオン二次電池が挙げられる。
これらの有機電解液電池の正極には、LiMn2O4等のスピネル構造化合物や、一般的にLiMO2で表せられるα−NaFeO2構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物等が利用できる。ここでMはCo、Ni、Al、Mn、Ti、Fe等から選ばれる単独もしくは2種類以上の金属元素である。さらにはリチウムの挿入可能なMnO2やV2O5等の金属酸化物やTiS2やZnS2等の金属硫化物、電気化学的酸化還元活性を有するポリアニリンやポリピロール等のπ共役系高分子、分子内に硫黄−硫黄結合の形成−開裂を利用するジスルフィド化合物等を用いることも可能である。
一方負極としては、金属リチウムもしくは各種リチウム合金、あるいはリチウムを吸蔵放出可能な金属酸化物や炭素材料を用いることができる。とりわけ繰り返し充放電が可能なリチウムイオン二次電池に於いては負極に炭素材料が使用されることが一般的であるが、炭素材料としては天然に産出される黒鉛もしくは有機原料を2000℃以上の高温で焼成し、グラファイト構造が発達した平坦な電位特性を有する黒鉛系炭素材料、あるいは有機原料を1000℃以下の比較的低温で焼成し、黒鉛系材料よりも大きな充放電容量が期待できるコークス系炭素材料等が用いられる。
【0003】
上記電極には、電極の電子伝導性を向上させる目的として、粉末や繊維状の金属もしくは炭素粉末を加える場合がある。金属としては、銅、銀、アルミ等が、炭素としては、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等を用いることができる。
また電極の製造方法としては、結着剤の役目をする少量の高分子材料、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)を1−メチル−2−ピロリドン等の溶剤に溶解したものに、各種活物質および適宜炭素や金属の微粉体からなる導電助剤を分散させてペースト状にした電極合剤を用意する。それを電極芯材となる厚さ数十μmの金属箔の両面又は片面に塗布した後、有機溶剤を除去することにより金属箔上に活物質を含む電極合剤層を形成させる方法が一般的である。
その他の結着剤の例としては、エチレンプロピレン−ジエンタ−ポリマー(EPゴム)、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体やフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等の各種フッ素ゴム等が挙げられる。その他では、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やSBR、NBR等の高分子のラテックスやディスパージョンに、ポリアクリル酸ナトリウムやカルボキシメチルセルロース(CMC)等の水溶性高分子を増粘剤として加えたものを結着剤として利用する方法もある。
また電極芯材は集電体とも呼ばれ、正極側にはアルミ箔が、一方負極側には銅箔が用いられることが多い。
塗布−乾燥直後の電極では、乾燥過程で溶剤が抜けることにより、電極内に空隙が生じ、充填率が低くなりすぎる場合がある。その場合、電極の機械強度が低いため電極合剤が剥げ落ちやすいことや、電極合剤中の粒子同士の接触が弱いため電極の電子伝導性が不十分となる等の不都合がある。そのためロールプレス等の加圧成型を施す場合が多い。この加圧成型では、一回もしくは複数回に分けて所望の厚みまで加工し電極の充填率を高める。
この様にして製造されるリチウムイオン電池用電極は、金属箔上の電極合剤部の厚みは100μm前後であり、厚さの誤差が数μm以内で非常に平滑な多孔質性の電極となる。
これらの正極と負極とを両者が対向する形で、隔膜となる高分子製の微孔質フィルムを介して、形が崩れないように高密度に何層にもしっかり巻き取り、それを金属製の電池缶に挿入し、最終的に電解液を注入した後、機械的な方法でカシメるか、もしくはレーザー溶接等の方法で完全に密閉することにより電池が製造される。その他、短冊状に切り抜いた電極を隔膜を介してかさね合わせたものを一層もしくは複数層積層させた構造を有する電池や、あるいはアルミ箔等の表面にポリマーシートをラミネートしたフィルムを袋状に加工したものを金属製の電池缶の代わりに用いる場合もある。
ここで隔膜としては、1μm以下の細孔を有する厚さ100μm以下のポリプロピレンやポリエチレン製の微孔質膜が使用される場合が多いが、PVDFやPTFE製の微孔質膜を用いることも可能である。
【0004】
一方電解液としては、通常リチウム塩を有機溶媒に溶解したものが用いられる。リチウム塩としては、おもにLiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3等が使用され、有機溶媒としてはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、スルホラン、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、2−メチル−テトラヒドロフラン、各種グライム類等を単独もしくは2種類以上混合したものが用いられる。
また電解液の注入は一般に減圧下で行われる。具体的には電池内部を減圧にしておき、そこに電解液を注入した後、常圧に戻すことにより電池内部まで電解液を浸透させる。しかしながら、上記のようにリチウムイオン電池では、電池缶内に薄膜状で平滑な電極や隔膜がかなり高密度に充填されており、この様な減圧下における注入でも電解液の浸透が必ずしも十分ではなく、最終的な電池性能のバラツキを低減させるため、40℃〜80℃程度で一定時間電池を加熱するエージングと呼ばれる処理を施すことが多い。
この様な電解液の注入工程およびその結果得られる電池内の電解液の浸透状態は、電池特性や品質のバラツキあるいは歩留まり等に対して極めて大きな影響を与える。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明では、リチウムイオン電池に代表される、金属箔上に電極合剤を塗布することにより製造される薄膜状電極を用いた電池に於いて、電池内への電解液に浸透状態を向上させることにより電池特性の向上や品質のバラツキを低下させたリチウム電池用電極とそれを用いたリチウム電池及び前記電極の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記課題は下記の発明により達成される。すなわち本発明は、
(1)金属箔の片面もしくは両面に電気化学的にリチウムイオンを吸蔵−放出可能な物質を含む電極合剤を塗布して製造される電極に於いて、あらかじめ電極合剤が塗布されている金属箔上で直径20mm以内に、電極合剤を通して金属箔に切れ込み、もしくは針穴を設けることにより、金属箔上に最大線幅もしくは最大径が100μm未満の線状もしくは針穴状の透孔の全体もしくはその一部を少なくとも1つ以上設けたことを特徴とするリチウム電池用電極、
(2)前記透孔を設ける前後で金属箔部分の質量変化が1%以下であることを特徴とする(1)項記載のリチウム電池用電極、
(3)金属箔の片面もしくは両面に電気化学的にリチウムイオンを吸蔵−放出可能な物質を含む電極合剤を塗布して製造される電極に於いて、あらかじめ電極合剤が塗布されている電極に対し、電極合剤を通して金属箔に切れ込み、もしくは針穴を設けることにより、金属箔上で直径20mm以内に、最大線幅もしくは最大径が100μm未満の線状もしくは針穴状の透孔の全体もしくはその一部を少なくとも1つ以上設け、その後、加圧成型を行なうことを特徴とするリチウム電池用電極の製造方法、
(4)正極と負極の少なくとも一方に(1)又は(2)項のいずれか1項に記載の電極を用いたことを特徴とするリチウム電池、及び
(5)電池の、正極、隔膜、負極の電池要素が張り合わされて一体化していることを特徴とする(4)項記載のリチウム電池
を提供するものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明のリチウム電池用電極は最大線幅もしくは最大径が100μm未満の線状もしくは針穴状の透孔が設けられている。このような針穴や切れ目等の透孔であれば、金属箔上に電極合剤を塗工した後に設けることが可能であり、この塗工後の方が好ましい。具体的には鋭利な刃物や針先等により電極合剤部分も含めて電極芯材である金属箔に切れ目や針穴を入れることにより透孔を設けることが出来る。すなわち針穴を開けることや切れ目を入れる等の切り取られる部分がほとんど無い開孔方法であれば、透孔を設ける製造工程においても電極合剤が抜け落ちたり剥がれ落ちたりするような可能性は低く、電極に与えるダメージが非常に小さい。透孔を設ける工程で切除される部分としては、限りなくゼロに近い方が望ましいが、金属箔部の質量減少で1%以下であれば電極に与えるダメージは許容できる範囲に納めることができる。本発明のリチウム電池用電極の製造において、開孔工程直後及び加圧成型後の電極を断面図で、図1及び図2にそれぞれ示す。図中12は電極であり、電極合剤13が、金属箔14上に塗設されている。15、16は電極上に形成される開孔部である。金属箔上に透孔を設ける工程は、塗布−乾燥直後、加圧成型後あるいは複数回に分けて加圧成型する場合の途中段階のいずれに行なっても良いが、透孔を開ける際に図1に示したように開孔部15が開きすぎて電極に凹凸が生じてしまう場合がある。その場合は開孔工程後にロールプレス等による加圧成型を施すことにより、図2のように狭小化開孔部16にするとともに表面を、平坦な状態に戻すことができる。これにより電極合剤部の表面を平坦化することができる。リチウムイオン電池に於いては電極の平坦性は極めて重要である。平坦性に劣る電極の場合、電池全体としての充填率が下がってしまうことは当然であるが、その他電極が隔膜を突き破ってしまったり、電池セル内での電極の押し付けられ方や電極間距離が不均一となり、電池の内部抵抗にバラツキを生じてしまい、最終的に電池特性に悪影響を与え、最悪の場合デンドライドと呼ばれる樹枝上の金属リチウムが析出してしまう可能性もある。すなわち、リチウムイオン電池においては電極が平坦性に劣るということは致命的であると言える。
【0008】
本発明にリチウム電池用電極の製造においては、前記の開孔工程後の加圧成型工程により開口部が狭くなると同時に開電極合剤を平滑に戻すことができる。例えば線状の透孔の場合、一度開口した金属箔の切断面の両端が加圧成型により接触し、透孔が見かけ上閉じた状態であっても気体は通り抜けることが可能である。具体的には透孔が線状の場合の最大線幅あるいは針穴状である場合の最大径としては、100μm以下が望ましく、50μm以下がより望ましく、さらには10μm以下がより望ましい。その下限は特に制限はないが0.1μm程度である。ところで、従来何らかの貫通孔を有する電極芯材を利用した電極は存在した。例えば金属製の網、織布、不織布、パンチドメタル、ラス状金属シート等、はじめから貫通孔を有するもの電極芯材として用い電極を製造する方法である。しかし、従来のものは孔径が極めて大きい貫通孔を利用するものである。
このような貫通孔を形成した電極芯材は、金属箔に比べれば高価であり、かつ実際に電極を製造する場合、通常のバーコード法やドクターブレード法等によりペースト状の電極合剤を金属箔上に直接塗布するような製造方法は適用できず、電極の製造方法および製造装置を抜本的に変更する必要があった。
本発明においてリチウムイオン電池に用いられる一般的な粉体活物質の粒径は、数μm〜数十μm程度なので、開口部が上記範囲である場合、同時に活物質が電極より脱落する可能性も小さくなる効果もある。
【0009】
本発明において、この電極上の微小な透孔の作用については次のように推定される。
上記のように、リチウムイオン電池は、薄膜状の電極や隔膜が高密度に充填されているため電解液の浸透は困難である。一方、リチウムイオン電池に使用される電極材料は多孔質体であり、かつ結着剤として含まれるPVDFも電解液として使用される極性溶剤との親和性が高いため、電極単体では正負極共に電解液の浸透性は非常に良好である。また隔膜に関しても各種表面処理等が施され、電解液に対する濡れ性は改良されている場合が多い。
しかしながら、電池セル内に装入した時に電極に電解液が浸透し難い。それは電池セル内に残る気泡が抜けないからであると推定される。すなわち事前の減圧処理にも限度があり、完全に気泡を抜き切ることは不可能である。そして電解液を注入後は、高密度に充填されたリチウムイオン電池では、気泡の逃げ道が無く、電極と隔膜の間に電解液で満たされていない部分が少なからず出来てしまう。これが最終的に電池性能やそのバラツキの要因となる可能性が高い。
本発明の電極上には電極合剤が塗布された面の任意の場所で、ある一定の大きさの円内に透孔が存在しており、気泡を逃すので電解液の浸透が十分に行われると考えられる。この場合、例えば直径20mm程度の円の中に透孔の一部もしくは全部がひとつ以上存在している場合、気泡は10mm移動すれば透孔に到達し、電池セル内から放出されることとなる。
【0010】
開孔するにあたっては、ミシン機の様なものを用いれば、容易に連続的な針穴状の透孔を設けることができる。一方線状の透孔に関しては、図3に示したような刃のある部分20と刃に抜けがある部分21を有する円形のロータリーカッター23等を用いることにより、線状の透孔を連続的に設けることができる。ただし線状の透孔の形状に関しては、直線状に限らず、曲線状、S字状、鍵状、十字状、放射状等、あるいはこれらを複数組み合わせたもの等何でもよく、また透孔の配列としては、規則的であっても不規則的であっても構わない。本発明において前記の透孔は電池用電極の全面にわたってもしくは主要部に形成されるものであり、前者の方が好ましい。
一方で、前記のように本発明の主目的である電池セル内からの効率的な脱泡および電解液の注入には、前記のように電極上での透孔の分布が重要である。充放電し得る電極合剤が塗布された電極上の任意の場所で、ある一定の大きさの円内に透孔の全体もしくは一部が必ず1個以上存在していることが望ましい。その円の大きさとしては直径20mm以下が望ましく、さらに望ましくは直径15mm以下であり、さらには直径10mm以下がより望ましい。
しかしながら電極合剤が塗工してあっても、例えば電解液が容易に浸透し得る電極の端部付近、あるいは旋回構造を有する電池の最外周になる部分や電極タブに対向する部分等の実質的に電池の充放電にほとんど関係ない部分は、上記の特徴を有している必要が無いことは当然である。
本発明の特徴を有する電極もしくは電極の製造方法は、一般的な旋回構造を有する電池に対しても有効であるが、とりわけ正極、隔膜、負極の電池要素があらかじめ互いに張り合わされ、一体化されたセルを用いた電池の性能向上および品質の安定化に対して有効である。このような一体化電池セルの製造には高分子粉体を用いた通常の熱融着法を使用することができる。すなわち電極と隔膜の間に1〜100μm程度の高分子粉体をあらかじめ配しておき、電極と隔膜とを重ね合わせた状態で高分子粉体の融点以上で加熱することにより高分子粉体を溶融させ、互いに多孔質体である電極と隔膜とを張り合わせることができる。
最終的に超乾燥雰囲気下で前記したような各種有機系電解液を電池セル内部に浸透させた後、金属製電池缶あるいはアルミラミネートシート製の袋等に封入することにより電池が製造できる。
【0011】
【実施例】
以下に本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。また適宜本発明の効果をより明確にするための比較例も合わせて示す。なお実施例および比較例においては、前記に説明した隔膜の両面に正極、負極を張り合わせた一体型電池セルを用いた。この様な一体型電池セルでは、通常は電解液や気泡の出入りはセルの端面からのみしか起こらず、電極上に設けた透孔の効果が容易に判断可能となる。
LiCoO2正極の作製
正極活物質としてLiCoO2(日興ファインプロダクツ社製)を90gと、導電剤として黒鉛粉末(ロンザ社製、商品名SFG−7)を7gと、結着剤としてPVDFを3gとを1−メチル−2−ピロリドン42gを混練することにより電極合剤ペーストを作製した。本ペーストを厚さ30μmのアルミ箔の片面に乾燥後の電極合剤の質量が約20mg/cm2になるように塗布し、100℃で加熱することにより1−メチル−2−ピロリドンを散逸させた。その後ロールプレス機を用いて圧縮成型することによりLiCoO2電極を作製した。本方法で作製したLiCoO2電極を、以下の実施例においては単に正極と呼ぶ。また実際の電池セル作製に際しては、部分的に電極合剤を剥がしてタブを取った100×100mmの大きさの電極を用いた。
炭素負極の作製
活物質として黒鉛系炭素活物質(ペトカ社製、商品名BL924)94gと、結着剤としてPVDF6gとを1−メチル−2−ピロリドン70gを混練することにより電極合剤ペーストを作製した。本ペーストを厚さ20μmの銅箔の片面に乾燥後の電極合剤の質量が約10mg/cm2になるように塗布し、100℃で加熱することにより1−メチル−2−ピロリドンを散逸させた。その後ロールプレス機で加圧成型することにより炭素電極を作製した。
本方法で作製した炭素電極を、以下の実施例においては単に負極と呼ぶ。また実際の電池セル作製に際しては、部分的に電極合剤を剥がしてタブを取った101×101mmの大きさの電極を用いた。
線状透孔の開孔
上記方法で製造した電極合剤を塗工済みの負極に対してカッターを用いて切れ目を入れることにより、銅箔上に線状の透孔を設けた。これを図4(a)、(b)に示した。図4(b)は図4(a)のA部の拡大図である。図示のように電極合剤と銅箔の両方を貫通するように、ミシン目状の切れ目2を、10mm間隔の直線状に5mmの切れ目2を5mm間隔で入れて形成した。なお、1は電極タブである。開孔直後の透孔の線幅は最大で約300μm程度であった。またこの開孔工程において電極全体の質量変化は0.1%以下であり、銅箔部分の質量変化が1%以下であることは明らかであった。
そして最終的にもう一度ロールプレスにより加圧成型を施し電極表面を図2で示したような平滑な状態に戻した。この加圧成型により、電極合剤面は僅かなキズが残るもののほぼ平滑な状態に戻り、また開孔工程で開いた銅箔上の透孔の開口部は肉眼では見かけ上ほとんど閉じてしまったが、光学顕微鏡で観察したところ、部分的に最大で約10μm程度の開口が見られた。
【0012】
針穴状透孔の開孔
同様に電極合剤を塗工済みの負極に対して針を用いて、銅箔上に透孔を設けた。図5(b)は図(a)のB部の拡大図である。具体的には電極合剤部と銅箔の両方を透通するように、図5で示したように格子状に縦横7mm間隔で針穴状の透孔3を設けた。この場合も開孔直後の透孔の線幅は最大で約500μm程度であった。また開孔工程において電極全体の質量変化は0.1%以下であり、銅箔部分の質量変化が1%以下であることは明らかであった。
そして最終的にもう一度ロールプレスにより加圧成型を施し電極表面を図2で述べたような平滑な状態に戻した。この場合も加圧成型により、電極合剤面は僅かなキズが残るもののほぼ平滑な状態に戻り、また開孔工程で開いた銅箔上の透孔の開口部は肉眼では見かけ上ほとんど閉じてしまったが、光学顕微鏡で観察したところ、部分的に最大で約10μm程度の開口が見られた。
なおこの電極の透孔の格子の対角線距離は約10mmであるので、電極上の任意の場所で直径10mmの円内に必ず1個以上透孔が存在することになる。また針穴状透孔に関しては、透孔の分布の最適化を目的として、格子状の透孔の縦横間隔を変えたものも作製した。
一体化電池セルの作製
ガラス瓶中で平均粒径6μmのPVDF粉末2.5gとエタノール47.5gを混合し、超音波洗浄機内で超音波照射することにより、PVDF粉末を分散させた。
このPVDF粉末分散液をガラスシャーレに移し取り、親水性PTFE製微孔質膜(日本ミリポア社製、商品名JGWPメンブランフィルター)を105×105mmに切り抜いたものを浸して両面を濡らしてPVDF粉末を付着させた後、取り出して正極(LiCoO2正極)と負極(炭素負極)の間に隔膜として挟み込んでガラス板で両側から固定した。60℃で加熱及び真空乾燥してエタノールを散逸させた後、窒素気流中200℃×10分間加熱して、PVDF粉末を溶融させることにより、親水性PTFE製微孔質膜と正極及び負極を接着させ、後記の図7断面図に表される、正極4/隔膜6/負極5が完全に一体化した電池セルを作製した。
充放電サイクル試験方法
電池の充放電試験は25℃の恒温槽内において、充電上限電圧を4.1Vに設定し、最大電流125mAで3時間充電した。一方、放電は100mAの一定電流で電池電圧が2.5Vに達するまでとした。なお充電と放電との間には15分間の休止時間をおいた。
以下に上記の方法で作製した一体化電池セルに、電解液を注入した電池の充放電サイクル試験に関する実施例および比較例を示す。
【0013】
実施例1
露点−60℃以下の乾燥空気中で、銅箔に線状の透孔を設けた負極を用いた上記の一体化電池セルを耐圧容器にいれ、全体をドライ真空ポンプを用いて約100kPaまで減圧しておき、そこに電池が完全に漬かるように、1MのLiPF6を含む体積比1:1のエチレンカーボネートとジエチルカーボネートからなる電解液を導入した。減圧状態のまま3分間および常圧に戻し3分間放置した後、ドライ真空ポンプを用いてさらに1分間減圧処理をした。その後常圧で10分間放置した後に電池セルを電解液より取り出し、最終的に図6、7のようなアルミラミネートシート製の外装材7に減圧封入とすることにより、フィルム状リチウムイオン電池11を作製した。図中8は正極タブ、9は負極タブ、10は熱融着封口部である。このような電池を6個作製し、充放電サイクル試験を行った。本電池を電池A群とし以下の実施例および比較例と合わせて表1に充放電試験の結果をまとめる。
比較例1
銅箔上に透孔を持たない負極を用いた一体化電池セルに対して、実施例1と同様にあらかじめ電池を減圧状態にする方法を用いて電解液を浸透させた。これについても、実施例1と同様にアルミラミネートシート製の外装材に減圧封入することによりフィルム状リチウムイオン電池を作製した。本電池についても合計6個作製し、充放電サイクル試験を行った。以下これらを電池B群とする。
【0014】
実施例2
銅箔に線状の透孔を設けた負極を用いた一体化電池セルを、常圧下で電解液に5分間浸漬させ、その後ドライ真空ポンプを用いて2分間減圧処理を行った。その後常圧で10分間放置した後に電池セルを電解液より取り出し、実施例1と同様にアルミラミネートシート製の外装材に減圧封入することによりフィルム状リチウムイオン電池を作製した。本電池についても合計6個作製し、充放電サイクル試験を行った。以下これらを電池C群とする。
比較例2
銅箔に透孔を持たない負極を用いた一体化電池セルに対して、実施例2と同様な方法を用いてセル内に電解液を浸透させた。これについても、実施例1と同様にアルミラミネートシート外装材に減圧封入することによりフィルム状リチウムイオン電池を作製した。本電池についても合計6個作製し、充放電サイクル試験を行った。以下これらを電池D群とする。
【0015】
実施例3
銅箔上に縦横7mm間隔の格子状に針穴状の透孔を設けた負極を用いた一体化電池セルに対して、実施例1と同様にあらかじめ電池セルを減圧状態にする方法を用いて電解液を浸透させた。これについても、実施例1と同様にアルミラミネートシート製の外装材に減圧封入することによりフィルム状リチウムイオン電池を作製した。本電池についても合計6個作製し、充放電サイクル試験を行った。以下これらを電池E1群とし、充放電サイクル試験の結果を表2にまとめる。
実施例4
銅箔上に縦横10mm間隔の格子状に針穴状の透孔を設けた負極を用いた以外は、実施例3と同様な方法で6個の電池を作製し、充放電サイクル試験を行った。以下これらを電池E2群とする。なおこの電極の透孔の格子の対角線距離は約15mmであるので、電極上の任意の場所で直径15mmの円内に必ず1個以上透孔が存在する。
実施例5
銅箔上に縦横14mm間隔の格子状に針穴状の透孔を設けた負極を用いた以外は、実施例3と同様な方法で6個の電池を作製し、充放電サイクル試験を行った。以下これらを電池E3群とする。なおこの電極の透孔の格子の対角線距離は約20mmであるので、電極上の任意の場所で直径20mmの円内に必ず1個以上透孔が存在する。
【0016】
比較例3
銅箔上に縦横18mm間隔の格子状に針穴状の透孔を設けた負極を用いた以外は、実施例3と同様な方法で6個の電池を作製し、充放電サイクル試験を行った。以下これらを電池E4群とする。なおこの電極の透孔の格子の対角線距離は約25mmであるので、電極上の任意の場所で半径25mmの円内に必ず1個以上透孔が存在する。
【0017】
充放電サイクル試験結果
表1に電池A〜E群までの充放電試験の結果を示す。表1および表2から分かるように負極の銅箔に線状もしくは針穴状の透孔を有する電池の方から明らかに高性能である。具体的には電池A群、C群、E1〜E3群では、初期5サイクル目の放電容量が大きく、かつバラツキも小さい。また200サイクル後でも90%前後の放電容量を維持している。
一方電池C群よりも、あらかじめ減圧しておき電解液に浸漬させた電池A群の方が、僅かながら特性が良いようではあるが、これは非常に小さい差であり、透孔を有する電極を用いた場合、必ずしも前もって注液時に減圧処理する必要が無いと言える。このことは電解液の注液工程および注液装置の簡略化につながると言える。
続いて、負極の銅箔に透孔を持たない電池B、D群について見てみると、減圧下で電解液を導入した電池B群はそこそこの特性を示した。しかしながら銅箔に透孔を有する電池A群、C群、E1〜E4群と比較すると放電容量も小さく、かつバラツキも大きい。また200サイクル後には放電容量は70%程度まで低下してしまった。一方銅箔に透孔を持たず、かつ減圧下注液していない電池D群は、他に比べて極端に性能が劣りまたバラツキも大きい。これは電極集電体箔に透孔が無い場合、電池セル端部より電解液がある程度浸透しまった後では、電池内に残存する気泡を除くことが非常に困難であるためと推測させる。
一方、金属箔上の透孔の分布の影響に関しては、表2に示した電池E1〜E4群のどの場合も、透孔を有しない電池B群より特性が良いことは明らかである。しかしながら透孔を密にもつ電池の方が、放電容量も大きくバラツキも小さい。具体的には直径20mmの円内に必ず透孔が存在するようにした電池E3群までは、かなり特性の良い試験結果であったが、直径25mmの円内に必ず透孔が存在するようにした電池E4群では、電池性能およびその安定性に若干劣るようである。
【0018】
【表1】
【0019】
【表2】
【0020】
【発明の効果】
以上のような実施例および比較例から、電極芯材である金属箔に透孔を持たせることによりセル内への電解液の導入が容易になり、電池性能の向上および品質の安定化につながることは明らかである。
また金属箔上の透孔は、開口率等は重要ではなく、本明細書中で示したように最低限気泡が通り抜けることができる本発明の特徴を有する透孔が一定の分布状態で存在していればよい。そのような透孔は本発明の方法を用いることにより、通常の金属箔上に電極合剤を塗布した後の電極に対しても、電極合剤面を平滑な状態に保ったまま設けることが可能である。したがって本発明の有用性は極めて普遍的かつ広範囲におよぶと言える。
なお本明細書では、主に正極/隔膜/負極が完全に一体化した電池セルについて適用した場合を示したが、通常の旋回型の内部構造を有する金属製電池缶を用いたリチウムイオン電池に対しても有用である。すなわちこの様な旋回型の電池の場合では、気泡の抜け道は旋回構造の端面方向にしか無いが、電極芯材の金属箔上に本発明の方法および特徴を有する透孔を設けることにより旋回構造の直径方向にも気泡が移動可能となる。またさらに電解液の注入が困難な大型の電池に関しても、一定パターンの透孔を設けることにより電池セルの大きさに関わらず注液工程が極めて容易になり、その結果安定した品質の電池の製造が可能になることは容易に類推できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】開孔工程直後の電極の断面図である。
【図2】加圧成型後の電極の断面図である。
【図3】開孔に用いるロータリーカッターの正面図である。
【図4】負極の銅箔上の線状の透孔の形成を示す説明図である。
【図5】負極の銅箔上の針穴状の透孔の形成を示す説明図である。
【図6】本発明のリチウム電池の斜視図を示す。
【図7】本発明のリチウム電池の断面構造を示す説明図である。
【符号の説明】
1 電極タブ
2 線状透孔
3 針穴状透孔
4 LiCoO2正極
5 炭素負極
6 電池隔膜
7 アルミラミネートフィルム製外装材
8 正極タブ
9 負極タブ
10 熱融着封口部
Claims (5)
- 金属箔の片面もしくは両面に電気化学的にリチウムイオンを吸蔵−放出可能な物質を含む電極合剤を塗布して製造される電極に於いて、あらかじめ電極合剤が塗布されている金属箔上で直径20mm以内に、電極合剤を通して金属箔に切れ込み、もしくは針穴を設けることにより、金属箔上に最大線幅もしくは最大径が100μm未満の線状もしくは針穴状の透孔の全体もしくはその一部を少なくとも1つ以上設けたことを特徴とするリチウム電池用電極。
- 前記透孔を設ける前後で金属箔部分の質量変化が1%以下であることを特徴とする請求項1記載のリチウム電池用電極。
- 金属箔の片面もしくは両面に電気化学的にリチウムイオンを吸蔵−放出可能な物質を含む電極合剤を塗布して製造される電極に於いて、あらかじめ電極合剤が塗布されている電極に対し、電極合剤を通して金属箔に切れ込み、もしくは針穴を設けることにより、金属箔上で直径20mm以内に、最大線幅もしくは最大径が100μm未満の線状もしくは針穴状の透孔の全体もしくはその一部を少なくとも1つ以上設け、その後、加圧成型を行なうことを特徴とするリチウム電池用電極の製造方法。
- 正極と負極の少なくとも一方に請求項1又は2のいずれか1項に記載の電極を用いたことを特徴とするリチウム電池。
- 電池の、正極、隔膜、負極の電池要素が張り合わされて一体化していることを特徴とする請求項4記載のリチウム電池。
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