この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
[実施の形態1]
(画像形成装置の構成)
本発明は、熱ロール方式の定着装置を含む画像形成装置に適用されるものであり、昇温可能な加熱ローラを備える画像形成装置であればどのようなものであってもよい。以下の説明では、本発明に係る画像形成装置の代表例として、複写機能、プリント機能、ファクシミリ機能およびスキャナ機能といった複数の機能を搭載したMFP(Multi Function Peripheral)について示すが、本発明は、複写機能のみを備えた複写機やプリント機能のみを備えたプリンタにも適用可能である。
図1は、この発明の実施の形態1に従う画像形成装置MFPの概略構成図である。
図1を参照して、本実施の形態に従う画像形成装置MFPは、自動原稿搬送部2と、画像読取部3と、画像形成部4と、給紙部5とを含む。
自動原稿搬送部2は、連続的な原稿読取りを行なうための部位であり、原稿給紙台21と、送出ローラ22と、レジストローラ23と、搬送ドラム24と、排紙台25とからなる。読取対象の原稿は、原稿給紙台21上に載置され、送出ローラ22の作動により一枚ずつ送り出される。そして、この送り出された原稿は、レジストローラ23により一旦停止されて先端が整えられた後に、搬送ドラム24へ搬送される。さらに、この原稿は、搬送ドラム24のドラム面と一体に回転し、その過程において画像読取部3により画像面が読取られる。その後、原稿は、搬送ドラム24のドラム面を略半周した位置においてドラム面から分岐されて排紙台25に排出される。
画像読取部3は、第1ミラーユニット31と、第2ミラーユニット32と、結像レンズ33と、撮像素子34と、プラテンガラス35とからなる。第1ミラーユニット31は、光源311とミラー312とを含み、搬送ドラム24の直下の位置において、通過する原稿に向けて光源311から光を照射する。この光源311から照射された光のうち、原稿によって反射した光は、第2ミラーユニット32へ入射する。第2ミラーユニット32は、原稿の移動方向に直交するよう配置されたミラー321および322を含み、第1ミラーユニット31からの反射光は、ミラー321および322で順次反射されて結像レンズ33へ導かれる。結像レンズ33は、この反射光をライン状の撮像素子34に結像する。
本実施の形態に従う画像形成装置MFPでは、プラテンガラス35に原稿を載置して画像情報を読取ることも可能である。この場合には、可動式の光源351およびミラー352が原稿の画像面を走査する。この走査に伴って、光源351から与えられた光は、原稿の移動方向に直交するよう配置されたミラー353および354で順次反射されて結像レンズ33へ導かれる。結像レンズ33は、この反射光をライン状の撮像素子34に結像する。
さらに、撮像素子34は、受光した反射光を電気信号に変換して、後述する画像処理部67へ出力する。画像読取部3において読取られた原稿の画像情報、すなわち撮像素子34から出力される電気信号は、画像処理部67にて画像処理が行われ画像データとしてデータ化された後、画像バッファ部66に一旦格納される。
画像形成部4は、感光体ドラム41と、帯電器42と、画像書込部43と、現像部44と、転写器45と、除電器46と、定着装置47と、クリーニング部48とからなる。ユーザ操作などによって、画像形成の開始が指示されると、画像書込部43は、画像バッファ部66に格納されている画像データを読出す。そして、画像書込部43は、読出された画像データに従ってポリゴンミラー(図示しない)を回転作動させて、レーザ発光器431から照射されるレーザビームを、感光体ドラム41の軸方向の主走査露光として照射する。同時に、感光体ドラム41自身の回転による副走査も行なわれる。このレーザビームの照射前に、感光体ドラム41には、帯電器42によって所定の電位が付与されており、主走査露光および副走査によって、感光体ドラム41の感光層には、原稿画像の静電潜像が形成される。
現像部44は、この感光体ドラム41に形成された静電潜像を反転現像してトナー像を生成する。この現像部44における動作と並行して、手差給紙部26および記録紙を収容する給紙部5の各給紙カセットに対応する送出ローラ52,53,54のいずれかが作動して記録紙を供給する。この供給された記録紙は、搬送ローラ55,56およびタイミングローラ51によって搬送され、感光体ドラム41上に形成されたトナー像に同期するように、感光体ドラム41に給紙される。
転写器45は、感光体ドラム41に反対極性の電圧を印加することで、感光体ドラム41上に形成されたトナー像を記録紙に転写する。そして、除電器46は、トナー像が転写された記録紙を除電することで、記録紙を感光体ドラム41から分離させる。その後、トナー像が転写された記録紙は定着装置47に搬送される。
定着装置47は、加熱ローラ474と加圧ローラ475とを含み、加熱ローラ474は、後述するように制御部6によって温度制御されている。加熱ローラ474は、記録紙を加熱することで、その上に転写されたトナーを溶融するとともに、加熱ローラ474と加圧ローラ475との間の圧縮力により、溶融したトナーが記録紙上に定着される。そして、記録紙はトレイ57に排出される。
一方、記録紙が分離された感光体ドラム41は、その残留電位が除去された後、クリーニング部48によって残留トナーが除去清掃される。そして、次の画像形成処理が実行される。
定着装置47は、アルミニウムなどの金属製の基体471表面に耐熱離型層が形成された回転可能な加熱ローラ474と、加熱ローラ474の回転軸方向に平行して配置される加圧ローラ475とを含む。基体471は、加熱ローラ474を昇温するための発熱体471aを内装しており、発熱体471aは、代表的にハロゲンランプヒータからなる。加熱ローラ474は、その表面にフッ素樹脂などからなる耐熱離型層を有しており、発熱体471aで発生する熱によって昇温される。なお、発熱体471aは、電流制御部64から供給される電流によって、その発熱量が制御される。
加圧ローラ475は、加熱ローラ474に接するように配置され、アルミニウムなどの金属製の基体と、その基体表面に形成されたシリコンゴムなどからなる耐熱弾性層とからなる。
特に本実施の形態に従う定着装置47は、加熱ローラ474から所定距離dだけ離れた位置に、加熱ローラ474から放射される熱(赤外線)を検出するローラ温度センサ472と、ローラ温度センサ472の周囲温度を検出する周囲温度センサ473とが設けられている。なお、所定距離dは、0.2〜8mm、より好ましくは、4.5〜5.5mmに設定される。また、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473は、代表的にサーミスタや熱電対からなる。
制御部6は、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473でそれぞれ検出された温度信号から得られる2つの入力値に基づいて、予め定められた関係に従って、加熱ローラ474の表面温度を推定する。そして、制御部6は、推定した加熱ローラ474の表面温度に応じて、加熱ローラ474の昇温制御を行なう。
さらに、制御部6は、電源投入後の加熱ローラ474の昇温動作(以下、「ウォームアップ動作」とも称す)中における、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473でそれぞれ検出される温度信号から得られる2つの入力値を含む多次元データの時間的挙動に基づいて、ローラ温度センサ472および/または周囲温度センサ473における異常の有無を判断する。
図2は、この発明の実施の形態1に従う画像形成装置MFPにおける加熱ローラ474に係る制御構造を示す図である。
図2を参照して、加熱ローラ474の昇温制御は、代表的に、外部電源90から発熱体471aに供給される電流量の制御によって実現される。電流制御部64は、発熱体471aと外部電源90との間に配置されるとともに、制御部6からの制御指令に従って、発熱体471aへ供給する電流を制御する。電流制御部64は、代表的にトライアックなどのスイッチング素子から構成され、交流電力の通電率(オンデューティ)を制御部6からの制御指令(ゲート入力641)に応じて変化させる。
定着装置47は、加熱ローラ474を回転駆動するための定着モータ476をさらに含み、定着モータ476は、制御部6からの回転指令に応じて回転制御される。
制御部6は、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473でそれぞれ検出された温度信号から得られる2つの入力値に基づいて、加熱ローラ474の表面温度を推定する。本実施の形態では、代表的に差動型の温度推定方式について説明する。
より詳細には、制御部6は、バッファ部621,622と、減算部623と、A/D(Analog to Digital)変換器631,632と、演算装置61と、記憶部65とを含む。
バッファ部621は、ローラ温度センサ472から出力される検知温度に応じた検知信号を所定期間分だけ蓄積した上で、その蓄積した値を減算部623へ出力する。また、バッファ部622は、周囲温度センサ473から出力される検知温度に応じた検知信号を所定期間分だけ蓄積した上で、その蓄積した値を減算部623およびA/D変換器632へ出力する。すなわち、バッファ部621および622は、それぞれローラ温度センサ472および周囲温度センサ473からそれぞれ出力される検知信号を移動平均した上で出力する。これにより、各温度センサ472および473からの検知信号に含まれるノイズの影響を抑制できる。
減算部623は、バッファ部621から出力されるローラ温度センサ472の検知信号と、バッファ部622から出力される周囲温度センサ473の検知信号との差分信号を算出し、A/D変換器631へ出力する。
A/D変換器631は、減算部623から出力される差分信号(アナログ信号)を所定期間毎にサンプリングおよび量子化して、第1入力信号(デジタル信号)を生成する。また、A/D変換器632は、バッファ部621から出力される周囲温度センサ473の検知信号(アナログ信号)を所定期間毎にサンプリングおよび量子化して、第2入力信号(デジタル信号)を生成する。そのため、第1入力信号および第2入力信号の各々は、A/D変換器631または632の量子化ビット数に応じた複数の段階値(たとえば、256ステップ)のうち1つの値をとる。
演算装置61は、代表的にCPU(Central Processing Unit)を含んで構成され、ROMなどの不揮発性記憶部(図示しない)に予め格納されたプログラムを読込んで実行することで、温度推定部611、異常判断部612、補正部613、更新部614、温度制御部615の機能を実現する。
温度推定部611は、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473による検知温度から得られる第1入力信号および第2入力信号に基づいて、予め定められた関係に従って、加熱ローラ474の表面温度を推定する。より具体的には、温度推定部611は、記憶部65に予め格納された温度テーブル651を参照して、第1入力信号の値と第2入力信号の値との組合せに対応する表面温度を取得する。
記憶部65は、書き換え可能な不揮発性の記憶装置であり、温度テーブル651に加えて、後述する遷移先テーブル652および遷移時間テーブル653とが格納されている。
図3は、この発明の実施の形態1に従う温度テーブル651の構成の一例を示す図である。
図3を参照して、温度テーブル651は、第1入力信号である差動ステップと、第2入力信号である補償ステップとの組合せに対応付けて、加熱ローラ474の表面温度が予め規定されている。なお、図3においては、説明を簡素化するために、A/D変換器631および632(図2)から8ステップ(3ビット)の信号が出力される場合を示すが、A/D変換器631および632からより多くのステップの信号が出力されるようにしてもよい。一般的に、ステップ数(分解能)が多くなるほど、加熱ローラ474の表面温度の推定精度は向上する。たとえば、温度センサの検出範囲が0〜200℃であり、かつ対応する温度信号がリニア出力の場合を考えると、A/D変換器の出力が8ステップであれば、1ステップ当たりの温度幅は25℃となり、一方A/D変換器の出力が64ステップであれば、1ステップ当たりの温度幅は3.125℃となる。なお、A/D変換器631および632では、固定の振幅値で量子化を行なってもよいし、振幅の絶対値に応じて、量子化幅を変化させてもよい。
図3に示すように、温度テーブル651においては、加熱ローラ474の表面温度は、差動ステップ(第1入力信号の値)と補償ステップ(第2入力信号の値)とを含む2次元データの位置として表現できる。なお、温度テーブル651の各要素における加熱ローラ474の表面温度は予め実験的に取得される。
この温度テーブル651の各要素は、加熱ローラ474から放射される熱(赤外線)の検出温度と、温度センサ自体の周囲温度とを反映して決定されるので、周囲環境の影響が大きい加熱ローラ474の表面温度を適切に推定することができる。
以下では、温度テーブル651における2次元データを「Temp[補償ステップの値][差動ステップの値]」のように表す。たとえば、補償ステップ=「6」、かつ差動ステップ=「0」の2次元データは、Temp[6][0]と表される。
なお、図3には、差動ステップ(第1入力信号の値)と補償ステップ(第2入力信号の値)との2次元データに対応付けて加熱ローラ474の表面温度が規定される場合を示すが、他のパラメータ(たとえば、画像形成装置MFPの環境温度など)を加えた、2次元より大きな次元の多次元データに対応付けて加熱ローラ474の表面温度を推定してもよい。
ウォームアップ動作によって加熱ローラ474の昇温が開始されると、温度テーブル651中の表面温度に対応する2次元データ(2次元位置)は、低温側の要素から高温側の要素へ向かって順次遷移することになる。
再度、図2を参照して、温度制御部615は、画像形成装置MFPの電源が投入された場合やスタンバイモードからの復帰指令が与えられた場合などに実行されるウォームアップ動作中において、上述のように温度推定部611が推定する加熱ローラ474の表面温度に応じて、加熱ローラ474に対する昇温を制御する。すなわち、温度制御部615は、推定される加熱ローラ474の表面温度に応じて、所定の制御指令を電流制御部64へ与える。なお、温度制御部615、電流制御部64および発熱体471aが「昇温部」に相当する。
再度、図3を参照して、一例として、ウォームアップ開始前の2次元データがTemp[6][0](加熱ローラ474の表面温度が20℃)であり、ウォームアップの目標温度が180℃である場合を考える。この場合には、ウォームアップ動作によって、2次元データは、Temp[6][0]→Temp[6][1]→Temp[6][2]→Temp[5][3]→Temp[5][4]→Temp[4][5]→Temp[4][6]の順で時間的に遷移する。
ところで、加熱ローラ474に近接して配置されるローラ温度センサ472および周囲温度センサ473には、記録紙からのほこりやトナー、紙粉などが付着する頻度が高い。また、加熱ローラ474からの放射熱によって、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473が熱劣化し得る。そのため、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473からの温度信号が本来の温度を示す値とずれてしまう場合がある。
そこで、以下では、ローラ温度センサ472にほこりやトナー、紙粉などが付着して、ローラ温度センサ472の検出感度が低下した場合の動作について説明する。すなわち、ローラ温度センサ472から出力される温度信号が、本来のレベルから所定のレベルだけ低下した場合を考える。
図4は、ローラ温度センサ472の検出感度が低下した場合における温度テーブル651上の2次元データの時間的な遷移を説明するための図である。なお、図4では、ローラ温度センサ472からの温度信号が一様に低下し、差動ステップの値が本来の値から1AD値だけ低下した場合の例を示す。
図4(a)は、温度制御部615における温度制御動作の目標軌跡を説明するための図を示す。図4(a)に示すように、温度制御部615は、温度テーブル651上の2次元データが図3に示す2次元データと同様の軌跡に沿って遷移するように、温度制御を行なう。
しかしながら、実際には、この入力される差動ステップの値は、本来の値から1AD値を引いたものに相当するので、温度テーブル651上の2次元データに生じる軌跡は、たとえば、図4(b)に示すようになる。すなわち、ローラ温度センサ472の検出感度が低下した状態において、2次元データは、Temp[6][1]→Temp[5][2]→Temp[5][3]→Temp[4][4]→Temp[4][5]→Temp[4][6]→Temp[4][7]の順で時間的に遷移する。
この結果、加熱ローラ474の表面温度は、本来の目標温度である180℃を超えて、200℃まで到達してしまう。
次に、図4(a)に示す軌跡と図4(b)に示す軌跡とを重ね合わせると、図4(c)のようになる。この図4(c)を参照して、図4(a)に示す目標軌跡と、図4(b)に示す実際軌跡との間には、2箇所の相違部分が存在することになる。すなわち、図4(b)に示す実際軌跡は、図4(a)に示す目標軌跡に対して、紙面横方向にシフトする。
なお、周囲温度センサ473にほこりやトナー、紙粉などが付着して、周囲温度センサ473の検出感度が低下した場合には、2次元データの実際軌跡は、目標軌跡に対して紙面縦方向にシフトする。
そこで、本実施の形態に従う画像形成装置MFPでは、この温度テーブル651上の2次元データが実際に生じる軌跡(時間的挙動)を目標軌跡と比較することで、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473の異常の有無を判断する。
より詳細には、図2を参照して、異常判断部612は、温度テーブル651における2次元データの軌跡(時間的挙動)に対応した、ある要素から隣接する要素への遷移毎に、所定の重みを順次積算し、その積算した重みに基づいて、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473の異常の有無を判断する。この重みは、本来の目標軌跡からのずれ量を反映するように設定されており、以下では「信頼度」とも称す。そして、この信頼度は、一例として、その値が大きくなるほど目標軌跡からのずれ量が少ないことを意味するとする。したがって、異常判断部612は、ウォームアップ動作の開始から完了までの軌跡に応じて積算される信頼度が所定値以下であれば、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473の少なくとも一方に異常が有ると判断する。
上述のような信頼度は、温度テーブル651の各要素に対応付けられた複数の遷移先テーブル652に格納される。
図5は、図4に対応する2次元データの軌跡に対応する信頼度の積算処理を説明するための図である。
図5を参照して、まず、遷移先テーブル652の各々は、温度テーブル651の1つの要素に対応付けられて、予め格納されている。そして、遷移先テーブル652の各々には、対応の要素から隣接する要素への遷移についての信頼度がそれぞれ規定されている。たとえば、Temp[6][0]に対応する遷移先テーブル652には、Temp[6][0]に隣接するTemp[5][0],Temp[5][1],Temp[6][1],Temp[7][1],Temp[7][0]の計5つの遷移先についての信頼度が規定されている。そして、目標軌跡に相当するTemp[6][0]からTemp[6][1]への遷移には、遷移先テーブル652の中で最も値の大きな「0」が割当てられており、その他の遷移には、この「0」とは異なるより小さな値が割当てられている。すなわち、目標軌跡とは異なる遷移に対して、非ゼロの負値が割当てられる。
このように、異常判断部612は、遷移先テーブル652を参照しつつ、温度テーブル651上の2次元データの時間的挙動に応じて信頼度を順次積算する。
たとえば、図4(a)に示す目標軌跡に沿って2次元データが順次遷移した場合には、その遷移による積算値は「0」となる。一方、図4(b)に示す実際軌跡に沿って2次元データが順次遷移した場合には、その遷移による積算値は「−0.5」となる。すなわち、実際軌跡における、TEMP[6][1]からTEMP[5][2]への遷移において、信頼度として「−0.3」が加算され、また、TEMP[5][3]からTEMP[4][4]への遷移において、信頼度として「−0.2」が加算される。その結果、実際軌跡における信頼度は「−0.5」と積算される。
このように、異常判断部612は、積算した信頼度の大きさに基づいて、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473の異常の有無を判断する。そして、異常判断部612は、ローラ温度センサ472または周囲温度センサ473に異常が発生していると判断すると、定着装置47の動作継続が可能か否かを判断する。すなわち、異常判断部612は、発生しているセンサ異常を補正した上で、定着装置47を継続して動作させることができるか否かを判断する。そして、定着装置47の動作継続が不可と判断すると、異常判断部612は、画像形成装置MFPの動作を停止させるとともに、異常発生による継続動作の不可を図示しないパネル部などに表示する。一方、定着装置47の動作継続が可能と判断すると、異常判断部612は、補正部613に第1入力信号または第2入力信号に対する補正動作を実行させる。
補正部613は、異常判断部612からの補正指令に応答して、目標軌跡に対する実際軌跡のずれの特徴量に基づいて、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473のいずれに異常があるのかを特定し、さらに異常が発生している温度センサに対応して、温度テーブル651の内容を補正する。
図6は、温度センサに異常が発生している場合に現れる実際軌跡の一例を示す図である。
図6を参照して、一例として、ローラ温度センサ472に異常が発生すると、このローラ温度センサ472から出力される検知温度から得られる差動ステップ(第1入力信号の値)が影響を受ける。その結果、温度テーブル651に現れる2次元データの時間的挙動は、図6中の実際軌跡Aのようになる。すなわち、実際軌跡Aは、目標軌跡に対して紙面横方向にシフトしたような軌跡となる。
これに対して、周囲温度センサ473に異常が発生すると、この周囲温度センサ473から出力される検知温度から得られる差動ステップ(第1入力信号の値)および補償ステップ(第2入力信号の値)が影響を受ける。特に、補償ステップ(第2入力信号の値)への影響が相対的に大きいため、温度テーブル651に現れる2次元データの時間的挙動は、図6中の実際軌跡Bのようになる。すなわち、実際軌跡Bは、目標軌跡に対して紙面縦方向にシフトしたような軌跡となる。
そこで、補正部613は、このような目標軌跡に対する実際軌跡のずれの特徴量に基づいて、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473のいずれに異常があるのかを特定する。さらに、補正部613は、検出したずれを補正する方向に、温度テーブル651の内容を所定方向にシフトし、新たな温度テーブル651として更新する。言い換えれば、補正部613は、温度テーブル651に格納される各表面温度に対応する差動ステップと補償ステップとの組合せをシフトさせる。
このように、補正部613が入力値を補正することで、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473に生じている異常が相対的に軽微な場合には、ユーザや保守員などによる補修作業を要することなく、画像形成装置MFPを継続して動作させることができる。
また、本実施の形態に従う異常判断部612は、上述の信頼度の積算値に基づく異常判断に加えて、温度テーブル651上での2次元データの遷移に要する時間に基づいて、温度センサにおける異常の有無を判断する。より具体的には、異常判断部612は、温度テーブル651における2次元データの軌跡(時間的挙動)に対応した、ある要素から隣接する要素への遷移に要した時間と、当該遷移の予め定められた標準時間と比較し、この時間差分を順次積算する。そして、異常判断部612は、この積算した時間差分に基づいて、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473の異常の有無を判断する。すなわち、異常判断部612は、温度テーブル651上の2次元データが遷移に要する時間を監視することで、その時間的挙動を時間領域で判断する。
上述の標準時間は、温度テーブル651の各要素に対応付けられた複数の遷移時間テーブル653に格納される。
図7は、遷移時間テーブル653のデータ構造の一例を示す図である。
図7を参照して、遷移時間テーブル653の各々は、温度テーブル651(図3)の1つの要素に対応付けられて、予め記憶部65に格納されている。遷移時間テーブル653には、対応付けられた要素から隣接する要素への遷移に要する標準時間がそれぞれ規定されている。なお、各標準時間は予め実験的に取得される。
図7には、温度テーブル651のTemp[6][0]に対応する遷移時間テーブル653のデータ構造が示されている。この遷移時間テーブル653には、Temp[6][0]に隣接するTemp[5][0],Temp[5][1],Temp[6][1],Temp[7][1],Temp[7][0]の計5つの遷移先に要する標準時間が規定されている。
このように、異常判断部612は、遷移時間テーブル653を参照しつつ、温度テーブル651上の2次元データの時間的挙動に応じて、表示時間に対する時間差分を順次積算する。たとえば、温度テーブル651において、2次元データがTEMP[6][0]からTEMP[6][1]へ遷移した場合に要した時間が0.6[s]であれば、異常判断部612は、遷移時間テーブル653に規定されている対応の標準時間1[s]に対する時間差分として0.4[s]を積算する。そして、異常判断部612は、ウォームアップ動作の開始から完了までの軌跡に応じて積算される時間差分が所定時間以上であれば、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473の少なくとも一方に異常が有ると判断する。
その他については、信頼度の積算値に基づく異常判断の方法と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
上述の異常判断ロジックに加えて、差動ステップおよび補償ステップの値が短時間に大きく変動した場合にも、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473の少なくとも一方に異常が発生していると判断してもよい。
ところで、上述の説明では、予めその値が定められた遷移先テーブル652および遷移時間テーブル653を用いる構成について説明したが、これらのテーブルに定められた値を動的に更新するようにしてもよい。
再度、図2を参照して、更新部614は、ウォームアップ動作中における差動ステップ(第1入力信号の値)および補償ステップ(第2入力信号の値)の時間的挙動に基づいて、遷移先テーブル652に格納されている信頼度、および遷移時間テーブル653に格納されている標準時間を更新する。
具体的には、更新部614は、複数回のウォームアップ動作中に得られる差動ステップ(第1入力信号の値)および補償ステップ(第2入力信号の値)の実績値を平均化するなどして、各状況において最も適切な値を算出し、この算出した値で遷移先テーブル652および遷移時間テーブル653の内容を更新する。このような遷移先テーブル652および遷移時間テーブル653の更新処理によって、画像形成装置MFPの動作に伴う各部の経年変化などの影響を低減することができる。
(処理フロー)
図8は、この発明の実施の形態1に従う画像形成装置MFPにおけるウォームアップ動作の処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、代表的に、演算装置61が予め格納されたプログラムを読込んで実行することで、図2に示す各部の機能によって実現される。
図8を参照して、ユーザなどが図示しない電源スイッチを操作すると、ウォームアップ動作が開始する。このウォームアップ動作において、演算装置61は、まず、定着モータ476の起動サブルーチンを実行する(ステップS2)。そして、演算装置61は、ウォームアップ動作に係る目標軌跡取得サブルーチンを実行する(ステップS4)。さらに、演算装置61は、加熱ローラ474の昇温を開始する(ステップS6)。すなわち、演算装置61は、電流制御部64に制御指令を与え、発熱体471aからの発熱を開始させる。なお、加熱ローラ474の回転開始後に加熱ローラ474の昇温を開始するのは、加熱ローラ474の始動直後の回転加速度によって、加熱ローラ474の表面温度が低下することを抑制するためである。
その後、演算装置61は、第1入力信号および第2入力信号の入力変化の検知サブルーチンを実行する(ステップS8)。すなわち、演算装置61は、差動ステップおよび補償ステップに生じた時間的変化を検知する。そして、演算装置61は、入力変化の検知サブルーチンの実行結果に基づいて、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473における異常有無判断サブルーチンを実行する(ステップS10)。
続いて、演算装置61は、ウォームアップ動作の状態を判断するためのウォームアップ動作判断サブルーチンを実行する(ステップS12)。さらに、演算装置61は、遷移先テーブル652および遷移時間テーブル653に格納された値を更新するための更新サブルーチンを実行する(ステップS14)。
そして、演算装置61は、ウォームアップ動作が完了しているか否かを判断し(ステップS16)、ウォームアップ動作が完了していなければ(ステップS16においてNO)、ステップS8以降の処理を再度実行する。
一方、ウォームアップ動作が完了していれば(ステップS16においてYES)、ウォームアップ動作に係る処理を終了する。
図9は、図8に示すフローチャートのステップS2における定着モータ起動サブルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
図9を参照して、演算装置61は、定着モータ476に回転指令を与えて、定着モータ476の回転を開始させる(ステップS100)。そして、演算装置61は、定着モータ476の回転が安定したか否かを判断する(ステップS102)。定着モータ476の回転が安定していなければ(ステップS102においてNO)、演算装置61は、定着モータ476の回転が安定するまで待つ。
これに対して、演算装置61は、定着モータ476に内蔵されたセンサからモータロック信号が出力されている場合、もしくは定着モータ476の回転開始から所定期間(たとえば、0.2〜0.5[s])が経過している場合において、定着モータ476の回転が安定しているとみなす。定着モータ476の回転が安定すると(ステップS102においてYES)、処理は図8のステップS4へ進む。
図10は、図8に示すフローチャートのステップS4における目標軌跡取得サブルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
図10を参照して、まず、演算装置61は、現在の差動ステップ(第1入力信号)および補償ステップ(第2入力信号)の値を取得する(ステップS200)。続いて、演算装置61は、記憶部65に予め格納された温度テーブル651を参照して、取得した差動ステップの値と補償ステップの値との組合せ(2次元データ)について、温度テーブル651における位置および対応する表面温度を取得する(ステップS202)。このとき、演算装置61は、取得した位置を暫定位置として設定するとともに、取得した表面温度を暫定温度として設定する。なお、この暫定位置および暫定温度は、目標軌跡を取得する過程で使用する変数である。
続いて、演算装置61は、現在の暫定温度がウォームアップ目標温度未満であるか否かを判断する(ステップS204)。現在の暫定温度がウォームアップ目標温度未満でなければ(ステップS204においてNO)、処理は図8のステップS6へ進む。
一方、現在の暫定温度がウォームアップ目標温度未満である場合(ステップS204においてYES)には、演算装置61は、記憶部65を参照して、現在の暫定位置に対応する遷移先テーブル652を取得する(ステップS206)。そして、演算装置61は、ステップS206で取得した遷移先テーブル652に格納されている信頼度(最大、8個)のうち、最も大きな信頼度が割当てられている要素を抽出し、この抽出した要素を次の遷移先に決定する(ステップS208)。すなわち、演算装置61は、現在の暫定位置に隣接する要素のうち、最も信頼度が高い要素への遷移を目標軌跡であると判断する。そして、演算装置61が、ステップS208で決定した次の遷移先に対応する差動ステップ(第1入力信号)および補償ステップ(第2入力信号)の値を記憶部65に格納する(ステップS210)。さらに、演算装置61は、記憶部65に格納されている遷移時間テーブル653を参照して、現在の暫定位置から次の遷移先への遷移に要する標準時間を取得し(ステップS212)、この標準時間を遷移先に対応付けて記憶部65に格納する(ステップS214)。
そして、演算装置61は、暫定位置を次の遷移先の位置に更新するとともに、暫定温度を対応する表面温度に更新する(ステップS216)。その後、ステップS204以降の処理が再度実行される。
以上のように、暫定温度がウォームアップ目標温度に到達するまで、ステップS206〜216の処理が繰返されることで、記憶部65には、温度テーブル651における2次元データの軌跡と、当該軌跡中に現れる要素間の遷移に要する標準時間とが対応付けられた目標軌跡が格納される。
図11は、図8に示すフローチャートのステップS8における入力変化の検知サブルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
図11を参照して、演算装置61は、前回処理時の差動ステップ(第1入力信号)および補償ステップ(第2入力信号)の値を読出す(ステップS300)。なお、これらの前回値は、後述するように、本サブルーチンの最終処理において記憶部65に格納される。続いて、演算装置61は、現在の差動ステップ(第1入力信号)および補償ステップ(第2入力信号)の値を取得する(ステップS302)。そして、演算装置61は、ステップS300において取得した前回処理時の差動ステップおよび補償ステップの値と、ステップS302において取得した差動ステップおよび補償ステップの値とがそれぞれ同一であるか否かを判断する(ステップS304)。前回処理時の差動ステップおよび補償ステップの値と、ステップS302において取得した差動ステップおよび補償ステップの値とがそれぞれ同一であれば(ステップS304においてYES)、演算装置61は、遷移時間を制御周期分だけインクリメントする(ステップS306)。そして、ステップS300以降の処理が再度実行される。
一方、前回処理時の差動ステップおよび補償ステップの値と、ステップS302において取得した差動ステップおよび補償ステップの値とが同一でなければ(ステップS304においてNO)、演算装置61は、現在の(インクリメントされた)遷移時間を記憶部65に一次的に格納する(ステップS308)とともに、現在の差動ステップおよび補償ステップの値を、それぞれ前回処理時の差動ステップおよび補償ステップの値に代入する(ステップS310)。そして、処理は図8のステップS10へ進む。
なお、図11に示す検知サブルーチンは、差動ステップまたは補償ステップの変化毎に処理が実行されることが好ましく、差動ステップおよび補償ステップが同時に変化した場合には、各ステップの変化に対応して、処理を2回実行することが好ましい。
図12は、図8に示すフローチャートのステップS10における異常有無判断サブルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
図12を参照して、まず、演算装置61は、記憶部65に格納された遷移先テーブル652を参照して、前回の差動ステップおよび補償ステップの値に対応する2次元データ(要素)の位置から、今回の差動ステップおよび補償ステップの値に対応する2次元データの位置への遷移に対応する信頼度を取得し(ステップS400)、積算信頼度に加算する(ステップS402)。ここで、積算信頼度は、ウォームアップ動作の開始から完了までの信頼度を積算するための変数であり、ウォームアップ動作の開始時に初期化(ゼロクリア)される。なお、2次元データの遷移が予め定められた目標軌跡に対応している場合には、上述したように信頼度は「0」であるので、積算信頼度には実質的に何も加算されない。
また、演算装置61は、記憶部65に格納された遷移時間テーブル653を参照して、前回の差動ステップおよび補償ステップの値に対応する2次元データ(要素)から、今回の差動ステップおよび補償ステップの値に対応する要素への遷移に要する標準時間を取得し(ステップS404)、ステップS8において取得された遷移時間と、この取得した標準時間との時間差分を積算時間差分に加算する(ステップS406)。ここで、積算時間差分は、ウォームアップ動作の開始から完了までの時間差分を積算するための変数であり、ウォームアップ動作の開始時に初期化(ゼロクリア)される。
さらに、演算装置61は、積算信頼度が所定のしきい値を下回っているか否かを判断する(ステップS408)。積算信頼度が所定のしきい値を下回っていなければ(ステップS408においてNO)、演算装置61は、積算時間差分が所定のしきい時間を上回っているか否かを判断する(ステップS410)。積算時間差分が所定のしきい時間を上回っていなければ(ステップS410においてNO)、演算装置61は、所定周期内に差動ステップおよび補償ステップの値が同時に変化したか否かを判断する(ステップS412)。なお、図11に示す検知サブルーチンでは、差動ステップまたは補償ステップの変化毎に処理が実行されるが、本サブルーチンでは、差動ステップおよび補償ステップの値がいずれも変化したことを検知する必要がある。そのため、本サブルーチンの制御周期は、図11に示す検知サブルーチンの制御周期に比較して長く設定される。
差動ステップおよび補償ステップの値が同時には変化していない場合(ステップS412においてNO)には、演算装置61は、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473における異常発生は無いと判断し、定着装置47における動作を継続させる(ステップS414)。そして、処理は図8のステップS12へ進む。
これに対して、積算信頼度が所定のしきい値を下回っている場合(ステップS408においてYES)、積算時間差分が所定のしきい時間を上回っている場合(ステップS410においてYES)、または差動ステップおよび補償ステップの値が同時に変化した場合(ステップS412においてYES)には、演算装置61は、ローラ温度センサ472および/または周囲温度センサ473において異常が発生していると判断する(ステップS416)。そして、演算装置61は、定着装置47の動作継続が可能か否かを判断する(ステップS418)。
定着装置47の動作継続が可能でないと判断した場合(ステップS418においてNO)には、演算装置61は、画像形成装置MFPの動作を停止させるとともに(ステップS420)、異常発生による動作継続の不可をパネル部などに表示する(ステップS422)。そして、処理は図8のステップS12へ進む。
一方、定着装置47の動作継続が可能であると判断した場合(ステップS418においてYES)には、演算装置61は、差動ステップおよび補償ステップに対する補正動作を条件に、定着装置47の動作継続を許可する(ステップS424)。そして、処理は図8のステップS12へ進む。なお、この補正動作の代表的な方法としては、温度テーブル651に格納されている表面温度全体をシフトすることであるので、この補正動作は、次回のウォームアップ動作の開始前に実行される。
図13は、図8に示すフローチャートのステップS12におけるウォームアップ動作判断サブルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
図13を参照して、演算装置61は、温度テーブル651を参照して、差動ステップの値と補償ステップの値との組合せに対応する表面温度を取得する(ステップS500)。そして、演算装置61は、この取得した表面温度がウォームアップの目標温度に到達しているか否かを判断する(ステップS502)。この取得した表面温度がウォームアップの目標温度に到達していれば(ステップS502においてYES)、演算装置61は、ウォームアップ動作が完了と判断する(ステップS504)。そして、処理は図8のステップS14へ進む。
一方、この取得した表面温度がウォームアップの目標温度に到達していなければ(ステップS502においてNO)、演算装置61は、図12に示す異常有無判断サブルーチンの処理手順において、定着装置47の動作継続が可能でないと判断されたか否かを判断する(ステップS506)。定着装置47の動作継続が可能でないと判断された場合(ステップS506においてYES)、演算装置61は、ウォームアップ処理を強制的に終了する(ステップS508)。
定着装置47の動作継続が可能であると判断された場合(ステップS506においてNO)、演算装置61は、ウォームアップ動作が未だ完了していないと判断し(ステップS510)、処理は図8のステップS14へ進む。
図14は、図8に示すフローチャートのステップS14における更新サブルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
図14を参照して、演算装置61は、温度テーブル651における遷移先の位置を取得する(ステップS600)とともに、今回の遷移に要した遷移時間を取得する(ステップS602)。そして、演算装置61は、今回の遷移に対応する過去N回分の遷移についての履歴を平均して、対応する遷移先テーブルを暫定的に生成する(ステップS604)。さらに、演算装置61は、記憶部65に記憶されている対応の遷移先テーブル652を参照して、この暫定的に生成した遷移先テーブルにおける目標軌跡と、記憶部65に記憶されている対応の遷移先テーブル652における目標軌跡とが一致するか否かを判断する(ステップS606)。
暫定的に生成した遷移先テーブルにおける目標軌跡と、記憶部65に記憶されている対応の遷移先テーブル652における目標軌跡とが一致する場合(ステップS606においてYES)には、演算装置61は、過去N回分の遷移に要した遷移時間を平均した平均遷移時間を算出する(ステップS608)。
これに対して、暫定的に生成した遷移先テーブルにおける目標軌跡と、記憶部65に記憶されている対応の遷移先テーブル652における目標軌跡とが一致しない場合(ステップS606においてNO)には、演算装置61は、暫定的に生成した遷移先テーブルにおいて、今回の遷移の信頼度が最も高いか否かを判断する(ステップS610)。今回の遷移の信頼度が最も高い場合(ステップS610においてYES)には、演算装置61は、今回の遷移に要した遷移時間を新たな標準時間に設定する(ステップS612)。
そして、ステップS608またはステップS612の実行後、もしくは今回の遷移の信頼度が最も高くはない場合(ステップS610においてNO)には、演算装置61は、対応の遷移先テーブルを更新する必要があるか否かを判断する(ステップS614)。対応の遷移先テーブルを更新する必要がある場合(ステップS614においてYES)、演算装置61は、暫定的に生成した遷移先テーブルを新たな遷移先テーブルとして、記憶部65の内容を更新する(ステップS616)。すなわち、演算装置61は、ステップS604において暫定的に生成した遷移先テーブルにおける目標軌跡と、記憶部65に記憶されている対応の遷移先テーブル652における目標軌跡とが一致しない場合には、遷移先テーブルの内容を更新する。
さらに、演算装置61は、対応の遷移時間テーブルを更新する必要があるか否かを判断する(ステップS618)。対応の遷移時間テーブルを更新する必要がある場合(ステップS618においてYES)には、演算装置61は、記憶部65に記憶されている遷移時間テーブルの内容を更新する(ステップS620)。すなわち、演算装置61は、ステップS612において、今回の遷移に要した遷移時間を新たな標準時間に設定した場合には、記憶部65に記憶されている遷移時間テーブルの内容をこの標準時間に更新する。
そして、処理は図8のステップS16へ進む。
以上のように、図8〜図14に示す処理手順に従って、この発明の実施の形態1に従う画像形成装置MFPにおけるウォームアップ動作が実行される。
なお、上述の本実施の形態では、遷移先テーブル652を用いた信頼度の積算値、および遷移時間テーブル653を用いた要素間の遷移に要した時間と標準時間との時間差分の積算値に基づいて、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473の異常の有無を判断する構成について例示したが、信頼度の積算値または時間差分の積算値のいずれか一方だけを用いて、異常の有無を判断するようにしてもよい。
この発明の実施の形態1によれば、ローラ温度センサおよび周囲温度センサから得られる、第1入力信号(差動ステップ)と第2入力信号(補償ステップ)とを含む2次元データの時間的挙動に基づいて、各温度センサにおける異常の有無を判断する。そのため、断線などによる温度センサからの入力が全くないような異常事象に加えて、温度センサ自体の劣化や、温度センサへのほこりやトナー、紙粉などの付着による検出精度低下に起因する異常事象についても検知することができる。
さらに、2次元データの実際の軌跡を目標軌跡と比較することで、異常の発生している温度センサの特定、およびこの異常に応じた補正動作が可能となる。これにより、ユーザや保守員などによる補修作業を要することなく、画像形成装置を継続して動作させることができる。
[実施の形態2]
上述の実施の形態1では、差動型の温度推定方式を採用する画像形成装置MFPについて例示したが、本実施の形態では、独立型の温度推定方式を採用する画像形成装置MFPについて説明する。
本実施の形態に従う画像形成装置MFPの概略構成は、図1に示す実施の形態1に従う画像形成装置MFPの概略構成と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
図15は、この発明の実施の形態2に従う画像形成装置MFPにおける加熱ローラ474に係る制御構造を示す図である。
図15を参照して、本実施の形態に従う加熱ローラ474に係る制御構造としては、図2に示す制御構造において、減算部623を取り除くとともに、温度テーブル651、遷移先テーブル652および遷移時間テーブル653に代えて、温度テーブル651#、遷移先テーブル652#および遷移時間テーブル653#を、記憶部65に格納したものである。すなわち、本実施の形態に従う画像形成装置MFPでは、ローラ温度センサ472からのアナログ信号をA/D変換器631によってデジタル化した信号が、第1入力信号(以下、「検知ステップ」とも称す)となる。また、周囲温度センサ473の検知信号の入力を受けて、A/D変換器632から出力されるデジタル信号が第2入力信号(以下、「補償ステップ」とも称す)となる。
そのため、これらの第1入力信号の値と第2入力信号の値との組合せに対応する表面温度を格納する温度テーブル651#のデータ構造についても、実施の形態1に従う温度テーブル651のデータ構造とは異なるものとなる。それに伴い、温度テーブル651の各要素に対応付けられた複数の遷移先テーブル652#および遷移時間テーブル653#のデータ構造についても、実施の形態1に従うそれぞれ遷移先テーブル652および遷移時間テーブル653のデータ構造とは異なるものとなる。
その他の構成については、上述の実施の形態1に従う画像形成装置MFPと同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
図16は、この発明の実施の形態2に従う温度テーブル651#の構成の一例を示す図である。
図16を参照して、温度テーブル651#は、第1入力信号である検知ステップと、第2入力信号である補償ステップとの組合せに対応付けて、加熱ローラ474の表面温度が予め規定されている。温度テーブル651#においては、加熱ローラ474の表面温度は、検知ステップ(第1入力信号の値)と補償ステップ(第2入力信号の値)とを含む2次元データに対応付けて規定される。なお、温度テーブル651#の各要素における加熱ローラ474の表面温度は予め実験的に取得される。
この温度テーブル651#の各要素は、加熱ローラ474から放射される熱(赤外線)の検出温度と、温度センサ自体の周囲温度とを反映して決定されるので、周囲環境の影響が大きい加熱ローラ474の表面温度を適切に推定することができる。
一例として、ウォームアップ開始前の2次元データがTemp[6][7](加熱ローラ474の表面温度が20℃)であり、ウォームアップの目標温度が180℃である場合を考える。この場合には、ウォームアップ動作によって、2次元データは、Temp[6][6]→Temp[6][5]→Temp[5][4]→Temp[5][3]→Temp[4][2]→Temp[4][1]の順で時間的に遷移する。
ここで、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473には、記録紙からのほこりやトナー、紙粉などが付着する頻度が高い。また、加熱ローラ474からの放射熱によって、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473が熱劣化し得る。そこで、実施の形態1と同様に、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473からの温度信号が本来の温度を示す値とずれてしまう場合の動作について説明する。一例として、ローラ温度センサ472にほこりやトナー、紙粉が付着して、ローラ温度センサ472の検出感度が低下した場合の動作例について示す。すなわち、ローラ温度センサ472から出力される温度信号が、本来のレベルから所定のレベルだけ低下した場合を考える。
図17は、ローラ温度センサ472の検出感度が低下した場合における温度テーブル651#上の2次元データの時間的な遷移を説明するための図である。なお、図17では、ローラ温度センサ472からの温度信号が一様に低下し、検知ステップの値が本来の値から1AD値だけ低下した場合の例を示す。
図17(a)は、温度制御部615における温度制御動作の目標軌跡を説明するための図を示す。図17(a)に示すように、温度制御部615は、温度テーブル651#上の2次元データが図16に示す2次元データと同様の軌跡に沿って遷移するように、温度制御を行なう。
しかしながら、実際には、この入力される補償ステップの値は、本来の値から1AD値を引いたものに相当するので、温度テーブル651#上の2次元データは、たとえば、図17(b)に示すような軌跡に沿って遷移する。すなわち、ローラ温度センサ472の検出感度が低下した状態において、2次元データは、Temp[6][7]→Temp[6][6]→Temp[5][5]→Temp[5][4]→Temp[4][3]→Temp[4][2]→Temp[4][1]→Temp[4][0]の順で時間的に遷移する。
この結果、加熱ローラ474の表面温度は、本来の目標温度である180℃を超えて、200℃まで到達してしまう。
次に、図17(a)に示す軌跡と図17(b)に示す軌跡とを重ね合わせると、図17(c)のようになる。この図17(c)を参照して、図17(a)に示す目標軌跡と、図7(b)に示す実際軌跡との間には、2箇所の相違部分が存在することになる。
そこで、本実施の形態に従う画像形成装置MFPにおいても、この温度テーブル651#上の2次元データが実際に生じる軌跡(時間的挙動)を目標軌跡と比較することで、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473の異常の有無を判断する。
図18は、図17に対応する2次元データの軌跡に対応する信頼度の積算処理を説明するための図である。
図18を参照して、まず、遷移先テーブル652#の各々は、温度テーブル651#の1つの要素に対応付けられて、予め格納されている。そして、遷移先テーブル652#の各々には、対応の要素から隣接する要素への遷移についての信頼度がそれぞれ規定されている。たとえば、Temp[6][7]に対応する遷移先テーブル652には、Temp[6][7]に隣接するTemp[5][7],Temp[5][6],Temp[6][6],Temp[7][6],Temp[7][7]の計5つの遷移先についての信頼度が規定されている。そして、目標軌跡に相当するTemp[6][7]からTemp[6][6]への遷移には、遷移先テーブル652#の中で最も値の大きな「0」が割当てられており、その他の遷移には、この「0」とは異なるより小さな値が割当てられている。すなわち、目標軌跡とは異なる遷移に対して、非ゼロの負値が割当てられる。
このように、異常判断部612は、遷移先テーブル652#を参照しつつ、温度テーブル651#上の2次元データの時間的挙動に応じて信頼度を順次積算する。
このように、異常判断部612は、積算した信頼度の大きさに基づいて、ローラ温度センサ472および周囲温度センサ473の異常の有無を判断する。そして、異常判断部612は、ローラ温度センサ472または周囲温度センサ473に異常が発生していると判断すると、定着装置47の動作継続が可能か否かを判断する。すなわち、異常判断部612は、発生している異常を補正した上で、定着装置47を継続して動作させることができるか否かを判断する。そして、定着装置47の動作継続が不可と判断すると、異常判断部612は、画像形成装置MFPの動作を停止させるとともに、異常発生による継続動作の不可を図示しないパネル部などに表示する。一方、定着装置47の動作継続が可能と判断すると、異常判断部612は、補正部613に第1入力信号または第2入力信号に対する補正動作を実行させる。
その他の構成については、上述の実施の形態1に従う画像形成装置MFPと同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
この発明の実施の形態2によれば、上述の実施の形態1における効果と同様の効果が得られるとともに、第1入力信号および第2入力信号が、それぞれローラ温度センサ472および周囲温度センサ473に対応するので、異常の発生した温度センサをより容易に特定できる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
2 自動原稿搬送部、3 画像読取部、4 画像形成部、5 給紙部、6 制御部、21 原稿給紙台、22 送出ローラ、23 レジストローラ、24 搬送ドラム、25 排紙台、26 手差給紙部、31 第1ミラーユニット、32 第2ミラーユニット、33 結像レンズ、34 撮像素子、35 プラテンガラス、41 感光体ドラム、42 帯電器、43 画像書込部、44 現像部、45 転写器、46 除電器、47 定着装置、48 クリーニング部、51 タイミングローラ、52,53,54 送出ローラ、55,56 搬送ローラ、57 トレイ、61 演算装置、64 電流制御部、65 記憶部、66 画像バッファ部、67 画像処理部、90 外部電源、311,351 光源、312,321,352,353 ミラー、431 レーザ発光器、471 基体、471a 発熱体、472 ローラ温度センサ、473 周囲温度センサ、474 加熱ローラ、475 加圧ローラ、476 定着モータ、611 温度推定部、612 異常判断部、613 補正部、614 更新部、615 温度制御部、621,622 バッファ部、623 減算部、631,632 A/D変換器、641 ゲート入力、651,651# 温度テーブル、652,652# 遷移先テーブル、653,653# 遷移時間テーブル、MFP 画像形成装置。