JP4469474B2 - 新規なエポキシ樹脂の製造法、およびその方法で製造されたエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物 - Google Patents
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【産業上の利用分野】
本発明は分子内に二級アルコール性水酸基(以下単に二級水酸基と略す)を含むエポキシ樹脂のグリシジルエーテル化方法、およびその方法によって製造されたエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、二級水酸基を含むエポキシ樹脂をグリシジルエーテル化する際に、3級アルコールの存在下、エピクロルヒドリンおよびアルカリ金属水酸化物等を用いて、この二級水酸基をグリシジルエーテル化する工程を含む製造方法、およびその方法で製造されたエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
エポキシ樹脂はその優れた機械的強度、耐熱性、密着性などの特徴により、塗料、接着剤、土木建築、電気・電子分野などの幅広い分野で用いられている。しかしながら、各分野での性能要求は高まるばかりであり、その中で耐熱性を上げようとすると一般的に脆くなるという弱点の克服が一つの課題である。その解決策として、エポキシ樹脂中の二級水酸基をグリシジルエーテル化したエポキシ樹脂が考案された。この樹脂を用いると耐熱性が向上すると共に強靭性、密着性、耐水性も兼ね備えた硬化物が得られる。
【0003】
しかしながら、従来考案された製造方法は、グリシジルエーテル化の際にジメチルスルホキシド(以下DMSOと略す)などの特殊溶媒を用いる方法であった。この方法では、二級水酸基のグリシジルエーテル化という目的は達成できるものの、反応中に著しい着色が発生し、コーティング剤や塗料分野など外観が問題となるような用途では使えなかった。
【0004】
また、このほかに非プロトン性の極性溶媒、例えばジメチルホルムアミドやN−メチルピロリドンなどにはDMSOと同様の反応促進効果があるが、エピクロルヒドリンやアルカリ金属水酸化物と反応してしまったり、DMSOと同様に反応時に著しい着色が起きるという問題点がある。また、これらはいずれも高価な特殊溶媒であり、沸点が高く、また分子中に窒素原子やイオウ原子を含んでおり、一般的に不快な臭気を有する。そのため溶剤の取り扱い、および回収品の再利用が容易ではなく、また廃水処理も極めて困難なものであった。
【0005】
一方、アルコール、ケトン、エステル系などの一般的な溶剤は取り扱いが容易であり、廃水については焼却などの処理が容易である。しかし、一般的なアルコール系の溶媒は、グリシジルエーテル化の際にエピクロルヒドリンやエポキシ樹脂中のエポキシ基と反応するため使用ができず、またアルコール系以外の溶媒は極性が低いためにグリシジルエーテル化反応を促進する効果はなかった。これ以外に、DMSOなどの溶媒は用いずに第四級アンモニウム塩などの相間移動触媒で、同様な反応をさせることも考えられる。しかし、この方法では、もはや触媒とは言えないような大量の触媒を使用しても充分な反応促進効果が得られず、また着色も著しい。
【0006】
さらに、大量に使用した場合は触媒が高価であるため、コスト面での問題点や、廃水中の窒素含有量が上がるなどの問題点があった。以上のように従来の技術では、エポキシ樹脂中の二級水酸基をほとんど着色させずに効率よくグリシジルエーテル化し、かつ窒素またはイオウ化合物を含む廃水をほとんど出さないような製造法はなかった。
【0007】
【問題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、エポキシ樹脂中の二級水酸基をグリシジルエーテル化する際に、t−ブタノール等の3級アルコールを反応溶媒として用いることにより、効率よくグリシジルエーテル化が達成できるとともに、着色度の少ないエポキシ樹脂が得られ、さらに窒素またはイオウ化合物を含む廃水をほとんど出さない製造法になることを見出だした。なお、t−ブタノール等の3級アルコールはこの反応系ではエピクロルヒドリンやエポキシ樹脂中のエポキシ基とはほとんど反応せず、反応を促進するための溶媒として働く。さらに、上記の製造法で得られたエポキシ樹脂を硬化したものは耐熱性、密着性、強靭性、耐水性などに優れた性能を持ち、かつ淡色であり、外観が問題となる塗料、コーティング剤などの分野に有用なものになることを見出だし、本発明に至った。
【0008】
すなわち本発明は、二級アルコール性水酸基を含むエポキシ樹脂に対し、3級アルコールの存在下、エピクロルヒドリンおよびアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物、必要に応じて相間移動触媒を用いて、この二級アルコール性水酸基をグリシジルエーテル化する工程を含むエポキシ樹脂の製造法、およびその方法で製造されたエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物を提供するものである。
【0009】
【発明の細部構成と作用】
本発明におけるエポキシ樹脂中の二級水酸基をグリシジルエーテル化する反応条件としては、以下のようである。撹拌機、温度計、コンデンサー、窒素導入管を備えた反応装置に、エポキシ樹脂を仕込み、次に、エピクロルヒドリンをエポキシ樹脂中の二級水酸基の当量数の好ましくは1〜50倍量、更に好ましくは3〜20倍量、t−ブタノール等の3級アルコールをエピクロルヒドリンの重量に対し好ましくは0.05〜2倍量、更に好ましくは0.1〜1.0倍量添加して溶解し、さらに相間移動触媒を前三者の合計仕込み量に対し、好ましくは0〜2%更に好ましくは0.1〜1%添加する。次に内温を好ましくは20〜80℃、更に好ましくは30〜60℃に調節したのち、固形のアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物をエポキシ樹脂中の二級水酸基の当量数に対し、好ましくは0.5〜5倍更に好ましくは1〜2倍添加し、同温度で好ましくは1〜10時間、更に好ましくは2〜5時間反応させる。
【0010】
反応後、生成した食塩、および未反応のアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物を濾過または水洗によって除去し、溶媒置換、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物による二次的な処理、イオン除去のためのさらなる水洗、脱溶媒等の一般的な精製工程を経ることにより、二級水酸基がグリシジルエーテル化されたエポキシ樹脂が得られる。
【0011】
本発明に用いられるエポキシ樹脂とは、二級水酸基を含む一般的なエポキシ樹脂すべてを指す。具体的にはビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂などである。これらのエポキシ樹脂は、通常その製造過程で二級水酸基が生成する副反応が必ず起きており、特別な精製をしない限り、最終製品には二級水酸基が含まれている。
【0012】
このほか、これらのエポキシ樹脂の製造過程で原料に対するエピクロルヒドリンの反応モル比を下げて、オリゴマー体の含有量を多くしたエポキシ樹脂、(例えば、油化シェルエポキシ製のエピコート834など)や、エポキシ樹脂に対し、活性水素を持つ化合物を部分的に反応させてオリゴマー化させたエポキシ樹脂(例えば、油化シェルエポキシ製のエピコート1001、エピコート1004、エピコート1007など)などを用いることができるが、一般的なものであれば特に限定するものではない。好ましくは、これらの中でも二級水酸基の含有量の多いものを用いる方がより改質効果が得られるため有意義である。なお、これらのエポキシ樹脂中には、一級アルコール性水酸基(以下単に一級水酸基と略す)を含んでいてもよく、本製造法において一級水酸基は二級水酸基より先に、あるいは同時にグリシジルエーテル化され、いずれもエポキシ樹脂としての有効成分となる。
【0013】
本発明におけるアルカリ金属水酸化物とは水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどであり、又アルカリ土類金属水酸化物としては水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどが例示されるが、好ましくは上記のアルカリ金属水酸化物であり、特に好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0014】
本発明における相間移動触媒とは、エポキシ樹脂が溶解したエピクロルヒドリン溶液相と固形のアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物相と間の反応を促進するためのものであり、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩やクラウンエーテル類が挙げられる。具体的には、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムブロマイド、15−クラウン−5、18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−5などである。本発明において、反応の促進効果は、主としてt−ブタノール等の3級アルコールの添加によって得られるため、相間移動触媒の添加は必ずしも必要ではないが、添加することによって反応促進効果が多少あり、併用する方がより効率的である。
【0015】
即ち、t−ブタノール等の3級アルコールの添加量が多いほど反応がスムーズに進む傾向があるが、あまりにも添加量が多いと溶剤のリサイクル使用上の問題などが発生するため、相間移動触媒を併用することで、添加量を抑えた方が経済的には有利な場合が多い。
【0016】
本発明において用いられる3級アルコールとしては、合計炭素数が10以下の3級アルコールが好ましく、2−メチル−2−ブタノールやt−ブタノール等が例示される。特に好ましくはt−ブタノールである。
【0017】
かしくて得られた本発明のエポキシ樹脂は、元々含まれるエポキシ基に加えて、二級水酸基もグリシジルエーテル化されており、より多官能のエポキシ樹脂となる。従って、硬化時間が短縮され、硬化物は耐熱性、密着性、耐水性、機械的強度、耐水性などの諸物性が改善される。しかも従来の製造法に比べると着色度の少ないものが得られ、塗料、コーティング剤など外観が重視される分野にも用いることができるし、もちろん接着剤や注型剤、封止剤、積層板などの用途にも用いることができる。また、エポキシ樹脂を高温下で硬化させる場合があるが、その際に不快な臭気の元となる窒素系あるいはイオウ系の溶剤を含まないという点でも優れている。
【0018】
以下、本発明の詳細を合成例及び実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はその要旨を越えない限りにおいて、以下の実施例に制約されるものではない。
【0019】
【合成例1】
撹拌機、温度計、コンデンサー、窒素導入管を備えた1Lの四つ口フラスコに、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂であるエピコート834(エポキシ当量263g/eq、水酸基当量803g/eq)を200gを仕込む。次に、エピクロルヒドリンを300g(二級水酸基の13倍当量)、t−ブタノールを150g添加して溶解し、さらに相間移動触媒としてトリエチルベンジルアンモニムクロライドを4g(前三者の合計の0.6重量%)添加する。次に内温を60℃に合わせたのち、固形水酸化ナトリウム16g(二級水酸基の1.6倍当量)を添加し、同温度で2時間反応させた。反応後、生成した食塩、および未反応の水酸化ナトリウム、触媒などを水洗および濾過によって除去した後、エピクロルヒドリンとt−ブタノールの混合溶媒を減圧下留去した。
【0020】
なお、t−ブタノールは沸点が低い(bp.=83℃)ため、エピクロルヒドリン(bp.=118℃)より先行して留出した。その後トルエン500gを添加して生成物を再溶解した後、蒸留水100gを添加して充分に撹拌し、分液ロートにて水層を分離した。このような水洗、分液操作を3回繰り返し、最終の油層からトルエンを減圧留去すると206gの淡黄色の半固形状の樹脂が得られた。このもののエポキシ当量は215g/eq、ガードナー色数法により色数を測定するとガードナー1であった。なお、エポキシ当量の値より二級水酸基がグリシジルエーテル化された反応率を求めると、92%であった。なお、エポキシ当量はJIS K7236、色数はJIS K6901に準じて測定した。
【0021】
【合成例2】
合成例1において、t−ブタノールを300gに増やし、相間移動触媒を添加しないという点を除いて同様に合成すると、208gの淡黄色半固形状の樹脂が得られた。このもののエポキシ当量は213g/eq、ガードナー色数法による色数は1であった。エポキシ当量より求めた二級水酸基の反応率は97%であった。
【0022】
【合成例3】
合成例1において、エピコート834の代わりにエピコート1001(エポキシ当量472g/eq、水酸基当量443g/eq)を用い、水酸化ナトリウムの量を29gとする以外は同様に合成すると215gの淡黄色固形状の樹脂が得られた。このもののエポキシ当量は274g/eq、ガードナー色数法による色数は1であった。エポキシ当量より求めた二級水酸基の反応率は85%であった。
【0023】
【比較合成例1】
合成例2において、t−ブタノールの代わりにDMSO300gを用いる以外は同様の反応条件で反応させ、さらに同様の水洗および濾過処理を行った。その後、エピクロルヒドリンとDMSOを減圧下留去しようとしたが、最終到達条件として内温が130℃、真空度5mmHgで1時間保持したのにもかかわらずDMSOは樹脂中に7%残存していた。その後、トルエン500gで溶解した。この溶液から、DMSOを完全に除去するためには、蒸留水100gによる水洗、分液操作を5回繰り返す必要があった。その後、トルエンを減圧下留去すると202gの褐色の半固形状の樹脂が得られた。このもののエポキシ当量は217g/eq、ガードナー色数法による色数は8であった。エポキシ当量より求めた二級水酸基の反応率は87%であった。
【0024】
【比較合成例2】
合成例1において、t−ブタノールは用いず、トリエチルベンジルアンモニウムクロライドを20g(合計仕込量の4重量%)用いるという点を除いて同様に合成したところ、197gの褐色の半固形状の樹脂が得られた。このもののエポキシ当量は221g/eq、ガードナー色数法による色数は9であった。エポキシ当量より求めた二級水酸基の反応率は79%であった。
【0025】
【比較合成例3】
合成例1において、t−ブタノールの代わりにn−ブタノールを用いる以外は同様に反応したところ、反応終了時の段階でブチルグリシジルエーテルの生成が認められた。ガスクロマトグラフィーを用いて定量したところ、反応液中に47g含まれていた。即ち、水酸化ナトリウムの90%がブチルグリシジルエーテルの生成反応に使われており、二級水酸基のグリシジルエーテル化反応はほとんど起きていないことがわかった。
【0026】
【実施例1〜3、比較例1〜3】
表1のような割合で、合成例1〜3、比較合成例1〜2で得られたエポキシ樹脂、およびエピコート834、硬化剤として新日本理化製のリカシッドMH−700(メチルヘキサヒドロ無水フタル酸)を配合して溶解し、硬化促進剤としてサンアプロ(株)製のU−CAT SA102(1,8−ジアザ−ビシクロ−(5,4,0)ウンデセン−7・オクチル酸塩)添加する。この配合樹脂を次のような条件で硬化した。100℃×3時間+150℃×15時間。得られた硬化物から試験片を取り出し、以下の方法で物性評価を行った。
【0027】
曲げ試験:JIS K7203に準じた。
引っ張り試験:JIS K7113に準じた。
アイゾット衝撃試験:JIS K7110に準じた。(ノッチ付きアイゾット衝撃値)
煮沸吸水率:JIS K7209に準じた。(煮沸3時間)
ガラス転移温度:島津製作所製・熱分析装置DT−40を用い、示差走査熱量測定法により測定した。
硬化物の外観:目視により判定した。○・・・着色少ない(淡黄色) ×・・・著しい着色(黒褐色)
【0028】
【表1】
【0029】
【発明の効果】
二級水酸基を含むエポキシ樹脂に対して、本発明の製造法を用いることにより、従来に比べて着色度が少なく、窒素化合物やイオウ化合物を含む廃水がほとんど発生せずに、効率良く、二級水酸基のグリシジルエーテル化が達成できる。この製造法によって得られたエポキシ樹脂は耐熱性、密着性、機械的強度、強靭性、耐水性などの諸性能に優れ、かつ外観が良好なため、塗料、コーティング剤などの分野にも用いることができる。
Claims (3)
- 二級アルコール性水酸基を含むエポキシ樹脂に対し、3級アルコールの存在下、エピクロルヒドリンおよびアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物、必要に応じて相間移動触媒を用いて、この二級アルコール性水酸基をグリシジルエーテル化する工程を含むエポキシ樹脂の製造法。
- 3級アルコールがt−ブタノールであり、アルカリ金属水酸化物を用いることを特徴とする請求項1のエポキシ樹脂の製造法。
- 請求項1又は2に記載された方法によって製造されたエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物。
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