JP4467868B2 - 高はっ水性積層体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車部品や建築材料等に用いることができる、樹脂性物質からなる高はっ水性積層体に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車部品や建築材料、その他の様々な分野において、水滴の付着や汚染を防止するために、表面をはっ水性にすることが求められている。そこで、従来より高分子基材の表面にはっ水性を付与する方法として、基材の表面に疎水性物質であるフッ素系やシリコーン系等のはっ水被膜を形成する方法が知られているが、水との接触角が120°程度であることから、高はっ水とすることが困難であり、また、塗膜の耐磨耗性や、耐薬品性、耐熱性が悪い等の問題や、経時変化が大きい等の問題があった。
【0003】
さらに、表面にはっ水性を付与する方法として、レーザーやウェットエッチング等により表面に微細な凹凸形状を作製することにより、空気層を導入し、はっ水性を向上させる方法が知られている。しかしながら、この方法では基材が限定されることや、装置が大きく高価であることからコストがかかる等の問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、簡易な工程で製造可能であり、かつ高いはっ水性を有する高はっ水性物質の提供が望まれている。
【0005】
【課題が解決するための手段】
本発明は、請求項1に記載するように、表面に微細な凹凸を有する高分子基材と、前記高分子基材上に気相法により形成されたはっ水層とを有し、前記はっ水層が、オクタデシルトリメトキシシランを原料として用いた熱CVD法により形成された自己組織化単分子膜であることを特徴とする高はっ水性積層体を提供する。
【0006】
本発明においては、表面に微細な凹凸を有する高分子基材上に、気相法によりはっ水層を形成することにより、高はっ水性積層体の表面も凹凸を有する形状とすることが可能であり、その表面の凹凸およびはっ水層のはっ水性の両方の効果により、高いはっ水性を有する高はっ水性積層体とすることが可能となるのである。さらに、上記はっ水層がはっ水性を有する自己組織化単分子膜であることにより、高分子基材上に単分子ではっ水層を形成することが可能であり、高分子基材表面の凹凸に沿って自己組織化単分子膜を形成することから、高はっ水性積層体とすることが可能となる。
【0007】
上記請求項1に記載の発明においては、請求項2に記載するように、上記高分子基材表面の表面粗さが5〜200nmの範囲内であることが好ましい。上記高分子基材表面の表面粗さが、上記範囲内であることにより、高はっ水性を発現することが可能となる。また、上記高分子基材上に気相法によりはっ水層を形成すると、表面の凹凸が平坦化されるのを防ぐことも可能となる。
【0008】
上記請求項1または請求項2に記載の発明においては、請求項3に記載するように、上記高分子基材が、高分子基材表面にプラズマ照射することにより、上記高分子基材表面に微細な凹凸が形成される材料からなるものであることが好ましい。上記高分子基材が、表面をプラズマ照射することにより、微細な凹凸が形成される材料であることにより、高分子基材表面における凹凸の形成が容易となり、製造効率等の面から好ましいからである。
【0009】
また、上記請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の発明においては、請求項4に記載するように、上記高分子基材が延伸されたものであることが好ましい。上記高分子基材が未延伸の場合にも,ランダムな凹凸が形成されるため,はっ水性を高めることが可能であるが、延伸されることにより、規則的な配向が可能となり、表面全体に凹凸が規則的に形成されやすく、その凹凸により高はっ水性とすることが可能となるからである。
【0010】
また、上記請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の発明においては、請求項5に記載するように、上記高分子基材が、ポリエステル系樹脂、またはポリカーボネートであることが好ましい。上記高分子基材がポリエステル系樹脂またはポリカーボネートであることにより、微細な表面凹凸の形成が容易であり、さらに加工が容易であることから、高はっ水性積層体を様々な用途に使用することが可能となるからである。
【0011】
上記請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の発明においては、請求項6に記載するように、上記はっ水層は、平面に形成した場合の水との接触角が70〜120°の範囲内である材料で形成されていることが好ましい。上記はっ水層が、平面に形成された場合に、水との接触角が上記の範囲内である材料により形成されていることから、表面に凹凸を有する高分子基材上に形成した場合に、高分子基材にさらに高いはっ水性を付与することが可能となり、高はっ水性積層体とすることが可能となるからである。
【0013】
上記請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の発明においては、請求項7に記載するように、上記はっ水層の厚さが1〜150nmの範囲内であることが好ましい。上記はっ水層の厚さを、上記の範囲内とすることにより、はっ水層が上記高分子基材の表面凹凸を平坦化することを防ぐことが可能となり、高いはっ水性とすることが可能となるからである。
【0017】
上記請求項1から請求項7までのいずれかの請求項に記載の発明においては、請求項8に記載するように、高はっ水性積層体の表面粗さが、5〜200nmの範囲内であることが好ましい。高はっ水性積層体の表面粗さを上記範囲内とすることにより、表面に高いはっ水性を発現させることが可能であり、高はっ水性積層体とすることが可能となるからである。
【0018】
上記請求項1から請求項8までのいずれかの請求項に記載の発明においては、請求項9に記載するように、高はっ水性積層体の水との接触角が、120°以上であることが好ましい。高はっ水性積層体の水との接触角を上記範囲内とすることにより、高いはっ水性の要求される様々な用途に使用することが可能となるからである。
【0019】
本発明は、請求項10に記載するように、高分子基材表面に、ドライエッチングにより表面粗さが5〜200nmの範囲内の凹凸を形成する凹凸形成工程と、前記凹凸を形成した高分子基材上に気相法により膜厚が1〜150nmの範囲内であるはっ水層を形成するはっ水層形成工程とを有し、前記はっ水層形成工程が、オクタデシルトリメトキシシランを原料として用いた熱CVD法により自己組織化単分子膜を形成する工程であることを特徴とする高はっ水性積層体の製造方法を提供する。
【0020】
本発明によれば、高分子基材表面にドライエッチングにより上記範囲内の凹凸を形成し、その凹凸を形成した高分子基材上に、気相法により上記の範囲内のはっ水層を形成することから、上記凹凸形成工程で形成した凹凸を埋めることなく、はっ水層を形成することが可能となり、はっ水層のはっ水性および表面の凹凸の両方の効果により、高いはっ水性を有する高はっ水性積層体を形成することが可能となるのである。さらに、上記はっ水層形成工程が、熱CVD法により、自己組織化単分子膜を形成する工程であることにより、上記高分子基材上に自己組織化単分子膜を均一に形成することが可能であり、上記凹凸形成工程で形成された上記高分子基材表面の凹凸を平坦化することなく、はっ水層を形成することが可能となる。
【0021】
上記請求項10に記載の発明においては、請求項11に記載するように、上記高分子基材が延伸されたものであることが好ましい。上記高分子基材が延伸されたものであることにより、上記凹凸形成工程において、高分子基材上に、容易に規則的な凹凸を形成することが可能となるからである。
【0022】
上記請求項10または請求項11に記載の発明においては、請求項12に記載するように、上記凹凸形成工程が、酸素原子を含んだガスを用いるプラズマによるエッチング法を用いることが好ましい。上記凹凸形成工程が、酸素プラズマによるエッチングを用いることにより、高分子基材表面に親水基を導入することが可能であり、親水基の導入された高分子基材上にはっ水層を設けることにより、はっ水層と高分子基材の密着性が向上し、高いはっ水性を有する高はっ水性積層体を製造することが可能となるからである。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明は、簡易な工程で製造可能であり、かつ高いはっ水性を有する高はっ水性積層体およびその製造方法に関するものである。以下、これらについてわけて説明する。
【0026】
1.高はっ水性積層体
本発明における高はっ水性積層体は、表面に微細な凹凸を有する高分子基材と、前記高分子基材上に気相法により形成されたはっ水層とを有することを特徴とするものである。本発明においては、表面に微細な凹凸を有する高分子基材上に、気相法によりはっ水層を形成することにより、高はっ水性積層体表面も凹凸を有する形状とすることが可能であり、その表面の凹凸およびはっ水層のはっ水性との両方の効果により、高いはっ水性を有する高はっ水性積層体とすることが可能となるのである。以下、上記の高はっ水性積層体の構成についてそれぞれ説明する。
【0027】
(高分子基材)
本発明に用いられる高分子基材としては、表面に微細な凹凸を有する高分子基材であり、この微細な凹凸ではっ水性を発現することのできるものであれば、特にその樹脂の種類等は限定されるものではなく、用途に応じて透明なものであっても、不透明なものであってもよく、フィルム状であっても、板状であってもよく、さらに,ガラスやシリコンウエハーのような固体表面を高分子によりコーティングした基材でも良い。
【0028】
本発明に使用できる高分子基材の種類として、具体的には
・エチレン、ポリプロピレン、ブテン等の単独重合体または共重合体または共重合体等のポリオレフィン(PO)樹脂、
・環状ポリオレフィン等の非晶質ポリオレフィン樹脂(APO)、
・ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン2、6−ナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、
・ナイロン6、ナイロン12、共重合ナイロン等のポリアミド系(PA)樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)等のポリビニルアルコール系樹脂、
・ポリイミド(PI)樹脂、
・ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、
・ポリサルホン(PS)樹脂、
・ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、
・ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、
・ポリカーボネート(PC)樹脂、
・ポリビニルブチラート(PVB)樹脂、
・ポリアリレート(PAR)樹脂、
・エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、三フッ化塩化エチレン(PFA)、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニル(PVF)、パーフルオロエチレン−パーフロロプロピレン−パーフロロビニルエーテル−共重合体(EPA)等のフッ素系樹脂、
等を用いることができる。
【0029】
また、上記に挙げた樹脂以外にも、ラジカル反応性不飽和化合物を有するアクリレート化合物によりなる樹脂組成物や、上記アクリルレート化合物とチオール基を有するメルカプト化合物よりなる樹脂組成物、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート等のオリゴマーを多官能アクリレートモノマーに溶解せしめた樹脂組成物等の光硬化性樹脂およびこれらの混合物等を用いることも可能である。さらに、これらの樹脂の1または2種以上をラミネート、コーティング等の手段によって積層させたものを基材として用いることも可能である。さらに,ガラスやシリコンウエハーのような固体表面にこれらの樹脂をコーティングした基材でも良い。
【0030】
上記の高分子基材の中でも、特に高分子基材表面にプラズマ照射することにより、上記高分子基材表面に微細な凹凸が形成される材料であることが好ましい。上記高分子基材が、プラズマ照射により表面に微細な凹凸が形成される材料であることにより、上記の高分子基材表面の微細な凹凸を、プラズマ照射により得ることが可能となり、製造効率やコストの面からも好ましいからである。
【0031】
本発明においては、未延伸でも良いが,中でも上記高分子基材が、延伸されたものであることが好ましい。上記高分子基材が延伸されることで,規則的な配向が可能となり,表面全体に凹凸が規則的に形成されやすく、その凹凸により高はっ水性とすることが可能となるからである。なお、未延伸の場合にも,ランダムな凹凸が形成されるため,はっ水性を高めることが可能となる。
【0032】
具体的な延伸の方法としては、未延伸の基材を一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、基材の流れ(縦軸)方向、または基材の流れ方向と直角(横軸)方向に延伸することにより延伸基材を製造することができる。この場合の延伸倍率は、基材の原料となる樹脂に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向および横軸方向にそれぞれ2〜10倍が好ましい。
【0033】
さらに、本発明の高分子基材は、上述した高分子基材の中でも特に、ポリエステル樹脂またはポリカーボネートであることが好ましい。また、ポリエステル樹脂の中でも特にポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレートであることが好ましい。上記高分子基材が、これらの物質であることにより、微細な表面凹凸の形成が容易であり、さらに加工が容易である等の性質から、様々な用途に使用することが可能であり、高はっ水性積層体を様々な用途に使用することが可能となるからである。
【0034】
ここで、高分子基材の凹凸の形成方法や凹凸の形状等は特に限定されるものではないが、上記の高分子基材表面に形成された凹凸として、表面粗さが5〜200nm、中でも5〜100nm,特に5〜50nmの範囲内であることが好ましい。上記高分子基材表面の表面粗さが、上記範囲内であることにより、高いはっ水性を発現することが可能であるからである。
【0035】
ここで、表面粗さ測定は,原子間力顕微鏡(セイコーインスツルメンツ社製;SPI3800N)を用いて、タッピングモードで測定された。
【0036】
また、高分子基材表面への凹凸の形成方法として、具体的には、プラズマ照射によるエッチングや、反応性イオンエッチング,スパッタエッチング,光エッチング,溶液処理等が挙げられるが、中でもプラズマによるエッチングを用いる方法が好ましく、特には酸素原子を含んだガスを用いるプラズマによるエッチング法を用いることが好ましく、中でも酸素プラズマによるエッチングが好ましい。プラズマによるエッチングを用いた高分子基材表面への凹凸形成は、簡易な工程で行うことが可能であり、製造効率やコストの面からも好ましいからである。また、中でも酸素原子を含んだガスを用いるプラズマによるエッチングを用いることにより、高分子基材表面に親水基を導入することが可能であり、親水基の導入された高分子基材上に後述するはっ水層を設けることにより、はっ水層と高分子基材の密着性が向上し、機械的特性の良好な高はっ水性積層体を製造することが可能となるからである。
【0037】
(はっ水層)
本発明におけるはっ水層は、上述した表面凹凸を形成した高分子基材上に気相法により形成されたはっ水性を有する層であれば、その原材料等は特に限定されるものではないが、上記はっ水層は、平面に形成した場合の水との接触角が70〜120°、中でも100〜120°の範囲内で形成されている材料であることが好ましい。上記はっ水層が、平面に形成された場合に、水との接触角が上記の範囲内である材料により形成されていることから、表面に凹凸を有する高分子基材上に形成した場合には、さらに高いはっ水性を付与することが可能となるからである。
【0038】
本発明における水との接触角は、協和界面化学社の接触角測定装置(型番CA-Z)を用いて測定したものである。具体的には、被測定対象物の表面上に、純水を一滴(一定量)滴下させ、一定時間(10秒間)経過後顕微鏡またはCCDカメラを用いて水滴形状を観察し、物理的に接触角を求める。
【0039】
さらに本発明のはっ水層は、気相法により形成されたはっ水膜、または自己組織化単分子膜であることが好ましい。以下、これらについてわけて説明する。
【0040】
(1)気相法により形成されたはっ水膜
まず、上記気相法により形成されたはっ水膜について説明する。
【0041】
本発明における気相法により形成されたはっ水膜とは、金属骨格からなりアルキル基を有する有機膜、炭素および水素(CおよびH)のみから構成される有機膜、およびフッ素(F)を含む膜であり、上述したようなはっ水性を有する層であれば、製法等は特に限定されるものではないが、基材に対して熱的なダメージを与えずに形成できる点からCVD法により形成されたはっ水層であることが特に好ましいといえる。
【0042】
以下、金属骨格からなりアルキル基を有する有機膜、炭素および水素(CおよびH)のみから構成される有機膜、およびフッ素(F)を含むについて、それぞれ説明する。なお、ここでいうアルキル基は、炭素数が1〜30の範囲内のものが好ましく、中でも炭素数1〜6、特に炭素数が1のメチル基、あるいは2のエチル基が最も好ましい。
【0043】
▲1▼金属骨格からなりアルキル基を有する有機膜
このような有機膜の金属骨格としては、Si,TiおよびAl等を上げることができる。具体的な材料としては、SixOyCzHαで示される有機シリコン系材料、またはプラズマCVD法、プラズマ重合法を用いたこれら重合膜を挙げることができる。
【0044】
▲2▼炭素および水素(CおよびH)のみから構成される有機膜
具体的には、炭化水素系材料またはその重合膜を挙げることができる。このような膜の製造方法としては、プラズマCVD法(プラズマ重合法)を用いてもよく、またポリエチレン等のポリオレフィン材料をPVD法により蒸着するようにしたものであってもよい。
【0045】
▲3▼フッ素(F)を含む膜
Fを含む膜としては、例えばSixOyCzHαFβで示される有機フッ化シリコン材料またはその重合膜、SixOyHαFβで示されるフッ化シリコン系材料またはその重合膜、もしくはCxOyHzFαで示されるフッ素含有炭化水素系材料またはその重合膜が挙げられる。
【0046】
本発明において、上述したようにはっ水膜を形成するに際して、特に好ましい材料として具体的には、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO;(CH3)3SiOSi(CH3)3)、テトラメチルジシロキサン(TMDSO;(CH3)2HSiOSiH(CH3)2)、テトラメチルシラン(TMS;Si(CH3)4)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PVDF(ポリビニリデンフルオロエチレン)、PVF(ポリビニルフルオリド)、ETFE(エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体)、C2H2、C2H4、CH4、C2H6、CF4、C2F2、C2F4、C2F6、ポリエチレン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂等を挙げることができる。
【0047】
ここで、上記はっ水膜が酸素原子を含有する酸化珪素膜である場合には、はっ水膜中の酸素原子の濃度が、Si原子数100に対して0〜100、特に0〜50の範囲内であることが好ましい。酸素原子は、水分子と水素結合を容易に形成することから、はっ水膜中に酸素原子を有することにより、水分子を引き寄せ、はっ水性が低下する原因となる。上記はっ水膜において、酸素原子の濃度が上述した範囲内であることから、酸素原子によるはっ水性の低下を抑えることが可能となり、積層体を高はっ水性なものとすることが可能となるからである。
【0048】
ここで、本発明のはっ水膜の各部分における成分割合は、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)で測定された値である。XPSによる分析法を以下説明する。真空中で固体表面にX線を照射すると、X線によりエネルギ−を与えられた表面原子から電子が飛散する。この電子は、X線などの光照射によって発生するため光電子と呼ばれ、この光電子は、元素固有のエネルギ−を有することから、エネルギ−分布を測定することにより元素の定性分析や定量分析が可能となる。また、表面から深いところで発生した光電子は、表面に出てくる前にそのエネルギーを失うため測定が困難であり、1000eVの運動エネルギーを有する電子の脱出深さは、数nm(数十原子層)であることから、最表面の情報を得ることが可能となる。さらに、深部を測定するためには、表面をアルゴン等のイオンによりスパッタリングする必要があり、元素の種類により選択的なスパッタリングが生じるので、定量の際には補正が必要となる。
【0049】
また、上述した気相法により形成されたはっ水膜における好適な膜厚は、1nm〜150nmの範囲内、中でも1nm〜100nm,特に1nm〜50nmの範囲内であることが好ましい。
【0050】
はっ水膜の膜厚が、上記範囲より薄い場合は、例えばはっ水膜が形成されない部分が生じる等のはっ水層としての機能を発揮できない可能性が生じることから好ましくなく、上記範囲より膜厚を厚くしても、はっ水性を向上させないことからコスト面で問題となる可能性があるため好ましくない。
【0051】
(2)自己組織化単分子膜
次に、本発明における上記はっ水層は、自己組織化単分子膜であってもよく、以下、この自己組織化単分子膜について説明する。
【0052】
自己組織化単分子膜とは、固体/液体もしくは固体/気体界面で、有機分子同士が自発的に集合し、会合体を形成しながら自発的に単分子膜を形作っていく有機薄膜である。例として、ある特定の材料でできた基板を、その基板材料と化学的親和性の高い有機分子の溶液または蒸気にさらすと、有機分子は基板表面で化学反応し吸着する。その有機分子が、化学的親和性の高い官能基と、基板との化学反応を全く起こさないアルキル基との2つのパートからなり、親和性の高い官能基がその末端にある場合、分子は反応性末端が基板側を向き、アルキル基が外側を向いて吸着する。アルキル基同士が集合すると、全体として安定になるため、化学吸着の過程で有機分子同士は自発的に集合する。分子の吸着には、基板と末端官能基との間で化学反応が起こることが必要であることから、いったん基板表面が有機分子でおおわれ単分子膜ができあがると、それ以降は分子の吸着は起こらない。その結果、分子が密に集合し、配向性のそろった有機単分子膜ができる。このような膜を本発明においては、自己組織化単分子膜とする。ここで、上記の基板と結合する反応性末端基を吸着基、外側を向いて配向する基を配向基とする。
【0053】
上記はっ水層が上述したような自己組織化単分子膜であることにより、上述した高分子基材の凹凸に沿って、単分子で膜を形成することが可能であり、上記高分子基材の凹凸、および自己組織化単分子膜の配向基のはっ水性により高はっ水性積層体とすることが可能となるのである。
【0054】
ここで、上記自己組織化単分子膜は、下記の一般式(1)で示される化合物を原材料として形成されたものであることが好ましい。
【0055】
R1 αXR2 β (1)
(ここで、R1は、炭素数1〜30までのアルキル基あるいはアリール基(ベンゼン環)であり、炭素基は部分的に分岐鎖や多重結合を有するものも含まれる。また、炭素に結合する元素としてはフッ素や塩素等のハロゲン、水素あるいは窒素等も含まれる。また、R2は、ハロゲン、または−OR3(R3は、炭素数1〜6のアルキル基、アリール基、またはアリル基である。ここで、炭素が酸素や水素だけでなく、ハロゲンや窒素と結合しているものも含まれる。)で示される置換基である。また、Xは、Si、Ti、Al、CおよびSからなる群から選択される一つの元素である。ここで、αおよびβは1以上であり、α+βは2から4である。)
ここで、R1は上述の配向基、R2は上述の吸着基、Xは自己組織化単分子膜の核となる物質である。上記自己組織化単分子膜が上記の化合物であり、R1が上記のような基であることにより、自己組織化単分子膜は高いはっ水性を有する膜であり、高はっ水性積層体に高いはっ水性を付与することが可能となるのである。
【0056】
上記に示した自己組織化単分子膜形成物質の具体的な例として、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリクロロシラン、オクタデシルメチルジエトキシシラン、オクタデシルジメチルメトキシシラン、オクタデシルメチルジメトキシシラン、オクタデシルメトキシジクロロシラン、オクタデシルメチルジクロロシラン、オクタデシルジメチル(ジメチルアミノ)シラン、オクタデシルジメチルクロロシラン、ノニルクロロシラン、オクテニルトリクロロシラン、オクテニルトリメトキシシラン、オクチルメチルジクロロシラン、オクチルメチルジエトキシシラン、オクチルトリクロロシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリクロロシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ペンチルトリクロロシラン、フェネチルトリクロロシラン、フェネチルトリメトキシシラン、フェニルジクロロシラン、フェニルジエトキシシラン、フェニルエチルジクロロシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリクロロシラン、テトラデシルトリクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)ジメチルクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリエトキシシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルメチルジクロロシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルトリクロロシラン、イソオクチルトリメトキシシラン、イソブチルメチルジクロロシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリクロロシラン、ヘキシルトリクロロシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキセニルトリクロロシラン、ヘキシルジクロロシラン、ヘキサデシルトリクロロシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)メチルジクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)ジメチルクロロシラン、エイコシルトリクロロシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリクロロシラン、ドデシルメチルジクロロシラン、ドデシルジメチルクロロシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジクロロシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジメトキシメチル−3,3,3−トリフルオロプロピルシラン、デシルメチルジクロロシラン、デシルトリクロロシラン、デシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルジメチルクロロシラン、シクロヘキシルメチルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリクロロシラン、クロロフェニルトリクロロシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリクロロシランであることが好ましい。
【0057】
本発明においては、中でもオクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリクロロシラン、ノニルクロロシラン、オクテニルトリクロロシラン、オクテニルトリメトキシシラン、オクチルトリクロロシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリクロロシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ペンチルトリクロロシラン、フェネチルトリクロロシラン、フェネチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリクロロシラン、テトラデシルトリクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリエトキシシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルトリクロロシラン、イソオクチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリクロロシラン、ヘキシルトリクロロシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキセニルトリクロロシラン、ヘキサデシルトリクロロシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリクロロシラン、エイコシルトリクロロシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリクロロシラン、ジメトキシメチル−3,3,3−トリフルオロプロピルシラン、デシルトリクロロシラン、デシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルジメチルクロロシラン、シクロヘキシルメチルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリクロロシラン、クロロフェニルトリクロロシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリクロロシランが好ましく、特にオクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリクロロシラン、オクチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0058】
(高はっ水性積層体)
本発明における高はっ水性積層体は、上述した高分子基材上に、上述したはっ水層を形成したものであれば、用途に合わせて透明であっても、不透明であってもよい。
【0059】
また本発明においては、高はっ水性積層体の表面粗さが5〜200nm、中でも5〜100nm,特に5〜50nmの範囲内であることが好ましい。高はっ水性積層体の表面粗さが上記の範囲内であることにより、表面の凹凸とはっ水層のはっ水性との両方の効果により、高はっ水性とすることが可能となるからである。なお、ここでいう表面粗さは、上述した方法により測定されたものである。
【0060】
また、本発明においては、上記高はっ水性積層体の水との接触角が、120°以上、中でも130°以上であることが好ましい。高はっ水性積層体の水との接触角を上記範囲内とすることにより、高いはっ水性の要求される様々な用途に使用することが可能となるからである。なお、ここでいう水との接触角の測定方法は、上述した方法により測定されたものである。
【0061】
2.高はっ水性積層体の製造方法
本発明の高はっ水性積層体の製造方法は、高分子基材表面に、ドライエッチングにより凹凸を形成する凹凸形成工程と、前記凹凸を形成した高分子基材上に気相法によりはっ水層を形成するはっ水層形成工程とを有することを特徴とする方法である。本発明によれば、高分子基材表面のドライエッチングにより、凹凸を形成する凹凸形成工程を有することによって、高はっ水性積層体の表面に凹凸を形成することが可能となり、高はっ水性を付与することが可能となるのである。また、上記凹凸形成工程により凹凸を形成した高分子基材上に、気相法によりはっ水層を形成することにより、上記凹凸形成工程で形成した凹凸を平坦化することなく、はっ水層を形成することが可能となることから、上記の表面凹凸、およびはっ水層の効果により、高いはっ水性を有する高はっ水性積層体を形成することが可能となるのである。
【0062】
以下、上記の高はっ水性積層体の製造方法について、詳しく説明する。
【0063】
(凹凸形成工程)
本発明における凹凸形成工程は、高分子基材表面にドライエッチングにより、表面粗さが5〜200nm、中でも5〜100nm,特に5〜50nmの範囲内の凹凸を形成する工程である。なお、ここでいう表面粗さは、上述した方法により測定されたものである。
【0064】
本発明における高分子基材表面粗さが、上記範囲内であることにより、高いはっ水性を発現することが可能であり、さらに後述するはっ水層形成工程により、高分子基材上にはっ水層を形成した際にも、はっ水層により平坦化される可能性が少ないからである。
【0065】
また、本発明に用いられる高分子基材は、凹凸の形成が可能な樹脂基材であれば、特に限定されるものではなく、中でも、均一な凹凸が形成可能であるという面から、上記高分子基材が延伸されたものであることが好ましい。本発明における高分子基材の種類や、延伸の具体的な方法は、高はっ水性積層体の高分子基材の項で述べたものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0066】
本発明の凹凸形成工程において用いられるドライエッチングは、プラズマエッチングやスパッタエッチング等を挙げることができ、上記の範囲内の表面粗さを形成可能な方法であれば特に限定されるものではないが、中でも酸素原子を含んだガスを用いるプラズマによるエッチング法を用いた工程であることが好ましい。本発明において、酸素原子を含んだガスとは、例としてNO2、CO2、またはO2等のガスである。上記凹凸形成工程に、酸素原子を含んだガスを用いるプラズマによるエッチング法を用いることによって、高分子基材表面に凹凸を形成するのと同時に、プラズマ中の酸素と高分子基材表面において反応が行われ、高分子基材表面に−OH基が導入される。これにより、高分子基材表面と後述するはっ水層形成工程により形成されるはっ水層との密着性を向上させることができ、高いはっ水性を有する積層体を製造することが可能となるからである。
【0067】
上記の酸素原子を含んだガスを用いるプラズマによるエッチング法の中でも、本発明では特に酸素プラズマによるエッチングを用いることが好ましい。本発明において好適に用いられる酸素プラズマによるエッチング法とは、具体的には酸素プラズマによる分解生成された活性な分子、ここでは活性酸素種(原子および分子を含む広義のラジカル)による化学的効果と基材表面に形成されるイオン・シースで加速されたイオンによる物理的効果とその相乗効果によるエッチング技術である。
【0068】
(はっ水層形成工程)
本発明におけるはっ水層形成工程は、上述した凹凸形成工程により凹凸が形成された高分子基材上に、気相法により、厚さが1〜150nm、好ましくは1〜100nm,特に1〜50nmの範囲内であるはっ水層を形成する工程である。
【0069】
本発明のはっ水層は、気相法により形成されたはっ水膜、または自己組織化単分子膜であることが好ましく、以下にこれらのはっ水層の形成方法について説明する。
【0070】
(1)気相法により形成されたはっ水膜
まず、はっ水層が、気相法により形成されるはっ水膜である場合のはっ水層形成工程について説明する。
【0071】
本発明における気相法とは、PVD法であっても、CVD法であってもよく、気相を介して行う成膜法であれば、特に限定されるものではないが、特にはプラズマCVD法により行うことが好ましい。
【0072】
プラズマCVD法は、高分子基材に熱的ダメージが加わらない程度の低温(およそ−10〜200℃程度の範囲)で所望の材料を成膜でき、さらに原料ガスの種類・流量、成膜圧力、投入電力によって、得られる膜の種類や物性を制御できるという利点があることから、上述した基材等に熱的ダメージを与える可能性が少なく、本発明においては、上述した凹凸形成工程により形成された高分子基材の表面の凹凸を平坦化する可能性が少ないことから、基材として例えば熱的耐性の弱い高分子基材等を使用することが可能となり、種々の用途に使用できる高はっ水性積層体とすることが可能となるからである。
【0073】
本発明における具体的な成膜方法としては、まず成膜時の基材の温度が−20〜100℃の範囲内、好ましくは−10〜50℃の範囲内とする。次に原料ガスとして下記のいずれかの材料を用い、プラズマCVD装置のプラズマ発生手段における単位面積当たりの投入電力を有機薄膜が形成可能な大きさで設定し、成膜圧力をパーティクルの発生がない程度の高い圧力(50〜300mTorr)の範囲で設定する。また、マグネット等プラズマの閉じ込め空間を形成しその反応性を高めることにより、その効果がより高く得られる。
【0074】
ここで、本発明のはっ水膜としては、
▲1▼アルキル基のリッチな薄膜
▲2▼C,Hのみで構成される炭化水素膜
▲3▼フッ素を含む薄膜
のいずれかであることが好ましく、上記の方法によりはっ水性の高い膜を形成できる。以下、これらに用いられる原料ガスについて説明する。
【0075】
▲1▼アルキルリッチ有機膜形成の場合
有機珪素化合物ガスとしては、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、テトラメチルシラン(TMS)、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリメチルシラン、テトラメトキシシラン(TMOS)、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、テトラエトキシシラン(TEOS)、ジメチルジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンを好ましく用いることができる他、テトラメチルジシロキサン、ノルマルメチルトリメトキシシラン等の従来公知のものを、一種または二種以上用いることができる。
【0076】
しかしながら、この場合は、アルキルリッチな膜を形成する目的から、特に分子内に炭素−珪素結合を多くもつ有機珪素化合物が好適に用いられる。具体的には、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、テトラメチルシラン(TMS)、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等を挙げることができ、中でも分子内に炭素−珪素結合を多く有するヘキサメチルジシロキサン(HMDSO;(CH3)3SiOSi(CH3)3)、テトラメチルジシロキサン(TMDSO;(CH3)2HSiOSiH(CH3)2)、テトラメチルシラン(TMS;Si(CH3)4)が好ましいといえる。
【0077】
▲2▼炭化水素系材料の場合
炭化水素系材料として、好ましい材料は、CH4、C2H2、C2H4、およびC3H8を挙げることができ、特に好ましくは、C2H2、およびC2H4を挙げることができる。
【0078】
▲3▼フッ素含有有機材料の場合
フッ素含有有機材料としては、CF4、C2F4、C2F6、C3F6,C3F8,C5F8等を挙げることができ、特に、C2F4およびC3F8が特に好ましい。
【0079】
このように、原料ガスのうち有機珪素化合物ガスとして炭素−珪素結合を多く有する有機化合物を用い、さらに上述したような開始時の基材の温度、原料ガスの流量比、さらにはプラズマ発生手段における投入電力、成膜圧力を上述した範囲内とすることにより、より優れたはっ水性膜が得られるのは、有機珪素化合物ガスの分解性が低く、膜中にアルキル基またはフッ素が取り込まれやすくなるから(▲1▼、▲3▼の場合)、もしくは膜がCH結合のみで構成される結果としてはっ水効果の高い膜が得られるから(▲2▼の場合)と考えられる。なお、ここでいうアルキルとは、炭素数が1〜30の範囲内のものが好ましく、中でも炭素数が1〜6、特に1のメチル基あるいは2のエチル基が最も好ましい。
【0080】
(2)自己組織化単分子膜
次に、本発明におけるはっ水層が、自己組織化単分子膜である場合について説明する。本発明における自己組織化単分子膜の形成方法は特に限定されるものではないが、特に熱CVD法により形成することが好ましい。自己組織化単分子膜を形成する工程が、熱CVD法であることにより、熱CVD法では、原料となる物質を気化し、基材上に均一になるように材料を送り込み、酸化、還元、置換等の反応を行わせることから、上記高分子基材の凹凸上にも均一に自己組織化単分子膜を形成することが可能であり、上記高分子基材表面に形成された凹凸を平坦化することなく、はっ水層を形成することが可能である。
【0081】
本発明における熱CVD法の好ましい成膜条件としては、上述した高分子基材の耐熱温度以下であれば、高ければ高いほどよいが、50℃〜200℃の範囲内であることが好ましい。また、反応系中に水分、あるいは酸素が含まれることが、上記自己組織化単分子膜形成物質のアルコキシ基の加水分解反応がより促進され、基材との反応性が高くなることから好ましい。
【0082】
本発明における熱CVD法による自己組織化単分子膜の材料としては、上述した高はっ水性積層体のはっ水層の自己組織化単分子膜の記載と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0083】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0084】
【実施例】
以下に実施例および比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
【0085】
[実施例1]
(表面凹凸形成)
PET基材を容量結合型高周波プラズマ装置により下記の方法により、酸素プラズマエッチングした。まず、PET基材をチャンバー中に設置した後,減圧手段により反応チャンバー内を1.0×10-4Pa以下まで真空にした。基材には12μm−PET(ユニチカ(株)社製)を使用した。次いで、酸素原子を含むガスとして酸素ガスを用い,チャンバー中に5Pa導入した。プラズマ生成には13.56MHzの高周波を用いた。100Wの電力で,10分間酸素プラズマエッチングを実施した。エッチング後のPET表面の平均二乗粗さは約10nmであった。表面粗さの測定は、原子間力顕微鏡(セイコーインスツルメンツ社製;SPI3800N)を用いて、タッピングモードで測定された。
【0086】
(熱CVD工程によるはっ水層形成;自己組織化単分子膜成膜)
上述した酸素プラズマエッチングされたPET基材と、ガラス容器に入れたオクタデシルトリメトキシシラン(東京化成工業(株)社製 00256)約0.2mlを、テフロン(登録商標)容器内に設置し、100℃のオーブン中に5時間放置し、熱CVDによる自己組織化単分子膜(以下、ODS−SAMと略称する。)形成を行った。
【0087】
ODS−SAM成膜後、水滴接触角および膜厚を測定したところ、水との接触角が約140°であり、膜厚は1.8nmであった。SAM成膜前の水滴接触角が10°以下であったので、熱CVDにより、SAMが形成されていることがわかった。
【0088】
なお、この水との接触角の測定方法は、協和界面化学社の接触角測定装置(型番CA−Z)を用い、被測定対象物の表面上に、純水を一滴(一定量)滴下させ、一定時間経過後、CCDカメラを用いて水滴形状を観察し、物理的に接触角を求める方法を用いた。
【0089】
ODS−SAM成膜後,XPSにより膜特性を評価したところ、膜中からSiおよびCの存在が確認された。なお、XPSによる評価は、MgKα使用、15kV、20mA(300W)という条件下で、XPS220iXL(ESCALAB社製)を用いて実施された。
【0090】
[実施例2]
(表面凹凸形状形成)
実施例1と同様にしてPET上に凹凸を形成した。
【0091】
(プラズマCVD工程によるはっ水層形成;シリカ系薄膜成膜)
酸素プラズマエッチング工程に引き続き,エッチングされたPET基材上に,シリカ系薄膜(SiCxHy系薄膜)を容量結合型高周波プラズマCVDにより成膜した。プラズマエッチング後,再度チャンバー内の真空度を1.0×10-4Pa以下にした後,原料ガスを反応チャンバー内に導入した。原料ガスとしては、有機珪素化合物としてテトラメチルシラン(チッソ(株)社製 T2050)を用いた。チャンバー全圧が10Paとなるように圧力を調整した。プラズマ生成、原料分解には13.56MHzの高周波を用いた。成膜時間15秒間、200Wの電力でシリカ系薄膜を成膜した。成膜中,基材表面温度は50℃以下であった。シリカ系薄膜成膜後、水滴接触角および膜厚を測定したところ、水との接触角が約140°であり、膜厚は約3nmであった。
【0092】
シリカ成膜後,XPSおよびFTIRにより膜特性を評価したところ、膜中からSi,C,Hの存在が確認された。
【0093】
[比較例1]
酸素プラズマエッチングを実施せずに,ODS−SAMをPET基材上に形成(ODS−SAM成膜は実施例1と同様)したところ,水滴接触角は約105°であった。
【0094】
[比較例2]
酸素プラズマエッチングを実施せずに,シリカ系薄膜をPET基材上に形成(シリカ系薄膜作製は実施例2と同様)したところ,水滴接触角は約100°であった。
【0095】
【発明の効果】
本発明においては、表面に微細な凹凸を有する高分子基材上に、気相法によりはっ水層を形成することにより、高はっ水性積層体の表面も凹凸を有する形状とすることが可能であり、その表面の凹凸およびはっ水層のはっ水性の両方の効果により、高いはっ水性を有する高はっ水性積層体とすることが可能となるのである。
Claims (12)
- 表面に微細な凹凸を有する高分子基材と、前記高分子基材上に気相法により形成されたはっ水層とを有し、前記はっ水層が、オクタデシルトリメトキシシランを原料として用いた熱CVD法により形成された自己組織化単分子膜であることを特徴とする高はっ水性積層体。
- 前記高分子基材表面の表面粗さが5〜200nmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の高はっ水性積層体。
- 前記高分子基材が、高分子基材表面にプラズマ照射することにより、前記高分子基材表面に微細な凹凸が形成される材料からなるものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高はっ水性積層体。
- 前記高分子基材が、延伸されたものであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の高はっ水性積層体。
- 前記高分子基材が、ポリエステル系樹脂、またはポリカーボネートであることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の高はっ水性積層体。
- 前記はっ水層は、平面に形成した場合の水との接触角が70〜120°の範囲内である材料で形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載された高はっ水性積層体。
- 前記はっ水膜の膜厚が1〜150nmの範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の高はっ水性積層体。
- 高はっ水性積層体の表面粗さが、表面粗さが5〜200nmの範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかの請求項に記載の高はっ水性積層体。
- 高はっ水性積層体の水との接触角が、120°以上の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれかの請求項に記載の高はっ水性積層体。
- 高分子基材表面に、ドライエッチングにより表面粗さが5〜200nmの範囲内の凹凸を形成する凹凸形成工程と、前記凹凸を形成した高分子基材上に気相法により膜厚が1〜150nmの範囲内であるはっ水層を形成するはっ水層形成工程とを有し、前記はっ水層形成工程が、オクタデシルトリメトキシシランを原料として用いた熱CVD法により自己組織化単分子膜を形成する工程であることを特徴とする高はっ水性積層体の製造方法。
- 前記高分子基材が延伸されたものであることを特徴とする請求項10に記載の高はっ水性積層体の製造方法。
- 前記凹凸形成工程が、酸素原子を含んだガスを用いるプラズマによるエッチングを用いることを特徴とする請求項10または請求項11に記載の高はっ水性積層体の製造方法。
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