JP4124430B2 - 高親水性積層体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車部品や建築材料等に用いることができる、樹脂性物質からなる高親水性積層体に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車部品や建築材料、その他の様々な分野において、水滴の付着の防止や防汚効果等のために、表面を親水性にすることが求められている。そこで、従来より高分子基材の表面に親水性を付与する方法として、有機親水性高分子樹脂や界面活性剤等の親水性化合物を表面に塗布する方法等が提示されている。しかしながら、屋外での使用や長期にわたる使用においては水洗や接触等により、その膜が除去される等、親水性の維持に問題があった。
【0003】
また、光触媒能を有するアナターゼ型酸化チタンTiO2とシリコン系樹脂との混合物からなるコーティング剤をコーティングする方法等も知られているが、この場合、親水性機能を発揮するためには、酸化チタンを励起する紫外線の照射が必要であることから、紫外線の照射されない場所では、親水性機能を発揮できないという問題があった。
【0004】
なお、本発明に関する先行技術文献は、発見されていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、簡易な工程で製造可能であり、かつ高親水性を有する安定な高親水性積層体の提供が望まれている。
【0006】
【課題が解決するための手段】
本発明は、請求項1に記載するように、表面に微細な凹凸を有する高分子基材と、上記高分子基材上に気相法により形成された高親水層とを有することを特徴とする高親水性積層体を提供する。
【0016】
上記高親水層が、上記のヒドロキシル基置換層であることにより、上記高分子基材上に上記凹凸を平坦化することなく、単分子で均一に膜を形成することが可能であり、また高親水性積層体の表面がヒドロキシル基により覆われることから、高い親水性を有する層とすることが可能となるのである。
【0023】
本発明は、延伸された高分子基材を用い、当該高分子基材表面に、反応性雰囲気下で高エネルギーを照射することにより表面粗さが5〜200nmの範囲内の凹凸を形成する凹凸形成工程と、前記凹凸を形成した高分子基材上に気相法により膜厚が1〜150nmの範囲内である高親水層を形成する高親水層形成工程とを有する高親水性積層体の製造方法であって、前記高親水層形成工程が、前記凹凸を形成した前記高分子基材上に、自己組織化単分子膜を形成する原料として、前記高分子基材に自己組織化単分子膜を吸着させるための吸着基を少なくとも一つ有し、かつ前記高分子基材表面に自己組織化単分子膜を形成するように単分子で配向させる配向基を少なくとも一つ有する自己組織化単分子膜形成物質を用いて、CVD法により自己組織化単分子膜を形成する自己組織化単分子膜形成工程と、酸素原子を含んだガスを用いるプラズマを照射する方法、あるいは酸素含有雰囲気下において紫外線を照射する方法を用い、前記自己組織化単分子膜形成工程により形成された自己組織化単分子膜の前記配向基をヒドロキシル基に置換する配向基除去工程とを有することを特徴とする高親水性積層体の製造方法を提供する。
【0024】
本発明によれば、上記反応性雰囲気下で高エネルギーを照射することにより上記凹凸を形成し、上記凹凸上に高親水層を形成することから、高親水性積層体の表面の凹凸と、高親水性層の両方の効果により、高い親水性を有する高親水性層とすることが可能となるのである。また、上記高分子基材が延伸されたものであることにより、分子が規則的に配向しており、表面に凹凸を形成する際に、規則的に凹凸を形成することが可能となり、均一に高い親水性を有する高親水性積層体とすることが可能となるのである。さらに上記高親水層形成工程が、自己組織化単分子膜形成工程を有し、上記高分子基材上に単分子で上記自己組織化単分子膜を形成することにより、上記凹凸を平坦化することなく、均一に上記高親水層を形成することが可能となるのである。また、上記自己組織化単分子膜形成工程で形成された上記自己組織化単分子膜の上記配向基を除去する配向基除去工程を有することにより、上記配向基がヒドロキシル基に置換されることから、これにより優れた親水性を有する高親水性層を形成することが可能となるのである。
【0025】
本発明においては、上記凹凸形成工程が、酸素原子を含んだガスを用いるプラズマ処理を用いるものであってもよく、酸素含有雰囲気下での真空紫外光によるドライ処理を用いるものであってもよい。これにより、容易に上記高分子基材の表面に凹凸を形成することが可能であり、製造効率やコストの面からも好ましいからである。
【0031】
本発明においては、上記自己組織化単分子膜が、下記の一般式(1)で示される自己組織化単分子膜形成物質を原料として形成されたものであることが好ましい。
【0032】
R1 αXR2 β (1)
(ここで、R1は、炭素数1〜30までのアルキル基あるいはアリール基(ベンゼン環)であり、炭素基は部分的に分岐鎖や多重結合を有するものも含まれる。また、炭素に結合する元素としてはフッ素や塩素等のハロゲン、水素あるいは窒素等も含まれる。また、R2は、ハロゲン、または−OR3(R3は、炭素数1〜6のアルキル基、アリール基、またはアリル基である。ここで、炭素が酸素や水素だけでなく、ハロゲンや窒素と結合しているものも含まれる。)で示される置換基である。また、Xは、Si、Ti、Al、CおよびSからなる群から選択される一つの元素である。ここで、αおよびβは1以上であり、α+βは2から4である。)
上記のような構造の自己組織化単分子膜形成物質が、自己組織化単分子膜を形成することが可能となるからである。
【0033】
本発明においては、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリクロロシラン、オクチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、および3−クロロプロピルトリメトキシシランからなる群から選択される少なくとも一つの材料が、上記自己組織化単分子膜形成工程における自己組織化単分子膜形成物質として用いられることが好ましい。上記自己組織化単分子膜形成物質が、これらの物質であることにより、高い親水性を有する高親水性積層体とすることが可能となるからである。
【0036】
【発明の実施の形態】
本発明は、簡易な工程で製造可能であり、かつ高い親水性を有する高親水性積層体およびその製造方法に関するものである。以下、これらについてわけて説明する。
【0037】
1.高親水性積層体
本発明における高親水性積層体は、表面に微細な凹凸を有する高分子基材と、前記高分子基材上に気相法により形成された高親水層とを有することを特徴とするものである。本発明においては、表面に微細な凹凸を有する高分子基材上に、気相法により高親水層を形成することにより、高親水性積層体表面も凹凸を有する形状とすることが可能であり、その表面の凹凸および高親水層の親水性との両方の効果により、高い親水性を有する高親水性積層体とすることが可能となるのである。以下、上記の高親水性積層体の構成についてそれぞれ説明する。
【0038】
(高分子基材)
本発明に用いられる高分子基材としては、表面に微細な凹凸を有する高分子基材であり、この微細な凹凸で親水性を発現することのできるものであれば、特にその樹脂の種類等は限定されるものではなく、用途に応じて透明なものであっても、不透明なものであってもよく、フィルム状であっても、板状であってもよく、さらに、ガラスやシリコンウエハーのような固体表面を高分子によりコーティングした基材でも良い。
【0039】
本発明に使用できる高分子基材の種類として、具体的には
・エチレン、ポリプロピレン、ブテン等の単独重合体または共重合体または共重合体等のポリオレフィン(PO)系樹脂、
・環状ポリオレフィン等の非晶質ポリオレフィン系樹脂(APO)、
・ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン2、6−ナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、
・ナイロン6、ナイロン12、共重合ナイロン等のポリアミド系(PA)系樹脂、
・ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)等のポリビニルアルコール系樹脂、
・ポリイミド(PI)系樹脂、
・ポリエーテルイミド(PEI)系樹脂、
・ポリサルホン(PS)系樹脂、
・ポリエーテルサルホン(PES)系樹脂、
・ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系樹脂、
・ポリカーボネート(PC)系樹脂、
・ポリビニルブチラート(PVB)系樹脂、
・ポリアリレート(PAR)系樹脂、
・ポリスチレン系樹脂、
・エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、三フッ化塩化エチレン(PFA)、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニル(PVF)、パーフルオロエチレン−パーフロロプロピレン−パーフロロビニルエーテル−共重合体(EPA)等のフッ素系樹脂、
等を用いることができる。
【0040】
また、上記に挙げた樹脂以外にも、ラジカル反応性不飽和化合物を有するアクリレート化合物によりなる樹脂組成物や、上記アクリレート化合物とチオール基を有するメルカプト化合物よりなる樹脂組成物、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート等のオリゴマーを多官能アクリレートモノマーに溶解せしめた樹脂組成物等の光硬化性樹脂およびこれらの混合物等を用いることも可能である。さらに、これらの樹脂の1または2種以上をラミネート、コーティング等の手段によって積層させたものを基材として用いることも可能である。さらに、ガラスやシリコンウエハーのような固体表面にこれらの樹脂をコーティングした基材でも良い。
【0041】
上記の高分子基材の中でも、特に高分子基材表面に反応性雰囲気下で、高エネルギーを照射されることにより、上記高分子基材表面に微細な凹凸が形成される材料であることが好ましく、中でもプラズマ照射、または紫外光照射されることにより、上記高分子基材表面に微細な凹凸が形成される材料であることが好ましい。これにより、上記の高分子基材表面の微細な凹凸を、プラズマ照射や紫外光照射により得ることが可能となり、製造効率やコストの面からも好ましいからである。
【0042】
本発明においては、上記高分子基材が未延伸なものでも良いが、中でも延伸されたものであることが好ましい。上記高分子基材が延伸されることで、規則的な配向が可能となり、表面全体に凹凸が規則的に形成されやすく、その凹凸により高親水性とすることが可能となるからである。なお、未延伸の場合にも、ランダムな凹凸が形成されるため、親水性を高めることが可能となる。
【0043】
具体的な延伸の方法としては、未延伸の基材を一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、基材の流れ(縦軸)方向、または基材の流れ方向と直角(横軸)方向に延伸することにより延伸基材を製造することができる。この場合の延伸倍率は、基材の原料となる樹脂に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向および横軸方向にそれぞれ2〜10倍が好ましい。
【0044】
さらに、本発明の高分子基材は、上述した高分子基材の中でも特に、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂またはポリカーボネート系樹脂であることが好ましい。また、ポリエステル系樹脂の中でも特にポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレートであることが好ましい。上記高分子基材が、これらの物質であることにより、微細な表面凹凸の形成が容易であり、さらに加工が容易である等の性質から、様々な用途に使用することが可能であり、高親水性積層体を様々な用途に使用することが可能となるからである。
【0045】
ここで、高分子基材の凹凸の形成方法や凹凸の形状等は特に限定されるものではないが、上記の高分子基材表面に形成された凹凸として、表面粗さが5〜200nm、中でも5〜100nm、特に5〜50nmの範囲内であることが好ましい。上記高分子基材表面の表面粗さが、上記範囲内であることにより、高い親水性を発現することが可能であるからである。
【0046】
ここで、表面粗さ測定は、原子間力顕微鏡(セイコーインスツルメンツ社製;SPI3800N)を用いて、タッピングモードで測定された。
【0047】
また、高分子基材表面への凹凸の形成方法として、上記高分子基材表面に微細な凹凸を形成することが可能な方法であれば、特に限定されるものではなく、例えば溶液処理等を用いることも可能であるが、本発明においては、反応性雰囲気下で高エネルギーを照射することが好ましい。これにより、反応性雰囲気中のガスが励起されて高エネルギー状態となり、上記高分子基材表面の特定部位と反応することにより、上記高分子基材表面上に微細な凹凸を容易に形成することが可能となるからである。
【0048】
ここで、本発明でいう反応性雰囲気とは、上記高エネルギーの照射により活性化される物質を含有する雰囲気であり、上記高エネルギーの照射の方法により、異なるものであるが、具体的には、O2、N2O、NO、NO2、CO2、CO、H2、He、N2、Ar等のガスの雰囲気を挙げることができ、中でも酸素原子を含んだガスであることが好ましい。
【0049】
また、高エネルギーの照射の方法として、具体的には、プラズマ照射や、イオン照射、ラジカル照射、光照射等が挙げられ、中でもプラズマ照射および紫外光照射であることが好ましい。
【0050】
本発明における上記微細な凹凸を形成する方法としては、上記の中でも酸素原子を含んだガスを用い、プラズマを照射するプラズマ処理、または酸素含有雰囲気下で真空紫外光を照射するドライ処理を用いることが好ましい。これにより、上記高分子基材表面に凹凸を形成するのと同時に、上記高分子基材表面に親水基を導入することが可能であり、親水基の導入された高分子基材上に後述する高親水層を設けることにより、高親水層と高分子基材との密着性が向上し、機械的特性の良好な高親水層積層体とすることが可能となるからである。
【0051】
(高親水層)
本発明における高親水層は、上述した表面凹凸を形成した高分子基材上に気相法により形成された親水性を有する層であれば、その原材料等は特に限定されるものではないが、上記高親水層は、平面に形成した場合の水との接触角が70°以下、中でも50°以下の範囲内で形成されている材料であることが好ましい。上記高親水層が、平面に形成された場合に、水との接触角が上記の範囲内である材料により形成されていることから高い親水性を有する層とすることが可能であり、また表面に凹凸を有する高分子基材上に形成した場合には、さらに高い親水性を付与することが可能となるからである。
【0052】
本発明における水との接触角は、協和界面化学社の接触角測定装置(型番CA-Z)を用いて測定したものである。具体的には、被測定対象物の表面上に、純水を一滴(一定量)滴下させ、一定時間(10秒間)経過後顕微鏡またはCCDカメラを用いて水滴形状を観察し、物理的に接触角を求める。
【0053】
また、上述した高親水層における好適な膜厚は、1nm〜150nmの範囲内、中でも1nm〜100nm、特に1nm〜50nmの範囲内であることが好ましい。高親水層の膜厚が、上記範囲より薄い場合は、高親水層を均一に形成することが困難であり、高親水層が形成されない部分が生じる等の高親水層としての機能を発揮できない可能性が生じることから好ましくなく、また上記範囲より膜厚が厚い場合、上記凹凸を平坦化してしまう可能性があり、またコスト面で問題となる可能性があるため好ましくない。
【0054】
さらに本発明の高親水層は、気相法により形成された高親水膜であり、この高親水膜は酸化珪素膜、または自己組織化単分子膜の配向基がヒドロキシル基に置換された層であることが好ましい。これらの膜は、表面に親水性基(ヒドロキシル基)を有しており、これにより高い親水性を有する高親水層とすることが可能となるからである。以下、これらについてわけて説明する。
【0055】
(1)酸化珪素膜
まず、本発明に用いられる酸化珪素膜について説明する。本発明に用いられる酸化珪素膜は、上述したような親水性を有する層であれば、製法等は特に限定されるものではないが、基材に対して熱的なダメージを与えずに形成できる点からCVD法により形成された酸化珪素膜であることが特に好ましいといえる。
【0056】
また、本発明に用いられる酸化珪素膜は、酸化珪素膜における酸素原子の濃度が、Si原子数100に対して150〜300、中でも180〜250の範囲内であることが好ましい。
【0057】
また、酸化珪素膜における炭素原子の濃度が、Si原子数100に対して50以下、中でも20以下の範囲内であることが好ましい。
【0058】
酸化珪素膜中における酸素原子の濃度が上記範囲内であることにより、酸化珪素膜を、例えば炭素原子やフッ素原子等の不純物が少ない純度の高い酸化珪素膜とすることが可能となる。また、酸化珪素膜中において疎水性を示す炭素原子の濃度が上記範囲内であることにより、より高い親水性の酸化珪素膜とすることが可能となるからである。
【0059】
ここで、本発明の酸化珪素膜の各部分における成分割合は、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)で測定された値である。XPSによる分析法を以下説明する。真空中で固体表面にX線を照射すると、X線によりエネルギ−を与えられた表面原子から電子が飛散する。この電子は、X線などの光照射によって発生するため光電子と呼ばれ、この光電子は、元素固有のエネルギ−を有することから、エネルギ−分布を測定することにより元素の定性分析や定量分析が可能となる。また、表面から深いところで発生した光電子は、表面に出てくる前にそのエネルギーを失うため測定が困難であり、1000eVの運動エネルギーを有する電子の脱出深さは、数nm(数十原子層)であることから、最表面の情報を得ることが可能となる。さらに、深部を測定するためには、表面をアルゴン等のイオンによりスパッタリングする必要があり、元素の種類により選択的なスパッタリングが生じるので、定量の際には補正が必要となる。
【0060】
(2)ヒドロキシル基置換層
次に、本発明に用いられる上記高親水層が、自己組織化単分子膜の配向基がヒドロキシル基に置換されたヒドロキシル基置換層である場合について説明する。
【0061】
本発明に用いられる自己組織化単分子膜とは、固体/液体もしくは固体/気体界面で、有機分子同士が自発的に集合し、会合体を形成しながら自発的に単分子膜を形作っていく有機薄膜である。例として、ある特定の材料でできた基板を、その基板材料と化学的親和性の高い有機分子の溶液または蒸気にさらすと、有機分子は基板表面で化学反応し吸着する。その有機分子が、化学的親和性の高い官能基と、基板との化学反応を全く起こさないアルキル基との2つのパートからなり、親和性の高い官能基がその末端にある場合、分子は反応性末端が基板側を向き、アルキル基が外側を向いて吸着する。アルキル基同士が集合すると、全体として安定になるため、化学吸着の過程で有機分子同士は自発的に集合する。分子の吸着には、基板と末端官能基との間で化学反応が起こることが必要であることから、一旦基板表面が有機分子でおおわれ単分子膜ができあがると、それ以降は分子の吸着は起こらない。その結果、分子が密に集合し、配向性のそろった有機単分子膜ができる。このような膜を本発明においては、自己組織化単分子膜とする。ここで、上記の基板と結合する反応性末端基を吸着基、外側を向いて配向する基を配向基とする。
【0062】
本発明に用いられるヒドロキシル基置換層とは、上記自己組織化単分子膜が形成された後に、上記配向基がヒドロキシル基に置換された層である。
【0063】
本発明においては、上記自己組織化単分子膜を形成することにより、上記高分子基材の表面の凹凸を平坦化することなく、層を単分子で均一に上記高分子表面に形成することができるのである。また、上記配向基がヒドロキシル基に置換されていることにより、高い親水性を有する膜とすることが可能となるのである。
【0064】
ここで、上記自己組織化単分子膜は、下記の一般式(1)で示される自己組織化単分子膜形成物質を原料として形成されたものであることが好ましい。
【0065】
R1 αXR2 β (1)
(ここで、R1は、炭素数1〜30までのアルキル基あるいはアリール基(ベンゼン環)であり、炭素基は部分的に分岐鎖や多重結合を有するものも含まれる。また、炭素に結合する元素としてはフッ素や塩素等のハロゲン、水素あるいは窒素等も含まれる。また、R2は、ハロゲン、または−OR3(R3は、炭素数1〜6のアルキル基、アリール基、またはアリル基である。ここで、炭素が酸素や水素だけでなく、ハロゲンや窒素と結合しているものも含まれる。)で示される置換基である。また、Xは、Si、Ti、Al、CおよびSからなる群から選択される一つの元素である。ここで、αおよびβは1以上であり、α+βは2から4である。)
ここで、R1は上述の配向基、R2は上述の吸着基、Xは自己組織化単分子膜の核となる物質である。上記構造の物質が自己組織化単分子膜を形成するのである。
【0066】
上記に示した自己組織化単分子膜形成物質の具体的な例として、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリクロロシラン、オクタデシルメチルジエトキシシラン、オクタデシルジメチルメトキシシラン、オクタデシルメチルジメトキシシラン、オクタデシルメトキシジクロロシラン、オクタデシルメチルジクロロシラン、オクタデシルジメチル(ジメチルアミノ)シラン、オクタデシルジメチルクロロシラン、ノニルクロロシラン、オクテニルトリクロロシラン、オクテニルトリメトキシシラン、オクチルメチルジクロロシラン、オクチルメチルジエトキシシラン、オクチルトリクロロシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリクロロシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ペンチルトリクロロシラン、フェネチルトリクロロシラン、フェネチルトリメトキシシラン、フェニルジクロロシラン、フェニルジエトキシシラン、フェニルエチルジクロロシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリクロロシラン、テトラデシルトリクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)ジメチルクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリエトキシシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルメチルジクロロシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルトリクロロシラン、イソオクチルトリメトキシシラン、イソブチルメチルジクロロシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリクロロシラン、ヘキシルトリクロロシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキセニルトリクロロシラン、ヘキシルジクロロシラン、ヘキサデシルトリクロロシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)メチルジクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)ジメチルクロロシラン、エイコシルトリクロロシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリクロロシラン、ドデシルメチルジクロロシラン、ドデシルジメチルクロロシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジクロロシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジメトキシメチル−3,3,3−トリフルオロプロピルシラン、デシルメチルジクロロシラン、デシルトリクロロシラン、デシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルジメチルクロロシラン、シクロヘキシルメチルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリクロロシラン、クロロフェニルトリクロロシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリクロロシランであることが好ましい。
【0067】
本発明においては、中でもオクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリクロロシラン、ノニルクロロシラン、オクテニルトリクロロシラン、オクテニルトリメトキシシラン、オクチルトリクロロシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリクロロシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ペンチルトリクロロシラン、フェネチルトリクロロシラン、フェネチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリクロロシラン、テトラデシルトリクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリエトキシシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルトリクロロシラン、イソオクチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリクロロシラン、ヘキシルトリクロロシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキセニルトリクロロシラン、ヘキサデシルトリクロロシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリクロロシラン、エイコシルトリクロロシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリクロロシラン、ジメトキシメチル−3,3,3−トリフルオロプロピルシラン、デシルトリクロロシラン、デシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルジメチルクロロシラン、シクロヘキシルメチルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリクロロシラン、クロロフェニルトリクロロシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリクロロシランが好ましく、特にオクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリクロロシラン、オクチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0068】
(高親水性積層体)
次に、本発明に高親水性積層体について説明する。本発明における高親水性積層体は、上述した高分子基材上に、上述した高親水層を形成したものであれば、用途に合わせて透明であっても、不透明であってもよい。
【0069】
また本発明においては、高親水性積層体の表面粗さが5〜200nm、中でも5〜100nm,特に5〜50nmの範囲内であることが好ましい。高親水性積層体の表面粗さが上記の範囲内であることにより、表面の凹凸と高親水層の親水性との両方の効果により、高い親水性を有する積層体とすることが可能となるからである。なお、ここでいう表面粗さは、上述した方法により測定されたものである。
【0070】
また、本発明においては、上記高親水性積層体の水との接触角が、15°以下、中でも10°以下であることが好ましい。高親水性積層体の水との接触角を上記範囲内とすることにより、高い親水性の要求される様々な用途に使用することが可能となるからである。なお、ここでいう水との接触角の測定方法は、上述した方法により測定されたものである。
【0071】
2.高親水性積層体の製造方法
次に、本発明の高親水性積層体の製造方法について説明する。本発明の高親水性積層体の製造方法は、高分子基材表面に、反応性雰囲気下で高エネルギーを照射することにより凹凸を形成する凹凸形成工程と、前記凹凸を形成した高分子基材上に気相法により高親水層を形成する高親水層形成工程とを有することを特徴とする方法である。本発明によれば、高分子基材表面の反応性雰囲気下で高エネルギーを照射することにより凹凸を形成する凹凸形成工程を有することによって、高親水性積層体の表面に凹凸を形成することが可能となり、高い親水性を付与することが可能となるのである。また、上記凹凸形成工程により凹凸を形成した高分子基材上に、気相法により高親水層を形成することにより、上記凹凸形成工程で形成した凹凸を平坦化することなく、高親水層を形成することが可能となることから、上記表面凹凸、および高親水層の効果により、高い親水性を有する高親水性積層体を形成することが可能となるのである。
【0072】
以下、上述したような高親水性積層体の製造方法について、詳しく説明する。
【0073】
(凹凸形成工程)
まず、本発明の凹凸形成工程について説明する。本発明における凹凸形成工程は、高分子基材表面に反応性雰囲気下で高エネルギーを照射することにより、表面粗さが5〜200nm、中でも5〜100nm、特に5〜50nmの範囲内の凹凸を形成する工程である。なお、ここでいう表面粗さは、上述した方法により測定されたものである。
【0074】
本発明における高分子基材表面粗さが、上記範囲内であることにより、高い親水性を発現することが可能であり、さらに後述する高親水層形成工程により、高分子基材上に高親水層を形成した際にも、高親水層により平坦化される可能性が少ない。
【0075】
また、本発明に用いられる高分子基材は、凹凸の形成が可能な樹脂基材であれば、特に限定されるものではなく、中でも、均一な凹凸が形成可能であるという面から、上記高分子基材が延伸されたものであることが好ましい。本発明における高分子基材の種類や、延伸の具体的な方法は、高親水性積層体の高分子基材の項で述べたものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0076】
本発明の凹凸形成工程において用いられる反応性雰囲気下における高エネルギーの照射は、特に限定されるものではない。これにより、上記高分子基材表面に微細な凹凸を容易に形成することが可能となるからである。
【0077】
なお、上記反応性雰囲気下における高エネルギーの照射については、上述した高親水性積層体の高分子基材の項で述べたものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0078】
ここで、本発明においては、上述した反応性雰囲気下における高エネルギーの照射の中でも酸素原子を含んだガスを用いるプラズマ処理、または酸素含有雰囲気下での真空紫外光によるドライ処理を用いることが好ましい。
【0079】
上記凹凸形成工程に、例えば酸素原子を含んだガスを用いるプラズマ処理を用いることによって、高分子基材表面に凹凸を形成するのと同時に、プラズマ中の酸素と高分子基材表面において反応が行われ、高分子基材表面に−OH基が導入することが可能となるからである。ここで、酸素原子を含んだガスとは、例としてNO2、CO2、またはO2等のガスである。
【0080】
また、上記の酸素原子を含んだガスを用いるプラズマ処理の中でも、本発明においては、特に酸素プラズマ処理を用いることが好ましい。酸素プラズマ処理とは、具体的には酸素プラズマにより分解生成された活性な分子、ここでは活性酸素種(原子および分子を含む広義のラジカル)による化学的効果と基材表面に形成されるイオン・シースで加速されたイオンによる物理的効果とその相乗効果による処理方法であることから、効率よく処理を行うことが可能であり、製造効率やコストの面からも好ましい。
【0081】
また、上記凹凸形成工程に、例えば上記酸素含有雰囲気下での真空紫外光によるドライ処理を用いた場合には、上記高分子基材中のC−C結合やC−H結合が真空紫外光により励起され、切断されることによりラジカルが生成する。このラジカルはさらに、雰囲気中の残留酸素が真空紫外光によって励起されて発生した原子状酸素と反応し、上記高分子基材表面の一部が分解して微細な凹凸が形成されるのと同時に、高分子基材表面に−OH基が導入されるのである。
【0082】
ここで上記真空紫外光照射における圧力は、1Pa〜1500Pa、中でも10Pa〜1000Paの範囲内であることが好ましい。これにより、効率的に上記の反応が進むことから、製造効率やコスト等の面からも好ましいからである。
【0083】
上述した方法により、上記高分子基材表面に、微細な凹凸が形成されるのと同時に、高分子基材表面に−OH基が導入されることにより、高分子基材表面と後述する高親水層形成工程により形成される高親水層との密着性を向上させることができ、高い親水性を有する高親水性積層体を製造することが可能となるのである。
【0084】
(高親水層形成工程)
次に、本発明における高親水層形成工程について説明する。本発明における高親水層形成工程は、上述した凹凸形成工程により凹凸が形成された高分子基材上に、気相法により、厚さが1〜150nm、好ましくは1〜100nm、特に1〜50nmの範囲内である高親水層を形成する工程である。
【0085】
本発明の高親水層は、気相法により形成された酸化珪素膜、または自己組織化単分子膜の配向基がヒドロキシル基に置換された膜であることが好ましく、以下にこれらの高親水層の形成方法について説明する。
【0086】
(1)酸化珪素膜
まず、高親水層が、気相法により形成される酸化珪素膜である場合の高親水層形成工程について説明する。本発明において、酸化珪素膜の形成は、PVD法であっても、CVD法であってもよく、気相を介して行う成膜法であれば、特に限定されるものではないが、特にはプラズマCVD法により行うことが好ましい。
【0087】
プラズマCVD法は、高分子基材に熱的ダメージが加わらない程度の低温(およそ−10〜200℃程度の範囲)で所望の材料を成膜でき、さらに原料ガスの種類・流量、成膜圧力、投入電力によって、得られる膜の種類や物性を制御できるという利点があることから、上述した基材等に熱的ダメージを与える可能性が少なく、本発明においては、上述した凹凸形成工程により形成された高分子基材の表面の凹凸を平坦化する可能性が少ないことから、基材として例えば熱的耐性の弱い高分子基材等を使用することが可能となり、種々の用途に使用できる高親水性積層体とすることが可能となるからである。
【0088】
ここで、本発明に用いられる酸化珪素膜は、酸化珪素膜における酸素原子の濃度が、Si原子数100に対して150〜300、中でも180〜250の範囲内であることが好ましい。
【0089】
また、酸化珪素膜における炭素原子の濃度が、Si原子数100に対して50以下、中でも20以下の範囲内であることが好ましい。このような酸化珪素膜は、例えば後述するプラズマCVD装置の反応室内に、有機珪素化合物ガスと酸素ガスとの混合ガスを所定の流量で供給すると共に、電極に直流電力または低周波から高周波の範囲内での一定周波数を持つ電力を印加してプラズマを発生させ、そのプラズマ中で有機珪素化合物ガスと、酸素原子を有するガス、中でも酸素ガスとが反応することによって高分子基材上に形成されるものである。
【0090】
本発明の酸化珪素膜の形成に用いられる有機珪素化合物ガスとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、テトラメチルシラン、ヘキサメチルジシロキサン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、トリエチルシラン、トリエトキシフルオロシラン、トリエトキシクロロシラン、トリエトキシシラン、(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリエトキシシラン、(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリクロロシラン、(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)メチルジクロロシラン、(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)ジメチルクロロシラン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジエトキシジシロキサン、テトラキス(トリメチルシリル)シラン、テトラキス(ジメチルシロキシ)シラン、1,1,3,3−テトライソプロピルジシロキサン、1,1,3,3−テトライソプロピル−1,3−ジクロロジシロキサン、テトラエチルシラン、1,1,3,3−テトラエトキシ−1,3−ジメチルジシロキサン、テトラデシルトリクロロシラン、テトラ−n−ブチルシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリクロロシラン、プロピルメチルジクロロシラン、n−プロピルジメチルクロロシラン、フェニルトリメチルシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリフルオロシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルシラン、(3−フェニルプロピル)メチルジクロロシラン、(3−フェニルプロピル)ジメチルクロロシラン、フェニルメチルシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジクロロシラン、フェニルメチルクロロシラン、フェニルエチルジクロロシラン、フェニルジメチルシラン、フェニルジメチルエトキシシラン、フェニルジメチルクロロシラン、フェニルジエトキシシラン、フェニルジクロロシラン、フェノキシトリメチルシラン、3−フェノキシプロピルトリクロロシラン、3−フェノキシプロピルジメチルクロロシラン、フェノキシトリクロロシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ペンチルトリクロロシラン、ペンタメチルジシロキサン、ペンタメチルクロロジシラン、ペンタフルオロフェニルトリメチルシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリクロロシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルジメチルクロロシシラン、ペンタフルオロフェニルジメチルクロロシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−オクチルトリクロロシラン、n−オクチルシラン、オクチロキシトリメチルシラン、n−オクチルメチルジエトキシシラン、n−オクチルメチルジクロロシラン、n−オクチルジメチルクロロシラン、7−オクテニルトリメトキシシラン、7−オクテニルトリクロロシラン、7−オクテニルジメチルシラン、7−オクテニルジメチルクロロシラン、オクタメチルトリシロキサン、1,1,3,3,5,5,7,7−オクタメチルテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリエトキシシラン、n−オクタデシルトリクロロシラン、n−オクタデシルシラン、n−オクタデシルメチルジエトキシシラン、n−オクタデシルメチルジクロロシラン、n−オクタデシルメトキシジクロロシラン、n−オクタデシルジメチルシラン、n−オクタデシルジメチルメトキシシラン、n−オクタデシルジメチルクロロシラン、ノニルトリクロロシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルトリクロロシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルメチルジクロロシラン、メチルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、メチルトリス(メトキシエトキシ)シラン、メチルトリ−n−プロポキシシラン、メチルトリ−n−オクチルシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、メチルペンチルジクロロシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、3−メトキシプロピルトリメトキシシラン、メトキシメチルトリメチルシラン、イソオクチルトリメトキシシラン、イソオクチルトリクロロシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリクロロシラン、イソブチルメチルジメトキシシラン、イソブチルメチルジクロロシラン、イソブチルジメチルクロロシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメチルシラン、ヒドロキシメチルトリメチルシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリフルオロシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリクロロシラン、ヘキシルシラン、ヘキシルメチルジクロロシラン、ヘキシルジクロロシラン、ヘキサフェニルジシロキサン、ヘキサフェニルジシラン、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、ヘキサメチルジシラン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、ヘキサメトキシジシラン、ヘキサエチルジシロキサン、ヘキサエチルシクロトリシロキサン、n−ヘキサデシルトリクロロシラン、ヘキサクロロジシロキサン、ヘキサクロロジシラン、n−ヘプチルトリクロロシラン、n−ヘプチルメチルジクロロシラン、1,1,1,3,3,5,5−ヘプタメチルトリシロキサン、(3−ヘプタフルオロイソプロポキシ)プロピルトリエトキシシラン、(3−ヘプタフルオロイソプロポキシ)プロピルトリクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)ジメチルクロロシラン、エチルトリメチルシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリクロロシラン、エチルメチルジクロロシラン、2−エチルヘキシロキシトリメチルシラン、エチルジメチルシラン、エチルジメチルクロロシラン、エチルジクロロシラン、エチルビス(トリメチルシロキシ)シラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリクロロシラン、ドデシルメチルジエトキシシラン、ドデシルメチルジクロロシラン、ドデシルジメチルクロロシラン、ドデカメチルペンタシロキサン、ドコシルメチルジクロロシラン、1,3−ジシラブタン、1,3−ジフェニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,2−ジフェニルテトラメチルジシラン、ジフェニルシランジオール、ジフェニルシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルメチルシラン、ジフェニルメチルメトキシシラン、ジフェニルメチルクロロシラン、ジフェニルジフルオロシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジクロロシラン、ジフェニルクロロシラン、1,3−ジオクチルテトラメチルジシロキサン、1,3−ジ−n−オクチルテトラエトキシジシロキサン、ジ−n−オクチルジクロロシラン、1,2−ジメチル−1,1,2,2−テトラフェニルジシラン、1,3−ジメチルテトラメトキシジシロキサン、1,4−ジメチルジシリルエタン、ジメチルメトキシシクロロシラン、ジメチルエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジフェニルシラン、ジメチルメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、(3,3−ジメチルブチル)ジメチルクロロシラン、ジメトキシメチルクロロシラン、ジイロプロピルクロロシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジクロロシラン、ジエチルシラン、ジエチルメチルシラン、ジエチルジヘニルシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジクロロシラン、ジエトキシジクロロシラン、ジシクロペンチルジクロロシラン、ジシクロヘキシルジクロロシラン、1,3−ジクロロテトラフェニルジシロキサン、1,3−ジクロロテトラメチルジシロキサン、ジクロロテトラメチルジシラン、1,7−ジクロロオクタメチルテトラジロキサン、(ジクロロメチル)トリメチルシラン、(ジクロロメチル)トリクロロシラン、(ジクロロメチル)メチルジクロロシラン、(ジクロロメチル)ジメチルクロロシラン、(ジクロロメチル)(クロロメチル)ジメチルシラン、1,5−ジクロロヘキサメチルトリシロキサン、1,2−ジクロロエチルトリクロロシラン、1,1−ジクロロ−3,3−ジメチル−1,3−ジシラブタン、ジ−t−ブチルシラン、ジ−t−ブチルメチルシラン、ジ−t−ブチルメチルクロロシラン、ジ−t−ブチルジクロロシラン、ジ−t−ブチルクロロシラン、ジベンジルジメチルシラン、ジベンジロキシジクロロシラン、n−デシルトリエトキシシラン、n−デシルトリクロロシラン、n−デシルメチルジクロロシラン、n−デシルジメチルクロロシラン、デカメチルテトラシロキサン、シクロトリメチレンジメチルシラン、シクロトリメチレンジクロロシラン、シクロテトラメチレンジメチルシラン、シクロテトラメチレンジクロロシラン、シクロペンチルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリクロロシラン、シクロペンタメチレンジメチルシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、(シクロヘキシルメチル)トリクロロシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジクロロシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、シクロヘキシルジメチルクロロシラン、3−クロロプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、3−クロロプロピルトリメチルシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリクロロシラン、3−クロロプロピルフェニルジクロロシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジクロロシラン、3−クロロプロピルジメチルメトキシシラン、3−クロロプロピルジメチルクロロシラン、3−クロロプロピルジブチルメチルシラン、p−クロロフェニルトリメチルシラン、クロロフェニルトリエトキシシラン、クロロフェニルトリクロロシラン、クロロフェニルメチルジクロロシラン、クロロメチルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、クロロメチルトリメチルシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、クロロメチルトリクロロシラン、(p−クロロメチル)フェニルトリメトキシシラン、(p−クロロメチル)フェニルトリクロロシラン、クロロメチルペンタメチルジシロキサン、クロロメチルメチルジイソプロポキシシラン、クロロメチルメチルジエトキシシラン、クロロメチルメチルジクロロシラン、クロロメチルジメチルシラン、クロロメチルジメチルフェニルシラン、クロロメチルジメチルイソプロポキシシラン、クロロメチルジメチルエトキシシラン、クロロメチルジメチルクロロシラン、クロロメチルメチルビス(トリメチルシロキシ)シラン、2−クロロエチルトリエトキシシラン、2−クロロエチルトリクロロシラン、1−クロロエチルトリクロロシラン、2−クロロエチルシラン、2−クロロエチルメチルジクロロシラン、4−クロロブチルジメチルクロロシラン、t−ブチルトリクロロシラン、n−ブチルトリクロロシラン、t−ブチルフェニルジクロロシラン、p−(t−ブチル)フェネチルトリクロロシラン、p−(t−ブチル)フェネチルジメチルクロロシラン、t−ブチルメチルジクロロシラン、n−ブチルメチルジクロロシラン、t−ブチルジフェニルメトキシシラン、t−ブチルジフェニルクロロシラン、t−ブチルジメチルクロロシラン、n−ブチルジメチルクロロシラン、t−ブチルジクロロシラン、t−ブトキシトリメチルシラン、ビス(トリメチルシリル)メタン、1,4−ビス(トリメチルシリル)ベンゼン、ビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、1,2−ビス(トリメチルシロキシ)エタン、1,3−ビス(トリメチルシロキシ)1,3−ジメチルジシロキサン、ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、ビス(トリエトキシシリル)オクタン、1,9−ビス(トリエトキシシリス)ノナン、ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,3−ビス(トリクロロシリル)プロパン、ビス(トリクロロシリル)オクタン、1,9−ビス(トリクロロシリル)ノナン、1,2−ビス(トリクロロシリル)エタン、ビス(ペンタフルオロフェニル)ジメチルシラン、ビス(メチルジクロロシリル)ブタン、1,4−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン、1,3−ビス(ジクロロメチル)テトラメチルジシロキサン、ビス(クロロメチル)ジメチルシラン、1,2−ビス(クロロジメチルシリル)エタン、1,2−ビス(クロロジメチルシリル)オクタン、1,2−ビス(クロロジメチルシリル)ヘキサン、ベンジルトリクロロシラン、ベンジロキシトリメチルシラン、ベンジルジメチルシラン、ベンジルジメチルクロロシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、トリス(トリメチルシリル)シラン、トリス(トリメチルシロキシ)シロキシジクロロシラン、トリス(トリメチルシロキシ)シラン、トリス(トリメチルシロキシ)クロロシラン、トリス(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)ジメチルシロキシクロロシラン、トリ−n−プロピルクロロシラン、トリ−n−プロピルシラン、トリス(2−クロロエトキシ)シラン、トリフェニルシラン、トリフェニルフルオロシラン、トリフェニルエトキシシラン、トリフェニルクロロシラン、トリオクチルシラン、トリメチルシリルトリフルオロアセテート、トリメチルシリルパーフルオロ1ブタンスルフォネート、トリメチルクロロシラン、トリイソプロポキシシラン、トリイソプロピルクロロシラン、トリ−n−ヘキシルシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)メチルジクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)ジメチルクロロシラン、トリフルオロメチルトリメチルシラン、トリフルオロメチルトリエチルシラン、トリエチルシラノール、トリメチルエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を一種または二種以上用いることができる。
【0091】
また、本発明においては、上述したように、酸化珪素膜における酸素原子の濃度の高い酸化珪素膜を形成する目的から、中でもテトラメトキシシラン(TMOS)、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン(TEOS)、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン等を挙げることができ、中でも分子内に炭素−珪素結合が存在しないテトラメトキシシラン(TMOS)およびテトラエトキシシラン(TEOS)であることが好ましい。
【0092】
また、本発明に用いられる酸素原子を含むガスとしては、N2O、酸素、CO、CO2等を挙げることができるが、中でも酸素ガスやN2Oが好適に用いられる。
【0093】
次に、本発明における具体的な成膜時の条件としては、まず成膜時の基材の温度が−20〜100℃の範囲内、好ましくは−10〜50℃の範囲内とする。次に原料ガスとして上記のいずれかの材料を用い、プラズマCVD装置のプラズマ発生手段における単位面積当たりの投入電力を酸化珪素膜が形成可能な大きさで設定し、成膜圧力をパーティクルの発生がない程度の高い圧力(50〜300mTorr)の範囲で設定する。また、マグネット等プラズマの閉じ込め空間を形成しその反応性を高めることにより、その効果がより高く得られる。
【0094】
ここで、上記の原料ガスを酸化珪素膜における酸素原子の濃度が高く、炭素原子の濃度が低い酸化珪素膜とするために、上記有機珪素化合物ガスおよび上記酸素原子を含むガスの分圧比を、有機珪素化合物ガスの流量を1とした場合に、酸素原子を含むガスの分圧が0.5〜200、中でも0.5〜100の範囲内とすることが好ましい。
【0095】
(2)ヒドロキシル基置換層
次に、本発明における高親水層が、自己組織化単分子膜の配向基がヒドロキシル基置換層である場合について説明する。本発明における高親水層がヒドロキシル基置換層である場合、上記高親水層形成工程は、自己組織化単分子膜形成物質を用いて、CVD法により自己組織化単分子膜を形成する自己組織化単分子膜形成工程と、上記自己組織化単分子膜形成工程により形成された自己組織化単分子膜の上記配向基をヒドロキシル基に置換する配向基除去工程とを有する工程となる。以下、これらの工程についてわけて説明する。
【0096】
なお、ヒドロキシル基置換層とは、上述した「1.高親水性積層体」の高親水性の項で説明した層と同様である。
【0097】
a.自己組織化単分子膜形成工程
まず、自己組織化単分子膜形成工程について説明する。本発明における自己組織化単分子膜の形成方法は特に限定されるものではないが、特に熱CVD法により形成することが好ましい。自己組織化単分子膜を形成する工程が、熱CVD法であることにより、熱CVD法では、原料となる物質を気化し、高分子基材上に均一になるように材料を送り込み、酸化、還元、置換等の反応を行わせることから、上記高分子基材の凹凸上にも均一に自己組織化単分子膜を形成することが可能であり、上記高分子基材表面に形成された凹凸を平坦化することなく、高親水層を形成することが可能である。
【0098】
本発明における熱CVD法の好ましい成膜条件としては、上述した高分子基材の耐熱温度以下であれば、高ければ高いほどよいが、50℃〜200℃の範囲内であることが好ましい。また、反応系中に水分、あるいは酸素が含まれることが、上記自己組織化単分子膜形成物質のアルコキシ基の加水分解反応がより促進され、上記高分子基材との反応性が高くなることから好ましい。
【0099】
本発明における熱CVD法による自己組織化単分子膜の材料としては、上述した高親水性積層体の親水層の自己組織化単分子膜の記載と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0100】
b.配向基除去工程
次に、配向基除去工程について説明する。本発明における配向基除去工程とは、上述した自己組織化単分子膜形成工程により形成された自己組織化単分子膜の上記配向基を自己組織化単分子膜上から除去し、ヒドロキシル基に置換する工程である。本発明の配向基除去工程は、上記自己組織化単分子膜上から上記配向基を除去し、ヒドロキシル基に置換することが可能であれば、方法等は特に限定されるものではないが、中でも反応性雰囲気下で高エネルギーを照射することにより行われることが好ましい。これにより、容易に上記自己組織化単分子膜の配向基を除去し、ヒドロキシル基を導入することが可能となることから、高い親水性を有する高親水性積層体を効率よく製造することが可能となるからである。
【0101】
なお、上記反応性雰囲気下における高エネルギーの照射については、上述した高親水性積層体の高分子基材の項で述べたものと同様であるので、ここでの説明は省略するが、本発明の配向基除去工程においては、上述した反応性雰囲気下における高エネルギーの照射の中でも酸素原子を含んだガスを用いるプラズマを照射する方法、または酸素含有雰囲気下での紫外光を照射する方法を用いることが好ましい。
【0102】
酸素原子を含んだガスを用いるプラズマを照射する方法によれば、上記プラズマにより、上記自己組織化単分子膜における有機基である配向基が除去されるのと同時に、酸素ガス中の酸素原子により、上記自己組織化単分子膜の骨格を形成する物質が酸化されることから、容易に表面にヒドロキシル基を導入することが可能となるのである。
【0103】
また、例えば上記自己組織化単分子膜に真空紫外光を照射した場合、上記配向基は上述したような有機物等により構成されており、上記配向基中のC−C結合やC−H結合が励起され、切断されることによりラジカルが生成する。このラジカルはさらに、雰囲気中の残留酸素が真空紫外光によって励起されて発生した原子状酸素と反応し、有機成分は分解し、水や二酸化炭素となって除去される。また、上記自己組織化単分子膜の骨格を形成する物質は上述したような珪素等であることから、光照射によって除去されずに酸化され、表面はヒドロキシル基を有する構造とすることができるのである。
【0104】
ここで上記真空紫外光照射における圧力は、1Pa〜1500Pa、なかでも10Pa〜1000Paの範囲内であることが好ましい。これにより、効率的に上記の反応が進むことから、製造効率やコスト等の面からも好ましいからである。
【0105】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0106】
【実施例】
以下に実施例および比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
【0107】
[実施例1]
(表面凹凸形成)
PET基材を容量結合型高周波プラズマ装置を用い下記の方法により、酸素プラズマ照射した。まず、PET基材をチャンバー中に設置した後、減圧手段により反応チャンバー内を1.0×10-4Pa以下まで真空にした。基材には12μm−PET(ユニチカ(株)社製)を使用した。次いで、酸素原子を含むガスとして酸素ガスを用い、チャンバー中に5Pa導入した。プラズマ生成には13.56MHzの高周波を用いた。100Wの電力で、10分間酸素プラズマ照射を実施した。照射後のPET表面の平均二乗粗さは約10nmであった。表面粗さの測定は、原子間力顕微鏡(セイコーインスツルメンツ社製;SPI3800N)を用いて、タッピングモードで測定された。
【0108】
(熱CVD工程による親水層形成;自己組織化単分子膜成膜)
上述した酸素プラズマ照射されたPET基材と、ガラス容器に入れたオクタデシルトリメトキシシラン(東京化成工業(株)社製 00256)約2ccを、テフロン(登録商標)容器内に設置し、100℃のオーブン中に3時間放置し、熱CVDによる自己組織化単分子膜(以下、ODS−SAMと略称する。)形成を行った。
【0109】
ODS−SAM成膜後、水滴接触角および膜厚を測定したところ、水との接触角が約150°であり、膜厚は1.8nmであった。SAM成膜前の水滴接触角が10°以下であったので、熱CVDにより、SAMが形成されていることがわかった。
【0110】
なお、この水との接触角の測定方法は、協和界面化学社の接触角測定装置(型番CA−Z)を用い、被測定対象物の表面上に、純水を一滴(一定量)滴下させ、一定時間経過後、CCDカメラを用いて水滴形状を観察し、物理的に接触角を求める方法を用いた。
【0111】
上記で作製したSAMコーティング膜を、172nmの中心波長を有する真空紫外光(VUV)照射装置を備えたチャンバー中に導入し、1000Paにて、20分間露光した。露光後、水滴接触角を測定したところ、水との接触角が10°以下であったので、VUV照射により、SAM配向基が除去され、親水基が導入されていることがわかった。
【0112】
[実施例2]
(表面凹凸形状形成)
実施例1と同様にしてPET上に凹凸を形成した。
【0113】
(プラズマCVD工程による親水層形成;シリカ系薄膜成膜)
凹凸形成工程に引き続き、PET基材上に、酸化珪素膜を容量結合型高周波プラズマCVDにより成膜した。凹凸形成工程の真空度を維持したまま、原料ガスを反応チャンバー内に導入した。原料ガスとしては、有機珪素化合物としてテトラメトキシシランを用い、酸素原子を含むガスとして酸素ガスを用いた。テトラメトキシシラン分圧と酸素分圧比を1:1とし、全圧が10Paとなるように反応チャンバー内に導入した。プラズマ生成、原料分解には13.56MHzの高周波を用いた。成膜時間20秒間、200Wの電力でシリカ膜を成膜した。成膜中、基材表面温度は100℃以下であった。成膜後のシリカ膜厚は約10nmであった。成膜後、水滴接触角を測定したところ、水との接触角が10°以下であった。
【0114】
[比較例]
上記記載の凹凸形成工程を実施せずに、PET基材上に、酸化珪素膜を容量結合型高周波プラズマCVDにより成膜した。凹凸形成工程の真空度を維持したまま、原料ガスを反応チャンバー内に導入した。原料ガスとしては、有機珪素化合物としてテトラメトキシシランを用い、酸素原子を含むガスとして酸素ガスを用いた。テトラメトキシシラン分圧と酸素分圧比を2:1とし、全圧が10Paとなるように反応チャンバー内に導入した。プラズマ生成、原料分解には13.56MHzの高周波を用いた。成膜時間20秒間、200Wの電力でシリカ膜を成膜した。成膜中、基材表面温度は100℃以下であった。成膜後のシリカ膜厚は約15nmであった。成膜後、水滴接触角を測定したところ、水との接触角が約20°であった。
【0115】
【発明の効果】
本発明の高親水性積層体は、微細な凹凸を有する高分子基材上に形成された高親水層を有している。そのため、高親水層表面も凹凸を有する形状とすることが可能であり、その表面の凹凸と高親水層との両方の効果により、高い親水性を有する高親水性積層体とすることが可能となるのである。
Claims (8)
- 延伸された高分子基材を用い、当該高分子基材表面に、反応性雰囲気下で高エネルギーを照射することにより表面粗さが5〜200nmの範囲内の凹凸を形成する凹凸形成工程と、前記凹凸を形成した高分子基材上に気相法により膜厚が1〜150nmの範囲内である高親水層を形成する高親水層形成工程とを有する高親水性積層体の製造方法であって、
前記高親水層形成工程が、前記凹凸を形成した前記高分子基材上に、自己組織化単分子膜を形成する原料として、前記高分子基材に自己組織化単分子膜を吸着させるための吸着基を少なくとも一つ有し、かつ前記高分子基材表面に自己組織化単分子膜を形成するように単分子で配向させる配向基を少なくとも一つ有する自己組織化単分子膜形成物質を用いて、CVD法により自己組織化単分子膜を形成する自己組織化単分子膜形成工程と、
酸素原子を含んだガスを用いるプラズマを照射する方法、あるいは酸素含有雰囲気下において紫外線を照射する方法を用い、前記自己組織化単分子膜形成工程により形成された自己組織化単分子膜の前記配向基をヒドロキシル基に置換する配向基除去工程とを有することを特徴とする高親水性積層体の製造方法。 - 前記高分子基材が、二軸延伸されたものであることを特徴とする請求項1に記載の高親水性積層体の製造方法。
- 前記高分子基材が延伸された延伸倍率が2〜10倍の範囲内であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の高親水性積層体の製造方法。
- 前記凹凸形成工程が、酸素原子を含んだガスを用いるプラズマ処理を用いることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の高親水性積層体の製造方法。
- 前記凹凸形成工程が、酸素含有雰囲気下での真空紫外光によるドライ処理を用いることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の高親水層積層体の製造方法。
- 前記自己組織化単分子膜形成工程が、熱CVD法を用いた工程であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の高親水性積層体の製造方法。
- 前記自己組織化単分子膜が、下記の一般式(1)で示される前記自己組織化単分子膜形成物質を原料として形成されたものであることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の高親水性積層体の製造方法。
R1 αXR2 β (1)
(ここで、R1は、炭素数1〜30までのアルキル基あるいはアリール基(ベンゼン環)であり、炭素基は部分的に分岐鎖や多重結合を有するものも含まれる。また、炭素に結合する元素としてはフッ素や塩素等のハロゲン、水素あるいは窒素等も含まれる。また、R2は、ハロゲン、または−OR3(R3は、炭素数1〜6のアルキル基、アリール基、またはアリル基である。ここで、炭素が酸素や水素だけでなく、ハロゲンや窒素と結合しているものも含まれる。)で示される置換基である。また、Xは、Si、Ti、Al、CおよびSからなる群から選択される一つの元素である。ここで、αおよびβは1以上であり、α+βは2から4である。) - オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリクロロシラン、オクチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、および3−クロロプロピルトリメトキシシランからなる群から選択される少なくとも一つの材料が、前記自己組織化単分子膜形成工程における自己組織化単分子膜形成物質として用いられることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかの請求項に記載の高親水性積層体の製造方法。
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