JP5011524B2 - 抗菌性試験用標準試験片、その製造方法及び抗菌性試験方法 - Google Patents

抗菌性試験用標準試験片、その製造方法及び抗菌性試験方法 Download PDF

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Description

本発明は、抗菌性試験用標準試験片、その製造方法及び抗菌性試験方法に関する。
従来、特許文献1開示の抗菌性試験用標準試験片が知られている。この抗菌性試験用標準試験片は、基板と、この基板の一定面積上に形成され、基板の表面に結合したステロールの単分子膜からなる第1結合層と、第1結合層上に単位面積当たりに一定量で配列され、各ステロールに特異的に結合したステロール結合性タンパク質からなる第2結合層と、各ステロール結合性タンパク質の分子毎に露出状態で保持された抗菌成分とからなる。
この抗菌性試験用標準試験片では、ステロールの単分子膜からなる第1結合層が基板の一定面積上に形成され、ステロール結合性タンパク質が第1結合層上に単位面積当たりに一定量で配列されている。そして、それらのステロール結合性タンパク質が一定量の抗菌成分を露出状態で保持する。このため、この抗菌性試験用標準試験片では、菌液が一定量の抗菌成分と接触することとなり、この状態で抗菌効果が評価されることとなる。このため、この抗菌性試験用標準試験片は、これ自体が評価のバラツキを生じることがなく、試験片以外による評価のバラツキをより正確に見定めることが可能になる。
特開2006−14709号公報
しかし、評価のバラツキを従来以上により正確に見定めることのできる抗菌効果評価用標準試験片が求められている。
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、評価のバラツキを従来以上により正確に見定めることのできる抗菌効果評価用標準試験片を提供することを解決すべき課題としている。
発明者らは、上記課題解決のために鋭意研究を行ない、単結晶によって平滑にされた疎水性の表面をもつ基板を採用することが課題解決のために有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の抗菌性試験用標準試験片は、基板と、該基板の一定面積上に形成され、該基板の表面に結合したステロールの単分子膜からなる第1結合層と、該第1結合層上に単位面積当たりに一定量で配列され、各該ステロールに特異的に結合したステロール結合性タンパク質からなる第2結合層と、各該ステロール結合性タンパク質の分子毎に露出状態で保持された抗菌成分とからなる抗菌性試験用標準試験片において、
前記基板は単結晶からなることにより平滑にされ、表面が親水性の基板本体と、該基板本体の表面に結合された疎水性の単分子膜からなるカップリング層とからなることを特徴とする。
従来においても、基板は、その表面にコレステロール等のステロールの単分子膜からなる第1結合層が形成されるものであることから、疎水性の表面をもつものであることが好ましいことは明らかであった。このため、従来の抗菌性試験用標準試験片は、表面研磨加工済みのガラス、ポリエチレン、アクリル、ポリビニリデンジフルオライド(Polyvinylidene Difluoride(PVDF))膜、雲母等を基板とすることを意図していた。また、基板の表面が親水性である場合には、表面にシリコーン、フッ素等をコーティングして疎水性にすることとしていた。比較的表面の平滑性に優れた基板であれば足り、表面の平滑性についてはさほどの認識を有していなかったからである。そのため、従来の具体例としては、PVDFからなる基板を採用していた。基板の両面にコレステロール、ステロール結合性タンパク質としての一定のコレラ菌溶血毒、抗菌成分としての銀を順に結合させ、抗菌性試験用標準試験片とした。そして、この抗菌性試験用標準試験片の表裏両面で抗菌活性評価と表面分析とを行ったところ、両面ともほぼ同一の抗菌活性があり、表面の元素にも違いが認められなかった。
しかしながら、PVDFからなる基板の表面を光学顕微鏡で観察すると、一方の面が平滑であり、他方の面が凹凸を有していることが分かった。この基板を採用した抗菌性試験用標準試験片では、基板における凹凸を有する面側において、銀が10nmよりさらに深い位置に存在していることが考えられる。また、多孔質のPVDFからなる基板を採用した場合には、銀が孔内に存在していることも考えられる。これにより、PVDFからなる基板を採用した抗菌性試験用標準試験片は、評価のバラツキの抑制に限界の懸念がある。
一方、単結晶によって平滑にされた疎水性の表面をもつ基板を採用した場合、保持された銀等の抗菌成分が全て抗菌活性に寄与すると考えられる。平滑性は、単結晶に基づくものであることから、極めて高く、均一であり、かつ安定している。発明者らはこの基板を採用した抗菌性試験用標準試験片において、評価のバラツキの低減を確認した。
したがって、本発明の抗菌性試験用標準試験片によれば、自己以外による評価のバラツキを従来以上により正確に見定めることが可能になる。
本発明の抗菌性試験用標準試験片は本発明の製造方法によって製造することができる。本発明の抗菌性試験用標準試験片の製造方法は、単結晶からなることにより平滑にされ、表面が親水性の基板本体と、該基板本体の表面に結合された疎水性の単分子膜からなるカップリング層とからなる表面をもつ基板を用意する基板用意工程と、
該基板の表面に結合したステロールの単分子膜からなる第1結合層を該基板の一定面積上に形成する第1結合層形成工程と、
各該ステロールに特異的に結合するステロール結合性タンパク質を該第1結合層上に単位面積当たりに一定量で配列させる第2結合層形成工程と、
各該ステロール結合性タンパク質の分子毎に抗菌成分を露出状態で保持する抗菌成分保持工程とからなることを特徴とする。
基板用意工程では、単結晶からなることにより平滑にされ、表面が親水性の基板本体と、該基板本体の表面に結合された疎水性の単分子膜からなるカップリング層とからなる表面をもつ基板を用意する。基板としては、シリコンウエハ等を採用することができる。シリコンウエハからなる基板を採用すれば、量産性も確保することができる。
基板は、単結晶からなることにより平滑にされ、表面が親水性の基板本体と、この基板本体の表面に結合された疎水性の単分子膜からなるカップリング層とからなる。例えば、基板本体がシリコンウエハである場合、シリコンウエハの表面は酸化によって二酸化ケイ素を有しやすく、この二酸化ケイ素によって親水性となっている。このため、基板本体が親水性の表面を有する場合には、その表面に疎水性の単分子膜からなるカップリング層を形成する。カップリング層も単分子膜であることにより、評価のバラツキが低減される。発明者らは、基板本体がシリコンウエハであり、カップリング層がフェニルトリクロロシラン(PhTCS;C65SiCl3(分子量211.55))からなる場合に本発明の効果を確認した。
第1結合層形成工程では、基板の表面に結合したステロールの単分子膜からなる第1結合層を基板の一定面積上に形成する。ステロールとしては、コレステロール(colesterol)、ジオスゲニン(diosgenin)、カンペステロール(campesterol)、エルゴステロール(ergosterol)等を採用することができる。これらのステロールにより第1結合層を形成する場合、ステロールをクロロフォルム等の揮発性の高い溶剤に溶解してステロール液とした後、上記疎水性の基板上にステロール液を塗布することができる。
第2結合層形成工程では、各ステロールに特異的に結合するステロール結合性タンパク質を第1結合層上に単位面積当たりに一定量で配列させる。ステロール結合性タンパク質としては、コレラ菌溶血毒等を採用することができる。コレラ菌溶血毒は、細胞毒性があるだけでなく、病原性細菌であるコレラ菌から精製しなければならない。そこで、遺伝子工学的手法を用いてステロール結合活性を有する毒性のないコレラ菌溶血毒を大腸菌を用いて大量に産生させることが必要である。
第1結合層上にステロール結合性タンパク質からなる第2結合層を単位面積当たりに一定量で配列する場合、ステロール結合性タンパク質をリン酸緩衝液あるいはトリス緩衝液に分散させた溶液を調製し、この溶液を第1結合層をもつ基板に薄く塗布することにより、ステロール結合性タンパク質を第1結合層のステロール分子に特異的に結合させ、薄層又は一層のタンパク質の膜を形成させることができる。こうして得られる第2結合層は、アミノ基、カルボキシル基、SH基又は特異的な結合能を有する化学物質を表面に位置させていることとなる。
抗菌成分保持工程では、各ステロール結合性タンパク質の分子毎に抗菌成分を露出状態で保持する。この抗菌成分としては、タンパク質と結合性の高い銀、銅等の無機系抗菌剤の他、アルコール系、フェノール系、アルデヒド系、カルボン酸系、エステル系、エーテル系、ニトリル系、過酸化物・エポキシ系、ハロゲン系、ピリジン・キノリン系、トリアジン系、イソチアゾロン系、イミダゾール系、チアゾール系、アニリド系、ビグアナイド系、ジスルフィド系、チオカーバメート系、ペプチドタンパク系、界面活性剤系及び有機金属系等の有機系抗菌剤、有機−無機系ハイブリッド型抗菌剤を採用することができる。
抗菌成分保持工程は、銀等の抗菌成分からなる電極等の電気分解によって第2結合層形成工程後の試験片に抗菌成分を保持することも可能であるが、第2結合層形成工程後の試験片を抗菌成分のイオンを含む水溶液に浸漬することによって行うことが好ましい。作業が簡易でありながら、評価のバラツキを生じ難いからである。発明者らは、抗菌成分のイオンとして、銀イオンを含む水溶液を用いてこの効果を確認した。抗菌成分のイオンとしては、銅イオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン等を採用することが可能である。銀イオンを含む水溶液としては、硝酸銀水溶液、塩化銀水溶液等を採用することができる。
本発明の抗菌性試験方法は本発明の抗菌性試験用標準試験片を用いて行うことを特徴とする。この場合、本発明の抗菌性試験用標準試験自体が評価のバラツキを生じることが従来以上にないため、測定の不確かさが従来よりもさらに明確になり、抗菌効果を正確かつ高い再現性の下で評価することが可能である
以下、本発明を具体化した実施例を図面を参照しつつ説明する。
(実施例)
(1)基板用意工程
図1に示すように、5(cm)×5(cm)×0.05(cm)の基板本体1を用意した。この基板本体1はシリコンウエハからなる。シリコンウエハは、図2に示すように、金属ケイ素の単結晶からなる本体1aと、本体1aの表面に酸化によって形成された二酸化ケイ素からなる酸化層1bとからなる。このため、この基板本体1は表面が親水性である。
PhTCS溶液を用意し、基板本体1をこのPhTCS溶液に2時間浸漬した。この後、浸漬後の基板本体1をエタノールで洗浄し、さらにトルエンで洗浄し、シリカゲル入りのデシケータ中で乾燥した。図2に示すように、得られた基板3は、基板本体1と、基板本体1の表面に結合されたPhTCSの単分子膜からなるカップリング層2とからなる。カップリング層2は、PhTCSの疎水鎖が基板1の逆側に整列している。
(2)第1結合層形成工程
コレステロールを溶剤としてのクロロフォルムに100〜500(nmol/μl)の濃度になるように溶解し、ステロール液を作製した。そして、図3に示すように、20°Cの水上にステロール液を落とし、ブレード4、4によりステロール液中のコレステロールを20Nの力で集め、コレステロールの疎水鎖が上を向いた単分子膜を形成した。この水中に基板3を浸漬し、徐々に基板3を引き上げることにより、基板3の表面に単分子膜からなる第1結合層5を形成した。こうして、図4に示す第1基板6とした。この第1基板6をシリカゲル入りのデシケータ中で乾燥した。得られた第1基板6は、基板3と、基板3の表面全体に形成され、基板3の表面に結合したコレステロールの単分子膜からなる第1結合層5とからなる。第1結合層5は、コレステロールの疎水鎖が基板3側に整列している。
(3)第2結合層形成工程
ステロール結合性タンパク質として、コレラ菌溶血毒(VCH、分子の質量;65kDa)を用いる。遺伝子工学的手法を用いてスチロール結合活性を有する毒性のないVCH(65kDaの成熟型コレラ菌溶血毒のアミノ末端側にpro領域が結合した分子量79kDaのpro−VCH)を大腸菌によって大量に産生させた。
そして、各第1基板6を10mlのリン酸緩衝液に浸漬し、0.4mg/mlのステロール結合性タンパク質溶液を987.5mlを添加した。この状態で室温下、1時間静かに攪拌した後、10mlのリン酸緩衝液水溶液及び超純水で振動させながら洗浄した。リン酸緩衝液水溶液による洗浄は、1回3分を2回続けて行った。超純水による洗浄は、1回3分を1回行った。
これにより、図5に示すように、第1基板6の表面の第1結合層2に対し、およそ10nm(詳細は不明)の長さのステロール結合性タンパク質を垂直に結合させ、ステロールの濃度に依存したステロール結合性タンパク質の定量的且つ3次元的に均一な配列からなる第2結合層7を第1基板6上に施すことができた。こうして得られる第2結合層7は、アミノ基、カルボキシル基、SH基又は特異的な結合能を有する化学物質を表面に位置させていることとなる。こうして、第2基板8とした。得られた第2基板8は、基板3と、基板3の表面全体に形成され、基板3の表面に結合したコレステロールの単分子膜からなる第1結合層5と、第1結合層5上に単位面積当たりに一定量で配列され、各コレステロールに特異的に結合したステロール結合性タンパク質からなる第2結合層7とからなる。
(4)抗菌成分保持工程
濃度100μM又は1000μMの硝酸銀水溶液を用意した。各硝酸銀水溶液のpHは、約7、約6である。25°C、10mlの各硝酸銀水溶液に第2基板8を浸漬した。攪拌しながら一夜放置し、滅菌した超純水で十分に洗浄した。30分間真空乾燥した後、デシケータ中で一夜放置した。これにより、第2結合層7の各タンパク質毎にイオン状態の銀9を露出状態で保持した。こうして、実施例の各抗菌性試験用標準試験片を得た。
得られた抗菌性試験用標準試験片により抗菌性試験を行えば、菌液が一定量の銀9と接触することとなり、この状態で抗菌効果が評価されることとなる。このため、抗菌性試験用標準試験自体が評価のバラツキを生じることが従来よりもなくなる。
したがって、これらの抗菌性試験用標準試験片によれば、自己以外による評価のバラツキを従来以上により正確に見定めることが可能になる。このため、抗菌性試験においても、測定の不確かさが従来よりもさらに明確になり、抗菌効果を正確かつ高い再現性の下で評価することが可能である。
(試験1)
硝酸銀水溶液で処理した試験片について、抗菌性の評価を行った。評価は、JIS Z 2801:2000に準拠した。大腸菌を各試験片に24時間接触させた後、コロニー法によって菌数を算出した。供試菌としては大腸菌NBRC3972株を用いた。
まず、(i)未処理のシリコンウエハ(基板本体1と同種。試験品1の試験片とする。)、(ii)PhTCSの単分子膜からなるカップリング層2と、コレステロールの単分子膜からなる第1結合層5とを形成したシリコンウエハ(第1基板6と同様。試験品3の試験片とする。)、(iii)カップリング層2と、第1結合層5と、ステロール結合性タンパク質からなる第2結合層7とを形成したシリコンウエハ(第2基板8と同様。試験品4の試験片とする。)の3種類を使用した。
各試験品1、3、4の試験片に実施例と同様の抗菌成分保持工程を行った。基板本体1と同種である試験品1の試験片に抗菌成分保持工程を行った試験片を試験品1aの試験片とした。第1基板6と同種である試験品3の試験片に抗菌成分保持工程を行った試験片を試験品3aの試験片とした。第2基板8と同種である試験品4の試験片に抗菌成分保持工程を行った試験片を試験品4aの試験片とした。
図6に示すように、1μM又は10μMの硝酸銀水溶液で処理した試験品1a、3a、4aの試験片は、硝酸銀非存在下で作製しただけである試験品1、3、4の試験片とほぼ同数の大腸菌が24時間培養後の表面から回収された。また、カップリング層2、第1結合層5及び第2結合層7が結合しただけの試験品4の試験片は、菌数がほとんど同じであり、抗菌活性が認められなかった。
しかし、100μMの硝酸銀水溶液で処理した試験品1a、3a、4aの試験片は、抗菌活性値が6.29という強い活性を示した。また、1000μMの硝酸銀水溶液で処理した試験品1a、3a、4aの試験片においては、6.47の抗菌活性値が示された。
(試験2)
塩化銀の飽和水溶液で処理した試験片について、抗菌性の評価を行った。評価は試験1と同様である。
難溶性である塩化銀の水に対する溶解度は、20°Cで1.55ppmである。モル数にして10.8μMであるので、10μMの硝酸銀水溶液を用いて作製した試験片で抗菌活性がなかったことから考えると、塩化銀の飽和水溶液で処理した試験片が抗菌活性を示すことは期待できない。しかしながら、塩化銀の飽和水溶液はpHが中性付近にあり、ステロール結合性タンパク質の構造や活性に及ぼす影響が少ないと考えられたので、塩化銀の飽和水溶液を使用することとした。
2gの塩化銀粉末を200mlの逆浸透水へ入れ、22°Cで24時間攪拌したものを塩化銀の飽和水溶液として使用した。試験1と同様、試験品1、3、4の各試験片をこの飽和水溶液に25°Cで24時間浸漬し、試験品1a、3a、4aの各試験片を作製した。また、各試験片に吸着した銀が洗浄によってどの程度失われるのかを調べるため、洗浄を1回(弱く洗浄)又は3回(強く洗浄)行った試験片も作製した。
飽和水溶液で処理した試験片の抗菌活性の結果を図7に示した。試験1と同様、試験品1aの試験片は抗菌活性が認められなかった。しかしながら、カップリング層2及び第1結合層5が結合した試験品3aの試験片は、洗浄が弱いと、3.86の抗菌活性値が認められた。これを強く洗浄すると、0.89という低い抗菌活性値が示された。
一方、カップリング層、第1結合層5及び第2結合層7が結合した試験品4aの試験片は、洗浄の強弱にかかわらず、抗菌活性値がそれぞれ1.21と1.28を示した。このため、銀9のイオンは第1結合層5のコレステロールの単分子膜に吸着しやすい性質があることが示唆された。また、第2結合層7を第1結合層5のコレステロールに結合させることによって、銀9のイオンのコレステロールへの吸着を低減できることが分かった。
(試験3)
シリコンウエハからなる基板本体1上に形成した成分がその基板本体1と結合しているかどうかを確認するため、接触角の測定を行った。試験1、2と同様、カップリング層2を形成したシリコンウエハを試験品2の試験片とし、カップリング層2及び第1結合層5とを形成したシリコンウエハを試験品3の試験片とし、カップリング層2、第1結合層5及び第2結合層7を形成したシリコンウエハを試験品4の試験片とした。また、試験品4の試験片に実施例と同様の抗菌成分保持工程を行ったものを試験品4aの試験片とした。結果を表1に示す。
表1に示されるように、基板本体1にカップリング層2を自己組織化させた試験品2の試験片は、PhTCSが疎水的性質をもつため、接触角が大きくなった。この試験品2の試験片にコレステロールの単分子膜からなる第1結合層5を形成した試験品3の試験片でも、接触角は試験品2の試験片と同程度の値を示した。
第2結合層7を積層した試験品4の試験片は、接触角が小さくなった。これはステロール結合性タンパク質がコレステロールの上に結合し、最表面が親水性になったためであると考えられた。
さらに、銀イオン溶液で処理した試験品4aの試験片は、ステロール結合性タンパク質よりも、接触角がわずかに大きくなった。これは、試験片の表面全体が銀で覆われたことによるものか、あるいは銀の結合によってタンパク質の高次構造が変化したことによるものであると考えられる。
(試験4)
シリコンウエハを基板本体1とした試験品2、3、4、4aの試験片について、走査型電子顕微鏡(SEM)により表面構造を観察した。試験品2の試験片についての結果を図8及び図9に示し、試験品3の試験片についての結果を図10及び図11に示し、試験品4の試験片についての結果を図12及び図13に示す。また、試験品4aの試験片についての結果を図14に示す。
試験品4aの試験片については、図15に示すように、表面に対して垂直方向に林立している無数のひも状の構造体を画像として捉えることができた。シリコンウエハだけからなる基板本体1、シリコンウエハにカップリング層2と第1結合層5とが結合した試験品3の試験片ではこの構造体が観察されなかった。このため、ひも状の構造体は、第2結合層7である可能性が非常に高いと考えられる。この画像表面をNIHイメージで三次元解析すると、図15に示すように、ひも状の構造体が基板表面に対して垂直に林立していることが確認できた。
(試験5)
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて試験品1、2、3、4、4aの試験品の表面構造を観察した。
試験品1〜3までの試験片の表面構造がフラットであるのに対し、試験品4及び試験品4aは粒子構造が観察された。この粒子は、SEM像で観察されたひも状の構造体と第2結合層7であると推測された。
表面粗さRaは、試験品1の試験品で0.100±0.009nm、試験品2の試験品で0.140±0.004nm、試験品3の試験品で0.149±0.019nm、試験品4の試験品で0.149±0.019nm、試験品4aの試験品で0.326±0.019nmであり、試験品1〜4までほぼ同じ数値を示した。試験品1の試験品のRa値が最も小さく、凹凸が少ないことを示している。また、第2結合層7が結合しているにもかかわらず、Ra値に変化がみられないのは、第2結合層7が同じ方向を向いてほぼ同じ高さで密に集合していることを示唆している。しかしながら、電気分解で生じさせた銀イオン水溶液で試験品4の試験片を処理すると、表面の構造が変化し、Ra値の増大がみられた。これは、銀イオンによって、第2結合層7の構造に影響を与えていると考えられる。また、NIHイメージを用いた三次元構造解析の結果において、カップリング層2及び第1結合層5を積層した試験片の表面の方がさらに第2結合層7を結合している試験片よりもフラットであることが示された。
(試験6)
シンクロトロン放射X線(SPring-8、BL39XU)を用い、試験品4aの試験片について、銀−K吸収端の蛍光XAFSスペクトルを測定した。XAFSは、XANES(X-ray absorption near edge structure:X線吸収端近傍構造)と、EXAFS(Extended X-ray absorption fine structure:広域X線吸収微細構造)とにX線エネルギーによって分けることができる。XANESは、吸収端近傍に現れる微細構造のことであり、X線吸収による別準位への(原子内部)電子遷移によって制限される構造である。この分析によって電子状態(価数、近接原子種、化学種の組成等)に関する情報が得られる。一方、EXAFSは、吸収端から数十eV以上の振動構造のことを指し、X線吸収により飛び出した光電子の干渉によって現れる。この分析によって、目的原子の周りの局所構造(原子間距離、配位数、モデル構造等)に関する情報が得られる。
XAFSの測定条件は以下のとおりである。
照射X線スリット幅:0.04mm(H)×0.2mm(W)
入射角:0.1mrad(=0.0057°、全反射条件)
検出器:16素子SSD蛍光X線法(薄膜試料、水溶液試料)、透過法(銀箔)
吸収端:銀−K吸収端
銀薄膜としては、1mM硝酸銀水溶液を用いた。
カップリング層2及び第1結合層5を積層した試験品3の試験片を電気分解による銀イオン水溶液に浸漬し、作製した試験品3aの試験片のXAFSを分析した。図16は、銀イオン水溶液の濃度を変えて作製した3種類の試験片について、表面のXAFS分析によって得られた吸光度のプロットである。
銀イオン水溶液の濃度が増加すると、吸光度のジャンプ量が増大することが分かった。このジャンプ量は試験片の表面の銀存在量に比例すると考えられるので、銀イオン水溶液由来の銀が試験片の表面へ結合していることが推測できた。
さらに、XANESの規格化強度プロットを行った。結果を図17に示す。銀が結合した試験片と銀薄膜とのスペクトルは同じ形であったが、硝酸銀水溶液の波形は異なっていた。この結果はバイオ基板上に結合している銀が金属の状態で存在していることを示唆している。
また、XANESのスペクトルをフーリエ変換した。結果を図18に示す。銀薄膜のスペクトルの2.8Åの位置に現れているピークは、銀−銀間距離、そして硝酸銀水溶液のスペクトルの1.9Åのピークは、銀と水和水の酸素との距離をそれぞれ反映していると考えられた。
5.11mg/mLと0.51mg/mLとの銀イオン水溶液に浸漬した試験片のスペクトルは、銀−銀間距離に相当する位置にピークが現れているので、銀イオンが還元され、Ag0として基板上に存在していると考えられる。一方、0.05mg/mLの銀イオン水溶液に浸漬した試験片のスペクトルは、Ag0とAg+とが試験片上に存在することを示唆している。
このため、試験片上に存在する銀は試験片を浸漬する銀イオン水溶液の濃度に依存し、Ag+又はAg0に変化することが推測できた。
また、塩化銀飽和水溶液を用いた試験片についても、XAFS分析を行い、銀、K−edge XANESスペクトルをフーリエ変換した。結果を図19に示す。塩化銀飽和水溶液を用いると、銀が結合した試験片を洗浄する強弱(回数)にかかわらず、試験片上にはAg0とAg+とが共存して存在することが推測された。
(まとめ)
かつてPVDF膜を支持台とした作製した試験片に一定の抗菌性が認められたが、PVDF膜は、多孔性であり、かつ表面がフラットでないため、表面の微細構造や積層成分の解析ができなかった。このため、新たにシリコンウエハを用いた試験片の検討を行った。シリコンウエハにPhTCSの自己組織化単分子膜、コレステロール単分子膜、VCH及び銀を積層した試験片を作製し、抗菌活性を評価したところ、6.3の抗菌活性値が認められた。
塩化銀飽和水溶液を用いた試験片の抗菌活性値は0.9から3.9の範囲にあったが、これに比べて硝酸銀水溶液を用いて作製した試験片は6.3という非常に高い抗菌活性値を示した。硝酸銀水溶液の濃度を減らすことによって抗菌活性値が下がるかどうかを最優先課題として検討していく予定である。もし抗菌活性値を下げることができれば、試験片の抗菌活性値は任意にコントロールできる可能性が高いと考えられる。
シリコンウエハ上に積層した成分が結合しているかどうかを定性的に確認するために接触角測定を行った。PhTCSを自己組織化させた試験片は、PhTCSの疎水的性質のために接触角が大きくなっていたが、コレステロール単分子膜を吸着させても接触角に大きな変化はなかった。さらにVCHを結合させると、表面が親水性になり、試験片の接触角が小さくなった。銀イオン溶液で処理し、水で十分洗浄した試験片は、VCHよりも接触角がわずかに大きくなった。これらの結果は、試験片上にPhTCS、コレステロール、VCH及び銀が順に結合していくことを示唆している。
PhTCS、コレステロール、VCH及び銀イオン溶液の順に結合させた試験片の表面の微細構造をAFMとSEMを用いて観察すると、試験片に対して垂直方向に柱状の構造体が多数林立していた。柱状の構造体はコレステロールが結合した試験片にのみ観察されたので、VCHはコレステロールを介して結合していると考えられた。
極微量の元素分析が可能なシンクロトロン放射X線を用いて分析した。試験片の表面のXAFS(X線吸収微細構造)スペクトルに明瞭な銀イオンの吸収が現れたので、試験片上に銀が存在することが明らかとなった。EXAFS領域の振動構造解析によって、銀は主にAg0及びAg+として、試験片上に吸着されていることが示唆された。銀の吸着量と価数とは、試験片の作製条件に依存して変化した。また、銀イオン水溶液の濃度が低い方が吸着量は減少したが、一価の銀の割合が増加する傾向にあった。
以上において、本発明を実施例及び試験1〜6に即して説明したが、本発明は上記実施例等に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
本発明は抗菌性試験に利用可能である。
実施例に係り、基板本体の斜視図である。 実施例に係り、基板本体の断面及びカップリング層の化学式を示す模式断面図である。 実施例に係り、基板にカップリング層を形成する工程を示す斜視図である。 実施例に係り、基板本体の断面並びにカップリング層及び第1結合層の化学式を示す模式断面図である。 実施例に係り、基板本体の断面、カップリング層及び第1結合層の化学式並びに第2結合層及び銀を示す模式断面図である。 試験1に係り、硝酸銀水溶液の濃度と生菌数との関係を示すグラフである。 試験2に係り、洗浄の強度の差と生菌数との関係を示すグラフである。 試験4に係り、試験品2の試験片の表面を示すAFMの写真である。 試験4に係り、試験品2の試験片の表面を示すAFMの写真である。 試験4に係り、試験品3の試験片の表面を示すAFMの写真である。 試験4に係り、試験品3の試験片の表面を示すAFMの写真である。 試験4に係り、試験品4の試験片の表面を示すAFMの写真である。 試験4に係り、試験品4の試験片の表面を示すAFMの写真である。 試験4に係り、試験品4aの試験片の表面を示すAFMの写真である。 試験4に係り、試験品4aの試験片の表面を三次元解析したイメージ図である。 試験6に係り、銀イオン水溶液の濃度を変えて作製した3種類の試験片についての吸光度を示すグラフである。 試験6に係り、XANESの規格化強度を示すグラフである。 試験6に係り、XANESのスペクトルをフーリエ変換した結果を示すグラフである。 試験6に係り、XAFS分析後のXANESのスペクトルをフーリエ変換した結果を示すグラフである。
符号の説明
3…基板
1…基板本体
1a…本体
1b…酸化層
2…カップリング層
5…第1結合層
7…第2結合層
9…抗菌成分

Claims (5)

  1. 基板と、該基板の一定面積上に形成され、該基板の表面に結合したステロールの単分子膜からなる第1結合層と、該第1結合層上に単位面積当たりに一定量で配列され、各該ステロールに特異的に結合したステロール結合性タンパク質からなる第2結合層と、各該ステロール結合性タンパク質の分子毎に露出状態で保持された抗菌成分とからなる抗菌性試験用標準試験片において、
    前記基板は単結晶からなることにより平滑にされ、表面が親水性の基板本体と、該基板本体の表面に結合された疎水性の単分子膜からなるカップリング層とからなることを特徴とする抗菌性試験用標準試験片。
  2. 前記基板本体はシリコンウエハであり、前記カップリング層はフェニルトリクロロシランからなる請求項記載の抗菌性試験用標準試験片。
  3. 単結晶からなることにより平滑にされ、表面が親水性の基板本体と、該基板本体の表面に結合された疎水性の単分子膜からなるカップリング層とからなる表面をもつ基板を用意する基板用意工程と、
    該基板の表面に結合したステロールの単分子膜からなる第1結合層を該基板の一定面積上に形成する第1結合層形成工程と、
    各該ステロールに特異的に結合するステロール結合性タンパク質を該第1結合層上に単位面積当たりに一定量で配列させる第2結合層形成工程と、
    各該ステロール結合性タンパク質の分子毎に抗菌成分を露出状態で保持する抗菌成分保持工程とからなることを特徴とする抗菌性試験用標準試験片の製造方法。
  4. 前記抗菌成分保持工程は、前記第2結合層形成工程後の試験片を前記抗菌成分のイオンを含む水溶液に浸漬することによって行う請求項記載の抗菌性試験用標準試験片の製造方法。
  5. 請求項1又は2記載の抗菌性試験用標準試験片を用いて行うことを特徴とする抗菌性試験方法。
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